白猫と新年会のパーティ
STANZA
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シナリオID:448
オープニング
僕は旅猫、ワケあってとある冒険者の世話になってる白猫(耳の先とかちょっとだけグレー)のハーフビーストだ。
今日は踊る子熊亭で開かれるパーティのお知らせだよ。
新しい年を迎える時って、なんだかワクワクするよね……って、保護者が言ってた。
僕にとっては初めての新年だから、その気分はよくわからないんだけど。
でも年末に向けて皆がうきうきそわそわし始めるのを見たら、僕もなんだか楽しくなってきたよ。
パーティって言っても特に企画とかはなくて、踊る子熊亭のすみっこを借りて、食べたり飲んだりするだけなんだけどね。
大勢で集まってワイワイするのは楽しいってことは僕にもわかるよ。
あと今回は子熊亭の厨房を借りて、料理やお菓子を作ったりも出来るんだって。
美味しいのが出来たら、お店のメニューとして採用されるかもしれないって言ってたから、腕に自信がある人は挑戦してみるのも良いんじゃないかな。
他には今年の目標とか、ホーフ? そういうのを発表してみるのも良いかもね。
それじゃ、踊る子熊亭で会おう!
今日は踊る子熊亭で開かれるパーティのお知らせだよ。
新しい年を迎える時って、なんだかワクワクするよね……って、保護者が言ってた。
僕にとっては初めての新年だから、その気分はよくわからないんだけど。
でも年末に向けて皆がうきうきそわそわし始めるのを見たら、僕もなんだか楽しくなってきたよ。
パーティって言っても特に企画とかはなくて、踊る子熊亭のすみっこを借りて、食べたり飲んだりするだけなんだけどね。
大勢で集まってワイワイするのは楽しいってことは僕にもわかるよ。
あと今回は子熊亭の厨房を借りて、料理やお菓子を作ったりも出来るんだって。
美味しいのが出来たら、お店のメニューとして採用されるかもしれないって言ってたから、腕に自信がある人は挑戦してみるのも良いんじゃないかな。
他には今年の目標とか、ホーフ? そういうのを発表してみるのも良いかもね。
それじゃ、踊る子熊亭で会おう!
解説
踊る子熊亭で新年会のパーティしよう!
■なにする?
・ごちそうを食べる! お酒とか、未成年(20歳未満)はお茶やジュースなんかを飲む!
・ごちそうを作る! 美味しくなくてもご愛嬌!
・楽しくお喋りする! 歌ったり踊ったりも出来るよ!
・新年の抱負とか宣言してみる!
・書き初めとか福笑いとか、部屋の中で出来ることをやってみる!(リアルのそれに似た風習がある、という感じで描写します)
・その他、新年の行事など企画提案もOK!
■NPC
・タビ(旅猫)
以前のことは覚えていないので、これが初めての新年会
記憶喪失に関しては、もうあまり気にしていない
フリー素材につき、弄り、お誘い何でもOK
複数からお誘いがあった場合、あちこちのテーブルを渡り歩く感じになる予定
もちろんスルーでもOK(お誘いがない限り、タビから絡みに行くことはありません
シャイなので友達認定までの道のりはわりと長め
でも「俺達トモダチだよな!」とか「友達になろう!」など押しの強い直球には弱い(チョロい
■その他
冒険者達の慰安目的なので、全ての費用は踊る子熊亭が負担
自慢のレシピを伝授するなど、お礼代わりの何かがあると喜ばれますが、心の中で拝むだけでも大丈夫
※アドリブ、弄り多め……にしたいのですが、字数の都合であっさり描写になるかもしれません
NG事項がある場合は明記をお願いします
※OPや解説で明記されていない部分の解釈はお任せします
設定や世界観の範囲内で、ご自由にお楽しみください
マスターより
初めまして、或いはいつもお世話になっております、もしかしたらお久しぶりかもしれません、STANZA(すたんざ)です。
新年会です。
リアルではちょっと難しい昨今ですが、異世界なら大丈夫。
思い切り密って楽しみましょう。
では、よろしくお願いします。
リプレイ
新年会が始まる数時間前。
踊る子熊亭の厨房には何人かの冒険者達が顔を揃えていた。
(みんな早いんだな……)
こっそり覗き込んだタビは、自分と同じで待ちきれなかったのだろうかと考える。
だが勿論、彼等が早く来たのはそんな理由ではなかった。
「お店を使わせて頂いてありがとうございます」
コルネリウス・アーラは本日、裏方に徹するつもりだった。
「お店で出されるものには及びませんが、大人数向けのお料理なら、少し得意なんです」
まずはパンを大量に作り、オーブンで焼いている間にスープ作りを。
自信があるという程ではないけれど、懐かしい故郷の味はきっと、自分以外には再現の出来ないものだ。
沢山の豆や野菜を中心に、チーズとパンを入れて煮込む具沢山のスープは寒い季節に丁度良い。
「タビさんも、良かったら味見をして頂けませんか?」
「あ」
見つかってしまった、と言うか最初から気付かれていた様な。
「うん、じゃあ一口……野菜はあんまり得意じゃないんだけど」
「野菜嫌いの子供達にも人気なんですよ?」
「ほんと?」
タビは小皿に少し取り分けて貰って、恐る恐る飲んでみる。
「……美味しい!」
「でしょう?」
おかわりはパーティが始まってから、ね?
ストレガ・L・リベルガストラは調理の手伝い、或いは研鑽に。
「最近油と塩は酒が進むことを学んだのだ」
それはそれとして、まずは手間のかからない野菜スティックから。
「とりあえず肴なのだ。肉とのバランスもとるのだ」
それが出来たらオリーブ油と刻み大蒜、それに唐辛子をスキレットに入れ、他の具材は魚介やキノコに分けて煮込み、味を調整すれば出来上がり。
「パンと一緒に食べるのがオススメなのだ」
次は獣肉を適当な厚さに切って卵と小麦粉を付け、輪切りにした玉葱も同様にして熱した油で泳がせる。
「これは岩塩とレモンを添えて食べるのが旨いのだ」
細切りにした芋はそのまま油に入れて、仕上げに塩を振りかける。
一通り終わったところで少し休憩にしつつ、他の人達の手元を覗き込んでみた。
この機会に様々なレシピを己のものとしたいところ。
「タダとは言わないのだ、代わりに少し手伝うのだ」
手が欲しい人はいませんかー?
「あの、こちらロープです」
「はい?」
ニール・ロブラリアの提案に、料理人は目を丸くして首をひねった。
「ボクが不審な行動を取ったら、すぐに拘束してほしいんだ。神聖な厨房を冒涜的な工房に変えないために」
「あー……、えーと。君の料理はそんなに……アレなのかな?」
料理人の問いに、ニールは深く深く頷いた。
「野営の時に煮炊きができなくて困ったんだ。何の味もしないごはんとか、士気にかかわるよね」
味がしないのは防衛本能として味覚がバグった結果かもしれない破滅的メシマズ王。
「食事が当番制だったら戦う前にパーティ壊滅だし」
というわけで、今年の抱負というか目標は「普通の味のするごはんを作る」こと。
その第一歩として選んだものは、揚げドーナツだった。
「いや、それはいきなりハードル高くないか?」
茹で卵とか、混ぜるだけのドレッシングでサラダとかの方が良くない?
「でも、ある地方では今頃に食べるって聞いたことがあるんだ。季節感って大事だよね」
大丈夫、レーズン卵塩バター等々、材料をよく混ぜて、置いて、揚げるだけだ。
「最後に贅沢に砂糖も振れば、きっと、たぶん、いける。まだ止められてないし」
美味しい、までは求めない。
けれど。
「少しでも甘く、なーれ?」
魔法をかけたら出来上がり。
「……運試し、みたいだな」
ドキドキしながら、いざ実食――
「……あれ?」
メシマズは裏切らない。
あの白い粉は砂糖ではなく、小麦粉だった様だ。
「大丈夫、上から砂糖かければ……」
え、これ塩?
