【アルメール隊】暗闇に潜むは、サソリの魔獣
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シナリオID:1207
オープニング
その屋敷の一室で領主【レリトール・レインディア】の娘【アルメール・レインディア】は父の前で自信満々の表情を見せていた。
彼女は父であるレリトールからロイエス貴族領内での一件を解決した暁には、私兵隊の設立を認めるという言葉を貰っていたのである。
そして、見事に冒険者達と共に事件を解決へと導いた彼女は私兵隊の設立を父に正式に認めてもらおうと彼の部屋にやって来ていたのであった。
「お父様、これでNOとは言えなくなったわね? 勿論……私兵部隊その名も【アルメール隊】の設立を認めてくれるのよね」
「はぁ、仕方があるまい。お前はしっかりと結果を残した。それならば……それを否定する道理もない。好きにやってみるといい」
ため息交じりに答えたレリトールへぱっと明るい笑顔を向けるとアルメールは彼が差し出したいくつかの手続き書類を持って部屋から走り去っていく。
「それじゃ、お父様! 早速行ってくるわねー! あ、資金の方は任せたからぁーっ!」
「待て、アルメール! 資金を何とかしてやるとまでは――ぐぬぅ……もう行ってしまったか」
立ち上がって追いかけようにも彼女の足は速く、既にその背中はかなり小さくなっている。到底、年老いた彼では追いつけるはずもない。
隣に立つシリカがふふっと小さく笑った。レリトールは椅子に座りなおすと飲み物を口に運ぶ。
「何がおかしい、シリカ。構わんから言ってみろ」
「ええ、では遠慮なく。どこかの父親に【戦場に出るから装備、支度の資金は貰っていく】と言い放ったお方と似ているなぁと……思いまして」
にこにこといい笑顔で彼を見る小柄なエルフの女性、シリカの指摘にレリトールは顔を隠した。
誰しも若い時の自分の話をされるのは少々恥ずかしいものなのだ。
屋敷から出て、街の市場方面へ向かうアルメールは資料とにらめっこしていた。
「ふむ……拠点は自分で確保、資金はお父様が出すとして……領内のパトロールに隊のメンバー集め……やることは多いわねぇ」
拠点の確保と言われても、生まれてこの方、アルメールは自分で家を買ったことなど、当然ない。
父親であるレリトールの教育方針で街中での買い物や、一般的な金銭感覚などは養われているが家の購入に関しては全くの素人だった。
「どこかにいい物件でもないかしら……」
そう考えながら彼女は街中での噂話や困った問題などがないか聞く為に街中へと足を進めたのであった。
その日の夜、夕食中。
アルメールはレリトールと資金面に関しての話し合いを進めた結果、活動資金や冒険者との協力行動の為の資金はレリトールが出すことで合意した。
これには活動内容が【領内の警備、パトロール、事件の解決】も含まれる為に正式なレインディア領内の自警部隊と認める、とレリトールが折れた為でもあった。
実際、領内の細かな事件の解決などに関しては彼の兵達では動き辛く、かつ迅速に動ける身軽さがない為にそういった【身軽な部隊】が必要だったのは確かなのだ。
とはいえ、それを自らの娘が担うとは思ってもいなかったわけだが。
「先のロイエス貴族領内での事件のこともある……即応できる身軽な部隊の必要もやむなしか。ふむ、くれぐれも無理だけはしてくれるなよ、アルメール」
「わかっているわお父様。後は拠点問題よねぇ……といっても、そういった類の物はそうそうないってのが――」
「――お嬢様、そのことでお話が。ここから少々離れた郊外に寂れた屋敷があるのです。地下室の有無や、屋敷の広さを考えてみても適切かと思われます」
「待って……そんな屋敷の話は初耳よ? 領内の事情はある程度知ってるはずなんだけど」
それに関してはシリカに代わってレリトールが説明を始めた。
彼によれば、郊外にある彼の別荘の一つが魔獣によって襲撃され、その住処となってしまったようだ。
討伐しようにもそれらは数が多く、領内の兵を向かわせるにも微妙な位置にある関係上、街からも少々距離がある為にすぐさま被害は出ないと後回しにしていたという。
シリカによって調査され、纏められた魔獣の情報や屋敷内の状態を記した資料を見ながらアルメールは当然の疑問を口に出す。
「へぇ、そんな場所があったなんてね? あれ、でも別荘なら……私が知っていてもいい場所のはずじゃ……?」
考えを巡らせるアルメールの横でばつの悪そうな顔をしているレリトールの横っ腹を彼女に気づかれないようにシリカが小突いた。
(いいですか、旦那様。口が滑っても私達が【秘密裏に】使用していた別荘だったとか、言ってはいけませんよ? お嬢様に私達の関係を知られるわけにはまだいかないのですから)
(あそこにはお前との色々な物が……その、愛の歴史が……残っているはずだ。流石にバレるのではないか?)
