【学乱】逆襲の偽ヤコブ

おおくまねこ

コメント 12

シナリオID:1017

オープニング

●
「別れましょう、私達」
 放課後のパンクリアース学園の屋上にて。レイナ・エスペランサは真剣な眼差しで少年に告げた。
「別れようって……どうして? 俺のことが嫌いになったのか?」
 アレン・モルゲンレーテは震える声で聞き返した。レイナは静かに首を横に振る。

「そうじゃないの。そうじゃないのよアレン。決して貴方を嫌いになったわけではないの。でも、駄目なのよ。私、もう耐えられそうにないの」
 レイナは絞り出すような声で告げ、両目を覆った。そのただぬらぬ様子にアレンはハッとする。
「クラスの連中に、嫌がらせされてるのか」
「……」
 レイナは答えない。だが、この反応は肯定しているも同じだった。

 アレンの父親は『王党派』の人物だ。先日就任した新学園長の改革に賛成し、腐敗した学園の浄化を進めている。それ自体はアレンも決して悪いとは思っていないが、その急進的な改革は、当然の如く『貴族派』たちから強い反発を招いていた。
 父達の改革は強引ではないだろうか、もっと穏当なやり方があるのではないだろうか――アレンはそんな風に思うことがある。
 そして、アレンの恋人であるレイナの母親は、貴族派の中でも強硬路線で知られる人物だった。それゆえ、長女であるレイナにも貴族派としての立ち居振る舞いを周囲が強く期待されているのだ。
 王党派の貴族の嫡男である自分と恋仲であるレイナは、王党派からも貴族派からも、強い弾圧を受けているのだろう。自分と同じように。

「くそっ……! なんで俺の家は王党派なんだ! 俺の家も貴族派だったら、こんなことにはならなかったのに!」
「いいえ。私の家が王党派だったら良かったのよ。そうすれば、誰にも邪魔されずにアレンといられたのに……」
 アレンはレイナに近づき、強く抱き締めた。二人にとっては、王党派も貴族派もどうでも良かった。お互いさえいれば、それで十分なのだ。

「なあ、レイナ。明日、二人で学園から逃げよう。田舎で畑でも作って暮らそうよ」
「アレン……」
「朝の4時に、荷物を持って街の門に来てくれ。待ってる」
「分かった……」

●
 翌日、レイナはアレンとの待ち合わせ場所には来なかった。アレンが、毒を盛られたレイナが王都の病院に搬送されたと聞いたのは、昼休みになってからのことだった。
「誰だ! 一体誰がレイナを! お前か! お前がやったのか! そうなんだろっ!」
「ち、違う……! 俺じゃない……!」
 レイナのクラスに乗り込んできたアレンは、手当たり次第にレイナのクラスの男子生徒を締め上げていた。女子には手を出していないのは、彼の騎士道精神と僅かに残った理性の賜物だが、このままでは女子にも矛先が向くのも時間の問題だろう。

「やめなさい! アレン君!」

 荒れ狂うアレンを制止したのは、騒ぎを聞いてすっ飛んできたレイナのクラス担任アルバート・ゼーベインだった。
「アレン君! キミの気持ちは分かりますが、それ以上やると退学処分にしますよ!」
「黙れ! 偉そうに! 担任のアンタが、レイナを守ってやらなかったからこんなことになったんだろうが!」
「はぐっ!」
 アレンに力いっぱい殴られ、アルバートは教室の壁まで吹っ飛んだ。アルバートは口元の血を拭いながら静かにアレンに告げる。
「……私を殴って気を済むのならそうしなさい。だが、キミの本当に殴るべき相手はワタシではないはずだ」
「……」

 その言葉にアレンは黙った。そうだ、こいつを殴って何になる。担任がレイナを守れなかった? 何を馬鹿な。そんなのは八つ当たりだ。誰より、恋人である自分がレイナを守ってやるべきだったんじゃないか!
 立ち上がったアルバートはアレンへと告げる。

「彼女を襲ったのは恐らく王党派の過激派でしょう。彼女に盛られた毒は王都の病院ですら解析に手を焼くものです。そう簡単に入手できるはずがない。しかし、犯人ならば、解毒方法も知っているはずです」
「!」
「――さあ、行きなさい。彼女を救うために。キミが私やクラスの生徒たちに手を出したことは、因果応報として、甘んじて受け入れましょう」
「……アンタに礼を言う気にはなれません。でも、今はアンタやこいつらを殴ってる場合じゃない」
 アレンはそう言うと、教室を立ち去った。その背を見送るアルバートの口元に、笑みが浮かんでいたことに気づいた者はいなかった――。

