美食の囮
崎田航輝
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シナリオID:1410
オープニング
背の高い草むらに隠れ、馬車道を窺う男達がいた。
目深なバンダナ。腰に差したサーベル。顔の印象を散らす無精髭。覗く眼光の鋭さで、無辜の民が通りかかるのを待ちわびる――賊の一団である。
……と、その一人が不意に口を開く。
「お頭、いい加減、もうその辺の馬車を狙っていいのでは?」
すると他の仲間も口々に言葉を零し始めた。
「そうですよ。俺達、もう二日は絶食してますよ」
「おなか空いたよ、お頭」
「ええい、黙れ」
一喝したのは最前で道を覗いている男。
最も体躯が良く、最も強い装備を身に着け、そして最も熱心に視線を走らせる……一団の首領である。
「お前達は何も判っていない。それでも糧賊の一味か?」
「何がですか」
「空腹だからこそ、よく考えもせずに襲撃をして、その結果質の低い糧食を得る事だけは避けねばならない。俺達の目的は何だ?」
「えっと、最高の食を得ること?」
「そうだ。腹が減っているが故に、その解消は美味いものでするべきである。苦境の中でこそ、一流の品を求める事を忘れるな」
それに、と首領は続ける。
「空腹は最高のスパイスだ。ここで良い食糧にありつける事が出来れば、至福の時間が味わえるぞ」
信念の感じられる言葉に、「お頭……」と配下は感じ入る。
と――そこで首領がはっと気配を察知した。
「来たぞ。良い香りだ」
馬車道を進んできたのは、都市同盟から王国を目指す商人の馬車であった。
大きな荷台には希少な木の実や野菜、干した魚や肉までもが積まれている。そこを――飛び出した賊の一味が一斉に取り囲んだのだった。
「わぁ!」
驚く商人を、配下が雑に縛り上げてゆく。
その間に首領はゆっくりと荷台を見分し、満足気に頷いていた。
「保存状態、質、並べ方も悪くない。一流の仕事だな」
言うと、はむ……と木の実の一つをまずは味見。
「これは同盟南部産のものか? 殻の歯ざわりと、内部の瑞々しさがなんとも言えない美味だ」
次に葉物野菜をぱりっと齧る。
「この新鮮さは素晴らしいな。見た目だけでなく、水分までもがきっちり保たれている。採れたてを運んできたのだろう。野菜本来の甘味が存分に残っている。それに、こっちの肉は……」
火打ち石で火をおこし、軽く肉を炙ってから一口。
まるでレアの肉を食べたような食感に、首領は舌鼓を打った。
「まったくもって質が高い。脂身が蕩けるようだ。雑に作られ、雑に運ばれた干し肉というのものは旨味と水分、脂までもが飛んで、ぼそぼそとまるで布を食べているような不快感に襲われるものだが……これは違う。乾燥された際にしっかりと旨味成分が凝縮され、逆にその風味を増しているようだ。燻すにもいい材料を使っているのだろう。生肉のような食感がありながら、同時にそれではありえない香ばしさも同居している。これは保存食でありながら、一つの立派な料理として成立している逸品だ」
「すげぇ、お頭の食リポが始まった!」
「これは大当たりだぜ!」
「何言ってるかは判んねぇけど……」
配下が口々に喜びを表す中、首領が「始めるぞ」と告げる。それをきっかけに、配下達も加わって暫し宴が繰り広げられるのだった。
●依頼
「――という被害が起こっているらしいです」
ギルドにて、担当の青年が冒険者達に説明をしていた。
元々、食糧目当てで馬車が襲われるという事件は各地で起こってはいたらしい。
その一つ一つは大きな事件ではなく、纏めて注目される事はなかったのだが……それが最近、同盟近郊でよく起こるようになったという。
「そして、どうやらその全部が同じ犯人のようだと判ってきたのです」
それは“糧賊”なる賊の一団。
美味しい食べ物を好んで略奪するらしく……今は同盟周辺で重点的に活動している、という事らしい。
「同盟から運ばれてくる食べ物を気に入ったのでしょうか」
理由は判らないけれど、とにかくその賊は同盟から出てくる馬車を次々に餌食にしている。
人を傷つけたりはしないせいか、目撃証言が重なってその正体も段々明らかになってきたというわけだ。
「首領はグルムという男です。被害者の方々の証言によれば、美味しい食べ物を奪って食べる事を何よりの生き甲斐にしているようだとか」
