虐業の焔
崎田航輝
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シナリオID:1203
オープニング
少し前までだったら考えられなかった光景が嬉しくて――孤児院の縁側に腰掛けるフランツは、それを日がな眺めていた。
「皆、元気ですね」
話しかけてくれたのは手伝いの女性。元は街で暮らしていたが、近くの村に引っ越してきてから何かと子供の世話に助力してくれる。
「ええ。ここで少しずつでも……子供が幸せに向かっていければいいですね」
フランツは言って、自身が建てた孤児院を改めて見上げていた。
●安寧の影
サンドナード子爵領ポーツワルグ。
自然の多いこの領地の片隅、南西地区と呼ばれるその端に孤児院はある。
元々は、別の領地で起きた内戦で行き場を失った子供達を、その領地の住人であったフランツが連れて逃げてきたのが始まりだった。
いわば難民であり、始めはこの領地で居を構えるのも簡単な事ではなかった。
というのも最初はこことは別の南東地区に駆け込み、そこでは子供の救済すら拒まれてしまったからだ。
「……ここにたどり着けて、よかったな」
幸運なのは、ポーツワルグが各地区の自治を大きく認めている事だった。
地区には地区長が据えられていて、領主から一帯を治める権限を与えられている。だから南東では無理なものも、南西では許されたのだった。
実際、ここ南西地区は“美しき街”と呼ばれていて、中心地である都を始めとしてポーツワルグでも特に領主の覚えが良いらしい。
謂れに違わず、ここは孤児を連れたフランツを慈悲深く迎えてくれて……孤児院を建てたいという申し出もまた、受け入れてくれたのだ。
「あれから一年か……」
戦争の記憶は消え去りはしない。子供達は今も時折、前の事を思い出しては心を不安定にする事がよくあった。
それでも、フランツが家族代わりに日々穏やかに接する事で……皆、徐々に笑顔を取り戻している。
自身の子を失ってしまったフランツにとっても――彼らの存在は救いだったのかも知れない。
「フランツせんせー! おいかけっこしようよ!」
「よし!」
子供からの声にフランツは腰を上げて、腕を回しながら気合を入れてみせる。
そこで手伝いの女性が、ふと不安げな表情を見せた。
「フランツさん、あの事は……」
「……子供達には知られないように」
フランツの言葉に、女性は頷く。
これまで孤児院は日々平和だったが――最近、そこに異変が起きていた。
物盗りらしき男が一人、取り逃がした不審者が二人。そして孤児院を襲おうとした賊が複数人。以前にはなかった危険が、ここの所立て続けに起きていた。
賊に対しては偶然、多くの村人が近場にいたため、その皆を結集させる事で何とか子供を傷つけずに撃退出来たが……フランツ自身は傷を負っていた。
(何が起きているんだろうな)
一応、地区の都にも報告はしてある。都は対策を取ってくれると言ったが――常に兵士を見張らせておく事などは出来ないのか、今の所安全は確保されていない。
領地の端だからというのもあるだろう。外から賊がやってくるなら、都が力を入れようとも防げないのだ。
「――何とか、蓄えを使って冒険者ギルドっていう所に相談はしてる。後は、気をつけておくしか出来ない」
「せんせー!」
「……おう! 今いくからな!」
フランツは子供達に交じって走り始める。その心には一抹の不安があった。
●美しき街
「で、孤児院の方は?」
ポーツワルグは南西地区の都、レプト。
その一等地に建つ地区長邸で、南西地区長ゾレッグは声を投げていた。
