グルメな船を護衛して
七海真砂
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シナリオID:982
オープニング
「護衛として同行いただける授恵者の方を探したいのですが」
その女性が持ち込んだのは、とある船の護衛依頼だった。
「リシャス商会と申します。当商会では各地の特産品、特に食材を取り扱っておりまして……」
その積荷を乗せた船の護衛を頼みたい、ということのようだ。
リシャス商会は食材の買い付けの為、エラトゥーン都市同盟内の港などをいくつか回る予定だという。
「特に今回は新しい食材、まだあまり広く知られてはいない食材などの開拓も兼ねておりまして、とても大切な仕入れの旅になる予定なのです。その訪れようと思っている場所のひとつに、トイトイという村があるのですが、その村のあたりでは最近、魔獣の目撃情報が相次いでいるそうなんです。もしかしたら危険かもしれません。そこで念のために護衛の方を雇いたいと思いまして……」
船に乗る者の怪我もそうだが、船自体が壊れても大変な事になる。何より、大事な商品を乗せている船だ、万が一にも危険や被害が及ばないように備えておきたい……という考えのようだ。
「申し遅れました。わたくしビビアン・リシャス、リシャス一家の末娘でございます。美味なものが好きでして、趣味と実益を兼ねて、リシャス商会の仕入れを担当しております。お力添えいただける皆様、どうぞよろしくお願い致します」
その女性が持ち込んだのは、とある船の護衛依頼だった。
「リシャス商会と申します。当商会では各地の特産品、特に食材を取り扱っておりまして……」
その積荷を乗せた船の護衛を頼みたい、ということのようだ。
リシャス商会は食材の買い付けの為、エラトゥーン都市同盟内の港などをいくつか回る予定だという。
「特に今回は新しい食材、まだあまり広く知られてはいない食材などの開拓も兼ねておりまして、とても大切な仕入れの旅になる予定なのです。その訪れようと思っている場所のひとつに、トイトイという村があるのですが、その村のあたりでは最近、魔獣の目撃情報が相次いでいるそうなんです。もしかしたら危険かもしれません。そこで念のために護衛の方を雇いたいと思いまして……」
船に乗る者の怪我もそうだが、船自体が壊れても大変な事になる。何より、大事な商品を乗せている船だ、万が一にも危険や被害が及ばないように備えておきたい……という考えのようだ。
「申し遅れました。わたくしビビアン・リシャス、リシャス一家の末娘でございます。美味なものが好きでして、趣味と実益を兼ねて、リシャス商会の仕入れを担当しております。お力添えいただける皆様、どうぞよろしくお願い致します」
解説
船の護衛依頼です。
護衛といっても、本当に何か起こるかどうかはわかりません。ただ、それに備えるのが皆さんのお仕事となります。
交代で警戒する等、万が一の場合に備えつつ、有事の際は対処をお願いします。
船は全長30mくらいのサイズです。部屋はあるけど、そこまで広いわけではなく、寝る時も雑魚寝な感じですね。男女別にはなっていますが。豪華客船とかとはちょっと違います(七海の脳内イメージはキャラック船みたいな感じです)。ビビアンの他に船乗りなどが20人位乗ってます。食料と水はビビアンが皆さんの分も用意しているので、そこは心配ありません。
なお、船はリブラネスタを出発して、仕入れの後、荷物と共にリブラネスタに戻ってくる予定です。
ビビアンの言う、トイトイという村の状況については『不幸な漁師達』というシナリオに詳しくあります。読んでおくと参考になる情報があるかもしれません(読まなくても大丈夫です)。
マスターより
こんにちは、七海真砂です。
何か起こるかもしれないけど何も起こらないかもしれない、そんなミステリアス(?)な船旅はいかがでしょうか。
ビビアンは仕入れる品について最終判断したりする仕事を任されているため、立ち寄った先で船を降りたりします。が、皆さんは船に残っていて大丈夫です(一緒に降りても良いですが、あんまり描写はされないかもしれません)。
依頼は船の護衛であって、ビビアンや船乗りたちの護衛では無いので、その辺は一応ご注意を。
それでは、ご参加をお待ちしております。
リプレイ
リブラネスタの港に停まっている1つの船。リシャス商会の船の前に、冒険者達は集まっていた。
「冒険者さん。今回はお世話になります」
「ううん、気にしないで。無事に辿り着けるよう、しっかり護衛させて貰うね」
