スイートスイート・パフューム
さとう綾子
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シナリオID:262
オープニング
●スイート・パフューム
ある晴れた日のこと。
冒険者ギルドに1枚の張り紙が張り出された。
『香水作りのお手伝いを募集します』
大きくそう書かれた依頼書には、以下の概要が並んでいた。
――それは、とある村の話。
フリラ、と呼ばれるその村にしか咲かない白い鈴蘭に似た花があるのだという。甘い香りが特徴の花で、この花から香水を作ることが村の収入源だった。
ところが、いざ花が咲き、香水を作る段階で職人たちが食べ物にあたり、働けなくなってしまった。
あとは香水を瓶詰めする作業だけなのだが、この瓶詰めにはなかなかのセンスがいる。
どんな瓶を使うか、どのくらいの量を入れるか――それによって値段も上下するのだそうだ。
この香水の瓶詰め作業をお願いしたい、というのが、依頼の内容だった。
報酬は少なくなるが、代わりに自分の分の香水ならば詰めて帰ってもいいとのこと。
瓶も好きなものを提供してくれるという。それを目当てに参加するのもいいだろう。
フリラの香水が売りに出されるときのキャッチコピーは『あなたを幸せにする香り』。
幸せのおこぼれをもらいにいきませんか。
ある晴れた日のこと。
冒険者ギルドに1枚の張り紙が張り出された。
『香水作りのお手伝いを募集します』
大きくそう書かれた依頼書には、以下の概要が並んでいた。
――それは、とある村の話。
フリラ、と呼ばれるその村にしか咲かない白い鈴蘭に似た花があるのだという。甘い香りが特徴の花で、この花から香水を作ることが村の収入源だった。
ところが、いざ花が咲き、香水を作る段階で職人たちが食べ物にあたり、働けなくなってしまった。
あとは香水を瓶詰めする作業だけなのだが、この瓶詰めにはなかなかのセンスがいる。
どんな瓶を使うか、どのくらいの量を入れるか――それによって値段も上下するのだそうだ。
この香水の瓶詰め作業をお願いしたい、というのが、依頼の内容だった。
報酬は少なくなるが、代わりに自分の分の香水ならば詰めて帰ってもいいとのこと。
瓶も好きなものを提供してくれるという。それを目当てに参加するのもいいだろう。
フリラの香水が売りに出されるときのキャッチコピーは『あなたを幸せにする香り』。
幸せのおこぼれをもらいにいきませんか。
解説
●やること
香水の瓶詰め作業です。売れそうな瓶、好きな瓶、なんとなくよさそうな瓶、色々な瓶を想像して香水を詰めてください。
食あたりにならなかった職人の女性が一人おり、必要があればアドバイスをもらえます。(必要がなければリプレイには出てきません)
詰めていただく香水は2本。「売るための香水」と「自分のための香水」です。
なお、アイテム発行などはございませんので、ご了承くださいませ。
●作業場
甘い香りが立ち込める小さな小屋です。
大きな瓶にたっぷりの香水が詰まっています。ここから小分けにすることになります。
天気は晴れですが、屋内作業ですのであまり関係はありません。心地よい風は入ってきます。
マスターより
はじめまして、さとう綾子と申します。
初依頼となります。キャラクター様を生き生きと描ければと思っております。
気軽にご参加いただけますと嬉しいです。
リプレイ
遠くで白い花が沢山揺れていた。あの花がフリラの花だ、と職人の女性が小屋へ八人を案内しながら言った。
(甘いのは蜜のせいかしら、それとももともとの花弁の香りなのかしら)
フリラの花を眺めながらファルマ・アラーティは考える。
(ちょっと舐めて見たくなっちゃうわね)
今は遠目で見るだけに留め、まずは香水の瓶詰めのお手伝いを。
小屋には無骨な大きい瓶が置かれていた。この中身がフリラの香水なのだという。
お願いします、と頭を下げる職人の女性。
「職人さんみんな体調悪いの? ひとりで大変だね」
ハル・チフが心配そうに言えば、スィーリーンも頷いた。
「職人の皆様が食あたりで体調を崩されたのはお気の毒ですけれど、お仕事を気にせずゆっくり療養して頂けるように頑張りましょう」
テス・クラルスは女性に「今日はご教授頼むよ」と頭を下げてから、心配そうに眉を寄せた。
