【聖祭】不敬なる薔薇と百合
九蓮宝燈
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シナリオID:1724
オープニング
リーンエス王国、カペル領。
ここは『花の領地』の美称に相応しく、花とワインの名産地。住民は老若男女誰もがお祭り好きな、和やかな土地である。
この土地の領都には大きな劇場があり、人々に華麗な夢を見せる。
名うての芸人、楽器職人が各地から集められ、きらめく舞台に立ち、音に聞こえし英雄の伝説を歌い奏でるのだ。
中でもカペル侯爵家お抱えの芸人――『青薔薇』と呼ばれる一部の芸術家たちは、諜報員・広報員という別の一面を持っていた。
彼らの集めた情報はカペル家、ひいては王家に報告され、芸術というドレスをまとって広報というダンスを踊る。
華やかな薔薇の持つ恐るべき棘、『正確すぎる情報』は、妙に説得力のある創作として世間にほのかに香る。
……だからこの土地で『その手の勢力』が盛り上がるのも当然の帰結であった。
●薔薇と百合に集う蝶
ロスガリア大陸が王子✕皇子派、侍従✕皇子派、王子✕辺境伯派の三つに分かれ混沌を極めていたのはもはや去年のこと。
今年の覇権は竜人もの。
大酋長✕侍従派と赤の示指✕大酋長派がしのぎを削り、去年から引き続きの侍従✕皇子派が、数の上では劣るもの考察に一日の長ありといった様子。
また、激動の情勢は新しい人物を歴史に登場させた。
これまでは少年と言えば皇子一択だったのが、ヤンチャで弟感溢れる難民の登場でお姉さんがたのハートは撃ち抜かれ。
元メドゥの影のある儚さに夜も眠れなくなるお嬢様多数。
少年の外見と老成した人格のいいとこ取りな燕は、単品での人気もさることながら、サイコパスなかけ算相手禿鷹との軽妙な掛け合いが大人気。この道はどちらかではなく組み合わせとはよく言ったもの。
竜人ブームの影響で注目を浴びたターミル族の少年は、その数奇な運命を深読みする者続出。
夏に起きた学園の動乱で、学園外にその美貌と誇り高い佇まいが知れ渡った黒の後継は『右か左か』で戦争をもたらし、姿絵一枚につき一票で別の選挙がどうのこうの……。
一方で法衣貴族の嫡男は「中立っていうくらいだから両方イケる、どっちにも染まれる」「『中立』って単語からしてもうエロい」と、揉めることなく愛でられていたとか。
生意気な貴族派貴族と思いきや案外できる子な泣き黒子に婚約者がいるという噂が流れたときはその性別が何かで狂う者がいた。
青年ジャンルにおいては、単品としての人気はやはり王子の人気が根強い。
新興勢力として伸びてきているのは面倒見のいい団長、奔放な魅力のヴェルクリエの究明者、ミドル枠の貴族派参謀、枯れ枠の蛇翁と幅広い年齢層の人物たち。
獣人枠は精悍な蒼影と恵体の賢猪が人気を二分している。
「……それってどのくらい信憑性ある話なの?」
普段は都市同盟で冒険者ギルド受付嬢をしているアルミレア・A・アンダーソンは、熱く語る同行者、ギルド事務員のブリジット・L・イングリス、愛称B.L.の言を訝しんだ。
「完全に私の主観よ!」
鼻息荒いB.L.は戦利品から目線を上げずに答えた。
ここでは仮装がドレスコードと押し切られ、アルミレアは青いアオザイを着せられている。B.L.の衣装はミニスカガーター姫騎士。
しかしいざ現地に来ると仮装していない人も結構多かった。
「B.L.姉さん! お姉さんのオススメのこの人、最高ですっ!」
もう一人の同行者、ぽわぽわ癖毛の少女フランが興奮気味に言う。彼女の衣装は東方大陸風。
フランが読んでいるのは耳元に橙色の百合を咲かせる青年が最近反抗的になってきた弟子にわからせる本だ。
「でしょう!? まさかここで厄災✕伯爵本に出会えるなんて!」
彼に直接関わった者や、報告書を読んだ冒険者ギルドの関係者でもなければ墓掘、または厄災と呼ばれる青年の存在は知らないであろう。彼の本が出ている理由、それは作者が『青薔薇』だから。
「いいのかしら、任務で得た情報をこんなことに使って」
アルミレアの前にはB.L.とフランの作品と、彼女らが買い込んだ写本や絵画が置かれている。
何気なく適当な本をパラパラとめくる。
