【球祭】1222シーズン春季キャンプ
革酎
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シナリオID:1824
オープニング
●さぁ即戦力へ
リーンエス王国の一部の貴族の間では、野球なる球技が流行っている、らしい。
真偽の程は定かではないが、少なくともレオポルド・グラハイム伯爵が主催するグラハイム・リーグ(略称グ・リーグ)という素人野球リーグが存在することは確かである。
このグ・リーグには以下の四チームが参加している。
ルドル・フォラー・カルツロンド伯爵のチーム『ファルシオンズ』
マグラウリー・メルゲンガー伯爵のチーム『エストックス』
ヘルマス・ジーロー伯爵のチーム『スケールス』
キャゼル・ベルティック伯爵のチーム『マーシーズ』
素人野球とはいいながらも、各チームはそれぞれのホームグラウンドを持ち、試合そのものも細かく定められたルールに則って実施されている。
球審と塁審は各貴族家の家士から選抜され、それぞれが徹底的にルールを叩き込まれ、ミスジャッジが発生しない様にと厳しく教育されているのだという。
グ・リーグの歴史は意外と古く、グラハイム伯爵の先々代辺りから続いているというから、案外侮れない。
野球という球技が王国内にどこまで知れ渡っているかは定かではないが、チームを持つ四家とグラハイム家では毎年シーズンに突入すると、結構な盛り上がりを見せているとの由。
そして1222年も年が明け、各チームは春のシーズンインを前にして春季キャンプを実施する運びとなった。
各チームとも、自軍のホームグラウンドで凡そ一カ月間のキャンプを張り、実戦を想定した練習内容で技術の向上を図る。
春季キャンプでの仕上がりがそのままシーズンでの成績に直結することもあり、いずれのチームも選手のみならず、監督やコーチ、裏方に至るまで、皆が一様に真剣な面持ちでキャンプインに臨むことになる。
ペナントを左右する基礎固めの為に、大いに頑張ろうではないか。
リーンエス王国の一部の貴族の間では、野球なる球技が流行っている、らしい。
真偽の程は定かではないが、少なくともレオポルド・グラハイム伯爵が主催するグラハイム・リーグ(略称グ・リーグ)という素人野球リーグが存在することは確かである。
このグ・リーグには以下の四チームが参加している。
ルドル・フォラー・カルツロンド伯爵のチーム『ファルシオンズ』
マグラウリー・メルゲンガー伯爵のチーム『エストックス』
ヘルマス・ジーロー伯爵のチーム『スケールス』
キャゼル・ベルティック伯爵のチーム『マーシーズ』
素人野球とはいいながらも、各チームはそれぞれのホームグラウンドを持ち、試合そのものも細かく定められたルールに則って実施されている。
球審と塁審は各貴族家の家士から選抜され、それぞれが徹底的にルールを叩き込まれ、ミスジャッジが発生しない様にと厳しく教育されているのだという。
グ・リーグの歴史は意外と古く、グラハイム伯爵の先々代辺りから続いているというから、案外侮れない。
野球という球技が王国内にどこまで知れ渡っているかは定かではないが、チームを持つ四家とグラハイム家では毎年シーズンに突入すると、結構な盛り上がりを見せているとの由。
そして1222年も年が明け、各チームは春のシーズンインを前にして春季キャンプを実施する運びとなった。
各チームとも、自軍のホームグラウンドで凡そ一カ月間のキャンプを張り、実戦を想定した練習内容で技術の向上を図る。
春季キャンプでの仕上がりがそのままシーズンでの成績に直結することもあり、いずれのチームも選手のみならず、監督やコーチ、裏方に至るまで、皆が一様に真剣な面持ちでキャンプインに臨むことになる。
ペナントを左右する基礎固めの為に、大いに頑張ろうではないか。
解説
状況:
PCの皆様は、以下のいずれかの立ち位置でご参加頂けます。
A 前回のトライアウト参加者は、所属チームの春季キャンプに最初から参加
B 今回新たに参加する方は希望チームの個別入団テスト受験後に途中から春季キャンプに参加
『A』でご参加頂く場合は、前回同様割り振るスキルポイント(後述)をプレイングにご記入下さい。
今回は15ポイントのスキルポイントが割り振れます。
『B』で個別入団テストを受験される場合は、プレイングに以下をご記入下さい。
・所属希望チーム
・希望ポジション(第一位~第三位まで)
・希望背番号(第一位~第三位まで。但し既に使用されている背番号は使用不可)
・利き腕(右投げ/左投げのいずれか)
・打席位置(右打ち/左打ち/両打ちのいずれか)
・割り振るスキルポイント
割り振れるスキルポイントは10ポイントです。春季キャンプには途中参加となる為、5ポイント分の遅れが生じます。
【球祭】専用ローカルルール
1.所属選手はポジション毎の個人パラメータを持ちます。
2.【球祭】シナリオに参加時、※マークのスキルは1ずつ自動的に上昇します。
※のついていないパラメータは下記3.で意図的に伸ばさないと値は増えません。
球種は1ポイント=1球種。投手は直球(ストレート)を最初から習得済みとします。
3.【球祭】シナリオ参加時に、スキルポイントが与えられます。
このスキルポイントを好きなパラメータに割り振る事が出来ます。
ひとつのパラメータに集中させても良いし、複数のパラメータに割り振っても結構です。
個人パラメータ(/で区切られたものはポイント使用時も含め、どれかひとつだけが伸びます)
■野手
・打撃(引っ張り/センター返し/流し打ち)
・打撃(犠打)
・打撃(選球眼)※
・打撃(長打力)
・守備(一塁/二塁/三塁/遊撃/左翼/中堅/右翼)※
自動成長は入団時の守備位置
・走塁 ※
・盗塁
・肩強度
■捕手
・打撃(引っ張り/センター返し/流し打ち)
・打撃(犠打)※
・打撃(選球眼)※
・打撃(長打力)
・守備(捕手)※
・守備(一塁/二塁/三塁/遊撃/左翼/中堅/右翼)
・走塁
・盗塁
・肩強度
・リード(投手中心/相手打者中心/状況判断)
■投手
・肩強度
・球種
・球速
・球威 ※
・クイックモーション
・守備(投手)※
・肩スタミナ
・打撃(バットコントロール)
・打撃(犠打)
・打撃(選球眼)※
・打撃(長打力)
・走塁
・盗塁
マスターより
皆様、こんにちは。
前回に引き続き、今回も『普通の』野球でお話を進めて参ります。
今回はプロ野球でも有名な、春季キャンプです。ここでどこまで技術を磨き、方向性を固定化することが出来るかが、皆様の野球選手としての型を形成する上で重要となります。
じっくり考えて、ご自身が目指すスタイルを是非、確立なさって下さい。
尚、上述しました通り、出来る野球は『普通の』野球です。冒険者としての技能や体力全開の派手な野球バトル的展開は生じませんので、あらかじめご了承ください。
野球のルール自体はNPB発行の公認野球規則に従って判定します。
リプレイ
●いざ、キャンプイン
キャンプと聞いて、どの様な光景を連想するだろうか。
ロスガリア大陸に於けるごく一般的な常識で、という意味ではなく、個人単位に於いての話だ。
リーンエス王国の一部の貴族達がそれぞれの野球チームを参加させているグラハイム・リーグ(通称グ・リーグ)に於いては、キャンプといえば短期集中型の練習合宿を意味する。
ところがルドル・フォラー・カルツロンド伯爵率いるチーム『ファルシオンズ』に中堅手として選手登録されているサフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブは、どうやら全く違う方のキャンプを想像したらしい。
「キャンプだキャンプ! わーい、楽しみだなー!」
諸々の宿泊グッズやパジャマパーティー用品、たくさんのお菓子、どこかで仕入れてきた卓上ゲーム、更には焚き木、テントといった本格装備等を近所の商店で借りた荷車に乗せて、サフィラはファルシオンズのグラウンドに姿を見せた。
まだ春先には程遠い、寒々とした冬の朝。よく冷えた空気の中で、サフィラの元気一杯な喜声が盛大にこだました。
しかしそこに居並ぶ他の選手達からは、色々な感情の籠もった視線が返ってきた。
「いや、サフィラ、そうじゃないって……」
