【聖祭】願いの聖樹
琴吹のどか
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シナリオID:273
オープニング
ロスガリア大陸に住まうものたちにとって、12月は大きな意味を持つ。この時期に執り行われる祭りや催しを、聖霊節と呼ぶ。
その由来はハーフリングの英雄、ジド・ルウがその身をエーテルと成して世界に穿たれた大穴を塞ぎ、彼に小さな神々が続いたことが、今年までの平穏の礎を作った――という逸話に拠る。詳細な時期が定まっていないのは、この頃に暦が存在していなかったため、神代における『冬の時代』、という比喩的表現を、文字通りに解釈したためであるとされる。
由来はともあれ、ジド・ルウの英雄的行為を称え、名を失った神々に祈りを捧げることから始まった聖霊節は、様々な土地の風習や営為と重なった結果、亡き祖先や、近しい人々への思いを捧げることだけでなく想い人と過ごす特別な時期――という習慣が定着して久しく、特別信仰心の無いものであっても神殿や家庭でモミの木や柊を飾り立てて祈りを捧げる。街をあげて催しを行い、厳しい冬の中でもとっておきのごちそうを食すこの時期は、収穫祭に続く特別な時節といえた。ジド・ルウが好んでいたという、赤白の服装も今代まで続く伝統の一つとなっており、そこかしこに仮装をした人物も目立つ。
――実りの秋、収穫祭を終えた人々は、深まる冬の気配を感じながら、慰霊祭の準備を進めていた。
●願いの聖樹
一年の中で最も大切な祭までの日々を指折り数え、準備に追われる人々は忙しそうではあるが、その顔は皆どこか楽しそう。
水上都市アキュアリスタでは水神祭の準備で皆てんてこ舞いだった、そんな冬のある日のこと。
『急募! 願いの聖樹を作りませんか?』
アキュアリスタのギルドに張り出された一枚の紙の依頼主はこの街のとある花屋からのものだった。
卓上サイズの常緑樹の鉢植えをモミの木に見立てて星やベル等のオーナメントやリボン等で飾り付け、祭を彩る飾りの一つとして売り出したいとのこと。
そのため、店頭に飾るサンプルを作る手伝いをしてほしいというのがこの依頼の概要のようだ。
――実は、この樹には一つ言い伝えがあるらしい。
この樹は大きく育つ種類の樹のようだが、樹が成長する時に育て主の願いも叶えてくれるというのだ。
今、欲しい物を願ってもいいし、将来なりたい自分を願ってみてもいい。
もちろん、自分ではない大切な誰かのことを願うのも問題ない。
一年で最も街が華やぐこの季節。
祭を前に楽しそうな気配を感じながら、貴方はどんな願いを込めて聖樹を飾りますか?
その由来はハーフリングの英雄、ジド・ルウがその身をエーテルと成して世界に穿たれた大穴を塞ぎ、彼に小さな神々が続いたことが、今年までの平穏の礎を作った――という逸話に拠る。詳細な時期が定まっていないのは、この頃に暦が存在していなかったため、神代における『冬の時代』、という比喩的表現を、文字通りに解釈したためであるとされる。
由来はともあれ、ジド・ルウの英雄的行為を称え、名を失った神々に祈りを捧げることから始まった聖霊節は、様々な土地の風習や営為と重なった結果、亡き祖先や、近しい人々への思いを捧げることだけでなく想い人と過ごす特別な時期――という習慣が定着して久しく、特別信仰心の無いものであっても神殿や家庭でモミの木や柊を飾り立てて祈りを捧げる。街をあげて催しを行い、厳しい冬の中でもとっておきのごちそうを食すこの時期は、収穫祭に続く特別な時節といえた。ジド・ルウが好んでいたという、赤白の服装も今代まで続く伝統の一つとなっており、そこかしこに仮装をした人物も目立つ。
――実りの秋、収穫祭を終えた人々は、深まる冬の気配を感じながら、慰霊祭の準備を進めていた。
●願いの聖樹
一年の中で最も大切な祭までの日々を指折り数え、準備に追われる人々は忙しそうではあるが、その顔は皆どこか楽しそう。
水上都市アキュアリスタでは水神祭の準備で皆てんてこ舞いだった、そんな冬のある日のこと。
『急募! 願いの聖樹を作りませんか?』
アキュアリスタのギルドに張り出された一枚の紙の依頼主はこの街のとある花屋からのものだった。
卓上サイズの常緑樹の鉢植えをモミの木に見立てて星やベル等のオーナメントやリボン等で飾り付け、祭を彩る飾りの一つとして売り出したいとのこと。
そのため、店頭に飾るサンプルを作る手伝いをしてほしいというのがこの依頼の概要のようだ。
――実は、この樹には一つ言い伝えがあるらしい。
この樹は大きく育つ種類の樹のようだが、樹が成長する時に育て主の願いも叶えてくれるというのだ。
今、欲しい物を願ってもいいし、将来なりたい自分を願ってみてもいい。
もちろん、自分ではない大切な誰かのことを願うのも問題ない。
一年で最も街が華やぐこの季節。
祭を前に楽しそうな気配を感じながら、貴方はどんな願いを込めて聖樹を飾りますか?
