【ロモズ歩兵団】吸いフェチ、大地に立つ
革酎
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シナリオID:1661
オープニング
●序章
人類が、増えすぎた吸引欲を新たな欲求として認めるようになって、既に半世紀が過ぎていた。
吸引欲は食欲、性欲、睡眠欲に次ぐ第四の欲求となり、一部のひとびとは吸引欲を糧に子を産み、育て、そして死んでいった。
吸引世紀0079(そんな暦は存在しない)、カルケルーア・ロモズ内にある(自称)吸引の達人スイコミーの自宅からそこそこ遠い別宅ニオイスイーはキューイン総本山を名乗り、スイコミーに独立紛争を挑んできた。
この一カ月あまりの戦いでキューイン別宅とスイコミー自宅は総香料の半分を死に至らしめた。
スイコミー家は、自らの行為に恐怖した。
そして紛争は膠着状態に入り、三日程が過ぎた。
●独立紛争
カルケルーア・ロモズ内の、ロモズ歩兵団事務棟。
その一階に位置する歩兵団長執務室で、ロモズ歩兵団長リーヴァー・シュランドルは頭痛を感じていた。
ロモズ歩兵団員スイコミーが、妙な相談を持ち掛けてきたからである。彼の従弟ニオイスイーが、スイコミー宅から色々と香しいものを持ち出して、別邸に籠ってしまったというのである。
曰く、大好きな匂いを呼吸一杯に吸い込む人類古来の欲求、即ち吸引欲の第一人者は自分であるといい出したニオイスイーが、スイコミーに対して宣戦布告を申し出たというらしい。
スイコミーとしては、吸引欲は人類が普遍的に与えられた至高の欲求であり、一部の特権階級が独占して良いものではないと訴える。
ぶっちゃけ、リーヴァーとしてはそんなことは全くもってどうでも良いのだが、ロモズ歩兵団員同士の諍いはなるべく穏便に収めさせたい。
そこでリーヴァーは、吸引欲に理解のありそうな歩兵団員、隊長、副長辺りに声をかけ、適当に事態を収拾させようと考えた。
ニオイスイー曰く、自分以上に吸引欲を愛でる人物が現れれば、キューイン総本山の地位を喜んで譲るのだという。
(要するに、アレか……匂いフェチというか、吸いフェチ同士で推しの尊さを熱く語り合えという訳だな)
リーヴァーはカルケルーア・ロモズ内に布告を出すと同時に、冒険者ギルドにも募集の告知を打たせた。
曰く、『求む、吸いフェチ』と。
人類が、増えすぎた吸引欲を新たな欲求として認めるようになって、既に半世紀が過ぎていた。
吸引欲は食欲、性欲、睡眠欲に次ぐ第四の欲求となり、一部のひとびとは吸引欲を糧に子を産み、育て、そして死んでいった。
吸引世紀0079(そんな暦は存在しない)、カルケルーア・ロモズ内にある(自称)吸引の達人スイコミーの自宅からそこそこ遠い別宅ニオイスイーはキューイン総本山を名乗り、スイコミーに独立紛争を挑んできた。
この一カ月あまりの戦いでキューイン別宅とスイコミー自宅は総香料の半分を死に至らしめた。
スイコミー家は、自らの行為に恐怖した。
そして紛争は膠着状態に入り、三日程が過ぎた。
●独立紛争
カルケルーア・ロモズ内の、ロモズ歩兵団事務棟。
その一階に位置する歩兵団長執務室で、ロモズ歩兵団長リーヴァー・シュランドルは頭痛を感じていた。
ロモズ歩兵団員スイコミーが、妙な相談を持ち掛けてきたからである。彼の従弟ニオイスイーが、スイコミー宅から色々と香しいものを持ち出して、別邸に籠ってしまったというのである。
曰く、大好きな匂いを呼吸一杯に吸い込む人類古来の欲求、即ち吸引欲の第一人者は自分であるといい出したニオイスイーが、スイコミーに対して宣戦布告を申し出たというらしい。
スイコミーとしては、吸引欲は人類が普遍的に与えられた至高の欲求であり、一部の特権階級が独占して良いものではないと訴える。
ぶっちゃけ、リーヴァーとしてはそんなことは全くもってどうでも良いのだが、ロモズ歩兵団員同士の諍いはなるべく穏便に収めさせたい。
そこでリーヴァーは、吸引欲に理解のありそうな歩兵団員、隊長、副長辺りに声をかけ、適当に事態を収拾させようと考えた。
ニオイスイー曰く、自分以上に吸引欲を愛でる人物が現れれば、キューイン総本山の地位を喜んで譲るのだという。
(要するに、アレか……匂いフェチというか、吸いフェチ同士で推しの尊さを熱く語り合えという訳だな)
