【アルメール隊】コーンの猛攻、迫るはコーンイーター
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シナリオID:1254
オープニング
リーンエス王国内、レインディア貴族領のある農村。
そこで生育されているコーン畑の真ん中を領主であるレリトール・レインディアの娘【アルメール・レインディア】が走っていた。
彼女は必死な形相で走り、何かから懸命に逃げているようだった。
その隣を駆けているのは彼女お付きのエルフの侍女【シリカ】。必死なアルメールと違い、彼女は澄ました顔のまま走っていた。
「だぁぁぁああああーーーなんであんなのがいるのよぉおおーーーッ!」
「コーン畑の栄養を糧に大きく育ったようですね。魔獣とはいえ生物です。こういうこともあるかと」
「なんであんたはそんなに落ち着いてるのよ!? 正直、絶体絶命だからね、この状況!?」
彼女達、まだ二人しかいない私兵部隊【アルメール隊】は農村からの救援要請を受け、ある魔獣の討伐に来ていた。
その魔獣はコーンを主食とし、それらを食べて成長する厄介な魔獣だった。報告によれば、住み着いたのは最近だという。
走る彼女達の背後からコーン畑を踏み荒らしながら猛然と突進するのは件の魔獣【コーンイーター】だ。
亀のような姿ではあるがその体躯は大きく、民家程度はあるだろう。背中には砲台のように三つの筒状の器官が生えている。
追いつけないと判断したのだろう、コーンイーターは四肢でしっかりと土を踏み締めると辺りのコーンをむしゃむしゃと貪り始める。
その直後、背中の器官の一つが黄色く発光し淡く光り輝き始めた。
「お嬢様、来ます。左に回避を」
「わかってるわよぉぉぉおおーーーっ!」
左へ体全体で飛び込むように回避したアルメール達のいた箇所を黄色い水流が撃ち抜いた。それは高圧縮された熱いコーンの液体。コーンポタージュ砲とでも言えばいいだろうか。それの射撃だった。
高圧縮された熱々の液体は触れれば火傷どころでは済まない。現に、打ち込まれた地面は黒く焦げ付いていた。
「……目を見張るような威力でございますね、お嬢様」
「感心してる場合じゃないっての! 一発撃てばチャージには時間が掛かるみたいだし、こっちから打って出るわよ、シリカ!」
咆哮を上げるコーンイーターに向かってアルメールは飛び出した。その手は剣の柄に置かれている。
彼女を踏み潰そうと足を振り上げたコーンイーターだったがその振り上げた足へ、シリカが投擲したナイフが刺さり、若干の軌道が変わる。
自分のすぐ横の地面を踏んだコーンイーターの足を潜り抜け、アルメールはその懐へと入った。
「行くわよっ! ……瞬剣絶刀、紫電――――っ!?」
紫電一閃を放とうとしたアルメールの目の前に突如として黄色い壁が現れたのだ。否、それは壁ではないコーンの匂いを放つ液体だった。
なんと、コーンイーターが低温で粘質のコーンの液体を防御としてか目くらましとしてかはわからないが、体の周りに噴射したのだ。
どろっとした粘質の黄色い液体を被ったアルメールはどろどろのびしょびしょになりながらも何とか後方に跳び、コーンイーターの近くから離れる。なお、シリカはちゃっかりと避けたようだ。
「何なのよぉこれぇっ!? うっわ、ポタージュ臭い……しかも、体が重くなって……っ!」
「粘度の高い液体ですから、衣服に吸われるとかなり重くなってしまうのでしょうね。偵察はこの辺りにして、ここは一旦引いて体制を整えるのが得策かと」
シリカの言葉に頷いたアルメールは身を低くしてコーン畑の中に隠すとそのままその場を離脱するのであった。
●コーンの悪魔
後日、コーンイーターに関する偵察情報を纏めたシリカとアルメールは冒険者達と共にコーン畑近くの民家にいた。
資料を机に並べると少々コーン臭さの残るアルメールが話す。
「いい? あいつはコーンがある限り、無尽蔵にエネルギーの補給が可能よ。かといって農家の人のこともあるから、必要以上にコーン畑を焼き払うとか被害が大きくなるようなことはできないわ」
