Memories in the desert
真柄 葉
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シナリオID:79
オープニング
私達が受けた依頼の内容は、砂漠に出現する魔獣の討伐だった。それはかなりの大物で少なくない人数の冒険者たちが集められたんだ。
依頼について役割を分担する話し合いの中、人数が少なかった私達のパーティーが斥候役を務めることになった。
先行する形で灼熱の砂漠を踏破し、オアシスがある集落へ討伐隊のベースキャンプを張るのも斥候の役目だった。
あの日は暑かった――とはいっても、砂漠の民にしたらそれが普通なのかもしれないが。
あの過酷な旅程がわかっていれば、依頼主に無理を言ってでもビッグオウムの使用許可を取ったんだが、ね。
――すまない、話が逸れた。
ベースキャンプとなる集落へたどり着いた我々は、砂漠の民の長への挨拶と謝礼を渡し、オアシスに面した一角を借り受けた。
旅装を解き、オアシスの澄んだ水で喉を潤して一服し、さぁテントを張ろうと立ち上がった、その時だ、アレが来たのは――。
最初に異変を知らせたのは集落から少し離れた砂丘の方からの悲鳴だった。
悲鳴につられて砂丘を見上げれば、斜面を逃げる――いや、あれは転がり落ちてくるといったほうがいい。そんな人影があったんだ。砂漠の民の装束に身を包んだその人影は、何かから必死に逃げているようだった。
そして、時を置かず砂丘の頂上に現れたのが奴――『大サソリ』だった。
そう、我々冒険者が一団となって討伐しようとしていた標的だ。
奴は恐ろしく素早い動きで斜面を転がり落ちる人影に追いつくと、自慢の大鋏を振り上げ――両断した。
大サソリは両断された人影を、一口二口と口に運んで――喰った。骨の砕ける音が私達の居る場所まで聞こえてきそうなほどだったよ。
私達はすぐさま荷物の中から装備を取り出し武装すると、長の所に走ったんだ。
大サソリは確実にこの集落を視界に捉えている。捕食が終わり、次に動き出す時はここが狙われる。だから住民を纏めてできるだけ遠くに逃げるんだ、と伝えるためにね。
だけど、目的は達せられなかった。
悲鳴を聞いた住民がかなりの数いたんだ。そして、その誰しもがあの光景を見て、恐怖で錯乱した。
私達は住民を落ち着かせようと、必死で声を張り上げたんだが、今日着いたばかりのよそ者の言葉に耳を貸す者はほとんどいなかったよ。
仕方なく私達のパーティーは長への報告を諦め、砂丘へ向け走った。住民達の逃げる時間を少しでも稼ごうと思ってね。
だけど、正直パーティーの皆は震えていたよ。
討伐隊総勢12名で当たる予定だった獲物を、私達4人。たった、3分の1の人数で相手をしないといけない。その事実に私達は恐怖していたんだ。
「――情けない話だがね」
と、ジルは話を一旦止めると自嘲気味に微笑んだ。
私達が逃げる住民達の間を掻き分け、集落を出た丁度その時、大サソリも動き出したんだ。
人影に襲い掛かった時に見せた素早い動きじゃなく、こちらを窺うようなゆっくりとした動きで砂丘を下ってきた。
私達は身構えた。死闘になると誰もが思っていたからね。だけど、そうはならなかった。大サソリは身構えた私達をあざ笑うかのように――跳んだんだ。
私達を飛び越えた大サソリはそのまま居住区へと向かい、逃げ惑う住民達を襲い始めた。
そこからはまさに地獄だったよ。大サソリは住民達を次々とその毒牙にかけて行ったんだ。
私達も必死で後を追った。だけど素早さで優る大サソリには追いつけなかった。奴は私達の目の前で住民を殺し続けたよ。
気が付けば――誰も動かなくなっていた。
「……」
自らの心を落ち着かせるように水を口に含んだジルは、再び口を開く。
集落を蹂躙しつくした大サソリは、ついに私達をターゲットした。返り血で濡れた鋏と尾と大顎を不気味に揺らしながら、ゆっくりとこちらに近づいてきたよ。
すぐに増援が来る! それまで何とか生き延びるぞ!!
