【学乱】劇作家になろう! 武勇伝大募集!

おおくまねこ

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シナリオID:1016

オープニング

●エフレムの告白
「アシムベート兄者。お慕い申し上げております。その誇り高き魂を感じ取ると、いつも拙の胸は高鳴るのです。どうかそのたくましい胸板で拙を受け止めて下さらぬか」
 それは、『語らずの智者』エフレムの一世一代の告白であった。紛れもない愛の告白。それに言葉よりも雄弁に、エフレムの熱っぽい瞳が彼の兄(アシムベート)への秘めたる想いを物語っている。

「な、何を言っておるのだエフレム! 儂はギシュム族の大酋長! そしてお主も今や帝国唯一の皇族の護衛騎士であろう。儂とお主が結ばれることはできぬのだ!」

 エフレムの突然の愛の告白にアシムベート・グリオウは狼狽した。アシムベートもエフレムのことは憎からず思ってはいる。しかし、お互い立派な大人になり、社会的な立場を持つようになった今は、二人で大陸を旅しながら武者修行(マナズィール)をしていた若き頃とは違う。一時の情熱に軽々に身を委ねるわけにはいかないのだ。

「分かっております。昔のような関係にはもう戻れぬことは。しかし、こないだの封印の儀式で兄者の雄姿を見て、拙は封印していたはずの兄者への想いを思い出してしまったのです。これ以上、拙は自分の気持ちに嘘は吐(つ)けませぬ」
 いつになく饒舌なエフレムが魔杖を一振りすると、光の壁がアシムベートのテントを丸ごと包み込んだ。
「ぬう! 出れぬ! 儂の剣でも傷一つ付けられぬとは!?」
 アシムベートは大剣でガンガンと光の壁を叩くが、光の壁はびくともしなかった。

「召喚術で強化したスーパー光縛封です。これで、夜明けまでこのテントには誰も立ち入れませぬ」
「エフレム……お主、それほどまでに儂のことを……! ならばもう何も言わぬ。好きにするがいいさ」
「ああ、兄者! 昔のように、拙と夜の武者修行(マナズィール)に励みましょう!」
 そして、二人はもつれ合うようにして寝床へと倒れ込んだ。

●
「って何よコレ――!! こんな脚本! 通るわけないでしょうが!」
 手書きの台本をべちんと地面に叩きつけ、演劇部部長代行・ラティオ・アルグレーアは叫んだ。
「えー。一生懸命書いたのにー!」
 渾身の台本を没にされた演劇部員レヴェリア・エルビーは不満顔だ。彼女こそ、先刻のエフレムとアシムベートの熱愛シーンを執筆した張本人である。なお、言うまでもないことだが、あれは全て彼女の妄想であり、実在の事件・人物(リザードマン)とは一切関係はありません。

「アンタに任せた私が馬鹿だったわ。このお芝居は保護者の方々も観劇されるのよ。つまり、この国の名だたる貴族達が見に来るの! こんなもん見せられるかっ! だいたい、なんでリザードマンのおっさん二人のカップリングなのよ! せめてレイウェスト皇子×ウィリアム王子とかにしなさいよ!」
「ラティオちゃん。それも学園長に却下されると思いますわよ? 新・旧どちらだったとしても」
 さりげなく問題発言をした部長代行に、いかにもお嬢様といった雰囲気の女性徒が突っ込みを入れた。
 
 彼女達、第三演劇部のメンバーが大騒ぎしているのは、来月に公開される芝居の台本のことが原因であった。
 この騒動の発端は一週間前に遡る。来たるべき生徒会役員総選挙の応援の一環として、彼女達第三演劇部に芝居をしてほしいという要請があったのだ。
 ぶっちゃけ第三演劇部は部員の数も少なく、大したクラブではない上、学園の派閥争いに関心のない生徒が集まっているのだが、貴族派の偉い先輩が熱烈に頼んできたので、部長(と会計)は渋々引き受けたのだという。
 ところが、脚本を担当していた部長が突然、実家のゴタゴタで学園を離れてしまった。そこで副部長であったラティオが急遽部長代行をすることになったのだが、彼女に文才は無かった。悩んでいたところに「私、書けます! 冒険活劇!」と立候補してきたのが書記のレヴェリア。駄目元で脚本を任せてみたところ、出来上がったのはとてもじゃないが伝統あるパンクリアース学園の出し物としてお出しすることはできない問題作だったのだ。