(安全確保後、内部の掃除と偽って内々に処理します。それでOKかと)
レリトールとシリカの会話など知る由もなく、アルメールはその屋敷を制圧しアルメール隊の拠点を確保しようと意気込んでいた。
後日、冒険者ギルド宛にアルメール隊からの支援要請が届き、冒険者達とアルメールは屋敷へと魔獣討伐の為、向かうのであった。
●闇夜の暗躍
アルメール達が夕食を取っている頃。
レインディア領内、郊外にある屋敷の前。
夜の闇の中にローブ姿の怪しげな人物がいた。彼の耳は長く、どうやらエルフのようである。怪しげなエルフ男性の前には数名の武器を持った男達がいる。
「本当に幼虫をぶっ殺すだけで金がもらえるんだな?」
「……ああ、二言はない。数多く殺せたのなら、追加報酬も出そう」
怪しげな男の言葉に卑しい笑顔を浮かべた男達はそのまま武器を振り回しながら屋敷の中へと突入していく。
扉を蹴破り、中へと入った瞬間……一人の男の身体が宙を舞った。自分の身に何が起きたのかを察する前に彼の身体は大きなハサミによって分断される。
「なんだっ!? こいつ、サソリの化け物!?」
驚いた男が無我夢中で鉄の剣を振るう。しかし剣はサソリの魔獣の甲殻に傷を与えることすらできずにばきりと折れた。次の瞬間、長い尻尾が男を貫く。
予想していなかった魔獣の出現に慌てた最後に生き残った男は逃げようとしたが……自分の身体が満足に動かないことに気が付く。それは足元に蠢く幼虫の放った粘液によるものだった。
魔獣の背中の器官から噴き出す毒霧が男の意識と生命力を徐々に蝕んでいく。
「嘘だろ……簡単な仕事の、はずじゃ……!」
魔獣に斬り裂かれ、男の言葉はそこで潰えた。
エルフの男性は暗闇の中で死体を貪る魔獣の姿を見てにやりと笑う。
「そうだ、そうして育て……ガルガンデアよ、我らの悲願……達成の為に。そしてあの忌々しいシリカ……あいつを葬る為になぁ! くっくっく、はーっはっはっは!」
闇の中で高笑いを浮かべるその人物は屋敷に背を向けるとどこかへと去っていく。
ガルガンデアと呼ばれた魔獣はぎちぎちと牙を鳴らし、暗闇の中で咆哮をあげるのであった。
解説
マスターより
リプレイ
リーンエス王国レインディア貴族領内の町はずれ。
そこに建つ屋敷の魔獣討伐に冒険者達は訪れていた。
屋敷の廊下を歩くケン・Z・ブラッドリーは壁に張り付くように固定されている卵を破壊する。割れた卵片が床にばらばらと落ちた。
「これで10個目。流石にこれだけの数を放置しているってのは、おかしいな。何かあるのか?」
彼がそう考えるのも無理はない。
屋敷内へ入り、少し歩いただけで卵はあらゆる場所に発見された。
放っておけばどんどん増えるこの手の魔獣を知識や戦闘経験もある領主が放置するとは考えにくい。
「……とすれば、誰かが人為的にここに放った、ってのが一番可能性としては高いか……きな臭くなってきたな」
暗視により視界を確保したケンは天眼も用いると、卵や近寄ってくる幼体を倒しながら地下に続く廊下を歩く。
「一体、一体は大したものじゃないが……成長した個体が何体いるんだろうな」
この屋敷に巣くうガルガンデアは幼体の状態では甲殻が柔らかく、倒すのにさほど苦労はしない。精々、麻痺毒性の粘液を吐くことに注意する程度だ。
だが一度成長してしまえば、その甲殻は鋼の如く硬くなり、周囲に毒をまき散らす性質から倒すのは容易ではなくなるのだ。
一方、食糧庫となっている地下室ではアルベルト=V=シュタールシュヴェーアトとアルマ・ヴァレンタイン、アルメール・レインディアが卵の破壊と調査を行っていた。
「それにしても久しぶりの再会がこんな埃塗れの場所とは。もっといい場所で会いたかったものですが」
「あら、私は嬉しいわよ? やっぱり冒険者とかやっていると皆が無事なのかどうか、大きな怪我はないかとか気になってしまうもの」
見つけた卵を砕きながらアルメールはアルベルトへ笑いかける。生傷の絶えない冒険者稼業、明日も無事だとは誰も保証できない。その気持ちは当然のものだった。
そんなアルメールにアルマはひょっこりと脇から顔を出し彼女へ話しかけた。
「えへへ、アルメールさんは優しいんだねー?」
アルマにそう言われたアルメールは少し照れながら、そんなことないわよ、と言った。
ふと、アルベルトは卵の殻の下、液体に塗れた床に何かの紙片を見つける。
