【聖祭】水の遺跡と祈りの光
白月 昴
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シナリオID:402
オープニング
●
ロスガリア大陸に住まうものたちにとって、12月は大きな意味を持つ。この時期に執り行われる祭りや催しを、聖霊節と呼ぶ。
その由来はハーフリングの英雄、ジド・ルウがその身をエーテルと成して世界に穿たれた大穴を塞ぎ、彼に小さな神々が続いたことが、今年までの平穏の礎を作った――という逸話に拠る。詳細な時期が定まっていないのは、この頃に暦が存在していなかったため、神代における『冬の時代』、という比喩的表現を、文字通りに解釈したためであるとされる。
由来はともあれ、ジド・ルウの英雄的行為を称え、名を失った神々に祈りを捧げることから始まった聖霊節は、様々な土地の風習や営為と重なった結果、亡き祖先や、近しい人々への思いを捧げることや、想い人と過ごす特別な時期――という習慣が定着して久しく、特別信仰心の無いものであっても神殿や家庭でモミの木や柊を飾り立てて祈りを捧げる。街をあげて催しを行い、厳しい冬の中でもとっておきのごちそうを食すこの時期は、収穫祭に続く特別な時節といえた。
赤白の服装も今代まで続く伝統の一つとなっており、そこかしこに仮装をした人物も目立つ。
――さて。今年も、各地で慰霊祭が執り行われようとしてた。
●
「お集まりいただきありがとうございます」
ぺこりと頭を下げたのは、水上都市アキュアリスタの年若いギルド職員である、フィディス・アウレアムだ。
目の前のテーブルには、資料と地図が広げられていた。
「皆さまに向かっていただくのは『青の広間』という遺跡です」
その遺跡は、普段は入り口となる水路はほぼ水没しているが、湖の水位が下がるこの時期には、ボートを利用し楽々と入ることができるようになる。
「お仕事としては、遺跡巡りの、えっと『青の広間でジド・ルウへ祈りを捧げよう』ツアーに同行し、警備についていただくというものです。あ、ツアー自体は一時間ほど。ボートの操舵も専門の漕ぎ手がついていますので、体力も消耗しないでしょう」
なので終わった後には、ほかの催しにもどんどん参加してくださいねと、にこにこ笑顔でフィディスが勧めてくる。
「それに、警備といっても、戦闘はまずないでしょう」
普段は水面下に沈んでいる遺跡に一般人を入れるのだ。当然、事前調査はしっかりと行われている。また、このエリアに強い魔獣が現れたという報告も一度もない。本来なら警備など必要ないのだが。
「ですが、これがツアー初回であることと、そして何よりも現在の情勢ですね」
帝国での事件を知らぬ者はそういないでしょうから、とフィディスが表情を曇らせる。
「青の広間へ侵入できる地下水路の入り口は、ここになります」
ツアーの集合場所もここですねと、フィディスが地図の一点を指さす。
地下水路の中は、等間隔に設置された青白い光を放つ光石により照らされている。その中をしばしボートで進んでいくと、大きな空間にでる。それが『青の広間』と呼ばれる遺跡だ。
「聖霊節の時だけに入ることができるというと、聞こえはいいのですが……正直なところ、特に面白味はないんですね」
だからこそ、『青の広間』などという飾り気のない名前がついているのだ。
ホールの上部に光石は設置されておらず、水面より数メートル上は闇に閉ざされている上に、見える範囲にも、称賛に値する装飾や仕掛けは特にない。遺跡のわずかな隙間から漏れる光が、星のように見えはするが星空というにはあまりに数が少なすぎる。通ってくる水路も同じようなものだ。
「ですが、聖霊節の時にだけ、正午になるとその空洞の中空に、ちょうど人の大きさ程度の光が現れます。その光は赤と白の二色に彩られているのです」
この現象が見つかったのは、数年前。何しろ何もない場所なので、季節どころか時間限定で起こる現象の観測などされていなかったのだ。
発見者は一人のボート乗りの青年。
誰にも邪魔されない場所でプロポーズをと意気込み、噂に聞いた人気のない青の水路のホールを選んだのだ。青年がプロポーズの言葉を女性に伝え、その返事をもらった瞬間、赤と白の光が現れ二人を照らしたといわれている。
プロポーズは成功し、青年と女性は結婚。それと同時に「ホールにジド・ルウが現れた」という話が一気に広がることとなった。
何かの前触れかと騒ぎになったのだが、調査の結果、遺跡の隙間から零れ落ちる光や、エーテルの濃度の微妙な差などによる偶然が重なった結果の自然現象だと結論づけられた。
その後さらなる調査により、光が現れる時期や時間が確定されたことで、今年からツアーが組まれたのだ。
「やはり、ジド・ルウに祈ることで不安を少なくしたいと思うのか、予約の段階でツアーは満員状態なんですよ。あ、発見者にあやかって、恋愛成就を祈りに来る方もいるそうですよ」
そのうちプロポーズの定番の場所になるんでしょうかと、何やら楽し気だ。
「注意点としては、日が差さないうえに、水上ということでそれなりに寒いです。体を温めるようにと、参加者には特製ハーブティーがサービスでつきますが、何らかの防寒をされたほうがいいでしょう」
説明は以上となりますと、フィディスが資料を閉じる。
「せっかくの聖霊節なのですから、いろいろ体験してみてくださいね」
それではよろしくお願いしますと、にこにことした笑顔でフィディスは冒険者たちを送り出した。
ロスガリア大陸に住まうものたちにとって、12月は大きな意味を持つ。この時期に執り行われる祭りや催しを、聖霊節と呼ぶ。
その由来はハーフリングの英雄、ジド・ルウがその身をエーテルと成して世界に穿たれた大穴を塞ぎ、彼に小さな神々が続いたことが、今年までの平穏の礎を作った――という逸話に拠る。詳細な時期が定まっていないのは、この頃に暦が存在していなかったため、神代における『冬の時代』、という比喩的表現を、文字通りに解釈したためであるとされる。
