【竜盤】星降る夜と夢の跡
桃谷かな
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シナリオID:1775
オープニング
ドワーフ王国に、冬が来た。
クリエスター山脈北東部に広がる平野。雪がちらつくマミダの大地に、一台の馬車が蹄と車輪の音を響かせていた。
「……あ」
下を向いていたリーミルは、ふと窓の外に人の気配を感じて顔を上げる。
身を切るような寒さの中、馬車とは逆の方向へ街道を歩いてゆく人の群れが見えた。
「メルトウォール……」
彼らは互いに手首を繋がれ、移送されていく罪人たちであることはひと目でわかった。
ドワーフ王国の兵士たちに連れられて歩く彼らの列は、いつ通り過ぎるともわからぬほど長い。
目を凝らしてよく見てみれば、人間だけでなく亜人も幾人か混じっているようだった。
彼らはもう、裁きを受けた後なのだろうか。
疲れた顔で俯き気味に歩く人々を見送りながら、リーミルは彼らの向かう先へと想いを馳せた。
●
「まぁ~~っだく、メルドウオールだか何だか知らねっけどよ。夢みでぇなことばっか考えで人様に迷惑かけちゃならんべさ」
マミダ地域の南に位置する洞窟都市コシュカ。メルトウォールに壊されたという近所の家の瓦礫をリーミルとともに片付けながら、叔父は渋い顔でそうぼやいた。
「邪竜にだまされたっでぇのは気の毒かもしれんべ? けんど、ウチの鶏どもはみ~~んな、奴らが連れでた魔獣に喰われちまった」
指さす先には、無残に破壊された鶏小屋と無数の羽根。叔父家族の家も、居間の壁に大穴をあけられてしまっている。
「通りの向こうの奥さんなんで、逃げる途中で転んで腹の子が流れちまったべよ。それだけでねぇ。こん街を守ろうどして戦った青年団が何人死んだがわがんねぇべさ。子どもが死んじまった、帰ってこねぇって泣いてる親を見るのは辛ぇべよ」
「そうだったの……」
メルトウォールの急襲を受けたコシュカは、他の11都市とほぼ同時期に陥落した。住民の半数は逃げ延びたものの、逃げ遅れた者たちはメルトウォールの占領下で抑圧された暮らしを強いられたという。ドワーフ王国軍と冒険者による奪還作戦が本格化するまでに、戦って死んだ者たちも少なくなかった。
リーミルの叔父も、運悪く逃げ遅れて都市に取り残されていたうちの一人だ。
「でも、叔父さんたちが無事で本当によかったの」
微笑むリーミルに、叔父は苦笑いを浮かべて応じる。大きな煉瓦を台車に載せつつ、うんざりといった様子で頭を振って見せた。
「一家全員助かっで何よりだけんどよ。ロクに外にも出れねぇ、酒も飲めねぇっでぇ中で、毎日のようにメルドウオールの若ぇのが説教しに来やがったべさ。やれ理想郷だぁ、亜人も魔獣もわかり合えるだぁ、夢ばぁ~~っがり何時間も聞がされてよ。こっちゃそれどころじゃねぇべ」
種族の壁を越えて共存できる理想郷の話も、日々の暮らしを奪われた側にとっては取るに足らない夢物語でしかなかったようだ。メルトウォールには社会的弱者や被差別層の者も多かったと聞くが、それは無関係のドワーフに危害を加えてもいい免罪符にならない。
「まあ、起きちまったごとは仕方なかんべ。上手い話にゃ裏があるっでぇ、奴らも身に染みたべな。……しっがし、リーミルもすまねぇなぁ。一晩しがおれねっでのに、片付けなんが手伝わせちまっでよ」
「いいの。仕事のついでだし、叔父さんたちの顔が見れてよかったの」
普段はリブラネスタの冒険者ギルド本部に勤めているリーミルだが、この日はマミダ地域の復興の手伝いに行く冒険者たちと支援物資を送り届けるため、ビッグオウム便に乗ってドワーフ王国へ出張していた。
ついでに、大変な目に遭ったらしい叔父家族を見舞おうと馬車に乗り、一泊だけの予定でコシュカを訪れたのだ。
しかし、コシュカはリーミルの想像以上に荒れていた。
全壊とまではいかなくとも、一部を破壊された沢山の家々。略奪された店や酒蔵。財産や家畜、仕事道具を奪われた人々。
住民たちは寒風吹きすさぶ中でメルトウォールの夢の跡を片付け、同じ馬車でこの都市を訪れた冒険者たちもその手伝いに追われていた。
「仕事仕事っでぇ、お前、あっちでイイ男でも見つけらんねぇべか? そろそろお年頃だべさ」
始まったぞ。と、リーミルは身構える。
この叔父はいい人なのだが、たまに会う親戚の娘にいちいち見合いを勧める厄介なオッサンでもあるのだ。
「やだなぁ。リーミルはまだ新米なの。そういうのはまだまだ先なの!」
「そんなごと言って、気づいだらイイ男はあっという間に売れちまうべよ。今夜、片付けが終わっだら『星の洞窟』で祝勝会があるべ。そごで俺のツテで話をまとめてやんべさ」
やんわり断るリーミルだが、そんなことで仲人おじさんは引き下がらない。作業を続けながら事も無げに、勝手に話を進めようとし始める。
「ええぇ!? 遠慮するの! そういうのは大丈夫なの!」
「若ぇ女が遠慮なんでするもんじゃね。俺に任せとけばいいべよ」
「そうじゃなくってーーーーー!!!」
雪雲が去り、晴れ渡った空に太陽が輝く。
街を取り戻したドワーフたちの日常が、再び始まろうとしていた。
クリエスター山脈北東部に広がる平野。雪がちらつくマミダの大地に、一台の馬車が蹄と車輪の音を響かせていた。
「……あ」
下を向いていたリーミルは、ふと窓の外に人の気配を感じて顔を上げる。
身を切るような寒さの中、馬車とは逆の方向へ街道を歩いてゆく人の群れが見えた。
「メルトウォール……」
