【帝国】夜営 - 一夜の守り人 -
京乃ゆらさ
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シナリオID:1455
オープニング
ぱちぱちとどこか心地良い音楽に身を委ねて夜を楽しむのは、夜営する者だけが享受できるささやかな娯楽だ。
ただじっと焚火を見つめる者。人と酒を酌み交わす者。独りで糧食を味わう者。それぞれが好きに火を囲み、一晩を過ごす。それはある種、日常から隔絶された秘密の空間とも言える。
白髪の老戦士――サブル・イラーダ・エル・ハマールがのそりと腕を伸ばして枝を取り、薪を崩して火を調整すると、最後に枝を中に放って元の姿勢に戻った。
誰よりも火に近い位置に胡坐をかいて陣取る老戦士は火の番人のよう。夜営において焚火とは生命線のようなものであるだけに、その姿は心強くもあるが、これほどに断固として火を守る態度を示すとなかなか注目を集める。
老戦士の方もそれを解っているようで、この晩、この野営地に居合わせた冒険者を相手にぽつりぽつりと語り始めた。
「俺ァ暗闇が苦手でな。火が消えちまったらポンコツになっちまうのさ。ほら、いるだろ? 眠る時も真っ暗闇じゃあ不安で眠れねえってえ奴。俺もそんなもんだ」
老戦士が頬を上げてにやりと笑う。
顔にはいくつもの古傷が走り、ただでさえ凶悪に見えるのだが、焚火に照らされ影が揺らめくせいでさらにその度合いが増している。
「何かあったのか」
冒険者の1人が問えば、老戦士はゆったりとした貫頭衣のような民族衣装の懐から取り出した革袋に口をつけ、一口だけ飲んでからため息交じりに返した。
「よくある話さ。こんなことをやってりゃあ、誰もが経験するようなことだ」
手元に置いていた曲刀を叩き、老戦士は肩を竦める。
夜襲か何かで酷い損害を被ったのだろう。そりゃ災難だったなと冒険者が言うと、老戦士は「お前らも火を大事にしろよ」と鋭い双眸で睨めつけたのち、一転しておどけるように笑った。
「じゃねえと今晩、俺がちびっちまうからな」
●ヴィント北東、クリーパー討伐依頼
帝国南部鎮守都市ヴィントを奪還せりと喜んだのも束の間、北から異形の這者が現れるようになった。早期に偵察したり遭遇したりした者によれば身体に枝葉が生えているような這者が多いらしく、なかなか嫌な予感を覚えさせてくれるものであった。
これが肉の触手がくっついている、などという話だったならばむしろ安心したかもしれないが、よりによって枝葉。言うまでもなく幽界樹との関連を想起させられ、多くの調査あるいは討伐が行われることになった。
この日この晩、愉快な褐色肌の老戦士と夜営を共にすることになった冒険者たちもまた、南下してくる枝葉付きの討伐依頼を請け負った者たちであった……。
ヴィントを出発した彼らは日中、何度かの戦闘をこなして20体ほどの敵を屠っていた。幸いこちらの損耗は少なく、武技・魔法もまたそれなりに温存した状態で本日の野営地にまで辿り着けた。
一行がそこに到着した時には既にいくつかの天幕が並んでおり、中心には薪が組まれていた。
ヴィント北東、小川にほど近く、周囲と比べて僅かに窪んだ平地のため、遠目からは視認しづらい。加えて焚火の明かりを少しでも隠せるよう薪の回りに石が組まれている。
これなら夜は楽ができそうだ。もちろん警戒も必要だが。
冒険者たちが各自夜営の準備を整えた頃には薪に火が点けられ、早くもその傍に老戦士が陣取っていた。
夜の帳が下り、欠けた月が黒い空に白い亀裂を刻む。満天の星空――ではないが、星々が瞬く夜空は夜営する身としてありがたい。
件の老戦士が火について語り出したのは、そうして野営地に集った10に満たぬ人々が各自それぞれ晩飯を口にした頃だ。
