家族と
キャラクターノベル(グループ)制作 真柄 葉納品 2023年12月07日 10時21分45秒
放たれた一本の矢が、柵の隙間に吸い込まれていく。
「ティト、取水口の柵を破壊。侵入経路を確保してください。その後はすぐに帝国軍本隊へ合流。作戦が前倒ししたと伝えてください」
「待って、なに、言ってるの……?」
状況を飲み込めないティトの両肩を、セロンガード・シュタインドルフがぎゅっと掴む。
「すみません。あれだけ念を押したのに、約束を破ったのは私でしたね」
「そ、そう、だよ……これ、じゃ、作戦が」
「問題ありません。作戦に”不測の事態”はつきものです」
「……自分で招いた、のに?」
「それは言わないお約束ですよ? さて、変更後の作戦は理解しましたね」
「うん……でも、セロンは、どうする、の?」
「私は”時間稼ぎ”をします。本隊到着前に逃げられでもしたら、第二第三の犠牲村が出てしまいますからね」
「それは、わかるけど、一人で……」
「大丈夫ですよ。別に敵を殲滅しようとか思っていませんし」
「本当……?」
「ええ。そもそも帝国軍が出動するような作戦ですよ? 私一人でどうこうできるものではありません。ただ、私がそういう作業が得意なのは知っているでしょう?」
「そう、だけど……」
「……うーん、ではこうしましょう。私に『勇気』をいただけますか?」
ティトの表情からその内面を察したセロンガードはそう切り出した。
「ゆうき……?」
「そうです。いただけますか?」
「それは、いいけど……そんなの――――んっ」
どうやるのかと問い返そうとしたティトの口が、物理的に塞がれる。
突然のことに驚くティトの体を、セロンガードが優しく包み込んだ。
「……ありがとう。これで勇気百倍、無敵の大英雄に変身できます」
「……ぷっ、なにそれ。変な、の」
耳元でささやかれた声にようやく笑顔を見せたティト。
その瞳には、先ほどまでの不安と畏れの色はもうない。
「さぁ、時間がありません。早く!」
「う、うんっ!」
セロンガードは力強く頷いたティトの体をその場で半回転させ、背中に手を添え軽く押してやった。
ティトは一瞬振り返ろうとするが、小さく首を振りそのまま村へと飛ぶように駆けていく。
「……さて、こちらも準備をしましょう」
あれだけの距離を一気に詰め、もう取水口に取り付いたティトの能力を頼もしく感じつつ、セロンガードは急ぎ装備を確認した。
何せ今から時間稼ぎが待っている。
「……よし」
小さく気合を入れたセロンガードが森を飛び出すと、丁度、作業を終えたティトが戻ってきた。相変わらず仕事が早い。
「ティト」
「終わったよ、セロン」
「ありがとう。では、作戦通りに」
「うん、作戦、通りに」
――――パチンっ。
二人は交差する瞬間に手を合わせ、それぞれ逆方向へ駆けていった。
●
潜入した村の中は騒然となっていた。
セロンガードはすぐに物陰に移動し、村の状況を観察する。
村の中央には矢を眉間に受けて絶命している男がいた。そして、その周囲に敵集団の兵士と思しき男たちが集まってくる。
「……どうやら、彼女は奪われなかったようですね」
ティトが気にしていたあの親子は、混乱に紛れて逃げたのかその姿はない。
セロンガードは無意識に安堵している自分に気づき苦笑した。
先ほどティトの顔を見た瞬間、身体が勝手に動いた。
あれだけ独断専行は控えるようにと釘を刺していたのに、結局自らがその禁を破ってしまった。
ティトは怒ってるだろうか。それとも、失望しただろうか。
どう思われても構わない。おかげで大切な人の笑顔が守れるのだから。
そんなことを思っていたからだろうか、状況はけして楽観できるものではないのに、自然と笑みが浮かんでくる。
先ほど彼女からもらった”ゆうき”のせいもあるのだろうか。
それとも、彼女との”愛”と”絆”がそうさせるのか。
遥か昔、なすすべなく奪われたものを、長い時をかけてようやく取り戻した。
もう二度と奪われない――――だから『不敗』を誓った。
もう二度と壊されない――――だから『不屈』を誓った。
全ては、大切な、大切な愛と絆の結晶を護る為に――――。
「たまには、こういうのも悪くないものですね」
心に灯る暖かな炎の存在を確かに感じ、セロンガードは微笑みのままに弓に矢を番えた――――。
●
急げ、急げ、急げ。
肺の中にできるだけ沢山の空気を入れて、体の隅々にまで行きわたらせろ。
いつもは無意識に動かしている筋肉の一つ一つを意識して、最高率で動かせ。
彼は今敵地のど真ん中に一人でいる。
本人は軽口を叩いていたが、そんな生易しい状況ではないことは、ぼくにだってわかる。いつもは冷静なセロンが、あんな無謀な行動をとる理由なんて、一つしかない……全てはぼくの為なんだ。
ぼくが感情を表に出してしまったから、セロンはあんな無茶をした。
ねぇ、セロン。
きみは、ね。もうぼくの、大切な家族、なんだよ?
