【学乱】パンクリアース学園展覧会

大和気 いぐる

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シナリオID:893

オープニング

●第一回 パンクリアース学園 展覧会開催によせて
 500年の歴史を持つ当学園は、学術的資料を多数収蔵しています。
 これも、歴代の在校生や教師陣の好意の積み重ねといえましょう。

 これらは当学園の宝物庫にて、厳重に保管されてきました。
 それは、一握りの人々しか目にすることができない事を意味します。

 学園長に就任し、私は幸運にも収蔵品を目にする機会を得ました。
 そして、ある一つの考えを抱くに至りました。

 これらの品々を、是非とも学徒の皆様に見ていただきたい――。

 宝物庫には、想像以上の貴重な品々が存在していました。
 素晴らしい芸術作品、珍しい歴史的資料。
 皆様のご期待に十分応えられるものと、信じております。

 私はこれまで『開かれた学園』の理念のもと執務に励んでまいりました。
 これらの収蔵品の公開も、その理念に叶うものと自負しております。

 新たな学術的刺激を得る事は、まことに意義深いものであります。
 この機会が将来にわたり活用されることを願ってやみません。

 関係者各位のご理解とご協力に御礼申し上げ、序文といたします。

 パンクリアース学園長 フォルトゥナ・アルヴァ・クラティアス

●
「君たちは展覧会の手伝いで集まった。
 少なくとも、そのつもりで来てくれたと思う。
 だから話が違う、と言われても仕方ないのだが――」

 リリィ・ナイトレイと名乗った女騎士は、きまり悪げに息をついた。

「あいにく、それは表向きの話だ。
 君たちにやってもらいたいのは、『警備』だ」

 集まった面々は顔を見合わせた。
 警備はもともと、学園が雇っている兵士や傭兵の担当だ。
 そもそも目の前の彼女は『王国騎士』ではないか。

「言いたいことはわかるのだが、なかなかに複雑な話でね――」

●
 新学園長が就任早々振るった辣腕は、多岐にわたる。
 パンクリアース学園展覧会の開催もその一つ。

 学園の収蔵品といえば、聞こえはいい。
 だが、歴代学園長が公私混同で蒐集してきたものも多い。

 貴族の中でも上流の、選ばれた者だけで楽しまれるコレクション。

 それを「もったいない」の一言で一蹴。
 在校生、聴講生、はては事前予約制とはいえ一般にまで開放。
 そんな大胆な計画を、新学園長は立てたのであった。

 もちろん旧学園長とその派閥は反対した。
 だが、反対されたぐらいで、引っ込めるくらいなら。
 ――はなから、そんな事を言い出すわけがないのである。

 学園執行部は水面下で大いに揉めた。
 何人かの教師や理事の首が飛んだとか飛ばないとか。

 結局、新学園長側が押し切って、展覧会は開催にこぎつけた。
 しかし、旧学園長側も、それで黙るわけがない。

 貴重品に何かあっては大変と、警備役を押し付けてきたのである。
 それが、王国騎士にして学園卒業生のリリィ・ナイトレイだった。

●
「さらにややこしい事に、私は王党派の家系。
 ――旧学園長が属する貴族派ではなくてね。
 ……ああ、回りくどいな、どうにも」

 リリィは眉間に皺を寄せ、そこを揉んだ。

「かなり端折って言えば。
 私は、失態を期待されて送り込まれた人材、ということなのだ。
 ――いや、言いたいことはわかる。
 思惑に乗ってやる必要はどこにもない。
 だが、おそらく――授恵者の介入があるだろう」

 特に表情は変えずに、彼女は続けた。

「私は授恵者ではないからな。
 ……まあ、以前、別件で色々あったというのも、あるのだが……」

 最後の方は少し、声が小さかった。

「ややこしい政治は抜きにしても、私はこの企画をいいものだと思う。
 在学中にこんな機会があったら、日参したことだろう。
 つまらん政治で、今後の機会が無くなるのは、避けたいところだ。
 ……どうか、君たちの力を貸してもらえないだろうか」

●展示品目録(一部)
『英雄昇天図』
 英雄ジド・ルウがエーテルの壁と化す直前の様子を描き出した絵画。
 後の宮廷画家ベラケスが卒業記念として寄贈した作品。

『オムレット 初稿』
 後の大劇作家スピアーが、在学中演劇部で公演した台本。
 後にリライトされたものが大ヒットした。
 プロトタイプ版として、一部の人々の間では伝説になっている。

