【想石】マザキヤ大発掘SP~洞穴に宝石の光を見た~
大和気 いぐる
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シナリオID:1933
オープニング
そう職員に聞かれ、冒険者ギルド マザキヤ支部長は答えた。
「ないッ……ぞっ!!」
満面の笑みである。腹の底から活力を込めた声である。
「ないんですか!?」
「そう、ない。いや、パンまつり自体はあるけどな。
冒ギルは別に、パンまつり実行委員会じゃあない。
つまり! これまでの依頼がおかしかったんだよ!!」
「な、なんだってー!> Ω ΩΩ」
「去年みたいなカカオフィーバーもなし。
何かエドゥノーグで宝石が出たらしいけど、こっちには影響なし。
貴族か豪商は興味あるかも知らんが、そもそも庶民にゃ関係ナイナイ。
街のお偉いさんからは、まだ何にも言われてないし……」
「何か寂しい気もしますけど、平和でいいですね」
「そうそう、平和が一番! 冒ギルなんて閑古鳥が鳴く位でいーんだよ」
支部長は上機嫌だ。
机の上の書類が少ないせいだろう。
「あー、そういや。彼女の引っ越しの件、どうなった?」
「氷室の近くに、軽くダンジョン化しかかった洞穴があったじゃないですか。
あそこを掃除して住むことにしたらしいですよ。
『珍しい物が出たからギルド経由で現金化してくれ』とか頼まれました」
「あれえ? その報告書どこいった?」
「無くさないでくださいよ。書き直すなら、しぶちょーがやってくださいね」
「えー、マジかー」
午後の暖かな日差しの中、ダルめのやりとりが続く。
そうそう、平和ってこういうんだよな。
だが、しかし――。
●
「この『おしゃぶり』を採ってきたのは誰だあっ!!」
突如、意味不明な発言と共に、ギルドに駆け込む中年が現れた。
厄介事の気配を察知し、支部長の顔が露骨に曇る。
しかし職員は怯まない。
「何ですかアナタ。マザキヤ仮面呼びますよ」
「呼ばんでいいっ!! 話がややこしくなるっ!!」
即、支部長からツッコミが飛ぶ。
が、職員も中年も全く動じない。
「いいですよ。呼んで下さい。マザキヤ仮面とやらを」
「運がよかったな、今日は支部長がいるみたいだ」
「まともに会話しろっ!? 茶番で字数を食うな!!」
閑話休題。
「とっとと本題に入りましょう。
そもそも、おしゃぶりが欲しいなら雑貨店に行ってくださいよ」
「そこらの赤ん坊がしゃぶる物とは違うのだ!!」
中年は、だんっ! とカウンターを叩く。
そして、おもむろに懐からソレを取り出した。
きらきら光る桃色の水晶(か何か)で出来た『おしゃぶり』であった。
「妙なおしゃぶりだな……」
「あーそれ! さっき言ってた珍しい物ですよ!」
「なんですとっ!?」
職員のセリフを聞いて、男が目を剥いて詰め寄ってくる。
「顔が近い!」
●
中年の話をまとめると――。
彼は、学術都市ヴァルクリエの学者だった。名前はマナブ・O・シャブリ。
研究分野は、遺跡やダンジョンから掘り出される用途不明の物品。
ことに近年は、この『おしゃぶり状のナニカ』にご執心だという。
時折いろんな場所で発見されるものの、流通量が多いものではない。
市場に流れた物のルートを調べ、ここにたどり着いたのだとか。
「で、結局この『おしゃぶり』は何なんです?」
「それが分からないから研究しとるんだよ!」
「はあ。えーと、何かすごい力があるとか、そういうのは?」
「なめるとおいしい」
「は?」
「繰り返すが、なめるとおいしい。それ以外は何も分かっておらん」
支部長は、おしゃぶりをベロベロ舐めつつ論文を書く彼を想像した。
(なんかヤだなあ)
「何か失敬な事を考えとらんかねっ!?」
「うおっほん! ソンナコトナイデスヨー」
●
「……というわけでな。
悪いけど、ちょっくら行って『おしゃぶり』を発掘してきてほしい」
冒険者たちを前に、支部長は微妙な表情で言った。
「そんな顔するなよ……俺だってワケわかんない依頼だと思ってるよ。
え? タイトル? 俺のセンスじゃねぇ! 依頼人のだ!」
どうやら支部長もツッコミたい気持ちで一杯らしい。
「洞穴は掃除済だから多分危険はないけど……実は住人がいる。
話を通したら、勝手に入っていいとは言ってたが……。
まあ、色々あってな。気難しい人だから、穏便にな。
やりようによっては協力してくれたり、情報をくれるかも知れない。
……えっ、何? 欲しいの!? その……おしゃぶりを!?
