ウォレットミステリー
キャラクターノベル制作 革酎納品 2023年09月17日 11時03分55秒
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涼やかな秋風が吹き始めたリーンエス王国北部の町ホークヤード。
冒険者としての依頼を終えて久々に町へと帰ってきたヴァン・ローラントは、少し遅めの夕食を終え、幾分のんびりした足取りで暗い夜道を歩いていた。
途中、彼は道端に落ちている黒い革製の何かを拾った。どうやら、財布の様だ。表面の隅には家紋らしい模様が描かれている。
そういえば近くに警備隊の詰所があった筈だ――ヴァンは落とし物の届出だけを済ませてから、さっさとローラント探偵事務所へ帰ろうなどと軽い気持ちで足を向けた。
ヴァンが警備隊詰所を覗くと、見知った顔の男が貧相な中年男性を相手に廻して、何やら聞き取り作業に入っている最中だった。
「よぅ、ヴァンじゃないか。今日帰ったのか?」
警備隊の男――デリック・エズモンドは聞き取りを中断し、ヴァンに向けて手を振った。
「随分、疲れてるみたいじゃないか。確か冒険者ギルドの依頼で、町を離れてたんじゃないのか?」
「それはそうなんですが、こんな物を拾ったので、届出だけ済ませて帰ろうかと」
デリックに応じながら、ヴァンは懐から先程拾った財布を取り出した。
すると、今の今までデリック相手に必死に何かを訴えかけていた中年男性がいきなり目を剥き、木椅子から物凄い勢いで立ち上がった。
「あっ! そ、それです! 私が失くした財布は、それです!」
嗚呼、そういうことなのか。
中年男性の突然の騒ぎっぷりに一瞬驚いたヴァンだったが、相手の反応から大体の事情を呑み込んだ。
が、デリックはまぁ少し待って下さいと中年男性を落ち着かせ、本当にこの財布で間違い無いのかと改めて問いただした。
「盗られたのは手荷物だという話でしたが、その中に財布も含まれていたと?」
「えぇ、えぇ。おっしゃる通りです」
早くその財布を返してくれといわんばかりの勢いで、何度も大きく頷き返す中年男性。
彼は、ポール・カリステと名乗った。カリステはヴァンにも理解して貰おうと考えたのか、改めて一から説明し始めた。
●
カリステの説明によれば、彼はこの夜、とある居酒屋でしこたま酒を飲み、相当に酔っ払っていた様だ。
ところがその帰り道、彼は路上で眠り込んでしまった。幸いパトロール中だった警備隊に保護された為、大きな事故に遭うことも無く、つい先程まで詰所のベンチで眠りこけていたカリステだったが、ふと素面に戻って目覚めると、荷物が無いと騒ぎ始めたのである。
そこへ、ホークヤード市内の別地点で起きた殺人事件の捜査から引き返してきたデリックが何事かと驚き、そのままカリステから事情を聞いていたという次第。
要するにカリステは酔っ払って路上で爆睡していたところを狙われ、何者かに荷物一切を盗まれてしまったということらしい。
そして現在。飲み過ぎで記憶が飛んでしまっていたカリステだが、ヴァンが落とし物として届け出ようとしていた財布が自身の所有物だと気づき、思わず大声を上げてしまったというのが、おおよその事情だった。
「そういうことでしたか。では届出の書類だけ済ませて、お返しします」
カリステに頷き返しつつ、ヴァンはデリックが用意した拾得届の書類にペン先を走らせ始めた。
ところがここで、思わぬ事態が発生した。
「あッ! その財布! ここにあったんですか!」
詰所の入り口で、若い男が仰天した様子でこちらを指差している。否、よくよく見ると彼が指差しているのはカリステの所有物とされている筈の財布だった。
まさか――ヴァンとデリックは思わず顔を見合わせた。
その若い男は、デイヴ・ボーアと名乗った。このボーアも、ヴァンが拾った財布が自分のものだと主張し始めたのである。
何だか面倒なことになってきたと、デリックは思わず天井を見上げた。
