【境騒】辺境騎士団選定試験
弓月 蒼
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シナリオID:284
オープニング
貴族の夜会、と言えばリーンエス王国上流階級層における風物詩である。
豪奢な会場、瀟洒な礼服、最新の盛装で着飾り、会食に興じる社交界の華。
侯爵以上の大貴族が持ち回り同然で開くこういった行事への参加は、原則任意だ。
特に、王都近郊で安穏と過ごす『貴族派』と異なり、外敵への備えを怠れない外縁の『王族派』
中でも帝国との国境を預かるメルヴィン・トマス・アーチボルトに至っては顔を出す方が稀である。
王族派でも特に第二王子と親しく、若くして辺境伯位という高位の貴族位を継いだ。
辺境の英雄と言う名声含め、対立する貴族派はともかく同派閥の中ですら彼へのやっかみは少なくない。
(やはり、来るのではなかったな)
絢爛過美に飾られた会場の熱に当てられて、彼は独りベランダで洋杯を傾けていた。
今、国境は酷い混乱の中にある。旧帝国国境は激戦直後。処理すべき課題も多く、寝る暇すら惜しい。
にも関わらず、彼が夜会に送られたのは執務中毒同然の所を家令が気遣ってのこと。
全く本意ではない。しかし爵位継承後、世話になり続けている家令の心配を無碍にも出来なかった。
あの食わせ物の第二王子なら何だかんだなだめすかし言いくるめ、我儘を通すのだろう。
しかしメルヴィンはそういった腹芸が得意ではない。そこが、気が合う所以なのかもしれないが。
「なんだ、こんな所に居たのか」
そんなことを思っていると、聞き覚えのある声が響く。
一体どこの貴族か。向けた視線の先に居たのは知古の、けれど意外な相手だった。
「卿は……エイゼル? クラウゼン家のエイゼルか」
パンクリアース学園の同窓である。貴族社会に馴染まないメルヴィンにとって数少ない古馴染みだ。
卒業以来顔を合わせなかった為、今どうしているかは余り聞こえてきていなかったが。
しかし『クラウゼン家』は領地こそ小さいものの、騎士から叩き上げで子爵まで昇った家系だ。
家風は身内にすら果断にして苛烈と聞く。その後継者だ。生来の貴族ほど平坦な道ではなかったろう。
見れば学生時代の面影を残す何処か幼い面持ちにも、かつては見えなかった陰が射していた。
自身もまた領地運営にて艱難辛苦を味わったメルヴィンにとって、他人事とは思えない。
「いかにも。卿は変わらないな、昔と同じく壮健なようだ」
「んん……いや、そんなことはあるまい。これでも未だ慣れぬ激務に追われる日々なのだが」
変わらないと言われ、軽口で返せば昔話にも花が咲く。旧知の同窓に今更駆け引きもない。
エイゼルは余り目立たない人物だったが、メルヴィンが苦手な書き物などを実に器用にこなした。
長じれば勤勉な良い領主になるだろう。と、ウィリアムと語り合ったことを覚えている。
「それで、相変わらず第二王子とは交友を深めている様だけれど」
けれど、不意にトーンが落ちたエイゼルの声に、意識は現実へ戻される。
何か奇妙な雰囲気だ。そこまで来てようやく。或いは痛恨にも、この場所が何処か思い出す。
「……君の父上、カリオン辺境伯と僕の父上は戦友だった。そして僕らは学友だ。
単刀直入に言おう。メルヴィン、君はそちらに居るべきじゃないと僕は思う」
貴族の夜会だ。それも『貴族派』の大貴族……侯爵家主催の。
であれば。そこで『王族派』の人間に声を掛ける理由など、そうそうはないではないか。
「エイゼル、卿は……」
ああ――――そうか。残念でならない。結局、それが彼にとって本音だった。
油断があったことは認めよう。けれど、同窓との旧交を温めることすら許されないのか。
ここは記憶の中の教室などではなく、王都の怪物達が跳梁跋扈する戦場だった。
同じでは居られないのだ。どんな関係であれ彼もまた、貴族であることを選んだ以上は。
「……貴族は、王を支えるものだ。クラウゼン卿」
半ば以上好意で差し出された手を、抜いた刃で払うも同じ。意味は分かっていた。
反応は劇的だ。冷たく細められた同窓の眼差しは見たことのないものだった。
