【人馬】死せる人馬の波

革酎

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シナリオID:1807

オープニング

●亜人の屍
 シルトラース帝国東部で新たに拓かれた東部街道は、南部鎮守都市ヴィント、東方都市ダルトート、北部鎮守都市オルセンの三都市を繋ぎ、商人や旅人達の新たな通行インフラとして機能し始めていた。
 この東部街道の各所には、帝国兵が部隊若しくは班単位で配置される駐屯所が幾つも設置されており、街道周辺で生じる異変を監視し、或いはそれらに対処する態勢が整いつつあった。

 ダルトートからやや北へ向かったところにあるポラスロー駐屯所にひとつの異形が姿を現したのは、粉雪が舞い散る、ある寒い日だった。
「何だあれは……まさか、噂に聞くケンタウロスか?」
 ポラスロー駐屯所の帝国軍警備隊長グリウス・ラーケンは、白いものが交ざり始めた髭面に驚愕の色を張り付けた。
 うっすらと雪が積もった草原の中を、四つ足の何かが近づいて来る。それは、半人半馬の異形の姿をかたどっていた。黒い馬体と、逞しい人間男性の上半身――所謂ケンタウロスと呼ばれる亜人だった。
 そのケンタウロスは全身至る所に鮮血を滲ませており、足取りは目に見えて分かる程に弱々しい。
「奴ら……奴らが、来るぞ」
 驚いたことに、このケンタウロスは人間の言葉を口にした。そしてその必死な形相は、何かを訴えかけてきている。
 ラーケン警備隊長は部下を総動員し、謎のケンタウロスの出方をじっと観察した。ところがその数分後、東の丘を越えて更に凡そ20体のケンタウロスが姿を現した。いずれも最初に出現した個体と同様に、幾分ふらついた足取りでポラスロー駐屯所を目指して前進を続けている。
 そしてそれらの群れの先頭個体の表情が視認出来る位置にまで近づいてきた時、ラーケン警備隊長は部下達に対し、全員防護柵の内側へ退避せよと大声で命じた。
 後から出現したケンタウロスの群れは全て、死相を浮かべていた。瞳は淀んで焦点を失い、肌は土気色に変色している。
「あいつらは……ゾンビだ、間違い無い! 以前、ヴィント防衛戦で普通のゾンビと戦ったことがあるから分かる……ケンタウロスのゾンビに違いない! 良いか、ここから西へは絶対に通すな!」
 半ば裏返ったラーケン警備隊長の叫びは、たまたまこの駐屯所の旅行者用宿舎で休憩を取っていた冒険者達の耳にも届いた。
 ラーケン警備隊長は冒険者達に支援を求めると同時に、最初に姿を現した傷だらけのケンタウロスを、咄嗟の判断で防護柵の内側へと引きずり込んだ。
 この見るからに弱っているケンタウロスは、第一声で警告の言葉を発した。つまりこの個体は敵ではないと、ラーセン警備隊長は瞬時に判断を下し、守るべき対象と認識したのである。
 保護されたケンタウロスはたどたどしい口調ながら、辛うじてヌロブアと名乗った。
 帝国東部辺境に住まうケンタウロスの中でも、古老派と呼ばれる派閥に属するらしい。帝国民との衝突を可能な限り回避し、出来ることならば奪われた土地を奪還して元の生活に戻りたいという思想の集団だということであった。
 ラーセン警備隊長や冒険者達は、更なる情報をヌロブアの口から聞き出したいと願ったが、まずはその前に、ケンタウロスゾンビに対処しなければならない。彼から話を聞き出すのは、その後だ。

