剣と盃と友情と

キャラクターノベル(グループ)制作 革酎納品 2023年09月26日 15時56分18秒

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 今から二十数年前。
 シルトラース帝国貴族ローギリアン伯爵家が人身売買の罪に問われ、爵位剥奪となった。
 父と兄の所業に怒りを覚えた告発人ジェレムス・ローギリアンはその後、半ば亡命という形でリーンエス王国へと逃れた。
 彼がまだ、十代前半の年若い少年に過ぎなかった頃の話である。
 その際、裏で告発に関わった王国貴族カペル侯爵家がジェレムスの身元引受人となった。ジェレムスに、人身売買組織からの報復が迫ることを恐れての措置であったと見て良いだろう。
 そうして、晴れて王国民としての生活を送る運びとなったジェレムスだが、当時のカペル侯爵夫妻の意向を受けて、彼はパンクリアース学園に編入という形で入学した。
 学園にはカペル侯爵家次期当主と目されているエクスリオ・カペルも籍を置いており、侯爵夫妻としては息子の良い友人になってくれれば、という願いもあったのだろう。
 そのジェレムスは編入初日に早速、エクスリオのもとへ挨拶に伺った。
「やぁ、君がジェレムス・ローギリアンだね。エクスリオ・カペルです。どうぞ宜しく」
 エクスリオは気さくな笑顔を向けたが、ジェレムスは決して表情を崩さず、神妙な面持ちで主人への礼を取った。これが何を意味するのか――エクスリオにはすぐに理解出来た。
「宜しくお願い申し上げます、エクスリオ様」
 ひと目も憚らず、堂々と跪いて頭を垂れるジェレムス。周囲の学生達はひそひそと囁き合ったが、ジェレムスは一向に気にする素振りも見せない。
 同じ年頃の少年が見事なまでに完成された従者の礼を取る姿に、エクスリオは大いに困惑した。
 目の前のこの人物は一体何者で、どの様な境遇を過ごしてきたのだろうか――エクスリオの中で強い好奇心が頭をもたげた。

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 入学直後のジェレムスとエクスリオの関係は、中々に特殊だった。
 ジェレムスはほとんど笑みを見せず、多少でも表情を緩めるのは所属する『第一剣術部』に於いてか、或いはカペル侯爵夫妻と接する時ぐらいであった。
 対するエクスリオは諜報組織『青薔薇』を擁するカペル家の次期当主という難しい立場上、学内サロンへの所属や婚約関係の話、或いは友人関係に於いても常に慎重で、ジェレムスとはまた異なる意味で、心からの笑みを見せることが少ない少年だった。
 だから余計に、笑顔を見せないジェレムスの本心が気になって仕方が無い。
 ジェレムスはエクスリオを主として崇めてくれるものの、本心ではどう思っているのだろう。
(ま……本心を見せないという意味では、余りひとのことをいえた義理でも無いか……)
 サロンを出る際に、第一剣術部の修練場へと向かうジェレムスの姿を見た時、エクスリオは内心で苦笑を漏らした。
 しかしその数日後、エクスリオは少々意外な話を小耳に挟んだ。
 どうやらジェレムスは、カペル侯爵家の騎士を目指している、というのである。
 一体彼は何を考えているのか――本人から聞き出せないのであれば、両親に問うしかない。
 エクスリオは週末に所用で実家のカペル侯爵邸へ戻る予定になっているのを利用し、その場でジェレムスのひととなりを訊いてみることにした。

 そうして、両親からジェレムスについて色々と聞き出したエクスリオだったが、自身が思っていた以上の衝撃が待ち受けていた。
(彼は、自分だけが生き永らえて王国に逃れてきたことを、悔いているのだろうか?)
 ジェレムスは僅か十代前半の少年ながら決死の覚悟で父ローギリアン伯爵と、兄の次期当主を人身売買の罪で告発した。
 奴隷として売られたひとびとの中にはジェレムスと懇意の者も多かったらしい。だが、それらのひとびとの安否は一切不明で、そのことがジェレムスに更なる鬱屈を与えていると見て良さそうだった。
(ジェレムスは……大丈夫かな)
 当初エクスリオは、ジェレムスをカペル家の食客或いはエクスリオの義兄弟的な存在だと見ていた。
 しかし事実は、想像以上に重かった。
 そのジェレムスがカペル侯爵家の騎士を目指している理由はひとえに、エクスリオの両親への恩義に他ならないだろう。
 そこで、エクスリオはひとつの結論を得た。
(彼こそが、心の底から本音を語り合える人物かも知れない)
 誰よりも心強い友を得るチャンスだ――その瞬間、エクスリオの腹は決まった。

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 学園内でのエクスリオ周辺の空気が変わった様に感じられたのは、それから二週間も経たない頃だった。
 諜報機関を擁するカペル侯爵家にやっかみを抱く他家貴族の子息からは、裏で何かと陰口を叩かれることが多かったエクスリオ。ところが、そういった雰囲気や噂が、ぴたりと止んだのである。
 その理由は、ジェレムスだった。
 彼が第一剣術部で目覚ましい技量を発揮し、同時にカペル侯爵家の騎士を目指している事実から、多くの生徒達がジェレムスと、そしてその主たるエクスリオに一目置く様になっていたのである。
 エクスリオはジェレムスがカペル家に恩義を感じていることを思い出した。そしてジェレムスは見事、己の技量でカペル家への侮辱や陰口を完全に黙らせたのである。
 彼こそが唯一無二の友人になり得る存在だ――改めてそう確信したエクスリオは夕刻、修練場に居残って練習を続けるジェレムスを訪ねた。
「ひとつ、お手合わせ願えるかな?」
 練習用の木剣を携えてジェレムスの前に立ったエクスリオ。
 待ってましたとばかりに静かな笑みを返すジェレムス。
 ふたりの心が初めて、本音で触れ合った瞬間だった。
(彼は必ず、カペル侯爵家の騎士になる)
 エクスリオは確信した。
 カペルの為に騎士の道を目指そうとする姿勢、種族に囚われぬ帝国出身者としての実力指向は、権力に汲々とする王国貴族には無い爽やかさを感じさせた。
 そして学内には、平民に身を落としたジェレムスを侮蔑する声が未だに少なくない。そんな連中を、エクスリオは全力で排除する決意を固めた。

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 ふたりが友として互いに手を取り合う様になった直後、カペル侯爵家に激震が走った。
 当主カペル侯爵が吸血鬼に殺害されたのである。
 僅か14歳のエクスリオは急遽次期当主として立たざるを得ず、爵位継承と政略結婚という荒波が同時に襲い掛かってきた。
 だがそれでも、エクスリオは穏やかに笑った。全てを受け入れるといわんばかりに。
(何故このおふた方は、俺の父や兄とはこれ程までに違うんだ?)
 衝撃を受けつつも、しかしジェレムスはとことんエクスリオを支えると誓った。
 一方、エクスリオはというと。
(この若さで何もかもを失ったジェレムスに比べれば、こんなことで落ち込んではいられない)
 家族も領民も、妻も、そして親友(ジェレムス)も、全て守る――その覚悟に、一片の揺らぎも無かった。

 それから、二十数年。
 ふたりは今も尚、剣の手合わせを重ね、夜には盃を交わし、心から打ち解け合う時間を共にし続けている。
 立場は変わり、エクスリオはカペル侯爵家現当主として、ジェレムスはカペル侯爵家騎士団の団長としてそれぞれの責任を全うする日々を送っているが、友として互いに胸襟を開く姿には何の変化も無かった。

登場キャラクター

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0