「もしこんなものを公演すれば、怒り狂ったリザードマン達の大軍勢がパンクリアース学園に攻め込んで来てもおかしくはないわ」
 ラティオは真面目な表情で言った。
「困りましたわね……今更辞退しては面目丸つぶれですし……何より来年度の部費が減ってしまいますわ」
 会計のマリリン・クリニエーラは溜息をついた。部費の獲得は全てに優先する。取材旅行と称し、学園のお金で仲間達と豪遊するのはケチの彼女にとって格別の楽しみなのだ。

「そういえばマリリン。文学部の友達に頼む件はどうなったの?」
「それが、丁重にお断りされてしまいまして。お友達のご実家は王党派なので……」
「なるほど。それじゃ仕方ないか。貴族派の先輩からの依頼とはいえ、あんまりゴテゴテの貴族主義のお芝居にはしたくないから、ぶっちゃけ普通の冒険活劇とかでいいんだけど……」
 ラティオは渋い顔をした。
 今、このパンクリアース学園では、教師も生徒も学園長の交代と選挙にまつわる権力闘争で大わらわだ。この第三演劇部も一応は貴族派ということになっている。余計なトラブルを起こしたくない生徒は関わりたくはないだろう。顧問教師のペルナ・ベル―ガギルスも職員室は居心地が悪いらしく、今日も部室の隅っこでペットの猫(ルクレツィア)と戯れている。部員達は役に立たない顧問に呆れながらも、顧問はいるだけで部費が増える打ち出の小槌なので、多くは期待せずに放置していた。

「あ、それなら、名案があります」
 挙手したのは、役職持ち唯一の男子生徒、ゲイル・トルネイヴであった。
「冒険活劇なのですから、プロをお呼びすればいいんじゃないでしょうか。『冒険者』の方に台本をお願いしてみましょう。きっとリアリティ溢れる素晴らしい脚本になりますよ!」
「それだわ……!」

●
「というわけで、パンクリアース学園第三演劇部から、ウチに依頼が来ているよ。珍しく、暴力沙汰とは無縁の依頼だね」
 パンダ顔のマスターは一枚の依頼書を冒険者たちに示した。パンクリアース学園とは、リーンエス王国の王都にある、名門中の名門校だ。その歴史は古く、学園が創設された新暦722年から数えて今年で創設500年となる。クラブ活動も活発に行われており、依頼人である第三演劇部では今度お芝居をやることになっているのだが、肝心の脚本の製作が難航しているので、冒険者から脚本のひな型となる武勇伝を募集したいのだという。

「依頼人達の希望としては、君達が実際に冒険した体験談を話してほしいのだろう。でもまあ、ちょっとぐらいなら盛ってもいいんじゃないかな。でかいクリーパーを一刀両断したとか、ヤコブの顔面に一発入れたとか、殺界で一度に百体の魔物を切り倒したとか。あとは、恋バナなんかも喜ばれるかもしれないね」
 マスターはそう言いながら、冒険者の人数分のお茶を用意している。

「ちなみに第三演劇部は派閥としては『貴族派』みたいだよ。彼女たちにも先輩後輩の上下関係とかあると思うので、あまりにアンチ貴族な台本はやめた方がいいかもしれない。ウィリアム王子がちょっと活躍するぐらいなら、大丈夫だと思うけどね。まあ、子供に武勇伝を聞かせに行くようなものだと思って、気楽にやればいい。かなり割のいい依頼だと思うんだけど、この依頼、どうかな?」