●
「緊急の依頼だよ。パンクリアース学園で一人の女性徒が毒を盛られた。依頼人は被害者の父親だ。彼女は今、王都の病院で治療を受けているんだが、毒の正体がハッキリせず、治療が難航している。そこで、君達に犯人を捕まえて毒の正体を突き止めて欲しいとのことだ。まさか貴族派だから助けに行かない、なんてケチくさいことは言わないよね?」
 王都の冒険者の店のマスターは、一枚の依頼書を冒険者達のテーブルへと置いた。
 冒険者ギルドは政治的には中立である。冒険者が個人レベルで王党派と貴族派のどちらかに与する権利はもちろんあるが、組織としてはどちらの依頼も平等に引き受けている。
 そんなわけで、手の空いていた冒険者達は、パンクリアース学園へと急ぐのであった。

解説

 依頼人:被害者レイナの父親(貴族派です)。   目的:レイナ襲撃犯を捕まえ、盛られた毒を特定する。  大成功条件:アレンが納得できる形で事件を解決する(いつの間にか事件が解決していました、では彼は自分を許せないでしょう)。 ●捜査について  冒険者達はパンクリアース学園に乗り込み、レイナを襲った犯人を探すことになります。事件の目撃者を探したり、犯行時刻にアリバイのない人物を探したり、凶器を特定したりすることで、犯人を絞り込むことができるでしょう。  登場NPC ●アレン・モルゲンレーテ(15)  被害者レイナの恋人です。レイナ襲撃犯は王党派の誰かだと当たりを付け、独自に事件の調査をしています。非常に不安定な精神状態となっており、犯人と思しき人物を見つけると襲い掛かってしまうかもしれません。  授恵者で、クラスはシーフです。実力はレベル10の冒険者と同等です。 ●レイナ・エスペランサ(16)  貴族派の家柄の少女です。謎の毒を盛られ、意識不明の重体です。現在は王都内の病院に搬送され、治療を受けています。盛られた毒は強力なので、非授恵者である彼女にサルベーションをかけても治りませんが、毒の正体さえ特定できればシナリオ中で意識を取り戻させることも可能です。 ●アルバート・ゼーベイン(34)  事件の第一発見者にして、レイナの担任である理科教師です。後ろ姿がヤコブに似ており、生徒達には『偽ヤコブ』と呼ばれています。貴族派に属しており、彼自身も下級貴族です。  彼はレイナが貴族派と王党派の双方から迫害されていた事実を知った上で、めんどくさかったので放置していました。  また、つい最近、盗難された物品の代替品の手配を生徒になすりつけるという事件を起こしており、減給処分を受けています。実はその盗難事件自体も彼の仕業でしたが、そこはなんとか隠蔽しました。  授恵者であり、クラスはキャスターです。殴り合いは不得手ですが、魔法攻撃力とスキルの多彩さ、そしてINTはレベル30の冒険者に匹敵します。 ●ミニバジリスク  強力な毒を持つトカゲ型の魔獣です。サイズは10cmほどです。非常に臆病な性格で、飼い主が攻撃を受けると、一目散に逃げ出してしまいます。校舎内で逃がしてしまうと大騒ぎになるでしょう。  物理・魔法防御50  回避250(体の小ささも込みの数値です)  生命力80  移動力4

マスターより

 こんにちは。おおくまねこです。クズ教師、再び。犯人は一体何者なんだ……。というわけで今回は学園ミステリ系依頼です。犯人を当てるの自体は簡単だと思いますが、時間的な制約とかアフターケアとか色々こまごまとした条件があるので、難易度は「難しい」としています。  おそらく戦闘は結果がどうあれ1~2ターンで終わるでしょう。犯人を追い詰めるまでの過程がリプレイの中心となるかと思います。ご興味がありましたらよろしくお願いいたします。

