【聖祭】輝く星の聖霊節
伊治
コメント 2
シナリオID:424
オープニング
●
ロスガリア大陸に住まうものたちにとって、12月は大きな意味を持つ。この時期に執り行われる祭りや催しを、聖霊節と呼ぶ。
その由来はハーフリングの英雄、ジド・ルウがその身をエーテルと成して世界に穿たれた大穴を塞ぎ、彼に小さな神々が続いたことが、今年までの平穏の礎を作った――という逸話に拠る。詳細な時期が定まっていないのは、この頃に暦が存在していなかったため、神代における『冬の時代』、という比喩的表現を、文字通りに解釈したためであるとされる。
由来はともあれ、ジド・ルウの英雄的行為を称え、名を失った神々に祈りを捧げることから始まった聖霊節は、様々な土地の風習や営為と重なった結果、亡き祖先や、近しい人々への思いを捧げることや、想い人と過ごす特別な時期――という習慣が定着して久しく、特別信仰心の無いものであっても神殿や家庭でモミの木や柊を飾り立てて祈りを捧げる。街をあげて催しを行い、厳しい冬の中でもとっておきのごちそうを食すこの時期は、収穫祭に続く特別な時節といえた。
赤白の服装も今代まで続く伝統の一つとなっており、そこかしこに仮装をした人物も目立つ。
――さて。今年も、各地で慰霊祭が執り行われようとしてた。
行き交う人々の賑やかな声。
準備の日々から実を結んだ本番は、やはり人を活気づける。
水上都市アキュアリスタの冬季とは、1年間で貴重な収入源を手にできるシーズンでもあるからだろうが、ロスガリア大陸の各所、程度に差はあっても本番特有の活気が冬を温めているのは間違いないだろう。
●
「ね、兄さん、早く行こ! 商売繁盛願わないと!」
「はいはい」
まだ少年といった兄弟が商会の裏手からそんな会話をしながら出てきた。
何となく目を向けると、広場にツリーが見える。
遠目で見たそれは、ちょっと珍しい。
木の頂点に淡く光る星のようなもの、木の各所に何か煌めくものが見えるが、それ以外は紅白の飾りしか見えない。
兄弟がそのツリーに向かっているところを見ると、商売繁盛はあそこで願うもののようだ。
催し物の参加を呼び込む宣伝と観光客を呼び込む活気づいた声も魅力的だが、ちょっとした縁起を担いでもいいかもしれない。
そう思った矢先、後ろの方の会話が耳に入ってきた。
「ぽるぼろん……ぽる……あっとけた」
「何かお願いでもあったの?」
「え、あ、うん」
「何の願いかは知らないけど、自分で叶えなさいってことよ」
聞き慣れない言葉に思わず顔を向けると、アオハルらしい男女の姿が。
その少し先にお菓子を売ってる出店が見え、どうやらここで買ったものらしい。
紅白ポルボロン……崩れやすいクッキーを口の中に入れ、3回その名を口にできれば願いが叶うという売り子のセールストーク――思わず男女を見ると、青年と言っていい男性が何かそわそわしている。周囲の賑やかさにはしゃいで気づかない女性の死角、手にしているカバンの隙間から綺麗な木彫りの箱のようなものが見える。あっ。
何かの契機への景気づけをしたかった青年と知らないで後押しをしているらしい女性は、この後忘れられない時を過ごすのだろう。
別方向からも視線が注がれていて、思わずそちらにも顔を向ける。
……自信なさそうな青年よ、彼女の本心気づいてないの君だけだと思うぞ。
紅白ポルボロンの売り子の目はそう言っていた。
ふと目が合ってしまったので、彼らの未来に思いを馳せるより買うか買わないかを決めた方がよさそうだ。
買うも買わないも君次第。
雑踏を少し歩くだけで様々な店や催しがある。
売り子の傍らで調理人がパエリアを作り、出来立てを売っている店は軒先に食べる場所を設け、その美味しそうな姿を見せて新たな客を呼び込むなんてしているかと思えば、食べ歩きにとホットドックやフライドポテトを売って歩く者もいる。
食べ物以外も何かないかと巡らせてみると、アクセサリーショップが今日の記念となる手作りアクセサリー教室なんてものを開いている。
店舗以外にも目移りしそうなほど多数の露店があり、見て回るだけでも楽しいだろう。
さて、日はまだ高い。
見回りの仕事も次の担当に引き継いだ。ひとまず仕事のことは置いてこの時間を楽しもうと決めた。
催し物の多くは夕方からの開催のようだが――どうやって過ごそうか?
