【想石】チョコはロックだ

革酎

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シナリオID:1863

オープニング

●新たな祭りを起こせ
 リーンエス王国カペル侯爵領内の商業街エウツロットに、寒そうな格好で元気に闊歩する男が現れた。
 マッチョな上半身には真っ白なタンクトップ一丁、ボトムスには綿のロングパンツ、そして足元では黒いブーツがちょっとしたインパクトとなっている。
 オールバックの黒髪と、セクシーさを強調するかのような黒い口髭、うっすらと見え隠れする胸毛が何となくワイルドだ。
 時期も周りの雰囲気も一切無視したオリジナリティ満載な姿の彼は、ジェイソン・ジュピター。ロモズ歩兵団重兵20番隊長を務める人物である。
 日頃はシルトラース帝国領内カルケルーア・ロモズを拠点としているジェイソンだが、この日はエウツロット在住の旧知の商人アンバー・スレンツォ夫人に呼ばれて、足を運んできた。
 スレンツォ邸の応接室に通されたジェイソンは、アンバーから昨今のトレンドについて説明を受けた。
 曰く、ロスガリア全土で二月と三月に、連続した贈り物ブームが流行しそうになっているとの由。
 もう少し正確にいえば、これは自然発生的な流行ではなく、昨年のカカオ騒動に端を発した一連の事件を受けて、エドゥノーグの職人組合や商人ギルドがロスガリア各地にて流行りもの好きな貴族や好事家の間に二月のチョコレート、三月のアクセサリーという贈り物ブームの火を点けようとしているらしい。
 そしてその噂は瞬く間に市井にも広がり、一般市民の間でも同様のブームが巻き起ころうとしている。
「それなら俺も聞いたことがある。実にロックじゃないか」
 流石に元青薔薇だけあって、ジェイソンの情報力は既にこの動きをキャッチしていた。
 それならば話が早いと、アンバーはここエウツロットでチョコレートの贈り物イベントを開催し、これをひとつの新しい祭り文化として定着させたいとの説明を加えた。
「知っての通り、カペル領民はお祭り大好きですから、こういうブームに乗って新しいお祭りを誕生させることが出来れば、他の地方からまた大勢の観光客を呼び込むことが出来ると思うのです」
 アンバーはジェイソンが青薔薇所属時代、その圧倒的な歌唱力と抜群の楽器演奏技術で幾つものチャリティコンサートを成功させてきた実績を知っている。今回も、その音楽的才能に頼りたいということであった。
「しかし、ただ舞台上で演奏して歌うだけじゃあ何のひねりも無いな。こういう時こそ、冒険者の出番だ」
 ジェイソンは、この手のネタ出しは冒険者の頭脳に頼るのが一番だと笑った。
 チョコレートを想い人に、大事な相手に渡す為の演出や出し物等のアイデア提供を、冒険者ギルドを通じて冒険者達に依頼してみてはどうか。
 それがジェイソンの提案だった。アンバーも、それは是非にと乗り気の様子。
 或いは、冒険者自身がチョコレートを大切な誰かに贈る為に参加しても良い。彼らが率先して贈り物を渡す姿を見せることで、想いを伝えることに躊躇したり恥ずかしがっているひと達に勇気を与えることが出来る、というのである。
 アンバーは早速家人を冒険者ギルドに走らせ、チョコレート贈り物イベントへの協力依頼を申し入れることにした。

