シャルガネ一夜城

影絵 企鵝

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シナリオID:1652

オープニング

●食い尽くされた村
 幼いある日、弓兵の一群を率いる兄に連れられて、ミネルヴァはクリーパーが出現したという村を訪れていた。

 襲われたのは辺境の村。当時王国の騎士であったマティアスにお鉢が回った時点で手遅れに違いなかったが、救援に行かないわけにはいかない。その時たまたまマティアスへ会いに来ていたミーナは、その村を見てみたいと急に言い出したのである。最初は止めたマティアスだったが、結局妹には甘かった。

 かくして村へやってきたミーナが目の当たりにしたのは、壊滅した村。クリーパーにエーテルを喰い尽くされ、まともな生命の形を保てなくなった肉塊がそこかしこに散らばっていた。

「……うぇっ」

 酸い物が上がってえづくミーナ。マティアスは顔を顰めた。

「だから言っただろ。何も面白い事なんてないんだ」

 部下の兵士はでろでろになったモノを木の枝の先でつつき、口々に悪態やら何やら呟いている。ミーナは吐き気を催しながらも、そんな光景から目を離そうとしない。

「どうしてこんなことするの?」
「理由は単純だ。飢えているからさ。そこは熊や狼と何も変わりはしない。ただ……クリーパーには喰い方が特殊な奴がいる。だから時にはこんなことになる」
「それだけ?」

 ミーナは目を見張る。クリーパーとは世界を脅かす生き物だ。そこにはさぞかし、気宇壮大にして醜悪で残酷な意思が潜んでいるのだろうと決めつけていた。

「それだけだ。奴らの本質は畜生に過ぎない」

 あくまで自己保存の為に牙を剥く生き物。それを知った瞬間に、目の前の異様な死体が、ただの肉の塊と変わらないように見えてきた。

「……つまんない生き物」

 ミーナはぽつりと呟く。その時、鉄を擦り合わせたような異様な呻き声と共に、熊のように大きなクリーパーが姿を現した。斥候が角笛を鳴らすと、マティアスと兵士達は一斉に矢を放つ。最初は抵抗していたクリーパーも、容赦ない矢衾を前に呆気なく倒れる。

 ミーナは恐怖と憎悪と軽蔑の入り混じった眼差しで、クリーパーの死骸を見下ろしていた。

「ほんとにつまんない」

●恩の押し売り
 シャルガネのとある屯所。授恵者達の集まる自警団は、今まさに地図を睨んで溜め息を吐いていた。

 どこぞの騒ぎの影響か、シャルガネ近辺でも境界が揺らぎ、クリーパーがふらっと現れた。強度こそ並みのクリーパーと変わらないが、次々と分裂してわらわら眷属を送り込んでくるから、少数ではとても手に負えない。街まで突撃して来た分を適当に叩きのめすのがやっとだった。

「お困りのようですな」

 そこに、黒い外套に身を包んだ少女がいきなり現れる。自警団達は首を傾げた。

「……誰?」
「誰? ふふ……聞いて驚け!」

 少女――ミーナは外套を脱ぎ捨てると、いつもの青い装束になってポーズを決める。その手には鴉の紋章が刻まれた木のメダルが握られている。

「鴉の剣士! ミネルヴァ=フィーギル!」

 朗々と名乗るミーナ。しかし団員達はきょとんとしている。めげないミーナはポーズを切り替えもう一度名乗った。

「鴉の剣士! ミネルヴァ=フィーギル!」

 いきなり現れ騒ぎだす闖入者。大体の人間がうんざり顔をしていたが、やがて一人が気付いて素っ頓狂な声を上げる。

「あ! この前屋敷町で何か騒いでた奴って、おめーさんのことか!」
「そのとーり! クリーパー掃除に忙しいみんなのために、不埒な与太者達はやっつけておきましたよ。どうです? 大分助かったんじゃないですか?」

 ミーナはニコニコしながら地図の乗った机に身を乗り出す。自警団は顔を見合わせ、渋々と頷いた。

「まあ、それは……」
「なら、助かりついでにもう一つ私に仕事を頼んでみませんか? 冒険者の皆をパパっと集めて、こっちに来るクリーパーを纏めて片付けてあげますよ。その隙にクリーパーの本拠を叩くための拠点でも準備したらいかがです?」

