【鉄鱗】水底の針山
桐原千尋
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シナリオID:994
オープニング
そこは一本道の洞窟を抜けた枝場の突き当たり、川の流れる雑木林だ。
春先の穏やかな気候と差し込む光が美しい安全地帯は休憩にぴったりなのだが、
ここには針毛魚という魚一種類しかおらず、針毛魚を捕る以外で訪れる事がない。
針毛魚はその名の通り、針の様な毛が生えた平たい魚だ。針毛魚の針毛は素材の下処理に利用できるモノである。
皮はなめして革に、鉱石は磨いて裸石にせねば使えない。洗い、磨き。梳く。そういった下処理の時に使うのだ。
性格は臆病で川の底にじっとしており川を覗いたくらいでは見つけられないのだが、川縁にオレンジ色の紫陽花が咲いている場所には必ずいる。
「いるんだけど……あふ、寝そう……根比べもうやだぁ……あ?」
オレンジ色の紫陽花に並んで川縁に座り、釣り糸を垂らしていたザニが目尻に涙を浮かべ弱音を吐くと、川に一つの波紋が広がった。
「ここまで待ったんだから、慌てない、慌てない」
つん、ツンツンと手に伝わる振動が大きくなり、ザニの手に力が入る。一際大きく引かれ、ザニは立ち上がって竿を引き寄せる。
「こんっっっの、つれ、つれ…………釣れ、たぁ! 三匹目!」
ざばぁ、と針毛魚が水飛沫と共に陸へ落ちる。針毛を逆立ててびちびちと跳ねる針毛魚にザニはナイフを突き立てた。
針毛魚の大きさは縦にも横にも広く平均で直径1メートル前後、最小50センチ最大3メートルが確認されている。今釣り上げたのも平均的な大きさだ。
なかなか動かないので釣り上げるのにもすごく時間がかかるが、陸に釣りあげてしまえば普通の魚と変わらない。針毛がしっかり逆立ったのを確認し素早く絞めるだけだ。
ザニはそのままナイフで捌き、針毛魚の皮と身を別けだす。
大事な針毛が欠けないようにその場で剥いだ身に刺して針毛を保護して運ばねばならない。冒険者ならば、三匹は持ち帰れる。仲間が居て、闘わず運ぶ事だけに専念するならば、五匹はいけるし、マジカルポケットがあれば一匹は確実に持ち帰れるだろう。
ザニはこれが三匹目だ。同行者がいればまた根比べをする所だが――
「いやー。誰か一人くらい居ると思ったんだけどな」
ぼやきながら辺りを見渡すが、人っ子一人見当たらない。
この枝場は階層ボスの手前から伸びている。主幹路から一歩入ると薄暗い岩肌の通路が暗闇へと伸びる。天井は目を凝らしても見えず、道幅は冒険者が三人並んで歩ける広い道だ。
時折生えているヒカリゴケの光量は、道の暗さを余計に際立たせるが、罠のない一本道なので松明を持たずに通り抜ける冒険者もいる。
帰りは暗闇から忍び寄るネズミや蜘蛛、蛇さえ気をつければいい。
来る時は、他の素材を取りに行く冒険者に同行させて貰ったザニだが、帰りはここに居る誰かと一緒に帰ろうと思って居た。そうすれば一匹でも多く持ち帰れるのだから。
大きく重たく嵩張り、釣るのも時間が掛かって面倒臭く、迷宮の上層で捕れる針毛魚だが、報酬は安い。多く使われる消耗品なのでお手頃価格にしないと商売にならないからだ。しかも、身付きで運ぶせいか帰りは魔物を呼び寄せる。ならば針毛魚の身はさぞ美味しいのかと思うところだが、迷宮カエルを主食へと変貌させたエドゥノーグの料理人達の手に掛かっても、とても食べられる物ではなかった。
割に合わなさすぎる針毛魚の依頼を受ける冒険者は少なく、けれど誰かしらが受けているものだった。大体決まった冒険者だが、それでも受ける人はいた。
けれど、今エドゥノーグには素材を求める神匠がいる。冒険者は割の良い依頼を受けるものだし、もしかしたら自分の武器も作って貰えるかも知れないという淡い期待と共に迷宮へ向かう。依頼によってはついでに認定等級も受けられる。
どんな依頼であっても、この、階層ボスより手前で、針毛魚しか捕れない枝場の突き当たりに冒険者が通りかかる事は無い。