「……そうかい。とても残念だよ、アーチボルト辺境伯」
道は分かたれた。ただの言葉のやり取りでも貴族のそれは重みが違う。
次に出逢った時は、もはや友とは呼べまい。1つの決別を孕み王都の夜は更けていく。
●辺境騎士団選定試験
――――翌日。
王国の空は、この日は朝から晴れ渡っていた。絶好の行楽日和と言って良いだろう。
辺境伯が未だ王都より戻っていない王国北方アーチボルト辺境伯領、騎士団宿舎前。
「先日は良き働きをして下さいました。主からも感謝の言葉を承っています」
黒い鎧に身を包んだ。黒髪黒眼の若い騎士。
ガレス・コーニッシュは、ギルドを通して招いた冒険者たちを案内していた。
何処へか。この北方国境を預かる伯直下の騎士団。即ち、辺境騎士団の選定試験会場へだ。
今回冒険者には、同選定試験の実技試験官としての役割が与えられていた。
「これも皆様の実力を見込んでのこと。例年は、我々正騎士が軸となり対応しているのですが」
実力主義の騎士団は、どうも受験者に対してやり過ぎる傾向がある。
相手はあくまで今後の王国を担う若き騎士志願者たちだ。全滅させることを目的としない。
そう主より厳命されれば否応もなく。しかし騎士団の風土を改革することは容易でない。
ここに来て、試験的に『将来有望な冒険者たち』に試験官を委託してはどうか。
そんな若手騎士たちによる柔軟な発想は古株の騎士たちにはあまり好まれない。
しかし先の掃討戦の戦果を受けて、主である辺境伯が冒険者に一定の評価を示したのだ。
例え貴族の専横が問題視される王国であれ、忠義と誠実は絶対の美徳とされる。
名誉職たる『騎士』という立場の人間にとって、主の評価は多くの場合私見に優先する。
それは国境を守る職務上実力主義を貫く辺境騎士団にあっても、なお。
いや、辺境の騎士団であればこそ透徹されてしかるべき。という風潮すら存在していた。
「結果的に、そこまで言うならばやってみろ。という流れと相成った次第です」
話を聞いてみれば容易に想像できる展開だ。しかし、それは同時に――――
思考を遮るが如く、ガレスが力強く開いた両開きの扉の先。
普段は騎士団員同士が鍛錬に用いるのだろう、屋内とは言えだだっ広い空間。
試験会場と言って案内されたその場所は、間違いなく試合会場だった。
向かって左には、その殆どが"がちがちに"固まっている数名の受験者。
そして右には、古参の辺境騎士であろう見るだに戦慣れた猛者達が立ち並ぶ。
――――そう。それは同時に、見定められるのは受験者たちだけではなく。
今回試験官を拝命した冒険者たちもまた、同じ立場だということを意味している。
如何にも生真面目朴念仁で隠し事など何一つ出来ない風……を、ここまで装った黒騎士。
ガレスが振り返ると冒険者たちを順に見遣り、仄淡く笑ってみせる。
「勿論、私は若手騎士代表として、皆さんの見事な審議に期待を寄せる側の人間ですよ」
この野郎、と誰かしら思ったとしてもさほど不思議な話ではあるまい。
かくして半ば騙し討ち同然ながら、冒険者たちの本意も覚悟も概ね置き去りにして。
辺境伯すら居ない城塞で、やや良識の箍が外れた辺境騎士たちによる、ささやかな饗宴。
辺境騎士団選定試験の幕は既に、上がってしまったのである。
解説
マスターより
リプレイ
「方針は決まったが……問題はアレだな」
試験会場。集った冒険者が準備を終える。対する試験者も武装を整え合図を待つのみ。
『フードに隠されたものは……?』ベルク・オスマットの視点は1箇所で止まっていた。
今回の依頼は奇妙な物だったが、当然間違えようもない障害が1つある。
試験者の中で唯一人、武器も構えず確かめず、鞘に入った双剣が異様に物々しい紅一点。
白い。という印象しか残らない女が纏う空気は、ベルクが見ても……最大限表現を譲歩して。
――――常軌を逸していた。何せ確かに眼で見ているのに気配がないのだ。
ここが戦場であれば絶対に踏み込みたくない。何だあれ。あんなのが居て良いのか。
とりあえず、真っ先に除くか……というか除いていただけませんかね? ねえ騎士の方々?