 ミーナはそばに置かれていた筆を勝手に手に取ると、さらさらと地図へ前線を書き付けていく。きょとんとする自警団に向かって、彼女はにっと笑った。

「もちろん成功した暁にはお礼を頂きますけど……悪い話じゃないでしょう?」

 突然やってきた少女からぶつけられたビジネス。自警団の面々はしばらく顔を見合わせていた。

●化け物掃除
 かくして集会所から掻き集められてきた君達は、武器を取ってシャルガネ居住区の北方で武器の準備を整えていた。背後では自警団やら大工の面々が、丸太を束ねて作ったいかだを川に浮かべていた。

「このいかだを川上まで持って行って、その場で櫓を組む。出来る限り急ぐが、それでも一時間は無いとまともな櫓は作れない。それまでの間、こっちに火の粉が掛からないようにしてくれ」

 大工の棟梁が君達に説明する。その間にも、森の向こうではぼんやりと青白い光が浮かび上がり始めていた。シャルガネを脅かすクリーパー――アヤカシの群れが現れたのだ。

「了解です。まあ本丸にちょっかいを掛けなければ何とかなりますよ」

 ミーナは笑顔で受け応えると、伸びをしながら森の方へと足を向ける。

「さ、行きましょう。早く片付けてシャルガネ料理をみんなで食べるんです」

 朗らかに言う彼女。君達の目の前に、森の奥から敵の群れが姿を現す。形は様々だが、身体の一部に青い炎が灯っているところだけは共通していた。ミーナはふっと笑みを掻き消し、冷然と敵の陣容を見渡す。

「けだものめ。……つまんない奴は嫌いなんだ」

 ミーナはぽつりと呟くと、静かに剣を抜き放つ。君達が足並みを揃えるのを横目に、彼女は低い声で吐き捨てた。

「覚悟しろよ」

解説

メイン アヤカシの群れから築城隊を守る ENEMY ☆アヤカシ×30  中型クリーパー『ヒャッキ』から無尽蔵に生み出される小型クリーパー。エーテル飢餓のため非常に好戦的で、非常に脆弱ではあるものの厄介な存在。 ・構成  近接型(射程1~2の噛みつき攻撃のみ行ってくるタイプ)×15  遠距離型(射程4~10の火を飛ばす攻撃のみ行ってくるタイプ)×15 ・特殊能力  増援(毎ターン1D6の増援がマップ外から現れる。構成はランダム) ・性格  手あたり次第(攻撃範囲内にPCがいればそれを狙う。標的設定はランダム) NPC ☆ミネルヴァ・フィーギル  天真爛漫な振る舞いで周囲を振り回すお嬢様。しかし、ふとした時に冷然とした一面を垣間見せる時がある。 ・クラス  シーフ Lv14 ・能力傾向   機動戦重視 ・スキル  壁歩き 縛糸刃  腱撃 脛撃  方向感覚 未来に生きている ・作戦傾向  支援攻撃(ダメージ効率は捨て、デバフをばら撒く事に集中する) ・行動指針  協調(PCの指示に従う)  クリーパー嫌い(クリーパーに対して積極的に攻撃を試みる) ☆築城隊  シャルガネの築城部隊。今回は築城に専念するため戦闘には参加しない。彼らを守るのが今回の目的。 FIELD ☆川近くの平野  南北に横切る川が流れる平野。北部に森が張り出している以外は遮るものが少なく、遠距離攻撃が通りやすい。 ・大体の地図  □川森森森森□  □川森森森□□  □川□□□□□  □川☆□□□□  ★川□□□□□  ☆…開始地点 ★…築城ポイント TIPS ・接敵前は散らばるように動く。取りこぼしに注意。 ・速攻で終わらせたいなら築城部隊に手を貸すことも可能。

マスターより

影絵企鵝です。 前後編にかけてのクリーパー攻略戦の予定です。最初はミーナにもクリーパーに襲われた悲惨な過去が……なんて思ったりもしましたが彼女の人格形成の中でそんな経験なかっただろうなと思ったので今回みたいな感じになりました。 敵は無限湧きです。処理速度を大事にしましょう。よろしくお願いします。