目でアルマに合図をするとアルマはその視線でアルベルトが何を意図しているか察した。
「ここはボクとアルベルトさんで大丈夫そうだからー。アルメールさんは、1階の方の援護に行ってもらえるかなー?」
「そう? それだったら私は1階の援護に向かうわ。地図を見る限りだとあっちの方が部屋数も多いものね」
アルマに促され、アルメールは階段を上がって1階へ向かう。
アルメールを見送ったアルマは紙片を眺めているアルベルトへと近づいた。
紙片にはシリカによって記された食糧のメモのようだが、内容はレリトールに関することが散りばめられている。
『今日はご主人様の好きな料理にしましょう。好きな物を食べた時の、あの方の笑った可愛い表情をもっと見たいものですから』
「あはは……これは見せられないよねー? こう、くすぐったくなるような感じだし」
「だな。こりゃ、見せないように回収ってのも分かる気がするぜ。俺がシリカの立場で、アルメールさんに見られたんだったら……顔面から火が出て悶えるな」
かつての愛の歴史。若かりしレリトールが使用人であるシリカへ手を出してしまった火遊びの記録。それが秘密裏に回収を任されている資料だった。
資料を読むのもそこそこに、アルマとアルベルトは食糧庫の探索を再開する。
アルマは棚に乗せられた保存用のハムやソーセージなどの食糧を観察した。いくつか使用可能な物があったのでそれらはバッグにしまう。
次に吊るされた干し肉に目を移すと、そちらは完全に食い荒らされているようでどれもが使用不可能だった。
「あちゃー……これはもう使えないねー。うーん、やっぱり魔獣のご飯になったのかな?」
その時、アルマは背後からする異音を感じ取った。それは小さい物だったが超聴覚を持つ彼女が逃すはずもない。
虫の足音だと判断した彼女は即座に振り向くと音の方向目掛けて武器による魔法攻撃を放つ。魔法攻撃を受け、粘液を吐こうとしていたデア・スポーンが砕け散った。
その瞬間、棚を吹き飛ばしながら大型のサソリ型魔獣ガルガンデアが姿を現した。口に備わった牙をカチカチと鳴らし、両腕を振り上げている。
「そうはさせるかよっ! でぇやぁああーーッ!」
アルマとガルガンデアの間に滑り込むようにして躍り出たアルベルトはダマスカス鋼の大太刀を力いっぱいに振るう。それは振り下ろされたガルガンデアの両腕を弾き返した。しかし腕の甲殻は固く、さして傷は受けていないように見える。
後方へ跳んだアルマは箒型の武器、ミスティックブルームを振り上げるとガルガンデア目掛けて魔錆を放つ。飛来したエーテルが命中し、ガルガンデアの甲殻の色を変色させた。変色した部位は多少、魔錆により柔らかくなったようだ。
「まだまだいくよーっ! 光よ、収束してみんなの力にっ! レゾナンス・オブ・ヴァローっ」
レゾナンスオブヴァローを発動しアルマは周囲にエーテルの光を放った。それはアルマとアルベルトの身体を淡く包み込む。
口から粘液を放つガルガンデアだったが身を屈めて突進するアルベルトにそれらは当たらない。
「ガルガンデア! 貴様を倒し、ここを拠点とさせてもらうッ! 瞬剣一刀、走れ剣閃……紫電一閃ッッ!」
ガルガンデアの懐まで入ったアルベルトは大太刀を一息に振り抜いた。雷鳴の如く煌めいた刃がガルガンデアの胸部を大きく裂く。ガルガンデアは、たたらを踏むように後ろへと後ずさって牙を鳴らしながら咆哮する。
その方向に呼応したのか、まだ割れていなかった物陰の卵が一斉に孵り、デア・スポーンが複数体現れる。わらわらと押し寄せるそれらは数で二人を圧倒しようとしているようだった。
「くそっ、まだあんなにいたのかよっ」
「……任せろっ」
「ブラッドリーさん!?」
地上への階段から現れたケンは首狩刀『SHIMADZU』を構え、アルベルトの前に飛び出した。赤黒い刃が目を引く。
「纏めていくぞ、受けろ……俺の一太刀をっ!」
長い刃を振り回すようにしてケンは囲むように近づいていたデア・スポーン達を薙ぎ払った。肉厚な刃がそれらを無慈悲に引き裂いて絶命させる。
目論見が防がれたガルガンデアは激昂するように咆哮すると長い尻尾を振り回してケンを狙う。ケンはそれを後方に短く跳んで避けた。
自分への注視が切れないよう、ケンはシーザーロアを発動しガルガンデアの注目を一手に引き受けた。