由来はともあれ、ジド・ルウの英雄的行為を称え、名を失った神々に祈りを捧げることから始まった聖霊節は、様々な土地の風習や営為と重なった結果、亡き祖先や、近しい人々への思いを捧げることや、想い人と過ごす特別な時期――という習慣が定着して久しく、特別信仰心の無いものであっても神殿や家庭でモミの木や柊を飾り立てて祈りを捧げる。街をあげて催しを行い、厳しい冬の中でもとっておきのごちそうを食すこの時期は、収穫祭に続く特別な時節といえた。
赤白の服装も今代まで続く伝統の一つとなっており、そこかしこに仮装をした人物も目立つ。
――さて。今年も、各地で慰霊祭が執り行われようとしてた。
●
「お集まりいただきありがとうございます」
ぺこりと頭を下げたのは、水上都市アキュアリスタの年若いギルド職員である、フィディス・アウレアムだ。
目の前のテーブルには、資料と地図が広げられていた。
「皆さまに向かっていただくのは『青の広間』という遺跡です」
その遺跡は、普段は入り口となる水路はほぼ水没しているが、湖の水位が下がるこの時期には、ボートを利用し楽々と入ることができるようになる。
「お仕事としては、遺跡巡りの、えっと『青の広間でジド・ルウへ祈りを捧げよう』ツアーに同行し、警備についていただくというものです。あ、ツアー自体は一時間ほど。ボートの操舵も専門の漕ぎ手がついていますので、体力も消耗しないでしょう」
なので終わった後には、ほかの催しにもどんどん参加してくださいねと、にこにこ笑顔でフィディスが勧めてくる。
「それに、警備といっても、戦闘はまずないでしょう」
普段は水面下に沈んでいる遺跡に一般人を入れるのだ。当然、事前調査はしっかりと行われている。また、このエリアに強い魔獣が現れたという報告も一度もない。本来なら警備など必要ないのだが。
「ですが、これがツアー初回であることと、そして何よりも現在の情勢ですね」
帝国での事件を知らぬ者はそういないでしょうから、とフィディスが表情を曇らせる。
「青の広間へ侵入できる地下水路の入り口は、ここになります」
ツアーの集合場所もここですねと、フィディスが地図の一点を指さす。
地下水路の中は、等間隔に設置された青白い光を放つ光石により照らされている。その中をしばしボートで進んでいくと、大きな空間にでる。それが『青の広間』と呼ばれる遺跡だ。
「聖霊節の時だけに入ることができるというと、聞こえはいいのですが……正直なところ、特に面白味はないんですね」
だからこそ、『青の広間』などという飾り気のない名前がついているのだ。
ホールの上部に光石は設置されておらず、水面より数メートル上は闇に閉ざされている上に、見える範囲にも、称賛に値する装飾や仕掛けは特にない。遺跡のわずかな隙間から漏れる光が、星のように見えはするが星空というにはあまりに数が少なすぎる。通ってくる水路も同じようなものだ。
「ですが、聖霊節の時にだけ、正午になるとその空洞の中空に、ちょうど人の大きさ程度の光が現れます。その光は赤と白の二色に彩られているのです」
この現象が見つかったのは、数年前。何しろ何もない場所なので、季節どころか時間限定で起こる現象の観測などされていなかったのだ。
発見者は一人のボート乗りの青年。
誰にも邪魔されない場所でプロポーズをと意気込み、噂に聞いた人気のない青の水路のホールを選んだのだ。青年がプロポーズの言葉を女性に伝え、その返事をもらった瞬間、赤と白の光が現れ二人を照らしたといわれている。
プロポーズは成功し、青年と女性は結婚。それと同時に「ホールにジド・ルウが現れた」という話が一気に広がることとなった。
何かの前触れかと騒ぎになったのだが、調査の結果、遺跡の隙間から零れ落ちる光や、エーテルの濃度の微妙な差などによる偶然が重なった結果の自然現象だと結論づけられた。
その後さらなる調査により、光が現れる時期や時間が確定されたことで、今年からツアーが組まれたのだ。
「やはり、ジド・ルウに祈ることで不安を少なくしたいと思うのか、予約の段階でツアーは満員状態なんですよ。あ、発見者にあやかって、恋愛成就を祈りに来る方もいるそうですよ」
そのうちプロポーズの定番の場所になるんでしょうかと、何やら楽し気だ。
「注意点としては、日が差さないうえに、水上ということでそれなりに寒いです。体を温めるようにと、参加者には特製ハーブティーがサービスでつきますが、何らかの防寒をされたほうがいいでしょう」
説明は以上となりますと、フィディスが資料を閉じる。
「せっかくの聖霊節なのですから、いろいろ体験してみてくださいね」
それではよろしくお願いしますと、にこにことした笑顔でフィディスは冒険者たちを送り出した。
解説
・目的
ツアーに参加する。
OPでも説明したように、戦闘などはありません。
光が現れると祈りが始まります。
何を祈っても構いません。
何も祈らなくても構いません。
ただ、一般の人々は静かに祈りを捧げていますので、お静かにお願いします。
もちろんそれ以外の時は自由にお話しください。
参加者全員が同じ船に乗っても、グループで別れても構いません。ただ、別れる場合は、グループ名を付けるなどして、わかるようにしておいてください。
船に乗り、出発するシーンから始まります。
・赤と白の光の人影
はっきりと人の形をとっているわけではなく、「なるほど言われれば確かに人影に見えるね」程度です。
現れる少し前に、リーダーの漕ぎ手が鐘を鳴らします。すると、船の先端のランタンを、漕ぎ手たちが吹き消します。
15分ほどゆらゆらと揺らめいた後、花火のように飛び散り消えていきます。