●死霊術師、暗躍
 メドゥの指先に属する死霊術師アリバ・ジャハール・カサドはヌロブアがポラスロー駐屯所へと逃げ込む様子を、少し離れた丘の上からのんびりと眺めていた。
「ふぅむ……仕留め切れなかったか。まぁ、良かろう。どのみち、帝国にこちらの動きが知れ渡るのは時間の問題だった訳だしな」
 でっぷりとよく太った腹回りを僅かに揺すって、アリバはくつくつと低く笑った。
 正直なところをいえば、ケンタウロスがどうなろうと知ったことではない。しかしこの特殊な亜人共の死体には興味があった。アリバの死霊術で、どこまで出来の良いゾンビが造れるのか――単純な好奇心から、アリバは配下の吸血屍陸戦隊を放って古老派の一部族を強襲し、その骸をことごとくゾンビとして再生させてしまったのである。
 ヌロブアはその一族の中でも特異個体に該当する戦士であり、且つ人間の言語をも学んでいる稀有な存在だったらしい。
「ま、お手並み拝見だな。ケンタウロスゾンビがどこまで通用するか。結果次第によっては、更に量産することも吝かではない」
 ケンタウロスの平均的な個体戦闘能力は、通常の亜人と比べても高い方だ。それがゾンビとして蘇り、凶暴性や耐久性が強化された。
 如何に冒険者といえども、そう簡単に駆逐することは出来ないのでは、とアリバは踏んでいる。
「それにしても帝国はここ最近、色々騒ぎが絶えないねぇ。シグモルでは過激派が色々元気に頑張っているし、こっちはこっちでケンタウロス共が暴れ回ってくれている。我々にとっちゃあ面白いこと、この上ない」
 アリバは手近に佇む吸血屍の背中にくくりつけていた木椅子を取り外すと、薄く雪が積もった丘の下生えの中に据え、のんびりと腰を下ろした。
 高みの見物に洒落込もうという腹積もりであった。

解説

状況:  PCの皆様はたまたまポラスロー駐屯所の旅行者用宿舎に居合わせた冒険者として、ラーセン警備隊長から臨時の防戦依頼を引き受けたところからスタートします。  敵は約20体にも及ぶケンタウロスゾンビですが、これらを東部街道西側へ通過させてしまうと、その先にある集落や村が襲われる可能性があります。  何としてでもこの駐屯所でケンタウロスゾンビの侵攻を食い止め、撃破する必要があります。  また、古老派と呼ばれる特異個体ケンタウロスのヌロブアから情報を聞き出すことも可能です。対ケンタウロスゾンビのプレイングと併せて、ヌロブアとどの様な会話を進めたいのかも同時に記載すれば、ある程度の情報が引き出せるかも知れません。 敵:  約20体程のケンタウロスゾンビです。  その戦闘能力は未知数ですが、ケンタウロス自体が通常の亜人と比較してもやや強めという情報が出回っていることから、通常のゾンビよりも幾分強いことが想定されます。  尚、死霊術師アリバ・ジャハール・カサドは、冒険者の側から戦闘を仕掛けない限りは参戦しようとはしません。 NPC:  主なNPCはポラスロー駐屯所の帝国軍警備隊長グリウス・ラーケン、ケンタウロス古老派の特異個体ヌロブアの両名です。他に警備隊の帝国兵達がモブNPCとして登場することでしょう。  死霊術師アリバ・ジャハール・カサドは、展開によっては近くまで寄ってくるかも、という程度です。

マスターより

 皆様、こんにちは。  連動『人馬騒乱――神石と騎馬民族――』でのシナリオをご提供致します。  今回は単なる防衛戦のみならず、貴重な情報源からどの程度の情報を引き出すことが出来るかが焦点となります。ヌロブアがどの様な性格のケンタウロスなのかは未だ不明ですが、わざわざ人間の駐屯所にまでやってきて警告を発する辺り、そんなに悪い輩ではないかも知れません。  対ゾンビ、対NPCと色々忙しいシナリオですが、ご参加をご検討頂けますと幸いです。