「この時期は色々美味しいけれど、食あたりも多くなる。直接観ないと、薬は渡せないけど、同僚の方に水を多めに飲むよう勧めておいて。脱水予防と解毒になる」
女性は驚いた表情をしてから、テスへと深々と頭を下げた。
「香水は母上が好きでいっぱい持っていたよ。僕頑張るから色々教えてね!」
やる気十分のハルに女性も嬉しそうに微笑む。
一通り挨拶が終わると、女性は奥から沢山の小瓶を持ってきた。大きな籠に詰められた小瓶は、百個くらいあるだろうか。
「香水の瓶詰めなんてワクワクするね」
緑の瞳を輝かせるのはクレア・エクレールだ。クレアはキラキラしたものも、良い香りも大好き。
(それにアンネとマレーネさんも一緒だから、二人がどんな瓶と香りを選ぶのかも気になるなー)
クレアがちらちらと見るマレーネ・シェーンベルグは香水の香りにくん、と鼻を動かした。
「うふふ。とてもかわいらしい、あまいかおり、ですのね」
(すてきなかおりにつつまれると、きっと、しあわせなきぶんに、なれるのでしょうね)
マレーネはそう思い、両手を胸に当てた。
(わたくしが、そのおてつだい。ええ、ええ、もちろん、よろこんで)
アンネエルカはもう、どんな瓶にしようか決まっているようだった。沢山の瓶の中から理想の瓶を探している。
ユネスコ・ビスコも沢山の瓶を前に考え込んでしまう。
(ボクも収穫したお肉を売りに出す時には、見た目には十分気を遣いますからね。ボトルの選択次第で売価が変わるという話には納得感があります)
自分も売り物を出しているからこその、悩み。
(女子のはしくれとしては、ばっちり素敵なものをチョイスしたいところですが――)
ファルマも瓶を眺めて考え込む。
(収入源なのよね、それなら勿論売れそうな瓶がいいわ)
とは言え、職人ではないファルマにはどれが売れそうかはわからない。
「香水って、香りも勿論だけれど瓶を飾って楽しむのも一つの目的だと思うの。だから、少し飾り気のあるものがいいわよね?」
女性に尋ねれば、女性は頷いた。
「元の花はどんなのかしら」
フリラの花の形を聞けば、女性は壁にかかっている絵をファルマに示した。白く、ふっくらとした花が下を向いて咲いている。どこか百合の花のような気品もある、不思議な花だ。
「まぁ、可愛いのね」
「へぇこれがフリラの花?」
ハルも目をきらきらさせて絵を眺める。皆が花を改めて見たところで、アンネエルカがひとつの瓶を手に取った。
(聖霊節が近いから、それをモチーフにしてみようかしら)
沢山の瓶の中、ルビーのようにきらめく赤いガラス小瓶。形も丸くて可愛い瓶。
(この子をチョイスよ!)
両手で瓶を取り出すと、クレアが声を上げた。
「その瓶、可愛いね」
「なんだかオーナメントみたいじゃない?」
アンネエルカは微笑む。装飾用に金色のリボンも選び、小瓶に巻いていく。わくわくと眺めるクレアの前でアンネエルカは微笑んだ。
「あなたを幸せにする香り。ぐっと大人っぽい赤色だけど、中身は甘いお花の香り。憧れを胸に抱いてちょっと背伸びをしてみたいアナタにも、本当はいつだって夢を見ていたい等身大のアナタにも。どんな人にでも手に取って貰えるようにしてみたかったの」
それは聖霊節をモチーフに選んだひとつの理由でもある。
「自分へのご褒美として手に取りやすいって言うのもあるけれど、それで手元にお迎えして貰えたなら……その日の嬉しい気持ちだったりを、香る度に思い出して貰えるんじゃないかって。きっと忘れられない思い出になるわ。そうなってくれたらいいなって思うの」
「素敵。アンネの気持ち伝わるといいね!」
クレアはにこにこして、今度はマレーネの手元を覗き込んだ。
「マレーネさんはどんな瓶にするの?」
マレーネも瓶のイメージは固まっている。それでも興味本位に職人の女性に過去の売れ筋や人気の瓶を尋ねてみた。女性の示したのは多角形のシンプルな瓶だった。
「なるほど。このようなかたちのびんが、にんきなのですね。ちなみに、しょくにんさまの、おすきなかたちは?」
女性は細い円錐形の小瓶が好きなのだ、と言う。マレーネは微笑みながら、丸い形の瓶を手にとった。
「みかづきも、すてきですが。まあるいおつきさまも、きっと、とてもすてきですわ」
