森に奔る雷光

影絵 企鵝

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シナリオID:813

オープニング

●貧しい領主の逆転策
 リーンエス王国は北の北に位置するティロール子爵領のさらに北。そこは深い森と険しい山が覆っている。農地は猫の額のように狭く、どれだけ農奴を絞っても、取れる税の量はたかが知れている。上位の伯爵はティロールの立場の弱さにつけ込み、何かにつけて金を出すように求めてくる。ティロール子爵の地位を代々受け継いできたフィーギル家はそのおかげでどんどん貧しくなっていき、にっちもさっちもいかない事態に陥りかけていた。

 そこで、フィーギル家の現当主であるマティアス=フィーギルはドワーフの真似事をすることにした。ティロールを流れる小川からは砂金が取れる。つまり、領内のどこかに金の鉱脈が眠っているのだ。もしその鉱脈を引き当てることが出来れば、フィーギル家は息を吹き返すどころか、莫大な財力を元手に王国への発言力をも得ることが出来るかもしれない。まさに乾坤一擲の大作戦であった。

 しかし、その作戦はあっという間に暗礁へ乗り上げる。山の奥には、厄介な連中が手ぐすねを引いて待ち構えていたからである。

●山の奥に眠るもの
 ツルハシを担いだ農奴達、その脇を固める兵士達が小川の流れを頼りに山を登る。目指すは山の中腹に口を晒した洞窟。彼らはドワーフではないし、一から山を掘ろうものならあっという間に落盤するだろう。だが洞窟ならば、とりあえずずっと崩れずにそこにあったわけで、その辺の心配は当面しなくていいだろうというわけだ。ドワーフが聞いたら酒の肴にして笑い転げる事は間違いなしだが、暮らしをよくするために彼らは本気だった。

「ウォルトさん、一体どれだけ山を登ればええんですかね?」
「自分の目で見て考えろ。洞窟は一体どこにある?」
「へえ。これはまだまだ先ですかねえ」

 山のふもとの村を出てからかれこれ一時間は歩いているが、まだ彼らは森の中、洞窟は見えない。頭が空っぽな農奴は呑気なものだったが、領主に顎で使われた兵士達は気が気でなかった。クリーパーの出現は聞こえず、その意味では治安の良い森だったが、その分この森へ安寧を求めて暮らす存在は多い。『山の民』もその一つだ。いつから住み着いていたのかもわからない、山奥に小さな集落をつくって暮らすヒューマンの一群である。これまでは互いに触れ合わず生きてきたティロール領民と山の民であったが、彼らの住処へ踏み込んでどうなるか、兵士達はあまり考えたくなかった。

「隊長、本当に大丈夫なんですかね?」
「知らん、マティアス殿の考えることなど。せいぜい山の民に睨まれんよう祈るんだな」

 しかし、ウォルト隊長が言い終わるか言い終わらないかのうちに、近くの幹に黒塗りの矢が突き刺さった。びしりと鈍い音が響く。農奴達はその場で跳び上がり。兵士達は咄嗟に剣を抜く。ウォルトは溜め息をついた。

「どうやら遅かったらしい」

 ひよひよと、甲高い鹿の鳴き声が響き渡る。馬のように大きな鹿に跨った男達が、森の狭間から次々に飛び出してくる。先頭に立った青年は弓を構え、じっと兵士達を睨む。

「去れ。さすれば命までは取らん」

 背後の鹿騎兵達も次々と弓に矢を番える。ウォルトは剣を諸手に構えて歯を剥きだす。

「山中の蛮族に指図される謂れなどあるものか」

 雄叫びと共にウォルトは青年へ切りかかる。青年が鹿の腹を蹴ると、鹿は軽やかに跳び、木々の中へと紛れる。農民達はツルハシを構えて、不安げに辺りを窺う。

「もう一度警告する。直ちに去れ」

 闇の中から声が響いたかと思うと、木々の狭間から放たれた矢が兵士達の足元へと次々に突き刺さる。兵士達が足を止めた瞬間、青年が鹿と共に飛び出し、腰から抜いた曲刀の反りでウォルトの剣を絡め取り、そのまま弾き飛ばしてしまった。