リプレイ

●迎撃戦
 シルトラース帝国東部街道の、ポラスロー駐屯所。その東側の緩やかな斜面を形成する平原には、うっすらと雪が積もっている。
 鉛色の雲が陽光を遮り白いものがちらちらと舞い散る中、迫り来るケンタウロスゾンビの群れを撃退する為に帝国軍警備隊長グリウス・ラーケンは数名の冒険者達と共に、防護柵の外へと打って出た。
「おいおい、今度はケンタウロス共のゾンビまで出てきやがったのかよ?」
 得物を二刀流に構えながら、ハヤト=ガラン=ヴォルファングは心底呆れた様子で、斜面をゆったりとした歩調で降りて来る不気味な影の集団を凝視した。
「ケンタウロス……初めて見たわ。本当に半人半馬の姿なのね」
 敵が間合いに入ってくると同時に、間髪入れず魔術攻撃を仕掛けようと構えるロゼット。確かにケンタウロスを見るのは今回が最初だが、その一方でアンデッドは嫌という程に見飽きている。そのロゼットの経験から見ても、あのケンタウロスゾンビは通常のゾンビよりも遥かに手強そうであった。
 そのロゼットの傍らを通り過ぎて、コルネリウス・アーラがゆっくりと前へ出る。いつもの様に前衛に立ち、圧倒的な防御力で群がる敵を一手に引き受けつつ、味方に攻撃のチャンスを作るというのがコルネリウスが自らに課した役割であった。
「此処で抑えます……一体も通しません!」
 気合十分のコルネリウス。例え初めて見るケンタウロスゾンビであろうとも、己のやることに変わりは無い。ただひたすら敵を引き受け、守り、そして押し戻す。如何なる敵に対しても壁エルフの娘は自らのスタンスを崩すつもりは無かった。
 と、そこへサイラスとアルマ・ヴァレンタインが駐屯所の建屋から飛び出してきた。今の今まで、警告してくれたケンタウロスの男性ヌロブアへの応急手当に時間を割いていたのである。
「ごめーん、後れちゃったー……って、まだ始まってなかったんだね。んじゃあ丁度良いから、今からブルーフレアかけるよー。皆寄っといでー」
 手招きするアルマに応じて、何人かの警備隊兵が寄り集まってくる。その中には冒険者の影もちらほら。
「ヌロブア殿の容態は?」
 ベルク・オスマットに問われ、サイラスは大丈夫だと右の親指をぐいっと押し上げた。
「幸い致命傷は無かったけどさー、ちょいと体力消耗し過ぎてたってのはあるかもね」
 応じながら、サイラスは迫り来る死者の群れにちらりと視線を送る。今回は流石にヌロブアの心情面をも考慮し、あのゾンビ共を解体して素材に、というのは諦める腹積もりだった。
 サイラスの応えを受けて、ベルクは屍の群れへと視線を転じた。
「人馬のゾンビ……で、それが整然と駐屯所を目指すというのは間違い無く、ヤコブ族(死霊術師)が背後に居るだろうな。いや、この規模だと……」
 そこまで言葉にしかけて、ベルクは唇をつぐんだ。丘の上の大樹の根元に、でっぷりとよく肥えた人影が見えた様な気がしたのである。
 どうやらアルマも気づいたらしく、術式の発動を終えてから、物凄く嫌そうな顔を丘の上に向けた。
「うわー、あのおデブおじさんじゃん」
 メドゥの指先所属の死霊術師アリバ・ジャハール・カサドの姿を捉えたのである。あの男が居るのであれば、ケンタウロスがゾンビと化した理由も自ずと理解出来た。

