山へ~貴方へ託す新年の祈りは瞳に映るあの竜の詩吟~
弓月 蒼
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シナリオID:449
オープニング
「珍味。実に良い響きだとは思わんかね?」
――辺境都市群の一角、学術都市『ヴェルクリエ』
冒険者ギルドの支部受付が併設されている昼間の酒場の一角で1人のドワーフが呟いた。
ドワーフと言えば髭が特徴とされるが、件の人物についてはその限りではない。
まず視線が行くのは頭部だ。七色レインボゥだった。形状は何と言うのだろう。筒シリンダー……?
頭の上に髪の毛でコック帽を作り上げている。と言えば果たして伝わる……のだろうか。
そんな前衛的アヴァンギャルドな髪型に対し、髭は大人しいものだった。
単に黒い髭が細かくトゲトゲに固められ全方位に伸びているだけなのだから。顎下に毬栗付けてるみたいな。
ともあれ、ヴェルクリエにありがちな、派手で、特殊な、ちょっと……かなりアレな人に見える。
だが彼こそは創作料理で一世を風靡し、世の美食家達に時を百年進めたと言わせしめる稀代の料理研究家。
「我輩は考え、問い、質し、突き詰め、そして一つの天啓を得た」
ボンドヴァ・メルージュ・ブブリヴィエ。その人なのである。
もう一度くり返そう。ボンドヴァ・メルージュ・ブブリヴィエだ。
過去にこの料理人が凄い大陸百選に選ばれたこともあるが、順位そのものは90位以下だったらしい。
閑話休題。
「珍味。そう、美味でもなく滋味でもない。敢えての、珍味。そうと謳われるからには。
さぞ珍妙な現象を引き起こすに違いない。況や、この我輩の腕にかかれば事程左様」
こつこつと、机の上に開かれた書を爪先で叩く姿からは神経質なまでの潔癖さが感じられる。
が、何やら偉そうなことを口走っているがこの男。珍妙な物理現象を引き起こす創作料理しか作れない。
そう、珍妙な物理現象を引き起こす。である。味の話ではない。
――――と言うか最早、多分この男が引き起こす事象は味とかそういう次元にない。
そんな事象料理研究家が興味を引かれた食材だ。まともな場所に存在するまともな物の訳もなく。
実際に、開かれた書物のページに記されたのはまるでこう、巌の様な巨大キノコだった。
巌の様な、ってそういう使い方する形容詞じゃなくない?
「ご覧の有様なのだよ」
「ふ―――――――――ん。凄いじゃん」
話を聞いていたギルド受付のハーフリングがどうでも良さそうに頷いた。
例え支部とはいえ、申し訳ないが年始の冒険者ギルドはそこそこ真面目に忙しいのだ。
「なので、我輩は行こうと思うのだ」
「そっか。へえ。頑張ってね」
「山へ」
指を上向ける七色頭の毬栗髭ドワーフを、ギルド受付のハーフリングが依頼表から頭を上げて見つめる。
この真冬に山とか、死にたいのだろうかと目が言っていた。
「具体的には邪竜山脈へ」
丁度折よく、酒場の入り口を顔馴染みの衛兵が通り掛かった。
「あ、ちょっとちょっと衛兵さん。ごめんだけど、このおっちゃんどうも新年で頭が……」
哀しい眼差しを向けたハーフリングに、衛兵が足を止め哀しげに手錠を取り出す。
「新年なんて理由で頭がおかしくなってたまるか!! 我輩は正気だ!!!」
「おかしくなった奴はどいつもそう言うんだよ」
●キノコ……キノコはどこ……ここ……?
「……と言うことで、山へ行って欲しい」
――――学術都市ヴェルクリエ。冒険者ギルド支部。
受付のハーフリングが全てを諦めたハイライトの無い目でそう言った。
どんな時でも職務に忠実なのは、ギルド職員には必要な資質なのだろう。
が、しかし。唯でさえ今年は忙しかった冒険者らに何故こんな仕事を斡旋しなきゃならないのか。
世界はいつでも理不尽で、不平等だ。だってこんな変人が金だけは確り握っているだなんて、
せめて頭のおかしいだけの貧乏人なら、無慈悲に追い返せるものを。
「良いだろう、事情は我輩から説明しよう」
視線を隣に向けると、無作法にもカウンターに腰掛けるのは頭虹色の毬栗髭ドワーフことボンド(略)
当人曰く、正装であるらしい純白のコック服を着ての登場である。
「邪竜山脈の一角。岩盤に直接生えると言う奇妙なキノコがある。
通称、岩占地。今回の目的はこれである」
この岩キノコ。生半可な硬さではなく常人が噛んでも歯が立たない。無理に咀嚼すれば歯が折れる。
けれど何処にも変わり種と言うのは居るもので、一部の邪竜が餌として好むことが有るのだと言う。
「つまり、人の手では採取も加工も出来ないこの岩占地を邪竜が咀嚼したその瞬間!
