【CP】似た少女

韮瀬隈則

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シナリオID:187

オープニング

●
「問題がふたつ……」
 ギルド受付嬢が二本指をたてる。
「ひとつめ。皇子様、レイウェスト様がここ、難民キャンプ周辺を訪れていらっしゃる。……らしいわ」
 複雑な顔。
 それはそうだろう。ド田舎の農業組合兼業窓口で『事務のねぇちゃん』をしてた彼女に、帝国皇族の生き残りがどうのと面倒を持ち込まれても困惑しかない。
 なにせ――
「ビミョーな立ち位置におられる皇子様と、有象無象がわやくちゃな難民キャンプ。騒動がおきるわよ絶対。みんな物申したいことあるでしょ? たとえ好意的でもよ」
 だから、と念をおす。
 面倒がおきる前に、こっそり! すみやかに! 難民キャンプのギルドの裏口にご案内して! 皇子様はギルド員先輩諸氏におまかせして!
 すくなくとも、ワタシの仲介した依頼では厄介ごとおこさないで。

「あ、ふたつめね」
 皇子様に関わりたくないオーラを噴出させていた受付嬢が、促されて更に顔をしかめる。
「ボランティア有志で目立ってきた一団がいるんだけど、これも扱いがメンドくさいっていうか、気を使わないと今後厄介な勢力になりそうなカンジでね?」
 善意はありがたいのよ? でもほら、お調子に乗られて権力とか持たれると碌なことにならないな、って人って居るじゃない?
 わきわきもやもや、と喉元で両手の指を蠢かせ、わかるでしょ感覚的に? と受付嬢。
「具体的には、自警団と称して近場まできた避難民や商人の護衛をかってでるんだけど、戦力的にはお察しくださいなの。で、謝礼というか喜捨を暗に要求して、せしめたそれを集団の名義で難民キャンプで配給するのね」
 もやもやわきわき、受付嬢の指はさらに蠢く。
 善意なの。いいことをしているの。でもね、でもねっ?
「もし今回の仕事ででくわしたら、イイカンジにあしらっておいてね」

 ――以上。
 避難民ならびに補給隊の、護衛兼お出迎え依頼の注意事項でしたっ!
 受付嬢がパシッっと書類を机にひろげ、サインはここよと指をさす。

 なんのことはない。キャンプ北西部の荒れ地を通る細い馬車道。
 いまだクリーパー残党が報告されるそこから、疲弊しきった来訪者をキャンプまで護衛し案内するだけの仕事。

●
 泥で汚れた顔の汗をぬぐって、少女――サキは立ち上がった。
 ここは難民キャンプにほど近い荒野の馬車道、そのせまい轍からはずれて、3m近く窪地になった場所に滑落した幌馬車の陰だ。

 このあたりの荒れ地は凹凸がはげしい。高低差は1~3m程度だが窪地と小山がランダムに敷き詰められ、その中をなんとか整備した馬車道が通る。
 道幅は5mあればよいほう。多くはそれ以下だ。人はまだ道を外れても歩きにくいだけだが、馬車は一度滑落したら窪地から抜け出すのは大仕事だ。ましてや、それが襲撃によるものならば、なお。

(ごめんなさい。こんな弔い方しかできなかった……)
 横転して大破した馬車の陰に、土盛りがふたつ。
 幌馬車がクリーパー残党に襲撃され、体当たりをくらって窪地に転がり落ちたのは昨夜のことだ。明け方、頭を強打して気絶したサキが目を覚ました時、彼女を庇うように覆いかぶさった父親の躰はすでに冷たく。もう一台の馬車を曳いていた手代の若者の遺体も、鞭を握りしめたまま喉笛を切り裂かれていた。
「アレは馬を喰うんだ」
 通り過ぎてきた道々で聞いた噂。
 キャンプまであと数キロだからと小さな隊商を急がせた父を責める気にはなれなかった。帝都郊外の街と国境の村をむすぶ個人商店。店はもう無い。そんな寄る辺ない自分たちは、積荷を元手に帝国の残滓である共同体のどこかに身を寄せるほかなかったのだから。

 溜息をつき、サキは周囲を見回して小さく震えた。
 そろそろ日が傾き始める。急いで難民キャンプに向かわなければ……。
 身の回りぶんだけのちいさな荷物をまとめ、女物の服を男物に着替える。
「男装するなら、髪……切らなきゃね……」
 太腿を覆い隠すまでの艶やかな黒髪。一商人の娘に過ぎた身なりだが、サキの紅玉色に輝く瞳とあいまって、評判の看板娘だからと父はサキの黒髪を愛したものだ。

 その時だ。
 ナイフ片手のサキに、喧騒が聞こえてきた。
 窪地のサキから20mほど。道を急ぐ荷馬車数台に群がる男たちが何人か。
(盗賊……? ではない?)
 キャンプに向かう隊商やその護衛なら、助けを求めて同行させてもらえばいい。一見ではそう見えるのに揉めている様子なのは何故だろう?