「いつも無料ごはんをいただいてるのに……申し訳ないですから心ばかりの寄贈をしましょう」
そう考えたシャロン・ラ・モリエールは、手縫いの雑巾や布巾を持って厨房に顔を出した。
あまり押し付けがましいのもどうかと思い、短い手紙を添えて調理台の隅にでも……と視線を巡らせる。
「あら?」
そこで知った顔と目が合った。
「悠人様はお手伝いですか。お疲れ様です」
「新年って事だから、家にいるよりもこっち来たほうがいいもの食えるしね」
悠人・ラドルファスは食事の代わりに労働力を提供しようと、給仕や皿洗いなどの仕事を買って出ていた。
堂々とタダ飯を食らっても店の方では一向に構わないのだが、手が増えるのは大歓迎と遠慮なく悠人をコキ使う。
会場には5〜6人が一度に座れる丸テーブルがいくつかあり、各テーブルにはそれぞれに違った大皿料理とバスケットに入ったパンが置かれていた。
その他の料理は各自がメニューを見て注文し、給仕がテーブルに届ける仕組みになっている。
新しい年を迎えるにあたっての抱負やら目標やら、真面目なトークも良いけれど、まずは美味しいごはんで幸せになろう!
「座ってろよ、オレがなんか見繕って適当に持ってってやるから」
「そうですか? ではお言葉に甘えて……」
差し入れを悠人に預け、シャロンは席へと戻って行った。
「全ての費用は踊る子熊亭が負担!?」
ニーラ・メッコは心の声がだだ漏れていた。
「なななななnなんだってーーーーっ!!?」
乗るしかない、このビッグウェーブに!
自腹じゃ食べられないご馳走をたらふく食べる為に、やるべき事はひとつ!
それは朝から何も食べずにハラペコでパーティーに臨むこと!
「あ、お腹空きすぎて倒れそう……」
踊る子熊亭はもう目の前なのに、意識が……(ぱたり
「今日、新しい年。お祝いパーティー、やる」
その情報を聞きつけたコハクは、日頃の無表情はそのままに、けれど周囲にお花が浮かぶ幻影が見える程にルンルンで、スキップしながらお店にやってきました。
パーティーといえば食事、食事と言えばコハク。
コハクは何はともあれ食べる事が大好き。
タダ飯程美味しいものはありません。
けれど店の入口で――
「誰か、倒れてる」
行き倒れ?
そっと顔を覗き込むと、何やら呟きが聞こえました。
「……おなか……すいた……」
なるほど大体わかった。
「美味いご馳走がたらふく食えると聞いて!」
ばーん!
扉をぶち破る勢いで飛び込んで来たのは、くいしんぼ熊さんジョン・ベアーだ。
ユールフェスでたんまり食べてきたけれど、それはもう去年の話。
「年を越えたらリセットじゃからな!」
日付を超えてもリセットだけどな!
まずは一番美味しそうな大皿料理が乗ったテーブルに着いて、皿ごと抱え込む勢いで食べ始める。
「美味い! これは何という料理じゃ?」
訪ねながら、ばくばくもりもり。もうこのテーブル熊さんの貸し切りで良いのでは?
メニューを見て名前が美味そうな料理があれば全て注文し、隣のテーブルを覗き込んでは「それなんじゃ?」と同じものを注文し、それはもう厨房を空にせん勢いで食べ続ける。
だが踊る子熊は喰らう大熊に負けはしない!
「ジャガイモの皮、剥き終わったのだ」
ストレガは厨房の補佐役に抜擢されていた。
コンロの炎と鍋の湯気、それにオーブンの放射熱とで真夏よりも暑い厨房で、ストレガは次々と出来上がる料理のレシピを覚えようと……覚え、おぼ……
「無理なのだ」
忙しすぎて、手も目も頭も回らない。
けれど垣間見た調理人達の技は、レシピよりも重宝する、かも。
「新年のパーティか……派手に、粋に行きたいものだね!」
キオルティスはまず、周囲の者達に酒を注いで回る。
「まずはお酒を一献。まあまあ遠慮なく、どうせ店の奢りなんだし?」
顔見知りにも初めて会った誰かにも、老若男女分け隔てなく……女性にはさりげなく多めに注いでみたり。
「シャロンさんも来てたんだね。朱羅さんも」
「こんにちは、楽しみな一日になりそうですわね」
百鬼 朱羅が差し出したグラスには、本人の希望でエールを注ぐ。
「やっぱりこれが無いと始まらないよね」
「ええ、今日は新年会ですし、無礼講と行きましょう」
「美味しいお酒は楽しい場を盛り上げる魔法みたいなものだから……あ、若い子はぶどうジュースで良いかな?」
その場の全員に配ったら――
「それでは新年を祝って、カンパーイ!」
音頭を取ろうと口を開きかけたキオルティスよりも先に、グラスを掲げた朱羅が声を上げた。
「ああっ、先を越された……!」
まあいいかと笑いながら、キオルティスもグラスを掲げる。
「皆にとって幸多い、最高の一年となりますように……」
もう食べ始めている人も、一旦手を止めて乾杯!
じゃあ新年の挨拶は……シャンテ・フーケさんにお願いしようかな!
「えっ、僕!?」
何故かご指名に預かったシャンテは、立ち上がってひとつ咳払い。
「えー、新年明けましておめでとうございまーす」
これでいい?
まだもう少し話せって?
「いやぁ、去年の暮れはいろいろなことが目白押しで大変だったねぇ……」
さて、今年はどんな年になるのやら。
「まぁ、なるようになるかな」
なるようにしかならない、と言うか。
「じゃん! お母さんですよ!」
テーブルの一角にコハクの姿を見付け、エルナ・クルプファルツはいそいそと歩み寄る。
「良ければ一緒に過ごしましょう!」
「うん、一緒、嬉しい」
コハクはジュースの入ったグラスを掲げ、きちんと新年のご挨拶。
「乾杯。ルナママ、みんな、今年もよろしく、お願い、します」
「はい、かんぱーい! コハクさんもよろしくお願いしますね!」
ところで、テーブルに突っ伏してるこの人は誰?
どうすれば良いの?
「お店の前、拾った。お腹すいた、言ってた」
「それじゃ、こうすれば起きますかね?」
エルナは行き倒れの鼻先に肉汁滴るステーキを差し出してみる。
ぴくん、ぴくぴく、鼻と耳が動き――
「新年! おめでとうございます!!」
ニーラ復活!
「いやー、オゴリで食べるご馳走はおいしいねっ!!」
右と 左から次々に差し出される料理をぺろりと飲み込み、ニーラははたと気が付いた。
「そういえば私、途中から記憶が……えっ、貴方が!?」
ニーラは恩人の手をとってぶんぶんぶん!
「ありがとう、そしてありがとう!」
お礼に何でも奢るよ、タダ飯だけど!
「沢山たべるね。すごいなぁ」
バクル・バスリーはリディリディ・トゥラ・イェレミースの見事な食べっぷりに思わず見入っていた。
何度か姿を見かけた事はあったけれど、こんなに豪快に食べ、かつ飲む人だったなんて……ちょっと意外。
「あ、ごめん、じっと見ちゃって……ここ、一緒しても良い?」
「え、ええ、どうぞ……」
頷いたリディリディが耳まで赤いのは、その繊細そうな外見からは想像も付かない実態を見られたせいか、それともしたたかに酔っているせいか……
「ありがとう」
礼を言って、バクルは向かいに腰を下ろした。
「仕事で一緒した事はあっても、ゆっくり話すのは初めてだよね」
適当に食事を頼み、食べながら話す。
「ぼくはバクル・バスリー。迷宮都市エドゥノーグって所出身で、冒険者に登録する前は、エドゥノーグでダンジョンに潜って生計を立ててたんだ」
「リディリディと申します」
人が集まる催しは本来苦手ですが、食べ物に釣られて来ました――とは言わないけれど、多分もうバレている。
「今でもダンジョン探検は好きさ。でも、ずっとそれだけだとなんか壁にぶつかる気がしてね。外の世界を見に来たんだ」
自己紹介はこんなところかな、とバクルはリディリディを見る。
「新年って抱負とか語るものだよね。リディリディさんは今年どうしたいとかってある?」
「私は……そうですね。今年はもっとお酒が飲めるようになれればと。あまりお酒に強くないんです」
そう言ってふと見ると、バクルが「いや嘘やん」みたいな顔をしている。
だってさっきからジュースみたいにお酒飲んでるし、なのに全然酔った風でもないし、何より……顔も耳も、もう赤くない。
(さっき赤かったのは、お酒のせいじゃなかったんだ……)
しかしリディリディは、バクルの反応を勘違いした様だ。
「え、抱負ってそういうのではないのですか?」
あ、また耳まで赤くなった。
「ううん、どんなのでも良いと思うけど。他にもあるなら、それも聞きたいな。あ、もし嫌じゃなければだけど」
「では……」
と改めて、リディリディは答えた。
「色々な場所を巡れたらと思います。今まで森しか知らなかったので」
そして色々な土地の美味しいものを食べたい飲みたいと心の声。
「素敵だね。ぼくは、今年は筋トレの回数を倍にして、もっと強くなりたいな」
それと、リディリディさんと仲良くなりたいな。
それはもう、叶ってる……かも?