出航の準備をしていたビビアンが、それに気付いてやって来る。ララベル・サン・ディーベルはにっこり笑うと、それこそ大船に乗ったつもりで任せて欲しいと胸を張った。
(確かにトイトイ村の辺りには魔獣が出たし、気になる気持ちは解るもんね)
ララベルは実際に漁師を魔獣から助ける依頼を経験している。この船もしっかり守らなくちゃと思うと、自然と気合が入る。
冒険者達は乗船すると、早速手分けして船の各所に散らばった。交代で休憩を取りつつ、船の前後左右を警戒するためのプランは、既に打ち合わせを終えてある。
(襲ってくるとしたら海の魔獣、空の魔獣、魚人族、海賊。このあたりなのだ)
今回の場合、特に気を付けておきたいのはクラーケンやサーペントだろうと、ストレガ・L・リベルガストラはあたりを付けていた。空から来る危険は発見もしやすいだろうが、海中から迫ってくる危険は早期発見が難しいかもしれない。マストの見張り台に上りつつ、目線は自然と下の方へ向く。
「あの時のような魔獣なら、水面に気を付けておきたいわね」
テュリン・ヴィングも水面に目を配っている。トイトイ村で遭遇したのは、水面から飛び出して噛みついてくる魚のような魔獣だった。同じような魔獣が他にもいるかもしれない、というのがテュリンの予測のひとつだ。
「日が落ちてきましたね。……これからが狙い目です」
水平線を見やりつつ、ふっと笑ったのは『フィッシング・チャンピオン』シャロン・ラ・モリエールである。彼女が携えているのは竿……そう、シャロンは見張りの間、せっかくなので海釣りをしようと考えていたのである。
「護衛の仕事を果たして頂けるのであれば、釣りをしながらでも問題ないですよ。……美味しいものが釣れたら、わたくしにも是非ご一報を」
と、ビビアンからの許可も出ている。
「こんな形で約束を果たす機会が来るとは……」
何があるか分からないものだ、と悠人・ラドルファスはつぶやきながら、船の後方に取り付けられたランタンを灯す。
これは冒険者達の提案で、夜間も敵の接近を警戒しやすくなるようにと用意された照明だ。船の左舷側の灯りをつけながら端まで来たシャロンと、船の後方の灯りをつけながら端へ移動した悠人は、角で落ち合う。
海釣りの経験が無い悠人はシャロンからポイントを教わると、予め捕まえておいたミミズを餌に、釣り糸を垂らした。
「いつぞや食べた、生のタコに醤油をつけたの、おいしかったなぁ……。タコを吊る前に、イカを吊っておきたいところですけど……」
「え、あれ喰うの……?」
どことなくうっとりとしたシャロンの言葉だったが。
足うねうね、たくさんの足がうねうね、うねうね……その姿を脳裏に思い浮かべつつ、悠人はちょっぴり声を引きつらせた。
「皆さんも休憩、かな?」
「ああ、冒険者さん」
夕食を取りに向かったディレイン・オールドケイジは、何人かの船員たちと交流を持っていた。彼らは荷運びや調理役も兼ねているようで、居たのは皆の夕食を作り終えて一息ついている面々だった。
「ディレイン・オールドケイジだ。トイトイ村に行ったことがあってね、トイトイ魚も食べたことがあるんで、今回の依頼を引き受けたのさ」
「おお!」
彼らは実際にトイトイ魚を食べた事までは無いらしい。名乗り合ってその話題に持ち込めば、いい反応が返ってくる。
「それをこうやって運んで、皆に広めてくれるってわけだ。嬉しいねえ」
トイトイ村のことが広がれば、先日会ったジオ達トイトイ村の住民も喜ぶだろうし、とディレインは目を細める。
「そう言われるとこっちも嬉しくなるさ。商売ってのは確かにそうなんだが……」
「『同じ食事なら少しでも美味しく、楽しく、みんなが豊かになれる方がいい』だもんな」
どうやらリシャス商会は、そういう社風の会社らしい。
「なるほどな。そういや……」
トイトイ村といえば、とディレインは魔獣の件も話題にあげる。漁師達から聞いた、魔獣の死骸が流れ着いたという件も織り交ぜて話してみれば、
「ああ、聞いた聞いた。海軍にも心当たりは無いらしいが……」
「ここ最近、海賊が出ないのは魔獣の影響なのかもしれないが、それで喜んでもいられないからなぁ……」
おそらくこの屈強そうな男達は、有事の護衛役も兼ねているのだろう。そんな彼らも詳しい事までは知らない様子だった。
(魔獣の死骸が流れ着いてきた……という事は、別の場所からやってきた魔獣が縄張りを奪った……?)
見回りの合間に顔を出したテュリンは、その話題にふと考える。
そう考えれば、流れは自然かもしれない。では何故、その魔獣は別の場所からやって来たのだろうか……?
