ミネルヴァ・フォン・ティロール
影絵 企鵝
コメント 6
シナリオID:1031
オープニング
冒険者達の協力により窮地を乗り越えたティロール子爵マティアス。紅玉竜の鱗を売って手に入れた大金を元手に大工を雇い、村の施設の復旧やら開発やらに乗り出そうとしていた。グランツ伯からの圧力は続いているが、狩りの獲物の横取りは貴族の名声を著しく地に落とす。さすがの金満伯もそこはわかっていた。これでしばらくは領地の経営に専念出来る。
マティアスの妹、ミネルヴァはそんな兄の背中を見ていた。本来なら騎士としての栄光を余すことなく身に受けて帰還し、王都で培った人脈を盾にグランツ伯と張り合っていたはずの兄。しかし彼は今や騎士としての誇りすら投げ売る羽目になっていた。妹としては不憫で仕方がない。
今、兄のために出来ることはないか。考え抜いた彼女は、とうとう明後日の方向に向かって走り出すのである。
●才気煥発、男勝り、じゃじゃ馬……
ティロール領の砦に構えられた訓練場。ミネルヴァは朝から一人の青年と対峙していた。以前から親交のあるヘーゼル伯爵家の跡取り、フリードリヒである。
「僕は反対するぞ。ミーナ」
「もう決めたの! これが私のすべきことだってね」
木剣を構えたミーナは不敵に笑う。
「どうしても止めたいなら力ずくで止めてみたら?」
彼女は軽やかに駆け出し、鋭く木剣を振り下ろす。フリードリヒは素早くいなすと、彼女と間合いを取って睨みつけた。
「ああ止めてやるとも! 止めたら大人しく僕のところに来るんだ!」
フリードリヒが振り抜く剣を、ミーナはひらりひらりとかわしていく。笑みは全く崩れない。
「もちろん。フリッツが勝ったらね」
「ミーナめ、自分が負けないと思って!」
「だってそうでしょ。これまで私の全勝、私が女だからって手加減してるのか知らないけど、一回だってフリッツが勝ったことないじゃん」
ミーナは力強く跳び上がると、そのままフリッツの肩を踏み越え、彼の背後へ回り込む。フリッツも咄嗟に振り返り、ミーナの突きを叩き落とした。ミーナは目を丸くする。
「あれ?」
「今日は本気だ! そんな危ない事、僕は君にさせられない!」
フリッツは次々と剣を振り抜き、ミーナを力押しで圧倒する。ミーナは小手先でその一撃を受け流していたが、やがて剣を手からもぎ取られ、訓練場の隅へと弾き飛ばされる。彼女は手を軽くさすり、小さく肩を竦めた。
「確かに本気みたいね……。でも、私だって本気の本気だから」
言うと、ミーナは素早く徒手の構えを取り、いきなりフリッツの懐へと飛び込む。フリッツはその肩口を打ち据えようとしたが、ミーナは素早く手刀で弾き、フリッツの足下に滑り込んだ。朝露に濡れた芝生はよく滑る。フリッツと擦れ違う隙をついて、ミーナは勢いよく彼の足を掬った。
「うわっ」
フリッツは体勢を保とうとするが、脚がもつれてしまう。ミーナは芝を掴んで素早く立ち上がると、そのまま両足揃えてフリッツの胸元を蹴りつけた。彼は芝生の上に投げ出される。ミーナはそのそばへ飛び込むと、その片腕にしがみつき、全身でぎりぎりと締め上げる。フリッツは呻いた。
「いたたたた! やめろ! 参った!」
「はい、私の勝ち」
彼女は得意満面、揚々とフリッツを解放した。フリッツは腕をさすりながら起き上がり、深々と溜め息をついた。
「……全く、どこでパンクラチオンなんか覚えてくるんだ」
「ふふん」
ミーナに手を差し出され、フリッツは渋々その手を取る。その手の平の皮は固く、分厚い。まるで剣士の手である。フリッツは溜め息をついた。
「こんなのは淑女の手ではないよ」
「ぜひそう言いふらしてよ。そしたら面倒な奴らが兄さんを困らせなくなる」
事も無げに言うミーナ。フリッツがむっとしていると、ティロール子爵がのっそりと現れた。
「やれやれ。またやっているのか」
「兄上殿!」
フリッツははっとして振り向く。
「俺は別にお前の兄ではないが……どうした」
「ミネルヴァが冒険者ギルドに加入すると言い出したのです!」