解説
●場所
水上都市アキュアリスタにある花屋です。
●できること
卓上サイズの常緑樹の鉢植えを自由に飾り付けてミニサイズの聖樹を作ります。
樹の形はモミの木に似ています。大きさは30cm~40㎝程度。出来るだけ大きなものを選ぶ、気に入った形を選ぶ等、樹に拘りたいときはプレイングに記載ください。出来るだけ希望に沿った樹をご用意します。
飾り付けに必要なもの(色々なオーナメントやリボン、モール、雪に見立てた綿等)は用意されています。
自分で用意したものを使ったり、ちょっとアレンジすることも可能です。作業に必要な道具は揃っているとお考えくださって結構です。
なお、作ってくださった聖樹はサンプルとして店頭に飾った後、花屋さんからのお礼として皆さんにお届けするとのことです。
●依頼人
30代くらいの花屋の店主。ヒューマンの女性です。
聖樹作りで困った時や何か質問したい時には彼女が対応してくれます。
マスターより
はじめまして、琴吹のどかと申します。
ミニツリーの飾り付けのお誘いに参りました。
店頭サンプル用という名目ではありますが、皆様らしくお好きに飾り付けを楽しんでいただければと思います。
飾り付けのテーマや拘りがある場合はぜひプレイングで教えてください。
プレイング内の台詞、心情の採用比率は高めです。文字数が余った時はぜひお書き添えください。
どんなお願いを込めてツリーを飾り付けてくださるのか、楽しみにしつつ。
皆様にも楽しい一時をお届け出来ますように。
それでは皆様のご参加を心よりお待ちしております。
リプレイ
●
花屋の店主が案内したのは店の奥。扉を開けた先の部屋の中には、店頭で見かけた可愛らしい鈴のついたリースや彩り豊かな花飾りが並んでいる。
室内に置かれた2つのテーブルの上には様々なオーナメントの他、色とりどりのリボンやモール、ふわふわの綿などが準備されていた。
「で、木はどこにあるのかな?」
キョロキョロと辺りを見回すミーミル・ロッポラの傍らで、スフィカがわぁっと感嘆の声をあげる。
「見て! この木ちっさくて可愛い!」
スフィカが指差したの木こそ今回の主役でもある聖樹だった。30~40センチ程の大きさだが、その見た目は街で見かけるもみの木にそっくり。
さっそくスフィカは頭の中であれやこれやと聖樹の飾り付けをシミュレーションしてみる。
(リボンをつけて、星をイメージしたオーナメントを飾って……リボンは木にグルグル巻き付けるよりも天辺に結ぶ方がいいかな)
あれやこれやと一人考える時間も楽しくて、無意識のうちにスフィカの顔は綻んでいた。
確か、この聖樹は店頭展示が終わった後は貰えると聞いている。ならば、その際の届け先は実家の方にしてもらうのもいいかもしれない。まだ幼い弟妹もきっと喜ぶことだろう。
「――これに飾り付けなんてそりゃ可愛いに決まってるよ」
それだけは間違いない。
きっぱりと言い放ったスフィカの言葉に、ルーカ・ルンガルディエールもコクリと頷く。
「本当に可愛らしいミニツリーですね。……この木にお洒落させて祝うのですか」
さっそく木の選定を始めたルーカをエリック・ハルトマンは興味深そうに見遣る。
「ん? ルーカはどんな木がええの?」
エリックの問いにルーカは暫し天を仰ぎ、己のイメージを具現化するとゆっくりと言葉を紡いだ。
「……今回は、ミニツリーとして飾ることが目的ですしね。少し太くて、頑丈な……折れにくそうな木が良いかと」
「さすがはルーカや。めっちゃ考えてるな!」
感心しきりのエリックだったが、その手にはもうしっかりと鉢植えの木を抱えている。
インスピレーションでぱぱっと決めたであろう彼の思考が手にとるようにわかり、思わずルーカの口元にも笑みが浮かんだ。
「飾り付け頑張りましょうね、エリック♪」
「ああ、任せといてや!」
自信たっぷりの表情でドンと胸を叩くエリックを、ルーカは愛おしそうに見つめ、静かに頷く。
一方、その頃――。
(……これは、どうだろうか)
一つ一つ鉢植えをゆっくりと持ち上げて重さを確認するサマエラ=フォリウムの傍らで、ミーミルは難しい顔で唸っていた。
「掌の上に立てることができるくらいの木って難しいかな」
