【聖祭】聖霊節の花ろうそく
鳩子
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シナリオID:264
オープニング
●
ロスガリア大陸に住まうものたちにとって、12月は大きな意味を持つ。この時期に執り行われる祭りや催しを、聖霊節と呼ぶ。
その由来はハーフリングの英雄、ジド・ルウがその身をエーテルと成して世界に穿たれた大穴を塞ぎ、彼に小さな神々が続いたことが、今年までの平穏の礎を作った――という逸話に拠る。詳細な時期が定まっていないのは、この頃に暦が存在していなかったため、神代における『冬の時代』、という比喩的表現を、文字通りに解釈したためであるとされる。
由来はともあれ、ジド・ルウの英雄的行為を称え、名を失った神々に祈りを捧げることから始まった聖霊節は、様々な土地の風習や営為と重なった結果、亡き祖先や、近しい人々への思いを捧げることだけでなく想い人と過ごす特別な時期――という習慣が定着して久しく、特別信仰心の無いものであっても神殿や家庭でモミの木や柊を飾り立てて祈りを捧げる。街をあげて催しを行い、厳しい冬の中でもとっておきのごちそうを食すこの時期は、収穫祭に続く特別な時節といえた。ジド・ルウが好んでいたという、赤白の服装も今代まで続く伝統の一つとなっており、そこかしこに仮装をした人物も目立つ。
――実りの秋、収穫祭を終えた人々は、深まる冬の気配を感じながら、慰霊祭の準備を進めていた。
●聖霊節の花ろうそく
大きなテーブルの上に、無数のキャンドルが並べられている。細いものや太いもの、背の高いものもあれば、低いものもある。卵型や、半円形のものまであった。
「皆様、本日はお集まりいただき、まことにありがとうございます」
黒い髪をしたヒューマンの女性、エリカ・柊は、フロアに集まる多種多様な客人たちに丁重なあいさつを述べた。
「わたくしたちの町では、来る聖霊節の夜にキャンドルを灯し、偉大なるジド・ルウ、そして、我らが先祖たちの魂の安寧を祈る習慣がございます。みなさまにはキャンドルの準備にご助力いただきたく、お声掛けいたしました」
東方風の幅広の袖から延びる手が、一本のキャンドルを手に取った。細く成形されたキャンドルの側面には、色とりどりの花や草、鳥が描かれている。
「こちらは絵ろうそくと申しまして、この通り、ろうそくに絵付けをしたものでございます。そしてこちらが……」
エリカが別のろうそくへ手を伸ばそうとしたのを、隣に並んだ銀髪のハーフリング、コリウスが代わりに引き取った。
「こっちはカービングキャンドルだ。ろうそくを使った彫刻ってことだな」
コリウスが掲げて見せたキャンドルは、幾重にも重なる花びらが刻まれて、うつくしい薔薇の形を成している。
「どっちも花柄や花の形にこだわる必要はないんだが、伝統的なのはだいたい植物をモチーフにすることが多いから、俺たちは両方まとめてフラワーキャンドルと呼んでいる」
偉大なる英雄、あるいは慕わしい故人への思いを込めて、フラワーキャンドルを作る。そして、それを聖霊節の夜に灯して慰霊とするのだ。
「一応、意匠にはそれぞれ意味がある」
「コリウス様がお持ちの薔薇のキャンドルは、愛情や深い尊敬を意味するモチーフにございます」
一般的なモチーフのいくつかを、二人は順に説明した。
薔薇は、愛情、深い尊敬。
蓮は、清廉な心、神聖さ。
菊は、吉祥。
百合は、純潔、誇り。
牡丹は、幸福と富貴。
蝶は、愛情と結婚。
鳩は、平和。
「こんなところか。最近は自由な発想で作るのも流行っているな」
「かわいらしい水玉模様や、熊さんの形のキャンドルを作られた方もいらっしゃいましたね」
大事なのは気持ちを込めること。
そう、二人は話を締めくくった。
ロスガリア大陸に住まうものたちにとって、12月は大きな意味を持つ。この時期に執り行われる祭りや催しを、聖霊節と呼ぶ。
その由来はハーフリングの英雄、ジド・ルウがその身をエーテルと成して世界に穿たれた大穴を塞ぎ、彼に小さな神々が続いたことが、今年までの平穏の礎を作った――という逸話に拠る。詳細な時期が定まっていないのは、この頃に暦が存在していなかったため、神代における『冬の時代』、という比喩的表現を、文字通りに解釈したためであるとされる。
由来はともあれ、ジド・ルウの英雄的行為を称え、名を失った神々に祈りを捧げることから始まった聖霊節は、様々な土地の風習や営為と重なった結果、亡き祖先や、近しい人々への思いを捧げることだけでなく想い人と過ごす特別な時期――という習慣が定着して久しく、特別信仰心の無いものであっても神殿や家庭でモミの木や柊を飾り立てて祈りを捧げる。街をあげて催しを行い、厳しい冬の中でもとっておきのごちそうを食すこの時期は、収穫祭に続く特別な時節といえた。ジド・ルウが好んでいたという、赤白の服装も今代まで続く伝統の一つとなっており、そこかしこに仮装をした人物も目立つ。