ロスガリア大陸に住まうものたちにとって、12月は大きな意味を持つ。この時期に執り行われる祭りや催しを、聖霊節と呼ぶ。
その由来はハーフリングの英雄、ジド・ルウがその身をエーテルと成して世界に穿たれた大穴を塞ぎ、彼に小さな神々が続いたことが、今年までの平穏の礎を作った――という逸話に拠る。詳細な時期が定まっていないのは、この頃に暦が存在していなかったため、神代における『冬の時代』、という比喩的表現を、文字通りに解釈したためであるとされる。
由来はともあれ、ジド・ルウの英雄的行為を称え、名を失った神々に祈りを捧げることから始まった聖霊節は、様々な土地の風習や営為と重なった結果、亡き祖先や、近しい人々への思いを捧げることや、想い人と過ごす特別な時期――という習慣が定着して久しく、特別信仰心の無いものであっても神殿や家庭でモミの木や柊を飾り立てて祈りを捧げる。街をあげて催しを行い、厳しい冬の中でもとっておきのごちそうを食すこの時期は、収穫祭に続く特別な時節といえた。
赤白の服装も今代まで続く伝統の一つとなっており、そこかしこに仮装をした人物も目立つ。
――さて。今年も、各地で慰霊祭が執り行われようとしてた。
行き交う人々の賑やかな声。
準備の日々から実を結んだ本番は、やはり人を活気づける。
水上都市アキュアリスタの冬季とは、1年間で貴重な収入源を手にできるシーズンでもあるからだろうが、ロスガリア大陸の各所、程度に差はあっても本番特有の活気が冬を温めているのは間違いないだろう。
●
「ね、兄さん、早く行こ! 商売繁盛願わないと!」
「はいはい」
まだ少年といった兄弟が商会の裏手からそんな会話をしながら出てきた。
何となく目を向けると、広場にツリーが見える。
遠目で見たそれは、ちょっと珍しい。
木の頂点に淡く光る星のようなもの、木の各所に何か煌めくものが見えるが、それ以外は紅白の飾りしか見えない。
兄弟がそのツリーに向かっているところを見ると、商売繁盛はあそこで願うもののようだ。
催し物の参加を呼び込む宣伝と観光客を呼び込む活気づいた声も魅力的だが、ちょっとした縁起を担いでもいいかもしれない。
そう思った矢先、後ろの方の会話が耳に入ってきた。
「ぽるぼろん……ぽる……あっとけた」
「何かお願いでもあったの?」
「え、あ、うん」
「何の願いかは知らないけど、自分で叶えなさいってことよ」
聞き慣れない言葉に思わず顔を向けると、アオハルらしい男女の姿が。
その少し先にお菓子を売ってる出店が見え、どうやらここで買ったものらしい。
紅白ポルボロン……崩れやすいクッキーを口の中に入れ、3回その名を口にできれば願いが叶うという売り子のセールストーク――思わず男女を見ると、青年と言っていい男性が何かそわそわしている。周囲の賑やかさにはしゃいで気づかない女性の死角、手にしているカバンの隙間から綺麗な木彫りの箱のようなものが見える。あっ。
何かの契機への景気づけをしたかった青年と知らないで後押しをしているらしい女性は、この後忘れられない時を過ごすのだろう。
別方向からも視線が注がれていて、思わずそちらにも顔を向ける。
……自信なさそうな青年よ、彼女の本心気づいてないの君だけだと思うぞ。
紅白ポルボロンの売り子の目はそう言っていた。
ふと目が合ってしまったので、彼らの未来に思いを馳せるより買うか買わないかを決めた方がよさそうだ。
買うも買わないも君次第。
雑踏を少し歩くだけで様々な店や催しがある。
売り子の傍らで調理人がパエリアを作り、出来立てを売っている店は軒先に食べる場所を設け、その美味しそうな姿を見せて新たな客を呼び込むなんてしているかと思えば、食べ歩きにとホットドックやフライドポテトを売って歩く者もいる。
食べ物以外も何かないかと巡らせてみると、アクセサリーショップが今日の記念となる手作りアクセサリー教室なんてものを開いている。
店舗以外にも目移りしそうなほど多数の露店があり、見て回るだけでも楽しいだろう。
さて、日はまだ高い。
見回りの仕事も次の担当に引き継いだ。ひとまず仕事のことは置いてこの時間を楽しもうと決めた。
催し物の多くは夕方からの開催のようだが――どうやって過ごそうか?
解説
●時間帯
昼前~夕方
日没まで扱います。
日没以降はからすばMSのシナリオでお楽しみください。
●オープニングで出てきたもの
ツリー飾りつけ
広場の一角で行われているイベント。
ツリーの頂点には|星の雫《スタードロップ》という名の光る石が星のように飾られており、夜になるとその淡い光で星のように見えるそう
ツリーの各所にも球形の紋具(煌めいていたもの)があり、夜になると|星の雫《スタードロップ》と同じような光を帯びるとか。
それ以外には紅白の組紐が飾られています。
赤と白ので作られた組紐は、願いや感謝を込めて結ぶもの。
その願いや感謝の種類で結び方が変わります。
何度起こっても良いもの
蝶の形に結び、花の造花を飾ります。
結び目が解け、造花が結び目から離れることで縁があれば再びという意味だそうです。
何度も起こってほしくないもの。
傷病が治ったという感謝や結婚などは結び目が上になるよう玉結びにし、何も飾りません。
もうそのことを願わなくて良いようにという意味だそうです。
祖先等死者に関する祈りは死者が生者の願いを連れ去ってしまうという考えより紅白の組紐に託すことはできないそうです。
紅白ポルボロン
素朴な味わいをした、崩れやすいクッキー。口にしてポルボロンと3回唱えられたら願いが叶う触れ込み。
ノーマルなポルボロンが白、ラズベリージャムを練りこんだポルボロンが紅。
青年のようにプロポーズの景気づけにする人はあまりいないらしいです。
パエリア
魚介類は使用されておらず、鶏肉や兎肉、ソーセージといった肉類に野菜や豆を使ったもの。
イートインスペースで食べるようです。
ホットドック、フライドポテト
持ち帰り専用。
ポテトは特製ソースとチーズがかかっているものと何もかかってないものの2種類。
アクセサリー作り
アクセサリーショップがリボンのブレスレット作り教室を開いています。
無地のリボン(赤・白・青・緑・黄・紫)から1~2種類選んで作ります。
●そのほか
・このシナリオは【聖祭】輝く星と聖夜とのリンクシナリオですが、両方に参加されたとしても、シナリオを跨いだプレイングはご遠慮ください。※片方のみのご参加も歓迎です。
・各所アイテム配布はありません。
・できることを絞った方が個々の描写は濃密なものとなります。
・同行希望の方は1行目に共通タグか同行者の明記を、ソロの方で1人でゆっくり過ごしたい場合(絡みNG)プレイング1行目に『×』と記載願います。
マスターより
はじめまして、または、こんにちは!
