【鉄鱗】迷宮鼠は鉄記章が欲しい

おおくまねこ

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シナリオID:987

オープニング

●迷宮都市都市エドゥノーグ・冒険者ギルドにて
「冒険者に依頼を出したいのだが。探索支援ギルドから鉄級認定を受けたいので、上層ボス攻略に付き合ってくれる奴を募集したい」
 キョロキョロと周囲を見渡した後、ためらいがちに受付嬢に話しかけてきたのは蛮族(バルバロイ)のようなファッションをしたワイルドな少女であった。年の頃は14,5歳ぐらいだろうか。凛々しい顔立ちをしており、エメラルド色の瞳の輝きは強い意志を伺わせる。

「あら、レベッカちゃん。貴方がここに来るなんて珍しいわね」
 受付のお姉さん、ラティメーリア・パンドラはにこやかに少女の名を呼んだ。冒険者ギルドと探索支援ギルドの双方にパイプを持つ情報通であるこの受付嬢は、少女の顔と名を知っていたのだ。
「……どこかで会ったか? 初対面だと思うのだが」
 レベッカと呼ばれた少女は怪訝そうに受付嬢を見た。滅多に地上にすら出てこない迷宮鼠である自分の名前をなぜ彼女が知っているのか、さっぱり心当たりがなかったからである。
「貴方はけっこう有名なのよ。うちの若い女の子達の間では」
「……なんで?」
「ひ・み・つ。はい、これ。依頼の申込書よ」

 受付嬢はくすりと微笑みながら、依頼書を手渡した。レベッカは受付嬢の態度に腑に落ちないものを感じながらも、受付嬢から書類を受け取った。そして、しばらく眺めた後、渋面で受付嬢に告げた。

「書き方が分からん……」
「あらあら。文字は書けるの?」
「一応、書ける。まだ練習中だが……」
 レベッカは小声で答えた。前述した通り、レベッカは生活の大部分を地下迷宮で過ごす筋金入りの迷宮鼠だ。親が文字を教えようとしても「狩りの役に立たないからいい」と、勉強を拒否し続けてきたが、つい最近とある男性から恋文(ラブレター)をもらったことをきっかけに、ようやく文字の勉強を始めたのである。

「私が手伝ってあげるわ」
「……ありがとう。助かる」
 受付嬢は微笑んだ。文字をかけない依頼人、というのはまれに存在する。そういった人のサポートも受付嬢の仕事の一つだ。というのも理由ではあるが、それ以上にレベッカとある貴族との交際の噂について興味津々だったのである!

「……ここは貴方の名前を書いてね。あと、ここには好みの男性とタイプと、貴方の男女交際の遍歴と、交際相手のお名前、あと思わずウットリしてしまうシチュエーションをご記載下さい」
「な、なぜ冒険者への依頼なのにそんなことを書く必要が!? さてはお前、嘘をついてるだろう!」(ボグッ)
「ぐはっ!」

 二人はコントのように大騒ぎしながら、依頼書の記入を進めていった。短期間でレベッカと割と打ち解けたのは、受付嬢の職人芸と言えるかもしれない。もっとも、レベッカはなぜ鉄級の認定を受けたいのかという肝心の部分については「紋章がかっこいいから」とあからさまな嘘をついていたが。

「鉄級認定が欲しいだけなら上層ボスの討伐そのものが目的よね? モンスターの素材の一部は商業ギルドの方に回してもらってもいいかしら。その分依頼料はお安くできるから」
「ああ、構わない」

 レベッカの許可を得た受付嬢は、素材は商業ギルドに回されますという説明を依頼文に書き加えた。今、エドゥノーグには『神匠』と謳われるドワーフの名工が来ているのだ。王鎧蟹の素材ならば、高額で引き取ってもらえるだろう。
「ありがと。じゃあこれでギルドの方に手配しておくわね」

 そして、受付嬢ラティメーリア・パンドラの悪魔的代筆により仕上がった文面は以下の通りである。

 依頼主:迷宮鼠のレベッカ
 依頼内容
 エドゥノーグ迷宮鉄級探索者記章が欲しいので、上層ボスを攻略したい。私一人では無謀なので、同行してくれる冒険者を求む。
 討伐対象の上層ボス:王鎧蟹(キング・アーマー・キャンサー)
 ※獲得した素材の一部は商業ギルドを通し、『神匠』ヴィンダールヴル一門に卸されます。