これを奪取することが出来れば、この前人未到の珍味を調理できると言う寸法である!!」
最早、その発想がおかしいと言う声すら誰からも上がらなかった。
何せ、今の説明には大事な部分が抜けている。すっぽり抜け落ちている。
「奪取って……?」
「がぶっとしたところをボカッとしてスタコラサッサだぜ」
1人の冒険者が呟いたところに、ハーフリングがにこやかに応えた。
こいつ、段々話の仲介に疲れてきて遂にどうでも良くなって来たな……!
勿論相手は邪竜だ。おまけにかなり標高が高い場所に生えるキノコらしい。
基本、邪竜山脈は奥地へ進めば進むほど歳を重ねた邪竜が出没しやすくなる。
勿論、討伐が目的ではなく速やかに逃げる前提であるとは言え。
がぶっとしたところをボカッとした時点で冒険者が付け合せとして美味しく頂かれる可能性、大。
「彼の茸を使い、我輩は今日こそ岩占地とトリッパスのアモーダ・ド・ヴェルクリエを奏でるのだ」
まただよ……また何が出来るかさっぱりわからない奴だよ……
と、一転虚無顔で会話を流そうとしたハーフリングに、冒険者がはっきりと視線を逸らす。
一応。仮にも料理人。仮にも貴族に名前が売れている人物。まさか毒は出すまい。
しかし期待出来るものかはかなり怪しい。何せ今回最初からテーマが『珍味』なのだ。
「無論、我輩も現地へ向かうぞ。邪竜の住処で食材を捜す。何とも血湧き肉躍るではないか!」
「じっとしてろ」
がぶっとしたところをボカッとするだけで命懸けなのだ。
流石に頭おかしい虹色頭毬栗髭ドワーフを担いでいる余裕はない。
期せずして。冒険者達の心は今、一つであったと言っても決して過言ではないだろう。
だが、しかし。だがしかしである。
「しかし我輩、現地へ向かうつもりでビッグオウムもギルドに依頼して用意したのだ」
キラキラとした無垢な瞳を向けられても、所詮は虹色頭の毬栗髭ドワーフなのだが。
そもそもそんな戦術運搬兵器を金に飽かして毎度借りるんじゃないですよ。
――――ということで、新年明けまして今年も初めから料理研究家ポンドヴァが我儘である。
解説
マスターより
リプレイ
「ここがクリエスター山脈……シグモル火山とはまた違った雰囲気ね」
空が、近い。『蒼き神官戦士』ロゼットが見上げて瞳を細める。
四六時中篭もったような熱に煽られる過酷なシグモルであれば、こんな余裕はない筈だ。
――――遥々クリエスター山脈まで辿り着いた一行は、まずその寒さに身を震わせた。
ビッグオウムに乗っている間は切る様な風の冷たさに意識を奪われていたが、しかし。
(……この、狂気の沙汰とも言える依頼は……一体)
防寒着でもこもこになった依頼人。虹色頭の毬栗髭ドワーフことボンド(略)を眺める。
次に周囲の断崖の多さを確認し、『銀の双刃鬼』ナハティガル=ラーが遠くを見つめた。
落ちたら、まあ死ぬだろう。授恵者でもない人間が踏み込んで許される場所ではない。
有り体に言って頭がおかしい。自殺志願者でもここまで込み入った死に方はするまい。
「こんな目的で竜に喧嘩を売るとは……大物だな」
『遥空の瞳』テテリカが眉間を揉んで息を吐く。吐息が白い。視界が広い。
植物も枯れ果てた山脈頂上近辺は、邪竜の支配領域だ。少しの油断が死に直結する。
珍味を求めて竜を殴りに来ました。では殺されても文句は言えないだろう。
と言うかその理由と行動なら、多分ゴールディでも血の海が出来る。
「この、岩占地……だっけ。鋼で斬れないって結局喰えるの?」
「うむ。例えばダマスカスの削り器を使って薄く削り煮込めば良い出汁が出るであろう。
が、我輩は無論もう一歩進んで風味を見つつより珍味の珍味たらんとする合わせ先を探る。
しかしだからと言って庶民が口にすることを考慮しない訳にもいかんのでな。やはり肉か魚か」
(本当に1つのテーマで100しゃべるとか……ヤバいな、これはこれで普通に煩い)
自分から振っておいて酷いことを考える悠人・ラドルファス。
