蒼天に轟く一矢
影絵 企鵝
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シナリオID:930
オープニング
ティロール子爵マティアス=フィーギル。かつては齢十五にして頭角を現した優秀な射手だった。その弩の矢は敵を外すことなく、数多のクリーパーや魔獣、蛮族を撃ち抜いてきた。そのまま彼は一廉の騎士となって活躍するかに見えたが、時勢はそれを許さない。旅先で両親は命を落とし、彼は若くして領地を継がねばならなくなった。
マティアスは兵士としては優れていた。しかし領主としては幼過ぎたのである。
マティアスは目の前に積まれた書簡を黙って眺めていた。そこに記されていたのは、彼の直接の君主にあたるグランツ伯による数多の命令だった。貢納の要求である。その額は、貧しいティロール領から絞り出せる限界を遥かに超えている。しかしグランツ伯はその書簡において散々に口を出してくる。やれパン焼き窯や製粉所から使用料を取れだの、肉を領民に喰わせるくらいなら売って金にしろだのと。今目の前にしている書状では、結婚税や死亡税を取らぬのは何故かと書いてある。マティアスはその羊皮紙を力任せに引き裂いた。
「……いよいよ進退窮まったか」
ほとんど空っぽの部屋を見渡し、マティアスは溜め息をつく。先祖代々伝わる家宝も家具も全て売り払い、何とかグランツ伯の要求を呑んできた。だが、もはや売れる家財は無く、僅かな望みをかけて取り組んだ金山開発も失敗した。雇った貧民達のために服まで売り払う羽目になったし、ついでに洞窟では怒れる紅玉竜が爪を研いでいる。
途方に暮れて天を仰いでいると、ふと扉が開く。そっと中に入ってきたのは、彼が唯一手元に残した宝だった。
「兄さん。もう無理しないで」
「ミーナ?」
ミネルヴァ=フィーギル。彼よりも十歳若い妹だ。花や歌よりも馬術に狩りを好む変わった少女だったが、その趣味で磨かれた美貌は周囲に聞こえ高く、それだけで婚姻を打診してくる者が少なくなかった。まさにグランツ伯もその一人である。マティアスは一切その話を受け容れなかったが、そのせいでさらに要求は激しくなった。
「……私があいつのところに行くから。それで全て話がまとまるんでしょ。だったら……」
「いやだ」
マティアスは子どものように首を振る。
「お前とあの男が床を共にするなど、それだけは我慢がならん。そんな事があった日には私は首を吊って死ぬ」
「でも」
「そもそも、お前があいつのものになったからって、我々に対する手を緩めるとは到底思えない」
彼は立ち上がると、妹の傍へと歩み寄り、その髪をそっと撫でた。堅苦しい顔に、ほんの僅かに笑みが浮かぶ。
「私が何とかしてみせる。だから、お前は何も気にしなくていい」
「でも!」
その時、部屋へ不意に夜風が吹いた。振り向くと、そこには山の民の若大将が立っていた。
「貴様は馬鹿な男だ。マティアス」
マティアスは顔をしかめると、振り向かずに唸る。
「野人め。勝手に入ってくるな」
「今やこの屋敷には見張りもおらん。鼠も俺も入り放題だ。そんな有様で竜と一戦交えるつもりか」
キアランが肩を竦めると、マティアスはいきなりキアランへと食って掛かった。
「私もかつては神威の射手と呼ばれた。遅れは取らん」
「確かにお前の弓の腕は卓越している。だが竜は授恵者一人で手に負えるものではない」
「ならばあの朽ちた砦を枕に死ぬだけだ」
「死んだら民はどうなる」
「昔の貴様らのように流浪する羽目になるだろうな。愚かな領主がいたばかりに。そのうち誰かがそんな彼らを憐れんで街へ迎え入れるだろう」
マティアスは勢い任せに吐き捨てる。キアランは眉一つ動かさなかった。マティアスは一層歯を剥き出すと、キアランの肩を力任せに小突いた。