「ああ、その話か」
マティアスは溜め息をついた。その淡白な態度に、フリッツは思わずいきり立つ。
「その話かですと? 一大事ですぞ! 何を平然としているのです!」
そのままずんずんと鼻先まで詰め寄っていく。マティアスは相好を崩すと、そっとその肩を叩いた。
「安心せよ、オーデンヴァルト卿。何も君とミネルヴァの婚姻の打診を断るつもりはない。騎士団にいた頃から君の父にはよくしてもらったし、何よりこいつもお前となら構わんと言っている」
「ならどうして……」
今度はミーナが気を吐く番だった。
「私は兄さんの役に立ちたいの。貴方の家に入ったら、もう私は貴方の家の人間になるんだから。その前にやれることをしたいのよ」
「それが鴉の弓を探し出す事なのか?」
「そうよ。兄さんが貢納金を作るために売っちゃった家宝。他にもいろいろ取り返したいけど、せめてこれだけは探し出したいの」
「だからと言って、自分でやる必要あるのか。それこそギルドに触れを出して……」
「だってうちにはそんなお金ないし」
しょんぼりするミーナ。フリッツは思わず口ごもった。マティアスはそんな彼と肩を組み、小さく耳打ちした。
「諦めろ、弟よ」
「私は貴方の弟ではありません!」
マティアスを押しのけようとするフリッツ。しかしマティアスはがっしりと彼を抑え込んだ。
「まあ聞け。こいつに黙って馬車に乗れなんて言って聞くと思うか」
「それは……」
「ならいいだろ。少し好きにさせてやれ。ギルドには信用できる奴もいるしな」
マティアスの言葉に、フリッツは溜め息で応えるのだった。
●旅立つ前に何よりも必要な事
君達はティロール子爵の治めるアレマン村へとやってきた。王都から雇われてきた腕の立つ大工が音頭を取り、村人達が総出で村の再建と開発に乗り出している。それを見ていた君達を、ティロール子爵が出迎えた。
「よく来てくれたな。何もないところだが、歓迎する」
彼はキノコの燻製の薄切りが乗ったトーストを君達に差し出す。それなりにいい香りだ。君達がそれを齧り始めると、子爵は静かに話し始めた。
「さて、君達に集まってもらったのは、折り入って聞いてほしい相談があったからだ」
以前はギルドの面々に冷徹な印象を抱かせた子爵だったが、金が出来て余裕も出来たか、そのバツの悪そうな表情はいかにも人間臭い。
「聞いている者もいるかもしれんが、妹がギルドへの所属を希望した。妹も私と同じ授恵者であるし、才能だけは生意気なくらいある。足手まといになるということもあるまい」
どうにもそわそわしている子爵は、自分もトーストを取って貪り始めた。
「ただ、どうやら……妹は妙なところで、素質が釣り合っているらしい。今のところ力ばかり強くなって、一向に適性が定まる気配がない。これではまだ一人前とは言えない」
一気にパンを呑み込むと、彼は君達に向き直って静かに頭を下げた。
「妹に助言を与えてやってほしい。自らの経験談を語るでも、稽古を付けてやるでも構わない。……そうすれば、あいつなりに進む道が決まって、おのずと適性も定まるはずだ」
その時、屋敷のドアが開き、ぱりっと男装したミネルヴァが姿を現す。円く大きな青い眼が、君達に勝気な印象を与えた事だろう。
「私はフィーギル家のミネルヴァ。どうぞよろしくお願いします。私と関わった事、後悔はさせませんから」
解説
マスターより
リプレイ
「さて、クラスがまだ定まってないんでしたね」
訓練所。クローリカとミーナは互いに剣を構えて向かい合っていた。まずはクローリカが彼女に稽古をつけることになったのである。
「昔からずっとなんです。兄と違って」
「……ふむ。ではとりあえず、稽古としましょう」
「はい」
ミーナが飛び出しざまに剣を振ると、クローリカは盾で器用に切っ先を反らす。そのまま彼女は身を翻し、レイピアを繰り出した。ミーナは半身で躱し、鍔迫合に持ち込む。
「ウォーリアなのに使うのはレイピアなんですね?」
「大剣とか斧とか振り回すのは、合わないんですよ!」