・ツアーについて
船着場から20分ほどでホールにつきます。
ボートの数は全部で30艇ほどです。
・水路について
横幅は10メートル程。天井の高さは数メートル程です(あくまでも水面からの高さです)。
・ホールについて
直径約200メートルのほぼ円形をしており、天井の高さは20メートル程(同じく水面からの高さです)。
・船について
ヴェネチアのゴンドラのようなものを思う浮かべていただけると。
それぞれの船に一人、漕ぎ手が乗っておりますが、彼らはプロなので背景に徹しており、特に会話などは行いません。
船の先端に、青ガラスで覆われたランタンを灯しています。
・特製ハーブティ
優しい花の香りと、さっぱりとした甘さの、透き通った青色のお茶。
ボートの中央にある小さなテーブルの上に置かれている、分厚い陶器のティーポットに入っています。
白い陶器のカップに注いでどうぞ。
マスターより
オープニングに目を通していただきありがとうございます。
白月 昴と言います。よろしくお願いします。
聖霊節に起こる、自然のショーをのんびりと楽しんでいただければ嬉しく思います。
なお、OPに出ているNPCは、リプレイには顔出しいたしません。
リプレイ
街の中央から外れた静かな船着場は、今は幸せそうなカップルや家族連れにより賑やかな空気に包まれていた。
「へぇ……ここでも慰霊祭のイベントあったんだな。戦闘依頼とかじゃなくてがっかりだったが、まぁたまにはこういう息抜きもいいもんだよな」
周囲を警戒していたカズマ クレセントブラッドが見咎めたのは、不審者ではなく同じギルドに泊まっているキュベレーだ。
「待て、何を持っている?」
「もちろん酒だ。良いのが手に入ったのだ」
キュベレーの長い耳が、喜びにぴょこぴょこと動く。
「駄目に決まってるだろう」
「ああー! 我の酒!」
酒を没収されたキュベレーは情けない声を出し、耳までぺしゃりとさせた。
「皆様、わたくし達がバッチリ護衛致しますわ! 安心してお祈りして下さいませ。皆様に素敵な奇跡が訪れますよう!」
一方、キャロライン・スノーイーリスは爽やかな笑顔で、ツアー参加者に挨拶をしていた。
(半分観光とは言え、護衛として報酬を貰う身なのだから、この辺りはしっかりしなければね。ふふ、わたくし冒険者らしくなってきたのではなくて?)
聖霊節らしい白と赤のもこもこケープとブーツ、手袋でしっかり防寒をした、キャロラインの元気な挨拶に、ツアー参加者は微笑まし気な笑みを向けた。
「リュヌやで、よろしく。ツアー楽しもうなぁ」
続いて挨拶をしたのは、リュヌ・ヴォワ・ラクテだ。日頃薄着で過ごすことが多いが、今回は足元に冬ブーツ、頭に帽子、首にマフラーと動きを阻害しない程度にもこもこ姿になっていた。
続けて、他の冒険者たちも自己紹介を始めた。
8人もの冒険者が参加することを知り、参加者たちに安堵の空気が広がる。
「これより船に搭乗していただきます。指定の船までお越しください」
案内役の声に人々が動き出す。それにあわせて冒険者たちも動き出す。万が一に備え、冒険者たちは二人一組となり、一般客と同乗する手筈になっていた。
「頑張りましょうね、リュヌ様!」
「が、がんばるし~」
キャロラインは同乗の約束をしていたリュヌとともに、船に乗り込んだ。
「リュヌ様のお隣を確保ですわ!」
楽し気に笑うキャロラインに、リュヌも笑みを浮かべる。
(仲良くなれたら嬉しいなぁ)
年の近い女の子同士、一緒に景色を楽しんだり、可能ならツアー終了後も他の催しに一緒に参加できたら、そんなことを考えるリュヌであった。
セリオス・オーガストは、ネコ科のハーフビーストらしいしなやかな動きで船に乗り込むと、ゴルバルティアへと手を差し出した。
「い、いや、一人で乗れるし!」
顔を赤らめ断るゴルバルティアに、しかしセリオスは手を引かない。
「水上の船は不安定だ。静かに乗ったほうが揺れないだろう」
背が高く筋肉質なゴルバルティアは、正直重い。乗り込むときに、大きく船を揺らしてしまう可能性は高い。
「そ、それなら」
セリオスの掌に、ゴルバルティアが手を重ねる。その手をしっかりと取り、セリオスは丁重にゴルバルティアを船へと招き入れた。
「きゃ!」
「あわわわ!」
シャルロッテ・レッフラーの悲鳴と御堂・秀哉の慌てふためく声が船着場に響いた。
それは偶然の事故だった。
秀哉に続きシャルロッテが乗り込もうとした時、子供が興奮からか船の中で飛び跳ねたのだ。
バランスを崩し倒れこむシャルロッテを、支えようとした秀哉。
それは見事に成功した。
だが秀哉の手が、ふんわりした何かに触れてしまったのだ。
「ご、ごめん、わざとじゃないんだ……!」
動揺しながら謝罪する秀哉に、シャルロッテが頬を赤く染め小さく頷く。
どぎまぎしながら二人は最後尾に座る。
「え、えと、船ってあんまり乗った事がないから楽しいです。御堂さんはどうですか?」
微妙な空気を払おうとシャルロッテが問いかければ、秀哉がほっとした顔をして答える。
「僕の故郷はそもそも平地でこんな立派なものなんかお目にかかれたもんじゃない。だから、僕も一緒で楽しいよ」
「よかった」
微笑むシャルロッテに、秀哉が何か言う前に、カランと鐘が鳴り、十数隻の船が青の広間に向け出発した。
●
「ん……ほら、もっとこっちよれ。あったまるぞ。ハーブティーもあるしな」
寒そうに体を震わせたゴルバルティアを、セリオスは抱き寄せマントでくるんだ。
「そ、そんなにひっつかなくても……他のお客さんだっているんだし……」
台詞とは裏腹に、ゴルバルティアの尻尾はぎゅっとセリオスを引き寄せていた。
意味のない抵抗の言葉をスルーし、セリオスはハーブティーをゴルバルティアへと渡した。
「ほら温まるぞ」
「ありがと。……な、なぁ……こ、これって……つまり……その……っで、デート……ってわけだよな……」
