「たぬ茶屋」開店? でもその前に

炙りとろ左門

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シナリオID:1747

オープニング

「おきなみ、おきなみ。おだんごです」
「はい、いただきます」

 辺境都市群、シャルガネ居住区。そのはずれの山間の小さな庵にて。流浪の剣士、冲南(オキナミ)は幼女ひまりのおままごとに付き合っていた。
 ひまりは「茶屋の娘」、冲南はその客である。ひまり曰く、この茶屋は「たぬ茶屋」といって、モフモフのたぬきたちがお客をもてなすのだという。
 そのたぬきたちは、この庵の主である老婆ミヨにひっついて暖を取っているのだが。
 このたぬきたち、人畜無害そうに見えて実は魔獣であり——山の縄張り争いに負けて腹を空かせて押しかけてきたのだ。しかしたぬきたちは冒険者たちの活躍によって満腹になり、その恩返しかはわからないが、この庵を守っているような素振りを見せるようになった——のだが。
「ただくつろいでいるだけにしか見えないなあ……」
 冲南の発言に反応したかは不明だが、長兄たぬきがのそりと身を起こしかける。しかしミヨの毛繕いのほうが優先度が高く、またごろんと横になった。
「けど、茶屋か……」
 冲南はひまりお手製の団子をつつき、濃い目の茶を啜る。団子の形は歪だが、そこそこ美味い。どうやらミヨの仕込みらしい。
「……ひまり、本当に茶屋をやってみないかい?」
「え?」
 冲南の突拍子もない提案に、さすがのひまりも目を丸くする。
「僕も、ひまりやミヨさんが心配でここにいるけれど……いつまでもというわけにはいかないからね。たぬきたちもいるし、それに……ミヨさんももう結構お年を召されている。もしものことを考えて、ね」
「そうねえ、」
 冲南の考えに、ミヨはおっとりと息をつく。
「でも、お茶屋さんをするには……この家はもうだいぶ古い気がするわ」
「……確かに」
 冲南は高い天井を見上げる。煤で黒くなった天井は、これはこれで風情がある。しかしどこか建て付けが悪くなっているのか、本来の保温や断熱といった機能がほぼ失われ、隙間風が吹いているのだ。
 庭にある施設——井戸や水車も機構が古く、ひまりもミヨも扱いに一苦労している。若い男なら平気だろうが、ひまりはまだ幼く、ミヨは高齢だ。
「こういうことは大工に頼むのが筋なのでしょうが……」
 冲南は腕を組む。庵は街からやや離れた山間にあるため、ミヨの伝手もそう広くはなく、馴染みの大工という存在がいないのである。
「まあ、茶屋の話はともかくとして、冬の寒さがこれ以上厳しくなる前になんとかしなくてはいけませんからね。今回も冒険者さんたちに頼みましょう。中にはかなり技術を持っている人もいると聞きます」
「ぼうけんしゃさん!」
 ひまりが目を輝かせる。先日の冒険者たちとの宴が忘れられないらしく、こうして冒険者の話になるとそわそわしだす。
「じゃあ、ひまり、おもてなししなきゃ」
「そうだね。頼めるかい、ひまり」
 ひまりは満面の笑みで頷いた。それに、ミヨもまた微笑みを浮かべるのだった。

解説

皆さんは旅の剣士の冲南から、ひまりの夢を叶えるためのお手伝いをしてほしいと頼まれました。 今回は、庵の改装です。 依頼目標:家屋と庭を整える 目標さえ達成すればごろごろして構いません。前回から居ついているたぬきたちの力を借りてもヨシ! 囲炉裏でお餅を焼いてお雑煮を堪能してもいいですし、白玉でお汁粉を作ってもヨシ。のんびり過ごしましょう。そのための……ミドル! ■修繕が必要な箇所 ・家屋の全体的な建て付け(隙間風が……) ・井戸の修繕(中身は問題ないのですが、古いので汲み上げが大変です) ・水車の修繕(井戸と同様に、機構が古く効率が悪いです) ・畑の整備(雑草抜きなど) ■NPC ミヨ :かわいいおばあちゃん。たぬきの末っ子が膝の上に乗っている。 ひまり:ミヨの曾孫。6歳。冲南に懐いている。かわいい。 冲南 :眼鏡をかけた優男風の流浪の剣士。27歳。ミヨとひまりが心配で留まっている。 たぬき(リーダー):魔獣兄弟の長兄。特異個体。人語を喋ることはできないが、人の文化を彼なりに理解する。 たぬき(弟妹たち):魔獣兄弟の弟妹たち。ふつうの魔獣。モフい。

マスターより

初めましての方は初めまして。こんにちは、炙りとろ左門です。 寒くなってきたな〜おこたに囲炉裏にお雑煮〜と考えていたらできあがったシナリオの続きです。 古民家を修繕して、茶屋にしよう計画第1弾! はたしてひまりはお茶屋さんになれるのでしょうか……? それではご参加&プレイング、お待ちしております!