来るかどうか解らない、ではない。来ないのだ。だから人が来るまでここに居る事はできない。生ものである針毛魚は足がはやい。急ぎ運ばなければ腐りだし酷い匂いを放ち、タダでさえ寄ってくるモンスターを更に引き寄せる。
「それでも一人くらい居ると思うじゃないー。やーーだーーー。一人で抜けるのキツイーーー」
ザニは両手で顔を隠し空を仰ぎ、全力で泣き言を叫んだが、その言葉を聞く者は居なかった。
薄汚れた格好のまま、生魚特有の生臭さと腐臭を放ちながらやってきたザニに、職人組合は酷くざわついた。
ザニは手短に迷宮での事を伝える。針毛魚の枝場に誰も居なかった事、運悪く街へ戻る他の冒険者に会えなかった事、一人で上層を抜けるのに手間取って身が腐り上層を抜けてからも面倒だった事を、弱々しい声でぽつぽつと語る。
「探索者ギルドで確認してきたけど、針毛魚の依頼を受けたのは私だけらしいから、あの三枚が最後だ――なので、早急に、職人組合からも、探索者支援ギルドに複数人数で行く様に針毛魚の依頼を出してください」
職人組合の受付嬢にザニは弱々しい声で、けれどはっきりと言う。
なんとか帰って来られたのも、必死に持ち帰った針毛魚も身は腐ったが針毛は問題無かったのも、本当に運が良かったのだ。
「……これから、商人ギルドにも同じ事を伝えに行きますので、合同でもいいので。このままじゃ素材はあるのに作れない、なんて事になっちゃうし。私も針毛魚を抱えて帰ってくるの一人じゃ無理だし」
ふらりと覚束ない足取りでザニが歩き出すと、辺りに腐臭が漂う。迷宮から真っ直ぐ探索者支援ギルドで報告し、すぐに職人組合へ来たのは、警告も兼ねている。たとえ捕獲対象が魚だろうと場所が安全地帯だろうと、あそこは迷宮上層だ。
少なくとも、今のままじゃもう自分は受けられない。
ザニはその身をもって、ちゃんとした依頼を出さねば危険だと示したのだ。
後日、探索者ギルドに複数人数が条件の針毛魚捕獲依頼が、職人組合と商人ギルドの連名で出される運びとなった。
解説
マスターより
リプレイ
「わぁぁぁ……。ここ、まだダンジョンの中なのよね?」
「うん。でも、お外みたいに、いい天気」
頷きながら言うティトの声を耳に、サリアは背後を振り返りたった今通ってきた洞窟を見る。通っていた時は薄暗かった洞窟も天気の良い場所から見れば底なし穴のように真っ暗だ。
「まさに釣り日和って感じの天気ね」
「ええ、本当に。このまま真っ直ぐ行くと広場があるのでしたね」
キャロル・エタームが元気いっぱいの声色に相応しい足取りで先へ進むと、お淑やかながらも楽しみでしょうがないといったネーヴェ・グラヌローザの弾んだ声が響く。二人の後を追ってサリアとティトが歩きだす。
楽しそうな彼女たちから少し後ろを歩くキーゼとセロンガード・シュタインドルフは眩しそうに眼を細め、景色を眺めていた。
「ダンジョン内なので天気の概念は怪しいですが、穏やかで過ごしやすい気候ですね。立ち入ったばかりですが景色も良いですし」
「ええ、思っていたより見通しも良い。キーゼ、あそこに見えるオレンジ色、あれが出入り口から一番近いという釣り場の紫陽花でしょうか」
「広場からも近く、入り口から見えると言っていましたし、そうでしょうね。ああ、あちらの方と、あれもそうじゃないですか。随分と沢山見えます」
キーゼの指す方を見たセロンは一つ頷く。
「それだけ釣り場が多くあるという事ですし、全員が一匹も釣れないという事にはならなさそうです」
「では予定通り二人ずつ離れた場所で釣りましょうか」
遠くを眺めながらキーゼがそう言うと、同じ様に辺りを見渡していたセロンも落ち着いた声で返す。不測の事態に備えた下見も兼ねた会話だが、二人とも綺麗な景色を、先を行く彼女たちの楽しそうな姿を楽しんでいるようだ。
広場についたのだろう、こちらを向いている四人は銘々にキーゼとセロンを呼ぶような仕草をしている。
「ゆっくりしすぎましたか。キーゼ、行きましょう」
