【人馬】身重の私を捨て、夫は帝国の村を襲うようです

韮瀬隈則

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シナリオID:1895

オープニング

●
「アネット! 俺はお前との婚姻を破棄する!」

 冬枯れの細道で。
 身重の体に鞭打ち歩きつづけ、とうとう体力の限界ですわり込んでしまった私(アネット)に、夫であるオットーが冷たく言い放ちました。
「どういう……こと?」
 思ってもいなかった。といえば嘘になります。
「血筋だけでバカな女はこれだから。いいか、俺はお前と離婚して、このイモーヌと婚姻を結ぶんだ。俺の血とイモーヌの血を合わせれば、尊さはお前の比ではない」
「あっは! お義姉さま、ごめんなさいね☆彡 オットーもバンディもショットも、辛気臭い魔法しか使えないお義姉さまより、癒しの力を持つ私がパーティの華にふさわしいのですって!」
 夫に腰を抱き寄せられ、勝ち誇ったように笑う姿も艶やかで――。
 私は義理の妹であるイモーヌを力なく見上げるのです。

 現長老直系の孫娘である、攻撃魔法使いの私、アネット。
 先代長老の右腕の妹の嫁ぎ先の甥の息子、気鋭の戦士、夫のオットー。
 先々代特攻隊長の弟の分家の三男坊、斥候見習い、バンディ。
 先代護衛隊長の姪の従弟の庶子、新米弓使い、ショット。
 そして……
 現長老の息子である私(アネット)の父と半年ほど前に再婚した義母の連れ子、癒し魔法使いである義妹のイモーヌ。

 私たちはいくつか存在するケンタウロス集団、そのうちひとつの長老の血族と姻族が元となった若手パーティです。主に聖地「神石の鉱脈」に至る道々を警備していたのですが、その地が不逞の輩の手に落ちたことは、もう、人間たちも知るところでしょう。
 そう。私たちは、聖地を護ろうとする長老の子飼いでありながら、大人たちに失望し、今更ながら新生派の後塵を拝して帝国南部を襲う暴徒となりはてる寸前なのです。

「お願い。今からでも遅くはないわ。帰りましょ……っ! 痛ぃ、止め……」
 すがる私を次々に蹴り、臨月のお腹を庇って蹲るのを置いて、嘲笑いながら彼らは去っていきました。
「悔しかったら真実の愛で逆ハーレムを築いてみなさいよ!」
 イモーヌの嘲ける声を遠くに、そのまま私は失神してしまったのです。

●
「おい、あそこ。誰かが倒れて……って、ケンタウロスじゃないか! しかも妊婦だ」
 近隣の村から依頼された一仕事の帰り道。
 冒険者ギルド出張所所属の馬車から身を乗り出して、元冒険者の御者は、幌の中の冒険者たちに聞こえる様にがなりたてた。
「うっさい! 聞こえてるわよ。って、ケンタウロス!? どちらの派閥かしら……貴方たち、ちょっと対応してくれない?」
 同乗の受付嬢が、面倒をちゃっかり冒険者(PC達)へ押しつけた。

「は? この先の村を夜襲? ヤバんじゃない、それ。マズいんじゃない、それ」
 気付けの酒を含ませ、妊婦ケンタウロス(アネット)から事情聴取を行った受付嬢は、「殺れるわよね?」と様子を見守る冒険者たちを振り返った。
「この先っつうと、往路で馬に水を飲ませたアソコだ。狭いし、飯屋にも寄ったから地理はわかるな?」
 御者が一応、地図を拡げて渡す。既に馬車は該当の村に進行方向を定めている。
「急行せずに済む(夜まで時間がある)とはいえ、相手はスゴ腕のケンタウロスパーティ。備えに時間は待ってくれん」
 立てるか、歩けるか、付いてくるか? と、アネットを伺う御者と受付嬢に一礼して、思い詰めるように、冒険者たちの資質を見極めるように、そしてなにより……縋るようにアネットは言う。