柄元から散った火花が光となって、レイピアの刃に巻き付く。ミーナが飛び退いた瞬間、クローリカはレイピアを地面に突き立てた。地響きが唸り、ミーナの足を掬う。
「うわっ」
「まだ行きますよ!」
さらにクローリカは剣を振り上げる。ミーナは慌てて宙返りし、一撃を躱そうとする。
「なんて。こっちが本命です!」
その動きを見切ったクローリカは、鋭く刃を突く。放たれた衝撃波が、ミーナを突き飛ばした。彼女は敢え無く地面に転がる。彼女は悔しげに唇を噛みながら起き上がった。
「やっぱり冒険者は強い……どうしてそんなに力が湧いてくるんです?」
ミーナに尋ねられ、クローリカは顎を撫でる。
「……私には、この身を賭すべき使命があるからでしょうか」
「使命?」
ミーナが首を傾げると、クローリカは剣礼の構えを取り、じっと刃を見つめる。
「ええ。私が授恵者に目覚めたのは、一生お守りすると誓った主と別れた時……もしもう一度会えるのなら、今度こそ守れる自分で在りたいと願った時なのです」
彼女はミーナを見つめる。その眼は凛とした輝きに満ちていた。
「ミネルヴァさん。貴方はどんな自分になりたいと願います?」
「私が、なりたい自分……」
問われたミーナは、しばらく黙り込んでいた。
●鍛冶師の眼
昼食時。サイラスが様子を見に行くと、ミーナは畦道の切り株に腰掛け、古い干し肉を齧っていた。
「お嬢様でもそんなもの食べるのか?」
「ええ。干し肉はちょっとでお腹いっぱいになりますから」
「そうか」
サイラスはミーナの隣に胡坐をかく。
「で、どの道に進むかは決まったか?」
「まだです」
「ならシューターはどうだ」
「その心は?」
首を傾げるミーナ。サイラスは頬杖つきながらぶっきらぼうに応えた。
「一応お嬢様なんだろ。あんま腕っぷしが知れ渡ったら、今後に障るんじゃないか?」
それを聞いたミーナは肩を竦めた。
「フリードリヒなら大丈夫です。私がこんなだってこと、わかってますから」
「婚約者がいるのか。なおさらその身は大事にしとけ。顔に傷が残ったら大変だろ」
「……それは確かに」
ミーナは眉を寄せる。サイラスは側に寄ってきたペットの狼の頭を撫でながら、さらに言葉を重ねた。
「それに、兄貴殿は弓の扱いに一家言あるんだろ。先達から色々と学べるのは大きいぞ」
「そうですね……そうですけど」
彼女は難しい顔をする。
「でも、違うんです。クローリカにどんな自分になりたいか聞かれましたが、兄さんみたいに淡々と敵を射貫くのは……私らしくないかなって」
「そうか。ま、やりたいようにやるのが一番だ。俺も根っこはそうだからな」
狼に肉をやりながら、サイラスは彼女の脇に置かれた訓練用の木剣を取る。よほど使い込まれているのか、滑り止めの布は彼女の血や汗を吸ってすっかり黒ずんでいた。
「何にしても、これから戦うなら得物はちゃんとしとけ。何だったら俺が一つ鍛えてやる。金は取るがな」
「サイラスは腕の立つ鍛冶師でしたね。……なら、少し稼いでからお願いすることにします。兄やここの皆には迷惑かけられないですし」
村の人々を見つめるミーナの顔は、真剣そのものだった。
●貴方の望み
昼飯時が終わる頃、訓練所にアウレーリア・フォン・ネーベルベルクが足を踏み入れる。
「さて。腹ごなしは済んだのかしら」
「完璧です」
ミーナは飛び跳ねながら待ち構えていた。アウレーリアはそんな彼女を眺める。
(快活にして、奔放……ちょっと、羨ましいかしら)
もし自分が昔から元気ならば。そんな事も思いつつ、彼女は細い杖を懐から引き抜く。
「なら早速行きましょう。貴方の事、教えてくれる?」
「……もちろん!」
ミーナは走り出す。少女は早速空へ炎弾を撃ち上げ、彼女の頭上で炸裂させる。降り注ぐ火花を、ミーナは芝生を滑り込んで鋭く躱す。
「なるほど。随分軽やかね」
「鍛えてますから!」
立ち上がったミーナは、素早く剣を振る。しかし少女はローブをひらりと翻し、その攻撃をみんな躱してしまう。
「躱された?」
「キャスターだからって、火力で攻め立てるばかりが術ではないわ」