それに答えるのは、鎧に纏った屈強な男――私兵の長、ブルトである。
「……変わりないようだ」
言葉に、ゾレッグはあからさまに不機嫌な表情になった。そして偏執的な風合いのある顔に、憎しみを思わせる歪みを浮かべる。
「簡単に離れはしないか。強情だな――間借りしてるだけの連中が偉そうに」
清水に一滴の濁りが混じるのを、見せつけられている――声音には、そんな不愉快な感情が含まれていた。
ゾレッグは三十代にして地区の長となった“やり手”である。
外国生まれで、血筋も権力もコネクションも、何もない所から領主のお膝元にまで上り詰めた男だった。
そして街の景観を美しく保ち、犯罪の発生率を下げ、他所からの評判を高く保つ。南西地区を“美しき街”としたのも、全てゾレッグの手柄だった。
「いちいち、足を引っ張ってくれるよなぁ」
そんなゾレッグが吐き捨てるように言うのは――孤児院の事。
別の地区に断られてきた難民の集団を、南西地区は受け入れたが――それは“美しき街”として、断れば評判に傷がつくからに他ならない。
ゾレッグが目指すのは一点の曇りもない街。
だから、既にポーツワルグで広く助けを求めていたフランツ達を、おおっぴらに拒む事など出来なかったのだ。
だが、孤児院は金を生まない。
庇護には労力がかかり、それを助けたところで領地に返ってくるものは何もなかった。実際、経済的にみれば孤児院周りは赤字を垂れ流し続けているのが実情だ。
「自分は何も生まない。なのにあいつら、“もっと援助を”って求めてるんだぜ。どう思う?」
「……それを判断するのは、お前だ」
ブルトの言葉に、ゾレッグは肩を竦める。
「虫がいいってことだよ」
そこにあるのは下賤なものを見下すような、冷たい視線だ。
「寧ろ、あいつら自身がしぶとい虫さ。追い払おうったって、中々上手く行かない」
実はゾレッグは、既に孤児院を追い払おうとした事がある。
様子を探った上で、賊に見せかけた男達に建物を襲わせたのだ。
だがそれは予想外の反抗に遭い、返り討ちにされてしまった。
「今じゃ、近隣の村とも結びつきが強くなってる。このままじゃ規模がでかくなって、孤児院どころか難民区が誕生しちまうよ」
それがゾレッグにとって最も避けたい事だった。
現状でも既に街の開発、出兵、祭事、あらゆるところに孤児院が引っかかってくる。
何かをすれば孤児院への支援を優先しろ、孤児の保護は進んでいるかと、茶々を入れる人間が出ているのだ。
その全てが、ゾレッグには足元に這う虫のように見えた。
「目障り、なんだよなぁ」
ぽろりと零れた言葉は偽らざる本音。
ゾレッグは南西地区の“王様”だった。思い通りにならない事があるのが、気に入らない。
ブルトは静かに口をひらく。
「どうするつもりだ」
「ここまで言ったら判るだろ?」
決まっているというようにゾレッグは言った。
「ちょっと傷つけたりするだけじゃ、もう意味がない。お前の部隊の出番だよ。向こうも防御策を考えてるかも知れないし、徹底的にやれ」
「……皆殺しにするのか」
「跡形もなく焼けば“悲劇でした”って事に出来るだろ。……何だよ。嫌なのか?」
ブルトは少し黙ってから言った。
「立ちはだかる者は退けてきた。だが、その中に罪のない子供はいなかった」
「元々、排除してきたのは極悪人ばかりじゃないだろ」
ゾレッグとブルトは、スラムの出だった。
そこから権力を得るまで、引きずり下ろし、秘密裏に排除してきたのは一人や二人じゃない。
「今更拒めると思うなよ。突き進むしかない」