「だからさぁ、保護して難民キャンプまで同行するって。見ろ、あの襲われて壊れた馬車。危険なんだよ?」
「その積荷、キャンプ宛だろ? 管理は俺たちの責任でもあるんだから」
 男たちはギルドや軍からの派遣者だろうか? しかし――
「じゃあ、向こうからやって来る冒険者はなんだ? 俺たちが聞いてた出迎えはアッチで、君らは非正規の自警団だよな?」
 荷馬車の御者が100メートル程先を指さし、正規の査収の問題だと突っぱねるうち、切羽詰まった様子のほかの御者が悲鳴を上げた。

「おいっ! あそこに湧いて出たのはクリーパーじゃないのか!」
「自警団(おまえら)でも冒険者でもどっちでもいい! なんとかしてくれ!」

 クリーパー!!
 サキは思わず悲鳴をあげて、その声で御者と自警団の男たちがサキに気付く。
 生き残りか? 大丈夫か? 早くこちらへ……
 次々とあがるサキを案ずる声にひとつ、打算混じりの驚きの声が混ざった。

「皇子様だ! なぁ、レイウェスト皇子殿下ですよね!? むかし帝都でお見かけした皇子様だ。あぁ、皇子様、指揮をお願いしますよ。俺たち自警団が護衛をしますよ!」

(違う……っ!)
 サキの否定の声はかき消された。
 自警団の一人がサキの手を取って馬車道に連れ出そうとしたのと、ギルド経由の冒険者が荷馬車に到達したのがほぼ同時。
 一瞬遅れて、小型クリーパー数匹がが一団に襲い掛かった。


 かくして――
 『事務のねぇちゃん』の依頼をうけた冒険者たちは、皇子様(???)と自警団モドキとクリーパーの相手を、一気に背負うこととなる。

解説

●目的  荒れ地の馬車道を通過する避難民と補給隊を護衛、難民キャンプまで送迎せよ  なお、受付嬢はクリーパー以外にも厄介な要因を挙げている ●現地情報  難民キャンプまで数キロの荒れ地  1~3mの高低差の凹凸がひろがっており、そのなかを縫うように馬車道が通る  窪地はややぬかるんでおり馬車が転落すれば復帰は困難がともなう  小山も岩と腐葉土の混在で通行には向かない  馬車道は固められしっかりしているが、道幅は3m~5m  接敵場所については道幅5m弱と計算してよい  ここ数日、クリーパー残党が馬を襲撃し食い荒らす被害報告があがっている ●敵情報  肉食獣型クリーパー(小型) × 6体  中型のクマと野生犬が混ざりあった形状  突進からの体当たり、跳躍からの噛みつき、鋭利な爪による切り裂き、など  馬を好んで喰うが、抵抗する人間を襲うことに躊躇はない  弱いものから狙う傾向がある ●護衛対象  近隣の村、ならびに軍駐屯地からの補給馬車3台  2頭立てだが純粋な荷馬車であり、武装はない  御者3名のうち、1名は授恵者だが武装は手斧1本のみ ●NPC情報  サキ:  商人の娘  難民キャンプへ向かう途中、クリーパーの襲撃を受け家族らを失う  帝国皇子レイウェスト・バルダスに似ている  自警団:  難民キャンプのボランティア団体のひとつ  非正規に自警団を組織し、警護や物資管理の主導権を得ようとしている  遭遇時、雲助まがいに補給隊に迫っていたが当人たちは善意のつもりである

マスターより

 はじめまして。またはお久しぶりです。韮瀬です。  このたび、アニエピカにてMSを務めさせていただくこととなりました。  OP長ぇっ! しかも初手からシリアスな連動モノですが、大丈夫か自分?  面倒な要因が2つほど混入していますが、基本的に戦闘部分にはヒネリはありません。  受付嬢の心の平安……もとい、補給隊の無事なキャンプ到着のためご助力ください。

