【栄耀】消えた孤児の行方を追って

おおくまねこ

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シナリオID:1155

オープニング

●巡視隊員と孤児
 ここはラグラス。『栄耀の都市』と呼ばれる、リーンエス王国でも比較的人口の多い街である。だが、街の繁栄とは裏腹に貧富の差も急速に広がっており、街の治安は悪化の一途を辿っていた。その為、いつしか街には治安維持の為の大規模な巡視兵団が結成され、定期的に街を巡回していた。巡視兵団が目を光らせている甲斐あり、ラグラスの表通りは仮初の平和を享受していた。しかし街の裏側では、邪悪な者達が陰謀を張り巡らせていた――。

「騎士様! お願いがあるんだ!」
「おや?」
 その日、いつものように、巡視兵団分隊長のアリエス・クレストが部下を引き連れ、西地区(スラム)を巡回(パトロール)していると、孤児と思しき少年が話しかけてきた。
「なんだあ? 俺達は忙しいんだ! 税金も納めてねえ小汚ねえガキにかまってる暇はねえ。あっちへ行け!」
 彼女の隣にいた兵士は舌打ちし、露骨に不機嫌そうに怒鳴った。
「待て」
 アリエスは部下を制止し、腰を落として子供と目線を合わせた。彼女は市民に威圧的な態度を取る者が多い巡視兵団では例外的に、弱者救済を信条とする高潔な騎士だったのだ。
「話を聞こう。どうしたのだ、少年」
「ありがとう騎士様。実は……」
 孤児はアリエスに事情を説明した。まだ幼い上にろくに教育も受けていない孤児の説明は非常に分かり辛いものだったが、アリエスは辛抱強く孤児の話を聞き、理解に努めた。
 ……。
 聞き取りを終えた後、アリエスは立ち上がり、少年に向かって静かに宣言した。
「分かった。騎士アリエス・クレストの名にかけて、君の友達は必ず見つけてみせよう」

●
「……これは、どういうことだ。思った以上に行方不明者が多い……まさかマフィアか奴隷商人あたりがこの街に入り込んでいるのか?」
 アリエスは自作した行方不明者のリストを眺めながら、渋い顔をしていた。
 孤児の少年が言うには、彼の友達が三名立て続けに行方不明になってしまったそうだ。アリエスはその日から西地区の巡回の回数を増やし、地道な聞き込み調査を続けた。すると、孤児に限らず、大人の浮浪者も最近行方知れずになっている者が急増していることが分かった。しかし、この街は納税者ではない者に対しては非常に冷たい。アリエスの部下達も、「どうせ街から出ていったんだろう」とこの事件の調査にはあまりやる気がない。結局、数日でアリエスだけが熱心に調査を続けているという状況になってしまった。そして、さらに数日後。アリエスは巡視兵団の長に呼び出された。

「急に呼び出してすまないね、アリエス君」
「いえとんでもない。団長殿。御用件は何でしょうか」
 団長室に呼び出されたアリエスは、巡視兵団長に敬礼した。
「そう畏まらずともいい。君に伝えておきたいことがあってね」
「なんでしょうか」
 こほん、と咳払いした後、真っすぐにアリエスを見つめて言った。
「君は行方不明になった浮浪者達について調査しているな。アレなんだが……手を引きたまえ」
「なんですって?」
「兵団としては、これ以上君が勤務時間中に浮浪者の調査に時間を割くことは認められない。これまで通り、街の治安維持に注力してくれ。これは既に決まったことだ」
 その言葉に、アリエスは耳を疑った。団長は険しい顔でアリエスを真っすぐ見ている。
「実は、君が西地区にばかり入り浸り、巡回の仕事に専念できていないのではという苦情が市民から多数寄せられているのだ。分隊長である君はとても目立つ。兵団としても……」

 団長は理由の詳細を説明した。巡視兵団の兵士達の給料は街の税金から出ている。そして、スラム地区である西地区からは殆ど徴収されていない。にもかかわらずアリエスの部隊が西地区ばかり巡回しているのは問題なのではないか、という苦情が他の地区の住民から来ているということだった。

