私の歌が、聞こえない

夜帷かもめ

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シナリオID:1294

オープニング

「演奏、止めて!」
 初老の指揮者が首を振って指揮台を降りた。コーラスの面々は「またか」という表情で姿勢を崩し、しばしの休憩をとる。
「マノン、言わなくても分かってるね」
「はい……」
 マノンと呼ばれた少女は、指揮者に声を掛けられて俯く。
「君だけが遅れている。音がずれている。抑揚が、強くなるべきところで弱くなり、弱くなるべきところで強くなっている。どうしてなんだい?」
「声が……」
「何だって? 声?」
「声が、聞こえるんです」
 消え入りそうなか細い声で、マノンは指揮者へと答えた。
「それは皆でコーラスをしているのだから、声は聞こえるだろう」
「そうじゃなくて、別の――『失敗しろ』『下手くそ』『辞めてしまえ』って、そんな声が」
 周囲から失笑が漏れる。このやり取り、この光景は何度めだろうか。指揮者が変わっても、これだけは変わらない。

『マノン・セルジアは才能がない』
 それが学術都市『ヴェルクリエ』に拠点を構える合唱団、『ラ・ヴォイセ』のメンバーにおける共通認識だった。他人と合わせることが出来ない、落ちこぼれ。マノンに対する評価はいつもそうだ。

「気のせいだろう。何にしても、伴奏に合わせられないなら次の公演もステージには立たせられない」
「――はい」
「それじゃ、少し休んでいてよろしい――さぁ、みんな(・・・)練習を再開しよう!」
 舞台の袖にはけたマノンを横目に、面々は元の通り並び直す。指揮者が台へと上がり、一息ついてから指揮棒を振り下ろした。演奏が、コーラスが始まる。

●
「今日もダメだったわ……もう、辞めようかな」
 特徴的な色彩によって名を知られるヴェルクリエの街並み。その雑踏の片隅で、座り込んだマノンは足元の小石を蹴っ飛ばした。特に見るものの無いありふれたその石ころ(・・・)は、コロコロと転がってどこかへ見えなくなってしまう。
「そんな事、言わないでさ。ステージに立つの、夢だったんだろ?」
 マノンの傍らには、少年が座り込んでいた。まだ湯気の上がる菓子パンを半分千切り、俯き加減のマノンへと差し出した。
「ほら。今日も練習おつかれさま。甘いもの食べたら休まるよ?」
「――うん、ありがと。アランだけだよ、そういってくれるの」
 果物のコンポ―トと蜂蜜をたっぷりと挟んだパンを口の中に入れると、じんわりと甘味が広がる。昔からこの菓子パンがマノンは好きだった。

「でも、声が聞こえるっていうのはなんなんだろうね?」
「ううん……わからない。でも、確かに聞こえるのよ」
「疑ってなんかないさ。ただ、不思議だなって」
 マノンの瞳を見つめながら、アランは呟く。彼はマノンの歌が好きだった。技術師として目が出ず、開発に行き詰っていたある日。路地裏で歌っているマノンを見て、その歌声に一目惚れした。その時から、彼はマノンの一番のファンであり、理解者たれと努めてきたのだ。
 この場所で聞く、彼女の歌は美しい。澄んだ鈴のような音色が、どこまでも伸びやかに広がっていく様は音が小路へと染みわたっていくようだった。
「合わせの練習になると、声が聞こえて集中できなくなっちゃうのよ」
 ため息を吐きながらマノンは言った。
「このまま――ダメだったら。次の公演でダメだったら、私、合唱団を辞めるわ」

 立ち上がったその背中に掛ける言葉を、青年は持ち合わせていなかった。

●
「普段の彼女なら、ソロだって十分に歌いきれるぐらいの実力があるんです」
 依頼を受けた授恵者らに、アランは切々と訴えた。
「彼女の歌については、僕が一番よく知っている。指揮者や合唱団の連中は、彼女の本当の歌を知らないんだ」
 とはいえ、実際に合わせの練習や本番になると途端におかしくなってしまうのは事実である。何もマノンが憎くて彼らとてメンバーから外している訳ではない。単に、ヴェルクリエという都市の掟・風習に倣っているだけなのだ。
 ――能力がある者には尊敬と機会を。そうでない者には無関心と静かなる排除を。