「この森に近づくな。これ以上はただでは済まんぞ」

 青年は剣を振り上げる。腕に巻かれた毛皮の籠手からは、蒼い火花が散った。ウォルトは諸手を掲げると、そのまま後退りを始める。

「よし、よし。わかった。ここは引き下がろう。だから何もしてくれるなよ」

 ウォルトは部下と農奴を見渡すと、そのまますごすごと山を下っていった。

●『山の民』を追い払え
「そんなわけで、冒険者ギルドにこの依頼が舞い込んできたわけだ」

 冒険者ギルドのとある集会所に集まった君達を前に、一人の仲介人が話を始める。

「目標はティロール領北部の山中に住む部族に対して優位性を示し、山中の洞窟への道を確保することだ。敵の生死は問わず、敵が退いて道を空けるならそれで構わないとのことだ。依頼主の領主が目指しているのはあくまで鉱山開発で、部族の降伏や殲滅じゃないからな」

 仲介人は一枚の羊皮紙を広げる。そこには、鹿に乗って弓を引く一人の男の姿が描かれている。

「現場から逃げかえってきた兵士の一人が描いたという敵兵士の絵だ。見ての通り、よく飼いならされた巨大な鹿に乗っている。山の足場の悪さをものともせずに駆け回り、木々の狭間から次々に矢を射かけてくるらしい。その先頭に立っていたこの青年は、兵士を威圧する際にエーテルを小さな稲妻へと転化させる様子を見せていたらしい。授恵者である可能性もあるな。そうだとすれば厄介だ」

「話し合いで穏便に済むとは思えないが……命を取ろうとすれば相手も死に物狂いで抵抗してくるだろう。時には手心を加えるのも大事だ。というところで、よろしく頼むぞ」

●いざ山へ
 君達は戦いの準備を整えて、ティロール領の山へと足を踏み入れる。鬱蒼と茂る森は、真昼でも薄暗がりの中にあった。最初こそ静かで鳥の鳴き声を聞く余裕もあったが、次第に不穏な空気が満ちてくる。

 眼だ。森の闇のあちこちから、鋭い眼が君達を今射貫いている。

「また来たか。……あの山には何人たりとも近づけさせんぞ」

解説

●目標 『山の民』に対して優位性を示し、撤退させること ●敵勢力 ・鹿騎兵×5  大鹿に跨った山の民。彼らは小さい頃から鹿と慣れ親しんで暮らし、平地を行く騎士の如く山を駆け巡る。  →授恵者ではないのでスキルなどは行使しない。  →機動力と死角から放たれる矢は厄介。 ・キアラン  山の民の兵士を束ねる若大将。山へ頑なに人間を近づけようとしない。  →雷を纏わせた攻撃を用いる。スキルとして洗練されてはいないものの、それなりに脅威。  →その他は鹿騎兵に準ずる。 ●状況 ・獣道が一本通っているだけの険しい山道。登るにしろ下るにしろ体勢が崩れがち。 ・太い幹と薄暗闇のせいで視界が通りにくい。 ・冒険者はキアランなどの気配に気づいているが、発見には至っていない。 ・鹿騎兵達は既に冒険者達を捉えている。 ●PL情報 ・キアランに山へ近づけない理由を尋ねると、『山をそっとしておいてくれ』などの回答が来る。  →何かを隠している事は明らかだが、そこまで踏み込むのは難しい。 ・武器破損などのダメージを受けると騎兵達は撤退する。 ・山の民の自称は『エルベティカ』。

マスターより

初めまして。影絵企鵝と申します。知ってる人は知ってるかもしれませんね。 アルパカなら趣味と言い張れそうなので戻ってきました。こっちでは名前らしく影でひっそりやってきます。 さて、今回は僕も手探りですので、どうかお手柔らかにお願いします。