伊治と申します。
今回は、先日、ツリーの頂上を飾る|星の雫《スタードロップ》に纏わるシナリオを手掛けられたからすばMSとリンクシナリオになります。
昼間(私)、夜間(からすばMS)と同じ場所で違う時間帯を扱いますので、シナリオの参加制限といったようなものはありません。どちらのシナリオでも報酬は発生しますが、こちらはオープニング最後に書いてある見回りのお仕事分のものとなります。
昼か夜だけのご参加でも昼夜両方のご参加でも問題なく、判定上の有利不利もございません。
また、ソロの方もどなたかとご一緒の方もどうぞお気軽にご参加ください。
また、解説にないこと(広場でのんびりする等)をしたり、書かれていないお店に行くこともできます。
※世界観にないものは採用できないため、近いものになります。
皆さんにとって良い思い出になるよう文字数が許す限りがんばりますので、よろしくお願いします。
リプレイ
●
見上げた先の星の雫は、昼の星のようにぼんやりとした光を放っている。
きっと、夜になったら星を見上げる星になるだろう。
「私故郷を出たんだなぁ……」
エフィルミアは、冒険者になって知ることが増える度にそう思う。
星のように見えなくもない光る石も知らなかったし、紅白の組紐と紋具で彩られたツリーも故郷にはなかった。
「わくわくしちゃい……は!?」
「エフィもツリーを見に?」
視界に入った器用そうなイケメンこと海神・江流は、先ほどぶりと軽く手を挙げた。
●
広場の片隅あるベンチへ腰を下ろしたカッシアは、買ったばかりの特製ソースとチーズがかかったポテトを摘まんだ。
(このソース、肉汁を使っているのか。軽めのチーズによく合う)
思ったより濃厚な味付けで、昼食はこれだけで十分だ。だが、それもいい。今と違い、以前はそんな自由などなかった。
「こんなにのんびりした慰霊祭は初めてだな」
カッシアは指に伝ったソースを舐め取り、口に弧を描く。
(ポテトの味をどっちにしようかなんて悩むことも新鮮だし、指についたソースを行儀悪く舐めとっても誰かに揚げ足を取られたりしない。……親族内での腹の探り合いだって無い)
カッシアに自由がなかった頃、そんなことはできなかった。
自由を得た今は、できる。
だが――
(……無事だろうか)
一族内部の腐敗により、自滅に近い没落であった。
処分が下される中、当主であった従姉は逃してくれた。
帝国が崩壊した現在――従姉の行方は分かっていない。
(郷愁――いや、罪悪感だな。俺は、何もできなかったから)
両親を含めた他の一族はともかく、従姉だけは無事であってほしい。従姉がいなければ、今の自分はいない。
彼らを止められる力もなく、何もしないままできないまま逃されて得た自由。従姉は、共に責任を負うことを許してくれなかった。
自由になって迎えた初めての聖霊節だからだろうか、一度湧いた思考は止まらず、あの日々が終わり、今がある感謝を玉結びで願おうかと思うもポテトを食べながら見ているだけ。食べ終わった後も、あの頃のように見ている。
その時だ。商売繁盛を願おうと広場に向かっていた兄弟が近くを通り過ぎた。
「なんで願い事っていっこだけなんだろ」
「自分で頑張れるものは頑張りなさいってことじゃないのかな」
「どうにもなんないものは助けてくれるってこと?」
「そういうこと」
「そっかー」
雑踏に消えていく兄弟を見て、思い出す。
何故、今ここにいるのか。
(それは、俺に生きていてほしいと、願ってくれたから)
俺は、そう願ってくれた従姉と昔の自分がいたからここにいる。
俺は、貴方の助けになれていただろうか。
知る術は、ない。
だから――願いは託さない。
(幸福な事に、今は帰る場所もあるもので……これ以上は望み過ぎってね)
カッシアは土産でも買って帰ろうかと立ち上がる。
さて、持ち帰れそうなパイは売っているだろうか?
●
往来はどこもかしこも賑やかだ。
「さー! 日が沈んでからは、1年を自慢するコンテストだ! イケメン美女力自慢は自分を武器に、恋人がいる憎いお前も今日ばかりは惚気ていいぞ! そんなことはないお前は、なんか芸を披露してみやがれってんだ!」
エフィルミアはその呼び込みにドヤ顔を浮かべる。
(夕方なのが惜しいですねっ。メロメロにしちゃう私の色気を自慢できたのにっ)
ツリーを見に来たと言う江流は、エフィルミアへ日中の予定を聞いてきたのだ。これは、もう、このお色気でメロメロにしちゃったってことだろう!