次々に振り下ろされる両腕のハサミを回避するケン目掛けてガルガンデアが尻尾を振り上げたその瞬間、尻尾は壁歩きで接近していたキオルティスの攻撃により、切断される。切断された尻尾がくるくると回転して地面へと落ちた。
「後ろががら空きだよ、もっとも見えていたとしても避けられるとは思えないいけどね」
着地したキオルティスを囲むようにデア・スポーンが物陰から現れる。それらは口を開いて粘液を吐く構えを取っていた。
吐き出される粘液を跳んで避けるとキオルティスは闘気槌を放つ。巨大なエーテル塊が振り下ろされ、デア・スポーン達を砕いた。
いまだ、ケンを狙っているガルガンデアへ接近するとキオルティスはダマスカス鋼の細剣で甲殻の隙間を狙い打つ。細く鋭い刃が右腕の関節部を貫いた。
血を吹き出しながら強い衝撃でもげかけた右腕を振り回し、ガルガンデアは牙を鳴らして再び、咆哮する。
咆哮に合わせ、物陰から姿を現したデア・スポーンが粘液をキオルティス目掛けて放った。
「代り映えのしない攻撃だね、そんなんじゃ、いつまでたっても当たらないよ?」
飛来する粘液を難なく避けるとキオルティスは再びデア・スポーン達へエーテル塊を振り下ろす。ぐしゃりと潰れたデア・スポーン達は弾けるようにして絶命する。割れた甲殻がその場に散らばった。
身を屈めて走るキオルティスが狙うのはガルガンデアのもげかけた右腕だ。細剣を突きの体勢で構え、ガルガンデアへと接近する。
キオルティスの接近に気が付いたガルガンデアは右腕のハサミで彼を挟み込もうとキオルティスを狙う。しかし、それこそが彼の狙いであった。
わざとハサミでの攻撃を狙い通り誘発させたキオルティスはそれを咄嗟にスライディングしてかわす。彼の頭上でハサミがとじる硬質な音がする。
身を翻しながらキオルティスはもげかけたその関節を狙って突きを放つ。細剣の刃に貫かれた関節部は限界に達し、ハサミの自重でばきりと折れた。折れたハサミが地面へと落ちる。
ガルガンデアは折れた右腕から血を噴き上げ、苦しむように暴れまわった。既に尾はなく、傷だらけの身体、更に右腕も失ったガルガンデアは満身創痍と言える。
アルベルトは剣の切っ先をガルガンデアに向けると突きの体勢のまま突進する。
「これで終わりにしてやるぜ、ガルガンデアッ!」
接近するアルベルトをガルガンデアは唯一残る左腕のハサミを振り下ろし、叩き潰そうとした。しかしそれは避けられ、無防備となった左腕の関節を狙った鋭い一撃が放たれる。アルベルトの大太刀がガルガンデアの左腕を斬り飛ばした。回転したハサミが勢いよく飛び、壁に突き刺さる。
牙を打ち鳴らしながら、彼にかじりつこうとしたガルガンデアだったがその牙はアルベルトによって弾かれる。
弾いた勢いそのままに大太刀を振り被ったアルベルトはガルガンデアの胸部を狙った。大太刀の刃がアルベルトの紫電一閃によって裂かれた胸部の大きな傷跡へ迫る。
割れた甲殻の中に刃が突き刺さり、断末魔の叫びをあげるとガルガンデアはその身を後ろに倒しながら絶命した。鈍い地響きが響く。
「手こずらせてくれたな。よし、後は卵の残りがないか、しっかり調べるとしよう。打ち漏らしがあったら大変だからな」
アルベルトの言葉に頷くと、その場の全員は地下食糧庫の捜索へと戻るのであった。
●屋敷に踊るは虫影
「さあ、あなたのお相手はこちらですっ! どこからでも来なさいっ!」
咆哮を上げるガルガンデアへシーザーロアを用い、自身へ注視を向けるのはフリーダ=ブロムヴィストだ。今回も彼女はある者の啓示により、導かれてここにいた。神と名乗るある者が何を言っていたのか、やはり理解できないのは言うまでもない。
やたらめったら両腕のハサミを振り回すガルガンデアの攻撃に対し、フリーダは白金のラウンドシールドでそれらを受け止める。装甲をより生かす動きによって防御性能を高めている彼女には、ガルガンデアの重い一撃さえもさしたダメージとはなっていない。
攻撃を受け止めながらもフリーダは周囲の警戒を怠らなかった。フリーダは正面から時間差で放たれる幼体、デア・スポーンの粘液を跳んで軽々と避ける。
「申し訳ありませんが、少々黙っていて貰いましょうっ」
武器にエーテル塊を纏わせると、フリーダはそれを思いっきりデア・スポーン達へと振り下ろす。巨大なエーテル塊が容赦なく幼体達を砕き潰した。
