【球祭】1222シーズン前半戦
革酎
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シナリオID:2028
オープニング
●1222シーズン開幕
リーンエス王国の一部の貴族の間では、野球なる球技が流行っている、らしい。
真偽の程は定かではないが、少なくともレオポルド・グラハイム伯爵が主催するグラハイム・リーグ(略称グ・リーグ)という素人野球リーグが存在することは確かである。
このグ・リーグには以下の四チームが参加している。
ルドル・フォラー・カルツロンド伯爵のチーム『ファルシオンズ』
マグラウリー・メルゲンガー伯爵のチーム『エストックス』
ヘルマス・ジーロー伯爵のチーム『スケールス』
キャゼル・ベルティック伯爵のチーム『マーシーズ』
素人野球とはいいながらも、各チームはそれぞれのホームグラウンドを持ち、試合そのものも細かく定められたルールに則って実施されている。
球審と塁審は各貴族家の家士から選抜され、それぞれが徹底的にルールを叩き込まれ、ミスジャッジが発生しない様にと厳しく教育されているのだという。
グ・リーグの歴史は意外と古く、グラハイム伯爵の先々代辺りから続いているというから、案外侮れない。
野球という球技が王国内にどこまで知れ渡っているかは定かではないが、チームを持つ四家とグラハイム家では毎年シーズンに突入すると、結構な盛り上がりを見せているとの由。
そして1222年も春季キャンプを終え、シーズンが開幕した。
昨季は各チーム45試合ずつを戦ったが、今年は試合数を増やし、それぞれ60試合を戦う。一カ月あたり20試合を消化し、三カ月の日程でペナントを争うという訳だ。
今季は3月の頭にシーズンが開幕し、既に二カ月近くが経過。試合数は半分を終えている。
各チームとも熱戦が続き、熾烈な優勝争いを演じていた。
3月初旬のある日、エストックスのグラウンドにひとりの男が現れた。一年を通して純白のタンクトップがトレードマークの授恵者ジェイソン・ジュピターである。
ジェイソンは何を思ったか、シーズン開幕後のエストックスに入団テストを申し込んだのだ。これまで余り野球の経験は無かったものの、どうせ草野球なんだから誰もが楽しめるんじゃないのか、いや、誰でも楽しんで良い筈だろうという強引な理論で、入団テストにこぎつけたのである。
監督を務めるメルゲンガー伯爵は苦笑しつつも、ジェイソンの入団試験を正式に受け入れた。
で、合格した。
授恵者は元々身体能力に優れているから、入団自体は然程に難しくはない。
「経験も技術も無いが、皆が楽しめればそれで良いだろう!」
春季キャンプで徹底的に鍛え上げて本格的に試合に臨んでいる者からすれば、何とも大胆不敵な発想だといわざるを得ない。
それでも授恵者はやっぱり、授恵者だ。何だかんだ良いながら、身体能力の優秀さでベンチ入りを果たせてしまうのだから、誰も文句のつけようが無かった。
「俺の入団をきっかけに、途中入団でも良いから頑張ってみようっていう授恵者が増えれば、もっと楽しいことになるんじゃないか」
ジェイソンはその様に嘯いた。勿論、大した成績は残せないかも知れないが、何とかチームの為に貢献することは出来るかも知れない。
いや、出来ないかも知れないが。
リーンエス王国の一部の貴族の間では、野球なる球技が流行っている、らしい。
真偽の程は定かではないが、少なくともレオポルド・グラハイム伯爵が主催するグラハイム・リーグ(略称グ・リーグ)という素人野球リーグが存在することは確かである。
このグ・リーグには以下の四チームが参加している。
ルドル・フォラー・カルツロンド伯爵のチーム『ファルシオンズ』
マグラウリー・メルゲンガー伯爵のチーム『エストックス』
ヘルマス・ジーロー伯爵のチーム『スケールス』
キャゼル・ベルティック伯爵のチーム『マーシーズ』
素人野球とはいいながらも、各チームはそれぞれのホームグラウンドを持ち、試合そのものも細かく定められたルールに則って実施されている。
球審と塁審は各貴族家の家士から選抜され、それぞれが徹底的にルールを叩き込まれ、ミスジャッジが発生しない様にと厳しく教育されているのだという。
グ・リーグの歴史は意外と古く、グラハイム伯爵の先々代辺りから続いているというから、案外侮れない。
野球という球技が王国内にどこまで知れ渡っているかは定かではないが、チームを持つ四家とグラハイム家では毎年シーズンに突入すると、結構な盛り上がりを見せているとの由。
そして1222年も春季キャンプを終え、シーズンが開幕した。
昨季は各チーム45試合ずつを戦ったが、今年は試合数を増やし、それぞれ60試合を戦う。一カ月あたり20試合を消化し、三カ月の日程でペナントを争うという訳だ。
今季は3月の頭にシーズンが開幕し、既に二カ月近くが経過。試合数は半分を終えている。
各チームとも熱戦が続き、熾烈な優勝争いを演じていた。
3月初旬のある日、エストックスのグラウンドにひとりの男が現れた。一年を通して純白のタンクトップがトレードマークの授恵者ジェイソン・ジュピターである。
ジェイソンは何を思ったか、シーズン開幕後のエストックスに入団テストを申し込んだのだ。これまで余り野球の経験は無かったものの、どうせ草野球なんだから誰もが楽しめるんじゃないのか、いや、誰でも楽しんで良い筈だろうという強引な理論で、入団テストにこぎつけたのである。
監督を務めるメルゲンガー伯爵は苦笑しつつも、ジェイソンの入団試験を正式に受け入れた。
で、合格した。
授恵者は元々身体能力に優れているから、入団自体は然程に難しくはない。
「経験も技術も無いが、皆が楽しめればそれで良いだろう!」
春季キャンプで徹底的に鍛え上げて本格的に試合に臨んでいる者からすれば、何とも大胆不敵な発想だといわざるを得ない。
それでも授恵者はやっぱり、授恵者だ。何だかんだ良いながら、身体能力の優秀さでベンチ入りを果たせてしまうのだから、誰も文句のつけようが無かった。
「俺の入団をきっかけに、途中入団でも良いから頑張ってみようっていう授恵者が増えれば、もっと楽しいことになるんじゃないか」
ジェイソンはその様に嘯いた。勿論、大した成績は残せないかも知れないが、何とかチームの為に貢献することは出来るかも知れない。
いや、出来ないかも知れないが。
解説
状況:
PCの皆様は、以下のいずれかの立ち位置でご参加頂けます。
A 前回の春季キャンプを経て最初から所属チームで1222シーズン公式戦に参加
B 今回新たに参加する方は途中から1222シーズン公式戦に参加
Aでご参加頂く場合は、前回までと同様、割り振るスキルポイントをプレイングにご記入下さい。
今回は5ポイントです。スキルポイントは累積します。
Bで個別入団テストを受験される場合は、プレイングに以下をご記入下さい。
・所属希望チーム
・希望ポジション(第一位~第三位まで)
・希望背番号(第一位~第三位まで。但し既に使用されている背番号は使用不可)
・利き腕(右投げ/左投げのいずれか)
・打席位置(右打ち/左打ち/両打ちのいずれか)
・割り振るスキルポイント
割り振れるスキルポイントは5ポイントです。
【球祭】専用ローカルルール
1.各選手はポジション毎の個人パラメータを持ちます。
2.【球祭】シナリオに参加時、※マークのスキルは1ずつ自動的に上昇します。
※のついていないパラメータは下記3.で意図的に伸ばさないと値は増えません。
球種は1ポイント=1球種。投手は直球(ストレート)を最初から習得済みとします。
3.【球祭】シナリオ参加時に、スキルポイントが与えられます。
このスキルポイントを好きなパラメータに割り振る事が出来ます。
ひとつのパラメータに集中させても良いし、複数のパラメータに割り振っても結構です。
個人パラメータ(/で区切られたものはポイント使用時も含め、どれかひとつだけが伸びます)
■野手
・打撃(引っ張り/センター返し/流し打ち)
・打撃(犠打)
・打撃(選球眼)※
・打撃(長打力)
・守備(一塁/二塁/三塁/遊撃/左翼/中堅/右翼)※
自動成長は入団時の守備位置
・走塁 ※
・盗塁
・肩強度
■捕手
・打撃(引っ張り/センター返し/流し打ち)
・打撃(犠打)※
・打撃(選球眼)※
・打撃(長打力)
・守備(捕手)※
・守備(一塁/二塁/三塁/遊撃/左翼/中堅/右翼)