リーヴァーはカルケルーア・ロモズ内に布告を出すと同時に、冒険者ギルドにも募集の告知を打たせた。
曰く、『求む、吸いフェチ』と。
解説
状況:
PCの皆様は、吸いフェチ(という名の匂いフェチ)の達人として、ニオイスイーと吸引欲について熱く語り合って下さい。
ニオイスイーが、自分以上の吸いフェチだと認めれば、大人しくスイコミーの香料を返却します。
NPC:
リーヴァー・シュランドル帝国子爵、スイコミー、ニオイスイー辺りが主なNPCですが、場合によってはロモズ歩兵団の誰かが現れるかも知れません。
マスターより
皆様、こんにちは。
特に難しい話ではありません。匂いフェチとして熱く語り合って下されば、それで結構です。
リプレイ
●『臭い』を超えた『吸い』だけが、戦う力
薄闇の中で、コルネリウス・アーラはじっと相手を見据えていた。
カルケルーア・ロモズのロモズ歩兵団事務棟。その一角に与えられた、ロモズ歩兵団重兵3番隊長専用執務室内。コルネリウスは執務卓前に腰を下ろし、射貫く様な鋭い眼光で、卓の反対側に座る貧相な顔つきの男をじっと見据えている。
「な、何故俺を呼んだんだ?」
「必要だから呼んだまでです」
この日、コルネリウスは何故か黒っぽい色付き眼鏡を着用していた。両肘を卓上に付き、目の前で両手の甲を上に向けた形で、指だけを絡ませる様に両手を組んでいる。
「吸うなら早くしなさい。でなければ、お帰りを」
普段のコルネリウスからは想像も出来ない程にドスの利いた低い声。歩兵団内ではスタンディングウッドボイスと囁かれているらしいが、そんなことはどうでも良い。
相手の男――ニオイスイーは肝が冷え上がった様子で、喉の奥から情けない悲鳴を漏らした。
12時間前。
ロモズ歩兵団長専用執務室に呼び出されたティトとセロンガード・シュタインドルフの両名は、一体何事だろうと互いに小首を捻りながら、ドアをノックした。
中からロモズ歩兵団長リーヴァー・シュランドル帝国子爵の応答が静かに響く。ふたりは促されるままに入室した。
「吸いフェチ独立紛争を適当に何とかして貰いたい」
物凄く雑で大雑把なひと言を受けて、ティトもセロンガードも頭の中で疑問符が幾つも湧いた。
リーヴァーの執務室には先客が居た。
ク・サーヤ・クッセーワとコハクである。ふたり共、近隣の町の冒険者ギルドに貼り出されていた妙な依頼内容に、多少どころか相当強い興味を抱いて引き受けることにしたらしい。
「吸いフェチ求むだなんて書かれてたら、一体何事かと思って」
よもやその依頼主がロモズ歩兵団長だとは意外中の意外だった、とコハクは苦笑を浮かべる。しかし内心ではある野望が渦巻いていた。コハク、実はついでとばかりに、ある人物の匂いを嗅ぎに来たのである。その人物が今、目の前に現れた。即ち、標的はティトだった。
だがこの場では、クールにポーカーフェイスを決め込むコハク。吸いフェチは兎に角、己の真意を他者に悟られてはならぬという不文律があるようだ。
一方のク・サーヤは強い意志を持って本依頼に臨んでいた。彼女には臭い使いとしての矜持がある。スメルユーザー(スペルユーザーに非ず)とあらば、引き受けない訳にはいかない。
己の肉体から芳醇な香りを漂わせたり、或いは逆に鼻を衝く様な強烈な異臭を放つことも思いのまま(事実かどうかは分からないが)だ。ク・サーヤにとって今回の依頼は、臭い専門家としての好奇心を大いに刺激される内容だといって良いだろう。
尤も、ク・サーヤが専門とするのは主に悪臭の方であったが。
「さて、大体の顔ぶれが揃ったところで臭いについての専門家意見を少しばかり、述べさせて貰おう」
誰もそんなことは期待もしていなかったのだが、何故かドヤ顔で椅子から立ち上がるク・サーヤ。話の腰を折るのも申し訳ないので、ティト、セロンガード、コハク、そしてリーヴァーまでもが律儀にお付き合いしようと考えたらしい。
「闇へ堕ちる道は一本だが、光へ至る道は多種多様。同様に良き匂いへの道は単純だが、しかし悪臭こそが多種多様な臭いへの門戸を開くカギだ」
何となく尤もらしい説明だが、根拠は何も無いので、多分ただの自説だろう。
「わらわは別に悪臭が好きな訳ではないが、良き匂いばかり吸っていては匂い吸いとしては半人前」