リプレイ


●森に潜む鹿の騎士
 しんと静まり返った森の中、エフィルミアはぴたりと足を止める。暗い森を見渡しても、人影は見当たらない。しかし彼女は確信していた。
(山の民が集まって様子を窺っています。間違いありません!)
 レヴァーレ・クアルムに海神・江流へと心の声を送り、エフィは素早くビーズのついた長靴を鳴らす。その微かな音に合わせてエーテルの波が森を這って広がり、彼女はあっという間に周囲の地形を把握する。
(上手く隠れたつもりでしょうが……このエフィルミアの眼はごまかせません!)
 彼女は首から下げた呪符を軽く振る。微かな音が押し寄せる波のように森の中を突き進み、太い幹の陰に隠れる一人の男の姿を詳らかにした。
(一人見つけました!)
 エフィルミアは仲間たちへ向かって合図を送る。先に山の民の位置を把握し、奇襲の効果を削ぐ。それが彼女の狙いであった。
 不意に鹿が鳴き始める。女の悲鳴にも似たその声は、山々の中で反響し、四方八方から冒険者達の耳に突き刺さった。レヴァーレは手ぶらのまま身構え、周囲を睨む。
「やれやれ。こっちに気付かれてるってことに気付いたか」
 レヴァーレは王国貴族の落胤。山奥に暮らす民をまるで獣か何かのように追い払おうとするティロール子爵の依頼には辟易していた。とはいえ、ここまで頑固に拒絶する山の民の態度も気にかかる。彼は諸手を上げると、空を見上げて声を張り上げた。
「盛大な歓迎痛み入ります。ですが我々は話し合いを望んでいるんです。顔を突き合わせませんか?」
 その時、鹿に跨る男女が次々に飛び出してきた。既に弓手を突き出して、黒く塗られた矢を構えている。レヴァーレは眉を寄せた。
「これはご挨拶だな」
 一斉に放たれる矢。ルアンナ・ミュラーは咄嗟に飛び退いて矢を躱す。鹿の騎士達はそのそばを素早くすり抜け、再び森の中へと姿を隠す。ルアンナは何とかその姿を目で追いかけ、彼らの背中に向かって叫ぶ。
「待って! 私達は、貴方達と戦うために来たんじゃないんです!」
「ならば去れ」
 女はにべもなく言い返し、再び矢を番える。
「去らぬというなら、我らを退けて進め」
「うーん、力づくな方法はあまり取りたくないのですけど……」
 ルアンナは溜め息をつく。コルネリウス・アーラはそんなルアンナと鹿騎士の間に割って入ると、バックラーを構えて放たれた矢を受け止める。
(狙いは的確ですが、さしたる威力は無しと)
 手練れではあるが、授恵者が放つ一撃ではない。コルネリウスは平衡感覚を研ぎ澄ませ、盾を踊るように振るって矢を弾く。
「私達は領主から依頼を受けてこちらに訪れているだけです。不要に傷つけ合うつもりはありません。……退いては頂けませんか」
「退けと言われて退けるものなら、最初からそうする」
 森の中に一人の声が鈍く響く。一際毛並みの良い鹿に跨った青年が、剛弓を引きながら姿を現す。毛皮の籠手に走った火花が鏃へと流れ込み、目にも止まらぬ速さで矢が奔る。コルネリウスは盾を構え、辛うじて一撃を受け流した。
「私の名前はコルネリウス・アーラです。授恵者であり冒険者です。……貴方の名は?」
 問いかけると、青年は弓を構えたまま彼女を一瞥する。
「俺の名前はキアラン」
 眼を爛々とさせるキアランの姿は、狼を思わせる。
「今、領主から依頼を受けたと言ったな?」
「その通りです。ボク等はティロール子爵から洞窟までの道の確保を依頼された冒険者です」
 エルゼリオ・レイノーラが青年の前に一歩踏み出す。武器には手を掛けず、言葉を選びながらキアランの懐を探る。キアランは弓を下げ、じっとエルゼリオを見つめた。
「ボクはエルゼリオ・レイノーラ。戦いに来たわけじゃないんです。話し合いで済むならそうしたい」
 出奔したとはいえ、彼は王国の騎士に連なる生まれ。王国の所領で勝手に振舞う異人に思うところはある。しかし、交渉すらせず排除へ乗り出す子爵の方針にも納得がいかない。この森に踏み込んだ時から、まず話し合おうと決めていた。
「話し合いか。一体何を話し合う」
 剣呑とした気迫を纏うキアランに、江流も気楽な足取りで近づいていく。
「まあまあ。そんな顔しなさんな。まずはこっちの話を聞いちゃくれんかね」
 言いつつ、江流は周囲に気を配り続ける。キアランは弓を下ろしているが、周囲の騎兵は弦を引き絞ったままだ。いつまた火がついてもおかしくない。
「さっきから言ってるが、俺達はここであんた達に追い返された兵士達の代理でここに来た。山に入ろうとした者を追い返してる事情がそっちにあるように、こっちにも事情があってね。次善策をお互いに考えてみるってわけにはいかんかね?」
 キアランは眉根一つ動かさず、その懐の内は知れない。エルゼリオはもう一歩踏み込んだ。
「ええと、例えば、協力して鉱山を掘ったり、この山の代わりに、別の土地を融通するので、その土地に移ってもらうとか……でしょうか」
 別の土地に移る。その言葉を聞いたキアランは眉を厳しくした。
「それはあまりにも勝手だな。ここは我らの終の地であるのに」
「理不尽な事を言っているのは承知の上です。……それにそもそも、ボク達にはそうした交換条件を用意する権限すらないですからね」
 エルゼリオの父なら口利きの一つくらい出来たかもしれないが、出奔した今となっては夢物語である。話は纏められそうになかった。
 ひりつく空気の中で、コルネリウスは大剣を諸手に構えながら尋ねる。
「では、貴方達はいつからこの山に?」
「四世紀は遡る。我らはかつて、草原を馬で駆けてきた。しかし王国が知らぬ間に境を決め、我らを締め出した。我らが駆ける土地は今や何処にもない」
 キアランは弓を掲げる。エルゼリオは嘆息した。
「退いてはくれませんか」
「我らも逆らわずにはおれぬのだ。……これは、警告でもあるが故に」