――実りの秋、収穫祭を終えた人々は、深まる冬の気配を感じながら、慰霊祭の準備を進めていた。
●聖霊節の花ろうそく
大きなテーブルの上に、無数のキャンドルが並べられている。細いものや太いもの、背の高いものもあれば、低いものもある。卵型や、半円形のものまであった。
「皆様、本日はお集まりいただき、まことにありがとうございます」
黒い髪をしたヒューマンの女性、エリカ・柊は、フロアに集まる多種多様な客人たちに丁重なあいさつを述べた。
「わたくしたちの町では、来る聖霊節の夜にキャンドルを灯し、偉大なるジド・ルウ、そして、我らが先祖たちの魂の安寧を祈る習慣がございます。みなさまにはキャンドルの準備にご助力いただきたく、お声掛けいたしました」
東方風の幅広の袖から延びる手が、一本のキャンドルを手に取った。細く成形されたキャンドルの側面には、色とりどりの花や草、鳥が描かれている。
「こちらは絵ろうそくと申しまして、この通り、ろうそくに絵付けをしたものでございます。そしてこちらが……」
エリカが別のろうそくへ手を伸ばそうとしたのを、隣に並んだ銀髪のハーフリング、コリウスが代わりに引き取った。
「こっちはカービングキャンドルだ。ろうそくを使った彫刻ってことだな」
コリウスが掲げて見せたキャンドルは、幾重にも重なる花びらが刻まれて、うつくしい薔薇の形を成している。
「どっちも花柄や花の形にこだわる必要はないんだが、伝統的なのはだいたい植物をモチーフにすることが多いから、俺たちは両方まとめてフラワーキャンドルと呼んでいる」
偉大なる英雄、あるいは慕わしい故人への思いを込めて、フラワーキャンドルを作る。そして、それを聖霊節の夜に灯して慰霊とするのだ。
「一応、意匠にはそれぞれ意味がある」
「コリウス様がお持ちの薔薇のキャンドルは、愛情や深い尊敬を意味するモチーフにございます」
一般的なモチーフのいくつかを、二人は順に説明した。
薔薇は、愛情、深い尊敬。
蓮は、清廉な心、神聖さ。
菊は、吉祥。
百合は、純潔、誇り。
牡丹は、幸福と富貴。
蝶は、愛情と結婚。
鳩は、平和。
「こんなところか。最近は自由な発想で作るのも流行っているな」
「かわいらしい水玉模様や、熊さんの形のキャンドルを作られた方もいらっしゃいましたね」
大事なのは気持ちを込めること。
そう、二人は話を締めくくった。
解説
聖霊祭の準備シナリオです。
【場所】
辺境都市群、シャルガネ居住区にほど近い街
【内容】
■A
ろうそくに好きな図柄を絵付けして、絵ろうそくを作る。
■B
カービングナイフや彫刻刀を使ってろうそくを削り、カービングキャンドルを作る。
どちらか片方を選択してください。
【モチーフ】
モチーフの意味は花言葉や実際の文化をもとにしてふわっと設定しています。
オープニング内で提示したモチーフ以外にも、好きなデザインを自由な発想で考えてOKです。
【レンタル可能品】
■円柱や卵型など、様々な形と色をしたキャンドル
■絵具や筆など、絵付けに必要な道具一式
■カービングナイフなど、カービングに必要な道具一式
■アイデアの助けになるような、植物や小動物などの図案
【NPC】
■エリカ・柊(ひいらぎ)
ヒューマンの女性。23歳、独身。黒髪黒目。藤色の東方風の衣装を着ている。
絵ろうそく担当。
「わからないことがありましたら、気軽にお声掛けくださいましね」
■コリウス
ハーフリングの男性。25歳、独身。銀髪に灰色の目。
カービングキャンドル担当。
「苦手な奴は簡単なのにしろよ。流血沙汰はごめんだからな」
マスターより
和風な要素も取り入れつつ、キャンドルナイトの準備です。
プレイングには、必ず下記の要素を記入してください。
・【A】絵ろうそく【B】カービングキャンドル、どちらを希望するか(両方は不可)
・どんなデザインのキャンドルを作るか
作業を通して偉大な神代の英雄に想い馳せたり、故人を想ったり、絵心を発揮したり、不器用さを爆発させたり、自由に楽しんでいただければと思います。
リプレイは【A】の場面と【B】の場面、二部構成で作成する予定です。仮に参加者全員が同じ方を希望してもそれはそれで全然かまわないので、気にせず好きな方を選択してください。
NPCの二人がそれぞれ指導にあたりますが、リプレイに登場するかどうかはプレイングを見て考えます。
キャラクター把握のため、台詞や心情を積極的に入れて頂けると助かります。
作業期間を長めに設定していますが、出来上がり次第繰り上げで納品予定です。
よろしくお願いします!