 中略。

 備考:
 王鎧蟹の固い甲羅は防具の材料に適しており、素材として優秀。さらに身とカニミソは極上の美味なので、一度食べると病みつきになります。
 ※認定成功時には打ち上げ(カニ料理パーティ)の予定あり。奮ってご参加下さい。会場は高級宿の屋上を貸切る予定です。
 見届け人・ラティメーリア・パンドラ

解説

 目的:上層ボス「王鎧蟹」を撃破する(ダンジョン内での途中経過は省略いたします)。  舞台:エドゥノーグ迷宮上層。戦闘フィールドは『砂浜』となります。  ※依頼結果が「成功」以上の場合、打ち上げのカニ料理パーティがあります。お味は上海ガニのイメージ。 ●登場NPC 『迷宮鼠』レベッカ  ダンジョンに同行する依頼人です。実力はレベル20の冒険者と同じぐらいです。  過去の登場シナリオ:『迷宮鼠に恋文を』 ●『見届け人』ラティメーリア・パンドラ(24)  オープニングでレベッカとやりとりしてたギルドの受付嬢です。通称はラティ。茶髪ショートカットの美人。そして、今回の依頼に同行する探索者(推薦人)です。  依頼に同行しますが、依頼失敗レベルの危機以外は手を出さず、観測者に徹します。高レベル授恵者なので彼女の安全には配慮する必要はありません。 ●王鎧蟹  腕が四本、足が六本ある巨大蟹です。部位ごとに防御力が異なる為、別々のモンスター扱いに近い形で判定します。ただし、範囲攻撃は一か所しか狙えません。  王鎧蟹との戦闘は「本体の生命力が0以下になる」または「全ての腕と足を破壊される」のどちらかが達成された時点で冒険者側の勝利となります。  ※攻撃の際、どの部位でも命中判定にー150して判定することで甲殻の隙間(防御力0)を狙えます。  王鎧蟹本体:  物理・魔法防御力:400  生命力:1500  回避:70  王鎧蟹の腕×4  物理・魔法防御力:200  生命力:各400  回避:80  王鎧蟹の脚×6  物理・魔法防御力:150  生命力:各300  回避:80  王鎧蟹の攻撃手段:  1:鋏パンチ  2:鋏から水鉄砲  3:頭突き  ※王鎧蟹は1ターンに4回攻撃しますが、腕が1本撃破されるごとに攻撃回数が減少します(最小値は1)。また、脚を全て破壊されると移動が不可能になります。 ●称号について  シナリオ参加者が鉄級探索者記章を欲しい場合、プレイング冒頭に【鉄希望】と記載してください。推薦者について希望がある場合は次の行に推薦者名を記載してください。また、推薦者はプレイング冒頭に【(PC名)推薦同意】と記載してください。パンドラを希望しても構いません。推薦者名(長い場合は略称)が称号付与理由に記載されます。推薦者と希望者両方の同意が確認できない場合やシナリオが失敗した場合、上層ボスに対して力不足な場合は付与されません。

マスターより

 こんにちは。おおくまねこです。本シナリオは『鉄鱗』連動の一シナリオとなります。成功以上なら確実に称号を取れる依頼でもあるので、ダンジョン好きの方は奮ってご参加下さい! あとカニ鍋も出ます。  ※鉄級称号の付与を希望する際は解説に記載があるフォームに従ってプレイングへの記載をお願いします。

リプレイ

●
 「以前、最高級カニ料理を謳う店へ行った時の話だ。出てきたカニは小さく、肉質も今一つ、ただただ身をほじるのが面倒だった記憶がある。やはりカニは自分で獲るに限る……おれはその時強く思ったものだ。これだけデカければさぞや食べ応えもあるだろう。まさにエドゥノーグドリーム……という話はさておき、レゾナンス・オブ・ヴァローだ」
 ハッタ・ムラムラは勇気が湧いてくる訓話(?)と共に、支援魔法を発動した。たちまち冒険者達は優しい光に包まれ、パワーアップした。

 キシャアアアアアアアアア!
 蒼い巨大蟹が四本の腕を振り上げ、冒険者達を威嚇する。こいつが『王鎧蟹』《キング・アーマー・キャンサー》。この枝葉ダンジョンの上層ボスである。
「来るぞ! みんな、頼む!」
 レベッカは双剣を構えながら冒険者達へと叫んだ。彼女は依頼人だが、後ろで見学というわけにはいかない。彼女が実力を示し、『鉄級』の称号にふさわしい探索者であることを示すことがこのクエストの目的だからだ。
「では皆様、手筈通りに参りましょう! 素材と蟹料――いえ、鉄級記章のため!」
 ハリス・アル・ターミルは珍しくジョーク(?)を口にしながら、愛用の槍、『開墾の竜爪』を構える。