キーゼは一つ頷くとセロンと共に足を速めた。
●
「よし、これでいいわ」
そう言ってキャロルが立ち上がると、背後でキャロルの手際を観察していたサリアが労いの言葉をかける。
「お疲れ様。これで釣り竿は全部固定されたわね」
「あとは釣り竿が動いたら釣ればいいってわけよ」
サリアの言葉に返事するとキャロルは改めて川を眺める。幅広い川に沿って咲くオレンジ色の紫陽花の間に設置された置き竿は、まだ動く気配がない。
「まさか釣り竿を五本も使うとは思わなかったわ」
「いる場所は大体目星がついて、待つ時間が長いっていうなら何も正直に一匹ずつ釣る必要は無いわよ。同時に二本かかってもサリアが一緒だから安心だわ」
明るく言うキャロルは近くの丸太に腰掛ける。サリアも別の丸太に腰掛け、穏やかに流れる川を眺めた。
「この川を眺めて座れる丸太も他の冒険者達がわざわざ置いたんでしょう?」
「そう聞いたわ。待つ時間が長いから釣り場の居心地をよくしたんですって」
「それだけ暇なのね」
「人を選ぶ依頼よね……あ、動いた」
「え、どれどれ」
「最初に設置したやつッ」
立ち上がり駆けだしていくキャロルの後をサリアは数歩遅れて追いかける。
川へ落ちそうになっていた竿を掴んだキャロルはそのまま竿を思い切り引っ張った。竿を強く引き、時に緩めて魚の体力を奪う。バシャバシャと水飛沫をあげ抵抗する魚との駆け引きをサリアが見守っていると、キャロルは無事に一匹の魚を釣り上げた。
「やった! 見て見て釣れたわ! 幸先いいじゃない!」
「おめでとうキャロル! すぐ解体するのよね」
びちびちと跳ねる魚にナイフを突き立てたキャロルへサリアが問い掛ける。
「一匹釣ったら魚の警戒心が強くなるから釣って直ぐ解体がオススメらしいわ。動かなくなったら頭と尻尾を切り落として、身は柔らかいから針の埋まる厚みが残るように気をつける、重ねる時は骨に気をつける事、ですって」
「よくそれだけ調べたわねえ」
経験者に聞いて回っただけよと軽い口調で言うキャロルにサリアは思わずうなる。
初めて正式に依頼を受けるサリアは今回、キャロル達から沢山の事を学ぼうと思ってきた。キャロルの情報や置き竿の発想もだが、ここまでの道のりでも沢山の学びがあった。捜波による索敵も、戦闘時の動きもサリアは皆より僅かに遅れがある。経験の差を実感できたサリアは同行者達に感心しっぱなしだ。これからの長い釣りの時間でも帰り道でも、まだまだ学べるだろう。
顔を上げ置き竿を眺めるサリアの口から言葉が漏れる。
「……本当にいるのね、最前線に立つヒーラー」
●
「まずは摑捕漁で魚の様子を確認してまいりますわ」
キーゼにそう告げたネーヴェは投網片手に川へ向かう。
漁を嗜んでいるネーヴェに釣りを任せれば魚の確保は問題無い。過ごしやすい場所とはいえ川の水は冷たいだろう。キーゼは川に背を向けて枯れ枝を組み、火打ち石を鳴らし焚き火を起こす。
ぼっと小さな火が点くのと同時に大きな水音が聞こえ、キーゼが振り返ると両手に針毛魚を掲げたネーヴェの姿があった。
「針毛が立っていない……。……水中で……? 身を守るのに針を……」
少し離れているためはっきりと聞こえないが、どこか不思議そうな声を発しながらネーヴェの手はテキパキと解体していく。うんうん、と納得した様に頷いたネーヴェは解体した魚を手にキーゼへ顔を向けて言う。
「魚は川で冷やしておきますね!」
「はい」
頷き、返事したキーゼはまた川へ入って行くネーヴェの背を見送る。
ぱちり、と弾けた音をさせて焚き火から小さな火の粉が飛ぶ。組んだ枝が崩れていないのを見止めたキーゼは立ち上がり顔を川へと向けた。
膝下まで水に浸かったネーヴェが佇んでいる。束にした投網を両手に持ったまま、俯いた姿勢でじっと立ち尽くし、さらさらと流れる川を見下ろしている。
そよ風がネーヴェの長い髪を揺らす。ふわりと舞う銀色の髪が水面の光よりもキラキラと輝いて見え、キーゼは眼を細めた。