リプレイ

●つまらない生き物
 動き出すアヤカシの群れ。その先頭を抑え込むように、コルネリウス・アーラとイズレンディル・パラリムのペアが動き出す。冒険者達に向かってふらふらする敵を前に、コルネとイズは揃って武器を構える。
「敵の攻撃の対応は一任します。危ない時は無理をなさらず後退してくださいね」
「わかりました。私が必ず護りますので、掃討はお任せします!」
 狐のアヤカシが、尻尾で次々に青い火を投げつけてくる。コルネは盾を掲げて炎を受け止め、飛び掛かってきた猿のアヤカシを剣で撥ね退ける。怯んだところへミーナが滑り込み、長剣をアヤカシの額に叩きつけた。
「私も手伝いますよ」
「助かります。ミーナさんには遊撃を任せますので、前は私にお任せください」
「承知です」
 ミーナは剣を構え直し、コルネの背後に回って敵の出方を窺う。アヤカシの群れが三人を囲むように襲い掛かる。コルネは剣先にエーテルを集中させ、花弁を描くように振るう。不可視の檻でアヤカシを囲い込むと、敵が殴り掛かるのも構わず、迷いのない一閃を叩き込む。腕や腹を切り裂かれ、怯むアヤカシ。イズは弓を引くと、天へ向かって鏑矢を一発放つ。矢は頭上で光の礫と化し、アヤカシの群れに向かって降り注いだ。ミーナがすかさず敵の懐へ飛び込み、素早く止めを刺していく。
「お久しぶりです。冒険者としての暮らしには慣れましたか」
 コルネの後を追いながら、イズは隣のミーナに尋ねる。彼女はほんの僅かに口元を緩めた。
「籠から放たれた鳥の気分です」
「期待していますよ。自由を手に入れた鳥の実力が、どれほどなのか」
「ええ」

 敵は森の奥から次から次に湧いてくる。中央目掛けて突撃したコルネが壁になって敵の波を食い止めるが、一点だけでは横から溢れてしまう。その溢れた敵を拾いに、クローリカとリディリディ・トゥラ・イェレミースが右方面から回り込んでいた。
「クローリカさん、お願いします」
「お任せください」
 クローリカは細剣を抜き放つと、先頭を切ってくるアヤカシに向かって突っ込んだ。掴みかかろうとする腕を弾くと、お返しに首筋を鋭く突く。
「まだ建設は始まったばかり。少しでも長く立っていられるよう、工夫が必要ですね」
「はい。特に、体力の配分は考えないと……」
 リディは弓を引きながら頷く。とにかく物量で押してくる敵。目の前の敵だけに全力を尽くすと後が続かない。彼女は慎重に一体一体撃ち抜いていた。
「それでも厳しい時は言ってくださいね。出し惜しみして負けるのは本末転倒ですから」
 クローリカはちらりと中央へ目を向ける。敵の攻撃を軽やかに掻い潜るミーナだったが、それでも攻撃が何度か掠っている。見かねたクローリカは、軽く足を寄せて癒しの光を飛ばした。
「無理は禁物ですよ! ミネルヴァさん!」
 クローリカが声を張り上げると、ミーナは背中を向けたまま、腕を突き出し親指を立てる。それっきり彼女は剣を構え直し、目の前の敵へ襲い掛かった。その背中を見遣り、リディは小さく首を傾げた。
「ふむむ……フィーギルさんって、よくわかりません」
「よくわからない、とは?」
 盾でアヤカシの爪を受け流しながら、クローリカがリディに尋ねる。リディは群れの向こうの一体を射貫きつつ、ぽつぽつと応えた。
「先日は、天真爛漫で無邪気な方かと思っていましたが……少し、様子が違う気が」
「彼女も色々思うところがあるのかもしれません。とりあえず今は集中しましょう!」
 クローリカは纏めて襲い掛かってきた群れを薙ぎ払う。リディも頷き、一列になって続く敵を纏めて穿ち抜いた。
「……そうですね。コルネさんたちに任せて、今は目の前だけを見ます」