尻尾を突き刺すように振るったガルガンデアの攻撃をすれすれでフリーダはかわす。盾で尻尾を弾くとその関節部を狙って白金のパラッシュを振り下ろした。刃が甲殻よりは柔らかい関節部を斬り裂く。
裂かれた尻尾を引き戻すとガルガンデアは牙を打ち鳴らしながら巨体によるタックルを放った。
地を踏みしめる様にしっかりと盾を構えたフリーダはそのタックルを真正面から受け止める。巨大なハンマーに殴られたかのような衝撃が彼女を襲うが、その身体は衝撃に耐えた。痺れるような感覚が手に伝わる。
「中々に良い一撃ですね。ですが、私の防御を抜くには足りませんよっ!」
再びシーザーロアを放ったフリーダへガルガンデアの注目が向けられる。太い腕から繰り出される凶悪なハサミの打ち下ろしを彼女は何度も防いで見せた。
「どんなに硬い装甲も、柔らかくしてしまえば意味はないのだ! 食らうのだーっ!」
フリーダの後方から魔錆を放つのはストレガ・L・リベルガストラだ。彼女は攻撃の合間を見て状態異常系統の魔法を放っていた。
勿論、彼女にも幼体であるデア・スポーンの攻撃が向けられたりはするのだが……彼女を中心に発動されたアーケイン・テンペスト改によって、それらの接近は妨害されている。
稲妻に纏わりつかれ、身動きができなくなった幼体はもれなくアルメールの武器による攻撃で潰されていた。
「潰しても潰しても、どこからか湧いてくる……もうっ、一体どれだけいるのよーっ!」
潰れた幼体の中を走るとアルメールはガルガンデア目掛けて紫電一閃を放つ。
「天剣絶刀……轟け、我が刃っ! 紫電一閃ッッ!」
放たれた刃はガルガンデアが直前で横っ飛びをした為に、その右腕を斬り飛ばすに留まった。
「ああもうっ、そこで動くんじゃないわよーっ!」
「虫とはいえ危険を察知すれば避けます。まあ、それはいいとして。皆さんへの支援をしましょうか」
アルメールにさらっとツッコミをいれたのはグレイブ・ヤードだ。彼はレゾナンス・オブ・ヴァローを発動しエーテルの光を放つ。周囲の味方の身体を柔らかな光が包み込んだ。
「さあ、これを受けてもらいましょうか!」
ガルガンデアの隙を狙ってレラ・シュマリが炸光矢を放つ。矢はガルガンデアの胸部に命中し破裂した。鋭い光の欠片がその甲殻に刺さる。
ガルガンデアの尻尾による薙ぎ払いをジャンプでかわしながら接近するのはハヤト=ガラン=ヴォルファング。
彼はガルガンデアに肉薄すると籠手に内蔵された爪でその装甲の繋ぎ目を狙う。焔雷獣の拳爪蹴牙、彼の腕と足に装備されている籠手と具足だ。紅蓮の焔と雷纏いし魔獣の爪牙が用いられているという。
鋭い爪が関節部を斬り裂いた瞬間、腕を引きながら体を回転させると回し蹴りを放つ。的確な回し蹴りは裂かれ脆くなったガルガンデアの腕部の継ぎ目を打つ。
間髪入れずに彼は後方へと跳躍しながら手に持った藍玄の忍刀でもげかけているガルガンデアの腕を斬り飛ばす。高速の三連撃、瞬間的な手数を得意とする彼の技の一つだ。
「どうやらそこは硬くねぇみてぇだな、ガルガンデアっ!」
武器を構えてガルガンデアの動きを伺うハヤトへ牙を鳴らしながら、ガルガンデアは咆哮する。ガルガンデアは冒険者達の攻撃でズタズタであり、既にその動きは緩慢なものとなっていた。
「これで決めてやるぜっ! おらぁぁあーーッ!」
吐き出される粘液をジグザグに走ってかわしながらハヤトはガルガンデアへと再度、接近する。
擦れ違いざまに脆くなった首関節を斬った。彼が走り抜けた直後、ごとりとガルガンデアの首が地面へと落ち、首を失った身体は地へと沈んだ。
「では調査を始めましょう、分担は事前の相談の通りで」
フリーダの言葉に頷いた冒険者達は屋敷の各所へと散っていった。
●屋敷に眠るは、かつての記憶
いまだ残る卵を潰しながら応接室を探索していたフリーダは誰かの日記を発見する。手に取ってそれを開いてみるとそれは領主レリトールの日記のようだ。
『日を増すごとにシリカのお小言が増えている。これでは母上と同じではないか。全く、少し散らかした程度であのように言わなくても――』
彼はどうやら少々部屋を散らかす癖があるようで、それをシリカに何度も叱られていたようであった。
「ふむ、エルフとして、昔からレリトールさんをシリカさんは見ているとのことですから、親目線のようになってしまうのでしょうか?」
フリーダは日記を閉じるとそれをバックにしまい探索へと戻る。