●森に輝く雷光
 騎兵達は軽やかに山を跳ね回る。弓を下ろした一人が、曲刀を抜いて一気に坂を駆け下りた。エルゼリオは細剣を構えると、切っ先で騎兵との間合いを測る。騎兵が曲刀を振り被った瞬間、彼は半身になって突進を躱す。
「動きは速いけど……!」
 そのまま後ろに振り返ると、剣を鋭く突き出した。森の暗がりを払う光の矢が飛び、騎兵の手から刃をもぎ取る。騎兵は小さく呻き、そのまま木々の影へと飛び込んだ。代わりに別の騎兵がそこから飛び出し、軽やかに跳ねながら弓を引く。
(やれやれ。随分と頑固だな)
 魔導書を手に取りながら、レヴァーレは騎兵達の表情を冷静に窺う。先に動いたのは領主の側といえ、山の民も子爵の支配がこの山にまで及んでいる事を理解していた。
(警告だのなんだのはただのまやかしで、山で取れる富を独占している可能性もあるか?)
 レヴァーレは魔導書を広げると、光で編まれた網を目の前に擲つ。騎兵が二人、鹿の足を止める間もなく光の網の中に踏み込んでしまった。鹿は甲高く鳴き、その場で大きく仰け反った。騎兵は咄嗟に曲刀を抜き、威嚇するようにレヴァーレへ振り被る。レヴァーレは尋ねた。
「一体山には何が? 村? 金脈? または化け物とか?」
「我らにそれを語る口は持たぬ。何人たりと、かの山に近づくことはならぬのだ。我らも、お前達も」
「それでは何もわからないですよ」
 ルアンナは足を止められた女の顔を覗き込む。曲刀を突き出されても、ルアンナは刃の腹を手で押さえるだけで、反撃せずに尋ねる。
「この山に、何かいるんですか? 『山』と呼ぶくらいの大きな存在とか?」
 女は口を閉ざす。ルアンナは刃を力一杯に抑え込み、さらに女へ訴えた。
「何も言ってくれないんじゃどうにもならないですよ。何が山にあるかがわかれば、それに触れないよう行動できるでしょうし、もしそれに皆さんが困ってるなら、協力して解決することだって……」
「だめだ。あの山に何があるかを知れば、富を求めて已まない者はますます執着する」
「むむ……」
 ルアンナはその言葉の意味を測る。金鉱脈があるかもしれないと信じ込む時点で、領主は相当この山に執着している。それを上回るとなれば。
「つまり、金以上に価値のあるものが、あの山には在る?」
「……話はここまでだ!」
 光の網を振り払い、再び騎兵達は動き出す。木の影へと逃れようとする騎兵達。
「森の勝手を知っているのは、あなた達だけではありません!」
 しかし、エフィルミアは木の幹を蹴りながら軽やかに飛び出した。木々の間を貫く旋風となった彼女は、騎兵の背後へと回り込み、器用に暗器の刃を引っ掛け剣を弾き飛ばす。騎兵は指一本動かすことも出来ない。エフィルミアは逆手に持った暗器を男の首筋に突き付け、静かに耳打ちする。
「私達は今の一瞬で貴方達を殺す事も出来ました。でも貴方達を尊重して、それはしません」
「くっ……」
「この山に眠っているはずの金。それを取らなければ子爵家はいよいよ立ちいかなくなり、領地は混乱してしまいます。黙って引けと言われても、引くわけにはいかないんです」
「麓の暮らしぶりは俺も知っている。……だが、同情してやることは出来ん」
 キアランは曲刀を逆手に握る。エーテルが刃へ流れ込み、青白い光を放つ。彼は鞍の上に飛び乗ると、狼のように犬歯を剥きだす。
「そして、我らも同情は望まぬ!」
 鹿の背中を蹴って飛び出すと、冒険者達の間へ突っ込む。彼が力任せに刃を振り抜くと、一条の雷が森に突き刺さった。真正面に立っていたコルネリウスは、雷の直撃を受ける。
「強い。……ですが、この程度で膝をつきはしません!」
 大剣にエーテルを纏わせ凌いだ彼女は、飛び退くキアランの懐へと一気に踏み込んだ。諸手に握った剣を一気に振り上げ、キアランの刃を叩き折る。
「む……」
 キアランは素早く飛び退き、今度は弓を引こうとする。しかし、既に彼の背後には江流が回り込んでいた。キアランは強引に跳んで江流を引き離そうとする。だが江流は、空中を軽やかに駆けてキアランへ間合いを詰め続ける。
「戦い慣れてるようだが、多勢に無勢ってな」
 江流は二振りの刃を素早く振るい、キアランの剛弓の弦を叩き斬った。鞭を叩きつけたような音が響き、反り返った弓が勢い余って真っ二つに折れる。
 キアランは折れた弓を一瞥すると、素早く放り捨てた。丸腰になったキアランへ、コルネリウスは刃を正眼に構えたまま一歩にじり寄る。
「これでお判り頂けたと思いますが、力量では此方が上です」
 エルベティカの若大将は無言のまま目を背ける。その拳は固く握りしめられていた。エルゼリオは剣を鞘に納め、キアランを真っ直ぐに見据えた。
「お願いします。今回はこのところで矛を収めてくれませんか。今回ボク等が見逃しても、次はもっと強硬な手段を取る連中がやってくるだけです。そうなれば貴方達では太刀打ち出来ません」
 江流は木の枝の上に降り立ち、騎兵達をぐるりと見下ろす。
「今回は俺達みたいなやる気のない奴らだったから良かったさ。だが、それで話が進まないとなったら、今度は軍隊や騎士団が出てきたっておかしくない。あんた達は不用意に山に踏み込んでほしくないんだろ。なら、今回はこの辺で手打ちにしないかね?」
 キアランは立ち上がると、辺りに目を走らせる。冒険者達は武器を下ろしていたが、それでも付け入る隙は一つもない。やがて彼は溜め息をついた。
「そのようだ。我らにもはや選ぶ道も無し」
 彼は仲間達に合図を送る。騎兵達は壊れた武器を捨て、彼の許へと集まる。キアランも自らの鹿を呼び寄せ、その頭をそっと撫でた。今にも去ろうとしている彼らを、エフィルミアはすぐに呼び止めた。
「待ってください。皆さんは、領主と話し合うつもりはありませんか」
「話し合う?」
 首を傾げる青年。コルネリウスは彼に治癒魔法の光を当てながら、静かに語り掛ける。
「貴方達にものっぴきならない事情があるように、ティロールの民にもこの山に分け入らなければならない理由があるのです。私達が間に入り、和解することは出来ませんか? 今すぐでなくても構いませんから。検討いただければ、必ず力になります」
「話し合いなどままならんよ」
「無益な血は流したくないんです。子爵との間に妥協点を見出せれば、お互い傷つかずに済むはずです」
 エルゼリオがさらに訴えるが、キアランは静かに首を振った。
「王国は我らに妥協しない。妥協とは力の均衡の中で見い出されるもの。雑草も同然の我らなど、踏み潰して終いだ。これまでずっとそうだった」
「踏み潰す、ね」
 レヴァーレはぽつりと呟く。彼にとってはよくよく納得のできる話だった。
「だが、我らを慮る心意気は有り難く受け取っておく」
 キアランは鹿の背に跨ると、右手を振って騎兵を森の奥へと走らせる。その後を追って駆けながら、彼は叫んだ。
「せいぜい野火には気を付ける事だ!」
「野火……」
 草木を焼く炎。ルアンナは彼らの背中を目で追いながら、その言葉の示すところを考えていた。