嘘だ、絶対嘘だ――この場にいる何人かは腹の底で激しく否定した。ク・サーヤが悪臭好きではないなどと、一体誰が信じるというのだろう。
要は自分と同じ趣味に他人を引き込みたいだけなのだろうというのが、ク・サーヤを除くこの場の全員の一致した意見だった。
しかしリーヴァーは涼しい顔でひと言。
「まぁ何でも良いから、兎に角この面倒臭い案件を片付けてくれ」
スイコミーとニオイスイーの極めてくだらない喧嘩について軽く説明を受けた一同は、取り敢えず当人達から話を聞こうということになって、スイコミーの借家へと足を運んだ。
その頃、先んじてリーヴァーから問題解決指令を受けていたコルネリウスは自身の執務室にふたりの班長、ローデス・プレクターとケルフィス・ディクロンを呼び出した。
ローデスとケルフィスは歩兵団内に於いて、コルネリウスのささやかな趣味に理解を示す数少ない友人達である。だが今回、コルネリウスが吸いフェチ紛争解決指令を受けたことで、彼女の趣味が歩兵団内に漏れたのかという危機感が漂う様になっていた。
「団長は一体どういう意図で、隊長に指令を?」
「それが、今ひとつ掴めないんです」
ケルフィスに答えながら、コルネリウスは困惑の色を浮かべた。リーヴァーはたまたま歩兵団事務棟のロビーでのんびりしていたコルネリウスを捕まえて、暇なら少し手伝ってくれ、と呼びかけた。その時のリーヴァーの様子には、吸いフェチたる一面を見抜いているという表情は感じられなかったという。
「用心に越したこたぁありませんよ、隊長。下手したらこいつぁ、歩兵団を揺るがす大スキャンダルにもなりかねません」
重々しく語るローデスの声に、コルネリウスはごくりと喉を鳴らした。
●荒野を奔る、吸いフェチの列
スイコミーの借家はこざっぱりと片付けが行き届いており、香料も決して厭味にはならない程度に上手く配置されている。本当に、匂いそのものが大好きな人物なのだろうということが伺えた。
スイコミーは吸いフェチであるという特殊な性癖を除いては、至極真っ当な人物だった。そして彼への聞き込みの最中、ティトは思った。
(任務とか依頼で、へとへとに疲れ切った時、は……セロンの、甘い香りを吸ったら、頑張ろうって、思える……ぼくの一番、幸せな時、だよ……)
お姫様抱っこしてもらっている時に漂う、髪からの爽やかな香油の匂い。
就寝中、隣から流れ出してくる愛しいひとの香り。
ティトにとっては、かけがえのないものだ。その匂いが失われると、ティトは頭がどうにかなってしまいそうになる。
(だから、やっぱり、吸いたい時とか……吸える時には、吸った方が良い、よね)
我慢などする必要は無い。望んだ時に吸えれば良いのだ。ふとした時に、頭の中で思い出せる程に。
「食べ物や飲み物の匂い、朝や夜の匂い、そしてひとの匂い……様々な匂いがある訳ですが、矢張り人によって好みが違うというのは、大変興味深いですね」
セロンガードもスイコミーの趣味に理解を示した。ティトはこの時、ほっと安堵した。だがこの直後、彼が発した台詞には思わず耳を疑った。
「しかしこの世は、弱肉強食……吸う側と吸われる側に分かれる訳です。それをどうやら、教えておかなければならない様ですね」
いや、それは違うだろう――ティトのみならず、コハクも露骨に否定的な色を含んだ視線をセロンガードに叩きつけた。
と、ここでク・サーヤが腰を浮かせて立ち上がった。スイコミーには特にこれといった対処は不要だ。矢張り矛先を向けるべきはニオイスイーの方だろう。
コハクも同様だった。これまで彼女は種族柄、自身の技能を嗅覚系に特化して様々な依頼や事件を解決してきたという自負がある。その彼女の本能が、対処すべきはニオイスイーだと明確に告げた。
そのニオイスイー宅には、既にコルネリウスが踏み込んでいた。彼女はある思惑があって、他の冒険者とは距離を置きたかったのである。
今回コルネリウスはニオイスイーに対し、共感戦術を取った。
と同時にコルネリウス自身も吸引欲が強いことを敢えてさらけ出し、彼の内面を引き出そうとも考えた。
「ニオイスイーさんは、どの様な香りを特に好まれるのでしょうか?」
「私はお花と小鳥達を扱っていますから、お花の香りは大好きです。ポプリや香油も作っているんですよ。鳥さんの匂いも勿論、ネコチャンも吸わせて貰うと幸せですし」