一方、食堂を調査しつつ卵の排除を行っているのはアルメールとストレガである。
「うう、思ったよりも卵が多い。しかも見た目が気持ち悪いし、少々気分が悪くなってきたわ……」
「虫の卵というのはそういうものなのだ。どうやら卵自体に毒性はないのだ。食べてみたら案外いけるのだ、アルメール殿も食べてみるといいのだ」
「ううーん、遠慮しとくわ……」
卵の検分を済ませたストレガは食堂をよく観察する。その結果、食器類はそのまま洗えば使えそうであり、机や暖炉等も使用可能なようだった。
キッチンの方を確認するとシンクはしばらく使用されていないようだったが、水は通っており少しメンテナンスをすれば問題なく使えそうだ。
刃物も多少の錆があるだけでそれさえ落とせば問題はなさそうだ。
キッチン周りを調査していたストレガはふと、ある不審な点に気が付いた。何者かの足跡が窓に続いている。
よく見れば窓から侵入しキッチンの中程で引き返して再び窓から去ったようだった。窓はそこだけ不自然に割れており、端にはその人物の物だろうか、マントの端切れらしきものが風で、はためいている。
「……この騒ぎ、人為的な可能性が出てきたのだ」
そう呟くとストレガは布切れをバックにしまうのだった。
その頃、2階を探索していたグレイブはいくつかのレリトールとシリカに関する資料を発見していた。それらを軽く読んだ後、一つに束ねてマジカルポケットに収める。
どの資料の内容も長年面倒を見続けたシリカのレリトールへの【親目線の愛】の記述がほとんどであり、成長を楽しむ様な記述が見て取れる。若かりし領主レリトールの失敗を事細かに記したそれはある意味、彼にとっては黒歴史だろう。
「読む限りは……母親による子供の成長記録、と言った感じですかね。彼女は昔から共にいるようですから、そうなるのも当たり前ですか」
グレイブが資料を読んでいた頃、ハヤトは書斎に隠されていたある資料に釘付けとなっていた。
その資料にはシリカがレリトールのある行為に関するメモが記載されている。メモというよりはお小言に近いが。
『レリトール様にも困ったものです、お風呂上りにはきちんとお召し物を着て頂かないと。あれでは風邪をひいてしまいます』
「ははは、あの堅物そうな領主の旦那にもそんな頃があったなんてな……確かにこれはお嬢様には見せらんねぇな」
ある程度資料を読み、それらをしまうと部屋内に卵がないのを再確認し、ハヤトはその部屋を後にしたのだった。
「まだこんなにいるなんて!」
領主の部屋にて卵を破壊していたレラに無数の幼体が迫る。他に比べて窓が少なく、暗い為か領主の部屋にある卵は非常に多かった。
湧き出す幼体から距離を取り、接近されないように心掛けながらレラは炸光矢を放つ。
強弓から放たれたエーテルのこもった矢は幼体に突き刺さり、無数の光の破片をまき散らすと幼体達を斬り裂いた。多少、床は破損したが多数の幼体が相手だったこともあり、仕方がない被害だ。後程修理すれば問題はないだろう。
動く幼体がいないことを確認するとレラは領主の部屋の調査に戻る。
本棚の中、棚の裏側。見当たる所は粗方探したのだが資料を発見することはできなかった。
「あとはここだけですね。何かあるといいのですが」
机の引き出しをレラが開けるとそこにはレリトールの字で書かれた日記の一部が見つかった。内容はほとんどが掠れており読み取ることはできないが、一部のみ辛うじて読むことができた。
『……シリカの料理は真面目だ。なぜああも真面目なのか。栄養の偏りなど今から気にしてもしょうがないだろうに。昔からあいつは私の世話を担当してくれてはいるが、母がもう一人増えたようで頭が痛い。そもそもそういうものは……』
それ以上の文字は風化し掠れており、読み取ることができなかった。
「ふふ、シリカさんの料理への文句のようですね。領主であるレリトールさんは若い頃は好きな物ばかり食べたかったのでしょうか? 栄養バランスとかは大事だと思うのですけれど」
レラが資料をしまい、部屋の外に出るとそこではグレイブとハヤトが屋敷の地図を広げて卵の位置をメモしている所であった。
「レラさん、そちらはどうでしたか?」
「ええ、暗がりだったからか、どうにも卵の数が多かったように感じます」
「やっぱそうか。あいつら、暗い所を好んで卵を産み付ける習性でもあるのかもな」