「いやいやいや、何をいってるんですか。この財布は、私のものです」
カリステも少しの間、驚いた様子でボーアとデリックを交互に見遣っていたが、流石に拙いと察したのか、慌てて強い口調で主張を返してきた。
これはどちらかが、或いは両方が嘘をついている。
ヴァンは依頼を終えてくたくたに疲れてはいるものの、探偵としての頭脳は寧ろ逆に、鋭利に冴え渡り始めていた。
●
ボーアを詰所内へと招き入れたデリックは、彼が落としたと主張する財布の形状や、落とした位置、時間帯などについて聴取を始めた。
どうやらボーアが財布を落としたのは宵の始め頃、ホークヤード市内某所の通りだということだった。その落とした場所というのが、ヴァンが財布を拾った場所と綺麗に一致する。
では、ボーアのいっていることの方が正しいのだろうか。
デリックは幾分困り果てた様子で、件の財布を手にしたまま、ヴァンを別の小部屋に誘った。ふたりだけで話をしたい、という訳だ。
カリステとボーアのふたりには、他の警備隊員が暫く対応する運びとなった。
「ヴァン、どう思う?」
別室に入るなり、デリックは先程までの事務対応スマイルから厳しい表情へと一変させた。彼の中の、事件捜査担当としての勘が、何かがおかしいと囁いていた。
これに対しヴァンも、あのふたりは何かを隠していると頷き返した。
「ふたりが説明した財布の形状や特徴はいずれもぴたりと符合しています。何から何まで現物と一致しており、これだけを聞いたらあのふたりのいずれかが財布の持ち主、ということになりますが」
しかし、カリステもボーアも、この財布の所有者ではない――ヴァンは半ば確信するに至っていた。
まずカリステ。
「財布を目にした時から、彼は失くした他の手荷物については一切、何もいわなくなりました。仮にこの財布が一番大事だとしても、余りに不自然です」
「そうだな。普通なら、他の荷物もお願いしますって頼むところだろうに、そのひと言さえ無かった」
次いでボーア。
「彼の証言が本当なら、この財布は宵からこの深夜までずっと路上に放置されていたことになります。しかし深夜のこの時間帯でさえ割りと簡単に目が付く様な代物を、俺が拾うまで他の者が一切見向きもしないなんて、普通では考えられない」
「……だな。悪意のある者が中身だけ抜き取って、また同じ場所に捨てたって線もあるにはあるが」
デリックは財布の中身を検めた。
結構な額の現金の他に、折り畳まれた紙片。ここでふたりは、紙片の方に着目した。
血で汚れていたのである。しかも、まだ完全に乾き切っていない。
一気に、きな臭い空気が漂い始めた。
●
ヴァンとデリックは、カリステとボーアが待つ部屋へと引き返した。
しかしここで財布の件に話を戻すのではなく、ヴァンは別のことを訊いた。
「何か、普段から使っている携帯品はありますか?」
この問いに対し、カリステは自宅と勤め先の鍵を収めたキーケースがあると応じ、ボーアは仕事でよく使う巾着型の小物入れを差し出してきた。
デリックがふたりからそれぞれ受け取ると、ヴァンは適当な木箱を手元に寄せて、その二品を中に仕舞い込んで曰く。
「では、それぞれの特徴を教えて下さい。事細かに、思い出す限り全てを」
形状や特徴のみならず、どこにどの様な傷があり、どの部分が色褪せ、どれ程の重さがあるのか。
カリステもボーアも何故そんなことを訊くのかと不審げな表情を浮かべつつ、それぞれがヴァンの求めに応じて答え始めた。
「ありがとうございます。おふた方共、確かにそこそこの内容でお答え頂き、それなりに正解でした。ですが……」
ヴァンはふたりから預かったキーケースと小物入れを卓上に並べ、最後に件の財布を置いた。
「この財布に関してだけは、異常な程に事細かく……それこそ形状や材質だけではなくて、どこにどの様な疵があり、染みや色褪せ、剥げている箇所、質感、更には重さまで完璧に覚えておられましたね。普通、自分の所持品だからといって、ここまで完璧に全ての要素を覚えていられますか?」