『はじまりの杯』
 金製の古いゴブレット。宝石で飾られている。
 はじまりの百家に王が各家一つづつ授けたという品。

『不可能の楽譜』
 作者不詳。
 不可解な指示と、非常に密度の高い音符群で構成されている。
 音符群が絵のようにも見えるため、風変わりな絵画だという説がある。
 正確な演奏および歌唱は、ほぼ不可能。

『油いらずのランプ』
 今では珍しくもなくなった照明紋具の最初期型。
 触媒の構造が現在と異なっており、耐久性に欠ける。

『名騎手の鞍』
 馬術部の備品庫で発見された、一見、何の変哲もない鞍。
 近年、名騎手ブレイブ・リッチマンが愛用していた品と判明した。
 なお、彼には『実は女性であった』という伝説がある。

『東方の無銘のカタナ』
 ロスガリア大陸の外、「日出ずる国」で作られたとされる剣の一種。
 シャルガネの住人から譲られたことまでは、はっきりしている。

『貴婦人とバイコーン』
 角の生えた馬の魔獣と貴婦人が描かれた見事なタペストリー。
 六枚つづりの連作。モデルやテーマについては謎が多い。

『水晶のおしゃぶり』
 エドゥノーグで出土した謎の品。しゃぶると、おいしいらしい。
(なお展示品には触れないでください)
 似たような品が、今も発掘されることがある。

『フェリックスの壺』
 陶芸家フェリックス作と伝えられる品。
 角笛を折り曲げたような奇妙な形をした壺。
 これを完成させた後、フェリックスは自殺したという。

『金のパンケース』
 作者不詳。丸パンを保存するためと思われるケース。黄金製。
 実はパンの容れ物ではなく、脳みそを象ったものでは?
 という説もあるが真偽は不明。

『珍蛇標本集』
 ヘルベルト・ミヒャエル・リヴァマス講師からの借受品。
 サウゼル大樹林の白蛇の抜け殻(一部)同、双頭黄蛇の鱗など。
 蛇の専門家なら垂涎の貴重なもの。

●来訪予約者リスト(一部)
・セオドア・グスタフ
 前学園長。リストには載っているが実際に来るかは不明。

・ゴーヨーク・アッテンバイヤー
 貴族の館によく出入りしている豪商。美術品・骨董品を扱っている。
 当初、展示品の売買を熱望していたが却下された。
 それなら閲覧だけでも、と食い下がって来訪予約をとりつけた。

・ブルセラム男爵
 馬具コレクターとして知られる貴族。
 あやしい連中との付き合いがあるという噂がある。
 『名騎手の鞍』が目的で見学を申請した。

・デモング
 学術都市ヴァルクリエから、やってきた紋具研究者。ゴブリン族。
 昔、学園の門戸を叩くも、種族的偏見により断念した過去あり。
 『油いらずのランプ』をはじめとする、紋具類の見学が目的。

・在校生 セニャ・リーラント
 王国貴族派貴族、リーラント伯爵家子女。授恵者。
 家人または使用人と一緒に訪れたいとの申請があった。

・マザキヤ仮面
 正体不明。というか、何でリストにこんな名前があるのか。
 リリィは訝しんだ。

解説

 パンクリアース学園展覧会を警備し、問題なく終了させてください。  なお、予期されるのは授恵者の能力に依る盗難・破損などです。  一般人起因のトラブルについては考慮しなくて構いません。  それらはリリィと彼女の部下が解決します。 (彼女は、少々自信を喪失ぎみのようですが)  なお(少々メタですが)OPで未提示の物品が狙われることはありません。  また来訪予約者が実際に全員来るかは不明です。 (描写されないこともあります)  学校関係者、在校生、聴講生の単独来訪は予約不要です。  予約が必要とされているのは、卒業生や部外者となります。 (PCについては手伝いとして雇われているので「関係者」扱いです)  会場は、ダンスホールを一時的に板などで区切って設営しています。  依頼の成功条件は警備をつつがなく終えることです。  犯人を捕らえたり、黒幕を突き止める必要は特にありません。  もちろん可能であれば、そうしても構いません。  また、今回の依頼の報酬はギルド支給でなく学園からとなります。  展示されたものは、警備の合間に自由に見てもらって結構です。  ただし詳しい描写は字数が余ればということになりそうです。  プレイングの配分は、ご留意の上で検討してみてください。  背景情報が比較的多い依頼です。  不明な点があれば、掲示板での質問は遠慮なくどうぞ。  その際はNPCを指名の上でご質問くださいませ。  ただし、全てにお答えできるとは限りませんのでご了承ください。 ▼NPC ・リリィ・ナイトレイ  旧学園長が手配した警備役。今回の実質的な依頼人。非授恵者。  失敗を期待されての人選であり、旧学園長の配下ではありません。  詳細な経歴は関連NPC欄をご参照ください。  基本的に会期中展覧会場にいます。 ・フォルトゥナ・アルヴァ・クラティアス  現学園長。今回の書類上の依頼人。  基本的に執務に忙しく、会場にはいません。  基本、本編には登場しないと考えて下さい。 ・来訪予定者たち  字数の都合上、全員は登場しないと思います。