ハヤトの言葉を聞いたグレイブはメモをしながら話す。
「それならば今一度、屋敷内の暗い部分を中心に周ってみるのも必要でしょうね。打ち漏らしがあると本当に厄介ですから」
グレイブの言葉に頷いた二人は屋敷の各所へと向かった。
メモを終えたグレイブは立ち上がると屋敷の裏手を目指す。
「さて、何もなければいいのですが……」
ある程度の調査と探索終えたストレガは庭でアルベルトに運んでもらったガルガンデアの解体検分を行っていた。
ガルガンデアを分解する彼女の背後では修理資材を持ったアルベルトが歩いている。その後ろをこれまた小さな資材を一生懸命に持ったアルマが追いかける。
ストレガは丁寧に甲殻をはがすとその内部の肉を調査する。肉質は柔らかく、臭みはない。
「ふむ……肉にまで毒は来ていない。匂いも問題なし……これは食用になるかもしれないのだ」
続けて彼女は甲殻の耐久度をチェックする。死亡してもなお高い強度を誇るガルガンデアの甲殻は武器や防具の素材となりそうだ。
「表は強いが、裏側は思いのほか柔らかいのだ。興味深い特徴なのだ」
それ以外に分かったことと言えば、この魔獣は単体で繁殖する特徴を有しており、放っておけばどんどん増えるというかなり危険な魔獣だったようだ。
「体内の特徴を見るにこの魔獣はかなり暑い所に生息していたはずなのだ。なぜ、こんな場所にいたのだ? 人為的な何かで輸送された可能性……?」
考えながらも検分を終えたストレガは食べれそうな肉を切り出し、それらを塩胡椒で下ごしらえすると軽く小麦粉を付けて揚げ始めた。周囲に揚げ物の美味しそうな匂いが漂う。
まずその匂いに引き寄せられたのはレラだった。お腹をぐうぐうと鳴らし、ふらふらと近寄ってくる。
串に刺して揚げたガルガンデアの肉をかじるストレガへ、レラは声を掛けた。よほど腹が減っているのか手はお腹を押さえている。
「美味しそうですね……私にも一本、貰えますか?」
「構わないのだ。揚げたては美味しいのだっ」
ストレガから串揚げとなったガルガンデアを受け取るとレラはそれを頬張る。肉厚の身を噛む度に溢れだす肉汁と揚げた衣のさくさくとした食感が実に心地よい。
「まさか、こんなに美味しい魔獣だったなんて。あの、もう一本貰ってもいいですか?」
「まだあるから、気にせずに食べるといいのだ」
レラはぺろっと串揚げ一本を平らげるともう一本貰った新たな串揚げにかぶりつくのであった。
●暗躍者の痕跡
屋敷の修理と拠点用の整備が続く中、グレイブは屋敷の裏手にいた。
そこは静かであり、特に何かがあるというわけでもない。だが、だからこそ気になったのだ。
辺りを見回すと日の光を反射して何かがきらっと光る。
近づいてみるとそれは小さなガラス片であった。何かの薬瓶の破片のようだ。
「なぜこんな所に薬瓶の破片が? おや……」
近場の草むらが不自然に踏み倒されているのを発見したグレイブはそれを辿った。何者かとの遭遇に備え、武器は握ったままだ。
少し進むと草を切って開かれた場所に出る。
そこには焚火の跡や、野営のキャンプを張っていたであろう痕跡が残されていた。
焚火の跡は風雨に晒され風化しており、その痕跡はわずかに残るだけだ。
「これは……やはり、今回の件は人為的な物と見て間違いがなさそうですね。このことも含めて報告するべきです」
それから数日後。
レリトールの屋敷内、領主の部屋にハヤト、キオルティス、アルマがいた。
彼らは集めた資料を渡すと共に人為的な痕跡の件を報告にきたのだった。
椅子に座ったレリトールは大きな溜め息をつく。
「まさか……小さな魔獣だと思っていたが、そのような自体にまで発展しているとはな。それに報告にあった痕跡……何者が動いているのか、こちらでも追ってみよう。何はともあれ、此度の討伐と調査、助かったぞ。私から礼を言わせてくれ、ありがとう」
「いえ、ボク達はアルメールさんのお手伝いをしただけですからー。アルメールさんも頑張ってましたよー」
にっこりと笑うアルマは資料の束をレリトールへと手渡した。
ハヤト、キオルティスも日記などの本をシリカへと渡す。
こうして、屋敷の魔獣は討伐され、アルメールに見つかる前にレリトールに対するシリカの親目線で語られた恥ずかしい過去の記録は回収されたのだった。
マスターコメント
ショートEX普通 報酬:多い9 / 4〜10人
