【音旅】創奏の道
崎田航輝
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シナリオID:1982
オープニング
青年町長サンドロは、そう冒険者達に笑顔を見せる。
――音楽の町エルセント。
その町長邸にて、サンドロは調査結果を纏めた書類を手に……一行へと労いの言葉をかけていた。
それは他でもない、街のルーツの一つとも言える楽曲“楽しいひと時のための弦楽”――その原初を求めた樹海への旅の話だ。
前回、冒険者達が得た成果と判明した事実――それをサンドロは驚きをもって迎えていた。
「しかし、マルコ・オルブレノが残した楽譜の多くが、樹海での環境音を記したものだったとは……」
言って、改めてその楽譜を眺める。
「確かに楽曲というにはシンプルだったり、短かったりするものもあって……神秘的ではありますが、自然の音だと言われれば納得出来る気がしますね」
楽譜だけでなく、マルコの紀行文自体が、音を辿る旅の記録だったらしい事も含めて――サンドロはどこかわくわくした様子でもある。
「彼方の旅で得た音楽が、この街の文化にも影響を与えていた……そう思うと、なにか不思議な運命やロマンを感じます」
同時に、調査によって新たに浮かんだ疑問にもサンドロは興味深げだ。
それは――件の楽曲である“楽しいひと時のための弦楽”が単純な環境音なのかどうかという事。
「この曲はかなり長く、複雑なものですから……自然から出た音だとしても、これまでとは違うという気はします。動物の痕跡なども見つけて頂いたようですから、その辺りとも関係があるかも知れませんが……」
何にせよ、現段階では“楽しいひと時のための弦楽”がどうやって生まれたかは断定出来ない。
故にこそ、とサンドロは続ける。
「冒険の続きへ――また挑んで頂けますか」
●旅の続きへ
「目指すのは、前回皆さんが到達した『凪の川』の――更に奥ですね」
距離で言えば、『凪の川』まででも十分長旅ではあったろう。それでも『蒼の畔』にはまだ遠い事が、マルコの紀行文からは予想されていると言った。
「ただ……」
と、マルコは少々悩ましげな表情を作る。
「今回の旅の道筋に関しては、紀行文の内容が序盤よりも更に大きく抜け落ちているんです」
擦り切れて読めないだけではなく、頁ごと消失している部分も多い。
前回よりも長い距離を歩く事になるだろうとは予想出来ているが……道しるべとなる程の情報はないだろう。
「判っているのはマルコが幾つかの不思議な環境を超えたらしき事と、そこに名付けられた名前だけです」
それでも、マルコは音を求めた旅路を歩んでいたはずだ。
凪の川の先で如何な旋律が待っているかは判らないが……聞こえる音色、メロディ、リズム――それらに注意を払う事で、マルコの進んだ道を辿れる可能性は大いにある。
「前回よりも更に樹海の奥に進むわけですから……危険も勿論、あるでしょう」
それでも皆さんならば、と。
サンドロは声音に信頼の色を含める。
「勿論、危険であれば引き返して下さい。何より命が大切ですから」
その上で――樹海の奥に潜む旋律を見つけてきて頂ければ幸いです、と。
サンドロは期待を込めた言葉を冒険者達へ向けていた。
解説
マスターより
リプレイ
穏やかな風に、草花が揺れている。
大樹海、南東方向への旅路――その野原に張られたキャンプへ到達した冒険者達は、改めて出立の準備を整えていた。
「さて、ここからだね」
と、キオルティスがこがねの瞳に映すのは前方の渓流。
景勝とも言えるそこには現状、変わった所は見られない。
ただ――旋律が眠っている事もまた間違いがない。
故にこそララベル・サン・ディーベルは、マルコが辿った旅路にも思いを馳せる。
「この先で、どんな音や出来事に出逢ったんだろうね」
それを今から体験することが出来る。