既に練習用ユニフォームに着替えを済ませているハヤト=ガラン=ヴォルファングが、額に手を当て、そのまま俯いてしまった。
同じくユニフォーム姿のアルマ・ヴァレンタインとバーネット・フォーサイスもどう対応して良いものかと、困惑気味に顔を見合わせている。
「いやいや、これはちゃんと説明しなかったカルツロンド伯爵が悪いって」
豪快に笑ったのはファルシオンズ古参の投手クリス・ブロートスだった。先発投手の一角として、長年チームを支えてきた人物だ。ここ最近は加齢による衰えが見え始めているものの、チームの精神的な大黒柱として、未だそのリーダーシップは健在だった。
正捕手アーロン・アルバレスが穏やかな口調で、春季キャンプの何たるかを手短かに説明すると、サフィラは合点がいった様子で何度も頷き返した。
「なぁ~るほど! じゃあ早速着替えてこなきゃね! あ、荷物はクラブハウスに置いてて良いかな?」
「ひとりで運び込むのは大変だろうから、俺も手伝うよ」
バーネットが苦笑を浮かべつつ、サフィラが曳く荷車の後ろに廻って押し始めた。仕方が無いとばかりに、ハヤトもサフィラとバーネットに同行してクラブハウスへと足を運ぶ。
その間、他のメンバーでグラウンドの整備を始めようという話になった。既に昨日までの時点でカルツロンド伯爵の家士がある程度の準備は整えてくれてはいるが、矢張り選手自らの手でグラウンドを整備するところから始めなければ、何となく気分が締まらないらしい。
「よぉーし、やるかー。折角のキャンプだし、色々技術を磨いていかなきゃ勿体無いよねー」
アルマはトンボを引きずりながら、何度も自らに気合を入れていた。
春季キャンプは凡そ一カ月に亘って実施されるが、冒険者は全日程の参加を免除されている。これは当然、冒険者としての依頼がたびたび割り込んで来ることへの配慮だ。
既に肉体的な強靭さという面では一般人を遥かに凌ぐ授恵者には、キャンプ中の基礎体力鍛錬は不要だ。こなすべきメニューは技能習得と実戦練習のみで良い。その為、冒険者が春季キャンプに参加する実質的な期間は、他の一般人選手の三分の一程度、日数的にはほんの一週間強という程度になる。
当初アルマは、本当にその程度の練習時間だけで大丈夫なのかと小首を傾げたが、ブロートスは授恵者ならばそれで十分だと太鼓判を押した。
カルツロンド伯爵も、授恵者は肉体面の強さだけではなく、技能習得速度も一般人の常識を大幅に上回ると見ていた。事実、先般行われたトライアウトでは、各授恵者は限られた時間内であったにも関わらず、既に即戦力に近しい技術を習得した上で受験に臨んだ。その習得速度にはカルツロンド伯爵のみならず、他チームの関係者達も大いに驚いていたらしい。
長年野球に携わってきた先達がその様にいうのだから、きっと間違い無いのだろう――アルマはそれ以上は考えず、課せられたメニューをこなし、余った時間で自己強化トレーニングに励むことに頭を切り替えた。
「おーし、お待たせー。練習始めよーぜー」
クラブハウスからハヤトが駆け戻ってきた。傍らにはバーネットと、着替えを済ませたサフィラの姿もある。三人が一塁側ダッグアウトに到着したところで、ブロートスがグラウンド整備を終えた他の選手達を呼び集めて円陣を組んだ。
グ・リーグ1222シーズンは、いよいよここから始まるのだ。
●攻め手と守り手のバランス
ヘルマス・ジーロー伯爵の治める領地はリーンエス王国でも最南端に近しいところに位置しており、しかもシラー砂漠と隣接する区域にある。
領都セズンは一年を通してほぼ常夏に近しい温暖な気候に恵まれ、寒さとは無縁の土地だ。
ジーロー伯爵率いる『スケールス』のホームグラウンドは強い陽射しが眩しいセズン郊外、徒歩十数分程の位置に、通常の野球グラウンド三面分の敷地を広げている。
フリーダ=ブロムヴィスト、アルベルト=V=シュタールシュヴェーアト、ルベア・ベルニの三人が新入団選手として他のチームメンバーに紹介された時、紹介する側もされる側も、全員が一様に汗ばんでいた。
この夏の陽気のお陰でウォーミングアップには然程の時間を要さず、ほんの少し体を動かすだけで筋肉がそれなりの熱量を帯びる様になる。
フリーダは早速ブルペンに入り、投球練習に突入した。
一方のアルベルトとルベアはそれぞれ打撃ケージに入り、打撃投手として練習用マウンドに立ったジーロー伯爵の家士からの投球にバットを振る。
ブルペンにはジーロー伯爵が自ら足を運び、キャッチャーミットを構えてフリーダの為にブルペンキャッチャーを務めた。有望な新戦力としてのフリーダの球を直接受けてみよう、という訳だ。
(啓示によれば、猛虎魂を持つ者として33-4だけは絶対に避けなくては……)
この33-4という数字にどの様な意味があるのかは分からないが、その様に天が思し召すならば、従わざるを得ない。
フリーダの直球は更に速度を増していた。ただ速ければ良いという訳でもないが、しかしこの速さは武器にもなる。特に遅い球を投げる先発の後を継いでの登板というシチュエーションであれば、相手打者は目が慣れていない為、その隙を衝くことが可能となる。
啓示は語る。ストレートゴリラ継続重点、と。フリーダは素直に従うことにした。
そして打撃ケージでは、両極端な場面が展開されている。
まずルベアだが、こちらは打率重視の広角打法が冴えた。タイミングの取り方やスイングの軌道も洗練されており、打てないコースは無理に追いかけない確実さが際立っていた。
一塁線や三塁線を抜ければあっという間に長打にすることが出来る打撃技術も、身に付けつつある。ジーロー伯爵がルベアを下位打線ではなく、上位で使いたいと考えたのには十分な根拠があったという訳だ。
(理想は確実に出塁することよね……でも既に居る走者をアウトにさせちゃ意味無いし、全方向に打てることに越したことは無いか)
流して良し、引っ張って良し、場合によっては投手強襲のセンター返しも可能。しかもルベアには足という武器がある。ジーロー伯爵でなくとも、ルベアを上位で使いたいと思うのは自然な発想であろう。
一方、アルベルトの方は兎に角打球が飛びまくっていた。
「よーしよし、今日もゼッコーチョー! 打撃でチームに貢献するぜ!」
快音を残して、柵越えを連発させるアルベルト。そのパワー、長打力はルーキーとは思えない破壊力があり、打撃投手のみならず、他のチームメイト達も半ば呆れた様子でアルベルトの一発攻勢に見入っていた。
当たれば必ずホームラン、ロマン砲の助っ人外国人――が、帝国人たるアルベルトのコンセプトだ。そのスタンスは今でも変わらない。
しかしアルベルトには一点だけ、弱点があった。バットコントロールが完成されていないのである。
ルベアには確実にミートして仕留める技術があったが、アルベルトは打ち損じが多く、球の下側をこすってしまい、ポップフライに打ち上げるケースが少なくなかった。
(ま……この辺の技術は、おいおいだな)
アルベルト自身も今後己がどの部分で調整を重ねていかなければならないか、重々承知している。承知した上で、まずは飛距離を徹底的に伸ばすことに力を注いだ。
投手心理からすれば、少しでも芯に近いところに当たればあっという間にスタンドインしてしまうアルベルトの破壊力は、恐ろしいことこの上ない。しかも選球眼が良い為、少しでもボール臭い球に対しては、アルベルトは悠然と見送ることが出来る。
多少のバットコントロールの未熟さは、鍛え抜かれた選球眼で補うことが出来るという一例といって良い。
飛距離のある打者がボールになる誘い球に乗らないというのは、これは投げる方からすれば圧倒的なプレッシャーとなって精神を蝕まれる。その威圧感を、アルベルトはルーキーながら既に身に着けていた。
●エース候補とクリーンアップ候補
キャゼル・ベルティック伯爵のチーム『マーシーズ』の本拠地は、ディズル大湿地帯に程近い商業の町メーンス郊外にある。
このマーシーズに於いてルーキーながら先発の一角としての期待が高い投手ライナ・フレイヴァルツは、バッテリーを組む新人捕手フロマーシュ・ダイヤドロップと共に、キャンプ初日からブルペンに入った。
入念なウォーミングアップの後にライナが投じた落差の大きいスプリットフィンガーファストボールは、他のブルペンキャッチャーや先輩投手達からも注目を浴びた。