リプレイ

 冲南(オキナミ)が声をかけた冒険者たちは10名。いずれも腕に覚えのある者たちばかりだが、今回の彼らの仕事は魔獣退治でもクリーパー殲滅でもなく、土木建築である!

「久しぶりさぁ~ひまりさん、たぬき達も!」
 フリューリングスルフト=ティエラは弟妹たぬきたちを抱き上げる。弟妹たぬきたちはふんふんと鼻をひくつかせていたが、覚えのある匂いにすぐ甘えた鳴き声をあげはじめた。
「ひさしぶり!」
 冲南に抱えられているひまりがにっこりと笑う。しかし見覚えのある面々以外にも知らない顔を見つけ、ぴょっと首を竦ませた。
 それに、ローザリカ・L(リベラ)・ディオールは優しく声をかける。
「お茶屋さんを開くんだってね。皆に喜んでもらえるお店作り、僕にも手伝わせてくれるかな?」
 そして、ひまりに向かって手を差し出す。
「僕はローザリカ。よろしくね」
「……ひまりは、ひまりです。よろしく、おねえさん」
 ひまりがローザリカの手を握る。その手の小ささに、ローザリカは目を細めた。
 その様子をちらと窺っていたジュスト・ヴェルジーだが、改めてその庵に向き直る。
「シャルガネの古民家……って、なかなか趣があるね」
 それに、Alexandra(アレクサンドラ)・Hexe(ヘクス)・Claudia(クラウディア)も頷く。
「確かに、改装すれば憩いの場としてよさそうですね」
 モフい面々もいることであるし。
「ひまりちゃんもミヨさんも、それから冲南さんも変わりないようで安心したよー。話には聞いてたけど、ほんとに住人(たぬきたち)が増えてる……賑やかでいいね!」
 Alexandraの視線の先で、スフィカはそう言いながら長兄たぬきをモフる。
「アハハ! 本当に居ついてしまったんだねぇ。ボクも愛着が湧いてきてしまうが、このまま一緒に住むつもりかな~?」
 ロベリアも一緒になってたぬ魔獣をモフっている。冬毛たぬきのモフみはモフらずにはいられない魔力を持っているのだ。めいいっぱいモフったあと、ロベリアは立ち上がる。
「……さて、モフるのはこれくらいにして。料理の手伝いの次は改装の手伝いか。美味しい料理——じゃない、素晴らしい茶屋の為に、かよわいボクも一肌脱ごうじゃないか」
「確かに、お客様を迎えるには少々古いようですので……居心地が良くなるよう、お手伝いいたしますね」
 スィーリーンは早速庵を見渡し、どこに手を入れるべきか頭の中で設計図を引き始める。
 ハルハン・ツァガーンナルも、準備体操を終えてぐっと大きく伸びをした。
「ボクは、修繕作業のほうにまわりますよ! ひまり、おうちにいて寒いなーとか、風が吹いてるなーとか、どこからか分かりますか?」
「……なんとなくでも大丈夫です」
 ナンチ・ヤジナイもツァガーンナルと同じく修繕作業にまわるつもりだ。ひまりは見知らぬ2人におっかなびっくり挨拶をすると、冲南から降りて、2人を家の中へと案内した。
「たぬき……これ立派な魔獣みたいアル……? でもまあ、ヒトに懐いてるっぽいアル。一緒に遊ぶのはお仕事の後アルね」
 牛(ニウ)・奶(ナイ)もまた立ち上がると、落ち葉と雑草に埋もれた畑を見やる。野菜はすでに収穫した後で、続けて冬まきの野菜を作るにしても、やはり畑の整備は欠かせない。
「では、私は皆さんの作業内容に合わせて、素材をできる限り調達してきます」
 Alexandraは紙とペンを取り出し、皆の作業内容を書き取っていく。どんな作業も、手元に資材がなければどうにもならない。
 そうして、庵の大改装がはじまったのだった。

