旅立ちの日
広大野人
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シナリオID:1345
オープニング
リーンエス王国とシルトラース帝国を隔てる山脈の一つに、その砦はある。
砦の中央に建つ塔は、黒紫這者の仕業や戦闘に巻き込まれ、一部損壊していた。
「塔が以前のような姿に戻るか分からない。だから、塔の中に戻るのは難しいだろう」
王国騎士イェルド・ルリンの言葉に、剣士エクエスは頷いた。
輝く剣が鞘に入っている限り、黒紫這者が寄ってくる気配が無い事は、分かってきた。
ならば、今は塔にこだわる必要はない。迷惑にならない範囲で、この世界のどこにでもいけるだろう。
「私は冒険者として、これからを歩んでいきたいと思います」
まだ記憶は戻っていない。
自分が何者なのか、そして、これから、何をすべきなのか。
「まぁ、そうしてくれ……だが、その前にやってもらう事がある」
「なんでしょうか?」
「お前を身分を、俺が保証している。暫くは、俺と一緒に行動してもらうからな」
勝手に野垂れ死にされても困るのだ。輝く剣はエーテルを放っている。所在不明となって、そこがクリーパーに襲われるような事態は避けたい。
ついでに言うと、イェルドにとっても『役に立つ』手駒は必要だった理由もある。
「近いうち、俺は特別顧問として、ドワーフ王国に出立する。それに、お前も同行だ。そうすれば、少なくとも衣食住の心配はないからな」
「ご配慮、ありがとうございます」
イェルドは一見、不遜な態度が目立つ王国騎士だが、実は優しい人間だと、エクエスは分かっていた。
ぶっきらぼうな接し方な理由は分からないが……イェルドにも、色々と過去があるのだろう。
「ドワーフ王国に行ったら、暫くは砦にも、ヴォーンの街にも帰れない。挨拶が必要なら今のうちに済ませておけ」
どの道、砦や塔は修復工事だ。イェルドが街からいなくなると、彼が手配した宿にも居られなくなる。
旅立ちの日は、そう遠くないだろう。
●???
豪華な調度品に囲まれた一室。
ある出来事で、任務を放棄せざるを得ない状況になったフランセスは、主であるジード・ランスウッドの下に訪れていた。
一連の報告に対し、ジードは表情一つ変えなかったが、同席していた中年の男性――フォーゲン――が、厳しい視線をフランセスへと向ける。
「冒険者にしてやられ、それで、おめおめと逃げ帰って来た訳か!」
「……く……その、冒険者共の一部には、貴方と関わりのある者も居たと言うじゃない。私のせいじゃないわ。貴方が始末しておかないからよ」
言い訳めいた事を早口で発するフランセス。
対して、フォーゲンはグッと力強く拳を握ったものの、次の瞬間、澄ました表情を浮かべた。
「奴等は優秀な冒険者だ。私も全力で挑む程のな……だが、貴様は対峙する事なく任務を放棄した。この事実は変わらない」
「……」
フランセスは何も言い返せない状況になり、今にも発狂しそうだった。
自分自身の存在価値が認められない――そんな事があってはならない。そんな『欠けた』事は、これから先、絶対にあってはならないのだ。
「そう責めるな、フォーゲン。お前とは違うのだ。相性が悪い場合もあるだろう」
二人のやり取りを聞いていたジードが穏やかな口調で告げる。
その言葉にフォーゲンは畏まる。本質的に二人が相容れないのは、組織に誘った時からよく分かっていた。
だから、ジードは、言わなければいけない事をフォーゲンから言わせただけだ。
「フランセスよ。我々の理想はもっと先にある。全ての計画が、そこに向かっているのは、お前も承知のはずだ」
「勿論です、ジード様」
「ならば、話しは早い。お前に次の任務を与える」
ジードが軽く投げて寄越した書状が、フランセスの足元に転がった。
拾うよりも早く、ジードの言葉が続く。
「クリエスター山脈北東部にある都市ヌバッフに向かえ。既に準備は整えておる。お前が直接、指揮を執って成果を上げろ」
「はい。必ず!」
今度こそ失敗は許されない。そう心の中で強く誓い、フランセスは応えるのであった。
