【獗烙】神実の香り
広大野人
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シナリオID:917
オープニング
犯罪者を移送する馬車の中に、一人の王国騎士が身軽な動きで入った。
爽やかな表情を浮かべ、王国騎士エナハルト・ティルムは備え付けの椅子に優雅な動作で座る。
机を挟んで対面しているザンツも椅子に座っていた――動けないように椅子ごと拘束されてはいるが。
「こんにちわ、ザンツ君。僕は王国騎士のエナハルトだ」
「…………」
返事が無い。しかし、憎悪溢れ出る瞳は真っ直ぐに騎士を見つめていた。
「猿ぐつわされているから返事が無いのは残念だけど、今日は君のこの先の事について話があってね」
そう言って取り出したのは、罪状のようなもの。
王族に対する暗殺計画――実際は、そこそこ位の高い爵位を持つ貴族の跡取りの暗殺未遂だが――は極めて重罪だ。早い話、処刑だ。
「たぶん、王都に到着しても、君はすぐには処刑されないと思うんだ」
「…………」
どうなるかはザンツ自身がよく分かっている。
厳しい拷問が待っている事だろう。暗殺計画以外にも何か隠していないのかどうか。
自白した内容が正しいのかどうかも含め、休む間もなく、厳しい責めが行われる。
「けれど、移送中の君に対する処遇について、ある程度、僕にできる事があってね……つまるところ、取引しないか?」
理由など後からいくらでもつけられるという事だ。
もっとも、ザンツの視線は動かなかった。今更どうこうなるものではないのだ。まず罪が軽くなる事はない。
「例えば……君が苦しまずに死ねる……としたらどうだい?」
「……ッ!」
「良い反応だね。僕が欲しいのは、コレだよ。裏社会では知られているのかな?」
罪状を仕舞い、代わりに取り出したのは、一つの小さな果実のような何かだった。無造作に机の上に転がす。
林檎……のようには見えない。かと言って桃でもない。正体不明の実だ。
だが、ザンツは唸りながら前のめりになろうとする。
「なるほどね。やっぱり、そういう反応するんだ。という事は、効果は確かにあるって事だね」
「ォォォ」
何か言いたそうなザンツだったので、エナハルトは猿ぐつわを外した。
幾度か口を開き、球根に喰らいつくように匂いを嗅ぐ。
「……間違いない。(スゥ――)……これは、神実の香り……だ」
取引成立と判断し、エナハルトは犯罪者の片腕の戒めを解いた。
ザンツは小さなそれを掴むと、口に運び、前歯でガリっと噛む。ほのかに形容しがたい良い香りが漂う。
「どこで知った?」
「王都の冴えない酒場だ……そこで売人にならないかと声を掛けられた……あぁ……良い香りだ。これは確かに神実だ……」
「場所は?」
「覚えて……いない……。酔って……適当に、入った……か……ら……」
完全に陶酔しきってしまっている。これが神実の香りの一番の効能なのだろう。
エナハルトは無言で立ち上がると柄に手を掛けた。
次の瞬間――クルっとその場で回転すると、トンっと犯罪者の身体を押す。
直後、首と胴体が離れ、噴水のように血が噴き出た。血しぶきで服が汚れないようにと、馬車からサッと外に出るエナハルト。
「片道キップ、僕からのプレゼントさ」
死んだ犯罪者に向かって、王国騎士は告げるのであった。
●
王都にある冒険者ギルドの支部の一つ。ある特別な受付カウンターの内側に、一人の青年。
受付嬢ならぬ受付男子。業務内容は受付嬢とさほど変わらない。何か違いがあるとすれば、重い荷物や高い戸棚への収納をよく同僚から頼まれる事か。
そして、もう一つ……訳ありの依頼も、彼の担当だった。
「エナハルト様からのご依頼、確かにお預かり致します」
「いつもすまない、イシア。助かるよ」
イシアと呼ばれた受付男子は、爽やかなエナハルトに負けない笑みを浮かべた。
「いえいえ、これが、こちらの仕事ですから」