「潜伏中の夫たち……彼らが村へ夜襲をかけるつもりなのは、少ない人数(4体)で多くの戦果(村民200名)を挙げて名声を轟かせるため。それはお察しいただけてますよね?」
 御者が頷き、受付嬢が唾をのむ。
「それ以外にも、本人たちは認めぬだろう必然的な理由があります。奇襲をかけねば良くて相討ち。そう、彼らは……弱いのです」
 は?
 御者の首が傾がり、受付嬢の口がぽかんと開く。
「あの中で唯一、タチが悪いのがイモーネ。あの娘の力は強大で、夫達を癒し鼓舞してなお余りあるでしょう。彼ら(夫や他の男たち)が実力を誤解するのも無理はない。私が攻撃と支援の魔法の中でも地味なものしか使えないのと対照的に」
 だから私は捨てられた――。アネットの貌が悲しみに歪む。
「こんなことお願いするのは間違っているって、わかっています。けれども、それでも私は冒険者の皆さんに伏してお願いします」
 アネットの頬を涙が伝う。

 彼らは未だ、殺してない。
 彼らは未だ、引き返せる。
 彼らは未だ、……死んでいない!

「お願いです。オットーを……彼らを討伐しないで! どうか殺さずに無力化してください。私に説得の機会を与えてください。手伝える事はなんでもします。どうか……どうか!」

 我が身をかき抱いて震えて、思うことは一つだろう。

(この子の父親を奪わないで! 罪を負う前にこの子に返して!)

解説

●目的  帝国東南部の村を夜襲するケンタウロスの一団を無力化し、仲間の説得に応じさせる ●現地情報 ・帝国東南部、ケンタウロスの侵攻域にほど近い、人口200名程の農村  街道を挟むように建つ居住区は、長さ約400m、幅300m  居住区の周囲には高さ1m幅1mの土盛り、街道と農道には木製の門があり、馬車等の直進を阻む (一般のケンタウロスは、助走を行えば越えることが可能)  居住区の道は、中央に10m幅の街道、交差して5m幅の農道、他に多くの3m幅の小道が通る  中央部に村長宅兼用集会場があり、50m四方を高さ1.5mの石壁が囲む ※中央を交差する街道と農道以外の小道は、多少捏造しても構いません ●敵情報 ・ケンタウロス × 4体  オットー:NPCの夫、近接職LV5未満、功名とロリに走り妻を捨てたクズ  バンディ:NPCの元仲間、斥候職LV5未満、イモーヌにメロメロ  ショット:NPCの元仲間、射撃職LV5未満、イモーヌにメロメロ  イモーヌ:NPCの半年前に加入した元仲間で義妹(ロリ)、回復職LV20(特殊個体)  全員、NPCと血縁地縁による戦闘パーティを組んでいたが、半年前のイモーヌ加入とアネットの妊娠によりバランスが崩れた  古老派に属していたが、躍進する新生派に刺激され離脱を目論む  まだ古老派上層部は離脱を把握前だが、人間襲撃となれば離反は決定的となる ●NPC情報 ・ケンタウロス  アネット:  PC達が仕事帰りに遭遇した妊婦、夫らの暴走を止めて欲しいと願う  古老派上層部の血縁者だが、種族的に一夫多妻が容認されるなか地位は高くない(ただし、地縁は強固でご婦人層に可愛がられている)  攻撃魔法職LV??(特殊個体??) ※人間との『交流能力にのみ』特殊性を発揮 ・ギルド職員  PC達の送迎を行っていた  御者:引退冒険者、簡単な護衛が可能  受付嬢:一般人、最低限の自衛は可能

マスターより

 家庭板なんだか小説投稿サイトなんだか……。韮瀬です。  勇壮なケンタウロスとの戦闘、聖地とはなにか、暗躍する者の目的は……?  そういうの一切、いいから!  とにかく、クズ夫とクソ妹に肉体言語で説教するシナリオです。  ……ごめん。一度題材にしてみたかっただけなんだ。  うん。とりあえず、引き返せるうちに引き返せるなら、ちょっと熱情的にわからせていいんじゃないかな。知らんけど。