更にカウント球として使うことを考えているドロップカーブの精度の高さは、視察に来ていたベルティック伯爵を唸らせる完成度を見せた。
(流石です、ライナ様……よくぞここまで)
ライナに返球しながら、フロマーシュは内心でちょっとした感動を覚えた。如何に授恵者とはいえ、ルーキーでありながらこれ程の技量を発揮し、先輩投手達をも驚かせるライナの存在感は、際立って美しい。
そのライナとバッテリーを組むことが出来るというのは、フロマーシュにとってもこの上ない栄誉だ。
だが、勿論のことながら良い球が投げられるというだけでは試合に勝つことは出来ない。ライナは各球種の精度を確かめた後にフォーム固めのシャドーピッチングを経てから、グラウンドにて走者を置いてのシート打撃に臨む予定となっていた。
(よし……このスプリットなら、使える)
フロマーシュからの返球を受けながら、ライナは静かに手応えを感じていた。コントロール、落差、いずれも文句無しの出来栄えだ。これなら長いイニングでも、ここぞの場面で確実に相手を仕留めることが出来る。
ライナの強みは縦の変化だけではなく、カットボールやツーシームも習得しているところにあった。文字通り縦横に相手打者を翻弄する球種を揃え、長いイニングを牛耳ることが出来る。
更に二十球程を投じて、ライナはブルペンを出た。グラウンドの三塁側ダッグアウト前で、シャドーピッチングをこなす為だ。
フロマーシュも同時にブルペンを出たが、彼女は打撃ケージへと足を向けた。ライナと共にシート打撃に入るまでには今少し、時間がある。その間に課題のひとつであるバッティングに時間を割こうという訳だ。
愛用のバットを手にしてケージに入ろうとしたところで、チームのダブル主砲であるヴァーノン・ケルガリーとテオル・ロドリゲスが丁度打撃ケージを出ようとしていた。
「よぅ、若き正捕手。調子は良さそうだな」
ヴァーノンが汗まみれのスキンヘッドをタオルで拭いながら、静かに笑いかけてきた。ヴァーノンもテオルも長年マーシーズの主軸打者としてチームを引っ張ってきたが、そろそろクリーンアップを若い選手に交代して貰おうかと考えているらしい。
「どうだい、お前さん三番か五番を打ってみないか?」
テオルに問いかけられ、フロマーシュは思わず目を白黒させた。テオル曰く、フロマーシュは四番を打つにはいささか非力だが、何でも屋の三番か、ポイントゲッターたる五番ならば十分に務まるポテンシャルがあるということらしい。
フロマーシュは流石に、
「いえ、まだ私は勉強することが沢山ございまして……」
と慌てて辞退したが、ヴァーノンもテオルも、フロマーシュをクリーンアップに推挙したい旨を尚も口にしていた。
そんなフロマーシュを、ライナはシャドーピッチングで汗を流しながら面白そうに眺めていた。
(確かにマーシュの広角打法なら、三番か五番を打たせたら面白いかも)
実のところフロマーシュは捕手としての技量だけでなく、打撃に於いても非凡な才能を発揮しつつある。打てる捕手というのは中々居ない為、フロマーシュがクリーンアップを打てる様になれば、それは他チームに対して大いに脅威となるだろう。
●最優秀バッテリー誕生の予感
マグラウリー・メルゲンガー伯爵のチーム『エストックス』の本拠地も、リーンエス王国内では比較的南の方にある為か、年間を通して温暖な気候に恵まれている。
今季からエストックスに加入したコルネリウス・アーラとリディリディ・トゥラ・イェレミースはキャンプ初日から既に試合が出来る程の仕上がりを見せており、メルゲンガー伯爵はいきなりシート打撃をやろうといい出す始末であった。
新球フォークを習得してきたコルネリウスとしても、この新しく身に着けた球種がどこまで通用するのかを早く試してみたいとの思いもあり、シート打撃に登板することを決めた。
「今日のメニューがひと通り終わったら、お肉を焼きましょう」
などといいながら、プロテクターとマスクを身に着けるリディリディ。彼女も春季キャンプ突入までに相当勉強に勉強を重ねてきたらしく、リード面に於けるその頭脳は既に正捕手と呼んでも差し支えない程に、あらゆる対応能力を見せる様になっていた。
マウンドに上がったコルネリウスと対峙するのは、右の打席に入ったエストックスの主砲ハロルド・リース。巨漢の三塁手で、打撃面ではエストックス最強といえる技術とパワーを持つ人物だ。
キャンプ初日からいきなり強敵と相まみえる格好となったコルネリウス。セットアッパー、若しくはクローザーを目指すに当たって、試合終盤で相手チームの四番を迎えることは多くなるだろう。
リディリディはリースの打撃を、よく知らない。であれば、ここはまずコルネリウスの投げやすいリードを心掛けた方が得策だと判断した。
初球は、内角の直球を要求した。コルネリウスが徹底的に鍛えた球速ならば、いきなり弾き返される心配は無いとの考えから、大胆に攻めることにしたという訳だ。
事実、コルネリウスが投じた初球は、リースの空振りを誘った。
(ふぅ……矢張り、緊張しますね)
か細い腕からは想像も出来ない程に握力を鍛錬してきたコルネリウスだが、肉体の強化のみならず、精神面でも壁エルフのお姉さんを目指そうという目標を抱いている。
手に汗握る様なシビれる場面でマウンドに立つということは、何よりも精神力の強さが要求される。
受けるリディリディも、コルネリウスの強心臓を信じればこそ、大胆なリードで相手打者を攻めることが出来るというものだろう。
二球目は、外へ逃げるスライダー。そのキレの良さに、リースは思わず手が出た。これまた空振りで、あっという間にツーストライクと追い込んだ。
問題はここからだ。二球程ボール球を投げ込んで様子を見るか、それとも一気に勝負へと打って出るか。
(成程、そうきますか……)
リディリディのサインに頷き返しながらも、コルネリウスは内心で苦笑した。リディリディのリードには、何の迷いも無い。それだけ、コルネリウスの投球を信頼している証左であろう。
コルネリウスが投じた三球目は、本塁上で凄まじい程の落差を見せた。新球フォークだ。リースの頭にはこの球種は無かったらしく、直球と思い込んで振ったバットは盛大に空を切った。
三球三振。
チームの主砲を手玉に取ったコルネリウスに、チームメイトから称賛の声が上がった。
(何とか、なりました……)
コルネリウスは懐から取り出した手布を口元に押し当てて、気分を落ち着けた。愛しい彼の匂いが、コルネリウスに落ち着きを取り戻させてくれると同時に、モチベーションを更に押し上げてくれた。
一方、リディリディの傍らにはいつの間にか、チームのエースであるスタンリー・ウェイクフィールドが佇んでいた。
「流石だねぇ。伯爵が新しい正捕手を獲得出来たと喜んでただけのことはある」
ウェイクフィールドは、良かったら俺の球を受けてみないかと声をかけた。
曰く、彼の持ち球には魔球と呼ばれるナックルがあるのだという。投げた当人ですらどういう軌道を描くのかが全く分からないという球を、リディリディには早く慣れて欲しいというのだ。
「はい、それはもう、是非」
リディリディの応えを受け、ウェイクフィールドはマウンドへと向かった。交代してダッグアウト前へと退いたコルネリウスも、ナックルの恐るべき軌道というものには興味があった。果たして、リディリディがどこまで対応出来るのか――その行く末にも、大いに興味がそそられた。
●オープン戦
キャンプインから二週間が経過したところで、突如オープン戦開催の話が降って湧いた。
各チームのキャンプを視察したレオポルド・グラハイム伯爵が、今季は授恵者選手が居ることもあり、チーム同士で軽く試合形式の調整を行った方が良いのではないかと考えたらしい。
各チームとも特に断る理由は無かった為、それぞれ三試合ずつ対戦、各チーム合計九試合実施のオープン戦が開催される運びとなった。
初戦はファルシオンズ対スケールス。試合会場は両チームの中間を取って、メルゲンガー伯爵領内の野球場で実施されることとなった。
先攻はファルシオンズ、後攻がスケールス。
両チームのスターティングオーダーは以下の通り。
ファルシオンズ
1. サフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブ 中堅手(8)
2. バーネット・フォーサイス 遊撃手(40)