リプレイ

●
「まったく、学び舎で権力争いなど何をしておるのだ……未来ある若人を巻き込んでまですることではないじゃろう」
 依頼人と別れた後、早速パンクリアース学園に赴いたグレイ・ナックラーは嘆息した。
「さて、嘆いてばかりもおれぬ。儂はまずアレン君を探すとしよう。恋人の為とはいえ、暴走しては彼にも良くない。彼女のことを思えばこそ落ち着いてもらわねばのぅ」

 アレンはすぐに見つかった。何しろ、授業をサボって校舎内を徘徊しているのだ。接触することはさほど難しくはなかった。
「やあ、君がアレン君かな?」
「アンタ、誰です?」
 アレンはグレイをギロリと睨み付けた。
「儂はグレイ。エスペランサさんの御父上の依頼で、彼女を襲った犯人を調べておる」
「レイナの……お父上から!?」
「まあ、立ち話もなんじゃ。どこか静かな所にでも行かんか?」
 
●
(良くも悪くも純粋な若者じゃな)
 それが、グレイがアレンと話して受けた印象だった。彼がレイナを想う気持ちには偽りはないのだろう。だが、ろくに証拠も無い内から王党派が犯人だと決めつけていることと言い、裏取りもせず自分にほいほいついて来たといい、思慮深いとは言い難い。
 グレイはアレンの身の上話を聞き、彼の警戒心を解かせてから、核心となる話題を切り出した。
「アレン君……この事件の犯人、君は誰じゃと思う?」
「王党派の誰か、だと思います。彼女はクラスでも王党派から何度も嫌がらせをされていたようですから」
「そうか。じゃが、犯人は王党派ではないかもしれんぞ」
「どういうことですか?」
「この事件が起こったのはこの学園の政治的事情が絡んでおることは儂も間違いないと思う。じゃが、貴族派と王党派、どちらが犯人の可能性もありうるのじゃ。それを踏まえた上で行動せねば犯人の思う壺じゃぞ」
 グレイはアレンに、想定される犯行動機や犯人像について、丁寧に話した。年の功と言うべきか、交渉事に長けたグレイの話はアレンにも納得できる筋道立ったものだった。
「なるほど……」
「納得してもらえたかの。では、それを踏まえて君に幾つか聞きたいことがある。一つは彼女に盛られた毒のこと。もう一つは君の彼女との約束の事じゃ」

●
「あぁ? またあんたが関わってるのか? 相変わらず職務を全うできないんだな」
 ケン・Z・ブラッドリーは偽ヤコブこと、アルバート・ゼーベインの研究室を訪れていた。この男はレイナ毒殺未遂事件の第一発見者。第一発見者を疑うのは捜査の鉄則だ。が、それ以前に、ケンは以前受けた依頼の件もあり、アルバートを全く信用していなかった。
「随分な言われようですね。ですが、レイナさんの件についてはワタシの不徳の致す所。返す言葉もありませんね」
 自身の非を認め、頭を垂れるアルバート。貴族にしては実に殊勝な態度だ。しかし、ケンはその態度から、微かな違和感を感じ取っていた。
(素直過ぎる……こいつは自分の非をギリギリまで認めないクソ野郎だったはずだ)
「さっきも言ったが、俺は彼女の父親から正式から依頼を受けて動いている。まさか協力しないとは言わないよな」
 ケンはアルバートに捜査協力の念押しをした。
「ええ、それはもちろん。ですが、私はこの学び舎で教鞭を執る身。協力したいのは山々ですが、授業に差し支えない範囲になりますのでご了承を。ちなみに三限目も授業がありますので、あと五分ほどで理科室に移動せねばなりません」
 アルバートの白々しい態度にケンは舌打ちした。ケンを含む冒険者は、学園でこの事件について捜査する権利はあるが、強制捜査権までは与えられていない。この、極めて疑わしい男の仕事を中断させてまで尋問を行ったり、無断で部屋を漁ったりする権利はないのだ。

「おっと、そろそろ時間です。誠に申し訳ありませんが、続きはまた今度」
 結局、アルバートはのらりくらりとケンの尋問を躱し、授業の準備と言う名目で早々に部屋を出ていってしまった。
 だが、今の態度でケンは確信した。この男は、確実に何かを隠している。事件に関する重要な何かを。
「下衆め……必ず追い詰めてやる」

