新米鋳金師は何を得るか

真柄 葉

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シナリオID:84

オープニング

 力ある者達が操る異能『魔法』は、授恵者に与えられた特権であった。
 大地を揺らし、炎を放ち、水を凍てつかせ、暴風を起こす。人知を超えた現象を引き起こす魔法は、人類の敵たる異物たちに対する能力として有効かつ必要不可欠なものだった。
 一方、その力は平和的に利用されることもある。
 火を起こせば、食を豊にし暖を得られる。
 水を湧かせば、渇きを癒やし、乾いた大地は豊穣の地へと成る。
 しかし、そんな無限の可能性を秘めた力も、操る者が圧倒的に少数であれば一時の奇跡として終わってしまう。
 そこで人々は考えた。この素晴らしい力を、力無き一般人にも使えるようにならないだろうか、と。
 そして、長い年月をかけて知恵を絞った人々は、ついに特殊なアイテムにその力の一部を留める事に成功した。

 それが『紋具』である。

 紋具が発現する能力は、授恵者達の異能には遠く及ばないものの、一般人にとってかけがえのないものだった。
 それは、少量の水を生み出し、暗がりに小さな光を灯す。かまどに小さな火を起こし、物を冷やす。
 ささやかな効果なれど、『紋具』を使えば一般人でも異能を行使することが可能になったのだ。これにより、今までは生活圏とする事ができなかったような僻地であっても、人は生活の場とする事ができるようになった。

 『紋具』の作成には、その技能を修めた『授恵者』と、彼らが『紋具』に込めた魔法を発動するための『触媒』が必要となる。
 一般人は『紋具』に埋め込まれた『触媒』にエーテルを通わせることで、疑似的な魔法を使うことができるのだ。
 そして、冒険者の街リブラネスタには、そんな『紋具』を製作する工房がいくつも存在する。今回の物語の舞台となる工房も、その一つ。
 金属の焼ける匂いと炎の熱が部屋を支配する『紋具』の鋳金工房では、煤と煙にまみれた職人たちが、その技術とセンスを競い合っていた。

 そんな活況な工房の一角。
「……焦らず急げぇ、均一にぃ――」
 細い手に握られた鉄杓から、ドロドロに溶けた銀色の金属が鋳口へと注がれていく。
 たっぷりと吸い込まれた銀の液体が、鋳口から顔を覗かせた瞬間――。
「ストップ! 重り重り!」
 鉄杓をひねり流入を止めると、水蒸気爆発を防ぐための重しを乗せ、しばらく待つ。
 ピシピシと金属が固まっていく独特の音が僅かに耳をくすぐる。

「せぇの!」
 がしゃんと大きな音を立てて鉄枠が外れ、固められていた砂がボロボロと崩れ落ちた。
「……うん、ムラなし艶よし、成功だ!」
 砂の中から現れた鈍い銀色の作品に、漣々は興奮気味に声を上げる。
 金ノコで不必要な部分を切り落とし、荒いバリをやすりで粗く削った。
「後は丁寧に……」
 目の細かいやすりに持ち替え、出来上がりのデザインを想像する。
 一当て一当て細心の注意を払いながら削っていった。
「よし! 後はこの窪みに銀と白金粒を嵌めて行ってっと――」
 丁寧に削り終えた作品に、ジュエリールーペを当てる。
 拡大した世界に、大小さまざまなきらめきを飾り付けていった。
「で、できたっ! 渾身の一作!!」
 作品とにらみ合う事数時間。ついにその時が訪れ、歓喜の声が工房に響いた。