マスターより

 お世話になっております。  大和気(おおわけ) いぐるです。  今回は警備シナリオです。  授恵者の能力を駆使して、展示品を守り抜いてください。  とはいえ、難易度は普通なので、あまり難しく考えないでください。  単純に名品・珍品の類に触れてみたい方もお気軽にどうぞ。  OP作成にあたって紀藤MS・馬車猪MSにご協力をいただきました。  NPCのお名前その他を貸していただき、ありがとうございました。  この場を借りてお礼申し上げます。

リプレイ

 設営中の展覧会場で冒険者たちは、うち合わせを始めようとしていた。

「学園って、もっと楽しく学ぶ場だと思ってた」
 少しばかり残念そうな顔で、エルシー・サリバンが言う。

「組織の派閥ってやつは、どこにでもあるものさ」
 肩をすくめてギド・フェルミが応じる。
 飄々としつつも、うんざり感が口調に滲み出ていた。

「でも、こういう催しは潰されないようにしたいですね」
 リサ・ベイカーが言った。
 貴族でない彼女からすれば、学園の門戸が開かれるのは喜ばしいことだ。

「確かになぁ~、俺も見過ごせない。無事に成功させねーとな」
 カズマ クレセントブラッドも同意した。
 珍品名品を目にする機会は多いほうがいい。
 いつかやってみようかと思う程度に、交易に興味がある。

『かの怪盗ノレパソは出てきませんが、妨害行為はありまぁす!』
 フリーダ=ブロムヴィストが突然、奇声をあげた。
 一同がぎょっとして、そちらを見る。

「……こほん。突然、いつもの啓示が」

「……いやその。持病の癪みたいに言われても」
 アルマ・ヴァレンタインがツッコんだが、フリーダは気にしない。

「ともかく、皆さんで妨害から展示品を守っていきましょう」
 啓示云々はともかく、その点について誰も異論はなかった。

●
 設営中の会場には、すでに一部の品が運び込まれていた。

「……おっ、『オムレット』の初稿か!
 作者は、ここの生徒だったのか……」
 展示の配置を確認しつつも、珍しい品につい目を奪われる。
 ギドは思わず、古ぼけた羊皮紙に顔を近づけた。

「おいおい、そんなに寄っちゃ、まずいんじゃないか?」
 カズマにたしなめられ、ギドは「おおっと」と顔を引っ込めた。

「……うん、まずいな。
 こんな風に寄ってみたくなる人も多いだろう」

 やや言い訳がましいギドの推察だったが、エルシーは同意した。
「そうだね……アルマさんも、ああだし……」

 アルマは、『水晶のおしゃぶり』に釘づけになっている。
「……おいしい……珍味……どんな味が……」

 今にも我を忘れて、おしゃぶりを口に放り込みかねない凝視っぷりだ。
 それを押し留めているのは、いかにも頼りない、小さな注意書き一つだ。

『なお展示品には触れないでください』

「やー、俺が言うのもなんだけど。
 もうちょっと大きく、注意書きの看板でも立てといたほうがいいな!」
「……うん。あとロープを張って、ちょっと距離を離そうよ!
 近くで見たいのは、私もおんなじだけどね!」

 エルシーは、ちらりと飾りかけのタペストリーに目をやった。
 素晴らしい刺繍に触れてみたい気もするけれど、見るだけにしよう。

「ロープはいいですね。鈴や鳴子を吊るせば警報になります」
「そうね! 鳴らし方や回数で合図にすることもできそう。
 ちょっと符丁をを考えてみるね……」
 フリーダにリサが同意し、メモをとりはじめた。