3. ハヤト=ガラン=ヴォルファング 二塁手(37)
4. トーマス・ピレオ 一塁手(4)
5. ブレンダン・ショウ 三塁手(24)
6. アルマ・ヴァレンタイン 左翼手(2)
7. ウレオ・クラップ 右翼手(6)
8. アーロン・アルバレス 捕手(32)
9. クリス・ブロートス 投手(18)
スケールス
1. ルベア・ベルニ 二塁手(35)
2. ガッシュ・リールス 遊撃手(1)
3. コルディ・エーゾル 左翼手(59)
4. イーサン・ルート 中堅手(5)
5. アルベルト=V=シュタールシュヴェーアト 一塁手(24)
6. トロイ・ザール 三塁手(29)
7. テリー・エチェバリア 右翼手(72)
8. レヴロン・マックスロー 捕手(2)
9. ジョニー・ウィリアムス 投手(14)
初回表のマウンドにはスケールスのエース、ジョニー・ウィリアムスが立つ。フリーダはリリーフの為、ブルペンでのスタンバイとなった。
試合は足で引っ掻き回すファルシオンズと、正攻法の打撃で攻めるスケールスという構図となった。
「よぉーし、がつんといくよー!」
先頭打者として左打席に入ったサフィラの気合に満ちた声に続いて、審判がプレイボールを告げた。
初球、いきなりバントの構えを見せたサフィラに、スケールスバッテリーはにわかに苛立ちを見せ始めた。シーズンでもないただのオープン戦だが、ルーキーながら相手を揺さぶる策を初回から仕掛けてきたサフィラに対し、腹立たしさを覚えた様だ。
しかしそれこそ、サフィラの思う壺だ。センター返しを中心に打撃を鍛えてきたサフィラにとって、冷静さを失った配球は飛んで火にいる夏の虫だった。
あっさり二球目でセンターへ抜けるゴロでヒットをもぎ取ると、続く二番打者バーネットの打席で、サフィラは早々に盗塁を決めた。
無死二塁となったところで、バーネットは三塁線への犠打を早い段階で決断した。
(足の速い奴らが揃ってるんだし、それを活かすならこれがベストだ)
キャンプ中盤まで犠打を猛練習してきたバーネット。早速、その成果を見せる時が来た。一球外した後、ウィリアムスが投じた三球目の外角に落ちる球を、しっかりとバント。左打者特有の、一塁線へ走り出しながらの犠打に、相手三塁手のザールは大いに慌てた。
結果としてサフィラは悠々と三塁に到達。バーネットは間一髪アウトとなったが、役割は十分に果たせた。
「へへっ……こいつぁ美味しい場面だ!」
続いて右打席に入ったハヤト。サフィラの足ならゴロGOだが、出来ればすっきりと安打で決めたい。
この春季キャンプ、ハヤトはサフィラ以上に打撃を鍛えた。その努力は決して彼を裏切らない。ワイルドピッチを恐れたウィリアムスの投球は甘めに入ってきた。打撃と選球眼の双方を鍛えたハヤトにとって、打って下さいといわんばかりの失投だった。
打棒を振り切り、快音を響かせながらもハヤトは一塁線を駆け抜けた。当然サフィラは悠々と本塁へと到達、ファルシオンズはあっさり先制した。
しかしその後はピレオ、ショウが倒れ、イニング表は終了。ふたり共、打球そのものは悪くなかったが、いずれもルベアの堅実な守備に阻まれ、安打を損した格好だった。
実はルベア、俊足が揃っているファルシオンズを特に要警戒チームと認識しており、サフィラ盗塁の際も、ベースカバーの速さでは決して負けてはいなかったのだ。
そして一回裏の先頭は、その曲者ルベアの打席からだ。
(フリーダさんの剛速球に対して盗塁練習までやってきたんだから、やっぱり塁には出たいかな)
ルベアはちらりと、ダッグアウトのフリーダに視線を向けた。
キャンプ前半、フリーダは自身の投球練習の合間を縫って、ルベアの盗塁練習にも気軽に応じてくれた。そのフリーダの恩に報いる為にも、まずは第一打席、ここで出塁して盗塁を決めたい。
「啓示が出ました。ルベアさん、ホームランです」
ダッグアウトからフリーダの声援。ルベアは、自分はパワーヒッターじゃないんだけど、と内心で苦笑を漏らした。
●シーズンに向けて
結局、ファルシオンズ対スケールスの第一戦は4-2でスケールスの勝利。
初回にアルベルトの逆転スリーランが飛び出し、そのリードを最後まで守り抜いたスケールスが勝利をものにしたのである。勝利はウィリアムス、敗戦はブロートス、セーブはフリーダにそれぞれ記録された。
この試合では、ルーキーたる授恵者選手達の働きが大いに目立った。
ファルシオンズは機動力野球で塁上を賑わせたが、それ以上に堅実な守りが光る試合でもあった。外野ではサフィラの守備範囲の広さや、アルマの矢の様な返球が球場を賑わせ、内野の守りでもバーネットの華麗な守備が敵味方を問わず絶賛された。
「遊撃手は守備の華。こっちも疎かには出来ないってな」
不敵に笑ったバーネットの表情が、これまた心憎かった。
一方スケールスは切り込み隊長ルベアの打撃と足、そして守備の堅実さが一番の注目株だったが、アルベルトの度肝を抜く様な場外ホームランには球場全体が一瞬静まり返るというシーンもあった。
最後を締めたフリーダの火を噴く様な剛速球もまた、両チームの監督を大いに唸らせた。来ると分かっていても打てないというあのストレートが試合終盤に出てくると、ビハインドに立っている側の打者はもう絶望を感じるしかない。
しかしながらフリーダ自身は、
「アール=ティ=エーはトライアンドエラーが大事という啓示がございました」
などと、相変わらず意味不明な台詞を残して球場を去っていった。
翌日にエストックスとのオープン戦初戦を控えたマーシーズは、この日の昼間に行われたファルシオンズ対スケールスの試合の余韻が未だ残る中で、グラウンドでの夜間練習に臨んでいた。
舞台は同じく、メルゲンガー伯爵領の球場。マーシーズとしてはアウェーで戦う格好となる。
オープン戦が始まってはいるが、ライナもフロマーシュも、走り込みだけは毎日の様に続けていた。野球は兎に角体力が第一だという信念があるのかも知れない。
そのふたりの走り込みの最中に、コルネリウスとリディリディがばったりと出くわした。
コルネリウスは先発ではなかったが、リリーフ登板が予想される為、前日から体を仕上げておこうと考えていたのである。リディリディは、そんなコルネリウスに付き合って自身も体を動かしておこうと、一緒になって前日トレーニングに臨んでいた。
「いよいよ、明日ですね」
自然と並んで走る格好となった四人。コルネリウスが笑みを向けると、フロマーシュも穏やかな表情を返してきた。ライナは相変わらずのクールな無表情だが、その瞳の奥には敬意の色が滲んでいる。
スポーツはお互いに相手を尊重し合い、ベストを尽くして戦う。だからこそ、楽しい。だからこそ、続けていこうという意欲も湧く。
命を奪い合う戦場では、決して味わうことの出来ない爽やかで穏やかな気分だった。
「それにしても、凄いですね。ルーキーなのに、もう先発の一角に食い込むなんて」
リディリディが水を向けると、ライナは照れ隠しなのか、ややぎこちない所作で頭を掻いた。そのライナに代わって、フロマーシュがそういえば、と思い出した様にリディリディに視線を向けた。
「ナックルボールって、どの様な軌道を描くのでしょう? 確かそちらのチームには、ウェイクフィールド様という物凄いナックルボーラーの方がおられるのでしたね」
エストックスは前年度の覇者だ。そして優勝の原動力となったのが、ウェイクフィールドのナックルだったといっても過言ではない。各チームの打者はどこにどう入ってくるか全く読めない軌道のナックルを、完全に打ちあぐねた。それ程に、あの球は打てない。魔球と呼ばれる所以であった。
そしてリディリディは、キャンプ初日からウェイクフィールドのナックルを捕球する特訓を続けていた。このナックルを上手く止められるかどうかが、正捕手の地位を確立出来るかの鍵となっている。
「本当に、物凄い軌道ですよ。本塁に到達するまで、どう曲がるか予測が出来ません」
リディリディは敢えて正直に語った。
同じ捕手同士、嘘をつけばすぐに見破られると咄嗟に思ったのだ。それ以上に、ナックルの情報をここで明かしたところで相手に攻略の術はないという確信があった。
これに対しフロマーシュは、矢張りそうでございますかと小さな溜息を漏らした。