と、エウロア――私達のリーダーを務めていた男だ――が皆を鼓舞してね。それで私達残りの3人もようやく戦う覚悟が決まった。
私はパーティーでは盾役だったからね。仲間を守ろうと大サソリの前に立ち塞がった。
大サソリは本当に強かった。そして、とても狡猾な相手だった。その証拠に真っ先にヒーラーが狙われたよ。私はヒーラーの前に立ち大サソリの大鋏を盾で何度も受けた。一撃ごとに腕が折れるんじゃないかっていう衝撃だったが、何とか耐えた。耐え続けた。
仲間達は、私が盾で攻撃を受けるタイミングを見計らって攻撃を加えていった。長く組んだ仲間だったから、呼吸はわかっていたよ。
戦いは辛うじてこちらに有利に進んだ。私が攻撃を往なしながら仲間が打撃を加えていく。硬い甲羅に覆われていた大サソリにも、私達の打撃が通るんだって。いける! ってそう思った。だけど――。
それも、奴の策だったんだ。
奴は私達の油断を待っていたんだ。自慢の甲羅が削られるのもいとわずにね。そして、
そのタイミングで出してきたのが、奴の最大の武器『毒針』だった。
最初にヒーラーがやられたよ。毒針付きの尻尾は私の頭上を悠々と超え、背後に居たヒーラーの胸を一突き。即死だった。
それでも、私達は止まるわけにはいかなかった。
ヒーラーの犠牲で生まれた一瞬の隙をついて、エウロアの大剣が奴の大鋏の一つを切り落としたんだ。
まだ行ける。せめて後続が到着するまで。そう希望を持った時、私は見てしまったんだ。
奴の関節肢に踏みつけられ頭を潰された、もう一人の仲間の姿を。
希望が絶望に変わる瞬間だった。そして、それにゆっくりと浸らせてくれる相手ではなかったよ。
大サソリは私の消沈を悟ったのか、巨大な尻尾を振り回し盾を跳ねあげた。
しまった。と思う暇もなく私の左腕は、大鋏で上腕から切断されたよ。
盾を失った盾役に出来ることなんて少ない。私は残った自分の体で、せめてエウロアを守ろうと大サソリに組み付いた。だけど、腕を失ったダメージは想像以上に大きかった。
血を失い朦朧とする意識の中で、最後に見たのはエウロアの笑顔だったよ。いつも依頼終わりに向けてくれる清々しさと優しさに満ちた、そんな笑顔を向けてくれたんだ。大サソリの頭に自慢の大剣を突き差し、身体から巨大な毒針を生やした姿でね――。
「そこで私の意識は途切れた。気が付いた時には1週間も経っていたよ。このリブラネスタの宿屋でね。後で聞いた話だけど、大サソリは何とか倒せていたそうだ。ただ、私以外の生存者はなし、住民も含めて全滅だった……」
ジルはテーブルに座る冒険者に向け、上腕の中ほどから切断された左腕を見せつけた。
「左腕に未練はないんだ。取り戻したとしても元に戻るわけでもないしね。ただ、あれだけは……あいつとの思い出だけは取り戻したいんだ」
最後の方はほとんど聞き取れない小さな声でジルは呟く。
「頼めるか? 気乗りのしない依頼だとは思っている。それでも、頼めると……嬉しい」
そう言って、ジルは冒険者達に頭を下げた。
解説
マスターより
リプレイ
「いやいや、気乗りのしない依頼だなんて、そんなことは全然ないからね」
語り終えたジルに、セヴラン・クアルトが柔らかい笑みで答えた。
「本当は言葉にもしたくない様なつらい記憶だろうに、本当によく話してくれた。これで僕達は君に寄り添えるよ」
時に人の一生を詩に詠む吟遊詩人ならではの言葉遣いで、セヴランはジルに感謝を伝えると。
「ジルさんが何かを取り戻せるのなら、僕達が必ず連れて帰ってくるから。君の左腕と、そして君の記憶を」
再び柔らかい笑みを浮かべた。
●冒険者ギルド
「あった。これじゃないっスか?」
「どれどれ……ああ確かにこれみたいだ」
スフェーンとヨル・スレイマンはギルドの資料室に居た。
二人が目を通しているのはジル達が3年前に受注した依頼書とその報告書だった。
報告書に記された事の顛末から、地形や交戦の記録、死者の数などを調べていく。
「……それにしても、集落が一つ丸々消えるって、恐ろしい事っスね」