赤い顔で囁くようにゴルバルティアが問いかければ、セリオスは当然と頷く。
「嫌だったか?」
「っべ、別に嫌ってわけじゃ……全然ないけど……」
可愛らしい返事に、セリオスは小さく微笑んだ。
「普段は水底に沈んだ遺跡……ジド・ルウの御姿を映した不思議な光。自然現象とはいえ、そんな偶然が重なることを奇跡と呼ばずなんと呼びますの?」
瞳を輝かせ、青い水路を見るキャロラインは何とも楽しそうだ。
「そやなぁ」
反対にリュヌは強張った顔で周囲を警戒していた。実は初の船に、緊張しているのだ。
そんなリュヌを知ってか知らずか、キャロラインの興味は用意されてるハーブティーへと向いた。
「これが噂の特製ハーブティーですわね」
カップに注ぎ込めば、青が白いカップを染め上げる。
「まぁ、青いお茶。ランタンも何もかも青で、まるで不思議な世界に迷い込んだよう」
キャロラインは一口お茶を含み、その味と香りを堪能した。
「リュヌ様もどうぞ、ぽっかぽかになりましてよ」
これは味わってもらわなければと、キャロラインはリュヌへとカップを渡した。
「あ、ありがとうなぁ」
優しい花の薫りに緊張していたリュヌの体が緩む。一口飲めば冷えていた体が腹の中から温まっていく。
「身体があったまるなぁ~、ぽっかぽかやで。キャロちゃんもぽっかぽかで夢心地やろ~?」
「わたくし何だかロマンチックが止まりませんの!」
キャロラインのその言葉に、リュヌは改めて周囲を見渡した。青光が照らす地下水路は確かにロマンチックだ。
「む、あれは?」
キュベレーが声をあげれば、何事かとカズマが振り返る。
(いまだ!)
キュベレーは隠し持っていた酒をハーブティーに混ぜ込んだ。
「何もないようだが?」
「すまん、見間違えたようだ」
しれっと謝罪すると、酒入りのお茶を一口。予想通りのうまさにキュベレーの耳がぴょこぴょこと動く。
「しかし斯様な場所で出会うとは奇遇だな、カズマよ……そうだ、おぬしの話を聞かせよ。とんでもない生い立ちとか、なんか面白い過去とか」
「そんなものはない。キュベレーのほうはどうなんだ?」
(おっとそう来たか。ふむ)
「うむ、我はのう、生まれは無く、人々の心の闇から零れ出たのだ~」
(……我の過去はおいそれと語れる事ではないのでな……)
軽い言葉に嘘だと判断したらしいカズマは、キュベレーから視線をそらす。
周囲を威圧しないよう、にこやかな笑顔を浮かべながら護衛を務めるカズマを横目に、ちびりちびりとキュベレーは酒を飲む。
暇である。
(よし、質の悪い酔っ払いになった演技でもしてどんな反応をするか楽しんでおこうか、くっくっく)
キュベレーはおもむろに腕を伸ばし、同乗している男性客の肩を掴んだ。
「おいかじゅまさんよ...…少し見にゃいうちに大分老けたよーうにゃ……?」
「客に絡むな。……というか、お前ハーブティー飲んでたんだよな……なんで酔っぱらえれるんだよ。……まさか……」
「む、今度は若返ったにゃ……?」
キュベレーを客から引き離し、カップを嗅げば、花の薫りに混ざり漂う酒の匂い。
「やっぱり……キュベレー……そこまでして飲みてぇのか……」
酒飲みの酒に対する執着を甘く見たと、カズマは呆れる。
「お、かじゅまさんも飲むかの? からだが温まるにょ~」
「いらん」
「かじゅまさん? 全然飲んでおらぬよーだが我のしゃけが飲めぬと申すのではなかろーにゃ!?」
演技と知らないカズマは、コートを脱ぐとキュベレーへと掛ける。
「そんな恰好のまま飲んでると凍えちまうぜ、俺は気にしなくていいぜ。ちゃんと着込んできたからな」
「う、うむ、感謝する」
予想外の行動に、キュベレーは驚きのあまり酔っ払いの演技が吹っ飛んだ。しかしカズマはそれに気づかず、ただ、帰りは俺が担いで帰るのかと考えていた。
●
「へー、こいつが『青の広間』……ねぇ」
「『青の広間』……なんだか神秘的ですね。ドキドキします」
秀哉とシャルロッテは興味深げに周囲を見渡す。
水上を照らす青い光と、天井から降り注ぐ闇の織り成す光景は、荘厳なものに見えた。
(こんな不思議なところがあるとは、世の中ってのはやっぱり広いもんだ)
広間に入った船は、広間の中央に集まっていく。船と船の間はほんの数センチ。分乗した冒険者たちの顔が見える程だ。
――カラーン
突如、澄んだ鐘の音が響き渡り、音に敏感なリュヌがすぐに船の前方へ目を向けた。
ランタンが次々に消えていき、闇が濃くなる中、誰も彼もが息を潜める。
最後のランタンが消えたとき、広間の中央にちらりと赤い光が灯った。
「お~、あ~、お~」
それに真っ先に気づいたリュヌが、思わず驚きの声を上げた。
赤は徐々に大きくなり、白を纏い、そしてついに人とも見える形となった。
「まぁ……わたくし今奇跡のド真ん中に居ますわ」
キャロラインが感嘆の声を上げた。
他の船でも声が上がるが、それもすぐに消え人々は祈りを捧げ始めた。
「正午になると現れる人の大きさ程度の赤と白の光……いったいなんなのでしょうね。気になります」
囁くようにそう秀哉に告げると、シャルロッテは静かに、けれど秀哉を気にしながら祈り始める。
(……もう少し進展します様に……)
こんな具合に光が残るのは何か理由があるだろうと、答えようとした秀哉だが、真剣に祈っているシャルロッテの姿に口を閉ざした。
(……祈りかぁ……これまでそういうこととあんまり縁がなかったしなぁ……うーん……)
それでもゴルバルティアは周囲に合わせ黙って祈り始めた。
(……セリオスはきっとまた私のことばっかり考えてるだろうなぁ……そりゃあ私だって……こんな女っぽくない半獣人じゃなくて艶っぽいタイプだったら、可愛い格好して積極的にアピールして、綺麗なドレスでセリオスと結婚式なんか……って何考えてんだ私は!!)