すっとネーヴェの膝が曲がり腰から上が捻られる。一拍おいて、勢いよく身体を捻ったネーヴェから投網が放たれた。空へ向かってぶわりと広がった投網は川を覆い尽くす勢いで水へと落ちていく。網を手繰り寄せる度に水飛沫が大きくなる。
「手掴みで魚を捕まえた時も驚きましたが、重り付きの網を均等に広げるなんて難しい事がよくできるものです。本当に漁で生きていけるのでは?」
ネーヴェから漁を嗜んでいるとは聞いていたが、想像以上の腕前にキーゼは目を丸くしっぱなしだ。
川から上がったネーヴェがこちらへ歩いてくるのを見て、キーゼは焚き火の側にブランケットを敷き座るよう手で促した。ネーヴェは和やかに微笑みそれに従う。
「ありがとうございます」
「貴女の体が一番ですからね……しっかり温まってください」
隣に座るキーゼへ顔を向けてネーヴェは言う。
「すみません、今日は私の我儘にお付き合い下さいまして。でもご一緒出来て嬉しいです」
「ご一緒できるのは勿論、こうして我儘言って頂けるのは嬉しいですが……それだけ、貴女に気を許して頂いているわけですから」
キーゼの言葉にほっとした顔を見せたネーヴェは視線を焚き火へ移す。ぱちぱちと燃える焚き火の音だけが二人の間にあった。
「デート……のつもり、なんですのよ、これでも」
静かに、けれどはっきりとしたネーヴェの声が耳を擽り、キーゼは身体を捻ってネーヴェへ向けて口を開いた。
「……ええ。行先や目的がどうであれ、こうして貴女と出掛けられれば僕にとってもデートですよ? 改めて、お誘いありがとうございます」
「そう仰って頂けるなら嬉しいです」
頬笑むネーヴェの顔がほんのり赤いのは焚き火のせいだろうか。違う理由があればと思いながらキーゼも焚き火へ顔を向ける。何か話題を振ろうかと考えるが、この静かな時間を二人きりで過ごすのも悪く無い。とはいえ、待ち時間はたっぷりとあるのだ。
「今度は、二人だけで出かけたいですね。こんな感じで景色の良いところで仕事抜きにして」
考えをめぐらせてでてきた言葉が次のデートのお誘いだ。
「ええ、是非。私も、色んな景色をあなたと一緒に見たいです」
流石に呆れられるかと思ったキーゼだが、ネーヴェは嬉しそうに応えてくれた。同じ気持ちでいた事にキーゼの頬も緩む。
「……あの、実は少し指先が冷えてしまいまして……その、今だけ、暖めて下さいませんか」
おどおどと言うネーヴェにキーゼは笑みを深め恭しくネーヴェの手を取る。
「喜んで」
白く小さな両手をキーゼは上下から両手で包む。二人とも視線は手に向けたままだった。
●
ぱしゃん、と軽い水音をさせて釣り上げられた針毛魚がセロンの手に収まる。
「小さい」
「最小ですね。ですが釣り勝負は釣った数を競うのでしょう? 小さくても一匹は一匹です」
「むぅ」
頬を膨らませたティトが鋭い視線を浮きへ向ける。セロンは笑いを噛み殺しながら魚を捌き、氷を入れた水槽へ入れるとティトの隣へ座り竿を振る。ぽちゃんと水紋が広がって消えていく。
釣った数を競うなら離れた場所に座った方がいいと思うのだが。セロンは横目でティトを伺う。小柄なティトが座るとオレンジ色の紫陽花にすっぽりと包まれて見え、セロンの目にとても愛らしく映る。頭上の紫陽花が髪飾りの様だ。そう思っているとティトの耳がぴくりと動き、手にした竿が撓る。
「きた」
ティトが立ち上がると竿が左右に振れ川から水飛沫が立つ。邪魔にならないようセロンが移動するとティトの身体が大きく動く。左右にたたらを踏み花を散らし煩い程の水飛沫を立たせる。ぐっと両足を踏ん張ったティトが思い切り竿を振り上げた。瞬間、大きな影が空に現れティトを覆う。
「ティト!」
セロンの声にはっとしたティトは竿を放り投げ迫る影を避けた。ドシンと魚を釣り上げたとは思えない音が響く。びたんびたんと跳ねる魚を見下ろすティトの尻尾が膨らんでいるのに気がつき、セロンはそっと魚を絞める。
「おっきぃ、ね」
「これ三メートル越えてません?」