……ちなみに、江流にそんな意図はなく、男の単独歩きより予定が空いている者同士で街歩きした方が余程楽しいだろうというものだったりする。
「何か行きたい場所あったりする?」
「どれも見ているだけでわくわくしちゃいますけど……見回りの時に気になるもの、見つけちゃってますっ!」
エフィルミアが予定を聞かれた時同様とびっきりのスマイルで答えると、江流は最初の行き先をそこに決めてくれた。
エフィルミアが気になっていたのは、アクセサリー作り教室だった。
「わぁ……」
呼び込みの女性が実際に身に着けているブレスレットは女性の瞳と同じ紫色で、綺麗な編み込みが見える。
作り終えたらしい女の子たちは色を組み合わせており、単色とは違った趣があった。
(髪を結うリボン、ブレスレットの色に合わせたらおしゃれでしょうかっ)
「折角だし、作ってみる?」
エフィルミアの様子を見た江流が誘ってくれ、2人揃ってアクセサリー作り教室に参加することにした。
店内はリボンを選ぶスペースとアクセサリーを作るスペースに分かれており、皆それぞれ頭を悩ませている。女性率が高いものの、男性が皆無なわけではなく、1人で参加している男性もいる。
「エフィはどうすんだ?」
江流は、ジド・ルウのカラーのひとつである赤とツリーの緑とリボンを選んだ。
対するエフィルミアは赤と白――ジド・ルウカラーでもあるが、エフィルミアは自身の髪を彩るリボンとのバランスや空を舞う雪をイメージして選んでいた。
と、エフィルミアはアリティア・ミーティスの姿を見つけた。
「アリティアさんもブレスレット作りを?」
「う、うん。かわいくて……やって、みよう、かなって……」
エフィルミアは、これからリボンを選ぶというアリティアに今度お互いに見せあおうと持ち掛けてから別れ、席を確保してくれていた江流へ合流した。
先生役の店員のやり方通り、江流は赤と緑のリボンを綺麗に編み込んでいく。
「ぐぬぬ……エルさん……!」
(蒼水灯の時も涙目になってたような)
江流は先日のことを思い出し、おしゃれは得意でも作る方面は得意ではなさそうとエフィルミアの手元を観察した。
先ほどから助けを求める視線には気づいているが、ひとまず流す。頼られるのは悪い気がしないが、成功体験を積んで作る楽しみを知ってほしい。
「ぐぬぬぬぬぬぬ……」
呻き声が更に凄いことになり、最終的に江流に多少手伝ってもらったが、エフィルミアは何とかブレスレットを完成させた。
「少し不格好かもしれないですね……」
「でも、エフィだけのブレスレットだからね?」
エフィルミアへ労った江流は自身の完成品を差し出す。
「俺がつけるには可愛いが過ぎるから」
「可愛い私には可愛いアクセサリーが似合いますからねっ」
エフィルミア、ドヤ顔で可愛いブレスレット巻いてもらった。
●
聖霊節に賑わう街はどこもかしこも楽しそうなものばかり。
見回り依頼請けて良かったとアリティアは改めて思う。
往来を歩いていると、アクセサリー作り教室の呼び込みに気づいた。
(リボン、の、ブレスレット……かわいい……!)
色の印象でも変わるらしいが、編み込みのブレスレットはちょっとしたおしゃれに良さそう。
初めてだから上手くできるか判らないけど、自分でも作ってみたい。
どきどきして入った店内には先ほどまで見回りの仕事を一緒にしていたエフィルミアが江流と共に来ており、挨拶がてら完成品を見せ合う約束をして別れた。
アリティアは青と緑のリボンを選び、空いた席に腰を下ろす。
「あら、あなたの目の色のようなリボンを選んだのね」
「ぼくの、色、だから……」
先生役の店員へ頷いて認めたアリティアは、ブレスレットを作り始めた。
●
店を出ると、人の流れは食べ物に向いていた。
ちょうど今がお昼のピークといったところなのだろう。
「飯でもどうだい? さっき通り過ぎた所にあったパエリアはどうだろ。肉と野菜のパエリアで美味しそうだったよ」
「パエリア! いいですね。お肉とお米は冒険者の基本です!」
江流は喜んでついていく体のエフィルミアの元気に笑みを零す。
先日はご馳走になったし、今度はこちらからご馳走しようと心に決めて。
――などという会話のことなど、鵜鬱鷹 浩之は知る由もないが縁ある場所にいた。
そう、パエリアのお店の調理現場だ。
煌びやかな街、今日を楽しむ人々、賑やかな声……楽しむことができるのは、裏で頑張る人がいるからだ。見回り依頼だってそうしたものだろう。
浩之の見回り依頼は終わっていた。だが、仕事は終わっていない。
ギルドから人手不足から来るトラブル阻止のボランティア許可を取った浩之は、足取りも軽やかにパエリアのお店の舞台裏、肉と野菜を切るポジションゲット。
「切り終わりましたよ」
「助かるよ。あと、野外組にこれ持って行ってくれ」
下味をつける班に切ったものを渡すと、調理班へ調味料の補充を頼まれ、浩之は調理場を出た。
忙しい時間帯と調理している姿を見せていることもあり、パエリア購入の列ができており、列整理や席案内がフル回転している。
調味料を手渡した浩之は、順番待ちをしている見知った顔と目が合った。