「次の公演――約二週間後ですけど、そこでステージに立てなければ彼女は歌の道を諦めると言っています。公演に出るメンバーは今日から一週間後、本番の一週間前に指揮者が最終決定をするそうです」
 声が聞こえるというマノンの幻聴は、心理的な何かが原因なようにアランには思えた。失敗が続いて、少し神経質になっているのかもしれない。
「僕も彼女に言葉を掛けたんですが、さすがにもう相当参っちゃってるみたいで……」
 誰か、アランの他に親身になって相談できる相手がいれば、この状況も変わるのではないか。
「彼女の相談に乗って、なんとか不安を解消できるように手伝ってもらえないでしょうか。心配事が無くなればきっとマノンもメンバーに選ばれるはずです」

 よろしく、お願いします――と。アランは藁にも縋る思いで、頭を下げた。

解説

●目的  二週間後の『ラ・ヴォイセ』公演にてマノンが無事に歌いきる ●場所  辺境都市群 学術都市『ヴェルクリエ』 ●人物  マノン:『ラ・ヴォイセ』に籍を置くソプラノ      個人練習では素晴らしい歌唱力を持つが、全体練習になると途端に調子を崩すクセがある  アラン:ヴェルクリエに住む技術師。マノンの歌声に心を寄せている  『ラ・ヴォイセ』:ヴェルクリエに本拠地を置く合唱団。20人程度の男女混成  指揮者:次の公演に向けて合唱団の外から招かれた客演 ●補足  依頼を受けてから一週間後にメンバーを決める為のテストが行われます。  決定後のメンバーで一週間の仕上げを行い、二週間後の本番へ臨む段取りとなります。  メンバーは指揮者が最終決定権を持ちますが、『ラ・ヴォイセ』メンバー間の意見も尊重されます。

マスターより

ご縁がありましてリクエストシナリオを書かせていただくことになりました、かもめです。 辺境都市群および学術都市『ヴェルクリエ』の詳細についてはワールドガイドをご確認ください。

リプレイ

「依頼を受けていただいて、どうもありがとうございます!」
「その……私のわがままでご迷惑をお掛けして。ありがとうございます……」
 顔合わせの席で頭を下げたアランとマノン。経験豊富な冒険者に依頼を受けてもらえれば問題は解決できたも同然と言わんばかりのアランに対して、当のマノンはまだどこか不安が拭いきれない。その言葉もどこか、歯切れが悪かった。

「初めまして。私はロゼット、冒険者の神官よ」
 そんなマノンの緊張をほぐすように、朗らかに微笑みながらロゼットが言う。彼女は専門家ではないが、日々の礼拝や定期的なイベントの際には歌を披露する点でマノンの置かれている状況と近いものがあった。その経験が活かせれば、と言うのだ。
「マノンさんが公演に出られるのはもちろんだけど……楽しく歌えるようになるのが一番いいな」
「そうですね。ヴェルクリエは能力のある者には尊敬と機会を――とは言いますが、それがストレスになっては仕方が無いですからね」
 メアとキリアン・フィッツジェラルドの二人は、マノンが上手く歌えない原因が彼女の精神状態にあるのではと推測していた。
 こと、芸術活動ともなると精神的な不調が与える影響は大きい。悩みを授恵者らに打ち明けることで、マノンの気分が晴れれば歌いやすくなるのではないか。
「それじゃあ――」
 とりあえず――話を聞こうかと言いかけたメアが、ふと眉間にしわを寄せた。何か花のような、何かが発酵したような何とも言えない匂いが彼の鼻をついたのだ。
「精神的な面はもちろん重要だが、物理的な側面を無視する訳にもいかないじゃろ。物心、両面から調査するしかあるまいな」
 集まった授恵者らの背後から声を掛けたのは、ク・サーヤ・クッセーワである。この匂いは彼女が発しているものらしい。まずは他の授恵者らが出した意見を聞いていたサーヤだったが、調査に抜け漏れがあっては良くないと口を挟んだのだ。長年生きたエルフの知恵は、先入観によって惑わされてはならないと警鐘を鳴らしている。サーヤのその意見はメアやロゼット、キリアンを頷かせるに十分な説得力を持っていた。
「なるほど、ところで貴女」
 控え目な声音でロゼットが言った。その表情は、奥歯に物が挟まったような――言葉を絞り出すようなそれだった。
「その匂い、なんとかならないの?」
「無理じゃ。わらわは匂い使いじゃからな」
 あっさりと首を振ったサーヤを、一同は半目で見る。

