【聖祭】塔から飛び降り、愛を叫べ?
狐野径
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シナリオID:1718
オープニング
●催しを考える
リーンエス王国でもシルトラース帝国の国境が近い町チュート。
それなりに大きな町だけれども、素通りされるという微妙な立地。観光でもなんでも、人が来てほしいと、催しを考えることが度々あった。
冬も何かるといいなと商店街は考える。
そして、いつもの通り、若手の女店主ササナに丸投げした。
「ふ・ざ・け・る・な、ふざけるなー!」
毎度のことで怒るけれども、冒険者ギルドの若手の男職員セツを巻き込んだ。
ギルド側にとってみれば、町の活性化もよいことだし、冒険者に来てもらえることも重要だと考える。だから、セツが巻き込まれるのは良しとしていた。
そんなこんなで、ササナとセツは計画を立てる。
開口一番、セツは
「……提案は全くありません」
というが、ササナは「別に構わないわよ」とあっさり言う。
「商店街の丸投げした人たちに、投げ直すから」
その言葉の意味が分からず、セツは「え?」と返した。
「個別に話をしに行くってこと。何か案ないかって」
「なるほど、そういうことですか」
ササナの答えにセツは納得した。
商店街の会議ではなくても、店員の中には案を持っている人もいるかもしれないのだ。
だから、二人は足で案を探しに行く。
そのような中、商品化されていないけれどもテラリウムのランタンを借りれるのではと提案は受けた。
それはモニターらしいから、早く頼まないと借りれないだろうとのことだった。
光輝くコケが入ったランタンは、珍しい、火の明かりと異なる雰囲気を醸し出すに違いない。
それだけでもいいけれども、どうしようかと二人は情報を集めていく。
占い処にやってきた。ここは、外部から来ている店主と店員であるため、違った角度で何かもらえるかもしれないと、少しは期待していた。
受付の少年イアハイト・シュトルツは「困りました」といい、うんうんうなっていた。
うさんくさい店主トラウム・エアウァルトは「塔から落ちれば?」とあっさりといった。
「それ、死ぬでしょ」
ササナが呆れて言う。
「いや、ちゃんと、安全装置つければ死なないさ。ま、塔の壁に激突ってこともあり得なくはないから……少し離さないといけないかもしれんが」
店主は言いながら、さらさらと設計図のようなものを書いた。
「でも、紐で大丈夫なんです?」
もっともな疑問に、トラウムは「まー」と何とも言えない顔をした。
「そういや、サウゼル大樹海の母蜘蛛だっけ……あの糸を拠って作った紐ってやつが、伸縮性あるし、耐久性もあるって聞いたぞ? あ、いや……エーテル流し続けなきゃいけないんだっけなぁ……」
と、トラウムは「母蜘蛛糸のロープ」があることを伝える。
とはいえ、トラウム自身、縁がないため、うろ覚え。
ササナとセツはじっとトラウムを見る。
そのため、トラウムは「手伝え」と言われていると感じ取った。
「俺、関係ないからな」
「いえ、あわよくば、授恵者だったりと思ったり」
ササナはにこりと笑う。
トラウムの表情がひきつる。セツを指さし、
「あんた、ギルドの人間だろ? 普通に頼めよ」
という。セツは「お願いします」とトラウムに頭をさげた。
「いや、うん、頼んでるけど、俺じゃなくて、冒険者に! 授恵者に!」
トラウムは手を振り追い返す。
ササナとセツとしてはきちんとネタももらったので、撤退する。
「ありがとう」
「ありがとうございました」
二人は準備を進めるため立ち去るのだった。
準備は二つ。
ランタンと飛び降り台を作ること。
まずはテラリウムのランタン。
サウザル大樹海で発見されたヒカリゴケを使用したものであり、3日でその光は失われる。
これを借りられることを確認した。
そのため、実物が来る前にどう配置するかは決定しておく。
設置は町の南にある広場の中央に設置する。木の形に設置した柱に、そのランタンをいくつか掛ける。光る木に向けて、通路を作り、そこにもいくつか並べる。
通路の周りには赤や緑の葉が植わった植木鉢を配置する。
ちょっとした森のような雰囲気になる仕掛けだ。
塔と広場は離れているし、昼と夜の行事に分かれているから悲鳴が聞こえる等はない。
塔から落ちるイベント。
中途半端城壁――全体を囲ってないのでそういわれる城壁にある塔にやぐらを組む。
飛び降りても体を支える装置を作る。地面にたたきつけられないように付ける紐については、母蜘蛛糸のロープを複数本編んで作ったものにした。それにエーテルを流し続ければ、安全は確保されるだろう。
エーテルを流し続ける仕事については頼む必要がある。これは、頼めば誰かはしてくれそうだ。
テストをしてくれる人がいるかという問題に直面する。
二人は覗いてみたけれども、足がすくんでひっこんだ。
安全装置はきちんと効果は発揮しているとしても、飛び降りる勇気はなかった。
「ここから飛び降りる勇気があるということは、それに見合った何かあるかもしれませんよね」
セツが思いついたとばかりに言う。
「何かって?」
「愛を叫ぶと、結ばれるとか、です」
「な、なるほど。飛び降りると同時に愛の告白。素敵……ね」
ササナは考えた。ロマンチックかどうか以前に、飛び降りる勇気がある方が何倍もすごいと考えてしまったからだった。
「叫ぶと、結ばれそうなきにはなるわね」
セツの言葉を認めた。
そんなか、冒険者かつ旅をしているというエルフ二人連れナツキ・エルとハルシ・エルが通りかかる。
ハルシは渋るが、ナツキはやる気満々だ。
「わかった! する、する! 面白そー」
「……ナツ……よくやるね……頑張ってね」
「ハルもするの! やたー」
「えっ」
という会話のあと、ナツキとハルシがテストジャンプをしてくれた。
ナツキは「もふもふ、させてー」と叫び飛び降りる。
一方で、ハルシは「ナツの馬鹿!」と言って飛び降りた。
そんなこんなで、一応、安全性は確かめられた。
エーテルを流し続ける係りとしても引き受けてくれた。
準備が終わった後、セツはしみじみ言う。
「基本的に、愛に満ちた行事になるんですね」
「……基本的……という時点でどうかしらね」
と、ササナはつぶやく。
「どっちにしろ、店の方も準備しないと……売上にかかわるから」
「あれ? ササナさんとこ」
「うち、雑貨屋よ! それも、一応、各地の置物集めてる」
「……すみません」
そう、ササナだけでなく、町の商店の人たちも動きを活発化させる時間になっていた。
冒険者ギルドを通じて、チュートのイベントのお知らせが飛ぶ。
昼間は塔から飛び降り、愛を叫ぼう!