「しかもです、あらゆる手を試したのですがあの魔獣はコーン畑が自分の絶対の勝てる領域であることを本能的に理解しているようであの畑から出てくることがありませんでした」
相手の得意な領域での戦闘になる上、相手はエネルギーの補給がほぼ無尽蔵に行える。
これは完全に不利な状況そのものであった。幸いなのは、現在確認されているコーンイーターが一体しかいないことぐらいだ。
「でも不思議なんです。コーンイーターは本来は番で行動する魔獣です。それが一体しかいないなんて……どこかに隠れている可能性も視野に入れないといけませんね」
「隠れてるなんてことありえるの? この間は結構、畑の中を走り回ったと思うんだけどあんなでっかいのが隠れていたら気付くものじゃない?」
「コーンイーターは基本的に雄は臆病なので、地中に隠れているんです。雌に守ってもらうという形ですね」
アルメールはシリカの言葉を聞きながら資料に目を落とす。
資料によれば、雄は一回り雌よりも小さく、気性も大人しいが砲身が一つだけの器官から撃ち出す液体は雌以上に高圧縮されたものであり、危険と記述があった。
「ねえ、あの雌よりもやばい高圧縮の液体って……もしまともに当たったら……」
「ええ……無事では済まないでしょうね。噂でしかありませんが……ダマスカス鋼の盾を貫通したとか……」
「は? 嘘でしょ、あんな硬い盾を!? もし雄に出くわしたら、なんとか避けながら戦うしかなさそうよね」
資料をよく読みながら、アルメール、シリカと冒険者達はコーンイーターへの対策を練るのであった。
解説
マスターより
リプレイ
日がまだ高く、日光がさんさんと畑を照らす中、冒険者達とアルメール、シリカは身を隠した状態でコーンイーター達の様子を窺っていた。
「雌がほぼ畑の中心、雄は少し離れた丘の上にいるみたい。皆、事前の打合せ通りに動くよ」
そう声をかけたのはコハクだ。彼女は先んじて捜波・改によって周辺を探っており、雄と雌の位置を把握している。
二本で一対の剣【黒刀雷帝】【黒刀炎帝】を握りしめると戦闘開始とだけいい、コハクは畑の中心に鎮座する雌コーンイーターに向かって走り出す。
彼女が動き出したのを合図にそれぞれが事前の相談で取り決めた位置取りへと移動を開始した。
背の高いコーンの生える畑を駆けながらコハクは雌コーンイーターへと肉薄、黒刀雷帝を振るう。
黒い峰を持ち、刃先の赤いその刀剣が思いっきり振り下ろされ雌コーンイーターの頭部に命中した。頭部にある鱗のような装甲が少し欠ける。
コハクの攻撃に続くように雌コーンイーターの背後からキオルティスが足の付け根を狙う鋭い一撃を放った。ダマスカス鋼の細剣が雌コーンイーターの足の付け根を貫く。赤い鮮血が噴出し雌コーンイーターが吼えた。
「やはり付け根のような所は装甲が薄いみたいだよ、そっちを狙う方がいいかもしれないね」
細剣を引き抜いたキオルティスの隣を前傾姿勢のシリカが駆け抜けていく。
雌コーンイーターが振り向こうとした瞬間、擦れ違い様にシリカが両手に持ったナイフで雌コーンイーターの側面を斬り裂いた。側面は比較的装甲が薄く、ダメージが通りやすいようだ。
「さあ、こちらですっ! 貴女のお相手は私がしましょう!」
剣を振り上げたフリーダ=ブロムヴィストが高らかに宣言する。シーザーロアの効果により、雌コーンイーターはぐるりと頭を動かしてフリーダの方を向いた。赤い瞳がじろりと彼女を睨む。
そんな魔獣の眼光に怯むことなく、フリーダは雌コーンイーターめがけて白金のパラッシュを振り抜いた。白い剣閃が雌コーンイーターの足に傷をつける。
「相手の砲口の向きと顔の向きに注意してください。狙わずに撃つというのはおそらく不可能だと思うので」
グレイブ・ヤードは圧縮コーン弾への注意を促すとレゾナンス・オブ・ヴァローを放つ。
それは辺りの者を包み込む優しい光でありその光には命中、回避の向上効果と抵抗力の上昇効果が期待できるものだ。勇気が湧くとの噂もあるがそういった効果はない。
「グガアアァァァアアアッ!」
けたたましい咆哮を上げながら雌コーンイーターは背中にある砲台状の器官を稼働させるとその砲口をフリーダに向け、圧縮されたコーンの液体【コーンスプラッシュ】を放った。黄色い液体飛沫が撒き散らされ凄まじい速度のコーン弾がフリーダを狙う。