●
「駄目だ駄目だ、こんなもん売り物になるか」
 テーブルに置かれた作品を見て、親方が大きなため息をついた。
「そ、そんな! どこがいけないんですか! この洗練されたデザイン! 今までに類を見ない触媒の配置! 肌荒れに配慮した接触面の肌触り! なにをどう見ても最高傑作なんですっ!」
 この作品の為に半月を費やした。構想から合わせると一月以上にもなる。その集大成を一蹴され、流石の漣々も食い下がる。
「わかっちゃいねぇな。だから売り物にならねぇって言ってるんだ」
「な、何がわかってないって言うんですかっ! どういうことか説明してください!」
 この工房に入って4年。長い長い下積み生活を経て、ようやく作品を手掛ける許可が出たのが半年前。そこから何度も失敗を繰り返しつつ腕を磨き、今日ついに思い描いていた理想の作品を作る事ができたのだ。
 漣々はなおも親方に食い下がった。
「はぁ……これは誰に使ってもらうものなんだ?」
「と、当然冒険者の方ですよ! 立派な紋具にしてもらうために触媒にもかなりいい物を使って!」
「触媒がよけりゃいいってもんじゃない」
「当然です! 装備のしやすさとデザインも自分なりに研究して、今までのどの作品より――」
 と、ここで漣々の目が大きく開いた。まるで天啓を得たかの様に。
「そうか、目新しさですね! 目新しさが足りないんですね!!」
「は?」
「やっぱり冒険者さんですもんね! 流行の最先端ですもんね!! こうしちゃいられません!」
 漣々が目を輝かせ立ち上がった。
「お、おい! どこ行くんだ!」
「ちょっと冒険者ギルドまで!」
「はぁっ!?」
「使ってもらうのは冒険者さんなんです。なら、どんなものがいいか直接聞いてきます!!」
 言うや漣々は自慢の一品を掴むと、工房から出て行った。

「ったく、そうじゃねぇ。なんでわからねぇんだ、使うのは冒険者だけじゃねぇんだよ」
 親方のぼやきが漣々に届く事は無かった。

解説

●目的 新米鋳金師へのアイテムアイデアの提供。 ●人物 新米鋳金師『漣々(れんれん)』 東方にルーツを持つヒューマンの女性、18歳。真面目で一本気な性格なのだが、世間知らずで、一つの事にのめり込むと周りが見えなくなる事も。 『新進気鋭の芸術家』と本人は言っていますが、同僚や親方からは変人と思われています。 ●補足 依頼内容はアイデアの提供ですが、ただ流行りそうなアイデアを提供するだけでは通常成功になります。 更なる成功を求めるのであれば、紋具の形状(指輪型やバンクル型等)、紋具に吹き込む魔法の種類や発現する効果の提案をするのもいいでしょう。 また、世間知らずの彼女の為に街に連れ出し散歩してもいいですし、喫茶店や商店を回りながら雑談を重ねてもいいと思います。 PLの皆さんはお気づきだと思いますが、漣々は自分の作品の何が悪くて受け入れられないかわかっていません。 本当に必要なものはなんなのか。皆様の行動でそれに気づかせてあげてください。

マスターより

OPをご覧いただきありがとうございます。 今シナリオを担当させていただきます真柄 葉(まがら よう)と申します。 今回は新人教育モノ! 新米の紋具師を皆様の経験で、正しい道へ導いてあげてください。 新米鋳金師漣々を一流に育てていくのは、もしかしたらあなたかもしれない! それでは、今回のシナリオもよろしくお願いいたします。 ロスガリアの大地で、皆様とお会いできることを願っております。