「みんな、やる気に満ち溢れているわね。結構結構。ではお手並み拝見。貴方達が鉄級の称号を関するにふさわしい逸材か……しっかり見届けさせてもらうわ。そして、おいしい蟹を私にも食べさせて頂戴」
 見届け人のラティメーリア・パンドラはボス部屋の入口で腕を組み、レベッカ達の雄姿を見届ける構えだ。彼女は今回は戦闘には参加せず、あくまで見届け人に徹するつもりである。ちなみに今回鉄級称号を希望するのはレベッカを含め、合計七名。
「帝国崩壊事件以来、鉄級の称号獲得者が急速に増えているけど、本来は冒険者になって一年やそこらのルーキーがほいほい取れるような称号ではないのよ。貴方達の力、篤と見せてもらいましょうか」

●
「んー、でっけえ蟹かぁ……なんだろ、ドラゴンとかならビビったんだが、蟹って思うと、なんかそんな怖く感じないな……なんでだ?」
 番(つがい)のセリオス・オーガストの方を横目でチラリと見た後、ゴルバルティアは尻尾を勢いよく地面に叩きつけ、爆音を轟かせた。とんでもなく大きな音に驚いた蟹は、咄嗟に彼女の方を向く。

(まずは腕を破壊し、攻撃力を削ぐ。こいつを倒せば蟹パーティーだ!)
 攻撃に全神経を集中し、蟹の急所へと狙いを定めるセリオス。クールで物静かな印象の彼だが、今彼の心は蟹料理への情熱で燃え盛っていた。短弓から放たれた破壊(バスター)の矢(アロー)は蟹の腕の甲殻の隙間に滑り込み、一撃で根本から右腕の片方を千切り飛ばした。

「やるな! 私も続くぞ!」
 レベッカは俊足で蟹の右側面に回り込み、獣の牙のような双剣で三連撃(トリプルファング)をお見舞いした。ほぼ同時に放たれた三撃の内の一つが甲殻の隙間をすり抜け、残った右腕の肉を深く切り裂く。

「蟹かぁ……塩茹で蟹飯蟹鍋、まだまだ色々バリエーションありそうだが、それは後のお楽しみにしてさっさと倒しちまおうぜ!」
 獰猛な笑みを浮かべたカズマ クレセントブラッドは、レベッカとは反対方向へと回り込みながら、蟹へと魔乱印を撃ちこんだ。こいつは水の魔力弾を放つと聞いている。長射程の技を削ることで、戦闘を有利に運ぶつもりだ。

「俺が戦功を求めるようになるとはな……」
 エル=バ=ノイアンは感慨深げに呟いた。彼がこのレベッカに協力する理由は、彼女と同じく鉄級の称号を求めてである。今まで名声など興味はなかったが、王国の貴族社会に関わろうというのなら無名ではいられない。そう考えての行動であった。
 ノイアンは砂地を疾走し、利き手の斧でレベッカと同じ腕へと斬撃を撃ちこんだ。しかし、蟹が咄嗟に腕を動かしたので打点がズレてしまい、ノイアンの一撃は甲殻に弾かれてしまった。調子に乗るのはそこまでだとばかりに、王鎧蟹は残る三本の鋏を振り上げた。最初に狙われたのはレベッカだ。
「させるか!」
 だが、咄嗟にゴルバルティアがカバリングに入った。ゴン、兜と鋏が叩きつけられ、ゴルバルティアの視界が一瞬ホワイトアウトした。皮膚も裂け、額からは夥しい量の血が流れている。
「今度は俺かよ!」
 左の二本の鋏はカズマに向かって振り下ろされた。カズマは華麗なステップで鋏の連撃を回避し、空振りした鋏が砂地に激突し、大きく砂埃を巻き上がった。
「よし、ヒールだ」
 後方で戦局を観察していたハッタはゴルバルティアにヒールをかけた。癒しの光がゴルバルティアの傷を癒していくが、傷はまだ完全には塞がっていない。
「なるほど……実に食べ応えがありそうな……ではなく。強力そうなボスですな!」
 多くの闘いを経験してきたハリスだが、迷宮上層ボスとの戦いは初めてだ。さらに言うなら、いつもは体の頑強さを活かしてパーティの壁役を担っているが、今回は王鎧蟹の強固な装甲を貫く矛としての役割を期待されている。初めて尽くしの状況で、緊張感の余りつい秘めた食欲が暴走してしまったのだろう。
「捌くには骨が折れそうですが、先ずは腕を一つ!!」
 ハリスは王鎧蟹の威容に一種の感動を覚えつつ、突進の勢いごと、研ぎ澄まされた一刺しを放った。
 ザシュッ!
 紫電一閃が炸裂し、レベッカに傷つけられた蟹の右腕が宙を舞う。これで残る蟹の鋏は二本となった。
「へい! 君の相手はこっちだよ!」
 バクル・バスリーはチャージングで一気に蟹に接近すると、闘気(シーザー)の塊(ロア)を叩きつけた。
「キシャアアアアア!」
 蟹は怒ったのか、バクルを振り向き、口からブクブク泡を噴き始めた。