「手伝ってたのか?」
「今日はどこでも人手が不足していますから」
浩之は江流に応じ、もう少し待つように依頼して調理場へと引っ込む。
調理場もいい具合に戦場だが、ここで裏手側からヘルプが入った。
列整理班から、ホットドッグとフライドポテト販売にも人が殺到しているが、先方が列を捌き切れておらず、このままだとトラブルになりかねないらしい。
「冒険者さん、俺らはもう大丈夫。彼ら手伝ってあげて」
「解りました。お疲れ様です」
浩之は度重なる残業に心浮かれつつ、調理場での手伝いを終えた。
列整理と金勘定は手馴れている販売員に任せ、浩之はホットドッグとフライドポテトの籠を持った。
人員が増えたことで徐々に混乱は収まっていく。
(こんなに労働に恵まれているなんて……今日はいい日です)
ギルドの許可を貰っておいて断られるとかはないと思ってはいたが、断られたら今日ばかりは食い下がってしまったかもしれない。聖霊節は、そんな誘惑を持っている。
さっきポテトを買っていったサロは、そんな浩之へ、
「うへ」
とか言ったので、聖霊節と労働意欲は多分別物。
(あとでツリーにも願掛けしましょうか)
良き労働をいつまでも。
仕事こそワタシの存在意義。
浩之の願いは、どこまでも浩之だった。
●
(勧められただけあって美味い)
サロは店先で買ったお勧めをじっくりと堪能した。そう、待ちに待った自由時間、街の各所にあるツリーを見ながら食べ歩きする贅沢するしかないと決めていたのだ。
現在は、温白ワイン。使用している果物もレモンやオレンジといった柑橘系主体だからか、先ほど呑んだグリューワインよりもさっぱりとした飲み口だ。
(パエリアは……混雑しているから後だな)
見回りで一緒だった江流とエフィルミアが席で食べているのが見えたが、パエリアの列は結構できていて買うのに時間がかかる。後にしよう。
次に足を止めたのは肉屋の屋台で、ローストした子ウサギができたてだった。
調味料、ハーブのバランスが絶妙で、ウサギのクセの強さは気にならない。
と、ホットドッグとフライドポテトを売る浩之の姿が目に入る。
「まだギルドの依頼中?」
「こんな日こそ働かないと」
「うへ」
正直に言ってしまったサロ、それはそれとしてフライドポテトは購入し、広場で食べようと向かうと、組紐の催し物に気づいた。
(組紐を土産に買うのも悪くないね)
弓にそのくらいの装飾ならありだろう。組紐ならかさばらない。
広場の隅がやけに賑やかになったので見てみると、告白成功したらしい男女の姿が見える。木の上に飾られてる光石に頭下げてるの何なんだろ。
見回りに必要なさそうな説明は右から左に聞き流したサロ、意味が解らない。
ベンチにアリティアが座っているのが見え、目が合ったのもあって相席となる。
「あの石って何か特別なのかな」
「あれは――」
アリティアから星の雫の話を聞いた後、フライドポテトも食べ終わったし、いよいよメインディッシュへ。
これがしっかりとした味付けで、メインディッシュに相応しかった。
(甘いの食べたくなった)
パエリアを食べ終わったサロが思い出したのは、ポルボロンだ。
崩れやすいクッキーらしいし、ホットワインまた買って流し込むか。
おまじないは見てみたいので、やってもらえる人――そうだ。
「君の本気を視てみたいんだ。上手く食べれたら拍手してあげよう」
ポルボロンを購入直後、売り子へお願いしたサロ、広場の出来事を知って発奮した彼女が達成したのを見た。拍手した。
尚、サロは普通に食べた。素朴な甘さで淡雪のように口の中で溶けていった。
●
ブレスレットを作り終えたアリティアは、店を出てからブレスレットに目を落とした。
先生の言う通りを心がけ、ゆっくり作ったそれは世界にただひとつだけのもの。
(けっこう……お腹、すいた……)
慣れていないのもあり、慎重に作業したからか、思ったより時間がかかっていた。お昼過ぎと言っていい時間で、お腹はご飯を主張している。
「いい香り、どこ……?」
広場方向に歩いていくと、何やらいい香りがしてきた。
アリティアが鼻をくんくんさせていると、何故か浩之が籠を持って歩いていた。
「あ、あれ……?」
「皆さまお忙しいそうなので自主的にお手伝いをして回っています」
「……す、すごい、ね……お疲れ様……」
アリティア、素直に信じた。
浩之からホットドッグとフライドポテトを買ったアリティアは広場のベンチへ腰を下ろした。
「あちち……でも、美味しい」
ホットドッグのソーセージも齧り付けば肉汁がぶわっと口の中を満たし、ポテトもしっかりしたソースとチーズが空腹にはちょうどよい。
お腹いっぱいになったと満足していると、ツリーが目に入った。
(すごく、キレイ……)
星の雫も紋具もキラキラしてて夜はもっとキラキラしそう。
(お日様が沈むまで……お願い事の組紐、だっけ……)
アリティアはそのことを思い出し、立ち上がった。
紅白の組紐と花飾りでツリーを彩ると、アリティアは目を閉じた。
(これから、友達、とか、大切な、思い出、たくさん、作れ、ます、よーに……!!)