リプレイ

 秋の空にイワシ雲。少し肌寒い風も街を歩くには丁度いい。
「なんだ、こっちの街は初めてなのか」
 通りに並ぶ露天商を興味深く眺めている漣々に、サイラスが少し驚いたように話しかけた。
「うん、ずっと旧市街の方の工房に詰めっぱなしだったし」
「詰めっぱなしって……休みの日はなかったのかよ」
「うん、休みはあるよ、一応ね。でも、休みの日も工房に籠ってたからなぁ」
 漣々の答えにダート・ロウは目を見開く。
「勤勉なのは結構だが、それじゃ息が詰まらねェか?」
「そうかな? 別に気にならないけど」
 リンタロウ・イナバの言葉に漣々はかくりと首を傾げた。
 サイラス、ダート、リンタロウの3人は人々で賑わう冒険者街の通りに漣々を連れだしていた。
「それで、連れて来てもらっといてなんだけど、今日は何をするの? 私の作品を見てくれるんじゃなかったの?」
「見てやるさ。ただし、色々と終わったらな」
「ああ、そうだそうだ。気合入れた作品なんだろ? 見る為にも準備ってもんがあるんだよ」
「色々? 準備……?」
 遥か上にある二人の顔を交互に見つめ、不思議そうに首をかしげる漣々。
 2mを超える二人のリザードマンに挟まれていると、ただでさえ小柄な漣々はまるで子供の様に見える。
「ああ、準備だ。作品を披露してもらうんだ、俺達も最高の舞台を用意するのが筋だろう? その為に時間がかかる。だから、漣々嬢はそれまで街の見物でもしておけばいい」
 と、リンタロウは前を行く漣々に声をかけた。
「でも準備って3人は何もしてないんじゃ……」
「ほら見てみろよ、あれうまそうじゃね!?」
 怪訝そうに呟く漣々を他所に、ダートが少し先でいい匂いを振り撒く露店を指さした。
「さっきも食っただろう」
「さっきのは鳥。あれは豚!」
 ほら行くぜと他の3人を急かせるダートに、サイラスは溜息をつく。
「ほらよ、漣々の嬢ちゃん。こいつはたまんねぇぜ!」
 露店に到着するや否や、自分に3本、他の皆に1本ずつ串肉を買って手渡すダート。
「ダート、食いすぎだろ。忘れるなよ、この後の事があるんだぞ?」
「忘れてねぇよ。図体でけぇと燃費もわりぃんだよ」
 食い意地に呆れるリンタロウの前で、ダートは一瞬にして3本の肉を消し去った。
「さっきも同じようなのあったけど……? なんでこれなの?」
 一方、漣々は渡された串肉を眺めながら、素朴な疑問を口にする。
 似たようなものなら通りを歩くうちに何度か見た。
「ああ、あったな。だけどあれはダメだな」
 答えたのはサイラスだった。
「え? なんで?」
「まず肉が臭い」
「え?」
「串打ちが甘い」
「ええ?」
「店主が若い」
「……」
 材料、技術、そして作り手としての箔。サイラスが上げていく欠点は、漣々ではまるで気が付かなかったものだ。
「値段は多少安かったけどな。漣々はどっちの串が食いたいよ?」
「うっ……こっち」
 そう言って、漣々は手に持った串に齧り付く。
「だろ? 物の価値ってのは見た目だけじゃ判断できないって事だ」
 懸命に肉を頬張る漣々を見下ろし、サイラスも串肉に口を付けた。

●
「こんなもんか。他に何か食いたいもんあるか?」
「肉!」
「肉はたんまり買っただろ」
「にゃはは」
 溢れんばかりに食材の詰まった紙袋を4つも抱えたイヴァンと、数ある屋台をあっちやこっちと駆けまわるサフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブ。
 二人はある準備の為に、冒険者街の市場を訪れていた。
「あ、そうだイヴァン。ちょっと寄り道していい?」
「あ? またかよ。これで何回目だ?」
「違うって買い物じゃないよ。ちょっと寄りたい所があるんだ」
 大荷物のイヴァンの前で、くるくると表情を変えながらサフィラはお空の彼方を指さした。
「うん? そっちは……工房街か」
「そそそ。ちょっと行ってみよっ!」
「工房に? そこに何が――って、おいっ! 押すなって!」
 サフィラは荷物で両手が塞がったイヴァンの背後に回り込むと、その背中をぐっと押した。

●
「親父、ちょっと借りるぞ」
 言うとリンタロウは手近な屋台から赤みを帯びた金属球を取り上げると、漣々に放って寄こす。
「まだ少し早いかもしれないが、そろそろこういう物も必要になってくる」
「え? ……あっ、あったかいね」
「極北の凍土じゃまるで役には立たないが、今日の様な少し風が強く肌寒い日には悪くない代物だろ?」
 それは暖を取る為に炎の魔法を封じ込めた紋具だった。
 漣々が両手で温かさを感じながらじっと紋具を見つめていたら、すっと手が伸び紋具を取り上げる。
「さぁ、いくらなら買う?」
 リンタロウは紋具を取り上げられ放心している漣々に問いかけた。漣々は「え……? えっとあれならただの球体で細工もないし使ってる素材も――」と、しばらく考えた後、思った値段を口にする。
「親父、いくらだっけ?」
 リンタロウは漣々から取り上げた紋具を、店主に返すついでに値段を聞く。店主は商人特有の蕩けた笑顔で値段を告げた。
「まぁ、妥当だなぁ」
「え? そんなに安いんだ……」
 商売に造詣の深いリンタロウは悪くないと頷くが、漣々は驚きの声を上げた。紋具の価格は先ほど口にした値段の3分の1ほどだったのだ。
「ははっ、嬢ちゃんにはお粗末すぎたか」
 漣々の値段予想にカッカと笑い声を上げるダート。
「でもな、庶民にはこれくらいがちょうどいいんだぜ?」
 ダートは同じ露店から別の道具を取り上げる。
「さて、これなんだかわかるか?」
「え? 包丁でしょ?」
「だなぁ。じゃぁ、これ見てどう思うよ」
 ダートは商品の包丁を器用にジャグリングする。
「いや、見えないんだけど……」
「おっと、わりぃわりぃ」
 じとっと見上げてくる漣々に、ダートは包丁の柄を向けた。
「……丁寧に作りこまれてると思う。鍛造も見事だし研ぎも丁寧。いい包丁だと思うけど……これも何かあるの?」
「へェ、いい目利きするじゃねェか」
「なに? からかってるの?」
「ちげェよ。じゃぁよ、この包丁はこれで完成か?」
「は? 売られてるんだから完成品でしょ?」
 漣々はダートの質問の意味が解らず眉を顰める。
「おいおい、あまり苛めてやるなよな」
 くくくと不敵に微笑むダートを脇にどけ、サイラスが助け舟を出した。
「それは未完成品だって、ダートは言いたいのさ」
 リンタロウがダートの真意を代弁する。
「未完成……? え、どこが? どういう事?」
 三人に囲まれ困惑する漣々。
「それじゃ、答えを探しにいこぉじゃねぇか」
 おいおい、人んちの商品で何やってんだと頬を引きつらせる店主に包丁を返し、4人は再び通りに出た。