「いい加減に出ていけ。貴様とこれ以上顔を突き合わせるつもりはない」
「俺と会っていることが知れたら、弱みを増やすことになるからか」
「そうだ。だからさっさといなくなれ」
「……わかった。そうする」
マティアスの剣幕に押され、キアランは宙返りしながら庭へと降りた。そのまま鹿に跨り、彼は窓を見上げる。
「俺はもう一度お前と狩りがしたいと思うがな。あの日のように」
マティアスは何も言わない。キアランは手綱を引くと、そのまま駆け去った。
●紅玉竜を討て
ギルドの集会所に集まった君達の前に姿を現したのは、ティロールの山奥に住んでいたエルベティカの若大将、キアランだった。彼はかくかくしかじかを話して君達を見渡す。
「……斯様な事情だ。難事ではあるが、子爵やその手勢も戦力に数えられる。竜の討伐は不可能ではないだろう。飛んで逃げられることの無いように、いくらか策は練らねばならないがな。翼を狙うのがわかりやすいが、その骨は太く頑丈だ。並大抵の仕事ではない」
キアランは絵を張り付ける。ティロールの領地を上から覗き込んだような絵だ。中央に砦があり、その周囲を取り巻くように段々畑と民家が広がっている。
「ついでに、なるべく竜を傷つける箇所を少なくするようにしてくれ。この竜の鱗は高価だ。取れる枚数が多ければ多いほど、多くの金銭を得ることが出来る。……あの子爵には、とにかく金が必要らしい」
君達の中には、そうまでして子爵を助ける義理が彼にあるのか疑問に思った者がいたかもしれない。その意を汲み取るように、彼は続けた。
「奴の家には何もなかった。広いだけで空っぽだ。奴は清廉な騎士のまま、腐った政の世界でもがいているのだ。俺は呆れた。ここまで貧窮できる貴族がいるのかと」
キアランは頬を僅かに緩める。
「だが、ああいう奴が生きていれば、我らのような者にとっても王国の行く末は面白くなる……そんな気がした」
「要するに我々なりの政治的判断だ。大変な戦いになると思うが、よろしく頼む」
●二人の若大将
マティアスは砦の屋上に陣取り、バリスタの手入れを黙々と続けていた。石工を雇う余裕もなく、砦はすっかり荒れ放題になってしまったが、それでもバリスタだけは守ってきたのである。
「ウォルト、逃げてもいいのだぞ」
マティアスはバリスタの矢を磨く兵長に向かって呟く。ウォルトは肩を竦めた。
「逃げたって他に行くところなんてないぞ。それに、あんたの親御さんにはいつもよくしてもらってた。その息子を見捨てて逃げるなんて不義理は出来ないな」
「……そうか」
そこへ一人の兵士が駆けてくる。
「マティアス様、冒険者ギルドの一団が来ています。山の民も一緒です」
「何だと」
マティアスは眉を顰めると、砦の淵に立って地面を見下ろす。キアランは軽やかに壁に生えた蔦をよじ登り、マティアスの傍までやってきた。
「何をしに来た」
「紅玉竜がここに現れると聞いて、少し狩りをしに来ただけだ。竜を狩れる機会など、滅多にないからな」
「自然の中に生きる者の言葉とは思えんな」
「一族のしきたりは何よりも重い。だが、己の腕をとことん試してみたいという野心は俺にもある。……それだけのことだ」
空から野太い咆哮が響く。蒼空を飛ぶ竜が、真っ直ぐ砦目掛けて突っ込んでいた。マティアスは歯を食いしばると、バリスタについて矢を番えた。
「私が鉄鎖弾で奴の動きを封じる。だが深く刺さらねば意味がない。とにかく鱗を剥がせ」
「わかっている」
砦の前に陣取り、君達もまた武器を抜く。竜がかっと口を開いた瞬間、深紅の雨が降ってきた。
解説
マスターより
リプレイ
天空から火の球が次々に降り注ぎ、竜もまた彗星のように突っ込んできた。バンビは黄色の魔導書を広げ、天に魔の霞を広げる。
「竜もなにゆえにこのようななにもなさそうなところを襲うのでしょうか」