彼らは互いに手首を繋がれ、移送されていく罪人たちであることはひと目でわかった。
ドワーフ王国の兵士たちに連れられて歩く彼らの列は、いつ通り過ぎるともわからぬほど長い。
目を凝らしてよく見てみれば、人間だけでなく亜人も幾人か混じっているようだった。
彼らはもう、裁きを受けた後なのだろうか。
疲れた顔で俯き気味に歩く人々を見送りながら、リーミルは彼らの向かう先へと想いを馳せた。
●
「まぁ~~っだく、メルドウオールだか何だか知らねっけどよ。夢みでぇなことばっか考えで人様に迷惑かけちゃならんべさ」
マミダ地域の南に位置する洞窟都市コシュカ。メルトウォールに壊されたという近所の家の瓦礫をリーミルとともに片付けながら、叔父は渋い顔でそうぼやいた。
「邪竜にだまされたっでぇのは気の毒かもしれんべ? けんど、ウチの鶏どもはみ~~んな、奴らが連れでた魔獣に喰われちまった」
指さす先には、無残に破壊された鶏小屋と無数の羽根。叔父家族の家も、居間の壁に大穴をあけられてしまっている。
「通りの向こうの奥さんなんで、逃げる途中で転んで腹の子が流れちまったべよ。それだけでねぇ。こん街を守ろうどして戦った青年団が何人死んだがわがんねぇべさ。子どもが死んじまった、帰ってこねぇって泣いてる親を見るのは辛ぇべよ」
「そうだったの……」
メルトウォールの急襲を受けたコシュカは、他の11都市とほぼ同時期に陥落した。住民の半数は逃げ延びたものの、逃げ遅れた者たちはメルトウォールの占領下で抑圧された暮らしを強いられたという。ドワーフ王国軍と冒険者による奪還作戦が本格化するまでに、戦って死んだ者たちも少なくなかった。
リーミルの叔父も、運悪く逃げ遅れて都市に取り残されていたうちの一人だ。
「でも、叔父さんたちが無事で本当によかったの」
微笑むリーミルに、叔父は苦笑いを浮かべて応じる。大きな煉瓦を台車に載せつつ、うんざりといった様子で頭を振って見せた。
「一家全員助かっで何よりだけんどよ。ロクに外にも出れねぇ、酒も飲めねぇっでぇ中で、毎日のようにメルドウオールの若ぇのが説教しに来やがったべさ。やれ理想郷だぁ、亜人も魔獣もわかり合えるだぁ、夢ばぁ~~っがり何時間も聞がされてよ。こっちゃそれどころじゃねぇべ」
種族の壁を越えて共存できる理想郷の話も、日々の暮らしを奪われた側にとっては取るに足らない夢物語でしかなかったようだ。メルトウォールには社会的弱者や被差別層の者も多かったと聞くが、それは無関係のドワーフに危害を加えてもいい免罪符にならない。
「まあ、起きちまったごとは仕方なかんべ。上手い話にゃ裏があるっでぇ、奴らも身に染みたべな。……しっがし、リーミルもすまねぇなぁ。一晩しがおれねっでのに、片付けなんが手伝わせちまっでよ」
「いいの。仕事のついでだし、叔父さんたちの顔が見れてよかったの」
普段はリブラネスタの冒険者ギルド本部に勤めているリーミルだが、この日はマミダ地域の復興の手伝いに行く冒険者たちと支援物資を送り届けるため、ビッグオウム便に乗ってドワーフ王国へ出張していた。
ついでに、大変な目に遭ったらしい叔父家族を見舞おうと馬車に乗り、一泊だけの予定でコシュカを訪れたのだ。
しかし、コシュカはリーミルの想像以上に荒れていた。
全壊とまではいかなくとも、一部を破壊された沢山の家々。略奪された店や酒蔵。財産や家畜、仕事道具を奪われた人々。
住民たちは寒風吹きすさぶ中でメルトウォールの夢の跡を片付け、同じ馬車でこの都市を訪れた冒険者たちもその手伝いに追われていた。
「仕事仕事っでぇ、お前、あっちでイイ男でも見つけらんねぇべか? そろそろお年頃だべさ」
始まったぞ。と、リーミルは身構える。
この叔父はいい人なのだが、たまに会う親戚の娘にいちいち見合いを勧める厄介なオッサンでもあるのだ。
「やだなぁ。リーミルはまだ新米なの。そういうのはまだまだ先なの!」
「そんなごと言って、気づいだらイイ男はあっという間に売れちまうべよ。今夜、片付けが終わっだら『星の洞窟』で祝勝会があるべ。そごで俺のツテで話をまとめてやんべさ」
やんわり断るリーミルだが、そんなことで仲人おじさんは引き下がらない。作業を続けながら事も無げに、勝手に話を進めようとし始める。
「ええぇ!? 遠慮するの! そういうのは大丈夫なの!」
「若ぇ女が遠慮なんでするもんじゃね。俺に任せとけばいいべよ」
「そうじゃなくってーーーーー!!!」
雪雲が去り、晴れ渡った空に太陽が輝く。
街を取り戻したドワーフたちの日常が、再び始まろうとしていた。
解説
●依頼内容:
・メルトウォールから奪還されたドワーフ王国マミダ地域の都市コシュカにて、片付けをする人々の手伝いをしてください。
・日が暮れると、コシュカ自慢の『星の洞窟』で祝勝会があります。ぜひ出席してください。
●状況
皆さんは、少し前までメルトウォールに占領されていたマミダ地域南部の都市「コシュカ」の片付けを手伝う依頼を受けました。
コシュカはテンゼンなどのように大規模な戦闘があった都市ではありませんが、それでも初期のメルトウォール急襲とその後の奪還戦で犠牲者を出し、民家を含め建物の損害もそれなりにあります。
避難していた住民は最近戻って来たばかりで、復興のための後片付けの手が足りない状況です。
●洞窟都市コシュカ
背後に山がそびえる都市で、山裾に広がる街と山肌にあいた幾つもの洞窟をあわせて一つの都市。建築技術が高く、煉瓦や石造りの美しい街並みが広がっていました。山肌の洞窟も住居や工房、貯蔵庫など様々な用途に利用されています。