「それから、まだ設営中ですが、ケースも多めにしてもらいましょう」
「ケースね……そういや『パンケース』なんてものが、あったな。
 あれはどうする? ケースにケースを入れるのも妙じゃない?」
「ふむ……」
ギドが問うと、フリーダは考え込んだ。

「へぇ~、そんな変わったもんが?」
 カズマが何ということもなく『金のパンケース』を眺めやった。
「……なんだか、その『へぇ~』って、しっくりくるな」
 ギドが何故かボタンを押すような仕草をしつつ言う。

『神は言っています……』
 突然フリーダが、囁くような、絞り出すような、妙ちきりんな声を出す。
 一同は再び、ぎょっとした。

『この展示には、ボタンを用意すべきだと……!!』
「ぼ、ボタン?」
「……はっ、また啓示が。……押すと『へぇ~』と鳴ればベストです」
「へ、へぇ~……」
「それはそれとして、一応ケースには入れておきましょう」

●
 展覧会の初日。
 リサは、受付を手伝う生徒として、来場者に油断なく目を配っていた。
 来場予定者については、できるだけリストを頭に叩き込んだ。
 ――武装解除を頼むと揉めそうな貴族もいるなあ……。
 などと心配していたのだが、そのあたりはリリィが請け負ってくれた。
『王国騎士』の肩書きは、それなりに効くようだ。
 今も顔をひきつらせながら、好色そうな男爵の相手をしている。

「すみません、受付はここですか?」
 またひとり、予約者とおぼしき者が声をかけてきた。
 ゴブリンだ。確かリストにあった名前は……。

「ヴァルクリエのデモングです。入場許可の割符はこちらに」
「……ええ、たしかに承っておりますね。ようこそお越しくださいました。
 恐れ入りますが手荷物はお預かりしております。よろしいでしょうか?」
 リサは商家の娘らしく、そつのない笑顔を浮かべた。
 彼も素直に指示に従う。今の所、怪しい様子はない。

《デモング氏、来場。緑色のゴブリンよ。ひとまず異常なし》

 エーテルを使い、念話(テレパス)を送る。
 メンバー全員に通じるわけではないが、便利な技だ。
 念話を受け取った者がロープを引き、他の者に合図を送るのが見えた。

●
「とりあえず、初日は平和に終わったな。
 上からも見てたけど、特になにも無かったよ」
 閉場後、展示物の点検をしつつギドが言った。

 長年、生徒にさえ秘されていたコレクションの一部解禁だ。
 予想以上の人出があった。
 混んでいるから、と来場を翌日以降に回した予約者もいる。

「そうだねー。この調子で最後まで無事すめばいいけど」
「いえ、啓示を軽んじては、なりません」

「とりあえず受付では、あからさまな人はいなかったけど……。
 何か気がついたことがある人、いる?」
 リサが問いかけたが、皆そろって首を振った。

「いいや。頻繁にエーテルで探っていたが、特に手応えはなかった。
 まあ、持続しないし、頭の中は読めないから、気休めだけどな」
 カズマが言う。

「私も、おんなじだよ。
 ティム(ペット)の目線からも変な人はいなかったと思うよ。
 ギドさんとフリーダさんが巡回してたのを嫌がったのかな?」
 エルシーが首をかしげる。

「あのー……一応ボクもいたんだけど」
「アルマさんは、おしゃぶり見すぎ」
 別にアルマも、さぼっていたわけではない。
 背の低い彼女は人垣に埋もれがちだった、というだけだ。
 まあ、暇さえあれば、おしゃぶりの前にはいたけれど。

「今日は相手も様子見だっただけかもしれません。
 明日も油断をせずに参りましょう」
 フリーダの言葉に、一同はそろってうなずいた。

●
 それから数日間、警備上は大きな問題のない日々が続いた。

 展示品の売買をしつこく要求する商人はいたが、面倒くさいだけだ。
 堂々と仮面をつけたままやってきた、怪しいヤツもいた。
 受付で「外してください」と言ったら「さらばだ!」と即退散したが。

 そんな中、リサが遠慮がちに言いだした。
「……別に何かしてるわけじゃないけど、デモングさんが気になるの」

「あのゴブリンの?」
「うん。あの人、毎日来てるし、滞在時間もかなり長いの。
 遠いところから来てるから、長く見たいのかもしれないけど」

「あー、うん。ボクもちょっと気になってた」
 アルマもそれに同調する。
「あの人紋具研究者なんだよね?
 なのに、あんまりランプの前とか、他の紋具のとこ行かないんだよ」