マレーネが瓶に詰める香水の量は口のギリギリまで。それはまるで、使っているうちに月が欠けていくかのよう。
香水を詰めた後は、キャップの部分を星のビーズのブレスレットや夜色のリボンで飾り付ける。
「本当にお月さまみたいだね」
覗き込むクレアにマレーネはにっこり。ブレスレットは、香水がなくなった後もアクセサリーとして使えるだろう。
二人のを眺め終えたクレアは、売り物用に雪の結晶が彫られた薄青の硝子瓶を手に取る。ボディはふんわり丸みを帯びていて、それでいて触るとひんやり冷たい感じがするようなそんな器。冬の朝の空気を思わせるすっきりとした清らかな香水を入れれば出来上がり。
(男のヒトって甘すぎる匂いダメな人も多いし、男性受けもするんじゃないかなーって)
テスは少し考えてから職人の女性に密閉度の高い瓶を教えてもらう。その中でも手で握れる程小さく、硝子の厚いものを選んだ。クリスタルカットのような形状で、コルクで栓のできる瓶を二個。売り物用と自分用だ。
逆にハルは沢山の瓶に驚きを隠せない。
「うわ……瓶いっぱい。どれも綺麗。え、この中から選ぶの!? 全部素敵だよ!?」
きょろきょろと瓶を眺めて。
(うーん。ん、母上が好きそうな、レディやマダムが喜んでくれそうな、そんな感じなの目指そうかな)
イメージは固まった。あとは具体的にどれを選ぶか、だが……。
(えっと瓶は少し大きめで、気品があるような……うーんとうーんと)
迷いながら瓶を見ていれば、細く繊細な見目の臙脂色の瓶に目が引き寄せられた。表面はすりガラスの技法でフリラが描かれている。瓶口と瓶底には金色の装飾が施されていて金色の吹き口には金糸で覆われた吹き出し用のポンプが飾り紐のように下がっていた。
「フリラが描かれてる。わぁ綺麗だ……僕これにするね」
香水は瓶の半分ほど入れる。瓶は大きめなので、パンパンに入っているのは好みではない。
「綺麗ですね」
テスが声をかければ、ハルははにかんだように笑った。
「えっとね、ちょっと高価なプレゼント。日用使いというより誰かのために、特別な時のプレゼントに耐えられるような高級感がある香水だよ。プレゼントを選んで、喜んで貰えたらきっと相手も、買った人も幸せになれると思うんだ!」
「そうですね」
テスが優しく微笑めば、ハルは嬉しそうに職人の女性へも瓶を見せる。
「どうかな?」
「とても素敵です」
「どんな人が買ってくれるか楽しみだね!」
一方、テスのコンセプトは「幸せへの後押しをする香水」。
(働く方は仕事の関係で、香水を朝から着ける事が 難しい人もいる。でも、アフターの会食だったり、おもいもかけない時に意中の人に会う事もあるだろう。そんな時に使える、あと一歩の自信を与えてくれるような、携帯用の香水)
選んだ瓶の底にルビーに似た硝子の粒を入れ、瓶に見合う少量の香水を。瓶口に白いファーの大きめのボンボンをつければ、それは買った人の背中を押す、優しい香水。
ユネスコは悩んだ結果、掌サイズの立方体のボトルを売るため用に選んだ。これに八割ほど香水を満たしたものが、『ビスコ・モデル』だ。
「可愛いわね」
ファルマがユネスコのボトルを覗けば、ユネスコは大きくひとつ頷いた。
「キャッチコピーが『あなたを幸せにする香り』とのことでしたので、幸せとは何か、ということをボクなりに考えてみた結果……やはり『日々安定していること』がひとつの幸せの形なのではないかと」
「なるほど」
「よって、派手さはないものの飽きの来ない形状、安定感のある一品、を意識した次第です。使い終わった後も、蝋燭立てなんかに使えそうなのも嬉しいかも、と思っています」
「その考えはよくわかるわ。じゃあ、私は……」
ファルマは小さく丸めの、複数の色のある瓶を何個か選んだ。何種類もある色は並べるだけでも可愛らしい。
「好きな色を選べるっていうのもあるけれど、集める楽しみっていうの私が好きなの」
その代わり、白い紐を瓶口の細くなっているところへ可愛らしく結わえて、花の色を表現してみる。
「瓶を小さくしたから分量がちょっと少なめになるのだけれど、その分手に取りやすい値段になるんじゃないかしら」
「お手頃価格は大事ですね」
ユネスコは売り手の立場から大きく頷いた。
練習を兼ねて、自分の分の香水から瓶詰めを始めたのはスィーリーンだ。