●お手伝い
生活を破壊されて困っている住民の助けになることであれば、大抵なんでもOKです。
瓦礫の片付け、貴重品や仕事道具の掘り出し、家にあいた穴をふさぐ、荒らされた店や酒蔵の片付け、人探し、炊き出し etc…
●祝勝会
日没後、住民たちが集まって行われる祝勝会に招待されています。
場所は『星の洞窟』と呼ばれる洞窟とその周辺の広場。洞窟内はかなり広く、鳥獣などの彫刻が飾られています。天井には丸く大きな穴があいており、美しい星空を眺めながら宴会ができます。
ドワーフの宴会なので酒だらけです。ツマミは塩、フライドポテト、ピクルス、ローストポーク、その辺にいたクリーパーの謎肉焼きなど沢山あります。
テンゼンから裏ルートで流れてきたワイバーン肉を食べてみようという動きもあるようです。
●NPC
・リーミル
都市同盟リブラネスタの冒険者ギルド本部に勤めている受付係。コシュカに住む叔父一家を見舞いに来て、一泊の予定で片付けを手伝っています。酒が恋人。
・リーミル叔父
リーミルの父方の叔父。妻と息子(15)がいる仲人おじさん。200組は仲を取り持ったなどと豪語しており、祝勝会でアグレッシブに動きリーミルの縁談をまとめようとしています。なお『匠王』シグルランは母方の叔母なので、このおじさんとは無関係です。
マスターより
こんにちは、桃谷です。
忙しくて【竜盤】決戦に参加できなかったリーミルですが、出張ついでに親戚の無事を確認しに来たようです。
NPCはプレイングで指定された場合のみリプレイに登場します。
大変な目に遭ってしまったドワーフたちが無事に冬を越せるよう、復興のお手伝いをお願いします。
また、祝勝会にはジュースもありますので、まだ飲んではマズイ年齢の方はそちらをガブ飲みしてください。
リプレイ
「ここも、やっぱり酷いですね……。少しでも、復興の足しになればいいのですけど」
「はい……。また、雪が降り出さなければ良いのですが」
リサ・ベイカーが呟き、隣のゲルダ・クラインが小さく頷く。
街には無事な建物も勿論あるが、視界には今にも倒壊しそうな家屋や荒された商店がいくつも見える。
「生活を壊されても、再起不能とまではならなかったのは不幸中の幸いといえるか。俺の村も……」
だわは、ふと脳裏を過った過去の光景に両の目を伏せた。しかし、今はそれを考えるべきではない――と、瞬きひとつして、ストレガ・L・リベルガストラとともに馬車から荷物を降ろしにかかる。
「ドワーフには個人的に装備でもお世話になってるしねぇ。土木仕事なら、ご縁が色々あって得意でさっ」
人手が少ないなら、各々得意分野を活かす方向で――と、アリア・ティーダが早速冒険者たちの希望を纏め始めた。
「私は、叔父の家とその近所の片付けを中心にを手伝いますね」
「およよ、リーミル氏の叔父さんがいるんだぁ」
手土産に酒を持参した甲斐があったかな、と笑うアリア。そのすぐそばでは、白狼を連れたマリイ・パルティスが思案顔で髪をいじっていた。
「リーミルさん。その……私の耳、隠しておいたほうが良いでしょうか? 今は大変な状況ですし、あまり住民の方を刺激したくなくて」
「うーん……手伝ってくれる方に文句は言わないと思うんですけど……」
問われたリーミルも、困った顔で首を傾げる。マリイの耳は目立ちにくいほうだが、コシュカのドワーフはお世辞にもエルフ慣れしているとは言えない。
結局、髪をふんわりと結って耳の先を覆い、寒さ対策に見せかけてストールを巻いておくことになった。
炊き出しの手伝いに駆けて行くリサとストレガを見送り、ゲルダは改めて破壊された街並へと視線を巡らせる。
――戦いが終わっても、いなくなった人が戻るわけではなくて。
だけど、それでも――いまは、できることを、できる限り。
冒険者たちは、動き始める。
●
遠ざかっていく雪雲の下、地図を囲んで打ち合わせしているのは、アリア、ゲルダ、だわの3人だ。
「ココと、ココとぉ――あと、ココもかなっ。更地にするし元々空き家だったらしいから、廃材置き場にしてもイイって」
「では、不要な瓦礫はそちらへ運びますね」
「そうだな。この街は建築技術が優れていると言うし、瓦礫の再利用も考えているだろう」
「もし、作業中に貴重品や思い出の品が出てきたら、どうしましょうか」
「周りの人に聞いてもわかんないのは、どこか置き場所を決めよっか?」
「なら、星の洞窟近くの広場に集めよう。今夜集まった住民たちに話しておけば、持ち主が探しに来るかもしれないからな」
建築・土木知識をもつアリアがドワーフたちと一緒にザッと街を見て回り、廃材置き場に適した場所を選出。力仕事が得意なゲルダとだわは、特に瓦礫が多い場所を片付けることにした。
「兄ちゃん。そんなデカいの持ち上げられるのかい?」
「授恵者だからな。台車を借りてもいいか?」
「ああ勿論。そこに置いてあるのを使ってくんな」
余計なことは考えず、目の前の瓦礫を黙々と台車に積んでいくだわ。さすがに抱えきれないものは、借りたつるはしを振り下ろして小さく割った。
「……ふう。中々いい鍛錬になる」
崩れた家屋の壁は一見利用価値がないようにも見えるが、形や硬さによっては敷石や彫刻材、砂利などに再利用できるだろう。割れた煉瓦も花壇の装飾に使えば華やかさが増す。だわは「これは」と思うものを敷地の隅にまとめ、周囲で作業しているドワーフたちに声をかけていった。