どうやら、ミーミルが探しているのは10センチ程度の聖樹らしい。彼女曰く、卓上サイズのさらにミニサイズの聖樹を作ってみたいとのこと。
ならば、と店主が出してきたのはまだ鉢に植え替えられる前の幼木だった。
「あー、それ! それいい!」
イメージ通りの木を掌にちょこんと乗せてはしゃぐミーミルを眩しそうに一瞥すると、サマエラは再び木の選定に戻る。
サマエラが探している木はやや大きめで、重みのあるもの。安定感を出せるようなものならばなお良い。
鉢を持ち上げては置いて、次の鉢を持ち上げて……と淡々と繰り返していたサマエラだったが。
(……良いかもしれない)
ようやく納得のいく木を選ぶことが出来た様子の彼女を見て、プラムもホッと胸を撫で下ろす。
そんなプラム自身はこの話を聞いたときからずっとあることを考えていた。
(聖樹の飾り付けなど店主様が一番上手なはず。にもかかわらず、今回このような形で依頼が来たわけは……)
おそらく、花屋の定番から外れたものが求められているに違いない――。
そう考えたプラムの心に妙案が浮かぶ。
(それならば私は、木を飾り付けるのではなく、木自体の体調を整えてあげましょうか)
例えるなら店先という名前の舞台に娘を送り出すような、そんな気持ち。
ぐるりと木を見回すプラムの瞳に一本の聖樹がパッと飛び込んできた。他の木と違いはないはずだが、プラムにとっては特別に視える。
「――貴女に決めました」
プラムは愛おしそうに鉢を抱えると、そっと抱きしめた。
さぁ、皆で飾り付けを始めよう――!
●
6人は二つのテーブルに分かれて飾り付けの作業を行うことにする。
「コンセプトは家族団欒と子供向けって感じかな」
そう語るのはスフィカ。
笑顔の家族を想いながら聖樹の上の方にきゅっと結んだ大きな赤いリボンを結んだら、その下にふわふわの雪を積もらせて。雪の上には薄切りのドライフルーツとリボンを交互に置いてぐるりと一周させた。
「どう? フルーツの断面って可愛くて色も綺麗だし、香りも良いし」
「うんうん、しかも甘くて美味しいしね~」
フルーツの甘い香りの誘惑に打ち勝つのは難しい。スフィカとミーミルは思わず顔を見合わせると無言のまま二人同時に頷き、一度は飾ったドライフルーツの薄切りにそっと手を伸ばす。
「ん~、甘いっ」
「おいしいね」
思わず並べられたドライフルーツ全てを食べてしまいそうな自分に気づき、スフィカは慌ててぶんぶんと首を横に振ると余っていたフルーツをもう一度丁寧に並べ直した。味見のことを計算に入れてドライフルーツを多めに用意しておいた自分を褒めてあげたい。
ミーミルはというと、フルーツの甘さに癒された後は再びオーナメントを作る作業へと戻ることにする。
「よーし、頑張るぞ!」
ミーミルの目の前に並べられているのはとても小さなリボンや軽く吹くだけで飛んで行ってしまいそうなくらいふわふわの雲だった。
掌に乗せられるくらい小さなサイズの聖樹を作るという彼女の目的を達成するためには、木に飾るオーナメントはもっと小さくしなくてはいけない。
(モミの木を飾ったことはあるけど、小さくして飾るっていうのは考えたこともないよ)
とはいえ、ミーミルもドワーフの端くれ。細かな作業には自信がある。
繊細なリボンを丁寧に蝶結びにし、1つずつバランスを見ながら聖樹に優しくのせる。
細かいところまで気を配り、きっちりと作られたオーナメントが増えていくたび、小さな聖樹は彩りを増していく。
「うんうん、いい感じ~」
順調に飾り付けを進めるスフィカとミーミルとは対照的に、エリックの手は一向に動き出す気配を見せなかった。
(やる気が起きん……)
理由はわかっている。エリックはルーカと一緒に聖樹の飾り付けをしようと思っていたのだが、それを彼にやんわりと断られてしまったからだ。
「ルーカと一緒がよかった……」
ぼんやりと宙を見つめたままのエリックに気づいたのはオーナメントに大鼬の絵を描くスフィカだった。
彼女の手元に転がっているオーナメントには、ビヒモーやうさぎ、狼といったペットの絵が描かれている。スフィカは絵筆を動かす手を止め、遠慮がちにエリックへと声をかけた。
「ほら、後でルーカさんと聖樹の交換するんだよね?」
スフィカの言葉にエリックはハッと表情を変えた。そうだ、ルーカと聖樹の交換をするのだった!