エルナ・クルプファルツもそれに心が弾むから、ぴしっと前を指して。
「さあ、音探しの旅! 第二弾です!」
頷く皆は、音を巡る旅へと踏み出してゆく。
ひんやりと空気が冷えてゆく。
――氷雨渓流。
そこは名に違わぬ気候の端緒が早くも現れる場所で……サイラスはマントを巻き直していた。
「気温が下がってきたな」
ちょっと見とくか、と。
言うと岩場から高台へ。一帯を観察してからひらりと降りた。
「疎らに氷雪地帯がある感じだなー。怪しいとすればその近辺かも」
「では、まずそちらを目指しましょう!」
ユークリア・フィナンシェがぐっと気合を入れると……エルナも頷いて、前へ。
「危険があったら、伝えますね!」
隠密しつつ先行し、聴覚も活かしつつ斥候の役を買って出る。
それに次いで、ユークリアが先頭を取る形。日の傾きにも注意し、時間から距離と位置を測り……ユークリアは道筋も記憶しつつ前進した。
すると――
「地面も凍ってきたな」
イズル・M・ヴォルゴールが視線を落とすと、地面に霜が広がっているのが見えた。
進むに連れてその密度は増し……氷の板になってゆく。
そこまで歩めば吐息も真っ白で。
「さむっ! 激寒です!」
肌を刺す寒気に、ユークリアはぶるるると体を震わせた。
エルナも一応、迷宮りーなの様子を見て異常な反応を示していないかを確かめつつ……先を確認してから戻ってくる。
「この先は暫く同じ景色みたいです!」
「厳しい行軍になるな。体温だけはしっかり保たないと」
イズルが声を零すと――そこで荷に手を入れるのがルーンス・ラグネルだ。
「はい。皆、これを」
と、言って皆に配るのは……生姜糖だ。
持ち運びやすく、かさばらず。囓ると甘味と旨味と共に、体がぽかぽかとしてくるのだ。
「これなら歩いて食べられるし、良いでしょ?」
「恩に着るよ」
イズルが受け取って口に運ぶと、皆もそれと防寒具で寒さをはね除けて――歩み出す。
足元は滑るが……そこでロープを取り出すのがアステル。
「ちょっと待ってね」
と、それを岩や氷の柱にくくりつけて……手すり代わりに渡した。
「これで少しは歩きやすくなるよね」
「助かるよ、ありがとう」
キオルティスが言うと、アステルも微笑み返して――皆で注意深く前進を続けてゆく。
と、ララベルが耳を澄ます。
「音が聞こえるね」
それはぱらぱらと何かが降る音だ。
雨かとも思われたが……すぐに違うと判った。
「わぁ――」
アステルは広がる光景に見惚れる。
それは雹だ。透明感のある粒が、艶めく氷の地面に降り注ぎ……澄んだ燦めきで景色を満たしていた。
空の薄雲は、流れる様子がなく。
「ずっと降り続いてるんだね。幻想的――」
「絵、描くのかい?」
キオルティスが目を向けると、アステルはうん、とスケッチ。明媚な光景を描き、景色と環境の貴重な記録とした。
その間、ルーンスは氷の板を複数箇所叩いている。
「微妙に音は違うかな。この辺り、何か関係してそう」
「雹が氷に当たる音はどうでしょうか?」
ユークリアは言って音に集中する。
すると確かに……ぱらぱらという音が異なる音程を持っているようでもあった。
場所によってその度合は違っていて――
「もっと分かりやすく聞こえる場所があるかも知れませんね」
とはいえ、似た景色の中では進路を決めかねるが……そんな中、ララベルが別の音に注目していた。
「川、流れてるんだね」
ここではまだ凍っていないようで、さらさらと渓流らしい響きが聞こえる。
それ自体はメロディと言えるものではないが……ただ、その水音も一辺倒ではなかった。
進むに連れて音が固くなっている印象があり――
「少しずつ凍結していってるのかも」
それは即ち、雹の降る一帯の中でも寒暖差があるという事だ。
「なら、川の凍る方向が正解だと思う」
と、言ったのはルーンス。
その声には確信に満ちた色があった。