 敵は大きく分けて、南北ふたつのルートを辿っているらしいことが分かった。
 コルネリウスは比較的数の多い北側を受け持ち、残る南側には同じく前衛として強靭な攻撃力と防御力を兼ね備えるアルベルト=V=シュタールシュヴェーアトが向かう。
「ケンタウロスゾンビめッ! 貴様達を殲滅するッ!」
 アルベルトの戦術は極めてシンプルだ。その迸る様な鋭い剣戟で近づく敵を片っ端から薙ぎ倒し、反撃する余裕すら与えない。まさに攻撃は最大の防御を地で行くスタイルだった。
 そのアルベルトよりも早く、最も近い敵に痛打を加える者が居た。セリオス・オーガストだ。
 セリオスはポラスロー駐屯所の防護柵入り口付近に陣取り、得意とする長射程の一撃で、まず先頭のケンタウロスゾンビの足元に鏃を撃ち込んだ。着弾と同時に無数の光破片が辺り一帯に撒き散らされる。
 本来の目的は足止めだったが、ケンタウロスゾンビには出鼻を挫かれた為に停止するという概念が無く、打撃を受けても尚、ひたすらに進み続けた。つまり少々の攻撃では怯まない耐久力が具わっているということが、この一事からも分かった。
「止まらぬか……ならば、それはそれでも構わない」
 続けてセリオスは強威力の矢を放ち、先頭と、そのすぐ後ろに位置する別個体を纏めて貫いた。こちらは相当に効果があったらしく、撃ち貫かれた二体のゾンビは上体が大きく揺らいだ。
「上手く集めてくれたなッ! 感謝するッ!」
 アルベルトは一瞬だけセリオスに振り向き、良い援護だと称賛を贈った。セリオスの攻撃は南側を突き進んで来るゾンビを一カ所に呼び集める効果をもたらしていた。どうやらこのゾンビ共は攻撃対象だけでなく、光や音にも強く反応するタイプらしい。
 セリオスが先頭の個体に攻撃を集中させたことで、後続のゾンビも一カ所に寄り集まってきた。接近戦を主とするアルベルトにしてみれば、敵が一カ所に固まってくれている方が戦い易い。
 間合いを詰めると同時に、冬の落雷を思わせる轟音が雷神剣から響き渡る。更に続けて放たれる剣戟が、ゾンビ共の肉体を次々と破壊していった。

●殲滅
 北側ルートを守るコルネリウスには、十体を超えるゾンビが群がり始めている。
 コルネリウスが接敵する直前、サイラスが岩砲と鳥獣戯を立て続けに、敢えて一点へと叩き込むことで、敵を一カ所に呼び集めることに成功していた。南側でセリオスが取った戦術をそのまま借用した格好だ。
「おー、来た来た。集まってきたなー……けど、タフな奴らだなー」
 サイラスの攻撃は確かに効いている。が、それでも進撃を足を止めようとしないケンタウロスゾンビは耐久力が通常のゾンビを遥かに上回っていると推測された。
「この強靭さ……それにアルマさんが仕掛けたジャマーが利かないところを見ると、吸血屍と同じ特性……ということは、これらのゾンビは自然発生ではなく、恐らくはあの死霊術師……アリバさんの仕業ですね」
 コルネリウスは祭刀を振るって先頭のゾンビへと接敵した。徹底的に防御へと意識を集中させながらも、強力な祭刀で複数のゾンビに纏めて打撃を叩き込む。
 手応えはあったが、歩みは止まらない。それでも、この状況はコルネリウスの想定内だ。サイラスが一点に掻き集めたゾンビ共に最初に接敵して打撃を与えることで、北側から迫る全てのゾンビの攻撃を自身に集めさせることが出来た。