●拒絶する者、許しを請う者
 陽が傾き始め、冷たい北風が道行くひとびとに容赦無く吹き付け始めた。
 そんな中、ジェイソンがスレンツォ邸を出て通りをぶらぶらしていると、不意に背後から聞き覚えのある声が呼びかけてきた。
 現役青薔薇構成員のフェルナンド・カルバであった。
「まさかお前がカペル領内に出向いて来るとはな」
 幾分の驚きを交えて、フェルナンドは旧交を温めようとした。が、ジェイソンは余り関心が無いらしく、乏しい表情のままフェルナンドに冷たい視線をぶつけた。
「何か用か?」
「……随分とご挨拶だな。お前がここエウツロットでチョコレート絡みの新しいイベントを起こすって聞いたから、こうして駆けつけてきたんじゃないか」
 飽くまでも塩対応に徹し続けるジェイソンに対し、フェルナンドは何とか切欠を掴もうと言葉を続けた。
 ジェイソンはあからさまに、青薔薇なんぞが関わってくるんじゃないと言外に匂わせている。
「こいつは俺の仕事だ。お前には関係無いだろう」
「そうはいかない。カペル領内で音楽にまつわるイベントが開催されるなら、そこは矢張り青薔薇としても放ってはおけないさ」
 フェルナンドが青薔薇の名を口にした瞬間、ジェイソンは眉間に皺を寄せて詰め寄ってきた。その黒い瞳には殺気さえ漂わせている。
「音楽は芸術だ何だと抜かして、俺のエンターテイメント指向を拒絶したのは、どこのどいつだ?」
 何様のつもりだ、とジェイソンは低く唸った。
 フェルナンドは真正面から睨みつけてくるジェイソンの眼光に力負けして、思わず視線を逸らしてしまった。しかしジェイソンは許さず、尚も強面を寄せ続ける。
「芸術を理解している上品な奴しか音楽を嗜んじゃいけねぇなんて、そんなふざけた思想を振り回す奴らが、俺のエンターテイメントに口出しするんじゃねぇよ。良いか……音楽は誰が聞いても、誰が演奏しても、誰が歌っても良いんだよ。お前達の様な芸術家かぶれのプライド集団が、偉そうに関わってくるんじゃねぇ」
 それだけいい残すと、ジェイソンはくるりと踵を返してフェルナンドの前から去っていった。
 かつて青薔薇でも名うての妙手であった男は、音楽の才能の無い者や、音楽の教養が無い者こそが音楽に触れて楽しむ権利があるべきだと主張し、そして青薔薇を離れていった。
 音楽とは文字通り、音を楽しむエンターテイメントだ――そんなジェイソンの主張に真っ向から異を唱えていた頃のかつての自分を、フェルナンドは大いに恥じ、そして後悔していた。
 あの当時、フェルナンド率いるカルバ隊は幾つもの困難な諜報任務を達成し、フェルナンド自身、今から思えば情けない程に驕り高ぶっていた。己の感性こそが青薔薇の総意だなどと思い上がっていた。
 音楽は芸術だ。芸術を理解しない者に音楽を嗜む資格は無いと本気で思い込んでいた。
 本当に大馬鹿だった。あの時の自分を、思い切り殴り倒したい。そして出来ることなら、ジェイソンを再び青薔薇に呼び戻したい。
 老若男女、そして文化や言語の垣根を問わず、あらゆるひとびとに音楽の楽しさを伝えることに全てを捧げる男ジェイソン。一体どうすれば、彼の許しを得られるだろうか。
「……冒険者ギルドに、相談してみるか……」
 フェルナンドは幾分肩を落としつつ、町の中心部に位置する冒険者ギルドへと足を向けた。

解説

状況:  PCの皆様は、以下の立ち位置のいずれかを選択の上、ご参加下さい。 ・アンバー・スレンツォの依頼を受けて、チョコレート贈り物イベントに関わります。  演出内容を考えたり、スタッフとして働いたり、ジェイソンと一緒に音楽に興じたり、方法は様々です。 ・チョコレート贈り物イベントに客として参加します。  誰かにチョコレートを贈ったり、或いは贈られたりと、イベントをご堪能下さい。 ・フェルナンドの悩み相談に応じて、ジェイソンとの仲介をしてあげて下さい。  但し、ジェイソンが歩み寄るかどうかは全くの不明です。 NPC:  ジェイソン・ジュピター:ロモズ歩兵団重兵20番隊長にして、ロックなエンターティナー。  フェルナンド・カルバ:青薔薇メンバー。かつては自身の隊を率いていたが現在はフリー。  アンバー・スレンツォ:エウツロットの商人。

マスターより

 皆様、こんにちは。  【想石】連動シナリオをご提供します。  単純なイベントものだけにとどまらず、ふたりの男の過去の軋轢にも何らかの方向性が出せれば良いなと思っております。  プレイング内容によってはリプレイがコメディ寄りに大きく傾く可能性もあるとか無いとか。  ご参加をご検討頂ければ幸いです。