●
「これは想像以上っすね……」
 マタリキー・T・ヒーローは学園の生徒達に聞き込みをしてみたのだが、なかなかえぐかった。レイナが毒殺されかけたことはすでに噂になっており、生徒達は好き勝手に犯人について憶測を垂れ流している。やれ、犯人は王党派の何某だの、いやいや、貴族派が王党派の仕業に見せかけるために誰それが殺したのだの……。みんながみんな、対立する派閥の誰かを犯人にしてしまいたい本音が見え隠れしていた。

「ふーむ……学園荒れすぎでは……? 貴族派とか王党派とかはよくわからんすけど、俺は……どうすかね。学があれば、ちょっとは人生変わるんかもしれないすから、気持ち的には王党派寄り……いやまあないんでそもそも関係ないんすけど。はは」
 マタリキ―は農民の生まれだ。お世辞にも学があるとは言えない。だが、新学園長の方針では、冒険者や一般民衆にも学園の門戸を広く開いてくれるらしいから、王党派が勝利してくれた方がどちらかと言えば都合がいいかもしれない。
「クラスはギスギスしてるっすけど、レイナさんにも友達はいるはず……一番仲のいい子を探してみるっすかね」
 マタリキ―はその方面で再び聞き込みし、エリザという名の生徒がレイナと特に仲が良かったという情報を入手した。エリザは今朝の騒動のショックで体調を崩し、今日は寮で休んでいるという。
「寮に行ってみるっすかね。女子寮かあ……不審者扱いされたらどうしよう……」

●
「これは、日記か?」
 レイナの父親に許可を貰い、レイナの自室を調査していたロイ・アウレアは、一冊の薄いノートを発見した。
「失礼……」
 ロイはレイナの日記を手に取ると、パラパラとめくり始めた。とりあえず学園長が交代した辺り頃から日記を読み進めてみる。非常時とはいえ、年頃の女性の日記を勝手に読むのは気が引けるが、何か事件のヒントが得られるかもしれない。父親や学園は第三者の犯行の線で考えているが、自殺未遂の可能性だってないとは言えないのだ。

「苦労しているみたいだな……」
 日記には、次第に混乱していく学園の中で、貴族派と王党派の板挟みになって苦悩する少女の姿と、アレンへの愛が赤裸々に綴られていた。多少誇張されている可能性はあるが、何しろ毒まで盛られているのだ。嘘八百を書き綴っているとは思えない。
「これが、最後のページか」
 そこには、レイナがアレンに駆け落ちを持ちかけられたこと。一応「うん」と返事をしたが、やっぱり身一つで逃げるのは不安だったので、親友に相談しに行くことにしたことなどが綴られていた。
(対立は彼らの責任じゃないし、夢中になると見境なくなる年頃だから極端に走るのも仕方ない。だが、出した答えが駆落ちなのは頂けないな)
 ロイはまだ見ぬアレンの短慮さに溜息をついた。
「それはともかく。親友(エリザ)さんに逢う必要があるな。この時間なら学園にいるかな?」
 ロイは日記を元の場所に戻すと、学園へと急いだ。
 
●
「あ、ロイさん」
「マタリキ―さん」
 ロイとマタリキ―は寮の入口でバッタリ会った。偶然にも、二人は揃ってエリザに会おうとしていたのだ。マタリキ―からエリザが部屋で療養している事実を聞き、ロイはマタリキ―と一緒に女子寮へと引き返した。

「なるほど……アレンと彼女の約束を知っていたのは本人たち以外では君だけか」
「そうだと思います……レイナは、駆け落ちは断ることにしたと言ってました」
 ロイの問いかけに、エリザは頷く。
「事件が起こったのはやっぱりエリザさんと別れてから次の日の朝のまでの間っすかね」
「だろうな。エリザさん。レイナさんと別れたのは何時頃ですか?」
「夜の十二時ぐらいです」
 深夜から早朝の約四時間。犯行時刻はかなり絞り込まれた。
「彼女が発見されたのは学校の敷地内だったな。その時間に目撃された人物を探そう」
 犯行時刻を絞り込んだ二人は、犯行可能な人物を絞り込むべく、学園へと向かった。

●
「レイナさんのお見舞いがしたいんだけど。これ、彼女の父親からの依頼状ね」
「分かりました。レイナさんの病室は奥の右側です」
「ありがと」
 サイラスは、レイナが搬送された病院を訪れていた。被害者は毒で倒れたと聞いている。被害者を調べれば、毒や凶器の正体が掴めるかもしれないと考えてのことだ。