曰く「人から奪った物が一番美味い」と口癖のように零していたらしい。
擁護のしようもないが、自分なりの美食を追い求めた結果、いつの間にか賊になっていたというような男なのだろう。
「何にせよ、奪われる物には高級品も多いので……金銭的被害もかなりのものです。そこで、皆さんにはこの賊の捕縛に向かっていただきます」
とはいえ、糧賊の一団はアジトも不明。こちらから強襲をかける事も出来ない。
そこで、と、青年はとある作戦を提言した。
「一般人を装って、馬車で何らかの食べ物を運び……敵をおびき出すのです」
被害が頻発している馬車道を通っていれば、グルム達の標的になる事が出来るだろう。
つまり自ら囮となる作戦だ。
「ただ、敵は逃げ足がとても早いらしいのでそこは注意して下さい。向こうがしっかりと食べ物を楽しみ始めるまで、手は出さない方が良いでしょう」
そして、その食べ物こそ重要だという。
「何を積むかは、皆さんに一任します」
農作物や肉、魚など、ある程度質の高い材料は用意出来るという。
それを積むだけでも標的にはなれるだろうが、より敵の注目を引くなら、何らかのオリジナリティがあってもいいでしょうと言った。
「特定のテーマに特化したり、新鮮な物を多くしたり、屋台形式にしたり……詳細はお任せします」
考えるべき点としては、敵はかなりの長い期間、材料単体や保存食の形態のものしか食べていない筈である事。
「馬車は複数台用意できます。鼻と舌の肥えた一団を、なんとかおびき出して捕らえて下さいね」
解説
マスターより
リプレイ
麗らかな晴れの日。
冒険者達は街で食料の準備を始めていた。
「しかし、考えるほど変わったバルバロイだな」
と、ブロンドを揺らして歩みつつ、ガリーナ・ウォロフはギルドでの話を想起する。作戦の要が食べ物というのも不思議な気分で。
「とはいえ、無辜の民を襲うのは許せぬものだが」
「そうですね。食を粗末にし、他人の幸福を簒奪する――」
何という罰当たりか、と。
拳を握るのは城崎・織枝。声音に、改めて気合を込めていた。
「このままでは生鮮を楽しみに待つ者達が餓えかねませんから。何としても成敗致しましょう」
「ああ」
ガリーナは頷くと、ワインの専門店へ。仲間が肉料理を作るので、それに合うものを調達しようという訳だ。
無論予算にも限度はあるけれど、量も味も必要。
という事で……少額で試飲できるシステムを利用する。
「これは酒利きの腕が試されるな!」
これも必要な行為と、自身に言い聞かせるけれど――
実際、そこのワインはどれも極上。
「まるで花束を口に含んだような香り高さだ……、む、こっちはフルーティだな!」
多数の中から二種類程に絞るまで、それなりの数を堪能するガリーナであった。
その後、皆もそれぞれに食材を選定し――ギルドの厨房を借りていた。
「ここなら広く作業できそうだな」
カイン・ステラは三角巾を巻いて、エプロンも装備。しっかりと調理スタイルだ。
頷くギャメルも皆の食材に興味津々。
「それは?」
「魔獣の肉なのだ」
と、応えるのはストレガ・L・リベルガストラ。
陸生の鰐型魔獣のもので、狩るのは難しくないが……市場に出回ってはいないので食通の興味は引けるという考えだ。
「味は保証するのだ」
元より、敵の首領は授恵者で味覚や嗅覚に鋭敏なのだろうと推測している。
「毒物やメシマズはきっと看破されるのだ」
ならば味と香りで勝負するしかない、と。
ストレガは肉を塩胡椒で味付けし、小麦粉をまぶした。
それを玉葱と茸と共に軽く焼くと……次に深鍋に惜しみなくワインを注ぎ、大蒜を入れて沸かしてゆく。
そして大きく乱切りにした根菜も含め、全体を煮込み始めた。
「肉は硬い部位で、煮込むと丁度良く柔らかくなるのだ」
「美味しそうですね――」
織枝は惹かれるように覗き込んでいる。
「賊は釣り出せるでしょうけれど……それだけの為に使うのも勿体ないくらいですね」
「心配ないのだ。皆に振る舞う分もあるのだ」
「それは楽しみだな」
言いつつ、カインは玉葱を炒め始めていた。
甘さと香りが引き立つ所で取り出して……合挽肉を用意。パン粉と卵と共に混ぜ、香辛料も加えて捏ねていく。
出来たものは、ひとまず寝かせる形で一段落。休憩を取る事にした。
皆も丁度きりが良いという事で……ストレガが取り分けた肉料理を皆へ振る舞う。
「囮にする分は、後で再加熱した際に丁度良くなるよう調整してあるのだ。柔らかさと濃厚な味を御賞味あれなのだ」