ゴルバルティアがもだもだと考えている様を、セリオスはじっと窺っていた。
(わたくしは強欲ですもの、願い事はたくさんあるけれど……ここで願うのは平和と、それから素敵な殿方との出会い!)
キャロラインは顔を伏せ祈っていた。肌に突き刺さる周囲の桃色な空気に祈りもはかどるというものだ。
カズマも祈りを捧げていた。
(今まで以上にもっと強くなって、ギルドもデカい集まりにして、単位も基準あまくなって、モテモテになって金持ちになってちやほやされますよーにー!! あとカッコいい称号も欲しい)
こちらも気合が入っているようだ。
なおキュベレーは「帰路の事はカズマに任せておけばよいのだ~」と言い残しすやすやと眠りについていた。
ゆらゆらと揺れていた光は、最後に大きく揺らいだ後、はじけ飛び、きらきらと輝きながら消えていった。
「あ!」
揺れる赤と白の光という面白い現象に目を奪われ、ただひたすら観察し、祈りそびれたリュヌが慌てて手を合わせる。
(美味しい料理に出逢えますように)
心の中で祈る。とても大事なことなのでしっかりと。
完全に光が消えると、再び船のランタンが灯された。
●
「ティアはどんなことを祈ったんだ?」
帰りの船のなか、セリオスがゴルバルティアに問いかけた。
「……っわ、私の祈り!? っべ、別に!? そんな……大した祈りなんかじゃ……な、内緒に決まってるだろ」
ゴルバルティアは頬を赤く染め、恥ずかし気に顔を逸らす。
「ふむ……そういえばここでプロポーズしてうまくいったからここも話が広まったらしいな。俺たちも年が明けたらするか、結婚式」
唐突なセリオスの言葉に、ゴルバルティアが顔どころか耳まで真っ赤にする。
「結婚……っう……ま、……まだ、早く……ない?」
「したくないか?」
「……そりゃぁ、出来るなら……したいけど……」
「ならしよう」
ゴルバルティアは、尻尾でぎゅっとセリオスを引き寄せると、小さくセリオスにだけ聞こえるように答えを返した。
「御堂さんは何をお祈りしたんですか?」
「お祈り……? あぁ、僕はしなかったんだ」
「どうしてですか?」
「よく親父が言ってたんだ。神様、仏様に頼らずに、男なら望むものが欲しければ自分の手で掴めって。……まぁ、そんな夢とかとは縁遠い家だったからすぐにはなんか思いつかなくって」
秀哉の言葉に、やっぱり男の人なんだなぁと、そんな風に思ったシャルロッテは素直に告げてみた。
「そういうの、すごいと思います」
「そうかな?」
「ええ。あ、そういえば、行きではお茶を飲んでいませんでしたね」
せっかくだからと、シャルロッテが二人分のお茶を入れ、秀哉にも手渡す。
「きっとアレはジド・ルウさんの魂なんですよ」
返答に困る秀哉に、シャルロッテは小さく笑う。
「そう信じたほうが楽しいと思いません? それにその方がご利益もありそうですし……」
「なるほど」
ふと、秀哉はシャルロッテが祈っていた姿を思い出す。
「ところでシャルロッテは真剣にお祈りしてたけど、何を祈ったんだい?」
「え、私が何を祈ったか、ですか? ……それは……ひみつ、です」
ふふっと笑うシャルロッテに、これ以上聞くのは無粋だろうと口を閉ざす。いずれ聞ける日が来るだろうと。
●
最後に真っ赤な顔のままのゴルバルティアを、セリオスがエスコートして船から引き上げる頃には、一般客はほぼいなかった。
「では、俺たちはこれで失礼させてもらう」
眠ったままのキュベレーを背負ったカズマは、その場を後にする。
それを皮切りに冒険者たちが帰路へとつくなか、別れを惜しむリュヌの腕に、キャロラインがしがみつく。
「わたくし、お祈りの効果よりもっとすごい宝物をゲットしましてよ。リュヌ様という素敵なお友達を見つけましたの!」
キャロラインの言葉に、リュヌは一瞬驚いて、けれどすぐに嬉し気に微笑む。
「なぁ、キャロちゃん。お腹空いてへん? 私と」
――グ~~~
リュヌの言葉を遮って、リュヌのお腹の音が鳴り響いた。
「ふふ、一緒に何か食べに行きましょう!」
顔を赤くしたリュヌの手を引いて、キャロラインは賑わう街へと向かうのであった。
「へぇ……ここでも慰霊祭のイベントあったんだな。戦闘依頼とかじゃなくてがっかりだったが、まぁたまにはこういう息抜きもいいもんだよな」
周囲を警戒していたカズマ クレセントブラッドが見咎めたのは、不審者ではなく同じギルドに泊まっているキュベレーだ。
「待て、何を持っている?」
「もちろん酒だ。良いのが手に入ったのだ」
キュベレーの長い耳が、喜びにぴょこぴょこと動く。
「駄目に決まってるだろう」
「ああー! 我の酒!」
酒を没収されたキュベレーは情けない声を出し、耳までぺしゃりとさせた。
「皆様、わたくし達がバッチリ護衛致しますわ! 安心してお祈りして下さいませ。皆様に素敵な奇跡が訪れますよう!」
一方、キャロライン・スノーイーリスは爽やかな笑顔で、ツアー参加者に挨拶をしていた。
(半分観光とは言え、護衛として報酬を貰う身なのだから、この辺りはしっかりしなければね。ふふ、わたくし冒険者らしくなってきたのではなくて?)