「なあ、お前さん。どう思うよ?」
「そうね。私はマノンさんとアランさんの関係が気になったわ」
 少し離れたところでパヴェル・A・サムルガチェフとシンディー・ホシカは意見を交わしていた。依頼の目的としては、二週間後の公演でマノンが歌えることが重要である。だが、それだけでは不十分なのではないか。あるいは、本当にその目的を達成することが――彼女の幸せになるのだろうか?
 そんな、一種の葛藤にも似た思いを彼らは抱いていた。
「なるほどなぁ。それもそうだ。俺は、マノンの嬢ちゃんを勇気づけるのは、いい。いいんだが……こう、他にもっと嬢ちゃんらしい生き方があるんじゃないかって思えてなぁ」
 顎に手を遣り、何か思いを巡らせている様子のパヴェル。そんな彼を見上げつつ、シンディーは問いかけを重ねようとして――止めた。そこに踏み込むのは彼に失礼である気がしたのだ。だからその代わりに、彼女は更に続けて自分の考えを口にする。
「私、アランさんと話をしてみるわ。それがマノンさんの問題の解決にも繋がるんじゃないかって」
「――そうだな。今は目的を果たさねぇとならねぇ。俺も出来る限りの事をするか」
 ようやく辺りの匂いに鼻も慣れてきた。考えがまとまったところで、パヴェルとシンディーも他の授恵者らへと合流した。

●
 大きな円形のテーブルには、お茶とお菓子が並んでいる。それをぐるりと囲んで、メアにパヴェル、ロゼットとサーヤがマノンの話を聞いていた。
「僕は芸術的なことはよくわからない。でも好きなものがつらくなる苦しさなら……理解できる」
「そうね。精神的な不安やつらさが貴女の聞いている『声』の原因かもしれないわ。まずは、その『声』について、少し聞かせてもらって良いかしら」
 メアとロゼットの二人が促すと、マノンはぽつぽつと思いつくままに自分が聞いている声について語り始めた。

 以前からその声のようなものは、聞こえていたのだと言う。だが――それは意味を持った声ではなく、歌に合わせて流れる伴奏や音のようなものだった。それが、ふと気が付いた時には明確にマノンを揶揄するような、そんな『言葉』になっていたらしい。最初は気にしないようにと心掛けていたが、だんだんと日が経つにつれて声が大きく聞こえるようになってきて、最近では自分の歌う声すらも聞こえない程だと言うのだ。

「とりあえず嬢ちゃんの歌を聞かせてもらおうか。実際に声が聞こえるのか、俺らも確かめた方が良さそうだしなぁ」
「普段使っている練習場は使えるんじゃろうか? なるべくいつもと同じ環境がいいじゃろう」
 パヴェルが提案すると、サーヤもそれに倣う。地道な作業ではあったが、少しずつ前に進んでいる実感を得てマノンの表情もいくらか晴れやかになってきたようだ。
「ありがとうございます、皆さん。その――歌えなくなって、最近は誰かと顔を合わせるのもつらくて。アランが話を聞いてくれなかったら、もっと早くに逃げ出してしまっていたかも」
 そんなマノンの呟きを耳にして、授恵者らはこっそりと視線で意図を通じ合わせる。シンディーの懸念が現実になっているのだろうか?
「マノンが歌をもう一度楽しめるように、私たちも精一杯のお手伝いをするわ」
 ロゼットがすかさずマノンを力づけるように声を掛ける。メアもそれに続いた。
「そうだよね。つらい気持ちやしんどい悩みとか、聞いてくれる人がいないと大変だよね。僕たちにも思うことがあったら吐き出してくれていいからね?」
 授恵者らの言葉を聞いて、マノンは驚いた様子で面々の顔をみる。マノンにとって、そんな言葉が返ってくるのは予想外だったらしい。久しく相談する相手がいなかったことで、随分と不安症が募っているようだ。もう一度、四人の授恵者が頷くと、ようやくマノンは安堵の息をもらした。

●
 四人の授恵者がマノンから聞き取りを行っているその頃、キリアンとシンディーはそれぞれに別の目的で動いていた。『ラ・ヴォイセ』に向かうというキリアンとは別れ、シンディーはアランを呼び出していた。彼と、個別に話がしたかったのだ。ここにはマノンの姿はない。