まー……そこは依頼人と交渉してくれ、な。
沢山掘れれば、一個ぐらい分けてくれるかも知れないぞ」
さて、どうしたものだろう?
▼NPC
・冒険者ギルド マザキヤ支部長
洞穴には同行しません。登場するとしても恐らく最後ぐらいでしょう。
・マナブ・O・シャブリ
依頼人。学術都市ヴァルクリエの学者。中年のヒューマン。男性。
遺跡から掘り出される謎の『おしゃぶり』にご執心。
その意欲は報酬にも現れている。
やめときゃいいのに、洞穴についてきます。
目的物を発見すると、とりあえず舐めようとします。
・ホノカ
目的の洞穴の一角に住むワケありの女。引っ越し作業中。
背景はシートおよび「【灰麦】詳細は、冒険者ギルド マザキヤ支部まで」参照。
おしゃぶりの詳しい発見場所などは彼女が知っている。
もしかしたら換金していない物をいくつか持っているかも知れない。
・雪の妖精
目的の洞穴近くに生息している。洞穴内にも現れる。
我々の世界の「シマエナガ」を少し大きくしたような外見。
【動物交感】であいまいな意思疎通が可能。今回、群れの王はいません。
人語はカタコトを繰り返す程度だが『おしゃぶり』を見たかも知れない。
なお、彼らがいると物理的に寒いです。
・マザキヤ仮面
掲示板で質問等にお答えします。指名の上ご質問ください。
即レスとはいかないのでご了承ください。
わざわざ字数を割いて呼べば本編に登場します。
……が呼んでも基本的に成功度には貢献しません。
なお、彼がいるとギャグ的に寒いです。
▼アイテム
・『宝石おしゃぶり』
宝石でできたおしゃぶり状のナニカ。なめるとおいしい。
それ以外の効果は一切ない。食べないでください。
遺跡などから時折発掘されるが用途・正体は未だに不明。
今回のターゲット。
実はパンクリアース学園にも寄贈されていたりする。
解説
マスターより
リプレイ
己のうちで暴れだす獣を自覚しつつ、アルマ・ヴァレンタインは思った。
人生は番狂わせの連続だ。
そうだ、春のパンまつりに行こう。恋人を誘って。
それとなくパンを贈って。
甘いムードになったら、食べさせあっちゃったりして。
――そういう、こう、ベタで甘酸っぱい計画だったはずじゃないか。
冒険者ギルドに行って、もうお一人様じゃないぞ!
なーんて報告しようとしたのがマズかった。
こんな依頼書があるなんて。
気がつくとアルマは、問題の依頼書をギルドのカウンターに叩きつけていた。
ダァン!!
「マザキヤ仮面、おるかーー!?」
突然の恋人の豹変ぶりに、エヴァン・ピオネロは驚くしかない。
「えっ……!?」
たしか面白い人がいるから紹介してくれる、という話だったが……。
そこまで気合の入る人なのだろうか――?
