【竜盤】ヌバッフ潜入調査【獗烙】【夢魅】
広大野人
コメント 14
シナリオID:1626
オープニング
メルトウォールとの戦いの行方は油断できないものの、王国騎士であり軍事顧問であるイェルド・ルリンの目にはドワーフ王国軍有利に映っていた。
いずれは全ての都市を奪還できるはず――絶大な力を持つ邪竜に打ち勝てば……だが。
「まぁ、大物相手は俺の仕事じゃねぇーか」
そんなことを口にしつつ、各地の戦場から送られてくる報告書の束に目を通す。
気になる事は幾つかあるが、あんまり関わっていない戦線については口出しする気にはなれない。
「……ヌバッフか」
その都市の名にイェルドは覚えがあった。
民衆反乱によって死亡した太守の遺児を速やかに救助すべきだと進言したのは、彼自身だったからだ。
「何か、お考えですか?」
そう訊ねたのは冒険者であるエクエスだ。
エクエスは遺児救出に赴いた冒険者の一人でもある。
「なぁに、違和感しかないからな……民衆の反乱とはいえ、戦時に備えた親衛隊や兵士達の守りを突破して、太守が倒されるとは考え難い。何か理由があるはずだ」
「民衆より兵士が弱いというのは、確かにあまり想像できないですね」
「そういう事だ。つまり、民衆反乱は『表向き』であって、裏で糸を引いている連中がいるのではないか……俺はそう考えている」
ヌバッフの統治についてどうなっているのか詳しい話は流れてこない。
厳重に情報統制されているのか、あるいは、特に問題なく経過しているのか……。
「様子を確認する為に、ヌバッフへ潜入という事ですか?」
「あぁ、まずは情報収集だ。現状、都市がどのような状態にあるのかってな……それで、エクエス。お前はなんでそんな服を着ているんだ?」
冒険者に出す依頼の方向性が定まった所で、イェルドがエクエスの服装について訊ねた。
いつものロングパーカーではなく、メイド服のようなものを着ていたからだ。
「ゲンナイさんが、これも似合うかもしれないって」
「お前、そんな理由であっさり着るのか……というか、男だと思っていたが、女だったのか?」
その質問にエクエスは首を傾げた。
「いえ、私に性別はありませんよ?」
「……まぁいい。どうせ潜入する時には、その方が都合が良いだろうからな」
ただ潜入するだけではなく情報を収集しなければならない。
その為には、冒険者と分かる姿はなるべく避けた方が良いだろう。
「しかし、その剣は目立つな……背負ってコートを羽織れば分からないだろうが」
「そうします」
コクコクと頷くエクエス。
今回も冒険者達への依頼にエクエスは同行する予定だ。
現地までの案内、そして帰還時の回収ポイントまでの誘導係なのだ。
●【夢魅】
「……つー訳で、俺が知っている伝承ってのは、そんな感じだ」
絡繰り師のゲンナイが『眠り姫』についてエクエスに話し終わる。
彼はシャルガネのある一族の出身らしく、その一族だけに伝わっている話らしい。
「ずっと眠ったままの人物……そして、行方知れずの宝物……」
シャルガネの民は、遥か昔に海を越えてやってきた者達と言われている。
航海の途中で失われた宝物の在り処をしっている人物は、不思議な事にずっと眠ったまま起きないというのだ。
「『眠り姫』を起こす事ができれば、宝物も手に入れる事ができるなんていう話だZE☆」
「……ゲンナイさん、その話、本当なのですか?」
宝物を手にする事ができるのなら、なぜ誰も『眠り姫』を起こさなかったのか。
そう思うと、話自体が怪しいとしか思えない。
「本当だZE☆ 俺は一度だけ『眠り姫』を見た事あるんだからな」
「それでは、どうして寝たままなのです?」
「起こせる方法が無いってな……いや、なんかあるらしいが、俺もそこまで詳しくないんだ」
結局、現地で聞かないと分からないようだ。
「私が行って、教えてくれるのでしょうか?」
「うーん。そこは俺からの紹介なら話をしてくれるはずだZE☆」
いつもの調子で軽く告げるとゲンナイはよれよれの紙に一筆残す。
そして、彼を証する為の印をポンって押して、エクエスに投げて寄越した。
「俺も一緒に行ければいいんだが、家出した身でさ」
「ありがとうございます。メルトウォールとの戦いが落ち着いたら行ってみたいと思います」
エクエスは受け取った紙を大事に仕舞うのであった。
●【獗烙】
都市ヌバッフの最大の特徴は、他都市と繋がる交通の要衝という事だろう。