悠人には野望があった。
魚料理が好きなシャロンに、こんな日くらいはたくさん魚を食べさせようと。
そうしてせっせと運ぶ魚料理、だがその中の一つが、なんかやばい。
「わー、ありがとうございます」
シャロンは素直に喜んでいるけれど……
「シャロン……お前、これ喰うの……?」
いや自分で持って来ておいて言うのも何だけど。
パイ生地の海から顔を出した魚が空気を求める様に口を開け、濁った目で虚空を見つめている。
スターゲイザーパイ、初めて見るこの奇妙な感じ。
これほんとに食い物かよ、そんな顔でシャロンに尋ねるが、彼女は平然と微笑んだ。
「見た目は奇天烈だけど味は美味しいのですよ?」
食べたことあるのか、これ。
「中のポテトとベーコンがベストマッチですし、そこにさらに香ばしい焼き魚という、美味しいと美味しいのコンボなのですよ! 悠人様も一切れいかがですか?」
そこまで言われたら引き下がる事は出来ない。
「……一口だけ……」
いや尾頭付きじゃない部分で……うん、何故ここに魚を入れようと思った、しかもこの形でって感じかな。
「悠人様はなにをお召し上がりですか?」
「俺? ……んー、肉焼いてくれるみたいだし、それかな」
「ほう……悠人様はお肉派ですか」
シャロンは悠人のグラスに肉料理に合う赤ワインを自分のグラスには白ワインを注ぐ。
「乾杯いたしましょう。ハッピーニューイヤー」
「うん、あけましておめでとう」
グラスを合わせ、悠人は今年も何とかやっていけそうだと思いながら喉を潤す。
ここからは客として、ご馳走を楽しもう。
「よぉ、タビ! 今年もまたよろしくな!」
レオネベルがハイタッチ!
「タビ、あけましておめでとう!」
ギド・フェルミが背中をばしーん!
「ってことでタビさん、お友達になろー!」
スフィカがタックルどーん!
なおこの行動に至るまでには(タビさんとのエンカウント三回目かな。これはそろそろお友達といっても良いのでは!?)という思考の流れがあったとか。
「う、うん、そうだね……」
圧倒的な押しの強さに押されっぱなしのタビ、だがこの押されて流される感じは癖になる、かも?
「モテモテだね、タビ。新年おめでとう」
トリプルアタックを喰らってフラフラしているタビに、セヴラン・クアルトが笑いかける。
「ひとまず乾杯といこうか。タビはお酒はいけるのかな?」
「あ、僕は――」
多分まだ未成年だから、と言おうとした所にスフィカがずいっとりんごジュースを差し出した。
「じゃあかんぱーい!」
何に? 新年にかな? パーティだから楽しければおっけーだよね。
セヴランはスパイスよりもフルーツと蜂蜜で少し甘めに仕上げたホットワインで。
「一つでも多くの楽しい事嬉しい事を積み重ねられるといいね」
乾杯が済んだら、後はご馳走にまっしぐら。
「タビは何が好きかな?」
「甘いお菓子と肉だよな!」
セヴランの問いにレオが代わりに答え、タビの皿に野菜を乗せる。
「待ってよレオ、何でそこで野菜なの!?」
「好きなものは放っといても食べるだろ? 野菜も食べないと、また先生に叱られるぞ?」
「レオもね」
お返しにレオの皿にも野菜をどーん!
「あとこれ、野菜だけど美味しかったよ」
タビはコルネリウスの特製スープをオススメしてみる。
「じゃあコレはどうだ!」
ギドが持ってきたのは、緑色の何か。
「うわ、草だ……」
タビの脳裏に蘇る、草も生えない草スープの味。
「いやいや、これは違うんだって。草は草でも七草粥だ」
「やっぱり草じゃない」
「草だけど、この前の味気ないスープとは違うぞ、ちゃんと勉強してきたからな!」
だからその疑わしげな目はヤメレ。
「シャルガネのあたりの風習で、七種類の野草を粥にして食べると健康に過ごせるんだってさ」
調味料は塩だけと聞いた時にはギドも正直「美味いのかこれ?」と思った。
「でも食べてみたら普通に美味いんだ、騙されたと思って……ほら!」
タビは差し出されたお椀を渋々とって、一口。
「あれ?」
「な?」
「うん、食べられる草だ」
「どれどれ? オレにも一口!」
「おう、レオも食うか!」
一口と言わず、たんとおあがり?
「うん、さっぱりしてて肉の後に良い感じだな」
そこにニーラがひょっこり顔を出す。
「私、豪華なお魚料理を食べてみたい! タビさんも、お魚は好きでしょ? 猫だものね!」
「うん、まあ魚も嫌いじゃないけど……」
肉のほうが好き、と言う暇をニーラは与えなかった。
「新鮮なお魚を一緒に食べない? 先祖が東方由来の人から聞いた話では、お魚を生で食べたりするらしいよ」
踊る子熊亭のメニューに、そういう料理はあるのかな?
リクエストしてもいいかな?
「いいとm……」
いけない、新年からマスタリング対象なセリフを叫ぶとこだった――え、いいの?
「じゃあ叫ぶ……って、あれよ! あれ!」
ニーラは朱羅がのんびり清酒を飲んでいるテーブルを指さした。
そこに並ぶ、色鮮やかな魚の切り身。
「これは刺身というものです。酒のアテに良いのですよ」
朱羅が答える。
「タビ様もこちらで一緒に呑まれませんか? ……いえ、私がそちらに伺った方が良さそうですね」
朱羅は酒と肴を引き連れて、タビのいるテーブルに移って来た。
「その七草粥、よろしければ私にもいただけませんか?」
「勿論、どんどん食ってくれ!」
「すみませーん! 私にもお刺身ひとつー!」
ニーラが手を挙げ、忙しそうに働く店員を呼び止めた。
「あと魚料理を全部!」
このスターゲイザーって奴も!
何とも賑やかで楽しそうなテーブルにエルナがコハクを連れて顔を出し、賑やかさに磨きがかかる。
「タビさん! この間お会いしたとき、大森林で生死の境を彷徨ったと言いましたが、あれは嘘でした!」
「え?」
「本当は大樹海でした! 道理でエルフの方を見かけなかったわけですね!」
「森林と樹海って、違うの?」
「大違いですよ! いいですか、樹海というのは……」
滔々と語るエルナの話は身振り手振りを交えて時に可笑しく時に恐ろしく、あっちに行ったりこっちに跳んだり目まぐるしく超展開。
その話を聞きながら、コハクはひたすら食べまくる。
「やぁ、ええと、旅猫くんだっけ」
エルナの話がいつの間にか雑談に紛れると、今度はシャンテが声をかけてきた。
「うん、タビでいいよ」
「じゃあタビくん」
シャンテはヒゲをピンと伸ばすと、ぶどうジュースの入ったグラスを差し出した。
「頭がそのまんま猫の形してるハーフビースト仲間ってなかなかいないんだよねぇ、最近はティラミスさんって人と知り合ったくらいかな」
「ん? 誰か呼んだか?」
話題にされた当人、ティラミス・ノーレッジはピクリと耳を動かして振り向くと、いそいそと近寄って来た。
「おぅおぅなんだ、猫頭三人衆だな!」
ティラミスはどうやらもうすっかり出来上がっている様だ。
「白いのはタビってのか! おぅ飲め飲め! 乾杯交わせば皆ソウルブラザーさ!」
「そうだね、ひとまず乾杯といこうか!」
シャンテはタビにグラスを手渡し、かんぱーい!