●ヴォーンの街
黒紫這者の襲撃から復興に向けて、街は活気に満ちていた。
砦を奪還して安全が確保できた事に加え、街に滞在していた帝国難民の多くが、今回の出来事で、領主に恩義を感じ、街への定住を覚悟したのも大きいだろう。
「まさか、この老いぼれになってから、仕事が回ってくるとはの」
老ドワーフであるグダドワが、見送りにきた帝国難民のテンナに言った。
砦と塔の修復に、職人達が派遣される事になったのだが、塔の事を知る職人が他におらず、仕方なく、グダドワが行く事になったのだ。
山裾まで馬車で移動して、王国騎士の部下であるコルサという者がグダドワを背負っていく……という事らしい。
「頼りにされるのは、良い事よ」
そう答えたテンナも、街に寄せる帝国難民達の心の支えとして頼られている。
また、近々、難民居住区の外に造られる予定である家畜舎の管理も任される予定だ。
「簡単には隠居できんものか」
「こんな時代ですもの。未来を担う世代の為に、出来る事をやっていきましょう」
「そうじゃな」
数人の助けを借りて馬車に乗り込んだグダドワにテンナはゆっくりと手を振った。
「知り合いを通じて、帝国産のお酒を取り寄せています。私は飲めませんが、晩酌には付き合いますよ」
「それは、ありがたい事だ」
合図と共に馬車が動き出した。
●領主館
戦死した父から家督を譲り受けたイルダ・セルフォライドはこの所、多忙な日々が続いていた。
復興に関する施策のあれこれの決定や調整を、自分ひとりで行わなければいけないからだ。
昔、仕えていた執事も呼び戻し、なんとか領地経営を行っているのが現状。それでも、イルダには、まだやるべき事が残っていた。
(フランセスの部屋だけは誰にも入れていないし、厳重にしたまま……でしたね)
イルダの命を奪おうとしたフランセスは、砦での出来事の後、姿を消した。
街にも戻っていないという。冒険者達の手際が良かったので、警戒して街には戻らなかったかもしれない。
(でも、そろそろ、部屋を開けないと……)
思案しつつ、イルダは書類に判を押していく。
部屋を片付ける際に、どんな情報が出てくるか分からないので、屋敷の者には気軽に頼めない。
(父と私の命を奪った後……すんなり、領地がフランセスの手には入らないと思うのですが……何か準備していた可能性もあるかもしれませんよね……)
一般的には、過去の血縁関係など遡る事になり、また、それすらも該当がなければ、王家に預かりとなるはずだ。
執事という立場であったフランセスは、一時的には、代官的な者になる可能性はあるが、あくまで一時的であり、フランセスがこの街や領主を手に入れる事は、あり得ない。
(貴族との関わりが無ければいいのですが……)
そんな証拠が出てきたら、騒ぎが大きくなるのは間違いない。
イルダは手を止めて、深くため息をつくのであった。
解説
マスターより
リプレイ
(ひと段落したんだし、軽く一杯……と言いたいところではあるが……)
心の中で呟きながら、バーネット・フォーサイスは領主の館に訪れていた。
此処で、まだ一つ、片付いていない事があるからだ。
領主であるイルダに目的の部屋まで案内される。
「ここが、フランセスが使っていた部屋となります」
不用心に扉を開けようとするイルダを杖で制するバーネット。
「さて、あの時の逃げっぷりを見るに、部屋の中の物は処分出来ていないと思うが。まぁ、念のためだ」
罠の類があっても不思議ではないので、幽体離脱を行い、安全を確認した後、部屋へと入った。
執事としては、よろしくない程、整頓されていない薄暗い部屋。イルダがカーテンと窓を開ける。
「意外です。あんなに厳しかった人なのに……」
フランセスから教育を受けていたイルダからそんな言葉が漏れる。
唯一、罠があった机の引き出しを調べ、罠を解除するとバーネットはその中にあった書類を手にした。
タイトルには『承允候補』と記されている。中身は氏名や種族、年齢や住居の場所などが書かれていた。
頭が触れる勢いで、イルダが横から覗き込む。
「住所のほとんどはスラムや難民街区みたいですね」