真っすぐに飛来するそれをフリーダは白金のラウンドシールドを構え、迎え撃つ。
激突した瞬間、巨大なハンマーにでも殴られたかのような衝撃が彼女を襲うが、地を踏みしめてフリーダはそれに耐えきった。
しゅうしゅうと煙を放つ盾と、衝撃の余波なのか震える彼女の手がコーン弾の熱量と衝撃の強さを物語っていた。
「これは……何度も耐えられるような代物ではありませんね」
その時、丘の上にて砲弾をチャージしていた雄コーンイーターがコーンスプラッシュを放つ。それは後衛のグレイブを狙った狙撃だ。
「させませんっ! ここはボクが……耐えきって見せますから!」
攻撃に割り込むように雄コーンイーターの射線に躍り出たハルハン・ツァガーンナルがダマスカス鋼の盾を構えてグレイブをコーン弾から守る。
盾を斜めにした彼女は受け止めるのではなく、いなし弾く方向で防御を試みたのだ。撃ち貫かれるのなら弾けばいい。
がいんっと凄まじい音がしたかと思うとツァガーンナルが持っていたダマスカス鋼の盾は当たり所の問題か、大きくひしゃげていた。だがまだ盾としては辛うじて使用可能だ。
ツァガーンナルの隣を走り抜けアルベルト=V=シュタールシュヴェーアトが叫ぶ。その手には大太刀が握られている。
「よく耐えたっ! 今度は俺の番だ! 雌コーンイーター、お前に畑はこれ以上荒らさせはしないっ!」
雌コーンイーターの懐にアルベルトはチャージングで飛び込むと大太刀を大きく振り被った。
「斬敵一刀……斬り裂けっ! 紫電一閃ッッ!」
紫電一閃。それは卓越した戦士が放つ力と速度を兼ね備えた必殺の一撃。
その威力は凄まじく、並みの相手であれば真面に食らった場合、ひとたまりもないだろう。
放たれた雷光のように真一文字に振り抜かれたアルベルトのその一撃は、雌コーンイーターの装甲ごとその身を大きく斬り裂いた。衝撃で雌コーンイーターはたたらを踏んで後ずさる。
雌コーンイーターが体勢を立て直す前にツァガーンナルが攻撃を仕掛ける。
鋼の斧を振り被り重量に任せて破鎧砕を放つ。防御低下のエーテルを纏った一撃が雌コーンイーターを狙う。
力の込められたその一撃はいまだよろめいたままの雌コーンイーターの足に深い切り傷を与える。ぐらりとその巨体が揺らいだ。
背の高いコーンに身を隠し、状況を捜波・改で探っていたコハクは雄が移動したことを感知し全員にそれを知らせる。
「雄が移動した、全員注意して。雌は中々のダメージを負っているはず、このまま押し切るよ」
コーンの畑から姿を現したコハクは両手に持った黒刀雷帝、黒刀炎帝を振るい雌コーンイーターへ襲い掛かった。
地を蹴り跳躍したコハクは雌コーンイーターの頭部の付け根を擦れ違い様に二本の黒刀で深く斬り裂く。
身を翻して着地したコハクの背後で雌コーンイーターが吼えた。
「さてそろそろ準備と行こうか。じゃあね……コーンのレディ」
疾風足で加速したキオルティスは自身の身をコーン畑の背の高いコーンの中に隠す。
視界から消えるだけならばこれで事足りるだろう。だが彼の試みはこれでは終わらない。彼なりの狙いがあるのだ。
ハイディング。これは認識を阻害するエーテルを張り巡らせることのできるスキルだ。使用されてしまえば認識を阻害された者に彼を見つけることは困難となる。
雌コーンイーターは隠蔽されたキオルティスの気配を完全に見失った。
「ほらほらぁっ探してる暇なんかないわよっ! 雷光一迅……紫電一閃ッ!」
雌コーンイーターが反応するよりも早く、鞘から抜き放たれたアルメールの刀が雌コーンイーターの三つある砲台状の器官のうち、一つを斬り飛ばした。くるくると宙を舞った砲身が地面に突き刺さる。
切断された切り口からコーンの液体を溢れ出させながら雌コーンイーターは地面を踏み鳴らしながら吼える。
「大分怒っているようですね、ですがそれはこちらも同じこと。畑を世話する農家さんの怒りを思い知ってください!」
白金のパラッシュを逆袈裟に斬り上げ、フリーダは雌コーンイーターの首の付け根を狙った。
光を受けて輝いたように見えるその白い剣身が振るわれ、雌コーンイーターの首に深い一撃を刻み込んだ。