「ん……?」
だわが瓦礫の下から探り当てたのは、藤の籠に入れられた何枚かの子供服。まだ着られそうなそれを家主らしき男に届けると、彼は一瞬、表情を翳らせた。
「その持ち主は、もう着られないんだ」
「……そうか」
思い出の品であっても、今は見たくないのかもしれない。ひとまず見えないところに置こうと歩き出しただわを、男は深く息を吐きながら呼び止めた。
「……そうだな。娘にはもう必要ないが、誰かが使ってくれるなら……それも良いだろうな」
済まないが娘のものを、もう少し探してくれないか。と。
無理に明るい表情を作ろうとする父親に――だわは、無言で深く頷いた。
「ん~~~……よいしょ!!!」
「「「おおおおおおお!!!!」」」
身の丈より大きな瓦礫を軽々と持ち上げたゲルダが、ドワーフたちの拍手喝采を浴びている。
「えいっ」
さらに彼女がその瓦礫を忽然と消すと、追加の拍手が惜しみなく送られた。こんなに驚かれ、喜ばれるとは。ゲルダは何だか、こそばゆい気持ちでほんのりと頬を染めていた。
「お役に立てて嬉しいです」
大きな瓦礫はそのまま、小さな石片は麻袋に詰めて、マジカルポケットで効率よく運んでいく。何往復かした帰り道、ゲルダはふと、見知った後ろ姿を見つけて足を止めた。
「うう~ん。なかなか動きませんね……!」
「すまないねぇ……こんなこと頼んじまって。あたしは腰が悪くて動かせないもんでさ……」
半壊した家屋の瓦礫の山と戦っていたのは、マリイと白狼のコルデラだ。自宅で飲食店を営んでいた女性から調理器具の捜索を頼まれたのだが、巨大な壁の残骸に阻まれ作業が進まない。
「いいえ! 私も職人なので……気持ちは分かります。やっぱり馴染んだ道具が一番ですよね。私も師匠にもらった仕事道具が恋しいです……使いやすくて、可愛くて――と、探すのに集中しないとでした!」
ウンウンと唸りながら瓦礫を持ち上げようとするマリイ。鼻先を瓦礫の下に押し込んで頑張るコルデラ。鍋でも包丁でも、少しでも無事なものを見つけてあげなければ――と奮闘する2人を見て、ゲルダがパタパタと駆け寄ってきた。
「わたしも手伝います。……せ~のっ!」
「やった! ゲルダさん、ありがとうございます!」
授恵者2人と狼のパワーで脇に退けられた瓦礫の下には、細かい石片と木材。マリイとコルデラが慎重にそれを掘っていくと、木箱のようなものが顔を出した。
「それ! あたしの包丁が入ってる箱だよ! 母から受け継いだものでね、これじゃないとダメなんだ……!」
「無事に見つかって良かったです。さあ、早くお仕事を再開していただけるように、もっともっと掘り出しますよ!」
「わたしは通りの向こうにいます。また困ったら呼んでくださいね!」
木箱の中身を確認し、思わず嬉し涙を流す女性。マリイとゲルダは笑顔をかわすと、それぞれの作業を再開した。
●
石片を積んで、即席のカマドを6つ作った。炊き出し担当の女性たちが持ち寄った鍋にきれいな水をたっぷり入れて、リサはカマドに火をつける。
「お芋に人参、玉ねぎ……この季節は保存がきく野菜が中心なんですね。たくさん入れて、栄養価とボリューム感を増しましょう」
リサと女性たちが作るのは、鶏ガラや干し肉で出汁と旨味を引き出したスープ。
硬くなったパンも、温かいスープと一緒なら美味しく食べられる。きっと皆の気持ちも上向いてくれるに違いない――そんな想いを、リサは野菜を切る手に込めていた。
「とりあえず食べてもらうのだ。腹と心が満たされれば、希望もみえてくるものなのだ」
大鍋の中身をかき回しながらのストレガの言葉に、頷くリサ。漂い始めた良い匂いに誘われて、住民たちが広場に集まってくるのが見えた。
「昼食はここで配るのだ! 一列に並んでほしいのだ」
ストレガは皆が混乱なく食事を受け取れるよう、誘導を始める。一気に慌ただしくなった会場で、リサは女性たちと協力して手際よくスープを器によそっていった。
「熱いので、気をつけてくださいね」
温かなスープを口にして、旨い、旨いと顔を綻ばせるドワーフたち。「生き延びた甲斐があったぜ」と冗談めいた声があがると、和やかな笑いがその場に満ちた。
「よぉーし! 皆、お腹いっぱいになったら、次は街の東半分を見て回るよっ!」
ドワーフたちの一団と一緒に昼休憩をとっていたアリアが、地図を頭上に掲げて元気な声をあげる。別の一団にも声をかけ、午前中の成果が記されたほうの地図を見せて情報共有することも忘れない。
「西側を見て回ったんだけど、特にこのへんとこのへんの被害が大きいみたいだよ。倒壊しそうな建物には印をつけてきたから、早めに解体をお願いしたいんだよね」
「なるほど。この赤丸はどういう意味だ?」
「それは被害がなくて、頑丈な建物。支援物資とか生活必需品の保管に使えると思うよ」
エルフだというだけで、最初は住民たちから遠巻きにされてしまっていたアリア。しかし、彼女が専門知識を駆使して建物ごとの被害状況や危険度を判別し、地図に記した情報は、住民たちの作業効率や生活の立て直しに大いに役立つだろう。ドワーフたちはひとまず倒壊の危険がある建物の解体を優先することにし、食事を終えた者から街の中へと消えていった。
「じゃあ出発するよ~! ごちそうさまでしたっ」
「いってらっしゃい。午後も頑張ってくださいね」
笑顔のリサに見送られ、アリアとドワーフたちは街の東半分の調査へと出発する。
●
陽が落ちれば、ドワーフたちにとってお待ちかねの祝勝会。