歴戦の騎士が全くその女と視線を合わせ無いのも気になるが、それ以上に。
不用意に踏み込んだら死ぬんじゃないだろうか、というまず有り得ない危機感で胃が痛い。
「行く?」
主旨こそ違えど大体同じことを考えていた『【秋祭】勇猛可憐な豊穣神』トゥーリが指差す。
「行かないわけにも、な」
どうも彼女も行く気らしい。的がバラければまだ何とか。と気持ちを立て直したか。
ベルクが頷く。あとは野となれ、山となれ。
まだ亡き主の仇も討っていないのに、こんな所で散るのは勘弁願いたい。
半ば無意識。けれどあと半ばは全く意識的にそんな心境を胸に秘め。
トゥーリが短剣を両手で握ると、合わせるようにベルクは愛用の短剣二本を引き抜く。
――――響いた鐘の音は、試験開始の合図の音。
「とりあえず、非受験対象者は混ざろうとしないでいただきたい!!」
悲痛な決意を込めたその声に、観戦席の良い歳した騎士達が一斉に明後日の方向を向いた。
●面接/前半
時は少し遡る。試験開始の1時間程前。待機部屋でのことである。
「初めてお目に掛かります。私はレティシア・レインフィールと申します。
面談へのご了承感謝します。本日は、よろしくお願い致します」
対面するその少女――『白百合の歌うたい』レティシア・レインフィールの物腰は柔らかだ。
しかし、柔らかである一方ただ丁寧なだけではない。確かな教養を思わせる。
如何にも貴族然とした物ではなくとも、中流以上の階級の物であろう。と、対する男。
クロードは一見して見積もりを付けた。皮肉げな笑いが口元に浮かぶ。
「何か得意な事や自分の強みは何かございますか?」
「無いね。人様にこいつは負け知らず、なんて物が有ったら騎士なんざ目指さない」
即答。そして即応だ。その判断の速さは頭の回転の速さと同義だろう。
けれど、一方で。その何処か社会を斜めに見ている仕草が騎士に相応しいかと言えば、否だ。
「それでは、逆に不得意な事や弱点はございますか?」
正直に話したなら誠実さを。答えを控えたなら慎重さを。
人を加点評価するという事は酷く難しい。そんな難題と対する姿勢は人柄であり人格だろう。
けれどそういった彼女の職務に対する真摯さ。真面目さ。勤勉さと言った物が。
誰にでも通じる物でないことは言うまでもない。帝国崩壊以後世界は乱れ、人心もまた同じ。
「無いね」
クロードは嗤って応える。
「やれと言われりゃ何だってやるさ。でなけりゃ伸し上がれない。特に――」
その瞳には野心がある。その眼差しは敵意にも等しい。騎士に相応しいかと聞けば、否。
だが、レティシアの洞察力はその更に奥にある者に気付いていた。それは、きっと……
「あんたみたく恵まれてない奴を掬い上げるには、とにかくでかい力ってもんがいるんだよ」
自分自身への、強い無力感。それが、クロードの原動力。
その反骨心。克己心。騎士に相応しいかと言えば否だろうけれど――――
誠実さ+。選定は、未だ始まったばかり。
●バトルロイヤル開始
それは見慣れない壁だった。
衝撃もなく、痛みもなく。けれど、そんな光景が見えていることが全てを物語っていた。
「いや、いやいやいや……なんか一人だけ物腰が随分と違う……な……とは、思ってたけど」
トゥーリの攻撃に対する反応速度――回避能力――は。
同程度の実力の冒険者では明らかに群を抜いている。その様に、鍛え上げている。
自分の強みを理解し、自分の長所を伸ばせるだけ伸ばした。研鑽の賜物だ。
逆を言えば、トゥーリの動きは伯仲する程度の実力の持ち主であれば到底見切れない。
そんな彼女が投げられて床に倒れていた。それが全てを物語る。
涼しげに首を傾げる女騎士――最早、見習いとは誰も思うまい――アストリッド。
開始の合図に合わせ、真っ先に突貫を仕掛けて一瞬意識が切れた。
視界が高速で反転して次に視界が映した光景がこれだ。こんな騎士見習いが居てたまるか。
先に突っ込んだ筈のベルクも、綺麗な弧を描いて試験会場の床に落ちていた。
多分自分も似たような物だったのだろう。相手は武器を抜いていすらいない。
「なるほど。仕掛けては……来ないか」
会場の中央まで真っ直ぐ進み出た『万事の手』レイ=レーベンス=レックフォードが呟く。
開戦以降一歩も動いていない白い女騎士との距離は決して遠くはない。
しかし、レイへ戦意を向ける気配はなく。むしろ冒険者2人が全力で足止めしている状況だ。
もしかすると、放っておけば無害だったのではないか。と思わなくも無いものの――――
「隙有り――ッ!!」
「積極的なのは結構だけれどね。隙は潰してある」
天眼を用いての俯瞰的視界に死角はない。飛びかかってきたユーゴの大剣を盾で逸らす。