剣を振るって血を飛ばし、フリーダはその切っ先を雌コーンイーターに向ける。
「農家さんは雨の日も風の日も、一生懸命にコーンを育てたんです。それを勝手に食べるなど、決して良い行いではありませんよ」
「その通りです。作物というのは育つのに時間と手間が掛かる。だからこそ育てるのが大変なのですよ」
グレイブはフリーダの言葉に答えながらエーテルを無銘祭祀刀に収束させるとフリーダに向かって放った。
エーテルが飛来しフリーダに命中した瞬間、戦闘で傷付いた彼女の体を暖かな光が包み込む。
柔らかな光は徐々に彼女の傷を癒し、細かな切り傷や擦り傷を塞ぐ。
癒しの力というのはパーティーに不可欠のものだ。
なぜなら戦闘をしていればその身は危険に晒され、無傷ではいられない。小さな傷に始まり、毒や麻痺などの状態異常だってあるだろう。
それらを治すのはもっぱらヒーラーの役割だ。その為に彼らはとても敵に狙われやすく、その身も決して頑強とは言えない為に守る役割も重要となってくるのだ。
グレイブは敵の動きを見ながらその砲口に注目する。
「やはり液体を直接、砲口へチャージしているようです。あれならば異物を詰めれば逆流が狙える可能性がありますね」
「そっか、それならタイミングを見て砲口に何か……」
コハクがグレイブの考えに賛同したその時、彼女は何かを感じ取った。そう、離れた位置にいたはずの雄が突如突進しこちらに向かってきているのだ。
「みんな、雄が来てる。注意して」
コハクの声掛けにより、全員が雄の襲撃に備えたその直後、戦場のど真ん中……雌コーンイーターと並ぶようにして雄コーンイーターがコーンを搔き分け、現れたのだ。
雄コーンイーターは大きく息を吸い込むと身体をぐるっと囲むように生えている小さな砲口から高速で球形のコーン弾を放った。それはまるで散弾のように辺りへ撒き散らされる。
鉄の玉のように硬い散弾が辺りの冒険者達を襲った。
体中に痛みを覚えながらもツァガーンナルは斧を構え直し、雌コーンイーターへ刃を向ける。
「雄が来たということですが、まずは雌をどうにかしないとですよね……」
盾を持つ手に再び力を込め、地面をしっかりと踏みしめるフリーダは白金のパラッシュを構えてそれに答える。
「その通りです、一気に雌へ攻撃を集中して倒す……事前の相談と変わりはありません。ここが踏ん張り所ですよ」
口の端を切った為に流れ出た血を拳で拭い、アルベルトは大太刀を再び振り上げた。
「ああ、やることは単純明快だ。目の前の雌を全力で叩く……んで、後は雄を片づける。それだけだっ!」
走り出したアルベルトは大太刀を振るい、遠心力を生かした鋭い一撃を雌コーンイーターへ叩き込んだ。
筋力と全身の体捌きを生かしたその攻撃は長い刀身を余すことなく生かした攻撃だ。
元より大太刀というものは長く扱い辛いものだが、熟練の者が使えば馬すら一刀両断にできるという。
長い刀身がぎゅんっと振るわれ雌コーンイーターの右足を切断する。足を失い、ぐらっと体勢を崩した雌コーンイーターは地面に顔を強く打ち付けた。
体勢を崩した雌コーンイーターの動きを見逃さず、アルメールが鞘から刀を抜き放ち雌コーンイーターの目を狙う。
振るわれた素早い刃が雌コーンイーターの右目を潰す。赤い血を流しながら雌コーンイーターは頭を振り回し、咆哮を上げた。
少しでも体力を回復しようとでもいうのか、雌コーンイーターは辺りに生えているコーンをむしゃむしゃと食べ始める。
「回復なんてさせませんっ、ボクが貴女を止めますから! 農家さんの大事に育てたコーンを勝手に食べちゃダメなんですよっ!」
走り出したツァガーンナルはその勢いそのままに身体をぐっと捩ると斧を振り回すように振り抜いた。
斧刃が雌コーンイーターの硬い側頭部を殴り飛ばし、コーンを食べることを中断させる。頭を殴られた雌コーンイーターは少し目を回しているようだ。
巨大な魔獣に対し、臆せず雄々しく斧を構えて立ち向かう彼女の姿は憧れ、背を追いかける父の姿に少し似ているのかもしれない。
(もう少し……あともう少しで準備が整う……それまで目を回していてくれるかい、コーンのレディ?)