竜は構わず霞に正面から突っ込み、バンビの傍を掠めながら乱暴に着地する。それが剥き出す牙を見て、彼女はこくりと頷いた。
「この怒りっぷりを見れば納得ですね」
竜は再び地を蹴って飛び上がり、上空から辺りを見渡す。視線が周囲を射貫く中で、ゴルバルティアは震える脚で何とか民家の屋根に立った。
「ま、またやるのかよぉ……もうやだぜぇ……け、けど今回はマジで被害が出ちまう……」
初っ端に飛ばされた炎が、既に民家を二つ焼いている。生温い戦いは火の手を広げるだけだ。彼女は拳を固めると、長い尻尾で屋根を打ち、鋭く吼えた。
「私も、今回はマジで覚悟決めねーとな!」
竜はぎょろりと目を動かし、ゴルバルティアに視線を向ける。彼女は屋根から飛び降りると、あぜ道を突っ切るように走る。
「おら、こっちだ、こっち!」
元々背中を見せて戦うのが彼女のやり方。後ろから竜が突っ込んできても、どう迎え撃つかはすぐわかる。爪を横っ飛びに躱して、再び背中を突き出す。
「わ、私ばかりにかまってていいのか? 隙だらけだぜ!」
ゴルバルティアの言う通り、脇に位置取ったバンビはその手を向け、光の礫を一発竜へと撃ち込む。竜は咄嗟に躱そうと首を捻ったが、その頭にいつの間にか召喚されていた鉄の壁が直撃した。唸る竜に向かって、バンビは手をひらひらさせる。
「このバンビ、驚かせるのは得意なのですよ」
竜が怯んでいる間に、子爵はバリスタの矢を竜へと撃ち込む。矢は肩口の鱗を捉え、一枚砕いた。
「へえ、やるもんだ」
海神・江流は子爵の隣に立ち、そんな竜の様子を窺っていた。子爵は彼を一瞥し、新たな矢をバリスタに番える。
「随分鈍ったものだ。以前なら眼の一つでも……」
「そうかい。なら期待してるんでよろしく」
江流は砦から飛び出す。軽やかに着地すると、竜の様子を窺う。走り回るゴルバルティアに気を取られ、江流の動きまでは見ていない。彼は刃を構えると、足音を忍ばせ一気に駆ける。竜は地面を蹴って飛び上がったが、江流は垂れた尻尾を踏みつけ、そのまま背後に飛びついた。
竜は身を捻って振り返る。江流は竜の頭を踏み越えて、そのまま翼膜目掛けて剣を振り抜いた。強靭な翼には中々刃が通らなかったが、それでも刃の切っ先にエーテルを集め、どうにか小さな穴を空けた。
竜は羽ばたいて江流を跳ね除けると、辺り一面に炎を吐き散らす。畑や民家に炎が突き刺さり、一気に燃え上がった。
「これ以上はやらせないわよ!」
そこへルアンナ・ミュラーが素早く走り込み、杖の先を竜へと向ける。
「帰ってきたら住むお家が無かっただなんて、絶望しかないもの!」
光の球が一条放たれ、竜の翼膜に突き刺さる。竜は身を捩ると、鋭い牙を剥き出しながら駆け出し、ルアンナへと再び炎を放とうとする。
そこへ、全身ずぶ濡れのロゼットが突っ込んだ。鋭く棍を突き出し、光の矢を放って竜の顔を撃つ。
「こっちよ!」
振り向いた竜は牙を剥いて威嚇し、翼を広げて飛び掛かる。ロゼットは輝くエーテルを纏わせた盾を振るい、竜の爪を受け流した。
彼女は下がって間合いを取り直しながら、周囲に目を配る。キアランが砦の屋根に立ち、じっと竜に狙いを定めていた。ロゼットは竜の牙を盾でやり過ごしつつ、射手の射線に竜を収める。
「今よ!」
「ああ」
キアランが放った矢は翼膜に突き刺さった。しかし竜にとっては小指に刺さった棘の如く、構わず空へ飛び上がる。そのまま火を撒き散らしていくそれを見上げて、リディリディ・トゥラ・イェレミースはぽつりと溜め息をついた。
「はぁ……何だかこうなると思っていました」
リディはちらりとキアランを見る。長弓を引き絞る彼は妙に楽しそうだ。しかし彼に無茶を言われた彼女は気が重い。
「傷つける箇所を少なくとは、また無茶を言ってきたものです」
しかし引き受けたからにはやるしかない。リディは杖を握りしめた。