「……お嬢様……どうしてこんなことに……」
 病室には看護師とレイナの侍女(メイド)と思しき女性が枕元についていた。レイナ本人は、今も死んだように眠ったままだ。
「こんにちは。ちょっとレイナさんの体調べさせてもらっていい? あと、医者の見解も聞きたいので、担当医を呼んでもらえると嬉しい」
 サイラスは単刀直入に看護師達に切り出した。
「失礼ですが、貴方は……? お医者様には見えませんが……」
 メイドは怪訝そうにサイラスを見た。
「彼女のお父さんの依頼で、毒について調べてる」
 サイラスはメイドに依頼状を見せた。
「確かに、旦那様の署名ですね。分かりました」
 メイドはサイラスによる検分をあっさり承諾した。性別がアレなので揉めるかなとも思ったが、サイラスが竜人(リザードマン)であることが幸いしたようだ。実際、サイラスは人間の雌の裸体に特に価値を感じていない。毒の正体には興味深々だが……。

 サイラスはメイドさんの立ち合いの元、レイナ嬢の体を検分する。すると、首筋の辺りに小さな傷跡を見つけた。
「毒虫……にしてはちょっと傷が大きいな……ヘビにしては小さいし……? ちょっと残留思念を調べてみよう」
 今度はサイラスはレイナの制服を借り、残留思念感応(サイコメトリー)をかけてみた。
「残ってるのは……痛み、だけか。恐怖はないっぽい。なるほど」
 サイラスは唸った。直接犯人に繋がる情報は得られなかったが、痛みだけがあった、というのは収穫だ。少なくとも自殺ではない。
「この子は不意討ちで毒を刺され、何が起こったのか分からないまま倒れたってことだね。そういう暗殺向きの生き物、いたかな?」
 サイラスは今度は病院の資料を借り、毒の正体を調べ始めた。

●
「犯人はアンタすね。アルバートさん」
 全ての授業が終わり、学園が静かになった頃。他の冒険者達とも合流し、五人でアルバートの研究室へと押しかけたマタリキーは、ハッタリをかました。

 まだ確実な物証は見つかっていない。だが、犯行時刻にアルバートの目撃者がいたこと、奴が凶器であると思われるミニバジリスクを管理していること等、冒険者達が探り当てた様々な状況証拠が彼が犯人だと告げていた。

「いきなり大勢でワタシの研究室に土足で踏み込んで来て何を言うかと思えば! 無礼にも程がある! 何の根拠があるというのですかッ!」
 アルバートは物凄い剣幕で怒鳴った。
(動揺しているな。やはり、この男が……)
 ロイの優れた洞察力は、アルバートがひどく動揺していることを看破していた。
「あるよ。根拠。あの子に盛られた毒はミニバジリスクの毒だ。そして、アンタがミニバジリスクを飼い慣らしてることも分かってる。ミニバジリスクなんて、そうそうお目にかかれるもんじゃない。歯形を調べてお嬢さんの傷跡と一致したら一発逮捕だよ?」
 サイラスが呆れたように言った。そう、この凶器こそ、彼が犯人である可能性を示す証拠なのだ。そして、それはまだ処分されていないのならば、この部屋の中に匿われている可能性が高い。

「だから言いがかりだ! そもそも、ミニバジリスクが凶器だという証拠でもあるのですか! 全て憶測に過ぎませんッ!」
 アルバートは机を叩き、ヒステリックにまくしたてる。
「ワタシは貴族ですよ! 下賤な貴方達とは違うのですッ! 特にアレン君! キミには失望しましたよ! こんな、ならず者達の口車に乗ってワタシを疑うなど!」
 さらに、冒険者にくっついてきたアレンを脅すように怒鳴る。だがアレンは冷めた目でアルバートの醜態を見ていた。