どたばたと音がして、仮面にコックコート姿の男が現れた。
「ちょっ……あ、あんまギルドで呼ばないでくんない!?」
心なしかコック帽が曲がって見える。
「よーし、おるな! いくわ!」
アルマはそのまま依頼書を彼の眼前につきつけた。
「はい!? あー、依頼の受理手配ね……。
何だよ、支部長で良かったんじゃないか……」
ぼやくマザキヤ仮面に、エヴァンが少し申し訳なさそうに声をかける。
「マザキヤ仮面さん初めまして。色々楽しい話をアルマから聞いてます」
丁寧な物腰の彼とアルマを、マザキヤ仮面は交互に眺めやり――。
「えーっと……もしかして……」
「ふっふーん♪ カレシのエヴァくんだよ!」
アルマは胸を張った。ペアリングを見せびらかすのも忘れない。
「エヴァンです。えっと、彼氏ですから……ね?」
「まじで!?」
マザキヤ仮面は、なおも二人を眺めて何やら頷いていたが――。
「そういや、君」
「はい、なんです?」
「なんでも良く食べる女の子は好きかね?」
「え? ええ。 健康的で、いいと思いますけど……」
エヴァンの回答に、後ろでアルマは頬を染め、クネクネしている。
「うん。まあ。それならいいんだ……」
マザキヤ仮面は、歯切れ悪くそう言った。
●
「――というわけでぇ! 諸君に探してもらいたいのがコレだ!」
冒険者たちの前で、依頼人のマナブ・O・シャブリ氏は高く右手を突き上げた。
陽光に煌めくのは、まあ、なんだ。
依頼書どおり「宝石で出来た、おしゃぶりに見えるナニカ」だった。
「うわ……依頼書見た時はネタだと思ったけど、ホントだったわ」
サイラスは、まじまじとシャブリ氏の手元を眺めた。
「フフフ、珍しかろう。舐めてみるかね?」
「……いや、やめとく……」
珍しいのは同意だ。実のところ、味も気にはなる。
しかしサイラスは断った。
毒性はないらしいが、別の意味でヘンな中毒性とかあっても困るし。
アルマもすごい形相で、おしゃぶりを眺めている。
味は気になる。とても。いますぐ口に放り込みたいぐらいだ。
それを押し留めているのは、たった一つのシンプルな事実だった。
――そのおしゃぶり、オッサンが舐めたヤツだよね?
「舐めませんけど、お借りしてもいいですか」
静かに声をかけたのはエルだ。
「貴重なものだから丁寧に扱ってくれたまえ」
「もちろんです」
専門分野こそ違うが、元々エルもヴェルクリエの住人。
学術的価値のある資料の扱いは心得ている。
「……そういえば『おいしい』とは、具体的にどういう味なんですか?」
もしかしてお菓子みたいに甘かったりするのだろうか?
密かな期待は、しかし、顔色には全く出なかった。
「うーん、正確に言うと『おいしい感じがする』のだ。
実際に味がするわけではない。想像するのは難しいかも知れないが」
雲を掴むような話に、エルは頭をかくりと傾けた。
はっきり言って、よく分からない。
だが、不可解なものほど興味をひかれるものだ。
学者が大枚をはたいてまで求めるのは分かる気がした。
とりあえず外見的な特徴は把握した。返しておこう。
「『感じ』? では、舐めて減ったりもしないのか?」
もうひとりの学者、ナタリア・フィッツジェラルドが言った。
――単なる稚児の真似事がしたい変態か?
依頼文を目にした時はそう思った。
だがシャブリ氏の証言が真実ならば、話は別だ。
「私は研究のため、何度もこの資料をしゃぶったが……この通りだよ」
おしゃぶりは綺麗なものだ。すり減った形跡もない。
ついでに言えば、オッサンの唾液のひとつも見当たらない。
大事にされているのは――確からしい。
ナタリアにも「舐めてみるか」と勧めがきたが、丁重に辞退した。
変人に片足を突っ込んでいる学者、という自覚はあるが、限度だってあるのだ。
「…………」
ユズは、もごもごと口を動かし……結局、黙り込んだ。
シャブリ氏の言わんとする感覚は、ユズにはとても良く分かった。
占い師にはよくあることなのだ。
五感の枠を飛び越え『ただ、そうである』と感じること。
ただ、それを説明するのはとても難しい。
そして「占いと一緒」などと口にすれば、学者さんは嫌がる、かも。
――そう思うと、何も言えなくなってしまった。
「と、とりあえず洞穴の主にご挨拶してから探索しましょうか」
なんとも言えない表情で、エヴァンが言った。
彼は、アルマの凄まじいやる気に、まだ戸惑い気味のようだった。
●
ひんやりとした洞穴の一角には、ヒカリゴケのランプ。
そして、荷物が入っているらしき木箱や壺。
――それから丸い布団の塊と、その上には雪の妖精が数羽居座っていた。
「どういう状況なんだよ、これ」
サイラスは長い首を捻りながら言った。
「ホノカさーん、この前ぶりだよー!!」
以前に面識のあるアルマは、物怖じせず布団を揺さぶる。
「――いるよ。うるさいねぇ――……」
布団の塊がもぞもぞと蠢き、やがて灰色のぼさぼさ頭が突き出した。
「おひさしぶり……ってほどでもないか?