コーンの中に身を隠し、すぐに飛び出せる体勢を整えているのはキオルティスだ。
彼は自身を隠蔽状態としこの雌コーンイーターが弱るタイミングを狙い、その武器にエーテルを練りこんでいたのだ。
エーテルを練りに練った上で放つ必殺の一撃。タナトスバイト。彼の狙いはそれだった。
練ったエーテルの手応えを感じたキオルティスはバネに跳ね上げられたかのようにコーンの中から飛び出した。
死角から飛び出したキオルティスのことを雌コーンイーターはまだ視認していない。完全に不意の一撃だった。
懐に滑り込んだキオルティスは狙い澄ました必殺撃、タナトスバイトを雌コーンイーターに放つ。
「これでお別れだ、コーンのレディ。さよなら、来世では違った形で会えるといいね」
彼の繰り出したダマスカスの細剣が雌コーンイーターにとどめを刺し、その身を完全に地面へと沈めた。
その直後、雄コーンイーターが咆哮を上げる。それはつがいの死を悲しんでいるようにも聞こえた。
「次はお前の番。食べ物を荒らす者には鉄槌を下す……!」
疾風足で加速し、雄コーンイーターへ一瞬の内に肉薄したコハクは体を回転させ、回転力を乗せた強打の一撃を放つ。
振るわれた黒刀炎帝が雄コーンイーターの右足を斬り裂いた。
コハクに続くようにして反対側から飛び出したシリカが雄コーンイーターの右足を更に深く裂く。ついには立っていられず雄コーンイーターは地面に身体を倒す。
「さあさあ、狙うのはこちらですよ! こっちを狙うのです!」
声大きく宣言したのはフリーダだった。彼女はシーザーロアを放ち、雄コーンイーターの注視を一手に引き受ける。
防御力に自信がある彼女だからこそ、こうして味方の鉄壁の盾となれるのだ。
白金のパラッシュを突きの態勢で構えるとフリーダはそれを雄コーンイーター目掛けて放つ。
鋭い切っ先が雄コーンイーターの首の付け根を貫き、深い傷を与えた。
「私達がいる限り、貴方のような魔獣の好きにはさせません。厳しい事ですが、ここは農家さんの畑。貴方に食べさせるコーンは一粒もないのです」
そういうフリーダの背後でグレイブは身体と装備品から癒しのエーテルを引き出し、それを無銘祭祀刀の切っ先へ向けて集中させていく。
無銘祭祀刀の刀身には無数の奇妙な言語が刻まれているがそれが何なのかは定かではない。一説によると祈りの言葉ではあるらしいが。
切っ先に集まったエーテルが撃ち放たれ、アルベルトに命中する。
アルベルトは常時、攻撃に主眼を置いた動きをしている為か、その体には他の者よりも傷が多い。それ故に、このような回復はとてもありがたいものだった。
「回復助かるぜ、これでまだまだ動き回れるからな!」
「いえいえ、私は必要なことをしているまでですから。さあ、もう一息です。押し切ってしまいましょう」
「ああ、その通りだ。もう小細工はいらない。このまま全力をぶつけてやる! でやぁぁぁあーーーッ!」
まだ動くことのできない雄コーンイーターへアルベルトはチャージングで突進する。振り被った大太刀が雄コーンイーターに迫った。
あともう少しで雄コーンイータへ到達するというその瞬間、カウンターとばかりに雄コーンイーターはコーン弾をアルベルト目掛けて放ったのだ。
だがその射線にフリーダが割って入る。コーン弾を白金のラウンドシールドで受け止め、走るアルベルトを守り抜いた。
「行ってください、ここまでの様子を見た限り、あれは連射出来ない筈ですっ!」
「任せろぉっ! うおぉぉおおおおーーっ!」
フリーダの隣を駆け抜け、アルベルトは力を込めて大太刀を振り下ろす。斜めに剣閃が走り、雄コーンイーターの装甲ごとその身を深く斬り裂いた。
立ち上がって動こうとする雄コーンイーターへ側面からツァガーンナルが飛び出す。
「このまま押し切ります、これでも受けなさいっ!」
斧を振り被り、地面をしっかりと踏みしめると大上段から斧を思いっきり振り下ろした。
重量のある鋼の斧刃はギロチンの如く振り下ろされ、度重なる攻撃で砕かれぼろぼろの雄コーンイーターの装甲を打ち砕く。