戦中にも関わらず、沢山の人々が行き交っている。ほとんどが軍事関係だが、中には逞しい行商人も多い。
「出入りチェックは各門で行われているそうです」
エクエスが集った冒険者達に説明する。
ヌバッフは幾重もの城壁で囲まれている街だ。
防御の為というよりかは移住者が増えるに伴い、外側に壁を造り……を重ねた結果だという。
その為、外側の城壁ほど大きくなっており、都市の中心部に向かうほど、門をくぐらないといけない。
「中心部に近づくほど、チェック体制は厳しくなるようです」
門を通らずに城壁を直接乗り越える方法もあるかもしれないが、城壁の上には見張りがいるのでリスクが高いようだ。
となると、今のエクエスではないが、何かしらの変装しての潜入が妥当だろう。
「今回は情報収集がメインになりますので、破壊工作などは控えていただきたいと思います」
街中で破壊工作を行った結果、情報収集できなくなったでは話にならないからだ。
「一応、集めて欲しい情報の目安をイェルドさんから確認してきましたので……活動の参考にして下さい」
冒険者達に配布された資料にはその旨が記されていた。
『メルトウォールに対する民意』
『ドワーフ王国に対する民意』
『メルトウォールによる軍政の状況』
『駐留しているメルトウォール軍の状況』
『市内の経済活動及び食料品などの状況』
『支配に対する対抗勢力の有無』
『その他、ヌバッフに関する情報』
欲しい情報の目安……という割には、遠慮のない要求数だ。
それだけ、ヌバッフの情報が不足しているという事なのだが……。
思い出したようにエクエスが補足を告げる。
「先の戦いで、組織という存在の活動が確認されました……ヌバッフにも影響しているのかどうか……もし確認できるのなら、調査をお願いします」
こうして、ヌバッフへの潜入作戦が開始されたのであった。
解説
マスターより
リプレイ
旅の吟遊詩人を装ったキリアン・フィッツジェラルドが、暗い路地を通り抜けて古ぼけた小屋へと案内されていた。
「是非とも、ドワーフ王国で俺達の詩を広めてくれ!」
小屋で待っていたのは、地下組織の幹部と名乗る人物だった。
広場や大通りで活動して情報を探っていたキリアンに目を付けたようで、詳しく話をしたいという事で連れて来られたのだ。
冒険者という正体はバレていないらしい。
「創作のネタになりますが、穏やかな話じゃないですね」
「この街に住む者達の名誉の為だ」
ヌバッフはメルトウォールの侵攻の前に降伏している。
それも徹底抗戦を主張した前領主を住民反乱で打ち倒しての……だ。
「住民反乱は民意では無かったと?」
「扇動したのは前領主に反抗的な勢力だ。奴等は反乱の先鋒にもなった」
「そして、反乱は成功したのですね」
地下組織の幹部は深く頷く。
そして、キリアンが知りたい情報は『此処』からだ。
「民衆の反乱や非正規軍の決起を可能とするには兎角、資金と補給が入用でしょう。スポンサーといえる人物に心当たりはあるのですか?」
「あるとすれば、異国からの移住者達だ。詳しく分からないが、豊富な金と物資を持っていた」
つまり、話をまとめると以前から治政に対して反発的な者達が居て、異国からの移住者が支援したという事。
軍事顧問であるイェルドの推測に対する裏付けは取れたといえよう。
「その異国からの移住者の正体は判明しているのでしょうか?」
「他所から来たとしか……」
街の外に出られない以上、情報収集は地下組織では困難だろう。
キリアンは話題を変える事にした。
「それで僕に託したい事とは?」
「俺達はドワーフ王国軍の攻城戦に合わせて一斉蜂起する予定だ」
「つまり、貴方達レジスタンスが存在している事を知らせる為ですね」
「その通りだ! 掲げる旗は無いが……ここに残った連中は、皆、前領主に恩があった者達ばかり。このまま終わらせられない」
地下組織のドワーフ王国に対する民意は高いようだ。
都市ヌバッフがメルトウォールに降伏してからも地下に潜り続けている現状、民衆の中にも理解者が多いのだろう。
「分かりました。必ず伝えます」
キリアンはそう告げると幹部の手を取るのであった。
もっとも、吟遊詩人として……ではなく、冒険者としてだが。
(都市奪還は比較的スムーズかな。城壁内に『味方』が居るのなら……だけど、その可能性をメルトウォールも想定しているはず……)
敵が何か考えている――そう感じずにはいられないキリアンであった。
●
「門を幾つ潜れるかが勝負だな」