● 水汲みと水車の調べ
 皆で改装案を話し合い、Alexandraが「最低限必要」とはじき出した資材量は、結構なものだった。家屋の隙間風をどうにかするぶんにはそこまで大掛かりな用意は必要なかったのだが、問題は井戸の改修である。
「こう、ぐいっとレバーを引いたら水が吐き出されたりせんかなあ」
 フリューがそう言い出したのがきっかけである。
「そういうのは、紋具にはありそうだけど」
 ジュストは家の中の機構や、ここに来るまでに見たシャルガネの生活風景などを思い出す。
「……もしかして、一般家庭にはそういうのはあまり普及していないのかな?」
 ジュストは貴族だ。しかも、比較的裕福で領地も潤っているところの子息である。自分の感覚はあてにならない空気を感じ、考え込む。
「ないなら作ることって、できんかな?」
 ジュストを期待の眼差しで見つめるフリュー。しかし、Alexandraは首を横に振った。
「紋具を作るためには、紋具職人に弟子入りして技術を学ばなければ。あなたは、職人の徒弟……という風には見えませんし」
「そうだね。貴族の次男坊が工房に押しかけても、引き取ってくれる親方は少ないかも」
 Alexandraの言葉に、ジュストは苦笑して答える。
「ちなみに、かなり大雑把に表現していたけれど、君の頭の中には具体的な設計図があると考えていいのかな?」
 ジュストが話を戻す。それを受けて、フリューはジュストから紙とペンを借りると、新しい井戸の機構を図解した。
「これをこうして……レバーを押したり引いたりすることで水が上がってくる感じ!」
「ふむ……」
 ジュストが顎をさすり、Alexandraは目を瞬く。その横で、スフィカがうんうんと頷いた。
「これならひまりちゃんやたぬきさん達も扱えるかな」
 様子を見にきた冲南も横から設計図を覗き込む。
「……これはまた、不思議な。私には何がどうなってこうなるのか、わかりませんが……」
 そして、少し困ったように笑う。
「おそらく、画期的なのでしょう。ですが、故障した時などにミヨさんやひまり、あるいは街の技術者が見て直せるかどうか、少し不安がありますね」
「あー」
 その場にいた皆が同時に声を上げる。最先端の技術を導入するには、その説明もまた十分でなくてはならない。
 だめかあ、と残念そうに肩を落とすフリューに、Alexandraは微笑みかけた。
「であれば、補修や補強を中心に施しましょう。それなら必要な資材もだいぶ少なくて済みますし、古いパーツの交換だけでもかなり違うはずです」
 そうして、Alexandraが必要な資材の最終計算を終える。山で集めるのもよいが、街で買いつけられそうだという冲南の見立てで、運搬には荷馬車を使うことになった。
 そのような流れで、フリューとAlexandraが街に買い出しに行くことになり、それにひまりも同行することになった。というのも——
「ひまりさん、街に行くけど、お団子持って行ってもらってえぇかな?」
 ひまりは人見知りだ。しかし、少しずつでも街の人間と縁を作っておいた方が良いとフリューは考えたのである。ミヨに何かあった時のため、そしてひまり自身のために。
「では、その間にできる部分は進めておきますね」
 スィーリーンが井戸や水車の状態を検分し、修繕工程を書き出す。
「細かいパーツの補修ならお任せください。実際に動かして様子を見ながら……動きが滑らかになるよう調整します。壊れにくく、保ちを良くするためにも」
「うちも頑張るよー!」
 スフィカもぐっと拳を作る。井戸と水車の修繕計画は、このような形でまとまった。