俄然やる気を取り戻したエリックは遅ればせながら猛スピードで聖樹の飾り付けを行っていく。
赤いハート形のオーナメントを中心に赤いリボンをつけ、全体を可愛らしい雰囲気に仕上げるのには理由があった。
(やっぱり、情熱の愛は赤やな)
ルーカへの愛を込めているのは勿論のこと、可愛い物を作ってみたかったという彼の好奇心も否定はできない。
「喜んでくれるとええな……」
嬉しそうに微笑むルーカを心に思い描きながら、エリックは聖樹のてっぺんに星を飾った。
●
さて、隣のテーブルでは、ルーカもまたエリックと聖樹の交換をするのを楽しみに、飾り付けを順調に進めていた。
聖樹の正面に飾られた赤いリボンのついたリースもルーカ自身が作ったものだ。
ヒイラギの実と葉っぱを使って作られたこのリースには、魔除けの意味も込められている。少々不格好な気もするが、その出来栄えに不満はない。
しかし、このリースがちょっと重いのか、聖樹のバランスが安定しないことにはルーカも苦戦を強いられていた。
「少しバランスが悪いかもしれませんね……」
聖樹が倒れないないように見えない位置に支柱を入れ、後ろの方も同じくらいの重さになるように飾りをつける。
後は飾りの主役であるリースが目立つように、小さめのオーナメントや雪に見立てた綿をバランスよく聖樹に乗せていけば完成だ。
「こういうのはあまり得意ではないのですが、私としては満足いく形になったかなと」
エリックの喜ぶ顔を思い浮かべ、ルーカは愛おしそうに聖樹を見つめていた。
ルーカの隣では、プラムが労わるように聖樹に向かって語りかけ、その幹を優しく撫でる。
「気分はいかがですか?」
周囲で沸かしたお湯から発生した湯気で温められ、この木のためだけに特別に調合された栄養薬を投与された聖樹は、なんだか葉の色も緑が増し、美しくなったように思えた。
プラムは真剣な面持ちで聖樹を見つめると、その枝葉が絡まぬよう形を整え、姿勢を正してやる。そして、とっておきの香油を隅々まで丁寧に塗り込んで……。
プラムの惜しみない愛情を受け、更に葉の色やツヤが良くなった聖樹の様を見て、彼女は嬉しそうに顔を綻ばせた。
聖樹の飾り付けはシンプルに。雪をイメージした白い布をドレスのように纏わせて、仕上げにふわふわの綿をくるりと巻き付ける。――外に出ても寒くないよう、しっかりと防寒対策は忘れない。
ピンとハリの出た葉はしっとりと艶やかな緑色に光り、見違えるほどきれいになった聖樹を愛おしそうに見つめるプラムの姿は、まるで聖母のようだった。
(店頭サンプルとなれば、華やかなものも良さそうだが……)
しかし、聖霊節を心穏やかに過ごしたい者もいるだろうと、サマエラは考える。
ならば、その手助けとなるように色合いや雰囲気も、落ち着いた仕様にしてみてもよいのではないか――。
飾り付けのコンセプトを決めると、サマエラは聖樹の飾り付けに取り掛かった。
白い綿はやや細かく、深深と降り積もる雪をイメージして聖樹全体へと満遍なく降らせ、松笠やメタセコイアの実をポイントとして飾り付ける。これは仰々しくなく自然な雰囲気になるよう、飾る位置にも気を配る。数はどの向きから見ても2~3個ずつ見えれば十分だろう。
後はリボンで軽く纏め、聖樹と飾りを一つの品として一体感を出せるようにしていきたいところだが……ここでサマエラは暫し考え込んだ。
(リボンの色は何色にするか……)
無難に白か、オーナメントに合わせた色で、纏まりを強くするか……もしくは落ち着いた金色があればアクセントとして使って見るのも良いかもしれない。
サマエラは用意されたリボンをじっと見つめた後、極細の金色のリボンを選ぶ。
静かに想いを馳せたい時に、今ある幸せに浸りたい時に。
この聖樹を見て、聖霊節というものを感じられるように在れたならば、とサマエラは思う。
「……願いを叶える、か」
ただ、脅かされることなく生きていけるならば、それでいい――。それが、サマエラの願い。
サマエラは誰に気づかれることなく小さく息を吐くと、そっとリボンを結ぶのだった。
●
6人6様の想いが込められた聖樹を見て、店主は嬉しそうに目を輝かせる。
「出来上がった聖樹は、こちらに飾らせてください!」
店主と一緒に聖樹を並べながら、スフィカは残った無地のオーナメントを取り出した。
「良かったら、これも一緒に飾ってくれないかな? うちが描いたからサンプルは動物ばっかりになったけど、好きなものを自由に描いてもらってきっと楽しいと思うよ」
スフィカのアイディアに店主は素直に喜ぶと、早速オーナメントの横に一言書き添える。