「最大記録、更新」
満足そうに言ったティトが両手を腰に当て胸を張ってセロンを見ればセロンはキラキラと優しい顔で笑っていた。あまりの輝きにティトが目を丸くしていると、セロンの手がゆっくりと伸ばされる。頬を掠め髪の毛にそっと触れた手がティトの頭を撫で、後頭部を軽く押す。顔を引き寄せられ近づくセロンの顔にティトが目を見開くが、セロンの手がすっと離れされる。
「髪飾りのようで綺麗でしたが」
セロンの手には水滴で輝くオレンジ色の紫陽花があった。つまり、輝いていたのは水滴であって、セロンではなかったのだ。
惚けていたティトの顔が一気に膨れ、セロンは首を傾げる。
「時間もありますし、花冠でも作りましょうか」
そうじゃない。そうじゃないけどそれはそれで欲しい。勝負が終わる前から負けた気持ちになり、ティトは口を曲げる。
「さて、どうやって持って行きましょうかね。この大物」
ティトの気も知らず、セロンはラグの様に広がる魚を見て首を傾けていた。
●
両手を高く上げ大きな魚を背負ってきたセロンに四人は言葉を失う。女性陣が呆気にとられる中、大きさに戸惑いながらもキーゼは降ろすのを手伝った。
「随分と大きな魚を釣りましたね」
「ティトが釣りまして」
セロンの返事にキーゼは視線をティトへと向ける。セロンが高く持ち上げてもなお引きずる尻尾を持っていたティトは何故か、落ち込んでいた。大物を釣ったのに、キーゼが不思議そうにしていると
「数、じゃなくて、大きさ、にすれば、よかった」
いつになく弱々しい呟きに、そういえば二人は勝負をしていたなと思い出したキーゼが視線をセロンへ向ければ、セロンは一つ頷く。
つまり、そういう事なのだろう。
「大きすぎてティトとでは解体できなかったんです。お手伝いをお願いできますか」
「ああ、はい。では僕が」
「ええと、では私達は分配と荷造りをいたしましょうか」
気を取り直してネーヴェがそう言うとサリアが頷く。
「そっそうね。ええと、大きさを揃えた方が持ちやすいかしら?」
「じゃ取りあえず全部出して、あ、小さいのいたらくれる? ペットに背負わせたいの」
大きさの近い魚を別けながらキャロルが言うと、ティトが一匹の魚を差し出す。
「最小サイズ、セロンが釣ったの。はい」
「やったぁありがとう。助かったわー」
キャロルはふと受け取った魚をまじまじと見てから振り返る。
「コレ見てからアレ見るとなんかもう、すごいわね」
「あの大きさマジカルポケットに入るのかしら?」
サリアの疑問に首を傾げたキャロルは自信無さそうに言う。
「頭と尻尾をギリギリで切り落としたら、なんとか?」
「纏めた荷物も入りそうなのですが……あら?」
ふっとネーヴェの麻袋が姿を消す。
「入りました、わね?」
「ええ、嘘! なんで? 麻袋ぴっちぴちだったじゃない!」
キャロルは勢いよく立ち上がって叫び、自分の荷物を入れようと試みる。
「……だめね、入らないわ。グラヌローザさん、麻袋に何匹入れた?」
「四匹ですわ」
「解体は同じよね。なら魚の数? 麻袋だから? いえ、袋への入れ方?」
キャロルとネーヴェが話す間にティトとサリアも纏めた魚をマジカルポケットへ入れようとしてみるが、荷物は入らない。解体を終えたキーゼとセロンが不思議そうな顔で近寄ってくる。
「どうかしましたか?」
「グラヌローザさんが魚を四匹いれた麻袋をマジカルポケットへ入れたのよ。でも私達は入れられないの」
セロンの言葉にキャロルが説明をすると、セロンとキーゼも顔を見合わせる。二人も荷物を入れようとしてみるが、やはり入らない。
「どうしてかしらね?」
サリアの言葉に同意するように皆が首を傾げる。
「では一度出して……」
みましょうか、とネーヴェが言葉を言い切る前に、取り出そうとしていたネーヴェの手をキーゼが掴む。
「お待ちください。似たような麻袋を使っていますし、おそらく解体の誤差による容量の問題かとは思いますが、今取り出してしまったら次は入らないかもしれません。このまま持って帰り、検証は後にするべきかと思います」