 左翼側に立つケン・Z・ブラッドリーとアスティン・ヴェルラインが直面するのは、川のそばまで張り出す森。必然的に森から飛び出すアヤカシとの距離は近く、ついでに川を背負う形にもなっている。しかし、二人は果敢にアヤカシの群れへと立ちはだかっていた。
「新手だ!」
 弓を構えてアスティンが叫ぶ。森の向こうでは青い炎が灯り、新手のアヤカシ達がぬっと飛び出してくる。アスティンは素早く弓を放ってアヤカシのぬめった単眼を撃ち抜き、相棒の狼、リュリュがその足元に食らいついて引き倒す。アヤカシの群れは、倒れた仲間を踏み越えながら近づいてくる。ケンは大太刀を構えると、悠々と群れの正面へと踏み込んでいく。
「おーおー、獲物がわらわら湧いてくるな」
 大上段に剣を振り被ると、ドワーフ譲りの膂力を以てその刃を叩きつける。アヤカシの肩口に深紅が深々と食い込み、どす黒い体液が溢れる。ケンは柄を握り直し、力一杯に振り抜いた。敵の肉が引き千切れ、黒い雨と共にアヤカシはどっとその場に倒れ込む。
「しかし……いくら増えてくとはいえ、こんなに手応えないと狩りがいがないな」
 ケンは姿勢を低く構えると、アヤカシの放つ青い炎を掻い潜り、荒々しく敵の身体を掻っ捌いていく。
「どいつもこいつも似たようなのばっかで、面白みがねぇぞちくしょう」
「いきなりとんでもないのが出てくるよりはマシですよ」
 アスティンは空を目掛けて弓を引く。放たれた矢は低い弧を描き、目の前の敵の頭上を越えて、森の中に構える敵に突き刺さる。
「青い炎のお陰で森の中でも見えるけど、油断は出来ないかな」

 三部隊が展開して敵の群れを遠ざけている間に、築城部隊は突貫作業を続けていた。アウレーリア・フォン・ネーベルベルクは輓馬を荷役に駆り出しつつ、自身は敵の様子を窺っていた。その背後で、サイラスは大工と共に手際よく丸太組みの砦を組み立てていく。土を深く掘り下げ、川で流してきたいかだをそのまま杭柵として地面に突き立てる。専門は鍛冶だが、鍛錬のお陰で力仕事には慣れている。
「櫓を組むぞ。こっちに手を貸してくれ」
「わかったわかった。今行く」
 サイラスは丸太を纏めて櫓の胸壁にしながら、前線の様子を窺う。獣とも鬼ともつかない外見の群れは、サイラスにとって目を惹くものではなかった。
(あまり素材としての価値は無さそうだな)
 それならば死体の保全を気にするまでも無い。サイラスは弓を取ると、遠くの敵目掛けて狙いを定める。エリアサイレンスの能力で釘打ちの音はひっそりと隠され、アヤカシの群れは前線に夢中だった。サイラスは鏃にエーテルを吹き込むと、左翼目掛けて撃ち込む。火花の散った鏃は急に爆ぜ散り、固まっていた敵を纏めて射貫く。腕や脇腹の肉が吹き飛び、アヤカシの群れは次々に倒れていく。
「おい! 建材を上げるぞ! 手伝え!」
「ちょっと待て!」
 大工が下でうるさくなる。見れば、別の方角からも数体のアヤカシがすり抜けようとしていた。サイラスはぐっと胸壁から身を乗り出し、アウレーリアを見下ろす。
「おい、そっちは任せるぞ」
「……ええ」
 櫓を目指すアヤカシを見つめ、アウレーリアは喇叭を握りしめる。
「……幾ら死んでも、誰も惜しまず悲しまない。……そんな存在に食い殺されるほど、つまらない死に方も無いじゃない」
 彼女は苦々しく呟くと、喇叭を高らかに吹き鳴らした。

 響き渡るラッパの音。クローリカは前線を抜けようとする敵へ真っ先に気付いた。彼女はエーテルの槌で周囲の敵を薙ぎ払いながら、背後のリディへ振り返る。
「リディリディさん! そこの敵を押さえてください!」
「は、はい!」
 リディは頭上へ手を掲げる。青白い光の投槍が現れ、リディはそれを鋭く擲った。眼にも止まらぬ速さで飛んだ一発は、弾けて敵の身体に纏わりつく。敵の足が鈍った隙に、クローリカが敵の正面へと回り込み、騎馬突撃のような勢いで撥ね飛ばした。