ロイ・アウレアは誰にも聞こえないように呟くと荷車を街の奥へと進めた。
商売上手な褐色エルフを装い、貴婦人用の品や高級な薬などを扱う行商を演じる。
「この辺りを取り仕切っている御方にご挨拶と思いまして。郷に入っては郷に……礼儀は守りたいので」
「……品物は本物のようだな……入れっ!」
怪しまれたようだが念入りな準備が役に立ったようだ。
ところが、門を抜けた直後、怒号が響く。
一瞬、正体がバレたかと思ったが、そうでは無かった。
「今、行商と会っている場合じゃねぇ! 誰も通すなっつったろ!」
苛立ちを隠す様子なくちょび髭のヒューマンが門番に注意する。
不機嫌そうな表情のまま、ちょび髭男はロイに近づいてきた。
「すまないが、買う物は無い。帰ってくれ」
「希望の品が有れば『何でも』調達します。ご婦人用の高級品もありますので」
用意していた台詞と動作に、男は困惑しつつもチラリと荷車を確認した。
「……換金率が高い物は全て買い取ろう。ただし、持ち運びし易い物だけだ」
「ならば、宝石や装飾品の類はいかがでしょうか?」
「そうだな……今、用意できる物全部買う! 準備が出来たら呼んでくれ。金を支払う」
それだけ言い残し、商品を見ずに立ち去るちょび髭の男。
険しい顔をした門番がさっさと帰れとジェスチャーしているので、ロイは荷車をそのままに従った。
「そんな訳で準備が出来たらまた来るよ」
「なるべく早くしろよ……」
ひそひそ声で門番は続ける。
「……ここだけの話、ドワーフ王国軍の侵攻が近い。反乱を主導した連中は、今日明日にも皆、脱出する予定なのだ」
「街を捨てて逃げると?」
「残っていたら命は無いからな」
門番は両肩を竦めた。
通りで持ち運びが容易な宝石や装飾品のみを注文した訳だ。
宝石や装飾品の価値はあまり変わる事がない上に換金も容易い。ヌバッフが陥落する前に高飛びするつもりなのだろう。
同時にドワーフ王国軍の情報が筒抜けであり、ヌバッフには情報統制が敷かれている事も分かった。
(残念な事はこの情報がドワーフ王国軍に届く前に彼らが逃げ出す事だ)
身なりや雰囲気から民衆反乱を先導した者の可能性があるし、門番の話からもそれが窺い知れる。それにしても、領主を殺して奪った街をドワーフ王国軍に攻められるから、今度は捨てるというのは身勝手にも程がある。
持ち逃げする金や物資は、元々、ヌバッフに住まう人々に使われるべきはずなのに……。
少なくとも、ロイがここで得た情報は無駄では無いはずだ。
さっきの髭男の顔は覚えたから、戻ったら忘れる前に人相を描こうと思うのであった。
●
バーネット・フォーサイスはメルトウォールの新入りを装って街へ潜入した。
社会から追い出されたハーフリングという設定は、特に違和感が無かったらしい。良い事なのか悪い事なのか、複雑な気分ではあるが。
(さてと……色々工作活動はしてきたが、今度は情報収集か)
開戦時におけるメルトウォールの快進撃が可能だった理由。
その一因が、ここヌバッフにあるとバーネットは感じていた。
前線が前進する程、補給線は伸びるもの。ヌバッフにその鍵があるかもしれない。
「なぁ、ちっと聞いても良いか? まだこっちに来て日が浅いもんでな」
変装を兼ねて逆毛に立たせた髪を確かめながら、バーネットは現場指揮官らしき人物に声を掛ける。
「なんだ、お前どっから来た?」
「ハレウドからだ」
ある意味、間違いではない。
現場指揮官は敗残兵を見るような視線をバーネットに向けた。
戦線が各地で崩壊している事を恐らく知っているのだろう。知った上で末端には正確には伝えていないのだ。
「状況は好ましくない。ドワーフ王国軍が何時でも攻めて来るだろうからな」
「それにしても、街中は混乱していないようだが?」
籠城戦となればその準備で大騒ぎになっていても不思議ではない。
「あぁ……知らんのか。主力は引き上げているからな。ここで戦う理由が無ければ、マミダに行って本隊と合流しろ」
驚くべき話だ……この現場指揮官が嘘を言っていなければ。
けれど、説得力はある。街の中に張りつめる殺気のようなものが、戦争中というのに感じないのだ。
「それじゃ、この街に駐留している部隊は少ないと?」
「レジスタンスが居るらしいから最低限の治安維持は必要という事だ。それに、反乱を支えた移住者達は留まっているからな」
この現場指揮官はその為に残っているのだろう。恐らくは、反乱を支えたという移住者達が補給線を維持していた『要因』の一つかもしれない。