「タビくん、ここで会ったのも何かの縁だ、まずは友達からどうだろう?」
「え、友達……から?」
タビにとって友達は最終形態、それ以上となると……親子? 兄弟? それとも……
リンゴーン、タビの頭で鳴り響く教会の鐘。
「ええっ!?」
「いやいや、何を想像したか知らないけどそれじゃないから。ええと、まあ……そう固く考えないで気楽に友達を作っても良いんじゃないかなって事だよ」
「そうだぞ、ソウルブラザー!」
ティラミスが上機嫌でタビの背中をばんばん叩く。
「こういう雰囲気は楽しくて良いですわよね」
「ああ、大勢で迎える新年っていいもんだな!」
酒をちびちびやりながら微笑む朱羅に、半年分くらいの食い溜めをする勢いで食べまくるギドが答える。
「タビと最初に会ったのもこうやって食べたり飲んだりって感じだったから、なんだか懐かしくなるな」
肉の脂で口の周りと手をベタベタにしながらレオが言った。
実際の時間ではまだ数ヶ月前の事なのに、なんだかもう何年も前の様な気がする。
「冒険者の仕事であちこち行ったり、わりと大変な事も色々あったし……そのせいかな」
でも、だからこそこうやってタビと楽しく過ごせるのが、また安心感とか癒しみたいな感じで嬉しい。
「今年もまた色々遊びに行こうぜ!」
「うん、レオはどんなとこ行きたい?」
「やっぱり食い物が美味いとこだな、特に肉!」
「また先生に叱られるよ?」
二人は顔を見合わせ、弾ける様に笑う。
(昔のことも思い出せれば何よりだけど、せっかくなら楽しい思い出もいっぱい作ってもらいたいしな)
レオネベルちゃん、ええこや。
「タビさんは初夢見ましたか?」
「はつゆめ……って、何?」
エルナの突撃に、タビは首を傾げる。
「初夢というのはですね!」
かくかくしかじか。
「私は初夢の書かれた紙を貰う夢を見ましたよ!」
それは……どう解釈すれば良いのだろう。
「僕は覚えてないな……夢って殆ど見ないし」
やっぱり記憶が足りないせいだろうか。
だとしたら、来年はきっと素敵な夢が見られる筈だ。
だって今、新しい記憶がものすごい勢いで積み上がってるし。
「みんなは今年の目標とか抱負とか、ある?」
「はいっ!」
タビの問いにエルナが勢いよく手を挙げた。
「私の今年の抱負は、一年を楽しく過ごす事です! 未知なる探検! 冒険! 発見を目指して、毎日元気元気で行きますよ!」
つまり平常運転ってことかな?
「今年の目標はタビさんの尻尾をもふもふすることだよ!」
いやスフィカはもうそれ実行してるし! くすぐったいよ!
「今年度の抱負……というか目標だけども」
シャンテが少し姿勢を正して言った。
「とりあえずは帝国から逃げ延びたであろう弟たちを見つけて、ひと安心したいところだね」
「見付かるといいね。僕は力になれそうもないけど……お祈りくらいなら」
「ありがとう、タビ」
口の端から白い牙が僅かに覗く。
(両親については残念だったけど……うん、気持ちを切り替えていかないと)
「じゃあ祈っててよ、友達の応援ってすごく力になるし」
「俺は『生きる』だ」
ティラミスはただ一言シンプルに。
「だって嫌だろ? 少し前の不死者軍団に囲まれるようなの。だから生きる、俺はあんな腐敗臭漂わせたくはねぇしな!」
あ、言ってたら鼻の奥に蘇ってきたあの匂い、赤ワインの一気飲みで消せるだろうか。
「オレは仕事はちゃんと、だけれど今年もこういう時間を大切にしたいね」
レオの抱負は背伸びをせずに堅実路線だ。
「俺は歌が少しでも上達するように頑張る、かな」
ギドが少し照れた様に言う。
「タビが何か思い出して、歌とか演奏をする時が来たとき下手なままだとちょっと恥ずかしいからな!」
「じゃあ僕も頑張って、何か弾けるように練習してみようかな」
ふと目をやったテーブルで、タビはロゼットとばっちり目が合ってしまった。
「うん? タビだっけ。楽器珍しいの?」
「え、いや……」
「じゃあおいでおいで、教えたげるわ」
「そう言われても……楽器なんてどこに?」
もしかしてエア楽器かな?
「なぁーに言ってるの、ちゃんとここに……あれ? 持って来てなかったかな?」
ロゼットは酔っていた。
食べる時と飲む時くらい嫌なことは忘れましょうと、ご馳走を食べてお酒を飲んで、人格が変わる程度には出来上がっていた。
「なかったら借りれば良いのよ、ほらあそこに……」
店の隅にオルガンだかクラヴィコードだか、そんな感じの箱があるでしょ?
いいえ、あれは食器棚です。
「そんなことないでしょー、ほら叩けば音が出るし」
キン、コン、カン、スプーンやフォークで食器を叩いてみる。
「ほらタビも一緒に」
だがそれは血相を変えた店員によって止められてしまった!
代わりに押し付けられたリュートを手に、ロゼットは上機嫌で歌い始める。
「よし、一曲歌っちゃうわよ!」
賑やかな方が楽しいし、ご馳走とお酒のお礼代わりに!
「任せなさい、何年讃美歌を歌ったか!」
けれど酔っているせいか伴奏はへろへろだ!
「それじゃ少し手伝わせて貰おうかな」
「よし、俺も!」
セヴランのバイオリンとギドのリュートが伴奏を買って出る。
「こういうのもどうかな?」
そこにキオルティスが奏でる軽やかな鈴の音と竪琴の調べが加わった。
「美味い飯の礼じゃろ? 太鼓ならできるでぇ!」
腹が五分目くらいになったジョンが皿から顔を上げ、丸く膨らんだ腹をポンと叩く。
「おお、我ながら良い音じゃわぃ!」
サウンドボマーで部屋いっぱいに腹鼓を響かせる!
最初はロゼットの歌に合わせ、次第に歌も演奏も即興のセッションに。
「今日は楽器が出来る人が多いね」
セヴランの演奏に合わせて、肩の上で栗鼠のララが踊る。
「歌い手もいますよ。東方の祝い唄はいかがですか?」
朱羅が新年に相応しくおめでたい感じの歌を披露すると、演奏もそれに合わせて曲調を変える。
歌詞の意味はわからないが、ただの音となった異国の言葉はそれ自体が楽器であるかの様に様々な音色に変化し、聞き手の想像を掻き立てた。
拍子を取りながら暫くじっと聞いていたロゼットは、その歌にコーラスで華を添える。
歌うことで程よく酔いも冷めたらしく、リュートを爪弾く手付きも今では危なげないものになっていた。
セッションは一曲ごとに中心となるホストを変えて続く。
自由に楽しく軽やかに、時にはユニゾンし、時には違う音でハーモニーを奏で、語る様に笑いかける様に。
歌声が主役になる時に、楽器が主役になる時。リズムが主役の時は皆の足踏みや手拍子も加わって。
「君の好きな曲調は? 思い出の曲は?」
サービス精神満載で、セヴランは会場の女性達からリクエストを募る。
「ついでに好きな食べ物は?」
それは演奏と関係ないだろうって?
「モチベーションは大事だよ?」
男性からのリクエストもまあ一応は聞いておくよ。でも時間がなかったらごめんね!
「じゃあ俺はとっておきの歌を披露しようかな」
ホストとなったキオルティスが明るく何処までも透明な歌声を響かせる。
誰もが祝福を寄せられる
誰もが幸せを分かち合う
今日までの苦しみだってさよならさ
今日からの幸せが待ってるんだから
祝おう この時を
祝おう この年を
そうして皆が幸せであれ 幸せになれ
「最後は皆が知ってる歌で合唱だ! 今年一年も楽しくやっていこう!」
ギドが前奏を奏でると、多くの者が「あっ、これ知ってる!」と顔を輝かせた。
「大丈夫、簡単だから」
耳元でレオが囁いた通り、それはタビにもすぐに覚えられた。
短い歌詞とシンプルなメロディの繰り返しは一人で歌うには物足りないけれど、皆で歌えばそれは楽しく壮大に。
「柔らかい音色、高らかな声……皆素敵だね」
歌声の中、セヴランが満足そうに呟く。
「今年もこうやって 聞いて合わせて楽しめたらいいと思うよ」
そろそろ宴も終わりの気配を感じながら、ストレガはご飯をどっさり炊いていた。
「米は良いぞ腹持ちが良い。もっと広まるべきなのだ」
炊けた米の一部は余った油を卵や野菜と共に炒めて焼き飯に、他はおにぎりや雑炊に。
「宴の終わりに腹を限界に満たすのだ」
悪い顔なのだ。
だが限界を越えて残るかと思われた追加のコメ三昧は、腹五分目に留めていたジョンのお腹にすっぽりと収まったとか。
う ま い め し ! ! !