ルーンスが示すのは、マルコの紀行文だ。
謂れ通り、内容は抜け落ちている部分が多い。が、それは“何度も読み返すに値する”紀行があったからだとルーンスは考えてもいた。
元より、一度は音楽が失われた町にあった資料。“無い”情報こそ、音楽の魅力に触れていたとも推測出来る。
だからこの渓流こそ音に溢れていた――そんな考えもあって、ルーンスは隅々まで読み込んでいた。
「それで、この部分。“私はその変化に導かれるように……”っていう所しか読めないけど」
「川の変化を指してるって事か」
言ったのはサイラス。再び高所へ上がって見渡してみる事にした。
そうして川の分岐の先を観察し――凍りついている場所を発見。
「南東だな。これまでの順路とも方向は一致する」
皆は頷き合い、そこへ進んでゆく。
すると、音の一つ一つが豊かな響きを持ち始め……音楽的になってきた。
音色は木琴かピアノにも似ている。雹の運指が氷を鳴らす、流麗な演奏だ。
「これはすごいね」
洪水のようなアルペジオが、不思議と優しい曲調を作っていて――キオルティスはそれを譜面に記してゆく。
今までのものよりも複雑で、これ自体が小曲とも言えるだろう。
ユークリアはエルナの方を覗き込む。
「どうですか?」
「これと似ています!」
エルナがにらめっこしていたのはマルコの譜面だ。
確かにキオルティスの書く譜面とも酷似していて、サイラスも頷く。
「ほぼ同じだな。調だけが違うのは……季節によって微妙に音程が変わるとかかも」
それも自然の産物故だろう。
イズルは前を見据える。
「マルコがここを通ったのも、間違いないな」
この先へ進めば渓流を越えられるだろう。
故に真っ直ぐに歩みを続けようとして……イズルはそこで違和感に気づいた。
それは嗅覚で捉えた感覚。
自然の匂いに交じり――生物らしい匂いが鼻をついたのだ。
「向こうだ」
左方を示すと、皆もその姿を捉える。
それは翼を動かして獲物を探す――魔獣、氷翼蝙蝠だ。
数は三体。こちらを標的に定めているようだった。
が、こちらも既に迎撃態勢。イズルがエーテルを解き放ち皆の能力を向上させると――エルナが鮮やかな魔力の塊で一体を穿つ。
宙でよろけたその個体へ、ララベルも跳躍して。
「一気に仕留めるよ!」
回転しながら三連撃。鋭い刺突で撃破していった。
その間に敵二体が攻撃態勢に入るが――
「視覚で動いてる感じだな」
判断したサイラスは、敢えて身を晒し……敵が放ってきた氷風を正面から受け止めた。
直後にはルーンスが治癒の光で傷を回復させ――ユークリアが反撃。衝撃刃を飛ばし一体の翼を寸断してみせた。
「今です!」
その声に頷いたキオルティスが、細剣を踊らせれば……アステルも剣撃を放ってその一体を撃破。
残る一体へは、イズルが光を帯びた槌で一撃。サイラスも狙い違わず矢撃を加え、殲滅を完了させた。
「みんな、無事?」
アステルの言葉に皆が頷く中……イズルが空を仰ぐ。
「そろそろ暗くなってきたか」
「野営の頃合いかな」
蝙蝠の亡骸を回収しつつ、サイラスが告げると――エルナが少し道からそれた方を指す。
「あちらに良さそうな場所がありましたよ!」
そこは寒冷地の合間にある場所で、雹が降らず川も流れていた。
温暖で過ごしやすい為に……皆はそこで休む事に決める。
荷を下ろして一息つくと、早速食料の準備。
エルナが火をおこし、持参した肉を用意した。
「しっかりエネルギー補給しますよ!」
「手伝います!」
と、ユークリアも隣に並んで……肉を叩いて捏ねて、ハンバーグを作る。
サイラスは蝙蝠の翼膜を取りつつ――
「吸血するタイプでもないみたいだし、使えるな」
言って肉を煮立ててスープにする。採取した山菜も入れて……滋養に良さそうな一品が仕上がった。
ララベルは早速それを頂いて、うんと頷く。
「美味しい!」
ハンバーグはジューシーで、スープもコクがあって美味だ。