若さの割に、良い手応えだった。けれど、レイと比較すれば分かりやすく劣る。
武器が重過ぎるのだろう。剣先が逸らされただけで身体がぐらついていた。
カウンターで槍先を突き出しでもしたら大怪我だ。内心で+と-が鬩ぎ合う。
「おおおおらああああ!!」
「良いな、良い気合だぜウルグ殿。
だが、ファイティングスピリッツだけじゃ越えられない壁もある!」
本来ならば雷撃の壁で足を止めるが、準備を忘れていた『炎の魔法使い』ロイ・ロビンソン。
しかし、その本領はあくまで火力だ。壁が無ければ燃やせば良いとばかりに放たれるは特大の火球。
爆裂する炎に思わず突っ込みそうになったウルグが慌てて足を止めたたらを踏む。
恐らくは、武装から見て魔法使いと見切っての接敵だったのだろう。
相性を考慮して点数を稼ぎに来るのは流石に外見年齢相応。
老獪と言うべきだろうが――――しかし一方で、どうにも詰めが、甘い。
「ふーん、大体はまあまあ……弱いか。そりゃそうだよな」
悠人・ラドルファスはその様を一瞥し、相性の良い相手を選ぶという部分を加点する。
彼目線では少なくともあの女騎士は論外だ。強過ぎる。十中十割何か違う業種の専門家だ。
となれば、レイに集中して打ち合うユーゴも真っ正直過ぎる。
ウォーリアとウォーリアが戦えば実力で上回る方が大抵は勝つ。戦力分解が出来ていない。
「――――で、こうなると。どーすっかなぁー」
対するは、残り受験者2名。後衛にクロード。前衛にザザ。両名は明らかに組んでいた。
仕掛ければ受け手が守りに専念し、仕掛けられていない方が攻める。分かり易いが攻め難い。
悠人は敢えて裁定方法を事前通達していた。
自分が仕掛けた時3手以上攻撃を当てられたら倒したと扱って良い。というルールを。
それに対し、仕掛けようとしたクロードが示した解が、これだ。
ヒット&アウェイという手が実用的なシーフにとって、前衛の有無は死活問題だろう。
受験者も本気ということか。頭を回してくる。これは、1発は覚悟するしかあるまい。
つくづく面倒な仕事だと思いながら、悠人は自身の判断に基き攻撃対象を切り替える。
構えた大剣と、ホブゴブリンの戦棍が、高い音を立てて交差した。
●面接/後半
「ここに来るまで何をしてきたんだ」
「俺、孤児院の、出。治療士。やってきた。騎士、癒し手必要。俺、力になれる」
青い肌のホブゴブリン、ザザの言葉は訛りがきつい。
意思疎通に難がある程ではないが、王都の騎士団では厳しくはないだろうか。
とは言え、その志は前向きな物だ。素行に問題はなさそうだが……
面談を終え評価に悩み首を傾げるロイに、ウルグの面接を終えたレティシアがお茶を出す。
「話した感じどうですか?」
「難しいな。一見した感じ皆悪い奴では無さそうなんだが」
得意なことは、と問うたら“突っ込んでぶった斬ること”と返ってきた少年を思い出す。
その積極性と素直さはとても好ましい物ではあれ、しかしそれだけでは問題も有ろう。
「ウルグさんも、実直そうでした」
「ああ、農家の出で騎士目指して受験4回目、か。根性なら一押しだな」
流石に最低限の素行は騎士団側でも追跡しているのだろう。
鍛冶職人の息子だというユーゴ、冒険者相手の情報屋をやっていたらしいクロード。
そして、孤児院属の治療師だったというザザ。特別後ろ暗い背景の者は居ない。
洞察力に優れた2人だ。これで見抜けないなら少なくとも。
……明確な"悪意"を秘めてこの場に来ている者はいない。ということになる。
あとは実戦で戦闘能力を見るのみか。このまま何事も無く終わってくれれば良い。
背景を聞き続け少なからず感情移入していたロイから見ても、優劣が付くのは仕方がない。
けれど。
「気付いてるか」
「……はい」
自分たちにも監視がついている。面談中、2人はいずれもその事実に気付いていた。
であれば同様の懸念を、レティシアもまた抱いて不思議はない。
予感が在った。この仕事は、恐らく。これだけで済まないだろう予感が。
●バトルロイヤル終了
「ちょっと! 見てる騎士さんたち! これ反則じゃないのかな!?」
「試験に……手出しはさせない、出来るだけ!」
悲鳴を上げるトゥーリと、語尾に若干の諦観が滲むベルク。
双方、いずれも一端の冒険者と呼べるだけの経験と研鑽を積んでいる強者だ。
帝都崩壊から来る授恵者大増加以降の冒険者の中でも、上位3割以内は手堅いだろう。
その2人が、2人掛かりで、武器を抜いていない騎士1人に翻弄されていた。
近接距離に踏み込んだ瞬間、伸びてくる手が避けられない。
エーテルを纏わせた双刃が、果たしてどういう術理なのかまともに当たらない。