明日の先発は、マーシーズがライナ。そしてエストックスがウェイクフィールドである。フロマーシュが溜息を漏らすのも、無理からぬ話であろう。
やがて四人は、グラウンドの本塁付近で足を止めた。額を流れ落ちる汗を拭い、ゆっくりと息を整える。
「走ったら、お腹が空いてきたな」
ライナがぽつりと漏らす。その瞬間、何故かリディリディが警戒の視線を走らせた。ライナとフロマーシュは知らなかったが、リディリディはキャンプそしてオープン戦の期間中もしっかり自分専用の肉を用意していたらしい。
その事実を知っているコルネリウスはただただ苦笑するしかなかったが、ライナもフロマーシュも、何故リディリディがここまで警戒するのか、結局最後まで分からなかった。
そして翌日、エストックスとマーシーズのオープン戦初戦。
先発は予定通り、ライナとウェイクフィールドの投げ合いで始まった。
ウェイクフィールドのナックルが打てないのは想定通りだったが、ライナのスプリットも負けじと相当な威力を発揮し、エストックスの打者から三振の山を築き上げた。
「うはー……ありゃちょっと打てないな」
この日、試合を観戦したアルマはお手上げのポーズを見せた。
アルマとて、春季キャンプではバント技術と打撃を鍛えに鍛え抜いた。内野安打も狙えるし、バスターで内野手の頭上を抜く技も身に着けた。そして同時に足も鍛えた。当初の、体の小ささを利用した四球狙いというスタンスは完全に破棄し、技術向上に頭を切り替えた。
成果はあったし、確実に技量も上がった。が、それでもあのナックルはそう簡単には打てないし、スプリットも手が出ないと実感した。
(シーズン始まるまでに、もっと技術磨かないと……)
アルマの危機感を他所に、試合そのものは3-2の僅差でエストックスが勝利した。
しかし両チームとも、各選手はまだ調整段階に過ぎない。シーズンに入れば、この日以上の熱戦が繰り広げられることになるだろう。
尚、勝利も敗戦も両チームの先発投手にはつかず、それぞれリリーフに記録された。エストックス側の勝利はコルネリウスに、マーシーズ側の敗戦はマット・メイゼランにそれぞれ付けられた。
リリーフエースを目指すコルネリウスにしてみれば、棚から牡丹餅の様な勝利ではあったが、それでも勝ちは勝ちである。
気分良く、次戦以降に臨むことが出来るというものであろう。
そして各チームとも九試合のオープン戦を消化し、いよいよ1222シーズンインを控えるという段になった。
どのチームも授恵者選手が新たに入団したことで力関係が大きく、変化したといって良い。最終的にどのチームが抜け出すのかは、今の時点では誰にも予測出来なかった。
キャンプと聞いて、どの様な光景を連想するだろうか。
ロスガリア大陸に於けるごく一般的な常識で、という意味ではなく、個人単位に於いての話だ。
リーンエス王国の一部の貴族達がそれぞれの野球チームを参加させているグラハイム・リーグ(通称グ・リーグ)に於いては、キャンプといえば短期集中型の練習合宿を意味する。
ところがルドル・フォラー・カルツロンド伯爵率いるチーム『ファルシオンズ』に中堅手として選手登録されているサフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブは、どうやら全く違う方のキャンプを想像したらしい。
「キャンプだキャンプ! わーい、楽しみだなー!」
諸々の宿泊グッズやパジャマパーティー用品、たくさんのお菓子、どこかで仕入れてきた卓上ゲーム、更には焚き木、テントといった本格装備等を近所の商店で借りた荷車に乗せて、サフィラはファルシオンズのグラウンドに姿を見せた。
まだ春先には程遠い、寒々とした冬の朝。よく冷えた空気の中で、サフィラの元気一杯な喜声が盛大にこだました。
しかしそこに居並ぶ他の選手達からは、色々な感情の籠もった視線が返ってきた。
「いや、サフィラ、そうじゃないって……」
既に練習用ユニフォームに着替えを済ませているハヤト=ガラン=ヴォルファングが、額に手を当て、そのまま俯いてしまった。
同じくユニフォーム姿のアルマ・ヴァレンタインとバーネット・フォーサイスもどう対応して良いものかと、困惑気味に顔を見合わせている。
「いやいや、これはちゃんと説明しなかったカルツロンド伯爵が悪いって」
豪快に笑ったのはファルシオンズ古参の投手クリス・ブロートスだった。先発投手の一角として、長年チームを支えてきた人物だ。ここ最近は加齢による衰えが見え始めているものの、チームの精神的な大黒柱として、未だそのリーダーシップは健在だった。
正捕手アーロン・アルバレスが穏やかな口調で、春季キャンプの何たるかを手短かに説明すると、サフィラは合点がいった様子で何度も頷き返した。
「なぁ~るほど! じゃあ早速着替えてこなきゃね! あ、荷物はクラブハウスに置いてて良いかな?」
「ひとりで運び込むのは大変だろうから、俺も手伝うよ」
バーネットが苦笑を浮かべつつ、サフィラが曳く荷車の後ろに廻って押し始めた。仕方が無いとばかりに、ハヤトもサフィラとバーネットに同行してクラブハウスへと足を運ぶ。
その間、他のメンバーでグラウンドの整備を始めようという話になった。既に昨日までの時点でカルツロンド伯爵の家士がある程度の準備は整えてくれてはいるが、矢張り選手自らの手でグラウンドを整備するところから始めなければ、何となく気分が締まらないらしい。
「よぉーし、やるかー。折角のキャンプだし、色々技術を磨いていかなきゃ勿体無いよねー」
アルマはトンボを引きずりながら、何度も自らに気合を入れていた。
春季キャンプは凡そ一カ月に亘って実施されるが、冒険者は全日程の参加を免除されている。これは当然、冒険者としての依頼がたびたび割り込んで来ることへの配慮だ。
既に肉体的な強靭さという面では一般人を遥かに凌ぐ授恵者には、キャンプ中の基礎体力鍛錬は不要だ。こなすべきメニューは技能習得と実戦練習のみで良い。その為、冒険者が春季キャンプに参加する実質的な期間は、他の一般人選手の三分の一程度、日数的にはほんの一週間強という程度になる。
当初アルマは、本当にその程度の練習時間だけで大丈夫なのかと小首を傾げたが、ブロートスは授恵者ならばそれで十分だと太鼓判を押した。
カルツロンド伯爵も、授恵者は肉体面の強さだけではなく、技能習得速度も一般人の常識を大幅に上回ると見ていた。事実、先般行われたトライアウトでは、各授恵者は限られた時間内であったにも関わらず、既に即戦力に近しい技術を習得した上で受験に臨んだ。その習得速度にはカルツロンド伯爵のみならず、他チームの関係者達も大いに驚いていたらしい。
長年野球に携わってきた先達がその様にいうのだから、きっと間違い無いのだろう――アルマはそれ以上は考えず、課せられたメニューをこなし、余った時間で自己強化トレーニングに励むことに頭を切り替えた。
「おーし、お待たせー。練習始めよーぜー」
クラブハウスからハヤトが駆け戻ってきた。傍らにはバーネットと、着替えを済ませたサフィラの姿もある。三人が一塁側ダッグアウトに到着したところで、ブロートスがグラウンド整備を終えた他の選手達を呼び集めて円陣を組んだ。
グ・リーグ1222シーズンは、いよいよここから始まるのだ。
●攻め手と守り手のバランス
ヘルマス・ジーロー伯爵の治める領地はリーンエス王国でも最南端に近しいところに位置しており、しかもシラー砂漠と隣接する区域にある。
領都セズンは一年を通してほぼ常夏に近しい温暖な気候に恵まれ、寒さとは無縁の土地だ。
ジーロー伯爵率いる『スケールス』のホームグラウンドは強い陽射しが眩しいセズン郊外、徒歩十数分程の位置に、通常の野球グラウンド三面分の敷地を広げている。
フリーダ=ブロムヴィスト、アルベルト=V=シュタールシュヴェーアト、ルベア・ベルニの三人が新入団選手として他のチームメンバーに紹介された時、紹介する側もされる側も、全員が一様に汗ばんでいた。
この夏の陽気のお陰でウォーミングアップには然程の時間を要さず、ほんの少し体を動かすだけで筋肉がそれなりの熱量を帯びる様になる。
フリーダは早速ブルペンに入り、投球練習に突入した。
一方のアルベルトとルベアはそれぞれ打撃ケージに入り、打撃投手として練習用マウンドに立ったジーロー伯爵の家士からの投球にバットを振る。