試しに料理の話を向けたら怒涛の如く喋る喋る。偏執狂に趣味の話を振ってはいけない。
しかし彼がボンド(略)を引きつけておいてくれるからこそ、他の面々が自由に動けるのである。
君の犠牲は決して忘れはしない……とは、誰も思っていなさそうなのが玉に瑕ではあるが。
『太陽の子』ララベル・サン・ディーベルもまた、話にこくこくと頷いてみせる。
何をどうするのかは分からないものの、とりあえず料理らしきものから逸れた気配はなく。
「それで取った岩占地は、どんな料理にするつもりなの?」
「そうであるな。出汁だけでは流石に味気ないものであるからして。
少々胃袋にガツンと来るインパクトのある食材を投下したいところである。
肉の塊を入れて角煮宜しく煮込むも良し。しかし敢えて岩占地の風味を生かそうと言うなら」
えとせとらえとせとら。だから偏執狂に趣味の話を振ってはいけないのだと言う。
「退路を敷くにも、これだけの難所だと厳しいですね」
『トレニア・ヴァーミリオン』トーラが見下ろしているのは崖である。
それも素人が降りられるそれではない。ロープの長さも到底足りない絶壁だ。
壁歩きでも出来るならともかくも、落として下で拾う方が確実に思える。
もちろん、拾い損ねたら失敗になってしまうので一概にそうも言ってられない訳だが。
「マメホコリ、行け」
テテリカが相棒の栗鼠を放って少々。岩肌に爪研ぎの跡を見つけるまではあっという間だ。
鋼でも通らない岩肌に刻みつけられた爪痕。その意味が、分からない訳もない。
「さすがにお墓にキノコ採取の依頼にて死亡、なんて書かれるのは嫌ね」
聞いた範囲の惨状に、ロゼットが思わず呟く。軽口を叩いていないと緊張で保たない。
何せ、今、この瞬間ですら。既に歩いているのは邪竜の縄張りかもしれないのだから。
「待って、なにか聞こえる」
気分良く語るボンド(略)を遮って、声を上げたのはララベルだった。
瞳を閉じると耳に意識を集中させる。鋭敏極まる聴覚は、こういった時最も頼りになる。
風の音に混ざる"風を切る音"。聞き間違える筈もない。それほどに――――巨大い。
慌てて冒険者達が身を伏せるのと、それが上空を抜けていくのはほぼ同時だった。
(……おいおいおい)
実際に。実物として。ドワーフ王国出身でもない限り、相対する事はないだろう。
否、ドワーフ王国ですら対する殆どは仔竜の類。ここまで育った成竜と出逢うなど余程ない。
つまり、彼らが視界に映したのはある意味"ただの冒険者"であれば生涯見ない存在。
即ち、現行世界の守護者"征竜"と並び称される大陸最大の脅威――――"邪竜"の成体だ。
仕事だしやるか、と言う気持ちで居た悠人をして、テンションがだだ下がる。
翼を広げた全長は10m近く。2mに満たない人類が戦って良いわけがない。
それは、誰が見ても見紛う筈もなく。正真正銘の――――神話の怪物だった。
●作戦:いのちをだいじに
(見つけた、戻れ)
1人真面目に岩占地を探していたテテリカが相棒を呼び戻す。
邪竜の進行方向直線上。ぶ厚い岩盤に岩の塊にしか見えない何かが生えている。
それが件の茸。岩占地だと分かったのは簡単な理由だ。
岩盤を抉る牙の痕。そんなものが幾重にも走っていれば――――疑う余地もない。
「おお、あれこそ正に「ごめんなさい、少し静かにお願いします」」
料理についての情熱は尊敬出来ても、流石に命が掛かるとなれば話は別だ。
トーラが慌てて口元を抑える、とボンド(略)がむーむー言うだけの置物に変わる。
とはいえ――――とは、いえ。
(……驚くべき、と……言わざるを得ないな)
ゾンビクリーパーに大海蛇。これまで幾度も激戦を潜り抜けてきたナハティガルだ。
その彼をして。桁が違うと言わざるを得ない命の危機が視界の中に居た。
身に纏うエーテルの量が段違いだ。これが神代。竜の末裔と呼ばれるだけはある。
これを、ボカっとして、スタコラサッサ? ん゛ん゛ん゛ん”――――?