「では――」
と、早速織枝が食べると……玉葱や茸から出た旨味に、ワインの深い香りが加わって美味。
「とても美味しいです」
「本当だ! すっごいうまいよ!」
ギャメルもはむはむと食べてはご満悦なのだった。
その後、皆で調理再開。
カインは寝かせた肉を出すと、それとは別に大きめの手羽先を二本用意。
香辛料で味付けし、切れ目を入れて……最初の肉の両側から、その骨が出るようにくっつける。すると……円筒形の大きな肉を、両端で骨を握って食べられるような形に。
「インパクトもあるだろ」
「確かに、すごい!」
ギャメルが目を見張る中、カインは勿論味にもこだわりは忘れずに。
「これを、と」
肉汁に野菜や果物の旨味を込め、香辛料を加えたピリ辛グレイビーソースを作って。それに漬け込んだ豚バラ肉を、崩れ防止も兼ねて巻きつけた。
「後は焼けば終わりだ」
完成品と別に焼く前のものも置いておき……常に焼きたてが提供出来る仕組みにする。
後はフライドポテトを作り――こちらの為のグレイビーソースも作ってマジカルポケットへ。
「チーズと……後は蜂蜜レモン水も作っておくか」
てきぱきと、出立までに皆がつまめる分も用意するのだった。
隣のギャメルは、デザート担当だ。
「このまんまでも美味しそうだなー!」
と、切ってゆくのは可愛らしい姫林檎。色が濃く、瑞々しく、高品質のものである。
だけでなくそこにはスパイスも並んでいた。
「高級素材を使えるチャンスだからな!」
言うと試作の為、少量の果実を使って……シナモン、カルダモン、クローブをそれぞれ配分を変えて加えて煮ていった。
「うん! 完璧だ!」
味見して頷くと、小麦粉やバターを練って生地作り。
形を整え、窯で焼き上げると――別に作っておいたカスタードクリームと別々に保存して。
「後は出す時にコンポートを盛り付ければ、タルトの完成だ!」
「見た目にも可愛らしいものになりそうですね」
織枝は甘く香り高いそれに惹かれつつ、そんな感想を零すのだった。
「そちらは何を?」
「付け合わせだ」
応えるガリーナは肉に合うものをと、茹でたじゃがいもを潰してマッシュポテト作り。
提供前にのせる香草も一緒に保存して――更にポテトサラダも用意した。
後はトマトソースや、果実の甘味も活かしたソースも作成。
「これは鉄板で焼く野菜に付ける用だ」
これで食べ物の準備は終了。
後は手配しておいたジョッキや、炭なども揃えて――馬車へ運び出す。
馬車は建物の裏手にある。客車の代わりに調理スペースやカウンターを兼ねたものを備えており……まさに屋台だ。
織枝はじっと見上げる。
「これが作戦の為の牙城ですね」
料理は皆で最高の物を用意出来た。
その上で、成功はここからにかかっている。
「手伝うぜ!」
言ってギャメルが杯や食器を運び入れると、皆もまた搬入を進めて。冒険者による、一度だけの特別屋台馬車が生まれたのだった。
●美食の囮
「む……まだ育つか」
ガリーナは自分の胸を衣装にぐいぐい押し込んでゆく。
ギルドの更衣室での着替えだ。目を引くワンピースに華やかなエプロン。リボンもつけて、売り子兼看板娘の出で立ちだった。
「武器は馬車に隠しておくしかないか」
故にこそ、作戦は上手く進める必要がある。気合を入れつつ、ガリーナは皆と合流した。
馬車はもう準備万端だ。
「いつでも出れるよ」
ギャメルは言いながら……改めてこれから倒す敵を意識する。
「ただで食べさせてはやらないんだからな!」
皆も心同じく頷くと、街から馬車道へ。
多くの美食を懐に携えながら――出立した。
風に草花が揺れている。
そこは確かにひとけがなく、周りに木々も茂り……賊が潜むには適した環境だった。
「では、始めましょうか」
と、その手前の地点で降りたのは織枝だ。
料理の香りは既に漂っているが、より判りやすく屋台だと周囲にアピールする為に……客の振りをするのだ。
まずは馬車が馬車道の中腹へ入ると――
織枝はそれに行き会う形で足を止め、興味深げな様子を見せる。
「こんな所で食事が出来るなんて幸運です! 色々なメニューがあるんですね!」
「うむ。我らが屋台は時、場所を問わず美味を楽しめるのがモットーだ」
そう応えるのは売り子に扮したガリーナ。
張り出し気味のカウンターから、その姿がよく見えるようになっていて……香りと共に見た目にも良く目立つ。
