【CP】朝霞に兆しは眠る

棟方ろか

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シナリオID:589

オープニング

 冬が老いていくのを感じるこの時期、落ち尽くした葉は薄い白を粧って、さくさくと軽やかな靴音を生み出していく。まだ猫もまどろむ暗い朝、帝国テタール伯の末娘リュシエンヌは、難民の大人たちと共にキャンプ外周の見回りをしていた。
 冬に眠る獣も多いのか、この地を訪れた頃に比べると随分静かな早朝だ。
 しかし清々しく感じる理由は、それだけではなく。
「冒険者さんのお力添えもあって、だいぶ変わりましたね。こうして改めて見ると」
 環境の改善、水と食料の確保が進み、当初恐れていた『冬』とは違う冬になったのを、リュシエンヌを始め難民たちは実感している。飢えと寒さで苦しみ続ける日々をも覚悟していたかれらにとって、今の状況は想像以上に暖かい。だからか冒険者に感謝し、憧れている難民も多かった。
 そう。体力をつけ、武器を持ち――自分たちも戦うぞと意気込む難民が、増えつつある。
「最初に比べると、リュシーたちお嬢ちゃんコンビも逞しくなったよなあ」
 お嬢ちゃんコンビ、と称されてリュシエンヌが瞬げば、同道する二人が笑う。
「あ。最初と言やリュシー。前にチビどもに見せてたペンダントはどうした?」
 突然思い出した言葉を、片方の男性が薄い幕にも布にも包まず口にしたものだから、少女の肩がぴょんと跳ねる。
 難民キャンプが出来て間もない頃。ショックや恐怖で泣いていた幼子たちの気を紛らすため、こっそりリュシエンヌが触らせていたペンダントだ。キャンプ設立当初から彼女と交流のある二人は、それを知っていたのだが。
「ええと……無くしたんです、私!」
 思いがけない少女の告白に、大の大人二人が目を丸くした。
「なくした!? 母親の形見だって言ってなかったか? ここ(キャンプ)で無くしたんなら探して……」
 すると、リュシエンヌが大袈裟なぐらいにかぶりを振った。
「結構前のことですしっ、川か森へ出たときに落としたと思うので! お気になさらず!」
「いや、大事なものなんだろ、今からでも……」
「リュシー、ポール、隠れろッ」
 声が上がると同時、言い合っていた二人が半ば反射的に土嚢と荷車の陰へ身を寄せる。井戸作りの際、冒険者たちがキャンプ外周に作った土嚢の山だ。雨の日も風の日も防御壁としての役割を果たし続ける土嚢たちも、最近は淡い白を纏っていて、冷たい。
 だが土嚢の温度よりもリュシエンヌらが気になったのは、霞む林の中でぞろぞろと蠢く、何か。
 リュシエンヌが、かじかむ手を摩りながら目を懲らす。すると犬を連想させる尖った口のシルエットに、遠くからでも気付けた。
「あれは……コボルト……?」
 コボルト――何故か、キャンプ近辺で目撃報告が入りつつある亜人。どの個体も同じにしか見えないため、これまでに目撃された相手と同一かは不明だが、どちらにしても、辺りで目撃例が続くのは只事ではない。
「ポールさん、トムさん、たしか冒険者さんが何名か滞在してましたよね!?」
「あ、ああ。昨晩も見かけたし、これだけ広いキャンプだ、何処かには……」
 ポールが答えると、リュシエンヌは怪しげな群れから目を離さずに続けた。
「すぐに呼んできていただけますか? 私が見張っておきますので」
「わかった、ひとっ走りしてくる」
「さっき向こうにいたアダンも連れて来るから、待ってろリュシー」
 言うや否やポールとトムはキャンプ内へ引き返していく。仲間と、頼もしい冒険者の力を借りるために。
 話し相手のいなくなった土嚢と荷車の陰で、リュシエンヌは蠢く狗人らの姿を、冴えた双眸でじいっと追った。まだ人々が眠りに就いている時間を狙っての襲撃かと警戒するも、コボルトたちは一向に近づいてこない。近付いて来ないが、立ち去る様子もなかった。
(林で何かしてるのかしら? それともこちらを窺ってる? ……変な感じ)
 言い表しにくい嫌な予感を覚えたリュシエンヌは、何かを握るように胸元できゅっと拳を作る。
 ――静寂が打ち破られる、ほんの少し前のことだった。

