【恋眼】リベンジ・オブ・ポピー&リーミル

革酎

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シナリオID:1898

オープニング

●ペメロ大宴会へのご招待
 旧ポルフェダー子爵領の領都ペメロは、少しずつではあるが活気を取り戻しつつある。
 かつての領主ユージーン・ポルフェダー子爵はヴァルザード・レギンレイヴ侯爵の反乱に加担したとして領地を没収され、ポルフェダー子爵本人とその親族郎党は王党派貴族のマグラウリー・メルゲンガー伯爵に身柄を預けられ、王国からの処分を待つ運びとなった。
 そしてポルフェダー子爵領の当面の領地運営についても、メルゲンガー伯爵が領主代官として携わることが決定している。
 メルゲンガー伯爵は自領に於いては領民思いの良き統治者として知られているが、彼の評判がここペメロまで聞こえている訳ではない為、彼の領主代官就任に不安を抱く住民も決して少なくはなかった。
 そこでメルゲンガー伯爵は自己紹介や領民との交流を目的として、領主代官就任初日にペメロを訪れ、幾つかの大型飲食店や広場の仮設宴会場でレギンレイヴ侯爵討伐成功と親睦会を兼ねてのペメロ大宴会を催すことを決定した。
 このペメロ大宴会にはペメロ住民のみならず、冒険者も自由参加という形で招待されている。
 そしてレギンレイヴ侯爵のキメラゾンビ工場破壊作戦に従事したポピー・アルルンとリーミルも、この大宴会に招待された。

 少しばかり寒さが和らいだ、ある冬の日の朝。
 店先で招待状を受け取ったポピーは、僅かに目を輝かせた。
「う~ん、あんまり留守が続くとお店の方にも迷惑かけちゃうけど……まぁ、良っか!」
 鬱憤を晴らしたい、且つ新たな出会いを密かに期待しているポピーは、招待に応じることにした。
 まだ開店前のこの時刻なら、少々店を空けても文句はいわれない。ポピーはペメロ大宴会開催当日の輸送便を確保すべく、ビッグオウム厩舎へと走った。

 同時刻、リブラネスタ冒険者ギルド本部。
 矢張り同じくペメロ大宴会からの招待状を受け取ったリーミルは、ウィリアム王子帰還祝賀会から凡そ一週間後となっている開催日を確認し、速攻で休暇を申請した。
「うふふふ……メルゲンガー伯爵はお酒好きだという噂です。きっと良いお酒が一杯、飲めるのです!」
 正確にはワインや地方の地酒をコレクションするのが趣味なのだが、この際どうでも良い。メルゲンガー伯爵の太っ腹な正確なら、秘蔵のワイン辺りが提供されるに違いない。
 考えただけで、自然と頬が緩んだ。