リプレイ
●蝋に描く想いの花
「東方風の蝋か……とても綺麗だね」
フィーレン・ステオラーズは、手本の絵ろうそくをしげしげと眺めた。
「せっかく綺麗に作っても、火を灯したら無くなっちゃわない?」
勿体ないような? と首を傾げたのは、アスカ・タチカゼである。
一拍置いて、いや、と考えを改める。
「それも含めての特別なのかな……やがて消えゆく炎と命を重ねて、儚いものに思いを馳せる、みたいな」
なるほど、とフィーレンは頷いた。
「手間暇かけたものだからこそ、捧げることに意味があるのかもしれないね」
「うーん、あたしの人生で初めて触れる感性……面白いなぁ!」
感心する二人の横で、ニール・ロブラリアは卓上に並べられた蝋や道具をじっと見つめた。不器用な自覚はあるので、目指すのは無難で、普通――つまり、他と比べて特色も遜色もない出来栄えだ。
とはいえ、
「それが一番、難しいんだよね……」
思わず遠くを見る目になってしまう。
ニールは少し考えて角柱型の蝋を選んだ。平面の方がきっと描きやすい。
「ゲルダさん! 一緒にやりませんか?」
リサ・ベイカーは以前ともに依頼をこなしたことのあるゲルダ・クラインの姿を見つけて、声をかけた。
是非、とゲルダは笑みをほころばせる。
「いろんな種類があって迷ってしまいますね」
「わたし、白とピンクの花にするつもりなんだけど、蝋の色は何がいいのかな……エリカさん、アドバイスもらえますか?」
客人たちを見守っていたエリカは頷くと、
「どちらも優しいお色でございますから、蝋も淡いものがよろしいかと」
柔らかな色味した物の中から黄色、水色、緑色の三種を選んだ。
「どれも綺麗……これ、リサ様の瞳に似ていませんか?」
「えっ、本当? じゃあ、この色にします!」
ゲルダの言葉を受け、リサは円柱形をしたアクアグリーンの蝋を手に取った。
お礼に、と今度はリサがゲルダに似合いの色を探す。
「ゲルダさん、これと……これはどうですか?」
髪と目の色から連想して、オレンジがかった黄色と落ち着いた緑色のものをチョイスする。
「ありがとうございます、リサ様。こちらの緑のものにしますね」
きっと聖霊節らしい色合いにしあがるだろう。今から完成を思ってゲルダは笑みを浮かべた。
別のテーブルには図鑑や図案集がいくつも広げられていた。
「ふむ。東方風の花もたくさんあるし、面白そうだね」
「ボクはこれ」
卵型のロウを片手に思案するフィーレンに対し、ニールはさほど迷うことなく一枚の絵を手に取る。
「菊の花……花言葉が気に入ったんだ」
「あたしは元気とか晴れとか、そういう明るい意味のある花を描いてみたいな」
なにか良い花はある? とアスカはエリカに尋ねる。
東方文化に目のないアスカは、花だけでなくエリカの纏う風変わりな服や絵ろうそくの風習、伝承に興味津々だった。
「向日葵か金盞花は如何でしょう? どちらも、太陽に縁のある花です」
「それって東方風かな?」
エリカは頬に手を当て小首を傾げた。東方文化の色濃い家系ではあるが、エリカとて生まれも育ちもこのロスガリア大陸なのだ。少し考えてから、図案を探る。
「鬼百合は如何でしょう。東方風の意匠に使われることもありますので」
エリカは橙色のユリの絵を差し出した。陽気・華麗・賢者を意味する、と説明書きがある。
「それじゃあ、私はこれにする!」
「俺は牡丹にしよう。それと、鳥の図案……ミソサザイはあるかな?」
「なにか、愛着のある鳥でございますか?」
エリカは微笑みながら鳥の図案集を広げる。
「愛着ってワケでもないけどね。ちょっと縁のある鳥なんだ」
魂の安寧を願うため、と聞いてフィーレンが思い浮かべたのは、亡き母の姿だった。ミソサザイは他でもない、母がつけてくれたフィーレンの名前の由来になった鳥だ。
(母さんが喜ぶようなやつが作れるといいけど……)
図案を受け取ったフィーレンは、牡丹と鳥をどう配置するか、考えながら作業机に座った。
絵の具を使う前に、まずは完成イメージを蝋に下書きする。
「むむ……」
曲面に想像通りの線を引くというのは存外に難しい。卵型を選んだのは失敗だったかもしれないと思いつつ、このまま取り組むことにする。
エリカとコリウスも、気持ちが大事だと言っていた。
(俺はそこそこ、いや、もったいないぐらいに幸せにやってるから)
思いが伝わることを願いながら、フィーレンは一筆一筆、丁寧に描き進めた。
一方、アスカは鼻歌交じりに作業を始めた。これでも一端のドワーフ、器用さには自信があるのだ。
「鬼百合、名前も見た目もかっこよくて気に入ったわ」
選んだ蝋は大きな卵型。描ける面積が広いし、火を点けても長く楽しめそうなのが良い。
今アスカが作っている絵ろうそくは、時を超えて東方と繋がっている。そう思うとわくわくしてたまらない。筆を手に、アスカはまだ見ぬ東方へ思いを馳せた。
「……よし」
ニールは菊花の図案をじっくり観察したのち、筆に絵の具を付ける。密集した花弁は複雑なようだが、細かく、そして数さえ描けば形になる、はずだ。
まずは一片。
「あ」
いや、まだ最初だし。大丈夫。
筆先が震えそうになるのをこらえながら、ぺちょ、と色を塗る。