● 土踏み種蒔いて
 一方こちらは、落ち葉と雑草に埋もれた畑。ロベリアとローザリカ、そして奶がそれを前に腕を組む。
「商売とはすなわち、『価値観の創出』だ」
 ローザリカは厳かに告げる。
「たぬきの足跡スタンプをつけるだけで世界にたった1枚の紙になるように——畑で季節の野菜や花々を育てることも、そのひとつだろう」
 この季節だけの景色、材料から生まれる料理の味わい。また次の季節も足を運んでもらえるように、いつきても飽きずに楽しめるように……そういった演出が必要だ。
 ローザリカの考えを、ロベリアも首肯する。
「折角の自家菜園だし、茶屋と言えば食事にも趣向を凝らして損はないだろうしね。野菜カレンダーも作っておこう。済んだ箇所にはたぬきスタンプを押してもらって。フフッ!」
 ロベリアは調合に使う薬草を育てるために、園芸関連の知識も蓄えている。任せてくれと胸を張るロベリアの横で、奶は畑を見渡した。
「でも、まずは生えっぱなしの雑草を抜くアルか」
「そうだね……落ち葉は土をふかふかにしてくれるから、寄せるだけでいいし。手分けしよう。僕はこっちを担当するよ。何やらレアな薬草の匂いもするしね……!」
 庭と森の境へと突撃していくロベリアを見送り、奶は残ったローザリカに手袋を渡す。
「雑草の中には鋭い葉を持つものもあるし、触れるとかぶれるものも……それに、土で手や爪が汚れてしまうといけないアル。使うアルね」
「ありがとう。実は、こういうことは初めてでね……他に気をつけることはあるかな?」
「雑草の根っこごと掘り抜いて欲しいアル。それと、結構腰にくるアルね。適度に休憩と体操を挟むアル。それから、冬とはいえ虫除けとか帽子も——」
 ……3人はもくもくと雑草を抜き始める。雑草抜きはなかなか根気のいる作業だが、綺麗に一発で抜けると爽快感があるのだ。だんだんコツが掴めてきたローザリカは、やたら良い笑顔で次々と雑草を引っこ抜いては投げ、引っこ抜いては投げ——生来の身分のことなど、一時忘れてしまうほどだった。
 庭に草花や野菜を植えるスペースが生まれる程度に雑草が駆逐されたところで、3人は畑を見渡せる位置に集まり、腰を下ろす。
「は〜。結構抜いたねえ」
「珍しい薬草は見つかったアルか?」
「いろいろ手に入れたよ! ここは魔女が工房を構えるのに良い土地だ」
 興奮気味に語るロベリアの話をうんうんと頷きながら聞く奶とローザリカは、頃合いを見計らって、何を植えるか決めようと切り出した。
「虫除けになる花とか、あるだろう? 菜園でよく聞くものと相性がいいのはマリーゴールドかなと思うんだが、魔女殿のほうがそういうことは詳しそうだ」
「そうだねえ……その他にはラベンダーとかタイムとかかな。採集して料理に使うならタイムだけれど、シャルガネ料理に合うかどうかはわからないし、ここはマリーゴールドとラベンダーかな。いや、でも、植生を調査してからじゃないと固有種を駆逐してしまうかもしれないか」
 滔々と語るロベリアは、しかし喋りながらすでに動き出していた。手頃な石を拾って、縁側のそばに花壇を作り始めたのだ。
「とりあえず今回は、山の綺麗な花をここに植え替えよう。見目の華やかさは大事だからね。その後畑に冬蒔き・冬植えの野菜を作ろうか」

● 安穏の庵
 井戸と水車の修繕がある程度進んだあたりで、スィーリーンは家屋の修繕にあたっていたナンチとツァガーンナルに合流する。フリューとAlexandra、そしてひまりが買い付けた材料を縁側に並べ、ナンチとツァガーンナルはまず、床や窓、天井、屋根といった場所の小さな隙間を埋めていた。
 この場所の確認には、ひまりやたぬきたちが協力した。冒険者たちがそれぞれ苦労しつつ、働かざるたぬき食うべからず(手伝ったらおやつあげる)と伝えたのだ。
 ひまりがつぎつぎ隙間を見つけていくのを、弟妹たぬきたちは何かの遊びと思ったのか、小さな体を潜り込ませて補修箇所を申告する。そのおかげで、隙間の穴埋めは思いのほか順調だった。
 やがて屋内に流れる風が穏やかに対流しはじめたころ、たぬきたちはその変化に気づいたのか、ぬくぬくぽかぽかの火鉢の周りでごろんと寝転がる。
「あっ、もう一仕事……と言いたいところですけど、ひまりにもお休みが必要ですからね」
 ツァガーンナルはひまりたちを休ませつつ、家屋の歪みをチェックしているスィーリーンとナンチを振り返った。
「どうでしょう? 隙間はあらかた埋められたかなと思うのですが」
「はい。あとは建て付けの調整と、それから……スィーリーンさんとも話していたのですが、内装ですね」
 ナンチはスィーリーンが書きつけた紙を、ツァガーンナルにも見せる。
「たぬきをモチーフにした装飾具や模様を取り入れてはどうか、と」
「わあ、かわいいです!」
 スィーリーンが提案したものは、傷を隠すようにたぬきの絵を彫った柱や戸だ。柱については強度に影響が出ない程度に収められており、スィーリーンの木工技術が光る。
「この戸に張ってある障子紙にも、たぬきの足跡を……と」
「素敵です! あっ、お茶屋さんの看板などもどうでしょう、たぬき仕様に!」
「まあ、それはいいわねえ」
 皆の作業を囲炉裏ばたで見守るミヨも、にこにこと賛成する。
 家主の許可が下りたことで、3人は作業に移った。また、ナンチの提案で、余った資材でミヨが歩きやすいように段差を少なくしたり、手すりを取り付けたりなども作業内容に加わった。
 それが全て終わる頃、他の冒険者たちも庭先から帰ってくる。日は傾きはじめ、疲弊し縁側に転がる面々に、冲南が湯の用意ができたと声をかけるのだった。