リプレイ

●(アネット)
「ここなら大丈夫だろう」
 御者さんが村長宅兼用集会場の隣家、その石造りの倉庫の床に毛皮を敷いてくれました。
 村民の皆さまの心情を慮って、襲撃者の身内たる私(アネット)の集会場への避難は固辞しましたところ、ならば……と次に安全な場所として案内いただいたのです。

「それにしても、妊婦を足蹴……」
 しばし前。
 私と冒険者さまに向けられた困惑に恐怖混じりの視線が一転したのは、エル様の吐き捨てるようなぼやきでした。どういうことかと問われ説明すれば、ご婦人方から小さな悲鳴があがります。
「離婚になると思うのだ。が、その前に。アネット殿は身内を平手で叩かねばならぬ」
 『まだ身内』ゆえにその恥は始末をつけねばならぬのだ、とストレガ・L・リベルガストラ様は仰います。
「正直言おう、アネット殿には悪いが駄馬な元夫は見限ろう。反面教師にもならん。お腹の子ごと大事にしてくれる賢馬と結ばれないと胎教にも悪い」
 わかってはいるのです、ベルク・オスマット様。「もちろん、妊婦を蹴るような駄馬は活かして土下座させる」と面倒くさそうに付け加えられる眼差しは私を案じて下さるもの。
「帝国騎士として村を護ろう。我々の戦力とアネットさんの説得をもって、相手の完全無力化を図る」
 アルベルト=V=シュタールシュヴェーアト様が村の皆さまへの宣言後に、私へニカッっと笑いかけてくださいました。
 必ず。必ずや4人を説得いたします。命に替えて……いえいけません。この子のために皆で生きて帰らねば。

 日が落ちて月は聖地を臨む山の影に。
「食事貰ってきたわ。これ寒かったら着てほしいって奥様達(村の女性たち)が」
 受付嬢さんが外套と馬衣をかけて下さいました。
「阿呆らの反抗心は削いどくけども、説得用の体力つけておかんと」
 そっぽ向かれて飄々とサイラス様は仰いますが、救っていただいたときの桃花にも似た回復の光は暖かかった。

 食べ物も服も皆様の心も、暖かい。
 この暖かさを壊してはいけない。絶対に、です。

●
 全ての村民が寝静まった。と、平和な眠りしか知らない者は思うだろう。
 その夜の闇の中――。
「偵察の気配すらないってどうなのだ?」
 ありえなくないか?
 少なくとも村周囲の土盛りと門周辺に足跡(ゲソ痕)は無かった。
 意外と痕跡を残さない知恵はあるのか? とストレガが首を捻るのを、宿屋の屋上(村一番に高い足場)に伏せたエルが「それはない」とハンドサインで否定する。
「街道沿いの茂みの陰から、多分こう……門の強行突破」
 囁き声と口パクと、方角を指さして門を蹴破る指の動作をして、村中心の道を駆けまわる仕草を追加する。
(ご苦労さま。気付かれないように追尾しておいで)
 エルのペットの狼を村の周りに忍ばせて良かったと思うべきか。
「命知らずなのか正面突破でこそ隙を突く作戦なのか、読めんのがむしろ殺りにくいのだ」
 向かうストレガの夜目に、路地伝いに歩むサイラスの業物の剣呑なシルエット。
 宿屋から屋根伝いに移動するエルの合図を受けて、会敵の瞬間まで避難場所をその背に庇うアルベルトが街道を征く。
 ベルクの影は既に無く、街道横の袋小路に追い込むべく暗中を奔る。

 もとより東部の片田舎。
 夜間の閉門なぞ、せいぜい人の胸の高さ程の馬防柵に毛の生えた程度。
 その粗末極まる柵を、得意げに跳ねて飛び越える人馬の影4つ。
「っよっと! チョロいもンだ。お手をどうぞ……我が姫」
「きゃっ☆ ありがとうオットー。うふっ、みんなもいらっしゃい。こんな狭い村、私たちの力量なら5分で制圧できちゃうわよね! みゃはっ!」
 騒々しい。いや、即制圧にかかる腹心算だからか、農耕と流通を担うゆえの道幅をいいことに、一団、塊となって街道を蹂躙する高揚感に声がはしゃぐ。
「制っ圧ぅ! かかれ……っっっぶっお!」