聖霊節らしい白と赤のもこもこケープとブーツ、手袋でしっかり防寒をした、キャロラインの元気な挨拶に、ツアー参加者は微笑まし気な笑みを向けた。
「リュヌやで、よろしく。ツアー楽しもうなぁ」
続いて挨拶をしたのは、リュヌ・ヴォワ・ラクテだ。日頃薄着で過ごすことが多いが、今回は足元に冬ブーツ、頭に帽子、首にマフラーと動きを阻害しない程度にもこもこ姿になっていた。
続けて、他の冒険者たちも自己紹介を始めた。
8人もの冒険者が参加することを知り、参加者たちに安堵の空気が広がる。
「これより船に搭乗していただきます。指定の船までお越しください」
案内役の声に人々が動き出す。それにあわせて冒険者たちも動き出す。万が一に備え、冒険者たちは二人一組となり、一般客と同乗する手筈になっていた。
「頑張りましょうね、リュヌ様!」
「が、がんばるし~」
キャロラインは同乗の約束をしていたリュヌとともに、船に乗り込んだ。
「リュヌ様のお隣を確保ですわ!」
楽し気に笑うキャロラインに、リュヌも笑みを浮かべる。
(仲良くなれたら嬉しいなぁ)
年の近い女の子同士、一緒に景色を楽しんだり、可能ならツアー終了後も他の催しに一緒に参加できたら、そんなことを考えるリュヌであった。
セリオス・オーガストは、ネコ科のハーフビーストらしいしなやかな動きで船に乗り込むと、ゴルバルティアへと手を差し出した。
「い、いや、一人で乗れるし!」
顔を赤らめ断るゴルバルティアに、しかしセリオスは手を引かない。
「水上の船は不安定だ。静かに乗ったほうが揺れないだろう」
背が高く筋肉質なゴルバルティアは、正直重い。乗り込むときに、大きく船を揺らしてしまう可能性は高い。
「そ、それなら」
セリオスの掌に、ゴルバルティアが手を重ねる。その手をしっかりと取り、セリオスは丁重にゴルバルティアを船へと招き入れた。
「きゃ!」
「あわわわ!」
シャルロッテ・レッフラーの悲鳴と御堂・秀哉の慌てふためく声が船着場に響いた。
それは偶然の事故だった。
秀哉に続きシャルロッテが乗り込もうとした時、子供が興奮からか船の中で飛び跳ねたのだ。
バランスを崩し倒れこむシャルロッテを、支えようとした秀哉。
それは見事に成功した。
だが秀哉の手が、ふんわりした何かに触れてしまったのだ。
「ご、ごめん、わざとじゃないんだ……!」
動揺しながら謝罪する秀哉に、シャルロッテが頬を赤く染め小さく頷く。
どぎまぎしながら二人は最後尾に座る。
「え、えと、船ってあんまり乗った事がないから楽しいです。御堂さんはどうですか?」
微妙な空気を払おうとシャルロッテが問いかければ、秀哉がほっとした顔をして答える。
「僕の故郷はそもそも平地でこんな立派なものなんかお目にかかれたもんじゃない。だから、僕も一緒で楽しいよ」
「よかった」
微笑むシャルロッテに、秀哉が何か言う前に、カランと鐘が鳴り、十数隻の船が青の広間に向け出発した。
●
「ん……ほら、もっとこっちよれ。あったまるぞ。ハーブティーもあるしな」
寒そうに体を震わせたゴルバルティアを、セリオスは抱き寄せマントでくるんだ。
「そ、そんなにひっつかなくても……他のお客さんだっているんだし……」
台詞とは裏腹に、ゴルバルティアの尻尾はぎゅっとセリオスを引き寄せていた。
意味のない抵抗の言葉をスルーし、セリオスはハーブティーをゴルバルティアへと渡した。
「ほら温まるぞ」
「ありがと。……な、なぁ……こ、これって……つまり……その……っで、デート……ってわけだよな……」
赤い顔で囁くようにゴルバルティアが問いかければ、セリオスは当然と頷く。
「嫌だったか?」
「っべ、別に嫌ってわけじゃ……全然ないけど……」
可愛らしい返事に、セリオスは小さく微笑んだ。
「普段は水底に沈んだ遺跡……ジド・ルウの御姿を映した不思議な光。自然現象とはいえ、そんな偶然が重なることを奇跡と呼ばずなんと呼びますの?」
瞳を輝かせ、青い水路を見るキャロラインは何とも楽しそうだ。
「そやなぁ」
反対にリュヌは強張った顔で周囲を警戒していた。実は初の船に、緊張しているのだ。
そんなリュヌを知ってか知らずか、キャロラインの興味は用意されてるハーブティーへと向いた。
「これが噂の特製ハーブティーですわね」
カップに注ぎ込めば、青が白いカップを染め上げる。
「まぁ、青いお茶。ランタンも何もかも青で、まるで不思議な世界に迷い込んだよう」
キャロラインは一口お茶を含み、その味と香りを堪能した。
「リュヌ様もどうぞ、ぽっかぽかになりましてよ」
これは味わってもらわなければと、キャロラインはリュヌへとカップを渡した。
「あ、ありがとうなぁ」
優しい花の薫りに緊張していたリュヌの体が緩む。一口飲めば冷えていた体が腹の中から温まっていく。
「身体があったまるなぁ~、ぽっかぽかやで。キャロちゃんもぽっかぽかで夢心地やろ~?」
「わたくし何だかロマンチックが止まりませんの!」
キャロラインのその言葉に、リュヌは改めて周囲を見渡した。青光が照らす地下水路は確かにロマンチックだ。
「む、あれは?」
キュベレーが声をあげれば、何事かとカズマが振り返る。
(いまだ!)