と、ここまでは相手の論調に合わせて穏やかに会話を進めていたが、
「でも、一番はやっぱり……恋人の匂いを吸う時、ですよね。勿論」
突如として強い意志が顔を覗かせた。
コルネリウスは懐から、心底嬉しそうに洗濯前の手袋を取り出した。
自分の口で、じゃじゃーん、と効果音を添えながら。
「これを、こう……すぅぅぅぅぅ……っとする時が一番、幸せですね……」
コルネリウスはニオイスイーとの面会が任務であるということも一時忘れて、大きな手袋に小顔を埋めた。
そして思い切り、吸う。心ゆくまで、吸う。満足するまで、吸う。
手袋から顔を離した時、コルネリウスの美貌には恍惚の色が浮かんでいた。
「……お分かり頂けますでしょうか……いえ、きっとご理解頂けますよね? 本当はぎゅうぅっとしながら直接吸うのが一番なのですけど、本人不在の時は……」
以後、コルネリウスの吸いフェチ論が延々と続いた。正確には十数分、兎に角彼女は、熱く語り続けた。
ところがニオイスイーは突然、憤然とした調子で勢い良く立ち上がった。
「帰って下さい。あんたとはこれ以上、お話しすることはありません」
一体何が彼の気に障ったのかは分からないが、兎に角ニオイスイーはコルネリウスに対し、妙な敵意を剥き出しにして追い出しにかかったのである。
直後、コルネリウスと入れ替わる格好でク・サーヤ、コハク、ティト、セロンガードがニオイスイーの住む別宅を訪れた。
●吸いたくて、募る思い
ニオイスイー別宅に突入直後、ク・サーヤがまず仕掛けた。彼女は悪臭吸いへのレベルアップを熱弁した。
曰く、エルフの加齢臭。腋臭の匂い。頭皮の油臭さ。乙女の汗の香り(これは何か違う)。屁の匂い。口臭。腐臭。装備品の臭い。胡散臭い。
その他諸々の良い悪いも含め、臭いの百貨店を自認するク・サーヤは兎に角攻めた。言葉ではどうせ理解して貰えないだろうからと、実力行使へと走るク・サーヤ。最初は香水で相手(というか他の冒険者をも含めて)の油断を誘い、隙を見せたところで一気に悪臭地獄へと引きずり込む。
最初の香水で嗅覚を麻痺させておいて、悪臭を良い香りと錯覚させることでこちら側に引きずり込もうという作戦だった。
そして何より恐るべきは、ク・サーヤの標的はニオイスイーのみならず、コハクやティトにも矛先が向いていたことだった。人類皆悪臭フェチ計画が、ク・サーヤの本心だったのだ。
だが、ク・サーヤの野望は敢え無く打ち砕かれた。
コハクはわんこである。名前はまだ無い。
いや、嘘だ。訂正。名前はある。それにコハクは狼である。
そんなコハクが吸いたいのは、ティトちゃんだ。最近会えていなかったから、匂い嗅ぎに来た。
以上。
ク・サーヤのスメルアタックは、不発に終わった。コハクは咄嗟にティトを吸い、事無きを得たのだ。
そしてそのティトはセロンガードを吸って窮地を脱した。
唯一セロンガードは、吸う側と吸われる側の弱肉強食だとブチ上げておきながら、結局は自分自身が吸われる側に過ぎなかった事実に愕然とし、ク・サーヤのスメルアタックの餌食となっていた。
そして肝心のニオイスイーは、そもそもスイコミー家から持ち出した諸々の香料を吸いまくって鼻がおかしくなっていたのか、ク・サーヤの悪臭にはびくともしなかった。
だがこれはこれで大きな収穫だった。ニオイスイーはもしかすると、既にク・サーヤと同じ領域に足を踏み入れていたのかも知れない。
悪臭があるからこそ、良い匂いというものがより味わい深くなるとか何とか取り繕っていたク・サーヤだったが、ニオイスイーに大いなる可能性を感じた今となっては、最早そんなことはどうでも良かった。
ところがク・サーヤのスメルアタックが思わぬ結果を招いた。ニオイスイー別宅の近隣住民から苦情が相次いだ為、リーヴァーは大手を振って彼の家を差し押さえた上、立入禁止にしてしまったのだ。
このどさくさに紛れてリーヴァーはニオイスイーが強奪した香料の数々を押収し、スイコミーに返却した。
ク・サーヤはスメルアタックを踏み台にされたと憤っていたが、しかし結果オーライである。
事態はこれで丸く収まった、かの様に思えた。だが、話はここで終わらなかった。
コルネリウスは驚愕の事実を知らされた。彼女のニオイスイー別宅での行動は全て、窓からこっそり覗き見していたリーヴァーに全て筒抜けとなってしまったのである。