「……殴ったら逃げる……殴ったら、逃げる……」
邪竜が岩肌からとび出した何かに牙を向ける。奇怪な趣味の個体と言うのは居る物だ。
しかし、それを目の当たりにしてぶつぶつ言いながら戦槌を構えるロゼットと言えば。
率直に言って生きた心地がしない。そう言えば、竜の吐息は灼熱だとか。
何で今そんなことを思い出してしまったのかはともかくも。しかし既に決めたことだ。
――――竜が、岩占地を食んだ。その瞬間。
起きた出来事はと言えば、いっそ劇的とすら言って良いのではないだろうか。
「――邪竜よ。少しの間、遊んで貰うぞ……!」
ナハティガルが岩場の陰から跳び出した。が、邪竜は瞳を細めただけだ。
口内で咀嚼された岩占地はそのまま。相手を脅威とすら認識していない。
その視界の外――――何故か、折角気付かれていないのに悠人が叫んだ。
「オイ、ゴルルァ!」
恐らく殴るのを手伝おうとしたのだろうが、叫んだので滅茶苦茶見られていた。
竜に睨まれた蛙と化した悠人の蛮勇を余所に、ロゼットが半分トランス気味で仕掛ける!
「―――――殴――――った!!」
両手で振り回した戦槌によって後頭部に叩き込まれる神罰の一撃!
口を開いた瞬間を狙ったその衝撃に、思わず邪竜がん゛っ! っとつんのめる。
口内から零れ落ちた岩占地の破片は拳大ほどもあるが、それをトーラがダイビングキャッチ。
「はい、こっちにパス! 取り返しに来られたら大変だから!」
ララベルが駆け抜けトーラの手から岩占地の破片を受け取ると、H&Aで逃げを打つ、
直後、まず矛先が向きそうになったトーラの真上へ、テテリカが引いた弓から閃光が放たれた。
「逃げて――――――――ッ!!!」
ロゼットが叫ぶ。それも仕方あるまい。何せ閃光に視界を焼かれながら。
されど竜は口腔に爆発的な熱量を溜め込んでいた。視界が晴れたらすぐさま殺す構えだ。
冗談で済む次元は既に完全に突っ切っていた。邪竜には知性が有る。
知性が有るということは、優先順位を付けられるということだ。現場の殺意が高すぎる。
「こっちだ!」
ナハティガルが声を上げる。視界が潰れているが故に竜の口腔が向きを変える。
人生で最も死に近付いたのがこんな仕事だとか何の冗談だろう、と頭の片隅で考えながら。
熱線――――そう形容するしか無い、閃光じみた灼熱――――が、空間を切り裂いた。
見ていたロゼット、悠人、テテリカの顔から一斉に血の気が引いた。
大気が熱量に負け一斉に燃え上がる瞬間など、見たことがある人間がどれだけ居るだろう。
鋼で割れない岩盤が蒸発している。ではそんなものに巻き込まれたナハティガルはと言えば。
「――――残念だったな。それは残像だ」
エーテルを纏い矛先をすり替える事で、間一髪でその一撃を避けていた。
後ろも振り返らず駆ける。駆ける以外命を繋ぐ方法がない。それは全員の総意だった。
「長居は無用、引き上げましょう!」
「逃げろ! 逃げるしか無い!!」
「卑劣な弱者が罪もなき強者を陥れることも多々あるものだ、悪く思うな!!」
邪竜が光の網に動きを縫い留められ、煙幕が周囲を包む中、各人の声が木霊する。
既にまとまって逃走経路を敷く余裕などある訳もない。字面に偽り無い一目散だ。
ばっさばっさと翼をはためかして怒り心頭の邪竜がこれを追いかけるも――――
「……行った? 念の為ドロンしといて正解だったみたいだね……」
「う、ううん……囮をするつもりだったんですけど……」
――――結果、他の面々が騒がしすぎた所為で取り残されたララベルとトーラが息を吐く。
追いかけられて行った面々を余所にこっそりと。下山出来るのは幸運と言って良いだろう。
「まあ、全ては我輩の計算通り、というわけだな!」
そう言って親指を立てたボンド(略)は、冒険者2人の万全のサポートを前提として。