●キメラゾンビ亜種
 破壊し尽くされた森の中の洋館。
 かつてキメラゾンビ工場と呼ばれた無残なる廃墟の前に、ふたつの人影――死霊術師アリバ・ジャハール・カサドとメドゥの指先『青の中指』ジルベルが何ともいえぬ表情を並べて佇んでいた。
「こらまた随分派手にやられたなぁ、おい」
「いやはや……物凄い恨みつらみを感じますなぁ」
 何故ここまで徹底的に怒りの矛先が向けられたのか、よく分からない。憤怒の主が日頃はショップの店員だったり、冒険者ギルドの受付嬢だったりするという情報を聞かされても、俄には信じられなかっただろう。
 ところで、とジルベルが思い出した様に懐からメモ帳を取り出した。
「実験中のキメラゾンビ亜種が二体、裏山の古い倉庫ん中にあるんだって?」
「まぁ不幸中の幸いといいますか、余りに出来が悪いってことで、敷地外の裏山に放置されたまま忘れられてたみたいで」
 ふたりは廃墟と化した洋館を通り過ぎ、低い裏山へと登った。五合目辺りで足を止めると、石造りの古びた倉庫が視界に飛び込んできた。
「熊の半獣人と巨大蠍魔獣を合成したキメラゾンビと……リザードマン戦士と巨大蜘蛛魔獣を合成したキメラゾンビの、計二体の様ですな」
 説明しながら、アリバは分厚い木製扉を押し開ける。
 見ると、表皮がどす黒く変色している合成死骸の巨影がふたつ、薄闇の中で静かに横たわっていた。
 一方は巨大蠍魔獣の頭部付近に、熊の半獣人の上半身が合成されている。そしてもう一方は巨大蜘蛛魔獣の頭部付近に、屈強なリザードマンの上半身が合成されている。前者はベアスティンガー、後者はリザードスピナーという仮称を与えられていた。
「冒険者達に蹴散らされた他の死霊術師の皆さん方じゃあ、手に負えなかったんだよな。んで、アリバさんなら余裕で制御出来るって訳かい?」
「ははは……そこはジルベル殿ご自身の目でご覧あれ」
 アリバは乾いた笑いを漏らしてから、床に手早く魔法陣を描き、死霊術の術式発動態勢に入った。
 それから数分後、二体の巨大なキメラゾンビはのっそりと起き上がり、表情の無い虚ろな顔でアリバの前に並び立った。
 完全に、アリバの制御下に入っている。
「おー、こりゃお見事。んで、どうすんの? 吸血屍陸戦隊と同じ様に、戦力化すんの?」
「いやいや、この二体は何だかんだで出来損ないですからねぇ……今回はデータ取りの為に使い捨てます」
 アリバ曰く、近々ペメロで大宴会が催されるらしい。その大宴会には冒険者も少なからず参加するという情報を得ている。そこにこの二体をけしかけて、どの程度の戦闘力を発揮するのかを観察したいのだという。
「飲んで騒いでるとこに放り込むってか? そりゃあめっちゃ怒るでぇ、冒険者」
「まぁそれが狙いなんですけどね。怒って本気出した冒険者相手に、どこまで耐えられるか」
 やろうとしていることは迷惑千万な話なのだが、今ひとつ緊張感に欠ける両名であった。

解説

状況:  PCの皆様はペメロ大宴会に招待され、機嫌良く飲み食いしているところからスタートします。  ポピーとリーミルも開宴当初から参加していますので、このふたりと歓談していても良いでしょう。  また、メドゥの指先『青の中指』ジルベルと死霊術師アリバ・ジャハール・カサドが近隣で目撃されているとの情報も既に握っていますので、何か仕掛けてくる可能性があるとして、予め警戒していても結構です。 敵:  二体のキメラゾンビ亜種です。  外観と仮称は本文中にある通りですが、その戦闘力は制御下に置いたアリバでさえ、正確には把握しておりません。どの様な技を仕掛けてくるかは外観から大体の想像をつけて対処して下さい。  尚、ジルベルとアリバは遠巻きに姿を見せますが、こちらから仕掛けない限り、直接参戦してくる意思はありません。 NPC:  ペメロ大宴会主催としてマグラウリー・メルゲンガー伯爵が、招待客としてポピー・アルルンとリーミルが登場します。その他、大勢のペメロ住民がモブとして登場するでしょう。  敵NPCとしてメドゥの指先『青の中指』ジルベルと死霊術師アリバ・ジャハール・カサドが居ますが、展開によっては台詞すら無いまま退場することになるかも知れません。

マスターより

 皆様、こんにちは。  連動【恋眼】の事後シナリオをご提供致します。  決戦で破壊されたキメラゾンビ工場にまつわるお話となります。破壊作戦の際にポピーとリーミルを飲み会やお食事等にお誘いされているプレイングが散見されましたので、折角なら事後シナリオでということで出させて頂きました。  事後シナリオでの宴会や食事会は日常系になりがちですが、ここは敢えて戦闘で締めくくらせて頂こうかと存じます。  ご縁がございましたら是非参加をご検討下さいませ。