開幕からトップスピードで杯を空けまくる住民たちのテンションは、天に輝く星にも届きそうなほど高かった。
「ワイバーン肉は、一旦焼いて味をみるのだ」
「煮込めば柔らかくなるでしょうか?」
おつまみや酒を運ぶのに忙しいリサは、ワイバーン肉の調理法を模索中のストレガの横で鍋を火にかけ、並行してフライドポテトを皿に盛り始める。
「ここがコシュカの名所なんだぁ。星空がまるで一枚の絵みたいだよねっ」
「冬は空気が澄んどるし、特にキレイなんじゃ」
あまり酒宴慣れしていないものの、雰囲気を壊すまいとラフな格好で参加し乾杯して回るアリア。男性たちは彼女の誉め言葉に鼻を高くし、たゆんと揺れる二つの山を前に鼻の下をでろーんと伸ばしていた。
「リーミルさん。美味しいお酒とか、おつまみとかのおすすめあったりしますか!?」
「マリイさん、お酒に興味があるの?」
まだ正気を保っているリーミルに話しかけたのは、これで依頼同行3回目となったマリイだ。
「私の友人がバーを経営しているのでたまにお手伝いするのですが、もっとお勉強したくって。ドワーフ王国には珍しいお酒もいっぱいで上がりますね!」
「へぇ~! リーミルもそのバーに行ってみたいの。えっと……マミダ地域のおすすめはやっぱり『火酒』なの」
『邪竜殺し』と紙が貼られた瓶を平然と差し出すリーミル。火をつけると燃えるほど強い酒だ。マリイとコルデラは蓋を開けただけで「ウッ」「クゥン」と小さく呻き声をあげる。
「さすがドワーフ王国ですね……。あら?」
「うぉーい! リーミル! 別嬪の嬢ちゃん! 飲んでるべか!? いーい縁談もってきたべよ!」
「お、叔父さん……!」
そこへ乱入してきたのは、すっかり出来上がったおっさん――もとい、リーミル叔父だった。
「マグダん家の息子が今年23でよ。鍛冶もできるし優良物件だべ!」
「叔父さん! リーミルにはまだ早いの~~!!」
(……リーミル様にはすでに素敵な殿方がいらっしゃるのでは?)
リーミル周辺を眺めつつ、頭に疑問符を浮かべているのはゲルダだ。
(はっ、そういえば秘密の関係でした……! あ、……だから、この場所にはお呼びしなかったのかな)
全然違う。違うのだが、ゲルダの中ではそういうことになっていた。会場の隅でひとり百面相を作るゲルダ。
「ゲルダちゃん、ジュースどうぞ」
「リサちゃん! ありがとうございます。む、む、む……」
「……?」
くるくると表情を変えながらリーミルを見つめているゲルダに、リサは不思議そうな顔で小首を傾げるのだった。
(あっ、リーミル氏。なんか喋ってるけど……結婚かぁ、ボクにはご縁が無いなぁ……たはは)
強引な酔っ払い叔父の独壇場となりつつあるそこへ、まず突入を決めたのはアリアだった。手土産の酒を握りしめ、ハイテンションで殴り込む。
「リーミル氏~! あと叔父さんだよねっ! 見て見て、ボクおすすめのお酒だよっ」
「(助かった!)アリアさん、ありがとうなの~!」
「酒もいいべよ、けんど縁談……」
「叔父様、リーミルさんはギルドの受付さんの中で一番人気なんですよ。むしろ引く手数多だと思います!!」
話を戻そうとした叔父の肩をマリイがポンポン叩き、アリアがすかさず酒を注ぐ。その隙にこっそり逃げ出したリーミルが顔を上げると、そこには――
「もし、もし悩みがあるなら、なにかお力になりたいです……!」
「……へ?」
使命感に燃えた目で両の拳を握りしめる、ゲルダの姿があった。
宴もたけなわ、ドワーフたちの笑い声が木霊する星の洞窟に到着しただわは、酔っ払い軍団の熱い拍手に迎えられた。
「こんな遅くまで作業してくれたってのか? おう、ありがてぇなぁ! さあ飲め飲め!」
「ん、酒は遠慮しておく。……ああ、ジュースがあるのか。ならそれを」
キリのいいところまで、と思って作業を続けていたら、随分遅くなってしまった。飲み物と肉を受け取り、いざ乾杯。
「……何の肉だ?」
少し端のほうに寄って肉をかじると、独特の風味が口の中に広がった。
「その辺にいた蜥蜴クリーパーらしいのだ」
「蜥蜴? 調理法は? ワイバーン肉もあるのか……」
ストレガから聞いたクリーパーの調理法をメモり、次は焼いたワイバーン肉を一口。
「……これは。イケるな。癖は強いが柔らかくなるまでハーブで煮込めば……」
「もちろん、ありますよ!」
リサが掲げるようにして持ってきた大皿には、じっくり煮込まれた骨付きのワイバーン肉が豪快に盛りつけられていた。
ドワーフたちも冒険者たちも物珍しさにワッと集まり、あっという間に取り分けが完了。
「旨い! 口の中でほどける柔らかさ……!」
「うおおお最高だぜーーーー!!」
ワイバーン肉に舌鼓を打ち、飲めや歌えの大宴会。
勝利を祝う宴は、まだまだ終わりそうになかった。
「リサちゃん」
にこっと笑い、一緒の毛布に滑り込む。お疲れ様、と差し出されたココアで両手を温めながら、ゲルダはリサと同じ星空を見上げた。
どんなに傷を負っても、明日は必ずやってくる。
前に進まないと何も護れない。踏み出すしかない。
――でも、たまには。
(立ち止まって、星を眺める日があってもいいのかもしれない)
ゲルダとリサは肩を並べ、空を彩る星々を眺め続けた。
「……そういえば、リーミルさんと何を話してたんですか?」
ふと、口を開いたのはリサだ。ハッと振り向いたゲルダが、またぐるぐると百面相を作り始める。
「じ、実は……!」
「実は?」
「私……っ、リーミル様の秘密の恋を応援したいんです!!」