頷く織枝は、少々思案する様子を見せてから――
「やっぱり、まずはお酒でしょうか!」
言ってワインを注文した。
グラスで供されたそれは芳醇な香りだ。
それを存分にくるくると揺らしてから……一口。
「とても良いワインですね! 口に入れた瞬間に、果実の森に包まれたような、爽やかで濃密な香りが鼻から抜けていきます」
ん~、と織枝は得も言われぬ表情。
「酸味は瑞々しさがあって、甘味は極上で。こんな高品質のものを味わえるなんて!」
更にストレガの肉料理を注文して。
「わぁっ、柔らかそう……! しかも珍しいお肉? 空いたお腹にこんな料理を頂けるなんて、最高の贅沢です!」
――と、それを食べようとした、その時。
早くも、草むらががさりと不審な音を立てた。
皆もすぐに察知する。こちらに多大な興味を示している、糧賊の一団だ。
待ちきれないのかどうか、あまり様子を見るでもなく飛び出してきて――
「お前ら、大人しくしろ!」
首領グルムを先頭に、全員で馬車を取り囲んできた。
冒険者達は驚いた振りをしながら――まだ戦闘はしない。
「きゃっ! な、何ですかっ……!」
織枝は身じろぎつつも、か弱い乙女をしっかりと演じてロープで捕縛されるままにする。
ガリーナも、抵抗しながらも引きずり出され――
「くっ。殺せっ!」
迫真の演技にて敵の嗜虐心も煽りつつ、後ろ手に縛られるのだった。
こちらの全員を縛り終えたグルムは、屋台へ視線を向ける。
「食料は貰うぞ」
と、そこで配下の賊達が何かに気づいて目を向ける。
しくしく、しくしく……と、ギャメルが泣いてみせているのだった。
「オレたちが一生懸命作った料理なのに。やっと立ち上げた屋台なのに……」
「……」
『お頭。子供が泣いてるよ』
『ほっとくの?』
『今までこういうパターンなかったよなぁ……』
賊らは口々に声を零し、微妙に気まずい空気になってゆく。ギャメルからのせめてもの意趣返しであった。
とはいえギャメルも必要以上にはやらない。グルムも「俺達も絶食三日目だ!」と試食を強行する事に決めていた。
「……しかし」
と、グルムはストレガの作った肉料理を見て、食べる前から舌を巻いている。
「これを作ったのは……お前か?」
「そうなのだ」
目の合ったストレガが言うと、グルムは瞳を細めた。
「魔獣の肉だな」
「よく分かったのだ」
「筋も脂身も知らない形だからな。ワインが茸や大蒜と相まって、肉の芳香を引き立てているが――この匂いも過去に記憶がない」
グルムははむ……と口に運ぶ。
と、カッと目を見開いた。噛むと肉がほろりと崩れ、旨味が溢れ出したのだ。
「よほど煮込まねばこうはなるまい。蕩けるようなやわさと共に、肉汁が洪水のように零れてくる。元は硬い部位だったのか、肉々しい密度も兼ねていて……食べごたえと高級感が同居しているようだ」
何より、と続ける。
「濃厚且つ肉の味が活きている。具材のアクセントと共に、肉本来の旨味が堪能できる。それに……シャルガネ風の隠し味か。これも食欲をそそる」
グルムは次に配下も加えて……カインが作った焼きたて骨付き肉に目を留めた。
「これはこう食うのが礼儀だな」
言うと骨を両手で持って……がぶり。
「!」
ワイン煮とはまた違った美味だからだろう。ほう、と感嘆を零していた。
「単一の肉ではないのか。表面がカリッとしていて何とも小気味良い……豚肉だな。ジューシーなのは、肉自体の脂と共にグレイビーソースが使われているからか。そして――肉と辛味は何故これほど相性が良いのか」
ピリ辛に快い汗を浮かべつつ……蜂蜜レモン水で喉を潤して。
「爽やかな美味だ。そして……中の肉こそ期待に応えてくれる王道だ。柔らかくがつがつ食える、理想通りだ」
それからポテトも食べようとする、が。
「中途半端な状態で食うな!」
カインの怒号に「ッ!」とグルム達は怯む。
カインは先刻こっそりと、そこにポテト用ソースとチーズも用意していた。
「それは鍋のソースを温めて、溶かしたチーズかけて食うからいいのに……お前ら美味いもん食ったことがねえんだな!」
「何だとッ!」
グルムは侮るなとばかり、それを言われた通りにつけて……ぱくり。
「こちらもグレイビーか。チーズと交互につけると止まらないな」
と、満足げなのだった。
そうして賊らが料理に集中する間に、カインは大鼬のファを馬車の陰から呼び寄せて……気づかれぬよう、皆の後ろ手にナイフを渡していく。
