【夢魅】決別の行く末に

広大野人

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シナリオID:1882

オープニング

●
「宝玉のエーテルはかなり消費されているでござろう」
 淡々と『眠り姫』リィミアが告げた。
 前回、前々回に渡って魅せられた『夢』の試練の成果だ。
 剣士エクエスがホッとしたような表情を浮かべる。
「それは良かったです」
「このまま行けば、後、1回か2回で宝玉のエーテルは失われ……リィミアは起きる」
 当の本人から嬉しそうな雰囲気は見られない。
 ただ、その理由をエクエスは何となく分かった。
 長い眠りから覚めても……見知った人はほぼ居ないのだろうから。と言っても、コゴウチ家からすれば、是が非でも起きて貰いたい存在である。なにせ、リィミアは失われた財宝の手掛かりを知る人なのだから。
「リィミアさん、それでは冒険者にまた依頼を出すとして、別の事を訊いていいですか?」
「構わない。リィミアが知る限りの事なら、な」
「この集落についてです」
 真っ直ぐな視線をエクエスは向ける。
 居候として暫く滞在していて、集落そのものに疑問を抱いたのだ。
「集落の皆さんは一生懸命、働いている。子供も老人も……とても必死に……けれど、シャルガネ居住区の中で生活水準が低いように思えるのです」
 使い古しの衣服を継ぎ接ぎし、質素な食事で済まし、酒も飲んでいる者は少ない。
 娯楽という娯楽はあまり見られないし、集落から遊びに出掛けている様子もない。
 長く滞在しているからこそ、エクエスはそこに気がついた。
「……まぁ、ここまで試練も乗り越えたのだから、話してもいいか」
 彼女はそう前置きしてから、語り出す。
「伝承によると『私達』の祖先は、遥か遠く東の大陸から船で渡って来た。それは知っているか?」
「ええ。そう教えて貰いました」
「コゴウチ家は長い航海、そして新天地を見つけた際に必要となる財宝の管理を任されていた……けれど、この地に到着する直前、嵐で船が沈みかけた。その時、偶然にも小さい孤島が現れ、そこに財宝を降ろして、船員達は他の船に救助されたと聞いている」
「その孤島が、見つからなかったのですね……」
 エクエスの想像にリィミアは頷く。
「そう。新天地に辿りついた先祖は、この地に住まう人々にあたたかく迎えられた。本来であれば、コゴウチ家に託されていた財宝があれば、好意に応える事も、その後の生活も少しはまともだったかもしれない……これはコゴウチ家の背負った罪なのだ」
 この集落で得られた金銭や余剰の品物は、財宝の肩代わりとして地区に寄付されていたのだ。
「地区に住む多くの方々は、そのような事、望んではいないのでは? 同じ東から来た仲間ではないのですか?」
「彼らならきっと赦してくれる。けれど、これはそういう問題ではないのだ。コゴウチ家の誇りの問題だ」
「誇りで苦しむ事になったとしても?」
「分かっている。子や孫、未来永劫背負わなくても良いと……だけど、簡単には変えられないのだ。だから、リィミアは財宝の在り処を探し求めた。そして……突き止めた」
 財宝が埋められている孤島を。
 本来であれば、シャルガネ居住区に住む人々に使われていたはずの宝を。
「孤島に行くには、それなりの船がいる。リィミアはその為の資金を得る為に、冒険を続け……ある遺跡に入った」
「そこで『想夢の宝玉』をみつけた」
「左様。それからずっと眠ったまま。たまに人が訪れていたが、こまで試練に向き合える人はいなかった」
 これが貧しい理由のようだ。
 集落以外の者が財宝の話しを知り、財宝を奪ってしまう可能性が僅かでもあれば、簡単に外部の者に託す訳にはいかなかったのだろう。
 そして、月日が流れてしまい、リィミアは集落で『眠り姫』と呼ばれるようになったのだ。