後ろ暗いところがあるのは互いに知っている。だからこそ一心同体なんだと、ゾレッグは言っているのだ。
「……ああ」
ブルトは頷いた。二度と、泥は啜らない――いつか暗い路地で言われたゾレッグの言葉を、反芻するように。
解説
マスターより
リプレイ
屋内で編み物の手伝いをしていたイーヤ・レプリスは、外に不自然な物音がするのに気づいて顔を上げていた。
「あら……、今のは」
「動物の類じゃないわね」
言って歩んでくるのはロゼット。自身も既に不審な気配も感じ、フランツと手伝いの女性に目を向けている。
「子供を起こして部屋に、窓には近づかせないで」
「はい……!」
二人が言う通りに動くと、イーヤ達も外へ出た。
すると庭へ出ていたオゴスも周囲を魔法の光で照らしながら――広げていたエーテルの波に、確かに異常を捉えていた。
「何かが、いますね」
「北に東、西……南もか。ぐるりと囲んで……ま、味方じゃねえな」
呟くのは屋上で警戒していたアーテミシア。暗視に動く影を捉えている。
「らしいな」
と、頷くハヤト=ガラン=ヴォルファングも嗅覚を研ぎ澄ませていた。
感じるのは人間の存在と、光沢を消した鋭利な金属の香り。
或いはそこに宿る、殺意。
「奴さん達、おいでなすったぜ」
●警戒
時は遡り、日中。
調査と警護の為孤児院へ訪れていた冒険者達は――改めて事の詳細をフランツから聞き取っていた。
「連続して不審者、ね」
イーヤは縁側で洗濯物を畳むのを手伝いつつ、声を零す。
「何者かが孤児院を狙っている、のかしら。ただの偶然って可能性もあるけど――」
「それにしちゃ、わざわざ逃げてくれるなんて親切な賊だな」
呟くのはカイン・ステラ。
手元でメモを走らせつつフランツへ目を向けた。
「近隣で人さらいとか、誰かが襲われたりした事は?」
「いいえ。無い筈です」
答えるフランツの顔には強い不安の色がある。
フランツは多くの子供を連れて逃げてきた。小さな難民団とも言えるその人数が、他所で断られた原因でもあるという。
ここはようやく最後に辿り着けた場所。それ故に失う恐怖があるのだろう。
「……ここが子供達ばかりだから、狙われたのでしょうか」
「さあ、どうだろうな」
ハヤトは午睡している子供達のいる、屋内の方を見やる。
「孤児院を襲撃するなんざ、考えられるとしたら人身売買あたりだろうが――」
「ええ……ですが、ここを狙うのは割に合わないとも思えます」
言ったのは、エルファリアだ。
子供を攫って売るのにも、連れ去る手間がかかる。特に、ここは治安が良いとされている地区でもあるのだから。
何の思惑もない賊が標的に定めるには、そぐわない――どこまでも冷静な思考が、状況に確かな違和感を捉えていた。
ロゼットもそうね、と頷く。
「それに……地区と言えば、ここの地区長は”やり手”と聞いているのに、まともな対応もしてくれていないのよね」
「そこは俺も気になってた」
と、口を開くのはカイン。
慈悲深いと評判の地区が、フランツの訴えに兵の派遣もギルドへの依頼もしていない。そこには何か意図的な匂いが感じられた。
「少なくとも、人も金も出したくねぇってこったろ」
「この領地では、各地区長の裁量で殆ど全ての事が決められているんだったな」
言ったのはセリオス・オーガスト。
「だとすればそういった不自然な判断したのは、地区長の一存という事になるか」
「ああ」
カインは頷く。
(孤児院に何かがあったとして、賊の所為にして悲しみに暮れるフリをしておけば、慈悲の深さに評判も上がる)
孤児院を支えるにも資金が要る。そんな支援を“もうしたくない”と思っていたとしたら?