結局、下山までの道中3回ほど崖から落ちそうになったのだという。
●岩占地とトリッパスのアモーダ・ド・ヴェルクリエ
「ロープを持ち込んでなかったら即死だった」
「ほんとにね」
悠人とロゼットが満身創痍でヴェルクリエまで戻ってきて、暫し。
命からがら辿り着いた冒険者の酒場を見回せば、概ね以前と同じような面子が並んでいた。
そこには気付いたら居なくなっていたトーラとララベルの顔もある。
――――が、しかし。2人は同時に気付く。そこに残る2人の顔がないことに。
「あれ、ナハティガルさんとテテリカさんは?」
「一緒じゃなかったんですか?」
瞬く2人と目線を合わせ、4人揃って青褪める。まさか、もしかして、こんな仕事で……!?
対していた脅威の度合いを考慮すればあり得ない話ではないにせよ。すわ一大事か。
――――と、思ったとかそんな酒場の一角。
学術都市の入り口では、ボロボロの銀髪鬼が、栗鼠と共に息を吐いていた。
「……煙幕がなければ、即死だった」
「…………竜が騙されてくれたことが奇跡だとしか思えん」
囁くような、を通り越して呼気にも等しい低い声音は、テテリカの癖の所為ばかりとは言えまい。
一昼夜邪竜に追い回された上に、クリエスター山脈からヴェルクリエまでの道程。
その間仲間との合流すら叶わなかったことを考えれば。
果たして、依頼人はどうなったのか。何処かで野垂れ死んでいはしないか。
人生最悪と言って良い経験を糧として、2人はヴェルクリエの門を潜る。
差し当たり、両名の。否。主に死の縁を駆け抜けた4名の心は今、一つになったと言える。
即ち――――"これで料理がダメだったらあの虹色毬栗もう絶対に許さねえ"――――だ。
――――――――――――
――――――――
――――
「おお、漸く全員揃ったのかね! こちらも準備は万端だ!
さあボンドヴァ・メルージュ・ブブリヴィエの料理工房へようこ……うん? どうしたね?」
殺気立った冒険者の面々が、ボンド(略)の店に辿り着いたのはその翌日のこと。
これだけ苦労して、その成果が気にならない訳もなく。
先日の似た一件から彼らの訪問を覚悟していた虹色頭の毬栗髭ドワーフもまた。
仕込みを終えて今か今かと待ち続けていたという体。
過去、それに挑んだ者はちょっと他では類を見ない超常体験をしたというが。
今回は全員分謎の大皿と銀の円蓋。そして銀の食器が並んでいる。
「……これ、食えるもの?」
「命を賭す程に価値のある料理……であれば、良いとは思うが」
「そう言えばサウゼル大樹海にも珍味の類ならあるが」
「む、面白いことを言うな少し詳しく聞かせてくれ給え。我輩の知識範囲を超えている可能性が」
「あれ……何で誰も食べようとしないんでしょうか?」
「や、だって……ねえ? せめて食べられるものであって欲しいんだけど……」
「――――よし、とりあえず開けてみる」
方々、誰かが動き出すのを牽制しあっていた面々の中。ララベルが意を決して蓋を開ける。
其処に並んでいたのは、スープに見える琥珀色の液体。そして、何かが浮かんでいる。
「……動物の、内蔵だな」
瞳を細めたテテリカが小さく呻く。あまり、一般的ではない食材だ。
臓物の類を食べるのは古来、罪人や被差別層だった――――という逸話すら聞いたことがある。
「パス1」
悠人の判断が早い。
「――――瞼には焼き付けた」
ナハティガルが即答した。
「……噛んだら歯、砕けない?」
ロゼットから本音が漏れた。
「……いや、流石に食べれないものではない筈」
「ですよね、ボンド(略)さんの料理知識は本当に豊富でしたし!」
結局、良い子組のララベルとトーラが意を決して謎の煮込みスープを口に運ぶ。
かくて咀嚼した瞬間、起きた現象を何と評すれば良いだろう。
あたかも全身の骨肉が異常膨張と過剰成長でも果たしたかの如く。