『お子様と一緒に自分だけのオーナメントを作りませんか?』
店で一番目に付く場所に並べられた6つの聖樹を見つめ、ミーミルはしみじみと呟いた。
「もうあっという間に聖霊節なんだね。慰霊祭は準備をしているだけで楽しくなっちゃうから、寒いけどボクはこの季節好きだなあ」
街全体が祭のワクワクした雰囲気に包まれるこの季節ならではの雰囲気を感じ、ミーミルの心も弾む。
「そうそう、このリースに付いたリボンって意味がありまして」
ルーカの作った聖樹を嬉しそうに見つめていたエリックだったが、思いがけぬルーカの言葉に怪訝そうに瞳を瞬かせた。
「へぇ、どんな意味?」
「『永遠の絆で結ばれますように』って意味があるのですよ」
ルーカにとってその相手は、勿論エリックであることは言うまでもない。
エリックはルーカをぎゅっと抱きしめたい気持ちを必死に堪え、彼の手を握る己の手に力を込める。
聖樹が手元に届く日を待つ新たな楽しみを胸に、二人は都市巡りを楽しむためにと街へ繰り出すことにした。
――冬、季節の終わり。また春が来て、いつも通りの一年が過ぎ、そうして次の冬をまた迎える。
サマエラは聖樹に結んだ金色のリボンを結び直してやり、独り静かに目を閉じた。
滞りなく、乱されることなく、健やかに穏やかに。安寧の中で生きられる幸福があるなら劇的でなくても良いのだ。
(そういう樹に、なれば良い。私も、そういう風に……)
最後に、とプラムは聖樹をそっと抱きしめ、優しく囁く。
「貴女に『ルー』という名前を授けます」
かの聖人から韻をいただいたこの名は洗礼であり、聖別なのだ。
「あなたは伝説の聖なる樹に連なるものへと生まれ変わったのです。今こそ店主様からの……ひいては街の皆様からの愛に応える時。貴女の精一杯で、皆様を幸せにしてあげてください」
(……頼みましたよ、ルー)
プラムの願いをしかと受け止めたと言わんばかりにルーは優しく枝を揺らすのだった。
慰霊祭まであと数日――花屋の前を通るたびに、聖樹は街の人々を出迎える。
聖樹を飾った皆の想いと共に、街の人々にも幸せを届けてくれるに違いない。きっと――。
花屋の店主が案内したのは店の奥。扉を開けた先の部屋の中には、店頭で見かけた可愛らしい鈴のついたリースや彩り豊かな花飾りが並んでいる。
室内に置かれた2つのテーブルの上には様々なオーナメントの他、色とりどりのリボンやモール、ふわふわの綿などが準備されていた。
「で、木はどこにあるのかな?」
キョロキョロと辺りを見回すミーミル・ロッポラの傍らで、スフィカがわぁっと感嘆の声をあげる。
「見て! この木ちっさくて可愛い!」
スフィカが指差したの木こそ今回の主役でもある聖樹だった。30~40センチ程の大きさだが、その見た目は街で見かけるもみの木にそっくり。
さっそくスフィカは頭の中であれやこれやと聖樹の飾り付けをシミュレーションしてみる。
(リボンをつけて、星をイメージしたオーナメントを飾って……リボンは木にグルグル巻き付けるよりも天辺に結ぶ方がいいかな)
あれやこれやと一人考える時間も楽しくて、無意識のうちにスフィカの顔は綻んでいた。
確か、この聖樹は店頭展示が終わった後は貰えると聞いている。ならば、その際の届け先は実家の方にしてもらうのもいいかもしれない。まだ幼い弟妹もきっと喜ぶことだろう。
「――これに飾り付けなんてそりゃ可愛いに決まってるよ」
それだけは間違いない。
きっぱりと言い放ったスフィカの言葉に、ルーカ・ルンガルディエールもコクリと頷く。
「本当に可愛らしいミニツリーですね。……この木にお洒落させて祝うのですか」
さっそく木の選定を始めたルーカをエリック・ハルトマンは興味深そうに見遣る。
「ん? ルーカはどんな木がええの?」
エリックの問いにルーカは暫し天を仰ぎ、己のイメージを具現化するとゆっくりと言葉を紡いだ。
「……今回は、ミニツリーとして飾ることが目的ですしね。少し太くて、頑丈な……折れにくそうな木が良いかと」
「さすがはルーカや。めっちゃ考えてるな!」
感心しきりのエリックだったが、その手にはもうしっかりと鉢植えの木を抱えている。
インスピレーションでぱぱっと決めたであろう彼の思考が手にとるようにわかり、思わずルーカの口元にも笑みが浮かんだ。
「飾り付け頑張りましょうね、エリック♪」
「ああ、任せといてや!」
自信たっぷりの表情でドンと胸を叩くエリックを、ルーカは愛おしそうに見つめ、静かに頷く。
一方、その頃――。
(……これは、どうだろうか)