この前は、傷つけて、ごめんね。
今日も、気を遣わせて、ごめんね。
ぼくも、ぼくのできることを、するよ。
きみは、ぜったいに、死なせない。
だから、おねがい。
待ってて……。
ティトは風のごとき勢いで林道を駆けながら、先ほど触れた唇の感触を思い出す。
あの時、セロンガードと共に村に乗り込む事も考えた。
だけど、彼には彼の”戦い方”がある。ぼくがいない方が彼が動きやすいことだってあるんだ。そう理解しているからこそ、何も言わずに別れた。
やるべきことを確実にやる。
それが、彼への最大の援護射撃になるのだから。
「見え、た……!」
ようやく林の切れ間に味方陣地を見つけたティトは、大地に穴を穿たんばかりに地面を蹴った。
●
あれから1時間は経っただろうか。
ようやく帝国軍を引き連れて戻ってきてみれば、村はなぜか静寂に包まれていた。
これは一体、どういう状況なの……?
セロンはどうなったの……まさ、か……!
最悪のシナリオが頭をよぎる。
ティトは司令官に様子を見てくると告げ、一人取水口へと向かった。
「セロンっ……!」
取水口の隙間をくぐり村の中に入るが、相変わらず村は静かなまま。
ティトは敵に見つかる危険も顧みず、大きな声で大切な”家族”の名を呼んだ。
「――――ティト?」
建物の向こうで微かに声が聞こえた。
ティトは急いで建物を迂回し……目の前に広がる光景に絶句した。
「セロンッ……!」
ひらけたその場所は一面血の海。そして、その中央に佇む、血まみれの男。
いくら汚れていようが見間違うはずはない。
ティトは転々と転がる死体の間をすり抜け、急いで彼の元へと駆け寄った。
「こんなに、血……! どこ、どこが、痛いの……!」
「そうですね。全身でしょうか」
「全身……! すぐに、お医者さん――――」
「大丈夫ですよ」
ティトが急いで踵を返そうとして、セロンガードに手を掴まれた。
「痛いのは、ただの筋肉痛です」
「……へ?」
「すこーしだけ無茶をしましてね。今、ひじょーに全身がダル痛いです」
「なに……いってる、の?」
「ああ、この血はほとんど返り血です」
「だから、何を……」
「だから言ったでしょう? 私は負けませんし、この程度、屁でもないって」
「……」
「……あの、ティトさんや?」
「そんなの……」
「ん?」
「そんなの、ひとことも言って、ない! ばか……っ!」
汚れることも厭わず、血まみれセロンに抱きついたティトの瞳から、大粒の涙が零れ落ちたのだった――――。
「ティト、取水口の柵を破壊。侵入経路を確保してください。その後はすぐに帝国軍本隊へ合流。作戦が前倒ししたと伝えてください」
「待って、なに、言ってるの……?」
状況を飲み込めないティトの両肩を、セロンガード・シュタインドルフがぎゅっと掴む。
「すみません。あれだけ念を押したのに、約束を破ったのは私でしたね」
「そ、そう、だよ……これ、じゃ、作戦が」
「問題ありません。作戦に”不測の事態”はつきものです」
「……自分で招いた、のに?」
「それは言わないお約束ですよ? さて、変更後の作戦は理解しましたね」
「うん……でも、セロンは、どうする、の?」
「私は”時間稼ぎ”をします。本隊到着前に逃げられでもしたら、第二第三の犠牲村が出てしまいますからね」
「それは、わかるけど、一人で……」
「大丈夫ですよ。別に敵を殲滅しようとか思っていませんし」
「本当……?」
「ええ。そもそも帝国軍が出動するような作戦ですよ? 私一人でどうこうできるものではありません。ただ、私がそういう作業が得意なのは知っているでしょう?」
「そう、だけど……」
「……うーん、ではこうしましょう。私に『勇気』をいただけますか?」
ティトの表情からその内面を察したセロンガードはそう切り出した。
「ゆうき……?」
「そうです。いただけますか?」
「それは、いいけど……そんなの――――んっ」
どうやるのかと問い返そうとしたティトの口が、物理的に塞がれる。
突然のことに驚くティトの体を、セロンガードが優しく包み込んだ。
「……ありがとう。これで勇気百倍、無敵の大英雄に変身できます」
「……ぷっ、なにそれ。変な、の」
耳元でささやかれた声にようやく笑顔を見せたティト。
その瞳には、先ほどまでの不安と畏れの色はもうない。
「さぁ、時間がありません。早く!」
「う、うんっ!」
セロンガードは力強く頷いたティトの体をその場で半回転させ、背中に手を添え軽く押してやった。
ティトは一瞬振り返ろうとするが、小さく首を振りそのまま村へと飛ぶように駆けていく。
「……さて、こちらも準備をしましょう」
あれだけの距離を一気に詰め、もう取水口に取り付いたティトの能力を頼もしく感じつつ、セロンガードは急ぎ装備を確認した。
何せ今から時間稼ぎが待っている。
「……よし」