「知っての通り、この街では納税額に応じ、住民の居住区は厳しく制限されている。西地区以外の区の住民にとっては、西地区がどれだけ荒れようが、浮浪者が何人失踪しようが、自分達の所に飛び火しなければどうでもいいのだろう」
 団長は深いため息をついた。
「孤児達は納税者ではないから、放っておけと言うんですか。我々巡視兵団は納税者の安全だけを守るのが仕事だと」
 アリエスは咎めるような口調で尋ねながら、団長を睨んだ。
「そう睨まないでくれ。私とて、好き好んでこんなことを言っているわけではない。だが、若き分隊長であり、美しき騎士でもある君は嫌でも目立つ。どうか、ここは我々の顔を立ててくれないか」
 団長は相変わらず、厳めしい顔でアリエスを見ている。

「分かり、ました。では、巡回を終えた後で勝手に調査します。それなら文句無いですよね」
「アリエス君……!」
「では、私はこれで。失礼します」
 アリエスは肩をいからせ、すたすたと団長室を出ていった。一人となった団長は紫煙を吐きながら呟く。実は市民から苦情が多数寄せられている、というのは団長がでっち上げた嘘であった。彼はアリエスの身を案じ、なんとか彼女を止めようとしたのだ。
「頑固者が。私は止めたぞ、アリエス君……」

●女騎士の依頼
「内密の依頼があります。決して非合法な依頼ではないのでそこは安心して下さい」
 その週の休日。アリエスはラグラスから少し離れた街にある冒険者の店を訪れていた。上から圧力がかかり、部下を動かせなくなったアリエスは人手不足を補う為に、自腹で冒険者を雇うことにしたのだ。ちなみに鎧姿だとあまりに目立つので、私服姿で行動している。

「私の名はアリエス・クレスト。ラグラスという街で巡視兵をしている者です。実は、その街で三名の孤児が行方不明になっています。そして、恐らくは成人の浮浪者も……。彼らの行方を探すのに協力して頂きたいのです」
 アリエスは机の上に自分で調査した情報をまとめた資料の束を机の上に置いた。

「我が街の巡視兵団は街の治安維持を目的に活動しているのですが、行方不明者が貧しい者達ばかりのせいか、この件についてはどうにも腰が重い。仕事中に彼らの捜索に時間を割くな、とまで言われました。私には、領主様は浮浪者は市民に含まないと考えているのではないかとさえ思えます。ですが、私は街の子供と約束したのです。必ず貴方の友達を見つけてみせると。ですが、一人ではどうにも効率が悪く。また、私もあまり大っぴらに動ける状況ではないので……。どうか、貴方達にも協力していただきたい」
 アリエスは酒を一杯煽り、職場への不満をこぼしつつ、冒険者に事情を説明し始めた……。

解説

冒険者達は栄耀都市ラグラスにて、行方不明になった孤児達の行方を探すことになります。街の住民に聞き込みをするのが調査の基本となるでしょう。どの地区でどんな調査を行うかが、判定のポイントとなります。 ●栄耀都市ラグラス リーンエス王国西方にある商業都市です。経済活動が活発に行われており、「栄耀の都市」と呼ばれていますが、平民には重税及び居住地区の制限などが課されており、富裕層と労働者の格差は広がり続けています。 ●各地区について 西地区:いわゆるスラム街です。貧民や浮浪者などが生活しています。ギャングのナワバリもあります。 行方不明になった孤児は全て西地区で生活していた子供達でした。 東地区:大きな市場が広がる街で最も活気がある地区です。また、巡視兵の詰め所もこの地区にあります。 北地区:教会が乱立する宗教区です。王国内でも珍しい、大聖堂があります。大聖堂に祀られているのは法と秩序の神です。 地区全体の傾向としては、法の神の以外では商業繁盛の神を祀っている建物が多いようです。また、孤児院として運営されている各種神の分神殿が幾つか存在します。 南地区:労働者階級の居住区です。中流~下流の所得層が住む住宅街です。 中央区:領主の一族や豪商が住む高級住宅街です。地区の入口には門番がおり、許可証を持たぬ者は入ることができません。 ※アリエスは許可証を持っています。 下水道:街全体に下水道があります。巨大ワニが住んでいるとか、秘密の通路があるなどの噂も囁かれています。 ●秩序の神の大聖堂について 豪華絢爛な美しい建物ですが、最高責任者は悪徳司教との噂です。また、この街では法と秩序の神の神殿が司法の役割を担っています。 ●ラグラス巡視兵団 警察としての役割を担う兵団です。設立は二十数年前。 ※分隊長以上は爵位を持つ騎士で構成されています。市民に対して威圧的な態度を取る者が多いですが、中央区の住民にはみな頭が上がらないようです。 ●登場NPC アリエス・クレスト(21) 今回の依頼人である女騎士です。ラグラス巡視兵団の分隊長の役職に就いています。かなりの熱血騎士で、自腹で冒険者に調査協力を依頼してでも事件の真相を突き止めようとしています。ちなみに酒好き。 ピピン(10) アリエスに調査を依頼した孤児です。西地区の路上に住んでいます。 巡視兵団の団長(38) 兵士の詰め所にいます。冒険者に協力することはまずありませんが、積極的に邪魔もしません。