(甘い香りならやはり柔らかで華やかなイメージでしょうか)
考え、瓶は花を思わせる、綺麗で華やかな瓶を選んだ。だが、香水を入れるところではたと気がつく。
(量はどの位が良いのでしょう……)
見れば、皆好き好きに入れているようだが、やはり適量というものがあるだろう。スィーリーンが職人の女性に尋ねると、女性は瓶を見て、少し考えるように言った。
「その瓶だったら、六分目くらいでいいと思いますよ」
言われたとおりに丁度良いと思える量を入れる。蓋を開けた瞬間、ふわっと香りが広がって、幸せな気分になれるような。
実際、開けてみると、ふわっと香りが広がった。これでスィーリーンもほっとして、売り物用の瓶を探し始める。
スィーリーンが売り物用に選んだのは、誰でも手に取りやすい様、少しシンプルめの瓶だ。シンプルだけれども柔らかな印象の、清楚な花、のような。
量は先程の経験を生かして、やはり六分目ほど。蓋を開けた瞬間にふわっと香るが広がる感じに調節する。
(明るい幸せな気分になれる、そんな香水をお届けしたいですから)
『あなたを幸せにする香り』――そのコピーを素敵だと感じた、スィーリーンらしい出来栄えに仕上がった。
テスの自分用の香水は売り物とほぼ同じコンセプト。テスは旅暮らしが長かったため、気に入ったなら持ち歩きたいと考えたのだ。
ただ、自分用にアレンジはする。
瓶口には金色の組紐を。沈める硝子の粒は、深く美しい青。
(恋人の色彩に寄せてしまうのは仕方ないことだろう)
テスは、ここにはいない恋人のことを想い、微笑んだ。
ハルも自分用の瓶を考える。
(僕のはどうしようかな)
同じようなすりガラスの瓶に香水を入れることにした。瓶は深い青色で、モチーフは狐。ハルは銀狐のハーフビーストだ。瓶には銀で控えめな装飾がされている。
(母上に僕元気だよ、お仕事頑張ってるよってお手紙つけて送ってみようと思う)
できた自分用の瓶をハルは嬉しそうに何度も眺めては尻尾を振った。
ファルマは自分用に小さめで丸めの、黄色っぽい瓶を選んだ。
(使いたい時も決まってるの。寝る少し前、一人の時間を少し贅沢にしてくれる、甘い匂いでお腹がすいちゃうかもだけれどね。そのまま甘い香りに包まれて眠る、そんな幸せもありでしょ)
大事そうに瓶を両手で包み、ファルマは目を細めた。
ユネスコが自分用に選んだのは細長い円筒型だ。獲物を追う狩猟者が香りを纏う機会は少ないため、量も少しだけ。
(囮となる時、何かに目印をつける時など、ここぞという場面で使わせて頂くつもりです)
瓶にも勿論こだわりがある。
(あまりこういう良いボトルを入手できるチャンスってありませんからね。これなら使い終わった後に、ちょっとした薬なんかも収納できそうでありがたいです。小さくてかばんに仕舞っておけるサイズのは、けっこう良いお値段するんですよね)
使い終わっても、しっかり狩猟者。ユネスコは瓶に詰めた少量の香水を揺らして眺める。
アンネエルカは自分用に、と考え込む。
(そうね、やっぱり折角だから自分らしいもの、好きなものを選ぼうかしら。こういう機会でないと完全に好みを詰め込んだものって作れないから、やっぱりそれが一番深く思い出に残るんじゃないかなって思ったの)
そうして選んだのは夜空のような、グラデーションがかった紫色の小瓶。
クレアの視線にアンネエルカは微笑んだ。
「私、夢とか夢見る人々が大好き。そして、夢といえば夜に見るものでもあるでしょう? だから、夜空。もっというと星が瞬いていたら最高ね! きらきら輝く、皆の夢! この香水作りでも、夢を叶えるお手伝いが出来ていたら嬉しいわ」
「きっと出来てると思うよ! マレーネさんは?」
マレーネは売り物用と同じ瓶を選んでいた。もちろん、たっぷりの香水をそそいだおつきさま仕様だ。
「まずは、じぶんがきにいったものでないと、とおもいまして」
自分の好きなものが、他の人も好きだという保証はないかもしれないけれど、少なくとも、ここに一人、この香水が欲しという証左にはなるだろう。
「よぞらにうかぶ、まあるいおつきさま。うふふ。とってもとっても、すてきでしょう?」
クレアは考えてから深紅の雫型の硝子瓶を手に取る。彫り物はないけど黒のベルベットリボンがかかってて大人可愛い感じの器だ。どこか聖祭前のワクワクする空気を思わせる。