「ごめんなさい、わざわざ」
「いいえ、これもマノンの為に必要なんですよね?」
 少し困惑顔ではあるが、アランはシンディーの問いかけにも協力的だ。そこは間違いない、とアランの問いかけに対しては改めて強調してから、シンディーはアランに質問する。
「私なりに考えたことがあるの。もちろん、思い違いかもしれないけど――」
 シンディーが持っている懸念。それは、マノンとアランが相互に依存しあうような、ある意味で悪影響と言える関係になっているのではないかと言う――そんなものであった。もちろん、アランがマノンの事を思って行動していることは間違いない。だが、必ずしもその結果が彼女の為になるとも限らないのだ。
 慎重に、アランの表情を見ながらシンディーは言葉を続ける。
「マノンさんからしたら――言い方は悪いけど、失敗してる自分だからアランさんはこんなに自分に親身になって気に掛けてくれる。うまくいくようになったら、もう大丈夫と今のように接してくれなくなる……実はそんな不安もあるんじゃないかって」
「そんな!? 僕はそんな積もりはありませんよ」
「ええ。分かってるわ。ただ、芸事とかメンタルって本人も分からない所で関係していたりもするから」
 マノンとの関係を、アランがどうしたいのか。ハッキリとした意思表示をすることがマノンの問題点を解消するかもしれない。真剣な表情で告げたシンディーから、アランは視線を外すことが出来なかった。彼もまた、悩んでいる。

●
 キリアンは『ラ・ヴォイセ』の面々からマノンについての情報を聞き取っていた。
 そこで分かったことは、マノンは決して箸にも棒にも掛からぬ歌い手ではない。素晴らしいパフォーマンスをすることもある。だが、その出来にムラが大きく、ここ最近は特にひどい。総じて、『マノン・セルジアは才能がない』――あるいは、今の彼女とは同じグループとして歌うことが出来ないと言った印象を合唱団の中では持たれているという内容だった。
「あの子も悪い子じゃないんだけれど」
 年長のテノールがキリアンに語った言葉が、彼の耳に残っている。
「私たちも本気でやってるからね。公演を台無しにしちゃう可能性があるような子とは、それでもやっぱり組めないのよ」
 人物としての評価とは別に、純粋な芸術家としての技量のみで評価される。ヴェルクリエという都市の厳しさをキリアンは垣間見た。

(実際に、上手くやれるっていうところを見せないと駄目でしょうか?)
 言葉よりも、圧倒的な実績を目の前に見せなければ――『ラ・ヴォイセ』のメンバーにマノンを認めさせることは難しいかもしれない。ストリートパフォーマンスのような、そんな場を設けることが出来るだろうか? 

●
「反響の影響は杞憂じゃったか」
 ホールや練習場の構造を図面で確認し、実際にその場に立ってみてサーヤはそう結論付けた。声楽や演劇の為に設計されたこれらの建物は、余計な音が演者に伝わらないように音響にも留意されているらしい。
 となれば、いよいよ精神的な影響という線が真実味を増してくる。歌を歌うことで、マノンの内面にどのような変化が表れているのか。確認する必要があった。

「それなら、一度歌って貰うとするかなぁ?」
 パヴェルが水を向けると、マノンは意を決したようにひとつ深呼吸をしてから歌い始めた。その歌声は、素人目にも心を打つような響きであった。

 歌唱には多少の自信があるロゼットから見ても、芸術都市の合唱団の実力に恥じないものだと感じられる。
(何か――聞こえる?)
 ロゼットが視線をメアに送るが、彼は首を振る。優れた聴覚を持つメアをもってしてもノイズとなるような『声』は聞こえなかった。
「やはり、ソロでは問題がないのじゃな」
 サーヤは自分の持つ仮説が裏付けられたのか、しきりに頷いている。抑揚やテンポを本来の譜面から変えて、歌うように指示をしてみたが特に問題は無さそうであった。

 改めてここまでの検証結果を確認しながら、キリアンはマノンの手を取って問いかけてみる。
「どうですか、今日は――『声』は聞こえますか?」
「――ええ、少し。でも、いつもみたいな意味のある言葉ではありません」
 だから、歌うのには影響が少ないのだとマノンは語る。その言葉が真実である事は、手から伝わる体温と共に共感覚(エンパシー)がキリアンにも理解できた。
「そうなの? 普段はもっと誰か、特定の人の声が聞こえる感じなの?」
 ロゼットの脳裏には、新たな疑問が浮かんできた。実際の声ではない、だが『ラ・ヴォイセ』のメンバーの声がマノンには聞こえているらしい。コーラスとして歌うメンバーの揶揄する声を聞くと、彼女は不安や心が締め付けられるような感じを覚えて声が出なくなる。結果として、指揮の通りに歌えなくなるらしい。
「――重症ね。まずはやっぱり、楽しんで歌うことが大切ね。止めないで、歌える限り思う通りに歌いきってみましょ」
 歌う事への恐怖心や抵抗感を取り除くことが先決と、授恵者らは残された時間の大半を路上でのライブに充てることにした。幸いにもこの都市にはストリートパフォーマーが数多くいる。歌う機会には事欠かなかった。