アウレーリアは杖を振る。その瞬間に魔霞が辺りに立ち込め、ミーナを包み込んだ。彼女が足を止めている間に回り込み、少女は光の矢を背中に撃ち込んだ。
「あいたっ!」
「望めばシーフのような軽やかさを身に付ける事も出来る……本職には負けるけどね」
「むむ」
ミーナは眉根を寄せて追いかける。アウレーリアはそんな彼女の足元に稲光を纏わりつかせ、彼女を芝生へひっくり返す。
「へぶっ」
「キャスターに馬鹿正直に突っ込んじゃダメよ」
「ふええ……」
草まみれで起き上がるミーナ。アウレーリアはそっと歩み寄り、草を頭から払う。
「やっぱり筋が定まってないわね」
「筋……?」
「ええ。ミーナ、これから冒険者になって、どうしたいの?」
尋ねられたミーナは、目を瞬かせる。
「それは、兄さんの為に家宝を取り戻して……」
「それも大事なんでしょうけど、もっと、誰かを護りたいとか、貴方の中におのずと浮かぶものはない?」
「うーん……」
胡坐をかいて腕組みするミーナ。アウレーリアは城壁を見上げると、颯爽と歩み出す。
「そろそろ交代ね。ちょっと考えてみたら?」
●己を活かす
去りゆくアウレーリアに目配せされ、アルト=ミルドレッド=バ・ロッサは軽やかに城壁の上から訓練場へと降り立つ。
「さ、次は私の番ね。改めてよろしく、ミネルヴァ」
胡坐をかいたままミーナは静かに頭を下げる。アルトはそんな彼女の隣に腰を下ろした。
「悩んでる?」
「はい。……アルトは、どうしてギルドに所属したんです」
問われたアルトは、自分の拳を固める。ギルドに入り、敵と相対してきた日々が過ぎる。
「私は私自身の力で多くの人を救える人間になりたかったの」
「多くの人を?」
アルトは大きく頷いた。
「そう。家の名誉に頼って生きるなんてまっぴらだったのよ」
「立派なんですね。私、そんな事考えたことなかった」
膝を抱えるミーナ。アルトはそっと肩を叩いた。
「別に何が立派なんて無いわよ。あるのは自分をどう活かすか、それだけ」
言い終えるとアルトは立ち上がり、弓を取る。
「さ、休憩終わり。そろそろやりましょ」
「……はい!」
間合いを取るミーナに、アルトは早速魔の矢を放つ。躱したミーナは、一足飛びで間合いを詰めた。
「はぁっ!」
「甘いよ」
切りかかるミーナの一撃を躱し、アルトはいきなり彼女の額をごちんと殴る。不意を突かれたミーナはふらりとよろけ、目を白黒させる。
「えっ……?」
「びっくりした? 私はシューターだけど前衛なのよ」
「そ、そんなのあり?」
呻くミーナへ、アルトは自信たっぷりに胸を張る。
「ありよ! シューターが剣で切りかかったっていいの。それが自分を活かすことに繋がるならね!」
アルトが話す間もミーナは彼女へ食らいつくが、アルトは身軽に受け流し、リスのチャールズに魔法を撃たせてミーナの足を掬う。
「ま、得意なのは斥候みたいなサポート役なのだけどね。シューターだし」
リスはひょこひょこ走ってアルトの肩まで駆け登る。アルトはそっとその頭を撫で、ミーナを見遣る。
「特化した強さってわかりやすいんだけど、器用貧乏も時には大事だったりするからね。覚えといて」
「わかりました……よ!」
起き上がったミーナは再び走り出す。
しばらくの間、訓練所にはアルトとミーナの声が響いていた。
●絆の強さ
最後にイズレンディル・パラリムとコルネリウス・アーラが訓練場に来てみると、ミーナは疲労困憊、芝生の上に寝転んでいた。二人に気付いた彼女は、げっそりした顔で呻く。
「ちょっと、待って……」
「どうしたんです?」
コルネが首を傾げると、ミーナは唇を震わせる。
「もう、へろへろで」
「ふむ……無理は禁物ですよ。今日のところは控えましょうか?」
イズが気遣う素振りを見せると、ミーナは急に歯を食いしばり、剣を取って跳び起きた。
「大丈夫です! まだやれます!」
さっきまでへばっていたくせに、既に彼女は闘志を剥き出しにしている。イズはコルネと顔を見合わせた。
「成程。確かにこれは……」