領主の台詞に、バーネットの頭の中で、これまでの調査や関わってきた依頼の記憶が交差した。
『承允』『行方不明の住民』『新天地』。
「フランセスは『承允』の候補者を探していたって事か……」
だとしたら、この女性執事が難民対策に対して冷ややかだった理由になる。彼らに対する施策によって、生活に満足されたら、誘い難くなるからだ。
「承允?」
不安そうに呟くイルダ。
疑問に答えるようにバーネットは一連の事を簡単に説明した。
「……そんな訳で、今回の件で諦めてくれりゃいいが、油断はできないな」
「私に……領主が出来るのでしょうか……」
これからも領民と領地を守っていく事は、容易い事ではない。
「イルダはよくやっているさ。必ず立派な領主になれる」
その言葉に嘘偽りはない。
彼女が領民を見ていれば、きっと、領民も応えてくれるはずだ。
「私一人では……」
「大丈夫だ。何かあった時は、また、俺達が助けるしな」
杖先をぐるぐる回しながら応えたバーネットの台詞に、イルダが突然、涙ぐむ。父の死に悲しむ間もなく領主となったのだ。沢山の孤独を抱えていたのだろう。
静かな嗚咽を流す領主の背を摩るように叩くバーネットであった。
●
「グダドワさーん!」
威勢の良いアルマ・ヴァレンタインの声が響く。
「いつも元気じゃな」
応じるように玄関が開き、感心するグダドワ。
「塔の修理に向かう前に、色々、土産話持って来たよ」
「これは気が効いているのぅ……というか、その姿格好……まさか一緒に登るんか?」
「登るんだよ! ボクも手伝うし、グダドワさんが働く姿、見たいから!」
アルマは無邪気に答えた。声を出してグダドワは笑うと、アルマを部屋の中に案内する。
「それじゃ、頼りにするかのう」
「任せてだよ!」
自信あり気に応えると、アルマは早速、持参した差し入れの数々を広げた。真っ先に取り出したのは、二種類のお酒。
「今回のお酒は忽麦酒と蜂蜜酒にしてみたのとー」
続けて、魚と磯の香りがほのかに感じられる袋を取り出した。
興味深そうに見つめるグダドワに、アルマが笑顔で宣言する。
「おつまみに、海のダンジョンで取れた『干物詰め合わせセット』を持ってきたよ!」
「豪勢だのう」
「他にも色々あるけど……今から更に美味しく調理するんだよ。余ったら、後で美味しくいただけるよう、燻製にしちゃうねー」
アルマの返事にグダドワは、残ると良いのうと告げつつ、酒の蓋に手を掛け――我慢しつつ、香りを楽しむ。
「塔はどうじゃった?」
「それがね、もう色々あったんだよ!」
沢山の黒紫這者とその特異個体。それらを仲間や王国騎士達と共に殲滅した事。フランセスの陰謀。そして、エクエスの身体がエーテルで形創られた存在だった事。
アルマの土産話にグダドワは何か深刻そうに唸った。
「儂なりに考えじゃが、その剣士……」
「エクエスさんの事?」
言い難い事なのか言葉を詰まらせた老ドワーフに続きを促すアルマ。グダドワは酒蓋の淵を指でなぞりながら、言った。
「遥か昔に、山の上であの規模の塔……つまりじゃ、中で眠っていた人物は……」
「偉い人だったのかな?」
「あるいは、それ以上の存在……かもしれんのう」
『光芒の神』という伝承がこの街には残っているという。
エクエスが何者なのかという答えは、伝承通りだとすれば、神代の者である可能性がある――そう、グダドワは推察したのだ。
「儂としては気になる事ではあるがの。塔の修理もあるし……ところで、もう呑んでも良いかの?」
「もちろんだよ!」
待ちきれないといった様子のグダドワにアルマは笑みを浮かべて応える。
まだまだ、今日は沢山、話したい事があるのだから。
●
「今日は俺の奢りだ! どんどん飲んで喰え!」
王国騎士イェルド・ルリンの勇ましい宣言に酒場が歓声に包まれた。
次々に運ばれる料理や酒。給仕娘達が慌ただしく早足気味で店内を回る。
「さすが……王国騎士様ですね」
太っ腹な王国騎士の言動に受付嬢のアーネリーが格差を感じていた。
そこそこ大きい酒場の全員を奢るなんて、庶民には考えられない。改めて、イェルドが貴族であると認識する。