「魔獣がどこから流れてきたのかは、判っているのかしら?」
「んー? 沖の方、くらいしか分かってないんじゃないかな」
「普段あまり陸の近くでは見かけないらしいから、そうじゃないかって程度だけどな」
テュリンの素朴な疑問にも男達は答えてくれるが、情報らしい情報は大して無い、というのが状況のようだ。
「沖かぁ……そっちを重点的に警戒しておくのは、良いかもしれないわね」
「そうだな、その話は知らせておこう」
ひとまず任務に活用できそうな情報は皆に知らせる事にしつつ、テュリンは微かに眉を寄せる。
(何が起こっているのかしら……?)
広い広い大海原を浮かべつつ、その問いに答えを出せそうにはなかった。
ビビアンの仕入れる食材をチラリと見たストレガは、初めて目にする食材にワクワク、うずうず。見識を深めるためにも見学させて欲しいというストレガの頼みを、ビビアンは快く引き受けてくれた。
「実際に手に入れたい物があれば、冒険者様特別価格で卸しますよ」
商売も忘れない。
そんなビビアンに案内された部屋の空気は他と比べて、とても涼しく、ひんやりとしていた。
「おおっ? ビビアン殿、この部屋って保冷紋具があるのだ?」
「ああ、はい。この部屋は壁を厳重に、厚くしてありまして。冷気を出す紋具を設置して、劣化の早い食材の鮮度を少しでも保つための工夫をしています」
「なるほど、やっぱり効果があるのだ……」
食材の長期保存について考察していたストレガにとって、まさに仮説を裏付けるようなものであり、非常に強い関心を示しながら見学させて貰う。
「常温で保管した方が良い食材は隣の部屋です」
「なるほど~。あ、これ初めて見たかも」
宿屋の跡継ぎだったりするララベルも珍しい食材に興味があり、初めて見た楕円形の貝を、しげしげと眺めている。
ただリシャス商会としては希少さはあまり重視していないらしい。高速で移動する船に載せることで、結果として遠くから鮮度を保ったまま運べるため、あまり見かけない食材を取り扱う形になることはあるが……リシャス商会では、それよりも食材の味自体を重視しているのだという。
「野菜も陸から運ぶのではなく、王国から海路で仕入れたり……あちらからの葡萄酒や果実なども、リブラネスタで主流の物とはまた違った味わいがありますね」
「そういうのも確かに良いかも」
料理と一緒に出すのに詳しく見てみたいというララベルに、「勿論です、どうぞ」とビビアンはそれらが入った箱を開けて見せてくれた。
「~~♪」
一方、鼻歌混じりに吊れたイカを鍋に漬けているのはシャロンだった。昨晩の仕掛けが上手く効いて、見事にイカを吊り上げることに成功していたのだ。
これを沖漬けにして、それから……と、今後のプランを思案していた時。
「――何か来る!」
それを見つけたのは悠人だった。すかさず鍋を邪魔にならない方へ押しやってシャロンは駆け出す。
ドン! という衝撃が船体に走り、ぐらりと船が揺れたのは、その直後のことだった。軽くバランスを崩した船に乗り込もうとしているのは、魚のような姿をした魔獣だ。
すぐさまシャロンは衝撃刃を飛ばし、魔獣を食い止めた悠人もエーテルを込めた強力な一撃を振るうと、魔獣を海へ押し返すようにして叩き落す。反対側から駆け寄ってきたテュリンには、それが先日トイトイ村の漁船で戦った魔獣と同じ種類だと解った。
「なら他にもいるかも」
海面に目をやったテュリンは、そこに顔を出している魔獣の姿を認めると、すぐさまアーケインテンペストを放つ。ディレインは何事かと駆けつけてきた船員に向かって、船を急旋回させて逃げられるかを相談する。
「敵を倒すのが目的じゃないしね。全速力で逃げるのもひとつの手でしょ」
「やってみよう」
風向きから不可能ではないはずだと請け負い、船員達は慌ただしく船を繰る。
「船には近寄らせないのだ!」
ストレガの放った光り輝く球が、魔獣達に纏わり付いて彼らが泳ぐのを阻害し、シャロンも神霊達の腕を召喚して魔獣の中の1体を締め上げる。が、魔獣はざっと見て20か30か――数が多い。
「ウォーターウォーク掛けるわ」
「助かる」
テュリンのエーテルを受けた悠人は海上に降り立つと、先頭の魔獣めがけて槍を構える。
(……傷?)