夜は温かな光の中、のんびり過ごそう。
そのような行事だった。
リーンエス王国でもシルトラース帝国の国境が近い町チュート。
それなりに大きな町だけれども、素通りされるという微妙な立地。観光でもなんでも、人が来てほしいと、催しを考えることが度々あった。
冬も何かるといいなと商店街は考える。
そして、いつもの通り、若手の女店主ササナに丸投げした。
「ふ・ざ・け・る・な、ふざけるなー!」
毎度のことで怒るけれども、冒険者ギルドの若手の男職員セツを巻き込んだ。
ギルド側にとってみれば、町の活性化もよいことだし、冒険者に来てもらえることも重要だと考える。だから、セツが巻き込まれるのは良しとしていた。
そんなこんなで、ササナとセツは計画を立てる。
開口一番、セツは
「……提案は全くありません」
というが、ササナは「別に構わないわよ」とあっさり言う。
「商店街の丸投げした人たちに、投げ直すから」
その言葉の意味が分からず、セツは「え?」と返した。
「個別に話をしに行くってこと。何か案ないかって」
「なるほど、そういうことですか」
ササナの答えにセツは納得した。
商店街の会議ではなくても、店員の中には案を持っている人もいるかもしれないのだ。
だから、二人は足で案を探しに行く。
そのような中、商品化されていないけれどもテラリウムのランタンを借りれるのではと提案は受けた。
それはモニターらしいから、早く頼まないと借りれないだろうとのことだった。
光輝くコケが入ったランタンは、珍しい、火の明かりと異なる雰囲気を醸し出すに違いない。
それだけでもいいけれども、どうしようかと二人は情報を集めていく。
占い処にやってきた。ここは、外部から来ている店主と店員であるため、違った角度で何かもらえるかもしれないと、少しは期待していた。
受付の少年イアハイト・シュトルツは「困りました」といい、うんうんうなっていた。
うさんくさい店主トラウム・エアウァルトは「塔から落ちれば?」とあっさりといった。
「それ、死ぬでしょ」
ササナが呆れて言う。
「いや、ちゃんと、安全装置つければ死なないさ。ま、塔の壁に激突ってこともあり得なくはないから……少し離さないといけないかもしれんが」
店主は言いながら、さらさらと設計図のようなものを書いた。
「でも、紐で大丈夫なんです?」
もっともな疑問に、トラウムは「まー」と何とも言えない顔をした。
「そういや、サウゼル大樹海の母蜘蛛だっけ……あの糸を拠って作った紐ってやつが、伸縮性あるし、耐久性もあるって聞いたぞ? あ、いや……エーテル流し続けなきゃいけないんだっけなぁ……」
と、トラウムは「母蜘蛛糸のロープ」があることを伝える。
とはいえ、トラウム自身、縁がないため、うろ覚え。
ササナとセツはじっとトラウムを見る。
そのため、トラウムは「手伝え」と言われていると感じ取った。
「俺、関係ないからな」
「いえ、あわよくば、授恵者だったりと思ったり」
ササナはにこりと笑う。
トラウムの表情がひきつる。セツを指さし、
「あんた、ギルドの人間だろ? 普通に頼めよ」
という。セツは「お願いします」とトラウムに頭をさげた。
「いや、うん、頼んでるけど、俺じゃなくて、冒険者に! 授恵者に!」
トラウムは手を振り追い返す。
ササナとセツとしてはきちんとネタももらったので、撤退する。
「ありがとう」
「ありがとうございました」
二人は準備を進めるため立ち去るのだった。
準備は二つ。
ランタンと飛び降り台を作ること。
まずはテラリウムのランタン。
サウザル大樹海で発見されたヒカリゴケを使用したものであり、3日でその光は失われる。
これを借りられることを確認した。
そのため、実物が来る前にどう配置するかは決定しておく。
設置は町の南にある広場の中央に設置する。木の形に設置した柱に、そのランタンをいくつか掛ける。光る木に向けて、通路を作り、そこにもいくつか並べる。
通路の周りには赤や緑の葉が植わった植木鉢を配置する。
ちょっとした森のような雰囲気になる仕掛けだ。
塔と広場は離れているし、昼と夜の行事に分かれているから悲鳴が聞こえる等はない。
塔から落ちるイベント。
中途半端城壁――全体を囲ってないのでそういわれる城壁にある塔にやぐらを組む。
飛び降りても体を支える装置を作る。地面にたたきつけられないように付ける紐については、母蜘蛛糸のロープを複数本編んで作ったものにした。それにエーテルを流し続ければ、安全は確保されるだろう。
エーテルを流し続ける仕事については頼む必要がある。これは、頼めば誰かはしてくれそうだ。
テストをしてくれる人がいるかという問題に直面する。
二人は覗いてみたけれども、足がすくんでひっこんだ。
安全装置はきちんと効果は発揮しているとしても、飛び降りる勇気はなかった。
「ここから飛び降りる勇気があるということは、それに見合った何かあるかもしれませんよね」
セツが思いついたとばかりに言う。
「何かって?」
「愛を叫ぶと、結ばれるとか、です」
「な、なるほど。飛び降りると同時に愛の告白。素敵……ね」
ササナは考えた。ロマンチックかどうか以前に、飛び降りる勇気がある方が何倍もすごいと考えてしまったからだった。
「叫ぶと、結ばれそうなきにはなるわね」
セツの言葉を認めた。
そんなか、冒険者かつ旅をしているというエルフ二人連れナツキ・エルとハルシ・エルが通りかかる。
ハルシは渋るが、ナツキはやる気満々だ。
「わかった! する、する! 面白そー」
「……ナツ……よくやるね……頑張ってね」
「ハルもするの! やたー」
「えっ」
という会話のあと、ナツキとハルシがテストジャンプをしてくれた。
ナツキは「もふもふ、させてー」と叫び飛び降りる。
一方で、ハルシは「ナツの馬鹿!」と言って飛び降りた。
そんなこんなで、一応、安全性は確かめられた。
エーテルを流し続ける係りとしても引き受けてくれた。
準備が終わった後、セツはしみじみ言う。
「基本的に、愛に満ちた行事になるんですね」
「……基本的……という時点でどうかしらね」
と、ササナはつぶやく。
「どっちにしろ、店の方も準備しないと……売上にかかわるから」
「あれ? ササナさんとこ」
「うち、雑貨屋よ! それも、一応、各地の置物集めてる」
「……すみません」
そう、ササナだけでなく、町の商店の人たちも動きを活発化させる時間になっていた。
冒険者ギルドを通じて、チュートのイベントのお知らせが飛ぶ。
昼間は塔から飛び降り、愛を叫ぼう!