 エルシーも、こっそりとっていたメモを見直してみた。
「そういえば、妙に楽譜に寄ってる……?」

「そりゃ変だな。音楽にも絵にも関係なさそうな職なのに」
「決めつけは禁物だが、注意してみる必要があるか」
「そうですね……」

●
「本日も、ありがとうございます。楽しんでいただけましたか?」
 笑顔は崩さず、リサは帰り際のデモングに声をかけた。

「ええ、何度見ても驚くべき品々ばかりですよ。
 また明日もよろしくお願いします」

 しかし異変は、そのしばらく後に起こった。

 お昼休みが明けた後、一番のお客。

「すみません、ご相談があるのですが……」
 受付に、青い肌をしたゴブリンの女性が声をかけてきた。
 松葉杖に包帯姿が痛々しい。

「私、ヴァルクリエのデモングと申します。
 実は道中、賊に襲われて……割符を無くしてしまったんです」

 通常ならば、どちらが本物か? と迷うところだろう。
 だがリサの目は、真実を瞬時にとらえていた。

 ケガは本物。嘘は言っていない。

《みんな! 今まで来てたデモングさんはニセモノよ!》

●
 予め符丁を決めておいた冒険者たちの行動は迅速だった。

 客を装うエルシーは、同じく生徒のふりをしていたカズマに。
 ギドは巡回役のフリーダに素早く合図を送った。
 人の少ない場所に寄り、小声で情報交換を交わす。

「ずっと様子見で会場を探られてたってことですか」
「そうだ。まだ外にいたりするかい?」
 ギドに言われ、フリーダは壁を透視して外の様子を探ってみた。

 少し離れた場所に、杖を振り上げる緑色のゴブリンがひとり。

「――!!」
 フリーダがロープを引っ張り、とりつけた鈴を鳴らすと同時に。

 ――ふっ、と会場に闇が満ちた。
 ざわざわと、突然の音と暗闇に、来場客のどよめきが走る。

 しかし、間髪入れずにアルマの元気のよい声が響く。
「まかせて!」

 彼女の放った光の魔法が、闇を打ち消し、会場を照らし出した。

「術者はまだ外にいます!」
「よしきた!」
 ギドが曲芸師じみた動きで人垣を抜け、窓から出てゆく。
 フリーダもそれに続いて飛び出した。

「動かないでくれ!」
「安全を確認します!」
 エルシーとカズマは、とまどう会場の人々に声をかけた。
 そして探知用のエーテルを放つ。
 会場から、ゆっくりと密かに出ようとしている反応がふたつ。

「マークできたよね? 会場出てから取り押さえよう」
 エルシーがカズマにこっそり耳打ちする。
 カズマは「ああ」と短くうなずいた。
 防衛に専念するつもりでいたが、この状況なら自分が追うほうがいい。

●
 カズマはエーテルをのせた脚力にものをいわせ、目標に追いすがった。
 武器は預けたので、素手でやりあうしかない。
 けれど相手も条件は同じはずだ。隠し武器の類には警戒すべきだが。

「このっ!!」
 タックルして押さえつけ、床で揉み合いになる。
 かなり殴られたり蹴られたりした。
 だが、相手の力が飛び抜けて強いということもない。
 エーテルで身を固めて乗り切るしかないか……。

 一方エルシーも、相手を取り押さえようと奮闘していた。
 魔矢で攻撃することも考えたが、廊下とはいえ人通りがある。
 ティム(ペット)に怪我をしない程度に協力してもらうことにした。

「やっちゃって!」
「うおおおっ!?」
 死覚から栗鼠に噛みつかれて、相手が痛みにのけぞる。
 ――かと思うと、喉を抑えて苦しみだした。
 見えない何かに、首を絞められているような――。

「会場はリサさんとリリィさんにまかせてきたよ!」

 念話で呼びかけた応援に応えた、アルマの魔法だった。
 カズマが押さえつけていた曲者も、ほどなくして無力化された。

●
 窓から飛び出したギドとフリーダは、驚くべき速さで相手を追い詰めた。

 ギドが放った光糸が伸び、偽デモングを派手に転倒させる。
「あきらめて、おとなしくしなって……!」

「抵抗は無意味です!!」
 フリーダが騎馬のごとく突撃し、相手の杖を蹴り飛ばした。
 見なれない術を使っていたが、少なくとも大技は使えなくなっただろう。

「う、うぐ……」
 あとは2対1。キャスターと思われる曲者が、抗いきれるはずもない。

 手際よくギドにロープで縛り上げられて、偽デモングはうなだれた。

●
「あらためて、礼を言わせてもらおう。
 君たちのおかげで、無事に会期を終えることができた。
 これで、この催しも次につながる目が出てきたことだろう。
 ――ありがとう」