筋骨隆々のマッシブと化した2人の姿が、ボンド含むそれ以外の5人の視界に映し出される。
完璧な筋肉美には、張り詰めた上腕二頭筋と三角筋、大胸筋が鋼鉄の黄金比を形成している。
背後からはまばゆいばかりの後光が射しており、もはや直視することすら容易ではない。
溢れだしたそれは迸るエーテルが魅せた一瞬の幻か。或いは珍味が齎した奇跡か何かか。
食べている2人はそんな異常事態にはまるで気付かず、数度咀嚼して眉を寄せる。
「うん、まあ、美味しい?」
「……苦労した割には、普通、なような」
顔を見合わせた両名に、ボンド(略)が感涙しながら無言で何度も頷きを返す。
そう、彼が望んだ鋼の幻想は――――此処に確かに結実したのだと。
見ていた冒険者の大半は、それはまあ見事にドン引きであった訳だが。
「ところで、先の話はサウゼル大樹海であったかな?」
かくて。しかしその猛禽の如き視線は既に次なる標的としてテテリカをロックオンしていた!
―――彼の料理への挑戦は、未だ! 始まったばかりだ!!
マスターコメント
ショートシナリオ普通 報酬:多い6 / 4〜6人
2021年01月18日 12時36分38秒 公開
相談掲示板
シーフのトーラです。よろしくお願いします! 鋼の武器より硬い茸をどうやって料理するか気になるとこですけど、手に入れないとそれも出来ないですよね。 邪竜が噛ったところをボカリしてスタコラという方法ですけれど、ボカリしたあとシーフが囮になって引き付ける間に岩占地を採取して離れるのはどうでしょう?
テテリカ。シューターだ。 同行するペットは考え中。これからの相談の内容による。 囮の案はありがたい。危険でもありそうだが……。 トーラの安全を確保する工夫も考えていく必要がありそうだ。
ナハティガル=ラー。 不意討ち暗殺何でもござれのシーフだ。宜しく頼む。 >囮 トーラの言う囮案は良い案だと思う。 幸いシーフは俺も含めて数名居る事だし、それぞれ分散して囮となり蛇竜の注意を逸らす事が出来れば岩占地採取の成功度が上がるかも知れんな。 囮作戦で行くのなら、回避は上げて行く事にしよう。
ヒーラーのロゼットよ。よろしくね。 採取までは、邪竜に遭遇しないように探索して、 岩占地を見つけてから岩陰で待ち伏せ、かな? >逃げる方法 1.食事中の隙をついてボカリする 2.囮、飛び道具で邪竜の気を引く 3.吐き出した岩占地から、邪竜が離れたら採取 4.スタコラする こんな感じでどうかしら。 あとヒーラーの「光縛封」が、物理攻撃に3ターンは 破壊されずに足止めしてくれるから、使おうかなって。 灼熱の吐息が魔法扱いなら破壊されそうだけど、 1ターン分、行動を消費させるだけでもマシでしょ。 ボカリしてすぐに使っちゃうと、岩占地も取れなく なりそうだから、最後のスタコラする時の時間稼ぎに。
囮はもちろん私もやるつもりですし、ナハティガルさんとララベルさんにも協力して貰えるなら心強いです。 光縛封を使って貰えるなら時間が稼げますね。 ボンドさんを危険にさらすわけにはいきませんし、占地を拾い次第使って退避でもいいと思います。私もぎりぎりまで囮をやりますから、その間にボンドさんを連れて下がって貰えたら。
役割ひとつにつき1人って決まりはないから、 希望やスキルに合ってそうなので分担していければ。 私はハンマーで、邪竜をボカリしましょうか。 トーラ達が邪竜の気を引いてるうちに岩占地を拾い次第、 「光縛封」で邪竜を足止め、ボンドさんと逃げるで良いかな。 >囮 邪竜は言葉も理解するみたいだから、攻撃だけじゃなく、 声の挑発でも気は引けそうね。