 後は鉄壁の防御でひたすら耐え続ける間にハヤトとベルクが敵集団の外縁部を駆け巡り、着実にその数を減らしていけば良い。
「おおっとぉ! こいつら、なかなか足癖が悪ィみてぇだなッ!」
 脚部への攻撃に主眼を置いたハヤトに対し、ケンタウロスゾンビは強烈な蹴りで反撃してきた。勿論ハヤトの回避力の前ではただ虚しく空を切るばかりである。
 蹴りは威力が大きい分、空振り後は隙が大きい。ハヤトは一気に接近して爪牙と忍刀による連続攻撃でまず一体、地に這わせた。
「矢張り所詮はゾンビだな。こちらの動きを予測して対処するという動きはまるで見られない」
 すれ違いざまに後ろ脚へ連撃を叩き込んでは離脱してゆくベルク。踏ん張りが利かなくなった個体はその場に崩れ落ち、コルネリウスの振るう祭刀に頭部を叩き割られていた。
 ハヤトが右回り、ベルクが左回りで敵集団外縁部の個体を次々と、動く屍からものいわぬ骸へと変えてゆく。だが流石にふたりの攻撃だけでは手が足りない。
 そこでロゼットとアルマの出番だ。
 ロゼットは魔法攻撃を巧みに使い分け、上半身と下半身を別々に攻めた。まず下半身を叩いて動きが鈍くなったところに、渾身の魔力を上半身に撃ち込んで息の根を止めるという戦術だ。
 その見た目から通常のアンデッドよりも手強いと感じていたロゼットだが、それも戦術次第で十分にカバー出来るということを自ら実演していた。
(……願わくば彼らの魂が、迷わずマトリクス界へと至りますように)
 戦いながらも、祈りを忘れない。神徒での教えはただ敵を殲滅するのではなく、憐れな犠牲者への想いを忘れぬこと。街角の教会での教えにも通じるその願いは、この場には居なくとも、ヌロブアには十分に伝わっていることだろう。
 一方のアルマはジャマーこそ不発に終わったものの、その小さな体躯から放たれる鋭い矢はケンタウロスゾンビの出足を止めるだけの破壊力を見せつけていた。
「よーし、大体敵は出尽くした感じかなー。隊長さん、念の為に他にも居ないか、見て来てくれる?」
「承知したッ!」
 アルマの要請を受けて、ラーケン警備隊長は数名の部下を幾つかの班に分けて偵察へと走らせた。アリバが波状攻撃を仕掛けてこないとも限らない。警戒に警戒を重ねておいても損は無いだろう。
 だが結局、ケンタウロスゾンビは他には居ないことが明確となった。
 冒険者達は数分程度で既にその半分以上を討ち斃した敵に、最後の猛攻をかける決断を下した。
 ロゼットが召喚した雷が、北側ルートで尚も蠢くゾンビ共の頭上で轟いた。と思った次の瞬間には、疾風と化したハヤトとベルクが残り僅かとなった敵個体をものの数秒で突き崩してゆく。
 更にそこへ、南側ルートの敵を全滅させたアルベルトが参戦してきた。最早この時点で勝負ありだ。
「この騒乱の根源は……」
 防護柵入り口付近で、セリオスは丘の上へと視線を巡らせた。が、あのでっぷりと太った人影は既に居なくなっていた。ケンタウロスゾンビ劣勢と見て、早々に切り上げていったのだろう。
 やがてポラスロー駐屯所を襲撃しようとしていたケンタウロスゾンビはその全てが討ち斃された。
 冒険者側の圧倒的な実力と優れた戦術が見事に融合し、苦戦らしい苦戦も無く、完璧に近しい一方的な展開で戦いの幕は閉じられた。