内容は探索者ものらしい。やたらいい体の男性二人が同棲する話だ。
男同士、密室、一ヶ月――何も起きないはずはなく。そういうことである。
女の子同士のものもあった。
界隈では眷属姉妹ものと呼ばれるジャンルらしい。
優秀な妹は姉をからかうのが趣味。しかしからかいの内容は徐々にエスカレートして……ちょめちょめ。
ドゥジンシ。
偉大なる神々や、過去、あるいは現在の英雄を、やたらと可憐な姿で描画したり、同性同士での恋愛劇を創作したりした書物である。
絵画神ドゥジンの名をとってそのように呼ばれるのだ。
この妖しくも淫らな書物の数々は信徒たちの祈り。
「ハーレム殺しの写本が出てるっていう噂があるし、偶像も見に行かなくちゃ! 回りたいスペースがまだまだいっぱいあるわね」
今回の礼拝の目玉は有名彫刻家の『征竜の巫女』らしい。
他にも、未熟な果実の背徳感と健康美を併せ持つ予言者像、本人のナイスバディをことさらに強調した探索支援ギルド長像など、神造型師の力作が揃っているとの情報。
先ほど、怪しい仮面にコックコートの人がアルミレアに教えてくれた。
ちなみに彼は本当にマザキヤ支部とは関係ないのだとか。
「じゃ、アルミレアはお留守番お願いね!」
B.L.は割り当てられた机にアルミレアを残し、フランを連れて行ってしまった。
アルミレアは今日は売り子を頼まれて来ているのだからしかたないものの、好きなものに夢中になっている二人を少し羨ましく思った。
「しっかし、こんな立派な館にこんなに人を招いて。やることがこれだっていうんだから主催者も酔狂よね」
アルミレアが独り言をこぼす。
アルミレアの頭上、回廊から机が並ぶホールを見下ろす貴腐人が一人。
「あたくしの眼鏡にかなう神絵師はいるかしら」
仮面で顔を隠した彼女は主催者。この館の女主人である。
足音を鳴らさぬよう、優雅な足取りで階段を一歩一歩降りていく。
解説
マスターより
リプレイ
更衣室の前で待ち合わせをしていたテス・クラルスは待ち人を見つけると高く手を上げた。
「ロイ! シルヴィ! こっちだよ!」
ここでは仮装がドレスコード……というのはデマであったが、そのほうが盛り上がるのは事実。
テスの服装も辺境伯のそれである。
この会場のある土地の領主の令嬢シルヴィア・A・カペルは、礼拝の知識はあるものの参加は初めて。世代を超えた友人であるテスに作法を尋ねた。
「テス、もしよかったら仮装を選んでもらってもいいかな?」
テスはにこやかにシルヴィアとロイ・アウレアに鞄を手渡す。
更衣室から出てきたシルヴィアは、厄災に、ロイは長い髪と耳を隠して王子に扮していた。
「俺は面白い物語が好きなんだよ――なんてね」
シルヴィアが芝居がかった口上を述べるが、厄災を知るに気づくものはこの会場には少ない。
「美しいから男装も映えるね。似合っているよ」
テスは自身の見立てが間違っていなかったことに満足を覚え、そしてロイの盛装を見て頬を赤らめる。
「色彩も相まって見惚れてしまうよ」
「見事だ、二人とも麗しいよ」
ロイも二人の衣装を褒める。
「熱量が高い礼拝とは聞いたが……まさにな……」
会場に満ちる『好き』の圧。不慣れなロイもつられてそわそわとしてしまう。
テスの戦利品は王国を舞台とした健全の二冊。
伯爵と騎士の絆は忠義と呼ぶには切なく甘く、しかし立場を思えば心に閉じ込めておくない……そんな物語と、とある王子と伯爵の何気ない日常とそこに滲む絆を描いた、そのまま読めば癒やされ深読みすれば燃える二度美味しいお話。
その本選びのセンスにシルヴィアは共感を示す。
「シルヴィは興味があるんだね」
シルヴィアが彼女の友人たちを題材とした本をちらちらと見ていたのに気づき、テスは優しく背中を押す。
「気兼ねなく好きなものをご覧」
シルヴィアが傷ついた小鳥を手巾で包むように取り上げた本はブレイブ記憶喪失もの。
記憶喪失。それはこの界隈では一種の定型。本来一度しかないはずの『初めて』の再来、また同じ人に惹かれる運命感が魅力。
この本では「俺が、男と……?!」と頭では戸惑いながらも体は覚えてしまっているブレイブと、羞恥に頬を染めるレインが切なくも官能的に描かれていた。