夜は温かな光の中、のんびり過ごそう。
そのような行事だった。
解説
●行事の内容
チュート町の聖霊節がらみであるイベント。
昼間は塔から飛び降りて、愛を叫べ!
夜は、テラリウムのランタンによる、幻想的な広場の夜景を眺める。
●飛び降りる?
平たく言えばバンジージャンプです。
愛を叫べなくても、違うことを叫んでも……問題はないです。
もっと言うと、飛べなくても、飛んでもいい。
●町の商店について
広場に面したところや特定の通りに飲食店が多く並ぶところがあります。
また、菓子屋や雑貨屋なども存在はしています。
基本的に、町の中を自由に歩き回れます。
治安は可もなく不可もない。例えば、繁華街でスリが出るとかはあるかも……という感じです。
●参加のあり方
冒険者はバンジーのみでも、テラリウムを眺めるのみでも構いません。
もちろんどちらも、というのも対応は致します。
ただし、字数は有限ですので、見せ場はどこか考えているほうが良いかも?
なお、お連れ様いる場合、相手のフルネームや関係があると、プレイングの迷子防止になります。
マスターより
こんにちは、狐野径です。
塔から落ちる……いわゆる、バンジージャンプです。
塔から落ちてもいいし、イルミネーションを楽しんでもいいです。
愛をはぐくめるかどうかは、皆さま次第?
なお、とうとう町に名前が付きました。
……ええ、名前、ついてませんでした。
よろしくお願いします。
リプレイ
●ルルト・アーキスの場合
ルルト・アーキスは以前も来たことあるチュートの町でイベントがあるというからやってきた。見物もあるけれども、先日見つけた店の新作菓子を見に行く機会でもあった。
城壁の塔の入り口にある受付にいるササナとセツに、
「また遊びに来たよー」
と、笑顔で挨拶をした。
ササナたちも「来てくれて嬉しいですよ」と告げる。そこから近況やら雑談の流れから、参加用申し込み書を渡され、雰囲気や勢いに任せて承諾していた。
説明もあったけど、何をするかいまいち飲み込めないまま、塔の上まで登る。
「前回は町を走り回ったね。タマさん、覚えてる?」
実家から一緒に旅を続ける猫のタマさんに話しかける。
タマさんは「にゃあ」という。
「だよね。さてと……ふぇ? ロープを付けてここから飛ぶの?」
「そうだよぉ、うわー、猫ちゃん、もふもふだー」
答えながら、飛び降り台で待機していたナツキ・エルがタマさんに手を伸ばす。
タマさんは「シャア」とナツキを威嚇する。それでも構おうとするナツキ。
ハルシ・エルが安全装置をルルトに付ける。タマさんも一緒らしいので、それに合わせて安全装置を付けた。
「これで準備完了ね。私かナツがエーテルは送るから」
「ふ、ふえ……」
ルルトは申し込んだのも事実であるし、塔の端から下を覗き込む。
ヒュユウウと冷たい風が吹く。
ロープは地上だとしっかりしているけれども、これでぶら下がるとなると心もとない。
「これ、切れないよね?」
「強度はあるよ」
ハルシは答えるけれども、不安は尽きない。
言い分を信用をするにしても、心配だし不安である。
しばらく考えるが、一つ気づいたことがある。
独りじゃない。
タマさんがいるんだ!