皆もお腹を満たし、休憩。その間、キオルティスは竪琴を取り出して……先刻書いた楽譜に合わせて爪弾き始めた。
それに視線を合わせ、アステルも横笛を吹くと――軽やかながら透明感に溢れたメロディが紡がれる。
エルナもフルートを手に取り、美しいハーモニーを奏でる。
ユークリアはわぁ、と声を華やがせた。
「とっても綺麗な曲ですね……!」
「音数が多いから、アンサンブルには合うな」
イズルも言いつつ、バイオリンをピチカートで合わせる。
ララベルは耳を澄ませつつ、頷く。
「こうやって聞いても、さっきの曲に間違いないね」
「紀行文でもこんなふうに野営して、曲を反芻していたみたいだよ」
ルーンスは数少ない、読み取れた情報からそんな描写を拾う。
音を発見し、楽しみ――マルコは今の自分達のように旅をしていたのだ。
だから最後まで、と。
皆は決意を新たにその夜を過ごした。
●音が示す先
そして翌日。
環境の調査も行いながら進んだ先で――皆は岩場に巨大な横穴を発見した。
ララベルは暗視で中を覗き込む。
「深く続いてるみたい」
「っていう事は……晶石洞窟だね」
ルーンスも首飾りで中を照らした。
中には澄んだ鍾乳石が幾つも見える。旅の行程から計算しても間違いないと結論した。
「しかし、かなり入り組んでるな」
サイラスは呟きつつ、軽く奥を見て戻ってくる。
「分かれ道もあるし。迷路だなーこれは」
「では、取り敢えず左に進む作戦でいかがです?」
ユークリアが述べると……皆も頷き、まずはそちらから進み始めた。
分岐が現れると、サイラスが閃光塗弾の塗料で印をつけて。経路も逐一把握しながら探索を続けてゆく。
道中、目につくのはやはり美しい鍾乳石だ。
「普通のものと、材質的には違いはなさそうだが」
イズルはエーテルの光で照らしながら調べていく。
軽く触れてみても、それはやはり鍾乳石に違いないだろう。
ただ、全てが透明で真っ直ぐで……アステルはその景色にも目を奪われないではいられない。
絵に残しながらも――感心の面持ちだ。
「ここまで全部が綺麗なのは、珍しいよね」
「これが楽器になっているんでしょうか!」
と、マレットを取り出すのはエルナ。
比較的頑丈そうな鍾乳石を選んで、軽く叩いてみた。
すると――共鳴による澄んだ響きが生まれる。
ユークリアはわぁ、と声を零す。
「綺麗な音ですね」
「他の鍾乳石もみんな、音が鳴るみたい」
ララベルは周りのものも軽く叩いて確認していた。
低域から高域まで、どれも明確な音程を持っている。キオルティスは成程、と呟いた。
「ハープを柔らかくしたような音だね。グラスハープにも似ていて……これが音楽になるのは間違いなさそうだ」
「後はどこで、どんなふうに聞こえるのかだね」
ルーンスは光を鍾乳石に当て、影や反射を観察している。
それで特に違和感は覚えなかったが……気になるのは、肌に触れる空気。入り口からは既に遠いはずだが、それでも十分な気流が感じられるのだ。
「奥まで行っても風はありそうだね」
或いはそこにヒントがあるかも知れない。
皆は頷き合い、ひとまずは奥を目指す。
無論距離は短くなく、歩き通しだが――
「小休止しますか?」
と、焦らず皆を見回すのがユークリアだ。
「これをどうぞ! 腹が減っては旅は出来ぬです」
言って干し肉を取り出し、丁度良いサイズに切って皆へ渡していた。
「ありがとうございます!」
エルナは受け取りつつ、自分の分や皆の分を生活魔法の火で炙ってあげる。それを食べると、程よい塩分が沁み渡るようで……疲れも癒えるのだった。
そうして小腹を満たした皆は、湧き水で喉も潤して……気分を新たに前進。より気流の強い場所に辿り着いた。
エルナがはっとする。
「音楽が聞こえます!」
それは無数の鍾乳石が小さく揺れて生まれる音だ。
ララベルはそれを仰いでいた。
「風が鳴らしてるんだね――」