● 心と体、温まる場所
 風呂から上がった奶は、囲炉裏ばたの光景に目を丸くする。相棒(ペット)として連れてきた狼が、弟妹たぬきたちの枕にされていたのだ。
 狼と、たぬき。てっきりたぬきたちは狼に怯えるものかと思っていたのだが、いつの間にか仲良くなったらしい。そしてその狼と弟妹たぬきたちを、先に上がっていたナンチが穏やかな目で見つめていた。
 同じく囲炉裏を囲むスィーリーンの手には茶がある。ナンチは奶に気がつくと、煎じた茶を注いだ湯呑みを差し出した。
「ありがとアル。他のみんなは……?」
「ツァガーンナル様とスフィカ様はミヨ様らとお台所に。ふふ、私たちがお茶屋さんの最初のお客になれそうですよ」
 そう答えるスィーリーンの隣では、ロベリアが末っ子たぬきを腹の上でモフりながら寝転がっていた。
「もふもふ、ふかふか、癒やされる〜……たぬ茶屋、悪くないかもねえ」
 魔獣とはいえど今のところはおとなしいし、何より人に懐いている。ひまりやミヨにテイマーの素養があれば安心できるのだが、このあたりはたぬ魔獣たちの意志まかせだ。

 一方台所(くりや)では、スフィカとツァガーンナルがひまりとミヨと一緒になって、汁粉と雑煮を作っていた。
「黒い汁物、最初見たときは驚いたけど、すっごくあまーい! 疲れた体に染み渡るよ〜」
 スフィカは鍋から掬った小豆をひとくち食べ、ほうと息をつく。ツァガーンナルの方はというと、ミヨと一緒に白玉団子を作っていた。
「まんまる、まんまる……ころころするの」
 ひまりのアバウトすぎる説明も、ツァガーンナルは順調に飲み込んでいく。すでに出来上がったものが載っている皿には、普通の餅団子も用意されていた。スフィカは雑煮の鍋をゆるくかき混ぜながら問う。
「こっちは茹でないの?」
 白玉団子と餅団子は、使う粉が違う。スフィカの問いにひまりは頷き、出来上がった白玉を湯にくぐらせる。
「こうすると、しらたまはぷるぷるになるの」
 つやつやのぷるぷるになった団子を、スフィカはじっと見つめる。ひまりはそっと白玉のひとつを串に刺し、汁粉につけてからスフィカの口元へ持っていった。
「ん〜おひおひ(もちもち)!」
「あっ! ボクも食べたいです!」
 ここに集う冒険者たちを加えた全員分のまかないだ。こんもりとした団子の山からひとつくらいなら……とツァガーンナルは思う。そんな思いを察したのか、ひまりは今度は餅団子に餡をつけてツァガーンナルに差し出した。
「おいひいです……」
 つまみ食いは調理人の特権である。ミヨの足元で尻尾を振る長兄たぬきもまた、期待の眼差しでひまりを見上げたが、しかしもちもちの餅は与えられなかった。喉に詰まらせるといけないからね、仕方ないね。
 長兄狸はしょんぼりとしつつ、火にかけた鉄瓶をミヨが運びにくそうにしているのを見ると、取手を咥えて居間へと運んでいく。働かざるたぬき食うべからずなのだ。
 雑煮と汁粉が出来上がったところで、冲南が一方の鍋を囲炉裏に、もう一方の鍋を火鉢の上に載せる。空腹を刺激する甘い匂いに、湯上がりでごろごろしていた面々が反応した。
「美味しそうな匂いがしますね」
 Alexandraは書き物の手を休めて顔を上げた。今回は手をつけられなかった煉瓦の取り寄せについて、今後火を扱う設備の改装に役立てようと思ってのことだ。
「お汁粉と、お雑煮だよ〜。ミヨさんとひまりちゃんと、うちらで作りました!」
 スフィカはほくほく顔で皆を集めた。ひまりが取り分けるのをひとりひとり、たぬきも混ざって待機列を作る。
「お茶屋さんって、シャルガネ風の喫茶店だよね? シャルガネの茶や食べ物には興味があってね……じゃあその、オシルコというのをいただこうかな」
「うん。……はい、どうぞ」
 ジュストが注文したものを、ひまりはいそいそと用意する。
「白いのが、シラタマ。へえ。このつぶつぶしたものは?」
「あずき。おまめをあまーく煮たものなの」
 ひまりから汁粉の注がれた椀を受け取った状態で、ジュストは一瞬固まった。
 ——ジュストは、豆が(一部)苦手なのである。
 しかしひまりの笑顔を曇らせてはならない。まったく食べられないわけではないし——ジュストは優雅(クール)に列を去る。
「疲れた身体にはやはり甘味か。僕もそちらにすればよかったかな」
 そして、ローザリカからかけられる言葉。ジュストはちらりとローザリカを見やった。
「……ロゼ」
「なんだ、従弟殿」
「君、分かっていたね?」
「雑煮もいいが(顔を立ててやろう)、少しばかり量が多かったかもしれない(ひとつ貸しが出来たな)」
「………………そちらの甘くない雑煮(スープ)をいただこう」
 ジュストに向かって雑煮を差し出すローザリカの得意げな表情に、ジュストはギュムッとわかりやすく渋面を作るのだった。