●
 夢の試練に挑む為に集った冒険者達をリィミアは見渡した。
「次なる試練は『決別』。命のやり取りをする戦いとなるでござろう」
 ただし、夢なので死ぬ事があっても死なないが……と続けた。
 『想夢の宝玉』が魅せる夢で死なないのは、最初の試練で分かっている事だ。
「また、死ぬのですか?」
 質問したのはエクエスだった。
 最初の試練では、自らの最期と向き合う事が求められていた。
 だから、必然的に夢の中で死ぬ事となる……その内容を工クエス自身はあまり覚えていないけれど。
「戦いの結果、生き残れば死ぬ事は無いでござろう。今回の『夢』で大事なのは、生死云々の話しではなく、あくまでも『決別』」
 腰に差してある業物を抜き放つリィミア。
 洗練された動きに、只者ではない雰囲気が伴った。
「相手は……自分自身。あるいは、その者にとって、大切な人や愛する者」
「『決別』する理由は、なにかあるのですか?」
 少し不安そうなエクエスの質問に、 リィミアはニャリと笑った。
「それは人それぞれでござろう……自身の迷い、あるいは抑圧された感情。他人との別れであれば価値観の違い。もしくは……夢の中だけの別れに足る理由があるのかもしれぬ」
 果たして、『決別』を迎える時、人はどんな夢をみるのだろうか。

●約束の欠片
 エクエスの前に立っている人物は、エクエス自身だった。
 ただ、その表情は毅然であり厳かだ。
「……誰ですか?」
 しっかりと『己』を、もう1人の自分に向ける。
 姿形は自分自身。だが、その中身は異質に感じた。
「忘れてしまったのか。己が何者であると」
「私(ボク)が誰なのか、『貴方』は知っていると?」
 その問いに『貴方』が自信満々に告げる。
「『想夢の宝玉』の力により、何者かであると知っている。己が何者か思い出せないというのであれば、ここで引導を渡してやろう。『約束』を果たす為に、な」
「簡単に死ぬ訳にはいかない」
「死ぬ事が望みだったはずなのに、か?」
 意味の分からない返しに『己』は戸惑いつつも剣を突き出した。
「そんな事、私(ボク)は望んでいない!」
 その一刺を『貴方』がいとも簡単に弾き流す。
「弱いものだ。自身が何者かと忘れてしまえば……そんな事では奴等には勝てず、ただ喰われるだけ」
 『己』からの剣を表情ひとつ変えずに捌く『貴方』。
 とても両者が同じ存在……とは思えない。
「魅せてやろう。『己』が本来、持つ力を」
 片手で剣を操りながら、もう片方の手を高く挙げる。
 幾つもの光珠が浮き上がった次の瞬間、珠から無数の光線が『己』に向かって伸びた。
「くっ!」
 咄嗟に間合いを取って、光る壁を構築するが、光線はそれらをあっけなく打ち砕いていく。
 音を立てて割れた壁。数本の光線が身体を貫いた。
 膝をついた『己』に『貴方』がゆっくりと近づく。力量の差は明らかだった。
「最期だ」
 先程よりも多くの光珠を発生させた『貴方』に『己』は剣先を向ける。
 思い浮かべるのは、これまでの日々の記憶。
 そして、冒険者の姿。
「諦めないって……そう言ってくれた。だから、私(ボク)はッ!」
 刹那、刀身から陽の光が奔流となって溢れ、光芒のように迸る。
 驚愕した『貴方』が、その光の渦の中で消え去るのであった。