●民草のため
 戦いを終えた冒険者達は、早速子爵の暮らす館へと呼ばれた。六人をもてなしたのは、薄っぺらく切られたチーズとキノコの燻製である。
「それくらいしか客人に用意できるものが無かった。許せ」
 ティロール子爵は羊皮紙にペンを走らせ続ける。身に纏う服は、袖や襟が擦り切れている。
「それで、首尾はどのようであった」
「山の民は退きましたよ。これ以上子爵を邪魔することもないでしょう」
 江流は応える。
「それは何より。ならば本格的に部隊を準備しよう」
 子爵が立ち上がると、ルアンナはそろそろとその顔色を窺う。
「野火に気を付けろと、山の民は言いました。もしかすると、山の中に魔獣などが潜んでいるのかもしれません。少し慎重になった方が」
「悠長にはしておれん。グランツ伯が今年の税の支払いを要求してきた。払えぬのなら農奴から絞ればいいと言っている。これ以上絞れるものなど何もないというのに」
 冒険者達は顔を見合わせる。レヴァーレは冷淡に尋ねた。
「手を止めるつもりはない、と?」
「森の野人の言葉を気に留めている暇はない」
 子爵の眼は野心に揺らめいていた。その口ぶりに、コルネリウスとエフィルミアは眉を顰める。
(森の野人、ですか)
(これでは話し合いなど望めません……)
 重苦しい空気が辺りに落ち込む。エルゼリオはそれでも辛抱強く尋ねた。
「山の事は彼らの方が詳しいはずです。上手く味方につけるという方法だってあるはずでしょうに」
「王国への服従を拒む連中と結んだと知れれば、これ幸いと伯は我らを責め立てる。たとえ金が取れたとしても、それでは意味がない」
 羊皮紙を丸めると、彼は鷲の足先に紐で括りつけた。
「私は進む。お前たちに何と言われようとも、退く路はない」