「アーラさん。よろしくお願いします……」
「ええ、任せてください」
コルネリウス・アーラがすかさず飛び出し、竜は爪を突き出し、吼えながら彼女へ向かって突っ込む。コルネリウスは大剣の腹を盾のように構え、身を乗り出して受け止めた。
「……お返しです!」
大量の火花が粉雪のように散る中、コルネリウスは破脚砕を竜の脚へ叩き込んだ。着地際の足下を掬われた竜は、どうとその場に崩れ落ちる。リディはその隙を見逃さず、杖を振るってエーテルを一点に収束させた。
「とにかくその飛び回る力を削がないと……」
竜が飛び上がった瞬間、リディは収束したエーテルを破裂させた。江流達の開けた小さな穴を爆風が突き抜け、翼膜を引き裂いていく。竜は何とか空中に踏み止まったが、姿勢は大きくぐらついた。そこへ民家の陰に隠れていたサイラスが飛び出し、バスタードソードを振り被った。
「さて、あんたの鱗も少しはおれの実験の助けになるか?」
力任せに剣を振り抜き、真空の刃を放つ。空気の捩れは翼膜の切れ込みをさらに広げた。穴の開いた翼は空を掴み切れず、竜は地面へ降り立つ。牙を剥いた竜はそのまま駆け出し、サイラスに向かってその牙を突き立てようとする。サイラスは盾で受け止めると、牙が食い込むのも構わず、彼は刃にエーテルを纏わせる。
「あんたにとっちゃ、おれもちっぽけなトカゲか」
竜が力を緩めた僅かな隙を突き、サイラスは刃を構え直し、肩の傷目掛けて刃を叩きつけた。肉体を蝕むエーテルは鱗を砕いてさらに傷口を広げる。噴き出した鉄臭い血を浴びながら、サイラスは牙を剥く。
「だが、おれもいつかはそこに行く」
●竜殺しの一撃
竜はしぶとい。冒険者達の激しい攻勢に晒されても、なおも大地を踏みしめ襲い掛かってくる。江流はマントを翻すと、竜が放つ焔を横っ飛びに躱した。そのままマントを投げ放ち、竜の目元を覆い隠した。竜は頭を振って跳ね除けるが、既に江流は懐に潜り込んでいた。
「どんなに鱗や肉が固くても……」
江流はその身を捻り、竜の眼を目掛けて鋭い突きを放つ。竜は仰け反り避けようとしたが、切っ先から放たれた斬撃が竜に襲い掛かる。
「眼は固くならないもんだよね!」
斬撃が竜の目元に食い込む。肉が抉れ、血が舞った。しかし眼は潰れていない。竜は首を振るって江流を撥ね飛ばすと、牙を鳴らして火を吐こうとする。
「させねえよ!」
ゴルバルティアは走り込むと、背負った盾で炎を受け止めた。盾越しに熱が伝わり、彼女は思わず跳び上がる。
「熱っ! でも引き下がんねーぞ!」
ロゼットは素早くゴルバルティアに向き直ると、棍を振るってエーテルを癒しの力へと転化する。
『慈悲深き癒しの神よ。この者の傷を癒し給え……!』
放たれた光はゴルバルティアを包み込み、彼女の傷を癒していく。
「悪い、助かったぜ……」
「ええ。竜も大分傷ついてるはずよ。あともうひと踏ん張りしましょうか」
言って、ロゼットは竜を睨みつける。ゴルバルティアも頷き、背中を向けたまま短剣を握りしめる。
「わ、私だってやってやるからな!」
叫びながら跳び上がり、彼女は宙返りしながら短剣を振り抜く。放たれた衝撃波が、竜の傷口をさらに穿った。仰け反った竜は牙を剥き出し、憎々しげに唸る。ロゼットは棍の先を向ける。
「さあ、観念しなさい」
それは翼を大きく広げると、その翼に向かってドロドロに燃える火を吐きかけ始める。肉の焼ける酷い臭いと共に、翼が炎に包まれた。ロゼットは訝しげに眉を顰める。
「一体何を……」
竜が大きく羽ばたく。薄く伸びた金銀が翼に張り付き、裂けた翼膜を繋ぎ留めていた。金銀箔を冷やし固めた竜は、空へと舞い上がる。ルアンナは杖を振り回し、空へと高く突き出した。
「逃がさないわよ! アーケインテンペスト!」