●
 とある日のこと。

「悪いなぁ、時間を取ってもらって」
 パヴェルが一人の老人を連れてきた。
『ラ・ヴォイセ』で以前に指揮を執っていたというその男性に、彼女の問題点を聞こうと言うのだ。ここ数日路上でのパフォーマンスを続ける中で、マノンが聞く『声』は更に小さくなってきていた。失われていた自信が取り戻されることで、症状が改善しているのだろうか。根本的な解決を目指して、授恵者とマノンは精力的に街に出ていた。

「声が――今日は、声が聞こえません」
 久しぶりに指揮者の男性に師事して歌うマノン。その彼女が異変を訴える。あれ程彼女を悩ませていた『声』が、まったく聞こえないのだと言うのだ。
「あなたは感受性が高すぎるから、周りに影響されやすいんだよね」
 おっとりと、老指揮者は諭す。上手く全体のバランスを取るのが指揮者の役割だが、人によってはその波長が合わないかもしれない。だが、マノンに才能がない訳ではない。
「合唱団に所属している時点で、あなたの歌を認めてくれる人はいる。その事を忘れないで」

「――そうだよ! 俺は、やっぱりマノンが楽しく歌っている姿が好きなんだ」
 突然、声がした。一同が振り返ってみると、シンディーに連れられてアランが立っていた。距離の取り方を悩んでいたアランだったが、決心して街角で練習するマノンの下へと現れたのだ。その背中を押したのは、当然シンディーである。
 どんな結果になったとしても、マノンを支える為に傍にいたい。それが、アランの本心だった。青天の霹靂にも似た告白を受けて、言葉を詰まらせるマノン。

「ほら、こういう時こそ歌わないと!」
 ロゼットがリードするように歌う。メアは手近な奏者からバンジョーを借りて、手慣れた様子で演奏を始めた。周囲のパフォーマーも即興でそれに合わせる。サーヤは自然とリズムに合わせて身体を動かしていた。
 最後に、アランが、そしてマノンが歌い始めた。

「どうですか、彼女の歌声はまだ合唱団に相応しくないでしょうか?」
 一本外れた路地の陰から、キリアンは傍らの人物らに問いかけた。マノンには内緒で、合唱団のメンバーを呼んでいたのだ。無論、事前に授恵者の間では打ち合わせ、問題ないだろうと判断しての事だ。
「これなら問題ない――いいえ、一緒に歌わせてもらいたいぐらい」
 テノールの女性が場を代表して言葉を発した。異論ない、と他の面々も頷く。
「それならば、どうするのが一番いいでしょうか」
 キリアンが促すと、彼女たちはややあってマノンの下へと歩いて行った。

●
「どう、すればいいのでしょうか」
 不安もある。だが、受け入れられたという喜びもある。マノンは困惑していた。
「――嬢ちゃん自身が決めんのが一番だ」
 利用するされるといった関係も少なくない。煌びやかな表面の裏には、くすんだ内面もある。だが、後悔しないことが大事だとパヴェルは告げる。
 それは、かつて自分が出来なかったこと。

●
 今日もまた、歌が聞こえる。

マスターコメント

シナリオへのご参加、どうもありがとうございました。 プレイングのポイントとしては、マノンの現状を踏まえて確実に問題点を潰していくプレイングになっていたかと思います。アランに対しても十分にケアがされていたのは書き手としては嬉しいポイントでした。自信を失ってしまったマノン自身や、合唱団のメンバーからの心情も改善されたので悪い『声』が聞こえることは無くなっていくでしょう。 心情面を抜きにしたネタバレとしては、老指揮者の言葉にある通り「テレパスが混線・暴走している状態」がマノンを無自覚ながら悩ませていました。合唱団のメンバーが内心で思っていることを、彼女の意図に関わらず受信してしまっている状態ですね。歯車が一個ズレたが故に、どんどんと悪い方向へ向かっている――そんなスタート地点でした。誰かがジャマーを持っていれば最低限、普通評価は確保できるようなそんな予定でしたがそれこそ余計な心配でしたね。 改めて、リクエストいただいた方。参加いただいた方、皆さまにお礼を申し上げます。 ありがとうございました。
ショートシナリオR

ショートシナリオR普通 報酬:標準6 / 4〜6人

2021年08月30日 03時05分39秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. メア

    僕はメア。よろしくね。 他の参加者を待ちつつ……。 マノンが合唱のときだけ聞こえる「声」の正体が気になるよね。 精神的なものなのか……あるいは、マノンに悪意を持つ誰かがやっているのか。 具体的な案はまだ浮かんでいないんだけど、念のため超聴覚は持っていこうと思っている。 あとはマノンの心のケアもしてあげたいな。 本人の自信を取り戻してあげることが大事な気がするから、歌の上手い人がいるなら、一緒に練習して慣れる……とかはどうだろう? 合唱団のメンバーのなかで協力してくれる人がいるなら、徐々に練習人数を増やしていくのもいいかもしれない。