リプレイ

●警戒するけど食う時は食う
 旧ポルフェダー子爵領の領都ペメロは冬晴れというよりも、半ば春の陽気が混ざり始めた暖かな陽射しに覆われている。
 領地経営の管理代官たる王党派貴族マグラウリー・メルゲンガー伯爵がこの日主催したペメロ大宴会では、町のそこかしこで仮設の宴会場が設けられ、一部の大型店舗や施設も貸し切り状態にて宴会場として開放され、全ての住民が自由に飲み食い可能なバル形式が取られた。
 勿論全ての料理、全ての飲料は食べ放題、飲み放題の無料配布だ。
 旧ポルフェダー子爵邸からは不当に貯蓄されていた膨大な財が没収されており、メルゲンガー伯爵は王国政府にかけあって、これらを領民への還元という形で今回の大宴会の予算に充てたのである。
 但しそれだけでは到底賄い切れない為、メルゲンガー伯爵自身も己の財布を開いて、この大宴会の予算の何割かは彼が自腹を切っていた。
 その様な裏があることなどは誰も知らず、ペメロの町は大勢のひとびとの歓声で賑わっている。
 このペメロ大宴会で料理や酒を楽しんでいるのは地元住民だけではなく、ヴァルザード・レギンレイヴ侯爵の反乱鎮圧と、それに伴う戦闘で大いに活躍した冒険者やその関係者も、少なからず招待されていた。
「今のところ、おかしな輩は見当たらない、か……」
 飲み食いするひとびとを左右に眺めながら、ヴァン・ローラントはペメロの中央大通りを歩いていた。
 ヴァンは周辺警備を固めるメルゲンガー伯爵の私設兵団から、妙な情報を仕入れていた。即ち、メドゥの指先の幹部『青の中指』ジルベルと、同じくメドゥの指先に所属する死霊術師アリバ・ジャハール・カサドがこのペメロ近隣で目撃されたというのである。
 流石にこれは捨て置けぬと考えたヴァンは、大宴会場内をぶらぶらと飲み食いする客を装いつつ、怪しい人影が居ないかと、それとなく警戒の目を光らせていた。
 現在ペメロは町全体がひとつの巨大な宴会場と化している。敵襲があるとしても、どこに攻め込んでくるかは現状予測不能だった。尤も、メルゲンガー伯爵私設兵団が町全体を囲う形で警備網を張り巡らせている為、敵がどこから仕掛けてきてもいち早く察知可能ではあった。
 余り緊張し過ぎるのは無駄か、とヴァンは適当な立ち食い用テーブルで足を止め、小皿を取って肉料理に手を伸ばした。
 その同じテーブルでは、だわが何種類もの肉料理を手にした皿に取り分け、美味そうに頬張っている。
「随分山盛りに取り分けたものだな……もしかして、全部違う肉なのか?」
 ヴァンが問いかけると、だわは手にした皿を目線の高さに掲げて頷き返す。
「牛、豚、羊、馬、鶏、鶉、猪……他にも何種類かある様だ」
 よくぞこれだけの種類の肉を揃えたものだと、だわは心底感心する素振りを見せたが、ヴァンにしてみればこれらの肉をしっかり味で見分けているだわも結構凄い奴だと、内心で舌を巻くと同時に呆れてもいた。
 しかしだわ本人にしてみれば、これでもかなり抑え気味であった。ヴァン同様、きな臭い動きがあると聞きつけていた為、戦闘が発生する可能性も考慮していたのである。
 事実、だわは酒類は一切遠慮していた。尤も、超が付く程の下戸だった、というのも理由のひとつではあったのだが。
「やぁお疲れさん。何か、あっちの通りで利き酒プチ大会みたいなのもやってるらしいよ」
 と、そこへ取り皿片手にぶらぶらと通りを歩いていたサイラスが足を止めて、ヴァンとだわに声をかけた。
 聞けばリブラネスタの冒険者御用達ショップ店員ポピー・アルルンと、同じくリブラネスタ冒険者ギルドの受付嬢リーミルの両名がその通りの近くで盛大に飲み食いしているらしい。
 ポピーとリーミルといえば、先のキメラゾンビ工場攻略戦では破壊作戦で大いに活躍した様が記憶に新しい。今回メルゲンガー伯爵がこのふたりを呼んだのも、件の戦闘での活躍を讃える為だとか何とか。
「リーミルは酒飲み放題だから別に良いんだろうけど、アルルン姐さんはどうだろうな。今日のところは飲み食いだけを楽しみに来たのかどうかも、結構怪しいもんだが」
 最近ポピーが婚活に力を入れているという話を小耳に挟んだサイラス。
 この大宴会で新たな出会いを求めているのでは、などと邪推してみたものの、今のところポピーがイケメンを物色している様子は見られない。矢張り単純に祝勝会での料理と酒を堪能しに来ただけなのかも知れない。
「んで、食べないのか?」
 無料で食べられるのだから、眺めているだけでは損だぞといわんばかりの表情でだわが訊いた。サイラスは敵襲の可能性を考えて酒は遠慮しているらしいが、料理にはそこそこ手を付けていた。
「酔っぱらってたら、まともに戦えんし。それにどっちかってぇと、料理よりも素材の方が嬉しいかな」
 相変わらず独特の価値観。しかし一本芯が通っているともいえる。
 そんなものなのか――だわとヴァンは完全に理解したとはいえないまでも、サイラスにはサイラスの考えがあるのだろうと、それ以上は何もいわなかった。