●インタビュー・ウィズ・ケンタウロス
 戦闘終結後、コルネリウスとベルクの計らいで、討滅した全てのケンタウロスゾンビの骸はポラスロー駐屯所敷地内の空き地に埋葬された。
 念の為にとベルクがヌロブアに埋葬地についての意見を求めたが、ヌロブアはこの地での弔いで構わぬと、感謝の意を示した。
 そのヌロブアに対してはアルマとロゼットが改めて治癒術を施術し、傷を全て回復させた。
 ひと心地ついたヌロブアと冒険者達は駐屯所の会議室に集まり、それぞれの席を与えられ、改めて面談という形を取った。勿論ヌロブアは下半身が馬である為、椅子に座るのではなく、床板上に直接膝を折って卓に面するという形ではあったが。
「貴方の同胞だった彼らは私達が斃したわ……心からお悔やみを」
「ありがとう。あなた方のお気遣いに感謝します」
 ロゼットの心遣いには素直に頭を下げたヌロブアだったが、彼女が供した紅茶には相当に困惑していた。ヌロブアの部族には茶を嗜むという習慣が無かったのかも知れない。
「お腹空いてない? お肉一杯用意してきたから、警備兵の皆も遠慮無く食べてってね!」
 焼いた肉を大皿に盛って立ち回るアルマ。負傷で失われた血肉は、食事によって賄われなければならない。紅茶には戸惑ったヌロブアも、アルマの出した肉は素直に受け取り、美味そうに齧りついていた。
「ヌロブアさんの警告のお陰で、この駐屯所を護ることが出来ました。私達も貴方をお守りします」
 コルネリウスの言葉に、ラーケン警備隊長が任せろと胸を張った。既にヌロブアは警戒心を欠片も抱いていないらしく、安堵した様子で静かに頷き返した。
「ところでケンタウロスにはふたつの派閥が在るみたいだが、その違いは何だろうか?」
 アルベルトが長身を揺すって、卓上に身を乗り出した。ヌロブアは、彼の部族には派閥という概念は無いものの、ケンタウロス全体にはおおまかに分けて、二種類の思想が広がり始めていることを認めた。
 所謂、古老派と新生派である。
 だがそれ以前に、もっと根本的な問題があった。何故ケンタウロスがシルトラース帝国民の生活圏内に姿を見せる様になったのか、である。
 ヌロブア曰く、ケンタウロスの聖地が何者かに襲撃され、離脱を余儀無くされたのだという。
 古老派は帝国との戦闘を避けて聖地奪還を目指し、逆に新生派はこれを機に帝国への版図拡大を狙って動き出したということらしい。
 ヌロブアの部族に対しては、聖地を強奪した敵集団のひとりが屍の群れを使役してヌロブア以外を皆殺しにした上、その遺体の一部を動く屍兵として復活させた様だ。
 であれば、聖地を奪った敵の正体というものも自ずと推測出来る。
「メドゥの指先、ですか」
 コルネリウスは思案顔で腕を組んだ。
 ヌロブアの同胞を生ける屍へと変えたのがアリバであるならば、アリバが属する組織、即ちメドゥの指先が今回の騒乱の裏に潜んでいることは間違い無いだろう。
「つまり、メドゥの指先が貴方達の聖地を奪った結果、聖地奪還を目指す古老派がメドゥに戦いを挑む一方、新生派は聖地には拘らず、帝国民の領土に侵略の矛先を向けたという訳ですか」
 ロゼットは思わず天井を仰ぎ見た。中々面倒な構図になっていることが、漸く理解出来たのである。
「ね、他の部族のことって分かる? 部族名とか、派閥間のパワーバランスとか、後はヌロブアさん達の土地でエーテル枯渇が起きていないかとか」
 アルマの問いかけには、ヌロブアは大した情報を返すことが出来なかった。彼の部族はトゥボロと呼ばれていたが、他の部族に関しては余り交流が無かった為、よく分からないのだという。更にトゥボロ部族は早々に聖地を脱出した為、エーテル枯渇についても一切不明だった。
「やっぱり東で何か起きてやがるな……問題はメドゥの連中が何を目的として聖地を奪ったか、だな」
 ハヤトは各方面から届き始めている諸々の情報から、この騒乱はもっと大きな波に変じると予感した。
「その聖地には、何か特別なものがあるのかい?」
 サイラスの問いかけに、ヌロブアは一瞬のためらいを見せた。いって良いものかどうか、相当に悩んだ様子だった。が、彼はどうやら受けた恩義には誠実を以って返すタイプの人物らしい。
 ヌロブアは、聖地を奪った敵は神石を狙っているのかも知れない、と告げた。
 神石――そのただならぬ響きに、サイラスの瞳が僅かに煌めいた。
 侵略には必ず、目的がある。
 冒険者達は近い将来、間違い無く起こるであろう騒乱に、それぞれの表情を引き締めた。