 リリィに続いて、部下の女騎士たちが一斉に礼をした。

「いや、別に。お客さんと品物に何事もなくてよかったよ」
 照れがでたのか、ぶっきらぼうな口調でカズマが言った。

「本当に。私も、個人的に標本がダメになるのは嫌だったし」
 リサが胸をなでおろす。
 珍蛇コレクションのうちのいくつかは、リサが協力した経緯があるのだ。

「……そういえば捕まった曲者は、どうなったんですか?」
 フリーダが問うとリリィは首を振った。

「我が隊で身柄を預かっている。
 旧学園長が手配したのは間違いはなさそうだが……。
 なかなか口を割らなくてね。
 後処理は学園長にゆだねることになりそうだ」

 学内政治は、なかなかに黒いものらしい。

「ねえ、完全に片付けちゃう前に、まだ間があるよね?」
 エルシーが名残惜しそうに言った。

「ああ。もともとは手伝いの名目で集まってもらったのだし。
 撤去が完全に終わるまで、好きに眺めてもらってかまわんよ」

 歓声をあげ、冒険者たちは思い思いの品の前に向かおうとする。

「……ただし、舐めたり、パンを置いたりするのは遠慮してもらおうか」

「エヘヘ……」
「あはは……」
 クギ刺しに、アルマとギドは首をすくめて、愛想笑いを浮かべた。

●
 こうして、第一回 パンクリアース学園展覧会は無事閉場を迎えた。

 ちょっとした騒ぎはあったものの、怪我も物損もなし。
『開かれた学園』のコンセプトは、来場客からは好意的に受け取られた。

 もし、第二回が開かれるなら、その時は。
 もっとゆっくりと――もっと沢山の品を見てみたい。

 宝物庫に戻されていく品々を見送りながら、冒険者たちは、そう思った。

マスターコメント

 第一回 パンクリアース学園展覧会、いかがでしたでしょうか?  連動の展開次第ですが、うまくすれば第二回があるかもしれません。  その時は、もっと気楽に回れるイベシナあたりが出せればいいですね。  ご参加、ありがとうございました!
ショートシナリオ

ショートシナリオ普通 報酬:標準6 / 4〜6人

2021年05月26日 02時00分49秒 公開

成功

相談掲示板

  1. リリィ・ナイトレイ

    今回は面倒なことを頼むことになってしまって、すまない。 力添えに感謝している。 色々と複雑な裏事情を含むから、わからないことがあれば、気軽に聞いてほしい。 まあ、私もそれほど政治が得意というわけでもないのだがな……

  2. リサ・ベイカー

    1年3組、リサ・ベイカーです。 よろしくお願いしますね。 パンクリアース学園生として振る舞うか、ちょっと迷うところですけど、学園の中では結局、学生として見られると思うので、後々の事も考えて、学生として動く感じかなと思っています。

  3. カズマ クレセントブラッド

    1年1組、カズマだぜ、よろしくな(サムズアップ 一応俺は生徒としてふるまいつつこっそり警護する感じで行くぜ まぁどっちかってーと騒ぎになったときに在校生や来訪者を守る感じだな 流石に武器持ち込んで来たらバレバレだから何かあったときは素手で対応するってくらいの気持ちだな 今んとここんな感じか?

  4. エルシー・サリバン

    エルシー・サリバンだよ、ヨロシクね。 何かあっては大変、って事は盗難に限らずって意味だと思って どう気を付けて警護をするか考え中なので、生徒か一般人かまだ考えてないの。 出発まで考えるね。

  5. ギド・フェルミ

    ギドだよ、よろしく頼むなー。 面白い催しだし、今後も続けられるよう大事が起きないように警備したいね。 雇われた警備の体で行くか一般人のふりしてこっそり行くかで悩んでるところだな。

  6. アルマ・ヴァレンタイン

    アルマだよ、どーぞよろしくー。 授恵者の能力に依る~って身体能力がすごい以外にもスキルとか使ってくるのかなー…? とりあえずふつーに警備員さんとしてがんばる予定だよ おしゃぶり…

  7. リサ・ベイカー

    さて、警備といっても具体的にどうしましょうね? 授恵者によるナニカ、を警戒するとして、犯人を捕まえたい訳じゃないので、何も行動を起こさせないのが理想ですけど。 敢えてある程度、警備してます!アピールをしておくのか否か… コッソリ見張る場合、テレパスとかで連絡取れた方が良いのかな?