解説

 目的:貴族派の選挙応援の為に公演する芝居の台本を考える。  依頼人:パンクリアース学園第三演劇部幹部の皆さん  舞台:リーンエス王国王都・パンクリアース学園(の第三演劇部の部室)  冒険者たちの役割は、貴族派の選挙応援イベントの一環として公演されるお芝居の台本にふさわしい武勇伝を聞かせてあげることです。自身の体験談として語ってさえいれば、必ずしも実話である必要はないです。創作や夢オチシナリオの内容でも構いません(内容次第ではバレバレの嘘になるかもしれませんが……)。  ウィリアムやレイウェストなどの公式NPCが出てくるエピソードでも構いませんが、あまりに不敬な内容だったりすると没になります(参加者全員没だと依頼は失敗です)。    どのエピソードを採用するかは部長代行、会計、書記、庶務、顧問教師の『五名』で多数決を取って決定します。一本でも採用者が出ればシナリオは成功となります。また、本シナリオではMVPは一人しか選出されません。  ジャンル自体は何でも構いませんが、審査員である五人の好みに合致した物語である方が採用率(MVP率)は高くなります。  登場NPC紹介 ●ラティオ(14)  部長不在の為、部長を代行している少女です。実家は子爵です。軍時モノやバトル系の物語が好みです。 ●レヴェリア(13)  書記です。実家は商家の家系です。恋愛系の物語が好みで、オープニングで彼女が書いた脚本は部室に隅っこにまだ置いてあります。 ●マリリン(14)  会計です。実家が大きな商会の為か、部員の中でお金に一番うるさいです。部費が増えそうな物語が好みです。 ●ゲイル(13)  庶務です。第三演劇部唯一の男子生徒です。演劇部員らしく顔立ちは整っているのですが、人畜無害な性格のせいか、特に恋人とかはいないようです(どちらかというと同級生よりも顧問の方が好みです)。実家は男爵家です。勧善懲悪な物語が好みです。 ●ペレサ(25)  第三演劇部の顧問です。職員室の派閥争いに辟易としており、喧噪を避けるようによく部室の隅でだらだらしています。眼鏡をかけた気だるげな美人。童話のような暖かい物語が好みです。 「王党派とか貴族派とか、もう疲れたわ……」 ●第三演劇部について  パンクリアース学園に幾つかある演劇部の一つです。部員は十数名で女子がちょっと多い。周囲からは貴族派と認識されていますが、団体としての政治思想には乏しいです。

マスターより

 こんにちは。おおくまねこです。ガチガチの戦闘シナリオが続いたので、今回はかなり緩い雰囲気の依頼にしてみました。コンペ形式なので、相談もそこまで密にする必要はないかと思います。  依頼人は大人だとモロ悪玉の貴族派の子女たちですが、大人と子供ではまた事情も異なります。どうか本人たちなりに悩んでいる彼女たちの力になってあげてください。ご縁がありましたらよろしくお願いいたします。

リプレイ

●
「冒険者らしい話、となりますと、ヴァイセントラフ砦の攻防のお話はいかがでしょうか」
 一番手になったスィーリーンは微笑んだ。
「おー! 確か、吸血鬼ヤコブが率いる十万の軍勢を押し返したという……貴女も参加されたんですか!?」
 食い気味に反応したのは、戦記好きのラティオだった。
「ええ。あれは大事件でしたから。私だけでなく、ここにいる方も多くの方が参加されましたよ」
「「すごーい!」」
 興奮する学生達。
「ふふ。ありがとうございます。では、お話しましょう……」

●
「……敵は多勢でしたけれど、私を含む魔法使いが範囲魔法で敵を倒し、道を切り開き、近接戦闘の得意な方々がその道を進み強敵に肉薄し、見事吸血鬼達を討ち取ったのです。各々の連携も役立った印象的な戦いでした。手勢の大半を失い、ヤコブは、撤退していきました。我々は勝利したのです」
 スィーリーンは語り終えた後、ぺこりと一礼した。
「ありがとうございます! やっぱり生の冒険譚は迫力が違いますね! なんというか、臨場感があるというか!」
 スィーリーンの話は演劇部員達にとても好評だった。
「私は政治には疎いのですけれど、『貴族狩り』と言われたヤコブと戦い勝利した話ですから、貴族派の方々にも受け入れて頂きやすいのではないかと」
「確かに。ヤコブとの戦いの物語ならば、観客受けも良いでしょう。王国そのものを敵に回した男ですから」
 その言葉にマリリンが頷く。
「ネックは大軍団役のモブを用意できるかどうかかしら。戦争ものだしね」
「エキストラを募集すればよいでしょう。貴族派か無党派層の学生に頼んで……」
 実際に芝居に落とし込むことが可能かどうかについても議論する学生達。その様子を、スィーリーンは満足そうに見守るのであった。