答えは、否だ。
たった今、カリステもボーアもキーケースと小物入れに対する記憶が微妙に曖昧だったという事実で、自ら証明したばかりである。
最早、言い逃れは出来ない。
「あなた方がこの財布に関して、ここまで完璧にその特徴を覚えているのは、所持者だから、ではありませんね……恐らくは何らかの目的を持って、その特徴を丸暗記したのでしょう」
ここでヴァンは、ところで、とデリックに水を向けた。
「先程、殺人事件云々といっていましたね。その犠牲者は?」
「ある商会の会長さんでね。その会長さんの家には、まぁ特徴的な家紋があるんだけど」
ヴァンに応じながら、デリックは殺人事件被害者の家族から預かってきた家紋入りの指輪を取り出した。その家紋が、件の財布に描かれている。
その瞬間、カリステとボーアは逃げ出そうとした。が、それよりも早く他の警備隊員達が動き、ふたりを拘束した。
●
結局、カリステもボーアも観念して全てを白状した。
まず商会長を殺害し、彼の財布を奪ったのはカリステだった。彼は飲み代が払えず、以前から目を付けていた商会長を路地裏で襲って殺害し、財布を奪った。その財布も、相当前からマークしていたらしい。
一方ボーアも同じく商会長を狙っていたが、彼は財布内の契約書を奪う腹積もりだった。が、カリステの犯行を目撃した為、どうにかして入手してやろうと追跡していたところ、カリステが路上で眠り込んでしまった。
そこでボーアはカリステから財布を奪い、契約書を抜き取って別の路上――即ちヴァンが財布を発見した場所に捨てた。
ところがボーアは、抜き取るべき契約書を間違えていたことに気付いた。慌てて捨てた財布を回収しに戻ったが、その時には既にヴァンが拾った後だった。
どうやら、例の血濡れの紙片こそがボーアが抜き取ろうと狙っていた契約書だったらしい。
何とも、お粗末な幕切れだった。
涼やかな秋風が吹き始めたリーンエス王国北部の町ホークヤード。
冒険者としての依頼を終えて久々に町へと帰ってきたヴァン・ローラントは、少し遅めの夕食を終え、幾分のんびりした足取りで暗い夜道を歩いていた。
途中、彼は道端に落ちている黒い革製の何かを拾った。どうやら、財布の様だ。表面の隅には家紋らしい模様が描かれている。
そういえば近くに警備隊の詰所があった筈だ――ヴァンは落とし物の届出だけを済ませてから、さっさとローラント探偵事務所へ帰ろうなどと軽い気持ちで足を向けた。
ヴァンが警備隊詰所を覗くと、見知った顔の男が貧相な中年男性を相手に廻して、何やら聞き取り作業に入っている最中だった。
「よぅ、ヴァンじゃないか。今日帰ったのか?」
警備隊の男――デリック・エズモンドは聞き取りを中断し、ヴァンに向けて手を振った。
「随分、疲れてるみたいじゃないか。確か冒険者ギルドの依頼で、町を離れてたんじゃないのか?」
「それはそうなんですが、こんな物を拾ったので、届出だけ済ませて帰ろうかと」
デリックに応じながら、ヴァンは懐から先程拾った財布を取り出した。
すると、今の今までデリック相手に必死に何かを訴えかけていた中年男性がいきなり目を剥き、木椅子から物凄い勢いで立ち上がった。
「あっ! そ、それです! 私が失くした財布は、それです!」
嗚呼、そういうことなのか。
中年男性の突然の騒ぎっぷりに一瞬驚いたヴァンだったが、相手の反応から大体の事情を呑み込んだ。
が、デリックはまぁ少し待って下さいと中年男性を落ち着かせ、本当にこの財布で間違い無いのかと改めて問いただした。
「盗られたのは手荷物だという話でしたが、その中に財布も含まれていたと?」
「えぇ、えぇ。おっしゃる通りです」
早くその財布を返してくれといわんばかりの勢いで、何度も大きく頷き返す中年男性。
彼は、ポール・カリステと名乗った。カリステはヴァンにも理解して貰おうと考えたのか、改めて一から説明し始めた。