兜の隙間から覗く翠色の瞳が文字を追って揺れる。
「ああ、凄惨な戦いだったようだね」
答えるヨルの声に感情は見られない。
「勝てる見込みのない相手に立ち向かって、それでも勝ったんだ。彼女達はすごいよ。俺には無理だ」
「そうなんっスか……? スレイマンさんはとても強そうに見えるっス」
「え? 見えるかい?」
「見えるっスよ。歴戦の猛者って感じがするっス」
未熟で弱い自分と比べたら
「はは、過大評価だね。俺はただの臆病者だ。この仮面もそれを隠しているだけさ」
「臆病を、隠すっスか……」
スフェーンとヨル。共に仮面で素顔は見えない。
「君はそれで何を隠しているんだい?」
「……」
質問をするヨルに対して、スフェーンは答えを返す勇気が持て無かった。
●
「ジルさん、少しお話いいかな?」
皆が出発に向け準備を進める中、キキは一人ジルの元へ戻ってきた。
「あのね。私さっきのお話を聞いて改めて思ったんだ」
「なにをだ?」
「死について――死はいつでも私達の隣に座ってて、じっとこっちを見ているんだなって」
問いかけるジルに、キキは胸の前でこぶしを握り締め語り掛ける。
「そうか、すまない。恐れさせるつもりはなかったんだ」
「ううん、違うの。そうじゃなくて、お話を聞いて私考えたの、私達授恵者はいったい何を残せるんだろうって」
「何を残す、か」
大きく息を吐いたジルをキキはじっと見つめた。
「だから、私は知りたいの。エウロアさんが残したかったものが何なのか!」
いつしかキキの表情は真剣なものになっている。
「エウロアが残したもの……」
「私はね。ジルさん、あなたの命なんじゃないかなって思ってるんだけどね」
にぱっと破顔したキキに、今度はジルが胸の前でこぶしを握った。
●
ヨルとスフェーンが合流し、冒険者達は旅立ちの時を迎えた。
「ご依頼いただいたものは必ずお届けします」
見送りに出たジルにフリーダ=ブロムヴィストが腰を折る。
他の皆もフリーダに倣いジルに別れを告げて行った。
「アンタが本当に取り戻したいのは……何なんだろうね」
先に行く仲間達を見つめ、エリザ・A・ミシャールはジルを背にそう呟いた。
「それは……」
「いや、いいんだ。聞かなかったことにしてくれ。それじゃ行ってくる。帰りを楽しみに待っていてくれ」
片手だけを上げ別れの合図をすると、エリザ達冒険者は目的地へと旅立っていった。
●砂漠の集落
かつて砂漠の癒しだっただろうオアシスはすでに枯れ果て、恩恵を受けていた集落は廃墟と化していた。
「こりゃ想像以上に廃墟だな」
シスル・ノーティラスが集落を一望し呟く。
「うん……人が住まなくなると、こんな簡単に朽ちちゃうんだね……」
キキが沈痛な面持ちで答えた。
砂漠の3年は無情にもここで生活していた人々の記憶を飲み込んでいた。
「可能性は低いかもしれませんが、外からの襲撃に備えます。周囲の警戒は任せてください」
そう言って、ノックス・マグナは愛狼マギステルに囁きかける。
「君の毛皮には酷な環境かもしれないが、頼んだよ」
そう言ってノックスは愛狼の口に水を含ませてやると、集落の外縁を指さした。
「それでは行ってきます。探索の方よろしくお願いします」
万が一に備え、ノックスはマギステル共に集落の周囲の警戒に当たる。
「街の外はノックスさんに任せて、私達は交戦記録にあった場所を中心に周囲を調べましょう」
フリーダが先頭に立ち廃墟へと足を踏み入れた。
日干し煉瓦で作られた家屋はまだ原形をとどめている。しかし、そのあちこちに3年前に出来たであろう傷跡が生々しく残っていた。
「セスタ。今日も頼んだよ」
エリザは肩に乗る相棒に声をかけるとエーテルリンクを結ぶ。
「見落とさないように、少しずつ捜索範囲を広げて行こう」
「じゃぁ、あたしは上から見るか」
そう言うとシスルは【壁歩き】を使い、日干し煉瓦の壁を登る。
「そんなに広くない集落だな。これなら――」
集落は高所からであれば全景が見渡せる程度の規模だった。
シスルは全景の把握から導き出した捜索ルートを仲間達に伝えていった。