解説

●目的 夢の中で想いと向き合う ●状況 冒険者達はそれぞれ別々に『想夢の宝玉』の力によって不思議な夢を魅ます。 題材は『決別の夢』となります。 対話によって穏便に解決する事が決してない別れの状態です。 相手は出発時の自分自身となりますが、指定すれば『過去の自分』『未来の自分』や『今とは違う状況の自分』も設定可です。 また、自分自身ではなく『大切な人』や『愛する人』を決別の相手として設定する事ができます。 ただし、相手は必ず1人だけとなります。 決別に至る理由は、プレイングで大まかに決める事ができます。 例として幾つか提示している中から選んでも構いません。 ・抑圧していた感情を持つ自分が、成り代わろうと襲ってくる。 ・過去の自分が、今の自分を妬ましく思い襲ってくる。 ・悪に堕ちた未来の自分を、今の自分が倒す。 ・戦争で敵陣営に付いた恋人との一騎打ち。 ・大罪を裁く名目の私闘あるいは決闘。 なお、描写が困難になるケースについてはアドリブ対応とさせていただきます。 勝敗についてはプレイングで指定しても良いです。指定ない場合、アドリブで対応します。 ●条件 『夢』なのでそれが真か嘘かは誰にも判別できません。 『夢』なので死ぬ事はありませんし、必ず起きます。 『夢』なので設定に多少無理があってもなるべく沿うようにしますが困難な場合はアドリブ対応とします。 能力や武装などは出発時の状態が反映されていますが、夢の内容によっては変更可能です。 ●重要 夢の中で、NPCや他PCを登場させたい場合、名前表記はせずにふんわりと表現します。なお、このシナリオに限り、当MSが管理するNPC以外のNPCを登場させたい場合は、参照リプレイを指定して下さい。 描写は原則、個人毎にシーンを分けます。 『夢』の内容は参加した冒険者全員に共有される事になります(覚えているかいないかは自由です)。 ●その他 状況によってはアドリブ対応が多くなる場合もありますのでご了承下さい。 エクエスが紐付けされていますが、相談卓では質間への回答も含め挨拶は致しません。

マスターより

 おはようございます。当依頼にて35作目となった広大野人です。  【夢魅】(ゆめみ)の3話目です。全5話を予定していますが、これまでの連作に参加されていなくとも問題はありません。  今回は『決別の夢』。  向かい合う相手は、自分自身。もしくは大切な人や愛する人。  その勝敗も含め、決別になる理由、相手を傷つける、もしくは、傷を受ける時に感じる想い。そこに己の『新しい』気づきがあるかも……しれません。  前回同様、PC設定の掘り下げとしてご参加いただいても大丈夫です(キャラノベと違い、内容はともかく、そんな夢を見たという事自体は正史扱いになりますし)。  ご参加、お待ちしております。

リプレイ

●
 それは恨みであり、怨みでもあり、憾みすらも入り混じった憎しみの双眸の光であった。
 あれは――『過去の自分』だ。
「忘れて……いないよね……」
 ゆらりと動く『自分』が呟いた。何の事を言っているのか、コルネリウス・アーラは良く分かっているつもりだ。
 それでは足りないと責める勢いで『自分』が叫ぶ。
「お姉ちゃんが私を庇って亡くなる事なんて無かった!」
「……私が、樹から落ちな――」
 言葉を遮るように『自分』が台詞を被せてくる。
「お兄ちゃんを引き留めていれば、殉死なんてしなかった!」
「……」
 コルネリウスは手に持つ剣に視線を向ける。
 必死に引き留めていれば、兄は帝国に行かなかったかも……しれない。
「私が死ねば良かったのに!!」
 『自分』が発した声が、コルネリウスの魂を貫いた。
 解っている……同じ事を一人の家族にも言われたから……。
「……とっくに解っています」
 死のうと思えばすぐに出来る。
『死ねば――』
 砕け散りそうな魂を繋ぎ留めるように、兄の剣を握り締め、今度は『過去の自分』の言葉をコルネリウスが遮った。
「私はこの命が尽きるまで、護れなかった命への贖罪を続けます!」
 失われたものは戻らない。
 だから、残されたものが継いでいくのだ。兄と姉の言葉と意志を。
「今更、何ができるのよ!」
「私が決して折れぬ剣と、護る盾になるのです!」
 剣と盾に歩兵団の皆と誰よりも大切な人が映し流れていく。一人で勝手には死ねない。沢山の命と共に今、歩んでいるのだ。重く圧し掛かる責任が、コルネリウスを支えている。
 過去から変わってしまった存在に『自分』が目を見開いた。
「死ねないのなら……私が殺してあげます!」
 折れている剣を構えて『自分』が体当たりしてくる。
 それをコルネリウスは冷静に盾で受け流した。
「ひぃ!」
 恐怖の声を発する『自分』。
 体勢を崩し無様に転がった『自分』は、自らが落とした剣に被さり、腹を貫いていた。
 流れ出る鮮血が止まらない『自分』にコルネリウスは告げる。
「過去は変えられない。けれど未来は変えられる。私はそう信じています」
 直後、全てが光に包まれ、夢から醒めるのであった。