ゲルダの誤解は、まだ解けていなかった。
「はい……。また、雪が降り出さなければ良いのですが」
リサ・ベイカーが呟き、隣のゲルダ・クラインが小さく頷く。
街には無事な建物も勿論あるが、視界には今にも倒壊しそうな家屋や荒された商店がいくつも見える。
「生活を壊されても、再起不能とまではならなかったのは不幸中の幸いといえるか。俺の村も……」
だわは、ふと脳裏を過った過去の光景に両の目を伏せた。しかし、今はそれを考えるべきではない――と、瞬きひとつして、ストレガ・L・リベルガストラとともに馬車から荷物を降ろしにかかる。
「ドワーフには個人的に装備でもお世話になってるしねぇ。土木仕事なら、ご縁が色々あって得意でさっ」
人手が少ないなら、各々得意分野を活かす方向で――と、アリア・ティーダが早速冒険者たちの希望を纏め始めた。
「私は、叔父の家とその近所の片付けを中心にを手伝いますね」
「およよ、リーミル氏の叔父さんがいるんだぁ」
手土産に酒を持参した甲斐があったかな、と笑うアリア。そのすぐそばでは、白狼を連れたマリイ・パルティスが思案顔で髪をいじっていた。
「リーミルさん。その……私の耳、隠しておいたほうが良いでしょうか? 今は大変な状況ですし、あまり住民の方を刺激したくなくて」
「うーん……手伝ってくれる方に文句は言わないと思うんですけど……」
問われたリーミルも、困った顔で首を傾げる。マリイの耳は目立ちにくいほうだが、コシュカのドワーフはお世辞にもエルフ慣れしているとは言えない。
結局、髪をふんわりと結って耳の先を覆い、寒さ対策に見せかけてストールを巻いておくことになった。
炊き出しの手伝いに駆けて行くリサとストレガを見送り、ゲルダは改めて破壊された街並へと視線を巡らせる。
――戦いが終わっても、いなくなった人が戻るわけではなくて。
だけど、それでも――いまは、できることを、できる限り。
冒険者たちは、動き始める。
●
遠ざかっていく雪雲の下、地図を囲んで打ち合わせしているのは、アリア、ゲルダ、だわの3人だ。
「ココと、ココとぉ――あと、ココもかなっ。更地にするし元々空き家だったらしいから、廃材置き場にしてもイイって」
「では、不要な瓦礫はそちらへ運びますね」
「そうだな。この街は建築技術が優れていると言うし、瓦礫の再利用も考えているだろう」
「もし、作業中に貴重品や思い出の品が出てきたら、どうしましょうか」
「周りの人に聞いてもわかんないのは、どこか置き場所を決めよっか?」
「なら、星の洞窟近くの広場に集めよう。今夜集まった住民たちに話しておけば、持ち主が探しに来るかもしれないからな」
建築・土木知識をもつアリアがドワーフたちと一緒にザッと街を見て回り、廃材置き場に適した場所を選出。力仕事が得意なゲルダとだわは、特に瓦礫が多い場所を片付けることにした。
「兄ちゃん。そんなデカいの持ち上げられるのかい?」
「授恵者だからな。台車を借りてもいいか?」
「ああ勿論。そこに置いてあるのを使ってくんな」
余計なことは考えず、目の前の瓦礫を黙々と台車に積んでいくだわ。さすがに抱えきれないものは、借りたつるはしを振り下ろして小さく割った。
「……ふう。中々いい鍛錬になる」
崩れた家屋の壁は一見利用価値がないようにも見えるが、形や硬さによっては敷石や彫刻材、砂利などに再利用できるだろう。割れた煉瓦も花壇の装飾に使えば華やかさが増す。だわは「これは」と思うものを敷地の隅にまとめ、周囲で作業しているドワーフたちに声をかけていった。
「ん……?」
だわが瓦礫の下から探り当てたのは、藤の籠に入れられた何枚かの子供服。まだ着られそうなそれを家主らしき男に届けると、彼は一瞬、表情を翳らせた。
「その持ち主は、もう着られないんだ」
「……そうか」
思い出の品であっても、今は見たくないのかもしれない。ひとまず見えないところに置こうと歩き出しただわを、男は深く息を吐きながら呼び止めた。
「……そうだな。娘にはもう必要ないが、誰かが使ってくれるなら……それも良いだろうな」
済まないが娘のものを、もう少し探してくれないか。と。
無理に明るい表情を作ろうとする父親に――だわは、無言で深く頷いた。
「ん~~~……よいしょ!!!」
「「「おおおおおおお!!!!」」」
身の丈より大きな瓦礫を軽々と持ち上げたゲルダが、ドワーフたちの拍手喝采を浴びている。
「えいっ」
さらに彼女がその瓦礫を忽然と消すと、追加の拍手が惜しみなく送られた。こんなに驚かれ、喜ばれるとは。ゲルダは何だか、こそばゆい気持ちでほんのりと頬を染めていた。
「お役に立てて嬉しいです」
大きな瓦礫はそのまま、小さな石片は麻袋に詰めて、マジカルポケットで効率よく運んでいく。何往復かした帰り道、ゲルダはふと、見知った後ろ姿を見つけて足を止めた。
「うう~ん。なかなか動きませんね……!」
「すまないねぇ……こんなこと頼んじまって。あたしは腰が悪くて動かせないもんでさ……」
半壊した家屋の瓦礫の山と戦っていたのは、マリイと白狼のコルデラだ。自宅で飲食店を営んでいた女性から調理器具の捜索を頼まれたのだが、巨大な壁の残骸に阻まれ作業が進まない。
「いいえ! 私も職人なので……気持ちは分かります。やっぱり馴染んだ道具が一番ですよね。私も師匠にもらった仕事道具が恋しいです……使いやすくて、可愛くて――と、探すのに集中しないとでした!」