解説

●成功条件  キャンプに被害が出る前に、コボルトを殲滅する ●状況  舞台は難民キャンプの近く。土嚢の防壁よりずっと向こう、林に敵がいます。  冒険者たちが土嚢辺りに駆けつけた後からスタート。  防護壁から林までの間に遮蔽物はありませんが、早朝の霧で景色がほんのり霞んでいます。  また、土嚢がある場所は、幸いにも居住区画となっているテント群から離れています。  派手に騒いでも、難民たちを怖がらせることはありません。 ●敵 コボルト×12体  石斧やスリングショットの他、何処で拾ったのか古びた剣を持っている個体も。  特殊な力を使う個体はいないが、全体的に好戦的で怯みにくい。 ※武器や敵の数はPL情報ですが、気にしなくてOKですよ! ●NPC(味方) リュシエンヌ・テタール  帝国難民。貴族の箱入り娘だが、冒険者たちとの関わりで徐々に変わりつつある。  授恵者で、愛用の斧をぶんぶん振って戦うウォーリア。 ポール、トム、アダン  帝国難民。三人とも男性。  一応戦えるが、授恵者ではない。小さな盾と軽めの片手剣が武器。

マスターより

 コボルト軍団をボコボコにしましょう!  ご縁がございましたら、よろしくお願いいたします。

リプレイ

 まだまだ眠りを催す風音が支配する難民キャンプの片端で、冒険者たちは邂逅のときを迎えようとしていた。
 四辺を見回しても景色は変わらない。後方へ進めば難民たちの生活があり、前方には土嚢と、その先に林が横たわり――コボルトの群れが蠢いている。前途が霧に遮られ明瞭ではないが、しかしエミリア・シバもまた、景色同様に常と変わらない。
「おねえさん、基本夜型なのよねぇ」
「あの、寝不足……ですか?」
 心配して尋ねたスノードロップに、ふふ、とエミリアは頬をもたげて。
「いつものことだから慣れてるわ。安心してスノードロップちゃん」
 視覚以外に頼れるものがエミリアにも多かった。焦らずとも、蝟集する狗人(コボルト)の匂いや気配は察することが叶う。
「布陣が分散してるわけじゃないみたいね」
「ああ、まとまってるのはやりやすいな」
 アルベルト=V=シュタールシュヴェーアトが不敵に笑い、相槌を打った。
 防護壁の遥か向こうへ意識をやりながら、オゴスは怪しい動きから目を離さずにいたリュシエンヌへ尋ねる。
「俺たちが来るまでに、動きはありましたか?」
「特には……こちらを窺ってそうなんですけど、身を隠す様子はなさそうでした」
 困惑を表情に乗せる彼女に、そうですか、とオゴスも唸った。
(狗共が何か企んでいる? 何を?)
 わざわざ早朝に姿を見せた点。風向きや温度を頼りに、好機を待っていたのかとも考えて。
 そこでふと、武器を握り直したコルネリウス・アーラが、意気揚々と立つポールたち三人の難民へ呼びかける。
「ポールさんたちお三方は、安全な距離を保って待機をお願いいたします」
「え、だ、だが俺たちも戦えるぞ!? そりゃあアンタら程じゃないが」
 戦う気力に満ちていた男たちは面食らう。
 戸惑う三人を見兼ねて、そっとオゴスが打楽器を差し出した。
「待機中に何かあれば、こちらを使って報せてください」
 音ならば視界不良でも届く。わかった、と肯うポールへ打楽器を手渡した直後、あ、とオゴスは声をあげて。
「以前キャンプ(ここ)で悪人を演じましたが、本当は冒険者ですよ、俺」
「あー、例のがアンタか。俺らは居合わせなかったが、リュシーから聞いたよ」
 ポールたちの反応は、オゴスが想定していたよりも柔和で、しかも軽い。
「安心してくれ。俺らの間で語り種(ぐさ)にはなってるが、邪険には扱わんよ」
「それはそれで気恥ずかしいのですが……」
 思わぬ報告を受けて、オゴスが思わず頬を掻く。
 ――まだ、群れは動かない。正確には、動いてこそいるものの、冒険者たちは感覚的に襲撃の前兆とは違う予感を抱いていた。まもなく敵の数と陣形を捉えた冒険者たちが、顔を見合せる。
「性懲りもなく、っていうのはああいうのを言うんだよな」
 半ば呆れた様子でアルベルトは大太刀を振り抜く。
「そう、かもしれませんね。安全のためにも手早く退治しないと……」
 こくんと顎を引いたスノードロップも、そう連ねて戦鎚を握る。
 脅威が、生活圏のすぐ側まで来ている。事実はスノードロップの喉をこくりと鳴らした。
(こんなキャンプ近くに出てくるなんて……)
 一体一体はさほどでも無いコボルトも、集団で攻められたら只では済まない。ましてスノードロップたちが背に守っているのは、難民キャンプ。身動きままならぬ者も多い世界だ。考える程、拳を握る力が強まる。守らねばと、鼓動が胸を叩くのをスノードロップは感じて、祈る。
 彼の清廉なる祈りは、霞む景色に霧を喚ぶ。けれど霧の内側で渦巻くのは、少年の雰囲気からは遠い嵐だ。
 こうして彼ら冒険者の意思は迷いも躊躇もなく、ただ敵一点のみに注がれた。