●
「ほぇ……めっちゃ綺麗……すっごく丁寧に作りこんでる」
 漣々の工房に立ち寄った二人は、親方に話を通し工房の隅にある漣々の作業場を訪れていた。
 サフィラが手に取って眺めているのは、漣々が最近作ったというバンクル。鋳金らしい荒々しくも繊細な作品に、サフィラは感嘆の声を上げた。
「はぁー、こんな所で作業してんのか」
「ねぇねぇ、イヴァン。これ見てよ、すっごくない!?」
 興味深そうに工房を見渡すイヴァンに、サフィラは漣々の作品を差し出す。
「あー、いいんじゃないか?」
「えー、それだけ?」
「銀色が渋い」
「感想が雑ー」
「傭兵にアクセサリーの感想を求めるなよ」
「もぉ、イヴァンは枯れてるなぁ」
「枯れてねぇよ、まだ20代だっ!」
 イヴァンの振り上げた拳から、にゃははと逃げるサフィラ。
「鋳金師としての腕は悪くないんだ、あいつは」
 そんな二人の元へ親方がやってきた。
「だね。素人から見てもすごいってわかるもん」
 親方に漣々の作品を返しつつサフィラが答える。
「でも、使い手として見たら、これはダメだな」
 親方の手元に戻った作品に視線を落としイヴァンが呟いた。
「そうだな。それに気付ければあいつは――っと、これ以上やめとこう。周りががやがやいう話でもねぇ」
「ああ、同感だな。まぁ、任せといてくれ。悪いようにはしないさ」
「右に同じー!」
 そう言って、二人は工房を後にした。

●
 リブラネスタの郊外にある小高い丘にキャンプに来た一行。
「サイラス、そっちを結んでくれ」
「ああ、ここか?」
「杭の深さはどれくらいだ?」
「頭が隠れるまで打ってくれていいぞ」
 イヴァンの指示でサイラスとリンタロウがテントの設営を進める。
「水はどこにおきゃいい?」
「あ、こっちこっち! こっちに持っていて、ダート!」
 サフィラとダートは食事の準備を始めた。

 例の『舞台』の用意に勤しむ5人を漣々とオリーキュは少し離れた場所で見つめていた。
「ほんとに凄いですね……私、不器用だから、こんなの綺麗なもの作れるの……憧れます」
 オリーキュの手には漣々渾身の一作が握られている。
「わかってくれるんだ! ありがとう! これはね――」
 共感者を得て漣々は金属の温度がああだの、冷却タイミングがこうだのと饒舌に語り始める。
 そんな漣々の説明をじっと聞きつつオリーキュは考える。
(あぁ、本当にがんばって作ってるんだ。物作りが好きなんだなぁ……それなのに)
 説明に熱が帯びてくる漣々。手元には見るも美しい紋具。だからなおさら疑問が膨らんだ。
「どうして冒険者の為に紋具を作ろうと思ったんですか?」
「え?」
「ご、ごめんなさい。変なこと言ってしまって……」
 つい口に出してしまった言葉にオリーキュは何度も首を垂れる。
「えっと、どうしてって言われても……紋具を一番必要としてるのは皆みたいな冒険者でしょ? だから、そんな人たちの為に最高の物を用意したいなって……思ってたんだけどね」
 今まで確固として持っていたものが揺るぎ始めているのがわかるのか、漣々は尻つぼみに最後の言葉を絞り出した。
「……この肌触りのいい加工は、漣々さんのオリジナルですか……?」
「え? あ、うん。ずっと着けててもらいたいから、一応そのつもりで考えたの」
「すごいです……芸術性ばかりに目を奪われますけど……使い手の事もしっかり考えて……」
「そ、そうかな。えへへ……」
 褒められ慣れていない漣々は、オリーキュの素直な賞賛に照れ笑う。