「いや、えと、その、あれはお仕事なので、その、あれですから」
その夜、コルネリウスは必死に弁明したが、リーヴァーはただ笑うだけであった。
この時、コルネリウスの中で何かがぷつんと切れた。彼女の黒い一面、即ち、ブラックコルネが誕生したのである。リーヴァーは黒いのはチョコっぽいから、チョココルネで良いんじゃないか、などと嘯いていたが。
そしてチョココルネは深更、ニオイスイーを自身の執務室に召喚した。
あのスタンディングウッドボイスで。
何故ニオイスイーがコルネリウスを拒絶したのかを問い詰める為であった。ところが結局のところ、理由は単純だった。非モテのニオイスイーが彼氏持ちのコルネリウスを、やっかんだに過ぎなかったのである。
ならば何もかも忘れられる強烈な吸いを味わえば良い――コルネリウスはク・サーヤから借りた悪臭瓶(三連星というラベル貼付)を三本程、ニオイスイーに勧めた。
それが、冒頭のやり取りである。その後ニオイスイーがどうなったかは、誰も知らない。
同時刻、ティトとコハクは歩兵団宿舎の来客用宿泊室で寛いでいた。
セロンガードはスメルアタックにノックアウトされた為、自室でダウンしている。
今回ティトは、ひとつの収穫を得た。人前で堂々と、セロンガードの匂いを嗅ぐ切欠を得たことだ。実は以前からティトはセロンガードのマントや衣類を洗濯前にこっそり吸引する隠れた習慣があった。
時折、ついうっかり借用してそのままの時もあるらしい。勿論、そういう場合はしっかり反省し、その次からは新品とすり替える策略を忘れない。少々、反省の方向性がおかしいかも知れないが。
そしてこの日、ティトはセロンガードから他の女の匂いがしなかったことにも安堵した。彼女の好きな匂いが汚されていなかったのは、ティトにとっても大きな安心材料だった。
コハクについても、今日はティトの匂いを盛大に吸い切る口実を得られたことで、心の底から満足していた。矢張り時折は、こういう機会が必要であろうと改めて思い知った。
コハクもティトも否定するかも知れない。
だが、敢えていおう、フェチであると。
薄闇の中で、コルネリウス・アーラはじっと相手を見据えていた。
カルケルーア・ロモズのロモズ歩兵団事務棟。その一角に与えられた、ロモズ歩兵団重兵3番隊長専用執務室内。コルネリウスは執務卓前に腰を下ろし、射貫く様な鋭い眼光で、卓の反対側に座る貧相な顔つきの男をじっと見据えている。
「な、何故俺を呼んだんだ?」
「必要だから呼んだまでです」
この日、コルネリウスは何故か黒っぽい色付き眼鏡を着用していた。両肘を卓上に付き、目の前で両手の甲を上に向けた形で、指だけを絡ませる様に両手を組んでいる。
「吸うなら早くしなさい。でなければ、お帰りを」
普段のコルネリウスからは想像も出来ない程にドスの利いた低い声。歩兵団内ではスタンディングウッドボイスと囁かれているらしいが、そんなことはどうでも良い。
相手の男――ニオイスイーは肝が冷え上がった様子で、喉の奥から情けない悲鳴を漏らした。
12時間前。
ロモズ歩兵団長専用執務室に呼び出されたティトとセロンガード・シュタインドルフの両名は、一体何事だろうと互いに小首を捻りながら、ドアをノックした。
中からロモズ歩兵団長リーヴァー・シュランドル帝国子爵の応答が静かに響く。ふたりは促されるままに入室した。
「吸いフェチ独立紛争を適当に何とかして貰いたい」
物凄く雑で大雑把なひと言を受けて、ティトもセロンガードも頭の中で疑問符が幾つも湧いた。
リーヴァーの執務室には先客が居た。
ク・サーヤ・クッセーワとコハクである。ふたり共、近隣の町の冒険者ギルドに貼り出されていた妙な依頼内容に、多少どころか相当強い興味を抱いて引き受けることにしたらしい。
「吸いフェチ求むだなんて書かれてたら、一体何事かと思って」
よもやその依頼主がロモズ歩兵団長だとは意外中の意外だった、とコハクは苦笑を浮かべる。しかし内心ではある野望が渦巻いていた。コハク、実はついでとばかりに、ある人物の匂いを嗅ぎに来たのである。その人物が今、目の前に現れた。即ち、標的はティトだった。
だがこの場では、クールにポーカーフェイスを決め込むコハク。吸いフェチは兎に角、己の真意を他者に悟られてはならぬという不文律があるようだ。