 愉快気に地面を蹴った16の蹄は、しかし、足をすり抜ける一陣の疾風と横殴りの衝撃に、乱れに乱れ、よろけ、たたらを踏み、直進すべき進行方向を大きく横ぶれさせた。
「新人よりはマシだと思いたかったんだけど。えぇと、正直、反応に困る侵攻しないで欲しい」
 このまま袋小路になっている、門の脇道奥に誘いこむが?
 ベルクは文字通り浮ついた小娘(イモーヌ)を突撃とともに転がり飛ばした(ドラゴンチャリオッツ改)サイラスに、困惑混じりにハンドサインを送る。斥候が居るというから、真っ先にそれらしいの(バンディの人相)の個体を狙って襲い掛かったというのに。渾身の天駆ける機動(ホライゾナルジャンプ)で死角を得て、『殺さない暗殺術』(繊細な峰打ち)を狙ったのに。
 脛を挫き無様に転がった斥候(バンディ)が、小娘(イモーヌ)を庇いにいくのを、セオリー知らずと嗤うべきか。
(敵と友軍の戦況把握、斥候がしなくていいんだろうか? ……いいんだろうなぁ)
 流れに任せて、全員纏めて追い立てるのでいいのじゃないかな? と、考え直し、活かして捕らえる大変さを想像する。げんなりだ! 据わった目はそのまま、ベルクの狐耳がしょぼくれる。

「ロリコンって、幼い体型の娘に手出しするお粗末様って印象あったんだけども……」
 いきなり何を言い出すのか? しかし率直な感想。
 クソ小娘以下。どこの悪ガキか。この幼児丸出しっ娘によく懸想する気になるもんだ。
 サイラスは、カン高い悲鳴をあげてスッ飛んだ小娘と彼女に這いよるケンタウロスの野郎3体を、構えた盾越しに観察してごちる。
(我先に後衛を護りに行くのは予測して作戦立てたからいいんだけど。庇うのも、自分こそ一番と寄って案じるのも、想像通りてかそうなるよう仕向けたんだけども)
 同じく困惑しているベルクのハンドサインに、成り行きでと目線で答えて次の算段にかかる。……いや呑気におれに算段させる暇を与えんな、と。
「その程度の腕で、侵略を挑んでくるとはな!」
 アルベルトの礼儀正しくも快活な一声。
 びくっ!
 と、小娘(イモーヌ)に群がる男どもが、いまさら役割を思い出したか隊列らしき態勢を整える。
(やっぱり王道パーティの戦術を『しつけ』てやるには、真っ直ぐな男(アルベルト)が頼りになるなぁ)
 ありがとう。本当にありがとう。サイラスは目線でアルベルトに頷くと、ゆらり……と後衛で一丁前に構える回復職(イモーヌ)と射撃職(ショット)に向き直る。
「そう。物魔撃持ちの可能性高いヒーラー、射程外魔弓の可能性があるシューター。後衛に届きうるお前ら二人が面倒なだけやぞ?」
 疑問形? むしろ面倒であってほしい。アネットに聞いた妹のタチの悪さが、ショボい魅了とか勘弁してほしい。

 やっとか! 即応になってない! お前らこれが帝国軍人だったら、指導教官から城の周り30周のち大地と四文字(腕立て伏せ)20セット確実だぞ?
「お前がオットーか? ……よし(多分、そう)。オットーとやら! 本来なら貴様の様なクズは叩き斬ったやりたいところだ。が、ある方のたっての願いだ。死なない程度に痛めつけるだけで勘弁してやる」
 アルベルトが後進(後輩授恵者)育成に関って一二を争うトロさ。後衛を庇う時点で隊列を整えろ。全員群がってチヤホヤ? それは護衛とは言わない。
 赤光を発して大太刀を構え……カチャリ。聞こえる様に太刀筋を反す。
「安心しろ、峰打ちだ。教育的指導は慣れているからな、……と」
 短刀二振りをかざした1体(斥候職)が、峰打ちと侮ってかアルベルトに吶喊するのを、高速接近で制する。
「来るには及ばんぞ。そもそもフリがでかい。囮や牽制のつもりなら相方の動きを考えて動け。斥候くん」
 名前は忘れた。アネットさんが夫との連携が巧い子(バンディ)って言ってた気がするが、別馬じゃないか?