端的に言って、眼前の白い女は化物だった。
時折、他の受験者がちらちら遠巻きに見ては距離を空ける。完全に避けられていた。
「良いね君たち。うちに欲しいくらいだ」
くすりとアストリッドが此処で初めて口を開く。その声は涼やかでこそあれ。
真面目に足止めしているトゥーリとベルクからすれば馬鹿にされているの一歩手前だろう。
「「こ、の――――っ!」」
連携して斬り込んだ2人が、試合会場の空をぽーん、と飛んだ。
それを眺めて、レイの傷を癒していたレティシアが眉を寄せる。
「大丈夫、でしょうか。あの……」
「恐らく、まともなダメージは無い様に見えるけれど」
見た目こそ派手だが、手加減はされている様だと。応えたレイが視線を外へ向ける。
そこに倒れているのは延々攻撃を仕掛け続け、反撃を重ねられた結果倒れた脳筋だ。
度胸と根性は大したものだと思うが、レイは結局1発の痛打も被っていない。
年齢は精々3つ程しか離れていない筈だが、若さ故か、性格か。いずれにせよ――
(積極的なのは、評価してあげるべきなのだろうね)
普段あまり表情を繕ったりしないレイにしては珍しく。その瞳には笑いの色が滲み。
ザザとクロードから離れてユーゴの様子を見に来た悠人が、嘆息混じりに髪をかく。
「まだ試験中なのに、倒れちゃダメでしょ」
確かに。バトルロイヤルなのだから後回しにした人間がダウンする可能性もある。
しかし、測れないのであれば0点だ。崩せる崩せない以前の問題なのだから。
「おおおおおお―――――ッ!!」
そんな事を考えていた時、突然戦いが動いた。
咆哮を上げるウルグが、ロイを押し始めている。実力は劣るにも関わらずだ。
「こいつは、驚いたな」
重点硬化で受けるも思わず瞠目せざるを得ない。その攻勢は後半戦にして烈火の如く。
硬化した杖で斧先を逸らす手が痺れる。何故かも、痛い程分かる。
動機の強さだ。夢を追い、縋る者は強い。
それが、40にも至り、これが最後の機会にも等しいとなれば尚更に。
しかし、だからと言って。否、だからこそ――――手は抜けない。
「火生の神よ御前に告げる。焔逆巻け、灼熱よ舞え、紅蓮の波よ――――」
それは火球であり、熱波であり、轟火であった。
「焼き尽くせ」
炸裂した炎熱の暴波が視界を黄色く赤く白く、焔色に染め上げる。
一瞬の炸裂の後焦げ目がついた試験会場に、倒れ伏す戦士が一人。
遠慮なく打倒したロイもまたダメージは重く、大きく呼気を零す。
良い戦士だったと、今なら躊躇いなく言えるだろう。
慌てて駆け寄ったレティシアを余所に、戦いの終了を告げる鐘が響く。
試験は終わり、戦いには一旦の幕が引かれた。けれど、本番はここからである。
●審議評定
「アストリッドさん」
トゥーリが断言した。
「ザザ」
ベルクが拗ねたように呟いた。
「悩ましいですが、クロード様を」
レティシアが後を継ぐと、
「荒削りだったけど、キョウドウかな」
レイが淡々と告げ。
「ウルグ殿を推さない訳にもいかねえな」
ロイが腕を組んで頷く。
割れていた。これ以上も無く割れていた。審議は極めつけに難航した。
けれど、結局最終的にある偏りがもう一歩の後を押す。
「ザザで」
それだけ告げると、悠人は試合会場から踵を返す。
彼が測れた受験者は2人だけ。そして、その手足が触れたのも2人だけだ。
けれど、幸か不幸かそれで十分だった。十分であることが、分かってしまった。
観戦席で唯一人立って眺めていた黒い騎士。ガレスに近付くと小さく囁く。
全く、冒険者にこんなことさせんなよと。内心毒付きながらも。
「クロードって奴が、多分黒だ」
数度瞬いた騎士が、笑う。驚き混じりに、或いは――――その功績を称える様に。
「分かりました。追わせましょう」
感情共有を通じて伝わってきたのは、"確信"だった。
小揺るぎもしない、絶対的な自信。不動の安定。自分は騎士になるというそれは――――
――――断じて、受験者が抱くにそぐわない。
どうしたものかと視線を逸しながら、けれど黙っている訳にもいかなかった。
足早に何処かへ向かうガレスの背を見つめ、面倒なことになってきたと嘆息する。
王国はその騒乱の兆しに、貴族社会の闇の中に、冒険者たちを組み込み始める。
それは彼らが自ら有能であることを示せば示すほどに。より深く、より意図的に。より明確に。
全てはもう、既に始まっているのだから。
マスターコメント
ショートシナリオ普通 報酬:少ない6 / 6〜6人
2020年12月11日 14時49分06秒 公開
相談掲示板
トゥーリだよ、よろしくねっ! バトルロイヤルってことは、あまり参加者同士でも相談しない感じかなぁ?