●飲んだり煽ったり
 リーミルは、兎に角ご機嫌だった。
 メルゲンガー伯爵が秘蔵のコレクションたる銘柄物のワインや地酒を、惜しげもなくこの大宴会に供してくれたからである。
「そんなに飲んで大丈夫?」
 宴会場として開放された公会堂内の一角。
 大テーブル上に数本の酒壺を並べて嬉々とした表情を浮かべているリーミルに、ポピーは二日酔いにならないのかと幾分心配する素振りを見せた。
 しかしリーミルは、明日明後日と三連休を取得しているので問題無いと胸を張った。
「こんな時こそ、浴びる程飲むのー。美味しいお酒を前にして遠慮するのは、この世の害悪なの」
「何よそれ……聞いたこと無い判断基準なんだけど」
 呆れるポピーに対し、リーミルは知らぬ存ぜぬとばかりに新たな酒壺を手元に引き寄せ、うへへへへへと不気味な笑みを漏らしながら栓を抜く。
 と、そこへアルマ・ヴァレンタインとエヴァン・ピオネロがそれぞれのジョッキと取り皿を携えて、同じ大テーブルに移動してきた。
「お疲れー。約束してた干物と火酒、持ってきたよー」
 アルマが卓上にこれらを取り出すと、ポピーが手早く取り分けてゆく。
「リーミルさんには、これね。美味しいかどうか、お眼鏡にかなうか味見して欲しいな」
 いいながらアルマは、リーミルの目の前にヴェラのご自慢ワインを置いた。リーミルの瞳に、更なる不気味な光が宿った。
「それにしても、随分食べてきたんじゃない? 結構あっちこっちのテーブル廻ってたみたいだけど」
 ポピーに問われ、アルマは引きつった笑みを返した。曰く、物凄く幸せそうに様々な料理を貪っていたのではないか、と。
「そうですね……アルマも幸せそうに……食べ……食……」
 いいかけて、何故か急に不安が込み上げてきたエヴァン。実のところエヴァンは、アルマが先日食べ過ぎの太り過ぎでダイエットを敢行したという話を聞いていた。
 そして今日。
 アルマはまたしても獰猛な勢いで美味い料理を次から次へと胃袋の中へ放り込んでいる。
 大丈夫なのかと心配になったとして、何の不思議があろう。エヴァンは思わず、両掌でアルマの左右の頬を包んでから、軽く揉みしだく様にぐにゃっと掴んでみた。
「ほわぁぁぁ……エヴァくん、ボクのほっぺたなんて掴んで、どうしたの?」
「えぇと……まだ、大丈夫ですね」
 エヴァンのいう大丈夫とはつまり、まだ贅肉が復活するところまでは至っていないことを意味する。アルマも漸く、エヴァンが何に対して不安を抱いているのかを理解した。
「だだだ大丈夫だよ。ほら、アルザップで結果にコミットしたばっかりだから……」
 アルザップというのは、先日アルマが自身の率いるロモズ歩兵団遊兵5番隊に於いて実施したブートキャンプの通称である。アルマ式ブートキャンプが、何故かアルザップと呼ばれるに至ったらしい。
 このアルザップの効果で遊兵5番隊の面々はダイエットに成功し、基礎体力の向上という結果を得た。
 ところがその際、アルマが部下達に栄養バランスの取れた美味い食事を供するという名目で料理番を担当したのだが、少々つまみ食いが度を越したらしく、部下達が全員ダイエット成果を出したのとは対照的に、今度はアルマが太るという逆転現象が生じた。
 危機感を抱いたアルマは、次は自分の番だとアルザップを自らに課し、何とかダイエットに成功したのであるが、このペメロ大宴会で暴飲暴食したら再び太るのではないか、というのをエヴァンが心配した格好となった訳である。
「うーわ、何よこれ。ほらほら見なよ。何かマウント取ってきてるし」
 尚もアルマの頬をエヴァンがぷにぷにと揉んで弄んでいると、ポピーがこれ見よがしに、盛大な溜息を漏らした。どうやらアルマとエヴァンの蜜月ぶりに胸やけを起こしたらしい。婚活中の女子の前で、彼氏が彼女の頬を両手で揉むという光景は、確かに挑発的過ぎたかも知れない。
 エヴァンは慌ててアルマの頬から両手を離し、アルマもいやいやそんなつもりは無いと弁明に出た。
「だ、大丈夫だよっ! ボクも一年前は立派な喪女だったけど、こういうのはめぐり合わせだよー!」
「うわー、何それー。すっごい上から目線なんですけどー」
 ポピーも決して本心から怒っている訳ではなく、慌てるアルマとエヴァンをからかって楽しんでいるだけであった。
 更にポピーはヴェラのご自慢ワインを堪能しているリーミルの袖をちょいちょいと軽く引いた。
「さぁリーミルさん。どう思いますか? このふたり、どう見ても煽ってるよねー?」
「うん、そうなのー。このワイン、最高に美味しいと思うのー」
 ポピーとリーミルも全く会話が噛み合っていなかった。