 その相方。近接戦士たるオットーは、連携どころか足元に寸分たがわず突き刺さる矢に棹立ちとなり、続いて顔面を掠める衝撃に顔面蒼白となって叫ぶ。
「イモーヌ、下がれ! 狙いは君だ! クソッ、この卑怯者らがっ!」
 狼藉モノは何処だとオットーは忙しなく周囲を見回す。
(卑怯者って……貴方たちに言われる筋合いないし、射撃職ってそういうお役目なんですけど)
 エルは迷っている。屋上から姿を見せるべきだろうか?
「殺さないようにって依頼なので、気をつけていますよ?」
 とりあえず警告かねて声は出す。死角からのスナイプが射撃の基本なので、見えない恐怖と戦って頂きたいのはヤマヤマだけど。
「くっ……ショット! 屋根だ屋根を狙え」
 流石に射線から方向には気付いたらしい。ロリ馬にべっとり付き従う射撃職が見当違いの矢を放つ。
「その密接陣形だとかえって射撃しにくいですよ」
 イモーヌを路地奥に追い立てる様にもう一射撃。エルは鉄則である位置転換(とんずら)済だから、お馬さんたちも隊列再構築すればいいのに。

「ふん! 反撃はこれからよ。この完璧な布陣に人間ごときが勝てるかしら?」
 路地で漸く態勢を立て直したイモーヌが誇る。
「みんなぁ、回復したら頑張ってぇ☆彡」
 路地裏に舞い踊る光、光、光。華やかなハート型の煌めきと乱舞。
 癒され悦ぶオットーらをよそに、ゆらりと長衣の術者(ストレガ)が物陰からまろび出る。屋上のエルとケンタウロスらを追い込んだベルクに向けて感謝のハンドサインを送ると、こてり、と首を傾げた。
「命知らずのほうだったのだ」
 ストレガとて、彼らについてアネットの助言は参考になった。機動力に優れたケンタウロスに回復力と戦力増強、戦意高揚まで加えればそれは脅威だ。けれども。
「かすり傷をド派手に治すより戦力をあげるのだ。敵の数を減らすのも良いのだぞ?」
 だから敵の術者(ストレガ)に機会を与えてしまうのだ。
「視えぬ重力の神々よ、蹄に纏わり澱を醸せ(そこにとどまれ)。視えぬ呪いの使い手よ、乙女の祈りを絶望で阻め(マジックディソナンス改)」
 断っておく。ストレガのコレは詠唱ではなく解説と予告である。
 ワザと隙を見せちょっかいを出すベルクを押し切って、ストレガを一気に倒せばいいのに。だから効かない(派手さ優先の)回復すら無駄打ちするのだ。

●
 コツン……コツン……。
 レンガ畳の街道をゆっくり歩む蹄の音。
 先導するのは1頭の狼(エルの相方)。時折心配そうに振り返って、戦いの場へと進む。

「ヒッ! 来るな! 来るなぁ!」
 パニックになって射撃職(ショット)が泣きわめく。イモーヌの横で後衛を決め込んだ彼に襲い掛かるは、大量の翼竜。身を焦がす光弾に生きたまま啄まれる恐怖。
「お前ら逃げても行きつく先は猛禽の餌だぞと。親切に予行演習してんだ。もう、小娘の回復が切れた? じゃあ対クリーパー戦演習から臨死体験に移行、な」
 サイラスはぼやく。
 対魔獣演習と対ケンタウロス演習も履修させたけど、無能じゃないか。小便臭いガキにトラウマ負わせる筈が物理的に臭くなりそうだ。ぅへぇ。
 くぃ。とそのサイラスの服裾を引かれ、振り返れば、ヘタレたイモーヌの枕元にヤンキー座りを決め込むストレガである。
「サイラス殿、綺麗な回復(燈花)の見本をこのバカ娘(イモーヌ)に見せて(かけて)やってなのだ?」
「面倒い」
「だそうな。私の回復は地味だが沁みるだろう? 攻撃も地味にしてたが、効いてるのはさらに地味な妨害だったろう? 元々狙われる術者が煌びやかな必要などなく、術者が護られるのは人望でなく支援の砲台であるゆえよ」
 うりうりと、イモーヌの頬をつっつく(ヒールをあたえる)。長衣をはだけた姿は全く地味ではなかったが。