・走塁
・盗塁
・肩強度
・リード(投手中心/相手打者中心/状況判断)
■投手
・肩強度
・球種
・球速
・球威 ※
・クイックモーション
・守備(投手)※
・肩スタミナ
・打撃(バットコントロール)
・打撃(犠打)
・打撃(選球眼)※
・打撃(長打力)
・走塁
・盗塁
マスターより
皆様、こんにちは。
いよいよ1222シーズンが開幕しました。既に3月頭に開幕しており、ここまでの約二カ月、皆様は冒険の合間に試合に出場していた、という形でストーリーを進めます。
尚、出来る野球は『普通の』野球です。冒険者としての技能や体力全開の派手な野球バトル的展開は生じませんので、あらかじめご了承ください。
野球のルール自体はNPB発行の公認野球規則に従って判定します。
また、個人成績記載を御希望の方は、詳細成績か、簡易成績かをプレイングにご記入下さい。
詳細成績は結構な文字数を消費します。簡易成績も詳細成績程ではないにせよ、多少の文字数を消費しますので、ご注意ください。
リプレイ
●1222シーズン開幕
リーンエス王国、1222年。
今年もまた、レオポルド・グラハイム伯爵が主催する素人草野球の祭典グラハイム・リーグ(略称グ・リーグ)が開幕となった。
ルドル・フォラー・カルツロンド伯爵の『ファルシオンズ』、マグラウリー・メルゲンガー伯爵の『エストックス』、ヘルマス・ジーロー伯爵の『スケールス』、そしてキャゼル・ベルティック伯爵の『マーシーズ』の合計四チームが、ペナントを争って日々熱い戦いを繰り広げる季節を迎えた訳である。
開幕直後は、ファルシオンズが連勝を重ねた。今季は足の速い授恵者が新メンバーとして加わり、機動力野球を前面に押し出して戦うという従来には無い方針転換に、他の三チームはすぐには対応出来ず、塁上を賑わすファルシオンズ選手達に手を焼くというシーンが多かった。
ところが各チームとも十試合を経過した辺りから、お互いの手の内が何となく分かる様になってきたのか、極端なワンサイドゲームという展開はほとんど見られなくなり、互いに地に足の着いた堅実な野球が見られ始める様になっていった。
春の陽射しが、徐々に夏の陽気へと変わり始めた頃。
エストックスの本拠地たるメルゲンガー伯爵領内野球場ではその日、ホームチームたるエストックスがスケールスを迎えてのデーゲームを開催していた。
イニングは9回表、エストックス1点リードの場面。二死走者無し。
リリーフエースとして抑えを任されているコルネリウス・アーラは 打席に迎えたスケールスの主砲アルベルト・V・シュタールシュヴェーアトの自信満々たる佇まいから、何となく嫌な予感を覚えた。
(この場面、気を付けなければいけないのは一発だけ、ですね)
コルネリウスは内心でひと息入れて、サイン交換を要求した。
女房役のレギュラー捕手リディリディ・トゥラ・イェレミースは真っ向勝負を避けるかの如く、初球は外角低めへの変化球を要求してきた。
(でも当然、アルベルトさんもその辺は読んできてますよね……)
スケールスの四番として、アルベルトは、
「当たれば必ずホームラン! ロマン砲の助っ人外国人!」
という触れ込みで長打一辺倒のイメージを各チームに印象付けているのだが、意外と選球眼も良く、下手な誘い球には簡単に乗ってくれない。
かといって、高めの釣り球も危険だ。アルベルトのストライクゾーンの広さは、リディリディもよく知るところであった。
サイン交換が中々、決まらない。
リディリディはタイムを取ってマウンドに駆け寄った。
「変化球ではなくて……直球で、何にタイミングを合わせているのかを見極めてから、配給を組み立てた方が良いでしょうか……」
アルベルトにちらりと視線を流してから、リディリディが心配げな様子で訊いた。確かに、その方が安全ではある。本来ならコルネリウスには強気のピッチングを期待したいところであったが、強気と無謀は紙一重だ。
ここで迂闊に、意図の無い球を投げ込んで痛打を浴びるのは、後々ダメージが残る。
「コルネさん、今日のフォークも、期待してますね」
「はい。良い成績が残せたら、今夜は私の奢りでお肉料理を食べに行きましょう」
信頼を寄せる様に、穏やかな笑みを湛えるコルネリウス。
本来であれば捕手が投手の気持ちを乗せるものだが、このふたりの場合、肉料理をネタにコルネリウスがリディリディのテンションを上げ、気分良くリードして貰うという奇妙な関係が成り立っているらしい。
リディリディは是非そうしましょうと、意気揚々と本塁方向へと駆け戻っていった。
コルネリウスは、配給さえ間違えなければアルベルトを討ち取る自信はあった。フォークとスライダーにも磨きをかけてきた。後は指先をしっかり引っ掛けて、投球時には手先がブレない様に肩から腕、腕から指先へしなやかに、そしてスムーズに力を伝えることに意識を集中させるだけである。
(運も実力のうちとはいいますが、やっぱり棚ぼたよりも、力の差で勝てる実感が欲しいですね)
何十試合もゲームを重ねると、そのうち何試合かは運や相手のミスで勝てることもある。
勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負け無し、とはよくいったものだ。
ともあれ、作戦は決まった。
アルベルトが何を待っているのか、外角に外れる直球でタイミングの取り方をじっくり観察して、まず見極める。
本塁打はコースも需要だが、何よりもタイミングが合うか合わないかで全てが決まる。リディリディはアルベルトの反応をじっくり観察した。
2ストライクに追い込んだところで、コルネリウスはフォークを選択した。
結果、アルベルトの打棒はコルネリウスの投じた縦に落ちる球を捉えることが出来ず、虚しく空を切った。
試合が終わり、三塁側アウェーのダッグアウトから荷物を担いでグラウンドに出てきたルベア・ベルニは、ブルペンから引き返してくるフリーダ=ブロムヴィストと肩を並べた。
「今日も肩作ってたの? リリーフは毎日、大変ね……」
「今季の猛虎は正直猫以下とかいう意味不明な啓示が下っておりますが、優勝の為には精進が必要であるのは間違い無いでしょう」
エストックスにはコルネリウスという絶対的な守護神が控えている様に、スケールスのブルペン陣では火の玉ストレートの異名を取るフリーダが後ろに座っている。
とはいえ、リードした場面でなければ登板する機会が無いことも事実である為、負け試合でのブルペン入りは無駄に肩を作るだけに終わってしまう。
打線が機能しなければフリーダに何度も負担を強いることになる訳だから、ルベアとしても申し訳ない気分だった。
「ルベアさんが気になさることはございません。しっかり数字を残しておられるではないですか」
事実、フリーダのいう通りであった。
ルベアは開幕早々から、新人とは思えない程の働きぶりを見せている。打率では常に三割超えを維持し、長打もある。塁打数ではアルベルトに次いでチーム内二位だ。
打撃だけではなく、守備や走塁でも卓越したセンスを発揮していた。開幕戦では三塁線に転がすセーフティバントを完璧に決めたことで、他チームのバッテリーは常にその幻影を警戒しなければならなくなっている。
だが基本は飽くまでもミート中心のシュアな打撃だ。フリーダの様な剛速球投手は然程には多くない為、真ん中や、高めに甘く入った球は確実に弾き返す技術を磨き続けた。更に変化球にも対応出来るとくれば、出塁率の高い有能な一番打者として、他チームには脅威の存在となるだろう。
事実、ルベアのここまでの出塁率は四割を超えていた。
「今日は惜しかったな。あそこでアーラさんのフォークにしっかり対応出来りゃ良かったんだがなぁ」
後ろから、バットケースを担いだアルベルトが追い付いてきた。
打撃でチームに貢献する、という目標を立てるのは良いが、出来るかどうかはまた別の話だ。しかしアルベルトは宣言通り、その打棒でチームを引っ張っている。有言実行の四番打者はチームだけでなく、ファンからも絶大な信頼を勝ち得る様になっていた。
「そういやあ、あっちは今日から四番が変わっていたな。確か、ジェイソン・ジュピターだっけか」
「うん、そう。ジェイソンだった」
アルベルトに話を振られたルベアは、先日カペル侯爵領で行われたクレープパーティを思い出した。変なところで縁が出来たと思ったが、対戦相手となるならば手加減は無用だ。この際だから思い切りぶつかってやろう、と腹を括ったところであった。