●
 煙が晴れたその場所を、サイラスは知っていた。
 今はその場所は存在しないはずだ。その集落は燃えて消え去ったはずだから。
「魂の研鑽を忘れ、それでもなお、竜を目指した所で意味はない」
 ギシュム族として育った『己』が尻尾の先端を向けて言ってきた。
 これが決別の相手……なのだろう。
 夢想の宝玉からの試練という話だが、この設定はどこから引っ張りだしたのかと勘繰りたくなる。
 宝玉の力なら影響を与えるエーテルが存在しているはずだろう……と考え、目の前の『己』を無視して周囲を見渡した。
「聞いているのか! そういう所だぞ!」
「興味の無い話だ」
 竜に至る事の手段を得る訳でもないし、仮の自分が居たとして、それが嫌悪すべき者であればなおの事だ。
 もっとも、『己』はそのようには思ってはいないらしい。
「夢の為に他を省みない存在は『赤の示指』と何も変わらない! 必ず、同じような事を目指す!」
 紫鱗を持つ隻眼の蜥蜴人は、輪廻転生に懐疑的であった。
 その行く末は、禁忌ともいえる生贄魔術に辿り着き……そして、呆気ない最期を迎えた。
「同胞の敵に成りえるのなら、ここで倒すのみだ」
 剣を構えた『己』が言い切ると同時に走り向かってくる。
 ……が、その動きは信じられない程に遅い。
 当然だろう。輪廻転生と信仰だけを信じ集落で研鑽を怠っていた『己』と、竜に至る為に自己研鑽のみに日々を費やしてきた自身とは、全く別の存在なのだから。
「こうも話にならないのだな」
 背から噴き出る炎が翼のように形創ると、一気に間合いを取った。
「卑怯なっ!」
 『己』が悔しさを隠そうとしない声調で叫ぶ。
 会話すると『己』の馬鹿が移りそうで、サイラスは黙ったままエーテルを紡いだ。
 紅玉竜を生み出すと淡々と放ち、距離を詰められれば、焔翼で離れる。それの繰り返しだ。
 『己』は程なく消滅した。
 輪廻転生してより強くなると台詞を残して……。
「つまらぬ茶番だが、何が目的だ。エーテルを奪って知識を覗き込むだけが目的ではないだろう?」
 決着が付き、夢から醒めようと意識が遠のいていく中、サイラスは虚空に向かって言った。
 道具とは何か目的があって作られるものだから。