キュベレーは隠し持っていた酒をハーブティーに混ぜ込んだ。
「何もないようだが?」
「すまん、見間違えたようだ」
しれっと謝罪すると、酒入りのお茶を一口。予想通りのうまさにキュベレーの耳がぴょこぴょこと動く。
「しかし斯様な場所で出会うとは奇遇だな、カズマよ……そうだ、おぬしの話を聞かせよ。とんでもない生い立ちとか、なんか面白い過去とか」
「そんなものはない。キュベレーのほうはどうなんだ?」
(おっとそう来たか。ふむ)
「うむ、我はのう、生まれは無く、人々の心の闇から零れ出たのだ~」
(……我の過去はおいそれと語れる事ではないのでな……)
軽い言葉に嘘だと判断したらしいカズマは、キュベレーから視線をそらす。
周囲を威圧しないよう、にこやかな笑顔を浮かべながら護衛を務めるカズマを横目に、ちびりちびりとキュベレーは酒を飲む。
暇である。
(よし、質の悪い酔っ払いになった演技でもしてどんな反応をするか楽しんでおこうか、くっくっく)
キュベレーはおもむろに腕を伸ばし、同乗している男性客の肩を掴んだ。
「おいかじゅまさんよ...…少し見にゃいうちに大分老けたよーうにゃ……?」
「客に絡むな。……というか、お前ハーブティー飲んでたんだよな……なんで酔っぱらえれるんだよ。……まさか……」
「む、今度は若返ったにゃ……?」
キュベレーを客から引き離し、カップを嗅げば、花の薫りに混ざり漂う酒の匂い。
「やっぱり……キュベレー……そこまでして飲みてぇのか……」
酒飲みの酒に対する執着を甘く見たと、カズマは呆れる。
「お、かじゅまさんも飲むかの? からだが温まるにょ~」
「いらん」
「かじゅまさん? 全然飲んでおらぬよーだが我のしゃけが飲めぬと申すのではなかろーにゃ!?」
演技と知らないカズマは、コートを脱ぐとキュベレーへと掛ける。
「そんな恰好のまま飲んでると凍えちまうぜ、俺は気にしなくていいぜ。ちゃんと着込んできたからな」
「う、うむ、感謝する」
予想外の行動に、キュベレーは驚きのあまり酔っ払いの演技が吹っ飛んだ。しかしカズマはそれに気づかず、ただ、帰りは俺が担いで帰るのかと考えていた。
●
「へー、こいつが『青の広間』……ねぇ」
「『青の広間』……なんだか神秘的ですね。ドキドキします」
秀哉とシャルロッテは興味深げに周囲を見渡す。
水上を照らす青い光と、天井から降り注ぐ闇の織り成す光景は、荘厳なものに見えた。
(こんな不思議なところがあるとは、世の中ってのはやっぱり広いもんだ)
広間に入った船は、広間の中央に集まっていく。船と船の間はほんの数センチ。分乗した冒険者たちの顔が見える程だ。
――カラーン
突如、澄んだ鐘の音が響き渡り、音に敏感なリュヌがすぐに船の前方へ目を向けた。
ランタンが次々に消えていき、闇が濃くなる中、誰も彼もが息を潜める。
最後のランタンが消えたとき、広間の中央にちらりと赤い光が灯った。
「お~、あ~、お~」
それに真っ先に気づいたリュヌが、思わず驚きの声を上げた。
赤は徐々に大きくなり、白を纏い、そしてついに人とも見える形となった。
「まぁ……わたくし今奇跡のド真ん中に居ますわ」
キャロラインが感嘆の声を上げた。
他の船でも声が上がるが、それもすぐに消え人々は祈りを捧げ始めた。
「正午になると現れる人の大きさ程度の赤と白の光……いったいなんなのでしょうね。気になります」
囁くようにそう秀哉に告げると、シャルロッテは静かに、けれど秀哉を気にしながら祈り始める。
(……もう少し進展します様に……)
こんな具合に光が残るのは何か理由があるだろうと、答えようとした秀哉だが、真剣に祈っているシャルロッテの姿に口を閉ざした。
(……祈りかぁ……これまでそういうこととあんまり縁がなかったしなぁ……うーん……)
それでもゴルバルティアは周囲に合わせ黙って祈り始めた。
(……セリオスはきっとまた私のことばっかり考えてるだろうなぁ……そりゃあ私だって……こんな女っぽくない半獣人じゃなくて艶っぽいタイプだったら、可愛い格好して積極的にアピールして、綺麗なドレスでセリオスと結婚式なんか……って何考えてんだ私は!!)
ゴルバルティアがもだもだと考えている様を、セリオスはじっと窺っていた。
(わたくしは強欲ですもの、願い事はたくさんあるけれど……ここで願うのは平和と、それから素敵な殿方との出会い!)