●
 性懲りもなく人の日常を壊しにきた狗人(コボルト)の群れへと、アルベルトが切り込む。
 すると何事か話し合っていたらしきコボルト一行が、俄にざわつく。
 スノードロップの招いた霧で雷が荒らぶり、狗人を焦がす間も、アルベルトの刀身は風を切る音さえ惜しむように、紫電の如き一撃で敵を裂いた。瞬く間の出来事に敵陣は掻き乱される。だがやかましい様相にも油断せず、アルベルトは鋭く睨みつける。
「此処に目をつけたのが間違いだって教えてやるぜ。来い!」
 言葉が通じずとも、彼の闘志はひりひりと狗人らの身を焼いた。そして。
「「グオォォァァアァ!!!」」
 コボルトの雄叫びが重なり、大地が震える。
「あの敵は俺が」
 咄嗟に、宣言とともにオゴスが結い上げた光の一矢は、スリングショットを構えた一体へ放たれる。数人で感覚を研ぎ澄ませながら挑んだのもあり、白んだ戦場で狙いを定めるのに造作もなかった。
 何気なく樹上を仰ぎ見たコルネリウスは、林で過ごしている筈の冬鳥がいないことに不安を抱く。平時ならば、ふわふわの毛を纏った鳥たちが身を寄せ合う姿もあったのに――静かすぎる。狗人(コボルト)という脅威が織り成す騒音を除いて、林も大地も未だまどろみの中にあった。
 だからこそコルネリウスは大剣を振り上げる。早朝を荒らす者へ、エーテルの宿った一太刀を贈るために。迫りくる敵がいかに身軽だろうと、体幹を支える脚を砕いてしまえば均衡は崩れる。
「ガェアァ!?」
 痛みに悲鳴をあげた狗人(コボルト)を眼前に、コルネリウスは短く息を吐く。
「リュシエンヌさん、こちらの個体を! 全力で!」
「ええ、いきますよっ!」
 彼女の呼吸に合わせて、リュシエンヌも斧を振るう。渾身の一撃に沈めば、二人は目線を結び笑顔を浮かべた。
 流すような視線で敵数も確認していたエミリアへ、その美しき夜に惹かれたコボルトが強攻する。
 しかし無理に押し迫った先は、二刀の領域。
「んーーもう、空気の読めない子」
 標的と化した敵に、逃れる術(すべ)はなかった。瞬く間にエミリアの斬撃が命を狩る。
 回り込まれる可能性まで警戒していたエミリアは感付く。洗練されつつあるものの、狗人(コボルト)の動きはやはり亜人の域を抜けない。戦闘には慣れているが、上手ではない一味だ。ならば穴だらけとも言える。
 そのとき、戦場に少年の声が響いた。
「あの辺りの敵、弱ってきています!」
 仲間たちとの距離を計っていたスノードロップの一声だ。
 報せを受けたアルベルトが方角を定め、走る。
「よし、数を減らす!」
 戦意が滾って止まない敵の一群は、逃げも隠れもしなかった。
「探す手間が省けるぜ、さて、これに堪えられるか!?」
 笑みを唇に刷き、アルベルトは光の塊を得物に宿す。朝の色をも連れた狗人(コボルト)へ振り下ろした巨大な輝きは、目が眩む暇すら与えずかれらを打ちのめす。かの者が握っていた、古びた剣ごと。
 そしてアルベルトへ集いかけた敵の意識を、面差しこそ変わらぬコルネリウスが殺気で射抜く。狗人は総毛立った。彼女(アレ)を放るのは恐ろしいと思い込み、がむしゃらに剣を振り回す。しかし確と盾を構えた彼女に、筋の通らぬ刃は本来の威力を発揮しない。
「どうしたのでしょう。怖気づきましたか?」
「ギ……グァェ」
 受け止めた一振りも盾で押し返し、惑う狗人へ微笑と鋼を届ける。
「これは幸いですね……っと!」
 狗人を喰い破った剣を引くと同時、遠くから棘付きの堅い木の実が飛んできた。スリングショットを使う狗人が、まだいる。
「射手は俺が射返します」
 盾の向きを転じようとしたコルネリウスへ、離れた場所からオゴスが声をかけた。
「承知致しました、では早速」
 コルネリウスは再度、四囲の群れと相対する。彼女への執着を滲ませた狗人らに、彼女から逃れる術(すべ)はない。
 一方、突出している仲間がいないか見回したエミリアは、薪割の要領で敵の脳天を叩く少女へ呼びかけた。
「あらぁ、リュシエンヌちゃん、あまり前に出過ぎないようにねぇ」
「! は、はいっ、ありがとうございます!」
 会釈も感謝の声も、霞みがかった景色に消え入る。
 彼女が下がったのを確かめ、エミリアはうんうんと頷きながら、再び辺りへ目を配った。
「僕が支えますから! 皆さん、引き続き攻撃に集中を!」
 戦鎚を相棒に立つスノードロップが、冴えた早朝の空気に温かな光を拡げていく。己の力を活かして悪を裁き、時に仲間を後押しする――これこそが神から与えられた使命なのだと、少年は信じている。だから揺らがない。前で攻撃を一手に引き受けるコルネリウスや、高い火力で屠り続けるアルベルトにも、癒しの術でスノードロップは触れて援護する。
 波打つエーテルはまるで曙光のようだ。明るい兆しが戦場に射すと、仲間たちの攻勢も強固なものとなる。
 代わりに狗人(コボルト)一行はたじろいだ。冒険者たちの連携と猛攻を浴びたかれらは、なかなか人が倒れない状況に、どこかで焦り始めていたのかもしれない。