それでも腹八分目らしいジョンは、習いたての字を力強く紙に踊らせた。
新年の最初にこうして墨文字を書く風習は、書初めと言うらしい。
「書初めとは、己の好きなものや願いを書くのじゃろ?」
絵馬か何かと混ざっている気もするが、細かい事は気にしない。
踊る子熊亭の壁には、他にも「にく」だの「おかし」だの「ふつうのごはん」だの、様々に書き散らされた欲望が貼り出されたとか。
まだまだ賑やかな宴の席を、コルネリウスは目を細めて見守っていた。
(実家でも、新年には弟たちがこんな風に楽しそうに過ごしていましたね)
コルネリウスはそんな様子を眺めるのが好きだ。
自分が輪の中に入るよりも、寧ろ外から眺める方が幸せを感じる。
「また来年もこんな風に新年会が出来たら……嬉しいですね」
名残惜しそうにしながら、コルネリウスは厨房へ戻って行く。
流しの中には大量の汚れ物、ちょっと途方に暮れかけていたところに――
「うちも手伝うよ!」
スフィカが飛び込んで来た。
「レシピとかは誰でも知ってそうなのしか思い付かなかったから、後片付けとか皿洗いとかでお返しするね!」
え、どんな料理かって?
「メッチャ簡単普通な家庭料理だよ、カブと鶏肉のクリーム煮とか……寒くなるとよく実家で食べてたんだよね」
「あの、多分……それでも良かったのではないかと……」
「え」
コルネリウスの料理も素朴な故郷の味だし。
寧ろその方が喜ばれそうな?
「しまったぁぁ!」
遠慮せずに作ればよかったと嘆きつつ、スフィカは皿の山に向き合うのだった。
踊る子熊亭の厨房には何人かの冒険者達が顔を揃えていた。
(みんな早いんだな……)
こっそり覗き込んだタビは、自分と同じで待ちきれなかったのだろうかと考える。
だが勿論、彼等が早く来たのはそんな理由ではなかった。
「お店を使わせて頂いてありがとうございます」
コルネリウス・アーラは本日、裏方に徹するつもりだった。
「お店で出されるものには及びませんが、大人数向けのお料理なら、少し得意なんです」
まずはパンを大量に作り、オーブンで焼いている間にスープ作りを。
自信があるという程ではないけれど、懐かしい故郷の味はきっと、自分以外には再現の出来ないものだ。
沢山の豆や野菜を中心に、チーズとパンを入れて煮込む具沢山のスープは寒い季節に丁度良い。
「タビさんも、良かったら味見をして頂けませんか?」
「あ」
見つかってしまった、と言うか最初から気付かれていた様な。
「うん、じゃあ一口……野菜はあんまり得意じゃないんだけど」
「野菜嫌いの子供達にも人気なんですよ?」
「ほんと?」
タビは小皿に少し取り分けて貰って、恐る恐る飲んでみる。
「……美味しい!」
「でしょう?」
おかわりはパーティが始まってから、ね?
ストレガ・L・リベルガストラは調理の手伝い、或いは研鑽に。
「最近油と塩は酒が進むことを学んだのだ」
それはそれとして、まずは手間のかからない野菜スティックから。
「とりあえず肴なのだ。肉とのバランスもとるのだ」
それが出来たらオリーブ油と刻み大蒜、それに唐辛子をスキレットに入れ、他の具材は魚介やキノコに分けて煮込み、味を調整すれば出来上がり。
「パンと一緒に食べるのがオススメなのだ」
次は獣肉を適当な厚さに切って卵と小麦粉を付け、輪切りにした玉葱も同様にして熱した油で泳がせる。
「これは岩塩とレモンを添えて食べるのが旨いのだ」
細切りにした芋はそのまま油に入れて、仕上げに塩を振りかける。
一通り終わったところで少し休憩にしつつ、他の人達の手元を覗き込んでみた。
この機会に様々なレシピを己のものとしたいところ。
「タダとは言わないのだ、代わりに少し手伝うのだ」
手が欲しい人はいませんかー?
「あの、こちらロープです」
「はい?」
ニール・ロブラリアの提案に、料理人は目を丸くして首をひねった。
「ボクが不審な行動を取ったら、すぐに拘束してほしいんだ。神聖な厨房を冒涜的な工房に変えないために」
「あー……、えーと。君の料理はそんなに……アレなのかな?」
料理人の問いに、ニールは深く深く頷いた。
「野営の時に煮炊きができなくて困ったんだ。何の味もしないごはんとか、士気にかかわるよね」
味がしないのは防衛本能として味覚がバグった結果かもしれない破滅的メシマズ王。
「食事が当番制だったら戦う前にパーティ壊滅だし」
というわけで、今年の抱負というか目標は「普通の味のするごはんを作る」こと。
その第一歩として選んだものは、揚げドーナツだった。
「いや、それはいきなりハードル高くないか?」
茹で卵とか、混ぜるだけのドレッシングでサラダとかの方が良くない?
「でも、ある地方では今頃に食べるって聞いたことがあるんだ。季節感って大事だよね」
大丈夫、レーズン卵塩バター等々、材料をよく混ぜて、置いて、揚げるだけだ。
「最後に贅沢に砂糖も振れば、きっと、たぶん、いける。まだ止められてないし」
美味しい、までは求めない。
けれど。
「少しでも甘く、なーれ?」
魔法をかけたら出来上がり。
「……運試し、みたいだな」
ドキドキしながら、いざ実食――
「……あれ?」
メシマズは裏切らない。
あの白い粉は砂糖ではなく、小麦粉だった様だ。
「大丈夫、上から砂糖かければ……」
え、これ塩?
「いつも無料ごはんをいただいてるのに……申し訳ないですから心ばかりの寄贈をしましょう」
そう考えたシャロン・ラ・モリエールは、手縫いの雑巾や布巾を持って厨房に顔を出した。
あまり押し付けがましいのもどうかと思い、短い手紙を添えて調理台の隅にでも……と視線を巡らせる。
「あら?」
そこで知った顔と目が合った。
「悠人様はお手伝いですか。お疲れ様です」
「新年って事だから、家にいるよりもこっち来たほうがいいもの食えるしね」
悠人・ラドルファスは食事の代わりに労働力を提供しようと、給仕や皿洗いなどの仕事を買って出ていた。
堂々とタダ飯を食らっても店の方では一向に構わないのだが、手が増えるのは大歓迎と遠慮なく悠人をコキ使う。
会場には5〜6人が一度に座れる丸テーブルがいくつかあり、各テーブルにはそれぞれに違った大皿料理とバスケットに入ったパンが置かれていた。
その他の料理は各自がメニューを見て注文し、給仕がテーブルに届ける仕組みになっている。
新しい年を迎えるにあたっての抱負やら目標やら、真面目なトークも良いけれど、まずは美味しいごはんで幸せになろう!
「座ってろよ、オレがなんか見繕って適当に持ってってやるから」
「そうですか? ではお言葉に甘えて……」
差し入れを悠人に預け、シャロンは席へと戻って行った。
「全ての費用は踊る子熊亭が負担!?」
ニーラ・メッコは心の声がだだ漏れていた。
「なななななnなんだってーーーーっ!!?」
乗るしかない、このビッグウェーブに!
自腹じゃ食べられないご馳走をたらふく食べる為に、やるべき事はひとつ!
それは朝から何も食べずにハラペコでパーティーに臨むこと!
「あ、お腹空きすぎて倒れそう……」
踊る子熊亭はもう目の前なのに、意識が……(ぱたり
「今日、新しい年。お祝いパーティー、やる」
その情報を聞きつけたコハクは、日頃の無表情はそのままに、けれど周囲にお花が浮かぶ幻影が見える程にルンルンで、スキップしながらお店にやってきました。
パーティーといえば食事、食事と言えばコハク。
コハクは何はともあれ食べる事が大好き。
タダ飯程美味しいものはありません。
けれど店の入口で――
「誰か、倒れてる」
行き倒れ?
そっと顔を覗き込むと、何やら呟きが聞こえました。
「……おなか……すいた……」
なるほど大体わかった。
「美味いご馳走がたらふく食えると聞いて!」
ばーん!
扉をぶち破る勢いで飛び込んで来たのは、くいしんぼ熊さんジョン・ベアーだ。
ユールフェスでたんまり食べてきたけれど、それはもう去年の話。
「年を越えたらリセットじゃからな!」
日付を超えてもリセットだけどな!
まずは一番美味しそうな大皿料理が乗ったテーブルに着いて、皿ごと抱え込む勢いで食べ始める。
「美味い! これは何という料理じゃ?」
訪ねながら、ばくばくもりもり。もうこのテーブル熊さんの貸し切りで良いのでは?