集落の西側を捜索するキキとスフェーン。
「あ、あれサソリの足じゃない?」
「どどど、どこっスか!? キキの姉さんはオイラの後ろにぃ!」
「あ、違った。ただの木の棒だ、ははは」
「き、木の棒……お、驚かさないでくださいっス!」
「あはは、ごめんごめん。あ、これ頭蓋骨っぽい!」
「ずずず、頭蓋骨っ!! 死体っスか!? アンデットっスか!?」
「なーんだ、ただの石かぁ」
「キ、キキの姉さん!? 冗談はやめて欲しいっス!」
「えー、こんなことでびくびくしてて大丈夫? だって探してるの腕だよ? 人の体の一部だよ?」
「ひ、人の一部っ!? ひあぁっ!?」
「もぉ、きみは臆病さんだなぁ」
足を震わせながら不安げに視線を揺らすスフェーンに、キキはふぅと溜息をついた。
集落の東側では。
「……早く見つかられるとウ=マージ」
砂の中を透視しつつ、呪文のように呟くフリーダ。
「何か見つかっ……何か言った?」
そんなフリーダに声をかけたヨルが首をひねった。
「気にしないでください。ただの啓示です」
「うん、啓示……?」
「それよりも、ここに何か埋まっています」
「なんだって?」
フリーダが指差した場所には少し盛り上がった砂山がある。
二人は急ぎ積もった砂を掻きだしていく。
「これは……」
砂の底に眠っていたもの。それは折れた弓だった。
「砂漠の集落には似つかわしくない戦闘用の弓ですね」
拾い上げた弓を見ながらフリーダが呟いた。
「もしかしたら、ジル君の仲間のものかもしれないね。ここに置き去りにするのも忍びない。持って帰ってあげよう」
そう言うと、ヨルは弓をフリーダから受け取り鞄へ入れた。
●
「ここが最後の戦いの跡みたいだね」
セヴランが呟いた。
集落の中でも一際破壊の跡が克明に残る場所。ジルの話や報告書の記述とも一致する。
「この辺りに彼女の腕が……思い出が埋まっているのだろうか」
現場は砂に覆われ、3年前の出来事を覆い隠しているように見える。
この砂の下のどこかに、切り離されてしまったジルの腕があるのだろうか。
「随分な激戦だったみたいだね。沢山の人間が死んだだろう」
と、砂を前に佇むセヴランにエリザが声をかけた。
「そんなことまでわかるのかい?」
「この傷跡を見れば、ある程度はね」
エリザはセヴランに日干しレンガに刻まれた傷を指さす。
「確かにこれは激戦だな。半分砂に埋もれているが――なるほど、ここで一撃。そうか。ああ、よくかわしたな」
エリザに続きシスルが壁に傷跡を見て呟いた。傷にはそれを伝えるべき記憶があると。
「これは弓が削った跡、こっちは吹き飛ばされて鎧がめり込んだ痕だな」
長い傭兵としての経験がそれを見せるのか、エリザとシスルは廃墟に刻まれた傷跡を追っていく。
「これは大サソリの鋏の跡か。でかいな」
と、シスルがレンガに刻まれた大きな傷跡に手を触れた。
共に傭兵家業に身を置く二人。現状を見て状況を読み取る力は、戦場で存分に叩き込まれていた。
「すごいな二人とも」
まるで今、この場に3年前の激戦を再現させそうな二人に、セヴランは感嘆の声を上げた。
「――ここでフィニッシュだ」
二人して何度か現場を行き交った後、エリザが足元の砂を脚で退かす。
すると――。
「これってもしかして……」
「ああ、ジルの話にあったエウロアの最後の一撃だろう」
エリザが足をどけた場所にあったのは、大地に穿たれた大剣の跡だった。
「となると、左腕だから――多分この辺りか。フリーダ、この辺り見てくれ」
そう言うとシスルは近くにあった民家を指さし、透視ができるフリーダに声をかける。
「わかりました」
フリーダはシスルの指示通り、朽ちた民家の中を透視し始めた。
シスルの予想通りジルの左腕は近辺から発見された。
「朽ちても盾は離さなかったんですね」
ジルの左腕は干乾びてなお、しっかりと盾を握りこんでいる。
同じく盾を持つ者として、フリーダは朽ちた腕に敬意を表した。
「それほどこの盾に愛着があったのか、盾役としての矜持がそうさせたのか」