アリティアが願い終えてツリーを見上げると、昼の星が自分自身でも願いを叶える努力をしていくのを見守っているように見えた。
叶うように、頑張りたい、な。
●
太陽は徐々に、徐々に地へと向かっていく。
ミードを手にしたサロがローストポークサンドの屋台の奥で別の手伝いをしている浩之の姿にうへっと漏らしたのを、お土産にトゥロンを購入していた江流とエフィルミアが見ていたり。
そんな彼らに気づいた様子のないカッシアが店の中で土産を物色しているが、きっとそんな時間も今日の良き思い出のひとつ。
広場の片隅、アリティアは温かいキンダープンシュを飲みながら空を待つ。
もうすぐ、日が暮れる。
日が暮れたら――
太陽が空から別れを告げれば、輝く星と聖夜の時間。
星の雫は、地上と空の境でその時を待っている。
見上げた先の星の雫は、昼の星のようにぼんやりとした光を放っている。
きっと、夜になったら星を見上げる星になるだろう。
「私故郷を出たんだなぁ……」
エフィルミアは、冒険者になって知ることが増える度にそう思う。
星のように見えなくもない光る石も知らなかったし、紅白の組紐と紋具で彩られたツリーも故郷にはなかった。
「わくわくしちゃい……は!?」
「エフィもツリーを見に?」
視界に入った器用そうなイケメンこと海神・江流は、先ほどぶりと軽く手を挙げた。
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広場の片隅あるベンチへ腰を下ろしたカッシアは、買ったばかりの特製ソースとチーズがかかったポテトを摘まんだ。
(このソース、肉汁を使っているのか。軽めのチーズによく合う)
思ったより濃厚な味付けで、昼食はこれだけで十分だ。だが、それもいい。今と違い、以前はそんな自由などなかった。
「こんなにのんびりした慰霊祭は初めてだな」
カッシアは指に伝ったソースを舐め取り、口に弧を描く。
(ポテトの味をどっちにしようかなんて悩むことも新鮮だし、指についたソースを行儀悪く舐めとっても誰かに揚げ足を取られたりしない。……親族内での腹の探り合いだって無い)
カッシアに自由がなかった頃、そんなことはできなかった。
自由を得た今は、できる。
だが――
(……無事だろうか)
一族内部の腐敗により、自滅に近い没落であった。
処分が下される中、当主であった従姉は逃してくれた。
帝国が崩壊した現在――従姉の行方は分かっていない。
(郷愁――いや、罪悪感だな。俺は、何もできなかったから)
両親を含めた他の一族はともかく、従姉だけは無事であってほしい。従姉がいなければ、今の自分はいない。
彼らを止められる力もなく、何もしないままできないまま逃されて得た自由。従姉は、共に責任を負うことを許してくれなかった。
自由になって迎えた初めての聖霊節だからだろうか、一度湧いた思考は止まらず、あの日々が終わり、今がある感謝を玉結びで願おうかと思うもポテトを食べながら見ているだけ。食べ終わった後も、あの頃のように見ている。
その時だ。商売繁盛を願おうと広場に向かっていた兄弟が近くを通り過ぎた。
「なんで願い事っていっこだけなんだろ」
「自分で頑張れるものは頑張りなさいってことじゃないのかな」
「どうにもなんないものは助けてくれるってこと?」
「そういうこと」
「そっかー」
雑踏に消えていく兄弟を見て、思い出す。
何故、今ここにいるのか。
(それは、俺に生きていてほしいと、願ってくれたから)
俺は、そう願ってくれた従姉と昔の自分がいたからここにいる。
俺は、貴方の助けになれていただろうか。
知る術は、ない。
だから――願いは託さない。
(幸福な事に、今は帰る場所もあるもので……これ以上は望み過ぎってね)
カッシアは土産でも買って帰ろうかと立ち上がる。
さて、持ち帰れそうなパイは売っているだろうか?
●
往来はどこもかしこも賑やかだ。
「さー! 日が沈んでからは、1年を自慢するコンテストだ! イケメン美女力自慢は自分を武器に、恋人がいる憎いお前も今日ばかりは惚気ていいぞ! そんなことはないお前は、なんか芸を披露してみやがれってんだ!」
エフィルミアはその呼び込みにドヤ顔を浮かべる。
(夕方なのが惜しいですねっ。メロメロにしちゃう私の色気を自慢できたのにっ)
ツリーを見に来たと言う江流は、エフィルミアへ日中の予定を聞いてきたのだ。これは、もう、このお色気でメロメロにしちゃったってことだろう!