近くで見ると、魔獣には傷跡のような物があった。船体にぶつかった個体なのかもしれないと最初は思ったが、そこまで生々しい傷では無いようにも見受けられる。
とにかく、と槍の穂先を突き立て、魔獣を振り払いながら目をやれば、他の魔獣にもいくらか傷付いた個体がいるようだった。状況はよくわからないが……しかし最初から傷付いている魔獣であれば、撃退しやすいという点では冒険者が有利だろう。
「喰らえ、疾風三連突!!」
海上へ降り立ち、トリプルファングを繰り出したララベルはあえて、船体から距離を取るように動く。船から離れるように動きながら敵を引き付ける事が出来れば、それだけ船の安全は増すからだ。
足止めと攻撃を繰り返している間に、船は旋回を始めた。北への風に上手く乗ればぐんっと加速し、魔獣と船との間に距離が開く。
「さあ、どうする……?」
これでも追いかけて攻撃して来るようなら容赦はしないと、隙のない構えを取る悠人。ララベル達も睨みを利かせる中、この船に近付くのは危険だと感じたのか、魔獣達は身を翻した。この船とは反対、南の方角へと逃げ出すように泳いでいく魔獣達を、これ以上追跡する必要は無い。このまま十分な距離を置けば、船の安全は確保できるだろう。
「船体を確認しよう」
ディレインは魔獣を見送ると、その旨をビビアンや船員達に伝えながら、魔獣がぶつかった場所の確認へ向かう。そこには凹みのような物が見られたが、幸いにも穴が開いたり浸水するまでの状況ではなく、少し補強をすれば問題は無さそうだ。
「あそこに倒した魔獣が引っかかってるのだ。これ食えないのだー?」
「魚の形をしてますし、いけるんじゃないですかね?」
船の外側をチェックしていたストレガが力尽きた魔獣を見つけて首を傾げていると、多分ですけど、とシャロンが頷く。毒を持っている感じでも無さそうだから、食べるのはおそらく問題ない。
「え、それ喰うの……?」
じゃあ食べよう、と魔獣を引き上げる二人の様子に、悠人は一歩後退る。そんな彼を見て、シャロンは天を仰ぎつつ両手を組んだ。
「はい。これも神様のもたらした恵みかもしれませんし……」
もっともらしい事を言っているシャロンだが、単に食費を浮かせる機会を見過ごせないだけなのかもしれない……。いずれにせよ、どうやら悠人が今まで思っていたよりも、シャロンはなかなか逞しいタイプのようだった。
ちなみに魔獣の味は薄味、旨味が乏しいようで不味くはないが美味という程でもない……というものだったが、ストレガやシャロンは調味料を加えつつ、しっかり、いただいたのだった。
魔獣の姿がすっかり見えなくなった後、念の為しばらく時間を置いてから、船は再び先へ進み始めた。
警戒は変わらず続けられたが、その後は特に異変が起こる事はなく、やがて船はトイトイ村に到着する。
「あっ、おじさん! やっほー!」
「おやベル坊じゃないか」
折角だからと先日知り合った漁師達へ挨拶に向かったララベルは、元気そうな様子の彼らと再会する。リシャス商会からは事前に話を通してあるのか、早速味見をとビビアンが一口トイトイ魚を口にすれば、
「まあ! 両手で掴んで齧り付きたくなりますわね」
ビビアンも気に入ったらしく商談がまとまると、すぐにトイトイ魚が運び込まれていく。
「あっ。トイトイ魚って他にもあるかしら? また食べたいから私も買いたいんだけど……」
「そりゃ嬉しいな。少し形の悪いやつでもいいか?」
ジオたち漁師が分け合うつもりで別にしておいたものなら、という言葉にテュリンは即座に「ぜひお願いするわ」と頷き返した。
「オイル漬けもね、いい感じになったのよ」
話を聞いたらしいお婆さんは、トイトイ魚の干物やオイル漬けも持ってきてくれる。
「そのように保存していらっしゃるんですね。そちらも見せていただいても?」
そんなやり取りにビビアンも興味を持ったらしい。味を確認して仕入れを決めたようだ。
「でも、なるべく安く流通するようにしてもらえると助かるなぁ」
「そうですね、仕入れ値も仕入れ値ですし、手頃な価格で美味しいお魚さん、くらいになると思いますよ」
おじさんそんなに裕福じゃないし……とぼやいていたディレインは「それはいいねぇ」と運ばれていくトイトイ魚を見る。
「流石だな、本当に釣り上げるとは」