一方のク・サーヤは強い意志を持って本依頼に臨んでいた。彼女には臭い使いとしての矜持がある。スメルユーザー(スペルユーザーに非ず)とあらば、引き受けない訳にはいかない。
己の肉体から芳醇な香りを漂わせたり、或いは逆に鼻を衝く様な強烈な異臭を放つことも思いのまま(事実かどうかは分からないが)だ。ク・サーヤにとって今回の依頼は、臭い専門家としての好奇心を大いに刺激される内容だといって良いだろう。
尤も、ク・サーヤが専門とするのは主に悪臭の方であったが。
「さて、大体の顔ぶれが揃ったところで臭いについての専門家意見を少しばかり、述べさせて貰おう」
誰もそんなことは期待もしていなかったのだが、何故かドヤ顔で椅子から立ち上がるク・サーヤ。話の腰を折るのも申し訳ないので、ティト、セロンガード、コハク、そしてリーヴァーまでもが律儀にお付き合いしようと考えたらしい。
「闇へ堕ちる道は一本だが、光へ至る道は多種多様。同様に良き匂いへの道は単純だが、しかし悪臭こそが多種多様な臭いへの門戸を開くカギだ」
何となく尤もらしい説明だが、根拠は何も無いので、多分ただの自説だろう。
「わらわは別に悪臭が好きな訳ではないが、良き匂いばかり吸っていては匂い吸いとしては半人前」
嘘だ、絶対嘘だ――この場にいる何人かは腹の底で激しく否定した。ク・サーヤが悪臭好きではないなどと、一体誰が信じるというのだろう。
要は自分と同じ趣味に他人を引き込みたいだけなのだろうというのが、ク・サーヤを除くこの場の全員の一致した意見だった。
しかしリーヴァーは涼しい顔でひと言。
「まぁ何でも良いから、兎に角この面倒臭い案件を片付けてくれ」
スイコミーとニオイスイーの極めてくだらない喧嘩について軽く説明を受けた一同は、取り敢えず当人達から話を聞こうということになって、スイコミーの借家へと足を運んだ。
その頃、先んじてリーヴァーから問題解決指令を受けていたコルネリウスは自身の執務室にふたりの班長、ローデス・プレクターとケルフィス・ディクロンを呼び出した。
ローデスとケルフィスは歩兵団内に於いて、コルネリウスのささやかな趣味に理解を示す数少ない友人達である。だが今回、コルネリウスが吸いフェチ紛争解決指令を受けたことで、彼女の趣味が歩兵団内に漏れたのかという危機感が漂う様になっていた。
「団長は一体どういう意図で、隊長に指令を?」
「それが、今ひとつ掴めないんです」
ケルフィスに答えながら、コルネリウスは困惑の色を浮かべた。リーヴァーはたまたま歩兵団事務棟のロビーでのんびりしていたコルネリウスを捕まえて、暇なら少し手伝ってくれ、と呼びかけた。その時のリーヴァーの様子には、吸いフェチたる一面を見抜いているという表情は感じられなかったという。
「用心に越したこたぁありませんよ、隊長。下手したらこいつぁ、歩兵団を揺るがす大スキャンダルにもなりかねません」
重々しく語るローデスの声に、コルネリウスはごくりと喉を鳴らした。
●荒野を奔る、吸いフェチの列
スイコミーの借家はこざっぱりと片付けが行き届いており、香料も決して厭味にはならない程度に上手く配置されている。本当に、匂いそのものが大好きな人物なのだろうということが伺えた。
スイコミーは吸いフェチであるという特殊な性癖を除いては、至極真っ当な人物だった。そして彼への聞き込みの最中、ティトは思った。
(任務とか依頼で、へとへとに疲れ切った時、は……セロンの、甘い香りを吸ったら、頑張ろうって、思える……ぼくの一番、幸せな時、だよ……)
お姫様抱っこしてもらっている時に漂う、髪からの爽やかな香油の匂い。
就寝中、隣から流れ出してくる愛しいひとの香り。
ティトにとっては、かけがえのないものだ。その匂いが失われると、ティトは頭がどうにかなってしまいそうになる。
(だから、やっぱり、吸いたい時とか……吸える時には、吸った方が良い、よね)
我慢などする必要は無い。望んだ時に吸えれば良いのだ。ふとした時に、頭の中で思い出せる程に。
「食べ物や飲み物の匂い、朝や夜の匂い、そしてひとの匂い……様々な匂いがある訳ですが、矢張り人によって好みが違うというのは、大変興味深いですね」
セロンガードもスイコミーの趣味に理解を示した。ティトはこの時、ほっと安堵した。だがこの直後、彼が発した台詞には思わず耳を疑った。