「証拠ならあるっす。今も貴方の袖の内側にいるミニバジリスク。アンタが潔白なら、それを提出することができるはずっす」
 マタリキ―が頭をぼりぼりと掻きながら言った。彼の鋭い聴覚は、今もアルバートのローブの下でごそごそと動いている小動物の出す音を拾っていたのだ。
「な、な、なぁあ!? なぜソレをっ!」
 図星を刺され、ついにアルバートはボロを出した。
「アルバート……! てめえ……! やっぱり!」
 殴りかかろうとするアレンを、ロイとグレイが手で静止した。
「やめろ、アレン君」
「この男は俺達が捕まえる」
 二人の言葉で冷静になったのか、アレンは姿勢を戻した。

「もう言い逃れはできないぞ。アルバート」
「大人しく縛に就け。この人数相手に逃げられると思えるほど、馬鹿じゃねえだろ」
 ロイとケンも武器を構える。本物の吸血鬼(ヤコブ)ならいざ知らず、目の前の男はただの卑劣漢だ。五対一で冒険者に勝てる道理などない。
 絶体絶命となったアルバートは――。
「おのれぇえええッ! こうなれば、この場の全員始末してくれるわぁぁあああ!」
 ついに狂ったのか、アルバートは魔杖を振り上げ、攻撃魔法を放とうとした。
「させるか!」
 だが、それより先にロイの放った矢がアルバートの腹に突き刺さっていた。
「ぐふっ!」
 アルバートは一撃で昏倒し、意識を失う。だが、その袖の下からすぐに小さなトカゲが這い出し、出口を探して床を這い回った。
「誰か、捕まえてくれ!」
 グレイの放った稲妻(アーケインテンペスト)が部屋に満ち、毒蜥蜴(ミニバジリスク)の動きを鈍らせる。だが、なおも毒蜥蜴は出口を探し、部屋を這い回る。
「こっちに来るっす!」
 マタリキ―は毒蜥蜴へとシーザーロアを叩きつけた。途端に蜥蜴はぐりんと方向を変え、マタリキ―を睨み付ける。
「逃がさん!」
 次の瞬間、ケンの「殺界」が発動し、ミニバジリスクはエーテルの檻に封じ込められた。
 ケンはそのままエーテルの刃をミニバジリスクへと振り下ろしたが、ミニバジリスクはひらりと攻撃を躱した。
「生け捕りの方がいいよね? 証拠品だし」
 ケンに一瞬遅れて殺界を発動させたサイラスも毒蜥蜴へとエーテルの刃を振るう。しかし、蜥蜴も必死なのか、また攻撃を回避してしまった。
「こいつがレイナを!」
 アレンも懸命にダガーを振るう。すったもんだの挙句、ミニバジリスクはマタリキ―の一撃を受け、動かなくなった。

●
 その後、偽ヤコブことアルバートは光縛呪で拘束され、憲兵に突き出された。動機についてはまだ不明だが、憲兵がたっぷり絞ってくれるだろう。ミニバジリスク(生きてた)の方は貴族殺人未遂事件の証拠品として、憲兵に押収された。
 こうして、名門パンクリアース学園で起こった毒殺未遂事件は、担任教師逮捕という衝撃的な形で幕を閉じた。この件は解決に当たった冒険者達によって広められ、しばらく世間を騒がせたのだった。

マスターコメント

 オープニングで提示されていた条件をクリアできた為、結果は大成功です。おめでとうございます。綺麗に役割分担ができていたのがスピード解決の決め手でしょうか。ミニバジリスクへの殺意(の結界)だけ飽和してましたが(笑)  ともかく、前回は減給で済んだ偽ヤコブも今度こそブタ箱行きとなりました。ちなみにアレン君とレイナちゃんは駆け落ちはやめて学園に残ることにした模様。今後もパンクリアース学園のエピソードは続きます。お疲れ様でした!
ショートシナリオ

ショートシナリオ難しい 報酬:多い5 / 4〜6人

2021年06月22日 00時24分45秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. マタリキー・T・ヒーロー

    ひぃ、めちゃくちゃするすね。 ・犯人を見つける  今回、「朝4時に待ち合わせ」のために準備してたはずすね。  毒を盛られたのは突発的な事態だと思うんで、彼女の身辺に近いひとがいるなら、足取りをたどって事件の調査をすることは簡単そうす。  犯人までたどり着く……のはさっくりいけそうすね。 ・見つけた上でアレんにとってイイカンジのオチがつくようにする  犯人を見つけたとして、どうするか、すね。彼がいないところで決着がつくのは臨んでいないでしょうし。  かと言って戦闘なあ……という気持ちも……  犯人を逃さず、メイビー毒の原因のミニバジリスクの対応もする、というのはまま骨が折れそうすね。  アレンさんには、教師にもはらたつでしょうけど、バジリスク側の追跡や確保(回避250すけど・・・)もお願いするのがいいすかねえ。俺らがなんかしている間に教師をガツンとなぐってもらうんもありかもすけど。