――引っ越したって聞いたが、全然終わってないじゃないか?」
サイラスがそう聞くと、ホノカは明らかに不機嫌顔になった。
というより、バツが悪そうに見える。
「……掃除までは、やったんだよ。そしたら面倒臭くなってねぇ」
――ダメ人間だ。
居合わせた冒険者たちは、誰ともなくそれを察した。
「お邪魔します。――掃除、ということは、やっぱり魔獣とかいるんですか?」
「いる。というかソイツらも魔獣なんだけどね」
エヴァンが尋ねると、ホノカは顎をしゃくって妖精達を示した。
「成りかけが数体いたが妖精と一緒にあらかた片付けた。
まあ、残りがいても、あんた達なら大丈夫だろ」
「そうなのか? えらいぞ」
ナタリアが妖精を撫でながら声をかけると、ほわほわの綿毛が震えた。
どうやら胸を張ったつもりらしい。
「かっ、可愛いですっ……な、撫でても? あ、言葉わかんないか……」
「乱暴にしなければ、大丈夫だよー」
「わっ、冷た……」
「エヴァくん、寒がるの逆効果だから……」
「ひ、ひえ……ごめん、アルマ、ちょっと暖まらせて……」
どこかで見たかもしれない光景に、一同は黙り込んだ。
個々、考えることは違えど、まとめれば大体「ごちそうさま」につきる。
「……で、別にイチャつきに来たんじゃないんだろ。ギルドから話は聞いてるよ」
「ほ、ホノカさん、お掃除中に……おしゃぶり見なかった?」
ユズがおずおずと話しかける。
「情報提供があれば非常に助かるぞ!」
シャブリ氏がそれを受けて、懐から『おしゃぶり』を取り出した。
「……こういうの、まだ、持ってる?」
「まあ珍しかったからねえ。いくつか手元に残したけど」
「いくつある!? ゆずってくれたのむ!」
「どうどう。おっさんガッつき過ぎ。ちょっと落ち着こうな」
詰め寄るシャブリ氏をサイラスが引き離す。
後ろではアルマが目を白黒させていた。
同様にガッつこうとしたのを、すんでの所で我慢したらしい。
「ふむ……」
ホノカはその様を半眼で眺めていたが、やがてニタリと笑みを浮かべた。
「何も『商人』からタダでモノを持っていこうってわけじゃないんだろう?
お代に何をくれるんだい?」
●
「ええっと……まだ『成りかけ』が残ってるかもしれません。
探索がてら見かけたら退治しときますよ。
あと、お嫌でなければ引っ越しのお手伝いもします」
とアルマの様子を心配そうに眺めつつ、エヴァンが提案した。
「来る前にお祭りでパン買ったんです。もしよかったら。
これだけじゃ何なので……多分、洞穴の探索は終わってないですよね?