受付嬢の台詞に同意しながら、ロイ・アウレアが酒杯に口を付ける。
「散財するような人には見えないから、今日はイェルドさんにとっても、大切な日なんだ」
飲みに誘ったのはロイだった。
打ち上げを兼ねて、受付嬢と王国騎士、冒険者で一杯飲もうと――そこまでは良かった。
けれど、王国騎士は条件を出してきた。それは明日の仕事を手伝う事ではなく……。
「じゃんじゃん持って来い! 王国騎士の力、見せてやるぜ!」
それは酒に強いという意味なのか、金は幾らでもあるという意味なのか、あるいは、両方の意味があったかもしれない。
頼りになるといえば、頼りになる事は間違いないが。
ちなみに、王国騎士と共に戦った兵士達も一緒に参加しているのも、彼らしい配慮だろう。
「イェルドさん、上機嫌だ」
ロイの台詞に王国騎士は酒を掲げたまま返事をする。
「当たり前だ。共に戦った仲間と飲む酒は旨いしな。それに、綺麗処も揃っているんだ。これで気分が上がらないという奴の方が失礼だろう」
「あら、上手く言うじゃない」
感心した様子で返したのはエミリア・シバだった。
給仕娘が持って来た酒瓶にスッと手を伸ばすと慣れた手付きでグラスに注ぐ。
「一緒に頑張った皆で一席。特にアーネリーちゃんやイェルドちゃんはイケる口でしょう?」
酒飲み同士は雰囲気で分かるもの……らしい。
差し出されたグラスを手に取る受付嬢。
「う……バレてる……。なら、良いでしょう。ここからは本気でいきます!」
「オレも負けるつもりはないですよ」
ロイには自信があった。一方、コルサがテーブルに頭を伏せる。
既に出来上がってしまったようで、呆れ顔を浮かべるイェルド。
「コルサ! またか、お前!」
「げ、限界っす……隊長……」
今にも寝落ちしそうな兵士の背をロイが軽く叩いた。
「……コルサさん、この人の下でよく耐えてるよな!」
「本当っす……よ……」
「おい、誰かコルサを端に連れてけ」
王国騎士の容赦ないお言葉。
他の兵士達が駆けつけると見事な連携プレーで連れ出していった。
「イェルドさんって、ツンデレ? エクエスさんの事もあるし」
「馬鹿言え、俺にも、考えがあるんだよ!」
ロイの質問に対する回答が既にツンデレなのだが……そこにツッコムのも野暮というものだろう。
何にせよ、コルサが移動して空いた席に、別の客が相席で入って来た。
「なんだか賑々しい雰囲気ですね……お邪魔します」
宿を探していたミア=リゼルだった。
酔っぱらったイェルドがミアの頭をわしゃわしゃと撫でる。
「気にするな、邪魔じゃねーぞ!」
「女の子の頭を急に撫でるのは、よろしくなくてよ」
エミリアの忠告にサッと手を引っ込める王国騎士。
乱れた髪を直しながら、ミアは面々に向かって自己紹介する。
「ミア=リゼルと申します。よろしくお願いしますね……とはいえ、これが名前なのか、他の何かを示すものなのかもわからないのですが」
不可思議な説明に、ロイがポンっと手を叩いた。
「エクエスさんと同じ、記憶喪失なのでしたね」
「そうなのです。記憶喪失の剣士さんがいらっしゃると聞いて……本当に興味一心で」
身を乗り出すように言うと、その剣士と目が合った。
微笑むエクエスにミアは言葉を続ける。
「お困りの事があれば、力になれるかもしれませんし」
「ありがとうございます。私も、ミアさんの力になれる事があれば、お手伝いしますよ」
そう答えた後、エクエスは嬉しそうな表情をエミリアに向ける。
「人の縁って、凄いですね」
「言ったでしょう。皆で飲んだり食べたりする雰囲気に慣れておいて、損はないって」
「はい。皆さん、誘っていただいて、ありがとうございます。折角だから、私も飲みますね」
一同を見渡すとエクエスは度数の高い酒が入った杯に手を伸ばした。
「強気ですね、エクエスさん」
とりあえず、レモネードを注文するミアであった。
酒豪同士の飲み比べが進む中、シルヴィア・A・カペルがエクエスに話し掛けていた。
「伝承の剣士にお目に掛かれるとは光栄だ」
「私の事を?」
「あぁ、伝承を調べたよ。どうかこれからもヴォーンの街を、王国を、守って欲しい」
