宿場町のから騒ぎ
根来言
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シナリオID:1199
オープニング
ある国王が『ここのメロンは天下一品だ』と絶賛すれば、忽ち国中のメロンが消えてしまうこともあった。
また、著名人が『この土地の景色は、世界一だ』と言えば、貴族達や芸術家達がこぞって馬車や傭兵を借り出した。当時のギルド関係者や冒険者達は、大層儲かった事だろう。
そしてこの街もまた、新たな賑わいを見せるブームが訪れていた。
城門をくぐれば、宿はこちらとの看板。
商店を回れば、店の中にも外にも張り紙ばかり。
横道に1歩でも入ってしまえば、呼び込みは当たり前。もし、意志の弱い観光客であれば、あっという間に闇の中に連れ込まれてしまうことだろう。
●
大通りから、2本ほど道を外れた場所に、その宿は存在していた。
苔や蔦が伸びる外壁。屋根は一部が欠けている。
『新緑の宴亭』。それが、この宿の名前だ。
オンボロな外同様、店内もほぼ同じような有様だ。
変わったところといえば、暖炉があったり、不釣り合いな猫の敷物が敷かれていること……くらいだろう。
1人の美しいエルフの女性が、暖炉に一番近い椅子に腰かけた。
「ご注文のホットワイン、ここに置いておくわよ? ……ネコマタ、いつまでそんなところで寝ているのかしら? 場所代を払ってくれてもよくてよ」
ネコマタ。その名に反応するように、暖炉の敷物が、ゆっくりと動き出す。
敷物……の、ように毛むくじゃらのハーフビーストは大きく欠伸をすると、さも眠そうにエルフを見、そして。
「……くぁ」
さらに大きな欠伸をした。
「……ちょっと、失礼でなくて?」
「にゃぁ、エンヴィー……場所代払えばここ、吾輩の場所にしていいのかにゃ? ……暖炉の火と、冷たい床の絶妙な温度差が、この宿の唯一のいいところだにゃ」
「更に失礼でなくて!?」
キノコとかトカゲとかを料理として出してそうな宿。泊まると必ず悪夢を見る宿。
「―――とかとか! 色々言われているわけよ! ネコマタ、そろそろ知恵を貸していただけないかしら!?」
バァン! 切羽詰まったようにテーブルを叩くエルフ。しかし、猫は冷静だ。
「にゃー……。事実無根じゃにゃいのが悲しいところだにゃ。キノコとかトカゲ入れた飲み物、客に飲ますにゃぁ……。そんなの飲まされちゃ、悪夢もみるにゃ」
「名物が食べたいっていうから、アタシの故郷料理を飲ませただけよ!? 1口飲めば、100日寿命が伸びるなんて言われてるエルフの秘薬なのよ!?」
「100日縮むの間違いじゃにゃいかにゃ?。そんにゃのを名物にするにゃ、そんにゃのを客に出すにゃ」
「……他に名物料理を作れってことかしら? それじゃぁ、アタシの故郷料理のブラスフェー……」
「エンヴィー、まずは料理以外の物を考えるにゃ。客が来なければ、振舞う機会もないにゃ」
エルフは口を尖らせ、肘をついた。
偉そうな猫に多少苛立ちを覚えつつも、その姿を見、そして閃いた。
「ネコマタ! 看板猫よ! アンタ程の巨大な猫がいる宿なんて、そうそうないわ!」
客寄せ猫。看板娘、もとい看板猫。
見て癒され、触れて癒され。心身が疲れた大人は勿論、女性や子供受けは確実にいいはずだ!