一つ一つ鉢植えをゆっくりと持ち上げて重さを確認するサマエラ=フォリウムの傍らで、ミーミルは難しい顔で唸っていた。
「掌の上に立てることができるくらいの木って難しいかな」
どうやら、ミーミルが探しているのは10センチ程度の聖樹らしい。彼女曰く、卓上サイズのさらにミニサイズの聖樹を作ってみたいとのこと。
ならば、と店主が出してきたのはまだ鉢に植え替えられる前の幼木だった。
「あー、それ! それいい!」
イメージ通りの木を掌にちょこんと乗せてはしゃぐミーミルを眩しそうに一瞥すると、サマエラは再び木の選定に戻る。
サマエラが探している木はやや大きめで、重みのあるもの。安定感を出せるようなものならばなお良い。
鉢を持ち上げては置いて、次の鉢を持ち上げて……と淡々と繰り返していたサマエラだったが。
(……良いかもしれない)
ようやく納得のいく木を選ぶことが出来た様子の彼女を見て、プラムもホッと胸を撫で下ろす。
そんなプラム自身はこの話を聞いたときからずっとあることを考えていた。
(聖樹の飾り付けなど店主様が一番上手なはず。にもかかわらず、今回このような形で依頼が来たわけは……)
おそらく、花屋の定番から外れたものが求められているに違いない――。
そう考えたプラムの心に妙案が浮かぶ。
(それならば私は、木を飾り付けるのではなく、木自体の体調を整えてあげましょうか)
例えるなら店先という名前の舞台に娘を送り出すような、そんな気持ち。
ぐるりと木を見回すプラムの瞳に一本の聖樹がパッと飛び込んできた。他の木と違いはないはずだが、プラムにとっては特別に視える。
「――貴女に決めました」
プラムは愛おしそうに鉢を抱えると、そっと抱きしめた。
さぁ、皆で飾り付けを始めよう――!
●
6人は二つのテーブルに分かれて飾り付けの作業を行うことにする。
「コンセプトは家族団欒と子供向けって感じかな」
そう語るのはスフィカ。
笑顔の家族を想いながら聖樹の上の方にきゅっと結んだ大きな赤いリボンを結んだら、その下にふわふわの雪を積もらせて。雪の上には薄切りのドライフルーツとリボンを交互に置いてぐるりと一周させた。
「どう? フルーツの断面って可愛くて色も綺麗だし、香りも良いし」
「うんうん、しかも甘くて美味しいしね~」
フルーツの甘い香りの誘惑に打ち勝つのは難しい。スフィカとミーミルは思わず顔を見合わせると無言のまま二人同時に頷き、一度は飾ったドライフルーツの薄切りにそっと手を伸ばす。
「ん~、甘いっ」
「おいしいね」
思わず並べられたドライフルーツ全てを食べてしまいそうな自分に気づき、スフィカは慌ててぶんぶんと首を横に振ると余っていたフルーツをもう一度丁寧に並べ直した。味見のことを計算に入れてドライフルーツを多めに用意しておいた自分を褒めてあげたい。
ミーミルはというと、フルーツの甘さに癒された後は再びオーナメントを作る作業へと戻ることにする。
「よーし、頑張るぞ!」
ミーミルの目の前に並べられているのはとても小さなリボンや軽く吹くだけで飛んで行ってしまいそうなくらいふわふわの雲だった。
掌に乗せられるくらい小さなサイズの聖樹を作るという彼女の目的を達成するためには、木に飾るオーナメントはもっと小さくしなくてはいけない。
(モミの木を飾ったことはあるけど、小さくして飾るっていうのは考えたこともないよ)
とはいえ、ミーミルもドワーフの端くれ。細かな作業には自信がある。
繊細なリボンを丁寧に蝶結びにし、1つずつバランスを見ながら聖樹に優しくのせる。
細かいところまで気を配り、きっちりと作られたオーナメントが増えていくたび、小さな聖樹は彩りを増していく。
「うんうん、いい感じ~」
順調に飾り付けを進めるスフィカとミーミルとは対照的に、エリックの手は一向に動き出す気配を見せなかった。
(やる気が起きん……)
理由はわかっている。エリックはルーカと一緒に聖樹の飾り付けをしようと思っていたのだが、それを彼にやんわりと断られてしまったからだ。
「ルーカと一緒がよかった……」
ぼんやりと宙を見つめたままのエリックに気づいたのはオーナメントに大鼬の絵を描くスフィカだった。
彼女の手元に転がっているオーナメントには、ビヒモーやうさぎ、狼といったペットの絵が描かれている。スフィカは絵筆を動かす手を止め、遠慮がちにエリックへと声をかけた。
「ほら、後でルーカさんと聖樹の交換するんだよね?」
スフィカの言葉にエリックはハッと表情を変えた。そうだ、ルーカと聖樹の交換をするのだった!