リプレイ

●若いふたりの邂逅
 リーンエス王国カペル侯爵領内の商業街エウツロット。
 その中央広場に、ひと際大きな歓声が沸き起こった。
 寒空の中、広場の中央に陣取る仮設舞台上で若い男女のカップルが誕生した瞬間に、多くのひとびとが立ち会った記念の日であった。
 照れ臭そうに手を繋ぐ青年と娘。その左右にはジェイソン・ジュピターとプラムの姿があった。
「紳士淑女の諸君ッ! この若きカップルに盛大な拍手をッ!」
 ジェイソンが拳を振り上げて吠えると、寒さを忘れさせる程の熱気を帯びた拍手の渦が巻き起こる。
「おめでとうございます、本当に、おめでとうございます」
 プラムも観衆と同じ様に両手を叩いて、祝福の言葉を贈る。たった今、お互いの気持ちを確かめ合い、晴れて恋人同士として認められたふたり。
 このふたりの背中を押したのは、プラムが考案したゲームイベント『ザ・メルト』である。
 つい数分前、娘は湯煎で大きなレードルの中のチョコレートを溶かしていた。その傍らで青年が、愛の言葉を囁き続けた。
 その事実上の告白を受けて、娘は青年の愛を受け入れることを選択したのである。
 舞台の裾では、エウツロット屈指の商人アンバー・スレンツォ夫人が控え目な拍手を贈っていた。チョコレートと愛にちなんだイベントが、エウツロット独自のお祭りとして成立した事実を、アンバー自身の目で確かめることが出来た。
 これは間違い無く定着するという自信が、アンバーの瞳の中に見え隠れしている。
「さぁ次の挑戦者、カモーンッ!」
 ジェイソンの呼び声に応じて、別の男女が舞台上に姿を見せた。
 今度は先程のカップルよりも幾分年上ではあるが、十分に結婚適齢期と呼べる年齢のふたりだ。そのうちの一方、即ち女性に対し、プラムが固いチョコレートを入れたレードルを手渡す。
 傍らではジェイソンが、アンバーが舞台裾に用意していた別の鍋を運んできて、窯の上に据えた。鍋の中には煮立った湯がぐつぐつと泡を上げている。
 女性はレードルを湯に半ばまで沈め、チョコレートを溶かし始めた。その隣で、女性と一緒に舞台へと上がった青年が愛の言葉を紡ぎ始める。
 ルールは、単純だ。
 女性は湯煎で大きなレードル中のチョコレートをひたすら溶かし続ける。レードルで混ぜる速度は、女性の自由だ。チョコレートがレードル内で全て溶ければ女性は舞台上から退場することが可能なのだが、男性の側はチョコレートが全て溶け切るまで口説き文句や愛の言葉を囁き続けることが出来る。
 このゲームは、ある少女の物語がベースとなっていた。
 その物語をジェイソンが圧倒的な歌唱力でミュージカル風に歌い上げ、舞台上の男女のみならず、聴衆の心にも染み入る様に訴えかけるのがミソだ。
「贄に選ばれた少女……でも彼女には心に決めたひとが居た」
 ジェイソンの歌い出しに、聴衆もプラムも、耳を澄ませてじっと聞き入る。
「最後にチョコをあの人に……釜で溶かしてしまえ未練と共に」
 最初はバラードの様に静かに、そして次第にロック調へと力強く。
 伴奏を伴わないアカペラのみの歌声だが、広場全体を大きく震わせる凄まじいまでの声量に、プラムは感動すら覚えた。