どう? どう? と、目を輝かせるエルフだったが、猫は眉間に皺を寄せる。
「もうあるにゃ。……ネコカフェー亭? とかいったかにゃ?」
「……えぇ、あるの? ……それじゃぁ、猫を売りにするのは置いておいて、アタシなんてどうかしら? 美人エルフの女店長! 男どもなんて、コロリ……よ!」
確かに、彼女は美人だ。エルフだ。
普通の男共であればウィンクひとつでほぼ、間違いなく落ちるだろう。
しかし、ネコの言葉は辛辣で、そして偽りない事実。
「にゃ、もうあるにゃ。大通りで、エルフメイドを売りにした宿があるにゃ。エルフを沢山雇っていたにゃ」
残念、今時、エルフは珍しくなくなってしまった。
彼女が宿を開いた当時は、それはもう珍しい光景だっただろうに。もう、コロリ……は出来なくなってしまったらしい。
「エルフメイド亭、エルフ執事亭。……どんな宿かしらにゃいけど、ツンデレエルフ亭に妹エルフ亭なんてのもあるらしいにゃ」
なんてことだろうか。色物作戦すらももう、二番煎じらしい。
「……困ったわ、ネコマタ。アタシ達に出来ることはもう、何もないわ!」
「エンヴィー、さては最近引きこもってたにゃ? 世間をしらんにゃぁ?」
「何が言いたいのかしら、ネコマタ?」
「わいわん、グランプリなるものが来週あるらしいにゃ」
「……なぁに、それ」
「……しらにゃいにゃ? 今、そこらじゅうでチラシ、配ってるにゃ」
猫が差し出したチラシを、まじまじと見つめるエルフ。
(―――Y-1グランプリ……宿場町で一番の宿屋を決める大会……? 優勝すれば賞金と、ギルドや案内所から客の斡旋……。いいこと尽くめじゃない!)
「……どうかにゃ?」
急に黙りこんだエルフの顔を覗き込む猫。
エルフのその目には、先ほどまでの絶望や諦めは、もうない。
力いっぱい、テーブルを叩き、立ち上がる。驚く猫や、零れたワインのことなど、気にも止まらない。
「わかったわ。要するに、そこで1番を取れば知名度を稼げるってわけね」
「違うにゃ。こんなオンボロが取れるわけないにゃ」
分かりやすく、エルフの身体から力が抜けた。
崩れ落ちそうな身体を無理やり起こし、叫ぶ。
「ひっどいわね!? 趣があっていいじゃないの」
「エンヴィーが狙うのは、特別賞だにゃ。要は、一点特化型の宿を作るにゃ」
特別賞というのは幾つかあるらしい。
美味しい料理を提供する宿に送られる『グルメ亭賞』。
あらゆるサービスが行き届いている宿に送られる『おもてなし亭賞』。
顧客数が優秀である『満員御礼亭賞』等等……。
「的を絞れば、何かしらの賞を狙えるとおもうにゃ。ナンバーワンより、オンリーワン。そっちのがエンヴィーには向いているにゃ」
「むぅ……なんだか、難しそうね。……宿の命が掛かっているのだから、やるしかないのだけれど!」
張り切るエンヴィー。
「そうときまれば、早速買い出しね! 新メニューも作った方がいいかしら……、あっ! 看板も新調しておきたいわ! ―――他にはなにが必要かしら!?」
「にゃー、一時的でもいいから、人を増やすべきじゃないかにゃぁ?」
「アタシ1人で十分回せるわよ? 今までもそうだったじゃない」
「この催しでどのくらいの集客が見込めるか、まだ分かってないなら必要にゃ。それに第三者の目からの意見も聞くべきだと思うにゃ」
「んー……。それじゃぁ、何人か募集しましょう。冒険者ギルドに行けばいいのよね?」
「にゃぁ。できれば他の宿に泊まったことがある人とか、呼び込みが出来る人がいいにゃ……。あ、あと報酬については受付に相談するべきにゃ? 高すぎたり、低すぎたりしないようににゃ? それで破産とか、宿以前の問題だにゃ?」