キャロラインは顔を伏せ祈っていた。肌に突き刺さる周囲の桃色な空気に祈りもはかどるというものだ。
カズマも祈りを捧げていた。
(今まで以上にもっと強くなって、ギルドもデカい集まりにして、単位も基準あまくなって、モテモテになって金持ちになってちやほやされますよーにー!! あとカッコいい称号も欲しい)
こちらも気合が入っているようだ。
なおキュベレーは「帰路の事はカズマに任せておけばよいのだ~」と言い残しすやすやと眠りについていた。
ゆらゆらと揺れていた光は、最後に大きく揺らいだ後、はじけ飛び、きらきらと輝きながら消えていった。
「あ!」
揺れる赤と白の光という面白い現象に目を奪われ、ただひたすら観察し、祈りそびれたリュヌが慌てて手を合わせる。
(美味しい料理に出逢えますように)
心の中で祈る。とても大事なことなのでしっかりと。
完全に光が消えると、再び船のランタンが灯された。
●
「ティアはどんなことを祈ったんだ?」
帰りの船のなか、セリオスがゴルバルティアに問いかけた。
「……っわ、私の祈り!? っべ、別に!? そんな……大した祈りなんかじゃ……な、内緒に決まってるだろ」
ゴルバルティアは頬を赤く染め、恥ずかし気に顔を逸らす。
「ふむ……そういえばここでプロポーズしてうまくいったからここも話が広まったらしいな。俺たちも年が明けたらするか、結婚式」
唐突なセリオスの言葉に、ゴルバルティアが顔どころか耳まで真っ赤にする。
「結婚……っう……ま、……まだ、早く……ない?」
「したくないか?」
「……そりゃぁ、出来るなら……したいけど……」
「ならしよう」
ゴルバルティアは、尻尾でぎゅっとセリオスを引き寄せると、小さくセリオスにだけ聞こえるように答えを返した。
「御堂さんは何をお祈りしたんですか?」
「お祈り……? あぁ、僕はしなかったんだ」
「どうしてですか?」
「よく親父が言ってたんだ。神様、仏様に頼らずに、男なら望むものが欲しければ自分の手で掴めって。……まぁ、そんな夢とかとは縁遠い家だったからすぐにはなんか思いつかなくって」
秀哉の言葉に、やっぱり男の人なんだなぁと、そんな風に思ったシャルロッテは素直に告げてみた。
「そういうの、すごいと思います」
「そうかな?」
「ええ。あ、そういえば、行きではお茶を飲んでいませんでしたね」
せっかくだからと、シャルロッテが二人分のお茶を入れ、秀哉にも手渡す。
「きっとアレはジド・ルウさんの魂なんですよ」
返答に困る秀哉に、シャルロッテは小さく笑う。
「そう信じたほうが楽しいと思いません? それにその方がご利益もありそうですし……」
「なるほど」
ふと、秀哉はシャルロッテが祈っていた姿を思い出す。
「ところでシャルロッテは真剣にお祈りしてたけど、何を祈ったんだい?」
「え、私が何を祈ったか、ですか? ……それは……ひみつ、です」
ふふっと笑うシャルロッテに、これ以上聞くのは無粋だろうと口を閉ざす。いずれ聞ける日が来るだろうと。
●
最後に真っ赤な顔のままのゴルバルティアを、セリオスがエスコートして船から引き上げる頃には、一般客はほぼいなかった。
「では、俺たちはこれで失礼させてもらう」
眠ったままのキュベレーを背負ったカズマは、その場を後にする。
それを皮切りに冒険者たちが帰路へとつくなか、別れを惜しむリュヌの腕に、キャロラインがしがみつく。
「わたくし、お祈りの効果よりもっとすごい宝物をゲットしましてよ。リュヌ様という素敵なお友達を見つけましたの!」
キャロラインの言葉に、リュヌは一瞬驚いて、けれどすぐに嬉し気に微笑む。
「なぁ、キャロちゃん。お腹空いてへん? 私と」
――グ~~~
リュヌの言葉を遮って、リュヌのお腹の音が鳴り響いた。
「ふふ、一緒に何か食べに行きましょう!」
顔を赤くしたリュヌの手を引いて、キャロラインは賑わう街へと向かうのであった。
マスターコメント
依頼に参加していただき、ありがとうございます。
皆様にお楽しみいただければ幸いです。
ショートシナリオ普通 報酬:標準8 / 4〜8人
2021年01月06日 11時10分26秒 公開
大成功
相談掲示板
ヒーラーのキャロラインと申します。素敵なツアーを楽しみに参りましたわ。皆様、どうぞよろしくお願い致しますの。 戦闘はないようですし、相談するとしたらグループ分けくらいでしょうか? ペア参加の方が多いのかしら…?と思ったのですが、皆様グループ分けにご希望はございまして? ちなみにわたくしはガッチガチのソロ参加ですので、もし同じだよって方がいらしたら絡ませて頂けたら嬉しいですの!
はじめまして~、シューターのリュヌやで。 ツアーってよう知らんけど、ご近所さん同士の買い物巡行みたいなものやんなぁ? えらい楽しそうなぁ、私も行ってみたいわぁ。 どうぞ、よろしゅう。 私なぁ、参加予定は一人だし友達もおらんけ、グループ分け?に希望とかないねんけど、 キャロラインちゃん良かったら仲良うしてくれへんやろか?
No.3
我だ。 完全に観光客のひとりとしてぼんやり酒でも飲んでいるつもりだ。 単独での参加だったが直前で同行者が出来たのでな。 みなも観光を楽しんでおくとよい。
まぁ、リュヌ様!とても嬉しいのですの、どうぞお友達になって下さいませ! それではわたくしはリュヌ様と一緒に景色やハーブティを楽しむことに致しますの。 キュベレー様も他の皆様も、どうぞ良い時間をお過ごし下さいませ(礼)