  2. ロイ・アウレア

    シューターのロイ・アウレアです。ヨロシク。 推理物は好きだけど苦手…なので迷ってましたが ……偽ヤコブのその後が気になってたし…成立しそう…と腹を括って参加しました。 是非にマタリキーさんの推理に乗せて貰う形で…(期待の目) バジリスクは飼い主が攻撃を受けると逃げてしまうって事なので 確保する迄はアレンさんが暴走しない様に説得した方が良いよね。 事件の第一発見者が犯人のパターンなら偽ヤコブが怪しいが 疑うのは後にして、身近な人に話を聞くとか詰めてみるね。 (LVとINTが書かれてるって事は簡単には殴れないって事…だと良いな。) ところで、レイナさんは一緒に逃げる気があったのかな? アレンにガツンと言うなら、駆落ちって選択をした事に一言、物申すしたいな。

  3. ケン・Z・ブラッドリー

    ウォーリアーのケンだ よろしくな まったくまたあの教師関係か 相変わらず監督不行きがすぎるな とりあえず、アレンを落ち着かせる必要があるだろう 現状彼は、貴族派の恋人が毒を盛られたという情報と糞教師の言葉で犯人は「王党派」だと決めつけて動いているからな まず、現状の学内の状況からすれば貴族派の娘なのに王党派のアレンと恋人関係である彼女を狙うのは王党派・貴族派どっちにも可能性があると考えに至らなければ、犯人が見つかっても派閥が違うといって納得しずらいだろう まぁ、彼女の父親に関しても同じこと言えるかもしれないけどね あとは、知っておくべきことは ・彼女がどのような状態で毒を盛られたか ・アレンが彼女と約束したことをほかに知る人はいないか あとはあれだな・・・・だれか糞教師を陰から見張る人員が欲しいな

  4. No.4

    サイラスだ、よろしくなー ぶっちゃけ貴族派王党派って俺らの行動にに影響するの?って思うんだけどなと まあ種族問題はあるけど聞き込みとかしようかなって?少なくとも誰かしらは聞き込み、可能ならアレン?周辺の確認した方がいい気がするのよな。OPで笑ってるし、小物臭い小狡い手となると証拠を王党派の要人か本人の周辺に移動させてるとか何かしら仕込んでそう。 後バジリスクは見つけたら捕獲の方がいいのかねー?討伐でいいなら当たればいいだけなんで命中積めばまあ大抵の人は行けそう。捕獲なら俺とかケンさんとかの殺界(毒が怖いならエーテルブレード)使って固定してとか? まあなんにせよ戦闘はMSよりの部分通り近づけてればすぐ終わるかなと

  5. ロイ・アウレア

    一瞬で成立してる!皆さん同志!待機してたね? 彼女が誰かに相談してた気配が無いか、申し訳ないが室内(日記)も探させて貰おうと思う。 付けてなかったらクラスメイトや居れば親友に聞くのかな。 >糞教師を陰から見張る人員が欲しいな ペット(栗鼠)に陰から見張らせましょうか?

  6. グレイ・ナックラー

    まったく、学び舎で何をやっとるじゃろうな 若人に被害が出てるなど悲しい事じゃ これだから権力に取りつかれた輩は・・・・・ 何はともあれ、今は問題の解決が先決じゃな 皆が言うようにアレン君を暴走させないようにしないといけないのぅ ケンが言うように彼女さんに毒を盛る可能性は王党派・貴族派ともにあるからの 王党派からすれば、王党派のアレン君に手を出す貴族派の娘 貴族派からすれば、強硬派の娘なのに王党派のアレン君と恋人となっている という見方ができる状況じゃからのぅ まぁ、彼女に毒をもって得られる利益が見合ってるかと言われれば正直微妙なんじゃよな 王党派が彼女に毒を盛ったとしたら、貴族派の彼女を排除できたとしても、貴族派の娘に被害が出たんだから王党派が何かしたといわれて非難され、今回の権力争いに大きな影響が出るうえに、王党派の息子のアレン君が王党派と敵対するということになってしまう 貴族派が彼女に毒を盛ったとしたら、王党派の立場を悪くすることはできるかもしれんが、その結果、貴族派である彼女の父親が貴族派と対立とする可能性があるからのぅ あと、調べておくべき情報としてじゃが、学園側は病院もしくは彼女の親からただ「毒を盛られた」と聞いているのか「特殊な毒を盛られた」ときいているかじゃな お昼の時点でアレン君は「毒を盛られた」ということを知っていたがそれが「特殊な毒」かはわかっていたかわからんからのぅ・・・・・ そういえば、彼はどこから「彼女が毒を盛られた」ことをしったんじゃろう