  8. アルマ・ヴァレンタイン

    ボクはテレパスもってく予定だよー 学園の責任者とか爵位もちのお貴族さまの来賓よていもあるし、 ボディチェックくらいはやるだろうから洞察か取れればエンパシーあたりで 悪意をもってそうな人を伝えてマークしてもらうような感じでぷれいんぐ出そうかなと 万が一の時のために軽装だけど職武器だけはもって光縛封で展示品の保護も書く…よてい

  9. エルシー・サリバン

    それら私もテレパスを持つね~。 後は持ってる中から超聴覚・看破・洞察のどれかかな? 今回は盗難か破壊なのか、単に悪戯で困らせたのか判ってないので 先ず会場の下見をして、変な仕掛けとかされてないか確認をして その後は覆面警備員になって一般人で動こうと思うの。 気に成る動きの人が居たらテレパスで共有化、後は…大物装備は置いて、目立たない武器を持って 万が一は重点硬化で自分を盾に展示品を守ると思う。 今のところはここまで、まだ考え切れてないな。

  10. リサ・ベイカー

    では、わたしは、学生として受付にいましょうか。 テレパスは持っていきますね。

  11. エルシー・サリバン

    受付、ヨロシクだよー。 前回の発言の修正 >予期されるのは授恵者の能力に依る盗難・破損などです。 予期されてたね! >会場は、ダンスホールを一時的に板などで区切って設営しています。 展示品は明記されてるけど、展示方法がこれしか見つけられなかったので こちらで指定しても良いのかな? 展示品の周囲には一定距離を空けてロープで囲うとか 板の区切りは人の流れをスムーズにする程度にして死角を極力作らないとか? そうすれば、皆で巡回する際、動きが不自然じゃない程度に 死角が出来る位置を交代で見回れそうだよ。 >難易度は普通なので、あまり難しく考えないでください。 って事なので、展示法の指定と、何に気を付けて回るかと、もしもの時の対応を書いて 後は美術品を楽しもうと思うの。 それと、困った時のテレパス頼りだね。 テレパスが持てない人は、アイコンタクトや展示物の前でさり気無く会話して情報の共有化を図ると良いなって思ったよ。

  12. ギド・フェルミ

    テレパス了解ー俺も持って行くね。 あとはもう一枠に天眼持っていって、普通に警備員として立っておくようにしようかな。 武器は目立たない暗針で行く予定。 >会場 ある程度展示方法が指示できたら助かるけどちょっと不明瞭だな。リリィに聞いてみる? ロープで近づけないようにするのはすごいいいと思う! 近づく人がいたら一発で分かるだろうしな。見晴らしが良くなるから飛び道具で展示品が破損されないように気をつけたほうがいいかも。 あとはもうあるかもしれないけど、展示品に近づかないでくださいって注意書きを置くとかだな。 せっかく面白いものも見れることだし、 共通の決定事項は上手いこと纏めて、それぞれやりたいことへ文字数使えるように出来るといいね。

  13. リリィ・ナイトレイ

    展示方法は、ある程度ならば調整がきくぞ。 この品を展示しない、というのはさすがに無理だがね。 紋具で保護する、などはさすがに無理だが、ケースを用意したり、ロープで囲ったりは予算の都合もつく。 そうでないと、特に悪意なくおしゃぶりをなめる輩などが出かねないからな…… (MSより:指名はされていませんでしたが、遠慮が先にたってもなんなのでお答えしました。相談のお邪魔でしたら流してください)

  14. エルシー・サリバン

    リリィさんありがとうだよーーっ! 質問するなら皆の意見も纏めた方が良い…のかな?って少し遠慮してたよ。 キドさん、リリィさんに振ってくれてありがとうねっ。 >注意書きを置く うんうん、賛成~!こうしてリリィさんのOKも出たし それぞれに気に成る点をプレに入れて展示方法を書いちゃおうよ。 (不可はマスタリングして貰うだけ) 私は 一定距離を空けロープで囲い、小さい品や風化の恐れがあるのはケースを準備 板の区切りは人の流れをスムーズにする程度とし死角を極力作らず 死角は交代で見張れるように動く こんな感じ?でプレにしようと思うよ。 後は皆の支度を手伝う件も入れるね。