●
「喰らえ!」
 ゴルバルティアは蟹の注意を引くべく、衝撃刃を蟹の顔面へと叩きつけた。刃は蟹の甲殻に阻まれ、僅かな傷を付けるに留まったが、元よりダメージ狙いではない。注意を引くのが目的だ。
「あと、二本!」
 セリオスは左の腕の甲殻の隙間を狙い、スティンガーを放った。精密機械の如きセリオスの正確な射撃はまたも蟹の甲殻の隙間に滑り込み、内部で爆裂する。今度は一撃で粉砕とはいかなかったが、三本目の鋏はもう千切れる寸前だ。
「よし! いけるぞ!」
 カズマは蟹の脚の一本を狙い、脛撃を放った。鋼の剣が蟹の固い脚を切り裂き、体液が噴き出す。だがカズマの狙いはダメージよりもむしろ斬撃と同時に送り込んだエーテルの枷にある。これで機動力が下がり、全員の攻撃が当たりやすくなったはずだ。

「いい調子だな! この調子で頼む!」
 レベッカは無拍子の一撃を放ち、千切れる寸前だった蟹の左の鋏を切り飛ばした。
「キシャアアア!」
 蟹はとうとう最後の一本となった腕を振り上げ、バクルの兜へと叩きつけた。バクルは鋼の盾を咄嗟に引き上げ、叩きつけられた鋏の衝撃を幾分か逃がした。

「まあ、華々しさだけが戦いではない。強敵を相手にいかに立ち回り勝利をおさめるか…俺は、支援に回ろう」
 ノイアンは静かに呟きながら、バクルへとヒールをかけた。蟹の一撃はなかなか強力だ。あと一本しかないとはいえ、連続で受ければ、前衛すらも薙ぎ倒されてしまうかもしれない。

「あと一本! 我が鋤の餌食にしてくれる!」
 ハリスは気合十分に叫びながら、甲殻の隙間を狙った高速の刺突をお見舞いした。槍の穂先が蟹の身に深々と突き立てられ、蟹は苦しそうに腕を振り上げた。
「うむ、危なげない戦いぶりだな……だが、油断せずに行こう」
 少し前進したハッタはヒーリングオーラを放った。見た所、しっかりシーザーロアがかかっているのでバクルの回復をしていれば問題はなさそうだが、効果が切れた瞬間のことを考えると、まだまだ油断はできない。
「やーい、ノロマ! こっちだよ!」
 バクルは尻尾を振って蟹に猛アピールしながら、自身にヒールをかけた。

「キシャーー!!」
 ついにシーザーロアから解き放たれた蟹はくるりと向きを変えた。それを見てバクルは殺界の準備に入る。
「あと少しだな」
 セリオスは風読みの矢を放ち、最後の鋏を攻撃した。またも甲殻の隙間を狙った一撃だが、セリオスの矢は当たり前のように甲殻をすり抜け、柔らかい肉に突き刺さった。
「セリオスは……大丈夫そうだな」
 ゴルバルティアは後ろに控えているセリオスをチラリと見ると、再び蟹の顔面に衝撃刃を当てた。執拗に嫌がらせをしてやれば、バクルのシーザーロアが切れてもたぶん自分が狙われるだろう。
「よし、鋏はあと一つだな!」
 レベッカは鋭く踏み込み、蟹の鋏の隙間を狙って双剣を一閃した。しかし、蟹は激しく腕を動かし、レベッカの斬撃を弾いてしまった。
「レベッカ殿、あせってはなりませぬぞ。倒されてしまっては査定に響きますゆえ」
 ハリスは逸るレベッカを諫めつつ、再び甲殻の繋ぎ目を狙い、槍を突き立てた。確かな手ごたえがあり、ついに最後の鋏が砂浜にどさりと落ちる。