その間も船に残っていたシャロンは、タコを見事に釣り上げていた。悠人の方もトイトイ魚らしきものを釣りあげてはいたのだが、まだ小ぶりだったのを見て、そっと海へ帰している。
「……で、そのタコは……」
「やっぱり生でいきたいなぁ。前のようなお刺身、それからカルパッチョにして……」
「うん、まぁ……はい、そう……」
わくわく食べ方を考えるシャロンの様子に、悠人は「そんな気はしていたけど、やっぱり食べるのか」と困惑を隠しきれない顔だ。
(まぁ、ここまで楽しみにしてるし……案外いけるのかもしれない、な……)
うねうね蠢く姿を見つめながら、そう覚悟を決める悠人である。
しばらくして、噛んでも全然噛みちぎれないタコの身と格闘する悠人が目撃されたとか、されなかったとか……。
「停まっている所を何かが襲ってくるような事も無さそうなのだ」
警戒を続けていたストレガは、お茶を飲んで一服しつつほっと息を吐く。
さっきの魔獣は南へ向かった。この船は北のリブラネスタに引き返すから、先程の魔獣と再び遭遇する心配もない。
帰りの海は穏やかな時間が続き……そうして、船は無事リブラネスタへ帰還したのだった。
「冒険者さん。今回はお世話になります」
「ううん、気にしないで。無事に辿り着けるよう、しっかり護衛させて貰うね」
出航の準備をしていたビビアンが、それに気付いてやって来る。ララベル・サン・ディーベルはにっこり笑うと、それこそ大船に乗ったつもりで任せて欲しいと胸を張った。
(確かにトイトイ村の辺りには魔獣が出たし、気になる気持ちは解るもんね)
ララベルは実際に漁師を魔獣から助ける依頼を経験している。この船もしっかり守らなくちゃと思うと、自然と気合が入る。
冒険者達は乗船すると、早速手分けして船の各所に散らばった。交代で休憩を取りつつ、船の前後左右を警戒するためのプランは、既に打ち合わせを終えてある。
(襲ってくるとしたら海の魔獣、空の魔獣、魚人族、海賊。このあたりなのだ)
今回の場合、特に気を付けておきたいのはクラーケンやサーペントだろうと、ストレガ・L・リベルガストラはあたりを付けていた。空から来る危険は発見もしやすいだろうが、海中から迫ってくる危険は早期発見が難しいかもしれない。マストの見張り台に上りつつ、目線は自然と下の方へ向く。
「あの時のような魔獣なら、水面に気を付けておきたいわね」
テュリン・ヴィングも水面に目を配っている。トイトイ村で遭遇したのは、水面から飛び出して噛みついてくる魚のような魔獣だった。同じような魔獣が他にもいるかもしれない、というのがテュリンの予測のひとつだ。
「日が落ちてきましたね。……これからが狙い目です」
水平線を見やりつつ、ふっと笑ったのは『フィッシング・チャンピオン』シャロン・ラ・モリエールである。彼女が携えているのは竿……そう、シャロンは見張りの間、せっかくなので海釣りをしようと考えていたのである。
「護衛の仕事を果たして頂けるのであれば、釣りをしながらでも問題ないですよ。……美味しいものが釣れたら、わたくしにも是非ご一報を」
と、ビビアンからの許可も出ている。
「こんな形で約束を果たす機会が来るとは……」
何があるか分からないものだ、と悠人・ラドルファスはつぶやきながら、船の後方に取り付けられたランタンを灯す。
これは冒険者達の提案で、夜間も敵の接近を警戒しやすくなるようにと用意された照明だ。船の左舷側の灯りをつけながら端まで来たシャロンと、船の後方の灯りをつけながら端へ移動した悠人は、角で落ち合う。
海釣りの経験が無い悠人はシャロンからポイントを教わると、予め捕まえておいたミミズを餌に、釣り糸を垂らした。
「いつぞや食べた、生のタコに醤油をつけたの、おいしかったなぁ……。タコを吊る前に、イカを吊っておきたいところですけど……」
「え、あれ喰うの……?」
どことなくうっとりとしたシャロンの言葉だったが。
足うねうね、たくさんの足がうねうね、うねうね……その姿を脳裏に思い浮かべつつ、悠人はちょっぴり声を引きつらせた。
「皆さんも休憩、かな?」
「ああ、冒険者さん」
夕食を取りに向かったディレイン・オールドケイジは、何人かの船員たちと交流を持っていた。彼らは荷運びや調理役も兼ねているようで、居たのは皆の夕食を作り終えて一息ついている面々だった。
「ディレイン・オールドケイジだ。トイトイ村に行ったことがあってね、トイトイ魚も食べたことがあるんで、今回の依頼を引き受けたのさ」