「わかってるわよ、ネコマタは心配性ね。―――アタシ、宿を構えて200年の超ベテランエルフ様よ? 任せておきなさい!」
「……ベテランは、ここまでオンボロ宿にしないと思うにゃ」
声高に宣言するエルフの背に、猫の言葉は、もはや届いてはいないようだった。
(エンヴィーはやる気がから回るタイプにゃ。……ストッパーになる人材が必要だにゃ)
猫の心配は杞憂か、予告か。
解説
マスターより
リプレイ
「ウチの宿はいかがですー? 宿代は安くて、飯は天下一品ですよー!」
「旅人さーん! 冒険者ギルドから徒歩30秒! 市場までは徒歩30歩! そんな宿、お探しじゃないですか!?」
宿場町の、もはや日常となった何時もの光景。
そして、数々の宿の熱心なアプローチに頭を悩ませる人々。これもまた、何時もの光景。
『値段が、場所が』等と、口ではいうけれども、もはやこの町にある宿は両手ではとても数えきれないほどにある。
ひとつひとつ、そうやって吟味していてはあっという間に日が暮れてしまうだろう。
そして今、この旅人たちも『どうしようか』と顔を見合わせた。
「―――亭は、いかがですか?」
遠くから近づく、新たな客引きの声。そして。
彼らの前を、巨大な何かが通り過ぎた。
『新緑の宴亭、空き室あります』。
エーテルで作り上げられた巨大な看板に映るのは、酒が並々と注がれたジョッキ。
男たちが乾杯をするその奥で、煌びやかな衣装に身をつつんだ女性達が舞い、躍る。
その映像は多少乱れているものの、それが逆に、どのような場所であるのかと想像力を掻き立たせる。
きっとこの場所では、ジョッキとジョッキがぶつかり合う音……、彼女達の華やかながら、艶やかな動きや表情……。そういった想像をするだけで、思わず旅人は喉を鳴らす。
「新緑の宴亭です! 今夜の宿が決まっていないなら、いかがですかー?」
術師の男が立ち去るその後方で、ハーフリングの少女が手を振りながら通り過ぎていく。
「……新緑の宴亭……か」
彼らが立ち去るその姿に、誰かがぽつり。小さく呟いた。
●作戦会議にて
「荷物の預かりサービスとかかな。金庫や地下に貴重品やちょっと出るのに重い荷物を置いておけると拠点にしやすいね」
サロの声に、猫は大きく頷いた。
Y-1グランプリ。そこで爪跡を残すためには、自分たちだけでなく他の客達の意見を取り入れるべきだろう。その宿の利用猫はそう考えた。
そして、その考えは間違っていなかったようだ。現に、ありがたいことに自分たちでは考えもつかなかった方向からの意見が次々と飛び出す。
「にゃぁ、使っていない部屋は沢山あるにゃ。全部の部屋に鍵は難しいけれど、1部屋を預かり部屋にしてもいいかもにゃぁ」
「あぁ……。予算も限られてくるのか。安心して滞在できる場所にできたら嬉しいなぁ。安心して眠れて、それから安くて腹に溜まる料理があったら最高だね」
旅暮らしの経験から、『これがあったらいいのに』というものはたんと出てくる。全てを備えた宿……というのは直ぐには難しいだろうが、いうだけならタダだ。ものはついでで、言ってみる。
「出来たら体払い(皿洗いや宿の手伝い)で泊まれるも追加してくれたら俺が嬉しい。割引でもいいよ」
「あら、いいわね! 冒険者っていうのは兎に角お金が掛かるものよ。……旅芸人とか、そういった職業の人にも優しいんじゃないかしら? 衣装に、小道具……お化粧品も、決して安くはないのよね」
同じく、とシンディーもその案には乗り気だ。
街によっては冒険者も、芸人も収入が大きく変わってしまうのだから。……宿泊費が安くて済むならば、それに越したことはない。
しかし、宿の主は2人とはまた逆に少し眉を潜めた。