ブルペンにはジーロー伯爵が自ら足を運び、キャッチャーミットを構えてフリーダの為にブルペンキャッチャーを務めた。有望な新戦力としてのフリーダの球を直接受けてみよう、という訳だ。
(啓示によれば、猛虎魂を持つ者として33-4だけは絶対に避けなくては……)
この33-4という数字にどの様な意味があるのかは分からないが、その様に天が思し召すならば、従わざるを得ない。
フリーダの直球は更に速度を増していた。ただ速ければ良いという訳でもないが、しかしこの速さは武器にもなる。特に遅い球を投げる先発の後を継いでの登板というシチュエーションであれば、相手打者は目が慣れていない為、その隙を衝くことが可能となる。
啓示は語る。ストレートゴリラ継続重点、と。フリーダは素直に従うことにした。
そして打撃ケージでは、両極端な場面が展開されている。
まずルベアだが、こちらは打率重視の広角打法が冴えた。タイミングの取り方やスイングの軌道も洗練されており、打てないコースは無理に追いかけない確実さが際立っていた。
一塁線や三塁線を抜ければあっという間に長打にすることが出来る打撃技術も、身に付けつつある。ジーロー伯爵がルベアを下位打線ではなく、上位で使いたいと考えたのには十分な根拠があったという訳だ。
(理想は確実に出塁することよね……でも既に居る走者をアウトにさせちゃ意味無いし、全方向に打てることに越したことは無いか)
流して良し、引っ張って良し、場合によっては投手強襲のセンター返しも可能。しかもルベアには足という武器がある。ジーロー伯爵でなくとも、ルベアを上位で使いたいと思うのは自然な発想であろう。
一方、アルベルトの方は兎に角打球が飛びまくっていた。
「よーしよし、今日もゼッコーチョー! 打撃でチームに貢献するぜ!」
快音を残して、柵越えを連発させるアルベルト。そのパワー、長打力はルーキーとは思えない破壊力があり、打撃投手のみならず、他のチームメイト達も半ば呆れた様子でアルベルトの一発攻勢に見入っていた。
当たれば必ずホームラン、ロマン砲の助っ人外国人――が、帝国人たるアルベルトのコンセプトだ。そのスタンスは今でも変わらない。
しかしアルベルトには一点だけ、弱点があった。バットコントロールが完成されていないのである。
ルベアには確実にミートして仕留める技術があったが、アルベルトは打ち損じが多く、球の下側をこすってしまい、ポップフライに打ち上げるケースが少なくなかった。
(ま……この辺の技術は、おいおいだな)
アルベルト自身も今後己がどの部分で調整を重ねていかなければならないか、重々承知している。承知した上で、まずは飛距離を徹底的に伸ばすことに力を注いだ。
投手心理からすれば、少しでも芯に近いところに当たればあっという間にスタンドインしてしまうアルベルトの破壊力は、恐ろしいことこの上ない。しかも選球眼が良い為、少しでもボール臭い球に対しては、アルベルトは悠然と見送ることが出来る。
多少のバットコントロールの未熟さは、鍛え抜かれた選球眼で補うことが出来るという一例といって良い。
飛距離のある打者がボールになる誘い球に乗らないというのは、これは投げる方からすれば圧倒的なプレッシャーとなって精神を蝕まれる。その威圧感を、アルベルトはルーキーながら既に身に着けていた。
●エース候補とクリーンアップ候補
キャゼル・ベルティック伯爵のチーム『マーシーズ』の本拠地は、ディズル大湿地帯に程近い商業の町メーンス郊外にある。
このマーシーズに於いてルーキーながら先発の一角としての期待が高い投手ライナ・フレイヴァルツは、バッテリーを組む新人捕手フロマーシュ・ダイヤドロップと共に、キャンプ初日からブルペンに入った。
入念なウォーミングアップの後にライナが投じた落差の大きいスプリットフィンガーファストボールは、他のブルペンキャッチャーや先輩投手達からも注目を浴びた。
更にカウント球として使うことを考えているドロップカーブの精度の高さは、視察に来ていたベルティック伯爵を唸らせる完成度を見せた。
(流石です、ライナ様……よくぞここまで)
ライナに返球しながら、フロマーシュは内心でちょっとした感動を覚えた。如何に授恵者とはいえ、ルーキーでありながらこれ程の技量を発揮し、先輩投手達をも驚かせるライナの存在感は、際立って美しい。
そのライナとバッテリーを組むことが出来るというのは、フロマーシュにとってもこの上ない栄誉だ。
だが、勿論のことながら良い球が投げられるというだけでは試合に勝つことは出来ない。ライナは各球種の精度を確かめた後にフォーム固めのシャドーピッチングを経てから、グラウンドにて走者を置いてのシート打撃に臨む予定となっていた。
(よし……このスプリットなら、使える)
フロマーシュからの返球を受けながら、ライナは静かに手応えを感じていた。コントロール、落差、いずれも文句無しの出来栄えだ。これなら長いイニングでも、ここぞの場面で確実に相手を仕留めることが出来る。
ライナの強みは縦の変化だけではなく、カットボールやツーシームも習得しているところにあった。文字通り縦横に相手打者を翻弄する球種を揃え、長いイニングを牛耳ることが出来る。
更に二十球程を投じて、ライナはブルペンを出た。グラウンドの三塁側ダッグアウト前で、シャドーピッチングをこなす為だ。
フロマーシュも同時にブルペンを出たが、彼女は打撃ケージへと足を向けた。ライナと共にシート打撃に入るまでには今少し、時間がある。その間に課題のひとつであるバッティングに時間を割こうという訳だ。
愛用のバットを手にしてケージに入ろうとしたところで、チームのダブル主砲であるヴァーノン・ケルガリーとテオル・ロドリゲスが丁度打撃ケージを出ようとしていた。
「よぅ、若き正捕手。調子は良さそうだな」
ヴァーノンが汗まみれのスキンヘッドをタオルで拭いながら、静かに笑いかけてきた。ヴァーノンもテオルも長年マーシーズの主軸打者としてチームを引っ張ってきたが、そろそろクリーンアップを若い選手に交代して貰おうかと考えているらしい。
「どうだい、お前さん三番か五番を打ってみないか?」
テオルに問いかけられ、フロマーシュは思わず目を白黒させた。テオル曰く、フロマーシュは四番を打つにはいささか非力だが、何でも屋の三番か、ポイントゲッターたる五番ならば十分に務まるポテンシャルがあるということらしい。
フロマーシュは流石に、
「いえ、まだ私は勉強することが沢山ございまして……」
と慌てて辞退したが、ヴァーノンもテオルも、フロマーシュをクリーンアップに推挙したい旨を尚も口にしていた。
そんなフロマーシュを、ライナはシャドーピッチングで汗を流しながら面白そうに眺めていた。
(確かにマーシュの広角打法なら、三番か五番を打たせたら面白いかも)
実のところフロマーシュは捕手としての技量だけでなく、打撃に於いても非凡な才能を発揮しつつある。打てる捕手というのは中々居ない為、フロマーシュがクリーンアップを打てる様になれば、それは他チームに対して大いに脅威となるだろう。
●最優秀バッテリー誕生の予感
マグラウリー・メルゲンガー伯爵のチーム『エストックス』の本拠地も、リーンエス王国内では比較的南の方にある為か、年間を通して温暖な気候に恵まれている。
今季からエストックスに加入したコルネリウス・アーラとリディリディ・トゥラ・イェレミースはキャンプ初日から既に試合が出来る程の仕上がりを見せており、メルゲンガー伯爵はいきなりシート打撃をやろうといい出す始末であった。
新球フォークを習得してきたコルネリウスとしても、この新しく身に着けた球種がどこまで通用するのかを早く試してみたいとの思いもあり、シート打撃に登板することを決めた。
「今日のメニューがひと通り終わったら、お肉を焼きましょう」
などといいながら、プロテクターとマスクを身に着けるリディリディ。彼女も春季キャンプ突入までに相当勉強に勉強を重ねてきたらしく、リード面に於けるその頭脳は既に正捕手と呼んでも差し支えない程に、あらゆる対応能力を見せる様になっていた。
マウンドに上がったコルネリウスと対峙するのは、右の打席に入ったエストックスの主砲ハロルド・リース。巨漢の三塁手で、打撃面ではエストックス最強といえる技術とパワーを持つ人物だ。