「おお!」
彼らは実際にトイトイ魚を食べた事までは無いらしい。名乗り合ってその話題に持ち込めば、いい反応が返ってくる。
「それをこうやって運んで、皆に広めてくれるってわけだ。嬉しいねえ」
トイトイ村のことが広がれば、先日会ったジオ達トイトイ村の住民も喜ぶだろうし、とディレインは目を細める。
「そう言われるとこっちも嬉しくなるさ。商売ってのは確かにそうなんだが……」
「『同じ食事なら少しでも美味しく、楽しく、みんなが豊かになれる方がいい』だもんな」
どうやらリシャス商会は、そういう社風の会社らしい。
「なるほどな。そういや……」
トイトイ村といえば、とディレインは魔獣の件も話題にあげる。漁師達から聞いた、魔獣の死骸が流れ着いたという件も織り交ぜて話してみれば、
「ああ、聞いた聞いた。海軍にも心当たりは無いらしいが……」
「ここ最近、海賊が出ないのは魔獣の影響なのかもしれないが、それで喜んでもいられないからなぁ……」
おそらくこの屈強そうな男達は、有事の護衛役も兼ねているのだろう。そんな彼らも詳しい事までは知らない様子だった。
(魔獣の死骸が流れ着いてきた……という事は、別の場所からやってきた魔獣が縄張りを奪った……?)
見回りの合間に顔を出したテュリンは、その話題にふと考える。
そう考えれば、流れは自然かもしれない。では何故、その魔獣は別の場所からやって来たのだろうか……?
「魔獣がどこから流れてきたのかは、判っているのかしら?」
「んー? 沖の方、くらいしか分かってないんじゃないかな」
「普段あまり陸の近くでは見かけないらしいから、そうじゃないかって程度だけどな」
テュリンの素朴な疑問にも男達は答えてくれるが、情報らしい情報は大して無い、というのが状況のようだ。
「沖かぁ……そっちを重点的に警戒しておくのは、良いかもしれないわね」
「そうだな、その話は知らせておこう」
ひとまず任務に活用できそうな情報は皆に知らせる事にしつつ、テュリンは微かに眉を寄せる。
(何が起こっているのかしら……?)
広い広い大海原を浮かべつつ、その問いに答えを出せそうにはなかった。
ビビアンの仕入れる食材をチラリと見たストレガは、初めて目にする食材にワクワク、うずうず。見識を深めるためにも見学させて欲しいというストレガの頼みを、ビビアンは快く引き受けてくれた。
「実際に手に入れたい物があれば、冒険者様特別価格で卸しますよ」
商売も忘れない。
そんなビビアンに案内された部屋の空気は他と比べて、とても涼しく、ひんやりとしていた。
「おおっ? ビビアン殿、この部屋って保冷紋具があるのだ?」
「ああ、はい。この部屋は壁を厳重に、厚くしてありまして。冷気を出す紋具を設置して、劣化の早い食材の鮮度を少しでも保つための工夫をしています」
「なるほど、やっぱり効果があるのだ……」
食材の長期保存について考察していたストレガにとって、まさに仮説を裏付けるようなものであり、非常に強い関心を示しながら見学させて貰う。
「常温で保管した方が良い食材は隣の部屋です」
「なるほど~。あ、これ初めて見たかも」
宿屋の跡継ぎだったりするララベルも珍しい食材に興味があり、初めて見た楕円形の貝を、しげしげと眺めている。
ただリシャス商会としては希少さはあまり重視していないらしい。高速で移動する船に載せることで、結果として遠くから鮮度を保ったまま運べるため、あまり見かけない食材を取り扱う形になることはあるが……リシャス商会では、それよりも食材の味自体を重視しているのだという。
「野菜も陸から運ぶのではなく、王国から海路で仕入れたり……あちらからの葡萄酒や果実なども、リブラネスタで主流の物とはまた違った味わいがありますね」
「そういうのも確かに良いかも」
料理と一緒に出すのに詳しく見てみたいというララベルに、「勿論です、どうぞ」とビビアンはそれらが入った箱を開けて見せてくれた。
「~~♪」
一方、鼻歌混じりに吊れたイカを鍋に漬けているのはシャロンだった。昨晩の仕掛けが上手く効いて、見事にイカを吊り上げることに成功していたのだ。
これを沖漬けにして、それから……と、今後のプランを思案していた時。
「――何か来る!」
それを見つけたのは悠人だった。すかさず鍋を邪魔にならない方へ押しやってシャロンは駆け出す。