「おーい、準備できたよー!」
 そんな二人をサフィラが呼ぶ声がした。
「……行きましょう。皆で頑張って準備したんですよ?」
 漣々の手を取り起ち上がったオリーキュは、そのまま手を引き皆の待つ舞台へと駆けて行った。

●
 陽が沈み辺りは徐々に夜の帳を纏っていた。
「んじゃ、まずはカンパーイ!」
 ダートが高々と派手にトゲ飾りのついたジョッキを掲げ、皆がそれに倣う。
 肉の焼ける匂いと少しのアルコールの香り、賑やかな話声がそこかしこから聞こえ、笑い声に怒鳴り声、泣き声もちょっぴり。今この一瞬の生を最大限に楽しむ、そんな雰囲気が辺りに漂っていた。
「すごいね。私こんなのはじめて」
「舞台は気にいって貰えたかな?」
 そんな賑やかな会場を眩しそうに見つめる漣々に、サイラスが声をかけた。
「うん。すごいね」
「それはよかった。なぁ、漣々、このキャンプどう思う?」
「どうって?」
「ここだけ見ても色々あるだろ?」
 言って、サイラスはキャンプで使われている様々な紋具を指さしていく。
「大きさ、形、色、見た目――用途はもちろん、紋具っていうのは千差万別なんだ。数えたらきりがない」
「確かに色々なものがあるね」
「使う奴がいるから使われる道具があるだ」
 と、サイラスは漣々の横に腰かけ呟いた。
「そうそう! 風で勝手に膨らむテントとか、自動でマッピングしてくれる地図とか!」
「そんなものは無いだろう……」
「えー!」
 そんな二人を見ながら楽しそうに笑うサフィラ。
「でもそういうの作れるなら、絶対欲しい人いると思うんだよねっ。こういうのはほら、ものを作れる人しかできないし! なんて言うの? 芸術家? 職人?」
「それは発明家って言うんじゃないのか?」
 はてと首をかしげるサフィラにイヴァンが答える。
「そう、それ! さすがイヴァン君。物知りだねっ」
「お前なぁ……漣々は発明家じゃないぞ」
 いい子いい子と頭を撫でてくるサフィラにイヴァンは今日何度目かのため息をついた。
「まぁ、なんだ。サフィラのはちょっと極端だけどよ、結局、道具ってのは使われてナンボなのよ」
 ジョッキ片手にほろ酔いダートが、漣々を見下ろしはかははと笑う。
「あっ……それって、昼間のあの包丁の事?」
「そういう事だ。道具ってェのはよ、使い手が使い込んで完成する」
 使い込み手に馴染み体の一部と思えるようになってこそ、道具は完成する。ダートはそれを漣々に伝えたかったのだ。
「いっくら上等な包丁だって、それで薪を割るヤツぁいねェだろ? 作品をどんなヤツが、どんな時に、どんな風に使うのか。どこが道具の完成なのか。そいつを考えてやれるヤツが本当の職人ってもんじゃねェのか?」
 ダートはそれだけ言うとジョッキを一気に煽った。
「ダート、いいこと言ったな。俺もその通りだと思う」
「うん……」
「それで、漣々はその一品に何の魔法を吹き込むんだ?」
 イヴァンは漣々が大事そうに抱える作品に視線を落とす。
「……これは」
 漣々は次の句を口にしようとして固まった。
「俺的には、保温できる水筒とか、暗がりで使える発光筒とか便利でいいと思うけどな。実用的ならなおいい」
 答えを出しあぐねているように見える漣々に、イヴァンは具体的に提案する。
「うん、ありがとう……でも、これは――鋳潰そうと思うの」
「えっ?」
 漣々の一言に、イヴァンだけでなく他の皆も驚いた。
「……潰してしまうのですか……?」
 オリーキュが悲し気に漣々を見つめる。
「うん。折角気に入ってくれたのにごめんね。でも、私気付いたんだ」
 そう言って漣々は勢いよく顔を上げた。
「ううん、ちがうね。気付かせてくれてありがとう。私、もう一度1から作り直してみようと思うんだ。うまくできるかわからないけど、使ってくれる人の――皆の顔を想い浮かべながら作れば、きっとすごくいいものができる気がしてる」
 漣々は、6人全員一人一人と視線を交えた。
「ああ楽しみに待ってるぜ! トゲ飾り付きのとびきりすげェのをよ!」
 とダートが笑い。
「発想は自由だっ! 羽ばたけ、若人よっ!」
 とサフィラがサムズアップ。
「……それに気づいたきみの作品なら、私は使ってみたいです……」
 とオリーキュがふわりとほほ笑む。
「冒険者向けに作るなら俺が試してやるよ。徹底的にな」
 とサイラスが頷き。
「沢山の人に使って喜んでもらえる、そんな紋具が作れるといいな」
 とイヴァンが漣々の肩に手を置いた。
 そして、最後に。
「完成したら俺の店に持ち込むといい。漣々嬢の商品なら厳しくチェックしてやろう」
「何よ、高く買い取ってくれるんじゃないの?」
「世の中そんなに甘くねェよ」
 そう言って、頬を膨らませる漣々にリンタロウは不敵に微笑んだのだった。