結果を地図にしますので、それを渡す、というのは?」
淡々とエルが答えた。
「仮面パンは今はないらしいけど、マザキヤ仮面に作ってもらう?」
「アルマ、さすがにご迷惑じゃないかな……」
「じゃあ、ボク達が買ったぶんを分けるってことで!」
「えと……お手伝いと、あと占いぐらいなら……。
あと、これ……対価とは、別に。友チョコ……です」
最後にユズが遠慮がちに付け加えた。
ホノカは妙ちきりんな表情になったが、断りはしなかった。
「……ま、いいだろ。受け取るよ。食べ物と占いは先払いで。
他のは帰りに寄っとくれ、その時交換といこう」
「待った」
ナタリアが割って入る。
「手持ち数ぐらい教えて欲しいな。
それから……こちらも情報が欲しい。
さしあたり、どのあたりで見つけたかとか」
「やれやれ、抜け目ないね。手元に残ってるのは2つ。
見つけたのは妖精だから、詳細は直接聞いとくれ」
「なに? そうなのか。ではそうしよう。連れていっていいか?」
「かまわんよ。……というかいい加減部屋が冷えてきてね……」
ため息をつくホノカ。
ユズは、おどおどともう一度呼びかけた。
「ええと、じゃ、じゃあ、先払い……」
「ああ、頼むよ。別に内容は問わない。視えたもんでいい」
「では……」
『……滅びし国より便りあり。叢の奥、学び舎に隠されし網を見よ』
別人のように伸びる声が、虚とも実ともつかぬ言の葉を紡いだ。
「滅びし国……帝国のことか?」
「出身なのかい?」
思わず反応したナタリアに、ホノカが問いかける。
「そうだ。……学び舎とは帝国魔導院のことか?」
「いや、私に聞かれてもね。そもそも『占い』だしねぇ」
「……」
ユズも困り顔で、首を振った。
占いとは、決まって曖昧なものだ。
ユズも正しい解釈に迷うことは度々あるのだ。
「まあ、いい。その話も聞かせておくれ。
追加でもうひとつブツを追加しよう」
「なに?」
ナタリアが問い返すと、ホノカはキヒヒと笑ってみせた。
「おっと騙すつもりはなかったんだ。なにせ私が舐めた後のモンでね。
他人に渡すモンじゃないだろうと思ってさ。悪く思わないどくれよ」
●
「わりと要領を得ないな、この妖精」
サイラスは苦り切った声を出した。
おまけに手に乗せているとシンシンと冷えてくるし。
動物交感で意図は大体つかめる。だが、会話というには程遠い。
幼児とコミュニケーションを取るのと、難度は変わらないかも知れない。
「かわいいから、いいじゃないか。なぁ?」
どこかウキウキした口調でナタリアが言った。
サイラスに答える、というより妖精に同意を求めているらしい。
彼らはジュリジュリ囀って、それに応えた。
「びゃあ゛ぁ゛゛ぁさむひぃ゛ぃぃ゛ぃ゛」
アルマがゴロゴロ転げ回って、妖精のご機嫌を取っている。
さらにその横ではシャブリ氏がそっくりな悲鳴をあげていた。
「びゃあ゛ぁ゛゛ぁさむひぃ゛ぃぃ゛ぃ゛」
「いかん、おっさんが凍える! マント持ってるやついるか!?」
自分のマントをかけつつ、サイラスが呼びかけた。
「これ、よかったらどうぞ」
エルも急いでマントを渡す。
「ごめんごめん。ちょっとハリキリすぎちゃった」
「……アルマ、いつにも増して元気だもんね」
「とりま、おっさんと妖精は離しておくか……」
「マントは後で返して頂ければいいです。
わたしたちは授恵者ですし、少し寒いだけですから」
エルが声をかけたが、シャブリ氏はコクコクと頷くだけだ。
どうやら歯の根が合わないらしい。
「一応、気をつける必要はある。
ヨウセイチャンは、寒がると嬉しくなってしまう。
そうすると益々寒くなるから……と言っても、君なら問題ないか」
ナタリアの解説に、エルは黙って頷いた。
どうやら自分は感情の起伏が少ないらしい。――少なくとも、そう見えるようだ。
妖精たちのことは、とても可愛いと思うし、そういう動物は好きなのだが。
ふと懐でモゾつく気配を感じる。
エルは服の上から、それをそっと撫ぜた。
「あ、リルも可愛い、よ」
「うーん。あまり細かい話は無理そうだし、先導してもらいつつ発掘するか。
ちと寒いけど……ったく、普通のリザードマンだったら動けなくなってるぞ」
「あー……そういう事件、実際にあったよ」
「マジか。小さくても魔獣カテゴリってことか」
サイラスは、ぶるっと身震いをした。
寒いのもあるが――妖精の先導で、おしゃぶりの発掘。
こいつはなかなか得難い体験に違いない。
まあ――なかなか、いや相当、バカバカしい見た目だけれども。
●
採掘作業は順調だった。
エヴァンには心得があったし、エーテルである程度までは地中の様子を探れる。
残念ながら、そこら中にザクザク埋まっている、などということはなかった。
それでもアルマと妖精の助けもある。
さほど時間をかけずに、桃色に輝くソレを見つけ出すことが出来た。
「……やりました!」
そう、ここまでは良かったのだ。
「おおっ、でかしたぞっ!!