ストレガも生活魔法で縄を焼き、ギャメルも隠し持っていた道具で縄を切り始め……反逆の算段を整え始めていた。
グルム達はガリーナのマッシュポテトも味わっている所。
「舌触りがなめらかで、且つ香草の香りがまた食欲を復活させる。鉄板で焼いた野菜も、歯ごたえと甘味が増して美味だ」
何より酒が極上だ、と。
実際、賊達は既に酔っぱらい始めていた。
グルムも顔を赤くしつつ……ギャメルの作ったタルトには冷静な瞳を向けている。
「色合いが美しいな。姫林檎は味が濃厚だが、見た目も良い」
それからサクッ、と生地と共に口に運び、沁み入るように目を閉じた。
「果実のつるりとした感触と甘さが何とも快いな。生地の仄かな塩味が、クリームと共に抜群にマッチしている。そして香りが良い」
「隠し味のスパイスだよ。何を使ったか言い当てられるかな?」
ギャメルが時間稼ぎがてら投げかけると、グルムは無論だと緩く首を振る。
「全体を色づけるシナモンに、清涼なカルダモン。甘やかさはクローブ」
「……」
ギャメルは「コイツやるな」的な顔を返しつつ、一応本音で驚いていた。
「なかなかの味覚だ。賊にしておくには惜しいぜ」
「――かも知れませんね」
でも、と。
口を開くのは織枝だった。
「罪は償ってもらわねばなりません」
そう言う頃には、縄が切られていて――すたりと立ち上がっている。皆も丁度縄を払い……臨戦態勢となっていた。
グルムははっとした、が。
「皆、へべれけのようだな」
見回すガリーナが言う通り、賊らはもうふらふらだ。
それでもグルムだけは抵抗を試みるが――
「食を探求する心は理解できるのだ。それでも、簒奪するだけとは怠惰なのだ」
――食は万世共通の幸福なれば、万人に食が与えられるべし。
言葉と共にストレガが光球を放ってグルムの動きを止めると――皆で総攻撃。早々に勝敗を決した。
「上手くいったな」
ガリーナの言葉に皆が頷く。
そこにはグルム達が並んで正座させられていた。
ギャメルは一人一人をロープで縛り、捕縛してゆく。
「これで終わりだな」
「まさか冒険者だったとは……」
グルムは無念そうにうなだれていた。現行犯では言い訳も出来ないだろう。
ストレガはそんな賊らを見下ろす。
「食糧が奪われる事により飢餓の苦しみを受ける者がいる。その事を、食を求める者が考えない訳がないのだ」
「……ああ」
そうだな、とグルムは頭を垂れていた。
織枝は息をつく。
「罪人として、罰はしかと受けて下さいね」
そうして立たされる彼らに……カインは再び声を飛ばす。
「牢にぶち込まれる前に言うが……ご馳走様はどうした。食材に感謝しろ作った奴に感謝しろ皿洗え」
『へ、へいっ!』
「ゴネたり皿洗いの手を止めたり手抜きしたら鍋で殴るからな!」
『分かりましたっ!』
背筋を伸ばした賊達は、それから街への道中……しっかりと働き、躾けられ。街に戻ると、自ら粛々と牢に入っていったという。
マスターコメント
ショートシナリオ普通 報酬:標準5 / 4〜8人
2021年09月28日 06時13分56秒 公開
相談掲示板
ヒーラーのギャメルだぜ! よろしくな。 賊が襲ってきた時に一度縛られちまうのが厄介だ。縄から抜けられるような手筈を考えねぇとな! 人を傷つけたりはしねぇヤツらってことだから、こっちも軽くこらしめるくらいで捕まえたいところだぜ。
もう1人くれば出発できるのだ。 キャスター、ストレガなのだ。よろしくなのだ。 捕縛から抜ける方法…縄を生活魔法程度の炎で焼き切るとか、シーフツールやナイフを隠し持つなどあるのだ。 手は縛られてても魔術は使えるから最低足だけでもどうにかするのだ。 非ダメージでどうにかできるスキルにするのだ。 具体的にはアーケインとスタティックなのだ。 あとはうっかりやりすぎないようにヒールもっていくのだ。
ウォーリアの城崎織枝と申します。宜しくお願い致しますね。 一度捕縛されてしまうという体でしても、強靭というパッシブスキルで無理矢理引きちぎるといった風は出来ましょうか? 逃がさない為の方法と言えば殺界とシーザーロアで、あとは適当に。 光縛呪を使うにしても極力傷付けないようにせよ、ノービス装備が望ましいでしょうか? 誘い出しに関しては料理の味に加えて、素材の味の食レポするなりして誘い出すというのも如何でしょう?