●
「残存三体! 風下から来ます!」
 コルネリウスの伝達に、仲間たちが応じた。
「そ。じゃあ先ずは、おねえさんに任せてちょうだい」
 逸早く地を蹴ったのはエミリアだ。
 ふわりと夜が舞う。雲集する敵へ瞬時に近付いたエミリアは、騒ぎ立てた一体へ三連撃(トリプルファング)をもたらす。二振りの剣による鮮やかな手腕は、起きた事態を当人が把握するまで、僅かな時間を作る――気付いた時にはもう遅い。当人の眼前にいた筈の彼女は、まるで他人事のように眺めていて。
「朝っぱらから訪問するなら、ちゃんと一言入れておかなくちゃね」
 唇を指の腹で撫でながら、エミリアがうっそりと微笑む。彼女の動きを追い切れなかったコボルトは、未だ諦める素振りもなく石斧と剣を振り翳(かざ)すばかりだ。
 静かに、と人差し指を唇へ押し当てる代わりに、リュシエンヌが斧で狗人を怯ませた、その後方。
 オゴスは黒の書を開き、記された文字列を口ずさむ。指で狗人(コボルト)の塊を示せば、彼の意思に沿って光の奔流が駆ける。潮流を思わせる勢いで、光波が敵を呑み込めば、目の当たりにした最後の一体がギャアギャアと声高に騒ぎ出した。
 すると、真白き少年めがけて石斧が振り回される。ガツッ、と鈍い音と共に殴打の衝撃こそ伝わったが、守りに自信のあるスノードロップを砕くには至らない。しかも迷わず迫撃してきた相手だ。ぱちぱちとスノードロップは一驚して瞬(しばたた)く。
「こんな近くまで来ていいんですか?」
 無謀だと指摘したスノードロップの言を理解したのか否か、狗人の眼光が震えた。
 ――ここには、多くの帝国国民がいる。
 身を寄せ合って暮らす彼らに、アルベルトも幾度となく接してきた。だからこそ猛る腕にも力が入る。
「民の安全を守ることこそ、帝国貴族たる俺の義務だ!」
 宣言を乗せ、朝霞ごと狗人(コボルト)を強襲したアルベルトは、残っていた一体を死の底へ送っていく。
 すかさずスノードロップが治癒術(ヒール)を彼へ施し、場は静寂を取り戻した。
 そして幸運が味方したのか否か、アルベルトは崩れるコボルトから転がり落ちた、鈍い輝きを見逃さない。
「なんだこれは……?」
 拾い上げた物は黒ずんでいて、酷く汚れていた。
「んー、静かになったし二度寝を決め込んじゃおうかしらー、なんて」
 エミリアは頬に笑みを乗せて、自らの発言をよそに戦の残り香を辿る。すん、と鳴らした鼻先でコボルトの滓を追うと、林の向こうまで匂いは続いた。林を抜ければまだ追えそうだが、途中に川があるため陸が分断されている。匂いもそこで途切れているだろう。
(やぁね、こんなに濃く残ってるだなんて……もしかして、さっきの所に来て間もなかったとか?)
「エミリアさーん! 遠くまで行くと、危ないですよっ」
 沈思していると、後ろからスノードロップたちに呼ばれた。
「はぁい、すぐ行くわぁ」
 こうして、林の捜索も済ませて冒険者たちは難民キャンプへ戻っていく。