「これは……勝負ありかしらね。大した子達だわ」
 パンドラは目を丸くした。八人がかりとはいえ、王鎧蟹の腕をこれほど早く捥いでしまうとは。まだ王鎧蟹には巨体を生かした頭突きや踏みつけが残っているとはいえ、この調子ならば、六本の脚もすぐに全て切り倒してしまいそうだ。

「関節はガードが薄いってのは定番の弱点だよなぁ、歩き辛けりゃ寝っ転がってもいいんだぜ!」
 カズマは無拍子の一撃で右脚の一本の付け根を狙い、蟹にダメージを与えた。ノイアンも斧でカズマに続き、蟹の脚の一本をへし折った。
「キシャ――!」
 蟹はノイアンに向かって頭突きをぶちかました。しかしノイアンは咄嗟に後方に飛び、頭突きを回避した。
「そこまでだよ!」
 バクルはエーテルの結界を解き放ち、蟹を内側に取り込んだ。
 
 冒険者達が残る五本の脚を全て破壊し、蟹の動きを完全に封じるのが先か、バクルが力尽きるのが先か。ここからは根比べだ。

●
 ズズン! 凄まじい音と共に、王鎧蟹がひっくり返った。四本の腕に引き続き、脚も全てもぎ取られた王鎧蟹は、冒険者達の集中攻撃を甲殻の隙間に浴びせられ、ついにお亡くなりになったのだ。

「やったー!!」
 ハイタッチで勝利を喜び合う冒険者達とレベッカ。戦いを見守っていたパンドラもにっこり笑っている。
「おめでとう。貴方達の実力は鉄級に十分値すると太鼓判を押してあげるわ」
「よし! ありがとう、みんな」
 レベッカはとても嬉しそうだ。

「じゃ、これ持って帰るか。鋏と脚はいいとして……胴体どうする? 百キロや二百キロじゃなさそうだが」
「運ぶのは任せな!力仕事は得意だぜ」
 ゴルバルティアが胸を張った。
「幾つかに切り分けて持っていこうぜ。ロープは用意してある」
 カズマはロープをパックパックから取り出した。
「「私も」」
「俺もだ」
 するとバクル、セリオス、ハリスも続々とロープを取り出した。五人分のロープを集めれば、解体した王鎧蟹を縛るには十分だろう。

●
 エドゥノーグの高級宿屋の屋上にて。無事に王鎧蟹を撃破した冒険者達は、レベッカとパンドラと共に祝勝会の蟹料理パーティに興じていた。

「いやあこれは美味! 鍋にすれば野菜とも合いますね! すばらしい!」
 ハリスは迷宮で採れた季節の野菜と共に王鎧蟹の身をほうばり、破顔した。戦闘中の言動にも片鱗が見えていたが、彼はなかなかの蟹好きであった。

「蟹の脚はやっぱ塩味がいいな。うめえ! 高級食材ってだけのことはあるな!」
 カズマは殻付きの蟹の脚の先をかじり、感嘆の声を上げた。

「おれが最も楽しみとする食べ方はズバリ! 茹でたカニ肉でカニ味噌を掬って食べる……コレだ。コレしかない。存分に堪能させてもらうことにしよう」
 別のテーブルでは、ハッタが1kgほどの量の蟹肉とカニミソを占有し、カニ味噌料理を堪能していた。だが、それに対して抗議をする者などいない。王鎧蟹は全長数メートル。1キロの肉など、ごく一部に過ぎないからだ。

「蟹鍋……」
 ノイアンは時たま思い出したように呟きながら、隅っこで黙々とカニ鍋をつついていた。顔は真顔のままだが、彼の舌はしっかりと幸せを噛みしめている。もしかしたら今夜は蟹のとフォークダンスを踊る夢を見るかもしれない。