キャンプ初日からいきなり強敵と相まみえる格好となったコルネリウス。セットアッパー、若しくはクローザーを目指すに当たって、試合終盤で相手チームの四番を迎えることは多くなるだろう。
リディリディはリースの打撃を、よく知らない。であれば、ここはまずコルネリウスの投げやすいリードを心掛けた方が得策だと判断した。
初球は、内角の直球を要求した。コルネリウスが徹底的に鍛えた球速ならば、いきなり弾き返される心配は無いとの考えから、大胆に攻めることにしたという訳だ。
事実、コルネリウスが投じた初球は、リースの空振りを誘った。
(ふぅ……矢張り、緊張しますね)
か細い腕からは想像も出来ない程に握力を鍛錬してきたコルネリウスだが、肉体の強化のみならず、精神面でも壁エルフのお姉さんを目指そうという目標を抱いている。
手に汗握る様なシビれる場面でマウンドに立つということは、何よりも精神力の強さが要求される。
受けるリディリディも、コルネリウスの強心臓を信じればこそ、大胆なリードで相手打者を攻めることが出来るというものだろう。
二球目は、外へ逃げるスライダー。そのキレの良さに、リースは思わず手が出た。これまた空振りで、あっという間にツーストライクと追い込んだ。
問題はここからだ。二球程ボール球を投げ込んで様子を見るか、それとも一気に勝負へと打って出るか。
(成程、そうきますか……)
リディリディのサインに頷き返しながらも、コルネリウスは内心で苦笑した。リディリディのリードには、何の迷いも無い。それだけ、コルネリウスの投球を信頼している証左であろう。
コルネリウスが投じた三球目は、本塁上で凄まじい程の落差を見せた。新球フォークだ。リースの頭にはこの球種は無かったらしく、直球と思い込んで振ったバットは盛大に空を切った。
三球三振。
チームの主砲を手玉に取ったコルネリウスに、チームメイトから称賛の声が上がった。
(何とか、なりました……)
コルネリウスは懐から取り出した手布を口元に押し当てて、気分を落ち着けた。愛しい彼の匂いが、コルネリウスに落ち着きを取り戻させてくれると同時に、モチベーションを更に押し上げてくれた。
一方、リディリディの傍らにはいつの間にか、チームのエースであるスタンリー・ウェイクフィールドが佇んでいた。
「流石だねぇ。伯爵が新しい正捕手を獲得出来たと喜んでただけのことはある」
ウェイクフィールドは、良かったら俺の球を受けてみないかと声をかけた。
曰く、彼の持ち球には魔球と呼ばれるナックルがあるのだという。投げた当人ですらどういう軌道を描くのかが全く分からないという球を、リディリディには早く慣れて欲しいというのだ。
「はい、それはもう、是非」
リディリディの応えを受け、ウェイクフィールドはマウンドへと向かった。交代してダッグアウト前へと退いたコルネリウスも、ナックルの恐るべき軌道というものには興味があった。果たして、リディリディがどこまで対応出来るのか――その行く末にも、大いに興味がそそられた。
●オープン戦
キャンプインから二週間が経過したところで、突如オープン戦開催の話が降って湧いた。
各チームのキャンプを視察したレオポルド・グラハイム伯爵が、今季は授恵者選手が居ることもあり、チーム同士で軽く試合形式の調整を行った方が良いのではないかと考えたらしい。
各チームとも特に断る理由は無かった為、それぞれ三試合ずつ対戦、各チーム合計九試合実施のオープン戦が開催される運びとなった。
初戦はファルシオンズ対スケールス。試合会場は両チームの中間を取って、メルゲンガー伯爵領内の野球場で実施されることとなった。
先攻はファルシオンズ、後攻がスケールス。
両チームのスターティングオーダーは以下の通り。
ファルシオンズ
1. サフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブ 中堅手(8)
2. バーネット・フォーサイス 遊撃手(40)
3. ハヤト=ガラン=ヴォルファング 二塁手(37)
4. トーマス・ピレオ 一塁手(4)
5. ブレンダン・ショウ 三塁手(24)
6. アルマ・ヴァレンタイン 左翼手(2)
7. ウレオ・クラップ 右翼手(6)
8. アーロン・アルバレス 捕手(32)
9. クリス・ブロートス 投手(18)
スケールス
1. ルベア・ベルニ 二塁手(35)
2. ガッシュ・リールス 遊撃手(1)
3. コルディ・エーゾル 左翼手(59)
4. イーサン・ルート 中堅手(5)
5. アルベルト=V=シュタールシュヴェーアト 一塁手(24)
6. トロイ・ザール 三塁手(29)
7. テリー・エチェバリア 右翼手(72)
8. レヴロン・マックスロー 捕手(2)
9. ジョニー・ウィリアムス 投手(14)
初回表のマウンドにはスケールスのエース、ジョニー・ウィリアムスが立つ。フリーダはリリーフの為、ブルペンでのスタンバイとなった。
試合は足で引っ掻き回すファルシオンズと、正攻法の打撃で攻めるスケールスという構図となった。
「よぉーし、がつんといくよー!」
先頭打者として左打席に入ったサフィラの気合に満ちた声に続いて、審判がプレイボールを告げた。
初球、いきなりバントの構えを見せたサフィラに、スケールスバッテリーはにわかに苛立ちを見せ始めた。シーズンでもないただのオープン戦だが、ルーキーながら相手を揺さぶる策を初回から仕掛けてきたサフィラに対し、腹立たしさを覚えた様だ。
しかしそれこそ、サフィラの思う壺だ。センター返しを中心に打撃を鍛えてきたサフィラにとって、冷静さを失った配球は飛んで火にいる夏の虫だった。
あっさり二球目でセンターへ抜けるゴロでヒットをもぎ取ると、続く二番打者バーネットの打席で、サフィラは早々に盗塁を決めた。
無死二塁となったところで、バーネットは三塁線への犠打を早い段階で決断した。
(足の速い奴らが揃ってるんだし、それを活かすならこれがベストだ)
キャンプ中盤まで犠打を猛練習してきたバーネット。早速、その成果を見せる時が来た。一球外した後、ウィリアムスが投じた三球目の外角に落ちる球を、しっかりとバント。左打者特有の、一塁線へ走り出しながらの犠打に、相手三塁手のザールは大いに慌てた。
結果としてサフィラは悠々と三塁に到達。バーネットは間一髪アウトとなったが、役割は十分に果たせた。
「へへっ……こいつぁ美味しい場面だ!」
続いて右打席に入ったハヤト。サフィラの足ならゴロGOだが、出来ればすっきりと安打で決めたい。
この春季キャンプ、ハヤトはサフィラ以上に打撃を鍛えた。その努力は決して彼を裏切らない。ワイルドピッチを恐れたウィリアムスの投球は甘めに入ってきた。打撃と選球眼の双方を鍛えたハヤトにとって、打って下さいといわんばかりの失投だった。
打棒を振り切り、快音を響かせながらもハヤトは一塁線を駆け抜けた。当然サフィラは悠々と本塁へと到達、ファルシオンズはあっさり先制した。
しかしその後はピレオ、ショウが倒れ、イニング表は終了。ふたり共、打球そのものは悪くなかったが、いずれもルベアの堅実な守備に阻まれ、安打を損した格好だった。
実はルベア、俊足が揃っているファルシオンズを特に要警戒チームと認識しており、サフィラ盗塁の際も、ベースカバーの速さでは決して負けてはいなかったのだ。
そして一回裏の先頭は、その曲者ルベアの打席からだ。
(フリーダさんの剛速球に対して盗塁練習までやってきたんだから、やっぱり塁には出たいかな)
ルベアはちらりと、ダッグアウトのフリーダに視線を向けた。
キャンプ前半、フリーダは自身の投球練習の合間を縫って、ルベアの盗塁練習にも気軽に応じてくれた。そのフリーダの恩に報いる為にも、まずは第一打席、ここで出塁して盗塁を決めたい。
「啓示が出ました。ルベアさん、ホームランです」
ダッグアウトからフリーダの声援。ルベアは、自分はパワーヒッターじゃないんだけど、と内心で苦笑を漏らした。
●シーズンに向けて
結局、ファルシオンズ対スケールスの第一戦は4-2でスケールスの勝利。
初回にアルベルトの逆転スリーランが飛び出し、そのリードを最後まで守り抜いたスケールスが勝利をものにしたのである。勝利はウィリアムス、敗戦はブロートス、セーブはフリーダにそれぞれ記録された。
この試合では、ルーキーたる授恵者選手達の働きが大いに目立った。