 吹っ飛んだアヤカシは、最前線のコルネ達まで飛んでいく。気付いたミーナは、振り返ってそれに止めを刺す。彼女は叫んだ。
「こっちは大丈夫!」
「はい!」
 コルネは剣を両手で握ると、目の前に押し寄せてくる敵を次々に切り伏せていく。皆を守る盾として、戦場を広く見渡し戦うことも出来る彼女だが、今は敢えて目の前の敵を渾身の力で切り伏せる事に集中していた。
「後ろには通しません!」
 そんな彼女目掛けて、後衛のアヤカシが火の玉を投げ込もうとする。しかし、その火が届く前に、放たれた矢がコルネの肩越しに駆け抜け、光の破片となってアヤカシに次々と突き刺さった。イズが弓を構え、コルネの分まで俯瞰的に広く戦場を見渡していた。
「このまま行きましょう。こちらが既に優勢です」
「はい! 任せてください!」

 狼のリュリュが大外回りに走り込み、アヤカシの背後へ回り込む。敵の眼が狼に釣られた隙に、アスティンは矢継ぎ早に矢を放つ。背後から急所を撃たれた敵は、死体の山をさらに積み上げていく。
「こっちだよ!」
 戦場を走り回って注意を引き付けるアスティン。ケンはその隙に大太刀を天を衝くように構え、一気に敵の懐へ走り込む。
「おいおい。俺を無視すんなよ。そんなに逝きたきゃあの世へ送ってやるぜ!」
 鋭い気炎を吐きながら、ケンは刃を容赦なく振り下ろす。脆いアヤカシの身体はその一撃を受け止めきれず、真っ二つに裂けて倒れた。ケンは白い歯を剥くと、現れる敵を待ち構えるのだった。

 冒険者達の力強い攻勢により、アヤカシの勢いは既に挫かれていた。しかし彼らは油断することなく、櫓が完成するまで森からのさざ波を受け止め続けたのである。

●面白きことも無き世を
 サイラスは櫓の屋根に立ち、最後の釘を打ち終える。急ぎの作業だったが、敵の突撃を食い止めるには十分な強度を確保できた。サイラスは金鎚を革帯のホルダーに差し込むと、一気に地面まで飛び降りる。
「終わったぞ。まともな戦いに耐えられるようにするならもう少し補強がいるだろうがな」
「助かったぜ。考えてたよりも大分早く終わった」
 大工とサイラスは森の方角を見遣る。相変わらずアヤカシの群れが湧き、簡素な砦目掛けて押し寄せてくる。しかし、地の利を得た自警団はその群れを丹念に捌いていた。自警団の頭目は君達へと振り返る。
「とりあえず前線は作れたな。……まあ俺達が釘付けにされる場所が町からここに移っただけなんだけどな」
「それでも一歩前進でしょう? 私達に任せてくれれば、このまま百鬼とかいうのも退治してあげますよ」
 ミーナがにっこり笑うと、頭目はバツが悪そうに頭を掻く。
「……なんかそう仕向けられた気がしてならんが、まあここまで来たら任せるさ」
「はい、頂きました。任せといてくださいよ」
 彼女は冒険者達に振り返ると、外套を翻しながらそっと頭を下げる。
「ということで作戦は成功です。協力ありがとうございました」
「とりあえず一段落ってとこか?」
 ケンはちらりと砦の外を見遣る。最初より勢いは落ち着いたが、それでも散発的にアヤカシが森から這い出てくる。
「こいつは……もう一働き必要そうだな」
 大太刀を再び担いだケンは、物見から飛び降りてアヤカシの群れへと突っ込む。彼の振るう刃は、まだまだクリーパーの血を吸おうとしていた。リディはその様子を眺めて溜め息を零す。
「少し近づいただけでこれなら、森の中に踏み込むと一体どうなるんでしょうか……」
 リディは画板を手に、戦いの中で得た記憶を絵と文字に纏めていく。簡素だが、特徴は的確に押さえた克明な覚書だ。彼女はペンを置いて一度眺めると、おずおずと自警団の頭目へと差し出す。
「と、とりあえず、今日見たものを記録に纏めておきました。ギルドからまた増援が来るまでの間、これを手掛かりに、何とか……」
「悪いな。手掛かりにさせてもらう」
 頭目はリディに向かってにっと白い歯を見せる。リディは口をつぐみ、恥ずかしそうに俯いてしまった。
「それにしても、敵の親玉は一向に姿を見せませんね」
 クローリカは櫓の胸壁から身を乗り出し、森の様子を遠目に窺う。しかし、森の奥に敵の母体らしき影は一つも見えない。
「ねぐらの眼と鼻の先にこんなものを建てられたら、親玉ごと出てきて、全力でこちらに襲いかかってきてもよさそうなものですが」
「確かに、敵の母体も一緒に前に出て来たらちょっと苦しかったかもしれないね」
 アスティンもクローリカと共に森を見つめる。散発的にアヤカシを吐き出しつつも、森は異様な静寂を保ち続けていた。アスティンは肩を竦める。
「森の奥はあんなのでいっぱいになってるのかなあ……」