「それは素敵な考えだとは思うけれど……。今のところ、アタシ1人で仕事は全部終わってしまうのよね……。アタシは別に構わないのだけれど」
ちらり。猫の様子を見れば気だるそうに手を交差させていた。ダメ、ということだろう。
「却下にゃ。エンヴィーに任せれば、タダメシ目当ての輩で占拠されそうにゃ」
「そ、そんなことないわよ! ……多分?」
「うーん、今は少し難しいかも。でも、もう少し宿泊客が増えてから考えてみてもいいかもしれませんよ」
レヴァーレが小さく笑い、2人を諫める。
この案はもう少し経営が軌道に乗ったら……。と、いうことになったようだ。
「えーと、今までの案の中で直ぐに出来そうなものは……サロ様の『近辺の地図』と『お荷物の預かりサービス』……シンディー様の『酒場部分でのダンスショー』でしょうか? えっと、ダンスショー、本当にシンディー様にお願いしてもいいのでしょうか?」
「えぇ、任せて欲しいわ。自分が言った手前、当然私も出るし、他にも人前で舞踏を披露する経験を積む場が欲しいとか、そういった人を募集してみるつもりよ」
プラムがまとめ、シンディーが答える。
●その夜、とある宿屋にて
その日その夜の新緑の宴亭は、これまでにない賑わいを見せていた。
管楽器と打楽器は混ざりあい一つのメロディーを奏で。
その中に微かに混ざった甲高いグラスの同士のぶつかり合う音。やんや、やんやと手拍子。時折口笛。
そして、酒場スペースに出来た急ごしらえのステージ上で、数人の踊り子達が舞い躍る。
踊り子たちは、あまり広くはない狭い壇上の上を行ったり来たり。上手く踊ることは難しいけれど、その狭さを生かすように、逆に客席との距離を利用してすれ違う客とハイタッチを交わす踊り子もいれば、客と客の合間で躍る踊り子もいる。
そして、その踊り子たちのセンターを務めるのは、シンディーだ。
露出こそあれど、それは決して下品なものではなく。ダイナミックに腕や腰を動かし、リズミカルに脚を動かす。
不器用でも、下手でも。一生懸命なことを伝える為の踊り。応援したくなるような姿。そういったものを出来るだけ表現できるように。
……それが、きっとこの酒場には合うはずだ。
「……っふぅ、皆、ありがとう!」
一つの踊りが終わると、額の汗を軽く拭い、シンディーは笑顔を見せてそう言った。
適度な拍手に手を振り、レヴァーレからよく冷えた水を受け取る。小休憩だ。
彼女らのダンスは酒の肴には丁度よいモノとなったらしい。慌ただしく飲み物を運ぶレヴァーレや、遠くで悲鳴を上げながら料理をしているエンヴィーの姿が目に入った。
「さて、と。それじゃぁ、次の曲にしましょうか。皆、準備はいい?」
ステージから少し離れた場所では、サロが持参した打楽器をリズミカルに打ち鳴らし、一定のリズムを作り出していた。
トン。と打ち出す度に、踊り子たちが腕を振り、腰をひねり、床を踏み鳴らす。
決まったリズムではあれど、まるで自分が彼女らを操っているようで、少々面白い光景になっていた。
「いやぁ、華があっていいね。……ネコマタ君も踊ったらどうだい? きっと受けると思うよ」
「にゃぁ……。動くのは性に合わないにゃ、見てるだけでもお腹いっぱいにゃ」
眉間に皺を寄せる猫。拒否感をこれでもかと表現したその顔に、少しだけ笑い。
「そうかい、それは残念だ。それじゃぁ、せめて楽器でもいっしょにどうだい? 俺はおじさんだからさ、流石に少し疲れてきたよ」
「んにゃぁ……。1曲だけにゃ」
猫は気だるそうにマラカスを手に握り、数回振り上げた。
とん、しゃん。とん、しゃん。
その音、踊りを楽しんでいたのは、酒場の者達だけではなかったらしい。
賑やかな夜の宴を聞きつけ、何事かと窓を覗き込む者も数名。