フリーダの肩口から顔を覗かせたヨル。
「フリーダ君、ゆっくり拾い上げてあげて」
こくりと頷いたフリーダによって、盾を握ったままの腕が持ちあげられる。
フリーダはそのまま廃屋を出ると、セヴランが用意していた布の上に盾と腕を置いた。
「……そうか、そういう事だったか」
「え? 何の事ですか?」
朽ちた腕を眺め呟いたヨルに、フリーダが問いかける。
「うん? いやね、ずっと考えていたんだ。ジル君の話にあったエウロア君の笑顔の意味をね。でも、これで合点がいった」
「なるほどね。これが『思い出』なのか」
「ああ、そういう事のようだね」
ヨルとセヴランが共に見つめる腕の先。干乾びたてしまった指にはくすんだ銀の指輪がはまっていた。
「えっと……それじゃ、この指輪が本当に探していたもの、という事ですか?」
「きっとそうなんじゃないかな。腕や盾なんかよりも、何より大切な彼女の思い出だ」
「これが思い出……」
まだ若いフリーダには、それにどれほどの思いがこもっているのかまだわからない。
じっと見つめるフリーダに、ヨルは「そのうちわかる時が来るさ」と優しく声をかけた。
「遅くなったね。ようやく迎えに来る事ができたよ。長い間、寂しい思いをさせてごめんね」
一方、膝を折ったセヴランが指輪に語り掛ける。
「君を連れ帰ると約束した人がいるんだ。一緒に帰ろう。きっと彼女も喜ぶよ」
まるでそこに誰かの意思が宿っているかのように、そう呟いてセヴランは腕と盾を布で優しく包み込んだ。
「どういう気分なんスかね。友達を亡くして、寄る辺もなく、戦う術だって失って」
腕の回収を進める仲間達の背を見ながら、スフェーンが呟いた。
「ジルのことを言ってんのか?」
隣に立つシスルが同じく仲間の背を見つめながら問いかける。
「シスルの姉さんは、何か失ったことがあるっスか?」
スフェーンはシスルの問いには答えず、逆に質問した。
「はは、失ったものか。そんなもんないね」
「ないんっスか?」
「そもそも、何かを得たことが無いからな。失うものなんてーのは、何もない」
「何かを得たことが無い……っスか」
シスルは何気なくそう口にするが、それは苛烈な人生を歩んできた証に他ならない。
スフェーンは思う。自分と同じだと。
「だが、ジルは違ったんだろうな」
「……え?」
「何かを得て、何かを失った。だから今回の依頼を出したんだろうな」
「それは……過去を吹っ切りたいっていう事っスか……?」
そう答えたスフェーンに、シスルは意外そうな顔を向ける。そして。
「あんたはどうなんだ、スフェーン」
と問いかけた。
「オイラには……まだよくわからないっス。でも、少しだけ……ほんの少しだけ、頑張ろうかなって思うっス」
そう言葉を絞り出したスフェーンの兜を、シスルは「それでいい」と乱暴に撫でまわした。
そして、隣ではエリザとキキが。
「やっぱり指輪だったか」
「エリザさんはわかっていたの?」
「わかってはいなかったが……いや、わかっていたのかもしれないな」
酒場で聞いたジルの声がエリザの頭の中で甦る。
「話の最後に苦しそうに話すジルの顔が、どうにも忘れられなくてな」
「ジルさん辛そうだったね。ずっと泣いていたもん。涙を流さずに」
しょぼんと項垂れるキキ。ジルの話をまるで英雄譚を聞く子供のように一喜一憂しながら聞いていたキキは、その言葉の奥にある悲しみをずっと感じていた。
「ああ、そうだね。だから、それがアタシと同じだと思ったのさ。長い時間、連れ合いを待って無為な時を過ごしていた自分とね」
「えっ、それは恋人的なやつですか!?」
「……夫さ。変わり者のね」
「夫っ!? ひゃぁ!」
と驚き顔を赤らめるキキにエリザはにっこりとほほ笑む。
「アンタも相手を選ぶときは慎重にな?」
「は、はひ。肝に銘じます」
妙に迫力のあるエリザにキキはこくこくと頷いた。
腕を回収した一行は、キキとエリザの提案で腕があった辺りの探索を行う。この一面の砂の下にはまだ、ジルの仲間の遺品が眠っているかもしれない。もし、それがあるのならジルの元へ帰してあげようという、二人の優しさからだった。