マスターより

こんにちは。おおくまねこです。今回はショートシナリオR「光と闇の都」と同一の舞台、栄耀の都市ラグラスを舞台としたシティー・アドベンチャーシナリオ(刑事ドラマ風)となります。今回は調査パートのみでバトルはありません。ショートEXでリリースして調査と戦闘一本にまとめようかとも思いましたが、こういうお話の場合はオープニングで敵の正体を暴露してしまうよりも謎めいていた方が面白いと思い、調査編と真相編の前後編にいたしました(シナリオが失敗または不成立の場合は後編は出ません) 調査シナリオは文字数との戦いが厳しくなる為、募集人数は少な目ですが、ご興味がありましたらよろしくお願いいたします。 ※後編は7月後半~8月前半にリリース予定です。また、タイトルがタグっぽいのがついていますが、前後編なので付けただけで、マスター間連動企画ではありません。あと、ショートRでもないのでご注意下さい。

リプレイ

●南地区調査
「意外と早い再訪になったようだ。絢爛な表情の奥に、奸邪が潜むのはままあること。だがしかし、だ。いいか良く聞け、重要なのはバランスだ」
「はあ」
 突然GP(ジャイアントパンダ)教説法モードに入ったハッタ・ムラムラの言葉に、依頼人のアリエスは覇気のない返事をした。
「アリエスよ。君はこの事件についてどう考える? 『何かしらの巨悪が、今回の事件をもたらしているに違いない……』そう考えているのではないか?」
「ええ、もちろんです。だからこそ、私は貴方達冒険者の力を借りようと決めたのですから」
「うむ。それは十分あり得ると思う。だが、決めつけはよくない。『偶然の失踪が重なっただけに過ぎない、事件性はない』という可能性も忘れてはならん。故に、おれはどちらも丁度、半々になるような心持ちでこの依頼へと臨む。偏り過ぎてはいけない、穿ち過ぎてはならないのだ……」
「! なるほど……」
 ハッタの言葉は法と秩序の神の信徒であるアリエスからすれば異教徒の言葉ではあったが、アリエスはハッタの説法を熱心に聞いていた。他の冒険者達はふむふむと相槌を打ったり、欠伸をしたりと、反応は様々だ。

「さて話が長くなったが、おれは労働者の多い南地区の地区で、主に清掃関連の仕事に就いている者を当たってみよう」

(不明者が拐かされたものだったとしても、状況的に金銭目的とは考え辛い。いなくなっても騒動になり辛い人間を集めている、というのがこの場合、自然か。とは言え、いくら浮浪者相手でも、大っぴらに連れ去ることは難しいだろう)
 ハッタは事件について自分なりの推理をしながら、南地区の調査に赴くのだった。