「甘いものって、幸せの味ですよね……冷えた身体に、ほっと染みてきて、ほっぺが落ちちゃいそうです!」
 ツァガーンナルはほくほくと汁粉を啜る。そして合間に、濃い目にいれた緑茶と餡をつけた団子を頬張った。
「ひまりお手製のお団子も、とても美味しいです。このお茶も、渋味が甘味に程よく……。ボク、紅茶はわかるんですが、こちらのお茶にはまだ詳しくなくて。どうしたらうまく淹れられるんでしょう?」
「そうねえ……紅茶のことはよくわからないけれど、シャルガネのお茶は、熱々のお湯は使わないのよ」
 ミヨが東方風の茶の煎じ方を教えているそばで、スィーリーンとナンチ、そしてロベリアは雑煮をつっついていた。
「いや〜前は餅に(炭化の)魔法をかけてしまったからね。やはり料理は料理の上手な人に任せるのが一番」
 ロベリアが言う魔法が何かを察した2人は、うんうんと頷く。ロベリアがたぬきたちとごろごろしてくれていて助かった。主に皆の命が。
「そういえば茶屋の看板にするっていうあれは、君たちがやったのかい? たぬきの形でとってもかわいいね!」
「ええ、図案はツァガーンナル様が、削り出しはナンチ様がしてくださって——」
 今宵もまた賑やかな夜だ。やがて各々食事を終えると、片付けののちに思い思いに過ごし始める。
「力仕事の後に美味しいのたべたら後はもうモフるだけ! ほ~ら気持ちいーブラシだよ〜。たぬきたちよっといで~」
 スフィカがペットのお手入れ用ブラシを軽く振りながら弟妹たぬきたちを手招く。それを眺めつつ、ツァガーンナルは疑問を口にする。
「そういえば思ったんですが、たぬき達には名前はあるんでしょうか?」
「なまえ」
 そばでフリューから字を教えてもらっていたひまりが反応を示す。
「……なるほど。茶屋をするなら、たぬき達も名前があるといいかもしれませんね」
 ナンチは余った紙に、いくつか単語を書きつけた。
「ナンチおにいちゃん、これ、なんてよむの?」
「上から、トルイ、オラル、アルタルン、クドゥカ、テムル……です。昔、常連だったお客人の名前で、響きが独特だったので覚えていました」
 ナンチの実家は鍛冶屋である。旅の一団が武器の整備のために立ち寄ることもある。ひまりもその聴きなれない響きに興味がわいたのか、たぬきたち1匹1匹に触れながら、その名前を繰り返した。
「そうだ! ナンチさん、木の、こう、小さくてええんやけど、まだあまっとるやろか?」
 何か思いついたのか、フリューが両手を打つ。ナンチが資材置き場からいくつか木材を持ち寄ると、フリューが木片からそれぞれの名前を刻んだ名札を作り、蔓を通してたぬきたちの首にかけた。
「どうかな? ふっふっふ。これ、うちらと君の友達の証ね。この庵の人達に危害を加えず、何かあれば助けるって約束」
 たぬ魔獣たちはフリューの言葉を完全には理解しない。しかし、名札のことはアクセサリーか何かと思ったらしく、それを邪険にすることはなかった。相手がフリューだからというのもあるかもしれない。作業の合間、たぬきたちと積極的に意思疎通を試みていたからだ。
「よーし、ではあらためてモフモフさせるアル」
 奶はわきわきと手を動かしつつ、「トルイ」の名札を下げた長兄たぬきににじりよった。普通のたぬきよりもひと回り大きいこの特異個体は、モフモフし倒されることを敏感に察知したらしい。ぴゃっと飛び上がり、奶と囲炉裏ばたで追いかけっこをはじめる。
「皆さん、布団を敷きますよ」
 そこへ、洗った食器を拭き終わった冲南が皆に声をかけた。
 今夜は、いつもより暖かい心地で眠ることができそうだ——。