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カリステの説明によれば、彼はこの夜、とある居酒屋でしこたま酒を飲み、相当に酔っ払っていた様だ。
ところがその帰り道、彼は路上で眠り込んでしまった。幸いパトロール中だった警備隊に保護された為、大きな事故に遭うことも無く、つい先程まで詰所のベンチで眠りこけていたカリステだったが、ふと素面に戻って目覚めると、荷物が無いと騒ぎ始めたのである。
そこへ、ホークヤード市内の別地点で起きた殺人事件の捜査から引き返してきたデリックが何事かと驚き、そのままカリステから事情を聞いていたという次第。
要するにカリステは酔っ払って路上で爆睡していたところを狙われ、何者かに荷物一切を盗まれてしまったということらしい。
そして現在。飲み過ぎで記憶が飛んでしまっていたカリステだが、ヴァンが落とし物として届け出ようとしていた財布が自身の所有物だと気づき、思わず大声を上げてしまったというのが、おおよその事情だった。
「そういうことでしたか。では届出の書類だけ済ませて、お返しします」
カリステに頷き返しつつ、ヴァンはデリックが用意した拾得届の書類にペン先を走らせ始めた。
ところがここで、思わぬ事態が発生した。
「あッ! その財布! ここにあったんですか!」
詰所の入り口で、若い男が仰天した様子でこちらを指差している。否、よくよく見ると彼が指差しているのはカリステの所有物とされている筈の財布だった。
まさか――ヴァンとデリックは思わず顔を見合わせた。
その若い男は、デイヴ・ボーアと名乗った。このボーアも、ヴァンが拾った財布が自分のものだと主張し始めたのである。
何だか面倒なことになってきたと、デリックは思わず天井を見上げた。
「いやいやいや、何をいってるんですか。この財布は、私のものです」
カリステも少しの間、驚いた様子でボーアとデリックを交互に見遣っていたが、流石に拙いと察したのか、慌てて強い口調で主張を返してきた。
これはどちらかが、或いは両方が嘘をついている。
ヴァンは依頼を終えてくたくたに疲れてはいるものの、探偵としての頭脳は寧ろ逆に、鋭利に冴え渡り始めていた。
●
ボーアを詰所内へと招き入れたデリックは、彼が落としたと主張する財布の形状や、落とした位置、時間帯などについて聴取を始めた。
どうやらボーアが財布を落としたのは宵の始め頃、ホークヤード市内某所の通りだということだった。その落とした場所というのが、ヴァンが財布を拾った場所と綺麗に一致する。
では、ボーアのいっていることの方が正しいのだろうか。
デリックは幾分困り果てた様子で、件の財布を手にしたまま、ヴァンを別の小部屋に誘った。ふたりだけで話をしたい、という訳だ。
カリステとボーアのふたりには、他の警備隊員が暫く対応する運びとなった。
「ヴァン、どう思う?」
別室に入るなり、デリックは先程までの事務対応スマイルから厳しい表情へと一変させた。彼の中の、事件捜査担当としての勘が、何かがおかしいと囁いていた。
これに対しヴァンも、あのふたりは何かを隠していると頷き返した。
「ふたりが説明した財布の形状や特徴はいずれもぴたりと符合しています。何から何まで現物と一致しており、これだけを聞いたらあのふたりのいずれかが財布の持ち主、ということになりますが」
しかし、カリステもボーアも、この財布の所有者ではない――ヴァンは半ば確信するに至っていた。
まずカリステ。
「財布を目にした時から、彼は失くした他の手荷物については一切、何もいわなくなりました。仮にこの財布が一番大事だとしても、余りに不自然です」
「そうだな。普通なら、他の荷物もお願いしますって頼むところだろうに、そのひと言さえ無かった」
次いでボーア。