老戦士は己の名を告げると、「ハマール族の戦士だ」と胸を張った。
「ハマール族?」
「……ま、どこぞの砂漠の民よ」
「バルバロイ?」
「いいや、砂漠に生きているだけさ。外と交易しねえとうちは立ちゆかねえ」
老戦士――ハマール族のサブル・イラーダは自嘲するが、その鍛え抜かれた肉体は歴戦の戦士のにおいを感じさせる。
……もっとも、火が消えればちびっちまうなどと告白された今となってはこの老戦士を警戒すべきか否か微妙なところだが。
「何でこんな所に?」
「カネさ。ちいとばかり入り用でな」
聞いた冒険者が納得する。
砂漠の老戦士サブル・イラーダはこの野営地で好き好きに過ごしている冒険者たちを見回すと、ぼんやりと誰ともなく眺めながら問うた。
「お前らも枝葉付きか?」
首肯する冒険者に重ねて訊く。
「どんな奴だった? ……こっちは色んな獣型に憑いてるのだった。でけえ鼠、トカゲ、鳥。馬みてえのもいた」
「こちらは目玉が多かった。1m大の目が顔の大半を占め、そこから触手のような枝葉が生えている姿だ」
目から放たれるエーテルと縦横無尽に蠢く触手の連携が面倒だった、と冒険者が眉根を寄せる。
そうしてしばらく情報交換をした後、老戦士は大きく息を吐き、真面目な時間は終わりだとばかりにわざとらしく下卑た笑い声を上げた。
「不寝番は適当に決めておくんだな。俺ァここでウトウトしてるからよ、お前らも勝手に回してくれ。ま、仲良くやろう。……火を絶やさねえ限りな」
にやりと顔を歪める姿は歴戦らしい余裕を感じさせる。
それだけに火を絶やせばどうなるものか地味に気になりはしたが、ともかくとして冒険者たちもまた各々の時間を過ごし始めた。
――夜営。
それは、その場にいる者だけが共有できる一夜の秘密基地であった。
解説
マスターより
リプレイ
ストレガ・L・リベルガストラは沢から汲んだ水で鍋を洗いながら焚火の傍に陣取る老戦士を見やり、小さく頷いた。
夜は獣の時間で、火がなければ人は何も視えぬ。故に火を守るのは至極当然で、夜の恐怖を忘れてはならんのだ。
人が生きる為に。
そして――美味い飯の為に!
「腹が減っては何とやら、とはシャルガネの言葉でしたか?」
イヴェール・イリュジオンは持ち込んだ干物を串に刺し、炙る程度の距離に置いた。魚、貝、謎の軟体。イヴェールには姿の想像できぬ物を焼くのはやや緊張するが、それもまた良し。
せっせと干物を焼くイヴェールの表情は穏やかで、焚火に照らされた彼女は闇に浮かぶ銀月のよう。もっとも、干物の旨そうな臭いを纏った彼女を今、精霊などとは喩えづらいが。
「良い言葉だよねー。ご飯は大事だよ! あ、ご飯と言えば皆四食目食べるよね? ボクもいっぱい用意してるんだー」
夜食を四食目と宣うアルマ・ヴァレンタインが網に並べるのは同じく海産物の干物。ただし朝から酒に漬けて戻したものだ。ほろりと崩れそうな身がてらてらと輝き始め、じゅうと強烈な香りを飛ばしてくる。
イヴェールとアルマが持ち込んだ干物は20人前にも及ぶ。加えてストレガも自家製干肉とチーズを用意しているのだから多すぎる――と思う者なぞここにはいない。
食魔人がいるからだ。
「薪足りるかな……」
そんな彼女らの勢いに、海神・江流は堪え切れぬとばかり薄く笑う。だが江流は薪を心配しても止めはしない。己が後で哨戒ついでに枝を探せばいいだけだ。
そんな事より、と江流は思う。そんな些末事より、彼女らの勢いこそが必要になる事もあるのだと。
楽しげに干物を炙る知人に目を向けるのはゲルダ・クラインとエヴァン・ピオネロ。けれどその瞳に宿るものは正反対であった。
「アルマ、少しずつ焼きましょうね」
「お、流石エヴァくん解ってるね! 至高の瞬間を見極めて食べるなら少しずつだよ!」
違う、そうじゃない。