 一方、イズとコルネは武器の手入れをしながら、互いを労いあっていた。
「コルネ、大事無いようで何よりです」
「イズさんこそ。今日も護り切れて、よかったです」
「二人とも相変わらずで何よりですね」
 そこへ割って入るミーナ。口元がにやにやしている。コルネは頬を赤らめ、イズは微笑む。
「お疲れさまでした。中々冷静な戦いぶりでしたね。いつでも周りが見えていた」
「様子を見るのは得意ですから」
 さらりと応えると、ミーナはくるりと振り向きコルネの眼を覗き込む。
「コルネさんは力一杯でしたね。恋人には指一本触れさせません、というわけですか?」
「いや、その……」
 口ごもるコルネだったが、やがて形見を握りしめて真剣な顔をする。
「ただ蹂躙される力無き人を守る事が、私の兄との約束ですから」
 揺るぎのない真っ直ぐな答え。ミーナは肩を竦めると、彼方の空を見上げる。
「コルネみたいな人がもっといれば、この世の中はもっと面白くなるのに」
 諦めを含んだ呟き。コルネは首を傾げる。
「ミーナさんだって――」
「私なんか、別に。自分が面白かったら何でもいいんです」
 ミーナは遮るように呟き、胸壁の下を見る。アウレーリアも杖を振るい、敵の増援を狩りつくそうとしていた。ミーナはしばし眺めた後、いきなり壁を乗り越える。

 目の前のアヤカシを焼き払い、アウレーリアは目をぎらぎらさせる。死んだ者の無念が、彼女の顔に影を添えていた。
「お前達など幾ら積み上げたところで、生者一人も贖えない『端金』よ」
 アウレーリアは爆炎を叩きつけ、呪いを吐き出す。
「燃えろ燃えろ。皆燃えてしまえ。ペチカの薪代わりに暖を取りましょう。それとも、畑に灰を撒けば肥しくらいにはなるかしら」
 アヤカシが一匹、アウレーリアの死角から襲いかかろうとする。ミーナはそこへ素早く割って入り、気付いたアウレーリアが火を放った。ミーナは彼女を見遣って溜め息を吐く。
「危ないですよ?」
「……ふふ、ねぇミーナ。どんなものにも役に立つ方法はあるのかも知れないわ。この無価値な獣共の命に、私達が意味を与えてあげましょうよ」
 それを聞いたミーナは、不意にけらけらと笑い出す。
「面白いこと言うじゃない。いっつもお利口な事ばっかり私に言うくせに」
 燃えながらも迫るアヤカシを切り捨てると、ミーナは彼女にしずしずとお辞儀する。
「お助けしますよ、お嬢様」



 かくして百鬼夜行の予行演習は終わり、いよいよ本番へと向かうのである。

マスターコメント

シナリオご参加ありがとうございました。影絵です。 皆さんくらいの実力ならばこれくらい乗り越えるのは造作もないと言ったところでしょうか。次回はいよいよ敵の本拠地に乗り込んでの戦いとなります。 次はもう少し苦労するような戦場にしたいところですね。 ではでは……
ショートシナリオ

ショートシナリオ普通 報酬:標準8 / 4〜8人

2021年12月12日 14時35分36秒 公開

成功

相談掲示板

  1. No.1

    えっと、キャスターのリディリディです。 その・・・、よろしくお願いします。 今回は築城部隊という隊員を守るのが目的のようですね。 相手には遠距離型が居るのが厄介です・・・。 地形のおかげでこちらの遠距離攻撃は放ちやすいですが、向こうからも同じようにされては困りますね。 また、どこから敵が現れるかがわからないのが問題です・・・。 幸いこちらは前衛と後衛が半々ですし、あの・・・、2人1組などで散らばって阻むとかはどうでしょう・・・。