●中央区調査
「孤児や浮浪者の扱いは、同じヒューマンでも冷たいのね……」
 ルベア・ベルニはぽつりと呟いた。
「アリエス、中央区を調査したいの。一緒に来てくれる? ……ほら、私が一人で動いても、きっと相手にされないだろうし」
(ヒューマン至上主義の王国的に、ね)
 後半は胸の内に秘めておく。私財を投げ打ち、献身的に孤児達の行方を追っているアリエスは貴族にしてはかなりの人格者だ。獣人(ハーフビースト)の愚痴を聞かせるのも気が引ける。
「ええ、いいでしょう。中央区は許可証が無いと立ち入りできませんから。余り目立つと後で兵長に文句を言われそうですが、仕方がありません」
 アリエスはあまり乗り気ではなさそうだったが、ルベアの提案を承諾してくれた。
「アナタ、貴族なのよね?」
「ええ、まあ一応。領地と呼べるほどの土地は持っていないのですが」
「名前を貸してちょうだい。どこの馬の骨とも知れない獣人(ハフビ)の私なら、行方不明の友人を探しにきたって名目で調査ができるから」
「なるほど。分かりました」

 アリエスはルベアの頼みを了承した。彼女は名誉称号である騎士を名乗っているが、男爵(バロネス)の爵位を持つ貴族でもあり、中央区に家も持っているという。もっとも、本人は中央区の住人達とは反りが合わないらしく、休日も遊びに行く時は東地区や街の外で過ごすことが多いそうだが。ちなみに美女大好きな某冒険者(ハヤト=ガラン=ヴォルファング)がアリエスをサシ飲みに誘っていたが、事件解決後なら、という条件であっさり承諾していた。単に酒好きなのかもしれないが、見ている方がちょっと不安になるガードの緩さである。閑話休題。

「ところで、上が『今更』アナタに圧力をかけたのは、兵団自体にも圧力がかかっているかもしれないわ」
「なんですって?」
 ルベアはアリエスに、彼女が受けた上司からの圧力が彼女を庇う為の虚偽である可能性について説明した。
「……兵団に圧力がかかってるとしたら、最悪、領主が一枚噛んでる可能性もあるってことよ。その可能性も考慮しておいてね」
「……考えたくはありませんが、心に留めておきましょう」

 ……。
「孤児ですと? 知りませんな。この地区にそんな汚らわしいモノはいませんよ」
 中央区を歩いていた身なりのいい男は、うっとおしそうにルベアに答えた。
(綺麗なのは身なりだけね。でもシロだわ。純粋に下々には関心がないって反応ね)
 ルベアは慎重に住民達の反応を探りながら、聞き込みを続けていった。

●北地区調査
「人攫いの仕業か。それにしても大人まで攫って行く理由はなんだろうな」
 キリクはこの事件は人さらいの仕業だと当たりを付けていた。そして、幼い頃に人攫いに遭い、長らく監禁生活を強いられていた過去を思い出す。今は紆余曲折あってパン屋で住み込みで働いているが、少し前までは自分も孤児だったのだ。そんな理由もあり、キリクにはこの事件が他人事とは思えなかった。
「まずは大聖堂を見てみよう。その後は……西地区の孤児と孤児院の繋がりについて探ってみるか」

 ピピンに色々聞いた後、キリクは北地区に来ていた。まずは観光名目で大聖堂を見て回り、次は神殿で行われている裁判についても見学してみるつもりだ。だが――。
「裁判も見学してみたかったけど……無理だったか。事情上街の外部には非公開……それだけで十分うさんくさいけど」
 残念ながら、ラグラスの裁判の傍聴は有料な上に事前予約制だということだった。基本的には、裁判の傍聴は観光客向けではなく、中央区の金持ち達の道楽として認識されているらしい。
「次は、孤児院を回ってみよう。被害者が出てなきゃいいけど……」
 キリクは地図に目を落としながら、大聖堂を後にした。