肩越しに振り返った恋人の満面の笑みは、冬に打ち克つ春の如く暖かい。
エヴァンが仕方ないなと微笑み、一方何するでもなくぼんやり聞いていたゲルダもまた2人のやり取りにじんわりと心が溶けるのを自覚した。
あれから意識的に閉ざしてきたものが緩む――緩んで、しまうのを。
「……む。イヴェール殿、そろそろ食べ頃なのだ。食は万世共通の幸福、共に食べ、共に喜ぶのだ」
『ストレガ』の名を継ぐ者が賢者らしく助言すると、焚火を囲む者達から歓声が上がった。串を取ったイヴェールは小魚から目を逸らさずそわそわと待っている。
(……心配、かけちゃってるな)
その知人の思いをゲルダは正しく受け取ると、微苦笑して焚火に寄った。
「イヴェール様、お味はいかがですか? わたしも少しお腹が空きました」
●叡智を求むる
老戦士を含めた7人が焚火を囲み、夜のツマミに舌鼓を打つ。
夕餉と夜食は別物である。晩飯の後、小腹が空いた時にちょいと摘む乾物が何故これ程に旨いのか。それは探求すべき論題の1つであろうとストレガは思う。
干物提供者に感謝しながら各々のペースで食べ、適度に駄弁る。その光景は幸福以外の何物でもなく、ストレガはチーズを炙りつつ、にんまりと顔を綻ばせた。
「定番だがご賞味あれ」
ストレガの出す干肉をアルマが受け取り、矯めつ眇めつ見定める。そして匂いを嗅いで口に放り込むと、同志の変らぬ姿に安心するが如く頷いた。
「丁寧な仕事だね。猪かな?」
「正解なのだ。ゴールディに戻れば鰐や這者の干肉もあるのだ」
視線を交して不敵に笑う。
食を追求する者としてアルマとはよく出くわす。彼女の探求心には共感を覚える事もあるし、料理を残さぬ姿勢も好ましい。
ストレガは干肉を齧り、塩気を味わってから嚥下する。次にとろりと溶け出すチーズを口に入れ、瞑目して鼻腔へ抜ける香りに集中した。
「……ふぅ……旨い」
「ぼ、ぼくも貰っていいですか!」
「当然なのだ」
わぁい、とエヴァンが網で炙られるチーズを取る。
ツマミを食らい、誰かがぽつりと喋る以外は雑音のない空間。快い時間に身を委ね、ストレガは気の向くままに言葉を紡ぐ。
「食とは万世共通の幸福。そう思うだろう、アルマ殿」
「うん」
何の疑いもなく頷く彼女にストレガは笑う。
「『ストレガ』の本懐はより多くの同胞が生き残る為に叡智を蓄え、伝える事。そして生き残るとは、食べる事なのだ。故に私はあらゆる食を見たい。知りたい。食べたい。食らい尽して遺したい」
いずれ己が朽ちた後も、この研鑽は次代に継がれる。
己が『ストレガ』の1つとなる時、果たして満足しているだろうか。少し考え、否とストレガは思う。世界はまだまだこれからなのだ。今この時もどこかで新たな食が生まれている。それをずっと追い続けていたい。
「……」
ぱちぱちと薪が爆ぜ、老戦士の腕が動く。ストレガは後ろに両手をついて夜空を仰ぎ、長く息を漏らした。
「語るに良い夜なのだ。順に何でも話すといい。……その地の食についても忘れずに」
ゲルダが南海を語り、江流がシャルガネ料理を話す。イヴェールは我が家の料理を説明し、エヴァンは大森林の恵みを思い返した。
エヴァンの足の間に潜り込み、彼の懐に収まったアルマはスルメをむぐむぐしながら、
「え? ボクのゲテモノ食遍歴とか誰か聞きたいー?」
「参考までに」
「うーん。えっと、毒があっても美味しい物ってあるよね?」
「?」
「そういう時は飲み込まないんだよね。味わうだけ味わってぺってすれば、多分死にはしないよね?」
「!?」
「ボクそれを活かしてナマ……」
「っ、ハマールさん、砂漠の食事で何かありますか?」
何らかの危機を感じてイヴェールが老戦士に話を振ると、アルマは「だから言ったのにー」と口を尖らせる。エヴァンが胸元に収まる彼女の頭を撫でれば、アルマはぐりぐりと頭を押し付けた。