……ちなみに、江流にそんな意図はなく、男の単独歩きより予定が空いている者同士で街歩きした方が余程楽しいだろうというものだったりする。
「何か行きたい場所あったりする?」
「どれも見ているだけでわくわくしちゃいますけど……見回りの時に気になるもの、見つけちゃってますっ!」
エフィルミアが予定を聞かれた時同様とびっきりのスマイルで答えると、江流は最初の行き先をそこに決めてくれた。
エフィルミアが気になっていたのは、アクセサリー作り教室だった。
「わぁ……」
呼び込みの女性が実際に身に着けているブレスレットは女性の瞳と同じ紫色で、綺麗な編み込みが見える。
作り終えたらしい女の子たちは色を組み合わせており、単色とは違った趣があった。
(髪を結うリボン、ブレスレットの色に合わせたらおしゃれでしょうかっ)
「折角だし、作ってみる?」
エフィルミアの様子を見た江流が誘ってくれ、2人揃ってアクセサリー作り教室に参加することにした。
店内はリボンを選ぶスペースとアクセサリーを作るスペースに分かれており、皆それぞれ頭を悩ませている。女性率が高いものの、男性が皆無なわけではなく、1人で参加している男性もいる。
「エフィはどうすんだ?」
江流は、ジド・ルウのカラーのひとつである赤とツリーの緑とリボンを選んだ。
対するエフィルミアは赤と白――ジド・ルウカラーでもあるが、エフィルミアは自身の髪を彩るリボンとのバランスや空を舞う雪をイメージして選んでいた。
と、エフィルミアはアリティア・ミーティスの姿を見つけた。
「アリティアさんもブレスレット作りを?」
「う、うん。かわいくて……やって、みよう、かなって……」
エフィルミアは、これからリボンを選ぶというアリティアに今度お互いに見せあおうと持ち掛けてから別れ、席を確保してくれていた江流へ合流した。
先生役の店員のやり方通り、江流は赤と緑のリボンを綺麗に編み込んでいく。
「ぐぬぬ……エルさん……!」
(蒼水灯の時も涙目になってたような)
江流は先日のことを思い出し、おしゃれは得意でも作る方面は得意ではなさそうとエフィルミアの手元を観察した。
先ほどから助けを求める視線には気づいているが、ひとまず流す。頼られるのは悪い気がしないが、成功体験を積んで作る楽しみを知ってほしい。
「ぐぬぬぬぬぬぬ……」
呻き声が更に凄いことになり、最終的に江流に多少手伝ってもらったが、エフィルミアは何とかブレスレットを完成させた。
「少し不格好かもしれないですね……」
「でも、エフィだけのブレスレットだからね?」
エフィルミアへ労った江流は自身の完成品を差し出す。
「俺がつけるには可愛いが過ぎるから」
「可愛い私には可愛いアクセサリーが似合いますからねっ」
エフィルミア、ドヤ顔で可愛いブレスレット巻いてもらった。
●
聖霊節に賑わう街はどこもかしこも楽しそうなものばかり。
見回り依頼請けて良かったとアリティアは改めて思う。
往来を歩いていると、アクセサリー作り教室の呼び込みに気づいた。
(リボン、の、ブレスレット……かわいい……!)
色の印象でも変わるらしいが、編み込みのブレスレットはちょっとしたおしゃれに良さそう。
初めてだから上手くできるか判らないけど、自分でも作ってみたい。
どきどきして入った店内には先ほどまで見回りの仕事を一緒にしていたエフィルミアが江流と共に来ており、挨拶がてら完成品を見せ合う約束をして別れた。
アリティアは青と緑のリボンを選び、空いた席に腰を下ろす。
「あら、あなたの目の色のようなリボンを選んだのね」
「ぼくの、色、だから……」
先生役の店員へ頷いて認めたアリティアは、ブレスレットを作り始めた。
●
店を出ると、人の流れは食べ物に向いていた。
ちょうど今がお昼のピークといったところなのだろう。
「飯でもどうだい? さっき通り過ぎた所にあったパエリアはどうだろ。肉と野菜のパエリアで美味しそうだったよ」
「パエリア! いいですね。お肉とお米は冒険者の基本です!」
江流は喜んでついていく体のエフィルミアの元気に笑みを零す。
先日はご馳走になったし、今度はこちらからご馳走しようと心に決めて。
――などという会話のことなど、鵜鬱鷹 浩之は知る由もないが縁ある場所にいた。
そう、パエリアのお店の調理現場だ。
煌びやかな街、今日を楽しむ人々、賑やかな声……楽しむことができるのは、裏で頑張る人がいるからだ。見回り依頼だってそうしたものだろう。
浩之の見回り依頼は終わっていた。だが、仕事は終わっていない。
ギルドから人手不足から来るトラブル阻止のボランティア許可を取った浩之は、足取りも軽やかにパエリアのお店の舞台裏、肉と野菜を切るポジションゲット。
「切り終わりましたよ」
「助かるよ。あと、野外組にこれ持って行ってくれ」
下味をつける班に切ったものを渡すと、調理班へ調味料の補充を頼まれ、浩之は調理場を出た。
忙しい時間帯と調理している姿を見せていることもあり、パエリア購入の列ができており、列整理や席案内がフル回転している。
調味料を手渡した浩之は、順番待ちをしている見知った顔と目が合った。
「手伝ってたのか?」
「今日はどこでも人手が不足していますから」
浩之は江流に応じ、もう少し待つように依頼して調理場へと引っ込む。
調理場もいい具合に戦場だが、ここで裏手側からヘルプが入った。
列整理班から、ホットドッグとフライドポテト販売にも人が殺到しているが、先方が列を捌き切れておらず、このままだとトラブルになりかねないらしい。
「冒険者さん、俺らはもう大丈夫。彼ら手伝ってあげて」
「解りました。お疲れ様です」
浩之は度重なる残業に心浮かれつつ、調理場での手伝いを終えた。
列整理と金勘定は手馴れている販売員に任せ、浩之はホットドッグとフライドポテトの籠を持った。