●東地区調査
「さて……と。子供を攫うというのは何にもつけて許せないけれど。それだけを気に掛ける状況でもなさそうね」
 東地区へとやってきたのはヴィノニスだ。無類の少年(ショタ)好きであり、かつては自分も人身売買の被害者であったヴィノニスは使命感に燃えていた。彼女が調査に向かったのはキリク(ハーフリングの少年)をストーキングして西地区……ではなく、市場がある東地区であった。他の担当者がいなかった地区を消去法で選んだ形である。
「西地区が荒れているとはいえ、人を攫うこと自体にリスクがあるのは自明。目的があればその因果を追えるはず。仮説を立て、検証しながら可能性を潰していきましょう」
 東地区で情報収集しながら、ヴィノニスは思考を整理していく。
「少年達が街の外に連れ出された可能性はないかしら? ……却下」
 散発的に複数回の行方不明が発生している点、自発的に街を出る理由がない点から行方不明者自身で街を出た可能性は消去できる。
「外は無さそうね。じゃあ、少年達はまだ街の内部に? これが誘拐だとしたら、人目に付かず複数人を収容できる場所が必要ね。果たしてそれは可能か……イエス」
 この街は大都市だ。組織的な犯罪だとして、大量の孤児や浮浪者を収容する施設を用意すること自体はそう難しくはない。
「巡視隊が捜査しにくい場所……聖堂・中央地区・下水道あたりが候補かしら。いずれにせよ、収容するなら食料その他が必要。物の流れに違和感や変化は無いか、市場にて聞き込みをしてみましょう」
 ヴィノニスは自問自答しながら、一つ一つ可能性を検証していくのだった。

●西地区調査
「美人騎士様の依頼とあっちゃ気合い入れるっきゃねーな♪」
「またこの街に来ることになるとは、奇妙な縁もあったものだ。しかし…失踪事件か。…あの、子供は。無事だろうか」
 ハヤトとエル=バ=ノイアンの二人はスラム街である西地区へと来ていた。
「あんたはこの街に来るのは二回目なんだっけ?」
「ああ、二度目だ。以前はキャラバンの護衛の依頼の帰りに、この街をぶらついたことがある」
 ハヤトの問いかけにノイアンは淡々と答えた。

「ピピン、君の話を聞きたい。少し付き合ってくれ」
「わかった」
 二人はアリエスに居場所を聞いた孤児の少年と接触し、西地区の道案内を頼むことにした。大本の依頼人ということもあり、ピピンとは協力的だった。
「東地区とはえらい違いだな……本当に同じ街なのか?」
 西地区の荒廃っぷりにハヤトは唸った。冒険者達は(アリエスの家に泊まると目立つので)東地区に宿をとっている。活気のある東地区と比べれば、西地区の貧しさは一目瞭然だ。
「なあ、あんた。この辺で孤児が消えてるって話は知ってるか?」
 ハヤトは路上で座っている男に硬貨を一枚渡すと、しゃがみ込んで話しかけた。
「ありがとよ、兄さん。その話なら俺も聞いたことがあるぜ。二つ先の路地で寝てる爺さんに聞いてみな。そいつが俺より詳しいはずさ」
 コインを受け取った男はニヤリと笑い、ハヤトの質問にすらすら答えた。ハヤトは礼を言って別れた後、男に言われた通りに道を進み、件の老人の話を聞いた。すると、興味深い情報を聞けた。
「なんか、えらいあっさり情報出て来たな……もしかしてアリエスはむの……いや、なんでもねえ」
「……たぶん、彼女は西地区の人間に良く思われてなかったんじゃないか? 爵位も持っていると言っていたし」
「ああ、なるほどなー」
 彼女自身が西地区の住民の為に真摯に行動していたとしても、結局彼女は貴族だ。そのどうしようのない身分の差は、スラムの住民達に反感を抱かせるのには十分だったのだろう。
「ピピン。ついでに聞いておきたいんだが。……という特徴の子供を知っているか?」
「ごめん、わかんない」
「そうか。ならいい。気にしないでくれ」
 ノイアンは心なしかしょんぼりした声で返答した。ノイアンが尋ねたのは以前この街で出会ったスリの少年のことだ。とはいえ、ほとんどすれちがっただけで、名前も知らなかったので、探すのは難しかった。

「へい、兄ちゃんたち。ずいぶん気前がいいみたいじゃねえの。ちょっと俺達にも恵んでもらえねえか?」
 にやにやと笑いながら、聞き込みを続けていた二人(とピピン)を取り囲んだのは、いかにもガラの悪そうな男達だった。数はだいたい十人ぐらいだろうか。手には刃物や棍棒を握っており、とうてい物乞いには見えない。
「ひっ」
 ピピンは男達に気圧され、ノイアンの裾にしがみついた。
「ちょうどいいや。こいつらにも聞いてみようぜ。何か知ってるかもしれねえ」
「そうだな。……ピピン。悪いが後ろに下がってくれ。心配するな。すぐ終わる」
 二人は落ち着き払った態度のまま、武器を抜いた。