 ティロールの山、洞窟の中で鈍い音が響く。

 地を震わす息遣い。黄金が闇の中でぎょろりと動いた。



  つづく

マスターコメント

ご参加ありがとうございました。久方ぶり過ぎて限られた文字数の使い方を忘れかけていました。気に入っていただける出来になっていればいいのですが。 麓の民と山の民、お互いに和解の余地は無しでした。窮鼠猫を噛み、貧すれば鈍するなり。それでも皆さんの言葉や振る舞いはキアランに届いたことと思います。近いうちに次回のシナリオを用意したいと思うので、楽しみに待っていただければと思います。 それでは。
ショートシナリオ

ショートシナリオ易しい 報酬:標準6 / 4〜6人

2021年04月26日 08時45分47秒 公開

成功

相談掲示板

  1. コルネリウス・アーラ

    ウォーリアのコルネリウスです、宜しくお願いします。 前衛、防御を重視して主に動く予定です。 山の民の生死は問わないとのことですが、今後のことも踏まえれば死人は出したくありませんね。 特に鹿騎兵は授恵者でないのであれば、スキル使用で無闇に攻撃してしまうと危険かと思いますので注意したいです。 説得を行いながら武器破損に留めて撤退を狙いたいところですが如何でしょう。

  2. ルアンナ・ミュラー

    キャスターのルアンナです。よろしくお願いします。 あまり武力での解決はあまりしたくはありませんね。 『山をそっとしておいてくれ』という言葉が気になりますね。 何か大きなものが山にいて、それを知らない部外者が山に入って暴れさせたりさせない為とか考えたんですが…。

  3. レヴァーレ・クアルム

    レヴァーレ・クアルムです、よろしく。 困窮して、という事情はわかりましたが……それで選ぶのが強硬手段とは、これだから王国貴族という奴は。 さて、俺としても人的被害を出さない方針で良いかと考えます。 幼少から共に暮らしているなら、敵意の増幅を抑えるために彼らの乗る鹿もできれば討ちたくはありませんね。 なので攻撃は最低限に留め、動きを制限するように立ち回るのが良いでしょうか。 まずこちらは敵の正確な位置を捕捉できておらず、かつ囲まれた状況からの始まりと想定すると……手近な木、ないしはその枝を切り落として動かすとか? 若大将から言葉を引き出すためにアーラさんの仰るように説得・交渉も並行しつつですね。 今回の依頼の目標だけ見れば奥に進めるようになりさえすれば良いのでしょうが……山の民が命のやりとりまで視野に入れて阻むのであれば、事情を把握したうえでという条件付きで最悪失敗になっても良いのではないかと個人的に思ってしまいますね。