  2. ロゼット

    ロゼットよ。お手伝いにきたわ。 >「声」の正体 確信はないけどオープニング・解説の情報からだと精神的な、 不安からくる無意識での自分の声って線が強そうかな…。 聞いた限りだと、もとは路地裏、ひとりで歌っていた様子だから、 誰かと合わせたり、人に聞かせることに慣れていないのかもね。 で、自分が浮いてるって思い込みから、悪循環してる感じとか。 歌唱・演奏は多少できるから、練習をやるのも良いと思うのだけど、 この都市なら街頭での弾き語り、路上ライブみたいな歌い手も 居そうだから、そういう場所での度胸試しも手かな、と。 >合唱団のメンバー 選考にはメンバー間の意見も尊重されるらしいから、関わって みるのも良いと思うわ。ただ彼らも選考には必死でしょうし、 いわばライバルだから、協力をもらうのは難しいかなって。 後々マノンの歌が評価されれば、関係も改善すると思うけど。 思いつくところでは、他メンバーの歌っている、練習の様子を 見せてもらったり、彼らの夢や目標を聞かせてもらうことで、 マノンのモチベーションや、考え方にプラスできないかなって。 期間が1週間しかないから、そこも注意点ね。今はこれぐらい。

  3. パヴェル・A・サムルガチェフ

    坊主に姉ちゃん。参加ありがとうな。 キャスターのパヴェルだ。改めてよろしく。 実はあんまし、あの都市にゃぁ良い思い出が少なくてさ、あんまり積極的な事は言えねぇが。 そろう頃には出発、ないし後数日って事が多いからな、相談できるところはしていこうか。 >声の正体 精神的な不安。か。ヴェルクリエじゃ良い声、良い歌、良い評価をもらった者(もん)が上、って街だ。 心に負荷が掛かっても仕方ねぇんじゃねぇかなぁ。 元々あの街で舞いを研究してたもんでさ、似た状況なら経験もあるぜ。 >メンバーへの協力。 協調性が評価されることがあるだろうが、損得勘定がしっかりしてる人間が多い場所だ。俺も単純に協力を仰ぐのは難しいと踏んでる。 マノンの嬢ちゃんを同席させるより、有利な条件を提示して、俺たちが各メンバーから話を聞く、んでかいつまんで伝えた方がいいかもしれねぇ。 あんなに自信がねぇ感じだと、マノンの嬢ちゃんを評価為ている人物をさがすってのも良いだろうな。

  4. ク・サーヤ・クッセーワ

    シーフのサーヤである。 精神的なものであるなら、本人の弱さや思い込みということになるが、物理的に聞こえていることの方から心配したほうがよいと思うのじゃよ。 コーラスといえば合わせはもちろん個別にも練習して居るじゃろうし、その時はおそらく聞こえて居らんのじゃロウしな。 建物の構造的に別の場所でしゃべった言葉が建物の反響によって特定の場所の身に届く現象というものが考えられるので一度練習場所とやらを見ておくのもよいやもしれぬ。

  5. ロゼット

    成立したわね。改めてよろしく。 そうね。精神的に参ってるのと、声は別の場合もあるわね。 未知の呪術とかの可能性は外すとしたら、マノンに授恵者の才能、 テレパスのような能力があって、集中している時に周囲の心の声を 知らずに拾ってる、なんてパターンはありえるかしら? 可能性は潰しつつ、基本は精神的なケアの方で動こうかなって思うわ。

  6. パヴェル・A・サムルガチェフ

    ん。ク・サーヤの嬢ちゃんもよろしく頼むぜ。 となると今相談で固まった事は……だ。 ・マノンにささやいている謎の声の原因を探り、対策する。 →精神的なもの、物理的、超常的なものの可能性 →根本的な解決のためには調査が必要 (それによる不安が作用して追い詰めている可能性?) →歌唱団メンバーへの協力要請 >精神的な場合 マノンの内心的なもの? 心のケアについて >物理的な場合 建物の構造を調査 >超常的(授恵者の才能?)な場合 テレパスのような才能があれば、無意識に受診している可能性もあるのではないか? こんな感じになるだろうか。

  7. メア

    パヴェルはまとめありがとう。 とても分かりやすい。 >精神的ケアについて ロゼットが提案してくれた、路上ライブの度胸試しはよさそうだね。 みなで歌う楽しさを感じてもらう&観客の評価が得られれば、マノンの自信に繋がりそう。 僕も歌はあまり自信がないけど、楽器の演奏なら役に立てるかも。 >歌唱団メンバーへの協力要請 確かにいきなりお願いしても今の関係性だと難しそうだね。 路上ライブがうまくいきそうなら見に来てもらって、マノンの実力を知ってもらうのもありかな?