ドン! という衝撃が船体に走り、ぐらりと船が揺れたのは、その直後のことだった。軽くバランスを崩した船に乗り込もうとしているのは、魚のような姿をした魔獣だ。
すぐさまシャロンは衝撃刃を飛ばし、魔獣を食い止めた悠人もエーテルを込めた強力な一撃を振るうと、魔獣を海へ押し返すようにして叩き落す。反対側から駆け寄ってきたテュリンには、それが先日トイトイ村の漁船で戦った魔獣と同じ種類だと解った。
「なら他にもいるかも」
海面に目をやったテュリンは、そこに顔を出している魔獣の姿を認めると、すぐさまアーケインテンペストを放つ。ディレインは何事かと駆けつけてきた船員に向かって、船を急旋回させて逃げられるかを相談する。
「敵を倒すのが目的じゃないしね。全速力で逃げるのもひとつの手でしょ」
「やってみよう」
風向きから不可能ではないはずだと請け負い、船員達は慌ただしく船を繰る。
「船には近寄らせないのだ!」
ストレガの放った光り輝く球が、魔獣達に纏わり付いて彼らが泳ぐのを阻害し、シャロンも神霊達の腕を召喚して魔獣の中の1体を締め上げる。が、魔獣はざっと見て20か30か――数が多い。
「ウォーターウォーク掛けるわ」
「助かる」
テュリンのエーテルを受けた悠人は海上に降り立つと、先頭の魔獣めがけて槍を構える。
(……傷?)
近くで見ると、魔獣には傷跡のような物があった。船体にぶつかった個体なのかもしれないと最初は思ったが、そこまで生々しい傷では無いようにも見受けられる。
とにかく、と槍の穂先を突き立て、魔獣を振り払いながら目をやれば、他の魔獣にもいくらか傷付いた個体がいるようだった。状況はよくわからないが……しかし最初から傷付いている魔獣であれば、撃退しやすいという点では冒険者が有利だろう。
「喰らえ、疾風三連突!!」
海上へ降り立ち、トリプルファングを繰り出したララベルはあえて、船体から距離を取るように動く。船から離れるように動きながら敵を引き付ける事が出来れば、それだけ船の安全は増すからだ。
足止めと攻撃を繰り返している間に、船は旋回を始めた。北への風に上手く乗ればぐんっと加速し、魔獣と船との間に距離が開く。
「さあ、どうする……?」
これでも追いかけて攻撃して来るようなら容赦はしないと、隙のない構えを取る悠人。ララベル達も睨みを利かせる中、この船に近付くのは危険だと感じたのか、魔獣達は身を翻した。この船とは反対、南の方角へと逃げ出すように泳いでいく魔獣達を、これ以上追跡する必要は無い。このまま十分な距離を置けば、船の安全は確保できるだろう。
「船体を確認しよう」
ディレインは魔獣を見送ると、その旨をビビアンや船員達に伝えながら、魔獣がぶつかった場所の確認へ向かう。そこには凹みのような物が見られたが、幸いにも穴が開いたり浸水するまでの状況ではなく、少し補強をすれば問題は無さそうだ。
「あそこに倒した魔獣が引っかかってるのだ。これ食えないのだー?」
「魚の形をしてますし、いけるんじゃないですかね?」
船の外側をチェックしていたストレガが力尽きた魔獣を見つけて首を傾げていると、多分ですけど、とシャロンが頷く。毒を持っている感じでも無さそうだから、食べるのはおそらく問題ない。
「え、それ喰うの……?」
じゃあ食べよう、と魔獣を引き上げる二人の様子に、悠人は一歩後退る。そんな彼を見て、シャロンは天を仰ぎつつ両手を組んだ。
「はい。これも神様のもたらした恵みかもしれませんし……」
もっともらしい事を言っているシャロンだが、単に食費を浮かせる機会を見過ごせないだけなのかもしれない……。いずれにせよ、どうやら悠人が今まで思っていたよりも、シャロンはなかなか逞しいタイプのようだった。
ちなみに魔獣の味は薄味、旨味が乏しいようで不味くはないが美味という程でもない……というものだったが、ストレガやシャロンは調味料を加えつつ、しっかり、いただいたのだった。
魔獣の姿がすっかり見えなくなった後、念の為しばらく時間を置いてから、船は再び先へ進み始めた。
警戒は変わらず続けられたが、その後は特に異変が起こる事はなく、やがて船はトイトイ村に到着する。
「あっ、おじさん! やっほー!」
「おやベル坊じゃないか」