(デートとかの予定はないんだけどねー。部屋でくつろぐときにも使えたらいいなって)
「アンネやマレーネさんはどんな香りが好き? あ、今度この香水つけて三人で遊びにいこうよ!」
クレアの言葉に歓声が上がった。
ファルマは職人の女性へと声をかけた。
「あ、出来ればでいいのだけれど、香水の元になってる花……すべて收穫済みなら葉っぱでもいいのだけれど見せていただけないかしら?」
「構いませんよ、帰りにご案内致しましょう」
これはファルマ個人の単なる好奇心。
(草花に興味があるの。見たことのない植物だから、生えてる所の実物を一目見れると嬉しいわ)
「香水がいっぱい売れるといいね。私も来年は買いに来ようと思うよ」
テスの言葉に皆、微笑んだのだった。
(甘いのは蜜のせいかしら、それとももともとの花弁の香りなのかしら)
フリラの花を眺めながらファルマ・アラーティは考える。
(ちょっと舐めて見たくなっちゃうわね)
今は遠目で見るだけに留め、まずは香水の瓶詰めのお手伝いを。
小屋には無骨な大きい瓶が置かれていた。この中身がフリラの香水なのだという。
お願いします、と頭を下げる職人の女性。
「職人さんみんな体調悪いの? ひとりで大変だね」
ハル・チフが心配そうに言えば、スィーリーンも頷いた。
「職人の皆様が食あたりで体調を崩されたのはお気の毒ですけれど、お仕事を気にせずゆっくり療養して頂けるように頑張りましょう」
テス・クラルスは女性に「今日はご教授頼むよ」と頭を下げてから、心配そうに眉を寄せた。
「この時期は色々美味しいけれど、食あたりも多くなる。直接観ないと、薬は渡せないけど、同僚の方に水を多めに飲むよう勧めておいて。脱水予防と解毒になる」
女性は驚いた表情をしてから、テスへと深々と頭を下げた。
「香水は母上が好きでいっぱい持っていたよ。僕頑張るから色々教えてね!」
やる気十分のハルに女性も嬉しそうに微笑む。
一通り挨拶が終わると、女性は奥から沢山の小瓶を持ってきた。大きな籠に詰められた小瓶は、百個くらいあるだろうか。
「香水の瓶詰めなんてワクワクするね」
緑の瞳を輝かせるのはクレア・エクレールだ。クレアはキラキラしたものも、良い香りも大好き。
(それにアンネとマレーネさんも一緒だから、二人がどんな瓶と香りを選ぶのかも気になるなー)
クレアがちらちらと見るマレーネ・シェーンベルグは香水の香りにくん、と鼻を動かした。
「うふふ。とてもかわいらしい、あまいかおり、ですのね」
(すてきなかおりにつつまれると、きっと、しあわせなきぶんに、なれるのでしょうね)
マレーネはそう思い、両手を胸に当てた。
(わたくしが、そのおてつだい。ええ、ええ、もちろん、よろこんで)
アンネエルカはもう、どんな瓶にしようか決まっているようだった。沢山の瓶の中から理想の瓶を探している。
ユネスコ・ビスコも沢山の瓶を前に考え込んでしまう。
(ボクも収穫したお肉を売りに出す時には、見た目には十分気を遣いますからね。ボトルの選択次第で売価が変わるという話には納得感があります)
自分も売り物を出しているからこその、悩み。
(女子のはしくれとしては、ばっちり素敵なものをチョイスしたいところですが――)
ファルマも瓶を眺めて考え込む。
(収入源なのよね、それなら勿論売れそうな瓶がいいわ)
とは言え、職人ではないファルマにはどれが売れそうかはわからない。
「香水って、香りも勿論だけれど瓶を飾って楽しむのも一つの目的だと思うの。だから、少し飾り気のあるものがいいわよね?」
女性に尋ねれば、女性は頷いた。
「元の花はどんなのかしら」
フリラの花の形を聞けば、女性は壁にかかっている絵をファルマに示した。白く、ふっくらとした花が下を向いて咲いている。どこか百合の花のような気品もある、不思議な花だ。
「まぁ、可愛いのね」
「へぇこれがフリラの花?」
ハルも目をきらきらさせて絵を眺める。皆が花を改めて見たところで、アンネエルカがひとつの瓶を手に取った。
(聖霊節が近いから、それをモチーフにしてみようかしら)
沢山の瓶の中、ルビーのようにきらめく赤いガラス小瓶。形も丸くて可愛い瓶。
(この子をチョイスよ!)