「今日は対戦が叶いませんでしたが、次の試合では、球威でねじ伏せたいですね」
フリーダは一塁側ダッグアウトでユニフォームの上着を脱ぎ、白いタンクトップ姿に戻ろうとしている件の男ジェイソン・ジュピターをそっと眺めた。
啓示によれば、ストレートゴリラを目指すべきではあるが、一本槍では何かと拙いというお告げがあったとか無かったとか。
そこでフリーダは球速やキレだけでなく、球威をも鍛えて直球の鬼に化す腹を決めた。
下手に変化球を覚えるよりも、分かっていても打てない直球でぐいぐい押すというイメージを相手打線に植え付ける方が、余程に効果的であった。
そのフリーダからの視線に気づいたのか、ジェイソンは何故かサムズアップで笑顔を送ってきた。
これに対してフリーダも、訳が分からぬままサムズアップで応じた。
●得手不得手も野球のうち
同日、ディズル大湿地帯に程近い商業の町メーンス郊外では、ホームチームたるマーシーズが、アウェーのファルシオンズを迎えてのナイトゲームに臨もうとしていた。
監督同士が審判を交えてメンバー表を交換する様子を、バーネット・フォーサイスはヒマワリの種をがりがりと齧りながらのんびり眺めていた。
「何それ? 種食ってんの?」
すると横合いから、アルマ・ヴァレンタインが不思議そうな面持ちで覗き込んできた。
何故、ヒマワリの種なのか。少なくともバーネットが、栗鼠系のハーフビーストではないことだけは確かなのだが。
訊かれたバーネットも、微妙な表情だった。
「いや、ベンチじゃヒマワリの種を貪るもんだって聞いたんだが」
頬の内側が種で一杯になり、唾液やら水分やらが全部持っていかれてしまっている為か、物凄く喋り辛そうではあった。
「美味しいの?」
「いやぁ、うーん、まぁ、どうなんだろうな」
余りはっきりとは答えないバーネット。明言しないところを見ると、ヒマワリの種を美味いと思うかどうかは個人差がある、ということなのだろう。
やがて、ハヤト=ガラン=ヴォルファングが監督から受け取ったメンバー表の写しをダッグアウト内の掲示板に貼り付けた。
先攻はファルシオンズ、後攻がマーシーズ。
両チームのスターティングオーダーは以下の通り。
ファルシオンズ
1. オデット・アリー 中堅手(54)
2. バーネット・フォーサイス 遊撃手(40)
3. ハヤト=ガラン=ヴォルファング 二塁手(37)
4. トーマス・ピレオ 一塁手(4)
5. ブレンダン・ショウ 三塁手(24)
6. アルマ・ヴァレンタイン 左翼手(2)
7. ウレオ・クラップ 右翼手(6)
8. アーロン・アルバレス 捕手(32)
9. クリス・ブロートス 投手(18)
マーシーズ
1. テオル・ロドリゲス 二塁手(1)
2. リーン・ゼフォー 遊撃手(41)
3. オルヴ・テレンゼス 左翼手(39)
4. エルリア・フォテット 三塁手(10)
5. ヴァーノン・ケルガリー 一塁手(31)
6. エリーザ・クレイン 中堅手(24)
7. ドノヴァン・ビレム 右翼手(55)
8. フロマーシュ・ダイヤドロップ 捕手(12)
9. ライナ・フレイヴァルツ 投手(11)
貼り出されたメンバー表を見た瞬間、バーネットとアルマは渋い表情を浮かべた。
「向こうの先発はライナだからなぁ。こりゃあ塁に出るだけでもひと苦労するだろうな」
バーネットとアルマの感想を先読みする格好で、ハヤトが苦笑を漏らす。
マーシーズ先発投手のライナは、エストックスのスタンリー・ウェイクフィールドと並んで、リーグ屈指のエースと目される様になってきている。
決め球のスプリットファストフィンガー(SFF)のみならず、大きく割れるドロップカーブや、手元で微妙に揺れるツーシーム、精度の高いカットボールなど、多彩な変化球で相手打者に的を絞らせないのが非常に厄介な投手だった。
加えて女房役のフロマーシュも、ファルシオンズ打線にとっては極めて脅威だ。
盗塁及び走塁で塁上を賑わせる機動力野球のファルシオンズに対し、フロマーシュは盗塁阻止率七割超という驚異的な肩で立ちはだかってくる。
ライナが先発ということもあり、塁に出るだけでも中々苦労する上に、塁に出た後は、フロマーシュの肩に怯えなければならない。
絶対的な主砲が居ないファルシオンズにとっては、ライナとフロマーシュのバッテリーはある意味、天敵の様な存在であった。
「けどまぁ、やるしかねぇよな……大丈夫、お前達ならやれる! 俺ならやれる!」
ハヤトはチームメイトと、そして自分自身に対して気合を入れた。
野球は頭脳のスポーツである以上、精神論は余り有効ではないというのが彼らの監督たるカルツロンド伯爵の持論なのだが、この時ばかりは気合で何とかモチベーションを奮い立てなければ、あっという間に気持ちが萎えてしまいそうだった。
実際、ライナはマウンド上で、ファルシオンズ打線を完全に見下ろしていた。
(流石でございます、ライナ様……)
サインを出すフロマーシュも、凛とした表情でプレートに足を掛けているライナの雄姿を、マスク越しに惚れ惚れと眺めていた。
春季キャンプを終えてからも、ライナとフロマーシュは徹底的に走り込みを続け、体力強化に努めてきた。基礎体力の向上は技術習得に繋がり、技術レベルが高まればどの様な状況にも対応出来る。
ミスの多さは即ち、体力不足が原因だというのはひとつの至言であろう。
フロマーシュに捕球ミスや送球ミスが全く出ないのは、豊富な体力の為せる業だといって良い。同様に、ライナの正確なコントロールが長いイニングに亘って維持出来ているのも、矢張り体力強化が大いに役立っていることの証左である。
ライナとフロマーシュのバッテリーからは、ミスという言葉は試合開始から終了までの間に、ただの一度も聞かれることは無かった。
(足の速いチームは、確かに厄介だ……が、それもこれも、塁に出られればの話だ)
ライナは内心で軽く頷く。
ファルシオンズ打線は全員が全員、足が速い訳ではない。警戒すべきはバーネット、ハヤト、アルマの三人だけだと見切って良さそうだ。
この三人共、打撃にも定評はあるが、フロマーシュが組み立てる配給は、最後にそれぞれの弱点を上手く突く様に出来ている。
バーネットなら外角を攻め、アルマなら内角を突く。
唯一穴らしい穴が無いのはハヤトだが、右打者は左打者と異なり、走り出しながらの打撃は出来ない。つまりセーフティはほとんど警戒する必要が無いのだ。であれば、ハヤトは普通に打撃の強い打者として迎えれば良いだけの話である。
リード面を細かく勉強してきたフロマーシュならば、ハヤト攻略は可能であった。
ライナはただフロマーシュのリードを信じ、彼女が構えたミット目掛けて正確に投げ込むだけで良かった。
実際、ライナはファルシオンズ打線を完全に手玉に取った。
だがリーグ野球は、一試合だけ勝てば良いというものではない。
(問題は、明日以降でございますね……)
ライナの快投をリードしながら、フロマーシュはふと、内心で眉をひそめた。
確かにライナはリーグを代表するエースとして君臨しているが、問題は他の投手である。実のところ、ライナ以外の先発投手は半ば投壊に近しい状態だったのだ。
マーシーズの先発投手陣はライナひとりの力で持っている様なものであり、ライナが登板しない日は、流石のフロマーシュも連日頭を悩ませている。
(ライナ様レベル、とまでは申しませんが、あともうお一方、計算の出来る先発投手がいらっしゃれば……)
機動力野球以外はさしたる武器の無いファルシオンズだが、マーシーズはマーシーズで、先発投手の駒不足という慢性的な問題が付きまとっていた。
●後半戦の展望
気が付けば三月が過ぎ、四月も半ばに差し掛かろうとしていた。
グ・リーグに参戦して早くも一カ月半が経過し、新人選手として迎えられた授恵者達も、そろそろ自分達の立ち位置というものを明確に意識し始める頃であった。
試合の無い日は、授恵者達は冒険者としての任務に就くか、或いは各々の日常を過ごすなどしているが、ジェイソンは暇を持て余していた為、エストックスのクラブハウスにふらりと立ち寄り、自主練に励もうかと考えていた。
ところがそこに、先客が居た。
コルネリウスとリディリディである。
「おう、何だ。君達も暇してるのか?」
ジェイソンから暇人呼ばわりされ、ついつい苦笑を浮かべてしまうコルネリウス。リディリディは、持参した肉料理弁当を広げていた為、ジェイソンの無駄口にはまるで耳を貸す様子も無かったが。