「カニを食べるときは、誰にも邪魔されず自由でなんというか救われてなきゃあダメなんだ。独りで静かで豊かで……」
 セリオスはゆでたカニの足、カニ汁、カニミソが入った小鉢の前に座り、しみじみと呟いた。
 市場の蟹などとは比べ物にならない、極上のカニの身。身の味がたっぷりしみ込んだ濃厚な出し汁。舌の上でとろけるクリーム状のカニ味噌。しょうがを付けるとさらに美味しいに違いない。仕事の後の至福の時間である。しかし、彼は一つ忘れていたことがあった。
「セリオス、一緒に食べようぜ!」
 番(つがい)(婚約者)のゴルバルティアの存在である。こうして、セリオスの独りで静かで豊かなグルメタイムは一瞬にして終わりを告げた。

「カニ味噌って苦いから駄目……セリオス、代わりに食べてくれ」
「構わんが……本当にいいのか? 王鎧蟹のカニ味噌だぞ?」
「美味しくても苦いのは駄目なんだよ!」
「では遠慮なく頂く」
 ゴルバルティアのカニ味噌を遠慮なくかっさらうセリオス。ゴルバルティアは代わりを要求し、渋るセリオスの皿からちょいちょいシュウマイやら、カニタマやらをかすめ取っていく。これはこれで幸せそうだ。

「美味しいね! カエル、チョコレートとは違う名物として売り出せるんじゃないかな」
「そうね。安定供給ができるかどうかが課題だけど、味の方は文句なしね」
 蟹粉小籠包をかじりながら、パンドラが頷いた。
「そう言えば、王鎧蟹の素材はどうなるの? パンドラさん」
「多分、防具の素材に回るんじゃないかしら。下手な金属より遥かに頑丈だし。ヴィンダールヴル達も喜ぶと思うわ」

 一通りテーブルをぐるりと回った後バクルは、獣人カップルをこっそり観察していたレベッカへと話しかけた。
「やあ、レベッカ。最近の迷宮はどう?」
「ひゃ!? ……なんだ。バクルか。特に変わらないな。夏が近づいて来たから、出現するモンスターの種類が変わったぐらいか」
 バクルは、レベッカと以前にも出会ったことがある。彼が参加者として名乗りを上げたのは、レベッカの近況が気になったから、という理由もあったのだ。バクルはその後しばらく、レベッカとしばらく雑談に興じた。

「そちらはどうだ。冒険者は忙しいのか?」
「まあまあかな。もう少ししたらまた大きな仕事があると思う」
「そうか。気をつけてな。みんなの無事を地下から祈っている」
「ありがとう。他のみんなにも伝えとくよ」

「おーい、蟹飯炊けたぞー!」
 カズマが大声で叫ぶと、冒険者達がわらわらと集まった。
 
 にぎやかな夜が更けていく。
 こうして、王鎧蟹と鉄級の称号を巡る冒険は大成功に終わったのであった。

マスターコメント

 巨大蟹は討たれ、晩御飯及び武具の素材となりました。結果は大成功です! レベッカ及び複数名の鉄級授与者が誕生しました! おめでとうございます。装備品の調整などで命中率を底上げし、最初のターンで腕を二本破壊できたのが大きかったと思います。 ※称号について 『迷宮探索者記章鉄級』の称号の付与につきまして、付与レギュレーション上他PCを推薦人扱いできなかった方がおりました為、代わりにパンドラを推薦人としております。
ショートシナリオ

ショートシナリオ難しい 報酬:多い7 / 5〜7人

2021年06月15日 10時21分59秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. エル=バ=ノイアン

    ウォーリアのノイアンだ。よろしく頼む。 背後が夕飯にコロッケを所望しているので買ってくるから、まずは挨拶だけで失礼する。三( ˘꒳˘ )コロッケ…

  2. ハリス・アル・ターミル

    コロッケは中に何を入れても美味しく頂けますね(← ハリスと申します、どうぞ宜しく。 この度の依頼はレベッカ殿と共に鉄級記章相当のボス蟹を狩るというものですね。 カニクリーム…いえ今はそうではなく。実際討伐後は食べられるようですが…。 >職業構成 ウォーリア✕4 シューター✕1 シーフ✕1 ヒーラー✕1 前衛に不足はありませんね。 今回に限っては魔法も物理も隙間を狙わねば通りは大差なく、重要なのは命中力。 それに関して言えばむしろ理想的な布陣かと思われます。 >作戦 王鎧蟹というだけあり凄まじい装甲ですね。 火力に特化した方ですら、まともに殴ればかすり傷を負わせることも困難です。 甲殻の隙間という脆い部位を攻撃できますから、これを活用すべきでしょうね。 敵の回避力は本体で70、腕と脚は80とのことですから…。 ふむ、最終的な命中が160を超えていれば、ほぼ当たることになりますね。 部位狙いの命中補正が-150ですから、元の命中が310以上あれば確実です。 ……とはいえそこまで上昇させるのは流石に厳しいかもしれませんね。 まあ通りさえすれば防御は0ですから、相当な痛打になるはずです。 300は無理でも260あれば半々の確率で当てられるので試す価値はあるかと。 攻撃集中を宣言することで命中力を高めるのも有効かもしれません。 あとは毒撃など一度通せば継続的にダメージを与えるタイプのスキルですが…。 これを使った後の蟹の肉を食べたいかと言われればその、ううむ……(←