「しかしこの世は、弱肉強食……吸う側と吸われる側に分かれる訳です。それをどうやら、教えておかなければならない様ですね」
いや、それは違うだろう――ティトのみならず、コハクも露骨に否定的な色を含んだ視線をセロンガードに叩きつけた。
と、ここでク・サーヤが腰を浮かせて立ち上がった。スイコミーには特にこれといった対処は不要だ。矢張り矛先を向けるべきはニオイスイーの方だろう。
コハクも同様だった。これまで彼女は種族柄、自身の技能を嗅覚系に特化して様々な依頼や事件を解決してきたという自負がある。その彼女の本能が、対処すべきはニオイスイーだと明確に告げた。
そのニオイスイー宅には、既にコルネリウスが踏み込んでいた。彼女はある思惑があって、他の冒険者とは距離を置きたかったのである。
今回コルネリウスはニオイスイーに対し、共感戦術を取った。
と同時にコルネリウス自身も吸引欲が強いことを敢えてさらけ出し、彼の内面を引き出そうとも考えた。
「ニオイスイーさんは、どの様な香りを特に好まれるのでしょうか?」
「私はお花と小鳥達を扱っていますから、お花の香りは大好きです。ポプリや香油も作っているんですよ。鳥さんの匂いも勿論、ネコチャンも吸わせて貰うと幸せですし」
と、ここまでは相手の論調に合わせて穏やかに会話を進めていたが、
「でも、一番はやっぱり……恋人の匂いを吸う時、ですよね。勿論」
突如として強い意志が顔を覗かせた。
コルネリウスは懐から、心底嬉しそうに洗濯前の手袋を取り出した。
自分の口で、じゃじゃーん、と効果音を添えながら。
「これを、こう……すぅぅぅぅぅ……っとする時が一番、幸せですね……」
コルネリウスはニオイスイーとの面会が任務であるということも一時忘れて、大きな手袋に小顔を埋めた。
そして思い切り、吸う。心ゆくまで、吸う。満足するまで、吸う。
手袋から顔を離した時、コルネリウスの美貌には恍惚の色が浮かんでいた。
「……お分かり頂けますでしょうか……いえ、きっとご理解頂けますよね? 本当はぎゅうぅっとしながら直接吸うのが一番なのですけど、本人不在の時は……」
以後、コルネリウスの吸いフェチ論が延々と続いた。正確には十数分、兎に角彼女は、熱く語り続けた。
ところがニオイスイーは突然、憤然とした調子で勢い良く立ち上がった。
「帰って下さい。あんたとはこれ以上、お話しすることはありません」
一体何が彼の気に障ったのかは分からないが、兎に角ニオイスイーはコルネリウスに対し、妙な敵意を剥き出しにして追い出しにかかったのである。
直後、コルネリウスと入れ替わる格好でク・サーヤ、コハク、ティト、セロンガードがニオイスイーの住む別宅を訪れた。
●吸いたくて、募る思い
ニオイスイー別宅に突入直後、ク・サーヤがまず仕掛けた。彼女は悪臭吸いへのレベルアップを熱弁した。
曰く、エルフの加齢臭。腋臭の匂い。頭皮の油臭さ。乙女の汗の香り(これは何か違う)。屁の匂い。口臭。腐臭。装備品の臭い。胡散臭い。
その他諸々の良い悪いも含め、臭いの百貨店を自認するク・サーヤは兎に角攻めた。言葉ではどうせ理解して貰えないだろうからと、実力行使へと走るク・サーヤ。最初は香水で相手(というか他の冒険者をも含めて)の油断を誘い、隙を見せたところで一気に悪臭地獄へと引きずり込む。
最初の香水で嗅覚を麻痺させておいて、悪臭を良い香りと錯覚させることでこちら側に引きずり込もうという作戦だった。
そして何より恐るべきは、ク・サーヤの標的はニオイスイーのみならず、コハクやティトにも矛先が向いていたことだった。人類皆悪臭フェチ計画が、ク・サーヤの本心だったのだ。
だが、ク・サーヤの野望は敢え無く打ち砕かれた。
コハクはわんこである。名前はまだ無い。
いや、嘘だ。訂正。名前はある。それにコハクは狼である。
そんなコハクが吸いたいのは、ティトちゃんだ。最近会えていなかったから、匂い嗅ぎに来た。
以上。
ク・サーヤのスメルアタックは、不発に終わった。コハクは咄嗟にティトを吸い、事無きを得たのだ。
そしてそのティトはセロンガードを吸って窮地を脱した。
唯一セロンガードは、吸う側と吸われる側の弱肉強食だとブチ上げておきながら、結局は自分自身が吸われる側に過ぎなかった事実に愕然とし、ク・サーヤのスメルアタックの餌食となっていた。