「うぅ……でも、飛ぶんだよ! 頑張ろう、タマさん!」
タマさんをがっちりとホールドして、台の端まで行く。
「にゃ? にゃ、んにゃああああ」
タマさんは危険を察知して、ルルトの腕から抜け出そうともがいた。
もがいたけれどもルルトのホールド力が強かった。
「レッツ、バンジー」
ルルトは飛んだ。
「ひゃああああああああああああああ!」
「んにゃああああああああああああああ」
なお、巻き込まれたタマさん、濁点がたくさんついた声だった。
一瞬の出来事だった。
足についたゴム紐を支えとして、頭を下に、ぶら下がる。
ルルトは降ろしてもらうまで放心状態のようだった。
地面に降りて、解放されたタマさんはルルトを心配して見上げる。
が、タマさんの心配をよそに、ルルトの目は輝いている。
「楽しかったっ! タマさん、もう一回飛ぼう!」
「……ふ、にゃだぁあああ」
タマさんは脱兎のごとく逃げだした。
「待って、タマさーん」
ルルトはタマさんを追っていった。
●ハリーヌ・ヨツユビの場合
ハリーヌ・ヨツユビは趣旨を聞き、感想を述べる。
「塔から飛び降りる? 自殺行為ではでございますが、安全を確保したうえでなら観光の目玉になるのでございますか?」
受付のササナとセツは「え、っとー」と何とも言えない顔で返答を濁した。
「ふーむ……どういう心理でございましょう。ビジネス勉強のため、レッツ・チャレンジでございます」
ハリーヌは鼻をひくひく動かし、告げた。
受付を終え、塔を上っていくと、最上階で挙動不審なエルフと出会う。
「この子は……もふっていいのかな」
「やめて!」
ナツキが手をワキワキしながらハリーヌに近づくため、ハルシが止めている。
ナツキがポンと手をたたく。
「前会ったことあるね」
「……あるでございますね」
ヤギとハーフビーストの青年をフィルエス大森林に連れていくという依頼を受け記憶が、遠くにうっすらあった。
「では、さっそく、飛び降りはどうするのでございますか?」
ハリーヌの言葉を受け、ナツキは安全装置を付けてくれる。その際、トゲトゲ風のところをさりげなくなでようとしていた。
「はい、完了。ちゃんとエーテル流すから安心してね」
「……もちろん、でございますよ」
ナツキがキラキラした目で、はきはき明るくいう姿が、どこか信用を置きづらい。
とはいえ、さすがにきちんとしてくれるだろうとは思い、飛び降り台まで行く。
近づいて気づく、足が止まることに。
「こ、これは……高いところは平気でございますが、飛び降りるとなるとゾワゾワするでございますね……」
「勢いだよ!」
「なるほど、勢いですか……」
ナツキの助言を受けるけれども、ハリーヌは躊躇する。
縁まで行き、後退し、また、縁まで行き、戻る――これを繰り返す。
ハルシが「無理はしないんだよ」が念のためいう。
「いいえ! ここに来たのはビジネスの勉強のためでございます」
ハリーヌはそういうと、思いっきり飛び出した。
「億万長者に、オレはなる!!!」
叫んで落ちた後、ぶら下がっている最中に気づく。
大きな恐怖を感じた先にある達成感が病みつきになる、と。
本人がまたしたいかは別なのであるけれども。
●トーラの場合
トーラは受付のテーブルにダンと両手をつき、前のめりで切り出した。
「飛び降ります!」
ササナとセツはぎょっとする。
トーラの言っている意味を理解するのに時間がかかる。
「可能なら、何度でも」
「え、あ、いや?」
「ロープへのエーテルはわたしが流してもいいですから、思いっきり叫んで発散したいです」
「いや……あ、はい……そういうことですか」
ササナは受付表を差し出しながら告げる。
「でも、安全のため。流すのはこちらでしますから」
エーテルを流すという感覚はササナにはわからない。ただ、飛び降りるというのは気持ちがそちらに行くわけであるし、一般的に考えても、分けていた方がいいだろうと想像はできた。
「ありがとうございます!」
トーラは気遣いに感謝しつつ、塔に上がっていった。
最上階でナツキとハルシが出迎えてくれる。
「いらっしゃーい」
「お願いしますっ!」
「はーい」
ナツキが笑顔で応じる。
トーラは安全装置が付いたところで、すぐに飛び降り台の縁まで行った。
一瞬躊躇した。
しかし、思い切り踏み出した。
ちょっと怖かった。
足が床から離れた瞬間、走馬灯が廻るように色々な情景が浮かぶ。
徐々に、怖さよりも、その相手に伝えたかったことが噴出した。
「もっと会ってお話がしたいですー!」
落ち切ると、ぷらーんとぶら下がる。
回収された後、また、塔の上に上がっていく。
装置を付けて、飛び降りる。
「緊張して話せなくなるのは嫌!」
さらに、トーラは飛び降りる。
「勇気をくださーい」
その叫びを聞きながら、塔のてっぺんで待っているハルシとナツキは会話をしている。
「なんか、片思い?」
「色々人生あるのだよ!」
「え、ナツに?」
「……」
塔の上に戻ってきたトーラの肩を、二人はポンとたたいて言った。
「十分、勇気あるよ」
「うん、わたしもそう思うよ」
トーラは照るが、ため息が漏れる。
「こうやって飛び降りるのは怖くないんですけどねぇ」
「そういうものよねぇ」
ナツキが訳知り顔でうなずく。
トーラはもう一回飛び降りたいと言い、言葉を続けた。
「あ、でも、もしかしたら、本当にご利益があるかもしれませんし、後ろ向きにならないで前向きにいきます!」
ナツキはそれを褒めた後、切り込んできた。
「で、相手はどこの誰?」
「そ、それは……では、行ってきますっ!」
トーラは逃げるように、走り飛び降りた。
「明日から頑張りますーっ!」
「がんばれー」
トーラの後を追うように、ナツキとハルシの声が降ってきた。
トーラは降ろしてもらった後、二人に手を思いっきり振った。
●リリリリスの場合
リリリリスは悲鳴を聞きつつ、暗く微笑む。
「うふふ……」