「……あれ? いや、まだ……」
描いた花弁同士がくっついてしまった。だが、これから描く外側の花びらがうまいこといけば、花に見えるはず――。
「……わあ」
筆を置き、ニールは頭を抱えた。
太くなってしまった花弁が隣同士でくっついて、もはや黄色くて丸っぽいナニカと化している。
「うーん、難しいわ」
内心を代弁するかのような呟きが聞こえてきて、ニールは顔を上げた。
声の主は、近くで作業していたリサだ。
難航しているのが自分だけではないと知って少し勇気が出たニールは、リサに意見を求めてみることにした。
「あの……これ、花に見える?」
「えっ? えっと、黄色い、……花? よね!」
やっぱり菊とはわからない、下手をすると花かどうかも怪しい己の絵に、ニールはうなだれた。
「ど、どうしたら……」
「わたしもそんなに得意じゃないし……ゲルダさんは」
リサは隣のゲルダへ視線をやって、わぁ、と小さく歓声を上げた。
「ゲルダさん、上手ですねっ!」
ニールも興味を惹かれて背伸びをすると、卵型の蝋に赤い首輪をした黒猫が描かれてるのが見えた。周囲には柊のリース。エリカが描く緻密な文様とは趣が違うが、緑の蝋に黒い猫と赤い首輪がくっきりと映えて、かわいらしい。
「……ちゃんと、猫が猫に見える」
リサとニールに褒められて、ゲルダははにかんだように笑う。
この時期に赤い実をつける柊は、聖霊節の飾りによく使われる植物だ。一方黒猫は、縁起が良いとも悪いとも言われ、聖霊節のモチーフとしては珍しい。
「黒猫は不幸を呼ぶといわれることもありますけど……でも、幸福の象徴のほうを、信じたいなって思うんです」
黒猫は赤い首輪をつけて誇らしげだ。
込めた願いは、家庭の幸せ――皆が、この猫のように幸せいっぱいの笑顔になれますように。
「ゲルダさんの気持ちも、絵もすごく素敵!」
「ありがとうございます。お二方は、どんな絵を描かれました?」
「うっ……」
ニールは言わずもがな。
リサの蝋には、白とピンクの扇形に似た歪な形が描かれていた。茎と葉があるので、花だとはわかる。
「え、っと……可愛い、ですね」
嘘がつけずにしどろもどろになるゲルダに、リサはからりと笑った。
「細かい作業は得意ではなくって……ピンクのカーネーションは、お母様が好きだった花なの」
病床に臥しても笑顔を絶やさず、最期まで優しい母だった。大好きな母を喪ったリサは泣き続けたが、数日後には、もうこれ以上は泣かないと誓った。今は折り合いの悪い父とのことで心配させているかもしれないが、リサにも意地がある。
偲ぶ心を白い花に込めて、わたしは大丈夫、頑張ってるよ! と伝えたい。
「見守っていてほしいなって」
「とても、良いと思います」
リサにも苦手なことがあるのだと驚いたが、ゲルダはその気持ちを素敵だと思った。
「ありがとう! もう少し花らしく出来たら良いんだけど……どうやったら上手に描けるのかな」
「ボクも、コツがあったら知りたい……」
「こ、コツですか?」
ゲルダの手つきを学びながら、リサとニールは不器用なりに想いを込めて制作を進めたのだった。
●蝋に刻む想いの花
コリウスは数種類あるカービングナイフの使い分けや使用上の注意などを説明すると、好きなデザインを選ぶよう客人たちに告げた。
「薔薇も良いけれど……でも、花びらが多いのよね」
「不器用なら絵付けにしておいた方が無難だぞ」
独り言をこぼしたファルマ・アラーティに、コリウスが口をはさむ。
「……そんなに器用な方ではないけれど、もちろん不器用でもないわよ? 至って普通」
「でも、初めてなんだろ。簡単なモチーフにしておけ」
そっけない言い方はちょっと気に食わないものの、正論でもあった。念のためヒールを使えるようにしてきたが、怪我をしないに越したことはない。
「感謝の意味を持つ花にしたいのだけど」
それなら、とコリウスは数枚の図案をファルマによこした。候補の中から、ファルマはカンパニュラを選ぶ。
亡くなった両親、特に母が好きそうだと思ったのだ。
「悩みますけれど、……私は蓮の花にします。あの柔らかな、それでいて凜とした華やかさが出せるといいのですけれど」
そう言って微笑んだのは、赤紫色の鱗を持つスィーリーン。輪廻転生を信じるリザードマンにとっても、魂の安寧を祈る気持ちは尊いものだ。
「そうですね、この花にします」
長い茶髪の少女、ネーナは牡丹の図案を手に取った。
「幸福と富貴……あたしにぴったりですね」
一見すると高慢な物言いだが、その裏には貧しい暮らしへの強い拒絶感がある。今でこそ授恵者たる能力を自覚し冒険者として身を立てているが、少し前まで彼女は盗賊のアジトで奴隷さながらに扱われていたのだ。
これからの人生は豊かで幸福なものであるべきだという強い思いが、彼女に牡丹を選ばせたのだった。
「牡丹ですから、紅色の蝋が良いですね」
「私は蓮の花の形に合わせて、半球形のものにしましょうか。色は白にいたします」
順調に蝋を選び取った二人に続き、ファルマも少し迷ってから、淡い青紫色のものを手に取った。