もし、敵が地域を支配する権力者ならば。
「もっと過激な手段に出てくる事も有り得るわね」
ロゼットが危惧するのは、建物の放火。
少なくとも警戒をしておくに越した事はない。フランツも手伝い、樽や壺に水を溜め、周囲に配置しておく事にした。
イーヤも桶に汲んだ水を部屋や廊下にも配置しておく。
「念の為ね」
「外もやっておくか」
セリオスは林に出て見えにくい位置に糸を張り、木板の鳴子を結びつけた。簡単な穴も掘り、侵入者がより判り易いようにして。
「これで備えとしては悪くないだろう」
「後は警護を続けましょうか」
オゴスの言葉に皆は頷く。
子供達を寝かしつけ終えると、イーヤは屋内作業。無論、その間も一切の気は抜かず。
「何であれ、何者かが孤児院を狙っているのなら――叩き潰すわ」
「そうですね。目的も本人に聞けば分かるでしょうから」
エルファリアもそう静かに言って――持ち場へついて行く。
●迎撃
そして夜、その“何者か”は現れた。
からんからんと鳴子の音が鳴る。
それは身を潜めた誰かが林に踏み入った証左に他ならず。アーテミシアも鍋を激しく打ち鳴らし、それが確かに敵影だと周知していた。
「……来たか」
黒い布を被って夜陰に紛れていたセリオスは、その影がこちらに近づきつつあると知ると――機先を制して警告を投げる。
「――当方に迎撃の用意あり。撃たれたくなくば、武器を置いて姿を晒せ」
「ええ。ここは子供たちの安息の地、暴力を振るう場所ではないわよ!」
西に出たロゼットもまた声を響かせる。
だが、如何なる声も返ってこない。代わりに――次の瞬間、がさりと音を立てて迷彩を施した男が飛び出てきた。
その手にあるのは鋭い刃。
問答無用、という事だろう。
屋根上から見下ろしていたアーテミシアは、括っておいたロープを握っている。
「……こンな所を襲うたあ、ヒマな奴もいるもンだ」
呟くのはただそれだけ。
敵の思惑は、今この場に置いて考えるべき事ではなかった。
確かなのは、相手がこちらの命を狙ってくるなら――こちらも力を以てそれを潰すだけだという事だから。
「こそ泥みてえな真似しやがって。てめえら全員、野犬の餌だ!」
瞬間、ロープを滑り降りたアーテミシアは足元に光を纏わせ真東へ猛加速。その尖兵へエーテルの塊をぶつけていた。
同時にハヤトも屋根から跳んで獣の如く疾駆。風を置き去りにするような速度でもう一人の尖兵へ迫りゆく。
「うるぁ! ブレイブファング傭兵団のハヤト様が相手になってやんぜ!!」
刹那、驚く敵が剣を振るう暇も与えずに蹴撃。その反作用で短く宙に浮きながら、その場でぐるりと回転。速度のままに斬撃も畳み掛けていた。
「カイン! 後ろは任せたぜ!」
「ああ」
屋根上で応えるカインも弓を引き絞り射撃。鏃に収束させた光で空中に流線を描きつつ、同じ敵を穿って気絶させる。
と、奥から弓持ちの敵が放った矢が飛来して――ハヤトはとっさに回避。正確に足を狙ってきたその一撃に、ほぅ、と息を零した。
「前衛の連中もそうだが。こいつらただの賊じゃねぇな?」
「確かに、動き一つにも練度がある」
弓弦に矢をかけるセリオスも頷く。
少なくとも、体系的に鍛えられた者達だろうとは窺えた。
故にこそこちらも油断もなく。セリオスは北へ剛速の矢を放つと、反転して南へも連続射撃。弓持ちの兵士の腕を穿って鋭く牽制した。
北の尖兵も僅かに怯む。それでも攻勢に移ろうとしてくるが――
「遅いですよ」
直前、オゴスが魔導書を開いていた。
風に煽られたかのように、頁が素早く捲れてゆく。オゴスがそこへ魔力を注ぎ込むと、文節が発光して光の渦となって宙へ昇っていた。