キーゼが皆へ顔を向けると、それもそうかと皆が頷く。反対意見はなさそうだ。
「じゃあグラヌローザさん、戻ったら荷物を比べさせてね。じゃあ他を分けましょう」
ネーヴェがぎこちない動きで頷くと、キャロルは次へと話題を変えていく。
キーゼは身体を固くし、動かないネーヴェの顔を覗き込む。頬を真っ赤に染めたネーヴェにキーゼは目を瞬かせる。
「どうしました?」
「あの……手を……」
か細い声に、キーゼは握ったままの手にやっと気がついた。
マスターコメント
ショートシナリオ易しい 報酬:標準6 / 4〜6人
2021年06月21日 19時44分10秒 公開
相談掲示板
ヒーラーのネーヴェ・グラヌローザと申します。今回はキーゼさんとご一緒に参りました。どうぞ宜しくお願い致します。 実は私は漁が得意なもので、是非魚釣り……もとい、迷宮で罠を仕掛けた漁をしたいと思っております。 魚の運搬について、ふと思ったのですけれども、マジカルポケットは使えるのでしょうか。もし使えるのであれば、運搬面は大分楽が出来ると思いますが、皆様どう思われますか?
やぁみんな…揃ったようですね… 私はセロンガード…シューターです… 今回は…釣り勝負です…ええ、はい…。 皆様宜しくお願い致します。 マジカルポケット、いいと思います。 私も、準備しておきましょう。
キャロル・エターム、シュータよ。 よろしくね。 多く使わる消耗品の供給不足、お金になりそうな素敵な響きね この額で依頼出してくれるっていうんだし、今までがむしろ安値過ぎたのかもね 高騰するかもしれない素材だし、今の内に狩るノウハウは持っておきたいわ。 マジカルポケットがあれば 簡単に1匹は持って帰れるみたいね。 良いと思うわ。 私は、戦闘をエーテルリンクしたペットに任せて少し多めに持って帰る事を狙ってみるわね。 最悪、多めに持ってる分を投げれば誘導もできるだろうしね。
シーフのサリアよ。 初依頼で勝手の分からないことも多いけれどよろしくね。 私は身一つで戦うか運ぶかしかできないし、今回は運び手に専念しようと思うわ。
さて、宜しくお願いしますね 誰が一番獲れたか競う…という流れではなさそうで安心しましたね。 僕はとりあえず、どうしますかね…
まぁ、皆様揃いましたのね。セロンガード様、キャロル様、サリア様はどうぞ宜しくお願い致します。 サリア様は初めての依頼とのこと、記念すべき瞬間にご一緒出来て光栄ですわ。この卓は経験豊富な方も多う御座いますから、何か分からないことがありましたら、どうぞ遠慮なくお申し出下さいましね。 ティト様は女子会以来でございますね。またお目にかかれて嬉しゅうございます。 今のところ釣り3、運び手1、バランス型1と言った構成でしょうか。 戦闘に専念して下さる方がいらしてもいいのかもしれませんが、持って帰れる数を考えますと実は全員が3匹ずつ持った方が総量は多そうなんですよね。 マジカルポケットですが、麻袋などに入れてひとかたまりにすれば、一度に三匹納められるのでは……と思ったりは致しますね。もし無理でも一匹は確実に持ち帰れましょうから、漁の道具を運ぶ関係もございますし、いずれにせよマジカルポケットは持っていくつもりです。
……ところでふと思ったのですが、この魚の数は1人頭の量で宜しいのですわよね? 私は多めに釣って他の方にお渡しする、というプレイングにしたいと思っておりますが、サリア様とキーゼさんはお引き受け頂けますでしょうか。サリア様は運び手に専念して下さるとのことで、5匹お渡し出来ればと思っております。
>受け渡し 構いませんよ? 帰路については戦闘考慮ですと3匹が限界でしょうし。こちらは近づいて殴るタイプではないですから。
気遣ってくれてありがとうね、ネーヴェ! >魚の引き受け 了解したわ。 5匹運搬する方向でこちらも想定しておくわね。