そして肝心のニオイスイーは、そもそもスイコミー家から持ち出した諸々の香料を吸いまくって鼻がおかしくなっていたのか、ク・サーヤの悪臭にはびくともしなかった。
だがこれはこれで大きな収穫だった。ニオイスイーはもしかすると、既にク・サーヤと同じ領域に足を踏み入れていたのかも知れない。
悪臭があるからこそ、良い匂いというものがより味わい深くなるとか何とか取り繕っていたク・サーヤだったが、ニオイスイーに大いなる可能性を感じた今となっては、最早そんなことはどうでも良かった。
ところがク・サーヤのスメルアタックが思わぬ結果を招いた。ニオイスイー別宅の近隣住民から苦情が相次いだ為、リーヴァーは大手を振って彼の家を差し押さえた上、立入禁止にしてしまったのだ。
このどさくさに紛れてリーヴァーはニオイスイーが強奪した香料の数々を押収し、スイコミーに返却した。
ク・サーヤはスメルアタックを踏み台にされたと憤っていたが、しかし結果オーライである。
事態はこれで丸く収まった、かの様に思えた。だが、話はここで終わらなかった。
コルネリウスは驚愕の事実を知らされた。彼女のニオイスイー別宅での行動は全て、窓からこっそり覗き見していたリーヴァーに全て筒抜けとなってしまったのである。
「いや、えと、その、あれはお仕事なので、その、あれですから」
その夜、コルネリウスは必死に弁明したが、リーヴァーはただ笑うだけであった。
この時、コルネリウスの中で何かがぷつんと切れた。彼女の黒い一面、即ち、ブラックコルネが誕生したのである。リーヴァーは黒いのはチョコっぽいから、チョココルネで良いんじゃないか、などと嘯いていたが。
そしてチョココルネは深更、ニオイスイーを自身の執務室に召喚した。
あのスタンディングウッドボイスで。
何故ニオイスイーがコルネリウスを拒絶したのかを問い詰める為であった。ところが結局のところ、理由は単純だった。非モテのニオイスイーが彼氏持ちのコルネリウスを、やっかんだに過ぎなかったのである。
ならば何もかも忘れられる強烈な吸いを味わえば良い――コルネリウスはク・サーヤから借りた悪臭瓶(三連星というラベル貼付)を三本程、ニオイスイーに勧めた。
それが、冒頭のやり取りである。その後ニオイスイーがどうなったかは、誰も知らない。
同時刻、ティトとコハクは歩兵団宿舎の来客用宿泊室で寛いでいた。
セロンガードはスメルアタックにノックアウトされた為、自室でダウンしている。
今回ティトは、ひとつの収穫を得た。人前で堂々と、セロンガードの匂いを嗅ぐ切欠を得たことだ。実は以前からティトはセロンガードのマントや衣類を洗濯前にこっそり吸引する隠れた習慣があった。
時折、ついうっかり借用してそのままの時もあるらしい。勿論、そういう場合はしっかり反省し、その次からは新品とすり替える策略を忘れない。少々、反省の方向性がおかしいかも知れないが。
そしてこの日、ティトはセロンガードから他の女の匂いがしなかったことにも安堵した。彼女の好きな匂いが汚されていなかったのは、ティトにとっても大きな安心材料だった。
コハクについても、今日はティトの匂いを盛大に吸い切る口実を得られたことで、心の底から満足していた。矢張り時折は、こういう機会が必要であろうと改めて思い知った。
コハクもティトも否定するかも知れない。
だが、敢えていおう、フェチであると。
マスターコメント
皆様、良い吸いっぷりでした。
ショートシナリオ易しい 報酬:少ない5 / 4〜5人
2021年11月29日 23時32分59秒 公開
大成功
相談掲示板
コルネリウスです、よろしくお願いします。 何故か…そう、何故か、リーヴァーさんからお声が掛かってしまいまして。 お仕事ですから、頑張って吸いフェチアピールさせて頂こうと思います。 各々アプローチ方法があるかと思いますので、相談する事は少ないかな、と思いますが…良い吸引タイムをお過ごしください。
ティトです。よろしくお願いします、ね。 どうしてぼくが聴覚じゃなくて嗅覚を選んだのか、知らしめなくちゃいけないみたい…だよ。
吸うより吸わせたい方のサーヤである。 スメル欲求を満たすのは嫌いではないゆえに参戦した。 まあ、戦争を変わらせるには核をぶち込めばいいという・・・。