バーネットは強がるように言った。
「奴等と戦えばいいのに。まだ余力はあるはずでは?」
「引き上げた主力がどこに行ったかは俺も知らん。上が考える事だしな」
「ふーん」
口を尖らせながらバーネットは返した。
本隊が控えているマミダへ通じるテンゼンは既にドワーフ王国が奪還している。
だから、組織的に移動する事は困難なのだろう……だとすれば、ミッシュかヘルドロイに撤退したのだろうか。
敵戦力の一部の所在が分からないという情報だけでも、あの軍事顧問にとっては必要な情報だろう。
「とりあえず兵舎に行って来い。場所を伝える」
「分かったよ。でも、まぁ、マミダに行こうかな」
冒険者としてね……と心の中で付け加えてから、バーネットは兵舎の場所が記されたメモを受け取るのであった。
●
「たまに失敗するんで、上手く行ったら褒めてやってねー」
海神・江流が刃物をぐるぐると手の上で投げ回しながら観衆に向かって言った。
失敗したらとんでもない事になるが、そこは見事にやり切る辺り、江流は流石だろう。
拍手が広場に響き、それに微笑を浮かべて応える。
「もういい年なんだよ。三十路過ぎで、これで飯食ってるからね」
そう言ってから短刀を咥えての宙転の連続。
仕掛け台の上をギリギリで跳ね上がっていく。失敗すれば唇が耳まで裂けるのは間違いない。
大きくなっていく歓声の中、クライマックスとばかりに短刀を空高く投げて自身は地面にダイブ。
寝転がった所、回転しながら落ちてきた短刀が首の真横に突き刺さった。
何事もなく立ち上がると江流は深く一礼。
次々に投げ銭用の鍋に放り込まれて金属音が響いた。
「この辺は兵隊さんが多いのかな? やっぱり戦が近い内にありそうなのかい?」
路上パフォーマンスを終えて鍋の中身を確認しつつ住民にそう声を掛けた。
「戦いが近いって噂は聞くけどね。メルトウォール軍はそういや最近、姿が減ったねぇ」
「確かに兵隊さんの姿をあまり見ないね」
「街の奥に行けば、いっぱいいるかもよ」
江流は門を3回程通過したが、流石に4門目は通れなかった。
大道芸を楽しむ観衆はこの先居ないと言われてしまえば仕方ない。
「メルトウォールは怖くないのかい?」
そんな質問に住民達は笑って答える。
「悪さするような不届きな亜人もいたけど、この街じゃ、厳しく管理されてたしね。私らから見れば、前領主とさほど変わらないよ」
どうやら、メルトウォールの軍政は特段の問題点がある訳ではないようだ。
これには住民反乱でメルトウォールに『降伏』した経緯があるからだろう。
徹底抗戦をしたのなら兎も角、『降伏』して来た相手を蹂躙してしまったら以後、『降伏』という選択を選ぶ者が居なくなるからだ。
その時、住民の一人が思い出したように仕事に戻ろうとしていた。
押し車には沢山の生鮮食品が満載されているようだ。
「やっべ。卸しの途中だったんだよ。兵隊の姿は見えないけど、食料品の注文はあまり変わらないからね。まぁ、腹が減っては戦ができぬとはよく言ったもんだよ」
「姿が見えないけど、食料品の注文は変わらない……?」
「だからきっと、兵隊は街の最奥に詰めているのさ」
手を振りながら押し車を押して、その住民は人込みの中に消えていった。
(籠城戦するなら普通、外に一番近い城壁に詰めるはず……)
メルトウォールが戦下手とは思えない。きっと何か訳があるのだろう。
兵舎に行けば何か分かるかもしれない――が、この後、江流が行った兵舎には猫一匹すらいないのであった。
●
行商人として街に潜入したハヤト=ガラン=ヴォルファングは仲間が集めた情報を確認して、一つの兵舎に向かっていた。
ハヤトは青肌のゴブリンの姿に変装しているので、万が一、ピストスやフランセスに遭遇しても誤魔化せるかもしれない。
(軍政に問題はないが、駐留しているメルトウォール軍は額面より少ない……)
統治が上手く行っているのにドワーフ王国軍の侵攻に対して籠城の準備も無い。
これでは容易に攻め落として下さいと言っているようなものだ。
(江流の調べだと、糧秣の消費は変わらないのなら……何かあるはずだ)
嗜好品を卸す行商として軍関係者や商人を当たったが、詳しい話は仲間が得た以上の情報は出て来なかった。
判明しているのはドワーフ王国軍が迫っている事を知らされているのは一部という事。
既に反乱の首謀者達の一部は脱出しているという事。
(元々、ヌバッフに固執していなかったって事か!)