「依頼における必要経費はこちらで負担するが、不適切な出費があるかどうかは君が判断して欲しい……私は冒険者がどういった存在なのか、よく分からないので」
冒険者に優秀な人材がいる事をエナハルトは知っている。
同時に、そうでない人材もいる事も理解している。かといって、潜入捜査のような仕事にかかる費用がどう適切なのか、彼はあまり知らない。
「それにしても、この『神実の香り』……いつの間に広がったのだろうか」
「私も王都で暮らしていますが、この話は初めて聞きました」
二人の目の前に転がっているのは果実っぽい何か。
保存が効きにくいのかどうなのか、既に効能は無いという。
「激しい陶酔感を得られるが、一方で中毒症状も極めて強い、危険な代物だ。実際にどのように使われているのかも不明……出回っている時期も不明。誰が運び、売っているのかも不明と来たら、取り締まる法を成立させるのは困難だ」
「だからこそ、必要な情報収集という事なのですか」
「……場合によっては、王国を揺るがす大事件になるかもしれない」
中毒性が高い『神実の香り』が実際、どこまで浸透しているかは想像できない。
万が一にも、貴族の中で秘密裏に浸透していたら、大事件になってしまうだろう。
「摘める芽は早いうちに取っておきたい訳ですね」
「あぁ……本来であれば、私から直接、冒険者の方々には説明したいが……」
「分かっていますよ。王国騎士がこの件で表立って動くには、時期早々な面がありますから。そこは、私の方で上手く対応致します」
「ありがとう」
王国騎士は頭を下げた後、座っていた椅子から立ち上がった。
調査の件については冒険者に依頼を出したが、彼自身には別にやらなければならない役目がある。
冒険者達が集めてくるであろう情報を元に、禁制品として認めてもらえるように根回ししておくのだ。
「いってらっしゃいませ」
受付男子の言葉に、エナハルトは片手を挙げて応えた。
解説
マスターより
リプレイ
強めの雨が降り続く中、辺りは徐々に暗くなってきた。
そんな中、ルベア・ベルニは職人街に足を運ぶ。
「お疲れ様でした!」
「また、明日」
「急がねぇとぉ」
様々な声と行き交う人々が雑多に混ざり合わさって、混雑ぶりはなかなかだ。
通りの一角に設けられた東屋に幾人かの職人が集まっていた。大方、休憩中の連中だろう。
そこへ、雨から逃れるような仕草でルベアは入った。感じた事のない『匂い』はしない。
「ひでぇ雨だな」
一人の職人が、ルベアにそう言って乾いた手拭を投げて寄越す。
手拭を受け取り、軽く礼を告げながら、濡れた顔を拭いた。
「嬢ちゃんはここら辺に仕事探しか?」
ルベアが見慣れない顔だからだろう。別の職人が話し掛けてくる。
すぐさま、その隣にいた中年のおばさんが手を振った。
「若い子はすぐにこき使われるから、優しい所がいいよ」
「そうそう、最近はやたら厳しい人もいるからね。ほら、誰だっけ、急に蒸発しちゃったあの子」
別の話題が出れば、ルベアへの興味はすぐに消え、井戸端会議が始まる――もっとも、ルベアは承知の上で、ここに来た。
昼間のうちに衛兵の詰所に立ち寄り、治安などに関する情報を集めていたのだ。
その中で『唐突な行方不明者』の話を聞いた。王都には多くの人々が住んでいるし、出入りも多いから、行方不明の定義が曖昧ではあるが……。
「仕事が厳しいという事なの?」
ルベアの問いに職人が両肩を竦める。
「まぁ、その子にとってはな……親方から怒られっぱなしだったから。仕舞いには酒漬けで、ずっと酔っているようだったな……その割には酒臭くなかったが」
「酒の飲み過ぎで……居なくなったと?」
「金が無くなって実家に帰ったかもしれねぇがな。部屋は綺麗だったらしい」
これだけ聞くと、確かに事件性は感じられない。
よくある話ではないが、さりとて、王都に出て来たけど挫折した話なぞ、珍しくもないだろう。
「それじゃ、嬢ちゃんも頑張りなよ」
「ありがとう」
手拭を返し、仕事へと戻る職人達を見送るルベア。