もう一冊は厄災×伯爵師弟わからせもの。
恥辱的な仕打ちをされているはずなのに青灰色の怜悧な瞳にはなぜか艶が滲み――。
「墓掘り人は新進気鋭の作家が手を出し始めているから勢いがあって楽しいね」
厄災×伯爵はテスの好みにも合ったようだ。
シルヴィアもテスもお買い上げ。シルヴィアは作者に代金を渡すとき、薔薇の砂糖漬けを差し入れしようとし、ふと視線を止めた。
「これは先生×祖父本?」
作者が青薔薇であれば、先生のことも知っている。しかし近親者の不敬があろうとは……。
しかしシルヴィア的には可なので表紙買い。
「シルヴィの立場で先生×祖父は読みにくくないか?」
ロイはそう苦笑する。
そういうロイも恋人であるテスに似た人を題材とした本を鞄の底が抜けるほど買い込んでいた。中身を確認する余裕がなかったのでどれも表紙買いである。
そんなロイにシルヴィアが耳打ちする。
「この本はロイ×テスだよ。買おう」
ロイの鞄はさらに重量を増すことになった。
●
知を紡ぐ者ストレガ・L・リベルガストラは評論島にいた。
ここだけは熱の性質が痴的ではなく知的。
人物を取り扱う、娯楽の意味合いが強いジャンルの熱が高かろうとも、ドゥジンは破廉恥だらけの怪しい神ではない。
あらゆる創作表現を受け入れ、人々を楽しませることが真なる信仰であるとストレガは認識している。
恋愛本ばかりではないという事実はもっと広めるべきだと思いつつも、人には息抜きが必要であることも理解している。
(まあ、マニアックな資料を求めてやってくる学者方々が並んでいる様が異様というのは否定しないのだ)
ストレガの机には『大脱出』の写本・解説書や色々な学術資料など貴重な書籍が並んでいる。そういったものに興味を示す者の熱は他者には理解しにくいものだ。
同好の士の写しや連絡先交換の申し出に快く応じるストレガ。
ストレガがお出ししているのは資料だけでなく、このような本もある。
中堅冒険者パーティーが戦闘に役立たない調理師を詰っているシーンから始まる。
彼らはこの土地の領主であり、ギルドマスターである女騎士の護衛任務中である。彼女の領内視察中に自分たちの有能さをアピールしようと力が入っているのだ。
険悪な空気の中ワイバーンが襲来。逃げながらもなんとかワイバーンを討伐する一行。
ワイバーンの死体をどうするか?
ここで先ほどまでお荷物扱いされていた調理師が一転活躍し始める。
煌めく包丁。うなるフライパン。
『魔獣がこんなに美味しいなんて!』
食べることの幸せについて語る、女騎士メシ堕ち本である。
ちなみにワイバーンなのは作者の最近の実体験が由来。
『肉パンワインだけじゃ力にならないよ。野菜も採ることで体の調子はグンとよくなるんだ。瓶詰めだけどね』
このようにところどころ栄養学に基づいた小ネタもあって、読むだけで正しい知識が身につく一冊である。
後半は獣の生態、食える部位、そのレシピ。
とくにスライムには詳しく言及されている。
環境と食性と加工次第でスライムは珍味にして素材になる。
蜂蜜を主食とするある種がその例である。
魔獣は凶暴なだけでなくヒトと共生に成功しているものもいる。
無闇に恐れることなく正しい知識をもって共存していくことを訴えるような本であった。
ストレガの本の写本が存在するのは、彼女が冒険者として活動していく中で応援する者が現れたからであろうか。
刺激的な数々の本に浮かされた様子のロイは、ふらふらとこの島に辿り着く。
テスにストレガの本を贈られた。
「料理本が癒やしになるとは……」
●
猫耳イヤーマフをつけたのトーラは館内を見回っていた。
いつもと同じとは突っ込んではいけない。
知人の勧めで来てみたものの、トーラにドゥジンシの知識はない。
ストレガの料理本、巫女や驢馬の像や本を見ているうちは余裕であった。
「こんなものもあるんですね」
だから『ソレ』に辿り着いてしまったのは思いがけない事故であった。
「……こ、これはレイウェスト様!?」
紙面には黒髪を指で弄ぶ半裸の王子と首筋に独占の証が刻まれた同じく半裸の皇子が。
(こ、これはいいんですか不敬ですし捏造ですし不謹慎ですし何より男の人同士ですよっ!?)