●
(そっか、そうきたかー)
 アルマ・ヴァレンタインは自身が向き合うべき『決別』が何か見当もつかない状況で夢に入った訳だが、眼前の存在にそんな感想を漏らす。
『ボクの事が不満なのかな?』
 身体の周りに死霊の類を纏わりつかせた『未来』が訊いてくる。
「そんな未来、あの人が認めると思うのかな?」
 明るい茶髪を持つあの人を、アルマは思い浮かべた。
 間違いなく、禁忌に手を出そうとするのなら怒るだろう。
「優しいあの人に、その選択を背負わせるなんてしちゃダメだよ」
 あの人は言った……共に生きてくれないかと。
 死霊術師になるという事は、その願いを、約束を無為にするものだ。
『でも、寂しいよね? 大切な人を遺して逝くことに未練はあるよね? その時がきたら、不安だよね?』
 間合いを詰めるように一歩ずつ迫ってくる『未来』。
『……それに、想像してごらんよ。ボクが死んだ後、あの人は別の人を見つけるかもしれない。だったら……永遠であればいいんだよ』
 その重い感情にアルマはグランドクロスを力強く握り締めた。
「あの人は離れてからより、一緒に居られる時間の方が大切って言ってくれたんだ……」
 種族が違う故に、歩む時間の流れも違う。
 けれど、共に刻む日々は一緒なのだ。
 未練と不安に押しつぶされ禁忌に手を出した『未来』を認める事は、あの人の言葉を信じない事になる。
「……だから、ボクはボク(未来)と『決別』しなきゃだね!」
『だったら、ボクが今から君に成り代わろう!』
 数多の死霊を放つ『未来』。
 呪詛と共に襲い掛かって来る死霊を、アルマは全て叩き落とした。
「無駄だよ」
 勝負は最初から目に見えている。
 信じる事ができなかったボクと信じる事ができるボクとでは、覚悟が違う。
 間合いをぐっと詰めると、アルマは世界が揺れるほど強い踏み込みから、痛烈な刺突(セイントスラスト)を叩き込んだ。
 あの人の名前を叫びながら消え去っていく『未来』。
 アルマはペアリングをはめてある手を、陽に向かって掲げて見つめる。
「その日が来るまで、一緒……だよ」
 光幻の中、対の指輪が連なったように見えながら、アルマは夢から醒めるのであった。

●
 コワイ。
 セカイガコワイ。
 『死』ト『笑顔』ガコワイ。溢レ出ス『感情』ガコワイ。

 大切な人の杖を半狂乱となって振り回してララノアに襲ってくる。
 それが誰なのか、ララノアには痛いほどよく分かっていた。何故なら、自身の『過去』そのものだからだ。
「ワアアアアアアアアアアアア!!!!!」
 眼鏡の隙間から流れ飛ぶ涙と、冷たく鋭い叫びが、ララノアの心を抉った。
 引きずられて、自身を傷つけてしまいそうになる。
「優しい夢を奪われ、幸せな絵本の世界から、現実へと引き摺りだされたのですよね」
 ララノアは静かに告げる。
 心が乱れていないといえば嘘かもしれない。けれど、少なくとも過去に向き合うに足る人生を歩んできた。
「私は憎しみという感情が理解できず……初めて、人の笑顔が怖いと思いました。だから、壊れそうな心に蓋をして森を飛び出したのです……」
 狂ったように暴れる『過去』が杖を振り上げて迫って来る。 
「全てを呪って、全てを壊して……そしたら、生きる事はもっと簡単だったかもしれません……」
 杖による渾身の一撃を盾で真っ向から受け止める。
 衝撃の強さが『過去』の恐怖を、怯えを現していたが、ララノアは反撃をせずに、ただ『過去』へと呼び掛け、見つめる。
「恐怖と憎しみに怯え、悲哀と孤独に隠れ……私はあの時、誰かに抱き締めて貰いたかった……」
 ララノアの持つ杖が音を立てて大地に落ちる。
 風が吹き抜け、フードが外れローブが彼方へと飛び立っていく。
 最後に盾すらも手放し、その手で眼鏡を取り払った。怖いものは何もないのだ。『過去』の殴打すらも。
「歌いましょう。オババ様から聞いた母様の形見の歌……『幸せの祈り歌』を……」
 優しく、けれど、力強くララノアは『過去』を抱き締める。
「……貴女も一緒に歌って下さい」
 夢想の宝玉を通し、自身がとても愛されていたと知る事ができた。
 だから、今なら出来る。怯え隠れる『過去』と決別する事が。
「貴女を置いてはいきません。一緒に生きましょう……だって、貴女も私だから……」
 それでもなお、藻掻く『過去』。
 全身を襲う痛みの中、ララノアは自身を抱き締め続けた。夢から醒めるまで……。