ウンウンと唸りながら瓦礫を持ち上げようとするマリイ。鼻先を瓦礫の下に押し込んで頑張るコルデラ。鍋でも包丁でも、少しでも無事なものを見つけてあげなければ――と奮闘する2人を見て、ゲルダがパタパタと駆け寄ってきた。
「わたしも手伝います。……せ~のっ!」
「やった! ゲルダさん、ありがとうございます!」
授恵者2人と狼のパワーで脇に退けられた瓦礫の下には、細かい石片と木材。マリイとコルデラが慎重にそれを掘っていくと、木箱のようなものが顔を出した。
「それ! あたしの包丁が入ってる箱だよ! 母から受け継いだものでね、これじゃないとダメなんだ……!」
「無事に見つかって良かったです。さあ、早くお仕事を再開していただけるように、もっともっと掘り出しますよ!」
「わたしは通りの向こうにいます。また困ったら呼んでくださいね!」
木箱の中身を確認し、思わず嬉し涙を流す女性。マリイとゲルダは笑顔をかわすと、それぞれの作業を再開した。
●
石片を積んで、即席のカマドを6つ作った。炊き出し担当の女性たちが持ち寄った鍋にきれいな水をたっぷり入れて、リサはカマドに火をつける。
「お芋に人参、玉ねぎ……この季節は保存がきく野菜が中心なんですね。たくさん入れて、栄養価とボリューム感を増しましょう」
リサと女性たちが作るのは、鶏ガラや干し肉で出汁と旨味を引き出したスープ。
硬くなったパンも、温かいスープと一緒なら美味しく食べられる。きっと皆の気持ちも上向いてくれるに違いない――そんな想いを、リサは野菜を切る手に込めていた。
「とりあえず食べてもらうのだ。腹と心が満たされれば、希望もみえてくるものなのだ」
大鍋の中身をかき回しながらのストレガの言葉に、頷くリサ。漂い始めた良い匂いに誘われて、住民たちが広場に集まってくるのが見えた。
「昼食はここで配るのだ! 一列に並んでほしいのだ」
ストレガは皆が混乱なく食事を受け取れるよう、誘導を始める。一気に慌ただしくなった会場で、リサは女性たちと協力して手際よくスープを器によそっていった。
「熱いので、気をつけてくださいね」
温かなスープを口にして、旨い、旨いと顔を綻ばせるドワーフたち。「生き延びた甲斐があったぜ」と冗談めいた声があがると、和やかな笑いがその場に満ちた。
「よぉーし! 皆、お腹いっぱいになったら、次は街の東半分を見て回るよっ!」
ドワーフたちの一団と一緒に昼休憩をとっていたアリアが、地図を頭上に掲げて元気な声をあげる。別の一団にも声をかけ、午前中の成果が記されたほうの地図を見せて情報共有することも忘れない。
「西側を見て回ったんだけど、特にこのへんとこのへんの被害が大きいみたいだよ。倒壊しそうな建物には印をつけてきたから、早めに解体をお願いしたいんだよね」
「なるほど。この赤丸はどういう意味だ?」
「それは被害がなくて、頑丈な建物。支援物資とか生活必需品の保管に使えると思うよ」
エルフだというだけで、最初は住民たちから遠巻きにされてしまっていたアリア。しかし、彼女が専門知識を駆使して建物ごとの被害状況や危険度を判別し、地図に記した情報は、住民たちの作業効率や生活の立て直しに大いに役立つだろう。ドワーフたちはひとまず倒壊の危険がある建物の解体を優先することにし、食事を終えた者から街の中へと消えていった。
「じゃあ出発するよ~! ごちそうさまでしたっ」
「いってらっしゃい。午後も頑張ってくださいね」
笑顔のリサに見送られ、アリアとドワーフたちは街の東半分の調査へと出発する。
●
陽が落ちれば、ドワーフたちにとってお待ちかねの祝勝会。
開幕からトップスピードで杯を空けまくる住民たちのテンションは、天に輝く星にも届きそうなほど高かった。
「ワイバーン肉は、一旦焼いて味をみるのだ」
「煮込めば柔らかくなるでしょうか?」
おつまみや酒を運ぶのに忙しいリサは、ワイバーン肉の調理法を模索中のストレガの横で鍋を火にかけ、並行してフライドポテトを皿に盛り始める。
「ここがコシュカの名所なんだぁ。星空がまるで一枚の絵みたいだよねっ」
「冬は空気が澄んどるし、特にキレイなんじゃ」
あまり酒宴慣れしていないものの、雰囲気を壊すまいとラフな格好で参加し乾杯して回るアリア。男性たちは彼女の誉め言葉に鼻を高くし、たゆんと揺れる二つの山を前に鼻の下をでろーんと伸ばしていた。
「リーミルさん。美味しいお酒とか、おつまみとかのおすすめあったりしますか!?」
「マリイさん、お酒に興味があるの?」
まだ正気を保っているリーミルに話しかけたのは、これで依頼同行3回目となったマリイだ。
「私の友人がバーを経営しているのでたまにお手伝いするのですが、もっとお勉強したくって。ドワーフ王国には珍しいお酒もいっぱいで上がりますね!」
「へぇ~! リーミルもそのバーに行ってみたいの。えっと……マミダ地域のおすすめはやっぱり『火酒』なの」
『邪竜殺し』と紙が貼られた瓶を平然と差し出すリーミル。火をつけると燃えるほど強い酒だ。マリイとコルデラは蓋を開けただけで「ウッ」「クゥン」と小さく呻き声をあげる。
「さすがドワーフ王国ですね……。あら?」
「うぉーい! リーミル! 別嬪の嬢ちゃん! 飲んでるべか!? いーい縁談もってきたべよ!」
「お、叔父さん……!」
そこへ乱入してきたのは、すっかり出来上がったおっさん――もとい、リーミル叔父だった。
「マグダん家の息子が今年23でよ。鍛冶もできるし優良物件だべ!」
「叔父さん! リーミルにはまだ早いの~~!!」
(……リーミル様にはすでに素敵な殿方がいらっしゃるのでは?)