●お悩み相談
 ジェイソンとプラムが舞台上で次々とカップルを成立させる一方で、エウツロット冒険者ギルド支部の応接室では青薔薇のフェルナンド・カルバが、三人の冒険者と面談していた。
 シルヴィア・A・カペル、エル=バ=ノイアン、そしてギーゼラの三人であった。
 フェルナンドはジェイソンを何とか青薔薇に呼び戻したいものの、ジェイソンから完全に毛嫌いされている現状にすっかりお手上げとなっており、どうすれば良いかと頭を悩ませていた。
 そんなフェルナンドに、ギーゼラは笑顔で辛辣な台詞を浴びせた。
「あらあら、いけませんねぇ! ロモズ歩兵団の隊長を引き抜こうなんて!」
「いや、引き抜こうという訳では……」
 途中まで弁解しかけて、フェルナンドは口をつぐんだ。ギーゼラの目から見れば、フェルナンドの行為は立派な引き抜きである。それ以上に何があろうか。
「そちらから追い出しておいて、気が変わったから戻って来て欲しいなんて都合が良過ぎませんか?」
 尚も容赦しないギーゼラ。その笑顔には若干の毒が含まれているかも知れない。
「追い出した訳じゃない。あいつが勝手に飛び出して……」
 と、ここでもフェルナンドは途中でやめた。自分を正当化することが何の意味も無いことに、今更ながら気づいた様子だった。
「それはまぁ、何というか、うん。世に聞く、音楽性の違いというやつか……えぇとつまり、彼と和解したいということだろうか」
 ノイアンの問いかけに、フェルナンドは曖昧に頷き返した。どうにも煮え切らない態度だ。
「……お互いの考えを受け入れるだけの素地が無いと、難しいだろうな。あんたは兎も角、相手が自身の理想以外を拒むなら……まぁどれだけ力になれるか分からないが、やるだけやってみよう」
 そっぽを向いているギーゼラに多少気を遣いながら、ノイアンは引き受けることにした。尤も、成功させる自信は欠片にも無かったが。
 最後にシルヴィアが、幾分諭す様な口調で横から割り込んできた。
「音楽は皆で楽しむもの……大いに同意だよ。それに今のフェルナンドは昔とは違う。そうだね? そして今はジェイソンを再び青薔薇に呼び戻したいらしいけど、今回は許しを得ることだけを考えた方が良い」
 シルヴィアの冷静且つ的確な指摘に、フェルナンドはただ項垂れるばかりであった。
 ともあれ、今は直接にジェイソンとフェルナンドを面会させる訳にはいかない。
 三人の冒険者は連れ立って、ザ・メルトの午前の部を終えたジェイソンとの面談へと向かった。
 ジェイソンはプラム、アンバーの三人と揃って控え小屋で昼食を取っていた。
 シルヴィアはジェイソンにいきなりフェルナンドの話を持っていくのは拙いと考え、アンバーに仲介を頼み込もうと考えていた。ところがジェイソンは三人がフェルナンドに泣きつかれている事実を既に捕捉していたらしく、余計な手間は無用だと告げた。
 三人とジェイソンは初対面の挨拶もそこそこに、すぐさま本題に入った。
「俺と君達は同じロモズ歩兵団員だ。腹を割って話すよ」
 ジェイソンのこの申し出にシルヴィア、ノイアン、ギーゼラは互いに顔を見合わせた。ジェイソンが想定外に冷静だった為、少々調子が狂ってしまった。
 取り敢えずジェイソンは新たに現れた三人に椅子を勧め、それからおもむろに頭を下げた。
「俺とフェルナンドの下らない問題で貴重な時間を割いてしまってる様だな。申し訳ない」
 その直後、ジェイソンの口から信じられない様なひと言が飛び出してきた。
 曰く、彼はもうフェルナンドに対しては怒っていないのだ、と。
「あらあら、そういうことなら話だけでも聞いてみては?」
 ギーゼラが驚きの色を浮かべつつ提案すると、ジェイソンは既に何度も話したと、これまた想定外の回答が返ってきた。
「音楽性の違いとか、そういうのはもう正直、どうでも良いんだよ。あいつ、青薔薇の最大の本質を完全に見失ってやがる。だからもう、感情的に相容れないってことにしとかないと、諦めてくれねぇんだよ」
 ジェイソンのぼやき節に、シルヴィアはピンときた。青薔薇の本質とは即ち、諜報部隊としての任務ということであろう。
 ここから続けて考察しなければならない。諜報活動に必要なのは、何か。
「そうか、隠密性……」
 シルヴィアのひと言を受けて、ノイアンはジェイソンをじっと見つめた。
 この真冬の時期にタンクトップ一枚――確かにこれでは、隠密性を帯びるなど不可能だ。
「分かるか? 俺はもう、こういうスタイルなんだよ。こういう方向性なんだよ。今更隠密性とか諜報とか、出来る訳ねぇんだよ。なのにあの野郎、青薔薇に戻れって……あいつ馬鹿か? 俺のこのナイスでグッドルッキングでビューテホーな純白のタンクトップが、他の青薔薇の仲間達を危険に晒すことになるかも知れねえんだってことを全然理解しようとしねぇ」