老戦士がしわがれた声で、
「そうだな、仙人掌が食えるのは常識だが、岩……」
「!?」
振る相手を間違えた。話の入りからして不穏な気配に、イヴェールはそっと目を逸らした。
●睡狼の友
ひとしきり食い、喋ると、一行は深夜に備えて順に仮眠する事となった。浅い時間は江流が哨戒に出て、エヴァンとアルマが番。深夜未明からはストレガが哨戒、イヴェールとゲルダが番だ。
1人また1人と眠りに就き、次第に音が消えゆく野営地は物悲しい芸術のよう。
エヴァンは老戦士にも休息を取ってもらい――足音1つで起きそうな気配を感じるが――ブランケットを被ったまま手招きした。
「アルマも入りますか?」
「ん!」
定位置についたアルマが毛布の左右を掴んでエヴァンの腕ごと前に持ってくる。一緒くたに包まれた2人は微笑交じりに息を吐いた。
「あったかぁい」
ね? と上を向いて無邪気に微笑む彼女は小さく、けれど出逢った頃から変らず大きい。エヴァンは少女をぎゅっと両腕でかき抱き、御髪に顔を押し付けた。
「ぼくは……」
しんと静まり返った世界。ぱち、ぱちり。気を利かせた薪が優しい音楽を鳴らす。
「なぁに?」
「……昔、魚も殺せなかったのですよ」
ずっと思っていた事が溢れてくる。夜営の魔力か、焚火に照らされた彼女が綺麗だったからか。エヴァンは心の奥、ほんの少しだけちくりと痛む所をそっと開く。
「〆られなくて、苦しめて。そしたら父が『命を頂く感謝を忘れるな』って困ったように〆てくれてました」
「命は無駄にしちゃいけないからねー。そういえばエヴァくん、出逢った頃はおどおどしてたかも?」
直で抉ってくるアルマである。エヴァンは初陣を思い出そうとし、まるで記憶にない事に苦笑した。
「アルマと会う前は多分もっと酷かったです。泣きながら戦ってた……ような?」
「そうなの? でもそういうの、エヴァくんの良い所だよ」
「泣く所が?」
「優しい所っ。大事な宝物、だよ?」
「……っ、です、か」
嬉しいような、悔しいような。いややっぱり嬉しいとエヴァンは笑う。
抑えきれないものが溢れ、ぎぅぅっと抱き締めれば、アルマはくすぐったそうに身を捩って対抗してきた。暫く決着のつかない攻防を繰り広げていると心から笑いたくなって、エヴァンは彼女の頭に顎を乗せた。
「出逢った時、憧れました。矢面に立って戦い、敵の命に敬意を以て頂くあなたに。凄い、と。エヴァンとして、悔しいくらいに」
冒険者として中堅所にはなれたと思う。けれど彼女に並べたかは解らない。
憧れはもっとずっと凄いから。ずっと凄くて、いつも前を走り続けている。そんな彼女が誇らしくて、でも、だからちょっと不安になる。
ほんの僅か、一拍の深呼吸。エヴァンは告解の如くそれを問う。
「今、ぼくはアルマと並んで戦えてますか?」
永遠とも思える沈黙が下りる。ばくばくと心臓は激しく脈打ち、息は詰まりそう。
やっぱり聞かなければよかった。思いかけたその時、彼女の小さな声が耳に届いた。
「……うん。とっても心強いから、これからも一緒がいいな?」
彼女の応えは無償の赦し。
それを理解した瞬間、エヴァンは万感の思いが胸に迫り、目頭が熱くなった。
「っ……こちらこそ、喜んで」
声に出せた事を、自分で褒めてやりたい。
アルマは文字通り頭の上に額を押し付けてきた彼氏さんの思いに、胸が温かくなるのを感じた。
きっと大切な確認だった。2人で前に進む為の、大事な確認作業。アルマは彼の胸に体を預け、頭の感触を楽しみながら先のやり取りを思い出す。と、頭上の彼がかくりと傾いた。
「あれ? 眠い?」
緊張していたのかもしれない。アルマはそう結論付け、えへへと頬を緩めた。
(これが幸せの重みってやつかなー?)