「ところで君達、今のエストックスの状況をどう見ている?」
不意に思いがけない問いをぶつけられ、コルネリウスは小首を傾げた。リディリディもこの時になって漸くジェイソンの存在に気付いたのか、肉料理をもぐもぐと頬張りながらジェイソンに不思議そうな視線を向けた。
エストックスは現在、13勝13敗4分の同率二位だ。完全な五割維持ペースである。並んでいるのは、ファルシオンズであった。
首位は現在のところスケールスだが、こちらも14勝13敗3分と勝ち星が僅かにひとつ先行しているだけで、ほとんど差といえる程の差は無い。
最下位はマーシーズで12勝13敗5分となっているものの、たったひとつの勝敗で順位があっという間に入れ替わる状況であった。
「そうですね。エストックスは今のところ、バランス良くチームが成立しているといったところでしょうか」
コルネリウスはチームメイト達の顔を思い浮かべながら、自分なりに分析してみた。
打線はジェイソンが加入したことで厚みが増し、先発にはエースのウェイクフィールドが柱として君臨している。抑えは不肖ながらと前置きした上でコルネリウスが盤石の抑えを任されている状態だ。
扇の要であるリディリディも健在であるし、優勝候補と目されるのも当然であろう。
「対抗馬は矢張り、スケールスでしょうか」
リディリディは本塁打王アルベルトと首位打者ルベアの二枚看板を掲げるスケールスの強力打線に、いつも頭を悩まされている。
アルベルトが四番として本塁打を量産する破壊力はそれだけで脅威だが、同時に圧倒的な出塁率と足の速さを兼ね備えるルベアの一番打者としての適正は、これが天職だといわんばかりであった。
アルベルトは極論すれば、走者を置かなければソロの一発で済むのだが、走攻守揃ったルベアは塁に出せば兎に角煩く、打者に集中させてくれない。そして守備面に於いては強固なセンターラインの中心として鎮座しており、少し高いぐらいのライナーなら簡単に捕球してしまう。
走者を置いた場面でのトリックプレーもお手の物で、これまで何度も煮え湯を飲まされてきた。
「スケールスにはストレートゴリラが後ろに控えているから、早い回で大量リードしないと、ひっくり返されたら再逆転がしんどいな」
ストレートゴリラ、即ちフリーダの火の玉ストレートである。先日ジェイソンは一度だけ、フリーダと対戦したことがあった。
あの異様に重い球質は、そう簡単に弾き返せるものではない。単打は出ても、それ以降が続かないのだ。
「矢張り一番警戒すべきは、スケールスでしょうか」
「先発が揃えば、手が付けられなくなりますね……」
コルネリウスとリディリディは、揃って渋い表情を浮かべた。
そして目下、同率二位のファルシオンズについても警戒は怠れない。ハヤト、アルマ、バーネットの快速トリオはひとたび塁に出してしまうと、それだけで試合の行方が大きく左右される存在だ。
しかし、穴もある。ファルシオンズはチーム盗塁数は断トツの一位だが、同時にチーム失策数もリーグワーストであった。
足の速いハヤト、アルマ、バーネットはほとんどミスらしいミスはしないのだが、それ以外の選手が球際に弱い。お手玉や落球が多いのは、以前からの課題となっていた。
失点の割りにチーム防御率が比較的良い様に見えるのは、この失策の多さが原因であった。
何よりファルシオンズは、バッテリーが弱い。レギュラー捕手はこれといって特色のある選手でも無く、先発陣も今ひとつピリっとしない。
特に投手陣は春季キャンプ明けに故障が相次いだのが、カルツロンド伯爵にとって最大の誤算だった。
それでもファルシオンズの守備が何とか崩壊せずに済んでいるのは、ハヤトとバーネットで組む二遊間がセンターラインをしっかりと纏めているからだろう。
野球は守備から、ともいわれる。ファルシオンズの守りが安定する様になれば、こちらもたちどころにして強敵と化すだろう。
自分達がまさかエストックスのクラブハウスで話題に上っているとも知らず、ハヤトとバーネット、アルマの三人はカルツロンド伯爵領内のファルシオンズ専用クラブハウスで、早めの昼食にありついていた。
「また明日も、先発ライナかな?」
マーシーズとはここまで十試合を消化しているが、ライナがそれまでに先発マウンドに登ったのは四度。そのたびにファルシオンズ打線はライナとフロマーシュのバッテリーに翻弄されてきた。
もうそろそろ、反撃の糸口を掴まなければならない時期である。でなければ、このままシーズン終盤までずるずると牛耳られることになるだろう。
「変化球が多い上に、どれもキレがあるからな。あれを全部駆使してきっちり配給を組み立ててくる。そう簡単に攻略出来そうにはないな」
ライナひとりだけならば何とかなる、とバーネットは分析するが、現実はフロマーシュとのコンビで常に立ちはだかってくる。
だがどういう訳か、エストックスのジェイソンやスケールスのルベアは、ライナの投球には翻弄されることが少ないとの情報もあった。
ライナの投球やフロマーシュの配給に穴があるとも思えないのだが、何か特別な秘策でもあるのだろうか。
「そいやあジェイソンさん、こないだロモズ歩兵団の食堂で変なこと口走ってたっけ」
アルマ曰く、ジェイソンは何故かは分からないが、ライナの変化球とは自然とタイミングが合うという様なことを放言していたとの由。
「まぁそれはそうとして、ジェイソンさんがゆにふぉーむ着てプレイする姿って、中々斬新だよね」
「そりゃ幾ら何でも酷過ぎるんじゃないか?」
真面目に腕を組むアルマに、ハヤトは苦笑を返した。
その傍らで、バーネットはタイミングか、と至極真面目に考え込んでいた。
とある街角のオープンテラスカフェで、ライナは盛大なくしゃみを漏らした。
フロマーシュが慌ててハンカチを取り出し、ライナの口元へと添える。
「相変わらず、仲良いわねぇ」
同じテーブル席で、ルベアが呆れた様に笑った。
試合の無いこの日は、敵味方も関係が無い。ライナとフロマーシュ、ルベア、フリーダの四人は冒険者ギルド近くのカフェでお茶を楽しんでいた。
「妙だな。別に風邪をひいた記憶も無いが……」
「ライナ様、きっと大車輪の活躍のし過ぎで、体が悲鳴を上げているのだと思われます」
尚も鼻をすするライナに、フロマーシュが薄手の上着をかけてやった。別に寒さを感じていた訳でもないが、ライナはフロマーシュのしたいがままにさせていた。
「ところで前から気になってたが、啓示に時々現れる猛虎というのは、一体何なのだ?」
ライナに問われたフリーダではあるが、実際フリーダ自身にもよく分からない。フリーダに啓示を与える神とやらが、虎に関係しているのだろうか。
この他にもフリーダには時々、33-4とかサンダースさんの呪いとか、色々訳の分からぬ啓示が降りかかってくるのだそうな。
そんなことよりも、フロマーシュにとってはライナの体こそが一大事だ。風邪薬を買ってきた方が良いかも知れないと思い始めた時、丁度目と鼻の先にある冒険者ギルドからアルベルトが出てきた。
「アルベルト様、丁度良いところに。ライナ様の為に、風邪薬を買ってきて頂けますか?」
「ん? 風邪薬?」
アルベルトは訳も分からず、フロマーシュに指示されるがままに薬草店へと走らされた。
グ・リーグ最強のホームラン打者、スケールスの四番を顎でこき使う辺り、フロマーシュも中々な胆力の持ち主であった。
尤も、当たり前の様に使いっ走りに使われるアルベルトも気が好過ぎるのかも知れないが。或いは、最近女性関係で良いことがあったからか、その辺は寛大になっているのかも知れない。
というのは、飽くまでもルベアやフリーダの推測でしかなかった。
「ま……本人が納得してるんだから、別に良いっちゃあ良いんだけどね」
「啓示にもあります。神のお告げで猛虎を見捨てたグリーン何とかの様な御仁とは、似ても似つかぬ好漢になるであろう、とのことです」
またもや、猛虎だ。
フリーダの口から飛び出す啓示は、いよいよ以って異常な世界線へ飛び込もうとしていた。
●シーズン前半戦各成績
チーム成績、及び個人成績は以下の通りである。
四チームが1ゲーム差以内にひしめく大混戦となっており、各チームのファンは近年稀に見る接戦となっている現状に、大喜びの模様。
<チーム成績>
一位 スケールス
14勝13敗3分 勝率.519
防御率3.84 打率.264 得点137 失点126