竜の周囲に黒雲が集まり、雷鳴と共に纏わりつく。竜はそれでも無理矢理飛び抜けようとするが、集まった雲が頭上を押さえつける。それを見届けたコルネリウスは、バリスタを構える子爵を見上げた。
「ティロール卿、私に注意を向けさせます。その隙に竜を捉えてください」
「あいわかった」
子爵はバリスタのハンドルを回して弦を引き絞る。それを見届けたコルネリウスは、肚の底にエーテルを集め、鋭く叫んだ。
「逃がしません!」
彼女の叫びと共にエーテルが放たれ、飛び立つ竜へと襲い掛かる。竜は振り返ると、負けじとコルネリウスへ咆哮を浴びせた。空中で一瞬、竜の動きが止まる。
「神よ。この一射外させ給うな」
子爵は引き金を引く。鎖のついた矢が一直線に放たれ、剥き出しになった肩口の肉に深々と突き刺さった。竜の咆哮は悲鳴へ変わり、それでも空へと飛び上がろうとするが、砦の岩に括られた鎖が竜を無理矢理押さえつける。
「それ! 逃がすな!」
飛び出した兵士達が鎖を掴み、竜を引きずり落そうとする。バンビはそれを見ながら指を掲げ、再び頭上へエーテルの波を作っていく。
「さあ、狩竜速度の最速記録を更新ですわ」
彼女は小さな身体一杯に息を吸い込み、自らへとエーテルの波を引き寄せた。バンビはその波を一気に撥ね飛ばし、竜の頭上に巨大な火山弾を打ち上げる。
弾けて、小さな火の玉が次々に竜に襲い掛かる。竜はついに地面へと叩きつけられた。元々脆い金銀の膜は破れ、再び竜の飛び去る力は失われてしまった。
「人事は尽くしました。さあ、皆様たんとお召し上がれ」
竜はのろのろと立ち上がる。サイラスはエーテル光を纏わせた剣を諸手で握り、竜に狙いを定める。飛べない竜をねじ伏せるのはもはや容易い。しかし砦上の子爵が気がかりだ。貴族に多少は花を持たせた方がいいものか。
「まあいいか。そんなものにしがみつくならどうせ先は短いだろうし」
それで好機を逃すのも馬鹿らしい。サイラスは放たれた炎を受け流しながら、紫電一閃の一撃を竜の肩口に叩き込んだ。肉は裂けて骨が飛び出し、どす黒い血が噴き出した。竜はよろめき、力なく項垂れる。
「はあ……そろそろ終わりでいいですか……?」
竜を前に溜め息を一つ零し、リディは杖を突き出す。竜の口に向かって、天地から練り上げたエーテルを光の矢として放った。その矢は竜の口蓋に突き刺さり、そのまま脳天を貫く。
致命傷を受けた竜は大きく仰け反る。断末魔の呻きも無く、そのまま力無く崩れ落ちた。しばらくは翼を捩らせていたが、やがてそれも無くなる。
リディは竜の死体を覗き込むと、小さく溜め息をつく。
「また起き上がるとかは無しですよ、もう……」
●ヘルマン金満伯
倒れた竜の亡骸に張り付き、バンビは祭刀を竜に突き立てる。死んで肉が緩んだか、簡単に鱗が剥がれていく。ゴルバルティアは鱗を一枚拾い上げると、太陽に翳して見つめる。鱗の中で光が跳ね返り、中に夕陽のような輝きが生まれた。
「はあん。こいつは綺麗だなあ……そりゃあ高値もつくわけだ」
彼女は竜の亡骸へと目を戻した。鋭い歯や爪を間近で見つめ、思わず彼女は足を竦ませてしまった。
「こんな……よく狩ろうと思うもんだぜ……」
「それだけ価値があるって事よ」
ゴルバルティアに応えながら算盤を弾いたルアンナは、子爵にその数字を突き出す。
「これだけあれば、家の修理や村の畑の拡張や設備強化も出来るはずです。今回の収入はちゃんと村人達のために使ってあげてくださいね」
「当然だ。言われるまでも……」
その時、角笛の音が遠く響き渡る。見れば、立派な装備に身を包んだ騎士達が、牛の紋章を掲げてやってくる。その真ん中を行くのが、脂ぎった顔の大男だった。
「……あれがグランツ伯か」
江流は遠巻きに伯爵を見つめる。鎧の上から細かい刺繍の施された羅紗の羽織に身を包み、馬鎧にも金銀の装飾を施している。
「いかにも、って感じだねえ……」