マスターコメント

 皆様お疲れ様でした。  それなりに難しい依頼だった筈なのですが、終わってみれば授恵者圧勝、情報もがっつり獲得。  お見事のひと言に尽きます。  ヌロブアはこの後、ポラスロー駐屯所にそのままお世話になり続けることになりますが、彼のその後を描く機会があるかどうかは未定です。  裏で糸を引いている敵は極めて強大ですので、どうぞ気を引き締めて臨んで下さい。
ショートシナリオ

ショートシナリオ難しい 報酬:標準8 / 4〜8人

2022年02月06日 20時36分06秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. アルベルト・V・シュタールシュヴェーアト

    ウォーリアのアルベルト=V=シュタールシュヴェーアトだ。 よろしくな。 とにかく、ケンタウロスゾンビをポラスロー駐屯所より先に行かせないようにしないとな。 俺はケンタウロスゾンビを殲滅するためにとにかく前線で大暴れするつもりだぜ。 アリバ・ジャハール・カサドには構っている余裕は無いな。 今回は奴は無視だな ヌロブアにはケンタウロスの派閥争いについて聞いてみるか・・・

  2. ロゼット

    ヒーラーの神官戦士ロゼットよ。よろしくね。 現場のポラスロー駐屯所には防護柵があるようね。 基本はこの柵より前で打って出るか、柵より内側で 警備兵と共に守備固めに入るか、という感じかしら。 敵の撃破はもちろんだけど、今後のケンタウロス対応を 考えると駐屯所への被害も最小に抑えた方が良さそうね。 私は配置は検討中、ゾンビといっても四つ足は移動力が ありそうだし、素直に柵の内側で迎え撃とうかな、とか。 >ヌロブア とりあえず彼への接触・会話は防衛戦の後、で良いかしら。 負傷しているなら先に回復を、とも考えられるけど元気に なって大人しく待っててくれると限らないし、後で良いかな?

  3. No.3

    サイラスだ、よろしくなー 杖で行くわ。柵よりギリ前くらいで 打って出るより待つ方が良いし、最悪突破されそうなら殺界で時間稼げるし。 ケンタウロスに関しては戦闘後の治療に賛成、念の為軽く見て急いで処置する必要はないかだけ見ようかと。情報に関してもそれで良いし、必要で治療した場合相手は口が柔らかくなるかなと?

  4. ベルク・オスマット

    シーフのベルクだ。よろしく頼む。 我は敵中で相手の足を潰すとしよう。 人馬族とは言え早急に眠らせてやりたいものだ。 治療は後でいいだろうな、先に治すと後ろで暴れられる危険が出るし、無理を押して戦場に出てこられても困る。

  5. アルベルト・V・シュタールシュヴェーアト

    >ヌロブアとの接触・会話・回復 防衛戦の後で、問題ないと思います。 自分も、そのつもりでいました ・・・が、記載が漏れていましたね。

  6. アルマ・ヴァレンタイン

    ヒーラーのアルマだよ、どーぞよろしくねー ヌロブアさんとのお話やお手当ては戦闘後ってことでりょうかいー 戦闘ではブルーフレア後は魔法の範囲攻撃をする予定 防護柵は活用していいのか壊れると困るのか次第で位置取りを調整するね

  7. ロゼット

    なら私も防護柵の外側、柵前で柵の破壊を防ごうと思うわ。 柵付近から、魔矢やエーテルブローの遠近を使って攻撃を予定、 柵付近にゾンビが群れたら祈雷で範囲攻撃してみるわ。 アルマも居るけど、私も回復スキルは持っていくから 切り込む人は必要な時は利用してちょうだい。

  8. コルネリウス・アーラ

    遅くなってすみません、ウォーリアのコルネリウスです。よろしくお願いしますね。 >ヌロブア ヌロブアさんへの接触・回復は後にという流れで私も同意です。 >方針 防護柵の外側、という事で統一して良さそうですし、私も柵の前で抑えを行いますね。 防衛に集中するので、敵の数を減らす方の補助になればと思います。

  9. セリオス・オーガスト

    ・・・・ん、シューターのセリオスだ、よろしく頼む とりあえずヌロブアの対処やら戦闘位置は異論ない 防衛陣地を抜かれるとまずいから俺も濃煙でも撃っておくべきか。万が一そのまま突っ込んできても柵を作っておくなり簡易な落とし穴でも作れば勝手にはまりそうだしな。よけたら避けたで足止めにはなるだろうし

  10. ハヤト=ガラン=ヴォルファング

    おーっす! ブレイブファング傭兵団のハヤト=ヴォルファングだ、よろしくな!! 俺もヌアブロへの対応はゾンビ共を殲滅してからで良いと思うぜ。 防護柵の外で蹴散らすってのにも賛成だ。 俺はいつも通り戦場を駆け回ってゾンビ馬共の脚を斬り飛ばして機動力を奪う戦法で暴れるぜ!!

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0