  8. キリアン・フィッツジェラルド

    どうも、シューターのキリアン・フィッツジェラルドと申します。 宜しくお願い致します。 精神的な不安に関しては、本人のプレッシャーが心身に及ぼす悪影響だとか、外的要因かといった意見がありますね。 その辺りをはっきりさせる為に、僕からはエンパシーを試みたいと思っています。 ロゼットさんの提案した路上ライブですが、演奏も交えるとなれば学術都市の合唱隊的なの、というよりもポルカが近いイメージでしょうか? 僕からも吹奏楽による演奏という形で協力を申し出ます。 ただ正直な話を申し上げますと……反発も覚悟するつもりですが、彼女の心の中を渦巻く感情次第では無理に集団に組み込ませようとはせずにソロデビューとして羽ばたかせる事を将来考えてみた方がいいのでは?とも思っている次第です。 勿論これは依頼の趣旨に反する事ではありますが、あくまで主目的は二週間後の公演でマノンさんが無事に歌いきる事で、その後どうするかはマノンさん次第。 僕からは先述の通りエンパシーを試みた上で、マノンさんはどうしたいのか?何を志しているのか?何の為に合唱団に入ったのか? その辺り、二人三脚で目の前の課題を如何にクリアするかを相談し合ってみたいと思います。 集団といいますか、人と合わせる事の得手不得手に関しても、演奏込みの即興路上ライブは大丈夫かどうかと、確かめたい事は沢山です。

  9. キリアン・フィッツジェラルド

    将来考えてみた方いい、という言い方は悪かったですね……それも選択肢の1つではないだろうか、と言うべきでした。 それにしても、歌う事を諦めきれない中での最後の手段的な。 僕としても、彼女にとっての最善策だとか、協力持ち掛けとかはさておいて単純にマノンさんの事を合唱団の人々はどう思っているのか……その逆はどうなのか。 色々と調べておきたい所です。

  10. ク・サーヤ・クッセーワ

    色々な選択肢を提示してみるのも確かに良いことじゃとおもうぞい。彼女の負担にならない程度であればの。 又、犯人捜しをするようで心苦しいが、合唱団のメンバーに協力してもらい、 少人数の複数のグループで彼女とし練習してもらい、声が聞こえるかどうかの実験も してみたいな。全体練習で声が聞こえるのであれば、悪意であれ無意識であれ、彼女を 意識したり苦手とするものがおるはずじゃ。そのものとの関係改善をはかれれば、 自然と声も聞こえなくなるのでハと思うている。 それとパヴェル殿、エルフを見た目で判断するのはいくない。

  11. パヴェル・A・サムルガチェフ

    サーヤの姉さん……?で、あってるかい。 年の娘に年齢きくのもどうかと思って、そう呼んじまった。謝るよ。 ついでに細けぇ些細な事かもしれねぇが、引っかかる事がいくつかあるからきいてくれるか。 気のせいかもしれねぇからそれだったら遠慮無く言ってほしい。 (オープニングの)事前報告書の指揮者の言葉、なんだが 『どの指揮者に変ってもマノンの嬢ちゃんは音が遅れてる、しかも抑揚も指示とは逆なんだ。』 やっぱしさ、プレッシャーだけじゃねぇ気がするん、だよな。 つうか、指揮者のじいさんの指示が見えてねぇ、ような……?

  12. パヴェル・A・サムルガチェフ

    >キリアンの兄ちゃん ん。嬢ちゃんの身を考えてソロデビューか。 それは自体は悪くねぇと思う。むしろ俺もさ、あの嬢ちゃん背中を押してぇ。 んだが、まずは公演の舞台に立てねぇとこの依頼は失敗って事になっちまう。 まずは目標に向かって最善を尽くす、そこから彼女の支えになっても良いともうぜ?