きっと、剣士が持つ力は、今後のクリーパーとの戦いに必要になってくるだろう。剣士は頼もしい仲間になってくれるはずだ。
「私に出来る事であれば」
「ありがとう……今は混迷の時代だ。王国を守ってくれる人々に、私は感謝したい……まぁ、それはそれとして、飲もう。私はエールに枝豆派なんだ」
「シルヴィアさんも、結構、強いのですね」
グラスを掲げたエクエスに、シルヴィアは爽やかな笑みを浮かべ、エールが入った杯を口に運ぶ。
一気に飲み干すと、エミリアがおかわりを注いだ。
「折角だから、肴に恋バナとか聞いてみたいと思わない?」
「同意だ。なぁ、アーネリー」
エミリアからの質問を上手く流したシルヴィアからの指名に酒を吹く受付嬢。
「ダ、ダメです。仕事ですから!」
色々と自覚が無いのはアーネリーだから仕方無い。
視線はしっかりとロイを向いているのもバレバレだし……。
「アーネリーさんの元気さは何時も気持ちを明るくしてくれる、この仕事に必要な存在だと思います」
フォローのつもりで言ったのだろうが、アーネリーの心に直撃。次の生贄を求め、唐揚げにレモン汁を掛けているミアへと受付嬢は酒杯を向けた。
「こ、こういう話は、若い子の方が面白いって決まってます!」
唐突に集まった視線にミアのレモンを絞る手が止まる。
逡巡してから、首を傾げつつ正直に答えた。
「えと……せんせいです? 数少ない、覚えていることなので。せんせいと、檸檬の香り。もう手放したくないのです」
「「せんせい、誰?」」
幾人かの声が重なった。
これはミアに訊いた方が悪かった。受付嬢は次の標的として、エクエスに向ける。もはや、標的が自分にならなければ誰でも良いようだ。
「その……『恋バナ』というのが、分かりませんが、要は、この中で、今一番、好きな人……という事で良いんでしょうか?」
確認するようにシルヴィアに訊ねるエクエス。
「端的に言うと、その認識通りだよ」
「なら、誰かは決まっていますね。私なら、エミリアさんです」
「「弩ストレート」」
「え? なんで、ですか?」
どうやら、エクエスは『恋バナ』が何たるものか、よく分かっていないようだ。
あるいは記憶喪失の影響なのかも……しれない。そんな周囲の反応とは違い、記憶喪失仲間のミアが、エクエスにそっと檸檬を手渡す。
「これから紡いでいく日々の中で、失いたくない大切な思い出ができると良いですね」
「はい」
檸檬の甘酸っぱい香りを確かめるエクエスであった。
興が乗ってきた所で、演奏を強く求めたエミリアの求めに応じ、シルヴィアがリュートを手にした。
舞台に上がる二人の冒険者。
前奏のように響くシルヴィアの弦音に緩急のある舞いでエミリアが合わせる。
徐々に二人の波長が合わさり――シルヴィアの歌が重なった。それは同じ王国民への激励であり鎮魂歌。“リーンエス王国の彩”が図書館の童話から紡いだものだ。
――なぜ私に剣士について語るのです、母上様
絶望を貫く我らの祈りが光芒となり
輝ける魂は我らと共に希望を歩み
けれど長き刻の中で光の名は失われた。失われたのです――
――可愛い子、よくお聞き
黄金の剣士は約束し、それに光芒は応じた
光芒は願った。いつか約束の果てに、同じ場所に旅立つと
だから、陽はまた昇るのです。昇るのですよ――
シルヴィアの歌を聞きながら、ロイとイェルドは酒を飲み交わしていた。
「知恵を絞って死線を抜けた者達が無事なのは嬉しいです」
「あぁ、心休まる場所があるってのはな」
「安心して飲めるってのは幸せな事だと思うんですよ。こういうご時世ですからね……最後の出会いがいつになるか分かりませんし」
これからも戦いは続く。
王国騎士にとっても、冒険者にとっても、果てない戦いの旅路だ。
イェルドが静かに告げた。
「俺らはこれからドワーフ王国に向かう」
「それなら、まだご縁が続くかもしれないですね」
またこうして飲み交わす時も来るかもしれない……。
酔い潰れたアーネリーをミアが別室に連れていき、入れ替わるように、バーネットとイルダが席に座った。