●ジェイソンの本音
 ギーゼラは成程、と何度も首肯した。
 そういう事情なら確かに、ジェイソンが青薔薇復帰拒絶を固辞するのも十分に理解出来る。というか、ギーゼラもジェイソンのいっていることの方が正しいと支持せざるを得ない。
 ギーゼラは自分自身の過去の後悔や、ホムンクルス化したロモズ歩兵団員の話を持ち出し、且つギーゼラの中でロモズ歩兵団が想像以上に大きな存在になっていることを告げて、ジェイソンにフェルナンドとの和解を持ちかけようと考えていた。
 その方法論は、間違っていない。ただ、ジェイソンが既にフェルナンドを許しているという事実が、計画を狂わせただけに過ぎない。
 寧ろジェイソンの方が青薔薇のことを、フェルナンド以上に思っている。ジェイソンは己の復帰がかつての仲間を窮地に追い込むことをよく理解しているからこそ、青薔薇復帰はあり得ないと断言しているのだ。
 ギーゼラは、ジェイソンの気持ちが痛い程に分かった。今のギーゼラにとって、ロモズ歩兵団の仲間を傷つけられることは我慢ならない。そしてジェイソンも同様に、以前の仲間を自分の所為で危険に晒したくないと考えている。
 これはますます、フェルナンドには諦めて貰う他は無いだろう。
「それにしても、君も大変だったな。副長がホムンクルス化とはな。俺はまだ身近な者が傷つけられるという経験は無いが、君は重たい十字架を背負ってしまった様だ」
 ジェイソンの思い遣る言葉に、ギーゼラはにっこりと微笑み返した。心の中では、悲しみが渦巻いている。だがギーゼラは敢えて笑顔を返すことで、自分の今の感情を伝えようと思った。
 その想いは、ジェイソンにも十分に伝わったらしい。この件に関しては、ジェイソンはそれ以上、何もいおうとはしなかった。
 一方でシルヴィアとノイアンは渋い表情で顔を見合わせていた。ジェイソンは音楽性や感情的な問題で青薔薇復帰を拒絶した訳ではない。寧ろ、その逆だ。青薔薇を守りたいからこそ復帰は絶対に出来ないのである。
「せめてイベントで共演するというのは、出来ないか? このままではフェルナンドが気の毒だ」
「そりゃ別に構わん。けど、俺からも頼みがある」
 シルヴィアの提案に対し、ジェイソンはフェルナンドの説得を逆に依頼した。これ以上、ジェイソン個人に拘るのはやめさせて欲しいと。
「私も舞台で共演させて貰って、心理的にある程度わだかまりが解けたと演出した上で、話してみるよ」
 全く想定外の方向に話が進んだことでシルヴィアも色々頭の中を整理しなければならないのだが、音楽を通じて心を通わせれば、或いは何とかなるかも知れないと一縷の望みを託すことにした。
 シルヴィアはフェルナンドと話をしてくると一旦席を辞することにしたが、ノイアンとギーゼラは尚も控え小屋に残った。
 ギーゼラはチョコレートイベントについて相談する為だが、ノイアンは別の頼みを持ちかける腹積もりであった。
「突然でアレなんだが……俺に音楽を教えてくれないか?」
「いつでもエヴバディウェルカムだ」
 ノイアンは、シルヴィアが音楽を嗜んでいることと、自身が合わせたくてもセンスや技術が無い為に気後れしている事実を告げた。
「これは彼女には内緒にしておいてくれ」
 惚れた女に尽くしたいという男としてのノイアンの悩みである。ジェイソンは任せろと、うっすら胸毛の大胸筋を大いに反り返らせた。
 で、取り出したのが、カスタネットだった。
「良いか、技術なんてもんはただのお飾りだ。要はリズムを合わせて楽しめれば、それで良いんだ」
 尤も、リズム感すら無いというのであれば、中々面倒なことになるかも知れないが。