リプレイ

●
「急いで! クリーパーが出現したよ!」
 ニーラ・メッコの叫びに、冒険者たちは走りながら武器を抜く。
(……間に……合ったっ)
 割って入った。
 強引に、しかし確実に。その背に補給隊を庇う。
 荷馬車の往く手を阻むように、馬車道のへりからゆらりと立ち上がった、熊とも犬ともつかぬ異形の群れ。
 彼らを一切、補給隊に近づけるわけにはいかなかった。
 なぜなら――授恵者確定は補給隊御者の親方だけ。残りの一団はおそらく新米と非授恵者(弓持ちと盾にこん棒持ち)の混成。なによりあの子は!?

「無事か? 状況は……」
「ギルドの冒険者か! ちょうどいい。レイウェスト皇子様だ! お前達は敵の討伐を担当してくれ!」
 フィニエス・クーガに最後まで言わせず、長い黒髪の少年をまるで独り占めするかのように手を引いた男が叫ぶ。
(レイウェスト皇子と自警団か? 早々これか! たまったもんじゃねえな!)
 『事務のねぇちゃん(受付嬢)』が言ってた奴! よりによって束になって騒動中ときた!
 フィニエスはげんなりした表情を瞬時に引っ込める。帝国には世話になった身だ。粉骨砕身をもって臨むこと自体は騎士の誉だ。だが……厄介だ。

「大丈夫だよ。前にはね、私が立つ」
 ――最前線。
 ヘレン・ワーグナーの気だるげな声が、「だから援護よろしくね」とフィニエスに。
 真っ向勝負は望むところ。恐れ? 感じたことなど一度もない。けれども……
(6匹ねぇ。搦め手とか一斉突撃とか? をやられなければ抜かれはしないが、希望的観測か。となると、後ろのほう(護衛対象)対応する担当は面倒が重なるかな)
 だるい。
 面倒は任せていいよね? とフィニエスに次いでニーラとアンジェリカ・ミュクーサ・リーズデルトにむけて、振り返らずに盾ごと手を振ってみる。

「任されたっス」
 うぇ~い! おーけい。護衛対象を元気づけるよう、努めて明るく飄々、アンジェリカが杖を掲げて応える。
「任せたぞっ! さぁ、皇子様……」
 喰い気味に被る自警団の声に、(いや、キミらに言ってんじゃないんスけどね?)と振り向いて、アンジェリカの眉がピクリと上がる。
(レイウェスト皇子! ……皇子?)
 似てる。外見は皇子そのものだ。けれど、感覚(過去の対面)が違うとささやいている――。

 クリーパーの初撃!
 焦れた一匹が仕掛けた馬への吶喊。想定済みだとヘレンが動く。
 驚く馬が暴走しては元も子もないのだ。手綱をしぼる熟練の御者へ「制御は頼む」と、馬の目前で庇うように身を滑らせ、鉄剣を振りぬく。
「今のは軽いひと振り」
 ――嘘(ハッタリ)だ。馬車を獲物とする敵だ。カウンターで開く大口へ一太刀浴びせた衝撃は、相応に重い。
 見事な制御の先頭馬車御者がギルドで聞いた授恵者か。武装は望めないが確かな腕だ。ああ……信頼していい。見栄をきって安心させねばならない後ろの有象無象にくらべれば!
 フィニエスの攪乱射撃、ニーラとアンジェリカが放つ魔蝕とスタティックフィールド(行動阻害)のコンビネーションが、残り5匹の牽制を成功させていた。
「初手は上々……っ!」
 このまま一気に削って叩く! そう続くはずのフィニエスの背後で悲鳴が上がる。
 敵の吶喊に驚いて、窪地へよろけた自警団の男と引きずられて巻き添えになった少年(皇子)。
「大丈夫! このまま馬車の陰に下がってて」
 追撃を中断したニーラが、とっさに窪地から少年(皇子)を抱きかかえて引き戻す。
(!! やっぱり!)
『お・ん・な・の・こ(皇子様じゃない)』
 この体格。声を出さずに口パクで伝える。冒険者全員が感じていた違和感。
(そうだろうな……)
(ん……わかってた)
「あちゃー(誤解とくトコからかぁ)」
 なおも皇子皇子と騒ぐへっぴり腰の自警団を横目に、敵の牽制と削りを続けるアンジェリカの、心の声が漏れていた。