ファルシオンズは機動力野球で塁上を賑わせたが、それ以上に堅実な守りが光る試合でもあった。外野ではサフィラの守備範囲の広さや、アルマの矢の様な返球が球場を賑わせ、内野の守りでもバーネットの華麗な守備が敵味方を問わず絶賛された。
「遊撃手は守備の華。こっちも疎かには出来ないってな」
不敵に笑ったバーネットの表情が、これまた心憎かった。
一方スケールスは切り込み隊長ルベアの打撃と足、そして守備の堅実さが一番の注目株だったが、アルベルトの度肝を抜く様な場外ホームランには球場全体が一瞬静まり返るというシーンもあった。
最後を締めたフリーダの火を噴く様な剛速球もまた、両チームの監督を大いに唸らせた。来ると分かっていても打てないというあのストレートが試合終盤に出てくると、ビハインドに立っている側の打者はもう絶望を感じるしかない。
しかしながらフリーダ自身は、
「アール=ティ=エーはトライアンドエラーが大事という啓示がございました」
などと、相変わらず意味不明な台詞を残して球場を去っていった。
翌日にエストックスとのオープン戦初戦を控えたマーシーズは、この日の昼間に行われたファルシオンズ対スケールスの試合の余韻が未だ残る中で、グラウンドでの夜間練習に臨んでいた。
舞台は同じく、メルゲンガー伯爵領の球場。マーシーズとしてはアウェーで戦う格好となる。
オープン戦が始まってはいるが、ライナもフロマーシュも、走り込みだけは毎日の様に続けていた。野球は兎に角体力が第一だという信念があるのかも知れない。
そのふたりの走り込みの最中に、コルネリウスとリディリディがばったりと出くわした。
コルネリウスは先発ではなかったが、リリーフ登板が予想される為、前日から体を仕上げておこうと考えていたのである。リディリディは、そんなコルネリウスに付き合って自身も体を動かしておこうと、一緒になって前日トレーニングに臨んでいた。
「いよいよ、明日ですね」
自然と並んで走る格好となった四人。コルネリウスが笑みを向けると、フロマーシュも穏やかな表情を返してきた。ライナは相変わらずのクールな無表情だが、その瞳の奥には敬意の色が滲んでいる。
スポーツはお互いに相手を尊重し合い、ベストを尽くして戦う。だからこそ、楽しい。だからこそ、続けていこうという意欲も湧く。
命を奪い合う戦場では、決して味わうことの出来ない爽やかで穏やかな気分だった。
「それにしても、凄いですね。ルーキーなのに、もう先発の一角に食い込むなんて」
リディリディが水を向けると、ライナは照れ隠しなのか、ややぎこちない所作で頭を掻いた。そのライナに代わって、フロマーシュがそういえば、と思い出した様にリディリディに視線を向けた。
「ナックルボールって、どの様な軌道を描くのでしょう? 確かそちらのチームには、ウェイクフィールド様という物凄いナックルボーラーの方がおられるのでしたね」
エストックスは前年度の覇者だ。そして優勝の原動力となったのが、ウェイクフィールドのナックルだったといっても過言ではない。各チームの打者はどこにどう入ってくるか全く読めない軌道のナックルを、完全に打ちあぐねた。それ程に、あの球は打てない。魔球と呼ばれる所以であった。
そしてリディリディは、キャンプ初日からウェイクフィールドのナックルを捕球する特訓を続けていた。このナックルを上手く止められるかどうかが、正捕手の地位を確立出来るかの鍵となっている。
「本当に、物凄い軌道ですよ。本塁に到達するまで、どう曲がるか予測が出来ません」
リディリディは敢えて正直に語った。
同じ捕手同士、嘘をつけばすぐに見破られると咄嗟に思ったのだ。それ以上に、ナックルの情報をここで明かしたところで相手に攻略の術はないという確信があった。
これに対しフロマーシュは、矢張りそうでございますかと小さな溜息を漏らした。
明日の先発は、マーシーズがライナ。そしてエストックスがウェイクフィールドである。フロマーシュが溜息を漏らすのも、無理からぬ話であろう。
やがて四人は、グラウンドの本塁付近で足を止めた。額を流れ落ちる汗を拭い、ゆっくりと息を整える。
「走ったら、お腹が空いてきたな」
ライナがぽつりと漏らす。その瞬間、何故かリディリディが警戒の視線を走らせた。ライナとフロマーシュは知らなかったが、リディリディはキャンプそしてオープン戦の期間中もしっかり自分専用の肉を用意していたらしい。
その事実を知っているコルネリウスはただただ苦笑するしかなかったが、ライナもフロマーシュも、何故リディリディがここまで警戒するのか、結局最後まで分からなかった。
そして翌日、エストックスとマーシーズのオープン戦初戦。
先発は予定通り、ライナとウェイクフィールドの投げ合いで始まった。
ウェイクフィールドのナックルが打てないのは想定通りだったが、ライナのスプリットも負けじと相当な威力を発揮し、エストックスの打者から三振の山を築き上げた。
「うはー……ありゃちょっと打てないな」
この日、試合を観戦したアルマはお手上げのポーズを見せた。
アルマとて、春季キャンプではバント技術と打撃を鍛えに鍛え抜いた。内野安打も狙えるし、バスターで内野手の頭上を抜く技も身に着けた。そして同時に足も鍛えた。当初の、体の小ささを利用した四球狙いというスタンスは完全に破棄し、技術向上に頭を切り替えた。
成果はあったし、確実に技量も上がった。が、それでもあのナックルはそう簡単には打てないし、スプリットも手が出ないと実感した。
(シーズン始まるまでに、もっと技術磨かないと……)
アルマの危機感を他所に、試合そのものは3-2の僅差でエストックスが勝利した。
しかし両チームとも、各選手はまだ調整段階に過ぎない。シーズンに入れば、この日以上の熱戦が繰り広げられることになるだろう。
尚、勝利も敗戦も両チームの先発投手にはつかず、それぞれリリーフに記録された。エストックス側の勝利はコルネリウスに、マーシーズ側の敗戦はマット・メイゼランにそれぞれ付けられた。
リリーフエースを目指すコルネリウスにしてみれば、棚から牡丹餅の様な勝利ではあったが、それでも勝ちは勝ちである。
気分良く、次戦以降に臨むことが出来るというものであろう。
そして各チームとも九試合のオープン戦を消化し、いよいよ1222シーズンインを控えるという段になった。
どのチームも授恵者選手が新たに入団したことで力関係が大きく、変化したといって良い。最終的にどのチームが抜け出すのかは、今の時点では誰にも予測出来なかった。
マスターコメント
次はシーズン前半のシナリオとなる予定ですが、少し間が空きます。どうかご容赦下さい。
以下、オープン戦の簡単な成績です。
次回以降はもう少し違う形でリプレイ本文中に記載しますが、今回は参考まで。
■チーム成績
ファルシオンズ
4勝5敗0分 勝率.444
エストックス
5勝利3敗1分 勝率.625
スケールス
3勝5敗1分 勝率.375
マーシーズ
4勝3敗2分 勝率.571
■投手成績(敬称略)
コルネリウス
防御率1.13 2勝 奪三振率4.5 K/BB4 WHIP0.375
フリーダ
防御率1.29 1勝 奪三振率12.84 K/BB5 WHIP0.571
ライナ
防御率1.31 2勝 奪三振率6.53 K/BB2.5 WHIP1.113
■打者成績(敬称略)
ハヤト
打率.214 打点6 盗塁4
バーネット
打率.292 打点6 盗塁3
アルマ
打率.269 打点4 盗塁3
サフィラ
打率.250 打点7 盗塁4
リディリディ
打率.296 打点7
アルベルト
打率.290 打点13 本塁打4
ルベア
打率.296 打点6 盗塁4
フロマーシュ
打率.269 打点8
イベントシナリオ易しい 報酬:少ない11 / 4〜25人
2022年01月18日 00時40分05秒 公開
大成功
参加者
相談掲示板
バーネット・フォーサイスだ。 まぁ、今回もよろしく頼むわ。 図らずしも『ファルシオンズ』に足自慢が集まっちまった事だし、 打撃(犠打)とかを上げて、送る事中心の方向性に変えるつもりだ。
アルマだよ、今回もどーぞよろしくねー 前回のにプラス?で15ポイントも振れるし なにより故障率がないってステキ!(グキッ!) 引き続き足回りといちおう守備位置の練習もがんばるつもりだよ