作者が目の前にいるため口には出さねど、顔を真っ赤にして目を回すトーラ。
(ううん。ドゥジン神さまの信仰はわたしにはわからないですねぇ……)
トーラは頭の中でそう考えていたが、作者は自分の創作がトーラの心を確かに動かしたことを嬉しく思い、トーラに読んでくれた礼を言った。
先ほどの本で洗礼を受けてしまったトーラは思ってしまった。
――自分好みの展開のお話を読んでみたい。
しかしなかなか見つからないもので、ハフリン女子かと思えばドワーフだったり、ヒューマンやエルフの幼女だったりする。
やっと見つかったと思えば、皇族の血を絶やさぬために皇子が王国貴族と結婚するのを、「これでよかったの……」とハフリンメイドが涙ながらに見送るものであった。
(これはダメですっ!)
次に手に取ったのは、ハフリン娘を庇って皇子が幽界樹の内部に囚われ、全身を蔓に拘束されて生きたまま体内に侵入した根からエーテルを吸われ続ける生体タンクエンドだった。
(これはもっとダメぇ!!)
衝撃展開に脳を破壊されたトーラが思わず閉じた本の表紙には「レイレイがなんでもする本」と書かれていた。カンパリ市の信徒たちがお金と原稿を持ち寄って出した本である。
「すみません、よろしければイラストのリクエストできないでしょうか……?」
ネタはともかく絵柄は好みだった作家に紙代を渡し、絵を描いてもらう。
(こうなったら理想に出逢うには自分で作るしかないでしょうか……)
受けてもらえたので好みを伝えながら、トーラの中で何かのフラグが立った気がした。
●
シェルリア・リトヴァール十七歳はレースの布をかけた机に新刊を飾って、左右の机の人に挨拶していた。
家族には内緒でやってきた、ここは王子✕皇子島。
シェルリアは新米冒険者なので知り合いが少ない。
妄想力はヒトには備わっているけれど、リアリティは大事にしたい。
というわけで、情報の得やすい王子✕皇子を選んだのだ。
これは竜人ジャンルより少ないとはいえまだまだ勢いのあるカップリング。シェルリアは「旬が過ぎたなんてことはドゥジン界にはありません!」精神でこの本を描いた。
隣の机の人は、日々の努力の痕跡のある丁寧なタッチを褒めてくれた。
自己流ではなく、パンクリアース学園の美術部員として正しく学び磨かれたシェルリアの絵は、上流階級らしい隣の席の人の審美眼に適ったようだ。
「絵も素敵だけど、切ない筋がいいわね。健全なのにドキドキしちゃう」
シェルリアの本は、打算で皇子を支援するけれどいつしか本気で力になりたいと願う王子と、国の復興のために王子に頼るけれどいつしか王子の側にいたいと願ってしまう皇子の、立場上思いを打ち明けられないすれ違いを描いたもの。
シェルリアはお年頃だが品行方正な少女なので、健全本である。
(くっ、あと一年の我慢です……)
可憐な淡紫の瞳の奥では薔薇色の炎が解き放たれる時を待っていた。
「こちらの本、読ませてもらっても?」
シルヴィアがシェルリアに声をかけた。
シェルリアは本を渡しつつ、彼女の着ている衣装が気になった。
「いい切り口だね」
テスに褒められてシェルリアは礼を言う。
近くの机の人と回し読みで王子✕皇子を存分に楽しんだシェルリアは、早めに机を片付けて他のスペースを見て回ることに。
「あああ読みたい本がいっぱいです! 全部回りきれるでしょうか……!」
勢力としては僅かながら、ひときわ怪しい熱を発する島に吸い寄せられたシェルリアは、新境地に出会ってしまった。先ほど会ったシルヴィアが着ていた衣装の人物を題材とした本――厄災✕伯爵に。
(こういう出会いがあるから礼拝参加はやめられないんですよね!)