我は狐の半獣が一尾、オスマットのベルクだ。 よろしく頼む。 バトルロワイヤルといってはいるが、試験官(我々)Vs受験生の乱戦だろうから相談は必要ではないかな? …ところで明らかに見習い(騙り)な者がいるようなのだが(震え)
お初にお目にかかります。レティシア・レインフィールと申します。 ヒーラーとして、お役に立てる事が出来ましたら幸いです。 レイ様とは、確か迷宮都市でお話をさせて頂いた事がございましたね。 今回は同じ依頼を受けた者として、よろしくお願い致します。 それぞれが評価基準を決めて受験者を評定するとの事ですから お互い、どのような評価基準を設けるのかという相談は必要かと存じます。 アストリッド様に関しては……評価を行うというよりは、どのような接触をなさるのか あるいは接触自体を行わないか、といったところでございましょうか。
レイという。 よろしく頼む。 ウォリアーだしとにかく戦闘で自分を示していく事になる。 評価基準、か。 私なら積極性かな。 腕と覚悟を見せるべき場で様子見は感心しないのでね。 …聊か脳筋な考えではあるかも、だが。 >レティシア ああ、覚えていてくれたのか。 ほんの少し、とはいえ縁があった方とご一緒できるのは嬉しいよ。 こちらこそよろしくお願いする。
ロイ・ロビンソンだ、よろしく頼むぜ! 評価基準は今のところ考え中だが… 複数の要因から検討する予定であることは伝えておこう!
我の評価基準は連携だな。 騎士団はとどのつまりが軍隊だ、最低限の連携も出来ん、連携をする気も無いようなのを、連携重視のはずの騎士団が必要とするとは思えんからな。 協調性皆無など話にならん。 たとえ積極性が無くても、上手く集団を生かそうとするなら評価するつもりだ。
悠人・ラドルファス、よろしく 評価基準…まぁ、戦えばなんとなくわかるんじゃない?
そろった感じだね! ワタシは対応力と視野の広さ、あとは若さかなぁ。 せっかく騎士になっても、すぐに引退ってなるとちょっと難しいよね!
>評価基準 私は、任意で個人面接が行えるようですので それも利用して審査をさせて頂きたく存じます。 評価基準は、自身の特性の理解と性質、といったところでございましょうか。 得意な事や自分の強み、逆に不得意な事や弱点。 それらを積極的にアピールするか、それとも回答を控えるのか。 その点も含めて評価を行わせて頂きますが、方向性としては加点方式となりますね。 >戦闘 あとは、全員で組む必要は無いのでしょうけれど。 希望者で少人数のパーティを組まれるのもよろしいのではないでしょうか。 どちらかといえば、私は支援や援護の方が得意ですので どなたかとご一緒出来れば、心強いのですけれど。 戦闘も評価の対象となるのであれば そういった相手への対処法も見せて頂きたい、という考えもございます。
>レティシア 評価の項目にチーム戦をしたいっていうなら 別に前衛やってもいいよ
お気持ちは有難いのですけれど、時間が時間ですので 私は特定の方と組むというよりは、その時の状況次第で 必要な方に回復や援護を行わせて頂きますね。