  2. コルネリウス・アーラ

    ウォーリアのコルネリウスです、よろしくお願いします。 大まかに、索敵する班と、築城部隊に被害が出ないよう護る班が必要でしょうか。 索敵の方は接敵前は敵が散らばっているようですし、こちらもバラけた方が取り漏らしも防げそうで効率が良いかと私も思います。 前衛・後衛で組むのも人数的に組み易そうですね。 ミーナさんは築城部隊を護って頂く事も出来そうです。 攻撃範囲内にPCがいればそれを狙うようですから、範囲内に入りつつ誘導し、成るべく一点に集めるなども出来そうでしょうか。

  3. イズレンディル・パラリム

    エルフのキャスター、イズレンディル・パラリムと申します。 宜しくお願い致します。 敵が散開しているようですからこちらも散らばって対応する方針に賛成です。 2人1組等で組んで動くのも賛成です。もちろん3人1組等でも良いかと思います。 敵も攻撃方法が遠近揃っていますから、単独で動いて窮地に陥るのだけは避けたいですね。 弓を持って中央付近から広域をカバー出来ると効果的になりそうですね。 私は弓装備で行こうかと思います。 シーフの方がミーナさん以外いらっしゃらないので、移動力が不足するかもしれません。 その分は射程でカバーをする、という意図もあります。 >戦闘時間 ところで戦闘時間はどの程度になるのでしょうか。 額面通りに受け取りますと1時間は3600秒、1ターン5秒程度ですから720ターン、ですか? ……さすがに長すぎる気がしますね。 判定はもう少し現実的なターン数になると思いますが、少なくとも長期戦にはなりそうです。 スキルの使い処は見極めていきたいですね。

  4. No.4

    サイラスだ、よろしくなー 分散して動くのに賛成で、機動力無いので防衛索敵に分けるなら弓持って防衛に、○人一組で分けるならあんまり動かない人と組む方が組む人に負担かからんかなぁと思うところ 増援がD6体なら毎ターン6匹潰せてればその内余裕出てくるのかね。 後NPCの人どうする?支援型らしいから火力高い人とかと組んでもらうとか、防衛索敵に分かれる時PC側にシーフ一人だから倒れない様に気を配りつつ索敵回ってもらうとか?

  5. クローリカ

    ウォーリアのクローリカです。 敵は無限湧きですか…、ジリ貧になる事は避けたいですね。 2人1組になる案は賛成です。 そういえば今回ヒーラーさんがいませんね。私はヒールを用意していきましょう。 基本的には通常攻撃、囲まれたら範囲攻撃スキルで一掃という動きになるかと思います。

  6. イズレンディル・パラリム

    今のところ二人一組で散開して対処する案で問題無さそうですね。 まだ顔出しをされていない方にも懸念等無ければ確定で良さそうです。 ヒーラーの方も不在でしたね!クローリカさん、ありがとうございます。 私もヒールを一枠持参しますね。 魔弓装備予定ですので、回復量もそれなりに出せるかと思います。 >検討課題 今のところ検討事項は下記の2点でしょうか?  ①ミーナさんに何を対応して頂くか  ②築城部隊への築城作業支援を実施するかどうか >①ミーナさんに何を対応して頂くか どうにもご本人に前のめりの傾向が見られますし単独で動くのは少し怖い気はしますね。 良ければなのですが、中央付近に私とミーナさん、その前方にコルネさんの3人で組ませて頂いて、ミーナさんには打ち漏らしを中心に対応いただく、というのはいかがでしょうか? 前方をコルネさんに抑えて頂ければ、私が弓の長射程で前方への攻撃とミーナさんへのフォローを並行出来るかと思いまして。 >②築城部隊への築城作業支援を実施するかどうか TIPSに「速攻で終わらせたいなら築城部隊に手を貸すことも可能。」と書かれている点ですね。状況を見て余裕があれば(1D6で敵数が少ない等)手伝いに回って良いかもしれません。 勿論これは不要でも構いませんから、ご希望の方がいらっしゃれば、1~2名程度ででしょうか。