一見優男風の厄災が左もいいけれど、退廃的な中に押し殺した熱を感じる伯爵が左でも……とシェルリアは思ったが、口には出さないでおく。左右論は時として戦争の引き金を引くこともあるというのはドゥジン信徒の常識だからだ。
「よい本でした。ありがとうございます」
伯爵家の次女という経歴に相応しい礼儀作法でもってシェルリアは礼を述べた。
●
具合の悪そうなトーラに外の空気を吸わせようと、ロイ、テス、シルヴィアの三人は中庭へ。
このような休憩所があるのは貴族のパーティーらしい。しかし利用している人はまばら。
「花壇のほうに仮装している人が集まっているようだね」
シルヴィアがそう言い、三人はトーラと別れて花壇へ。
ふと、テスは自分に熱い視線を注いでいる令嬢がいることに気づいた。
「辺境伯のファンかな?」
ここはなりきって振る舞うことが作法であるということで、テスはその少女の顎を指先でクイッと持ち上げ「応援ありがとう」と微笑んだ。
令嬢と別れたあと、ロイが耳打ちした。
「テス、サービスよすぎじゃ?」
「おや? 妬いたのかい」
くすくすと笑うテスの目は「可愛い」と物語っていた。ロイはその挑発を受けることにした。
「皆さんへ、オレからもサービスしよう」
声を張り上げて人目を集めると、テスの肩を押して壁際へ。そしてテスの顔の横の壁を、わざと音を立てて叩き、顔を寄せる。
「……本気にさせるなよ」
周囲から黄色い声が沸き起こる。この場にいる人の間に瞬く間に淑女協定が広まっていく。
テスはロイの狙いを察した。
「私の心には君だけだよ」
テスはそうつぶやくとロイの唇へついばむようなキスを。
(王子はこの程度では赤くならない……)
ロイはあくまで仮装に徹しようとするが紅潮は隠せない。耳を隠していたのが救いとなって周囲に気取られることはなかったが。
二人の演技を間近で見ていたシルヴィアも、空気に呑まれたためか頬を薔薇色に染めていた。
「あの……取っていただきたいポーズがあるのですが」
令嬢が控えめに申し出たのを機に、三人の回りがにわかに賑やかになる。
他にも王子コスの者はいたが、テスの相手は誰にも譲りたくないロイは、全ての要求を率先して引き受けた。
そのたびに周囲は歓喜に沸き、自分たちを似合いのカップルだと褒めそやす。
ロイの嫉妬はいつの間にかどこかへと消え去っていった。
「私たち三人を見事に描きあげてくれる方はいないか? 気に入れば買うよ!」
推しを合法的にガン見できる上にファン活資金が手に入るとなれば是非もなし。手の空いていた絵師が集まってくる。
「一番と思った作品には、王子ゆかりの手巾と、その御手に敬愛のキスを差し上げよう!」
レアグッズの出現に、さらに人々はざわめく。
授恵者ではない、貞節を求められる身分のある令嬢ならばほしくても諦めざるを得なかった幻の品だ。
炎が幻視されるほどの恐ろしい熱気が中庭に蔓延する。
「貴女もこのコンペに一枚噛むかい?」
仮面をつけた貴婦人にテスが呼びかけると、貴婦人は口元を扇で覆って答えた。
「いいえ、わたくし絵は見るほうですの」
貴婦人は宣言通り、大変楽しそうにことの成り行きを見守っていた。
ポーズをとり続けるというのは訓練していない者にはなかなか辛い作業であったが、徐々にしあがったスケッチが提出されていく。
「このテスは美麗でいいな」
ロイが気に入ったのはテスのスタイルのよさや流れるような髪の美しさをよく表現したもの。
絵はどれもクオリティが高く予算限度まで購入枚数は嵩み、一番の選定に三人はかなり悩むことになった。
苦労の末選出した一番の絵を、テスはシルヴィアへと贈った。
「君の先生へ送るといいよ」
先生は先に逝ったシルヴィアの祖父へ未練があり、シルヴィアを祖父の生まれ変わりとして扱って、祖父のように育てようとしていた。
そのシルヴィアが先生の呪縛から解放され、変わったことを見せつけてやろうという趣向だ。
「最愛の成長を喜ぶか……こっちの世界に引き込んだ私を殴りに来るかもね」
テスは悪戯っぽい笑みを浮かべる。ロイとテスも、シルヴィアの先生や祖父の友人なのだ。
「好きなものに染まるのは悪くないのだと、頑固者に教えておやり」
シルヴィアはテスの気遣いを嬉しく感じた。
「先生の反応が楽しみだ」
先生の『教え』と決着をつけたのは最近のこと。