振動する鍾乳石だけではなく、その間を吹き抜ける風も音楽の一部。洞窟による残響も、美しく曲を彩っていた。
「神秘的だね――」
アステルは光の状況によっても多様な見え方をするその眺めを――丁寧に描く。
眩さと影を色で巧みに表して、その透明感と、音までもを絵に閉じ込めるように。記録としてだけでなく、芸術としても価値のある形にしていった。
キオルティスもそれを眺めつつ、見渡す。
「滴り落ちる水滴も、リズムを作ってるね。鍾乳石の音色とよく合ってる」
「楽譜にあるなら、ハープあたりを前提とした曲になっているかもな」
イズルがバイオリンの弦を指で爪弾きつつ呟くと……サイラスがマルコの楽譜をめくる。
「じゃあ、この辺かなー」
と、示したのは……忙しい手付きで書き記された事が窺える楽譜。
多彩な和音を捉えようとした痕跡があって――
「確かに一致するね」
キオルティスは自身で書いた楽譜と、マルコの譜面に共通するところを見つけた。
ルーンスは紀行文に目を落とす。
「道について、“途中からは迷わなくなった”っていう文があるんだ。多分、音楽を辿ると出口に続くのかも」
皆は頷き、音楽を道標にして進行を再開した。
と――そこで不意に異音が響く。
それは獣の足音。
見ると奥から、猪型の魔獣が駆けてくるのが窺えた。
獰猛にこちらを狙う、その数は二体。
「問答無用って感じだなー」
サイラスはすぐに大楯を構え、前へ。二体の突撃を受け止めてみせる。
その頃には皆も戦闘態勢。ルーンスが治癒の燦めきでサイラスを癒やすと――イズルが反撃に一体へ槌の一撃。
「鍾乳石が壊れされる前に倒しておこう」
「もちろんです!」
頷くエルナが魔力を放出すると……ララベルも剣閃を奔らせて連撃。
キオルティスがもう一体へ素早く距離を詰め、刺突を加えると――アステルも剣撃を重ねて。
「後はこれを、プレゼントしちゃいます!」
と、最後にユークリアが天上の亀裂から霧を招来。次にはその霧から雷が弾けて燦めき――二体共を貫いていった。
その後、皆は警戒のしやすい場所で野営。
サイラスが魔獣の亡骸から素材を剥ぎつつ……肉はスープの材料にして料理の準備。
「こんなもんかなー」
と、香辛料で臭みを取って味を調えると――皆もまた持参した食材を調理し、十二分に空腹を満たした。
そうして無事に夜を明かすと、翌日も気流と音楽を辿って探索。目印も利用して迷わず行軍を続けてゆく。
「場所によって、流れる音が違って面白いね――」
ララベルは響きを楽しみつつも、エーテルの波を奔らせて地形も把握。
紀行文の補完の為、皆で順路だけでなく、行き止まりや不正解の道も調べ、地図も作りながら――洞窟の出口に辿り着いたのだった。
●水鏡
視界が大きく開けてゆく。
――空鏡水原。
洞窟を南東に抜けた先、見えるのは遥かな地平と青い空。そして……澄んだ池が連なって出来た、どこまでも続く水鏡だった。
ララベルは暫し見惚れる。
「地面まで、空が広がってるみたいだね――」
「すごーい!」
アステルも瞳を煌めかせて歩んでいた。
「こんな綺麗な場所、見た事無い気がするよ!」
沢山旅はしてきたつもりだけれど、まだ未知のものが沢山ある。それを実感させてくれる光景だ。
エルナも、心なしか踊るように揺れている迷宮りーなを見つつ……遠くを望む。
すると――
「あっ、見てください!」
前方の池で僅かに跳ねる、小さな影を捉えた。
それは魚のようにも見えたが――
「魔獣だな。一匹じゃなくて、集団で獲物を襲うタイプかも」
サイラスの言葉に皆は警戒を強めつつ歩み始める。
すると聴覚を研ぎ澄ませたララベルが、魚が池の間を移動している事を捉えて――
「戦わずに通り抜けるのは難しいかも知れないね」
「ならば、倒してしまいましょう!」
エルナの言葉に皆は同意。
魔獣の気配が近づいて来た所で――イズルが声と共にエーテルを解放。皆の能力を底上げして態勢を整えさせた。