幸せの時間は、江流が哨戒から戻ってくるまで続いた。
●お友達
イヴェールが起きた時、横で眠った筈の友人は既にいなかった。手早く身嗜みを整えて天幕の外へ出ると、焚火の傍に人がいるのが見える。
「お疲れ様です」
簡単にアルマ、エヴァン、江流の報告を聞き、イヴェールはゲルダの傍に寄った。
夜食時、それなりに会話していた少女の瞳が今は暗い。掛ける言葉が見当らず、イヴェールは友人の隣に座った。
焚火を囲うのは自分達の他に江流だけ。ストレガが哨戒に出るのを見送ると、イヴェールは焚火越しに遠くの空を眺めた。
ぱち、ぱちり。
江流もゲルダの様子に気付いていたのだろう。あの時、学園で共に戦った同志だ。
ぱち、ぱちり。
薪が爆ぜ、江流が枝を足す。長く息を吐くと、彼は重い口を開いた。
「俺は封印指定者を斬った」
ゲルダが江流を見やる。
「……俺に何ができたんだろう。境遇には同情したし、救える手立てがあるならとも思った。けど現実は彼女に業を押し付けたに過ぎない。あの時、何ができた? 彼女を斬った感触だけが残ってる」
はっと息を呑む音。眉根を寄せて瞳を揺らすゲルダの横顔は今にも壊れてしまいそう。イヴェールは唾を飲み、そっと声に出した。
「時さえあれば他の選択肢はあったかもしれません。でも現実は違う。時はなく、あの時の私達が取れる選択肢は他になかった。彼女の、……」
『お友達』をあれ以上増やす訳にいかなかった。
言いかけて口を噤むが、遅い。薄く苦笑いしたゲルダは「イヴェール様はお優しいですね」と呟いた。
「優しくなどありません。私は……、少なくとも後悔していない。彼女があの時までにどんな扱いを受けてきたのかを悟って、それでも私は斬るつもりでした」
死が救いなんて思わない。だから自分は、救いではないものを自覚的に押し付けたのだ。
「禍根を断つ、その為に」
危険性という一点において、彼女は間違いなく悪だったから。
悪だった。目を伏して告げるイヴェールにあの子を悼む気持ちが一切ない事はなかろう。
でも悪を断じる芯は曲げない。眩いばかりのその強さは、幼い頃に見た憧憬に似ているかもしれない。眩しくて、まっすぐ見ていられない。
自分は愛を求めたあの子を裏切り、殺した。一方で家族を求めた殺人鬼を助けた。違いは何?
脅威度が違う? 状況が違う? そんな事じゃあ、ない。
「……後悔、は、してないんです」
(けれど、きっと、わたしはあの声を忘れられない)
受け入れたふりして、期待を持たせて、その直後に拒絶して。大切な所を傷付けられたあの子は、訳も分からぬまま殺された。
(ううん。……殺した。わたしが、殺したんだ)
江流が体を斬ったと言うのなら、自分は心を斬ったのだ。排除するのに有効な手というだけで。
「お友達になりましょうって……それを本当にできたらよかったのに……あの手を……わたしは……わたしは何で……」
「その力がなかった。クラインさんだけじゃない。俺も、誰もがそうだ」
理想を貫くには強さがいる。心と体、両面の。半端に叫べば多くの人を傷付けるとゲルダは知っている。
「……後悔は……ない、です。だって、わたしが選んだ事だから」
この苦さも痛みも、全て抱えて溺れてしまえ。そしたらきっと、強くなれる。
そうじゃなきゃ、赦されない。
「強く……もっと強くならないと……」
『誰か』を護れる自分になる為に。
後悔はない。淡々と吐露するゲルダの声なき慟哭を江流は確かに聴いた。
耳に痛い静寂が胸を刺す。せめてアルマらがいれば。そう思わずにいられない。
同じ経験をした3人だから心を素直に吐き出せた。それだけで救われる時もあろう。だが少女の嘆きに静寂は似合いすぎた。心が潰れてしまいそうな程に。
江流が手慰みに枝で焚火をかき回していると、不意に高い音が聞こえた。そっと触れるような声が、歌を響かせている。
イヴェール。伴奏もなく、ただ1人の声で紡がれるそれは、友人を繋ぎ留めんとする彼女の想い。寄り添うような歌は、暫くすると唐突に終った。咳払いして俯くイヴェールに、江流は笑みが零れる。
幾分軽くなった雰囲気に任せ、口を開く。