●下水道へと
 冒険者達は手分けし、全ての地区を調査した後、街の片隅にある宿屋に再び集合した。特に目立った成果があったのは西地区だ。『怪しい連中が孤児に声をかけていた』という証言や、『大きな袋を担いだ奴が下水道の蓋を開けて中に入っていった』という決定的な証言が取れたのだ。
 そしてもう一つ。北地区でも有力な証言があった。法と秩序の神が管理している分神殿……つまり孤児院でも、時折孤児が失踪しているというのだ。

「公的記録では、引き取り手が見つかったってことになってるみたいなんだけど……不思議なことに、その引き取り手を誰も見た事がないそうなんだ。ある日、忽然と消えて、何処に行ったのか大人に尋ねると、『育ててくれる親切な人が現れたんだよ』、って言われたんだって」
「何よそれ。事件の香りがプンプンするわね」
 キリクの言葉を聞き、孤児院のシスター(ヴィノニス)は憤慨した。法と秩序の神の信者であるアリエスも渋い顔をしている。まさか自身の信仰する神の信徒が黒幕だとは信じがたいのだろう。
「……まだ、神殿が黒幕だと決まったわけではありません。それに、法と秩序の神の教会はこの街の司法制度を任されているほどの権威ある宗教団体です。そこを捜査するとなると、流石に領主様の許可が必要だ。ここは、先に下水道の方を調べてみましょう。入り口は街中にありますが……この人数で移動すると目立つので、決行は深夜にしましょうか」
 アリエスは苦虫を噛み潰したような表情で言葉を絞り出した。冒険者達は彼女の言葉に頷き、下水道に向かう準備を始めた。

●栄耀都市の深淵
「酷い匂いですね……鎧に悪臭が染み付かなければ良いのですが……」
 アリエスはハンカチで鼻と口を覆っていた。貴族なのに下水道までついてきたのは立派だが、流石にこの悪臭は耐えられなかったようだ。ちなみに彼女は全身真紅のド派手な鎧を着ている。本人曰く、分隊長以上の巡視隊員には、専用カラーの鎧の着用が許されているらしいから、ということらしい。
(彼女の捜査がうまく行かなかったのはその鎧のせいなのでは?)
 ノイアンはふとそう思ったが、あえて口には出さなかった。
「狼の鼻で……いや、こりゃ、無理だな。くっせー! 昼飯が出て来ちまいそうだ」
 吐き気を堪えながら、ハヤトは呻いた。匂いで後を辿ろうと、ピピンから行方不明の友人の服を借りていたのだが、下水道の悪臭はハヤトの想像以上だったのだ。
「これは……最悪ね」
 同じくルベアも渋い顔をしている。気分が悪いのだろう。
「ここで働いてる……いえ、働かされている人達には頭が下がるわね」
 ヴェノニスは溜息をついた。
「南地区の人々や、西地区の人々が下水道(ここ)で働いていると聞いた。だが、過酷な労働環境の割に薄給らしい。実にけしからん。バランスが悪いにも程がある」
 ハッタは鼻息を荒く言った。GP教の僧侶として、下水道の労働事情は許しがたいのだろう。
 冒険者達は夜目が利くキリク、ノイアン、ハヤトを先頭に、注意深く下水道を進んでいった。しばらく下水道を進んでいくと、冒険者達は奇妙なものを発見した。それは、鋼鉄製の扉を見張りと思しき覆面の男二人が見張っている姿だった。

「なんだあの分厚い扉は……? 明らかに下水道の設備ではないな……」
「見張りがいるのもおかしいわね。ここで非合法なことをしていますって言ってるようなものだわ」
 姿勢を低くし、見張りに気取られないように気を付けながら、ハッタとルベアが言った。
「まあ、普通の人はわざわざ下水道になんか入ってこないだろうからな……。悪事はやりやすいかもな。ところでここ、何地区のあたりなんだ? 誰か分かるか?」
「曲がった方向と回数から考えて……たぶん北地区……宗教区。それも、大聖堂のすぐ近くね」
 キリクが尋ねると、優れた記憶力を有するヴィノニスが答えた。その答えに、一同は一瞬沈黙する。どうやら、ルーレットは最悪の目を示したようだ。