●
「罠を仕掛けもしてなくて、コボルトたちの様子、変な感じでしたよね」
 大粒の眼(まなこ)をくるくると彷徨わせて、スノードロップが首を傾ぐ。散開して林を確かめてきたコルネリウスたちも頷いた。敵がキャンプ近郊でトラップを張っていたなら、まだ行動理由も分かりそうだったが。
 コルネリウスも、湿った冷たい空気を吸い込んで。
「はい。色々と武器もお持ちで……どこで手に入れたのでしょう」
「様子見、にしては数が多く目立ちました。不可解ですね」
 林から戻ってきたオゴスが口を開く。解せぬという情を声音に含んで。
 斥候なら少人数が鉄則。知性の低いコボルトと言えど、それぐらいは認識できる筈で。
 リュシエンヌさん、とそこでコルネリウスが声をかける。
「探しませんか、ペンダント」
 えっ、と驚いてリュシエンヌが固まった。
「思い当たる場所がありましたら、お手伝いを……」
 陽を滲ませたような瞳で告げたコルネリウスに、相手は突然肩を落とす。
「すみませんっ、失くしたというのは嘘なんです」
「え?」
 瞬(まじろ)ぐコルネリウスや冒険者たちを前に、リュシエンヌの目線は地へ落ちるばかりだ。
「……キャンプの皆さんには内緒にしておいていただけますか?」
「もちろんです」
 ポールたち三人の難民も、今は少し離れている。耳に入りはしないだろう。
「ありがとうございます。実は以前、資金難から宝石商へ売却したのです。キャンプも入り用でしたから」
「支援物資、充分とは言えませんものね。現在も」
 コルネリウスに限らず、冒険者たちも知っている事実だ。
 安定してきたとはいえ難民キャンプは今も難民キャンプらしい風体のままで。
 ご理解頂けて助かります、と頭を下げるリュシエンヌへ、アルベルトが手の平を広げた。
「なら、これは君のじゃないのか」
 汚れていて分かりにくいが、形状は首から下げるペンダントに近い。施された装飾は、家紋を模っているらしく職人の妙技が窺える。あら、とエミリアが落とし物を覗き込んだ。
「窪みがあるわね。ここに宝石が付いていたのかも?」
「そうなのか、コボルトが落としていったんだが……」
 アルベルトの言葉が消えかかる。リュシエンヌが青褪めた顔でペンダントを見つめていたからだ。
「あの、大丈夫ですか?」
 スノードロップが尋ねると、リュシエンヌはハッとして。
「え、あっ、すみません、私のでは無いんです……けど」
 呼吸を深く、ひとつだけ置いてリュシエンヌはいつもの笑顔を浮かべる。
「こちらは一旦、預からせてください。考えたいことがありますので」
「ああ、構わないぜ」
 アルベルトが拾い物を少女へ渡したところで、コルネリウスが言葉を連ねる。
「私達なら自由に動けますから。何かありましたら、お声がけくださいね」
「は、はいっ。お気遣い感謝します」
「……ところでキャンプの警戒は強めますか? 今回は一掃できましたが」
 リュシエンヌの気配からそれとなく察して、オゴスが話題を切り替えた。
 先ほどまで林を歩いていたエミリアも、顎に指先を当てて唸る。
「なーんか嫌な感じもするし、防衛の強化とかできたらいいわね」
 一同揃って振り返る。拭いきれない予感こそあるが、林は朝の風景を取り戻し、居住区画のある方角では幾つもの音が起き出していた。
 今日もまた、人々は一日を生きる。生きようとしているのだ。