本塁打数25 盗塁数18 失策数13
同率二位 ファルシオンズ
12勝12敗6分 勝率.500
防御率3.34 打率.259 得点122 失点125
本塁打数4 盗塁数48 失策数33
首位との勝差0.5
同率二位 エストックス
13勝13敗4分 勝率.500
防御率3.51 打率.250 得点123 失点120
本塁打数14 盗塁数12 失策数13
首位との勝差0.5
四位 マーシーズ
12勝13敗5分 勝率.480
防御率3.95 打率.246 得点124 失点135
本塁打数16 盗塁数8 失策数19
首位との勝差1
<投手成績(簡易)>
コルネリウス・アーラ(エストックス 33)
防御率0.82 12S 奪三振率4.91 K/BB3 WHIP0.545
投球回11 打者40 被安打4 被本塁打0 奪三振6
与四球2 与死球0 暴投0 ボーク0
<投手成績(詳細)>
ライナ・フレイヴァルツ(マーシーズ 11)
登板10 先発10 完投8 完封1 無四球1
防御率 2.27 奪三振率8.90
勝利8 敗戦1
QS10 QS率1.00
投球回87 打者353 被安打83 被本塁打0 奪三振86
与四球9 与死球0 暴投1 ボーク0 刺殺18 補殺38 失策0 守備率1.00
失点31 自責点21
被打率.241 K/BB9.56 WHIP1.06
<野手成績(簡易)>
アルベルト・V・シュタールシュヴェーアト(スケールス 24)
打率.338 出塁率.364 得点圏打率.364
打席151 打数136 単打18 二塁打8 三塁打6 本塁打14 四球7 死球2 犠打0 犠飛6 敵失2
長打率.794 塁打数108 OPS1.158 打点36 盗塁0
ハヤト=ガラン=ヴォルファング(ファルシオンズ 8)
打率.315 出塁率.370 得点圏打率.361
打席149 打数124 単打16 二塁打14 三塁打9 本塁打0 四球9 死球3 犠打11 犠飛2 敵失4
長打率.573 塁打数71 OPS.942 打点27 盗塁18
アルマ・ヴァレンタイン(ファルシオンズ 2)
打率.308 出塁率.410 得点圏打率.333
打席141 打数104 単打18 二塁打8 三塁打6 本塁打0 四球18 死球0 犠打19 犠飛0 敵失1
長打率.500 塁打数52 OPS.910 打点18 盗塁12
バーネット・フォーサイス(ファルシオンズ 40)
打率.315 打点18 本塁打0 盗塁13
打率.315 出塁率.470 得点圏打率.318
打席143 打数89 単打17 二塁打7 三塁打4 本塁打0 四球24 死球2 犠打28 犠飛0 敵失6
長打率.470 塁打数43 OPS.953 打点18 盗塁13
<野手成績(詳細)>
フロマーシュ・ダイヤドロップ(マーシーズ 12)
試合30
打率.327 出塁率.388 得点圏打率.302
打席139 打数113 単打19 二塁打12 三塁打2 本塁打4 四球13 死球2 犠打5 犠飛6 敵失1
長打率.575 塁打数65 OPS.963 打点25
三振28 凡打47 併殺打8
盗塁1 盗塁死0
刺殺193 補殺24 失策0 守備率1.00
盗塁刺29 企図数38 盗塁阻止率.763
<用語解説(一部)>
・奪三振率
一試合平均(=9イニング平均)の奪三振数。
投手が一試合を完投した場合、三振を幾つ奪うことが出来るかを表す。
・刺殺
守備側の選手が飛球を捕えたり、送球を受けたり、走者にタッチするなどして、打者または走者を直接アウトにすること。及びその守備記録。
・補殺
アウトが成立した場合、これに至る過程で送球を行ったり、或いは打球や送球の方向や速度を変えるなどしてそのアウト成立を補助すること、及びその守備記録。
・K/BB(Strikeout to Walk ratio)
奪三振 (K:strikeout)と与四球 (BB:Base on Balls)の比率。投手の制球力を示す指標のひとつ。
3.5を超えると優秀な投手と見做される。
・WHIP(Walks plus Hits per Inning Pitched)
投手が1イニング辺り、どれだけ安打を許したか、或いは四球を出したか示す。
少ない方が優秀な投手と見做される。
例)1.00以下は非常に素晴らしく、1.32で平均とされる。
リーンエス王国、1222年。
今年もまた、レオポルド・グラハイム伯爵が主催する素人草野球の祭典グラハイム・リーグ(略称グ・リーグ)が開幕となった。
ルドル・フォラー・カルツロンド伯爵の『ファルシオンズ』、マグラウリー・メルゲンガー伯爵の『エストックス』、ヘルマス・ジーロー伯爵の『スケールス』、そしてキャゼル・ベルティック伯爵の『マーシーズ』の合計四チームが、ペナントを争って日々熱い戦いを繰り広げる季節を迎えた訳である。
開幕直後は、ファルシオンズが連勝を重ねた。今季は足の速い授恵者が新メンバーとして加わり、機動力野球を前面に押し出して戦うという従来には無い方針転換に、他の三チームはすぐには対応出来ず、塁上を賑わすファルシオンズ選手達に手を焼くというシーンが多かった。
ところが各チームとも十試合を経過した辺りから、お互いの手の内が何となく分かる様になってきたのか、極端なワンサイドゲームという展開はほとんど見られなくなり、互いに地に足の着いた堅実な野球が見られ始める様になっていった。
春の陽射しが、徐々に夏の陽気へと変わり始めた頃。
エストックスの本拠地たるメルゲンガー伯爵領内野球場ではその日、ホームチームたるエストックスがスケールスを迎えてのデーゲームを開催していた。
イニングは9回表、エストックス1点リードの場面。二死走者無し。
リリーフエースとして抑えを任されているコルネリウス・アーラは 打席に迎えたスケールスの主砲アルベルト・V・シュタールシュヴェーアトの自信満々たる佇まいから、何となく嫌な予感を覚えた。
(この場面、気を付けなければいけないのは一発だけ、ですね)
コルネリウスは内心でひと息入れて、サイン交換を要求した。
女房役のレギュラー捕手リディリディ・トゥラ・イェレミースは真っ向勝負を避けるかの如く、初球は外角低めへの変化球を要求してきた。
(でも当然、アルベルトさんもその辺は読んできてますよね……)
スケールスの四番として、アルベルトは、
「当たれば必ずホームラン! ロマン砲の助っ人外国人!」
という触れ込みで長打一辺倒のイメージを各チームに印象付けているのだが、意外と選球眼も良く、下手な誘い球には簡単に乗ってくれない。
かといって、高めの釣り球も危険だ。アルベルトのストライクゾーンの広さは、リディリディもよく知るところであった。
サイン交換が中々、決まらない。
リディリディはタイムを取ってマウンドに駆け寄った。
「変化球ではなくて……直球で、何にタイミングを合わせているのかを見極めてから、配給を組み立てた方が良いでしょうか……」
アルベルトにちらりと視線を流してから、リディリディが心配げな様子で訊いた。確かに、その方が安全ではある。本来ならコルネリウスには強気のピッチングを期待したいところであったが、強気と無謀は紙一重だ。
ここで迂闊に、意図の無い球を投げ込んで痛打を浴びるのは、後々ダメージが残る。
「コルネさん、今日のフォークも、期待してますね」
「はい。良い成績が残せたら、今夜は私の奢りでお肉料理を食べに行きましょう」
信頼を寄せる様に、穏やかな笑みを湛えるコルネリウス。
本来であれば捕手が投手の気持ちを乗せるものだが、このふたりの場合、肉料理をネタにコルネリウスがリディリディのテンションを上げ、気分良くリードして貰うという奇妙な関係が成り立っているらしい。
リディリディは是非そうしましょうと、意気揚々と本塁方向へと駆け戻っていった。
コルネリウスは、配給さえ間違えなければアルベルトを討ち取る自信はあった。フォークとスライダーにも磨きをかけてきた。後は指先をしっかり引っ掛けて、投球時には手先がブレない様に肩から腕、腕から指先へしなやかに、そしてスムーズに力を伝えることに意識を集中させるだけである。
(運も実力のうちとはいいますが、やっぱり棚ぼたよりも、力の差で勝てる実感が欲しいですね)
何十試合もゲームを重ねると、そのうち何試合かは運や相手のミスで勝てることもある。
勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負け無し、とはよくいったものだ。
ともあれ、作戦は決まった。
アルベルトが何を待っているのか、外角に外れる直球でタイミングの取り方をじっくり観察して、まず見極める。
本塁打はコースも需要だが、何よりもタイミングが合うか合わないかで全てが決まる。リディリディはアルベルトの反応をじっくり観察した。
2ストライクに追い込んだところで、コルネリウスはフォークを選択した。
結果、アルベルトの打棒はコルネリウスの投じた縦に落ちる球を捉えることが出来ず、虚しく空を切った。
試合が終わり、三塁側アウェーのダッグアウトから荷物を担いでグラウンドに出てきたルベア・ベルニは、ブルペンから引き返してくるフリーダ=ブロムヴィストと肩を並べた。
「今日も肩作ってたの? リリーフは毎日、大変ね……」
「今季の猛虎は正直猫以下とかいう意味不明な啓示が下っておりますが、優勝の為には精進が必要であるのは間違い無いでしょう」
エストックスにはコルネリウスという絶対的な守護神が控えている様に、スケールスのブルペン陣では火の玉ストレートの異名を取るフリーダが後ろに座っている。
とはいえ、リードした場面でなければ登板する機会が無いことも事実である為、負け試合でのブルペン入りは無駄に肩を作るだけに終わってしまう。
打線が機能しなければフリーダに何度も負担を強いることになる訳だから、ルベアとしても申し訳ない気分だった。
「ルベアさんが気になさることはございません。しっかり数字を残しておられるではないですか」
事実、フリーダのいう通りであった。
ルベアは開幕早々から、新人とは思えない程の働きぶりを見せている。打率では常に三割超えを維持し、長打もある。塁打数ではアルベルトに次いでチーム内二位だ。
打撃だけではなく、守備や走塁でも卓越したセンスを発揮していた。開幕戦では三塁線に転がすセーフティバントを完璧に決めたことで、他チームのバッテリーは常にその幻影を警戒しなければならなくなっている。
だが基本は飽くまでもミート中心のシュアな打撃だ。フリーダの様な剛速球投手は然程には多くない為、真ん中や、高めに甘く入った球は確実に弾き返す技術を磨き続けた。更に変化球にも対応出来るとくれば、出塁率の高い有能な一番打者として、他チームには脅威の存在となるだろう。
事実、ルベアのここまでの出塁率は四割を超えていた。
「今日は惜しかったな。あそこでアーラさんのフォークにしっかり対応出来りゃ良かったんだがなぁ」
後ろから、バットケースを担いだアルベルトが追い付いてきた。
打撃でチームに貢献する、という目標を立てるのは良いが、出来るかどうかはまた別の話だ。しかしアルベルトは宣言通り、その打棒でチームを引っ張っている。有言実行の四番打者はチームだけでなく、ファンからも絶大な信頼を勝ち得る様になっていた。
「そういやあ、あっちは今日から四番が変わっていたな。確か、ジェイソン・ジュピターだっけか」
「うん、そう。ジェイソンだった」
アルベルトに話を振られたルベアは、先日カペル侯爵領で行われたクレープパーティを思い出した。変なところで縁が出来たと思ったが、対戦相手となるならば手加減は無用だ。この際だから思い切りぶつかってやろう、と腹を括ったところであった。
「今日は対戦が叶いませんでしたが、次の試合では、球威でねじ伏せたいですね」
フリーダは一塁側ダッグアウトでユニフォームの上着を脱ぎ、白いタンクトップ姿に戻ろうとしている件の男ジェイソン・ジュピターをそっと眺めた。
啓示によれば、ストレートゴリラを目指すべきではあるが、一本槍では何かと拙いというお告げがあったとか無かったとか。
そこでフリーダは球速やキレだけでなく、球威をも鍛えて直球の鬼に化す腹を決めた。
下手に変化球を覚えるよりも、分かっていても打てない直球でぐいぐい押すというイメージを相手打線に植え付ける方が、余程に効果的であった。
そのフリーダからの視線に気づいたのか、ジェイソンは何故かサムズアップで笑顔を送ってきた。
これに対してフリーダも、訳が分からぬままサムズアップで応じた。
●得手不得手も野球のうち
同日、ディズル大湿地帯に程近い商業の町メーンス郊外では、ホームチームたるマーシーズが、アウェーのファルシオンズを迎えてのナイトゲームに臨もうとしていた。
監督同士が審判を交えてメンバー表を交換する様子を、バーネット・フォーサイスはヒマワリの種をがりがりと齧りながらのんびり眺めていた。
「何それ? 種食ってんの?」
すると横合いから、アルマ・ヴァレンタインが不思議そうな面持ちで覗き込んできた。
何故、ヒマワリの種なのか。少なくともバーネットが、栗鼠系のハーフビーストではないことだけは確かなのだが。
訊かれたバーネットも、微妙な表情だった。
「いや、ベンチじゃヒマワリの種を貪るもんだって聞いたんだが」
頬の内側が種で一杯になり、唾液やら水分やらが全部持っていかれてしまっている為か、物凄く喋り辛そうではあった。
「美味しいの?」
「いやぁ、うーん、まぁ、どうなんだろうな」
余りはっきりとは答えないバーネット。明言しないところを見ると、ヒマワリの種を美味いと思うかどうかは個人差がある、ということなのだろう。
やがて、ハヤト=ガラン=ヴォルファングが監督から受け取ったメンバー表の写しをダッグアウト内の掲示板に貼り付けた。
先攻はファルシオンズ、後攻がマーシーズ。
両チームのスターティングオーダーは以下の通り。
ファルシオンズ
1. オデット・アリー 中堅手(54)
2. バーネット・フォーサイス 遊撃手(40)
3. ハヤト=ガラン=ヴォルファング 二塁手(37)
4. トーマス・ピレオ 一塁手(4)
5. ブレンダン・ショウ 三塁手(24)
6. アルマ・ヴァレンタイン 左翼手(2)
7. ウレオ・クラップ 右翼手(6)
8. アーロン・アルバレス 捕手(32)
9. クリス・ブロートス 投手(18)
マーシーズ
1. テオル・ロドリゲス 二塁手(1)
2. リーン・ゼフォー 遊撃手(41)
3. オルヴ・テレンゼス 左翼手(39)
4. エルリア・フォテット 三塁手(10)
5. ヴァーノン・ケルガリー 一塁手(31)
6. エリーザ・クレイン 中堅手(24)
7. ドノヴァン・ビレム 右翼手(55)
8. フロマーシュ・ダイヤドロップ 捕手(12)
9. ライナ・フレイヴァルツ 投手(11)
貼り出されたメンバー表を見た瞬間、バーネットとアルマは渋い表情を浮かべた。
「向こうの先発はライナだからなぁ。こりゃあ塁に出るだけでもひと苦労するだろうな」
バーネットとアルマの感想を先読みする格好で、ハヤトが苦笑を漏らす。
マーシーズ先発投手のライナは、エストックスのスタンリー・ウェイクフィールドと並んで、リーグ屈指のエースと目される様になってきている。
決め球のスプリットファストフィンガー(SFF)のみならず、大きく割れるドロップカーブや、手元で微妙に揺れるツーシーム、精度の高いカットボールなど、多彩な変化球で相手打者に的を絞らせないのが非常に厄介な投手だった。
加えて女房役のフロマーシュも、ファルシオンズ打線にとっては極めて脅威だ。
盗塁及び走塁で塁上を賑わせる機動力野球のファルシオンズに対し、フロマーシュは盗塁阻止率七割超という驚異的な肩で立ちはだかってくる。
ライナが先発ということもあり、塁に出るだけでも中々苦労する上に、塁に出た後は、フロマーシュの肩に怯えなければならない。
絶対的な主砲が居ないファルシオンズにとっては、ライナとフロマーシュのバッテリーはある意味、天敵の様な存在であった。
「けどまぁ、やるしかねぇよな……大丈夫、お前達ならやれる! 俺ならやれる!」
ハヤトはチームメイトと、そして自分自身に対して気合を入れた。
野球は頭脳のスポーツである以上、精神論は余り有効ではないというのが彼らの監督たるカルツロンド伯爵の持論なのだが、この時ばかりは気合で何とかモチベーションを奮い立てなければ、あっという間に気持ちが萎えてしまいそうだった。
実際、ライナはマウンド上で、ファルシオンズ打線を完全に見下ろしていた。
(流石でございます、ライナ様……)
サインを出すフロマーシュも、凛とした表情でプレートに足を掛けているライナの雄姿を、マスク越しに惚れ惚れと眺めていた。