マスターコメント

お疲れさまでした! たぬ茶屋開店に向けて、無事改装が終わりました。採用できなかった部分もありましたが、各種施設がとっても使いやすくなりました! たぬきたちにも名前が与えられたようです。 そしてたぬ茶屋開店まではもうちょっと続くんじゃ。 それではまた、お会いしましょう!
ミドルシナリオ

ミドルシナリオ普通 報酬:標準10 / 6〜10人

2021年12月27日 22時37分32秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. スフィカ

    スフィカだよ、顔見知りの方もそうでない方もよろしくね! 井戸はお店関係なく頻繁に使うから是非とも改良しておきたいところ。 今考えてるのは井戸の滑車を増やして、より少ない力で水汲みできるように。 なんだけど、軽くなるだけで作業自体はかわんないから、皆にもっといい案あったらそっちを手伝いたいなって思ってるよ。

  2. ハルハン・ツァガーンナル

    ツァガーンナルです!よろしくおねがいします! ボクは、力はあるので、建てつけの修繕など、力仕事とか手伝えたら、と! 井戸は、子供でも簡単に水くみできると、楽になりますよね。うーん。

  3. ナンチ・ヤジナイ

    ナンチ・ヤジナイです。よろしくお願いします。 人手が足りないところに行けたら良いんですが、とりあえず家屋の建て付けの修繕を考えておきます。

  4. スィーリーン

    スィーリーンと申します。 よろしくお願いします。 木工や手細工は得意ですので、 家屋や水車の修繕をしようと思っています。

  5. ローザリカ・D・ケレス

    ローザリカ。 生憎と扇より重いものは持ったことのないか弱い身だが、よろしく頼むよ。 商売の基本は+プレミア。つまり付加価値の創造こそが大事と言える。 まあ、物珍しいたぬきたちもいるようだが… 何度も通い詰めてもらうにはやはり、四季折々の手作り野菜などが手堅いと僕は思うね。 ……と、いうわけで。僕は畑の整備を手伝いたい。

  6. ロベリア

    やぁ、タヌキの魔獣達は本当に住み着いてしまっているようだね? ボクはロベリア、見ての通り悪い魔女さ 皆、よろしく頼むよ。 やる事は多いが…どこに行こうか悩ましいな 一応、造園と地質等に関する知識が役に立ちそうな畑に行こうかと考えているが、人手が足りない所があればそちらに向かうかな。 >畑 ボクも季節によってメニューを変える形には賛成かな! その為の畑を整備する様にしてみようか 後は折角の茶屋だし、景観も気にしたいと思っているよ。 >井戸 古い機構との事だし、修繕と滑車を増やすだけでもかなり変わりそうとは思うが、それ以外だとロープを引っ張る為のクランク(回す奴)を設置するとか、か?(既にあるかもしれないが) …無事作業が終わったら、ボクはまた宴でもさせてもらおうかな~!(美味しい料理に期待している魔女