先生がどう思うかはわからないが、シルヴィアには絵の中の自分は自由で楽しげで、美しく見えた。
マスターコメント
ショートシナリオ易しい 報酬:標準6 / 6〜6人
2022年01月09日 18時29分10秒 公開
相談掲示板
シルヴィアだ。今回はよろしく頼むよ。 ドレスコードがあるとは本格的な催しだね。これは気合を入れないと。 ドゥジン礼拝については、知識はあるけど参加したことは無いんだ。今回学ぶことが出来たらと思うよ。館内にも中庭にも行ってみたい。気になるのは友人達が出ている書物かな? 成立することを願いつつ……当日は楽しもうね。
ストレガなのだ。よろしくなのだ。 早速、 【質問】 ドゥジンにおいて恋愛描写は必須ではなく、まったく健全な本でも問題ないと思ってますが、今回の会においてそのような本をお出ししてもよろしいかお聞きしたい。 例えば特定の分野に偏った資料、具体的には料理本など。
ドゥジン礼拝ってすごいのね。 みんなよろしくね。 【回答】 絵画の神『ドゥジン』は“絵の神”“記憶の神”“文筆の神”“表現の神”などが統合されたもので、言い伝えを後世に残すためにその筆を振るうのが信仰のあり方だとされているようね。 だからマスターはありとあらゆるジャンルの創作物があっても問題ないと解釈しているわ。 人物、あるいは同性同士の恋愛を取り扱うのは『そういう人もいる』というだけだし、主催者の趣味でそういう作品が多くなっているシチュエーションだけど、必須ではないわ。
シェルリア・リトヴァールといいます! よろしくお願いします! ドゥジン礼拝となれば参加しない訳にはいきません! あああ読みたい本がいっぱいです! 全部回りきれるでしょうか……! そして自分のジャンルも考えないと。
お邪魔します これは欠かせないお祭りだね ドゥジン神に感謝を 私はコレクターなので コスプレしつつ買いに回ろうと思うよ やぁシルヴィ、一緒にどうだい エスコートをさせてくれないかい?
テス、お誘いありがとう。 ドゥジン礼拝についてはあまり詳しくないし、エスコートして貰えたら有難いよ。 今からとても楽しみだ。お兄様、改めてよろしくね。 何の仮装をするか迷っているんだけど……もし良かったらテスに決めて貰いたいな。この礼拝に詳しいようだし、きっと私に合う仮装を選んでくれると思って。どうかな?
ロイ・アウレアです。ヨロシク! 仮装のメンバーが足りないと呼ばれてね……何を着るか判ってないんだが… 出来る限り協力する事に成りました。
シルヴィ快諾ありがとう! ロイ来てくれてありがとう! ふふwじゃあ、何にするかゆっくり考えようか
参加が今から楽しみで仕方ないね アルミレアさん 【質問】をさせていただくね かの白騎士 アストリッド・リーヴァイスの名前を出しても大丈夫かな? 凛々しいシルヴィにぜひ衣装を着てもらいたいなって思ってるんだ 絶対に似合うと思うのだけど、可能かな?
質問への回答ありがとうなのだ。 では垂涎ものの創作を考えてくるのだ。
成立したのね。みんな参加ありがとう。 【回答】 弓月マスターのとこの人はOKNGのバラつきがあるみたいね。 白騎士はダメみたい。ごめんなさいね。 描写の方で名前出さずに雰囲気をほのめかすくらいなら問題ないから、着ることはしてもらって構わないわ。
トーラです。 よろしくお願いします! こういうところははじめてなのでいろいろと見て回ろうと思っています。
アルミレアさん回答をありがとう! そうかぁ残念 うーん名残り惜しいけどシルヴィにはのびのび動いて欲しいので オープニングに登場する方をおすすめしようと思うよ 確認できて良かった、感謝します! ふむむ 色々と気になるお店が出そうだね 皆さんのところもお邪魔したいな こちらこそよろしくね
テスは質問を、アルレミアは回答をありがとう。アストリッドの衣装はとても格好良いし、仮装が出来ないのは残念だけど、出発前に確認出来て良かったよ。テスが選んでくれる衣装を楽しみにしてるね。 ロイお兄様も仮装メンバーなんだね。一緒に遊べるのが今から楽しみだ。 ストレガの料理本も気になる……! 挨拶出来たらさせて貰いたいな。トーラも当日会えたらよろしく頼むよ。
もうすぐ出発か。シェルリアの本も楽しみにしているね。