●これがロックだ
 ザ・メルト、午後の部。
 観衆や参加者はもう大体ルールを理解している為、ジェイソンによる舞台上での説明は不要となった。
 そして進行役はプラムとアンバーに任されることとなり、ジェイソンはシルヴィア、ノイアン、ギーゼラ、そしてフェルナンドを含めた五名でそれぞれ楽器を取り、即席のバンドを結成した。
 ジェイソンは鍵盤楽器を演奏しながらとなるが、ギーゼラとふたりでダブルボーカルを担当。
 シルヴィアとフェルナンドは得意の弦楽器を受け持ち、そしてノイアンはカスタネット片手に華麗なる舞台デビューを飾ることとなった。
 曲目は、プラムがジェイソンに伝えたザ・メルトの物語の歌。これをギーゼラの提案で、女性が想いを伝えるパートと男性が想いを伝えるパートに分けてみようというのである。
 女性も男性も、自分の番だとなれば、一歩踏み出せるかも知れないというギーゼラのアイデアだ。
 ジェイソンはナイスだ素晴らしいと即決し、ギーゼラの提案を取り入れ、僅か十数分で作詞と編曲を終えてしまうという神業を見せた。
 かつてジェイソンは青薔薇所属時、マッチョプリンセスという音楽ユニットを組んでいた。今日この日の舞台での構成は、奇しくもそのマッチョプリンセスと酷似しているとの由。
 唯一の違いは打楽器の代わりに、ノイアンのカスタネットが入っているという点だが、然程に大きな問題ではないとジェイソンは豪快に笑い飛ばした。
 ともあれ、往時のマッチョプリンセスファンには堪らない舞台となることは間違い無い。
 一日限りのマッチョプリンセス再構築ライブ、ということになった。
「かくて少女は、チョコをレードルに乗せ、時間を稼ぐ」
「溶け切ったら贄にされる」
「悪魔はチョコをこぼそうと惑わす」
「少年よ、愛の言葉で少女を守って」
 ギーゼラがリードし、ジェイソンが合わせる。とても即興とは思えない息の良さだ。サビの部分では、ギーゼラもジェイソンも常人では決して不可能な高音での声量を響かせた。
(成程……これがロックか)
 弦楽器を演奏しながら、シルヴィアは初めて触れるロックという音楽の方向性に、内心で驚きを禁じ得ない。その高揚感は、普段青薔薇で接している音楽の方向性とはまるで異なるが、ひとびとを楽しませることに於いては何ら遜色無いものだと改めて実感した。
 途中、ジェイソンはカスタネットでリズムを上手く取ることが出来る様になっていたノイアンに、タンバリンを投げ渡した。今のノイアンなら十分に使いこなせるだろうという判断の様だ。
 ノイアンはきっちり、ジェイソンの期待に応えてみせた。
 カスタネッターノイアン、そしてタンバリアンノイアンのダブルデビューを飾った、記念すべき冬の日であった。
「エヴバディワンモアターーーーイム!」
 ジェイソンスタイルで吠えるギーゼラ。舞台は、会場は最高潮の盛り上がりを見せた。

マスターコメント

 ご参加ありがとうございました。  結局フェルナンドがアホだったというオチですが、青薔薇の性質上、そりゃジェイソン無理でしょうという話ですね。  尚、マッチョプリンセスが今後も活動していくかどうかは全くの未定ですが、プラムさんご考案のザ・メルトはエウツロットの正式なお祭りとして、来年以降も開催されることとなるでしょう。
ショートシナリオ

ショートシナリオ易しい 報酬:標準4 / 4〜8人

2022年02月14日 23時19分43秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. シルヴィア・A・カペル

    シルヴィアだ。今回はよろしくね。 成立を願いつつ行動の表明を。 >個人行動 フェルナンドとジェイソンの仲介をしたいと思っているよ。フェルナンドが反省していることを、ジェイソンに理解してもらえるように動くつもりだ。まずは二人が話す場を設けたい。 それかいっそ、チョコレート贈り物イベントの演奏でフェルナンドとジェイソンに共演してもらうとか。この辺りは考え中だ。 フェルナンドはジェイソンを青薔薇に呼び戻したいらしいけど、今回は許しを得ることだけ考えた方が良いと助言したいな。

  2. プラム

    よろしくお願いします。 私は想いを伝えることに躊躇したお二人の 背中を押せるようなゲームみたいなものができないかなって考えてます。 (うまく出来るかはちょっと自信ないですが)

  3. エル=バ=ノイアン

    成立していたようで、よかった。挨拶が遅れたが、ノイアンだ。よろしく頼む。 俺は…そうだな。フェルナンドはともかく、俺はジェイソンとは初対面だから、橋渡しというよりは、ジェイソンから話を聞きたいと思っている。どれだけ力になれるかはわからないが……

  4. ギーゼラ

    ヒーラーのギーゼラです。よろしくお願いします。 あらあら、いけませんねぇ!ロモズ歩兵団の隊長を引き抜こうなんて! これは阻止しなくてはいけません! まぁ仲直りくらいはしてあげてもいいんじゃないかと思っていますので、同じロモズ歩兵団隊長としてジェイソンさんと話をしてみようと思います。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0