  13. シンディー・ホシカ

    このタイミングでの参加になったけど、よろしくね。 私はちょっと違ったアプローチでいくつもり。 私はマノンさんとアランさんの関係が気になるの。 マノンさんにとって、自分に親身にしてくれるって人はアランさんだけって思い込んで、自覚のない依存をしてる部分があるんじゃないかって。 自分がうまくいくようになったら、もう心配ないってアランさんが今までのように自分にあれこれと構ってくれなくなるんじゃないか……そんな無意識の不安も声の原因の一つかもって。 だから、私はアランさんと話をすることでマノンさんの問題に対処するつもりなんだけど。

  14. ク・サーヤ・クッセーワ

    昔、ある書物で読んだことがあるが、とある野球のバッターがすべての球に振り遅れるという 話があったな。そのものはデビュー戦時に頭部への危険球のせいでボール恐怖症に なったという見立てだったのじゃが、ヒッティングタイミングを調整してやることでたぐい まれなるホームラン王に変身するという話じゃった。 つまり、どういうことか言うとマノン殿だけ受信方法が他の物と違うという事なのじゃな。 今のままの皆と合わせる訓練よりも皆よりワンテンポ早く、かつ抑揚も逆に支持してみたら 合うようになるのかもしれぬな。

  15. ロゼット

    >キリアン 依頼の目的を放棄しないなら、その先の助言は良いんじゃない? この世界の歌手への道は分からないけど、集団でデビューして、 経験を積んだらソロデビュー、というのは有りそうだしね。 >パヴェル 引っかかる部分がないでもないけど、単なる言葉のアヤなのか、 ヒントなのか、私の読解力が判断がつきかねるかな。 私自身はアランの見解を、まずは信じる方でいきたい感じ。 参加者6人で、期限が1週間あるのだから 1日分ぐらいの時間は分け合えるでしょう。

  16. ロゼット

    ゴメンなさい。抜けたわ。 >声について 私も彼女と「合わせ」の試しはしてみるつもりだから、 その時点で声が聞こえるのかは、確認してみるわ。 それで聞こえるなら、メンバーや練習場が原因の線は弱くなるかな? 路上ライブは、あまり具体的なイメージは決めてないわ。 ポルカみたいかもしれないけど。 私は歌と音を出す都合、楽器は携帯型の鍵盤楽器ね。 環境を変えて歌えば、少し違うかな、ぐらいの勢いだけど。

  17. メア

    >音がずれる件 変な声が聞こえて集中できないってことだから、自分の声や伴奏があまり聞こえてないせいかも。 色んな原因を考えてつぶしていくのがよさそうだね。 僕はマノンから話を聞きつつ、声の原因が精神的なものなら自信をつけられるよう動いてみるね。 あとは、歌唱団のメンバーにも声をかけてみるよ。

  18. キリアン・フィッツジェラルド

    SPにも余裕がある事ですし、僕の持ち味や考えが活かせると思って参じましたので、目的放棄は致しません!(ふんす せめてアランさんが望むようにマノンさんが心から歌えるようにするにあたって、彼女の心の枷となっている憑き物だけでも落とせればと。 能力がある者には尊敬と機会を、とは言いますがそこに優劣の概念は果たして存在するのか、そもそも優劣に関係なくオーディエンスを感動させる事が出来れば「この人は才能がある」と見直されるのか。 なので度胸試しの路上ライブにあたり、合唱団の方々にこっそりオーディエンスとして参加してもらって、彼らを感動、納得させられれば評価を改めてくれるのかとも思ってます。 何らかのテレパス受信となれば、僕からもテレパスを持ち込んで試してみようかと。

  19. パヴェル・A・サムルガチェフ

    >ロゼットの姉ちゃん 深読み為すぎるのもよくねぇ、か。 才能を疑うってなりゃぁ、それを信じてるアランの坊主を疑う事にもなっちまうわけだし、な。 >キリアンの兄ちゃん おう。お前さんの心意気、良く伝わってきたぜ。ああ、本当、上手く行って欲しい。 路上演奏の手配は兄ちゃんに任せる形になる。 俺もマノンの嬢ちゃんを知る人物を探してくるからよ。 >音がずれる→受信方法が違う ん。1日貰えるってなら、俺も自分の考えで動いてみるぜ。 提案って訳じゃねぇからさ、手がかりにするにしても、しねぇにしても 色んな可能性を考えて動いてくれるなら、当たる所もあんだろうし。 確かに、「音(または視覚)を頼りにして即興であわせている」としたら 一拍遅れちまうっての得るよな。俺だって舞の形や曲調もわかんねぇ状況でやってくれって なったらまず耳で雰囲気を探ろうと考えるもんでさ。

  20. キリアン・フィッツジェラルド

    受信方法の違いというのもありますか……でしたらサムルガチェフさんの方に任せます。 テレパスどうこうに関しては、路上ライブの為の演奏参加という事を自分で言ってたのを失念してました…… なのでテレパスについては聞かなかった事にして下さい。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0