俄然やる気を取り戻したエリックは遅ればせながら猛スピードで聖樹の飾り付けを行っていく。
赤いハート形のオーナメントを中心に赤いリボンをつけ、全体を可愛らしい雰囲気に仕上げるのには理由があった。
(やっぱり、情熱の愛は赤やな)
ルーカへの愛を込めているのは勿論のこと、可愛い物を作ってみたかったという彼の好奇心も否定はできない。
「喜んでくれるとええな……」
嬉しそうに微笑むルーカを心に思い描きながら、エリックは聖樹のてっぺんに星を飾った。
●
さて、隣のテーブルでは、ルーカもまたエリックと聖樹の交換をするのを楽しみに、飾り付けを順調に進めていた。
聖樹の正面に飾られた赤いリボンのついたリースもルーカ自身が作ったものだ。
ヒイラギの実と葉っぱを使って作られたこのリースには、魔除けの意味も込められている。少々不格好な気もするが、その出来栄えに不満はない。
しかし、このリースがちょっと重いのか、聖樹のバランスが安定しないことにはルーカも苦戦を強いられていた。
「少しバランスが悪いかもしれませんね……」
聖樹が倒れないないように見えない位置に支柱を入れ、後ろの方も同じくらいの重さになるように飾りをつける。
後は飾りの主役であるリースが目立つように、小さめのオーナメントや雪に見立てた綿をバランスよく聖樹に乗せていけば完成だ。
「こういうのはあまり得意ではないのですが、私としては満足いく形になったかなと」
エリックの喜ぶ顔を思い浮かべ、ルーカは愛おしそうに聖樹を見つめていた。
ルーカの隣では、プラムが労わるように聖樹に向かって語りかけ、その幹を優しく撫でる。
「気分はいかがですか?」
周囲で沸かしたお湯から発生した湯気で温められ、この木のためだけに特別に調合された栄養薬を投与された聖樹は、なんだか葉の色も緑が増し、美しくなったように思えた。
プラムは真剣な面持ちで聖樹を見つめると、その枝葉が絡まぬよう形を整え、姿勢を正してやる。そして、とっておきの香油を隅々まで丁寧に塗り込んで……。
プラムの惜しみない愛情を受け、更に葉の色やツヤが良くなった聖樹の様を見て、彼女は嬉しそうに顔を綻ばせた。
聖樹の飾り付けはシンプルに。雪をイメージした白い布をドレスのように纏わせて、仕上げにふわふわの綿をくるりと巻き付ける。――外に出ても寒くないよう、しっかりと防寒対策は忘れない。
ピンとハリの出た葉はしっとりと艶やかな緑色に光り、見違えるほどきれいになった聖樹を愛おしそうに見つめるプラムの姿は、まるで聖母のようだった。
(店頭サンプルとなれば、華やかなものも良さそうだが……)
しかし、聖霊節を心穏やかに過ごしたい者もいるだろうと、サマエラは考える。
ならば、その手助けとなるように色合いや雰囲気も、落ち着いた仕様にしてみてもよいのではないか――。
飾り付けのコンセプトを決めると、サマエラは聖樹の飾り付けに取り掛かった。
白い綿はやや細かく、深深と降り積もる雪をイメージして聖樹全体へと満遍なく降らせ、松笠やメタセコイアの実をポイントとして飾り付ける。これは仰々しくなく自然な雰囲気になるよう、飾る位置にも気を配る。数はどの向きから見ても2~3個ずつ見えれば十分だろう。
後はリボンで軽く纏め、聖樹と飾りを一つの品として一体感を出せるようにしていきたいところだが……ここでサマエラは暫し考え込んだ。
(リボンの色は何色にするか……)
無難に白か、オーナメントに合わせた色で、纏まりを強くするか……もしくは落ち着いた金色があればアクセントとして使って見るのも良いかもしれない。
サマエラは用意されたリボンをじっと見つめた後、極細の金色のリボンを選ぶ。
静かに想いを馳せたい時に、今ある幸せに浸りたい時に。
この聖樹を見て、聖霊節というものを感じられるように在れたならば、とサマエラは思う。
「……願いを叶える、か」
ただ、脅かされることなく生きていけるならば、それでいい――。それが、サマエラの願い。
サマエラは誰に気づかれることなく小さく息を吐くと、そっとリボンを結ぶのだった。