  7. フリューリングスルフト=ティエラ

    シーフのフリューリングスルフト、長いからフリューって呼んでさぁ! よろしくね! ほんとやね。タヌキたち住み着いてしまってる( でも仲良くしてるならよかったさぁ! 人手が足りないところとか、終わったら手伝いにいけるよう、ひとまず担当希望箇所を一覧にしてみるさぁ。間違えてたりしたらごめんね! 一覧にはするけど確定とかじゃないつもりなので。自分用に見やすいようにって感じです( うちの第一希望はそうだなぁ、井戸にしようかな。スキル「未来に生きてる」をこう、上手く使って、ポンプ式?のとか。たぬき達だけでも汲み上げられるように出来たらなぁって理想を掲げる!( ■修繕が必要な箇所 ・家屋の全体的な建て付け:ハルハン、ナンチ ・井戸の修繕:スフィカ、フリュー ・水車の修繕:スィーリーン(家屋も) ・畑の整備:ローザリカ、ロベリア

  8. ジュスト・V・ケレス

    ジュストだ、よろしく頼むよ。 造園なら馴染みがあるから、畑の整備をと思ったが…… (見知った顔に気づいて) うん、人手が足りなそうな水車の整備の方へ行こうかな! ただ、水車に限定せず力になれそうな場所があれば手伝いに行く次第。 まぁ、力仕事はあまり得意ではないから、それ以外になるけど。 お年寄りと幼い子の暮らしなら、紋具をもう少し活用できれば快適に過ごせる部分もあると思うんだけれどね。 既に使ってはいるけど古くて触媒交換が必要だったり、物自体の取り換えが必要な場合もあるかもしれないならそのあたりの点検は出来そうだ。 ■修繕が必要な箇所 ・家屋の全体的な建て付け:ハルハン、ナンチ ・井戸の修繕:スフィカ、フリュー ・水車の修繕:スィーリーン(家屋も)、ジュスト ・畑の整備:ローザリカ、ロベリア

  9. ナンチ・ヤジナイ

    家屋の建て付けは窓、床、天井、屋根などを資材が使えるだけ隙間を埋めていくようにしたいと思います。和紙、粘土、漆喰、毛皮、木材… 茅葺までは難しいでしょうか。 木材の加工が必要な時はスィーリーンさんにお願いしても大丈夫でしょうか? あとは修繕半分、のんびり半分になりそうですが、料理はしないので用意されたものをいただくだけになりそうです。

  10. スィーリーン

    >ナンチ様 はい、勿論です。 お役に立てる様頑張らせて頂きますね。

  11. スフィカ

    >井戸 ロベリアさんのクランク設置案を見て輪軸ならだいぶ軽くできるかなー、と思ってたんだけど フリューさんのポンプ式案、実現できたらこれが最高だよね! 良い案あったらそっちにできればって思ってたし、うちも手伝わせてもらっていいかな? 外側に関しては金属製になるのかな、だとしたらうちにできることは少なそうだから……。 ポンプを設置するための井戸蓋作りとか、細々した雑用させてもらうよー。 うまくいけば釣瓶や滑車は使わなくなるだろうけど、屋根は雨よけになるからそのまま使うのもありだし修繕してもいいね。

  12. フリューリングスルフト=ティエラ

    >スフィカさん お、お!もちろん! 一緒にたくさん案を出し合って、より良いものを作ろうさぁ♪ のんびりな時間がもてたら、たぬき達と交流する予定さぁ 働かざるもの、食うべからず……って、うちの友人の受け売りやけど。 茶屋を開くなら、居座るならお手伝いできることは覚えてほしいからね!

  13. ハルハン・ツァガーンナル

    もうすぐ出発ですね 分担もできていますし、あとは頑張るだけですね! 終わったら、茶屋をする前の練習に、お茶を入れたり、おやつを作ったりも良さそうですね! ボクは、そちらでも色々お手伝いしてみたいです

  14. 牛・奶

    ぎりぎりの顔出しになっちゃってごめんなさいアル。 牛奶アル。皆さんよろしくアル。 ワタシはまず畑の整備に行って、終わったら苦戦しているところに回りたいと思っているアル。 畑仕事は初めてアルが、精一杯頑張るアルよ。 ・家屋の全体的な建て付け:ハルハン、ナンチ ・井戸の修繕:スフィカ、フリュー ・水車の修繕:スィーリーン(家屋も)、ジュスト ・畑の整備:ローザリカ、ロベリア、奶

  15. スフィカ

    作業後のゆったり時間も楽しみだねぇ。 >フリューさん ありがとう! ポンプ本体は勿論、それ以外でもよくできそうなところあったらじゃんじゃんやっちゃおー!

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0