折角だからと先日知り合った漁師達へ挨拶に向かったララベルは、元気そうな様子の彼らと再会する。リシャス商会からは事前に話を通してあるのか、早速味見をとビビアンが一口トイトイ魚を口にすれば、
「まあ! 両手で掴んで齧り付きたくなりますわね」
ビビアンも気に入ったらしく商談がまとまると、すぐにトイトイ魚が運び込まれていく。
「あっ。トイトイ魚って他にもあるかしら? また食べたいから私も買いたいんだけど……」
「そりゃ嬉しいな。少し形の悪いやつでもいいか?」
ジオたち漁師が分け合うつもりで別にしておいたものなら、という言葉にテュリンは即座に「ぜひお願いするわ」と頷き返した。
「オイル漬けもね、いい感じになったのよ」
話を聞いたらしいお婆さんは、トイトイ魚の干物やオイル漬けも持ってきてくれる。
「そのように保存していらっしゃるんですね。そちらも見せていただいても?」
そんなやり取りにビビアンも興味を持ったらしい。味を確認して仕入れを決めたようだ。
「でも、なるべく安く流通するようにしてもらえると助かるなぁ」
「そうですね、仕入れ値も仕入れ値ですし、手頃な価格で美味しいお魚さん、くらいになると思いますよ」
おじさんそんなに裕福じゃないし……とぼやいていたディレインは「それはいいねぇ」と運ばれていくトイトイ魚を見る。
「流石だな、本当に釣り上げるとは」
その間も船に残っていたシャロンは、タコを見事に釣り上げていた。悠人の方もトイトイ魚らしきものを釣りあげてはいたのだが、まだ小ぶりだったのを見て、そっと海へ帰している。
「……で、そのタコは……」
「やっぱり生でいきたいなぁ。前のようなお刺身、それからカルパッチョにして……」
「うん、まぁ……はい、そう……」
わくわく食べ方を考えるシャロンの様子に、悠人は「そんな気はしていたけど、やっぱり食べるのか」と困惑を隠しきれない顔だ。
(まぁ、ここまで楽しみにしてるし……案外いけるのかもしれない、な……)
うねうね蠢く姿を見つめながら、そう覚悟を決める悠人である。
しばらくして、噛んでも全然噛みちぎれないタコの身と格闘する悠人が目撃されたとか、されなかったとか……。
「停まっている所を何かが襲ってくるような事も無さそうなのだ」
警戒を続けていたストレガは、お茶を飲んで一服しつつほっと息を吐く。
さっきの魔獣は南へ向かった。この船は北のリブラネスタに引き返すから、先程の魔獣と再び遭遇する心配もない。
帰りの海は穏やかな時間が続き……そうして、船は無事リブラネスタへ帰還したのだった。
マスターコメント
船は魔獣の群れと遭遇したものの、無事にリブラネスタへ帰ることができました。
皆さんのお陰です。ありがとうございました!
ショートシナリオ普通 報酬:標準6 / 4〜6人
2021年06月10日 15時38分01秒 公開
成功
相談掲示板
シャロンです。シスターをしております。 何も起こらないうちや自由時間などは、釣りをしたいと思っております。 見張り……あえて提案するなら、前後左右を4人で警戒して、2人が休憩、のような形でしょうか? 万が一何かあったら程度の警戒度なので、そこまできっちりしなくてもいい気もしますが。
ディレイン・オールドケイジ、ヒーラーだ。よろしく。 トイトイ村の魚はうまかったんで、また食えるなら食いたいところ。 そうだなあ、見張りはいると思う。 直接攻撃しかけてくるのもいやだけど、もし船底に穴でもあけられたらたまんないね。 海面にはよく注意して…でも落ちたくないし、遠距離攻撃重視かねえ…
悠人・ラドルファス。まぁ、よろしく。 とりあえずまぁ護衛しながら何かあればその都度対処、ってことでいいの?
まあ、確かに漠然としてるかな。 夜間もなるべく切れ目なく見回りするのと… あーそうだ、できれば船の外側になるべく灯りつけてもらうようお願いしようかと思ってる。 夜の海ってほんと何も見えなくなるよねえ。
あかり……。(イカが釣れたらいいなぁって顔)
テュリン・ヴィングよ。 前回一緒だった人達も居るから、引き続き今回もよろしくね。 一先ず交代で見張りしつつ、見張りの時以外はゆっくりするなりで良いと思う。 後は既に挙がってるけど、夜は灯りをつけてもらうと助かるわね。
僕は、シーフのララベル・サン・ディーベル。 みんな、よろしくね! 交替で見張り、了解だよ。 暗視も持って行くね。
ストレガなのだ。よろしくなのだ 交代で見張り、了解なのだ