膨大なエーテルの輝き。
瞬間、それが光波の爆流となって尖兵を巻き込みながら、弓持ちを打ち倒す。
『そちらはどうですか』
『問題ないわ』
と、オゴスにテレパスを返すのはロゼット。
尖兵の一人を光縛で封じながら、もう一人へは光を纏わせた祭棍で打撃を見舞って意識を奪い去っていた。
弓持ちの矢も盾で受けきり――逆に魔矢で気絶させてゆく。
南の兵も攻め上がって来ていたが、それに抗するのはエルファリア。敢えて下がる事で射手ごとこちらの間合いへ誘い出していた。
「――今です」
「ええ」
応えたイーヤがそこへ長杖を突き出す。
刹那、杖先から流動した魔力が艶やかに煌めく光の球へと変遷する。眩い雨の如く降り注いだ無数のそれが敵を纏めて穿っていった。
尖兵はそれでも倒れず迫り来るが――待ち受けるのがエルファリア。相手の斬撃をいなしながら、鮮やかに回転して。
「――遅れは取りませんよ」
鋭い疾風の如き薙ぎ払い。水平に曲線を描く斬撃で二人を沈めてゆく。
アーテミシアは引きつけた尖兵の剣撃を弾き返すと、奥の弓持ちも射程に捉えて疾駆。光を纏わせた斧を振り下ろし、爆発する衝撃波で二人を巻き込んでいた。
相手も射撃を返そうとするが――先んじてセリオスが攻撃。風切り音と共に腹部に矢を突き立て意識を奪っていく。
「そちらは行けるか」
「勿論だ!」
同時、ハヤトも銀髪を靡かせ疾走。残る尖兵の零距離に迫ると、顎を砕き、腹部を切り裂き、一息に体力を奪った。
後方に首魁らしき剣士と近衛を捉えると、アーテミシアは引かず攻勢。エーテルを飛ばして自身に意識を引き寄せながら斬り込んでゆく。
近衛は尖兵達とは別格の強さでもあったが――アーテミシアは怯みなく、相手の斬撃をガントレットで受け流して。
「今だ、打ち崩せ!」
「ああ!」
頷くハヤトが跳びながら、近衛の頭蓋へ打突。その一人がよろける内にもう一人へ斬撃を重ねていた。
そのままハヤトが飛び退けば――セリオスが煌々と耀く光の矢で射撃。硝子のように眩く砕け散った破片で全身を穿って一人を気絶させた。
直後にはアーテミシアも斧を大振りに振るい、残る近衛を打ち倒す。
「ハッ! お粗末だぜ野良犬さんよ! 屠殺されて肉屋に並びてえか!」
「……、ここまでの使い手とはな」
声を零すのは首領の男。
焦りを浮かべながらも退かずに剣撃を放ち、アーテミシアへダメージを刻むが――その頃には皆も合流。ロゼットとイーヤや治癒の光を飛ばしてアーテミシアの体力を保っていた。
直後にはカインが射撃で首領の知覚を掻き乱し、エルファリアも大太刀で肩口から抉り裂く。
オゴスも光波をぶつけて足元を掬い――
「後はお任せします」
「ああ、行くぜ!」
ハヤトが声音に気迫を込めれば、セリオスとアーテミシアも続き――打撃に射撃、斬撃を畳み掛けて首領を打ち倒した。
●未来
「孤児院は無事だ。子供達もフランツ達も問題ない」
カインは建物内で警戒させていた大鼬のファと合流し、報告と共に歩んでくる。
頷くエルファリアは、夜の庭へ視線を戻す。
そこに――首領を始め敵の数人が捕縛されていた。
「では、色々と教えてもらうとしましょうか」
「そうね」
ロゼットは彼らへ歩み寄り、静かに尋ねる。
「貴方たち、野盗の類じゃないわね。動きが、訓練を受けたものだったわ」
「そもそも罠で警戒され、冒険者も張っている――並の賊なら撤収している状況でもありましたからね」
オゴスも言いながら彼らの持ち物を探る。
すると出てきたのが火を熾す為の道具だ。全員が所持し、他の燃料も材料もない。
「放火でもするつもりでしたか」