●
「じゃ、僕からは山賊退治の時の話をしようかな」
 ルーンス・ラグネルはギルドで伝え聞いた物語を語り始めた。

 ある所に、山賊がいた。若い娘を攫って売るっていうひっどい連中。でも、彼らの山は深くて、討伐は一筋縄では行かなかった。ある時、瀕死の娘がある村近くの川辺に流れ着いた。村人に保護され、彼女は一命を取り留めた。彼女に特に献身的だった狩人の青年と、やがて恋仲になったそう。山賊の所から逃げてきたなら報復があるに違いないと、村人達は冒険者ギルドへ連絡した。
 派遣された僕ら冒険者達は彼女が、山賊のリーダーの妹だと知った。酷い扱いを受けていて、川に投げ捨てられて村に流れ着いてた。自分が案内するので、彼らの蛮行を止めてくれって泣いて願った。彼女の案内で僕達は見つかることなく、誰も逃すことなく、彼らを討伐した。僕は攫われた娘を助けるチームで拠点に侵入し皆と力を合わせ彼女達を助けたよ。
 彼女はこんな自分でも彼らと家族だ、罪人だと討たれることを望んだが、村に置いてきたはずの狩人が出てきて、冒険者に自分はどうなってもいいから助けてほしいって言った。彼はずっと前から気づいていたんだ。すると、攫われた娘達が山賊に女はいなかったと言い出した。彼女は奴隷に等しい扱いだったし、下手すると本当に妹だったかも怪しい過去だった。
 だから、僕達は攫われた他の娘と同じように彼女を、彼女がやっと見つけた家へ帰し、依頼は終わり。

●
「その子は今もきっと元気だよ。ご清聴ありがとうございました」
 語り終えた後、ルーンスはにこりと微笑んだ。多少脚色してはいたが、大筋はギルドで聞いた実話だ。学生達はぱちぱちと拍手をした。
「なるほど……。この結末は賛否両論を呼びそうですね。罪人の血族である少女は果たして許されるべきなのか。ディベートのテーマにも使えます。この学園の芝居の題目としてふさわしいと思います」
 ううむ、と唸りながらゲイルが言った。
「いやいや。議論も何も、許すに決まってるでしょう。あんた、血も涙も無いの!?」
「そうよ! ゲイル君、見損なったわ!」
「狩人さんの愛を無駄にするつもりですか?」
 ゲイルの言葉に猛然と食ってかかる女性部員達。ゲイルはその剣幕にたじたじだ。
「いや、あの、貴族社会で重視されるのは家の名誉とか、法の支配とか……いえ、何でもありません」
 その様子を見て苦笑しながらも、ルーンスは一つ注文をつけた。
「あ、ギルドにも色々あるから、このお話を採用してくれるなら、登場人物の名前は脚色してね?」

●
「宜しく頼む。少しでも、君達の助けになれば良いのだが」
 欠けた角を持つ竜人フェイサル・セイフは、物語を語り始めた。それは、彼が幾度も関わった、竜人の少年の物語だ。

「初めて出会った時、彼は重病人を救う為の薬を求め、危険な土地へ一人飛び込んでいてね。それを依頼を受けて救い出した、それが最初の縁だ。誰かの為に戦う”素養”は得難い物だが、その命の正しい使い方を考えて欲しい……その時は、そういう話をしたよ」

 それが、少年との一度目の出会い。だが、運命は少年とフェイサルの再会の場を用意していた。
「その後、彼の住む地域一帯は……そう、皆が言う所の「悪者」に狙われてね。その中で彼は無力な者達を守る為に敵の手に落ち「怪物」となり……彼自身の意思と無関係にその手を汚させられた。私を含む冒険者達の尽力で怪物は滅び、彼もヒトとしての形と心を取り戻したが……」

 二度目の出会いは、竜人族の異端者(ラスリャマス)との戦いの折だった。悪しき竜人によって竜へと転じさせられた少年は冒険者達の奮戦により、元の姿に戻ることができたのだ。だが、その時救われたのは肉体のみ。彼の心には拭い切れぬ深い傷が刻まれていた。
 そしてフェイサルは、少年と三度目の邂逅を果たす。