直後、水中に姿を現したのが……魔獣、刃翔魚。
池から池へと巡り、およそ二十体でこちらの四方を囲う形を取ってくる。
サイラスは素早く見回して観察した。
「鰭が刃物になってるな。あれで攻撃するっぽい」
「その前に、撃破するよ!」
ララベルは敵の泳ぐ音に注意を払い、動きを正確に把握して――すぐ傍の水辺に来た瞬間、細剣を翳して。
「喰らえ! 光塊圧殺!」
光を纏った刀身を振るい、衝撃で五体へダメージを刻んだ。
そのまま相手が反撃に出るよりも先に、キオルティスが跳躍。水面へ連続の刺突を放ち、三体を撃破してゆく。
直後にはアステルも剣に光を纏わせて振るい――弱った二体を切り裂いていた。
「こっちはひとまず大丈夫だよ」
「では私達はこちらを!」
ユークリアが逆方向の池へ向くと、頷いて杖を突き出すのがエルナ。
明滅する光球を降り注がせて複数体を巻き込むと……そこへユークリアも一刀。光り輝く剣閃でそれらの個体を一掃する。
それでも敵数はまだ十以上。前後から水弾と体当たりを繰り出してきた。
が、前面の攻撃はサイラスが受けきる。残りは皆が散発的に受ける形となったが――体力の高い者も多いため全体での負傷は浅い。
すぐ後にはルーンスがサイラスの体力を保ち、次いでイズルにも治癒の光を与えていた。
イズルは自身に問題が無いと見れば、聖別の輝きを生み出して……サイラスに齎された不調を浄化している。
「これで問題ないはずだ」
「悪いな」
言ったサイラスは、攻勢へ。矢を宙で爆裂させ、敵の半数の体力を減らしてゆく。
イズルもそこへ槌を振るい、撃破を進めると――ララベル達も集中攻撃。敵に二巡目のチャンスを与えず殲滅を果たした。
小休止を挟んだ一行は、探索を始めた。
「改めて見ると、何だか安らぎ空間ですね。ちょっと青春していきませんか!」
ユークリアの言葉に、「いいですね!」とエルナも賛成。二人で駆け出して……ぱしゃぱしゃと水を跳ねさせ始めた。
「冷たくて気持ちいいです!」
「本当ですね!」
エルナが水を軽く足踏みすると、ユークリアもそのひんやり感を楽しんで。二人で暫し踊るように笑みを交わす。
無論、仕事も忘れない。エルナが水音に注意を払うと――ユークリアも倒した刃翔魚を、頭から水辺にずぼっと突っ込み……尾びれの方向で道の目印にした。
何とも無情な眺めだが……獲得物を活用する心意気は、サイラスも同じ。刃翔魚数匹を確保させて貰うと、鰭に鱗、淡白そうな白身もゲットする。
同時に植生の調査も並行して。
「植物は普通のものが多いな」
「ああ。ただ、微妙に生育状況は違うようだ」
イズルは共感能力でそれを読み取り、水場――即ち池の環境が千差万別だと把握した。
「何かあるなら、池だな」
「皆さん!」
と、そこでエルナ達が手招きする。
見ると、水底からぽこぽこと気泡が昇っていた。
「池の横を歩くと、丁度いい音程と長さに聞こえるね」
キオルティスが言うと……ララベルも頷きつつ、傍で水が湧く音にも注目する。
「こっちは、泡の音に対する伴奏みたい――」
それを聞きながら池の間を進むと、順番に聞こえる音がメロディになってゆく。
サイラスはマルコの楽譜からそれと同じ箇所を発見した。
「楽譜と突き合わせて進めば、同じ道を辿れそうだな」
皆で頷き歩むと……水流の変遷とリズミカルな気泡によって、複雑で、緩急のある楽しげな音楽を耳にする事が出来る。
夕刻になると――ルーンスは景色も観察していた。
「皆、見て」
太陽が傾くと、その光を反射した水鏡が金色に光り輝く。
だけではなく、気泡と風によって水面に刃紋が生まれ、池の一つ一つが違った周期で淡く明滅を繰り返しているのが判った。
「光の加減は音の高さと関係あるみたい。景色自体が――ここで聞こえる曲を表す楽譜になってるんだ」
「素敵だね――」
だからアステルはそれを描く。