●
「皇子の御前だ。トドメは我らに任せてもらおう」
 失態を取り繕うとしてか自警団の一人ががなりたてる。
「だから状況は!? おまえらも要救助者(その子)も自力避難できるのか? だいたい、その子は独りでこの馬車道にいる。皇子が噂の凄腕もつけずにうろつくか?」
 状況はさっきも聞いたがな、とフィニエスが問う。ギャースカ五月蠅いわりに拘泥した答えへの苛立ちは、クリーパーへの一射に叩きつけた。索敵は当然、状況把握もオレのスキルのほうが速いだろうこれは?
「そゆこと聞いてンじゃないし、その子は皇子様じゃなぃス。怪我人は? 戦力は? 共闘できるにしても適材適所あるっスよね?」
「先ずは下がって戦力立て直して。最前線は授恵者や傭兵さんに任せて。貴方達じゃ太刀打ちできずに死んじゃうよ? そこの弓の人も盾持ってる人も、馬車の荷台で警戒と防衛に特化して!」
 わかりやすく具体的に言わねばならないのか?
 アンジェリカもニーラも、共闘方針が定まらなければキャスターの実力を存分に振るえはしない。最悪、味方攻撃さえしなければ、ニーラの放つ魔蝕(筋力低下)だけじゃなくダブり上等で攻撃スキル連発してしまおうか?
 第一、これ以上、あの女の子にレイウェスト誤認という負担をかけさせたくはない。

「……私が」
 ――その時だ。険悪になりかけた空気を、澄んだ少年(少女)の声が破る。
「私が何者であっても、いまは生存の努力をすべきでしょう? 全員無事でなければ!」
 誰も、もう誰も。死んでしまってはいけないでしょう?
 それはサキの、いや、ここには居ないはずのレイウェスト皇子の叫び。

 死んでしまっては、死なせてしまってはいけない!
 その言葉に我に返ったのか……弾けたように自警団達が配置につく。
 誰であっても自分たちが力になろう。彼らの最初の志は、たしかにそのとおりだったのだから。
「正解。君たちの善意が成し遂げるものは、己の役割を果たした先にあると思うよー」
 自警団を評したヘレンのだるげな声に僅かな安堵が混じる。あの女の子も頑張った。皇子様じゃないのに、あの横転した馬車の関係者だろうに、叫ぶにも勇気が要ったろうに。
「遅くなってごめんね。でも私らが来たからには大丈夫だからー」

 さて、ここからだ。
 ここからがやっと本番だ。
「索敵はオレに任せろ。広い視野(ホークアイ)はダテじゃない。おい。最後尾担当の自警団の弓持ちの。万一抜けちまったら教えるから馬車に接近させず牽制しまくれ。後ろから増援でも涌いたら俺を呼べ!」
 フィニエスの調子が戻ってきた。抑圧(気疲れ)からの解放と、一気にカタをつける算段で、スキルも矢もケチるつもりは毛頭ない。ニーラの連発するメテオライトの光弾がまた、フィニエスの攪乱にたたらを踏んだクリーパーに命中する。
 疲弊を前に、熊犬(クリーパー)どもは、どうやら正面突破を諦めたらしい。
(流石に茹でガエルにはならん、か……だが想定済みだ。てめぇらの一挙一動をオレが見逃すわけがねぇ)
 アンジェリカ、ニーラ。奴らが行くぞ。
 振り向かず、顎をくぃとむける仕草で馬車列左右を睨むふたりに警告する。
 警告した端から2匹が馬車道右端を駆け抜けようとし……
「クソがっ! タダで抜かせるわけがねぇっ!」
 1匹が側頭部を射貫かれ転倒する。即死、はならなかった。もう1匹、冥途の土産にたっぷりのその身を蝕むエーテルの楔を撃ち込んだ。
「右1匹っ!」
 フィニエスは追わず敵進行方向を叫ぶ。あのキャスター二人(ニーラとアンジェリカ)なら迎撃に抜かりはない。
 それより――。