  15. エルシー・サリバン

    あれ……皆に行動を押し付ける発言しちゃってるね、ごめんなさい。 私は「こうしようと思う」って意味に受け取って欲しいよ。 各自でしたい事があると思うので私の発言は気にせずに、自分のしたい事を優先してね。

  16. アルマ・ヴァレンタイン

    もともとの警備プランが分からなかったので詰めてくれてとても助かるよー ケースで保護とかロープで距離をあけるのもいいと思うしね リサさんが受付にいてくれるならボクは洞察巡回しながらの警備にしようかな テレパスでの情報やりとりはそのまま継続で 【リリィさんに質問】 用途も分からないような珍品も多いし、いちいち警備の人に尋ねられてもめんd…大変なので 展示品の近くにOPにあったような由来や説明を記した看板みたいなのを設置 みたいにプレイングで書こうと思うんだけど大丈夫? あとおしゃぶり…イエナンデモアリマセン

  17. フリーダ=ブロムヴィスト

    ウォーリアのフリーダです。よろしくお願いします。 ロープで距離を開けるのは良いアイデアだと思います。 可能であれば小さな鈴等音が鳴る物をを付けておくことで、 何かあった際に音で知らせる事ができるのではないでしょうか?

  18. リリィ・ナイトレイ

    >アルマ殿 そのあたりは展示係や案内係のものが手配してくれているとは思うが……表むき君たちは手伝いで集まったのだし、工夫をこらしてくれても構わない。看板に何かを仕込むことも可能だろうしな。展覧会にふさわしくない物でなければ、設置にとりわけ反対されることはないと思う。……おしゃぶりの件は聞かなかったことにしておこう。

  19. リサ・ベイカー

    ふと思ったことですが、何かしらのイタズラをしようとする側が複数で連携するとした時考えられる手口として、 『一人が気を引いている間に他の人が』 と言うのがありそう。 例えば、わざと物を落として大きな音をたてて、そっちに注意向いた空きに。 って感じ。スリや万引きの手口ですけど。なので、むしろそう言う時こそ私達は観覧客の動きに注意したいですね。 敢えて、こっちで物音たてて誘いをかけるのはやり過ぎでしょうか?

  20. リサ・ベイカー

    あ、フリーダさんの仰る、音の出るものですけど、1、2パターン鳴らし方や回数で符丁を決めて置いても良いかもですね! 最悪、相手がジャマー使ってくる可能性もありますし。

  21. エルシー・サリバン

    出発までまだ1日半あるのに先走っちゃった…って焦っちゃってたよ。 アルマさん、ありがとうね。 フリーダさんの鈴のアイデア、安心感が増して良いと思ったよ。 鈴のプレへの記載は発案者のフリーダさんにお願いしたいな。

  22. エルシー・サリバン

    ゆっくり打ってたら被っちゃったよ。 物音=陽動って事だね、振り回されないように気を付けるね。 鳴らし方や回数で符丁を決めるのはお任せするよ。 開場前に皆で打合せはすると思うから、指示に合せて動く件も入れるね。

  23. フリーダ=ブロムヴィスト

    >ロープに鈴 それではこちらでプレイングに記述しておきますね。 鳴らし方としては鈴の音階で考えていましたが、回数や符丁でも良いかなと思います。

  24. アルマ・ヴァレンタイン

    >リリィさん その辺はやってくれる人がいるのね、ご回答ありがとうございましたー 鈴の鳴らし方に意味を持たせるのもりょーかい、陽動にも気を付けるようにするね こっちで物音をたてるのはー…リリィさんの部下さんとかにも周知できてれば…? それでもそう何度もは難しそうな感じ?

  25. ギド・フェルミ

    リリィは回答ありがとうな! ロープと鈴はよろしく頼むぜ。俺の方には注意書きを置くってプレイングに書いておくね。 一応警備員の体で会場にいることだし、なにか異変があった場合は率先して見に行くようにするつもり。 >誘い込み 今回犯人や黒幕を捕まえるのが目的じゃないから、何度もやる必要はないと思うけどどうだろう?

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0