  4. 海神 江流

    シーフの海神江流だよ。今回は宜しくね。 依頼の目的は達しないといけないけれど、 武力行使は極力控えて相手方にも被害は出したくないってトコかな。 自分もそのへんは賛同。 此方も故あって此処を訪れている訳だし、言葉を交わすなら此方の事情を先に明かして見たほうが相手の反応を引き出しやすいんじゃないかな。 その上で、お互いに引けないラインが見えてくれば”望まずとも衝突してしまう事態もありうる”んだろうなぁ。とか。 そうなってしまった時に、俺達と今回ここで事を構えるのは得策じゃないぞと相手に思ってもらえればいいんだろうね。 レヴァーレさんが言ってくれてるような方策でそれを目指せればいいのかなと思ったところ。 まぁ、この山の事についてはあちらさんの方が詳しいんだろうし、そのへんは相手を立てて話を振れる程度の余裕は持って臨みたい気もするかな。 取り敢えず【交渉】のスキルは用意しておくつもり。

  5. エルゼリオ・レイノーラ

    ヒーラーのエルゼリオ・レイノーラだよ。 今回は宜しくね! 武力行使は極力控える方針にボクも賛成。 無断で山に住み付いちゃってる山の民達にも問題はあるけれど、 交渉もせずに強硬手段で排除しようとする子爵のやり方は指示しかねるよね。 (依頼主だけど…) 説得・交渉と並行しつつ、攻撃は最低限(主に武器狙い)に留めたい所。

  6. エフィルミア

    シーフのエフィルミアですっ。よろしくお願いします! 私も武力行使は控える方針に賛成です。 鹿も彼らの相棒ですし、なるべく怪我させないようにしたいですねっ。 今回は「山をそっとしておいてくれ」としか答えてくれないみたいですけど このままでは子爵家が潰れて、領民も路頭に迷うという話をして 理由も分からず引き下がるわけにはいかない!という姿勢は見せておきたいですねっ。 今は理由を話せずとも、次回武器を持たずに 席に座って交渉出来る機会を作れるようにしたいです。 彼らの強気な態度は「自分達に地の利がある」「冒険者に見つかっていないので一方的に攻撃出来る」という優位性から来ているように感じるので、 この優位性を覆してしまうといいのかもしれません。 探波があれば地形は分かりますし、捜波があれば障害物が多くても敵の居る場所は丸わかりですから! 足止め系のスキルや傷つけないBSを付与するのもいいかもっ。

  7. レヴァーレ・クアルム

    ひとまず方針は共有できましたね。 対話と、直接の攻撃以外の手段で撤退に追い込むと。 エフィルミアさんの言う「優位性を覆す」というのはかなり良いと思いますね。 一気に優劣がひっくり返ればインパクトもありますし、その上でこちらが対話する姿勢を見せれば事を上手く運び易いのではないかと。 問答無用で攻撃を仕掛けてこないなら、こちらの動きを警戒して腹を探るために会話はできそうかなと。 その間に探波・捜波で周囲を把握、準備が整ったところで一斉に移動や行動阻害にて優位性を逆転させればこちらの力を示せるのではないかと思うのですが……如何でしょう?

  8. コルネリウス・アーラ

    子爵についてはいずれお灸を据える機会でもあれば良いですね。 会話が通じない相手とは思いたくないので、これから先のことも踏まえて対話の姿勢はしっかり見せていきたいです。 基本的に、スキルは防御系を中心に積んで行く予定です あとは拗れた時などに足止め用の殺界など検討しています…攻撃はキャンセルして害は与えないように使用するつもりです。 デバフを付与する場合はしっかり回復することまでセットで考えておきたいですね。

  9. 海神 江流

    捜波、探波はエフィに全部任せちゃって大丈夫かい? そのへんに重きを置くなら俺も用意して効果範囲を広くしてみるとかも出来るけど。 前と後ろとか、右と左とかで。 レヴァーレさんの言ってくれてる此方からの一斉行動の際にインパクトを強く与えて優位性を覆すなら、捜波・探波して得た情報をテレパスで共有して此方から先手を取ってみたら面白いかも。

  10. エフィルミア

    準備が整ったところで一斉に行動!いいと思います! 一気にやっちゃいましょう! >デバフを回復することまでセット Σ回復の事は全然考えてませんでした! 怪我させるデバフじゃなければ、そのうち自然回復するからいいかなって…! 私のデバフは毒しかないので、今回はデバフを付けずに大人しくしてますねっ。 いい感じのデバフを持ってる人におまかせしますっ。 言い出した私がこんな感じですいません…! >捜波、探波 はい!私におまかせですよ!全員バッチリ見つけてみせますともっ。 探波で大体の地形を掴めれば、私達から死角になる隠れ場所も限られてくるので 捜波で見つけやすくなりますし、一人でもいけるかと! >テレパス おぉー!テレパス! テレパスって一度にたくさんの人に遅れましたっけ…? 一度に送れるなら、可能なら皆さんにセットして貰って送りたいところですけども! 一度に送れないなら、一人ずつに送るのは手間がかかりすぎるので、ハンドサインとかがいいでしょうか?