 ――数秒前。
(熊犬(あいつら)、隙をついてフェイントする知恵だけはあるのだね……)
 ふぅん、とヘレンは変な感心の声を上げた。
 抜けようとする敵の3匹目が、援護射撃の切れ間をぬって馬車列右寄りに迫る。先の2匹に追従するように、しかし実際は先頭2匹を煙幕として。
 急激に方向転換し跳躍から襲い来る先にあるのは、先頭馬車の馬の喉元。
 割って入るのに盾は間に合わなかった。その代償(かわり)のカウンター、ヘレンの輝く大剣から放たれる戦士の一断で喰らい付くことだけに特化したクリーパーの脳天は砕かれ果てる。しかしその代償は、小さくはない。
 切り裂かれたヘレンの胸当ての下からぽたりと滴る鮮血を、フィニエスは見逃さなかった。
「ん。ありがと」
「オレのヒールの残弾全部、ヘレンにブチ込める算段だからな。遠慮すんなよ!」
 くすり、とヘレンは笑う。フィニエスの放つ癒し(ヒール)の光はぶっきらぼうな口調に反して暖かい。
(一匹屠って、私のさっきの死に損ないが一匹。フィニエスの瀕死ちゃんが1匹。残りの3匹は皆が削りまくったあとだが……さて、どうしたものかねー?)
 正直、ヘレンは自分自身のことはどうでもいい。仲間だって巧くやるはずだ。けれど、背後に馬の怯え興奮した息遣い……、御者の卓越した腕があってもクリーパーとの対峙は彼ら(馬たち)にキツい。
「ふぅ」
 一気呵成にカタをつける。気合付けに息を吐いて――ヘレンとフィニエスは手負い2匹に対峙する。

「左に来たのは、ボクに2匹纏めてお任せっスよ!」
 続く2匹の前線突破警告をあげたフィニエスに、アンジェリカのおどけた返答。
 彼ならそれでわかるはずだ。
(そう……纏めて。私がメテオライト(纏めて牽制)を撃てば、フィニエスはかぶせて追撃(ハーツベインショット)してくれる。そこを……)
「盾持ってる人と御者さんっ、お馬さん保護と制御をよろしくっスぅ!!」
 クリーパー君たち、馬車道から逸れたのが敗因っスねぇ。
 ほら、ボク、天才っスから。
 ほらほら、メテオライト(光の玉)に爆炎(火の玉)に、おまけにフレイムゲイズ(炎の玉)……
 明るく元気に、馬車道脇の窪地にまんまと熊犬(クリーパー)を押し込んだアンジェリカは、遠慮なしに攻撃を叩き込んでゆく。
 ――実際のところ。遠慮などできる余裕なぞないのだ。
「自警団の弓のひとっ! 万一っ、敵が火の玉地獄から這い出てきたらっ、当てなくていいから近づかないよう矢を浴びせて欲しいっス!!」
 危なくないように隠れながら! こんな感じでオナシャス!
 窪地から這い出かけたクリーパーに魔矢を射かける。追従する自警団の射撃にアザマスッと声援を贈る。
(馬車に吶喊されたら終わりなんだよ。助走のため距離をとったトコロを速攻で叩くしかないんだ。迅速に確実に……)
 内心をおくびにも出さず。
 しばし後に、黒焦げで絶命したクリーパー2匹に対して「流石ボクっスね」とアンジェリカは笑うのだ。

 そうだ。吶喊されたら終わりなのだ。
「右は(フィニエスの引継ぎ)私が!」
 ニーラの迎撃に隙はない。無数の稲妻が召喚(アーケインテンペスト)され、クリーパーが吶喊為らずに転倒する。
(……次に来るのは、再突進よね?)
 ゴクリ、と自身が唾を飲み込む音が驚くほど大きい。
 馬車と護衛対象(自警団と女の子)の盾にできるものは、紙装甲もイイトコのニーラ自身の体躯しかなかった。
(大丈夫。なんとかなる(なんとかする)。ヘーキヘーキ……)
 来た! 熊って見かけによらず素早いし、犬混ざってるのも卑怯でしょ?
 冷や汗と高揚を自覚してニーラは叫ぶ。
「エルフのド根性っっナメてんじゃないわよっ! おりゃりゃ、おりゃぁっ!」
 エーテルバリア(光の防御膜)を纏ったニーラが長杖を光とともに振るい、クリーパーを跳ね飛ばす。魔蝕の効果があるにせよ――この逆転ホームランは自警団のド肝を抜いた。
「二度とっ! 馬車にっ! よってこないでよねっ!」
 窪地に滑落した敵に反撃を許さず、ニーラはメテオライトを放つ。
「お、俺たちに、で、できることを」
 折しも……アンジェリカへの援護射撃で経験を得て、自警団の牽制射撃であってもニーラの魔法攻撃をじゅうぶんに支えられた。クリーパーが光の中で果てた時には、思わず歓声があがった。