「みなさん、一旦地上に戻りましょう。私は最初非合法組織の仕業なのかと思っていましたが……思った以上にこの事件の闇は深そうだ。これ以上は『調査』では済みそうにありませんので、また改めて依頼を出し直したいと思います。皆さんの実力を疑うわけではありませんが、ここから先は十分な準備をした上で臨みたい」
 アリエスは沈痛な面持ちで冒険者達に告げた。
「そうね。ここは一度退きましょう。見逃すつもりはないけどね」
「そうだな」
 ヴィノニスの言葉にノイアンも頷く。他の者達も踵を返し、来た道を戻り始めた。

 光と闇の都ラグラスの地下には、冒険者達の想像以上に濃い闇が広がっていた。冒険者達は、万全の態勢を整える為、アリエスと共に足早に地上へと引き返すのだった。

マスターコメント

 お疲れ様でした。多少目立ってしまったものの、調査は無事成功したので、結果は成功です。藪をつついて出るのは鬼か蛇か。答えは後編で明らかになります。  MVP選出理由は調査への貢献度が基準なんですが、称号付与理由とは因果関係がない方も混ざっております。ご本人的にはこっちの方が大事かなって……。  後編については6人~25人のイベントシナリオとして8月上旬にリリース予定です。ご縁がありましたらよろしくお願いいたします。
ショートシナリオ

ショートシナリオ普通 報酬:標準6 / 4〜6人

2021年07月25日 20時35分59秒 公開

成功

相談掲示板

  1. エル=バ=ノイアン

    ラグラスバーボンハウス… ではなく。 またラグラスに来ることができてよかった。おおくまねこMSに感謝を。 遅れたが、ウォーリアのノイアンだ。同行の皆はよろしく頼む。 …実は明日出発の依頼があって、本格的な顔出しは明日以降になりそうだ…すまない その間、話を進めていてくれてかまわない。ではとりいそぎ…

  2. ハッタ・ムラムラ

    ハッタだ、世話になる。

  3. キリク

    キリクです、よろしく。 貧しい孤児ばかりが行方不明か…。 個人的には大聖堂のある北地区が気になるな。孤児院にも顔を出してみたい。

  4. ルベア・ベルニ

    シーフのルベアよ、宜しく。 確かに北地区は怪しさ全開よね……。ビンゴでなくても有力な情報は得られそう。 あとは中央区とか下水道も気になってる。

  5. ハヤト=ガラン=ヴォルファング

    おーっす! ゴブリンのシーフ、ブレイブファング傭兵団のハヤト=ヴォルファングだ、よろしくな!! 俺も大聖堂とやらがキナ臭ぇと思うが、攫ってるルートとすりゃ下水道の可能性も高そうだから下水道をメインに調べてみるつもりだ。 下水道ってことで俺の鼻がどこまで通用すっかわからねぇが《超嗅覚》を頼りに行方を辿ってみんぜ!

  6. ハッタ・ムラムラ

    人さらい的なアレだとすると、犯人が単独である可能性は低いな。 目的は分からんが、集団で、組織的に動いているケースは十分に考えられる。 だとすると、おれたちも闇雲に聞き込みをするのは、避けるべきか。 少なくとも「行方不明者を探しています」という体は、見せない方が良いだろう。 今後も同様の状況が続くとなると、西地区に張り込む役は必須だと思っている。 浮浪者に扮して、囮となるのも手だが……それはそれで地域の者達への対応も必要になるかも知れん。 ラグラスの雰囲気は↓でも感じられるので、興味があれば是非。 光と闇の都 https://alpha.alpaca-connect.com/world/world0/scenario/875

  7. エル=バ=ノイアン

    ようやく時間が取れた…待たせたな では、俺は西地区で情報収集をしようかと思う。…少し気になることもある。 とりあえず今回は調査ということだから、各地区を個別に回って、一度集合してから下水道を調査しにいく、というのはどうだろうか。 街全体に広がっている場所を1人か2人で回るのは厳しいだろうし…下水道の地図も欲しいところだな。