自身が感じた思いと、ここにしかない美しさと燦めき、それを余さず残すように。音と光が生み出す芸術に、自身もまた見惚れながら。
サイラスが残った刃翔魚の肉に調味料で味付けし、香草焼きを作ると……皆でそれを頂いて栄養補給する。
あれから皆は音に従って進み、森林へ辿り着き――キャンプを張っていた。
ひとまずの目的地に、到達出来たのだ。
だから皆は最後に――作った楽譜を演奏する。
キオルティスが竪琴を弾くと、アステルが笑みを交わして頷いて……横笛でメロディを合わせる。
特別に意識をせずとも、リズムも抑揚も心が通じ合うようにぴったりだ。それは互いの息遣いや機微を、自身の事のように感じられる間柄だからだろう。
(ルティスお兄ちゃんとの演奏、楽しいな……)
思って目を向けると、キオルティスも同じ心で頷く。
だからアステルはまた暫し、優美な旋律を織りなした。
次の曲に移ると、サイラスも竜花琴で加わり――エルナとイズルもフルートとバイオリンで参加。
皆でハーモニーを奏で、その曲の美しさを再確認する。
「最初は単純だったけど……複雑な曲になってきたね」
ララベルが呟くと、ユークリアも頷く。
「人が作ったと言われても信じられますね」
同時に人では出せない色もあって、それが無二の魅力となっていた。
「こうなると、件の弦楽がどんな環境で生まれたのか、気になるね」
ルーンスの言葉に、イズルもああと応える。
今回で複雑で長尺な曲が生まれうるとも実感出来た。
幾重もの環境音の協奏による、和声と伸びやかな音。
巧みな節回しには動物などの生き物も絡んでいるかも知れない――そんな曲想がおおよそ、想像出来た。きっと大きくは外れていないだろう。
「楽しみだ」
だからそれを待ちわびる心で……暫し、樹海の音楽を楽しんだ。
マスターコメント
ミドルシナリオ普通 報酬:標準8 / 6〜8人
2022年03月21日 20時57分49秒 公開
相談掲示板
エルヴンシューターのエルナです!皆さまよろしくおねがいしますね! 音探しの旅第二弾!成立まであと1名ですね! 考える必要があるのは 『氷雨渓流』の寒さ対策 各エリアでの行き先探しと戦闘と音探しでしょうか! 私は今回も超聴覚を持っていこうかなとと思います! 『氷雨渓流』の音については雹が氷を打つ音とかが気になりますね! 『晶石洞窟』は風の音でしょうか! 他に思いつくのはマレットを持ち込んで鍾乳石を軽く叩いてみたり、あるいはオルゴール的な感じの可能性もあったりしそうな気もしますね!
No.2
サイラスだ、よろしくなー とりあえず渓流は温度耐性とか防寒着になるのかね 洞窟の迷路は閃光塗料でダメだったルートとかに印付けるとかになるのかね? 音はまた楽譜と睨めっこした方が良さげかなと。 最後の水源は音を水温とかに例えてるのかな?と。敵の動きも考えたけどそれは薄そうだし
イズル・M・ヴォルゴールです。よろしく。 今回は洞窟だし暗視持ってない場合、ランタンは必須だとおもってる。 今の所エンライトも一応持ってくつもりだけど、ずっと明るいわけじゃないし。 生活魔法とかあると材料さえあれば松明とか作ることもできそうだけど。 寒さ対策と明かり対策で荷物変えたいと思ってる。 あと、前回の感じだと食べ物とか水もかな。 楽器は今回も持ってこうと思ってる。 スキルは、索敵に超嗅覚と、もう一つは今回は未定。 他の人のスキルとか持ち物見て考えます。
ルーンス・ラグネル。 前回に引き続いてよろしくね。 暗視がない場合は光源がいるね。 あと、防寒具…この場合マントとかでも大丈夫なのかな、が必要なのかなって思った。 スキルは皆の見て決めるつもり。 資料検索はあった方が良さそうだから、持っていこうかなって思ってるけど。
僕はシーフのララベル・サン・ディーベル。 今回からになるけど、みんな、よろしくね!