結果、壊れたアクセサリーや何かの金属片など、僅かではあるがいくつか見つける事ができた。
●
「お待たせしました、ノックスさん。異常はありませんでしたか?」
「はい、こちらは問題ありませんよ。そちらは――そうですか、見つかってよかった」
集落の入り口でマギステルと共に皆を待っていたノックスは、セヴランが大事に抱える包みを見つけ、ほっと胸を撫で下ろした。
「他の方も何やら晴れやかですね。成果は上々なようで安心しました」
何があったのかを聞くまでもない。集落へと入って行った時とはまるで違う仲間の表情に、ノックスも自然と笑みがこぼれる。
「それでは引き上げましょう。大丈夫、この辺りに不穏な影はありません」
そう言って、ノックスは先頭にたって帰路を指さした。
「すまない、ノックスさん。少しだけ待ってほしい。皆、最後に時間を貰えないかな」
ノックスに続き集落を離れようとした皆をセヴランが呼び止めた。
セヴランはジルの腕をエリザに預けると、集落へ向き直り。
「本当は一曲捧げたい所だったんだけど、何か出てくるとまずいから。鎮魂の祈りだけでも捧げさせてほしい」
そう言ってセヴランは膝を折ると胸の前で手を組む。
「よかったら、皆も一緒にどうだろう。――ここで散ってしまった命の為に」
そして、皆もセヴランに倣う様に一人また一人と目を閉じ祈りをささげたのだった。
マスターコメント
ショートシナリオ普通 報酬:標準8 / 4〜8人
2020年10月24日 16時47分59秒 公開
相談掲示板
シスル・ノーティラス。シーフだ。よろしく。 モノ探しの依頼ってことでいいのかね。まあちょっとモノが変わってっけど。 必要なのは現地での探し物の手順とか、分担とか? 集落は砂に埋まりかけてるらしいから、掘り出す感じになんのか。 砂漠の中らしいし、魔獣も出るってことで道中の対策も必要なんかね? オウムでどこまで接近できるか書いてねーから、必須かどうかちょっと判断つかねーけどな。
セヴラン・クアルト。一応シューターになるかな どうぞ宜しく。 そうだね…分担と下準備をしっかりしてみます 早めに見つけたいものだけど。 別個体に遭遇して僕らが怪我をしたら ジルさんがこの依頼を出した事を後悔するかもしれない。 ジルさんの話以外に当時の記録は追えるのかな? 探索場所を少し狭められるかなぁと。
ウォーリアのフリーダです。よろしくお願いします。 3年も経過している以上は砂に埋もれている可能性はあり得ます。 掘り出すとなるとそれなりに時間がかかると思われますので、 その間少数でも警戒役はいた方が良いと思います。 特にかつて襲われた大サソリの別個体がいた場合、 こちらを奇襲する程度の知能はあるとみるべきですし。
No.4
ウォーリアのスフェーンッス、よろしく頼むッス! んん、そうッスね。少なくともジルの姉さんの話通りなら、居住地近辺を最初の方に探せばいいかなってオイラは思うッス。 多分なんスけど。そこから外側~内側に捜索範囲を広げていけば引っかかるんじゃないかなって。 その上で、当時の記録を追うのは良い案だと思いまス。出来るだけ範囲を狭めれば探す密度も増して、早い発見も出来て、見張りも楽っスから。 で、手順の提案としては 『瓦礫が特に散乱している場所』から捜索するのが良いかな、と提案するッス! 跳んで居住地に入ったのならある程度の損害がある、と思うんスよね。 で、その上で時間が立ったなら、損害があったとこから壊れていくッスから。 ――どう、すかね。
エリザ・A・ミシャールだ。よろしく。 集落の周辺から探索の範囲を広げていくのは良い案だと思う。 あとは、いきなり腕を探すんじゃなくて、カイトシールドを先に目印として探すこと、かね。 現地までは問題なく着いた、で良いと思う。 着いてから、探索においてどう抜け漏れなく砂の中から腕を探すか。 見つけた腕を持ち帰り、ジルに何を語るかが問題なんじゃないか?