  8. ヴィノニス

    遅くなったうえに前の発言を間違えて消してしまったわ。 ヴィノニスといいます。よろしくお願いしますね。 複数犯の可能性があり、目立つ聞き込みは避けるべきという意見には全くもって同意します。 警戒されているという怖れを犯人に抱かせないことが重要ね。 北地区の教会が怪しいのはもちろんなのだけれど、捜査漏れがあるというのも怖いわね。 希望次第にはなるけれど、可能な限り漏れなく誰かひとりは捜査しておくのがいいんじゃないかしら。もちろん、無駄足になる可能性はあるけれど……全体としての成功のために、ね。

  9. エル=バ=ノイアン

    そうだな。あまり目立たないように… とりあえず行き先についてはっきり表明があるぶんをまとめると… 西地区(スラム街)    :ノイアン 東地区(市場、巡視兵詰所): 北地区(大聖堂)     :キリク 南地区(労働者居住区)  : 中央区(高級住宅街)   : 下水道          :ハヤト こんな感じか?決まったやつから修正加筆を頼む。 下水道探索については先述した通り、俺は全員でと思っているが皆の意見がまとまるまでは個別に記載しておく。 あと下水道については、西地区の人間が多くを知っていそう(という偏見)だから、地図などを譲ってもらえないか【交渉】してみる。地図は巡視兵に聞いてもいいと思う。 西地区の子供のことを他の地区の人間がどこまで知っているかはわからないが…巡視兵団の人間は西地区もパトロールするから、詰所にいる巡視兵からも何か話を聞けると思う。

  10. ルベア・ベルニ

    >一度集合してから下水道 賛成。一人で捜索するのは特に大変そうな箇所だしね。 私も超嗅覚は持っていくけど。 >行き先 中央区に行こうかと思ってる。 アリエスの協力を仰ぐ必要があるのと、 種族柄貴族のいる区域だと悪目立ちするリスクがちょっとあるけど……。 豪商は兎も角貴族とは直接接触しないでアリエスに頼るとか、ちょっと工夫してみるつもり。 西地区(スラム街)    :ノイアン 東地区(市場、巡視兵詰所): 北地区(大聖堂)     :キリク 南地区(労働者居住区)  : 中央区(高級住宅街)   :ルベア 下水道          :ハヤト

  11. ヴィノニス

    それなら暫定で東地区を希望しましょうか。 下水道を全員で探索するのであれば、一か所は二人体制でも手が足りる場所が出てきそうね。 その場合はやっぱり、西地区を調べるのが定石かしら? 西地区(スラム街)    :ノイアン 東地区(市場、巡視兵詰所):ヴィノニス 北地区(大聖堂)     :キリク 南地区(労働者居住区)  : 中央区(高級住宅街)   :ルベア 下水道          :ハヤト

  12. ハッタ・ムラムラ

    各地区の情報を集約する必要はあるし、その流れで最後に下水道を、というのは承知した。 ハヤトは動けそうなら、下水道散策前にプラス一か所(できれば西地区)受け持てるか? とりあえず手は足りているので、事前に下水道の下見⇒全員で本格的に調査、の流れもアリかも知れないが。 西地区(スラム街)    :ノイアン 東地区(市場、巡視兵詰所):ヴィノニス 北地区(大聖堂)     :キリク 南地区(労働者居住区)  :ハッタ 中央区(高級住宅街)   :ルベア 下水道          :ハヤト

  13. ハヤト=ガラン=ヴォルファング

    おーけー。了解だ! んじゃ、俺も西地区回ってから全員で下水道って流れだな。 西地区(スラム街)    :ノイアン&ハヤト 東地区(市場、巡視兵詰所):ヴィノニス 北地区(大聖堂)     :キリク 南地区(労働者居住区)  :ハッタ 中央区(高級住宅街)   :ルベア 下水道          :全員

  14. キリク

    最後に全員で下水道調査だな、了解。 手掛かりが見つかると良いな。

  15. エル=バ=ノイアン

    ありがとう、ではその流れで。 西地区は俺とハヤトで…だな、了解した。よろしく頼む。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0