「新緑の宴亭……。確かに、エントリー名簿にはあったが……このような宿だったか?」
「いや、もっと寂れていて……。何時潰れるかも分からない場所だったはずだ。少なくとも、こんな宴会をするような宿じゃ……」
中の様子を伺いながら、小声で話をする数人。
神妙な顔でひそひそと会話する人々に、声をかける者がいた。
「あ、あの。もしかして、Y-1グランプリの関係者の方ですか?」
そうだと首を縦に振る彼らへ、プラムは少し安心したように笑い、そして続けた。
「でしたら、ひとつお願いが―――」
●最終日、壇上にて
宿場町の広場は、相も変わらずといった感じで人にあふれていた。
しかし、今日ばかりは少々訪れる面々は若干の異なりを見せる。
この場所は普段であれば、客引きばかりが募るような場所のひとつ。しかし、今日だけはある催しが行われていた……。
Y-1グランプリ。その授賞式がいよいよ行われる。
簡易的な壇上に、椅子が数脚。それらを囲うように1周、2周と人の波。
いずれの椅子にもやれ町長や、大会委員長のようないわゆる大物や知名度の高い役職を持つ者達がどっかりと腰を構える。
その場所に1人、そぐわないようなエルフが座る。
場違いなその姿に、誰だ誰だと囁く声こそすれど、大会のプログラムは進んでいった。
町長挨拶、委員会挨拶、大会説明……。そして、彼女の名が呼ばれた。
「……うわぁ、思ったよりも人、一杯ね。ふふ、燃えてくるわ」
「エンヴィーさん、深呼吸、深呼吸です。あ、足元の段差に気をつけて」
張り切るエンヴィーのその後ろで、プラムが声をかける。
「―――っぶな!? ……んん、深呼吸、深呼吸……っ」
この町に、彼女を知らない者は殆どいない。姿を見たことはなくとも、名前を知らない者はきっといないことだろう。
「エルフのエンヴィー……、まだこの町にいたなんて」
「てか、まだ生きてたのか」
「生きてるわよっ! 失礼しちゃ……んん、こほん! えー」
「本日は、お招きありがとう。町一番の老舗宿、新緑の宴亭、その主人のエンヴィーよ」
壇上に上がり、軽くお辞儀を一つ。
「さて、会長さんに挨拶を……なんて頼まれたけれど、アタシ、こういった場はあんま経験がないの。だから、畏まった挨拶は一旦置いて、伝えたいことだけを言わせてもらうわね」
舞台袖から見守るプラムへ小さくほほ笑み、プラムもその笑顔に頷いた。
(やる気がから回ってしまうことが多い……ってネコマタさんからは聞いていました。けれど、今のエンヴィー様ならきっと大丈夫です!)
エンヴィーは静かに目を閉じ、力強く言葉を放つ。
「アタシが宿を始めたきっかけは、ほんの些細な事だったわ。町に憧れて森から出てきたばかり……200年前。アタシはまだまだ若造で、悪い商人とか詐欺師とかにひっかかって……ボロボロで。世間知らずで、なんの力もなくって、笑うこともできなくってね」
自虐気味に小さく笑い、そして続ける。
「―――そんな時、アタシを拾ってくれたのがこの町の皆。それはもう、鬱陶しくなるくらいに甲斐甲斐しく、過保護ってくらいに大事にしてくれて……。自分たちの生活で一杯いっぱいのはずなのによ? ……1人で生きていけるようになったら、助けてくれたお礼をしたいって言ったの。そしたら、彼らはこう言った―――これから先、困った人を助けてやってほしい。それが、一番の恩返しだ。……って」
彼女は、目を開く。視界に広がる、愛おしい町人たちへ手を伸ばし。