異国からやって来た移住者とフランセスの関係はまだ不明だが、その可能性が高いかもしれない。
もし、この街でなければならない事があるのなら、容易に手放したりしないはずだ。
そんな事を考えつつ、ハヤトは兵舎の一つに辿り着いた。
周囲の見張りを確認して音も無く忍び込む。
確かに人の気配は無い……どころか生活感というものすらない。ハヤトは炊事場と思われる場所へ移動した。
「……それにしてもいつまで続けるんかな、弁当作り」
「仕方ねぇよ。まぁ、その内、静かになるだろうよ」
作業している者達の声が聞こえてきて、壁にぴったりと張り付いて盗み聞く。
「つーかよ、街の外に隠れている部隊は兎も角、街中に潜伏している連中の分までいらなくねぇ?」
「それはそうだよなー。自分達で調達しろって話だし。つか、ドワーフ王国軍が攻めて来たら逃げて良いんだよな?」
「そんな手筈だが……本当に上手くいくんかね。一応、反乱の時の凄さは見ているから信用はするけどさ」
どうやら引き上げた主力部隊は街の外に潜伏しているようだ。
それとは別に街中に潜伏している連中も居るという。
(……考えられるのは街を奪還させた後、虚を突いての逆襲か?)
戦術としては悪くはない。
ドワーフ王国軍は街を奪還する事ができたら安心するだろうし隊列も乱れるはずだ。そこを突けば大きな損害を与える事ができるだろう。
だが、戦略的に見るならば『無意味』だ。大勢が決した後の無謀な攻撃に過ぎない。その事を蜥蜴人が分からない訳が無いのだ。
(誘われてるって事か……クソッ! 証拠がねぇとドワーフの連中を止められねぇ!)
こればかりは今回の調査では確信を得られない。フォローをイェルドに頼むしかないだろう。
その時、巡回している見張り兵の足音が聞こえ、ハヤトは見つかる前に脱出するのであった。
●
ミア=リゼルは困った事になっていた。
弁当屋さんの移動販売を手伝おうとしたら、どういう訳か移動自体を手伝わされているからだ。
押し車には沢山のお弁当と、ホワイトソースを塗ったパンにチーズとハムと菜っ葉を挟み(割愛)造ったミア特製サンドイッチが所狭しと積まれている。
(ジードさんは『メルトウォールは自身の望む世界に不要』と仰っていましたが……)
だけど『神実の力』を供与しているようでもあった以上、字面通りに受け取るわけにもいかない。
ただ、投石器試作に寄付していた可能性もあり、そうなると両陣営を支援していた事になる。
(ゴッルも引き取っていったようですし。この地に何か痕跡を残してくれていると良いのですが……)
何かしら組織の情報を持ち帰ることができれば、王国騎士の助けになるはずだ。そうすれば、彼はもっと頼ってくれるかもしれない……などと思い描いている内に、目的地に到着した。
「注文されていたお弁当を持ってきました」
人が住んでいるとは思えない古ぼけた屋敷の戸を叩くと中から強面のヒューマンが姿を現した。
「おせぇよ! 入れ!」
「失礼、します……」
押車を屋敷の中に入れると、もう見るからに怖そうな面をした連中が、次から次へと姿を現す。
「なんだ、ガキかよ。たまには女でも寄越せっつの!」
「お前、どっちでも良いとか言ってただろう」
「うっせぇぇ!」
騒がしい輩共に恐縮しているように見せかけながら、ミアは弁当を降ろしていく。
とりあえず、少年に変装したのはグッジョブだったようだ……どっちでも? と疑問が湧いたがすぐにその思考を彼方へ弾き飛ばした。
「沢山、ありますから。あ、このサンドイッチはサービスです」
「ほぉ! そりゃ、ありがてぇ!」
乱雑に掴むと次々に口へ運ぶ。
「あの……皆さん達は?」
正体を探る為、弱々しい演技を交えて訊ねるミア。
「俺達はこの街を正しく導く救世主だ! 神実の恩恵を受けた、な! ガハハハッ!」
「前の領主だって俺らが倒したんだぞ! ドワーフ王国軍だって相手じゃねぇ!」
そう答えた男達が小瓶のような物を掲げた。
液体が中に入っている何の変哲もないただの瓶だ。
「それは凄いですね!」
とんでもない物を見つけてしまったかもしれないと思いながらミアは連中を褒めると、仕事が終わったとばかりに押車を牽いて屋敷から出た。
(間違いなく『神実の力』ですよね……)