両手で瓶を取り出すと、クレアが声を上げた。
「その瓶、可愛いね」
「なんだかオーナメントみたいじゃない?」
アンネエルカは微笑む。装飾用に金色のリボンも選び、小瓶に巻いていく。わくわくと眺めるクレアの前でアンネエルカは微笑んだ。
「あなたを幸せにする香り。ぐっと大人っぽい赤色だけど、中身は甘いお花の香り。憧れを胸に抱いてちょっと背伸びをしてみたいアナタにも、本当はいつだって夢を見ていたい等身大のアナタにも。どんな人にでも手に取って貰えるようにしてみたかったの」
それは聖霊節をモチーフに選んだひとつの理由でもある。
「自分へのご褒美として手に取りやすいって言うのもあるけれど、それで手元にお迎えして貰えたなら……その日の嬉しい気持ちだったりを、香る度に思い出して貰えるんじゃないかって。きっと忘れられない思い出になるわ。そうなってくれたらいいなって思うの」
「素敵。アンネの気持ち伝わるといいね!」
クレアはにこにこして、今度はマレーネの手元を覗き込んだ。
「マレーネさんはどんな瓶にするの?」
マレーネも瓶のイメージは固まっている。それでも興味本位に職人の女性に過去の売れ筋や人気の瓶を尋ねてみた。女性の示したのは多角形のシンプルな瓶だった。
「なるほど。このようなかたちのびんが、にんきなのですね。ちなみに、しょくにんさまの、おすきなかたちは?」
女性は細い円錐形の小瓶が好きなのだ、と言う。マレーネは微笑みながら、丸い形の瓶を手にとった。
「みかづきも、すてきですが。まあるいおつきさまも、きっと、とてもすてきですわ」
マレーネが瓶に詰める香水の量は口のギリギリまで。それはまるで、使っているうちに月が欠けていくかのよう。
香水を詰めた後は、キャップの部分を星のビーズのブレスレットや夜色のリボンで飾り付ける。
「本当にお月さまみたいだね」
覗き込むクレアにマレーネはにっこり。ブレスレットは、香水がなくなった後もアクセサリーとして使えるだろう。
二人のを眺め終えたクレアは、売り物用に雪の結晶が彫られた薄青の硝子瓶を手に取る。ボディはふんわり丸みを帯びていて、それでいて触るとひんやり冷たい感じがするようなそんな器。冬の朝の空気を思わせるすっきりとした清らかな香水を入れれば出来上がり。
(男のヒトって甘すぎる匂いダメな人も多いし、男性受けもするんじゃないかなーって)
テスは少し考えてから職人の女性に密閉度の高い瓶を教えてもらう。その中でも手で握れる程小さく、硝子の厚いものを選んだ。クリスタルカットのような形状で、コルクで栓のできる瓶を二個。売り物用と自分用だ。
逆にハルは沢山の瓶に驚きを隠せない。
「うわ……瓶いっぱい。どれも綺麗。え、この中から選ぶの!? 全部素敵だよ!?」
きょろきょろと瓶を眺めて。
(うーん。ん、母上が好きそうな、レディやマダムが喜んでくれそうな、そんな感じなの目指そうかな)
イメージは固まった。あとは具体的にどれを選ぶか、だが……。
(えっと瓶は少し大きめで、気品があるような……うーんとうーんと)
迷いながら瓶を見ていれば、細く繊細な見目の臙脂色の瓶に目が引き寄せられた。表面はすりガラスの技法でフリラが描かれている。瓶口と瓶底には金色の装飾が施されていて金色の吹き口には金糸で覆われた吹き出し用のポンプが飾り紐のように下がっていた。
「フリラが描かれてる。わぁ綺麗だ……僕これにするね」
香水は瓶の半分ほど入れる。瓶は大きめなので、パンパンに入っているのは好みではない。
「綺麗ですね」
テスが声をかければ、ハルははにかんだように笑った。
「えっとね、ちょっと高価なプレゼント。日用使いというより誰かのために、特別な時のプレゼントに耐えられるような高級感がある香水だよ。プレゼントを選んで、喜んで貰えたらきっと相手も、買った人も幸せになれると思うんだ!」
「そうですね」
テスが優しく微笑めば、ハルは嬉しそうに職人の女性へも瓶を見せる。
「どうかな?」
「とても素敵です」
「どんな人が買ってくれるか楽しみだね!」
一方、テスのコンセプトは「幸せへの後押しをする香水」。
(働く方は仕事の関係で、香水を朝から着ける事が 難しい人もいる。でも、アフターの会食だったり、おもいもかけない時に意中の人に会う事もあるだろう。そんな時に使える、あと一歩の自信を与えてくれるような、携帯用の香水)