可能性としては小さい……だが、一つ、想定しないといけない事象ではある。
(『神実の香り』の効用は確か……陶酔感を得られる、ね。得たところで実際何かが変わるわけでもないのに……)
仕事のストレスを解消する為に、酒ではなく『神実の香り』を使用していたかもしれない。
酒臭くもないのに、ずっと酔っていた様子……酒による中毒症状とは明確に区別できる事だろう。
「何にせよ、そんな馬鹿げた代物を広めるのは、さっさと止めたいものね」
ルベアは決意するように呟くと、雨の中に向かって歩き出すのであった。
●
ベルク・オスマットはスラム街にやって来ていた。
目的は『神実の香り』の流通経路を確認する為。しかし、事はなかなか上手く運ばなかった。
運が悪かったのか、それとも、警戒されていたかもしれない。
行き詰まりかけたその時だった、たまたま立ち寄った露店で声を掛けられた。
「おぉ、間違いない。ちび狐じゃねぇか」
20代後半のパッとしない青年が目を丸くしていた。
「誰だ?」
「まぁ、無理もねぇ。互いに奴隷だった身じゃ、あまり覚えてないわな」
その台詞に名前は出てこないが、なんとなく記憶が蘇る……勘違いかもしれないが。
それでも、『奴隷』という台詞に、一つの共通点がある以上、無関係な間柄ではなかっただろう。
「その様子じゃ、お前も奴隷から解放されたのだな、良かったぜ。といっても、そういう話はあんまりするものじゃねぇか」
っぽいっと寄越されたのは店頭に並べられた一つの果物。
……さすがに『神実の香り』と称されるような物は置いてないだろう。
「ここには職探しか? それとも住まいか?」
「いや、仕事だ」
「そうかそうか。住むんだったら、最近、俺の部屋の隣が空いたからな」
「死んだのか?」
その台詞に驚いたように青年は首を振った。
「引っ越しさ。新天地がどうこう言っていたな。もっとも酔っ払いの妄想かもしれねーけど」
「どんな所なんだ?」
「さーなー。なんせ酔っ払いの戯言だ。ただ、実際、その新天地への案内人とやらと一緒に荷物を纏めていたぜ」
胡散臭い話だ。妄想のままの行動に対して、現実に引っ越しを手伝う人がいるというのは。
何か裏がありそうだが……。
「その案内人とやらで覚えている事は?」
ベルクの質問に青年はうーんと頭を抱えながら思い出そうとする。
「小綺麗な感じだったかな……商会の営業で働いていそうな……わりぃ。あんま思い出せねぇわ」
「いや、いいんじゃ。それじゃの」
そう言って、ベルクは幾つか果実を選ぶと対価を投げ渡して立ち去るのであった。
直接、関係あるかどうか分からないが、得られた情報を仲間に伝える為だ。
●
「『神実の香り』、ねぇ……聞いた覚えが無いって事は、出回り始めたばかりなのか、相当裏で取引されている代物って所だが……」
そう独り言を呟いたバーネット・フォーサイスは歓楽街を歩いていた。
冒険者ギルドでも把握していない禁制品のような代物。ルベアが日中に衛兵詰所で確認しても知られていない代物。
二つの事実から、『神実の香り』が比較的、最近の話ではないかと思う。
「こりゃ、向こうを誘い出した方が早そうだな」
その為に策を一つ考え、幾つか場末の酒場に入っては、羽振りの良い客を装ってハシゴしていた。
こういう所で、金の話はうってつけの酒の肴だ。何店舗か回った時点で、今晩は妙に金払いの良い野郎がいるという話が噂になっていた。
(へぇ~。こりゃ、当たりだ)
だから、次に入った酒場の雰囲気を感じとってバーネットは心の中でほくそ笑む。
チラリと視線を向ける者。視界の隅に留まるようにしている者。急に静かになる者。あるいは、騒がしくなる者。
わざとらしく足音を立てながら、バーネットは真っ直ぐにカウンターを目指し、用心棒風の優男の横に座る。
「よう兄弟、隣良いか?」
「待ってたぜ兄弟」
バーネットが座るとすぐに高級な酒のボトルが幾本かドンっと置かれた。
既に情報は出回っているようだ。待ち伏せされていたといってもいいかもしれない。