  3. エル=バ=ノイアン

    カニクリームコロッ… 戻った。戦力のまとめと命中力の計算、感謝する。 とりあえず全員分の攻撃力を勘案したところ…まず本体にダメージを通すのは、命中-150で当たれば、と言ったところだが、生命力を見てもやはり現実的ではないだろう。足と腕をもいでいく形になると思われる。 キャスターがいないため防御力低下のデバフは見込めない。となる上昇系バフで殴る形になるだろうな。 とにかく攻撃回数の多い面倒な腕から、になるだろうが。 それと気になるのが地形だ。砂地による数値的なデメリットは不明だが、バランス感覚などのスキルを持っていくと安心かもしれない。

  4. ハリス・アル・ターミル

    >凡例 私の場合(攻撃・命中とも200程)、速打3+攻撃集中で命中280以上。 部位狙いでも腕や脚に70%、胴なら90%で命中し200程のダメージです。 首尾よく当たれば2回で腕や脚は破壊できるはずです。 尤も、敵が回避集中などを行えば上記の限りではありませんが。 優先順位としてはまず4本あるハサミを破壊し攻撃力を削ぐことで安全に接近戦が 可能になるのでこれを第一に、ただし逃走防止の為に1~2本は残しつつ脚を折って いくような形で如何でしょうか。場所が砂浜ですから水のある側に逃したくはない。

  5. エル=バ=ノイアン

    あっ すまない、せっかく可能性を提示してくれたのに否定する形になってしまったな…まだ全員揃っていないのもあるし、意見のひとつとして見てほしい。

  6. エル=バ=ノイアン

    (背後計算ミスってた)(死ゾ) ハリス、ありがとう。とりあえずはその大枠で…皆の意見を待つとしよう

  7. ハッタ・ムラムラ

    ハッタだ。世話になる。

  8. バクル・バスリー

    ウォーリアのバクルだよ。よろしくね 「鉄級探索者記章」持ちだから、欲しい人はぼくも推薦するから声掛けしてね >部位から? 本体を狙う? ぼくも部位からの方が安全だと思うな >個人行動 火力が攻撃に集中できるようにシーザーロアやカバーリングで攻撃を引き受けようと思うよ

  9. エル=バ=ノイアン

    集中宣言をすることで低下したステータスが命取りになるかもしれないからな… 俺も手持ちでできる限り防備を整えてきた。カバリングと、あと今回ヒーラーがハッタ一人だから、自前でリカバリ可能なようにヒール2も持っていく。

  10. セリオス・オーガスト

    ・・・ん、シューターのセリオスだ、よろしく頼む とりあえず命中優先して風読みの矢使えばうちは何とか310超えそうだから狙ってみるつもりだ。 ハサミ優先で俺もいいと思う、安全は確保したいしな。 足を狙うときはとりあえず片側を破壊すれば逃げ出せなくなりそうだと思うが

  11. ハッタ・ムラムラ

    攻撃役は揃っているし、おれは回復、支援の方に注力しよう。 特性スキルはレゾナンス・オブ・ヴァローとヒーリングオーラを予定している。 装備等も調整し、極力多く回復できるような構成にするつもりだ。 早い段階で腕を何本か落とすことができればベストだな。 敵の攻撃力を落とし、根気よく相手ができれば攻略難度も下がるかとな。 カニ相手は戦うのも、食べるのもじっくりやるに限る。

  12. ゴルバルティア

    ウォーリアのゴルバルティアだ、よろしくな 私は火力より耐久に回してるから攻撃ではあてにしないでくれ 代わりにカバリングなんかのサポートは積極的にするつもりだ

  13. エル=バ=ノイアン

    皆頼りになるな…よろしく頼む。 であれば、俺は攻撃もできるように調整していこう。本当に微力だが…(火力不足 あとはカズマだな。どう動くかわかればこちらも動きやすいので、時間のある時に教えて欲しい。