植物図鑑を傍らに、スィーリーンはカービングナイフを蝋にあてる。彫刻用の蝋は通常のものより柔らかく作られているそうで、想像よりもすんなりと刃先が入った。
まずは芯の周りを円錐形に彫り下げ、出来上がった穴の周囲に花弁の幅の印をつける。
スィーリーンは作業の合間にも繰り返し図鑑を見て、花の形を確認した。蓮は花弁の一枚一枚が大きいので、彫りも深くなる。より刃先の長いナイフへと持ち替えて、彫り進める。
「ふぅ……」
半ばほど出来上がったところで、スィーリーンは一旦ナイフを置いた。花弁が分厚くては風情が出ないが、かといって薄さにこだわれば千切れてしまう。柔らかい蝋は彫りやすい分、力加減が難しかった。
だが、少しずつ花の形が見えてくるのが面白く、やりがいがある。
「出来上がったら、色を塗ってみるのも良いかもしれませんね」
ふちに淡い桃色を塗り花弁をグラデーションに染めたら、きっと、より本物に近く、美しい仕上がりになるはずだ。
「ちょっと良いかしら」
一息ついているスィーリーンへ、作りかけの蝋を持ったファルマが声をかけた。
「はい、どうしました?」
「お手を煩わせて申し訳ないのだけど、コツを教えてもらってもいいかしら……?」
カーブを削り出すのが難しくて、という彼女に、スィーリーンは快く頷いた。
「ナイフを替えてみるといいかもしれませんね」
「そうなのね。いまひとつ使い分けが分からなくて……」
助言をもらいながら、形の異なる刃先を使い分ける。ファルマの場合は花の形が特殊なので、メダル型の蝋に浮彫を施すデザインだった。
「感謝を意味する花だと仰っていましたね」
「ええ、……両親に」
一人でいることにはだいぶ慣れたが、吹っ切れるにはまだ時間がかかりそうだ。
感謝を込めた、カンパニュラの蝋。
本当は、生きている二人に直接伝えるべきだった。
「恥ずかしいなんて気持ちで口にしなかったこと、後悔してるわ」
「今からでも意味があると思います」
そうだと良い、とファルマは頷いた。
隣で作業するスィーリーンと比べると、ファルマの手つきはつたない。それでも、少しずつ花を形作っていった。
そして。
「……初めてにしては、うまく出来たのではないかしら」
きっと、親からすればファルマはいつまでも子供のままだろう。でも、これからも出来ることはどんどん増えていく。
(だから、安心していてね)
「おい、作業中にうろちょろするな」
「なぁに、ぶっきらぼうさん」
コリウスに咎められて、ネーナはつんと返した。
イケメン以外に興味はない。コリウスは愛想の無さが滲み出た顔をしていて、ネーナのお眼鏡にはかなわなかった。
「あたし、もう一つ作るんです。良いでしょう?」
「ほう。出来たって方を見せてみろ」
じろりと睨まれて、しぶしぶ先に作った蝋を見せる。
「……まぁ、思ったよりは形になっているか」
牡丹は、薔薇よりも薄く波打つ花弁の表現が難しい。ネーナのそれは、職人のコリウスからすれば及第点を出せたものではなかったが、初心者にしてはまずまずの出来だ。
「次は何を彫るつもりなんだ?」
ネーナはそっぽを向きながら小さく答える。
「マーガレット」
「そうか。あれも色んな意味があるからな」
それ以上の詮索を避けるように、ネーナはピンク色の蝋を素早く取って席に戻った。
●想い託す花ろうそく
アスカの提案で、完成した蝋の鑑賞会が開かれた。
「慰霊祭の日に飾る予定ですわっ! あたしに相応しい花だと思いませんか?」
牡丹を前に、ネーナが胸を張る。もう一つの花は彼女の懐へ大切に仕舞われている。
「絵より難しそうね……」
「どれも素敵です」
リサとゲルダは蝋の彫刻を興味深く眺めた。
「ヒールを使う羽目にならなくてよかったわ」
ファルマは肩をすくめる。
「火を灯すのが惜しいような気もするけど、聖霊節にまたこっちに来れたらいいな」
フィーレンが言うのに、スィーリーンも頷いた。
「きっと厳かで美しい光景でしょうね」
「ボクたちには見えなくなってしまっても、魂となった彼らには、この花たちが届くのかな」
細筆で花弁の輪郭を描きこみ、どうにか花らしくなった菊を見つめてニールは呟く。
ニールは親を知らない。だから、今回はかの英雄を想って作った。不格好な花だが見つけやすさはきっと抜群だ。
並んだ蝋にひとつとして同じものはない。
「これだから、ものづくりって面白いよね」
ふふっ、とアスカは笑った。
「東方風の蝋か……とても綺麗だね」
フィーレン・ステオラーズは、手本の絵ろうそくをしげしげと眺めた。
「せっかく綺麗に作っても、火を灯したら無くなっちゃわない?」
勿体ないような? と首を傾げたのは、アスカ・タチカゼである。
一拍置いて、いや、と考えを改める。
「それも含めての特別なのかな……やがて消えゆく炎と命を重ねて、儚いものに思いを馳せる、みたいな」
なるほど、とフィーレンは頷いた。
「手間暇かけたものだからこそ、捧げることに意味があるのかもしれないね」
「うーん、あたしの人生で初めて触れる感性……面白いなぁ!」
感心する二人の横で、ニール・ロブラリアは卓上に並べられた蝋や道具をじっと見つめた。不器用な自覚はあるので、目指すのは無難で、普通――つまり、他と比べて特色も遜色もない出来栄えだ。