選んだ瓶の底にルビーに似た硝子の粒を入れ、瓶に見合う少量の香水を。瓶口に白いファーの大きめのボンボンをつければ、それは買った人の背中を押す、優しい香水。
ユネスコは悩んだ結果、掌サイズの立方体のボトルを売るため用に選んだ。これに八割ほど香水を満たしたものが、『ビスコ・モデル』だ。
「可愛いわね」
ファルマがユネスコのボトルを覗けば、ユネスコは大きくひとつ頷いた。
「キャッチコピーが『あなたを幸せにする香り』とのことでしたので、幸せとは何か、ということをボクなりに考えてみた結果……やはり『日々安定していること』がひとつの幸せの形なのではないかと」
「なるほど」
「よって、派手さはないものの飽きの来ない形状、安定感のある一品、を意識した次第です。使い終わった後も、蝋燭立てなんかに使えそうなのも嬉しいかも、と思っています」
「その考えはよくわかるわ。じゃあ、私は……」
ファルマは小さく丸めの、複数の色のある瓶を何個か選んだ。何種類もある色は並べるだけでも可愛らしい。
「好きな色を選べるっていうのもあるけれど、集める楽しみっていうの私が好きなの」
その代わり、白い紐を瓶口の細くなっているところへ可愛らしく結わえて、花の色を表現してみる。
「瓶を小さくしたから分量がちょっと少なめになるのだけれど、その分手に取りやすい値段になるんじゃないかしら」
「お手頃価格は大事ですね」
ユネスコは売り手の立場から大きく頷いた。
練習を兼ねて、自分の分の香水から瓶詰めを始めたのはスィーリーンだ。
(甘い香りならやはり柔らかで華やかなイメージでしょうか)
考え、瓶は花を思わせる、綺麗で華やかな瓶を選んだ。だが、香水を入れるところではたと気がつく。
(量はどの位が良いのでしょう……)
見れば、皆好き好きに入れているようだが、やはり適量というものがあるだろう。スィーリーンが職人の女性に尋ねると、女性は瓶を見て、少し考えるように言った。
「その瓶だったら、六分目くらいでいいと思いますよ」
言われたとおりに丁度良いと思える量を入れる。蓋を開けた瞬間、ふわっと香りが広がって、幸せな気分になれるような。
実際、開けてみると、ふわっと香りが広がった。これでスィーリーンもほっとして、売り物用の瓶を探し始める。
スィーリーンが売り物用に選んだのは、誰でも手に取りやすい様、少しシンプルめの瓶だ。シンプルだけれども柔らかな印象の、清楚な花、のような。
量は先程の経験を生かして、やはり六分目ほど。蓋を開けた瞬間にふわっと香るが広がる感じに調節する。
(明るい幸せな気分になれる、そんな香水をお届けしたいですから)
『あなたを幸せにする香り』――そのコピーを素敵だと感じた、スィーリーンらしい出来栄えに仕上がった。
テスの自分用の香水は売り物とほぼ同じコンセプト。テスは旅暮らしが長かったため、気に入ったなら持ち歩きたいと考えたのだ。
ただ、自分用にアレンジはする。
瓶口には金色の組紐を。沈める硝子の粒は、深く美しい青。
(恋人の色彩に寄せてしまうのは仕方ないことだろう)
テスは、ここにはいない恋人のことを想い、微笑んだ。
ハルも自分用の瓶を考える。
(僕のはどうしようかな)
同じようなすりガラスの瓶に香水を入れることにした。瓶は深い青色で、モチーフは狐。ハルは銀狐のハーフビーストだ。瓶には銀で控えめな装飾がされている。
(母上に僕元気だよ、お仕事頑張ってるよってお手紙つけて送ってみようと思う)
できた自分用の瓶をハルは嬉しそうに何度も眺めては尻尾を振った。
ファルマは自分用に小さめで丸めの、黄色っぽい瓶を選んだ。
(使いたい時も決まってるの。寝る少し前、一人の時間を少し贅沢にしてくれる、甘い匂いでお腹がすいちゃうかもだけれどね。そのまま甘い香りに包まれて眠る、そんな幸せもありでしょ)
大事そうに瓶を両手で包み、ファルマは目を細めた。
ユネスコが自分用に選んだのは細長い円筒型だ。獲物を追う狩猟者が香りを纏う機会は少ないため、量も少しだけ。
(囮となる時、何かに目印をつける時など、ここぞという場面で使わせて頂くつもりです)
瓶にも勿論こだわりがある。