 ベルクは自らの得物を、這いずり回る斥候職(バンディ)の目前にぶら下げる。
「駄馬には不要な手加減をしてやっているんだ。よく見ろ、鞘入りの短刀で馬刺しができるか? 正直、そんなの喰いたくはないし、狙ったのは全て貴様らがアネットさんを蹴った場所だ。痛がる権利があるとでも?」
「! ……っ!!」
 反論しかけるのを鳩尾を蹴って黙らせる。
 淀んだ眼で囁くように言う。
「小娘もよくコレ(根性無し)を旅の仲間に選んだな。使い捨てにしかならんだろうに」
「使い捨てが厭なら聞け、オットー!」
 正座ァ! ベルクと背中合わせにアルベルトが仁王立つ。
「本来ならクズは切り刻んでポイだがな、アネットさんのたっての願いだ。精神注入棒の鍛えなおしで勘弁してやる!」
「……アネット? あいつの差しが……っっ!」
「発言許可の前と後ろにサーと言え。アネットさんにはマムと言え。タマ落とすぞ」
 アルベルトは性懲りもないオットーの尻を叩き。
「アネットより私の話聞きなさ……きゃぁ!」
 ストレガがイモーヌを張り倒すのに重々しく頷く。

 コツン……コツン……。
 騒々しさが、ふっ、と消え近づく蹄の音が響く。
 屋上からふわりと降り立ったエルの影と足音が加わり、4人と4体の視線が路地入り口に立つアネットと、護り立つエルと狼の姿を捉えた。

●(アネット)
 エル様と狼様の誘導で、私は夫たちと対峙しました。
「アネット! お前っ……!?」
「良からぬ動きをしたら、また撃ちます。先程のように手加減(重撃射で妨害した撃ち方)はできません。この子(狼)も牽制で済むかどうか」
 暴れる夫(オットー)の前にエル様の矢が、義妹(イモーネ)を睨む狼様が。
 私は冒険者の皆さまの体調を伺います。――良かった。大怪我を負わせる罪は犯していません。
 仲間、いえ元仲間たちもボロボロですが私を睨む元気は残っています。
 一歩。また一歩。
 夫は唸り、義妹はブスくれ、後輩たち(ショットとバンディ)は怯えながら。
「アネットさん……」
 冒険者の皆さまの見守る中。私は手を大きく振り上げて4人の頬を打ちました。
 打って、泣いて、唖然とする夫と義妹を抱きしめて、後輩たちに微笑んで。
「生きてた。みんな生きてた。誰ひとり欠けず大きな罪を犯さず、帰ることができるままでいてくれた」

「あれで毒気抜かれたみたい」
 今は里に帰る道すがら。
 泣きじゃくってしまってお恥ずかしい限りですが、あとでエル様が教えてくださいました。
「無理して悪女ぶるな。お前がどれだけ危険なことをしたのか、古老派に戻れるうちに実感しただろう?」
 アルベルト様の言葉にイモーヌが素直に頷いてくれました。
「貴様、我が子を父無し子にしたいのか? 父親の自覚を持たねば甲斐性など期待薄、ろくでなしの未来しか残らん。駄馬なりに不器用でも馬車馬のように働け」
 オットーのコンプレックスを一喝するベルク様。
「対吸血鬼戦だと串刺し生皮剥ぎの活け造りが基本だし。初戦がおれたちの教育的指導でよかったな、うん」
 他の事例では……と、後輩たち(ショットとバンディ)へ熱弁をふるうサイラス様。
 本当に、生かして勉強させて貰えました。