ヒーラーのユークリアです。 私も今回からになりますが、宜しくお願いしますね。
No.7
ウォーリアのアステルです。 今回からの参加だけど、宜しくお願いします! 取合えず防寒にマント。楽器は管楽器だけど、横笛。 スキルは演奏と絵画を持って行くつもりだよ。 絵画は、その場所の印象を絵としてメモに残す感じに使えるかなって。
挨拶が遅れてしまってすまない。 シーフのキオルティス。キオでもルティスでもお気軽に。 連続の参加になるよ。初めての人もそうでない人も宜しくね。 視界確保は暗視持ちが少ないなら、光源を持ってくつもり。 防寒は…そうだね、マントでも良いけれど、温度耐性の方が 確実にダメージは通らなさそうな気もするね。 まぁ、汎用スキルは今回のこのシリーズには大事なんで 色々考慮するとして。 更に大事なのはマルコさんが今回の場所で何処の何を元にして 音源を拾ったか…だね。 音源になりそうなものは1つも取り逃したくないトコロ。 それこそサイラスさんが言っている敵関連の音も当たらずとも 遠からず、じゃないかな…とか。羽音や反響音、水音なんかね。 あとは前回のように最後には一度演奏して確認してみたいね。
私は音関連スキルに結構疎いので、戦闘面や安全調査面で行きたいと思います。 音はかき乱さない様に気を付けます。 防寒系は結構ばっちりです。たいまつは灯りも兼ねて。 回復とBS回復は持っていきますね。
俺は暗視持ってないけど、明かりの宣言が多く出たんで、俺はブランケットにする。 各所で一泊だから、渓流での一夜をマントだけだと少し不安だし。 あとは焚き火とか、現地で取れる暖とかでしのげると良いけど マジカルポケットも持ってないから、荷物は弦楽器(小型) 、ブランケット 、マントで確定だと思う。 前回、スキルは野営したら回復してたから、使用回数を極端に気にしなくても大丈夫そうだな。 スキルは特性はヴァロー・祈雷・神霊のどれかにする予定だけど、アクティブ含めて他の人のスキル見ながら決めていきます。 エンライトは持っていく予定、調査する時に光源多いほうが良いだろうし。
気づけば満員御礼!皆さま改めてよろしくおねがいしますね! 明かりの持ち込みありがとうございます! 私は暗視は持ち込まずに超聴覚で索敵にあたろうかなと思います! もう一つは生活魔法かマジックポケットにしようかなと! 防寒着はマントになりそうです! 移動中に寒さを凌げそうなところを探さないとですね! その他の持ち物は迷宮産お肉セットと管楽器の予定です!横笛ですね! 演奏されるときは私も参加しますね! >迷路対策 塗料でハズレ道にマークしていくのはありですね! 他には紀行文と楽譜から音を辿って進めないかとか試してみたりしたいですね! >『空鏡水原』 温度や湿度の違いは音に影響していそうかなと思ったりしています! 色々場所を変えて演奏してみたり、池は浅いみたいですからパチャパチャ歩いたり跳ねたりして音を出してみたりするのも良いのかなと思ったりしています!
僕は、防寒対策がマントとブランケット。 調査用に双波、超聴覚、暗視で行こうかなと。 >迷路対策 双波で先の地形を調べながら進もうと思うよ。
位置感覚と記憶力で皆の前を歩いてガイドする役になります! そして音も記憶していきます。 ちょっと硬めの装備スキル構成でいきます、宜しくお願いします。
特性は、ヴァローと神霊にしました。 汎用の残りは植物共感にしました。 水原での調査時間短縮だったり補助になればいいと思ったので。
No.16
書いたつもりでいたわ 一応演奏と聴覚、洞窟に閃光塗料使うつもり
ああ、俺も書き込むのを忘れてた! 汎用はマジカルポケットと看破にしてみたよ。 野営用の必要物も可能ならマジカルポケットで 持ち込むつもりだけどここはMSさん次第、かな? あとは戦闘が起こっても、場を荒らさないように 注意するだけはしてみるつもり。 何らかの良い結果が出るといいね!