●
 ――戦闘終了後。
 ヘレンの頷きで、自警団がおずおずと損害状況の把握を始める。フィニエスの索敵結果はクリア(敵影無し)。乱れた荷物の整理まで自警団に任せられれば、御者は馬のケアに専念できるだろう。
(あの子にも負担掛けなくて済むしー……)
 ヘレンの視線の先に、馬車道に佇むレイウェストに似た少女。

「やれやれだ。皇子に似てる子。怪我はないか? 泥だらけで血もついてるじゃないか」
 フィニエスが少女(サキ)の顔を覗き込み、「……っと、女の子だったな」と汚れを拭おうとした手を引っ込める。
「本当にそっくりだ……。間違えられて災難だったな。怖かっただろう? 難民キャンプまで送り届けるから安心してくれな」
 遅れてごめんな、と、小さく付け加えてニーラを呼ぶ。手当は女の子同士がいいはずだ。
「怪我っ! 大丈夫? ほかに傷はない?」
 新しい怪我は小さな擦り傷だけなのを確認し、ニーラは昨夜の襲撃が原因の傷を癒す。
 やっぱりこの子は、あそこに滑落した馬車の持ち主だ。
「なにか幌馬車から持ち出す物があるなら手伝うよ?」
 今後の生活で元手は少しでもあった方がいい。生きるため男装までしたこの少女に、これ以上なにかを捨てさせたくない。
 小さく頷いてよろけながら幌馬車へ向かうサキに、肩を貸すニーラは馬車の陰に隠された土盛りふたつに息をのむ。
「……頑張ったっスね。本当に、本当に。絶対生きていかなきゃいけないっスね」
 アンジェリカがサキへ小さな花束を差しだす。
 馬車道脇に咲く野花。今まで気がつく余裕もなかったけれど、この荒野にも花は咲く。
 新しい土盛りに供えられた花束と同じ花が、来年にはまた咲くだろう。サキの家族が眠る地は寂しいだけの荒野ではないのだ。

 フィニエスが補給車の片隅にサキと荷物の場所を作ったようだ。ヘレンが出発はいつでも大丈夫だと手を振っている。
 ニーラの胸に顔をうずめ、堰を切ったように零れる涙を拭い終えたら、キャンプまでの道筋は皆で語り合おう。
 これまでとこれからと。
 そういえばまだちゃんと名前を聞いてなかったなとアンジェリカが思い出す。
「私はサキ、元商人の娘です」

●
 回収した荷の買取査定を待つあいだ、サキは冒険者ギルドの裏口そばの一室で所在無げに座っていた。
 諸々の報告を受けた『事務のねぇちゃん(受付嬢)』は大層驚き、荷は高く買わせるからと、上司に交渉(かけあい)に行ったらしい。有り難いがずいぶん永く待たせるなと奥への出入口を覗き込むと、ちょうどドアを開けた人物と真っ正面から目が合った。

「驚いた……本当にそっくりなのだな」
 サキは思わず立ち上がる。
 目の前に自分(サキ)がもう一人。
 いや……帝国皇子レイウェスト・バルダスがそこに居た。

 唖然とし、慌てて臣民の礼をとるサキを制して、レイウェストは背後の人物(懐刀)と目くばせをし改めてサキと向かい合う。
 手を取られ畏れ多いと慄くサキに、レイウェストの奇妙な頼みごとが告げられた。
「そなたの事情は聞いている。それに付けこむようで申し訳ないが、私の――レイウェストの影武者となっていただきたい」

マスターコメント

 今回は当方のアニエピカでの初依頼にご参加いただき、有難うございます。  無事、サキは難民キャンプに到達することができました。  これから彼女がどう生きるのか、これもまた皆様のご活躍次第。  自警団の幾人かも初心を思い出したようで、このまま初志貫徹の生き方ができるかどうか。  まずはお疲れさまでした。  ……敵、弱くし過ぎましたかねぇ、と皆様の作戦を判定して思っちゃったのは秘密。
ショートシナリオ

ショートシナリオ普通 報酬:標準4 / 4〜4人

2020年11月20日 14時56分33秒 公開

成功

相談掲示板

  1. ニーラ・メッコ

    キャスターのニーラ・メッコです。 よろしくね!