ヨル・スレイマン。宜しく頼むね。 徐々に範囲を広げていくのは賛成。当時の記録を追うのもね。 周囲の瓦礫もよく観察すれば、なんとなく当時の戦闘の具合もわかるかな。 一応敵個体が出ることを考えると、探すのに夢中でばらけてしまわないようにしたいね。 カイトシールドが見つかったり、ある程度目星がつけられたら、警戒と掘り起こしに分かれるのがいいかも。
はじめまして! 私、キャスターのキキです。よろしくね! うん、正式に出てた依頼だし記録はちゃんと追えそう。記録にないものはジルさんに聞いて補ったらいいかな(近くに特徴的な建物があったか、とかね!) 「特に瓦礫が散らかっている場所から」の案も、私は賛成! 警戒……はあんまり得意じゃないから、探索に集中させてもらおうかな。
シューターのノックスです。 よろしくお願いします。 「瓦礫の場所から」、「カイトシールドを目印に」了解です。 私は主に警戒を行いましょう。ないよりかはマシといったものですが感波を所持しているのでこちらを探る気配には気付けると思います。
今回は現地での行動中心で考えりゃよさそうか。 なるほどな、当時の記録ね。大きな討伐依頼だったみてーだし、結果も……まあ、言っちゃなんだが大事件になっちまったわけだし、残ってそうだよな。 ジルの話からすると、ジルたちが交戦してたのは居住地と砂丘の間くらい? ま、それもすでに上がってるように瓦礫の壊れ具合でアタリをつけられるかね。 8人いるから手分けすんのもアリかと思ってたけど。 お互い見える範囲なら危険は少なそうにも思うんだが、どうだろ? あたしは……んー、シーフがモノ探しがうまくやれんのは屋内だけなんだよな。 一応、警戒メインで。でも偏るようなら発掘でもいいぜ。そっちのが人手要りそうだしな。
相談が止まっちまったかい? もうプレを書けそうな気もするが、抜け漏れ防止のために整理しとくとしようかね。 ◆事前準備 当時の記録を確認し、周辺状況などを整理してから臨む(担当:セヴラン&スフェーン&キキ) ◆道中 対策不要として統一 ◆現場での行動 居住地(跡地)の瓦礫を中心に、徐々に捜索の範囲を広げながら見落としが無いように進める カイトシールドや戦闘痕など目立つシンボルをまず探す 単騎突出は避け、不測の事態には声を掛け合って情報伝達やフォローが出来る距離を保つ 一部のメンバーは探索よりも周辺敵の警戒を優先させる(担当:シスル&ノックス) とりあえず担当は意思表示に見える範囲を拾っているつもりだけど、認識違いとかあったら言っておくれ。 ……敵が出ないっていうなら字数余るかもね。
No.11
整理感謝ッス! 止まったってえか、現段階では少なくともオイラの視点からは、言うべきことを言った感じがあるッスね。 敵は警戒しておいて損はないスけど、三年枯れた餌場って事もあるから少なくとも騒がしくしなければ出はしないだろうし。 後は現地での動きを密にすりゃあこういう言い方はあれッスけど、見つかるかは運しだいだし生きて帰れるとは思うッス。
エリザ君はまとめ感謝だよ。俺としてはそれで、認識相違は無い。 手分けについてはシスル君と同じく、お互い見える範囲であれば手分けしても充分問題ないと思うね。 じゃあ捜索をメインに行動しよう。瓦礫を退けたり掘り起こしたり、力仕事はできる。 残留思念感応は持っているので持って行くけど、流石に風化が激しくて役には立たないだろうな。 ま、腕は二本足は二本あるんだ。地道に探せばなんとかなるでしょ。
発言が遅くなって申し訳ないね まとめもありがとう。 そうだね シールドを見つけても本格的な掘り出しは 纏まってからが良いと思うし、手分けの距離感もあげてくれた通りでいいと思う。 一先ず事前の下調べと 探索系のスキルはホークアイを持って行くよ 警戒にはノックスさんとシスルさんが当たってくれるみたいだし 探索メインの予定だね
おや 勘違いしてた ホークアイは策敵だから 探索には役に立たないね そこはそれ 警戒補助に一応持って行くよ