装甲を砕いてもなおも止まらないその斧刃はそのまま甲羅の下にある身を斬り裂き、雄コーンイーターを地面へと縫い留める。
雄コーンイーターは既に力がなく、重い斧刃を跳ねのけることができないようだった。
「これならば問題なく入りそうですね。ではお二方、最後の詰めはお任せしますよ」
そういったグレイブは麻袋から石を取り出し雄コーンイーターの砲口へ投擲した。
その動きに合わせてタイミングを見計らい、キオルティスとコハクがほぼ同時に駆け出す。
放物線を描いて飛んだ石は、すぽっと雄コーンイーターの砲口へ入った。次の瞬間、チャージしていた圧縮コーンの液体が逆流し砲身が爆発を起こす。
黄色い飛沫を飛び散らせ、粉々に砕け散った砲身ではもうコーン弾を撃つことはできないだろう。
完全に攻撃の手を失った雄コーンイーターにキオルティスとコハクが左右から迫る。
二人はそれぞれ武器を構えると擦れ違うように雄コーンイーターを斬りつけた。二つの剣閃が巨大な雄コーンイーターの身を深く傷つける。
満身創痍で既に顔一つ動かすことができない雄コーンイーターの前に立つと二人は剣の切っ先をその頭部へ向けた。
「これで最後だよ。君には悪いけど……ここに君の居場所はないんだ」
「そう、どちらも“生きている”。だからこそ譲れないモノがある。それじゃ、さよなら」
コハク、キオルティスが振り被った二つの剣が振り下ろされ……雄コーンイーターは絶命した。
ここに農場荒らす魔獣は討伐され、コーン畑に平和が戻ったのである。
●コーンの宴
夕方。日が沈み始めるころ。
被害少なくコーン畑を守ることに成功したアルメール隊と冒険者を祝して小さな宴が催されていた。
「美味いっ! この蒸したトウモロコシも、こっちのタレをかけて焼いた奴も! 何本でもいけるぜ!」
「物凄く……美味しい。ほっぺたが落ちるって、こういうことをいうのかも」
アルベルトとその隣に座るコハク。両名は農家の人々が作ってくれたコーン料理に舌鼓を打っていた。
特製のコーンによる料理はどれもほんのり甘く、そして濃厚なコーンの香りがする。
焼きトウモロコシにコーンのスープ。トウモロコシご飯にトウモロコシのお茶。
見渡す限りのコーンの料理に一同は大変満足してそれらを食べていた。
その中でも、アルベルトとコハクの食べっぷりは見ていて気持ちが良くなるほどのものだった。
これほど美味しく、いっぱい食べてくれるのなら作った者達も自然と笑顔になるに違いない。
現に二人を見ている農家の人々はとてもいい笑顔を浮かべていた。
そんな食べっぷりのいい二人を見てツァガーンナルはスープを口に運びながら微笑む。
「ふふっ……あんまり、急いで食べると喉に詰まってしまいますよ?」
「むしゃむぐ、それは大丈夫だ、俺が喉に詰まらせるわけが……んぐっ!?」
「ほらっ、言わんこっちゃないです。これをどうぞ」
ツァガーンナルに手渡された水を飲み、アルベルトの喉は窮地を脱する。
それを見たコハクは笑っていた。口の端にコーンがちょっと付いているのはご愛敬。
「ふふ、急いで食べるから」
「そうですよ、急いては事を仕損じると、啓示の方にも出ていますから」
そう言いながらフリーダは食べ終えたトウモロコシの芯を皿に置きもう一本を手に取ってかじる。
そんなやり取りを眺めながらコーンで作られた酒【モロコシ酒】を飲んでいるのはキオルティス、シリカだった。
「いい味のお酒ですね。香りも申し分ないものです」
「そうだね。苦労した甲斐があったってことかな」
「確かに。苦労に見合う報酬だと思いますよ」
キオルティスはまだ収穫されていないコーン畑を見て苦笑する。
「きっと、今年のコーンは一味違った味と感慨がするんだろうね」
そこから少し離れた位置でアルメールはグレイブと共に依頼者であるコーン畑の責任者からお礼を受けていた。
「アルメール様、ありがとうございます。それに冒険者の方々も。これで私共の生活も安泰ですよ」
「領民の安全を守るのは当然だもの。これぐらいどうってことないわ。また困ったことがあったら教えて頂戴、その時はアルメール隊がなんとかしてみせるから」