メニューを見て名前が美味そうな料理があれば全て注文し、隣のテーブルを覗き込んでは「それなんじゃ?」と同じものを注文し、それはもう厨房を空にせん勢いで食べ続ける。
だが踊る子熊は喰らう大熊に負けはしない!
「ジャガイモの皮、剥き終わったのだ」
ストレガは厨房の補佐役に抜擢されていた。
コンロの炎と鍋の湯気、それにオーブンの放射熱とで真夏よりも暑い厨房で、ストレガは次々と出来上がる料理のレシピを覚えようと……覚え、おぼ……
「無理なのだ」
忙しすぎて、手も目も頭も回らない。
けれど垣間見た調理人達の技は、レシピよりも重宝する、かも。
「新年のパーティか……派手に、粋に行きたいものだね!」
キオルティスはまず、周囲の者達に酒を注いで回る。
「まずはお酒を一献。まあまあ遠慮なく、どうせ店の奢りなんだし?」
顔見知りにも初めて会った誰かにも、老若男女分け隔てなく……女性にはさりげなく多めに注いでみたり。
「シャロンさんも来てたんだね。朱羅さんも」
「こんにちは、楽しみな一日になりそうですわね」
百鬼 朱羅が差し出したグラスには、本人の希望でエールを注ぐ。
「やっぱりこれが無いと始まらないよね」
「ええ、今日は新年会ですし、無礼講と行きましょう」
「美味しいお酒は楽しい場を盛り上げる魔法みたいなものだから……あ、若い子はぶどうジュースで良いかな?」
その場の全員に配ったら――
「それでは新年を祝って、カンパーイ!」
音頭を取ろうと口を開きかけたキオルティスよりも先に、グラスを掲げた朱羅が声を上げた。
「ああっ、先を越された……!」
まあいいかと笑いながら、キオルティスもグラスを掲げる。
「皆にとって幸多い、最高の一年となりますように……」
もう食べ始めている人も、一旦手を止めて乾杯!
じゃあ新年の挨拶は……シャンテ・フーケさんにお願いしようかな!
「えっ、僕!?」
何故かご指名に預かったシャンテは、立ち上がってひとつ咳払い。
「えー、新年明けましておめでとうございまーす」
これでいい?
まだもう少し話せって?
「いやぁ、去年の暮れはいろいろなことが目白押しで大変だったねぇ……」
さて、今年はどんな年になるのやら。
「まぁ、なるようになるかな」
なるようにしかならない、と言うか。
「じゃん! お母さんですよ!」
テーブルの一角にコハクの姿を見付け、エルナ・クルプファルツはいそいそと歩み寄る。
「良ければ一緒に過ごしましょう!」
「うん、一緒、嬉しい」
コハクはジュースの入ったグラスを掲げ、きちんと新年のご挨拶。
「乾杯。ルナママ、みんな、今年もよろしく、お願い、します」
「はい、かんぱーい! コハクさんもよろしくお願いしますね!」
ところで、テーブルに突っ伏してるこの人は誰?
どうすれば良いの?
「お店の前、拾った。お腹すいた、言ってた」
「それじゃ、こうすれば起きますかね?」
エルナは行き倒れの鼻先に肉汁滴るステーキを差し出してみる。
ぴくん、ぴくぴく、鼻と耳が動き――
「新年! おめでとうございます!!」
ニーラ復活!
「いやー、オゴリで食べるご馳走はおいしいねっ!!」
右と 左から次々に差し出される料理をぺろりと飲み込み、ニーラははたと気が付いた。
「そういえば私、途中から記憶が……えっ、貴方が!?」
ニーラは恩人の手をとってぶんぶんぶん!
「ありがとう、そしてありがとう!」
お礼に何でも奢るよ、タダ飯だけど!
「沢山たべるね。すごいなぁ」
バクル・バスリーはリディリディ・トゥラ・イェレミースの見事な食べっぷりに思わず見入っていた。
何度か姿を見かけた事はあったけれど、こんなに豪快に食べ、かつ飲む人だったなんて……ちょっと意外。
「あ、ごめん、じっと見ちゃって……ここ、一緒しても良い?」
「え、ええ、どうぞ……」
頷いたリディリディが耳まで赤いのは、その繊細そうな外見からは想像も付かない実態を見られたせいか、それともしたたかに酔っているせいか……
「ありがとう」
礼を言って、バクルは向かいに腰を下ろした。
「仕事で一緒した事はあっても、ゆっくり話すのは初めてだよね」
適当に食事を頼み、食べながら話す。
「ぼくはバクル・バスリー。迷宮都市エドゥノーグって所出身で、冒険者に登録する前は、エドゥノーグでダンジョンに潜って生計を立ててたんだ」
「リディリディと申します」
人が集まる催しは本来苦手ですが、食べ物に釣られて来ました――とは言わないけれど、多分もうバレている。
「今でもダンジョン探検は好きさ。でも、ずっとそれだけだとなんか壁にぶつかる気がしてね。外の世界を見に来たんだ」
自己紹介はこんなところかな、とバクルはリディリディを見る。
「新年って抱負とか語るものだよね。リディリディさんは今年どうしたいとかってある?」
「私は……そうですね。今年はもっとお酒が飲めるようになれればと。あまりお酒に強くないんです」
そう言ってふと見ると、バクルが「いや嘘やん」みたいな顔をしている。
だってさっきからジュースみたいにお酒飲んでるし、なのに全然酔った風でもないし、何より……顔も耳も、もう赤くない。
(さっき赤かったのは、お酒のせいじゃなかったんだ……)
しかしリディリディは、バクルの反応を勘違いした様だ。
「え、抱負ってそういうのではないのですか?」
あ、また耳まで赤くなった。
「ううん、どんなのでも良いと思うけど。他にもあるなら、それも聞きたいな。あ、もし嫌じゃなければだけど」
「では……」
と改めて、リディリディは答えた。
「色々な場所を巡れたらと思います。今まで森しか知らなかったので」
そして色々な土地の美味しいものを食べたい飲みたいと心の声。
「素敵だね。ぼくは、今年は筋トレの回数を倍にして、もっと強くなりたいな」
それと、リディリディさんと仲良くなりたいな。
それはもう、叶ってる……かも?
悠人には野望があった。
魚料理が好きなシャロンに、こんな日くらいはたくさん魚を食べさせようと。
そうしてせっせと運ぶ魚料理、だがその中の一つが、なんかやばい。
「わー、ありがとうございます」
シャロンは素直に喜んでいるけれど……
「シャロン……お前、これ喰うの……?」
いや自分で持って来ておいて言うのも何だけど。
パイ生地の海から顔を出した魚が空気を求める様に口を開け、濁った目で虚空を見つめている。
スターゲイザーパイ、初めて見るこの奇妙な感じ。
これほんとに食い物かよ、そんな顔でシャロンに尋ねるが、彼女は平然と微笑んだ。
「見た目は奇天烈だけど味は美味しいのですよ?」
食べたことあるのか、これ。
「中のポテトとベーコンがベストマッチですし、そこにさらに香ばしい焼き魚という、美味しいと美味しいのコンボなのですよ! 悠人様も一切れいかがですか?」
そこまで言われたら引き下がる事は出来ない。
「……一口だけ……」
いや尾頭付きじゃない部分で……うん、何故ここに魚を入れようと思った、しかもこの形でって感じかな。
「悠人様はなにをお召し上がりですか?」
「俺? ……んー、肉焼いてくれるみたいだし、それかな」
「ほう……悠人様はお肉派ですか」
シャロンは悠人のグラスに肉料理に合う赤ワインを自分のグラスには白ワインを注ぐ。
「乾杯いたしましょう。ハッピーニューイヤー」
「うん、あけましておめでとう」
グラスを合わせ、悠人は今年も何とかやっていけそうだと思いながら喉を潤す。
ここからは客として、ご馳走を楽しもう。
「よぉ、タビ! 今年もまたよろしくな!」
レオネベルがハイタッチ!
「タビ、あけましておめでとう!」
ギド・フェルミが背中をばしーん!
「ってことでタビさん、お友達になろー!」
スフィカがタックルどーん!
なおこの行動に至るまでには(タビさんとのエンカウント三回目かな。これはそろそろお友達といっても良いのでは!?)という思考の流れがあったとか。
「う、うん、そうだね……」
圧倒的な押しの強さに押されっぱなしのタビ、だがこの押されて流される感じは癖になる、かも?