春季キャンプを終えてからも、ライナとフロマーシュは徹底的に走り込みを続け、体力強化に努めてきた。基礎体力の向上は技術習得に繋がり、技術レベルが高まればどの様な状況にも対応出来る。
ミスの多さは即ち、体力不足が原因だというのはひとつの至言であろう。
フロマーシュに捕球ミスや送球ミスが全く出ないのは、豊富な体力の為せる業だといって良い。同様に、ライナの正確なコントロールが長いイニングに亘って維持出来ているのも、矢張り体力強化が大いに役立っていることの証左である。
ライナとフロマーシュのバッテリーからは、ミスという言葉は試合開始から終了までの間に、ただの一度も聞かれることは無かった。
(足の速いチームは、確かに厄介だ……が、それもこれも、塁に出られればの話だ)
ライナは内心で軽く頷く。
ファルシオンズ打線は全員が全員、足が速い訳ではない。警戒すべきはバーネット、ハヤト、アルマの三人だけだと見切って良さそうだ。
この三人共、打撃にも定評はあるが、フロマーシュが組み立てる配給は、最後にそれぞれの弱点を上手く突く様に出来ている。
バーネットなら外角を攻め、アルマなら内角を突く。
唯一穴らしい穴が無いのはハヤトだが、右打者は左打者と異なり、走り出しながらの打撃は出来ない。つまりセーフティはほとんど警戒する必要が無いのだ。であれば、ハヤトは普通に打撃の強い打者として迎えれば良いだけの話である。
リード面を細かく勉強してきたフロマーシュならば、ハヤト攻略は可能であった。
ライナはただフロマーシュのリードを信じ、彼女が構えたミット目掛けて正確に投げ込むだけで良かった。
実際、ライナはファルシオンズ打線を完全に手玉に取った。
だがリーグ野球は、一試合だけ勝てば良いというものではない。
(問題は、明日以降でございますね……)
ライナの快投をリードしながら、フロマーシュはふと、内心で眉をひそめた。
確かにライナはリーグを代表するエースとして君臨しているが、問題は他の投手である。実のところ、ライナ以外の先発投手は半ば投壊に近しい状態だったのだ。
マーシーズの先発投手陣はライナひとりの力で持っている様なものであり、ライナが登板しない日は、流石のフロマーシュも連日頭を悩ませている。
(ライナ様レベル、とまでは申しませんが、あともうお一方、計算の出来る先発投手がいらっしゃれば……)
機動力野球以外はさしたる武器の無いファルシオンズだが、マーシーズはマーシーズで、先発投手の駒不足という慢性的な問題が付きまとっていた。
●後半戦の展望
気が付けば三月が過ぎ、四月も半ばに差し掛かろうとしていた。
グ・リーグに参戦して早くも一カ月半が経過し、新人選手として迎えられた授恵者達も、そろそろ自分達の立ち位置というものを明確に意識し始める頃であった。
試合の無い日は、授恵者達は冒険者としての任務に就くか、或いは各々の日常を過ごすなどしているが、ジェイソンは暇を持て余していた為、エストックスのクラブハウスにふらりと立ち寄り、自主練に励もうかと考えていた。
ところがそこに、先客が居た。
コルネリウスとリディリディである。
「おう、何だ。君達も暇してるのか?」
ジェイソンから暇人呼ばわりされ、ついつい苦笑を浮かべてしまうコルネリウス。リディリディは、持参した肉料理弁当を広げていた為、ジェイソンの無駄口にはまるで耳を貸す様子も無かったが。
「ところで君達、今のエストックスの状況をどう見ている?」
不意に思いがけない問いをぶつけられ、コルネリウスは小首を傾げた。リディリディもこの時になって漸くジェイソンの存在に気付いたのか、肉料理をもぐもぐと頬張りながらジェイソンに不思議そうな視線を向けた。
エストックスは現在、13勝13敗4分の同率二位だ。完全な五割維持ペースである。並んでいるのは、ファルシオンズであった。
首位は現在のところスケールスだが、こちらも14勝13敗3分と勝ち星が僅かにひとつ先行しているだけで、ほとんど差といえる程の差は無い。
最下位はマーシーズで12勝13敗5分となっているものの、たったひとつの勝敗で順位があっという間に入れ替わる状況であった。
「そうですね。エストックスは今のところ、バランス良くチームが成立しているといったところでしょうか」
コルネリウスはチームメイト達の顔を思い浮かべながら、自分なりに分析してみた。
打線はジェイソンが加入したことで厚みが増し、先発にはエースのウェイクフィールドが柱として君臨している。抑えは不肖ながらと前置きした上でコルネリウスが盤石の抑えを任されている状態だ。
扇の要であるリディリディも健在であるし、優勝候補と目されるのも当然であろう。
「対抗馬は矢張り、スケールスでしょうか」
リディリディは本塁打王アルベルトと首位打者ルベアの二枚看板を掲げるスケールスの強力打線に、いつも頭を悩まされている。
アルベルトが四番として本塁打を量産する破壊力はそれだけで脅威だが、同時に圧倒的な出塁率と足の速さを兼ね備えるルベアの一番打者としての適正は、これが天職だといわんばかりであった。
アルベルトは極論すれば、走者を置かなければソロの一発で済むのだが、走攻守揃ったルベアは塁に出せば兎に角煩く、打者に集中させてくれない。そして守備面に於いては強固なセンターラインの中心として鎮座しており、少し高いぐらいのライナーなら簡単に捕球してしまう。
走者を置いた場面でのトリックプレーもお手の物で、これまで何度も煮え湯を飲まされてきた。
「スケールスにはストレートゴリラが後ろに控えているから、早い回で大量リードしないと、ひっくり返されたら再逆転がしんどいな」
ストレートゴリラ、即ちフリーダの火の玉ストレートである。先日ジェイソンは一度だけ、フリーダと対戦したことがあった。
あの異様に重い球質は、そう簡単に弾き返せるものではない。単打は出ても、それ以降が続かないのだ。
「矢張り一番警戒すべきは、スケールスでしょうか」
「先発が揃えば、手が付けられなくなりますね……」
コルネリウスとリディリディは、揃って渋い表情を浮かべた。
そして目下、同率二位のファルシオンズについても警戒は怠れない。ハヤト、アルマ、バーネットの快速トリオはひとたび塁に出してしまうと、それだけで試合の行方が大きく左右される存在だ。
しかし、穴もある。ファルシオンズはチーム盗塁数は断トツの一位だが、同時にチーム失策数もリーグワーストであった。
足の速いハヤト、アルマ、バーネットはほとんどミスらしいミスはしないのだが、それ以外の選手が球際に弱い。お手玉や落球が多いのは、以前からの課題となっていた。
失点の割りにチーム防御率が比較的良い様に見えるのは、この失策の多さが原因であった。
何よりファルシオンズは、バッテリーが弱い。レギュラー捕手はこれといって特色のある選手でも無く、先発陣も今ひとつピリっとしない。
特に投手陣は春季キャンプ明けに故障が相次いだのが、カルツロンド伯爵にとって最大の誤算だった。
それでもファルシオンズの守備が何とか崩壊せずに済んでいるのは、ハヤトとバーネットで組む二遊間がセンターラインをしっかりと纏めているからだろう。
野球は守備から、ともいわれる。ファルシオンズの守りが安定する様になれば、こちらもたちどころにして強敵と化すだろう。
自分達がまさかエストックスのクラブハウスで話題に上っているとも知らず、ハヤトとバーネット、アルマの三人はカルツロンド伯爵領内のファルシオンズ専用クラブハウスで、早めの昼食にありついていた。
「また明日も、先発ライナかな?」
マーシーズとはここまで十試合を消化しているが、ライナがそれまでに先発マウンドに登ったのは四度。そのたびにファルシオンズ打線はライナとフロマーシュのバッテリーに翻弄されてきた。
もうそろそろ、反撃の糸口を掴まなければならない時期である。でなければ、このままシーズン終盤までずるずると牛耳られることになるだろう。
「変化球が多い上に、どれもキレがあるからな。あれを全部駆使してきっちり配給を組み立ててくる。そう簡単に攻略出来そうにはないな」
ライナひとりだけならば何とかなる、とバーネットは分析するが、現実はフロマーシュとのコンビで常に立ちはだかってくる。
だがどういう訳か、エストックスのジェイソンやスケールスのルベアは、ライナの投球には翻弄されることが少ないとの情報もあった。