リーミル周辺を眺めつつ、頭に疑問符を浮かべているのはゲルダだ。
(はっ、そういえば秘密の関係でした……! あ、……だから、この場所にはお呼びしなかったのかな)
全然違う。違うのだが、ゲルダの中ではそういうことになっていた。会場の隅でひとり百面相を作るゲルダ。
「ゲルダちゃん、ジュースどうぞ」
「リサちゃん! ありがとうございます。む、む、む……」
「……?」
くるくると表情を変えながらリーミルを見つめているゲルダに、リサは不思議そうな顔で小首を傾げるのだった。
(あっ、リーミル氏。なんか喋ってるけど……結婚かぁ、ボクにはご縁が無いなぁ……たはは)
強引な酔っ払い叔父の独壇場となりつつあるそこへ、まず突入を決めたのはアリアだった。手土産の酒を握りしめ、ハイテンションで殴り込む。
「リーミル氏~! あと叔父さんだよねっ! 見て見て、ボクおすすめのお酒だよっ」
「(助かった!)アリアさん、ありがとうなの~!」
「酒もいいべよ、けんど縁談……」
「叔父様、リーミルさんはギルドの受付さんの中で一番人気なんですよ。むしろ引く手数多だと思います!!」
話を戻そうとした叔父の肩をマリイがポンポン叩き、アリアがすかさず酒を注ぐ。その隙にこっそり逃げ出したリーミルが顔を上げると、そこには――
「もし、もし悩みがあるなら、なにかお力になりたいです……!」
「……へ?」
使命感に燃えた目で両の拳を握りしめる、ゲルダの姿があった。
宴もたけなわ、ドワーフたちの笑い声が木霊する星の洞窟に到着しただわは、酔っ払い軍団の熱い拍手に迎えられた。
「こんな遅くまで作業してくれたってのか? おう、ありがてぇなぁ! さあ飲め飲め!」
「ん、酒は遠慮しておく。……ああ、ジュースがあるのか。ならそれを」
キリのいいところまで、と思って作業を続けていたら、随分遅くなってしまった。飲み物と肉を受け取り、いざ乾杯。
「……何の肉だ?」
少し端のほうに寄って肉をかじると、独特の風味が口の中に広がった。
「その辺にいた蜥蜴クリーパーらしいのだ」
「蜥蜴? 調理法は? ワイバーン肉もあるのか……」
ストレガから聞いたクリーパーの調理法をメモり、次は焼いたワイバーン肉を一口。
「……これは。イケるな。癖は強いが柔らかくなるまでハーブで煮込めば……」
「もちろん、ありますよ!」
リサが掲げるようにして持ってきた大皿には、じっくり煮込まれた骨付きのワイバーン肉が豪快に盛りつけられていた。
ドワーフたちも冒険者たちも物珍しさにワッと集まり、あっという間に取り分けが完了。
「旨い! 口の中でほどける柔らかさ……!」
「うおおお最高だぜーーーー!!」
ワイバーン肉に舌鼓を打ち、飲めや歌えの大宴会。
勝利を祝う宴は、まだまだ終わりそうになかった。
「リサちゃん」
にこっと笑い、一緒の毛布に滑り込む。お疲れ様、と差し出されたココアで両手を温めながら、ゲルダはリサと同じ星空を見上げた。
どんなに傷を負っても、明日は必ずやってくる。
前に進まないと何も護れない。踏み出すしかない。
――でも、たまには。
(立ち止まって、星を眺める日があってもいいのかもしれない)
ゲルダとリサは肩を並べ、空を彩る星々を眺め続けた。
「……そういえば、リーミルさんと何を話してたんですか?」
ふと、口を開いたのはリサだ。ハッと振り向いたゲルダが、またぐるぐると百面相を作り始める。
「じ、実は……!」
「実は?」
「私……っ、リーミル様の秘密の恋を応援したいんです!!」
ゲルダの誤解は、まだ解けていなかった。
マスターコメント
皆さま、この度はご参加いただきありがとうございました!
コシュカの住民たちも、献身的にお手伝いしてくださった皆さまの姿に勇気づけられ、たくましく冬を越していってくれることでしょう。
それでは、またの機会がございましたら、ロスガリア大陸のどこかでお会いしましょう!
ショートシナリオ普通 報酬:標準6 / 4〜8人
2022年01月06日 17時16分40秒 公開
大成功
相談掲示板
だわと呼んでもらえれば。一応ウォーリアだ。……よろしく頼む。 俺は黙々と瓦礫を片付けるつもりだ。 もし瓦礫の下から貴重品だとか何かを見つけたら、持ち主が探しやすいよう街のどこかに集められたらと思っている。星の洞窟近くの広場とかどうだろうか。 ……それと、片付けた瓦礫をただ捨てるだけでは何だから、何か再利用の方法も提案できればいいと思っていたりはする。その辺りは住民の心象もあるだろうから、「見ると思い出すので捨てたい」とか言われなければだが。 使うにしても、一度割れたものをくっつけて建材に使うのは強度に懸念が残るから、敷石や街角の装飾くらいになるかもしれないが。
は、気が付いたら時間が… わたしは、炊き出し手伝いかなと。 >廃材 石窯とか、そういうのを作るのに使ってもいいかも?