マスターコメント

この度はシナリオへのご参加、誠にありがとうございました! 皆様の暖かな応援と助言によって、漣々もようやく自分の未熟に気付く事ができたようです。 この後彼女がどんな鋳金師になり、どんな紋具を作るかはわかりませんが、材料に向き合う時、制作に打ち込む時、完成を見た時。いつまでもどんな時でも皆様の顔を思い浮かべることでしょう。 漣々の物語はいったん終了しますが、リブラネスタの街で彼女の作品を見つけたら、どうかお手に取るだけでもしてやってください。そして、彼女の成長を少しでも感じていただけたら、この紡がれた物語が色を持つはずです。 この度は素敵なご提案やお話本当にありがとうございました。漣々共々、深くお礼申し上げます。
ショートシナリオ

ショートシナリオ普通 報酬:標準6 / 4〜6人

2020年10月24日 16時48分54秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. リンタロウ・イナバ

    一番乗り、ってとこかね?ヒューマンのキャスター、リンタロウだ。商人としての立場からアイデアを出せたらと思う。今回はよろしくな。

  2. イヴァン

    お、依頼とれたか。 イヴァンだ、どーぞよろしく。 せっかく6人集まったんだ、アイデアや会話内容は出来るだけ被らない方がいいよな。 戦闘もないしまったりやっていこうぜ!

  3. オリーキュ

    ハーフリングのウォーリア、オリーキュです。よろしくお願いします。 道具作りなんて、器用な方なんですね……。ただ、ちょっとまっすぐすぎるの、かな……? 若いみたいですものね…… 私は生活魔法の心得はありますし、親方さんの「ったく、そうじゃねぇ。なんでわからねぇんだ、使うのは冒険者だけじゃねぇんだよ」って言葉も参考に、思ったこと、伝えられたらいいかなって思います。

  4. サフィラ・アズラク・ヴォルファング

    にゃ!シーフのサフィラだよっ!よろしくねっ! 紋具づくりにかんしては素人だけど野営や探索につかえるアイテムにかんしてはアドバイスできるかもっ!

  5. ダート・ロウ

    オレの名はダート! ダート・ロウだ! よろしくなァ! 道具ってなぁ、誰が、どう使うかってコトも考えなくちゃあいけねェってトコロかね。

  6. No.6

    サイラスだ、よろしくなー 連れ出すってのもありってゆうし、それ系やってみようかなーと

  7. イヴァン

    うーん、俺は値段帯の話にするかなぁ。 この辺り被るようだったら他にするから言ってくれな。 値段帯で言えば相当高くつくだろう、買えて結婚とか相当特殊な人生の転機の時ぐらいか。 もし身を切って安くするつもりなら他の職人たちに相当責められることを言い含める。 で、一般家庭でそんな芸術品じみたものを持ってるとする。 ……賊に入られない可能性の方が低いと思わないか? もし冒険者に売るんだとしたら、それこそそんな高級品使わん。 消耗品のように使えるようなものじゃないと怖くて手元に置いておけない。 ……みたいなことをメインにまとめてみようかな。