「良いのか? 私たちも里に同行して。いや……願ったり叶ったりではあるのだ。が、痴情のもつれで頓死しかけたのをヒト族に情けをかけられた、などと歴史に刻まれるのだぞ?」
 隣を歩くストレガ様が心配げに。エル様ベルク様も頷かれます。
「それも我々のあゆみです」
 遠方に見えるのは叔母様、おばあ様、従妹たち、の出迎えでしょう。
 なんの権力も持たない女たち。
 けれど次代を生む女たちは、皆さまのご温情を忘れることはありません。

マスターコメント

 皆さまお疲れさまでした。  疲れの原因は、主に手加減ですが!  サイコロにすら見放された駄馬君たちですが、これを教訓に更生してほしいものですね。  アネットにも他の女たちにも力など無く、権力者へのコネは見込めませんが、それでも母子を救いクズを正した人間と冒険者のことは女たちの間で語り継がれるでしょう。  簡単に言うと、オバチャン層の支持のみ爆アゲです。  このへんが「ざまぁ」要素です。たぶん。……そういうことにしといてください。
ショートシナリオ

ショートシナリオ普通 報酬:標準5 / 4〜6人

2022年02月16日 11時36分14秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. エル

    エル、です。…シューター、です。 どうぞ、よろしく。 夫婦のことは、本人さんたちにお願いしたい、です。 とりあえず、ヒーラーさんに集中攻撃、です、か?

  2. No.2

    サイラスだ、よろしくなー ヒーラー狙ったら他三体絶対盾になると思うのでその時点で火力落とさないとしくじりそう でもヒーラー折れたら終わりだろうからヒーラー狙いでいいと思う

  3. ベルク・オスマット

    シーフのベルクだ、よろしく頼む。 …正直アネット殿は駄馬夫を見限ってお腹の子ごと受け入れてくれる賢馬の夫を探すべきだと思うのだかなぁ( とりあえずヒーラー狙いは賛成だ、話を聞く限りヒーラーさえ居なければ継戦能力は高くないみたいだからな。 ヒーラーも生かさねばならんのがめんどくさいが

  4. No.4

    いやこれ無事に終われば探すまでもなく別の夫あてがわれるとおもうが。一族離反目的に近いし。 とりあえずこれ軽視したクラスがいないとどうなるか堪能させろ系に近いだろうし、前に出るね。 物理でダマスカス鋼鎧抜けるなら抜いてみろ的な意味で。武器は火力セーブ兼ねて杖持ち込むけど

  5. エル

    サイラスさん、前衛、よろしくお願いします。 わたしは、後ろからヒーラー、狙ってみます。 …戦う場所は、どうしましょう、か? 村人さんたちは、中央部の村長宅兼用集会場に避難、していてもらいますか? ケンタウロスたちが、どの方向から来るか分からないので…。 あまり村人さんたちに、近い所には来させたくは、ない、かもです、けど。 あ、あと、夜襲だから、灯りとか暗視とかあるといい、です、よね。

  6. ベルク・オスマット

    既に子がおらねば宛がわれるだろうが…今回殺すなの理由が子の父親を亡くさないためだからなぁ。 多分アネット殿が取りなして厳重な監視付きになるだけで済むと思うぞ? 他のは追放か部族内の奴隷落ちになるかだろうが。 我は撹乱と守りを抜かせんための遊撃かな? 峰打ちで行けばいいのだろうか?( 人馬相手だと人族相手と勝手が変わるなぁ。

  7. ストレガ・L・リベルガストラ

    すべりこみなのだ。ストレガなのだ。よろしくなのだ。 わからせときいて。 死なない程度にメテオライトかな等。 弓だけ注意すればいいだろうか。

  8. アルベルト・V・シュタールシュヴェーアト

    ウォーリアのアルベルト=V=シュタールシュヴェーアトだ。 ギリギリでの参戦になってしまったがよろしくな。 本来なら4人のケンタウロスは叩き斬ってやりたいところだが、依頼人のたっての願いだ。死なない程度で勘弁してやるか。ただし、イモーヌって奴は要注意だな。 そんな訳で、今回は攻撃力をセーブした装備・スキルをセットするぜ。 あとは、攻撃に峰打ちを宣言するか。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0