「……」
彼らはただ黙す。
だが、エルファリアの洞察力がそこに焦燥の色も見取っていた。
「図星らしいですね。随分と物騒な目的だったようで」
「連携に、揃った剣筋。雑多な集まりとは違う……差し詰め、どこかの兵士なのでしょうし――誰かからの命令でその為に動いていたのでしょう」
オゴスの言葉に、カインも頷いて……軽くしゃがみ込んで首領に目を合わす。
「誰のご意向?」
「……言うと思うか」
首領は言って目を逸らすばかり。
無論、エルファリアもそれは予想していた。だからかまをかけるように口を開いて。
「ここの地区、評判いいみたいですし。よその地区長が評判落とそうとしてるのでは?」
そして瞬間の彼らの様子を観察する。
抑えてはいるようだが、そこにあるのは安堵の感情にも見えた。その反応を齎したのは“よその地区長”という言葉だ。
「中々判りやすい反応をしてくれますね。よその地区長ではない、と?」
「だとすれば、予想通りではあるな」
呟くカインにとっては、元々疑っていた線でもある。
「難民以外に手を出してない。他所がやるにしては、領主の目を盗んで行う利点が少ない。ここを難民の孤児院だと知ってなきゃ、周到な襲撃もできない――全部がここの地区の長を示してる」
「……」
首領はそれに反論をしなかった。
それでも浅い呼吸だけをして、肯定もしない。エルファリアは小さな息をつく。
「ここまで言っても、素直に白状してはもらえませんか」
「なら、力尽くでやりゃいい」
と、歩んでくるのはアーテミシア。
首領の手元に触れ――その指の骨をへし折った。
「――!」
首領は顔を伏せ、脂汗を浮かべる。
イーヤもすらりと祭刀を抜いてみせていた。
「罪人なのだし、話すつもりもないなら打ち首にして近くの街にでも晒しておくといいかも知れないわね。きっと知ってる人の眼に入るでしょう?」
それに対し、配下の兵士達もざわめいて――首領に視線を向け始めていた。
首領は迷うように地面を見ている。
カインはそこへ言葉を投げた。
「どうする。地区長はお前達を重要なもんだと捉えてないぜ。お前達が庇って臭い飯食っても、本人はそれを忘れて美味い飯食ってそうなタイプだ」
お前達がそこまでして守る価値がある奴か、と。
首領はそれに目を伏せる。或いは自身が、それを否定出来ない事を知っているのだろう。
ロゼットはそこへそっと膝を曲げ……首領の顔を上げさせて、目を合わせた。
「……ここは行き場を失った子供たちが、逃げて、拒まれて、それでも辿り着いた安息の地よ」
「……」
「そんな場所を暴力で奪うほどの必要が貴方たちにあるの?」
答えてちょうだい、と。
声は本心に問うように真っ直ぐなもので。だから最後には、彼の中で罪悪感が勝ったのかも知れない。
「……、ゾレッグだ。お前達の言う通り、地区長のゾレッグが俺達に指示を」
そう冒険者へ答えた。
それに対してオゴスはただ冷淡に、兵士達が逃げぬように改めて縛り直して。
「情報は聞き出せましたね」
言うと後は背を見せて、必要な段取りを踏みに向かう。
皆もそれに続いて歩み出した。
それから地区長のゾレッグが捕らえられたのは、長くも日も経たぬ内だった。
武力を失ったゾレッグはろくな抵抗も出来なかった。ブルト達と共に今では罪人の身となっており――法に従って厳格に裁かれるだろう。
「ありがとうございました」
明るい陽の差す孤児院。
子供達が庭で駆け回るのを眺めながら、フランツは冒険者達へ礼を述べていた。
「ま、こっちはやるだけやった、ってだけさ」
ハヤトが返すと、セリオスも口を開く。
「変わりはないか」