●信頼するに足る
 公会堂内の別のテーブルではダムド・フィリスが肉料理のみならず、野菜料理や魚料理にも万遍無く手を出して様々な味や食感を堪能していた。
「良い食いっぷりだ。私も準備させた甲斐がある」
 いつの間にか同じテーブルの向かい側の席に、メルゲンガー伯爵がジョッキ片手に骨付き肉を味わっている姿があった。
「敵の襲撃予測があるんだって?」
 ダムドは料理を口に運ぶ手を止めずに訊いた。
 リーンエス王国の貴族は総じてヒューマン以外を差別し、蔑視する傾向にあるという話は有名である。このメルゲンガー伯爵もその例に漏れないのでは――と思いきや、意外にもメルゲンガー伯爵は表情を変えずに頷き返した。ダムドをひとりの話し相手として認めている様であった。
「本当に来ると思うか?」
「まぁ、来るだろう。町全体が宴会場と化している現状は、テロリストの目から見ればより取り見取りの襲い放題だからな」
 だがそれでも、メルゲンガー伯爵はペメロ大宴会を決行した。敵が来るかも知れないのに、である。
 普通であれば安全性を考慮し、敵を全て駆逐してからの開催でも良さそうなものだ。
 ここでダムドは成程、そういう訳かと内心で合点した。メルゲンガー伯爵の腹の内が、読めた様な気がしたからだ。
「敢えて敵の襲撃を受け入れる。その上で冒険者に敵を撃退させ、伯爵の私設兵団の警備力と情報力、そして冒険者をも手足として使い得る実務力をこの町の連中に見せつけるってぇ訳か」
「もうひとつ加えるなら、これだけの量の酒と料理をいつでも供することが出来る財力と準備力も、同時にアピールしておかんとな」
 でなければ、自分の様な新参者の支配者が領地代官として即座に受け入れられるのは難しい。
 メルゲンガー伯爵にとってはペメロ大宴会の催行と、そこに襲撃を仕掛けてくる敵を撃退するのは、ふたつでひとつのセットメニューの様なものであるらしい。
 実にしたたかな政治家だと、ダムドは内心で呆れると同時に、感心した。実務的貴族というものは、これぐらい精神的にタフでなければならないものかも知れない。
「冒険者が満足に仕事をしなかったら、どうするつもりだった?」
「きっちりやってのけてくれるさ。美味い料理と酒をただで飲み食いさせてやっているのだから、それぐらいの見返りはあっても良かろう」
 不敵に笑うメルゲンガー伯爵に、ダムドは苦笑を返した。
 ここまで身も蓋もない反応を返す貴族は、別の見方をすれば腹を割って全てをさらけ出す正直者であるともいえる。この手の輩は抜け目は無さそうではあるが、信頼出来る人物でもあった。
 そして同時にメルゲンガー伯爵は、ダムドを含むこの場の全ての冒険者達を信じてくれている。自分達の力量を当てにして、敵襲を退けようというのだから、これ程の信頼はそうそう無いであろう。
「まぁ、そうだな……今日の料理はどれも美味い。それをちっぽけな敵襲なんぞで無駄にさせられるのは、本当に腹が立つな」
 良いだろう、とダムドは頷き返した。
 敵が来るならば撃退してみせる。料理や酒を無駄にする様な真似は許さない。かつてダムドは一日の食事にも窮する程の生活を強いられていた。だからこそ、余計に腹が立つ。食事を無駄にすること程、彼にとって許せないことは無いかも知れない。
 と、そこへペメロの町の外側で防衛線を構築している筈の私設兵団員のひとりが、足早に公会堂内へと踏み込んできた。そのまま急ぎ足でメルゲンガー伯爵に近寄り、低い声音で耳打ち。
 ダムドも、事態の急変を即座に察知した。
「来たか」
「西にキメラゾンビと思しき巨影を二体、捕捉した。住民は町の東門近くの広場に、利き酒と利き肉の勝ち抜き大会という余興で呼び集める」
 住民には戦闘が発生したことすら察知させず、飽くまでも秘密裏に敵を撃退する。宴会終了後に実は敵襲があったが私設兵団と冒険者で難無く撃退したとサプライズ報告し、住民の信頼を勝ち得るというところまでがメルゲンガー伯爵の描いたストーリーらしい。
「良いさ……ひとつ、乗ってやる」
 ダムドは牛脂で汚れた口元を軽く拭いながら、ゆっくり立ち上がった。