「モテモテだね、タビ。新年おめでとう」
トリプルアタックを喰らってフラフラしているタビに、セヴラン・クアルトが笑いかける。
「ひとまず乾杯といこうか。タビはお酒はいけるのかな?」
「あ、僕は――」
多分まだ未成年だから、と言おうとした所にスフィカがずいっとりんごジュースを差し出した。
「じゃあかんぱーい!」
何に? 新年にかな? パーティだから楽しければおっけーだよね。
セヴランはスパイスよりもフルーツと蜂蜜で少し甘めに仕上げたホットワインで。
「一つでも多くの楽しい事嬉しい事を積み重ねられるといいね」
乾杯が済んだら、後はご馳走にまっしぐら。
「タビは何が好きかな?」
「甘いお菓子と肉だよな!」
セヴランの問いにレオが代わりに答え、タビの皿に野菜を乗せる。
「待ってよレオ、何でそこで野菜なの!?」
「好きなものは放っといても食べるだろ? 野菜も食べないと、また先生に叱られるぞ?」
「レオもね」
お返しにレオの皿にも野菜をどーん!
「あとこれ、野菜だけど美味しかったよ」
タビはコルネリウスの特製スープをオススメしてみる。
「じゃあコレはどうだ!」
ギドが持ってきたのは、緑色の何か。
「うわ、草だ……」
タビの脳裏に蘇る、草も生えない草スープの味。
「いやいや、これは違うんだって。草は草でも七草粥だ」
「やっぱり草じゃない」
「草だけど、この前の味気ないスープとは違うぞ、ちゃんと勉強してきたからな!」
だからその疑わしげな目はヤメレ。
「シャルガネのあたりの風習で、七種類の野草を粥にして食べると健康に過ごせるんだってさ」
調味料は塩だけと聞いた時にはギドも正直「美味いのかこれ?」と思った。
「でも食べてみたら普通に美味いんだ、騙されたと思って……ほら!」
タビは差し出されたお椀を渋々とって、一口。
「あれ?」
「な?」
「うん、食べられる草だ」
「どれどれ? オレにも一口!」
「おう、レオも食うか!」
一口と言わず、たんとおあがり?
「うん、さっぱりしてて肉の後に良い感じだな」
そこにニーラがひょっこり顔を出す。
「私、豪華なお魚料理を食べてみたい! タビさんも、お魚は好きでしょ? 猫だものね!」
「うん、まあ魚も嫌いじゃないけど……」
肉のほうが好き、と言う暇をニーラは与えなかった。
「新鮮なお魚を一緒に食べない? 先祖が東方由来の人から聞いた話では、お魚を生で食べたりするらしいよ」
踊る子熊亭のメニューに、そういう料理はあるのかな?
リクエストしてもいいかな?
「いいとm……」
いけない、新年からマスタリング対象なセリフを叫ぶとこだった――え、いいの?
「じゃあ叫ぶ……って、あれよ! あれ!」
ニーラは朱羅がのんびり清酒を飲んでいるテーブルを指さした。
そこに並ぶ、色鮮やかな魚の切り身。
「これは刺身というものです。酒のアテに良いのですよ」
朱羅が答える。
「タビ様もこちらで一緒に呑まれませんか? ……いえ、私がそちらに伺った方が良さそうですね」
朱羅は酒と肴を引き連れて、タビのいるテーブルに移って来た。
「その七草粥、よろしければ私にもいただけませんか?」
「勿論、どんどん食ってくれ!」
「すみませーん! 私にもお刺身ひとつー!」
ニーラが手を挙げ、忙しそうに働く店員を呼び止めた。
「あと魚料理を全部!」
このスターゲイザーって奴も!
何とも賑やかで楽しそうなテーブルにエルナがコハクを連れて顔を出し、賑やかさに磨きがかかる。
「タビさん! この間お会いしたとき、大森林で生死の境を彷徨ったと言いましたが、あれは嘘でした!」
「え?」
「本当は大樹海でした! 道理でエルフの方を見かけなかったわけですね!」
「森林と樹海って、違うの?」
「大違いですよ! いいですか、樹海というのは……」
滔々と語るエルナの話は身振り手振りを交えて時に可笑しく時に恐ろしく、あっちに行ったりこっちに跳んだり目まぐるしく超展開。
その話を聞きながら、コハクはひたすら食べまくる。
「やぁ、ええと、旅猫くんだっけ」
エルナの話がいつの間にか雑談に紛れると、今度はシャンテが声をかけてきた。
「うん、タビでいいよ」
「じゃあタビくん」
シャンテはヒゲをピンと伸ばすと、ぶどうジュースの入ったグラスを差し出した。
「頭がそのまんま猫の形してるハーフビースト仲間ってなかなかいないんだよねぇ、最近はティラミスさんって人と知り合ったくらいかな」
「ん? 誰か呼んだか?」
話題にされた当人、ティラミス・ノーレッジはピクリと耳を動かして振り向くと、いそいそと近寄って来た。
「おぅおぅなんだ、猫頭三人衆だな!」
ティラミスはどうやらもうすっかり出来上がっている様だ。
「白いのはタビってのか! おぅ飲め飲め! 乾杯交わせば皆ソウルブラザーさ!」
「そうだね、ひとまず乾杯といこうか!」
シャンテはタビにグラスを手渡し、かんぱーい!
「タビくん、ここで会ったのも何かの縁だ、まずは友達からどうだろう?」
「え、友達……から?」
タビにとって友達は最終形態、それ以上となると……親子? 兄弟? それとも……
リンゴーン、タビの頭で鳴り響く教会の鐘。
「ええっ!?」
「いやいや、何を想像したか知らないけどそれじゃないから。ええと、まあ……そう固く考えないで気楽に友達を作っても良いんじゃないかなって事だよ」
「そうだぞ、ソウルブラザー!」
ティラミスが上機嫌でタビの背中をばんばん叩く。
「こういう雰囲気は楽しくて良いですわよね」
「ああ、大勢で迎える新年っていいもんだな!」
酒をちびちびやりながら微笑む朱羅に、半年分くらいの食い溜めをする勢いで食べまくるギドが答える。
「タビと最初に会ったのもこうやって食べたり飲んだりって感じだったから、なんだか懐かしくなるな」
肉の脂で口の周りと手をベタベタにしながらレオが言った。
実際の時間ではまだ数ヶ月前の事なのに、なんだかもう何年も前の様な気がする。
「冒険者の仕事であちこち行ったり、わりと大変な事も色々あったし……そのせいかな」
でも、だからこそこうやってタビと楽しく過ごせるのが、また安心感とか癒しみたいな感じで嬉しい。
「今年もまた色々遊びに行こうぜ!」
「うん、レオはどんなとこ行きたい?」
「やっぱり食い物が美味いとこだな、特に肉!」
「また先生に叱られるよ?」
二人は顔を見合わせ、弾ける様に笑う。
(昔のことも思い出せれば何よりだけど、せっかくなら楽しい思い出もいっぱい作ってもらいたいしな)
レオネベルちゃん、ええこや。
「タビさんは初夢見ましたか?」
「はつゆめ……って、何?」
エルナの突撃に、タビは首を傾げる。
「初夢というのはですね!」
かくかくしかじか。
「私は初夢の書かれた紙を貰う夢を見ましたよ!」
それは……どう解釈すれば良いのだろう。
「僕は覚えてないな……夢って殆ど見ないし」
やっぱり記憶が足りないせいだろうか。
だとしたら、来年はきっと素敵な夢が見られる筈だ。
だって今、新しい記憶がものすごい勢いで積み上がってるし。
「みんなは今年の目標とか抱負とか、ある?」
「はいっ!」
タビの問いにエルナが勢いよく手を挙げた。
「私の今年の抱負は、一年を楽しく過ごす事です! 未知なる探検! 冒険! 発見を目指して、毎日元気元気で行きますよ!」
つまり平常運転ってことかな?
「今年の目標はタビさんの尻尾をもふもふすることだよ!」
いやスフィカはもうそれ実行してるし! くすぐったいよ!