  7. コルネリウス・アーラ

    >ヒール 私も自己回復用にヒールは積んでいきますね。 他は防御を高めにして、引き付けを行う予定です。 >①ミーナさんに何を対応して頂くか シーフがミーナさんだけだったんですね。 彼女の単独行動は私も心配がありますので、イズさんの案の通り、私はミーナさんと3人で組む形は問題ありません。 皆さんからの異論がなければ、引き受けさせて頂ければと思います。 >②築城部隊への築城作業支援を実施するかどうか 此方については、私も希望者がいらっしゃれば、という方向で良いかと思っています。

  8. ケン・Z・ブラッドリー

    顔出しが遅れてすまん ウォーリアーのケンだ 敵がバラけてるのならこちらもある程度分かれて対応するしかないから二人一組で動くというのは理にかなってるだろう あとは敵を迎え撃つのと築城部隊を守るのの人の割り振りをどうするかだな 俺は敵を迎え撃つほうが希望だな

  9. No.9

    築城支援回ろうか?建築土木2だけどないよりマシでしょ。弓使えば平野なら射程問題ないし、近いからカバリングしやすいし 他に拠点対応居なくて2人1組が難しいなら俺1人にしてどこか3人1組とかでもええし。

  10. アスティン・ヴェルライン

    顔出し遅くなってごめん。シューターのアスティン。よろしく。 これ、シューターも俺一人だね。シーフとかシューターの索敵系が少ないのか。 ペットで狼を連れて行くから移動力を生かしての足止めとか索敵は行けそうかな。 12ぐらいの移動力にはなる。 んー・・・。俺も迎え撃つ方かな。 索敵しながら前に出て、早いうちに敵を発見して潰したい。

  11. アウレーリア・フォン・ネーベルベルク

    ごめんなさい、発言した心算でいたら出来ていませんでした。 キャスターのアウレーリアです。宜しく。 二人一組、了解です。現状特に異論はありません。 それでは、私が拠点対応へ回りましょうか。力仕事が得意な訳ではありませんけど、最後衛で。 手が空いている限りは手伝いますし、万が一接近されてもグラビティなどで足止め出来ます。 ミーナの配置も特に問題ないと思います。 強いて言えば、中衛の範囲では好きに動き回る裁量も明示的に示してあげたいところ。 散らばる以上、綺麗に前線が引けるとも限らない。デバフで頭を抑えるには丁度良いでしょう。 前衛が追いついたら後退してもらえば、敵中孤立も防げるかと思います。 ……まぁ、最近あの子も色々考えているみたいだし。過保護にし過ぎない方が良いのかな、とも。

  12. No.12

    そういえば、弓というものがありましたね・・・。 最近は使っていないのですっかり忘れていました。 一応弓を装備していても使える範囲魔法もいくつか用意しておくつもりですが、増える数がそれほどではなさそうなのと・・・。 それと、パラリムさんが心配されているスキル回数が切れるかもということから、弓での通常攻撃で遠くから射貫くことを考えますね。 移動阻害を付与できるスネアージャベリンも用意しておきます。 えっと、それでは私はクローリカさんと組ませて貰ってもいいでしょうか。

  13. クローリカ

    リディさん、ありがとうございます。 危なくなったらすぐにお守り致しますね。

  14. イズレンディル・パラリム

    皆さんいらっしゃっいましたね、改めまして宜しくお願い致します! >築城支援 ではこちらはサイラスさんとアウレーリアさんですね。 6名が散開して敵を迎撃、2名が最終防衛を兼ねつつ築城支援、で良いバランスだと思います。 可能な限り後逸が無いように致しますが、もしもの際は宜しくお願い致します。 >ミーナさん そうですね、仰る通り散らばる敵に対して臨機応変に対応いただくためにも、ある程度自由に動いて頂いた方が良いと思います。 シンプルに、コルネさんより前に出て突出しないこと、私の弓射程内の範囲で行動すること、を基本にして、その範囲内では自由に遊撃して頂く形で良いかと思います。 >個人 私自身はヒール一枠以外は全て火力上昇と攻撃スキルで、殲滅重視にしますね。 耐久は全て捨てて、火力/射程/移動を両立します。ある程度広い範囲を抑えられると思います。

  15. No.15

    はい了解。とりあえず建設支援、必要ならカバリングとヒール、接近する敵は通常攻撃、炸光矢と貫通射使い分けでやるよ

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0