伯爵は子爵の目の前で馬を止めると、にんまり笑って彼を見下ろす。
「これはマティアス。随分と上手くやったようだな」
「ええ。戦場を離れて三年経ちますが、まだ私にも武運があったようでしてな」
子爵は静かに頭を下げる。鱗の破片を掃いて集めながら、サイラスは二人のやり取りを横目に窺う。
(わざと遅れてきたな。大方、子爵達がくたばったところにやってきて、自分が竜を狩ろうとしたってとこか)
「グランツ卿!」
そこへ、ルアンナが伯爵へとつかつか歩み寄っていく。
「アレマン村にはもう何も無く、荒れ果てています。帝国の脅威は今ありませんが、魔獣やクリーパーが村に来てしまったら、抵抗する力がありません」
「それで?」
グランツ伯は首を傾げる。
「村が無くなってしまったら貴方も困るはずです。村の整備を整える為にも、控えて頂けませんか?」
ルアンナは真剣そのものの顔で訴えるが、伯はにたにたと笑みを浮かべるだけだった。
「何か勘違いしているようだな。卿が貧窮しているのは下人に情けをかけるからだ。下人はアワの粥でも食わせればよいではないか」
その顔は、彼女が相対してきた奴隷商人達にそっくりだ。彼女は思わず拳を固める。
「まあ、よいわ。これは竜狩りを成し遂げた祝いだ。取っておけ」
伯は子爵の顔に金を投げつけると、そのまま街道を歩き去っていった。子爵はその背中に、黙って頭を下げた。
「ティロール卿」
コルネリウスは伯に背を向け、子爵を見上げる。グランツ伯のいかにも貴族らしい態度に、少しむかっ腹が立った。
「何か今後も力になれる事はありますか。この領地に住む方々のため、冒険者として出来る事は手伝うつもりです」
「そうか。……そう言ってもらえるのは、ありがたい」
子爵は僅かに頬を緩める。ロゼットも彼の傍につかつかと歩み寄り、去り行く伯爵の旗を睨んだ。
「味方も増やしたいわね。王党派と貴族派の争いも激しくなってるし。上手く利用できないものかしら」
「簡単にはいかんな。我らに目をかける酔狂もいるにはいるが……やはり貴族は金に弱いからな。我らの味方をする者は……」
「領主よ。あまり抱え込むな」
見かねたキリアンが歩み寄ろうとすると、子爵は小さく首を振る。
「言ったろう。お前達の力を借りる事は出来ない。力を借りれば、お前達はいよいよ王国に服従するか滅ぼされるかを選ぶことになる。それは我らの家門が望むところではない」
「そうか。ならば我らはこれまで通り、自由でいる事にしよう」
鹿に跨るキリアン。子爵は難しい顔をしていたが、やがて小さく呟く。
「此度の件はすまなかった」
「……うむ」
キリアンは鹿を走らせると、そのまま鏑矢を構える。
空に向かって放たれた矢は、いつまでもひよひよと鳴き続けた。
おわり
マスターコメント
ショートシナリオ難しい 報酬:標準8 / 6〜8人
2021年06月07日 08時03分55秒 公開
相談掲示板
ハイスピードキャスターのバンビですわ。 よろしくしてくれてよくってよ。
シーフの海神江流だよ。今回は宜しくね。 普通に戦っても強敵なのだろうけれど、逃走対策までしないといけないとなると、戦いの運び方も意識しないといけないかな。 ウォーリアが多いみたいだし正面はお任せして側面や背後から仕掛けてみるのがいいかな。とかぼんやり考えてるけど、具体的なところはこの後詰めていければ、かな。
No.3
キャスターのリディリディです。 その・・・、よろしくお願いします。 構成はウォーリア3、シーフ1、ヒーラー1、キャスター3ですね。 海神さんの仰るようにウォーリアの方が多いです。 あと、私も含めてキャスターの数も多いですね。 紅玉竜が逃げる前にどれだけ鱗を剥がせるかが問題ということでしょうか。 記載はされていないようですが、恐らく炎を吐くと思われます。 それとも、炎を吐くのが焔球なのでしょうか・・・。