受付のササナとセツは言いようのない雰囲気に、そっと、離れた。いや、離れる場所がないため、気持ちだけ。
「えっと……参加希望です?」
「もちろんですわよ。飛び降りるんですよね」
「……安全装置つけてです」
なんとなくササナは念を押す。
「うふふ……楽しみですわ!」
「……では、こちらが注意書きです」
説明を受け、リリリリスは塔に上がっていった。
「では早速、NOロープ、あいきゃんふらーい!」
「待ってええっ!!」
ハルシが飛び降りそうなリリリリスをタックルして、取り押さえる。
「待て待て」
「面白そうだったのに」
「いやいや、ナツ、何言ってんの!」
ハルシに取り押さえられ、関節技が決まっているのか、リリリリスの目が輝く。
「素敵ですわ」
「……いやいやいやいや、待って、お嬢さん」
「何ですの?」
「……痛くないの?」
「痛いですわよ?」
ハルシはリリリリスの何かに気づいた。だから、努めて事務的に言う。
「あ、はい、また、ノーロープで飛ばれたら困るから、塔から足で降りるか、安全装置つけるか、その答えを聞かせてね」
リリリリスは「このままで」というので、ハルシは問答無用で安全装置を付けた。
「さて……飛び降りていいわよ」
「……なんか、寂しいですわ」
ハルシが頭を抱える横で、ナツキが「エーテル送らないっていうのもあり!」という。
「面白そうですわね!」
「いやいやいやいや」
乗り気になったリリリリスに対し、ハルシが止める。
「安全装置はつけておりますわ! それに、ロープ自体、強度を持っているはずですもの」
リリリリスはさらりと言う。
さらりと言うけれどもハルシは騙されない。
リリリリスの重さなら支えるかもしれないし、ぷつーんとちぎれるかもしれない。
「はいはい、飛び降りる準備は――」
「では、飛びますわぁああ、きゃああああああああああああ、ははははあああああああ」
「やめてぇええ」
間一髪でハルシがエーテルを注いだ。
リリリリスの声は長く尾を引き、そして、楽しそうな声が響きわたる。
逆さ吊りも楽しそう。
それを見てナツキが「回収、遅らせてもいいと思う」とつぶやく。
ハルシは「後がつかえるから、回収して」と回収隊に合図を送るのだった。
なお、リリリリスはまた飛び降りようとしたけれども、入り口のササナとセツによって阻まれた。
●ハーヴィとクルタルの場合
ハーヴィとクルタルは町を歩き回り、屋台で食べ物をいくつか買う。
テラリウムのランタンの光に照らされた広場は人が多い。
何となく二人はそこを離れ、塔に向かう。
塔から夜景が楽しめないかと考えたのだった。
塔は解放されており、入ることはできた。
町の喧噪とは一歩距離を置く。
塔の上は全く誰もいないわけではなく、皆思い思いに時間を過ごしている。
二人は町を見下ろせる場所を確保した。
そこには食べ物を置くにもちょうどいい石もある。
ハーヴィは構造を考えると石の存在に疑問が生じる。
「これ何に使うのかな」
「城壁が途中で終わっているのと同じで、使えると考えて終わったんだろ?」
「それは……ありそう」
クルタルの解説にハーヴィは納得する。城壁の説明がまさに、そうだったから、わけがわからないものがあってもそんなもんかという雰囲気があった。
町の明かりはちらりほらり見える。
冷たい風も吹く。
「早く食べないと冷えるな」
クルタルは串焼きをほおばった。
ハーヴィも食べ始めた。
「おいしい」
「だな……で、なんか、お前と出かけるたびになんか食ってる気がするな……?」
クルタルがふという。
「え、だって、おいしいものってそれだけで嬉しくなんない?」
「まぁ、確かに」
「うんうん、おいしいは幸せだよ。ほら、食べよ、食べよ」
「……それはそれで楽しいからいいんだけどよ」
ハーヴィに言われ、クルタルは苦笑する。
食べることができることも、それがおいしいならよりよいに決まっている。
一緒に出掛け、楽しいと思える相手がいるということはもっと嬉しい。
クルタルは神殿や他の町の様子を思い出す。
「聖霊節はどこもかしこもお祭り騒ぎだからなぁ」
「そだねぇ、にぎやかで僕は好きだな。収穫祭の次に好き」
この町は比較的静かだけれども、適度なにぎやかさを感じる。
「神殿に来るガキどもにもプレゼント考えてやらねぇと……」
クルタルは現実を思い出す。
「ああ、神殿だとそゆのもあるよね」
ハーヴィはうなずく。クルタルがアグレッシブな神官だとしても、神官としてすべきことは真摯だった。だから、子どもたちにすべきことをまじめに考えているのだと。
クルタルの耳としっぽが落ち着きがない。
ハーヴィはおかしいと感じた。何か隠しているのか、何か思い出して慌てているのかなど考える。
クルタルの耳としっぽが止まると、懐にしまっていた小箱を取り出す。
「お前にもやるよ」
「ん? え? 何々、どうしたの急に」
「急になんで、って? 夢の中で渡しそびれてたような気がしたんだよ」
クルタルは理由を言うが、ハーヴィは半分聞いていなかった。
ハーヴィ自身がポケットから小箱を取り出し、差し出す。
「うわっ、びっくり……ヤだな、こゆトコ被っちゃう? はい、僕からも」
困惑するクルタルは「ん?」と言葉を返した。
ハーヴィは照れが生じてきて、そっぽを向き箱をクルタルに突き出す。
「同じだよ。プレゼント」
「……お前からも? ありがとな」
互いにプレゼントを受け取り、それを見る。
「……で、開けても?」
「開けてもいいか?」
二人の言葉が重なる。
「……どうぞ」
「もちろんだ」
異口同音に言い、笑う。
ハーヴィが受け取ったのは金糸の刺繍の入った、白いリボン。
クルタルが受け取ったのはアクアマリンのループタイ。ブローチにもなる仕様だ。
「わ、きれいなリボン。もしかして、君が……とか?」
「おまじない。無病息災、来年もつつがなく過ごせますように、てな」