「その姿は文字通り、償えぬ罪に圧し潰されそうな罪人のようだったよ。だが勿論、彼には罪はあれど責任は無い。その後彼は我々と共に「悪者」に囚われた子供達を救い……。
 私達の言葉と信頼に応え、前を向いて生きていく事を選んでくれたようだ。苦難はあるだろうが、今も彼はきっと……」
 フェイサルは静かに目を閉じ、今も罪を償う為に奮闘しているであろう少年(ディノ)の姿を思い浮かべた。
「一人の少年が罪に抗い、悪に屈さず己の戦いを誰かと共に乗り越える――私は確かに、それを見たのだ」

 演劇部員達はフェイサルに惜しみない拍手を送った。
「これは、バトル物として受けると思うわ。竜(ドラゴン)との戦いもあるし」
「ふむ。ドラゴン退治は物語の華ですからね。単純にやっつけて終わり、ではないのも既存の冒険譚と差別化できると思います。良いんじゃないんでしょうか」
「戦闘シーンを軸にするか、少年の贖罪をメインにするかで構成も変わってきますね……」
 意見を交換する若者達。熱心に議論する若者達の姿を見て、フェイサルは目を細めた。

●
 サイラスの番が回ってきた。サイラスは自分の経験を頭の中で検索し、この場で最も受けそうな話を選び出す。
「俺は鍛冶屋をやっているんだ。とはいえ、冒険者が本業だからね。店は滅多に開けない。それに、俺のお店は普通ならお断りの客も多いのさ。今回はその一人、とある貴族の話をしよう」

●
 彼が語ったのは、依頼人の貴族と共に、大切な人への贈り物の腕輪に使う貴重な宝石を探しに行くという冒険譚であった。実話では依頼人は髭のオッサンだったのだが、商業的観点に基づき、「竜人ですら目を奪われる美貌の令嬢」に変更している。
「途中で、目当ての鉱物は険しい山でしか採れないからね。何日も野営したよ。野宿なんて慣れていないお嬢さんの世話に難儀したっけ。でも、キャンプ場にコボルトが襲ってきた時は、その女性(ひと)も勇ましく戦ってくれたんだよ、亜人とはいえ、殺すのは心が痛みます、とか言ってたな。高潔で、優しい人だった」
 目を細め、存在しない記憶を騙るサイラス。ヒロインが貴族令嬢という所に共感したのか、女子達は瞬(まばた)きもせずに聞き入っていた。
 なお、現実では、サイラスは依頼人と共にコボルトの根城に逆襲し、亜人達が巣にため込んでいた宝石類を二人で山分けした。高貴? 何それ。
「お代は、結局貰わなかったんだ。あの人はつい肩を持ちたくなる高潔な魂の持ち主だったし……宝石もいっぱい採れたしね」
 サイラスが歯を見せて笑うと、令嬢達から拍手喝采が巻き起こった。

●
「皆さん、とても豊富な経験をお持ちですね。実は私はこの依頼が初めてなのですが……問題ないでしょうか?」
 ライラ―シャはためらいがちに言った。
「ええ。問題にないわ。エルフのお話も興味深いわ」
 飼い猫がお散歩に出てしまい、暇になったペレサが言った。確かに経験豊富な冒険者の方が話題は豊富だろうが、演劇部としては、演劇の題材にできそうな面白い話が聞ければそれでいいのだ。 
「ありがとうございます。……そうですね、私からは……えっと、私の故郷で実際にあった、とあるエルフの少女と人間の騎士の物語をお話しますね」
「異種族の恋バナ来たー!」
 歓喜し、にじり寄ってきた女子達の注目を浴びながら、ライラ―シャは語り始めた。

●
 それはとあるエルフの少女と人間の騎士の恋物語です。少女は外の世界に憧れ……森を出たところを人攫いに捕まります。しかしそこに颯爽と黒の騎士が現れ、少女を救い出すのです。一目で恋に落ちた二人……しかし騎士には婚約者がいました。騎士の婚約者は想い人を奪われてはたまらないと、騎士に秘薬を飲ませます。騎士は少女のことをすっかり忘れ、婚約者との間に子をもうけました。少女は破れた恋を嘆き悲しみ、日々を泣き暮らしました。 それからどれほどの年月が経ったでしょう……。少女の元を一人の少年騎士が訪ねます。少年は少女がかつて愛した黒の騎士の息子でした。旅の途中であるという少年に請われ、少女は再び外の世界へと旅立ったのです……。