マスターコメント

 お疲れ様でした!  見事にコボルトを殲滅し、難民キャンプは平穏な朝を迎えることができました。  ご参加いただき、誠にありがとうございました。  またご縁がつながりましたら、よろしくお願いいたします。
ショートシナリオ

ショートシナリオ普通 報酬:標準5 / 4〜5人

2021年02月26日 00時18分20秒 公開

成功

相談掲示板

  1. オゴス

    オゴスと申します。シーフです。皆様、どうぞよろしくお願い致します。 朝霧で少し視界が悪そうですね。俺はまず捜波でコボルトを見つけ出そうかと考えています。 BS付与系の攻撃の他に、キャスターさんより威力は落ちますが範囲魔法攻撃も一応覚えています。

  2. アルベルト・V・シュタールシュヴェーアト

    ウォーリアのアルベルト=V=シュタールシュヴェーアトだ。 よろしくな。

  3. コルネリウス・アーラ

    ウォーリアのコルネリウスです。タンカーとして動きます。よろしくおねがいします。 捜波を使用して頂けるのは助かりますね。 私も破脚砕での行動阻害付与と、範囲用に薙ぎ払いは所持していく予定です。

  4. リュシエンヌ・テタール

    皆さん、ありがとうございます! ウォーリアのリュシエンヌです。よろしくお願いいたしますね。

  5. スノードロップ

    ヒーラーのスノードロップです、前に出て殴りながら回復する前衛ヒーラーですね。 みなさんよろしくお願いします!

  6. エミリア・シバ

    挨拶が遅れちゃったわね、おねえさんはシーフのエミリアっていうわよろしくね。 おねえさんは、フェザーステップでのヒット&アウェイで戦うタイプよー。 オゴスちゃんと同じく捜波を持っていく予定よ。 後は、超聴覚とか超嗅覚とか視覚以外で情報取れそうなものも持って行ってみようと思ってるわ それほど難しく考えなくてもよさそうだけれど、リュシエンヌちゃんと、ポールちゃん、トムちゃん、アダンちゃんにそういう行動してもらうかは決めたほうが良いかしら?