●
 夢に入った直後、エミリア・シバは前方に向かって飛び込んだ。
 同時に首の後ろを何かが掠める。僅かでも反応が遅れていれば、もう夢から醒めていただろう。
「流石ね」
 無理に姿勢を整える事はせずに転がりながら距離を取る。
 タイミングを計って『私』を蹴り飛ばした。
「暗殺者時代の『私』ができるのは奇襲ぐらいだもんね?」
 間合いを確保した事でエミリアは『私』に向かって声を掛ける。
 しかし、『私』からは返事はない。暗殺者は無駄な会話をしないものだ。
「問答無用で襲い掛かってくるのは予想の範囲内よ」
 エミリアはエーテルを高めつつ言葉を紡ぐ。
 暗殺者をやめると決めた時に授恵者となった『おねえさん』に『私』が勝つ術はもうない。
「未来への願望(おねえさん)が強いほど過去の罪(私)もまた強く描かれる……ちょうど、光と影の関係のように、ね」
 短刀を構える『私』の瞳が僅かに揺れるのをエミリアは見逃さなかった。
 未来への願望がある限り『私』は人殺しの罪を自覚しなければならないから。全てを無かった事にするのなら、未来への願望を殺せば良い。
「『おねえさん』がいると『私』は人殺しの罪を自覚するわよね……。って、おねえさんながらややこしいわね。でも、たとえ『私』でも殺されてあげる事はできないわ」
 鋭く踏み込んできた『私』の一撃を避けるエミリア。
「『おねえさん』は過去と『決別』して前に進むと決めたから」
 今は成すべき事が多くできてしまった。
 急所を狙って放たれる攻撃の全てを叩き落す。
「過去である『私』に縛られ続ける事はもうない。でも、それは『私』を忘れるわけではないわ。忘れてしまったら『欠けて』しまうもの」
 高く跳躍しながら身体を捻って『私』の背後へと回るとエミリアは首を狙って短剣を突き出した。
「自分の過去を誤魔化さず自覚して……全てを抱えていくわ。私が『おねえさん』であり『私』であるために」
 『私』は首に刺さった短剣へと視線を向ける。
 口を開くが血が吹き出るだけで言葉にはならない。
「……」
「ええ、全てを抱えてね」
 エミリアの返事に、そのまま崩れ落ちる『私』。
 同時に夢から醒めていくように意識が天高く登っていく事をエミリアは感じるのであった。

●
 『決別』する相手が誰なのか、ミア=リゼルは一抹の不安を抱えながら試練に臨む。
 大切な半獣人の冒険者と、決意をくれた騎士が出て来たら……もし、そうなら、どんな『決別』を迎えるのかと……。
 しかし、意識に表出した夢は、そのいずれでもなかった。
「薄暗い……ここは納屋?」
 天井近くの格子窓から僅かに差し込む光が、ぼんやりと建物の中を照らしていた。
 その光から隠れるように、幼子が隅で震えている。
(子供? それに、知らない場所? ……ううん。私、知っている……)
 霞みのように遠い記憶の彼方が告げる。
 知らない男の人の名前で呼ばれていた、せんせいが迎えに来てくれる前の私。 
 それは、ありふれた話だった。
 上級貴族の侍女だった母が主人に手をつけられて生まれた子。
 父に似た髪と瞳を持つ私を、母は愛し、同時に憎んでいた。
『いらないってわたしをすてたくせに、また、わたしをころすのね』
 呪いのように響き渡る声。
 幼子の瞳がミアを貫く。
 これが、夢想の宝玉が魅せる試練なのだろう。夢の中だけの別れに足る理由……『決別』の形というものも様々な訳だ。
『わたしだけは、わたしをひつようとしてくれると、おもっていたのに!』
 ミアは細剣をわざと音を立てて抜き放つ。
「……いらないわ」
 せんせいと出会ったのがすべての始まりで、皆に望まれなかったかわいそうな子の事なんて。
「私は……あなたなんて知らないもの」
『どうせ、あなたもすぐにすてられるわ。ひつようとされなくなるわ!』
 ニヤリと幼子が不気味な笑みを魅せた。
 四方を取り囲む壁に、果実畑の風景や立ち去っていくせんせいの後ろ姿が流れていく。
 “出来が悪い道具”は必要でなければ棄てられるものだ。
 細剣の柄に力を込める。『決別』には覚悟が必要なのだろう。引き摺られる想いを断ち切る勇気を。過去と向き合おうとしている彼に誠実でありたいと告げたのはミア自身なのだから。
『ころすの? わたしを』
「私は……あなたなんて知らないもの」
 今一度、同じ言葉を発し、ミアは細剣を幼子へと無慈悲に突き出すのであった。