  2. アンジェリカ・ミュクーサ・リーズデルト

    同じくキャスターのアンジェリカッス。アンジェなり何なりお好きに呼んで欲しいッス。 PC的にはサキさんは似ているけど皇子じゃないって言うのは分かるんスかね。 ボクは迷宮都市の依頼で見かけているから分かるはずッスけど、MSが他依頼のリプレイを参照するかは別なんで気になるところッス。

  3. フィニエス・クーガ

    シューターのフィニエス・クーガだ。宜しく頼むぜ。 任務のメインは補給馬車の護衛で、クリーパーの撃退 んで、それに付随して増長してる自警団モドキとサキって子をどうにかする、と 自警団モドキは、ここで補給馬車やサキの護衛に回らせたりすると余計増長する気がしなくもないんだよな。 授恵者がいる、とも書いてないから何か任せて失敗したらことだし。 寧ろ挑発するように言うか?「クリーパーも碌に倒せないやつが、皇子の護衛なんざできるわけねえだろ。引っ込んでろ」とでも。 それで突っ込んでやられて逃げてくれれば面目丸つぶれで有難いところなんだが。

  4. ヘレン・ワーグナー

    ウォーリアのヘレンだよー……よろしくねー。 自称自警団かー……下手に挑発してクリーパーに突っ込まれても困るし、こっちが派手な攻撃をクリーパーにお見舞いして、それで力の差を見せつけるのはどうかなぁ……って思う。でもそれだけだと今後逆恨みや嫉妬されるのも困るし、なにかしら役割を与えて「戦うこと以外にも仕事はある」ってことを考えてもらうのはどうかなー。まぁ、戦うことで金を稼ぎたいみたいな血の気の多そうな連中みたいだし、すぐには納得しないだろうけど、その場だけでもってね。 問題はこの人たちの中に授恵者がいた場合だけど……。その時は変に拗れていさかいが起きるのも嫌だし、授恵者から目を離さないようにしながら一緒に戦うのがいいかなー……って。

  5. フィニエス・クーガ

    その役割を与える、が難しいんだよな……まあヘレンの言う事も分かるし 挑発して壊滅させるよりかはそっちの方がいいか。 んじゃあ授恵者以外には避難誘導でもしてもらうか? とはいえ、こいつらは弱い奴から狙う習性があるって書いてあるから まずはこっちに目を向けさせて【俺達を倒さないと獲物にありつけない】 って認識させないとな。 あとは、そうだな。今回の面子的にヒーラーがいないし、ヒールを覚えて持ち込むことも考えてる。

  6. アンジェリカ・ミュクーサ・リーズデルト

    ヒールに関してはボクの方も1枠くらいなら持って行けると思うッス。そこらへんは詰めてからじゃないと確定出来ないッスけど。 「戦力的にはお察しくださいなの」ってことは 授恵者は居ない気もするんスけどね、でも確定って訳じゃないから何ともって感じッス。 一本道で道幅が5mってことなんで、真っ直ぐ来るヤツは一人で止められるのかな?とは思うんスけど、ぬかるんで居るとはいえ脇から抜けるって事もあるかもしれないッス。 なんでそれこそ避難誘導で下がってもらうか、あるいは側面から抜けようとするヤツを少しでも止めて貰えたらなとは思うッスけど…難しいッスかね。

  7. ニーラ・メッコ

    とりあえずはクリーパーの殲滅だよね。 ヒールは1枠、私もっていくね! 『弱いものから狙う傾向がある』から、護衛対象を攻撃させないように私達でクリーパーをブロックしながら戦う感じ? >自警団 授恵者がいるかどうかは明確ではないけど、OPに『戦力的にはお察しくださいなの。』とあるから、戦力的にはクリーパーと戦えるレベルではない、って判断でいいと思う。 戦闘中はサキさんや補給馬車の人達と一緒に下がっていてもらって、 戦闘後に「少なくとも貴方達が護衛を請け負うのは無理だから、今後はやめておきなさい」って注意する流れかなぁ。どうだろ。

  8. フィニエス・クーガ

    だな。護衛対象は最優先に護って、自警団には逃げる手助けをするくらいか。 無謀にクリーパーに突っ込むやつがいたら、死なない程度に援護して逃がしてやるくらいかな、と思う。 だいたい自警団には避難誘導してもらって、戦闘後にニーラの言う感じか、もう少しソフトに言ってやるのがいいんじゃねえかな。 戦闘は敵の数が多くて護衛対象もいるから、後衛でも前に出ていくしかないわな。 複数人でヒール持ち込んでどうにかするか。

  9. ニーラ・メッコ

    護衛対象とクリーパーとの間に割って入って守るって感じ? 馬車道の道幅5メートルの場所で戦闘になるっぽいね。 ルールによると、アニエピカの1ヘクスは直径およそ5メートルってことだから、 だれか1人でも前衛に立ってもらえればあとの人は後衛の位置に立てるんじゃないかな。 たぶん! でも、馬車道の幅が5メートルってことだから、その脇を敵が進んで来たらブロックしなきゃいけないね。 そのときはがんばって前に出るか!