「忠告だ。あんまり荒らすような真似は、自分の身を滅ぼすぜ」
つまり、この高級な酒を買えという脅迫だ。
もっとも、想定内の出来事ではある。むしろ、こういう機会を待っていたと言ってもいい。
「酒に強い体質でさ、これじゃ足りないんだよ。もっと早く酔えるものはないのか?」
「……あんたもそっちか……うちにはねぇよ。だが、コレ次第だな」
優男が中指と親指で円を造る。
何も言わずにバーネットは金の入った袋をドサっと置くと、優男は中身の確認もせずに耳元で囁く。
「今晩、奴等が姿を現すのは『裏路地の硬貨亭』だ。もっとも、あんたはもう目立ち過ぎだがな」
「……十分だぜ、兄弟」
目立つやり方をしていては警戒される事は明らかだ。
恐らく、バーネット本人が『神実の香り』を求めても売人は姿すら見せないだろう。
だからこそ、得られた情報は仲間に届けばいい。依頼は一人でやっているものではないのだから。
●
歓楽街とスラム街に程近い、人気の無い路地に『裏路地の硬貨亭』はあった。
薄暗い店内で唯一明るいホールが見渡せる半個室のような席でシャトン・アルジェントの声が静かに響いていた。
「終わったら甘い果物あげるから、お仕事よろしくね。あと野良っぽく汚れてもらうわ」
近くを通った給仕が、不気味な視線を送る。
どうみても席には一人しかいないのに……だ。なにか見えているのだろうか。
「汚れるのは嫌? 大丈夫、後でちゃんと洗ってあげるから……それでも嫌?」
給仕の娘は立ち去ると、同僚の一人を掴まえてヒソヒソと話す。あそこの席の客、ちょっと可笑しいよと。
「なら、果物に加えて高級チーズも足してどう?」
シャトンの独り言――ではなく、ペットのアーノルドとの会話だ。
エーテルリンクで繋がる事で知覚を共有する。上手く使う事で、隠密に情報収集が図れるのだ。
ふわふわな灰色の毛を持つ鼠が暗闇の中へと消えていった。
「ま、違法品って訳じゃないけど、堂々とお店で売ってる品じゃないだろうしね」
なるべく目立たないように店の中で密かに売買が行われている可能性が高いだろう。
そして、シャトン本人は、違和感がないようにとぼんやりとホールを眺める。ちょうど、新しい踊り子が出てくる所だった。
エミリア・シバは満面の笑みを浮かべながらホール中央に設けられた舞台へと上がった。
観客からの視線が集中する――しかし、それは逆に言うと、一人一人の顔をエミリアからも見て取れているのだ。
(客層は様々ね……お忍びのような貴族、成功した商人から市民まで)
辺境都市群風の曲調に合わせてエミリアは躰を滑らかにしならす。
感じた事のない形容しがたい甘い香りが微かにする――冒険者ギルドでは具体的な香りまで確認できなかったが、受付した青年の話によると『冒険者でも感じた事がない匂いなら……』との事だったので、当たりの可能性が高い。
『裏』から『表』に『こういったもの』が滲み出てくる所としては、この酒場は間違いなだろう。
酒場が隠れ蓑として使われている事は何らかの組織が、計画的に動いているとみていいはずだ。
(『神実の香り』って呼ぶのだから、特別な匂いかと思ったら……確かにそうね)
強いて言えば『あらゆる果物を併せたような』そんな香りだろうか。
(機会を伺うしかないけれど……無茶はあまりできないわね)
裏社会に蔓延る数多の組織の中には極めて危険なものもあるとエミリアは知っている。
大事なのはタイミングだろう。舞台から立ち去り際、観客一人ひとりに視線を向け――知っている人をみつけ、わざとらしく微笑みかけた。
踊り子からの視線に、表情は変えず、エリザ・A・ミシャールはグラスの注がれた酒を呷っていた。
(ザンツは死んじまったかい。まあ、それだけの事をしたんだろうさ)
自分達が捕縛した者が王都に到着前に処刑されたという情報は冒険者達にも知らされていた。
(大事のうねりの前には、人ひとりなんてあっけないものだね)