「彼の証言が本当なら、この財布は宵からこの深夜までずっと路上に放置されていたことになります。しかし深夜のこの時間帯でさえ割りと簡単に目が付く様な代物を、俺が拾うまで他の者が一切見向きもしないなんて、普通では考えられない」
「……だな。悪意のある者が中身だけ抜き取って、また同じ場所に捨てたって線もあるにはあるが」
デリックは財布の中身を検めた。
結構な額の現金の他に、折り畳まれた紙片。ここでふたりは、紙片の方に着目した。
血で汚れていたのである。しかも、まだ完全に乾き切っていない。
一気に、きな臭い空気が漂い始めた。
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ヴァンとデリックは、カリステとボーアが待つ部屋へと引き返した。
しかしここで財布の件に話を戻すのではなく、ヴァンは別のことを訊いた。
「何か、普段から使っている携帯品はありますか?」
この問いに対し、カリステは自宅と勤め先の鍵を収めたキーケースがあると応じ、ボーアは仕事でよく使う巾着型の小物入れを差し出してきた。
デリックがふたりからそれぞれ受け取ると、ヴァンは適当な木箱を手元に寄せて、その二品を中に仕舞い込んで曰く。
「では、それぞれの特徴を教えて下さい。事細かに、思い出す限り全てを」
形状や特徴のみならず、どこにどの様な傷があり、どの部分が色褪せ、どれ程の重さがあるのか。
カリステもボーアも何故そんなことを訊くのかと不審げな表情を浮かべつつ、それぞれがヴァンの求めに応じて答え始めた。
「ありがとうございます。おふた方共、確かにそこそこの内容でお答え頂き、それなりに正解でした。ですが……」
ヴァンはふたりから預かったキーケースと小物入れを卓上に並べ、最後に件の財布を置いた。
「この財布に関してだけは、異常な程に事細かく……それこそ形状や材質だけではなくて、どこにどの様な疵があり、染みや色褪せ、剥げている箇所、質感、更には重さまで完璧に覚えておられましたね。普通、自分の所持品だからといって、ここまで完璧に全ての要素を覚えていられますか?」
答えは、否だ。
たった今、カリステもボーアもキーケースと小物入れに対する記憶が微妙に曖昧だったという事実で、自ら証明したばかりである。
最早、言い逃れは出来ない。
「あなた方がこの財布に関して、ここまで完璧にその特徴を覚えているのは、所持者だから、ではありませんね……恐らくは何らかの目的を持って、その特徴を丸暗記したのでしょう」
ここでヴァンは、ところで、とデリックに水を向けた。
「先程、殺人事件云々といっていましたね。その犠牲者は?」
「ある商会の会長さんでね。その会長さんの家には、まぁ特徴的な家紋があるんだけど」
ヴァンに応じながら、デリックは殺人事件被害者の家族から預かってきた家紋入りの指輪を取り出した。その家紋が、件の財布に描かれている。
その瞬間、カリステとボーアは逃げ出そうとした。が、それよりも早く他の警備隊員達が動き、ふたりを拘束した。
●
結局、カリステもボーアも観念して全てを白状した。
まず商会長を殺害し、彼の財布を奪ったのはカリステだった。彼は飲み代が払えず、以前から目を付けていた商会長を路地裏で襲って殺害し、財布を奪った。その財布も、相当前からマークしていたらしい。
一方ボーアも同じく商会長を狙っていたが、彼は財布内の契約書を奪う腹積もりだった。が、カリステの犯行を目撃した為、どうにかして入手してやろうと追跡していたところ、カリステが路上で眠り込んでしまった。
そこでボーアはカリステから財布を奪い、契約書を抜き取って別の路上――即ちヴァンが財布を発見した場所に捨てた。
ところがボーアは、抜き取るべき契約書を間違えていたことに気付いた。慌てて捨てた財布を回収しに戻ったが、その時には既にヴァンが拾った後だった。
どうやら、例の血濡れの紙片こそがボーアが抜き取ろうと狙っていた契約書だったらしい。
何とも、お粗末な幕切れだった。