No.4
サイラスだ、よろしくなー 逃げる相手にヘイト向けるから囮役用意するなら逃げる様に下がっておびき寄せるとか? んであんまり傷つけないでとの事だし、腹側とかなら鱗少ないだろうからそっち側狙えるなら狙う?後火力に振り切った方がいい(逃げるので中後半から特に)のかな? 届けば殺界は足止めの可能性にはなると思うけど、俺だとこれか火力かどちらか一方になるかなと
ヒーラーの神官戦士ロゼットよ。よろしくね。 うーん…私たち冒険者が囮役になって、砦の周辺(弓射程)を 逃げまわって竜の憎悪を引きながら、攻撃をどこかに集中して 鱗の薄い場所を作って、そこを狙ってバリスタでズドンとか? 鱗をたくさん剥した方が鉄鎖弾は効果が上がりそうだけど、 全身の鱗を傷だらけにすると、目的の鱗が減っちゃうのよね。 >リディリディ 炎=焔球じゃないかな。前回の戦いの様子を読み直したんだけど、 焔球で攻撃された場合、侵入不可の効果で弾き飛ばされるみたい。 ダメージ+吹き飛ばし+攻撃範囲は数ターン侵入不可って感じかな。
キャスターのルアンナです。よろしくお願いします。 竜を逃がさないための対策が必要ですね。 アーケインテンペスト改を使えるようになったので、より強力に行動を阻害出来る様になりました。 これの効果がある内にバリスタを使えば命中が安定すると思うんですがどうでしょう?
ウォーリアのコルネリウスです。よろしくお願いします。 逃走阻止には翼を潰さないといけなさそうですね。 皆さんが仰るように、やはり引き付けと行動阻害でしょうか? 囮役でしたら引き付けと耐久は積極的に引き受けたいです。 狙う箇所は成るべく絞った方が鱗を傷つけずに済むかな、と思いますのでサイラスさんやロゼットの仰るように他の部位に比べれば薄く柔い場所を集中的に狙うのが良いかと思っています。
以前、ワイバーンを狩った時のやり方ですと、地上の囮に気を取らせているうちに頭上からストーンブラストで叩き落しましたけれど、今回も何かで引き留められればダメ押しとして使えそうですわね。
No.9
鉄鎖弾って鎖ついた矢だから相手の鱗ボロボロでも効果上がらんのでは?刺さりやすくなるだろうけど。 とりま翼幕とかはボロボロにして良いと思う?後は狙えるなら口の中とか体内に繋がってるところ?かすでに傷ついたところ狙いかな? ハーツベインショットあるからスリップとかも想定してるんだろうけどねー。 とりあえずサブ囮として動こうと思うけどどうしようかねー。悪さするなら弓の方が良いだろうけど、傷付けるために有効そうなデバフ系やスリップ付与は剣のスキルなんだよなー
竜の正面を担当する囮役と、後方から翼を破壊する役を作る? 囮役は正面、竜の視界に入って逃げる素振りでヘイトを引いて、 翼破壊役が翼を狙えるように。 翼の骨格は頑丈と言われてるから、翼の膜の部分を破って、 飛行を封じるか飛ぶ力を弱めてから、腹部とか攻撃ポイントを 絞って鱗を剥して、鉄鎖弾を突き刺す、という感じで。 逃走を封じたら、総攻撃のチャンスなんだろうけど、 その際は何処を狙うのが良いのかな…心臓とかは胸部かしら? >サイラス 「鉄鎖弾」って矢に鎖がついてて、突き刺した相手を バリスタか砦に繋いで逃げられなくするヤツじゃないの? 漁師がクジラとかに使うロープ付きの銛みたいな。 だから深く刺さった方が、逃走封じの時間が延びるのかなって。 >アーケインテンペスト改 バッドステータスは、あまり効果が続かないらしいから、 アーケインテンペストみたいなオブジェクト召喚での 移動阻害は良いんじゃないかな。使いどころが大事ね。
ウォーリアのゴルバルティアだz…うへぇ、またあいつか…( まぁもちろん私は引き付け役として動くつもりだ 執念深いってこれ、回避しまくっても狙われたりするかな…?