  7. No.7

    行こうか何となく様子見してたわ とりま ・女生徒起こす事を目指すか否か =毒の正体を探るだね。まあ具体的な症状聞ければ高レベルの医療薬学持ちとか、過去例から検索かけたら類似する毒あるんじゃないかな? ・アレン君対応。 遭遇するのは簡単そう?ちょっと怪しければそのまま切り掛かってくると思う。このレベル帯シーフのスキル知らんが暗殺ないよね?それか毒殺未遂を調べる冒険者として書き込みしに来てるって言えばまあ。 当事者な事相まって諜報能力高そうだけど何か疑問に思えば離脱や暴れ出しそう+協力関係知られると真犯人が動きそう。 ・教師対応 とりあえず見張りは栗鼠で良いのけ?そこそこなレベルだから誰が見張るにしても慎重に? ぶっちゃけこいつ犯人又は共犯の場合の犯行理由候補「お貴族様の依頼」ってのもあり得るのが。 ・調査 接触必須がアレンの認識の確認 日記等の捜索は侵入になる?…男の娘とか男装の麗人とかいない筈だし割とプライベート空間に入れて貰えるか分からんのが。 書き込む内容は「深夜の物音(夜の出来事?)」「約束を知ってる人」「毒摂取手段」?まず第一発見者探すとか病院誰か行ってみて聞かないと行けなそう。 辺りかな相談する事?うろっとしてるので細くある人はお願い?

  8. ロイ・アウレア

    >日記等の捜索は侵入になる? 今回の事は女生徒の父からの依頼でしかも殺人未遂?なので 寮と学校に話しを通して室内の見分って体で堂々と入れると思ってるよ。 >慎重に? 距離を取って隠れ見張らせるね。 ズルいが…具体的な謎解きは他の方にお願いして、情報収集とアレンの説得?メインで行きますね。 「約束を知ってる人」関りで友人にも聞くが、こっちは範囲が広く成りそうなので手分け出来たら嬉しいです。(…既に字数が危ない予感)

  9. No.9

    とりあえず聞き込みにいくなー? 先にちょっと病院見に行くけど。医者の話聞きたい。 傾向摂取なら傷もないし自殺未遂とか誰かに盛られたもあり得るけど(その場合は同室とか友人の可能性高そう。接触のあった人間に候補が狭まる?)、そうで無いなら牙とか何かの跡あるんじゃないかな?と 残留思念と薬学持ち込んでく。 推理とかNPCは他の人に投げる。 とりあえず何か探すもの希望あれば早めにお願いなー。朝とかなるとやれるかわかんない

  10. グレイ・ナックラー

    儂はまずはアレン君に接触しようかのう 彼が下手に暴走しないようにせねばならんし彼からも情報を引き出さねばならんからな サイラスが病院にいくならどこまでの情報を学園や依頼者の彼女の父親に伝えたかも聞いてくれると助かるのじゃ 「特殊な毒」ということを知る人間の範囲が限られれば犯人の目星もつけれるようになるからの

  11. マタリキー・T・ヒーロー

    はっ、よろしくすよ。 ふむふむ。 推理……推理すね。適当に集まるであろう情報を踏まえてイイカンジに犯人はおまえだー!するすわ。 ふふふ。観念するすよ……!

  12. ロイ・アウレア

    そう言えば…状況から寮かと思い込んでいたが、何処にも寮生とは書いてないね。 行動はそのまま進めますが、偽ヤコブを見張るタイミングが遅れるかもしれない、申し訳ない。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0