●
「ブラボー! ちょっと思ったよりドロドロしてたけど、最後は大団円で良かったわ。寿命が長いとそういうこともあるのね。羨ましい……」
 ペレサは惜しみない拍手を送った。森に住むエルフと人間の恋というのが童話チックで彼女の琴線に刺さったらしい。
(真実なのは台本の途中までですけど……でも私たちは年齢が分かりにくいですから黙っていればバレません)
 実はこの物語は、ライラ―シャ自身の生い立ちを脚色したものであった。しかし、彼女はまだまだ若く、騎士と出会ってから、まだ物語ほどの年月は経っていない。
(もし劇になったら、黒の騎士様のお耳にも……)
 ライラ―シャは未だ再会を果たせぬ騎士の姿を思い返しながら、秘かに願うのだった。

●
「私の武勇伝ですか……。それなら、”悪い大人をぶっ飛ばす話”なんて如何でしょう?」 
 ルアンナ・ミュラーは現在「家族」として一緒に暮らしている少年を、商品として輸送していた馬車を襲撃し奴隷商人から助け出した話と、裏で奴隷売買を行っていた商会のアジトを他の冒険者と共に襲撃して摘発したエピソードを話した。

「その勇猛なる姿はまさに『紅の魔女』。その二つ名を、悪党共は恐れ、無辜なる者達は讃えた……うん、いけますね!」
 ルアンナの冒険譚を強く推したのは、勧善懲悪好きのゲイルだった。
「おすすめの話は今の二つなんですけど、一本にまとめた方が面白くなるんじゃないかなと」
「なるほど。具体的にはどのように?」
 ルアンナが二本のエピソードの合体を提案すると、マリリンが喰いついてきた。彼女はノンフィクションにこだわりはないらしい。面白ければ適当に誇張したり、改良したりすることも抵抗はないようだ。
「こんな感じかしら……」

●
 主役となる授恵者とその妹は仲の良い姉妹。しかしある日些細な事から喧嘩をしてしまい、妹が家から飛び出してしまった。主役は「気が済んだら帰ってくるだろう」と特に探しには行かなかった。妹は人気のない道を歩いている所で人攫いに遭い、馬車に押し込まれて連れ去られてしまう。
 夜になっても帰って来ない妹。流石に心配になって探しに出ると、他にも家に帰っていない女の子がいる事、見覚えのない馬車が止まっていた事等の情報を得る。少女はこれが人攫いの仕業と断定し、ギルドで仲間を募って妹奪還の冒険に出る。途中で野盗と遭遇したりしたものの、無事に奴隷商人のアジトに到着し突撃!商人と、商人が雇っていた用心棒をボコボコにし、捕らわれていた妹達を救出。仲直りし抱き合って終わる。

●
「家族愛テーマの冒険活劇にまとまりましたね。起承転結も分かりやすくていいと思います」
 マリリンはしきりに頷く。他の部員達も合体版の脚本に異論はないようだ。が。

「あー、でもこれ、ルアンナさんの役を先輩達の誰かが演じるのか……。なんか、イメージの落差が……」
 ルアンナと部員達を見比べ、ぼそりと呟くゲイル。彼女達の名誉の為に断っておくと、第三演劇部の女子部員はいずれも見目麗しい美少女達だ。だが、年上好きのゲイル君的には、ルアンナより一段評価が低いらしい。
「ゲイル君、後で校舎裏ね」
「月の無い夜には気を付けることですね」
「ここに男子部員はいなかった。一人もな……」
「あ、あはは……皆さん、どうか穏便に……」
 物騒なことを言い出した学生達を見て、ルアンナは苦笑したのだった。

●
「あら、これは別の台本? ちょっとみせてもらってもいい?」
 ルアンナが手に取ったのは、エフレムとアシムベートの友情を超えた愛情が描かれた没原稿(レヴェリア案)であった。
「あ……! それはその、違うんです!」
 慌てふためく部員達(作者以外)。

「………えーと、感想はノーコメントでお願いします」
 中身を見たルアンナは苦笑いを浮かべ、台本をそっと棚に戻した。
「あ、私も見てみたいです」
「あっ」
 しかし、スィーリーンは棚に戻された台本を手に取った。
……。
「こ、これは学園の方々には相応しくないと言いますか、英明なるエフレム様と勇猛なるアシムベート様をこの様に描写するのは不敬であると言いますか、でも寡黙なエフレム様のこの様な愛の言葉は聞いてみたくもあると言いますか」
 敬愛する語らずの智者(エフレム)と、大酋長(アシムベート)の禁断の愛の描写に、スィーリーンは顔を赤くし、混乱していた。