それでは早速――む、な、何だね!? 離したまえ!」
「え、え――?」
シャブリ氏の抗議を受けて、初めて気づく。
エヴァンは彼を羽交い締めにしていた。
「えっ、えーと、すみません。洗ってからのほうがいいかと思って……」
我ながら、言い訳くさい。
「それもそうだな。発見につい浮かれてしまったよ、ハハハ」
幸い、シャブリ氏は納得してくれたようだ。
(なーいすガード! エヴァくん!)
アルマが目配せを送ってくる。エヴァンは曖昧な笑顔でそれに応えた。
なんでこんな事をしたのか。
依頼人の安全? アルマへの配慮? いやいや。
――ぼくが、イヤだったのかなあ?
それが心配性のなせる技か、はたまた別のものなのか。
……とりあえず深く考えるのは、仕事のあとにしよう。
●
「そもそもだ――ヨウセイチャン。
君たちにとって、その――『おしゃぶり』とは何なのだ?」
ナタリアは真顔で、手の上の妖精にそんな事を聞いた。
「たしかに妖精にとっての価値、というのは新しい視点だな!」
「だから、おっさんは離れてなって……気になるのはわかるけど」
そう言うサイラスも少々気になりはしたようだ。
妖精たちから伝わってくる感情は、楽しみ、に近い。
そういえば、妖精たちの王が以前に言っていた。
飲食は必ずしも必要でなく、娯楽の要素が強いのだと。
「……と、いった感じだ」
「ふむ……興味深いな。来歴についての知識はありそうかね?」
ナタリアは首を振った。
「少なくとも嫌悪感はなさそうだが。
そもそも地質学的にも不可解だ。この辺りに宝石鉱山があるわけでもない。
エーテルの影響、というのはありそうだが仮説の域を出ないな」
「鉱山で思い出したけど、いい鉱石は出ないのか?」
サイラスが妖精をつっつきながら聞いた。
出るなら、ついでに自分の店に持って帰りたい。
妖精たちからの答えは――『つち』。
「ああ――そういえば、ここは陶磁器の産地だったな」
「マジかよ。魔法的なのは期待してなかったけど、鉄や錫もないのか……。
……まあ、磨き粉ぐらいにはなるかな……」
どうりで、そこらを見透してみても、それらしきものが見当たらないはずだ。
サイラスは肩を落とした。
「まあまあ、元気を出し給えよ。なんならコイツを一発キメてみるかね?
いやな事なんて忘れるくらい美味いぞ」
シャブリ氏が何故か上機嫌で『おしゃぶり』を差し出してくる。
「いや、さっきも言ったけど、やめとく」
――つうか、その言い方。やっぱりヤバい薬みたいじゃね?