  7. オゴス

    >捜波と探波 コボルト達が近づいてこないってのが不穏な空気ですよね。 エミリアさんが捜波を用意していただけるなら俺は探波に変更して地面や林の中を探ってみたいのですが、問題ないでしょうか? 罠とかが仕掛けられてないか調べたいです。 >ポール、トム、アダン こちらの三人は授恵者ではないそうなので、俺としては安全な場所にいてもらいたいです。 難民キャンプで何か起きていないか警戒してもらいましょう。 楽器とかを渡しておくと、何か異変があった時に鳴らして教えてもらえるかもしれません。 あくまでも俺の意見にすぎないので、他の方のご意見も伺いたいです。

  8. コルネリウス・アーラ

    「近づいてこない」という事はコボルトはこちらに気付いている…という認識で良いのでしょうかね。 私もあとは超聴覚・罠のチェックをするのであれば看破などでしょうか。 ポールさん、トムさん、アダンさんのお三方については、出来れば安全な場所に居て頂く方が良いですよね。 何かあった時の連絡手段も念の為あると安心です。 リュシエンヌさんは私達と一緒に戦闘のお手伝いをして頂きますか?

  9. エミリア・シバ

     ――静寂が打ち破られる、ほんの少し前のことだった。 とあるから、様子をうかがっていて、襲ってきたのかなって思ったわ >捜波と探波 オゴスちゃん、問題ないわよ、りょうかいよ! おそらく音はしていると思うから、そっちのほうに向けて捜派を使うわね。 戦闘中もサブアクションが使える状況なら更新し続けて逃げたり紛れてどこかに行く個体がいないかに注意をしてみようと思うわ >NPC ポールちゃん、トムちゃん、アダンちゃんは3人一組でできるだけ安全な場所にいてもらうのは賛成。オゴスちゃんの案がよさそうな感じよね、最悪おねえさんたち無視して抜かれた場合の対策にもなるし。 リュシエンヌちゃんは授恵者でもあるし、特出しすぎて数の暴力に晒されないようにだけ気を付けてもらって自由に戦ってもらうのがよさそうかしら?

  10. オゴス

    エミリアさん、変更を受け入れてくださりありがとうございます。 好戦的と書かれているわりに、襲撃まで謎の間があるのがなんか怖いですね。 エミリアさんの捜波と俺の探波で、警戒していきましょう。 コルネリウスさんの超聴覚や看破もありがたいです。 あとはペンダントの件が気になっていますが、襲撃とどんな関係があるのか読み切れていません……。 単に紛失しただけにしては、リシュエンヌさんの挙動も違和感がありますし……? >コボルトが気づいているか キャンプに移動したポールさんとトムさん、駆けつけた俺達には気づいていそうですよね。 コボルトがまだ土嚢に隠れたリシュエンヌさんに気づいていないとしたら、少し有利に戦えそうですが。 ただ具体的にどう行動してもらうかの案は思いつきませんでした。土嚢の陰に気づいていない、というのも楽観的な推測でしかないですし。 >NPC リュシエンヌさんはウォーリアですし、戦う力は充分あると思います。 突出せずに剣や石斧を持つコボルトと戦ってくれれば、こちらとしても助かります。

  11. コルネリウス・アーラ

    >ペンダント 私もこれは少し気になっています。誤魔化すようすから失くされたようには思えないのですが…本当に失くされたのか、または別の事情があって隠しているのか…。 「何かを握るように胸元できゅっと拳を作る」ともありますので、本来ならペンダントを握る仕草なのではないかと。 深追いはしたくありませんが、戦闘が終わったら尋ねてみたいとは考えています。 >コボルトが気づいているか そうですね、奇襲がかけられるかは微妙なところでもありますから。気付かれているのを前提に動いてしまっても良いかもしれませんね。 >NPC リュシエンヌさんについては「近接の敵を中心に、突出しない程度に戦闘補助をお願いする」で良いでしょうか。余裕がまだありますので、宜しければ私の方で記載をしておきます。

  12. オゴス

    >ペンダント 気になりますよね。何があったのでしょう……? 襲撃に直接関係しているようではなさそうですし、俺も戦闘後に軽く話題に出すくらいでいこうと思います。 罠の確認時に落ちてるのが見つかれば話も早いですが、この感じだとそうではない確率が高そうです。 >NPC リシュエンヌさんへの戦闘のお願い、ありがとうございます。 俺の方では、男性三人には連絡用に一つだけですが打楽器をお渡ししておきました。 一番大きな音を出しやすいかと思ったのですが、購入した後で戦いの音に紛れやすい気もしてきました……。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0