「ええ。子供達は皆元気です」
この地区はひとまず領主が直接管理する事になっていた。
元は平和な領地だ。暫くは安寧が続くだろう。
「全て皆さんのおかげです。子供達の未来を救ってくれた」
だから感謝を、と。フランツは改めて深く頭を下げる。
そこに吹く風は優しくて。皆は彼へそれぞれの言葉を返しながら――帰路へと向かっていった。
マスターコメント
ショートシナリオ普通 報酬:標準8 / 4〜8人
2021年08月07日 17時17分44秒 公開
相談掲示板
エルファリアと言います、よろしく。 んー、孤児院をしつこく襲撃……賊、っていいますけど、孤児院なんてあんまりうまみないような。いや、子供を攫って売るとかならありなのかもしれませんけど……
カイン・ステラ、よろしく。 地区長ってのが動いていないなら、それが答えでもあると思うけど。 その賊が、孤児院以外を襲わないと知っていなければ、普通は領主の評価を気にして動くと思うんだがな。 大鼬のファか栗鼠のランかは未定だけど、動物の周辺哨戒は入れる予定。
ヒーラーのイーヤよ、よろしく。 とりあえず、来た奴を捕まえられたらきっとわかるはずよ。 必要なら誠心誠意真心を込めたお願いでしゃべって貰いましょう。(祭刀を煌かせながら)
シーフのオゴスです。どうぞよろしくお願いいたします。 武器は魔導書や祭刀をよく使っております。 孤児が寝入ってる時に万が一放火されてしまうと、避難がとても難しそうですね。 かといって敵がいる中で外に出るのも危険ですし。 敵の気配に気づいた時点でフランツと手伝いの方に報告し、孤児を起こして一部屋に避難してもらうのはどうでしょう?
・・・・ん、シューターのセリオスだ、よろしく頼む とりあえず不審者がいるということで罠とまではいかんが鳴子とかを林に作っておいたほうがいいかもな 早期警戒はできるだろうし、向こうもそんなもの作るとまでは思ってなさそうだろうから引っ掛かりそうだしな
ヒーラーの神官戦士ロゼットよ。よろしくね。 襲撃犯については、イーヤの言うにように 捕まえてみないと分からないでしょう。 開始時点で地区長を怪しむのは、ちょっと難しいと思うわ。 孤児院を受け入れてくれた恩人って印象でしょうしね。 子供たちを起こしてもらって、1部屋に集めてもらうのは良いわね。 セリオスの言う、鳴子の設置は囲まれていることに気づけそうだわ。 この分なら冒険者8名は集まりそうだし、四方の賊に対して、 こちらも手分け、かしら。
>部屋への避難と鳴子、四方への対応。 異論は無いわ、それぐらいなら対応としても自然だもの。 相談次第だけど、私は超聴覚を持って院内で何かお手伝いでもしてるつもりよ。 来るってわかってるなら屋根の上で見張り、って言うのも考えたけど。
>地区長を怪しむ ブルト捕縛後にカインさんの推理をぶつけて反応を伺うなんてこともできそうですね。 >林 そうですね。鳴子があれば接近に気が付きやすいです。建物に近づく前に敵を始末できりゃ話が早い。 敵は分散してるので、罠にかからなかった敵への警戒も疎かにはできませんね。 >手分け 二人組でそれぞれの方角を分担すると東担当の戦闘がハードになりそうです。 イーヤさんが院内にいてくださるなら、孤児院周辺で防衛する四人と東西南北の索敵をする四人、という分け方もできそうですね。
ウォリアーのアーテミシアだ。宜しくな オレは暗視やら超嗅覚やらがあるから屋上で番でもするか。姿は隠せても臭いまで隠せるような奴はいねえだろ。 目的なんざ捕まえて締め上げて吐かせりゃいンだよ。