小瓶には見覚えがあった。とある海賊のアジトで見た物と一緒だったからだ。
これで反乱が上手くいったのは『神実の力』によるものと説明ができる。時期的には実験を繰り返していた頃になるだろうか。
(ヌバッフの街で『神実の力』の実験。それとは別にドワーフ王国軍での新型投石器開発……いずれも授恵者でない一般人が使えるもの……)
バラバラだった点が繋がっていく気がした。まだ不足しているものがあるけれど、残りの情報は仲間に託すしかないだろう。
●
クレア・エクレールが案内された窓の無い部屋には、肩のラインで切り揃えた髪が美しい、女性が待っていた。
「フランセスよ」
知的な雰囲気を発しながら女性はクレアに名乗った。
メルトウォール軍に入りたいという希望を告げた所、幾つかの門を抜けて連れて来られたのだ。
志望動機や質問事項が記された書類をテーブルに置くフランセス。
「クレアさんと言うのね。事前に聞き取った話を読ませて貰ったわ」
「ボクは半獣として酷い目に遭ってきたから、今の世界を壊したい」
嘘と真実が入り交じった感情を緊張と言う形で演技しつつ、もっともな言葉を口にする。
それは簡単には見抜けないだろう。違和感があったとしても懐疑心には繋がらない。
「そう……残念と思うわ」
「残念?」
意味が分からず首を傾げるクレア。
返した台詞に頷きながら、フランセスは静かに足音を立てて近づいてきた。
「メルトウォールは負けるわ。想いに心中したいというのなら止めないけど」
そう前置きしてからフランセスはヌバッフにおけるメルトウォール軍の展開状況を説明した。
既に精鋭部隊は街から撤収済みで、戦力を温存しているという。
「……街中に残っている戦力は見かけだけ。攻められたらすぐにでも陥落するわ」
「フランセスさんは心中するかな?」
「そのつもりよ。もっとも、私の場合『理由は違う』けれど」
質問に答えるとフランセスは謎の液体が入った小瓶をクレアに渡した。
「貴女の想いが本当ならば、今すぐこれを飲んでみなさい」
覚悟を試されているのだろう。正体はバレていないはずなので、毒では無いだろうが……。
しかし、迷っている時間も無い。志望動機から疑われて警戒されてしまっては、フランセスから情報を引き出す事が難しくなる。
――意を決し、クレアは小瓶の中身を呷った。
それは今まで飲んだ事の無い、仄かな甘味を感じる不思議な飲み物だった。
「……」
身体に変わった様子は見られない。
けれど、フランセスにとってはそれで十分過ぎる意味を持っていた。
「あら、授恵者という申し出は本当だったのね。疑って悪かったわ」
顔には出さなかったようだが別の事でフランセスはクレアを疑っていたようだ。
「今のは?」
「授恵者ならざる者が、神実になる為の奉献物よ。けれど、貴方には必要無いようね」
謎めいた言葉を告げてからフランセスは何かメモのような物をクレアに渡す。
「メルトウォールと心中したいのなら残りなさい。けれど、世界を壊したいという想いに殉じたいのなら、リーンエス王国のルエファナータ子爵を訊ねると良いわ。私の名前を告げれば導いてくれるはずよ」
手渡されたメモにはフランセスの直筆でこう記されていた。
『ジード・ランスウッドに捧ぐ』と――。
●
給仕の日雇いを見つけ、エミリア・シバはそれなりに賑わう酒場で忙しく働いていた。
それは同時に物資が豊富にある事を意味している。
(エクエスちゃんが可愛い服着てたから……と思ったけど結構忙しいわね)
ドワーフ王国軍が攻めて来るという噂があり、街全体が慌ただしいのだと店主は説明していた。
当然、ただ仕事に追われているだけのエミリアでは無い。
仕入れの業者や客から、情報を集めているからだ。また、仲間達がそれぞれ集めた情報も共有している。
現状、得られた全ての情報から推測できる事は――
(組織が、ここにも関わってるのね……メルトウォールとの協力関係?)
フランセスという女性を通じてメルトウォールを支援しているようだ。
どこからか提供された大量の物資と資金が、開戦当初の攻勢を支えたのは想像に難くない。
一方で組織の幹部と思われるルエファナータ子爵経由でドワーフ王国への軍費が寄付されていた可能性もある。
(今までの関係からすると……ジードは『メドゥの指先』だったりするのかしら?)