「異端というものが人の枠を超えた能力だとするならば、俺達もまたそうだ。授恵者とは異端に向かう者と言える」
禁忌とされる者は他にも塔にいるらしい。であれば、学園生となった自分がそのまま進んで辿り着く先は、彼女だ。
(俺は自分を斬ったんだ)
果たして自身の――長寿の研究は禁忌指定されるか否か。考えた刹那に胸が軋みを上げ、江流は意識して苦い笑みを浮かべた。
「……これは、きっと、覚えていないといけない事なんだと思う」
こく、とゲルダが頷くのを横目に見ながら、江流は内に仕舞い込んだ思いに鍵をかける。
(禁忌だろうが関係ない。俺の望みが叶うなら……)
その時は、永劫の責め苦も受け入れよう。
●一夜
ぱち、ぱちり。
夜を照らし続けた偉大なる炎は、役目を終える時を静かに待つ。
――じき、夜が明ける。
<了>
マスターコメント
ショートシナリオ普通 報酬:標準6 / 4〜6人
2021年10月14日 13時29分29秒 公開
相談掲示板
エヴァン・ピオネロです。…宜しくお願いします(頭を深々) お話はどんなのをしようかな…とまだ迷い中です。 戦闘は対応できるようにスキルは持ってますが、無くても良いと思ってます。 ここは、戦闘も楽しみたい方が居ると思いますので、みなさまに合わせますね!
アルマだよ、どーぞよろしくねー ぐるキャン△みたいな感じなのかな、いろいろ楽しめそうー 戦闘はなしでもいいと思うけどいちおう用意はしていくね
シーフの海神江流だよ。 今回は宜しくね。 戦闘をする市内についてはどちらでもいいかな。 ただ、プレイングの文字数の都合もあるだろうから結論は早い方がいいかな? 当たり前だけど、戦闘がなければ会話や独白に文字数使えるから皆の好みに合わせて。 どちらに触れても夜の哨戒には出ておこうかな。 暗視つけておくので不用意に敵を集めたりはしないはず。
ゲルダです。よろしくお願いします。 今回の依頼の目的は達成していますので、わたし個人は戦闘はしない方向だとありがたいかな、と。 スキルについては……元々が戦闘依頼でしたので、不自然のないように積んでおくことになりますが、敵に襲われないのであればそれに越したことはないのかなと思います。 もちろん、夜中の戦闘をしたい!と言う方がいらっしゃれば、そちらの意見を優先していただいて問題ありません。 その際は、シーザーロアで敵を引き付けて、焚火に攻撃が当たらないようにする形になるかなと。 話題についてはまだ考え中ですが……先の、【学乱】での依頼について、もしかしたら触れるかもしれません。
ストレガなのだ。よろしくなのだ。 戦闘はなくてもいいかもなのだ。哨戒だけはしておくのだ。 それよりもおつまみは干し肉とチーズでいいのだ?
イヴェール・イリュジオンと申します。 どうぞよろしくお願い致します(ぺこり) 私も戦闘は無くて問題ないので、しない方向で纏めてしまっていいかも知れませんね。 哨戒はされる方がおられるならお任せするとして、お腹も空くので何か作るべきでしょうか… 話題はゲルダさんのお話に乗っかって【学乱】について語ってもいいのですが、しんみりしてしまいそうなので…(
改めて、みなさま宜しくお願いします。 戦闘は無しとプレに記しますねー(発生したらアドリブで) お話は相槌を打ったり、今後の参考にと真面目にお聞きする予定なので しんみりでも楽しくでも、大丈夫と思ってます。 ぼくはアルマ(彼女)と色々と話すので、結果的にデート…に成るかもです。 イチャつかないように気を付けてますが、不快にさせたらごめんなさいです…。 おつまみ!成長期の胃袋なので嬉しいですよー、ご相伴させて下さいね。
戦闘はなさそう?な感じみたいだし、最低限の1行くらいだけにして残り詰めるねー 干し肉とチーズのおつまみおいしそうー…! ボクもお魚の準備をしながらだいたいは聞き役に回らせてもらうね せっかくの機会だしどんなお話でも大歓迎だよー あとはエヴァくんとちょこっと内緒?話になる予定だよ
了解。戦闘なしで、スパっと割り切っていきますか。 俺も【学乱】の話題、ちょっと用意してみるかな。 思うところはたくさんあったし。