●
 試練を終え、コルネリウスが手を軽く握って胸に当てていた。
(見ていて下さい……)
 心の中で祈るように呟く。
 遺志を継いでいる事を。
 ララノアは天を見つめていた。
「私……これからは世界を自分自身の瞳でみていきます……」
 夢に現れた過去の自分に向かって告げる。
 ここから、セカイはまた広がっていくのだと。
 一方、夢から醒めたエクエスは同時に起きたエミリアに目を合わすと誇らしげに微笑んだ。
「相手に勝った気がします。エミリアさんは決別できましたか?」
 質問にエミリアは「そうね」と答えながら台詞を続ける。
「エクエスちゃんと人助けの旅をするって大事な約束もしたから」
 その言葉は『私』への宣言でもある。
 夢を覚えている者もいれば覚えていない者もいる。
 アルマはガバっと身体を起こしていた。
「……これは、ゆめ? わるい、ゆめ……いや……いい、ゆめ……だった……のかな?」
 首を傾げるが気持ち的にはスッキリしている気がする。
 反して、ミアは寝ぼけた表情を浮かべていた。
 夢の内容が記憶から全て零れ落ちてしまったような気がする。
「お役に立てたのでしょうか? リィミアさんの状況も気になりますが……なんだか、すっきりしないですー!」
 えてして、夢とはそういうものだ。
 そんな面々の中でサイラスは夢ではなく宝玉の仕組みに考えを巡らせていた。
(エーテルを介して覗かれたか?)
 『竜』の知識が見られていたような、そんな気がしてならなかったからだ。
 そして、その危惧が、次の試練で訪れる事になるとは、この時、誰しも思いもしなかったのであった。

マスターコメント

 お疲れ様でした&ご依頼にご参加いただき、ありがとうございました。  今度は……今度は泣かなかったもん!(涙目になりながら)  皆さんが向き合っている事、『決別』をきちんと描けたか不安ですが……キャラクターを形創る何かになれば嬉しい限りです。  そして……何か不穏な感じで終わりましたが、どうなるかは次を楽しみにしていただければ!  それでは、改めて、依頼へのご参加、ありがとうございました。また機会があれば冒険者の方々のご参加の程、お待ちしております。
ショートシナリオ

ショートシナリオ易しい 報酬:標準6 / 4〜6人

2022年02月08日 14時04分54秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. No.1

    サイラスだ、よろしくなー と言っても今回指定とかなければ個人毎にシーン分かれるから関係無いけど。 とりあえずifの俺仕留めようかと。

  2. アルマ・ヴァレンタイン

    アルマだよ、どーぞよろしくねー vs過去(ぎゃぐ寄り)かvs未来(しりあす)どっちにしようかな 個人ごと描写だし白紙にだけ注意だねー

  3. ミア=リゼル

    ごあいさつが遅れました、ミア=リゼルです。前回に引き続き個別描写とはなりますが、今回もどうぞよろしくお願いしますね。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0