「子爵が才能ありと言ったのも頷けますね」
コルネはミーナに向かって一歩踏み出すと、剣を抜いて盾を構えた。
「それなら遠慮は要りませんね?」
「もちろんです!」
ミーナは眉根を寄せ、じりじりコルネとの間合いを測る。イズは杖を抜き、ミーナへと呼びかけた。
「手軽にしましょう。ミネルヴァさんは私に一撃入れられれば勝ち。参ったと言ったら負けですよ」
「……もしかして舐めてます?」
挑発的に歯を見せるミーナに、イズは柔らかな顔のまま首を振った。
「いいえ。そも二対一ですから」
「そう。なら早速!」
ミーナは剣を構えると、イズに向かって真っ直ぐ突っ込んだ。コルネは間に割って入り、盾を掲げてミーナの一撃を受け止める。
「私の役目は戦場を駆け回って味方を確実に護り、敵を足止めし確実に打ち倒す事です! 簡単には通しませんよ?」
二人はそのまま何度も切り結ぶ。ミーナは大上段から力任せに剣を振り下ろすが、コルネは冷静に盾を突き出し受け止めた。イズはその背後で杖を向け、光の礫を放つ。
「うわっ」
ミーナは咄嗟に空中捻りでその一発を躱す。イズはその動きを観察しながら、杖をゆらりと振る。
「ウォーリアは脚を止めての切り合いになりやすい。魔法の格好の標的となります」
「……それなら!」
ミーナが城壁を見上げると、兵士が彼女へ向かって弩を投げ渡した。ミーナは素早く矢を番えて引き金を引くが、イズは自身に竜巻を纏わせ矢を弾く。ミーナは目を丸くする。
「確かに、シューターは射程で勝りますが、対策は出来ます。竜巻の壁もさることながら、守りを固めたウォーリアを矢で打ち破るのは容易ではありませんよ」
イズの言葉を背後に、コルネは盾を構えてミーナへ間合いを詰めていく。ミーナはしばらく弩を構えていたが、やがて唇を曲げ、それを放り出した。コルネは尋ねる。
「次はどう来ますか?」
「構えて切り合ってもダメ、遠くから狙ってもダメ、なら!」
ミーナはひらりと身を翻すと、にやりと笑っていきなりコルネへ呼びかけた。
「コルネ! イズと仲いいみたいだけど、結婚したいの?」
「……ひぇっ?」
突拍子もない質問に赤くなるコルネ。投げられた剣に気付くのが遅れ、咄嗟に盾で受け止める。その隙をついて、駆けたミーナはコルネの盾を踏み台にして跳び上がる。
「隙あり!」
「おやおや。困ったお嬢様ですね」
イズはそれでも悠々と佇む。ミーナは拳をイズに叩きつけようとするが、全速力で駆け付けたコルネがすぐさま受け止めた。ミーナは唖然とする。
「そんな!」
「言ったでしょう。私の役目は戦場を駆け回り、仲間を護り抜く事です!」
耳を赤くしながら叫ぶコルネ。その後ろからイズはちらりとミーナを覗き込む。
「確かに、シーフとしてその機動力を生かせば、前線を出し抜くことも出来ます。それでも、コルネさんが前にいてくれれば、ミネルヴァさんが何人かいても私は負けませんね」
「そう。これが、前衛と後衛の連携です」
「む……なるほど、ね……」
ミーナは一歩引くが、途端にその足がふらつき、虚ろな目をして崩れ落ちる。コルネはさっと歩み寄ってその肩を支える。
「やめにしましょう。これ以上は身体に障りますよ」
「……そう、ですね」
ミーナは溜め息をつくと、静かに目を閉じた。
●月桂樹の鴉に誓う
山の向こうに陽が沈む。コルネとイズ、ミーナはそれを屋敷の前で眺めていた。
「……コルネの兄は、帝国の騎士だったんですね」
「はい。兄のノブレス・オブリージュの信念を継ぐために、私は今こうして戦っています。大切な人や、力のない方々をこの手で護るために」
コルネは剣を取ってその柄を撫でる。兄の形見、コルネの魂だ。イズはそんな彼女を慈しむように見つめて語る。
「そんなコルネさんが敵を抑えてくれるからこそ、私も全力を引き出して戦えます。一人一人では苦しい場面も、二人で協力すれば乗り越えられる」
「なるほど。お互いを補い合って戦う、ということですね」
「ええ。重要な場面ほど、多くと手を取り合って、それぞれの役目を果たして戦うことになるわ。己の望みに関わらず」