  10. フィニエス・クーガ

    ああ、そんな感じだ。ウォーリアのヘレンに前衛の馬車道に立ってもらって 更に脇からクリーパーが突破して来ようとしたらブロック。 後方の補給馬車やサキ達に通すわけにはいかないからな。 とりあえず集中砲火で一体ずつ倒していく感じになるかな。 で、サキへの対応というかその辺は戦闘後になるかな? 先に皇子じゃないって明確にさせとかないと困る点って、自警団もどが浮足立つこと以外に何かあるか?

  11. ヘレン・ワーグナー

    おー、わかったー。がんばってくいとめるねー

  12. アンジェリカ・ミュクーサ・リーズデルト

    まーキャスター二人にシューター一人と遠距離に秀でた構成になってるんで、馬車の守ることを考えると脇から抜けそうな相手を三人で優先して叩いて近づけないようにって方針が良さそうには思えるッス。 ただ、そうすると道からの相手をヘレンさんが長時間相手しなきゃいけない可能性は高くなるんで、その分負担が増してしまうんで一つの選択肢って程度に考えてもらえるといいかと思うッス。 どの場合でもスタティックフィールドで進行の遅延は行おうと思ってるッス。

  13. アンジェリカ・ミュクーサ・リーズデルト

    サキさんの対応を後回しにするかどうかに関してメリット・デメリットを挙げると ◆メリット ・サキさん以外の精神的負担の軽減 ・誤解されていることを利用してサキさんに指示を出してもらえれば、その分指示に従って貰いやすいかも? ◆デメリット ・サキさんの精神的負担の軽減 ・誤解を利用した場合、その後の全員へのソレに対する説明が必要 先に誤解を解く場合は ◆メリット ・サキさんの精神的負担の軽減 ◆デメリット ・誤解を解くのに時間がかかる可能性 って所ッスかね。誤解を解くことで解かないこと(又はその逆)のメリットが得られない事がデメリットといえば、それも含むッス。 解いても解かなくても、致命的なことにはならないとは思ってるッス。

  14. アンジェリカ・ミュクーサ・リーズデルト

    明日出発っスけど、一先ずイメージは クリーパー < ヘレン < 他三人 < 馬車 って構図で展開する認識ッス。(敬称略) ターゲットの優先度は馬車に近い順で、同じくらいの位置なら脇に抜けそうな個体からって思ってるッスけどそれで大丈夫ッスかね? プレイング的にはシューターで一番射程の長いフィニエスさんに合わせてターゲッティングするのが分かりやすいかなって思ってるッス。 サキさんに関しては誤解を解くのが後か先かについては、個人的には先の方がサキさんの負担的にいいのかなって思ってるッス。 正直全然詰められていない感はあるッスけど、現状こんなところッスかね。

  15. フィニエス・クーガ

    明日の朝出立だし、俺もそれで異論はないぜ。 サキに関しては先に誤解を解く方向だな、了解。 多少時間がかかってヘレンへの負担が大きくなるかもしれんが、すまん耐えてくれると助かる。 ヒールも持ち込むから、各自死力を尽くそうぜ。

  16. アンジェリカ・ミュクーサ・リーズデルト

    到達速度にばらつきが出るようにスタティックフィールドを使うか、巻き込めるなら全員巻き込むように使うか。 ちょっと迷ったッスけど、遠距離から三人で叩けるから出来るだけ巻き込む方針で行くッス。そもそも巻き込めなかった奴が先行するとは思うッス。 ボクの行動優先度は (射程圏内なら)集団へスタティックフィールド > サキさんの誤解を解く、自警団へ馬車の避難誘導をお願いする > クリーパーへの攻撃 って感じになると思うッス。

  17. アンジェリカ・ミュクーサ・リーズデルト

    プレイング提出したッス。 サキさんのフォローは書いてるッスけど、自警団に関しては戦闘後のフォローが足りなさそうな気はする内容になったッスけど、文字数的にカツカツなんで対応は難しそうッス。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0