「冒険者としてもこういった事態には協力を惜しみません。魔獣の対処は難しいですから」
「ええ、そうさせてもらいます。本当にありがとうございました」
そう言ってコーン畑の責任者は深々と頭を下げるのであった。
●アルメール隊の今後
レインディア貴族領郊外にあるアルメール隊の拠点。
ここは冒険者とアルメール隊が魔獣を片づけ、確保した場所だ。
現在はある程度補修が完了し、日常生活を行うにしても問題はないようになっていた。
アルメール隊が発足してからというもの、アルメールはこの屋敷にて主に行動している。
食事に関してはシリカが用意してくれるので差して不自由はしていない。
だが冒険者のように動くことも考えると自炊できないというのはどうも不利益に思えた。
「うーん……私も料理とか覚えるべきかしら? でも長期行動なら携帯糧食とかあるだろうし……」
頭を捻っていたアルメールの背後で扉が開く。
ふと振り返ると扉からはツァガーンナルとフリーダが顔をひょっこりと出していたのだ。
「あの、アルメールさんお時間良いでしょうか?」
「ええ、構わないわよ。それで何の用かしら?」
話を聞いてみると、なんと二人はアルメール隊に入りたいと申し出てくれたのだ。
これにはアルメールも驚いた表情を見せる。なにせまだアルメール隊はアルメールとシリカを含めても二人。人数的には隊と呼べるかどうかすら怪しいのだから、そんな始まりたての隊に自ら希望者がいるなんてと彼女は思っていた。
「ええ、私でよければ……ですが」
「はい、頑張るアルメールさんにお力添えしたいと思いますので」
アルメールは二人の手を取り、喜んだ表情を見せる。
「そりゃもうありがたいわよ! 二人共、これからよろしく頼むわね! ああ、でも二人の行動を制限するようなことはしないから。あくまで何か任務があった時に通達が――」
それから二人に少し隊の説明をアルメールはする。
任務のこと。屋敷の使用場所のこと。アルメール隊の基本方針などなど。
一通り説明を聞き、関連書類を受け取るとまた会うことを約束し、ツァガーンナルとフリーダは帰っていった。
それから少し時間が経ったお昼頃。
アルメールはアルメール隊の拠点、屋敷内に用意された【隊長の執務室】にて書類仕事に奔走していた。
慣れない隊の関係書類を書きながら、細かい部分を隣に立つグレイブに教わりアルメールは書類を何とか完成させる。
「はぁぁー終わった! 隊に関する書類って意外と多いのね……」
「そういうものです。領民の暮らしを見て、困りごとを解決し、自らの考えで彼らと接する。そうすることで自分は何に支えられて生きているのか、守るべき対象を理解する。それを自覚するのも上に立つ者の資質、と言うものですよ」
「そうね、今ならそれが分かるわ。ほんと、あなたって私の先生みたいよね?」
机の上にあった紅茶の入ったティーカップを持つと、アルメールはそれを口に運ぶ。
「先生? 私がですか?」
「ええ、そうよ。色んな事を教わってるもの。これからもよろしく頼むわね、グレイブ先生?」
「ははは、先生……という柄ではありませんが、私で良ければ協力しますよ」
「ふふ、ありがと。あ、そういえばグレイブも入ってくれるの、アルメール隊?」
アルメールの問いかけにグレイブは少々考えた。
少し間をおいてから穏やかな声色でそれに答える。
「そうですね、考えておきますよ」
こうしてコーン畑の魔獣騒動は一件落着となったのだ。
魔獣も生物だ。生物が生きる為には糧を得る必要がある。
それは生きとし生けるもの、誰もが同じだ。
だが譲れない物があるならば時に争うのは仕方がない。
それが“生きる”ということなのだから。
マスターコメント
ショートEX普通 報酬:多い6 / 4〜10人
2021年08月18日 10時32分45秒 公開
相談掲示板
ヒーラー、グレイブ・ヤードです。 またけったいなものが出てきましたね