ティトです。よろしくお願いします、ね。 ネーヴェさん、こんにちは。 お魚いっぱい取ろう、ね。 そっか、それならぼくも釣るだけ釣った後に3匹だけ持って帰ろう、かな。 …あ、それかね、囮目的で1匹くらい持ってくのはどう、かな? マジカルポケットは…余裕が出来そうなら準備する、よ。
……そういえば、これ。釣り竿って借りれるのですかね? あと、流石に深度1でサウンドボマー使って気絶させて獲る、は許されるのかどうか… いえ、やりませんよ?持ってませんし
流石に釣り竿は貸してもらえると思うけど 釣りではない方法で捕まえてもいいって話だしサウンドボマーも悪い手ではないと思うけど。 私はマジカルポケットも用意できそうね。
>キーゼさん、サリア様 お引き受け頂きありがとうございます。お二方とも、どうぞ宜しくお願い致します。 万一私が不漁でも、ティト様やセロンガード様が釣った分も含めれば、数は十分稼げると思いますわ。 >ティト様 すみません、私、先の発言でティト様が釣りであろうと決めつけて書いてしまいまして……間違いなかったようで良かったです。 ええ、沢山捕りましょうね。 >サウンドボマー 案外有効では無いでしょうか。あっても良さそうだと感じますわ。 あと、帰りのモンスター遭遇判定に備えて、敵警戒系のスキルか幸運の星があればより良いのかもしれない、と思うのですけれど……敵を警戒するスキルって何か御座いましたかしら……。
いけない、書き忘れましたわ。 >囮目的 確かに、1匹余分にあると良いかもしれませんね。 どう運用するかは先に決めておいた方が良いでしょうか。
>ネーヴェさん んーん、気にしない、で。 釣り勝負の話はもうでてたから、ぜんぜん決めつけなんかじゃない、よ。 んー…クリーパーを惹きつけるのは匂いに関係してるんじゃない、かな…? だからそれを誤魔化したり、逆に寄せ付けない匂いの工夫をすれば少しは克服できそう、だね。
>囮目的 ふむ、戦闘を回避したい時や多数のクリーパーに追いかけられて撒くのが困難になった時でしょうか?あまりいい案は浮かびませんが、囮を運用すること自体には賛成です。 >匂い 匂いと言いますと《スーパーめちゃくさい》が頭に浮かびますが…メンバーを鑑みるとなかなか渋るものがあるので、おすすめは出来ないです。
>囮 身だけ、ということですかね? 帰り道の戦闘専門などで投げるなどしてもいいかもしれませんね? >プレイングは釣る、運ぶ、戦う、のどれか一つを決めると良いかもしれません。 とありますけど… 皆さんはどれメインで?
>ティト様 お気遣いありがとうございます。 時に、もしかしてこの方がお噂の……でしょうか? >匂い 真っ先に浮かんだのが「蒸留酒」か「香水」で匂いを誤魔化す案でございますが、下手をすると匂いと臭いの相乗効果で物凄いことになりそうですわね……難しいです……。 >メイン 私は「釣る」になるでしょうか。同じくらい戦闘にも字数を割ければ、とは思っております。
>ネーヴェさん うん、そう…だよ。 ぼくが(相手を跪かせて泣いて許しを請うまで追い詰める為に)かわいくなりたい理由…だよ。 >匂い うーん、そっか。 もしも実行するなら、何か工夫が必要になりそう、だね。 >メイン ぼくは釣りメイン、だよ。 次点で運ぶこと、かな。
>メイン 私は「運ぶ」メイン…というか専念ね。 たくさん運びたいから、釣りと戦闘は皆にお願いするわ。
>メイン 私は釣りメインです。 後は進行方向のクリーパーを戦闘で退けながら帰還しようかと。弓ならば戦闘の負担も抑えようと思えば抑えられるので。
>一つに決める 私もどちらかというと釣りメインかしら といっても心境と釣りで600字埋めるのは辛いから 戦闘や戦闘を避ける方法にも文字数を割くことになると思うわ。 >囮目的 私は捜波で敵を見つけたら余分にとった魚を大鼬に運ばして こちらとは別の方向に置いてきて貰おうと考えているわね。
>役割 では、僕は戦うメイン、ですかね