その言葉は、かろうじて飲み込んで、天を仰ぐ。
――その先に、きらり光るものが。
「あった! 天井だ!」
「なにっ!? ほんとかね!」
「よし、椅子か梯子を借りてこよう」
「ああ頼む――あと、おっさん。掘りたてのをしゃぶるのはヤメとけ?」
●
洞穴にカリカリという乾いた音が響く。
暗闇に目を凝らし、エルは几帳面に紙に図面を刻みつけていった。
「慣れたものだな。……もしかしてフィールドワークの経験が?」
言外に「学者としての」というのを匂わせて、シャブリ氏が聞いた。
「手伝い程度ですが」
「やはりそうか。注釈の付け方が整理されてるのでね」
「写しを差し上げましょうか? ホノカさんの許可があればですが」
「本当かね? それはいい。 そうだ、君の研究分野を聞いてもいいかね?」
エルは何と答えるべきか迷い――結局、事実を話した。
「いえ、結局手伝い止まりです。
わたしの中には、あなたや師のような情熱は無かった」
「そんなものかね――まあ、人生何があるか分からんよ。
私も三十路までは、ボンヤリ親父の手伝いをして過ごしてたもんだ」
「そんなものですか」
「そんなものさ」
シャブリ氏はそれきり何も言わず、洞穴の壁の観察に戻った。
確かに、一理ある。
冒険者として、こんな仕事をするとは、予想していなかった。
「――あ」
足元に見つけた輝きが、『見本』と違う茶褐色だったのも。
――ほんの少し、予想を越えていた。
●
「そういえば、占いで目的物を見つけられないのかね?」
シャブリ氏にそう言われ、ユズはまごついた。
無理とは言わないが、難しい。
占星術とは基本、スケールが大きい占術なのだ。
よほどの閃きが降りてくれば、話は別なのだが――。
そのような事を、つっかえながら説明する。
「いやいや、悪かった。……代わりに、私の運勢を見てはくれんかね?」
請われて、ユズは水晶玉をかざした。
「『――いつか、汝に書を捧ぐ者が現れん』
――やや吉兆、といったところです」
「ありがとう――いやいや、実際、悪くない――」
シャブリ氏は、どこか遠くを見ながら、頷いていた。
その表情は、おしゃぶりを前に興奮する姿と打って変わって、穏やかだった。
●
結局、発掘作業でみつけられた『おしゃぶり』は3つだった。
「うーん、振るわなかったな」
「何をいう! 普段は出るかどうかも分からないんだぞ!
これは大成果だよ! よくやってくれたよ、君たちィ!」
ばしばし。
無遠慮に背中をひっぱたかれ、サイラスは迷惑そうな顔をした。
ホノカから得られた『おしゃぶり』も3つ。
発掘作業を終えて戻ると、意外にも居室は大分居心地が良くなっていた。
動き出せば早いが、それまでが物草なタイプなのかも知れない。
おかげで引っ越しの手伝いは、そう時間もかからず終了した。
「ご苦労さん。嫌じゃなけりゃ麦茶でも飲んできな」
テーブルの上にはお茶請けに、渡したパンが置いてある。
「お代なのに、いいんですか?」
エルが尋ねると、そっけない言葉が返ってきた。
「どうせ食べきれないよ」
「パンもいいけど……とりあえず……」
「おっ、味見してみるかね!?」
シャブリ氏もアルマもおしゃぶりが気になって仕方ないらしい。
水瓶を借り、念入りに洗浄を行って、いざ――。
●
それは、ただ目まぐるしかった。
どういう味なのか、と聞かれれば、解説するのは難しい。
ただ、舌からの刺激に誘われて、過去の美食の記憶が走馬灯のように巡る。
「例えるなら、味の臨死体験んんん――!!」
叫ぶアルマを見ながら、やっぱりヤバいんじゃないか、とサイラスは思った。
シャブリ氏は、なんかこう、見苦しかったので、長身を活かして隠した。
『見せられないよ!』という看板(誰が書いたんだ)も忘れない。
エヴァンは恋人の姿に戸惑いつつも、密かに決意していた。
――あんなに喜んでるんだし、絶対に譲ってもらおう。
●
「はー、なるほど。レポート提出する約束でソレ貰ったのか。
ま、いいんじゃないか。依頼人も大喜びだったし。
かなり報酬もはずんでくれたぞー」
冒険者ギルドに報告に戻ると、マザキヤ仮面が出迎えた。
ちなみに支部長が留守なので代理だという。悪びれもしない。
「よしっ、報酬でパンを買って帰ろう。おすすめはあるか?」
「そうだなー……ヨウセイチャンちぎりパンとか好きじゃない?」
「なにっ、詳しく教えてもらおうか!」
ナタリアは買い物に出る気満々らしい。
蝋板にメモを書きつけるマザキヤ仮面の袖を、おずおずとユズが引いた。
「あの、えと、その、……ち、チョコレート、受け取って、貰える?」
「おお! 友チョコならぬファンチョコってとこか?