双方の陣営に支援する見返りを得ているのかもしれない。
恐らく、それこそ組織がこの地で活動していた『理由』になるはずだ。メルトウォールもドワーフ王国も、ジードにとっては目的達成の為の『盤上の駒』に過ぎないのだろう。
疑念を残しつつ証拠も無いので考えるのを止め、エミリアは仕事へと戻る。
「お待たせしました~。沼魚蛙の唐揚げです」
「姉ちゃん、見かけない顔だな」
注文の品を色っぽい動作を加えて届けると、酔っ払いが声を掛けてきた。
ドワーフではなく職人風のヒューマンだった。
「最近、この街に来たのよ」
「なら知らんだろ~。今、この街は緩すぎて、よ! まぁ、それも自由で良いんだけど」
酔っ払いの話によると前領主は法に厳しく融通が利かない時もあったらしい。
「それで、貴方はどっちが好みなの?」
「どっちもな~。まぁ、前領主の体制に戻るのを恐れている連中もいるんじゃねぇ。特に最近、やって来た連中は」
「興味深い話ね。もっと、聴かせてよ~」
スッと隣に座って肩を寄せる。
上機嫌の酔っ払いは得意気に言った。
「メルトウォールに降伏する以前に異国からやって来た移住グループがいたんだが、そいつ等、前領主と敵対的だったんだ」
「……その異国ってリーンエス王国だったりする?」
その台詞に酔っ払いが驚く。
「よく分かったな! 奴等が片田舎の街にやって来てから景気も物資も急に良くなってさ!」
「良い事ばかりじゃない」
「それが、連中は異国の罪人ばかりって話で! なんだっけかな……『承允』だとか新天地だとか、よく分からねぇけど」
酔っ払いの話は、事情を知らない人からすれば、何ら意味が通じない事だっただろう。
だが、ある事件を追い駆けていたエミリアは確信できた……組織がヌバッフに関わっていた事を。
マスターコメント
ミドルシナリオ普通 報酬:多い8 / 6〜8人
2021年11月22日 08時37分43秒 公開
相談掲示板
お早うございます。シューターのキリアン・フィッツジェラルドと申します。 ●内容 冒険者である事を隠してヌバッフに潜入し、情報を得る事になります。 変装内容に制限はありませんが、情報収集の際に影響しますので、お気をつけ下さい。 (例:武芸者に扮する場合、鍛冶屋などへの聞き込みは容易いかもしれませんが、軍関係の聞き込みは怪しまれる可能性が高いです) 『チェック判定』 ヌバッフの街は5つの城壁で囲まれています。 中央に近づくほど、より高濃度の情報を得られる可能性がありますが、門をくぐる際のチェックは厳しくなります。 門を通過する際のチェックは一般判定を用います。 『情報収集判定』 調査や聞き取りなどに関しては、『チェック判定』とは別に判定を行います。 ヌバッフの街はドワーフだけではなく多数のヒューマンも存在します。 これは、交通の要衝で多くの人々が行き交っていた為です。 街を構成する様々な商店や工房などが存在しますので、一般的な街にあるものは大体揃っている事とします。 いずれの判定も変装内容やスキル、プレイングなどが判定に影響します。 ……との事ですから、僕は猟師か楽士に扮しようかと思ってます。 後者は演奏Lv3ですので。 あと、モブパワーに加えて看破+ホークアイも持ってます! それから、ペットの連れ込みですがイノシシやゴリラといった戦闘力のある個体ならさておき、栗鼠みたいに壁歩きや分身作成くらいが取り柄のなら大丈夫なんでしょうかね?