クルタルの手作りだとわかる言葉。
「……ありがとう。大事にするよ」
ハーヴィはそれを胸に抱き、しばらく製作者のぬくもりを感じた。そして、つけてみる。
「……ありがとな。俺も大事にする」
クルタルもさっそく、首にかけてみる。
静かな時間が過ぎる。
そして、食べ物たちが冷えていく前に、救済する時間になる。
もう少し何か食べるかどうか、町をぶらつくかどうかなど、眼下に広がる景色を見て話すのだった。
●絶叫した人たち
トーラは宿に向かおうとしたけれども、仕事を終えたナツキとハルシが手招きをしている。
「嫌じゃなかったら、ご飯食べよう」
特にすることもなかったので、一緒することにする。
「変なのもいるけど」
「はい?」
ハルシに言われトーラが見ると、リリリリスも連れていた。
「私にご飯をおごりたくなるのはわかりますわ!」
「……変なのもと言われてますよ」
トーラは思わず突っ込む。
一行はテラリウムのある地域の食事処に向かうのだった。
ルルトはタマさんを探し出し、謝罪の後、町の探索に移った。以前来たことのある菓子屋に向う。
「新作のお菓子あるかな♪」
そこには冬向けの菓子もあるし、たくさん購入する。
「友達のもお土産買って帰ろっと!」
ワクワクと選ぶのだった。
ハリーヌは雑貨屋をめぐり、パンクリアース学園の寮に飾る置物や猫への土産を買う。
そうこうしているうちに、夜の時間帯になる。土産も買ったし、テラリウムの見物のため、広場に向かった。
菓子を買い、空いているところでゴリラと食べる。
「今年ももう、あとわずかでございますねぇ」
というハリーヌの言葉に、ゴリラはうなずく。そして、新たな菓子を手にして食べ始めた。
「あっという間でございました」
ハリーヌは淡い光に包まれた広場を見つめ、思い出していた。
町の喧噪も徐々に薄れ、静かな夜を迎えるのだった。
ルルト・アーキスは以前も来たことあるチュートの町でイベントがあるというからやってきた。見物もあるけれども、先日見つけた店の新作菓子を見に行く機会でもあった。
城壁の塔の入り口にある受付にいるササナとセツに、
「また遊びに来たよー」
と、笑顔で挨拶をした。
ササナたちも「来てくれて嬉しいですよ」と告げる。そこから近況やら雑談の流れから、参加用申し込み書を渡され、雰囲気や勢いに任せて承諾していた。
説明もあったけど、何をするかいまいち飲み込めないまま、塔の上まで登る。
「前回は町を走り回ったね。タマさん、覚えてる?」
実家から一緒に旅を続ける猫のタマさんに話しかける。
タマさんは「にゃあ」という。
「だよね。さてと……ふぇ? ロープを付けてここから飛ぶの?」
「そうだよぉ、うわー、猫ちゃん、もふもふだー」
答えながら、飛び降り台で待機していたナツキ・エルがタマさんに手を伸ばす。
タマさんは「シャア」とナツキを威嚇する。それでも構おうとするナツキ。
ハルシ・エルが安全装置をルルトに付ける。タマさんも一緒らしいので、それに合わせて安全装置を付けた。
「これで準備完了ね。私かナツがエーテルは送るから」
「ふ、ふえ……」
ルルトは申し込んだのも事実であるし、塔の端から下を覗き込む。
ヒュユウウと冷たい風が吹く。
ロープは地上だとしっかりしているけれども、これでぶら下がるとなると心もとない。
「これ、切れないよね?」
「強度はあるよ」
ハルシは答えるけれども、不安は尽きない。
言い分を信用をするにしても、心配だし不安である。
しばらく考えるが、一つ気づいたことがある。
独りじゃない。
タマさんがいるんだ!
「うぅ……でも、飛ぶんだよ! 頑張ろう、タマさん!」
タマさんをがっちりとホールドして、台の端まで行く。
「にゃ? にゃ、んにゃああああ」
タマさんは危険を察知して、ルルトの腕から抜け出そうともがいた。
もがいたけれどもルルトのホールド力が強かった。
「レッツ、バンジー」
ルルトは飛んだ。
「ひゃああああああああああああああ!」
「んにゃああああああああああああああ」
なお、巻き込まれたタマさん、濁点がたくさんついた声だった。
一瞬の出来事だった。
足についたゴム紐を支えとして、頭を下に、ぶら下がる。
ルルトは降ろしてもらうまで放心状態のようだった。
地面に降りて、解放されたタマさんはルルトを心配して見上げる。
が、タマさんの心配をよそに、ルルトの目は輝いている。
「楽しかったっ! タマさん、もう一回飛ぼう!」
「……ふ、にゃだぁあああ」
タマさんは脱兎のごとく逃げだした。
「待って、タマさーん」
ルルトはタマさんを追っていった。
●ハリーヌ・ヨツユビの場合
ハリーヌ・ヨツユビは趣旨を聞き、感想を述べる。
「塔から飛び降りる? 自殺行為ではでございますが、安全を確保したうえでなら観光の目玉になるのでございますか?」
受付のササナとセツは「え、っとー」と何とも言えない顔で返答を濁した。
「ふーむ……どういう心理でございましょう。ビジネス勉強のため、レッツ・チャレンジでございます」
ハリーヌは鼻をひくひく動かし、告げた。
受付を終え、塔を上っていくと、最上階で挙動不審なエルフと出会う。
「この子は……もふっていいのかな」
「やめて!」
ナツキが手をワキワキしながらハリーヌに近づくため、ハルシが止めている。
ナツキがポンと手をたたく。
「前会ったことあるね」
「……あるでございますね」
ヤギとハーフビーストの青年をフィルエス大森林に連れていくという依頼を受け記憶が、遠くにうっすらあった。
「では、さっそく、飛び降りはどうするのでございますか?」
ハリーヌの言葉を受け、ナツキは安全装置を付けてくれる。その際、トゲトゲ風のところをさりげなくなでようとしていた。
「はい、完了。ちゃんとエーテル流すから安心してね」
「……もちろん、でございますよ」
ナツキがキラキラした目で、はきはき明るくいう姿が、どこか信用を置きづらい。