2021年07月31日 15時17分27秒 公開
参加者
相談掲示板
ヒーラー。グレイブ・ヤードです。 とりあえず駆除頑張りましょうか。
ウォーリアのアルベルト=V=シュタールシュヴェーアトだ。 よろしくな。 今回は、サソリ退治か、腕がなるぜ!! 後は・・・証拠品はついででいいかな。
シューターのレラ・シュマリと申します。 よろしくお願いします。
キャスター、ストレガなのだ。 よろしくなのだ。 物は使えるものは持ってくし 魔獣の殻も使えそうなのだ。倒して検分するのだ。
まぁ初めていきましょうか。 >サソリ 卵のうち、或いは「孵化したて」レベルの柔らかさのうちに始末しておきたいかなと思います。 大物(ガルガンチュア)は・・・皆でなんとか、という形がベストでしょうね。 甲殻が相当な硬さのようですので、何らかの搦め手やその対策を作らない限りは 力押しはかえって危険かもしれません。 >状態異常 形状からして何らかの状態異常(毒類)はありそうですので、解呪や聖別は準備しておきますね。 >探索について 大まかにはこんな感じでしょうか? 手分けします?大物がいたら他フロアの方に声かけて協力する形で。 一階:居住エリア。応接室。食堂。 二階:書斎。領主の部屋(執務室かな?)。 地下:食糧庫。(食料があるのと広さとか暗さとかから卵多そうだなという想像)
はい(挙手) 魔獣を検分したいので倒したらそのまま1階にいるのだ。 探索は食堂にするのだ。 速やかに魔錆を仕掛けるようにするのだ。事後フリーズボルトで動きを止めるのだ。
とりあえずマジカルポケットは準備しておきましょう。 ええ、まぁ。 >理想をいうなれば 取りこぼしがないように各フロアで探知などが出来ればいいかなと思いますが…。 難しい場合はとりあえず地下優先でしょうか? 常に見る場所でもないですし、取りこぼすと増えそうで怖いというか。 >探索箇所希望 一応2階を希望しておきましょうか。 一階:居住エリア。応接室。食堂。:ストレガ 二階:書斎。領主の部屋:グレイブ 地下:食糧庫:
ウォーリアのフリーダです。よろしくお願いします。 >サソリ 全員で交戦する形で良いと思います。 状態異常を多用する相手の様ですし、それなりに抵抗を高めていった方が安心ですね。 >探索希望エリア それでは1階を希望しておきますね。 一階:居住エリア。応接室。食堂。:ストレガ 二階:書斎。領主の部屋:グレイブ・フリーダ 地下:食糧庫:
では二階を希望します。 捜波、看破、暗視辺りを捜索用に持って行く予定です。
シーフのキオルティス。キオでもルティスでもお気軽に。 初めましての方もそうで無い方も宜しくね。 >孵化前/孵化直後 これ範囲攻撃で一掃出来ると良いかもしれないね。 1匹ずつ居るよりも群れてる気がするし…。 >大物 コイツは何匹居るんだろう…。特に明記されてないってことは 複数体居てもおかしくないよね。まぁ1体であることを願うけれど。 >探索 とりあえず、まだ誰も宣言の無い地下に手を挙げておくね。 範囲攻撃には乏しいけれど、何とかするよ。
ヒーラーのアルマだよ、どーぞよろしくねー。 ボクも光源にエンライト持って地下にいこうかなあと 麻痺毒治療でサルベーションとか予防でレゾナンスも準備していくね 汎用は検討ちゅうだけど、他フロアの人も持ってけそうならテレパス付けてくよ
あと一日切ってますので現時点でプレイングを作りますが >初期探索箇所 発言内容から記載しますと 一階:居住エリア。応接室。食堂。:ストレガ、フリーダ 二階:書斎。領主の部屋:グレイブ、レラ 地下:食糧庫:キオルティス、アルマ こんな感じでしょうか?
話し合いに参加できなくてすまない。 俺は、地下の食糧庫から探索しようと思っているぜ。 一階:居住エリア。応接室。食堂。:ストレガ、フリーダ 二階:書斎。領主の部屋:グレイブ、レラ 地下:食糧庫:キオルティス、アルマ、アルベルト
おーっす! ブレイブファング傭兵団のハヤト=ヴォルファングだ、よろしくな! ギリギリの参加になるが、俺は書斎を探索すんな! 一階:居住エリア。応接室。食堂。:ストレガ、フリーダ 二階:書斎。領主の部屋:グレイブ、レラ、ハヤト 地下:食糧庫:キオルティス、アルマ、アルベルト
さて、些か難しい面もありますが害獣駆除です 頑張ると致しましょうか