ライナの投球やフロマーシュの配給に穴があるとも思えないのだが、何か特別な秘策でもあるのだろうか。
「そいやあジェイソンさん、こないだロモズ歩兵団の食堂で変なこと口走ってたっけ」
アルマ曰く、ジェイソンは何故かは分からないが、ライナの変化球とは自然とタイミングが合うという様なことを放言していたとの由。
「まぁそれはそうとして、ジェイソンさんがゆにふぉーむ着てプレイする姿って、中々斬新だよね」
「そりゃ幾ら何でも酷過ぎるんじゃないか?」
真面目に腕を組むアルマに、ハヤトは苦笑を返した。
その傍らで、バーネットはタイミングか、と至極真面目に考え込んでいた。
とある街角のオープンテラスカフェで、ライナは盛大なくしゃみを漏らした。
フロマーシュが慌ててハンカチを取り出し、ライナの口元へと添える。
「相変わらず、仲良いわねぇ」
同じテーブル席で、ルベアが呆れた様に笑った。
試合の無いこの日は、敵味方も関係が無い。ライナとフロマーシュ、ルベア、フリーダの四人は冒険者ギルド近くのカフェでお茶を楽しんでいた。
「妙だな。別に風邪をひいた記憶も無いが……」
「ライナ様、きっと大車輪の活躍のし過ぎで、体が悲鳴を上げているのだと思われます」
尚も鼻をすするライナに、フロマーシュが薄手の上着をかけてやった。別に寒さを感じていた訳でもないが、ライナはフロマーシュのしたいがままにさせていた。
「ところで前から気になってたが、啓示に時々現れる猛虎というのは、一体何なのだ?」
ライナに問われたフリーダではあるが、実際フリーダ自身にもよく分からない。フリーダに啓示を与える神とやらが、虎に関係しているのだろうか。
この他にもフリーダには時々、33-4とかサンダースさんの呪いとか、色々訳の分からぬ啓示が降りかかってくるのだそうな。
そんなことよりも、フロマーシュにとってはライナの体こそが一大事だ。風邪薬を買ってきた方が良いかも知れないと思い始めた時、丁度目と鼻の先にある冒険者ギルドからアルベルトが出てきた。
「アルベルト様、丁度良いところに。ライナ様の為に、風邪薬を買ってきて頂けますか?」
「ん? 風邪薬?」
アルベルトは訳も分からず、フロマーシュに指示されるがままに薬草店へと走らされた。
グ・リーグ最強のホームラン打者、スケールスの四番を顎でこき使う辺り、フロマーシュも中々な胆力の持ち主であった。
尤も、当たり前の様に使いっ走りに使われるアルベルトも気が好過ぎるのかも知れないが。或いは、最近女性関係で良いことがあったからか、その辺は寛大になっているのかも知れない。
というのは、飽くまでもルベアやフリーダの推測でしかなかった。
「ま……本人が納得してるんだから、別に良いっちゃあ良いんだけどね」
「啓示にもあります。神のお告げで猛虎を見捨てたグリーン何とかの様な御仁とは、似ても似つかぬ好漢になるであろう、とのことです」
またもや、猛虎だ。
フリーダの口から飛び出す啓示は、いよいよ以って異常な世界線へ飛び込もうとしていた。
●シーズン前半戦各成績
チーム成績、及び個人成績は以下の通りである。
四チームが1ゲーム差以内にひしめく大混戦となっており、各チームのファンは近年稀に見る接戦となっている現状に、大喜びの模様。
<チーム成績>
一位 スケールス
14勝13敗3分 勝率.519
防御率3.84 打率.264 得点137 失点126
本塁打数25 盗塁数18 失策数13
同率二位 ファルシオンズ
12勝12敗6分 勝率.500
防御率3.34 打率.259 得点122 失点125
本塁打数4 盗塁数48 失策数33
首位との勝差0.5
同率二位 エストックス
13勝13敗4分 勝率.500
防御率3.51 打率.250 得点123 失点120
本塁打数14 盗塁数12 失策数13
首位との勝差0.5
四位 マーシーズ
12勝13敗5分 勝率.480
防御率3.95 打率.246 得点124 失点135
本塁打数16 盗塁数8 失策数19
首位との勝差1
<投手成績(簡易)>
コルネリウス・アーラ(エストックス 33)
防御率0.82 12S 奪三振率4.91 K/BB3 WHIP0.545
投球回11 打者40 被安打4 被本塁打0 奪三振6
与四球2 与死球0 暴投0 ボーク0
<投手成績(詳細)>
ライナ・フレイヴァルツ(マーシーズ 11)
登板10 先発10 完投8 完封1 無四球1
防御率 2.27 奪三振率8.90
勝利8 敗戦1
QS10 QS率1.00
投球回87 打者353 被安打83 被本塁打0 奪三振86
与四球9 与死球0 暴投1 ボーク0 刺殺18 補殺38 失策0 守備率1.00
失点31 自責点21
被打率.241 K/BB9.56 WHIP1.06
<野手成績(簡易)>
アルベルト・V・シュタールシュヴェーアト(スケールス 24)
打率.338 出塁率.364 得点圏打率.364
打席151 打数136 単打18 二塁打8 三塁打6 本塁打14 四球7 死球2 犠打0 犠飛6 敵失2
長打率.794 塁打数108 OPS1.158 打点36 盗塁0
ハヤト=ガラン=ヴォルファング(ファルシオンズ 8)
打率.315 出塁率.370 得点圏打率.361
打席149 打数124 単打16 二塁打14 三塁打9 本塁打0 四球9 死球3 犠打11 犠飛2 敵失4
長打率.573 塁打数71 OPS.942 打点27 盗塁18
アルマ・ヴァレンタイン(ファルシオンズ 2)
打率.308 出塁率.410 得点圏打率.333
打席141 打数104 単打18 二塁打8 三塁打6 本塁打0 四球18 死球0 犠打19 犠飛0 敵失1
長打率.500 塁打数52 OPS.910 打点18 盗塁12
バーネット・フォーサイス(ファルシオンズ 40)
打率.315 打点18 本塁打0 盗塁13
打率.315 出塁率.470 得点圏打率.318
打席143 打数89 単打17 二塁打7 三塁打4 本塁打0 四球24 死球2 犠打28 犠飛0 敵失6
長打率.470 塁打数43 OPS.953 打点18 盗塁13
<野手成績(詳細)>
フロマーシュ・ダイヤドロップ(マーシーズ 12)
試合30
打率.327 出塁率.388 得点圏打率.302
打席139 打数113 単打19 二塁打12 三塁打2 本塁打4 四球13 死球2 犠打5 犠飛6 敵失1
長打率.575 塁打数65 OPS.963 打点25
三振28 凡打47 併殺打8
盗塁1 盗塁死0
刺殺193 補殺24 失策0 守備率1.00
盗塁刺29 企図数38 盗塁阻止率.763
<用語解説(一部)>
・奪三振率
一試合平均(=9イニング平均)の奪三振数。
投手が一試合を完投した場合、三振を幾つ奪うことが出来るかを表す。
・刺殺
守備側の選手が飛球を捕えたり、送球を受けたり、走者にタッチするなどして、打者または走者を直接アウトにすること。及びその守備記録。
・補殺
アウトが成立した場合、これに至る過程で送球を行ったり、或いは打球や送球の方向や速度を変えるなどしてそのアウト成立を補助すること、及びその守備記録。
・K/BB(Strikeout to Walk ratio)
奪三振 (K:strikeout)と与四球 (BB:Base on Balls)の比率。投手の制球力を示す指標のひとつ。
3.5を超えると優秀な投手と見做される。
・WHIP(Walks plus Hits per Inning Pitched)
投手が1イニング辺り、どれだけ安打を許したか、或いは四球を出したか示す。
少ない方が優秀な投手と見做される。
例)1.00以下は非常に素晴らしく、1.32で平均とされる。
マスターコメント
皆様、お疲れ様でございました。
とはいっても、まだ半分です。次はリーグ戦後半ですが、またもや少し、間が空きます。
また忘れた頃にOPリリースしますので、直前になったらさらっと告知します。
では、ご機嫌よう。
イベントシナリオ易しい 報酬:標準10 / 4〜25人
2022年04月30日 22時36分55秒 公開
大成功
参加者
相談掲示板
バーネット・フォーサイスだ。 いよいよシーズンが始まったが、まぁよろしく頼むわ。
No.2
リディリディです。 エストックスで捕手をさせてもらっています。 その、よろしくお願いします・・・。