カイン・ステラ、よろしく。 襲撃時点で大鼬のファに隠れてもらい、解除手伝ってもらうのはどうだろ。 噛み切れないと思うから、道具を隠し持ってて貰うとかになると思うけど。 料理は食欲をそそる匂いがするのを準備しようかなって思ってる。肉系かなぁ。
ウォーリアのガリーナ・ウォロフだ。よろしく頼む。 料理は肉にするなら香辛料をきかせるのはどうかな。香りもするし美味しいし。 屋台にしていいのならじゅわじゅわ焼いてしまうのもいいかもしれないな。
『あとは加熱するだけ』にするのがいいかもなのだ。焼くものは仕込みだけ、揚げものや煮込み料理は完成させたものを冷ましておく等。 屋台仕立ての馬車を作ればそれも怪しまれない。 肉料理は賛成。ワイン煮込みでも作ろうか等。 穀物も注目だと思うのだ。 ほか高級食材はお好みで。私はもったいないと思うのだ。
屋台仕立ての馬車に賛成するぜ。色々準備ができそうだ。 汁気のあるものだと持って逃げにくそうだな。オレは肉料理に合う汁気の多いデザートを用意してみる。 メインとデザートもあれば、それだけ賊もゆっくり腰を落ち着けて食べるだろうし。 ファが隠れるのはナイスアイディアだな! 強靭で引きちぎれるかはわかんねぇけど、インパクトのある手段でオレは好きだぜ。 オレ自身でもなんとかできるように、生活魔法を覚えていくなー! 「人から奪った物が一番美味い」って言ってるのが気になるな。 奪うことに罪悪感を持たせるような小芝居でもしてみようかな?
あ、高級というより値のつけにくい食材使うのだ。 具体的には魔獣肉にするのだ。鰐肉又は大猪のワイン煮込みにするのでどうぞ御賞味
料理の件は了解。 肉なら少し飲む方のワインも用意しようか。比較的安価でおいしいものを探せば問題あるまい。 いや、強いのも少し用意するか。逃げられるのがまずいのだからアルコールで強いの用意しておけば逃げられる心配が減るはずだ。 あと……「くっ。殺せ!」は言わなければいけないか?(女戦士ジョーク)
>ガリーナ 提案ありがと。やっぱ香辛料きいてると美味しそうな匂いするしな。 それに、予想聞く限りだと、こいつら料理できないと思うし、そういうものに弱そうだ。 >ギャメル じゃ、ファは隠れさすよ。 隠密関係はラン(栗鼠)の方が上だが、解放補助なんかを考えるとファだろうし。 デザート個人的に楽しみにしてる。
ストレガの料理おいしそうだな! 値段のつけられない珍味は、美食家なら食いつきそうだ。 ガリーナの酒で酔わせる案も効果がありそうだ。 「くっ。殺せ!」は……オレはよくわからねぇけど、なんか楽しそう(?)だな! こういうのはノリと勢いだ。 おう! 一応自分でも脱出手段を用意するけど、ファのことも頼りにしてる。 デザートはリンゴのコンポートを乗せたカスタードタルトにしたぜ。 酸味の強い姫リンゴを使ったり、スパイスを隠し味にしたり、肉の後に食べてもおいしいように工夫してみた。 敵は光縛封や、普通に走って体当たりしたりって方法で捕まえようと思う。