(あまりこういう良いボトルを入手できるチャンスってありませんからね。これなら使い終わった後に、ちょっとした薬なんかも収納できそうでありがたいです。小さくてかばんに仕舞っておけるサイズのは、けっこう良いお値段するんですよね)
使い終わっても、しっかり狩猟者。ユネスコは瓶に詰めた少量の香水を揺らして眺める。
アンネエルカは自分用に、と考え込む。
(そうね、やっぱり折角だから自分らしいもの、好きなものを選ぼうかしら。こういう機会でないと完全に好みを詰め込んだものって作れないから、やっぱりそれが一番深く思い出に残るんじゃないかなって思ったの)
そうして選んだのは夜空のような、グラデーションがかった紫色の小瓶。
クレアの視線にアンネエルカは微笑んだ。
「私、夢とか夢見る人々が大好き。そして、夢といえば夜に見るものでもあるでしょう? だから、夜空。もっというと星が瞬いていたら最高ね! きらきら輝く、皆の夢! この香水作りでも、夢を叶えるお手伝いが出来ていたら嬉しいわ」
「きっと出来てると思うよ! マレーネさんは?」
マレーネは売り物用と同じ瓶を選んでいた。もちろん、たっぷりの香水をそそいだおつきさま仕様だ。
「まずは、じぶんがきにいったものでないと、とおもいまして」
自分の好きなものが、他の人も好きだという保証はないかもしれないけれど、少なくとも、ここに一人、この香水が欲しという証左にはなるだろう。
「よぞらにうかぶ、まあるいおつきさま。うふふ。とってもとっても、すてきでしょう?」
クレアは考えてから深紅の雫型の硝子瓶を手に取る。彫り物はないけど黒のベルベットリボンがかかってて大人可愛い感じの器だ。どこか聖祭前のワクワクする空気を思わせる。
(デートとかの予定はないんだけどねー。部屋でくつろぐときにも使えたらいいなって)
「アンネやマレーネさんはどんな香りが好き? あ、今度この香水つけて三人で遊びにいこうよ!」
クレアの言葉に歓声が上がった。
ファルマは職人の女性へと声をかけた。
「あ、出来ればでいいのだけれど、香水の元になってる花……すべて收穫済みなら葉っぱでもいいのだけれど見せていただけないかしら?」
「構いませんよ、帰りにご案内致しましょう」
これはファルマ個人の単なる好奇心。
(草花に興味があるの。見たことのない植物だから、生えてる所の実物を一目見れると嬉しいわ)
「香水がいっぱい売れるといいね。私も来年は買いに来ようと思うよ」
テスの言葉に皆、微笑んだのだった。
マスターコメント
まずはご参加、本当にありがとうございました!
皆様、想いの詰まった瓶を選んでいただいて、執筆していてこちらもほっこり。
とても楽しく執筆させていただきました。ありがとうございました!
願わくば、あなたの思い出の一頁となりますように。
なお、シナリオの性質上、MVPと称号は付与しておりません。
ご了承くださいませ。
ショートシナリオ易しい 報酬:少ない8 / 4〜8人
2020年12月02日 13時41分11秒 公開
大成功
相談掲示板
はじめまして!ハル・チフです! 香水どんなのにしようかな 今から楽しみ、皆さんよろしくね
No.2
ユネスコです。 販売するもののお手伝いとなると、なかなか緊張しますね。 よろしくお願いします。
ファルマよ、よろしくね。 選択肢が多くて悩んでしまいそうだけれど、とても楽しみだわ。
スィーリーンと申します。 よろしくお願いします。 色々悩んでしまいそうですけれど楽しみですね。
初めまして。 テス・クラルスだよ。 『あなたを幸せにする香り』だなんて、素敵だね。 どんな瓶に詰めようか、考えるだけでも楽しいねぇ。 どうぞよろしくね。
クレアだよー! とってもワクワクするお仕事だねっ♪ どんな香りの香水があるか今から楽しみ。 みんなよろしくね!
まれーねと、もうします。まれーね・しぇーんべるぐ、ですわ。 よろしくおねがいいたします。 うふふ、こうすいのびんづめ。びんのかたちだけでなく、そうしょくにもこだわったら、きっとすてきになりますわよね。 うりものようも、ですが、じぶんようのものも、どのようにするか、いまからわくわくしてしまいますわ。
アンネエルカよ、アンネって呼んでくれても大丈夫。 きっとこれから誰かの宝物になる香水作りのお手伝い。とっても重要任務ね! 自分の分を作っていいのもワクワクだけど、お仕事もちゃーんと頑張りたいわ!