人員が増えたことで徐々に混乱は収まっていく。
(こんなに労働に恵まれているなんて……今日はいい日です)
ギルドの許可を貰っておいて断られるとかはないと思ってはいたが、断られたら今日ばかりは食い下がってしまったかもしれない。聖霊節は、そんな誘惑を持っている。
さっきポテトを買っていったサロは、そんな浩之へ、
「うへ」
とか言ったので、聖霊節と労働意欲は多分別物。
(あとでツリーにも願掛けしましょうか)
良き労働をいつまでも。
仕事こそワタシの存在意義。
浩之の願いは、どこまでも浩之だった。
●
(勧められただけあって美味い)
サロは店先で買ったお勧めをじっくりと堪能した。そう、待ちに待った自由時間、街の各所にあるツリーを見ながら食べ歩きする贅沢するしかないと決めていたのだ。
現在は、温白ワイン。使用している果物もレモンやオレンジといった柑橘系主体だからか、先ほど呑んだグリューワインよりもさっぱりとした飲み口だ。
(パエリアは……混雑しているから後だな)
見回りで一緒だった江流とエフィルミアが席で食べているのが見えたが、パエリアの列は結構できていて買うのに時間がかかる。後にしよう。
次に足を止めたのは肉屋の屋台で、ローストした子ウサギができたてだった。
調味料、ハーブのバランスが絶妙で、ウサギのクセの強さは気にならない。
と、ホットドッグとフライドポテトを売る浩之の姿が目に入る。
「まだギルドの依頼中?」
「こんな日こそ働かないと」
「うへ」
正直に言ってしまったサロ、それはそれとしてフライドポテトは購入し、広場で食べようと向かうと、組紐の催し物に気づいた。
(組紐を土産に買うのも悪くないね)
弓にそのくらいの装飾ならありだろう。組紐ならかさばらない。
広場の隅がやけに賑やかになったので見てみると、告白成功したらしい男女の姿が見える。木の上に飾られてる光石に頭下げてるの何なんだろ。
見回りに必要なさそうな説明は右から左に聞き流したサロ、意味が解らない。
ベンチにアリティアが座っているのが見え、目が合ったのもあって相席となる。
「あの石って何か特別なのかな」
「あれは――」
アリティアから星の雫の話を聞いた後、フライドポテトも食べ終わったし、いよいよメインディッシュへ。
これがしっかりとした味付けで、メインディッシュに相応しかった。
(甘いの食べたくなった)
パエリアを食べ終わったサロが思い出したのは、ポルボロンだ。
崩れやすいクッキーらしいし、ホットワインまた買って流し込むか。
おまじないは見てみたいので、やってもらえる人――そうだ。
「君の本気を視てみたいんだ。上手く食べれたら拍手してあげよう」
ポルボロンを購入直後、売り子へお願いしたサロ、広場の出来事を知って発奮した彼女が達成したのを見た。拍手した。
尚、サロは普通に食べた。素朴な甘さで淡雪のように口の中で溶けていった。
●
ブレスレットを作り終えたアリティアは、店を出てからブレスレットに目を落とした。
先生の言う通りを心がけ、ゆっくり作ったそれは世界にただひとつだけのもの。
(けっこう……お腹、すいた……)
慣れていないのもあり、慎重に作業したからか、思ったより時間がかかっていた。お昼過ぎと言っていい時間で、お腹はご飯を主張している。
「いい香り、どこ……?」
広場方向に歩いていくと、何やらいい香りがしてきた。
アリティアが鼻をくんくんさせていると、何故か浩之が籠を持って歩いていた。
「あ、あれ……?」
「皆さまお忙しいそうなので自主的にお手伝いをして回っています」
「……す、すごい、ね……お疲れ様……」
アリティア、素直に信じた。
浩之からホットドッグとフライドポテトを買ったアリティアは広場のベンチへ腰を下ろした。
「あちち……でも、美味しい」
ホットドッグのソーセージも齧り付けば肉汁がぶわっと口の中を満たし、ポテトもしっかりしたソースとチーズが空腹にはちょうどよい。
お腹いっぱいになったと満足していると、ツリーが目に入った。
(すごく、キレイ……)
星の雫も紋具もキラキラしてて夜はもっとキラキラしそう。
(お日様が沈むまで……お願い事の組紐、だっけ……)
アリティアはそのことを思い出し、立ち上がった。
紅白の組紐と花飾りでツリーを彩ると、アリティアは目を閉じた。
(これから、友達、とか、大切な、思い出、たくさん、作れ、ます、よーに……!!)
アリティアが願い終えてツリーを見上げると、昼の星が自分自身でも願いを叶える努力をしていくのを見守っているように見えた。
叶うように、頑張りたい、な。
●
太陽は徐々に、徐々に地へと向かっていく。
ミードを手にしたサロがローストポークサンドの屋台の奥で別の手伝いをしている浩之の姿にうへっと漏らしたのを、お土産にトゥロンを購入していた江流とエフィルミアが見ていたり。
そんな彼らに気づいた様子のないカッシアが店の中で土産を物色しているが、きっとそんな時間も今日の良き思い出のひとつ。
広場の片隅、アリティアは温かいキンダープンシュを飲みながら空を待つ。
もうすぐ、日が暮れる。
日が暮れたら――
太陽が空から別れを告げれば、輝く星と聖夜の時間。
星の雫は、地上と空の境でその時を待っている。
マスターコメント
ご参加いただき、ありがとうございます!
皆さまにとって、楽しい聖霊節になっていたら嬉しいです。
この後の聖夜もきっと実りある聖夜を過ごされたかと思います。
MVPは次の聖霊節の姿がとても楽しみなアリティアさんへ。
称号はプレイングにちなみつつ、付与させていただきました。
またご縁がございましたら、よろしくお願いいたします。
ショートシナリオ易しい 報酬:少ない6 / 4〜6人
2021年01月15日 01時09分20秒 公開
大成功