  11. レヴァーレ・クアルム

    >BS回復 これについては俺も自然回復に任せるかなと思っていました……というか俺の方では回復させる手段がないのでどちらにせよ任せてしまう形ですね。 怪我に備えてヒールは使えるようにしていきますが。 とりあえず移動阻害を広範囲に撒けるスタティックフィールドがあるのでそちらと、こちらからの攻撃をあまり考えない都合上命中と物攻低下できるようにしていきますね。 >テレパス 非常に有用かと思います。 が……実はギリギリ習得できずでして。 一応今日返ってくる予定の依頼の報酬で習得できるかもしれませんので、できれば使えるようにします。 テレパス以外でとなれば何か言葉、でも良いのではと。 合図を出す状況なら準備が整っているはずですし、相手に意味がわからなければ不審に思われても問題はないかなと。

  12. コルネリウス・アーラ

    >BS回復 あ、それもそうですね。すっかりその辺りを忘れてしまっていました、すみません。でしたら怪我の治療用にヒールで充分そうですね。私も今回は枠に余裕があるのでヒールは持つ予定です。 >テレパス 一方通行で1名に送る認識でしたね。2名持って居れば会話のようにやり取りは出来ますので、近くの方には情報を受け取った方が伝えて周知する形になるでしょうか。 私も所持していますので、必要でしたら持っていけます。入用でしたら仰ってくださいね。

  13. 海神 江流

    エフィも持ってるみたいだから、一応テレパスは用意しておくね。 レヴァーレさんとも繋がれるようなら手厚くていいねという感じで。 交渉にすんなり入れればいいけど、まぁ、前回は先に警告があったみたいだから言葉を投げるタイミングくらいはあると思いたいところ。 一斉に動くタイミングではキアランだっけ。あちらさんの大将に迫ってみようかな。と

  14. レヴァーレ・クアルム

    どうにかテレパスを習得できましたので、こちらにも飛ばして頂ければ。 交渉・対話については希望者がいればおまかせしたいですが、誰もいなければ俺の方から矢面に立たせてもらおうかと。 おそらくはリーダーと相対する事になるでしょうから、洞察で様子を伺ってみようかと思っています。 魔導書を背に隠して両手を挙げて丸腰をアピールしつつ、ですかね。

  15. エフィルミア

    レヴァーレさん、わざわざテレパスの取得ありがとうございます…! 貴重なSPを使わせちゃって大丈夫だったかな…!(あわわわわ) レヴァーレさんがリーダーと話をして気を引いてくれている隙に ばっちり探波、捜波して伝えますので! エルさんもテレパスありがとうございます! コルネリウスさんも、もし持ってくれるのであればきちんと伝えられるようにしますねっ。 ハンドサインも使う予定なので、あれば詳しく知れて便利くらいな感じで…! >個人 私は疾風足があるので可能な限り遠くに潜んでいる兵士を狙ってみようと思います! 一気に距離を詰められるのは弓兵が嫌がる事でしょうし 「鹿に乗っているので機動力は自分達の方が優れている」という前提を覆してみたいなぁっと! 近づいたら【無拍子】で武器だけ弾き飛ばすようにしますっ。

  16. エルゼリオ・レイノーラ

    ボクは足止め用に光縛封、武器破壊用には魔矢・エーテルブロー2を活性化して行くね! その他、回復用にサイドヒール改・ヒール・(念の為)解呪2を。 対話用に交渉スキルも持って行く予定。 >ハンドサイン >エフィルミアさん ボクは交渉スキルを積んで行く都合上、テレパスを持って行けないから、 ハンドサインで合図して貰えるとスッゴク助かるな!

  17. エフィルミア

    Σは!抜けがあった! コルネリウスさんテレパスについて教えてくれてありがとうございましたー!

  18. エフィルミア

    >エルゼリオさん >ハンドサイン 了解です!近くの仲間同士で情報交換したり、ハンドサインで分かるようにしたりしておきますねっ! 交渉も頼りにしてます!皆で頑張りましょー!

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0