「もう当時の事を知っている人はいないと思うけれど、それでも。あの時のアタシは本当に救われた。その恩返しがしたくて、宿を始めたわ。あの時と、町並みはすっかり変わってしまったけれど、それでも。ちょっとおせっかいで、世話焼きな所はちっとも変わっていない。そして、そういうところはこれからも変わらないのでしょう! ―――アタシは、この町のことも、皆のことも大好きよ! この町に乾杯、Y-1グランプリに乾杯!」
力いっぱいに叫ぶように、彼女は演説を終えた。
叫びに答えるように少しずつ、ぱらぱらと拍手の音。
その音を満足げに聞きながら、彼女はまた小さくお辞儀をし、壇上を降りる。
●後日、とある宿屋にて
「―――これ、どこに置くべきかしら? カウンター? 玄関?」
エルフは、自分よりも大きな杯を手に、宿を右往左往さ迷っていた。
「主人!? 止まれ止まれ―ッ! そっちは壁だっ!」
「あー、あー! 酒瓶が割れる!? 皆主人を守れ!」
時折躓き、危うく大惨事……と、なる手前で客や従業員に支えられつつ、カウンターにそれを置く。
「―――ふぅ。これでよし! 皆、ありがとう! ―――さぁて、今日も頑張りましょうか」
一息着き、額の汗を拭うエルフ。と、周囲の人々。それぞれの汗は全く別のモノ。
―――ここは、宿場町の宿『新緑の宴亭』。危なっかしい女主人と、世話焼きな住人達の憩いの場。
その宿屋のカウンターには、薄汚れた宿に似つかわしくない銀に輝く杯が1つ置かれていた。
『第一回Y-1グランプリ特別賞≪親愛亭賞≫受賞-新緑の宴亭殿』。
親愛なる、町の守り神。母であり、兄弟のような存在である貴宿へ。
いつまでもそこにあって欲しいとの願いを込めて、贈呈いたします。
マスターコメント
ショートシナリオ普通 報酬:標準4 / 4〜10人
2021年08月14日 21時45分16秒 公開
相談掲示板
自分が踊りが少しできるからだけど、夜に若い女性のダンスショーというのを提案したいわね。 華は大事よ。
どうもどうも、ヒューマンのサロだよ。ギリギリの参加で申し訳ないが、まあ今回はよろしく。 にしてもあれだね、何もしなくても努力賞は狙えそうな宿だよね。いやー大変結構。 ダンスショーは良いね。ベリーダンスみたいな奴かな?宿泊客以外の常連さんも見込めそうだし俺も観たい。ぜひ見たい。観光賞、サービス賞、ユーモア賞あたり狙えそうだよね。 俺個人はそうだな、旅暮らしな分宿として何が欲しいか、客側の需要は伝える事が出来ると思うよ。主にサービス側だね。あとはチラシ配りとか裏方くらいかなー。
レヴァーレ・クアルムです、よろしくお願いします。 宿の改修と宣伝ですか……色々手を付けなければならないところはありそうですが、できればY-1に向けたすぐにできる事とその後も集客を見込めるように中長期的な改革案を出せると依頼者のためにも良さそうですね。 ダンスショーはサロさんも仰っているように宿泊以外の集客も見込めそうですし、良いかもしれませんね。 人員の確保が必要になってくるので……並行して経営再建も目指したいところです。 俺個人で提案できるのは事業仕分けと言いますか、一般的な経営論からの経営状態の立て直しですかね。 考えてはみますが、あまり突飛というか突き抜けた案は出せないかもしれません。
ダンスショーが思っていたよりも受けがいいから安心したわ。 下手にプロ的な人を呼ぶより、人前で踊る経験を積みたいという 人の方が、初々しさとか頑張ってる娘を応援しよう、みたいな雰囲気? そういう方が、この宿には合うきがするわね。
ギリギリの参加でごめんなさいです、よろしくお願いします。 わたしは店長さんに色々やってもらえないかお話ししてみようと思います。
無事成立ですね、一安心です。 改めましてよろしくお願いします。 俺は先述の通り、アイデアを実現できるよう予算の捻出を主として提案していこうと考えています。