結局、深夜まで宴は続き、最後まで飲んでいたロイは昼頃になるまで閉店した店内で寝転がっていたのであった。
●
宿に帰るエミリアとエクエスの二人。
「あっさり再会って事もあるかもしれないけれど……エクエスちゃんにこれを」
エミリアは首後ろに手を回して装飾品を外すと手にした。
装飾品――夜煌石の首飾り――をエクエスは初めて見るようだ。
「光って……ます、ね?」
「エクエスちゃんはこれから沢山の事を経験して、この世界の暗い部分を見るかもしれない……そんな時、この光を見て、おねえさんって存在がいた事を思い出せて貰えたらなって、ね」
知っていてほしい。暗い世界でも、光はあるのだと。
「おねえさんとお揃いになっちゃうけど貰ってくれると嬉しいわ」
「エミリアさんから貰えるのなら……えと、これ……」
首飾りの付け方が分からない様子の剣士に、エミリアは微笑を浮かべて、エクエスの首に手を回す。
黄金色の髪から陽の光のような暖かい香りがした。
「!」
次の瞬間、エクエスがハッとしたような表情を浮かべる。
それは、何かを思い出した、そんな驚きだった。
マスターコメント
ショートシナリオ易しい 報酬:無し6 / 4〜6人
2021年09月07日 01時15分44秒 公開
相談掲示板
ロイ・アウレアです。宜しく! せっかく酒豪と明言されてるし、飲まない手はないね。 特にイェルドさんとアーネリーさんと盃を交したい旨を書くのと 下戸の方も雑談相手に成って貰えたら嬉しいので、他のNPCも誘う、程度でプレにする予定です。 (飲酒の席すら苦手な方もいるので無理強いはせず) 皆さんも同席可でしたら是非にどうぞ。 イルダさんは喪中でしょうから…流石に控えますね。
ヒーラー、ミア=リゼルです。よろしくお願いしますね…といってもこの件に関わるのは初めてで、空いてるお席にお邪魔したという感じなのですが… なんでもエクエスさんは記憶喪失だとか? なんだか親近感が湧くので、お話しできたら嬉しいな、と。
シルヴィアだ。今回はよろしく頼むよ。 ミアと同じく、この件に関わるのは初めて……というか最近立て込んでいたから休日を満喫しに来たというのが本音だ。NPCさんの酒豪表記に釣られた事を此処に宣言しよう← >ロイ お酒を飲むなら是非同席させて欲しいな。酒豪がいるのに飲まない手はない(ぐっ 場所はヴォーンの酒場で合っているかな? もし良ければ余興に楽器演奏をさせて貰いたいと思っている。歌唱については考え中。何か私に出来る事があれば言ってね。
バーネット・フォーサイスだ。 まぁ、よろしく頼むわ。 酒豪がゴロゴロしているってのは心惹かれるが……俺は今回領主館に向かうかね。 フランセスの部屋に残ってるものも気になるし、何か手掛かりが無いか探りつつ、 イルダの様子を見るって感じだな。
アルマだよ、どーぞよろしくねー。 ボクは今回もグダドワさんの所にいってるねー。 塔に向かうっていうからどのタイミングの交流になるか分からないけど、 土木・建築も得意だし現場に入ってもヨシ!かな。
おねえさんもエクエスちゃんを誘いつつ、 アーネリーちゃんとかともお酒を飲めたらとは思ってるので、お酒飲む人と絡めたらとは。
シルヴィアさん、ミアさん、エミリアさん、飲み会へようこそ! 自分の場合、単純に飲み比べや雑談をしてると思いますので、絡み自由で遠慮せず楽しんでください。 もしも、女子会の体で…とかあるなら(エクエスさんは?ですが) 別の日って形も構いませんし、楽しめる方でどうぞ! (キャラシを見つつ)…バーネットとは一度飲みたかったんだが フランセスとイルダさんへ行くと思ってたよ。心残り無いようにな。 アルマさんは、グダドワさんにヨロシクー!
俺の方も皆と飲めないのは残念だが、また別の機会が有ったらよろしく頼むわ。 一応、時間的余裕が有ればそっちにも向かうつもりだが、描写の関係上厳しいだろうな。
了解だ。それなら私も絡み自由で楽しく飲ませて貰おう。演奏も気ままに。 ロイも、ミアも、エミリアも、現地で会ったらよろしくね。 バーネットとも飲めたら良いな。字数的に難しそうだけど、会える事を願ってるよ。