アウレーリアもやってくると、小さな灯をふわふわ飛ばしながら彼女の目を覗き込む。
「だからこそ、重要なのは貴女が納得できるかどうかよ。最初に踏み出す一歩にね」
「そうそう。あたしなんて、シューターで前衛なのよ」
アルトはミーナの背後からぬっと姿を現し、その背中をばしんと叩いた。
「やりようでどうとでもなるんだから、どんと行けばいいのよ」
「思い浮かべる事は出来ましたか? なりたい自分の姿は」
屋敷の扉を開いて、悠然とやってきたクローリカ。帽子を脱いで、彼女は手を差し伸べる。
「私は貴方を手助けしますよ。無くなってしまった家宝の捜索も含めて」
「ここまで来て、まだ迷ってるなんてのは無しだからな」
最後にやってきたサイラスは腕組みし、おもむろにミーナを促す。彼ら冒険者を見渡して、ミーナは力強く頷いた。
「もちろんです。……肚は決まりました」
彼女が見上げる屋根には、灰色の紋章旗が揺れている。
「皆さんに迷惑をかけないよう、守りを固めたり、遠くから戦場を見つめて冷静に戦うべきかとも思いましたが……皆さん強くて頼もしいですから、そんな遠慮はしません」
旗の中では蒼い鴉が翼を広げ、月桂樹の枝を咥えている。
「私は鴉になる。下らない争いに夢中の奴らを笑い飛ばして、それに吸い付く悪い奴らを、片っ端から突っついてやります」
ミーナはエーテルを纏って跳ぶ。そのまま屋敷の壁を軽やかに駆け登ると、頂点から一気に飛び出し、派手に捻りながら冒険者達の前に颯爽と降り立った。
「こういうの、クールだと思いません?」
無邪気に笑うミーナに、コルネとイズも合わせて破顔した。
「なるほど。自分の強みに従うのですね」
「約束します。私達はこれから先、必ず貴女の力になると」
「よろしくお願いします」
こうして、冒険者の仲間に鴉令嬢のミネルヴァが加わったのであった。
おわり
マスターコメント
ショートシナリオ易しい 報酬:少ない6 / 4〜6人
2021年06月21日 11時57分23秒 公開
相談掲示板
No.1
サイラスだ、よろしくなー とりあえずシューターを進めるかな?と それとは別に道具の調整とかなんか中心に色々かなと
コルネリウスです、宜しくお願いします。 ミネルヴァさんの希望を聞きながら、私達の持つ技術を見せたり、直接指導して見ながら適正を見つつ、御本人の希望を優先して導きたいですね。 私は自分のクラスや経験を踏まえてお話をできたらと思っています。
エルフのキャスター、イズレンディル・パラリムと申します。 宜しくお願いしますね。 ミネルヴァさんは近接寄りの戦いを得意としてらっしゃるのですね。 ただ向こう見ずなところが欠点で、その上で何を選択すべきか、という事ですか。 ご本人の目的から見ても、このクラスではないといけない、という事は無さそうですので、 本当に広い選択肢があるのですね。 私もご本人のご希望は伺ってみたいと思います。 一人で戦い抜きたいのか、仲間と戦いたいのか、他者を導きたいか、あるいは自身の力で切り拓きたいか…といったところですね。 その辺りのご希望次第で選ぶクラスも変わるかとは思っております。 能力面や性格面の長短は致命的なものはなさそうな印象ですから、方針がはっきりとしていれば十分今後の経験で補っていけるかとは思います。
ウォーリアのクローリカです、よろしくお願いします。 ミネルヴァさんは授恵者ですが、まだクラスが定まっていない状態なんですね。 実際に訓練場で手合わせをお願いしてみましょうか。
キャスター、アウレーリアよ。宜しく。 そうね、一度手合わせして向き不向きを見ましょう。それから少し雑談をして。 最初から自分の希望をはっきり言えるとも限らないわ。 望むあり方を上手く引き出す手伝いが出来ればいいと思う。
アルトよ 私としては どんなクラスになっても、そのクラスの型でしか戦えないなんて事はないことを教えたいわ! …別にいーじゃない!シューターが近接しても!!(