「今年度の抱負……というか目標だけども」
シャンテが少し姿勢を正して言った。
「とりあえずは帝国から逃げ延びたであろう弟たちを見つけて、ひと安心したいところだね」
「見付かるといいね。僕は力になれそうもないけど……お祈りくらいなら」
「ありがとう、タビ」
口の端から白い牙が僅かに覗く。
(両親については残念だったけど……うん、気持ちを切り替えていかないと)
「じゃあ祈っててよ、友達の応援ってすごく力になるし」
「俺は『生きる』だ」
ティラミスはただ一言シンプルに。
「だって嫌だろ? 少し前の不死者軍団に囲まれるようなの。だから生きる、俺はあんな腐敗臭漂わせたくはねぇしな!」
あ、言ってたら鼻の奥に蘇ってきたあの匂い、赤ワインの一気飲みで消せるだろうか。
「オレは仕事はちゃんと、だけれど今年もこういう時間を大切にしたいね」
レオの抱負は背伸びをせずに堅実路線だ。
「俺は歌が少しでも上達するように頑張る、かな」
ギドが少し照れた様に言う。
「タビが何か思い出して、歌とか演奏をする時が来たとき下手なままだとちょっと恥ずかしいからな!」
「じゃあ僕も頑張って、何か弾けるように練習してみようかな」
ふと目をやったテーブルで、タビはロゼットとばっちり目が合ってしまった。
「うん? タビだっけ。楽器珍しいの?」
「え、いや……」
「じゃあおいでおいで、教えたげるわ」
「そう言われても……楽器なんてどこに?」
もしかしてエア楽器かな?
「なぁーに言ってるの、ちゃんとここに……あれ? 持って来てなかったかな?」
ロゼットは酔っていた。
食べる時と飲む時くらい嫌なことは忘れましょうと、ご馳走を食べてお酒を飲んで、人格が変わる程度には出来上がっていた。
「なかったら借りれば良いのよ、ほらあそこに……」
店の隅にオルガンだかクラヴィコードだか、そんな感じの箱があるでしょ?
いいえ、あれは食器棚です。
「そんなことないでしょー、ほら叩けば音が出るし」
キン、コン、カン、スプーンやフォークで食器を叩いてみる。
「ほらタビも一緒に」
だがそれは血相を変えた店員によって止められてしまった!
代わりに押し付けられたリュートを手に、ロゼットは上機嫌で歌い始める。
「よし、一曲歌っちゃうわよ!」
賑やかな方が楽しいし、ご馳走とお酒のお礼代わりに!
「任せなさい、何年讃美歌を歌ったか!」
けれど酔っているせいか伴奏はへろへろだ!
「それじゃ少し手伝わせて貰おうかな」
「よし、俺も!」
セヴランのバイオリンとギドのリュートが伴奏を買って出る。
「こういうのもどうかな?」
そこにキオルティスが奏でる軽やかな鈴の音と竪琴の調べが加わった。
「美味い飯の礼じゃろ? 太鼓ならできるでぇ!」
腹が五分目くらいになったジョンが皿から顔を上げ、丸く膨らんだ腹をポンと叩く。
「おお、我ながら良い音じゃわぃ!」
サウンドボマーで部屋いっぱいに腹鼓を響かせる!
最初はロゼットの歌に合わせ、次第に歌も演奏も即興のセッションに。
「今日は楽器が出来る人が多いね」
セヴランの演奏に合わせて、肩の上で栗鼠のララが踊る。
「歌い手もいますよ。東方の祝い唄はいかがですか?」
朱羅が新年に相応しくおめでたい感じの歌を披露すると、演奏もそれに合わせて曲調を変える。
歌詞の意味はわからないが、ただの音となった異国の言葉はそれ自体が楽器であるかの様に様々な音色に変化し、聞き手の想像を掻き立てた。
拍子を取りながら暫くじっと聞いていたロゼットは、その歌にコーラスで華を添える。
歌うことで程よく酔いも冷めたらしく、リュートを爪弾く手付きも今では危なげないものになっていた。
セッションは一曲ごとに中心となるホストを変えて続く。
自由に楽しく軽やかに、時にはユニゾンし、時には違う音でハーモニーを奏で、語る様に笑いかける様に。
歌声が主役になる時に、楽器が主役になる時。リズムが主役の時は皆の足踏みや手拍子も加わって。
「君の好きな曲調は? 思い出の曲は?」
サービス精神満載で、セヴランは会場の女性達からリクエストを募る。
「ついでに好きな食べ物は?」
それは演奏と関係ないだろうって?
「モチベーションは大事だよ?」
男性からのリクエストもまあ一応は聞いておくよ。でも時間がなかったらごめんね!
「じゃあ俺はとっておきの歌を披露しようかな」
ホストとなったキオルティスが明るく何処までも透明な歌声を響かせる。
誰もが祝福を寄せられる
誰もが幸せを分かち合う
今日までの苦しみだってさよならさ
今日からの幸せが待ってるんだから
祝おう この時を
祝おう この年を
そうして皆が幸せであれ 幸せになれ
「最後は皆が知ってる歌で合唱だ! 今年一年も楽しくやっていこう!」
ギドが前奏を奏でると、多くの者が「あっ、これ知ってる!」と顔を輝かせた。
「大丈夫、簡単だから」
耳元でレオが囁いた通り、それはタビにもすぐに覚えられた。
短い歌詞とシンプルなメロディの繰り返しは一人で歌うには物足りないけれど、皆で歌えばそれは楽しく壮大に。
「柔らかい音色、高らかな声……皆素敵だね」
歌声の中、セヴランが満足そうに呟く。
「今年もこうやって 聞いて合わせて楽しめたらいいと思うよ」
そろそろ宴も終わりの気配を感じながら、ストレガはご飯をどっさり炊いていた。
「米は良いぞ腹持ちが良い。もっと広まるべきなのだ」
炊けた米の一部は余った油を卵や野菜と共に炒めて焼き飯に、他はおにぎりや雑炊に。
「宴の終わりに腹を限界に満たすのだ」
悪い顔なのだ。
だが限界を越えて残るかと思われた追加のコメ三昧は、腹五分目に留めていたジョンのお腹にすっぽりと収まったとか。
う ま い め し ! ! !
それでも腹八分目らしいジョンは、習いたての字を力強く紙に踊らせた。
新年の最初にこうして墨文字を書く風習は、書初めと言うらしい。
「書初めとは、己の好きなものや願いを書くのじゃろ?」
絵馬か何かと混ざっている気もするが、細かい事は気にしない。
踊る子熊亭の壁には、他にも「にく」だの「おかし」だの「ふつうのごはん」だの、様々に書き散らされた欲望が貼り出されたとか。
まだまだ賑やかな宴の席を、コルネリウスは目を細めて見守っていた。
(実家でも、新年には弟たちがこんな風に楽しそうに過ごしていましたね)
コルネリウスはそんな様子を眺めるのが好きだ。
自分が輪の中に入るよりも、寧ろ外から眺める方が幸せを感じる。
「また来年もこんな風に新年会が出来たら……嬉しいですね」
名残惜しそうにしながら、コルネリウスは厨房へ戻って行く。
流しの中には大量の汚れ物、ちょっと途方に暮れかけていたところに――
「うちも手伝うよ!」
スフィカが飛び込んで来た。
「レシピとかは誰でも知ってそうなのしか思い付かなかったから、後片付けとか皿洗いとかでお返しするね!」
え、どんな料理かって?
「メッチャ簡単普通な家庭料理だよ、カブと鶏肉のクリーム煮とか……寒くなるとよく実家で食べてたんだよね」
「あの、多分……それでも良かったのではないかと……」
「え」
コルネリウスの料理も素朴な故郷の味だし。
寧ろその方が喜ばれそうな?
「しまったぁぁ!」
遠慮せずに作ればよかったと嘆きつつ、スフィカは皿の山に向き合うのだった。
マスターコメント
タビ「来てくれてありがとう、また遊ぼうね!」
(ご参加ありがとうございました。納品が遅れ、申し訳ありません。また機会がありましたらよろしくお願いいたします)
イベントシナリオ易しい 報酬:無し20 / 4〜25人
2021年01月20日 13時04分25秒 公開
大成功
参加者
相談掲示板
ロゼットよ。新年あけましておめでとう! 新年会よろしくね。まずは一献、ビールかワインでっ。
シャロンです。よろしくお願いします。 お友達との参加ですが、アドリブ歓迎です。 お礼代わりの何か、どうしましょう。 たくさん雑巾を寄贈するとかが、シンプルに消耗品で無難でしょうか。
消耗品の寄贈、良いんじゃない。 料理を作る以外にもセルフサービス的な、注文聞きや配膳の給仕、 厨房で皿洗いとか、店員を楽にさせてあげても良いかなって。 あとパーティ側に全振りで場を盛り上げる、のもアリじゃない。 私は歌と演奏で1曲、盛り上げに貢献できたらなって。 音楽系の行動する人がいたら、即興でも一緒にやりましょう。
演奏会があるなんて豪華なパーティになりそうですね。 出発まで間もなくですが、現地ではよろしくお願いいたしますね。