●町の外の迎撃戦
 最初に迎撃へと飛び出してきたのはサイラス、ヴァン、だわの三人であった。
 敵襲ありを事前に予測し、食べる量を控え、飲酒も避けていた為に、他の授恵者よりも相当早く対応することが出来たのである。
「片方は熊の半獣人と巨大蠍のキメラ、もう片方はリザードマンと巨大蜘蛛のキメラ……上半身は物理攻撃で、下半身が何らかの特殊能力を使ってくるって感じか」
 ヴァンの推測に、サイラスとだわは黙然と頷き返す。蠍ならば毒針、蜘蛛ならば粘性糸噴射といったところであろう。
「キメラゾンビで単体で動くことはあり得ない。どうせどこかで見ているんだろうな、例の死霊術師が」
 だわは周囲をざっと見渡したが、誘い込める様な物陰は見当たらない。敵に戦闘の経緯をそのまま見せるのは癪だが、町中へ誘い込むのではなく、飽くまでも町の外での決着が望ましい以上は、贅沢もいっていられないだろう。
「防戦一方になるのは正直気分の良いものではないが、今の戦力では親玉には手出し無用だな」
「まー、そうした方が良いだろうなー」
 だわの戦力分析を受けて、サイラスがまず接敵を試みた。最初にジャマーを仕掛け、動きに変化があるかどうかを探る。が、いずれのキメラゾンビもただ前進を続けるのみで、まるで動きに変化が無い。
「しかしキメラを作るにしても、もう少しバランスというものを考えられなかったのか……?」
 ヴァンは弓を構えながら、小さくかぶりを振った。二体のキメラゾンビはいずれもやや上半身に重心が偏っており、歩行が幾分ぎこちない様にも見える。
 ならば下半身を先に狙うのが正攻法かも知れない。ヴァンは先に熊蠍、次いで蜥蜴蜘蛛にそれぞれ鏃を叩き込んで強力な重力波を発生させた。
 どうやら、効いている。明らかに歩行速度が落ちた。
 ここでだわが蜥蜴蜘蛛との間合いを詰め、鋭い語気で低く吠えながら自身に攻撃の矛先を向けさせた。粘性糸を広範囲にばら撒かれるのは戦局的に見て余り嬉しくないから、なるべく己に攻撃の目を集めさせる戦術に打って出た訳である。
 一方のサイラスは得物を振るいながら、熊蠍との接近戦に突入した。上半身と下半身の結合部に照準を絞りつつ、敵の特殊攻撃には最大限の注意を払う。打撃を受ければ自らを回復し、そうでなければひたすら手数を繰り出して敵の防御を削り取るという作戦だ。
「あのおふたりさん、参戦してくるかね……?」
 サイラスは、或いはポピーとリーミルが戦線に加わってくるかとも思ったが、先程聞いた話ではリーミルはすっかり酔っぱらっており、ポピーもそこそこ酒が入っている模様。
 であれば下手に顔を出されるよりも、そのまま後ろで酔っぱらってくれている方が安全かも知れない。
「まぁ良いか……素材さえ取れれば、それで御の字だし」
 それに今の戦力でも十分、この二体のキメラゾンビと渡り合える様にも思える。下手にポピーやリーミルの参戦を待つのではなく、速攻で斃し切った方が無難だろう。
 だがそれにしても、熊蠍の表皮の硬さは中々に厄介だ。サイラスの膂力を以ってしても、簡単には打撃が通らない。鋭撃を駆使してやっと手応えが返るといった有様だ。
 ひとりで斃し切れるかと不安がよぎり始めたその時、ダムドがここで参戦してきた。サイラスにとって何より有り難かったのは、ダムドが破鎧砕を用意していたことである。
「見るからに硬そうだな。なら防御を砕いてやるか」
 サイラスの攻撃の邪魔にならぬ様、別角度から疾風の速さで接近し、エーテルを纏わせた得物を鋭く突き込んでゆく。何度かヒットアンドアウェイの要領で破鎧砕を叩き込むうちに、熊蠍の表皮が目に見えて柔らかくなり始めた。
「折角美味い料理を楽しんでたってのに……喰いモンの恨みは忘れねぇぞ」
 メルゲンガー伯爵に激励されたからという訳でもなかったが、ダムドは気合十分だ。そのダムドの防御力破壊戦術に便乗して、サイラスは次々と有効打を叩き込んでゆく。
 熊蠍の攻略は最早、時間の問題であった。
 一方、だわが相手取っている蜥蜴蜘蛛に対してはヴァンの鏃だけではなく、駆けつけてきたエヴァンの魔法火力が加わった。
 エヴァンは先ず輝く魔力の槍を叩きつけて敵の足を更に鈍らせ、十分に動きを止めたところでだわに呼びかけた。
「爆炎と氷嵐を入れますから、ちょっと下がっててくれますか!」
「心得た」
 だわが距離を取った直後、エヴァンの高威力魔法攻撃が連続した。キメラゾンビは死体故に表情にこそ出さないものの、相当な打撃を被っている。
 蜥蜴蜘蛛の歩行速度がほぼ皆無になったところで、光輝の柱が出現した。アルマが一体ずつに攻撃を絞る為にと、片方の敵の動きを先ず封じようと考えたのである。
「ふぅ……これで安心してブルーフレアかけられるね」
 額の汗を拭う仕草を見せたアルマ。戦闘が白熱していたから冷や汗を流した、という訳ではなく、単に食い過ぎ飲み過ぎで体温が上がっていただけに過ぎなかった。