No.12
ボロボロってのは広範囲ボロボロにする必要ないのではって感じのアレ。とにかく大量に鱗ボロボロにすればする程よい?みたいに読んだから書いたー。 多分回避もヘイト対象に入ると思うよ?
ウォーリア3人で引きつけ役(囮)をやって、 シーフ・キャスターが翼破壊や鱗破壊をする、で良いかな。 攻撃要員は足りてそうだから、ヒーラーの私はウォーリアの 回復・強化かしら。4:4人くらいで分担にはなりそうだけど。 >サイラス 了解したわ。全身ボロボロじゃなく、部位の鱗を剥す感じね。
それじゃ、俺の初動は回り込んで翼膜狙いで行きますかね。 それで飛翔する力が弱まってくれればいいんだけど。 死角から仕掛ければタナトスバイトが狙えると思うんで、攻撃してフェザーステップで再度回り込んで、って感じで連続して仕掛けられたらいいかな。 鉄鎖弾が上手くあたって動きが抑制できるようになったら皆で同じ箇所狙って攻撃を集められるといいのかな。 口の中、心臓?とか出てるけど、目とか傷つけられたら狙いが甘くなったりしないかな?
>目を狙う 紅玉竜の大きさが想像できないのだけど、 近接武器ではちょっと目は届かないかな?って。 腹部・胸部なら地面に近そうだしウォーリアの武器も届くかなと。 シーフの人は飛べるのよね。高さの懸念をクリアできるなら、 難易度は分からないけど、目を狙うのはアリなんじゃない? 気をつけないと、ガブリと噛まれそうだから気をつけて。
No.16
翼への攻撃・・・。 竜は特に翼を守ろうとするでしょうし、上手く当たるかはわかりませんがやってみます。 それと、PL情報にてバリスタはPCでも撃てるとのことですが、希望者はいないと考えて良いですか? それならば扱いはNPCのフィーギルさんの手勢にお任せするといった形でしょうか。
中々来られずにごめんなさい。 方針は現状出ている流れで異論ありません。 狙えそうならば目を狙うというのも有りだと思います。 バリスタの希望者がいらっしゃらなければフィーギルさんにどのように打つかと指示を記載するのが良いでしょうかね。 個人行動としては、シーザーロアで引き付けをしながら成るべく同じ個所を狙って攻撃していくようにします。
No.18
とりあえず火力微妙なんで剣使うわ。衝撃刃の射程もあるし破鎧砕で防御下がるし とりあえずシーザーロアは置いておいて良さげな所とか拘束解除後辺り狙って殺界ねじ込もっかなと。1人いればあれはなー。 死ぬ気で逃げる演技を頑張って、後ろ見るのはアレだから天眼で把握してかなと。 バリスタは俺囮なので入りませぬ。他人だから指示もおかしいので他の人に
私もバリスタは別に使う気はないな…
プレイングは提出してあるわ。 >バリスタ 私もパスね。子爵の担当で、鉄鎖弾は竜の逃亡開始時に 発射する段取りで異論もないから、そのままお任せするわ。
>バリスタ 私も引き付けに注力しますし、特にいらっしゃらないようですので指示出しも不要そうですね。 サイラスさんに殺界を使用して頂けるのでしたら、私はシーザーロアと、別スキルで対応致しますね。 デバフなどについては解除されやすいようですので、適宜様子を見ながら使っていこうと思っています。 時間も迫っていますので、当日は宜しくお願い致します。