ヒーラーのミア=リゼルです。よろしくお願いしますね。 ふんふんなるほど…… 私は「お弁当売り」に変装してできるだけ内部に行く予定です。食材を買い集める段階で『市内の経済活動及び食料品などの状況』、それから売る段階で市庁舎やそれに準ずるところで内政事情をさぐれたらな、と。 ペットについては、MSの裁量によるところなのでしょうが、シューターがよく用いる栗鼠などの存在は警戒されることがありました。とはいえ、そこにいて不自然ではない存在であれば大丈夫かと思います。
シーフのクレアだよー、よろしくね! うーん、求められている情報の中でとり辛いのが「駐留しているメルトウォール軍の状況」だよねぇ。 変装と演技あげれば参入したばかりの下っ端、ないし参入希望者装って内情窺えるかなぁ。 緘口令が敷かれていたり、相互監視体制になっていたりすることも考えると『メルトウォールに対する民意』『ドワーフ王国に対する民意』あたりは酒場や歓楽街あたりで口が軽くなった人あたりに聞きこむと良いのかなぁとか考えたり。 今の所どちらかで考えてるよー。
シューターのロイ・アウレアです。ヨロシク。 商人として聞き込みをしようと思う。 市場調査の建前で 『メルトウォールに対する民意』『ドワーフ王国に対する民意』 『市内の経済活動及び食料品などの状況』の辺りは行けそうだ 軍関係や対抗勢力にも、薬を卸すとか武器の斡旋の建前で回れそうなので 皆さんの回る範囲と被らないように、目的を絞るようにするね。
キャスターのバーネット・フォーサイスだ。 まぁ、よろしく頼むわ。 さて、メルトウォールの新入りを装おうと思ってはいるが、 フランセスとは以前バチバチにやりあっちまってるから、変装を見抜かれるリスクを考えると、 上層部への接触はなるべく避けて、ある程度以下の構成員から、 『メルトウォールによる軍政の状況』『駐留しているメルトウォール軍の状況』 『支配に対する対抗勢力の有無』辺りを探ってみるつもりだ。 あと、ヌバッフ内で合流とか情報共有する場合も考えて、 集合場所とか、メモを残す場所とかも見繕った方が良いな。
シーフのエミリアよ。 いつも通りなら、踊り子とか、その手の店の女って感じで歓楽街系からの情報収集をするのだけれど。 こっちとは違うシリーズだけれど、組織相手にはいつもいつも同じことしてるから今回も同じでいいかはちょっと考え中ね。まあ、大丈夫とは思うのだけれど。 フランセスとは直接的にはやりあってないけれど、依頼でニアミスか顔ぐらいは会わせちゃってるかもしれないなので、直接会いに行く気はしないわね。
よーし、じゃあボクは向こうに顔割れてないの活かしてメルトウォールの新入り装って「駐留しているメルトウォール軍の状況」とか「軍政の状況」調べよっと! 上層部への接触はチャンスがあればだけど、藪蛇にならないようにしたいところー。
シーフの海神江流だよ。出遅れすまんね。 いろいろ考えたんだけど、年末、故郷で過ごすために帰ってきたシャルガネ人の体でいこうかな。 俺は今回初顔なんで、そのへんの心配はなさそうだけど。 『メルトウォールによる軍政の状況』 『駐留しているメルトウォール軍の状況』 あたりを気にして動いてみようかな。 シャルガネの方に飛び火してくる話なのかってトコ、設定的には気になるだろうしね。 スキルはモブパワーと話術あたりで固めていこうかなって考えてるとこ。
おーっす! ブレイブファング傭兵団のハヤト=ヴォルファングだ、よろしくな!! さて、既にヌバッフ奪還しちまったが… こりゃ時系列的には奪還前に行った任務って認識で進めりゃいいんかな?
気が付けば、21日の朝8時の出発まであとわずかに…… それと別件で看破Lv4で出なければならない事がありましたので、演奏と看破とホークアイで動くつもりです。 僕からは『支配に対する対抗勢力の有無』、『その他、ヌバッフに関する情報』のほかに 対抗勢力の類が居れば『ドワーフ王国に対する民意』の聞き出しを狙ってみたいと思います。 栗鼠でさえも警戒される程の厳重な警戒網……リゼルさん、貴重な情報有難う御座います。
はっ…ばたばたしててぎりぎりになってしまいました…! >バーネットさん 情報共有のための集合場所の件、了解です。大抵の都市と同様ということですので、いい感じに「指定の集合場所で情報共有」と書いておきますね。 >ハヤトさん 奪還成功時はそのように処理、ということですから、その認識で間違いないと思います! >キリアンさん いえ、お役に立てたのなら幸いです。頑張りましょう……!
結局だいぶ悩んだのだけれど、今回はちょっと色町系よりは酒場での給仕役とかで雇ってもらえないかとかやってみるわ 完全にそっち向けのお店だと聞き込みの数がすくなうなりそうだし >バーネットちゃん 集合場所とか連絡はそれで大丈夫だと思うわ。
>情報共有 一応、こんな感じで俺のプレに盛り込んである。 宿屋や空き家等で目立たずに集まれる場所を見繕い、情報共有や緊急時の合流先として使用。 また情報共有も直接会う以外にメモを残す等も行い、一度に集合して目立つ事を避ける。
情報共有の件、今の時間だが確認できたので、こっちのプレにも入れておくわ。 現地では宜しく頼むな。