●呆気無い程の勝利
 先に斃れたのは熊蠍であった。
 サイラスの振るう刃に加え、ダムドの変幻自在な機動力を駆使した接近戦で耐久力があっという間に削られていった敵は、ものの数分とかからないうちに倒れ込んだ。
 長い尾の毒針は確かに厄介だったが、それよりも早く高い防御力を打ち崩しての攻略が功を奏した格好となった。
 とどめを刺したのはヴァンの放った鏃だったが、それ以前にほとんど死に体となっていた訳だから、サイラスとダムドの両名で事実上仕留めたといって良いだろう。
 残る蜥蜴蜘蛛も、光輝の柱が破壊された直後から冒険者達が一斉に攻撃を叩き込み、こちらも然程の時間を要すること無く、無事に斃し切った。
 だわが懸念した通り、粘性糸の散布は中々に厄介だったが、六人の冒険者が総力戦を挑めば、こちらも然程に怖い相手ではなかった。
「蠍の硬い甲羅と、蜘蛛の足先の鋭い爪が収穫かな。徒花は結局、効いたか効いてないか分からんかったな」
 サイラスはキメラゾンビの死骸を手際良く解体しながら、鼻歌を響かせている。
 絵面的に、見ていて余り綺麗なものではない。
 それよりもエヴァンとアルマはさっさと町に戻って、引き続き料理を楽しみたかった。ポピーとリーミルは今尚、町中でぐいぐいと酒を飲んでいる筈であった。
 一方、ダムドからメルゲンガー伯爵の真意を聞いただわは、小さく肩を竦めた。今回の襲撃はメルゲンガー伯爵にとって間が悪過ぎるだろうと気の毒に思っていたのだが、どうやらメルゲンガー伯爵には寧ろ渡りに船だったらしい。
「貴族の発想というものは、よく分からないな」
「ところで、あいつらが今回の親玉か」
 ダムドの目線の先を、だわも静かに追った。馬車道が小さな森へと入るところに、ふたつの人影があるのが見えた。
 アルマの説明によれば、太っている方が死霊術師、もうひとりの白銀虎の半獣人が青の中指、ということらしいが、その両名ともやれやれとかぶりを振りながら森の中へ消えようとしているところであった。
「追うか?」
 だわの問いかけに、ヴァンとアルマは、やめておいた方が良いと静かにかぶりを振る。アリバの方は兎も角、ジルベルに関してはこの場に居るメンバーだけでは明らかに戦力不足である。
 ここで追撃するのは、余りに危険過ぎた。