とはいえ、さすがにきちんとしてくれるだろうとは思い、飛び降り台まで行く。
近づいて気づく、足が止まることに。
「こ、これは……高いところは平気でございますが、飛び降りるとなるとゾワゾワするでございますね……」
「勢いだよ!」
「なるほど、勢いですか……」
ナツキの助言を受けるけれども、ハリーヌは躊躇する。
縁まで行き、後退し、また、縁まで行き、戻る――これを繰り返す。
ハルシが「無理はしないんだよ」が念のためいう。
「いいえ! ここに来たのはビジネスの勉強のためでございます」
ハリーヌはそういうと、思いっきり飛び出した。
「億万長者に、オレはなる!!!」
叫んで落ちた後、ぶら下がっている最中に気づく。
大きな恐怖を感じた先にある達成感が病みつきになる、と。
本人がまたしたいかは別なのであるけれども。
●トーラの場合
トーラは受付のテーブルにダンと両手をつき、前のめりで切り出した。
「飛び降ります!」
ササナとセツはぎょっとする。
トーラの言っている意味を理解するのに時間がかかる。
「可能なら、何度でも」
「え、あ、いや?」
「ロープへのエーテルはわたしが流してもいいですから、思いっきり叫んで発散したいです」
「いや……あ、はい……そういうことですか」
ササナは受付表を差し出しながら告げる。
「でも、安全のため。流すのはこちらでしますから」
エーテルを流すという感覚はササナにはわからない。ただ、飛び降りるというのは気持ちがそちらに行くわけであるし、一般的に考えても、分けていた方がいいだろうと想像はできた。
「ありがとうございます!」
トーラは気遣いに感謝しつつ、塔に上がっていった。
最上階でナツキとハルシが出迎えてくれる。
「いらっしゃーい」
「お願いしますっ!」
「はーい」
ナツキが笑顔で応じる。
トーラは安全装置が付いたところで、すぐに飛び降り台の縁まで行った。
一瞬躊躇した。
しかし、思い切り踏み出した。
ちょっと怖かった。
足が床から離れた瞬間、走馬灯が廻るように色々な情景が浮かぶ。
徐々に、怖さよりも、その相手に伝えたかったことが噴出した。
「もっと会ってお話がしたいですー!」
落ち切ると、ぷらーんとぶら下がる。
回収された後、また、塔の上に上がっていく。
装置を付けて、飛び降りる。
「緊張して話せなくなるのは嫌!」
さらに、トーラは飛び降りる。
「勇気をくださーい」
その叫びを聞きながら、塔のてっぺんで待っているハルシとナツキは会話をしている。
「なんか、片思い?」
「色々人生あるのだよ!」
「え、ナツに?」
「……」
塔の上に戻ってきたトーラの肩を、二人はポンとたたいて言った。
「十分、勇気あるよ」
「うん、わたしもそう思うよ」
トーラは照るが、ため息が漏れる。
「こうやって飛び降りるのは怖くないんですけどねぇ」
「そういうものよねぇ」
ナツキが訳知り顔でうなずく。
トーラはもう一回飛び降りたいと言い、言葉を続けた。
「あ、でも、もしかしたら、本当にご利益があるかもしれませんし、後ろ向きにならないで前向きにいきます!」
ナツキはそれを褒めた後、切り込んできた。
「で、相手はどこの誰?」
「そ、それは……では、行ってきますっ!」
トーラは逃げるように、走り飛び降りた。
「明日から頑張りますーっ!」
「がんばれー」
トーラの後を追うように、ナツキとハルシの声が降ってきた。
トーラは降ろしてもらった後、二人に手を思いっきり振った。
●リリリリスの場合
リリリリスは悲鳴を聞きつつ、暗く微笑む。
「うふふ……」
受付のササナとセツは言いようのない雰囲気に、そっと、離れた。いや、離れる場所がないため、気持ちだけ。
「えっと……参加希望です?」
「もちろんですわよ。飛び降りるんですよね」
「……安全装置つけてです」
なんとなくササナは念を押す。
「うふふ……楽しみですわ!」
「……では、こちらが注意書きです」
説明を受け、リリリリスは塔に上がっていった。
「では早速、NOロープ、あいきゃんふらーい!」
「待ってええっ!!」
ハルシが飛び降りそうなリリリリスをタックルして、取り押さえる。
「待て待て」
「面白そうだったのに」
「いやいや、ナツ、何言ってんの!」
ハルシに取り押さえられ、関節技が決まっているのか、リリリリスの目が輝く。
「素敵ですわ」
「……いやいやいやいや、待って、お嬢さん」
「何ですの?」
「……痛くないの?」
「痛いですわよ?」
ハルシはリリリリスの何かに気づいた。だから、努めて事務的に言う。
「あ、はい、また、ノーロープで飛ばれたら困るから、塔から足で降りるか、安全装置つけるか、その答えを聞かせてね」
リリリリスは「このままで」というので、ハルシは問答無用で安全装置を付けた。
「さて……飛び降りていいわよ」
「……なんか、寂しいですわ」
ハルシが頭を抱える横で、ナツキが「エーテル送らないっていうのもあり!」という。
「面白そうですわね!」
「いやいやいやいや」
乗り気になったリリリリスに対し、ハルシが止める。
「安全装置はつけておりますわ! それに、ロープ自体、強度を持っているはずですもの」
リリリリスはさらりと言う。
さらりと言うけれどもハルシは騙されない。
リリリリスの重さなら支えるかもしれないし、ぷつーんとちぎれるかもしれない。
「はいはい、飛び降りる準備は――」
「では、飛びますわぁああ、きゃああああああああああああ、ははははあああああああ」
「やめてぇええ」
間一髪でハルシがエーテルを注いだ。
リリリリスの声は長く尾を引き、そして、楽しそうな声が響きわたる。
逆さ吊りも楽しそう。
それを見てナツキが「回収、遅らせてもいいと思う」とつぶやく。
ハルシは「後がつかえるから、回収して」と回収隊に合図を送るのだった。
なお、リリリリスはまた飛び降りようとしたけれども、入り口のササナとセツによって阻まれた。