とはいえ、
「それが一番、難しいんだよね……」
思わず遠くを見る目になってしまう。
ニールは少し考えて角柱型の蝋を選んだ。平面の方がきっと描きやすい。
「ゲルダさん! 一緒にやりませんか?」
リサ・ベイカーは以前ともに依頼をこなしたことのあるゲルダ・クラインの姿を見つけて、声をかけた。
是非、とゲルダは笑みをほころばせる。
「いろんな種類があって迷ってしまいますね」
「わたし、白とピンクの花にするつもりなんだけど、蝋の色は何がいいのかな……エリカさん、アドバイスもらえますか?」
客人たちを見守っていたエリカは頷くと、
「どちらも優しいお色でございますから、蝋も淡いものがよろしいかと」
柔らかな色味した物の中から黄色、水色、緑色の三種を選んだ。
「どれも綺麗……これ、リサ様の瞳に似ていませんか?」
「えっ、本当? じゃあ、この色にします!」
ゲルダの言葉を受け、リサは円柱形をしたアクアグリーンの蝋を手に取った。
お礼に、と今度はリサがゲルダに似合いの色を探す。
「ゲルダさん、これと……これはどうですか?」
髪と目の色から連想して、オレンジがかった黄色と落ち着いた緑色のものをチョイスする。
「ありがとうございます、リサ様。こちらの緑のものにしますね」
きっと聖霊節らしい色合いにしあがるだろう。今から完成を思ってゲルダは笑みを浮かべた。
別のテーブルには図鑑や図案集がいくつも広げられていた。
「ふむ。東方風の花もたくさんあるし、面白そうだね」
「ボクはこれ」
卵型のロウを片手に思案するフィーレンに対し、ニールはさほど迷うことなく一枚の絵を手に取る。
「菊の花……花言葉が気に入ったんだ」
「あたしは元気とか晴れとか、そういう明るい意味のある花を描いてみたいな」
なにか良い花はある? とアスカはエリカに尋ねる。
東方文化に目のないアスカは、花だけでなくエリカの纏う風変わりな服や絵ろうそくの風習、伝承に興味津々だった。
「向日葵か金盞花は如何でしょう? どちらも、太陽に縁のある花です」
「それって東方風かな?」
エリカは頬に手を当て小首を傾げた。東方文化の色濃い家系ではあるが、エリカとて生まれも育ちもこのロスガリア大陸なのだ。少し考えてから、図案を探る。
「鬼百合は如何でしょう。東方風の意匠に使われることもありますので」
エリカは橙色のユリの絵を差し出した。陽気・華麗・賢者を意味する、と説明書きがある。
「それじゃあ、私はこれにする!」
「俺は牡丹にしよう。それと、鳥の図案……ミソサザイはあるかな?」
「なにか、愛着のある鳥でございますか?」
エリカは微笑みながら鳥の図案集を広げる。
「愛着ってワケでもないけどね。ちょっと縁のある鳥なんだ」
魂の安寧を願うため、と聞いてフィーレンが思い浮かべたのは、亡き母の姿だった。ミソサザイは他でもない、母がつけてくれたフィーレンの名前の由来になった鳥だ。
(母さんが喜ぶようなやつが作れるといいけど……)
図案を受け取ったフィーレンは、牡丹と鳥をどう配置するか、考えながら作業机に座った。
絵の具を使う前に、まずは完成イメージを蝋に下書きする。
「むむ……」
曲面に想像通りの線を引くというのは存外に難しい。卵型を選んだのは失敗だったかもしれないと思いつつ、このまま取り組むことにする。
エリカとコリウスも、気持ちが大事だと言っていた。
(俺はそこそこ、いや、もったいないぐらいに幸せにやってるから)
思いが伝わることを願いながら、フィーレンは一筆一筆、丁寧に描き進めた。
一方、アスカは鼻歌交じりに作業を始めた。これでも一端のドワーフ、器用さには自信があるのだ。
「鬼百合、名前も見た目もかっこよくて気に入ったわ」
選んだ蝋は大きな卵型。描ける面積が広いし、火を点けても長く楽しめそうなのが良い。
今アスカが作っている絵ろうそくは、時を超えて東方と繋がっている。そう思うとわくわくしてたまらない。筆を手に、アスカはまだ見ぬ東方へ思いを馳せた。
「……よし」
ニールは菊花の図案をじっくり観察したのち、筆に絵の具を付ける。密集した花弁は複雑なようだが、細かく、そして数さえ描けば形になる、はずだ。
まずは一片。
「あ」
いや、まだ最初だし。大丈夫。
筆先が震えそうになるのをこらえながら、ぺちょ、と色を塗る。
「……あれ? いや、まだ……」
描いた花弁同士がくっついてしまった。だが、これから描く外側の花びらがうまいこといけば、花に見えるはず――。
「……わあ」
筆を置き、ニールは頭を抱えた。
太くなってしまった花弁が隣同士でくっついて、もはや黄色くて丸っぽいナニカと化している。
「うーん、難しいわ」
内心を代弁するかのような呟きが聞こえてきて、ニールは顔を上げた。
声の主は、近くで作業していたリサだ。
難航しているのが自分だけではないと知って少し勇気が出たニールは、リサに意見を求めてみることにした。
「あの……これ、花に見える?」
「えっ? えっと、黄色い、……花? よね!」
やっぱり菊とはわからない、下手をすると花かどうかも怪しい己の絵に、ニールはうなだれた。
「ど、どうしたら……」
「わたしもそんなに得意じゃないし……ゲルダさんは」