●
6人6様の想いが込められた聖樹を見て、店主は嬉しそうに目を輝かせる。
「出来上がった聖樹は、こちらに飾らせてください!」
店主と一緒に聖樹を並べながら、スフィカは残った無地のオーナメントを取り出した。
「良かったら、これも一緒に飾ってくれないかな? うちが描いたからサンプルは動物ばっかりになったけど、好きなものを自由に描いてもらってきっと楽しいと思うよ」
スフィカのアイディアに店主は素直に喜ぶと、早速オーナメントの横に一言書き添える。
『お子様と一緒に自分だけのオーナメントを作りませんか?』
店で一番目に付く場所に並べられた6つの聖樹を見つめ、ミーミルはしみじみと呟いた。
「もうあっという間に聖霊節なんだね。慰霊祭は準備をしているだけで楽しくなっちゃうから、寒いけどボクはこの季節好きだなあ」
街全体が祭のワクワクした雰囲気に包まれるこの季節ならではの雰囲気を感じ、ミーミルの心も弾む。
「そうそう、このリースに付いたリボンって意味がありまして」
ルーカの作った聖樹を嬉しそうに見つめていたエリックだったが、思いがけぬルーカの言葉に怪訝そうに瞳を瞬かせた。
「へぇ、どんな意味?」
「『永遠の絆で結ばれますように』って意味があるのですよ」
ルーカにとってその相手は、勿論エリックであることは言うまでもない。
エリックはルーカをぎゅっと抱きしめたい気持ちを必死に堪え、彼の手を握る己の手に力を込める。
聖樹が手元に届く日を待つ新たな楽しみを胸に、二人は都市巡りを楽しむためにと街へ繰り出すことにした。
――冬、季節の終わり。また春が来て、いつも通りの一年が過ぎ、そうして次の冬をまた迎える。
サマエラは聖樹に結んだ金色のリボンを結び直してやり、独り静かに目を閉じた。
滞りなく、乱されることなく、健やかに穏やかに。安寧の中で生きられる幸福があるなら劇的でなくても良いのだ。
(そういう樹に、なれば良い。私も、そういう風に……)
最後に、とプラムは聖樹をそっと抱きしめ、優しく囁く。
「貴女に『ルー』という名前を授けます」
かの聖人から韻をいただいたこの名は洗礼であり、聖別なのだ。
「あなたは伝説の聖なる樹に連なるものへと生まれ変わったのです。今こそ店主様からの……ひいては街の皆様からの愛に応える時。貴女の精一杯で、皆様を幸せにしてあげてください」
(……頼みましたよ、ルー)
プラムの願いをしかと受け止めたと言わんばかりにルーは優しく枝を揺らすのだった。
慰霊祭まであと数日――花屋の前を通るたびに、聖樹は街の人々を出迎える。
聖樹を飾った皆の想いと共に、街の人々にも幸せを届けてくれるに違いない。きっと――。
マスターコメント
シナリオへのご参加ありがとうございました!
依頼主も大変満足したということで、結果は大成功です。
皆様にも聖樹の飾り付けの一時を楽しんでいただけましたら幸いです。
また、別のシナリオでもお会いできますことを楽しみにしております。
ショートシナリオ易しい 報酬:標準6 / 4〜6人
2020年12月06日 11時48分37秒 公開
大成功
相談掲示板
ゴブリン、サマエラだ。 よろしく頼む。 サンプル用……見栄え重視か、もしくは何か意味でも籠めようか。 樹にも拘れるとは、自由度も高く面白そうだな。
プラムと申します、よろしくお願いします。 お仕事内容はツリーの飾り付けですか…。 私、あまり服飾の方は自信がないので、飾りつけよりもツリー自身を美しくする方向で頑張ってみますね。
スフィカだよ、よろしくねー! 卓上サイズかぁ、贈り物とかにも良さそう。 飾り色々あるみたいで楽しみだね、どんなのにしよっかなー。
ドワーフのミーミルだよ。 今回はよろしくね! 自分で色々飾り付けて良いんだよね? 飾られた後は届けてくれるみたいだし、張り切らないとね!
エリック・ハルトマンだよ。 よろしく頼むよ。 ツリーの飾りつけ…一体どんなふうに飾り付けるのか楽しみだし、僕もどうやって作るのか色々悩んじゃうな。