『神実の香り』……この情報をもたらした人物がザンツであった事を、エリザは知る由もないが、自分や仲間達が、何か大きな出来事に巻き込まれつつあるのではないか……そう感じられた。
旅のエルフを装い、自分でもスラムや歓楽街で聞き込みを行い、仲間達の情報を元に、今の酒場へと辿り着いた。
「あんたが……カネになる仕事を紹介してくれるのかね?」
ボトルが空いて、幾人か踊り子が変わった所で、給仕に案内されてボックス席に入ってきたのは壮年の男だった。
「ここに居る事自体が、君の仕事ではないのかな。それとも、本当に金が必要なのかな」
「カネが必要なのは本当さ、フォーゲン」
やや酔ったように魅せて応えるエリザに対し、フォーゲンの全身からは油断なく覇気が発せられていた。この壮年執事は、ザンツを捕縛した際に知り合った。何故、そんな人物がここにいるのか……。
「仕事を紹介したい所だが、生憎、私も仲介だけでね……冒険者は相手にしたくないのだよ」
「自己責任で構わない」
「……なるほど。では、仲介する為に一つ、確認したいのだが」
フォーゲンは席に座る事なく、ジッとエリザを見下ろしていた。威圧的……ではない。父親的なそんな雰囲気だ。
給仕が気を利かせて、ボックス席を囲うように暗幕を垂らす。
「答えられる範囲であればな」
「君に欠けているものはなんだ?」
「……」
冒険者としての力量なのか、弓の腕前なのか、装備か、金か、それとも、歩んできた人生の中の出来事か……意味不明の問い掛けに言葉が一瞬詰まった。
「……そうか、いや。すぐには答えられないものだろう。それでも構わないのだ。では、仲介するから暫し待て」
フォーゲンは一方的に言い放つと薄暗い店内の中に、サッと立ち去ってしまった。
とにかく、誰か『仲介』してくれるらしいから、このまま待つしかないだろう。
もしかして、『当たり』の可能性がある。上手くいけば『神実の香り』を手に入れられるかもしれない。
(試す素振りを見せて、現物を確保できるかもしれないな)
掴みかけた尻尾は――しかし、思わぬ出来事で閉ざされる。
それは決して、エリザの行動が誤っていた為ではない。
「甘い……香り? なんだ……これ……は……」
深い陶酔感の中に彼女の意識が沈むのであった。
エミリアは踊りの順番が来るまで店内の様子を見ていたが、暗幕を垂らしたボックス席から仲間が運ばれる様子を見つけ、行動を決意した。
暗幕が垂れた後、壮年の男が立ち去り、暫くした後、給仕がボックス席の端に丸壺のようなものを置いたのだ。ただし、煙は出ていない。
その瞬間、店内に漂っていた甘い香りが強くなった様な気がした。
「『試供品』を試したという話ではなさそうね」
でなければ、エリザが用心棒に運び出される訳がないだろう。
手洗いに行くと見せかけて、運ばれる先を確認。完全な個室のようだ。
用心棒はエリザを部屋に入れ……周囲を確認してから立ち去る。隠れ潜むエミリアの存在に気が付かなかったようだ。
他に人の目が無い事を確認して、エミリアはサッと部屋へと入った。
エリザは無造作に転がされている。乱暴されるとか監禁されるとかそんな様子には見えない状況だが、芳しくないのは確かだ。
「引き上げるわよ、エリザちゃん。お手柄だったのだから」
「う、うぅ~ん」
意識は朦朧としているようだ。妙に色っぽい声で返すエリザを抱えるエミリア。
部屋に大きな窓があったのは幸いな事だった。これなら脱出には問題ないだろうから。
梁の上からアーノルドが聴いた声と見たものが、頭の中に入って来る――。
「……恐ろしくなって逃げ出したのだろう。しかし、あんなに効果があるとは」
「実の表面を削り、近くで匂いを嗅ぐ事で陶酔感を得られるもの……が、実の汁を煮立たせるとあのような使い道も」
「もっとも、効果を発揮させるには、拡散しないように、風を遮った小さな空間を作る工夫がいるがな」
「しかし、それでは中毒症状が薄く、商品として使い道がない」