リサは隣のゲルダへ視線をやって、わぁ、と小さく歓声を上げた。
「ゲルダさん、上手ですねっ!」
ニールも興味を惹かれて背伸びをすると、卵型の蝋に赤い首輪をした黒猫が描かれてるのが見えた。周囲には柊のリース。エリカが描く緻密な文様とは趣が違うが、緑の蝋に黒い猫と赤い首輪がくっきりと映えて、かわいらしい。
「……ちゃんと、猫が猫に見える」
リサとニールに褒められて、ゲルダははにかんだように笑う。
この時期に赤い実をつける柊は、聖霊節の飾りによく使われる植物だ。一方黒猫は、縁起が良いとも悪いとも言われ、聖霊節のモチーフとしては珍しい。
「黒猫は不幸を呼ぶといわれることもありますけど……でも、幸福の象徴のほうを、信じたいなって思うんです」
黒猫は赤い首輪をつけて誇らしげだ。
込めた願いは、家庭の幸せ――皆が、この猫のように幸せいっぱいの笑顔になれますように。
「ゲルダさんの気持ちも、絵もすごく素敵!」
「ありがとうございます。お二方は、どんな絵を描かれました?」
「うっ……」
ニールは言わずもがな。
リサの蝋には、白とピンクの扇形に似た歪な形が描かれていた。茎と葉があるので、花だとはわかる。
「え、っと……可愛い、ですね」
嘘がつけずにしどろもどろになるゲルダに、リサはからりと笑った。
「細かい作業は得意ではなくって……ピンクのカーネーションは、お母様が好きだった花なの」
病床に臥しても笑顔を絶やさず、最期まで優しい母だった。大好きな母を喪ったリサは泣き続けたが、数日後には、もうこれ以上は泣かないと誓った。今は折り合いの悪い父とのことで心配させているかもしれないが、リサにも意地がある。
偲ぶ心を白い花に込めて、わたしは大丈夫、頑張ってるよ! と伝えたい。
「見守っていてほしいなって」
「とても、良いと思います」
リサにも苦手なことがあるのだと驚いたが、ゲルダはその気持ちを素敵だと思った。
「ありがとう! もう少し花らしく出来たら良いんだけど……どうやったら上手に描けるのかな」
「ボクも、コツがあったら知りたい……」
「こ、コツですか?」
ゲルダの手つきを学びながら、リサとニールは不器用なりに想いを込めて制作を進めたのだった。
●蝋に刻む想いの花
コリウスは数種類あるカービングナイフの使い分けや使用上の注意などを説明すると、好きなデザインを選ぶよう客人たちに告げた。
「薔薇も良いけれど……でも、花びらが多いのよね」
「不器用なら絵付けにしておいた方が無難だぞ」
独り言をこぼしたファルマ・アラーティに、コリウスが口をはさむ。
「……そんなに器用な方ではないけれど、もちろん不器用でもないわよ? 至って普通」
「でも、初めてなんだろ。簡単なモチーフにしておけ」
そっけない言い方はちょっと気に食わないものの、正論でもあった。念のためヒールを使えるようにしてきたが、怪我をしないに越したことはない。
「感謝の意味を持つ花にしたいのだけど」
それなら、とコリウスは数枚の図案をファルマによこした。候補の中から、ファルマはカンパニュラを選ぶ。
亡くなった両親、特に母が好きそうだと思ったのだ。
「悩みますけれど、……私は蓮の花にします。あの柔らかな、それでいて凜とした華やかさが出せるといいのですけれど」
そう言って微笑んだのは、赤紫色の鱗を持つスィーリーン。輪廻転生を信じるリザードマンにとっても、魂の安寧を祈る気持ちは尊いものだ。
「そうですね、この花にします」
長い茶髪の少女、ネーナは牡丹の図案を手に取った。
「幸福と富貴……あたしにぴったりですね」
一見すると高慢な物言いだが、その裏には貧しい暮らしへの強い拒絶感がある。今でこそ授恵者たる能力を自覚し冒険者として身を立てているが、少し前まで彼女は盗賊のアジトで奴隷さながらに扱われていたのだ。
これからの人生は豊かで幸福なものであるべきだという強い思いが、彼女に牡丹を選ばせたのだった。
「牡丹ですから、紅色の蝋が良いですね」
「私は蓮の花の形に合わせて、半球形のものにしましょうか。色は白にいたします」
順調に蝋を選び取った二人に続き、ファルマも少し迷ってから、淡い青紫色のものを手に取った。
植物図鑑を傍らに、スィーリーンはカービングナイフを蝋にあてる。彫刻用の蝋は通常のものより柔らかく作られているそうで、想像よりもすんなりと刃先が入った。
まずは芯の周りを円錐形に彫り下げ、出来上がった穴の周囲に花弁の幅の印をつける。
スィーリーンは作業の合間にも繰り返し図鑑を見て、花の形を確認した。蓮は花弁の一枚一枚が大きいので、彫りも深くなる。より刃先の長いナイフへと持ち替えて、彫り進める。
「ふぅ……」
半ばほど出来上がったところで、スィーリーンは一旦ナイフを置いた。花弁が分厚くては風情が出ないが、かといって薄さにこだわれば千切れてしまう。柔らかい蝋は彫りやすい分、力加減が難しかった。
だが、少しずつ花の形が見えてくるのが面白く、やりがいがある。
「出来上がったら、色を塗ってみるのも良いかもしれませんね」
ふちに淡い桃色を塗り花弁をグラデーションに染めたら、きっと、より本物に近く、美しい仕上がりになるはずだ。