「なになに、竜人(リザードマン)の話なの?」
「それは興味深いな」
 机に置かれた台本に近寄るサイラスとフェイサル。
 部員達はどんどん蒼ざめていった。
 
●
「す、すいませんでしたー!」
 整列し、竜人達に頭を下げる関係者一同。フェイサルは苦笑いだ。そしてもう一人の竜人は。
「これを書いた人、後でちょっと来てくれる? オハナシがあります」
 感情を感じさせない爬虫類の目で少女達を見つめながら、赤い鬼神(サイラス)が言った。

 後に少女達は語る。
「私たち、やっぱり温室育ちだったんだなあって。だってあんなこと、初めてでしたから。あれが本物の『殺気』なんですね……」

 こうして、冒険者達の武勇伝を堪能した演劇部員達は、誰の物語を採用するか、朝まで議論したのだった。

マスターコメント

 結果は大成功です。おめでとうございます。いずれ劣らぬ素晴らしい脚本ばかりでしたが、演劇部員達が朝まで議論し、投票を行った結果、採用する脚本は僅差でスィーリーンさんの脚本となりました。他の台本もストックして別の機会に使うんじゃないでしょうか。  パンクリアース学園のお話はまだ続く為、彼女達の出番もまたどこかであるかもしれません。  お疲れ様でした! またご縁がありましたらよろしくお願いいたします!
ショートシナリオ

ショートシナリオ普通 報酬:多い6 / 4〜6人

2021年06月23日 16時10分30秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. No.1

    ライラーシャと申します。よろしくお願いします。 (冒頭の台本を読みつつ) これは…スーパー光縛封…? 夜の武者修行…? よくわかりませんが、レヴェリア様は障害のある恋…に燃える方なんですね。 故郷の森には音楽はあれど劇などはありませんでしたから、その題材を提供できるなんてとても楽しそうです。皆様の武勇伝もぜひお聞かせください。

  2. No.2

    サイラスだ、よろしくなー とりあえず鍛治屋してて起きたことネタにして膨らますかなぁと。 後冒頭の奴見つけたらオハナシに勤しみはじめるけど気にしないでくれると

  3. フェイサル・セイフ

    フェイサル・セイフだ、今回は宜しくお願いする。 ……そういう方面にはとんと疎いのだが、彼女らの書いていたこれも芸術という物なのか? ……実在する人物の名前は伏せよ、という声が何処かから聴こえる気がするよ。 私は、冒険者になった後の経験、依頼の中での話でもしてみようと考えている。 話の中に出てくる人間の素性などは特定できないように配慮するつもりだが…… それでも何か、彼女達の助けになるような事が話せれば良いのだが。

  4. No.4

    >実在する人物の名前は伏せよ 確かにそうですよね…ってこれ、もしかして実在の人がモデルなんですか? それは…大変ですね… あ、私も何を提供するかを…冒険者としての経験が浅いので、冒険者となるきっかけになった話をまとめてみようと思います。ジャンルは恋愛…です! 一本も採用されないと依頼失敗ですから、演劇部の皆さんの琴線に触れるように意識して台本を…緊張しますね…

  5. ルーンス・ラグネル

    ルーンス・ラグネルだよ、よろしくね。 >実在の人の名は伏せる 僕もその方がいいなーって思うよ。 あと、その方がソウサクイヨクが湧くんじゃないかなー 僕も冒険者の経験が浅いのでちょっと考えようと思うよ!

  6. スィーリーン

    スィーリーンと申します。 よろしくお願いします。 冒険者らしい体験談をご所望なのですね。 今までの依頼から考えてみようと思います。 こちらは、没になった台本なのですか? 参考になりますでしょうか。(手にとって読んでみる) ……。 …………。 こ、これは学園の方々には相応しくないと言いますか、 英明なるエフレム様と勇猛なるアシムベート様を この様に描写するのは不敬であると言いますか、 でも寡黙なエフレム様のこの様な愛の言葉は聞いてみたくもあると言いますか (混乱中)

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0