>配置 庭は「西以外を見渡せる」ってことなんで、展開しやすいことを考えても庭には多めに人数おいて良い気もしますね。 そこから目が届かない西を中心に見回り戦力を置くような感じで。 鳴子とかも張るって言うなら敵の接近はそれで把握できそうですし、あとはどういう風に迎撃に出るか、かな。庭を堅守する戦力と、襲撃状況に応じて遊撃する戦力、みたいな。 >目的 まあ捕まえちゃって吐かせるならそれでいいとは思いますけど、「黙秘」対策に揺さぶりをかける仮説ぐらいはあっていいかと。 直で地区長を怪しむのは確かに難しい気もしますが。んー、「他の」地区長の差し金みたいなカマかけをして反応見てみるとか……
>戦闘 俺も暗視は確定で、もう1個はちょっと考え中。 ペットは移動範囲カバーした方が良さそうなんで、大鼬のファ連れてく予定。 戦闘は前衛が多いし、援護系多めの予定。
見張りの配置は各自、好きなところに居たら良いでしょう。 屋根や屋内にいる人は、迎撃を始める時に出遅れないようにだけ。 人数の上では不利だから、広い庭で範囲攻撃なんかを活かすのが 良いんじゃないかな。林の方では長物を振り回すのは向かなそう。 >迎撃時の配置 孤児院の東(庭)に4~6名を置いて北側、南側、東側をカバー、 孤児院の西に2名を置いて西側を守るのはどうかしら? 庭を4~6名にしたのは、シューターみたいな射撃攻撃する人を、 誰か屋根に置いたままにして、戦況により東西南北への援護とか。 私は松明の光が届かない西側を「エンライト」持って守ろうかしら。
>シューターみたいな援護射撃する人 じゃあ、俺が屋根につくよ。 ファを屋内に置けば皆が出てもある程度中の様子判るし。
>迎撃配置 私は素直に庭配置ですかね。 数がくるなら薙ぎ払いとかでも対応できますし。 一応、洞察もあるので、捕縛後の尋問とかでも相手の様子を見ることは出来る、かな。
>配置 ロゼットさんが挙げてくれた分担に賛成です。 屋外と屋内、東と西で連絡手段があると便利そうですね。 エーテルリンクやテレパス、敵にバレても構わないならサウンドボマーって手もありますか。 俺はテレパスを用意できます。東、西、屋内でテレパス所持者がいると連絡がスムーズかと。 まだ東か西かで迷っていますが、屋外にいるつもりです。
>戦闘行動(予定) 西側に配置。ランタンと「エンライト」使用予定。 「光縛封」を尖兵の1名に、効果中にもう1名を叩くわ。 矢兵用には「魔矢」もセット。倒した賊はロープで拘束で。 片付いたら他の戦闘へ加勢に行くわ。 汎用は敵の発見用に「看破」、後の尋問用に「洞察」かな。 >オゴス 建物周辺なら、声で十分かと思ったけど聞こえないかな? サウンドボマーは戦闘中に使えないし、平時との線引きが怪しいから 避けた方が良いと思うわ。一応、テレパスは持ってるけど。
遅くなっちまってすまねぇな! ブレイブファング傭兵団のハヤト=ヴォルファングだ、よろしくな!! んじゃ、庭で迎撃すりゃいい感じだな? とりあえず襲ってきた奴らを片っ端から片付けんぜ!!
>連絡手段 たしかに戦闘突入前に使える余裕があるとも限りませんか。 テレパスやエーテルリンク、普通の大声でのやりとりで充分そうですね。 ロゼットさんがテレパスを持って西にいてくださるなら、俺は東につきます。 >捕縛 キャスター武器を持っていく予定です。ついでに光縛呪も持っていきましょうか。
んじゃ、オレは屋上から東。ボスを見つけたらそっちに行くぜ。 シーザーロア持っていくかねえ
私はたぶん最後、それじゃ後は現地でよろしくね。 >オゴス 分かったわ。テレパスを入れておくわね。