「ちょっと良いかしら」
一息ついているスィーリーンへ、作りかけの蝋を持ったファルマが声をかけた。
「はい、どうしました?」
「お手を煩わせて申し訳ないのだけど、コツを教えてもらってもいいかしら……?」
カーブを削り出すのが難しくて、という彼女に、スィーリーンは快く頷いた。
「ナイフを替えてみるといいかもしれませんね」
「そうなのね。いまひとつ使い分けが分からなくて……」
助言をもらいながら、形の異なる刃先を使い分ける。ファルマの場合は花の形が特殊なので、メダル型の蝋に浮彫を施すデザインだった。
「感謝を意味する花だと仰っていましたね」
「ええ、……両親に」
一人でいることにはだいぶ慣れたが、吹っ切れるにはまだ時間がかかりそうだ。
感謝を込めた、カンパニュラの蝋。
本当は、生きている二人に直接伝えるべきだった。
「恥ずかしいなんて気持ちで口にしなかったこと、後悔してるわ」
「今からでも意味があると思います」
そうだと良い、とファルマは頷いた。
隣で作業するスィーリーンと比べると、ファルマの手つきはつたない。それでも、少しずつ花を形作っていった。
そして。
「……初めてにしては、うまく出来たのではないかしら」
きっと、親からすればファルマはいつまでも子供のままだろう。でも、これからも出来ることはどんどん増えていく。
(だから、安心していてね)
「おい、作業中にうろちょろするな」
「なぁに、ぶっきらぼうさん」
コリウスに咎められて、ネーナはつんと返した。
イケメン以外に興味はない。コリウスは愛想の無さが滲み出た顔をしていて、ネーナのお眼鏡にはかなわなかった。
「あたし、もう一つ作るんです。良いでしょう?」
「ほう。出来たって方を見せてみろ」
じろりと睨まれて、しぶしぶ先に作った蝋を見せる。
「……まぁ、思ったよりは形になっているか」
牡丹は、薔薇よりも薄く波打つ花弁の表現が難しい。ネーナのそれは、職人のコリウスからすれば及第点を出せたものではなかったが、初心者にしてはまずまずの出来だ。
「次は何を彫るつもりなんだ?」
ネーナはそっぽを向きながら小さく答える。
「マーガレット」
「そうか。あれも色んな意味があるからな」
それ以上の詮索を避けるように、ネーナはピンク色の蝋を素早く取って席に戻った。
●想い託す花ろうそく
アスカの提案で、完成した蝋の鑑賞会が開かれた。
「慰霊祭の日に飾る予定ですわっ! あたしに相応しい花だと思いませんか?」
牡丹を前に、ネーナが胸を張る。もう一つの花は彼女の懐へ大切に仕舞われている。
「絵より難しそうね……」
「どれも素敵です」
リサとゲルダは蝋の彫刻を興味深く眺めた。
「ヒールを使う羽目にならなくてよかったわ」
ファルマは肩をすくめる。
「火を灯すのが惜しいような気もするけど、聖霊節にまたこっちに来れたらいいな」
フィーレンが言うのに、スィーリーンも頷いた。
「きっと厳かで美しい光景でしょうね」
「ボクたちには見えなくなってしまっても、魂となった彼らには、この花たちが届くのかな」
細筆で花弁の輪郭を描きこみ、どうにか花らしくなった菊を見つめてニールは呟く。
ニールは親を知らない。だから、今回はかの英雄を想って作った。不格好な花だが見つけやすさはきっと抜群だ。
並んだ蝋にひとつとして同じものはない。
「これだから、ものづくりって面白いよね」
ふふっ、とアスカは笑った。
マスターコメント
思い思いのキャンドル作り、ありがとうございました。
選んだモチーフ、キャンドルに込めた想いから、皆様それぞれの背景や価値観が伺えて楽しかったです。
記念に、灯にちなんだ称号をお送りいたします。
ご参加ありがとうございました!
ショートシナリオ易しい 報酬:標準8 / 4〜8人
2020年12月05日 14時19分14秒 公開
大成功
相談掲示板
アスカだよ!よろしく! まーみんなそれぞれやる感じだから相談とかってのもないんだろうけどねー一応一緒に参加するから挨拶だけでもってことで! あ、ちなみに絵ろうそくの方で東方の話とか聞きながらやるつもりだよ。
ファルマよ、よろしくね。 どちらも楽しそうだから悩んでるのだけれど、多分カービングキャンドルかしら。
リサです!よろしくおねがいします! どっちがいいかなぁ…ちょっと考えますね。
スィーリーンと申します。 よろしくお願いします。 どちらも楽しそうですけれど、 私はカービングキャンドルを作りますね。
ニール・ロブラリア。よろしくね。 絵ろうそくを、作ってみようと、思う。 ……せめて、花には見えるように、努力はするよ。
ゲルダです。よろしくお願いします。 ええと、彫刻は少し難しそうなので、絵ろうそくに挑戦してみようかなと。 花以外にも描いて大丈夫なら、ねこちゃんも入れてみようかなって思ってます。
ネーナです。よろしくお願いします。 めずしい東方風のキャンドル作りに挑みます。 聖霊節で飾るついでに願い事をするらしいですね。
フィーレンだ。よろしく。 うーん、俺は絵ろうそくの方かな…。
せっかくお友達のゲルダさんがいるので、わたしも一緒に、絵ロウソクにしますね。