  14. ハリス・アル・ターミル

    現在表明されている役割分担は以下になるでしょうか。 >分担(敬称略) ・攻撃(遠隔) セリオス ・攻撃(近接) ノイアン ハリス ・防御 ゴルバルティア バクル ・回復&支援 ハッタ 表明はまだですが、シーフかつ十二分な命中を持つカズマ殿、そして今回の依頼者で あるレベッカ殿は近接攻撃役に回って頂ければバランスは取れるかと思われます。 大体の攻撃値を換算するに、初撃で腕を2本ほど持っていければ重畳かとは。 >依頼の流れ ■目的 全手足の破壊。本体への攻撃は行わない 1:攻撃・防御班の近接組が接触。ウォーリアが正面、シーフが即背面へ位置 2:甲殻の隙間狙いで腕を攻撃。回復役は適宜支援(攻撃は支援を待たず順次行う) 3:逃亡阻止を兼ねドラゴンチャリオッツ等で適宜位置調整しつつ脚攻撃  (腕は1本残しておくと逃亡判断までの時間が長引くかもしれない) 4:胴体にトドメを刺し蟹料理を楽しむ こういった形になるでしょうか。問題なければ私のプレイングに記載致します。 なにかご指摘や提案などありましたら教えて頂ければ。

  15. カズマ クレセントブラッド

    すまねぇ、遅くなった カズマだ、よろしくな おぅ、俺も近接攻撃メインでうごくぜ 部位破壊はそこそこ狙いに行けるからな

  16. エル=バ=ノイアン

    ハリス、カズマ、ありがとう。 全体の方針に異論はない。俺は命中が少し不安だから確実性をとって隙間狙いは避けるが…攻撃はできるようにはするが、あくまでハリスのサポートだ。 記載も感謝する。すっかり世話になってしまっているな…ありがとう。 ぎりぎりまで調整可能にしておく。何かあれば声をかけてくれ。

  17. バクル・バスリー

    ハリスさんは纏めてくれてありがとう! 概ね異論ないけど、ゴルバルティアさんもいるし、ぼく、「シーザーロア」ともう片方は「殺界」にするよ。 ドラゴンチャリオッツでの強制移動より執着&殺界の足止めの方が良さそうだし。 勿論、穴はあるからドラゴンチャリオッツ作戦との両立でもいいけど、もしそれを省くことで火力上がるなら、火力の方優先してもらってもいいかなって思ったよ。

  18. エル=バ=ノイアン

    出発を1日勘違いしていたな…(( 今別の依頼用に切り替えているが、持っていくのは強靭2とカバリング、強打2、ヒール2、バランス感覚だ。 …蟹鍋用に調理…いやなんでもない

  19. ハッタ・ムラムラ

    纏め感謝。 おれは前述の通り、レゾナンス・オブ・ヴァローでの初手支援。 以降は回復役として戦線を保てるよう動くつもりだ。 装備も可能な範囲で強化しておいた。 良いカニパーティを開催できるよう尽力しよう。

  20. ハリス・アル・ターミル

    >バクル殿 おお、殺界での足止めに動いて下さいますか。それは心強い!では紫電一閃を使わせて頂きます。 これなら攻撃面に優れぬ私も、攻撃集中から放てばほぼ確実に一撃で腕を落とすことが可能かと! >スキル構成と行動 早期接近用のチャージング、即打3を2つ、フェイントを1つ持っていく予定です。 戦術眼と看破で比較的隙間が狙いやすい部位を見抜ければと思っております。 特性スキルは能力底上げ用の頑健2と上記の紫電一閃を。 行動としては、開幕で紫電一閃を用い腕一本を落としにかかります。 首尾よく落とせればその後は速打で手負いの腕を攻撃、速打が尽き次第フェイントに。 とにかく最大効率でダメージを与えることを目的と致します。 ハッタ殿の支援が頂ければより盤石ですが、この点は臨機応変で良いかと。 攻めは苦手分野ですが、バクル殿、ゴルバルディア殿が守って下さるなら私が鉾となるべきでしょう。 出発も差し迫って参りましたね。 レベッカ殿、そして我々の鉄級記章と良質な素材のため。そしてカニ料理の為に!共に尽力致しましょう!!

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0