光縛封があるなら安心だな。使ってくれると助かる。ありがとう。 撤退時、俺はシューターの煙幕系のスキルを使ってみる。 邪竜の視界をふさいで、俺達がどちらの方向に逃げたか誤魔化せれば、追跡を遅らせることができそうだ。 まあ……聴覚や嗅覚で追跡されるとお手上げだが……。 連れていくペットは索敵重視でリスにしようと思う。 一時間だけならエーテルの力で二体に分身して見張り役を増やせる。
さすがにキノコ採取で死亡だなんて、お墓に書かれたくはないわね。 あと現地での岩占地探索や、スタコラの後、危険地帯を移動するから 邪竜を避けていけるような索敵や、断崖絶壁を上り下りするための 技能やスキルがあったら、お願いしたいわ。私は苦手だから。
>逃げる方法 ロゼットの案で異論はない。 では、俺はトーラと共に囮を務める方向で。 スキルは【壁歩き】【アクセラレイター】をセットして行く予定だ。 帰りに断崖絶壁を上り下りする際は、 【壁歩き】とロープを使って移動の補助をしようと思う。
壁歩きとロープの補助があるのなら万全だな。 ありがとう、ナハティガル。 岩占地の採取役はロゼットがしてくれる、という理解で合っているか? よろしく頼む。 採取がしやすいよう俺は矢で竜を狙う。竜に隙ができれば良いんだが。 あと気になっているのは、依頼人のボンドのサポートをしてくれる予定の人はいるか? 俺は弓を使って遠くから戦うので、岩占地を手に入れた後にボンドが撤退するのを手助けしようと思う。 逆に索敵中はそこまで気が回らないと思うので、誰かがボンドのことを見てくれるのなら助かる。
悠人・ラドルファス、よろしく。 >ボンドの面倒 いいよ、そんじゃオレがやるよ 最悪はカバーリングや壁が必要だろうしね >採取 今回の邪龍は耐えられるような相手でもないし オレも採取手伝うよ キノコ自体が結構硬いらしいから根元の岩かなんか砕いて根元から持って行ったほうが早いだろうしね 量は持って帰れるようにバックパックは用意しておくよ >不安定な足場のフォロー 一応ロープと”バランス感覚”は持っていく ロープでお互いを結んでもいいし、その場所まで担げそうなら担いでいく旨は書いておく あとはこうしてほしいっていうのあったら教えて >囮について 二人いるならあれだね、聞くか解らないけれど サウンドボマーで両側から耳に向かって音をぶっ放すことで奴の三半規管じゃないけど そういうの揺さぶっていけないかな、とはおもった…けど、確証ないのに1枠使うのも微妙か
岩占地の採取は、わたしもロゼットさんがポカリした時に欠片をスリとってみますね。そのまま囮に移行できると思います。 そういえば、どのくらい必要なんでしょう? 運ぶのに苦労する程の量ならマジカルポケットが使えるので、収納して運びましょうか? 断崖絶壁ではわたしも壁歩きで補助をしますね。 帰りの道はビッグオウムに乗っているときにある程度目星を付けて、降りたら一度ルートを確認しておこうと思います。 ボンドさんのサポートは囮中は他の方にお願いします。道中はいろいろ話を聞いてみたいので、側に付くようにしますね。
ロープですけど、ボンドさんが用意してくれるそうなので重量や枠が厳しいようでしたら借りてもいいと思います。 帰りは時間がかかるでしょうし、夜用にランタンとかもあるといいかもしれません。
遅くなってごめん。 僕はシーフのララベル・サン・ディーベル。 みんな、宜しくね。 >行動 2人が囮役をしてくれるなら、僕はポカリして貰った所で、キノコを取りに走ってハイディングで姿を隠して逃げ、竜の目から逃れてキノコを入手する方向で動いてみようかな。 足場の確保で壁歩きも持っていく予定だよ。
>岩占地の採取 分担してバックパックなり用意があれば十分じゃないかな。 ボカリするから、私も吐き出させた岩占地には近そうだし、 採取する旨は入れているわ。 明日は出発前にちょっとは覗けると思うけど、変更作業は きついかもしれないから、なければ後は現地で。よろしくね。