小さく気合を入れたセロンガードが森を飛び出すと、丁度、作業を終えたティトが戻ってきた。相変わらず仕事が早い。
「ティト」
「終わったよ、セロン」
「ありがとう。では、作戦通りに」
「うん、作戦、通りに」
――――パチンっ。
二人は交差する瞬間に手を合わせ、それぞれ逆方向へ駆けていった。
●
潜入した村の中は騒然となっていた。
セロンガードはすぐに物陰に移動し、村の状況を観察する。
村の中央には矢を眉間に受けて絶命している男がいた。そして、その周囲に敵集団の兵士と思しき男たちが集まってくる。
「……どうやら、彼女は奪われなかったようですね」
ティトが気にしていたあの親子は、混乱に紛れて逃げたのかその姿はない。
セロンガードは無意識に安堵している自分に気づき苦笑した。
先ほどティトの顔を見た瞬間、身体が勝手に動いた。
あれだけ独断専行は控えるようにと釘を刺していたのに、結局自らがその禁を破ってしまった。
ティトは怒ってるだろうか。それとも、失望しただろうか。
どう思われても構わない。おかげで大切な人の笑顔が守れるのだから。
そんなことを思っていたからだろうか、状況はけして楽観できるものではないのに、自然と笑みが浮かんでくる。
先ほど彼女からもらった”ゆうき”のせいもあるのだろうか。
それとも、彼女との”愛”と”絆”がそうさせるのか。
遥か昔、なすすべなく奪われたものを、長い時をかけてようやく取り戻した。
もう二度と奪われない――――だから『不敗』を誓った。
もう二度と壊されない――――だから『不屈』を誓った。
全ては、大切な、大切な愛と絆の結晶を護る為に――――。
「たまには、こういうのも悪くないものですね」
心に灯る暖かな炎の存在を確かに感じ、セロンガードは微笑みのままに弓に矢を番えた――――。
●
急げ、急げ、急げ。
肺の中にできるだけ沢山の空気を入れて、体の隅々にまで行きわたらせろ。
いつもは無意識に動かしている筋肉の一つ一つを意識して、最高率で動かせ。
彼は今敵地のど真ん中に一人でいる。
本人は軽口を叩いていたが、そんな生易しい状況ではないことは、ぼくにだってわかる。いつもは冷静なセロンが、あんな無謀な行動をとる理由なんて、一つしかない……全てはぼくの為なんだ。
ぼくが感情を表に出してしまったから、セロンはあんな無茶をした。
ねぇ、セロン。
きみは、ね。もうぼくの、大切な家族、なんだよ?
この前は、傷つけて、ごめんね。
今日も、気を遣わせて、ごめんね。
ぼくも、ぼくのできることを、するよ。
きみは、ぜったいに、死なせない。
だから、おねがい。
待ってて……。
ティトは風のごとき勢いで林道を駆けながら、先ほど触れた唇の感触を思い出す。
あの時、セロンガードと共に村に乗り込む事も考えた。
だけど、彼には彼の”戦い方”がある。ぼくがいない方が彼が動きやすいことだってあるんだ。そう理解しているからこそ、何も言わずに別れた。
やるべきことを確実にやる。
それが、彼への最大の援護射撃になるのだから。
「見え、た……!」
ようやく林の切れ間に味方陣地を見つけたティトは、大地に穴を穿たんばかりに地面を蹴った。
●
あれから1時間は経っただろうか。
ようやく帝国軍を引き連れて戻ってきてみれば、村はなぜか静寂に包まれていた。
これは一体、どういう状況なの……?
セロンはどうなったの……まさ、か……!
最悪のシナリオが頭をよぎる。
ティトは司令官に様子を見てくると告げ、一人取水口へと向かった。
「セロンっ……!」
取水口の隙間をくぐり村の中に入るが、相変わらず村は静かなまま。
ティトは敵に見つかる危険も顧みず、大きな声で大切な”家族”の名を呼んだ。
「――――ティト?」
建物の向こうで微かに声が聞こえた。
ティトは急いで建物を迂回し……目の前に広がる光景に絶句した。
「セロンッ……!」
ひらけたその場所は一面血の海。そして、その中央に佇む、血まみれの男。
いくら汚れていようが見間違うはずはない。
ティトは転々と転がる死体の間をすり抜け、急いで彼の元へと駆け寄った。
「こんなに、血……! どこ、どこが、痛いの……!」
「そうですね。全身でしょうか」
「全身……! すぐに、お医者さん――――」
「大丈夫ですよ」
ティトが急いで踵を返そうとして、セロンガードに手を掴まれた。
「痛いのは、ただの筋肉痛です」
「……へ?」
「すこーしだけ無茶をしましてね。今、ひじょーに全身がダル痛いです」
「なに……いってる、の?」
「ああ、この血はほとんど返り血です」
「だから、何を……」
「だから言ったでしょう? 私は負けませんし、この程度、屁でもないって」
「……」
「……あの、ティトさんや?」
「そんなの……」
「ん?」
「そんなの、ひとことも言って、ない! ばか……っ!」
汚れることも厭わず、血まみれセロンに抱きついたティトの瞳から、大粒の涙が零れ落ちたのだった――――。