「承允にはいいかもしれないな。場所がバレるのを少しでも防げる」
「あぁ。そういえば、最近、また承允を欲していたからな。幾人も承允したのに我儘な奴等だ」
それを一字一句逃さないように、シャトンは台詞をメモに書き留めていく。
ついでに数人の男共の人相も簡単に残す。薄暗くて分かりにくいが……特徴ぐらいは有効になるだろうし。
(これは……想定以上の成果かもしれませんわ)
エリザとエミリア、仲間達が調べた情報一つひとつが繋がっている――そんな確信めいたものを感じた。
きっと、依頼主が求める以上に、情報が集まっているのだろうから。
マスターコメント
ショートシナリオ普通 報酬:多い6 / 4〜6人
2021年05月26日 14時41分27秒 公開
相談掲示板
シューターのシャトン・アルジェントよ。 よろしく頼むわね。 あたしは繁華街の盛り場を中心に調べてみるわ。 もっとも、主に調べるのはあたしじゃなくて、エーテルリンクで繋いでるペット(栗鼠 ※ネズミにオリジナル化申請中)の方になるけどね
シーフのベルクだ。よろしく頼む。 我はスラムを中心に裏の方を調べてみようと思う。 場合によっては繁華街にも行くことになるかもしれんが。
エリザだ。よろしく頼む。 別にお行儀よく捜査する必要もないし、法も無いのか。 直接買い付けができるルートと接触できればいいんだがね。 >あらゆる情報を収集する事 しかし目的が広いじゃあないか どの部分に焦点を絞って情報収集するかによって、調べに行く場所や方法も変わりそうだね
シーフのルベアよ、宜しく。 私は衛兵詰所とか、職人街を中心に回ってみようかと思ってるわ。 どっちをメインにするかはまだ考え中。 陶酔感を得られる、ってこう……ストレスを発散するとかに使われかねないし、そういう方向で何かしら得られれば、と思うけど。
キャスターのバーネット・フォーサイスだ。 まぁ、よろしく頼むわ。 とりあえず俺は歓楽街だな。 こういうのは場末の酒場だとか、あるいは人が多くて個々のテーブルに注目されない様な場所で やり取りされそうだし、酒場をはしごして調べてみようと思う。
あら、成立してるのに気が付くの遅れちゃった。 シーフのエミリアよ、よろしくね! おねえさんも、歓楽街での捜査をしようかなって思ってたわ。 おねえさんそれっぽい格好とかしてるから、それなりになじめるかしらと思って、そこで務めてる働くご同業っぽい人達に声をかけてみようかなって
そういや、途中で情報交換とかした方がいいか? なんの手掛かりもない状態でのスタートだから、そんなに違いは出ないとは思うが、 多少なりとも判明した情報が有れば、それを踏まえた行動ができそうではある。
そうねえ、冒険者ギルドに集まるとかは調査方法次第では見られるとまずいでしょうし。 どこか共通の宿を決めて、そこでどうにかさりげなく情報交換をするとかかしら? あ、そういえば、おねえさんは、神実の香りってことなので超嗅覚も利用できないかしらって思っているわ。
それじゃあどっかの宿を拠点にするとして、全員が一堂に会すのはタイミングが合わない事も 有るだろうし、メモ書きを残すとかで情報共有していく方がやりやすいか?
おねえさんは問題ないかしらって思うけれど、他の方はどうかしら? 食事処のある宿なんかにすれば、さらにあまり不自然じゃない感じで情報共有とかできるかしらね? あ、基本的におねえさんはたぶん、夕方から深夜にかけての活動になると思うわ。 おねえさんの同業っぽい人って多分そのぐらいから出勤でしょうし。
対面での情報共有は避けた方がいいだろうね メモ書きでもいいし、町掲示板みたいなものがあればそこへ符丁を残してもいいかとは思う 懸念としてはアタシ個人に文字数の余裕が全くなさそうだ……
情報共有は俺の方で記載しておく。 同じ宿屋を拠点にする等、共通で出入りが可能な場所を用意してメモ書きを残す、 って程度にしておくから、悪影響とかでないとは思う。