材料に何か作りたいとこだが……時間もかかるし、出来あいで悪いが!」
いつの間にかバスケットから、チョコパンが一つ取り出され、ユズの手に渡った。
「あり……がと」
思わぬファンサに、ユズはひっそりと微笑むのだった。
●
かくして妙な依頼は大成功をおさめた。
アルマとシャブリ氏は、ほくほく顔で『おしゃぶり』を手に帰宅したという。
その正体は――未だ謎に包まれている。
マスターコメント
ミドルシナリオ普通 報酬:多い6 / 6〜8人
2022年03月10日 15時19分26秒 公開
相談掲示板
No.1
サイラスだよろしくなー とりあえず動物交感持ってこうかと?
エヴァン・ピオネロです。ヨロシクお願いします。 採掘を支度しておしゃぶりを掘ろうと思います。 最後にパン祭りへ参加出来たら嬉しいです。 後2名、来ていただけますように。
アルマだよ、どーぞよろしくねー おしゃぶりはもちろん採掘するけど パン祭り参加とホノカさんに顔見せもしようかと思ってるよ
エル、です。どうぞ、よろしく。 マッピング、とかした方がいい、です、か?
エルさん、よろしくですよー。 マッピングは洞窟の広さや形状次第と思うので、マザキヤ仮面に質問しては如何でしょう? 奥行きがあるなら迷子防止の手段があると良いなーって思います。
やあ、冒険者諸君。マザキヤ仮面だよ! 諸事情あって遅れたが、資料を持ってきた。 つっても別に攻略に役立つことはあんまり書いてない。 まあ読み物程度に気楽にな。読んでなくても問題ないぞ。 まずマザキヤの街についてはマスターページの一番下。 フリーテキストに「同盟都市『マザキヤ』」参照だ。 https://alpaca-connect.com/master/10/ ホノカの背後事情についてはコレ。 【灰麦】詳細は、冒険者ギルド マザキヤ支部まで https://alpaca-connect.com/world/world0/scenario/1861 パンクリアース学園に寄贈されてる「おしゃぶり」についてはコレ。 https://alpaca-connect.com/world/world0/scenario/893 マッピングについては任意でどうぞ! 別にエドゥノーグの迷宮みたいに大規模でもないし、ホノカが一度大雑把に「掃除」してるから、ないと迷うってことはないだろう。 あればあったで、色々使い出はあると思うぞ!
占い師、ユズ。……宜しく。 これで6人、だから依頼、成立。 何をするか、悩む、けど……ホノカさんに、おしゃぶりの発見場所、聞くのと。 あと、手持ちの、譲って貰えないか、交渉、してみる。 ……対価、悩む。ボクの占いと、あと……お引越し片付けの、お手伝い、とか?
エヴァンさん、マザキヤ仮面さん、ありがとうございます。 マッピング、歩数とか脇道の数とかメモするくらいで、やってみます。 ユズさん、どうぞ、よろしく。 >対価 手持ちのを買い取り、でもいいなら、依頼人が一緒みたいなので、言えば…?
確定してましたね、ユズさんヨロシクですー! マッピング系はエルさん、お願いします。 歩測はシンプルですが正確な数値が出るそうですので洞窟の把握に役立ちますね。 マザキヤ仮面さん、色々と教えてくれてありがとうございました。
遅くなった。 ヒーラー兼学者のナタリア・フィッツジェラルドだ、宜しく。 シマエナガチャン...にも久しぶりに顔見せしたかったところだが、おしゃぶりの採掘か。 Lv1でも地質学が役に立ちそうなら良いが。
>エルさん えと、こちらこそ、宜しく。 なるほど、確かに。良さそう、だから、一緒に伝えて、みる。 エヴァンさん、こちらこそ。ナタリアさんも、宜しく。
さて。冒険者諸君、忘れ物はないかね? ハンカチもった? 歯ぁ磨いた? 私はヤボ用があってね…… 以後の質問にはお答えできかねるので、ご容赦いただきたい。 ではっ、さらば! また会おう!!