 町に戻ると、まだ東の広場で利き酒と利き肉の勝ち抜き戦が続いていた。
 意外にもリーミルが三回戦で敗退するという波乱があったらしいが、それ以前にべろんべろんに酔っぱらっていた為、酒の味も途中で分からなくなっていた模様。
 ポピーも準決勝前で敗退した為、改めて反省会と称して飲み直すことになった。
「肉なら付き合う」
 ダムドが名乗りを上げた。
「ボクもまだ食べ足りないなー」
 アルマがとんでもないことをいい出した。エヴァンが心配げな顔を見せている。
「今日出された肉は、どれも美味かったしな」
 だわが呼応。酒は駄目だが、肉は幾らでもいけるのだろう。
 ところが、リーミルはこれを大いに不満として両手の拳をぶんぶんと振り回した。
「今日は宴会ですよー。どんどん飲まないとー」
 リーミルの鶴のひと声で、全てがひっくり返ってしまった。その後、冒険者達がどうなったかは誰も語ろうとはしない。

マスターコメント

 皆様、お疲れ様でした。  敵は無事に撃退され、宴会は……いや、こちらは結局どうなったのか、参加者の記憶が定かではないので、何ともいえませんね。  ともあれ、メルゲンガー伯爵のペメロでの印象は大幅にアップしましたので、結果は大成功です。  尚、今回のリプレイで素材の回収に成功してはおりますが、アニエピカのシステム上のアイテムとして配布することは出来ません。また、MS間で他MSのシナリオの参照義務は無い為、他MSのシナリオに本シナリオで持ち帰った素材を使用することも基本的には不可能です。  本シナリオでの持ち帰り素材を使用したい場合は今後革酎がリリースするシナリオ内でのみが大前提となりますので、くれぐれもご注意願います。
ミドルシナリオ

ミドルシナリオ普通 報酬:標準6 / 6〜8人

2022年02月12日 18時16分27秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. アルマ・ヴァレンタイン

    ヒーラーのアルマだよ、どーぞよろしくねー 宴会では決戦で触れたお酒とか持ってポピーさんリーミルさんとお話する予定だよ 戦闘はー…入るサイズなら片方を光縛封で閉じ込めようかなあ…くらい? 状態異常も使ってきそうだから解呪とかも準備していくねー まだ成立するか微妙なところだけど…

  2. エヴァン・ピオネロ

    キャスターのエヴァンです。よろしくお願いします。 美味しく食べてる時に戦いになるのは切ないですね…。 サッと倒して食べに戻りたいので… ジルベルとアリバさんは、用心しますが、自分から戦いは挑まないつもりで居ます。 もし戦いたいのでしたら動きを考えますので予め、教えてくださいね。

  3. ヴァン・ローラント

    ←(またもや巻き込まれ系戦闘依頼にぶち込まれた人) 探偵をやっているヴァンだ、クラスはシューター。 今回のゾンビは失敗作とはいえ、流石に身体の組み合わせがアンバランス過ぎないか…。 なんか後ろが「どこのカセキメラだよ」とか良く分からん事言ってるが。( あと、アリバとジルベルとは戦わない方針だ。

  4. エヴァン・ピオネロ

    確定6名…これは厳しいでしょうか? この後、プレを直すのが難しいので 外観からの印象を基に動くプレを提出した事を皆さんへお伝えしますね。

  5. だわ

    ぎりぎりですまない、参加させてもらう。 ウォーリアだ。だわと呼んでもらえれば。 宴会の招待客など戦力を持たない者を守ることを最優先としてプレイングを出しておく。 ……成立するといいな。

  6. No.6

    サイラスだ、これで後1人かな?埋まるかな? とりあえず攻撃役回ろかなと。ネームドは無視の方針で行くわ。

  7. アルマ・ヴァレンタイン

    ギリギリだけど成立ー、みんなあらためてよろしくねー 最初に書いたくらいの内容だけどプレも一応出してるからねー

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0