シーフのキオルティス。キオでもルティスでもお気軽に。 初めての方もそうで無い方も宜しくね! …確かにエキセントリックだね(苦笑 とりあえず、どういう状況で雄が出て来るのか気になるかな。 コーン畑の被害を最小限にする為にも混戦は避けたい気もするんだけど。 コーンスプラッシュは予備動作がありそうだけど、他はどうなのかな…
ウォーリアのハルハン・ツァガーンナルです。 ナルと、呼んでもらえたら。よろしくおねがいします! 毛皮まで匂いが付かないように、注意したいですね できるだけ、コーン畑を守りながら戦えたら良いですが。 雄を探したり、乱入に注意しながら、雌から倒すのを狙うのが良いのでしょうか コーンスプラッシュ以外の技は、予備動作は無いかもしれませんね どこから打ち出してくるのか分かれば、予備動作があるかどうか、分かるかもしれません
まぁ雌雄で協力されるとほぼ積みそう(べたべた行動&移動阻害に狙い撃つぜ貫通弾)ですので、発見できているものから着実に数を減らす、がベターではないですかね? 安心点は・・・言うなら雌はサイズ的に隠れている、というのがまあないでしょうという所ですか。 隠れながら移動阻害とかだったら危険域でした。 (民家サイズがどうやって隠れるのか) そもそも食らわないような立ち回りとかが大事かと思いますが
ウォーリアのフリーダです。よろしくお願いします。 現状ではコーン畑に雌が目立つ様にいるみたいですし、 まずは雌から狙っていく形が良いと思います。 雄が奇襲を仕掛けてくる可能性を考えると速攻を目指した方が良い気もしますが、 可能であれば予め雄の位置を特定できれば有利に立てるかと。
ウォーリアのアルベルト=V=シュタールシュヴェーアトだ。 よろしくな。 ヤードさんの言う通り、まずは姿を現している雌に全力で攻撃を仕掛けて、確実に仕留めてから雄にあたる・・・各個撃破が良いと思うな。
最悪の場合の保険として【光縛封】(対物理結界)を準備しておきます。 速攻を心掛けたい所ですね。 多少の負傷に関してはこちらでなんとかします。 一応解呪関係も備えましょうか。 >気になる事 索敵などで先に雄を抑えられれば相当楽になります、かね?
速攻できるかはわかりませんが、雄が現れたら、どうにかして分断しておきたいですね。 民家サイズの雌は吹き飛ばし出来ないと思いますが、雄の方なら、ドラゴンチャリオッツで吹き飛ばしたりはできそうです >気になる事 雄は地中にいる。みたいなので、地中からの奇襲が怖いでしょうか
あと一日を切りましたので、現時点で大まかな形を作っておきます。 怪我であれば治しきりますので、多少の無理を織り込んでいきましょうか。
そうだね…雄の位置把握はしておいて損じゃないか…と。 それでいて雌から倒すのには賛成、かな。 今の所の俺の行動に関しては、まずは雄の位置把握。 次いで雌に対してハイディングとかを巧く使用、 コーンマッドの危険性を減らした攻撃をしたい所…ってカンジかな。 そう言えばあんまり範囲攻撃は多用しない方が良い…のかな? コーン畑の被害、出さないようにするのなら、だけど。
そういえば、雌を倒す前に雄が現れたら、どうしましょうか 連携してくるようなら、シーザーロアとかで引きつけることもできますが
>雌を倒す前に雄が出てきた そのまま前線組は雌の対処に集中、かなと思います。 特殊な条件(同時に倒さないといけないとか)が必要な敵ではなさそうですし 雄は後衛組で動きを封じるなりの対処を重視して、雌を倒しきるまでの時間を稼ぐ その後は合流して皆で囲んでたたく、でいいのではと思います。 >その他事 思い付きですが、麻袋に土や石を詰めといて「砲塔に投げ入れる」とかしてみようと思います。 いえ、今回補助回復特化で攻撃系のスキル持ち込んでいないので、それ以外の出来そうなことを考えたら何か詰めて自爆とかさせるのもありかなと。
全然顔出し出来なくてごめん。 シーフコハク、よろしく 現状の流れは確認できているから取り敢えず流れに沿うようにして動くよ
>グレイブ なるほど。分かりやすい説明ありがとうございます! ボクも、それに沿って雌から攻撃していきますね