  8. サフィラ・アズラク・ヴォルファング

    お値段はたしかに重要かもっ! とっても貴重な触媒つかってる紋具って値段もとっても高くなるから 冒険者の収入で買えなくもないかもだけど、冒険者って野外活動がメインだから、なくしたときの替えがきかないと買うときに選択肢から外しちゃうかもってことはつたえないとだねっ!

  9. オリーキュ

    貴重性と価格は、気になるところですよね。冒険者が使うにはどうしても扱いが荒くなりますし、盗難も、確かに怖いなとおもいます。一点ものになってしまうと、商売にもしづらいでしょうし、 私は、彼女の「冒険者のための紋具」っていう理想……目標?は尊重して、肌荒れに配慮した作りとかそういった発想、技術は、私なんかにはできないから、素直にすごいって、伝えてあげたい、かなと…… その上で、価格の話は抜きにしても需要ってなんだろう、とか、「立派な紋具」ってなんだろう、って、お話しできたらいいのかな…… 「職人」ではなくて、「芸術家」と称しているのも、親方さんの考えるものとは違うのかな、ともおもいますし。 ただ、何を作りたいか、どうするかを決めるのは本人なので、私は無理強いとか否定は極力、しない形でいれたらって思っています……

  10. リンタロウ・イナバ

    ああ、価格は大事だよなぁ… 世間知らず、ってあったし社会勉強も兼ねて実際にどんな紋具が売られているのか、どういうのが人気なのか、市に連れていって調べさせてみようかと。そこから何が欠けているのか、自分で気づけるよう上手く誘導できたらと思う。 仕事への熱意は素晴らしい物だと思うし、そこは変わらないでいて欲しいな、俺としては。

  11. サフィラ・アズラク・ヴォルファング

    最初に漣々がつくったものを見せてもらって、どういうのをつくりたいのか聞くのもじゅーよーになるのかも? そのうえで、お店とか市場に連れ出して価格とか商品のコンセプトとかみせてひらめきのきっかけになればいいなぁっ

  12. ダート・ロウ

    たとえ新人が作ったとしてもよぉ。 作るのに「半月を費やして」、「高級な触媒を使った」ものが安くなるわきゃねェんだよな! っつーわけで、値付けの話をするのは大切だと思うぜ! 「とにかくイイものを作ろう」って気概はあるし、それを作れる技術は身についてきてるんだろうが、空回っちまってる感じだな。 「必要とされているもの」を作るっつーのが一端の職人だ、とか。 ま、そんな話をオレもしようと思ってるぜ! 市場に散歩しながら、が丁度良いかねェ!

  13. No.13

    とりあえず行動は値段の話、市場で他の品物見せるとかかな? 価格の話は他の店にも影響出る可能性あるからそこはきちんとやらないとやばいもんなあ 冒険者以外のための紋具とかその辺の話も狙ってみるかねえ

  14. イヴァン

    価格の話皆も色々ありそうだし、俺はまた別口で考えてみるかなー。 最寄りの森かどっかで一緒にキャンプにでも連れていくか? もし一緒に行くやつが居たら教えてくれ

  15. サフィラ・アズラク・ヴォルファング

    あ!キャンプ楽しそうっ! いくいくー!!

  16. オリーキュ

    実際に夜営とまではいかなくても、キャンプでも少しイメージに繋がるかもしれませんね。みなさん、素敵な発想ですごいです。 私はたぶん質問ばっかりになっちゃうかも…… 「なんで冒険者のためのものを作ろうと思ったのか」って、ご本人のなかで大切にしている理由やきっかけがあったら、それを知らずに話すのも、なんだかよくない気がするので……

  17. イヴァン

    お、じゃあサフィラ一緒に行くか。 ついでに見せたい魔法とか知識とか役立つ知識とかあったら持ってこい。 俺は生活魔法持ってくつもりだ。

  18. サフィラ・アズラク・ヴォルファング

    うん!一日のおわりにキャンプして色々とアイディアを話し合えたら面白そうっ! うーん、手持ちで参考になりそうなのはダンジョン知識かなぁ?

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0