●ハーヴィとクルタルの場合
ハーヴィとクルタルは町を歩き回り、屋台で食べ物をいくつか買う。
テラリウムのランタンの光に照らされた広場は人が多い。
何となく二人はそこを離れ、塔に向かう。
塔から夜景が楽しめないかと考えたのだった。
塔は解放されており、入ることはできた。
町の喧噪とは一歩距離を置く。
塔の上は全く誰もいないわけではなく、皆思い思いに時間を過ごしている。
二人は町を見下ろせる場所を確保した。
そこには食べ物を置くにもちょうどいい石もある。
ハーヴィは構造を考えると石の存在に疑問が生じる。
「これ何に使うのかな」
「城壁が途中で終わっているのと同じで、使えると考えて終わったんだろ?」
「それは……ありそう」
クルタルの解説にハーヴィは納得する。城壁の説明がまさに、そうだったから、わけがわからないものがあってもそんなもんかという雰囲気があった。
町の明かりはちらりほらり見える。
冷たい風も吹く。
「早く食べないと冷えるな」
クルタルは串焼きをほおばった。
ハーヴィも食べ始めた。
「おいしい」
「だな……で、なんか、お前と出かけるたびになんか食ってる気がするな……?」
クルタルがふという。
「え、だって、おいしいものってそれだけで嬉しくなんない?」
「まぁ、確かに」
「うんうん、おいしいは幸せだよ。ほら、食べよ、食べよ」
「……それはそれで楽しいからいいんだけどよ」
ハーヴィに言われ、クルタルは苦笑する。
食べることができることも、それがおいしいならよりよいに決まっている。
一緒に出掛け、楽しいと思える相手がいるということはもっと嬉しい。
クルタルは神殿や他の町の様子を思い出す。
「聖霊節はどこもかしこもお祭り騒ぎだからなぁ」
「そだねぇ、にぎやかで僕は好きだな。収穫祭の次に好き」
この町は比較的静かだけれども、適度なにぎやかさを感じる。
「神殿に来るガキどもにもプレゼント考えてやらねぇと……」
クルタルは現実を思い出す。
「ああ、神殿だとそゆのもあるよね」
ハーヴィはうなずく。クルタルがアグレッシブな神官だとしても、神官としてすべきことは真摯だった。だから、子どもたちにすべきことをまじめに考えているのだと。
クルタルの耳としっぽが落ち着きがない。
ハーヴィはおかしいと感じた。何か隠しているのか、何か思い出して慌てているのかなど考える。
クルタルの耳としっぽが止まると、懐にしまっていた小箱を取り出す。
「お前にもやるよ」
「ん? え? 何々、どうしたの急に」
「急になんで、って? 夢の中で渡しそびれてたような気がしたんだよ」
クルタルは理由を言うが、ハーヴィは半分聞いていなかった。
ハーヴィ自身がポケットから小箱を取り出し、差し出す。
「うわっ、びっくり……ヤだな、こゆトコ被っちゃう? はい、僕からも」
困惑するクルタルは「ん?」と言葉を返した。
ハーヴィは照れが生じてきて、そっぽを向き箱をクルタルに突き出す。
「同じだよ。プレゼント」
「……お前からも? ありがとな」
互いにプレゼントを受け取り、それを見る。
「……で、開けても?」
「開けてもいいか?」
二人の言葉が重なる。
「……どうぞ」
「もちろんだ」
異口同音に言い、笑う。
ハーヴィが受け取ったのは金糸の刺繍の入った、白いリボン。
クルタルが受け取ったのはアクアマリンのループタイ。ブローチにもなる仕様だ。
「わ、きれいなリボン。もしかして、君が……とか?」
「おまじない。無病息災、来年もつつがなく過ごせますように、てな」
クルタルの手作りだとわかる言葉。
「……ありがとう。大事にするよ」
ハーヴィはそれを胸に抱き、しばらく製作者のぬくもりを感じた。そして、つけてみる。
「……ありがとな。俺も大事にする」
クルタルもさっそく、首にかけてみる。
静かな時間が過ぎる。
そして、食べ物たちが冷えていく前に、救済する時間になる。
もう少し何か食べるかどうか、町をぶらつくかどうかなど、眼下に広がる景色を見て話すのだった。
●絶叫した人たち
トーラは宿に向かおうとしたけれども、仕事を終えたナツキとハルシが手招きをしている。
「嫌じゃなかったら、ご飯食べよう」
特にすることもなかったので、一緒することにする。
「変なのもいるけど」
「はい?」
ハルシに言われトーラが見ると、リリリリスも連れていた。
「私にご飯をおごりたくなるのはわかりますわ!」
「……変なのもと言われてますよ」
トーラは思わず突っ込む。
一行はテラリウムのある地域の食事処に向かうのだった。
ルルトはタマさんを探し出し、謝罪の後、町の探索に移った。以前来たことのある菓子屋に向う。
「新作のお菓子あるかな♪」
そこには冬向けの菓子もあるし、たくさん購入する。
「友達のもお土産買って帰ろっと!」
ワクワクと選ぶのだった。
ハリーヌは雑貨屋をめぐり、パンクリアース学園の寮に飾る置物や猫への土産を買う。
そうこうしているうちに、夜の時間帯になる。土産も買ったし、テラリウムの見物のため、広場に向かった。
菓子を買い、空いているところでゴリラと食べる。
「今年ももう、あとわずかでございますねぇ」
というハリーヌの言葉に、ゴリラはうなずく。そして、新たな菓子を手にして食べ始めた。
「あっという間でございました」
ハリーヌは淡い光に包まれた広場を見つめ、思い出していた。
町の喧噪も徐々に薄れ、静かな夜を迎えるのだった。
マスターコメント
ご参加ありがとうございます。
飛び、叫び、のんびりと……。
バンジージャンプについては安全には配慮していますが、あとは本人次第です。とはいえ、うん、よく飛んだ。
この町の名所として生かしたいと思います。名所……観光地?
また、ご縁があれば、お会いしましょう。
イベントシナリオ易しい 報酬:無し6 / 4〜25人
2021年12月23日 22時41分41秒 公開
大成功